説明

未成熟樹状細胞活性化剤及びその使用

【課題】生薬又は生薬エキスを使用した未成熟樹状細胞活性化剤及びその用途を提供する。
【解決手段】チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物を含有する未成熟樹状細胞活性化剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は未成熟樹状細胞活性化剤及びそれを使用した樹状細胞活性化法、細胞傷害性T細胞誘導法、及び腫瘍の治療法などに関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(DCs:dendritic cells)は1973年にR.M.Steinmanらによって発見された歴史的には比較的新しい細胞群である。その名が示す通り樹状あるいは樹枝状の突起を伸ばす形態が特徴的な細胞だが、樹状細胞は多彩な機能をもち、免疫応答の際には極めて重要な役割をもつ細胞であることが分かっている(非特許文献1)。
樹状細胞は骨髄幹細胞に由来し、生体内において各組織に分布しているが、中枢組織に存在するものと末梢組織に存在するものでは機能や働きが異なっており、またそれぞれの組織内でも異なる機能をもつ樹状細胞群が存在するヘテロな細胞集団である。現在樹状細胞は表面分子の発現と、その機能の違いからミエロイド系DC(cDC)とリンパ球系DC(pDC)に大別されている(非特許文献2)。CD11cを特異的なマーカーとして発現しているミエロイド系DCは、骨髄細胞や臍帯血前駆細胞、末梢血単球などから顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を多量に含む培養によって分化・誘導される細胞群である。この細胞群は末梢組織では未成熟な状態で存在しており食作用をもつものの抗原を提示する能力は持ち合わせていない。しかし、活性化シグナルが伝わることによって成熟した状態へと分化すると、強い抗原提示能を示し、他の細胞を活性化しうる。抗原提示能をもつ細胞は樹状細胞の他にマクロファージ、B細胞が存在しているが、重要なことに樹状細胞のみが抗原とまだ会っていないナイーブなT細胞を活性化する能力をもつ。したがって、樹状細胞は抗原特異的、非特異的な免疫反応を誘導しうる免疫監視の中心を担っているといえる(非特許文献3)。一方、CD123を特異的に発現する形質細胞様DC(plasmacytoid dendritic cell:pDC)はIL-3やFlt3-リガンドを分化・誘導に必要とする細胞群であり、プレT細胞レセプターα鎖のmRNA発現や免疫グロブリン遺伝子再構成がみられることからリンパ球系DCと呼ばれている。この細胞群の大きな特徴は、形質細胞様であるが抗体産生を行わず、ウイルス感染により大量のI型IFN産生能をもつことである。また、pDCは定常状態では末梢組織には存在せず、リンパ組織に存在している細胞群であり、炎症が起こるとその部位へ移行し刺激に応じてI型IFNを産生することによって感染防御などに重要な役割を果たすことが明らかになっている。
【0003】
近年、DCの機能の中でも、免疫誘導の際に強力な抗原提示機能をもち、T細胞による特異的な細胞傷害活性を効果的に誘導できる点に着目し、免疫応答性DCによる悪性腫瘍や感染症への応用を目指した臨床での免疫療法の開発が進んでいる(非特許文献4、5)。上述のように、感染などの際に微生物が侵入すると、宿主にはない構造を認識し抗原提示がスムーズに行われ、免疫応答は適切に行われる。しかし、がん細胞のように宿主由来のものを抗原として認識する場合、活性化シグナルはうまく伝達されず、アナジーと呼ばれる状態に陥りやすい。そのため腫瘍免疫療法には、非感染成分であるアジュバントによって免疫応答の活性化を代行することが必要不可欠である。アジュバントとは免疫刺激剤や免疫調製剤とも呼ばれるもので、抗原に対する免疫応答を促進させ、獲得免疫を増強する物質の総称である。その多くは細菌菌体由来の物質であるが、漢方方剤に含まれる多糖類などの高分子画分や、taxolやcolchicineといった微小管脱重合を阻害する薬剤にもアジュバント効果が示されたという報告がある(非特許文献6〜8)。アジュバントは上述したような腫瘍免疫への応用だけでなく、感染防御、アレルギー性疾患など多方面への展開も期待されることから、臨床応用へ向けた研究が盛んに行われている。
【0004】
医薬としての生薬の大きな特徴は、やはり種々の生物活性を有する化合物を含むことである。それら化合物のなかにはmorphineやephedrineなど、現在医薬品として重用されているものも数多く存在しており、そういった生薬由来の成分が樹状細胞に影響を与えるという報告もなされている。例えば、樹状細胞機能を抑制するものとして以下のような報告がある。緑茶の主成分であるepigallocatechin、シソなどに含まれるフラボノイドのluteolinはマウス骨髄由来樹状細胞において、LPSによるNF-κB活性化を抑制するとされている(非特許文献9、10)。また、ウコンに含まれる色素成分のcurcuminはマウス骨髄由来樹状細胞において、MAPKとNF-κBの核内移行を阻害し、さらにTh1分化を阻害するとされる(非特許文献11)。樹状細胞機能を亢進するといった報告もされている。例えば、オタネニンジン代謝物がヒト末梢血単球より分化誘導した樹状細胞のTh1分化を促進するとされ、キノコの一種であるソウオウ (別名:メシマコブ) 由来の酸性多糖がprotein kinase C(PKC)を介してマウス骨髄由来樹状細胞の成熟・活性化を誘導するとされている(非特許文献12、13)。
【0005】
【非特許文献1】Steinman R M, Hawiger D, Nussenzweig M C., Tolerogenic dendritic cells.:Annu. Rev. Immunol., 21:685-711,2003.
【非特許文献2】Wu L, Dakic A., Development of dendritic cell system. :Cell. Mol. Immunol., 2:112-118,2004.
