説明

木質系床材とその製造法

【課題】普通合板や強化合板、パーティクルボード、MDF、その他の木質系基板から製造された建物の床材について、その耐久性や外観(意匠性)、耐薬品性、耐擦傷性などの基本的な物性だけに限らず、これから使用中に発散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)などの室内汚染物質を消臭して、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの症状を予防することもできる木質系床材を提供する。
【解決手段】木質系基板F1へ最終的に塗工されたトップコート層26が、光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分を混合した無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜から形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料や着色剤、防腐剤、その他の各種含有化学物質から発散する有害な臭気を消臭し得る木質系床材と、そのための簡便な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、普通合板や強化合板、パーティクルボード、MDF、その他の木質系基板から製造された建物の床材について、その耐久性や外観(意匠性)、耐薬品性、耐擦傷性などの基本的な物性だけに限らず、これから使用中に発散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)などの室内汚染物質を消臭して、シックハウス症候群や化学物質過敏症などの症状を予防することも要求されるに至っている。
【0003】
この点、特許第3533901号公報には粒状半導体光触媒と粒子状非晶質リン酸カルシウムとから複合一体化した多孔質複合粒子と、バインダーとを含む抗菌性消臭性組成物が開示されており、これは特許権者である積水化成品工業株式会社から、商品名:アパミクロンと称して市販されてもいる。
【0004】
そして、この特許公報には「各種建築材料に使用することで天井・壁等の抗菌処理を行うことができる」(段落〔0046〕)旨や、「非晶質リン酸カルシウム粒子が種々の菌体やウイルス、アルデヒド基、アンモニア基等を有する異臭物質やSOx、NOx等を吸着し、これを効果的に半導体光触媒が分解するという相乗効果を期待することができるので、優れた抗菌性と消臭性とを有する塗膜や成形体を得ることができる」(段落〔0065〕)旨も記載されている。
【特許文献1】特許第3533901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、木質系床材に対する上記特許発明の適用を考えた場合、その特許発明の抗菌性消臭性組成物(上記商品名:アパミクロン)は白色の多孔質球状粒子である関係上、これを床材のトップコート層へ密着一体化させ、その床材本来の耐久性や外観、耐擦傷性などを維持するためには、塗料へ混合して使用しなければならない。
【0006】
そうすると、上記組成物それ自身の多孔質球状粒子が抗菌・消臭効果を発揮するだけにとどまらず、床材のトップコート層を形成する塗料の硬化塗膜としても、その抗菌・消臭効果を発揮し、これを永久的に持続する必要がある。
【0007】
ところが、上記特許発明には「抗菌性消臭性組成物を塗料として使用する場合、バインダーとは別に有機溶剤を使用することができる。上記有機溶剤は特に限定されないが、沸点の低いもの及び揮発性の強いものは、施工中に蒸発により粘度が変化する問題があり、高沸点のものは乾燥工程に時間を要することになる。そのため、沸点70〜160℃程度の溶剤が好ましい。」(段落〔0032〕)と記載されている。
【0008】
茲に、好ましい沸点が70〜160℃程度であるとしても、その「有機溶剤」を使用した塗料である限り、これから依然揮発性有機化合物(VOC)が発散することになる結果、床材としての完全な抗菌・消臭効果を期待することができないのである。
【0009】
更に、上記特許発明ではその抗菌性消臭性組成物を、塗料として使用する場合における硬化塗膜の厚みやその膜厚と多孔質複合粒子径との相関々係、その組成物が塗料に占める混合比率、各種建築材料に対する塗装方法、その他の具体的な実施条件について、一切示唆すらもなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はあくまでも木質系床材を対象として、上記課題を改良する目的のために、請求項1では木質系基板へ最終的に塗工されたトップコート層が、光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分を混合した無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜から成ることを特徴とする。
