説明

有機EL装置の製造方法

【課題】トップエミッション構造を採用し補助配線を設けた有機EL装置において、表示品質の低下を防止することを目的とする。
【解決手段】複数の画素領域と当該画素領域間に設けられた補助配線とを備える素子基板の前記画素領域に有機機能層を形成する工程で、前記補助配線を除く前記複数の画素領域に対応して有機機能層となる有機材料を配置する材料配置部を有する蒸着ボートを用い、前記蒸着ボートの材料配置部に前記有機材料を配置し、前記蒸着ボートの材料配置部に前記素子基板の画素領域が対向するように、前記蒸着ボートと前記素子基板とを重ね合わせ、前記材料配置部を加熱し、前記有機材料を前記素子基板の画素領域に蒸着することにより、前記有機機能層を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及び蒸着ボートに関する。
【背景技術】
【0002】
バックライト等の光源を必要としない自発光素子を備えた表示装置として、近年、エレクトロルミネッセンス(以下、ELと称す)素子を備えた有機EL装置が注目されている。有機EL装置は、有機EL材料からなる発光層を一対の電極により挟持した発光素子を、基板面内に複数設けた構成を備えたもので、発光層からの光の取り出し方向の違いにより、基板側から光を取り出すボトムエミッション構造と、封止基板やカラーフィルタ基板等の対向基板側から光を取り出すトップエミッション構造とに分類される。近年では、有機EL装置の大型化、高精細化、高輝度化に対するニーズが高く、発光素子の高開口率化、高効率化を実現するのに有利なトップエミッション構造の有機EL装置の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
トップエミッション構造の有機EL装置においては、一般的に、発光層を挟む一対の電極のうち共通電極は、光が射出される側に配置されている。そして、この共通電極は透光性を有する導電材料、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)膜やIZO(インジウム・亜鉛酸化物)膜等によって形成されている。このようなITO膜やIZO膜は金属膜と比べて抵抗が大きいため、共通電極内において電圧の不均一を招き、表示品質が低下する恐れがある。このため、特に大型のトップエミッション構造の有機EL装置では、基板上に抵抗が小さい補助配線を形成し、この補助配線と共通電極の途中部位とを電気的に接続することによって共通電極の電圧降下を防止している。
【0004】
ところで、発光層を形成する方法としては、一般的に、真空下で有機EL材料を配置した蒸着ボートを蒸着マスクを挟んで基板と対向させ、上記蒸着ボートを加熱することにより有機EL材料を蒸着マスクを介して基板(より具体的には画素領域)に蒸着させる真空蒸着法が採用されている(例えば下記特許文献1参照)。この場合、画素毎に異なる色(R、G、Bのいずれか)を発光する有機EL材料をそれぞれ蒸着して発光層を形成することでフルカラー表示を行っている。一方、発光層に白色発光の有機EL材料を用い、対向基板にカラーフィルタ基板を用いることによってフルカラー表示を行うような有機EL表示装置の場合、画素毎に有機EL材料を変更する必要がないので、蒸着マスクを用いず、白色発光の有機EL材料を基板のほぼ全面に蒸着することで発光層を形成している。
【0005】
このように、白色発光の有機EL材料を基板全面的に蒸着するような場合、上記のようなトップエミッション構造を採用すると、補助配線上に有機EL材料が蒸着されることによって、補助配線と共通電極との導通が図れなくなるという問題がある。これを解決するために、有機EL材料を基板全面的に蒸着するような場合であっても、蒸着マスクを用いることによって補助配線上に有機EL材料が蒸着することを防いでいた。
【特許文献1】特開2003−313655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、補助配線上に有機EL材料が蒸着されないようにするためには、高精度の蒸着マスクや、位置合わせ技術が要求され、これらの精度が十分でない場合、補助配線と共通電極との間に付着した有機EL材料が抵抗成分となり、共通電極内において電圧の不均一を招き、表示品質が低下する恐れがあった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、トップエミッション構造を採用し補助配線を設けた有機EL装置において、表示品質の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、有機EL装置の製造方法に係わる解決手段