【非特許文献3】Banchereau J, Breiere F, Caux C, Davoust J, Lebecque S, Liu YJ, Pulendran B, Palucka K., Immunology of dendritic cells.:Annu.Rev.Immunol., 18:767-811,2000
【非特許文献4】Mayordomo J I, Zorina T, Storkus W J, Zitvogel L, Celluzzi C, Falo L D, Melief C J, Ildstad S T, Kast W M, Deleo A B, et al., Bone marrow-derived dendritic cells pulsed with synthetic tumor peptides elicit protective and therapeutic antitumor immunity.:Nat. Med., 1:1297-1302,1995
【非特許文献5】Nestle F O, Alijagic S, Gilliet M, Sun Y, Grabbe S, Dummer R, Burg G, Schadendorf D., Vaccination of melanoma patients with peptide- or tumor lysate- pulsed dendritic cells.:Nat. Med., 4:328-332,1998
【非特許文献6】Chino A, Sakurai H, Choo M K, Koizumi K, Shimada Y, Terasawa K, Saiki I., Juzentaihoto, a Kampo medicine, enhances IL-12 production by modulating Toll-like receptor 4 signaling pathways in murine peritoneal exudates macrophages.:International Immunopharmacology., 5:871-882,2005.
【非特許文献7】Kawasaki K, Akashi S, Shimazu R, Yoshida T, Miyake K, Nishijima M., Mouse Toll-like receptor 4-MD-2 complex mediates Lipopolysaccharide-mimetic signal transduction by Taxol.:J Biol Chem., 4:2251-2254,2000.
【非特許文献8】Mizumoto N, Gao J, Matsushima H, Ogawa Y, Tanaka H, Takashima A., Discovery of novel immunostimulants by dendritic-cell-based functional screening:Blood., 9;3082-3089,2005.
【非特許文献9】Soon C A, Gi Y K, Jin H K, Seong W B, Myung K H, Hee J L, Dong O M, Chang M L, Ju H K, Bo H K, Yang H O, Yeong M P., Epigallocatechin-3-gallate, constituent of green tea, suppresses the LPS-induced phenotypic and functional maturation of murine dendritic cells through inhibition of mitogen-activated protein kinases and NF-κB.:Biochem. Biophys. Res. Commun., 313:148-155,2004.
【非特許文献10】Joo S K, Christian J., The flavonoid luteolin prevents lipopolysaccharide-indu- sed NF-κB signaling and gene expression by blocking IkB kinase activity in intestinal epitherial cells and bone-marrow derived dendritic cells:Immunology.,115:375-387,2005.
【非特許文献11】Gi Y M, Ki H K, Soong H L, Man S Y, Hee J L, Dong O M, Chang M L, Soon C A, Young C P, Yeong M P., Curcumin inhibits immunostimulatory function of dendritic cells: MAPKs and translocation of NF-kB as potential targets.:J Immunol., 174:8116-8124,2005.
【非特許文献12】Takei M, Tachikawa E, Hasegawa H, Lee J J., Dendritic cells maturation promotes by M1 and M4, end products of steroidal ginseng saponins metabolized in digestive tracts, drive a potent Th1 polarization.:Biochemical Pharmacology.,68:441-452,2004.
【非特許文献13】Soon K P, Gi Y K, Jae Y L, Jong Y K, Yoe S B, Jae D L, Yang H O, Soon C A, Yeong M P., Acidic polysaccharides isolated from Phellinus linteus induce phenotypic and functional maturation of murine dendritic cells.:Biochem. Biophys. Res. Commun., 312:449-458,2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、生薬・生薬由来成分が樹状細胞機能を修飾するという報告はここ数年で増えつつあるが、これらの成分はいずれも以前から免疫系を修飾するという報告がなされているものばかりである。つまり、これまでに免疫系への報告がなされていない生薬・生薬由来成分と樹状細胞を関連づける研究は報告されておらず、それらの生薬・生薬由来成分に樹状細胞機能を修飾するものが存在することは十分期待できる。