【0011】
又、請求項2では請求項1に従属する木質系床材の構成として、無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料に占める粒子状消臭成分の混合比率が、5〜30重量パーセントであることを特徴とする。
【0012】
請求項3では同じく請求項1に従属する木質系床材の構成として、トップコート層の平均膜厚が5〜15μmであることを特徴とする。
【0013】
更に、請求項4ではやはり請求項1に従属する木質系床材の構成として、粒子状消臭成分の平均粒子径(R)とトップコート層の平均膜厚(T)とが、1/3T<R<2Tの関係にあることを特徴とする。
【0014】
他方、請求項5では木質系基板の表面へ先ずシーラー層の塗工のみか、又はそのシーラー層の塗工と着色層の塗工とを一挙同時若しくは順次各別に行ない、引き続き下塗り層と中塗り層並びにトップコート層の塗工を順次に行なう木質系床材の製造法であって、その最終的なトップコート層を塗工するに当り、
【0015】
光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分が混合された無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料をナチュラルロールコーターによって、平均膜厚が5〜15μmとなり且つ上記粒子状消臭成分が外気と接触し得る平滑状態に塗工した後、
【0016】
その塗工したトップコート層を紫外線の照射により硬化させることを特徴とする。
【0017】
請求項6では上記請求項5に従属する木質系床材の製造法として、無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料を、その塗料温度30〜50℃での粘度が40〜1500mPa・sとして塗工することを特徴とする。
【0018】
更に、請求項7では同じく請求項5に従属する木質系床材の製造法として、下塗り層又は/及び中塗り層の塗工直後に、木質系基板の搬送方向と相反する方向へ回転作用するリバースロールコーターを圧接させることにより、その下塗り層又は/及び中塗り層を表面が平滑な塗膜に仕上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の上記構成によれば、木質系床材の最終的な仕上がり層として露出するトップコート層が、光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分を混合した無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜から形成されているため、従来の床材から使用中に発散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などの室内空気汚染物質を効果的に消臭することができ、しかも床材本来の耐久性や外観(意匠性)、耐薬品性、耐擦傷性、その他の基本的な物性も保持し得る。
【0020】
つまり、上記紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜は紫外線を受けて、急激に造膜するメカニズムを有し、比較的ポーラスな組成の塗膜となる。そのため、これに混合された上記粒状消臭成分が、床材の広い表面積のもとで、室内空気汚染物質と直かに接触することとも相俟ち、その有害な臭気を完全に消臭できるのである。
【0021】
その床材のトップコート層から広く表出する光触媒酸化チタンが、強力な酸化作用によってホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などを分解し、優れた消臭性能を発揮すると共に、上記粒子状消臭成分を混合した紫外線硬化樹脂塗料は無溶剤型であるため、この塗料から室内空気汚染物質が発生するおそれもない。
【0022】
その場合、上記粒子状消臭成分として、その光触媒活性酸化チタンの微粒子が非晶質リン酸カルシウム粒子の表面に固着されたものを採用するならば、その多孔な非晶質リン酸カルシウム粒子により、上記ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などの有害臭気を積極的に吸着することができ、その消臭効果をますます昂め得るほか、人体が直かに触れる床材のトップコート層へ、抗菌効果も与えることができることになり、学校や病院、体育館などの床材として有益である。
【0023】
又、請求項2の構成を採用するならば、紫外線硬化樹脂塗料に占める上記粒子状消臭成分の混合比率を必要最少限度として、これによる消臭効果を合理的に達成することができ、併せてトップコート層を形作る硬化塗膜の平滑性も維持し得る。
【0024】