として、複数の画素領域と当該画素領域間に設けられた補助配線領域とを備える素子基板の前記画素領域に有機機能層を形成する工程で、前記複数の画素領域に対応し隔壁により区画された材料配置部を有し、前記材料配置部が前記材料配置部が前記補助配線領域に対応する領域に配置されていない蒸着ボートを用い、前記蒸着ボートの材料配置部に前記有機材料を配置し、前記蒸着ボートの材料配置部に前記素子基板の画素領域が対向するように、前記蒸着ボートと前記素子基板とを重ね合わせ、前記材料配置部を加熱し、前記有機材料を前記素子基板の画素領域に蒸着することにより、前記有機機能層を形成することを特徴とする。
この発明によれば、材料配置部に設けられた有機機能材料が、各材料配置部を加熱することで、各材料配置部に配置された有機機能材料が蒸発する。このとき、材料配置部から蒸発した有機機能材料の殆どは、その材料配置部に対抗した画素領域にのみ選択的に付着して、均一な膜となる。また、各々の材料配置部に所定量の有機機能材料を配置して置くことで、蒸着により形成する有機機能膜の膜厚をほぼ一定にすることができる。画素形成領域以外の場所に付着する有機機能材料は僅かなため、蒸着材料の利用効率を高くすることができる。また、材料配置部に配置する有機機能材料の量により形成する有機機能層の膜厚を調整することが可能なため、容易に膜厚を制御することができる。更に、蒸着ボート上の素子基板上の補助配線が設けられた補助配線領域に対応する領域には、材料配置部が設けられていない。このため、補助配線上に有機材料が蒸着されることは無く、結果として共通電極と、補助配線とで良好な電気的接続を得ることができる。従って、共通電極内における電圧の不均一を低減して発光の均一性の低下を防止することが可能である。
また、本発明の有機EL装置の製造方法では、前記蒸着ボートは、1箇所の材料配置部が、複数の前記画素領域に対応する様に設けられていることを特徴とする。単色のEL装置を形成する場合には、画素領域毎に区画して有機機能層を形成する必要は無く、補助配線と上部電極との電気的な接続の必要な補助配線領域のみ有機機能材料層が形成されない様にすれば良い。補助配線領域が複数の画素領域毎に配置されている場合、これらの画素領域は1箇所の材料配置部に配置された有機材料により蒸着する様に材料配置部を設ける。この様にすることで、補助配線領域が配置さない領域では各画素領域に対応した材料配置部の隔壁領域を省略することができる。このため、画素領域を狭いピッチで配置することが可能となり、有機EL素子の開口率を向上することができる。
また、本発明の有機EL装置の製造方法では、少なくとも第1の材料配置部と第2の材料配置部とを備え、前記第1の材料配置部に前記第2の材料配置部と異なる有機材料を配置することを特徴とする。この様にすれば、例えば第1の材料配置部に赤色の発光材料を、第2の材料配置部に青色の発光材料を配置することで、一度の蒸着工程で2色の発光素子を形成することが可能で、容易に多色の有機EL装置を形成することができる。
【0009】
また、本発明では、前記蒸着ボートは、前記素子基板の前画素領域に対応する大きさを有し、素子基板上の全画素領域に有機材料を蒸着することが好ましい。
この様にすれば、1つの蒸着ボート上に素子基板の全ての画素領域に対応する材料配置部を設けることができる。必要な材料配置部全てに有機機能材料を配置し、蒸着を行うことで、素子基板上の全の必要な画素領域に対し、1度の蒸着工程で有機材料を蒸着することができる。このため、成膜する膜厚の制御性等を損なうことなく、効率良く有機機能層を成膜することができる。
【0010】
また、本発明では、前記蒸着ボートは、前記素子基板の内、所定の範囲に含まれる画素領域に対応する大きさを有し、素子基板の前記所定の範囲毎に順次有機材料を蒸着することが好ましい。
この発明によれば、素子基板の前記所定の範囲毎に順次有機材料を蒸着するので、蒸着ボート及び製造装置の小型化を図ることができる。このため、複数の機種を製造する場合等に、れるので、蒸着ボートの単価を抑えることができる。
【0011】
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記材料配置部をヒータにより加熱することにより前記蒸着を行うことが望ましい。例えば蒸着ボートをシリコンで形成した場合、シースヒータやブロックヒータ等を蒸着ボートに接触させることで、その熱を材料配置部に伝えることができる。このため、効率的に材料配置部を加熱することが可能である。このため、装置として簡単な構成で、効率的に有機機能層を形成することができる。
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記材料配置部をランプ或いはレーザにより加熱することが望ましい。ランプやレーザを用いた加熱は、接触時の熱抵抗等による影響が無く、また高い制御性を有している。このため、より均一に各材料配置部を加熱することが可能であり、均一な膜質と高い工程の再現性を得ることができる。