このような背景の下で本発明は、樹状細胞に作用する生薬を新たに見出すことによって、それを使用した未成熟樹状細胞活性化剤及びその用途を提供することを課題とする。特に、抗腫瘍効果及び/又はアジュバント作用が認められる活性化剤及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、厚生労働省承認漢方方剤210処方に主に配合される生薬100種類を対象として、その未成熟樹状細胞に対する作用を検討した。具体的にはまず各生薬の抽出物(生薬エキス)を調製し、各生薬エキスの樹状細胞株XS106に対する作用・影響を調べた。その結果、活性化の指標であるMHC class II発現の増強に効果的な生薬エキス10種類(チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイ)を選抜することに成功した。続いて、これらの生薬エキスの中から5種類(チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ及びシャゼンシ)を選択し、それらが共刺激分子であるCD80、CD86の発現へ及ぼす作用をXS106細胞で調べた。その結果、これら共刺激分子の発現はMHC class IIの発現と類似の挙動を示すことが観察された。即ち、選択した生薬に共刺激分子の発現増強作用が認められた。特に、チョレイ、シュクシャでは共刺激分子の強い発現増強が認められた。この結果より、選択した生薬エキスにはアジュバント作用をもつ可能性が示唆された。次に、実用化に向けた検討として、選択した生薬エキスが、初代培養による未成熟樹状細胞に対してどのような影響を与えるかを調べた。具体的にはマウス骨髄細胞由来樹状細胞(BM-DC)を用い、各生薬エキスを添加したときのMHC class II、CD80、CD80発現を調べた。その結果、チョレイ、シュクシャ、シャゼンシに、これら表面分子の発現増強作用が認められた。また、活性化・成熟化の指標となるIL-12p70産生への各生薬エキスの影響を検討した結果、特にシュクシャのエキスを添加した場合にIL-12p70の有意な産生がみられた。腫瘍免疫モデルを用いた更なる検討によって、シュクシャには抗腫瘍作用及びアジュバント作用のあることも示された。
本発明は主として以上の知見及び成果に基づくものであり、以下の未成熟樹状細胞活性化剤などを提供する。
[1]チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物を含有する、未成熟樹状細胞活性化剤。
[2]チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ及びシャゼンシからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物が含有されることを特徴とする、[1]に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
[3]チョレイ及びシュクシャからなる群より選択される一種又は二種の生薬又はその抽出物が含有されることを特徴とする、[1]に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
[4]シュクシャ又はその抽出物が含有されることを特徴とする、[1]に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
[5]前記抽出物が含水アルコール抽出物であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
[6]前記アルコールがエタノールであることを特徴とする、[5]に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤を含有する食品。
[8]未成熟樹状細胞を、[1]〜[6]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤の存在下で培養するステップを含む、未成熟樹状細胞活性化法。
[9]前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原を取り込ませるステップを更に含むことを特徴とする、[8]に記載の未成熟樹状細胞活性化法。
[10]前記ステップを、前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件下で実施することを特徴とする、[8]に記載の未成熟樹状細胞活性化法。
[11][9]又は[10]に記載の未成熟樹状細胞活性化法によって得られる、腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞と、リンパ球とを生体外で接触させるステップを含む、細胞傷害性T細胞誘導法。
[12]未成熟樹状細胞を、[1]〜[6]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤の存在下、且つ前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件下、リンパ球と共培養するステップを含む、細胞傷害性T細胞誘導法。
[13][1]〜[6]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤、[8]〜[10]のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化法によって調製された活性化樹状細胞、又は[11]若しくは[12]に記載の細胞傷害性T細胞誘導法によって調製された細胞傷害性T細胞を対象に投与するステップを含む、腫瘍の予防又は治療法。
[14]未成熟樹状細胞活性化剤を製造するための、活性化樹状細胞を調製するための、又は細胞傷害性T細胞を調製するための、チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物の使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(用語)
本発明において用語「〜を含む」又は「〜を含んでなる」は、「〜からなる」の意味をも含む表現として使用される。したがって例えば、「複数の要素(部材)を含んで構成される物(又は方法)」と記載した場合には、それが意味するものとして「当該複数の要素(部材)から構成される物(又は方法)」も当然に考慮される。
「樹状細胞」は、生体内で抗原特異的T細胞を誘導するのに重要な役割を担う抗原提示細胞の一つである。樹状細胞は骨髄幹細胞に由来し、末梢組織では未成熟な状態で存在する。樹状細胞は、活性化によって成熟した状態へと分化すると強い抗原提示能を示す。活性化樹状細胞(成熟樹状細胞)はMHC class I、MHC class II、及びCD80、CD86などの共刺激分子を高発現し、またIL-12を産生することによってナイーブCD4+及びCD8+T細胞を活性化する。
本発明において「腫瘍」は広義に解釈することとし、良性腫瘍及び悪性腫瘍(癌腫、肉腫)を含む。また、本発明において用語「腫瘍」は「癌」と互換的に使用される。