請求項3や請求項4の構成を採用するならば、上記粒子状消臭成分が紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜に深く沈没して、外気に触れず、消臭性能を発揮しなかったり、その硬化塗膜から逆に背高く露出し過ぎて、トップコート層の全体的な平滑性や耐久性、外観(意匠性)、耐擦傷性などが低下したりするおそれを効果的に防止することができる。
【0025】
他方、請求項5の構成によれば、上記粒子状消臭成分が混合された無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料を、その平均膜厚が5〜15μmの平滑なトップコート層として、ナチュラルロールコーターにより確実に安定良く塗工することができ、従来の製造工程や塗工機などを特別に改変することなく、その消臭性の木質系床材を便利良く安価に製造し得るのであり、量産効果に優れる。
【0026】
その場合、請求項6の構成を採用するならば、室温では高粘度の無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料を、その特定された数値範囲の好適な粘度において、上記トップコート層を連続的な平滑状態に安定良く塗工できる効果があり、その硬化塗膜としての耐久性も向上する。
【0027】
更に、請求項7の構成を採用するならば、下塗り層又は/及び中塗り層の表面が平滑な塗膜に仕上げられるため、その後の最終的な積層状態に塗工されるトップコート層も、規定の膜厚を有する平滑状態に保つことができ、寸法精度に富む高品質の木質系床材を得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面に基いて本発明を詳述すると、その木質系床材の製品を示した図1の断面図において、(F1)は木質系基板であり、約12mmの板厚を有する。これはラワンなどの南洋材を貼り合わせただけの普通合板や、フエノール樹脂などを含浸させた特殊な強化合板、パーティクルボード、MDF、その他の台板(10)と、その台板(10)の表面へ順次積層状態に貼り合わせた和紙(11)並びに天然銘木の化粧単板(所謂ツキ板)(12)とから成り立っている。
【0029】
但し、上記和紙(11)と化粧単板(12)に代えて、図2の断面図に示すような各種印刷模様が施されたオレフィン樹脂シートやその他の化粧シート(13)を、上記台板(10)の表面へ貼り合わせた木質系基板(F2)もあり、本発明ではこのような2種の木質系基板(F1)(F2)が選択使用される。尚、上記台板(10)の板厚は約11.7mm、和紙(11)の厚みは約0.05mm、化粧単板(12)の板厚は約0.2〜0.25mm、化粧シート(13)の厚みは約0.15〜0.2mmである。
【0030】
何れにしても、本発明の木質系床材を製造するに当っては、図3の工程図から示唆されるように、上記木質系基板(F1)(F2)を自動ラインに沿い搬送する過程において、その基板(F1)(F2)の表面へナチュラルロールコーター(14)やフローコーターなどの塗工機により、先ずシーラー層(15)と次いで着色層(16)との塗工を行なう。
【0031】
そのシーラー層(15)の塗料としては2液型の紫外線硬化樹脂塗料が、又着色層(16)の塗料としては水性系着色剤が含有された塗料を各々使用する。(17)(18)は上記シーラー層(15)を硬化させる紫外線照射装置と着色層(16)を硬化させる乾燥装置である。
【0032】
その場合、上記シーラー層(15)の塗工は不可欠であるが、着色層(16)の塗工は省略されることもあり得る。又、上記シーラー層(15)と着色層(16)とを2工程として、順次各別に塗工する方法のほか、そのシーラーに着色剤が含有された塗料を使用して、上記シーラー層(15)と着色層(16)とを1工程での一挙同時に塗工することも可能である。そのため、図1、2ではそのシーラー層(15)の1層だけを示すにとどめている。
【0033】
そして、このように塗工されたシーラー層(15)の塗膜のみか、又はシーラー層(15)と着色層(16)との塗膜が硬化した後、その表面へ引き続きナチュラルロールコーター(19)(20)などの塗工機により、下塗り層(21)と中塗り層(22)との塗工を順次行なう。これらを塗工するための塗料としては、何れも無溶剤型の紫外線硬化樹脂塗料を使用する。(23)(24)は上記下塗り層(21)と中塗り層(22)を各々硬化させるための紫外線照射装置である。
【0034】
このような下塗り層(21)と中塗り層(22)の塗工は、ナチュラルロールコーター(19)(20)の使用により効果的に行なえるが、特に下塗り層(21)を塗工した直後又は/及び中塗り層(22)を塗工した直後であって、その各塗膜が紫外線照射装置(23)(24)により硬化される前に、上記木質系基板(F1)(F2)の搬送方向(A)と相反する方向へ回転作用するリバースロールコーター(25)を、その塗膜の表面へ圧接させることが好ましい。
【0035】