さらに、前記蒸着ボートが光透過性を有することが望ましい。光透過性を有する蒸着ボートを用いることにより、各画素領域と対応する材料配置部との位置合わせを蒸着ボート側から観察することにより行うことができる。このため、不透明な素子基板を用いる場合でも、容易に位置合わせを行うことができる。また、材料配置部近傍のみを直接的に加熱することも可能である。従って蒸着に寄与する熱の効率が高く、蒸着ボートや素子基板の余分な熱上昇を抑えることができる。
本発明の有機EL装置の製造方法は、前記蒸着ボートの隔壁上に突起部を設けたことを特徴とする。このようにすれば、素子基板と蒸着ボートとを対向する様に重ね合わせた際に、前記突起部が蒸着ボートと素子基板との間のスペーサとして機能する。このため、蒸着ボートと素子基板との間に一定の隙間を確保することができる。この隙間により、材料配置部及び画素領域から排気を行うことが可能となり、真空での蒸着を行うことができる。また、蒸着ボートから素子基板への熱伝導を抑制することが出来、素子基板の温度上昇による有機機能層への影響を低減することができる。さらには、素子基板の汚染を防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態は、発光層に白色発光の有機EL材料を用い、対向基板にカラーフィルタ基板を用いることによってフルカラー表示を行うような有機EL装置の製造方法に関するものである。さらに、本発明の有機EL装置の製造方法に使用する蒸着ボート及び本発明の有機EL装置の製造方法により得られる有機EL装置についても説明する。
【0013】
[有機EL装置の構成]
まず始めに、本発明によって得られた有機EL装置について説明する。
図1(a)は、本発明の有機EL装置の製造方法によって得た有機EL装置1の平面図である。この図に示すように、有機EL装置1は、素子基板30上に各色(R、G、B)に対応する長円形状の画素領域33が複数配列されると共に、補助配線40が複数本設けられている。なお、素子基板30上には、画素領域33に形成された有機EL素子を駆動させるためのTFT(Thin Film Transistor)等の回路用配線が設けられているが図示は省略する。また、素子基板30にはカラーフィルタ基板が対向して設けられているが図1(a)において図示は省略する。
【0014】
図1(b)は、図1(a)におけるA−A矢視断面図である。図1(b)に示すように、素子基板30上に、図示しないTFTなどの回路等からなる回路素子部、画素電極31、補助配線40が形成されている。そして、画素電極31及び補助配線40の周辺部の一部を覆うようにして、隔壁32が設けられている。
【0015】
上記隔壁32は、素子基板30側に位置する無機物隔壁32aと、この無機物隔壁32a上に積層され、該無機物隔壁32aより幅の狭い有機物隔壁32bとにより構成されている。無機物隔壁32aは、その周縁部が画素電極31及び補助配線40の周縁部上に乗り上げるように形成されている。また、有機物隔壁32bも同様に、その一部が画素電極31及び補助配線の周縁部と平面的に重なるように配置されている。そして、前記隔壁32に囲まれた領域は、有機EL装置1の画素領域33となっている。
【0016】
画素領域33には、正孔注入/輸送層16、発光層18及び電子注入/輸送層17が順次積層されている。発光層18は白色発光の有機EL材料からなり、これら正孔注入/輸送層16、発光層18及び電子注入/輸送層17は有機EL素子を構成している。また、これら正孔注入/輸送層16、発光層18及び電子注入/輸送層17の周縁部は隔壁32の上面に乗り上げるように形成されている。そして、電子注入/輸送層17、隔壁32及び補助配線40上には共通電極21が形成されている。本実施形態における有機EL装置1は、共通電極21に透明な材料を用いることにより、発光層18で発光する光を共通電極21側から出射させる、トップエミッション構造を採用したものである。透明な材料としては、例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)等を用いる事ができる。
【0017】
さらに、素子基板30と対向してカラーフィルタ基板41が設けられている。このカラーフィルタ基板41上には、各色(R、G、B)に対応するカラーフィルタ42と遮光用のBM(Black Matrix)パターン43が形成されている。また、カラーフィルタ基板41は、素子基板30側の画素領域33とカラーフィルタ42とが対向するように設けられている。なお、このカラーフィルタ基板41にはガラス等の透明性を有する基板が使用される。
【0018】
[有機EL装置の製造方法]
次に、上記有機EL装置1の製造方法について説明する。本実施形態では、ガラス等の基板上に適宜配線、TFT等を形成して素子基板30を作製した後、画素電極31及び補助配線40を形成する工程、隔壁32を形成する工程、正孔注入/輸送層16を形成する工程、発光層18を形成する工程、電子注入/輸送層17を形成する工程、共通電極21を形成する工程をそれぞれ行うものとする。