【0009】
(未成熟樹状細胞活性化剤)
本発明の第1の局面は未成熟樹状細胞活性化剤(以下、省略して「活性化剤」ともいう)に関する。本発明の活性化剤は特定の生薬又は生薬エキスを含有し、未成熟な樹状細胞を活性化する作用を発揮する。
本発明の活性化剤に使用される生薬は、チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン又はケイガイである。本発明の活性化剤は、これらいずれかの生薬又はその抽出物(生薬エキス)、又はこれらの中から選択される二種以上の生薬又はその抽出物(生薬エキス)を含有する。後述の実施例に示す通り、培養細胞株を用いた実験において、これらの生薬には樹状細胞の活性化の一つの指標となるMHC class II発現増強作用が認められた。
好ましい一態様において本発明の活性化剤は、チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ及びシャゼンシからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物(生薬エキス)を含有する。後述の実施例に示す通り、培養細胞株を用いた実験において、これらの生薬にはMHC class II発現増強作用に加えて、樹状細胞の活性化の他の指標となる共刺激分子CD80、CD86の発現増強作用が確認された。特に、チョレイ及びシュクシャにはこれらの共刺激分子の強い発現増強作用が認められた。この知見に基づき、本発明の更に好ましい一態様では、チョレイ及びシュクシャからなる群より選択される一種又は二種の生薬又はその抽出物(生薬エキス)が含有される。
【0010】
本発明者らは、MHC class II及び共刺激分子の発現実験において最も良好な結果を与えたシュクシャについてさらなる検討を行った。その結果、シュクシャには抗腫瘍作用及びアジュバント作用のあることが判明した。この知見に基づき、本発明の最も好ましい態様の活性化剤はシュクシャ又はシュクシャの抽出物(生薬エキス)を含有する。
【0011】
本発明において「生薬」とは、上記植物の全草、根、葉、果実、種子などを生のまま又は乾燥したものを適当な大きさに切断ないし粉砕加工して得られるもの(典型的には微粉末)又はそれを適当な溶媒に溶解、分散、希釈などして得られる液状体をいい、「生薬の抽出物(生薬エキス)」とは、上記植物の全草などから水や有機溶媒などで抽出し、残渣を除去して得られる抽出液、当該抽出液から抽出溶媒を除去したもの、或いは当該抽出液又は溶媒除去後の抽出液を適当な溶媒に溶解、分散、希釈などして得られる液状体をいう。
本発明で使用する生薬は市販されており(例えば株式会社ツムラが提供する)、容易に入手可能である。
【0012】
生薬エキスを得るために使用する抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等の低級アルコール若しくは含水低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール若しくは含水多価アルコール、ジメチルスフオキシド(DMSO)、アセトン、ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル、ブチルメチルケトン、ジエチルエーテル、ジクロルメタン、キシレン、トリクロルエチレン、四塩化炭素、ベンゼン、クロロホルム、トルエン等の有機溶媒、及び水を例示することができる。尚、含水低級アルコールとは、低級アルコールと水の混合液のことであり、好ましくは低級アルコール/水の比率が10/90〜90/10(V/V:体積比)、より好ましくは30/70〜80/20(V/V:体積比)のものである。同様に含水多価アルコールとは、多価アルコールと水の混合液のことであり、好ましくは多価アルコール/水の比率が10/90〜90/10(V/V:体積比)、より好ましくは30/70〜80/20(V/V:体積比)のものである。
抽出操作は、冷浸、温浸、加熱還流、パーコレーション法などの常法で行うことができる。溶媒による抽出ではなく、例えば水蒸気蒸留法、超臨界抽出法によって生薬エキスを得ることにしてもよい。また、抽出物の分離精製は、活性炭処理、液−液分配、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどで行うことができる。
【0013】
本発明の活性化剤を使用することによって未成熟樹状細胞を活性化することができる。活性化された樹状細胞がナイーブT細胞に作用し得る環境にあれば、細胞傷害性T細胞が誘導されることによって抗腫瘍効果及び/又はアジュバント効果が発揮されることを期待できる。このように、本発明の活性化剤は抗腫瘍剤及び/又はアジュバントとしても使用され得る。
【0014】
本発明の活性化剤の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0015】
本発明の活性化剤中における有効成分(生薬又は生薬エキス)の含量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように例えば約0.001重量%〜約100重量%とする。
本発明の活性化剤を製剤の形態(例えば抗腫瘍剤)で提供する場合の剤型も特に限定されず、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして調製できる。
【0016】
本発明の第2の局面は上記活性化剤の用途に関する。この局面では、本発明の活性化剤を含有する食品、未成熟樹状細胞活性化法、細胞傷害性T細胞誘導法、及び腫瘍の予防又は治療法が提供される。
【0017】
(食品)
本発明での「食品」の例としてパン、米、食肉、食肉加工品、野菜加工品、菓子類、飲料(アルコール飲料を含む)等を挙げることができる。また、本発明での「食品」には栄養補助食品(サプリメント)も含む。栄養補助食品の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品への添加物として使用する場合の活性化剤の添加量は治療的又は予防的効果が期待できる量にすることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0018】
(未成熟樹状細胞活性化法)
本発明は更に未成熟樹状細胞活性化法(以下、省略して「活性化法」ともいう)を提供する。本発明の性化法では、本発明の活性化剤の存在下で未成熟樹状細胞を培養するステップが実施される。本発明の活性化法を実施することによって、活性化された樹状細胞が得られる。従って本発明における「未成熟樹状細胞の活性化法」は、「活性化樹状細胞の調製法」と同義である。活性化樹状細胞は腫瘍に対する樹状細胞療法に利用可能である。樹状細胞療法とは、一般に、患者骨髄又は末梢血より調製した未成熟樹状細胞に腫瘍抗原を取り込ませて患者の体内へ戻し、腫瘍細胞に対する免疫反応(傷害性T細胞の誘導及びそれに引き続く免疫反応)を誘導することで腫瘍の退縮ないし根絶を図る能動免疫療法の一つであるが、本発明においては、腫瘍抗原を取り込ませることなく樹状細胞を患者の体内へ戻し治療効果を得ることも樹状細胞療法の概念に含まれるものとする。