そうすれば、上記下塗り層(21)の塗膜や中塗り層(22)の塗膜が一定の膜厚に均斉化され、これらを表面の平滑状態に仕上げ得るため、延いてはその後の最終的に塗工されるトップコート層(26)も、安定な塗膜として確実に形成できる結果となる。尚、下塗り層(21)や中塗り層(22)の平均膜厚はトップコート層(26)のそれとほぼ同等である。
【0036】
このような中塗り層(22)の塗工を終了し、その塗膜が紫外線の照射を受けて硬化した後、上記木質系基板(F1)(F2)に対する最終的なトップコート層(26)の塗工を行なうが、そのトップコート層(26)を塗工するための塗料としては、上記下塗り層(21)や中塗り層(22)と同じ無溶剤型の紫外線硬化樹脂塗料に対して、光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する消臭成分が一定比率だけ混合された特別な塗料を使用する。
【0037】
そのトップコート層(26)の塗工に使う紫外線硬化樹脂塗料の詳細について言えば、これは数平均分子量500〜10,000の紫外線硬化性アクリレート系オリゴマーの5〜50重量パーセントと、紫外線硬化性モノマーの20〜60パーセントと、光ラジカル重合開始剤の1〜10重量パーセントとを含有し、しかもこれらの不揮発成分100重量パーセントに対して、光触媒活性酸化チタン微粒子を有する粒子状消臭成分の5〜30重量パーセントが混合された塗料組成物であり、更には紫外線照射量80〜250mJ/cm2 のもとで硬化し得るそれが良い。
【0038】
上記粒子状消臭成分としては殊更、その光触媒活性を奏する酸化チタンの微粒子が、非晶質リン酸カルシウム粒子の表面に固着された多孔質の複合粒子として、しかもこのような粒子状消臭成分の平均粒子径(R)を5〜10μmに設定したものが好ましい。
【0039】
そうすれば、後述する本発明の実施例から明白なように、優れた消臭効果を得られるばかりでなく、その多孔性の非晶質リン酸カルシウム粒子がホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などの室内空気汚染物質のみならず、ウイルスも吸着して、これらを光触媒活性酸化チタンが分解することにより、その抗菌効果も併せて期待できるからである。
【0040】
茲に、不揮発成分の紫外線硬化樹脂塗料を100重量パーセントと仮定して、これに占める上記粒子状消臭成分の混合比率を5〜30重量パーセントに設定した理由は、後述する本発明の実施例からも確認できるように、その5重量パーセント未満の過少であると、所期する消臭性能を充分に発揮し難く、逆に30重量パーセントを越える程に混合しても、これと比例する消臭効果の向上を期待できず、却って無駄になるばかりでなく、トップコート層(26)を形作る塗膜の平滑性を阻害することになるからである。
【0041】
上記トップコート層(26)の塗料組成物に用いる数平均分子量500〜10,000の紫外線硬化性オリゴマーとしては、そのトップコート層(26)に要求される硬度や光沢、耐汚染性などの特性を有するビスフェノールA型、ノボラック型、ポリブタジエン型のエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル型のウレタン(メタ)アクリレートなどの公知物を、その何れも1種又は2種以上の混合系で使用することができる。
【0042】
又、上記紫外線硬化性モノマーとしてもトップコート層(26)の塗工に適当な従来公知の単官能モノマーや2官能モノマー、3官能以上の多官能モノマーをやはり1種又は2種以上の混合系で用いることができる。
【0043】
更に、上記光ラジカル重合開始剤は紫外線の照射によりラジカルを生成する化合物であり、その従来公知の水素引き抜き型や光開裂型などのうち、1種又は2種以上を組み合わせて使用でき、このような光ラジカル重合開始剤には光増感剤を併用することも可能である。これらのほかに、艶消し剤や可塑剤、着色剤などの添加剤を加えることもできる。
【0044】
何れにしても、本発明において使用する紫外線硬化樹脂塗料は上記組成物の混合や攪拌などの方法によって容易に製造することができ、これは無溶剤型として室温での高粘度である関係上、その使用に当っては30〜50℃の塗料温度に保ち、40〜1500mPa・sの粘度として塗工することが好ましく、そうすれば下塗り層(21)や中塗り層(22)と同様にナチュラルロールコーター(27)を使用して、膜厚が均一に連続したトップコート層(26)の平滑な塗膜を容易に得ることができる。
【0045】
そして、このようなトップコート層(26)の塗工を終了した上記木質系基板(F1)(F2)は、紫外線照射装置(28)に通過させることにより、そのトップコート層(26)の塗膜として硬化され、上記粒子状消臭成分が消臭性能を発揮する木質系床材として仕上げられる結果となる。尚、図3の工程図では簡略に説明する便宜上、ナチュラルロールコーター(14)(19)(20)(27)などの塗工機を1基づつ示しているに過ぎないが、その塗工機の設置個数や塗工回数は増加されることも勿論あり得る。
【0046】