【0019】
(1)画素電極形成工程
まず、ガラス等からなる基板を用意し、この基板上に図示しないTFT素子や各種配線等を含んだ回路素子を公知の方法により形成した後、層間絶縁層や平坦化膜を形成して、図2(a)に示す素子基板30を得る。その後、該素子基板30上に、蒸着法によりインジウム・スズ酸化物(ITO)を全面成膜し、これをフォトリソグラフィ法により画素毎にパターニングすることで画素電極31及び補助配線40を得る。なお、本実施形態の有機EL装置1は、前述したようにトップエミッションタイプであるので、画素電極31、補助配線40としては、透明である必要がなく、したがって適宜な導電材料によって形成することができる。また、補助配線40の抵抗をさらに下げるために、画素電極31とは異なるアルミニウム、チタン、タングステン等の金属材料を用いても良い。この場合、画素電極31を形成する工程とは別に補助配線40を形成する工程を追加する必要がある。
また、無機物隔壁32aと基板との間に補助配線40を設ける構造のみを記載したが、無機物隔壁32aと有機物隔壁32bとの間、或いは有機物隔壁32bの上側に補助配線40を設ける構造としても良い。
【0020】
(2)隔壁形成工程
次に、素子基板30の所定の位置に隔壁32を形成する。この隔壁32は、第1の隔壁として無機物隔壁32aが形成され、第2の隔壁として有機物隔壁32bが形成された構造からなるものである。隔壁32を形成するに際し、まず素子基板30上の所定の位置に無機物隔壁32aを形成する。無機物隔壁32aは、例えばCVD法、スパッタ法、蒸着法等によって素子基板30(画素電極31及び補助配線40を含む)の全面にSiO、TiO、SiN等の無機物膜を形成し、次にこの無機物膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングして、画素電極31及び補助配線40上に開口部を設けることにより形成する。この開口部は、画素電極31の電極面31a、補助配線40の電極面31bの形成位置に対応するものとなり、画素電極31の下部開口部32c、補助配線40の下部開口部32dが形成される。このとき、無機物隔壁32aは、その周縁部の一部が画素電極31及び補助配線40の周縁部の一部と重なるように形成される。
【0021】
次いで、無機物隔壁32a上に、第2の隔壁としての有機物隔壁32bを形成する。有機物隔壁32bは、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性、耐溶剤性を有する有機樹脂を材料として用いることができる。有機物隔壁32bは、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を溶媒に溶かしたものを、スピンコート、ディップコート等により塗布して形成する。そして、有機物隔壁32bをフォトリソグラフィ法によりパターニングして開口を設ける。この有機物隔壁32bの開口部は、図2(a)に示したように、無機物隔壁32aの開口部よりやや広く形成することが好ましい。これにより、画素電極31上に、無機物隔壁32a及び有機物隔壁32bを貫通する上部開口部32eが、また
補助配線40上に上部開口部32fが形成される。すなわち、隔壁32に囲まれた領域は、有機EL装置1の画素領域33となる。
補助配線40上の有機物隔壁32bの上部開口部32f及び無機物隔壁32a上の下部開口部32dは共通電極21と電気的な接続をとるためのものであり、補助配線領域41を成す。
【0022】
(3)正孔注入/輸送層形成工程
次に、図2(b)に示すように、画素電極31上の画素領域33に正孔注入/輸送層16を形成する。本実施形態では、正孔注入/輸送層16として使用する材料を蒸着法により画素領域33に蒸着して形成するものとしているが、その際、以下に説明する蒸着ボートを用いる。
【0023】
(3−1)蒸着ボートの構成
図3(a)は、本実施形態で用いる蒸着ボートの構成を示す平面図である。また、図3(b)は、図3(a)におけるB−B矢視断面図である。図3(a)及び図3(b)に示すように、本実施形態における蒸着ボート10は、例えば透光性の石英からなる基板部10A上面に、例えばタングステン、モリブデン等から形成された光吸収層12が設けられている。その光吸収層12上には平面的にボート隔壁BHにより囲まれて素子基板30の画素領域33に対応した材料配置部20が複数設けられている。本実施形態では、素子基板30の横方向に並んだ複数の画素領域33に対応して、1つの材料配置部20が設けられている。材料配置部20は、素子基板30の各々の画素領域33に対応する様に設けても良い。