【0019】
本発明の活性化法に使用される未成熟樹状細胞は常法で用意することができる。一般に、哺乳動物(好適にはヒトであり、治療目的で樹状細胞を使用する場合は通常、患者自身)の骨髄CD34陽性細胞から又は末梢血単球から未成熟樹状細胞は誘導されるが、回収率がよいこと及び採取が比較的容易且つ操作に伴う侵襲性も低い等の点から、末梢血単球より未成熟樹状細胞を誘導することが多い。例えば、アフェレーシス(成分献血)などによって末梢血単球を採取し、GM-CSF(顆粒球・マクロファージ−コロニー刺激因子)及びIL-4を添加した条件で1週間程度培養することによって未成熟樹状細胞を得ることができる。
【0020】
本発明の一態様では、未成熟樹状細胞を活性化するステップに加えて、未成熟樹状細胞に腫瘍抗原を取り込ませる(ローディングする)ステップが実施される。その結果、腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞が得られる。未成熟樹状細胞への腫瘍抗原のローディングは、例えば、未成熟樹状細胞に腫瘍細胞溶解液や腫瘍抗原(天然型又は組換え型)又は腫瘍抗原のHLA結合ペプチド(天然型又は組換え型)を接触させることによって達成される。ここでの接触操作は、ローディングに使用する物質(即ち腫瘍細胞溶解液など)を未成熟樹状細胞の培養液中に添加することによって行うことができる。例えば、未成熟樹状細胞の培養液中に、本発明の活性化剤とローディング用の物質を添加すれば活性化及びローディングを同時に行うことができる。このように本発明の活性化剤による活性化ステップを腫瘍抗原が取り込まれる条件下で実施すれば、腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞を簡便な操作によって調製することができる。
活性化された樹状細胞(成熟樹状細胞)は遊走能が高く、生体に投与されると所属リンパ節に遊走し、ホーミングし、MHC class I及びII分子を介してT細胞を刺激する。従って、腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞であれば、生体に投与された後、スムーズ且つより効果的に抗腫瘍作用を発揮すると期待される。
【0021】
以上の方法に限らず、腫瘍細胞から抽出・単離したtotal RNA、特定の腫瘍抗原又はそのHLA結合ペプチドをコードする核酸(mRNA、cDNA)をパッシブパルス法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、ウイルスベクターを利用する方法(Jonuleit H, Schmitt E, Schuler G, et al. J. Exp Med, 192, 1213-22(2000))などによって細胞内に導入することによっても、腫瘍抗原のローディングを行うことが可能である。腫瘍抗原のローディングにmRNAを使用することについては、Saenz-Badillos J, Amin SP, Granstein RD, Exp Dermatol, 10, 143-54(2001)、Sullenger BA, Gilboa E, Nature, 418, 252-8(2002)、Ponsaerts P, Van Tendeloo VF, Berneman ZN, Clin Exp Immunol, 134, 378-84(2003)を参照することができる。尚、腫瘍細胞から抽出・単離したtotal RNAを使用した場合には、多種の腫瘍抗原(その中には未知のものが含まれると期待される)を取り込ませることが可能である(Nair SK, Morse M, Boczkowski D, et al. Ann Surg, 235, 540-9(2002)、Milazzo C, Reichardt VL, Muller MR, et al. Blood, 101, 977-82(2003)、Su Z, Dannull J, Heiser A, et al. Cancer Res, 63, 2127-33(2003))。
【0022】
T細胞が認識するヒト腫瘍抗原として既知のものを以下に列挙する(腫瘍抗原についてKawakami Y., Robbins P.F., Wang R.F. et al. Principle and practice of oncology, update(Davita V.T., Hellman S. & Rosemberg S.A. eds) pp.1-20, Lippincott-Raven, Philadelphia, 1996を参照されたい)。
(1)組織特異的タンパク質:メラノソームタンパク質であるgp100, MART1, TRP1, TRP2, チロシナーゼ(メラノーマ)、CEA(大腸癌)、PSA(前立腺癌)
(2)腫瘍特異的変異ペプチド:β−カテニン、CDK4、MUM-1(メラノーマ)、CASP8(扁平上皮癌)、KIAA0205(膀胱癌)
(3)C-T(Cancer-testis)抗原:MAGE-1, -3、BAGE、GAGE-1, -2、NY-ESO-1(メラノーマ、各種上皮性癌)
(4)癌遺伝子又は癌抑制遺伝子産物:Her2/neu(乳癌、卵巣癌、肺癌)、p53(扁平上皮癌)、ras(大腸癌、甲状腺癌)
(5)ウイルスタンパク質:HPV16-E7(子宮頸癌)、EBV-EBNA-2,-3,-4,-6、EBV-LMP2(B細胞リンパ腫)
(6)変異HLA:HLA-A2変異(腎臓癌)
(7)その他:GnT-V(メラノーマ)、PRAME(メラノーマ、各種癌、白血病)、SART-1(食道癌、肺腺癌)、ムチンMUC1(乳癌、卵巣癌、膵臓癌)、RAGE(腎臓癌)
【0023】
本発明では活性化樹状細胞の使用目的に応じてこれらの中から適当なものを選択して使用することができる。例えば、C-T抗原は多くの腫瘍に発現していることから、C-T抗原を利用すれば広範な腫瘍を標的とした免疫療法に使用可能な活性化樹状細胞を得ることが可能といえる(Van Pel A., van der Brugen P., Coulie P.G. et al, Immunological Reviews, 145, 229-250, 1995)。
【0024】
樹状細胞の成熟・活性化の指標として細胞表面上へのMHC class II分子や共刺激分子(CD80、CD86)の発現状態、IL-12p70の産生状態などが利用される。MHC class II分子や共刺激分子(CD80、CD86)の発現については例えば、各分子に対応する抗体を使用した免疫学的手法(ELISA法など)で検出・確認することができる。、IL-12p70の産生についても同様に例えば免疫学的手法(ELISA法など)で検出・確認することができる。