その場合、トップコート層(26)を形成する硬化塗膜の平均膜厚(T)は、その数値を5〜15μmに設定することが好ましい。これは上記粒子状消臭成分の好適な平均粒子径(R)として挙げた5〜10μmの数値と相関々係にある。
【0047】
つまり、トップコート層(26)の平均膜厚(T)が5μmよりも薄肉であって、しかも粒子状消臭成分の平均粒子径(R)が10μmよりも大きいと、その粒子状消臭成分をトップコート層(26)の硬化塗膜へ安定良く強固に密着一体化させることができず、そのトップコート層(26)としての平滑性は勿論のこと、耐久性や耐擦傷性、外観(意匠性)などの基本的な物性を阻害することにもなる。
【0048】
他方、トップコート層(26)の平均膜厚(T)が15μmよりも厚肉であって、しかも粒子状消臭成分の平均粒子径(R)が5μmよりも小さいと、その粒子状消臭成分がトップコート層(26)の硬化塗膜に沈没してしまって、外気と確実に接触しないこととなるため、消臭性能を発揮することができない。
【0049】
この点、図4に抽出拡大した粒子(29)の露出状態や後述する本発明の実施例から確認できるように、トップコート層(26)の平均膜厚(T)と粒子状消臭成分の平均粒子径(R)とは、1/3T<R<2T(但し、1/3T=3分の1×T)の関係条件を満たす数値範囲に設定することが最も効果的であり、これによってトップコート層(26)の基本的に要求される上記諸物性と、その室内空気汚染物質の消臭性能とを一挙同時に発揮し得る木質系床材となる。
【0050】
〈実施例〉
以下、本発明の実施例と比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はその実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
表1に示す組成と重量パーセントのもとに混合・攪拌して、塗料1〜4の合計4種を製造した。その表1に記載の成分は次の通りである。
【0052】
「オリゴマー」:アクリレートオリゴマー成分、ユニディックV−5508(大日本インキ化学工業:エポキシアクリレート)
「モノマー」:トリプロピレングリコールジアクリレート(東亞合成:アロニックスM−220)
「光ラジカル重合開始剤」:イルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ)
「艶消し剤」:炭酸カルシウム12部、サイロイドED−50(グレースジャパン)3部、ミクロンホワイト5000A(林化成)
「光触媒活性を奏する酸化チタン微粒子を有する粒子状消臭成分」:アパミクロンAPU10SA(積水化成品工業:平均粒子径5〜10μm)
【0053】
【表1】

【0054】
そして、図1に示した台板(10)が普通合板であり、化粧単板(12)がカバである木質系基板(F1)のトップコート層(26)として、上記塗料1〜4を各々材温40℃、塗料温度40℃での塗布量並びに塗膜の平均膜厚が、表2の実施例1〜12と比較例1〜12に示す状態となるように塗工した。その紫外線は何れも室温25℃の条件で、160mJ/cm2 の照射量だけ照射することにより、上記トップコート層(26)の塗膜を硬化させた。
【0055】
【表2】

【0056】
臭気試験を行なうために、トリエチルアミンと5%酢酸水溶液、トルエン、キシレンを各々2cm角の脱脂綿に浸し、その上面に30cm角の上記塗装板を載置させ、デシケーター中に封入した上、日光が当る条件のもとに2日間放置して、そのデシケーター中の臭気を評価することに加え、塗膜の平滑性も目視と手触り感により評価した。尚、試験は夏期の午後8時から開始し、2日後の午後8時に終了した。天候はその両日とも快晴、雲がかかる時間は僅少であった。表2はその試験結果を示している。
【0057】
その表2から明白なように、先ず紫外線硬化樹脂塗料(不揮発成分)に占める粒子状消臭成分の混合比率については、その30重量パーセントの多くを混合した塗料4の場合、所期の消臭効果を達成できる反面、トップコート層(26)を形作る硬化塗膜の平滑性が低下する傾向にあり、他方5重量パーセントの少なく混合した塗料1では、逆にその硬化塗膜の平滑性は保たれるが、消臭効果の低下する傾向を示す。
【0058】
このような試験結果に基き、本発明ではトップコート層(26)における硬化塗膜の平滑性と、室内空気汚染物質の消臭効果とを併せて期待するために、上記粒子状消臭成分の混合比率を5〜30重量パーセントに設定した次第である。
【0059】
次に、トップコート層(26)を形作る硬化塗膜の平均膜厚(T)に注目すると、これが3μmの比較例1〜4(塗工状態)では、その塗料に混合されている粒子状消臭成分の粒子径を一定と仮定した場合、その粒子状消臭成分が相対的に過大となって、硬化塗膜の表面から背高く露出するため、その硬化塗膜の平滑性や耐久強度などが低下する。他方、上記平均膜厚(T)が20μm以上である比較例5〜12の場合には、同様にして粒子状消臭成分が相対的に過小となり、硬化塗膜に深く沈没して外気に触れ難いため、消臭効果の低下を招く。