ボート隔壁BHは酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素等の材料を用いて形成されており、2μmから20μm程度の膜厚を有している。この膜厚は画素領域33の大きさや配置する間隔により適宜選ばれるもので、厚くするほど隣接する画素領域33に対する蒸着の選択性を向上することができる。本実施形態の場合、複数の画素領域33に1つの材料配置部20で対応することが出来るため、2μmから5μm程度の膜厚を用いることができる。更に、前記ボート隔壁BH上には、例えば樹脂、窒化珪素、酸化珪素、窒化酸化珪素等から形成された突起部13が設けられている。この様な蒸着ボート10を用意し、この蒸着ボート10上の材料配置部20に、有機機能材料11を配置している。有機機能材料11の配置は、例えば有機機能材料11を適当な溶媒に溶解又は分散したものを、液滴吐出法或いは精密なディスペンサ等で所定の量、所定の材料配置部20に配置する。これを乾燥して溶媒を除去することにより、所定の材料配置部20に所定量の有機機能材料11を配置している。ここで言う所定の量とは、所望の膜厚の有機機能層を形成するための量を意味しており、例えば予め実験等で定めて置くことができる。
【0024】
図3(a)に示すように、材料配置部20はピッチLで形成されており、素子基板30上の行方向に並んだ画素領域33の行間のピッチと同一であり、隣り合う蒸着材料11の隙間(ギャップg)は、素子基板30上の補助配線領域41の幅より大きくなるように設定されている。すなわち、ギャップgは、蒸着材料11を素子基板30上に蒸着させる際に、当該蒸着材料(有機機能材料)11が補助配線40上に蒸着しないような値に設定されている。
【0025】
本実施形態における正孔注入/輸送層形成用の蒸着材料11としては、例えばトリフェニルジアミン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族縮合環を持つアミン誘導体等、公知の正孔注入/輸送材料を用いることができる。
【0026】
(3−2)蒸着工程
次に、上述した蒸着ボート10によって、正孔注入/輸送層形成用の蒸着材料11を素子基板30に蒸着する工程について説明する。ここでは、まず、図4に示すように、上記蒸着ボート10の有機機能材料11を配置した面と素子基板30の素子を形成した面とを対向するように重ね合わせる。ここで、蒸着ボート10の材料配置部20と対応する素子基板30上の画素領域33とが平面的に正確な位置で対応する様に蒸着ボート10と素子基板30の位置あわせを行う。正確に位置合わせを行うことで、素子基板30の補助配線領域41に向かい合う領域には、材料配置部20が配置されな状態とすることができる。蒸着ボート10と素子基板30とを重ね合わせた後、蒸着材料11と画素領域33との間の領域を排気し、真空下で蒸着ボード10の光吸収層12にレーザ光を照射する。光吸収層12は、光を吸収することで発熱し、これにより蒸着材料11を加熱、蒸発することができ、素子基板30への蒸着が行われる。光吸収層12に加熱にレーザ光を用いることで、高い精度で蒸着の制御を行うことができる。また、レーザ光の他に、ハロゲンランプ等の簡単な装置を用いて光吸収層12を加熱し、蒸着を行うことも可能である。
【0027】
このように、素子基板30の画素領域33及び補助配線40の配置に基づいて、蒸着ボート10上における蒸着材料11のピッチL及びギャップgを設定することで、図2(b)に示すように、補助配線40上に蒸着材料11が蒸着することなく、正孔注入/輸送層16を形成することができる。
このとき、例えば蒸着ボート10の材料配置部20に設けられた有機機能材料11が材料配置部20内において膜厚が不均一であったり、結晶化していても、均一な膜厚の有機機能材料層を形成することができる。本発明では、材料配置部20上の有機機能材料11を蒸発させているため、この時蒸発した材料はある程度広がりながら画素領域33に蒸着される。このため、膜厚を均一化する効果が得られる。また、蒸着によって得られた膜の膜質は有機機能材料11の結晶状態に依存することは無い。よって、所定量の有機機能材料11が材料配置部20に配置されていれば均一な膜厚の有機機能層を形成することができる。
【0028】
(4)発光層形成工程
次に、図5に示すように、正孔注入/輸送層16上に発光層18を形成する。なお、この工程においても、上記と同様に発光層18用の蒸着材料11を形成した蒸着ボート10を使用し、真空蒸着により上記発光層18用の蒸着材料11を正孔注入/輸送層16上に蒸着させて発光層18を形成する。なお、蒸着材料11の蒸着方法は、上記正孔注入/輸送層形成工程と同様なので説明は省略する。
【0029】
