説明

木質複合H形鋼の断熱構造

【課題】気密性、断熱性、施工性に優れた木質帯板とH形鋼とからなる木質複合H形鋼の断熱構造を提供する。
【解決手段】H形鋼1の上下フランジ12、13の外表面のそれぞれに該フランジ12、13と略同一の幅を有する木質帯板2を固着してなる木質複合H形鋼Aと、断熱板3の外表面に合成樹脂フィルム4を貼着するとともに、該合成樹脂フィルム4の縁部41を上記断熱板3の周縁部よりも外方に延出して固着片411を形成してなる断熱部材Bとからなり、上記木質複合H形鋼Aの室外側の上フランジ12と下フランジ13との間に上記断熱部材Bの断熱板3を嵌装し、上記合成樹脂フィルム4の固着片411を上記木質帯板2に固着してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、H形鋼と木質帯板とを複合させて得られた木質複合H形鋼に関し、さらに詳しくは、建築物の構造材として用いられる上記木質複合H形鋼の断熱構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築基準法の改正により、一般住宅にも耐震性が求められ、従来の木造住宅の駆体部分、例えば、柱、間柱、土台、横架材等を鉄骨材に置き換えた住宅が普及しつつある。このとき、鉄骨材としては、安価で、かつ、強度的にも優れている点からH形の断面を有するH形鋼材が使用されることが多く、H形鋼材を柱や梁材等の建物の駆体部分に用いて一般住宅を建築することが行われている。
【0003】
しかしながら、上記H形鋼材を住宅の駆体部分に使用することは、胴縁、根太等、他の木質材料との造作がしにくく、例えば、上梁、下梁、支柱等として用いる場合、H形鋼材の上下の各フランジ部分の外表面に該フランジと略同一幅を有する木質帯板を貼着して複合し、一般的に木質複合H形鋼として使用されることが多い。この木質複合H形鋼は強度が大であり建築構造材として適切であるが接続部の気密、断熱性に問題があり、この欠点を解決するために発泡ウレタンの吹き付け、ブチルテープ張り等が施工現場で行われていたが、この施工現場での作業は面倒であり、施工後の外観の悪さ、施工不良の問題もあって適切でないものであった。
【0004】
一方、省エネルギーの観点から上記断熱パネル装着空間を形成する木質複合H形鋼自体にも、断熱性、気密性が求められている。例えば、特開平11−13206号公報には、本願図6、図7に示すように、断面H型鉄骨材(1a)の水平板部(11a)に木質材(2a)を配設した木質鉄骨梁(C)の断熱構造であって、前記鉄骨材(1a)の断面コ字形の表面(12a)には、発泡ポリウレタンフォーム層(5a)が所定厚みに硬化付着されており、この発泡ポリウレタンフォーム層(5a)は、断面コ字形の鉄骨材表面(12a)とその上部に配置された、発泡ガス抜き穴(31a)を有する透明もしくは半透明の型枠(3a)との間の空間(4a)に注入充填された発泡ポリウレタンフォーム材により形成された木質鉄骨梁の断熱構造が開示されている。
【0005】
また、工場生産された板状の合成樹脂発泡体(断熱材)を用いた断熱構造も従来から知られている。
【特許文献1】特開平11−13206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、発泡硬化後のポリウレタンフォーム層が所定の厚さとなるように、型枠を配設しなければならないという問題があった。
【0007】
また、工場生産された板状の合成樹脂発泡体(断熱材)を用いた従来から知られた断熱構造も板状の合成樹脂発泡体(断熱材)を並設した場合に接続部の気密性、断熱性に問題があるものであった。
【0008】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は、工場生産された板状の合成樹脂発泡体(断熱材)を用いた断熱構造でありながら、H形鋼材の上下の各フランジ部分に該フランジと略同一幅を有する木質帯板を貼着してなる木質複合H形鋼自体の断熱性を向上させるとともに、接続部の気密、断熱性も確保し、しかも、施工性に優れた木質複合H形鋼の断熱構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1に記載の発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造においては、ウエブと上下フランジとからなるH形鋼の上下フランジの外表面のそれぞれに該フランジと略同一の幅を有する木質帯板を固着してなる木質複合H形鋼と、断熱板の外表面に合成樹脂フィルムを貼着するとともに、該合成樹脂フィルムの縁部を上記断熱板の周縁部よりも外方に延出して固着片を形成してなる断熱部材とからなり、上記木質複合H形鋼の室外側の上フランジと下フランジとの間に上記断熱部材の断熱板を嵌装し、上記合成樹脂フィルムの固着片を上記木質帯板に固着してなることを特徴としている。
【0010】