【0060】
そのため、トップコート層(26)を形作る硬化塗膜の平均膜厚(T)と、塗料に混合する粒子状消臭成分の平均粒子径(R)とは相関々係にあり、これを考慮して、その平均粒子径(R)と平均膜厚(T)とを1/3T<R<2Tの条件となるように設定することが好ましい旨として上記したわけである。
【0061】
結局、上記硬化塗膜の平均膜厚(T)が5〜15μmである本発明の実施例1〜12(塗工状態)によれば、その硬化塗膜の平滑性や耐久性などの諸物性と、優れた消臭効果とを一挙同時に得ることができ、殊更その塗料に対して15〜25重量パーセントの粒子状消臭成分を混合した実施例2、3、6、7、10、11の塗工状態によれば、上記効果がますます向上し、最も実益大であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に用いる木質系基板の断面図である。
【図2】同じく別な木質系基板の断面図である。
【図3】木質系床材の製造工程を示す模式図である。
【図4】トップコート層から露出した粒子状消臭成分を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0063】
(10)・台板
(11)・和紙
(12)・化粧単板
(13)・化粧シート
(14)(19)(20)(27)・ナチュラルロールコーター
(15)・シーラー層
(16)・着色層
(17)(23)(24)(28)・紫外線照射装置
(18)・乾燥装置
(21)・下塗り層
(22)・中塗り層
(25)・リバースロールコーター
(26)・トップコート層
(29)・粒子状消臭成分の粒子
(F1)(F2)・木質系基板
(R)・粒子状消臭成分の平均粒子径
(T)・トップコート層の平均膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系基板(F1)(F2)へ最終的に塗工されたトップコート層(26)が、光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分を混合した無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料の硬化塗膜から成ることを特徴とする木質系床材。
【請求項2】
無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料に占める粒子状消臭成分の混合比率が、5〜30重量パーセントであることを特徴とする請求項1記載の木質系床材。
【請求項3】
トップコート層(26)の平均膜厚(T)が5〜15μmであることを特徴とする請求項1記載の木質系床材。
【請求項4】
粒子状消臭成分の平均粒子径(R)とトップコート層(26)の平均膜厚(T)とが、1/3T<R<2Tの関係にあることを特徴とする請求項1記載の木質系床材。
【請求項5】
木質系基板(F1)(F2)の表面へ先ずシーラー層(15)の塗工のみか、又はそのシーラー層(15)の塗工と着色層(16)の塗工とを一挙同時若しくは順次各別に行ない、引き続き下塗り層(21)と中塗り層(22)並びにトップコート層(26)の塗工を順次に行なう木質系床材の製造法であって、その最終的なトップコート層(26)を塗工するに当り、
光触媒活性酸化チタンの微粒子を有する粒子状消臭成分が混合された無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料をナチュラルロールコーター(27)によって、平均膜厚(T)が5〜15μmとなり且つ上記粒子状消臭成分が外気と接触し得る平滑状態に塗工した後、
その塗工したトップコート層(26)を紫外線の照射により硬化させることを特徴とする木質系床材の製造法。
【請求項6】
無溶剤型紫外線硬化樹脂塗料を、その塗料温度30〜50℃での粘度が40〜1500mPa・sとして塗工することを特徴とする請求項5記載の木質系床材の製造法。
【請求項7】
下塗り層(21)又は/及び中塗り層(22)の塗工直後に、木質系基板(F1)(F2)の搬送方向と相反する方向へ回転作用するリバースロールコーター(25)を圧接させることにより、その下塗り層(21)又は/及び中塗り層(22)を表面が平滑な塗膜に仕上げることを特徴とする請求項5記載の木質系床材の製造法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−219855(P2006−219855A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32679(P2005−32679)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000157256)丸玉産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】