未成熟状態の樹状細胞は抗原取り込み能が高いが、成熟・活性化すると抗原取り込み能が低下することが知られている。そこで、抗原取り込み能を利用して樹状細胞の成熟・活性化の程度を評価することもできる。例えば、蛍光標識したDextranなどを抗原として用い、その細胞内への取り込み量をフローサイトメーターで測定すれば樹状細胞の抗原取り込み能を評価することができる。
また、生体では成熟・活性化された樹状細胞は所属リンパ節に遊走し、そこで免疫応答を活性化する。そこで、マウスなどの実験動物に樹状細胞を投与した後、所属リンパ節へ移行した細胞の割合を調べることによっても樹状細胞の成熟・活性化の程度を評価することができる。
【0025】
未成熟樹状細胞の調製、活性化操作及びローディング操作に関して特に言及しない事項(培養条件など)は常法に従えばよく、後述の実施例の記載やCurrent protocols in Immunology, John Wiley& Sons Incが参考になる。
【0026】
(細胞傷害性T細胞誘導法)
本発明は更に細胞傷害性T細胞誘導法(以下、省略して「誘導法」ともいう)を提供する。本発明の一態様では、腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞とリンパ球とを生体外で接触させるステップが実施される。ここで使用される「腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞」は例えば、上記の方法(即ち、腫瘍抗原を取り込ませるステップを行う未成熟樹状細胞活性化法)で調製することができる。一方、「リンパ球」は哺乳動物(好適にはヒトであり、治療目的で細胞傷害性T細胞を使用する場合は通常、患者自身)の骨髄や末梢血より常法で調製することができる。リンパ球の調製法については例えばCurrent protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等が参考になる。活性化樹状細胞とリンパ球との接触操作は、これらの細胞を共培養することによって行われる。例えば活性化樹状細胞の培養液中にリンパ球を添加し、共培養を行えばよい。
【0027】
本発明の一態様では、未成熟樹状細胞の活性化、未成熟樹状細胞への腫瘍抗原のローディング、及び腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞とリンパ球との接触を一つの操作内で実施する。即ち、この態様の誘導法では、未成熟樹状細胞を、本発明の未成熟樹状細胞活性化剤の存在下、且つ未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件下、リンパ球と共培養するステップが実施される。これによって簡便且つ効率的に細胞傷害性T細胞を誘導することができる。尚、「未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件」とは、培養液中に腫瘍細胞溶解液、腫瘍抗原、腫瘍抗原のHLA結合ペプチド、及び/又は腫瘍抗原をコードする核酸(mRNAやcDNA)などが添加された条件をいう。
【0028】
尚、細胞傷害性T細胞の誘導操作に関して特に言及しない事項(培養条件など)は常法に従えばよく、後述の実施例の記載やCurrent protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等が参考になる。
【0029】
(腫瘍の予防又は治療法)
本発明は更に腫瘍の予防又は治療法(以下、これら二つの方法をまとめて「治療法等」という)を提供する。本発明の治療法等では、本発明の活性化剤、本発明の活性化法で調製された活性化樹状細胞、又は本発明の誘導法で調製された細胞傷害性T細胞が対象に投与される。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、皮内、皮下、リンパ節内、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜などを挙げることができる。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好適には、本発明の治療法等における対象はヒトである。
本発明の抗活性剤などの投与量は症状、投与対象の年齢、性別、及び体重などによって異なるが、当業者であれば予備実験(細胞又はモデル動物を用いた実験など)の結果や臨床試験の結果を踏まえて適宜適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、三日に一回、四日に一回、一週間に一回、二週間に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、投与対象の病状や薬効の持続時間などを考慮することができる。
【0030】
尚、本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えばよく、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)、 Current protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等を参考にすることができる。
【実施例】
【0031】
1.生薬による樹状細胞表面分子の発現変動
1−1.生薬エキスの作製
天然物由来のものから樹状細胞機能を修飾しうるものの開発にあたり、厚生労働省承認漢方方剤である210処方に主に配合される生薬100種類を選択した。
エキス作製の際、検討すべきこととして、溶媒の選択、温度の選択などがあげられる。樹状細胞は多糖類により成熟・活性化することが知られていることから、今回は多糖類が多く抽出される熱水抽出は避け、室温での抽出を行うことにした。また、対象とする化合物は低分子化合物とし、抽出溶媒にアルコール、または含水アルコールを選択した。
そこでまず、オウゴン、オウバク、カンゾウの生薬3種を例にとり、それぞれ10gずつ100% MeOH、70% EtOHにより3日間冷浸抽出し、抽出エキス収量、HPLCクロマトグラフの比較を行った(data not shown)。3種の生薬について100% MeOH、70% EtOH抽出エキスを作製したところ、全ての生薬で70% EtOHを用いた方が多いエキス収量を与える結果となった。またHPLC分析では、100% MeOH、70% EtOH抽出エキスのピークプロファイルに大きな違いは認められなかったが、100% MeOH抽出エキスでは保持時間の短い部分のピーク強度が大きく、70% EtOH抽出エキスでは保持時間の長いピーク強度が大きい結果となった。これらの比較から、より収量の多い70% EtOH抽出エキスの方がより極性の低い低分子化合物を多く含んでいることを期待し、抽出溶媒とした。
【表1】

生薬エキスの収量
【0032】