上記木質帯板としては、無垢板材、集積材、構造用合板、クロス合板、パーティクルボード、MDF(中密度繊維板)、WBP(ウッドプラスチックボード)等をあげることができる。また、断熱板としては、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタン、ビーズ法ポリスチレン、エポキシフォーム、フェノールフォーム、ポリエチレンフォーム等の合成樹脂系断熱材やグラスウールマット、ロックウールマット等の無機材料系断熱材を板状に形成して用いることができる。
【0011】
中でもグラスウールマットやロックウールマット等を単独で板状の形態を保持する程度の硬さに成形したグラスウールボードやロックウールボード等が難燃性または不燃性で、万一、火災の時に炎と接してもしても有害ガスを出さず、また、溶けにくいことから好ましく用いられる。
【0012】
上記断熱板の外表面に貼着される合成樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を延伸してフィルム状に形成したものが用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1記載の発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造においては、特に、H形鋼の上下フランジの外表面のそれぞれに該フランジと略同一の幅を有する木質帯板を固着してなる木質複合H形鋼と、断熱板の外表面に合成樹脂フィルムを貼着してなる断熱部材とから構成され、予め、別部材として作製した上記断熱部材の断熱板を上記木質複合H形鋼の室外側の上フランジと下フランジとの間に嵌装することにより、従来のポリウレタンフォーム材を吹き付けてポリウレタンフォーム層を形成する方法等に比べて簡単に作業性よく施工することができる。
【0014】
さらに、上記合成樹脂フィルムの断熱板が貼着されていない縁部のうち、上部、下部に延出された部分を固着片とし、この固着片を止め部材で挟むようにして木質帯板に固着することにより、上フランジと下フランジとの間の外気に接する空間が1枚の合成樹脂フィルムでシールされ、気密性が向上し、かつ、断熱性も向上させることができる。
【0015】
そして、上記木質複合H形鋼を用いて形成された枠空間に装着された断熱パネルと共に、上記木質複合H形鋼自体も外気の影響を最も受けやすい屋外側で断熱されることにより、冬季は気密性を保って冷気を防ぎ、室内では結露等の問題が生じることがなく、四季を通じて室内の居住環境を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明の木質複合H形鋼の断熱構造に係る実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、上記木質複合H形鋼の断熱構造の主体を構成する木質複合H形鋼Aを分解して示す部分断面斜視図である。図1に示すように、上記木質複合H形鋼AはH形鋼1と木質帯板2とからなり、ウエブ11と上フランジ12、下フランジ13とからなるH形鋼1の上下フランジ12、13の外表面のそれぞれに木質帯板2を接着、ビス固定等の固着手段により適宜固着して形成される。ここで、上記木質帯板2は上下フランジ12、13と略同一の幅を有している。
【0017】
図2は、上記木質複合H形鋼Aと組み合わせて用いられる断熱部材Bを示す斜視図である。図2には合成樹脂フィルムの上部、下部に延出された縁部41を固着片411とし、この固着片411を挟むようにして木質帯板2に固着するための止め部材5を併せて示されている。
【0018】
図2に示されているように、上記断熱部材Bはロックウールボードからなる断熱板3の外表面にポリスチレンフィルム等の合成樹脂フィルム4を貼着してなり、合成樹脂フィルム4の縁部41は上記断熱板3の周縁部よりも外方に延出されるとともに、上記縁部41の上下の余長部は上記木質帯板2への固着片411とされている。
【0019】
図3は、本願発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造を示す部分断面斜視図である。図3に示すように、上記断熱部材Bの断熱板3は木質複合H形鋼Aの屋外側の上フランジ12と下フランジ13との間に嵌装されるとともに、上記合成樹脂フィルム4の固着片411は止め部材5によって上記木質帯板2の側面に固着される。ここで上下の止め部材5はおのおの、合成樹脂フィルム4の上下固着片411を挟んで釘止め、ビス止め等の固着手段により固着され、かくして、H形鋼1の外気の影響を最も受け易い部分に断熱層が形成される。
【0020】
図4は、図3に示す木質複合H形鋼の断熱構造を接続して施工する際の施工方法を示す説明図である。図4において、断熱部材Bの合成樹脂フィルム4の左側縁部41は余長部として残されるとともに、右側は木質複合H形鋼Aの長さに合わせてカットされる。そして、2個の木質複合H形鋼Aどうしを図4に示す白抜き矢印で示すように突き合わせる。このとき、上記余長部として残された左側の縁部41を他の合成樹脂フィルム4の右側の縁部41にオーバーラップさせ、上下の止め部材5で固着する。
【0021】