発光層18用の蒸着材料11としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子材料を用いることができ、例えばアントラセンやピレン、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、またはこれら低分子材料に、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、DCM、DCJ、ペリノン、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジアザインダセン誘導体等をドープして用いることができる。
【0030】
また、発光層18を形成する場合においても、素子基板30の画素領域33及び補助配線40の配置に基づいて、蒸着ボート10上における蒸着材料11のピッチL及びギャップgを設定することで、補助配線40上に蒸着材料11が蒸着することなく、発光層18を形成することができる。
【0031】
(6)電子注入/輸送層形成工程
次に、図6に示すように、発光層18上に電子注入/輸送層17を形成する。なお、この工程においても、上記と同様に電子注入/輸送層17用の蒸着材料11を形成した蒸着ボート10を使用し、真空蒸着により上記電子注入/輸送層17用の蒸着材料11を発光層18上に蒸着させて電子注入/輸送層17を形成する。なお、蒸着材料11の蒸着方法は、上記正孔注入/輸送層形成工程と同様なので説明は省略する。
【0032】
電子注入/輸送層17用の蒸着材料11としては、LiF等のアルカリ金属のフッ化物あるいは酸化物、マグネシウム銀、マグネシウムリチウム等の合金等を用いることができる。このように、電子注入/輸送層17を形成する場合においても、素子基板30の画素領域33及び補助配線40の配置に基づいて、蒸着ボート10上における蒸着材料11のピッチL及びギャップgを設定することで、補助配線40上に蒸着材料11が蒸着することなく、電子注入/輸送層17を形成することができる。
【0033】
(7)共通電極形成工程
そして、図7に示すように、電子注入/輸送層17、有機物バンク層32b及び補助配線40の全面に、共通電極21を形成する。この共通電極形成工程では、トップエミッション構造を実現するために、例えばイオンプレーティング法等の物理気相成長法により透明なITOを成膜して、共通電極21とする。また、酸素や水分の影響による有機EL素子の劣化を防止するために、共通電極21上に、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素等の保護層を設けても良い。
【0034】
このように共通電極21が形成された後に、素子基板30と対向する側にカラーフィルタ基板41を重ね合わせ、素子基板30とカラーフィルタ基板41とを封止樹脂にて貼り合せることにより、図1に示した有機EL装置1が完成となる。
【0035】
以上のように、本実施形態によれば、素子基板30の画素領域33及び補助配線40の配置に基づいて、蒸着ボート10上における蒸着材料11のピッチL及びギャップgを設定することで、補助配線40上に蒸着材料11が蒸着することなく、正孔注入/輸送層16、発光層18及び電子注入/輸送層17を形成することができる。従って、補助配線40と共通電極21との接続抵抗の低下を招くことがなく、表示品質の劣化を防止することが可能となる。
【0036】
なお、上記実施形態では、素子基板30とが同サイズの蒸着ボート10を用いて蒸着処理を行う場合について説明したが、例えば、図8に示すように、1枚のマザー基板50上に複数の素子基板30を形成する場合(図8では4面取りの例を示している)は、マザー基板50と同サイズの蒸着ボート10を用いて、全素子基板30に対して一度に蒸着処理を行っても良い。また、この場合、素子基板30とが同サイズの蒸着ボート10を用いて、各素子基板30に対して所定の順番で順次蒸着処理を行っても良い。
【0037】
また、上記実施形態では、蒸着ボート10として石英基板等の透明基板を用いる場合を説明したが、多結晶シリコンや、単結晶シリコンの基板を用いることも可能である。この場合は、光吸収層12を設ける必要は無く、材料配置部20をボート隔壁BHにより仕切る構造とする。この様な構造は、シリコン基板上の隔壁BHに相当する領域上にフォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、このレジストをマスクとして基板をエッチングすることにより形成することができる。隔壁BHの高さは透明基板を用いる場合と同様である。
この様な蒸着ボート10を用いて蒸着を行う場合でも、透明基板を用いた蒸着と同様な手順で蒸着を行うことが可能である。ただし、シリコン基板は光を吸収する材質のため、シースヒータや、ブロックヒータ等のヒータを蒸着ボート10に接触させることにより有機機能材料11を加熱することが好ましい。