次にin vitro assayに供するため、エキスを溶解する溶媒について検討した。(1)MeOH、(2)EtOH、(3)DMSOの3種の溶媒を用い、それぞれ生薬エキスが100 mg/mLの濃度になるように溶媒を添加し、溶解可能か調べた。その結果、3種の生薬のいずれについてもエキスが可溶であった溶媒はDMSOのみであったので、生薬エキスはDMSOに溶解させて用いることにした。
【0033】
以上の予備的検討に基づき、生薬5gを50mLの70% EtOHで3日間冷浸し、抽出物を最終濃度100mg/mLとなるようにDMSOに溶解することによって検液を調整した。なお、エキス中化合物の変性を防ぐため検液は少量ずつに分割して凍結保存した。このようにして、エキス調整が不可能であったセッコウを除く99種類の生薬についてエキスを調整した。
【表2】

70% EtOHで抽出した生薬エキスの収量
【0034】
1−2.XS106細胞に対する生薬エキスの細胞毒性
樹状細胞に対して活性を示す生薬の探索を行う前に、樹状細胞株であるXS106細胞に対する生薬エキスの細胞毒性を検討した。XS106細胞は、A/Jマウス表皮Langerhans細胞由来の株化細胞で、未成熟な樹状細胞である(引用文献14)。
【0035】
まず、生薬エキスを溶解しているDMSOの細胞毒性を検討した。96wellフラットプレートに細胞濃度2 ×104 cell/wellになるよう調製し、DMSO濃度が0%、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、5.0%、10.0%になるよう添加した。24時間反応した後、XTT assayにより細胞生存率を検討した。結果はDMSO無添加群の生存率を100%として細胞生存率を算出した。
XS106細胞に対し、DMSO濃度0.5%以下では生存率に影響がないことが明らかとなった(図1)。そこで、細胞生存率に影響を与えないように、生薬エキス添加による培地中DMSO最終濃度を0.1%とすることにした。
【0036】
DMSO濃度を決定したので、抽出できた99種の生薬エキスの細胞毒性を検討した。DMSOによる細胞毒性の検討と同様に、XS106細胞濃度2×104 cell/wellになるよう調製した。生薬エキス濃度は1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLとし、24時間反応した後、XTT assayにより細胞生存率を検討した。結果は0.1%DMSO溶液添加群の生存率を100%として、細胞生存率を算出した。
検討した99種の生薬のなかで、ゴシュユ、ゴボウシ、ボウフウ、モッコウに添加濃度依存的な細胞毒性が認められた。また、カンキョウ、キョウカツ、ニンジン、リョウキョウでは、100mg/mLの濃度で強い細胞毒性が認められ、サイシン、チョウジ、チモ、チクジョ、レンギョウでも細胞毒性が認められた。
【表3】

生薬添加がXS106細胞の生存率に及ぼす影響
【0037】
1−3.XS106細胞のMHC class II発現に対する生薬エキスの影響
免疫システムの特筆すべき特徴は、自己を攻撃することなく、異物となる非自己抗原を識別して排除することである。これはおもにB細胞の免疫グロブリン(抗体)と、T細胞抗原レセプター(TCR)により担われる。抗体は抗原を直接認識するが、TCRは直接抗原を認識することはなく、抗原の分解産物であるペプチド、脂質などを提示した抗原提示細胞より情報が伝達され、T細胞に活性化シグナルを伝達し免疫応答を誘導する。この時、抗原提示細胞上で抗原由来の分解産物であるペプチドを結合し、TCRに情報を伝達する分子が主要組織適合遺伝子複合体(MHC)である。MHC分子にはclass Iとclass IIがあるが、class Iはすべての有核細胞と血小板に発現し、細胞内に存在するタンパク質由来のペプチドをCD8+T細胞に提示する。一方、class IIはB細胞、マクロファージ、樹状細胞といった抗原提示細胞に発現し、抗原提示細胞は刺激をうけて成熟・活性化するとその発現を増強させる。これらの細胞は細胞外からエンドソーム内に抗原を取り込み、抗原タンパク質をペプチド断片へ分解する。そして、エンドソーム内でインバリアント鎖(Ii chain)の一部であるCLIPと分解されたペプチドが入れかわり、ペプチド/MHC class II複合体としてCD4+T細胞へ提示される(引用文献15)。このように、MHC class II発現は活性化した樹状細胞のマーカーとして用いることができる。そこで、XS106細胞の表面抗原に対して、各生薬エキス添加が与える変化を検出するため、MHC class II発現を指標としてフローサイトメトリーにより検討を行った。
【0038】
まず、陽性対照(positive control)として使用するLPSについて、MHC class II発現への影響を検討するため、LPS濃度を10-4 ng/mLから102 ng/mLまで10倍間隔で調製し、添加24時間後のMHC class II発現をFACSにより解析した。
LPS添加によりXS106細胞は活性化し、細胞の大きさが多様化する。それと同時にFITC標識anti-I-Ad抗体陽性細胞も増加し、ヒストグラムで示すようにMHC class II発現は増強する(図2A)。このヒストグラムのmean fluorescence intensity(M.F.I.)を活性スクリーニングの指標とした。1ng/mLの濃度から発現の増強がみられ、100ng/mLの濃度では無添加群の発現と比べ約5倍の値を示した(図2B)。本検討より、LPSは100ng/mLの濃度で使用することにした。
【0039】
FACS解析においても細胞毒性の解析が可能であるが、各生薬エキスを10μg/mLの濃度で検討したところ、全ての生薬で明らかな細胞毒性は認められなかった。
生薬エキス99種のMHC class II発現に与える影響を図3に示す。99種中、最もMHC class II発現の増強がみられた生薬エキスはチョレイであり、無添加群の発現と比較して約1.8倍の発現増強がみられた。また、チョレイの次に発現の増強がみられた生薬エキスはシュクシャであった。シュクシャは、チョレイとほぼ同程度の約1.8倍の発現増強がみられた。全体のなかでも、この2種類の生薬エキスは特に強い発現増強作用がみとめられた。3位から10位までの生薬エキスは順に、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン、ケイガイであった。これらの生薬エキスによる発現増強作用は無添加群の発現と比較して約1.3倍から1.5倍であった。また、MHC class II発現を明らかに抑制したものとして、キョウカツ、モッコウの2種があげられた。
【0040】
この検討より、上位10種の生薬エキスを選択した。次にMHC class II発現に対する各生薬エキスの濃度依存性を検討した。