図5(a)は、上記のようにして接続された2個の木質複合H形鋼Aの接続部を示す分解平面図である。図5(b)は突き合わせて施工した後、図4に示すX−X線に沿う断面を示す横断面図である。図5(a)、図5(b)に示すように、木質複合H形鋼Aの屋外側空間に接する面は全体が断熱部材Bの合成樹脂フィルム4でシールされているため気密性が向上し、夏季は高い外気温を遮り、冬季は気密性を保って外からの冷気を防ぐことができる。
【0022】
(実施例)
木質複合H形鋼(商品名テクノビーム:松下電工製)Aを梁として用い、断熱部材Bの断熱板3を上記木質複合H形鋼Aの屋外側に嵌装して本願発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造を施工した。上記木質複合H形鋼Aは、上下フランジ12、13の外表面に集積材からなる木質帯板(幅105mm、厚さ45mm)2を固着して形成されている。
【0023】
上記木質複合H形鋼AのH形鋼1(ウエブの高さが190mm、長さ910mm)の屋外側に、断熱板3の外表面に合成樹脂フィルム4を貼着して予め作製しておいた断熱部材Bの断熱板3を嵌装した。
【0024】
ここで、上記断熱部材Bは、ロックウールボード(縦190mm、横910mm、厚さ40mm)にポリスチレンフィルム(縦250mm、横970mm)を上下左右にポリスチレンフィルムの縁部がそれぞれ約30mm延出するように合成樹脂用貼着剤で貼着して得られたものである。
【0025】
さらに、上記上下に延出した約30mmの縁部を固着片411とし、合板からなる適宜の長さを有する止め部材(幅30mm)で上記上下固着片411をそれぞれ、挟むようにしてビス固定して本願発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造を得た。
【0026】
上記したように、本願発明を実施することにより、予め別部材として作製した断熱部材BをH形鋼1に嵌装し、止め部材5で合成樹脂フィルム4の上下固着片411を挟んだ状態で木質帯板2に釘止め、ビス止め等の固着手段により固定するのみで簡単に、作業性よく施工することができる。また、木質複合H形鋼Aの外気の温度の影響を最も受けやすい屋外側部分を気密性よくシールしているため、断熱性を良好に保持することが可能となり、気密性、断熱性に優れた木質複合H形鋼の断熱構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】木質複合H形鋼の断熱構造の主体を構成する木質複合H形鋼を分解して示す部分断面斜視図。
【図2】本願発明に係る木質複合H形鋼と組み合わせて用いられる断熱部材を示す斜視図。
【図3】本願発明に係る木質複合H形鋼の断熱構造を示す部分断面斜視図。
【図4】図3に示す木質複合H形鋼の断熱構造を接続して施工する際の施工方法を示す説明図。
【図5】(a)は本願発明に係る木質複合H形鋼の接続部を示す分解平面図、(b)は2個の本願発明に係る木質複合H形鋼を突き合わせて施工した後の図4に示すX−X線に沿う断面を示す横断面図。
【図6】公知の木質鉄骨梁の断熱構造の形成工程を例示した要部斜視図。
【図7】公知の木質鉄骨梁の断熱構造を示す斜視図。
【符号の説明】
【0028】
A 木質複合H形鋼
B 断熱部材
1 H形鋼
11 ウエブ
12 上フランジ
13 下フランジ
2 木質帯板
3 断熱板
4 合成樹脂フィルム
41 縁部
411 固着片
5 止め部材
C 公知の木質鉄骨梁
1a 公知の木質鉄骨梁における断面H型鉄骨材
11a 上記断面H型鉄骨材の水平板部
12a 上記断面H型鉄骨材の断面コ字形の表面
13a 上記断面H型鉄骨材の金具接続部
2a 公知の木質鉄骨梁における木質材
3a 公知の木質鉄骨梁の断熱構造の形成工程において用いられる透明もしくは半透明 の型枠
31a 上記型枠に設けられた発泡ガス抜き穴
4a 公知の木質鉄骨梁の断熱構造の形成工程において用いられる発泡ポリウレタンフ ォーム材注入空間
5a 公知の木質鉄骨梁の断熱構造における発泡ポリウレタンフォーム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブと上下フランジとからなるH形鋼の上下フランジの外表面のそれぞれに該フランジと略同一の幅を有する木質帯板を固着してなる木質複合H形鋼と、断熱板の外表面に合成樹脂フィルムを貼着するとともに、該合成樹脂フィルムの縁部を上記断熱板の周縁部よりも外方に延出して固着片を形成してなる断熱部材とからなり、上記木質複合H形鋼の室外側の上フランジと下フランジとの間に上記断熱部材の断熱板を嵌装し、上記合成樹脂フィルムの固着片を上記木質帯板に固着してなる木質複合H形鋼の断熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−7269(P2010−7269A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165165(P2008−165165)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】