また、上記実施形態では、正孔注入/輸送層、発光層、電子注入/輸送層の全て蒸着により形成する場合のみを記載したが、必要に応じて各層を別の方法、例えば液体プロセス等で形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法により得た有機EL装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の第1説明図である。
【図3】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法に用いる蒸着ボートの説明図である。
【図4】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の第2説明図である。
【図5】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の第3説明図である。
【図6】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の第4説明図である。
【図7】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の第5説明図である。
【図8】本発明の一実施形態における有機EL装置の製造方法の変形例の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1…有機EL装置、16…正孔注入/輸送層、17…電子注入/輸送層、18…発光層、21共通電極、30…素子基板、31…画素電極、32…隔壁、33…画素領域、40…補助配線、41…カラーフィルタ基板、42…カラーフィルタ、43…BMパターン、10…蒸着ボート、11…蒸着材料








【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素領域と当該画素領域間に設けられた補助配線領域とを備える素子基板の前
記画素領域に有機機能層を形成する工程で、
前記複数の画素領域に対応して隔壁により区間された材料配置部を有し、前記材料配置部が前記補助配線領域に対応する領域には配置されていない蒸着ボートを用い、
前記蒸着ボートの材料配置部に前記有機材料を配置し、
前記蒸着ボートの材料配置部に前記素子基板の画素領域が対向するように、前記蒸着
ボートと前記素子基板とを重ね合わせ、
前記材料配置部を加熱し、前記有機材料を前記素子基板の画素領域に蒸着することに
より、前記有機機能層を形成することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記蒸着ボートは、1箇所の材料配置部が、複数の前記画素領域に対応する様に設け
られていることを特徴とする請求項1記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記蒸着ボートは、少なくとも第1の材料配置部と第2の材料配置部とを備え、前記第1の材料配置部に前記第2の材料配置部と異なる有機材料を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記蒸着ボートは、前記素子基板の全画素領域に対応する大きさを有し、素子基板上の全画素領域に有機材料を蒸着することを特徴とする請求項1乃至3に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
前記蒸着ボートは、前記素子基板の所定の範囲に含まれる画素領域に対応する大きさを有し、素子基板の前記所定の範囲毎に順次有機材料を蒸着することを特徴とする請求項1乃至3に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
前記材料配置部をヒータにより加熱することにより前記蒸着を行うことを特徴とする請求項1乃至5に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項7】
前記材料配置部をランプ或いはレーザにより加熱することにより前記蒸着を行うことを特徴とする請求項1乃至5に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項8】
前記蒸着ボートが光透過性を有することを特徴とする請求項7に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項9】
前記蒸着ボートの隔壁上に、突起部を設けたことを特徴とする請求項1乃至8に記載の有機EL装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−103058(P2007−103058A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288203(P2005−288203)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】