生薬エキス濃度を1μg/mL、10μg/mL、100μg/mLに調製し検討したところ、10種全ての生薬エキスで、MHC class II発現と濃度に正の相関が認められた(図4)。中でもチョレイ、シャゼンシ、ショウマでは100μg/mLの濃度において、LPSと同等の発現増強が認められた。また、ハンゲは濃度依存性が認められたものの、発現増強の割合は他の生薬エキスと比較して低い結果であり、100μg/mLの濃度でも無添加群と比較して約2倍の発現増強であった。これらの結果から、生薬エキス濃度を100μg/mLに調製し以後の検討を行うことにした。
【0041】
1−4.XS106細胞の共刺激分子発現に対する生薬エキスの影響
樹状細胞が抗原情報を提示してT細胞の活性化を行う際、MHC class II/ペプチド複合体の提示によるシグナルと同時に、共刺激分子によるシグナルが必要であることが明らかにされている。共刺激分子を発現しない刺激の場合、アポトーシスまたはアナジーに陥るとされ、活性化の際に共刺激分子による補助シグナルは重要である。そこで、生薬エキスにより共刺激分子の発現に与える影響を検討した。
【0042】
前節の検討で、濃度依存的にMHC class II発現増強作用を示した10種の生薬のうち、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン、ケイガイの5種は100 μg/mLの濃度でXS106細胞に対する細胞毒性があることが確認されている。そのため、この濃度で細胞毒性を示さないチョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシの5種の生薬を選択し、XS106細胞を用いて、共刺激分子であるCD80(B7-1)、CD86(B7-2)発現をMHC class II発現とともに解析した。解析の結果、共刺激分子発現はMHC class II発現と類似の挙動を示しており、チョレイ、シュクシャを添加では強い発現増強がみられた(図5)。MHC class II発現増強作用が弱いハンゲでは、共刺激分子発現増強も低い作用であった(図5)。
【0043】
1−5.考察
厚生労働省承認漢方方剤210処方に主に配合される生薬100種のエキスを作製し、株化樹状細胞のXS106細胞に対して、細胞毒性のない濃度で樹状細胞機能への影響を検討した。スクリーニングには樹状細胞表面分子であるMHC class II分子の発現について検討を行ったが、その発現を増強する生薬エキスもあれば、影響を与えないもの、発現を抑制するものも存在しており、生薬に含まれる多糖類によるLPS様作用で多くの生薬エキスがMHC class II発現を増強するという結果にはならなかった。数種の生薬エキスはMHC class II発現を増強する作用をもち、それらの生薬エキスによるMHC class II発現への影響は、濃度依存的に増強することが明らかになった。また、抗原提示の際、MHC class II分子と並んで重要な共刺激分子(CD80、CD86)の発現についても検討を行ったところ、これらの分子発現も増強しており、スクリーニングにより選択した生薬エキスにはアジュバント作用をもつ可能性が考えられた。
【0044】
XTT assayから、細胞毒性を示した生薬エキスにはこれまでに他の細胞でも類似の作用が報告がされている。XS106細胞に対して強い細胞毒性を示したボウフウは、セリ科のSaposhinikova divaricataの根および根茎を薬用部位とし、クマリンやクロモン誘導体を含有する。ボウフウの細胞毒性に関する報告には、K562やRaji、HeLa細胞などの腫瘍細胞への影響を検討したものがあり、活性成分としてポリアセチレン化合物であるpanaxynolが単離されている。それによると、panaxynolはcyclin Eの発現を抑制することで、細胞周期のG1からS期への移行を抑制するとされている。モッコウは、キク科のSaussurea lappaあるいはS. costusの乾燥根であり、精油成分を含有する。モッコウエキスや成分についても細胞毒性の報告があり、HL-60細胞には成分の一つmokko lactoneがミトコンドリアのcaspase-3を活性化し、アポトーシスを誘導することが示されている他、セスキテルペンであるcostunolideなどにも同様の作用が報告されている。ゴシュユは、ミカン科のEvodia rutaecarpaまたはE. officinalisの果実であり、含有されるインドールアルカロイドのevodiamineやrutaecarpineには細胞毒性の報告がある。中でもevodiamineは、悪性黒色腫のA375-S2やHeLa細胞、MCF7、THP-1、L929などの癌細胞に対して細胞毒性を示し、ヒトの末梢単核球(PBMC)には細胞毒性を示さないなど選択毒性が報告されており、またL929細胞に関しては細胞周期をG0/G1に停止させることでアポトーシスを誘導することも明らかにされている。ニンジンについても、ポリアセチレン化合物のpanaxytriolがP388D1細胞の細胞周期をG2/M期に停止させ、増殖阻害作用を示すことやトリテルペンであるprotopanaxadiolやginsenoside Rh2がCaco-2細胞に細胞毒性を示すことなどが報告されており、XS106細胞に対する細胞毒性がこれらの成分によるものかどうかは今後確認しなければならない。
一方、カンキョウやキョウカツ、リョウキョウ、チョウジ、レンギョウ、チクジョの細胞毒性に関する報告はほとんど存在せず、例えばカンキョウでは、ショウキョウに含有される6-gingerolにはHL-60細胞に対するアポトーシス誘導能の報告がなされているが、カンキョウでは修治により6-gingerolは細胞毒性の報告されていない6-shogaolに構造変換されているためか、ほとんど細胞毒性に関する報告はない。
これらの細胞毒性については、別途その性質の解析、例えば皮膚を構成する他のkeratinocyteやfibroblastなどの細胞への影響を検討して細胞毒性の選択性を解析することで、皮膚への利用方法を確立することや、あるいは腫瘍細胞との比較をしながら、その活性本体を明らかにする天然物化学的な展開をすることなども考えられる。
【0045】
XS106細胞のMHC class II発現に強い作用を示した生薬についての報告は、以下のようなものがある。
MHC class II発現を増強させたもののうち、チョレイはサルノコシカケ科のPolyporus umbellatusの菌核であり、その多糖体成分には多くの免疫賦活作用が報告されている。本研究では多糖体を排除するように抽出条件を設定したが、エキス中のオリゴ糖などの存在が活性に影響するかについても検討すべきだと思われる。シュクシャは、ショウガ科のAmomum xanthioidesの種子塊を薬用とするもので、d-camphorやd-borneol、linaloolなどの精油成分を含有する。この生薬については、胃腸薬としての応用や、韓国では糖尿病への応用がなされており、これらに関連する基礎研究は多いが、樹状細胞など免疫細胞系への報告はまだされていない(引用文献17〜19)。ハンゲは、サトイモ科のPinellia ternataの塊茎であり、含有される酸性多糖体に抗補体活性や細網内皮系賦活作用などが報告されていたが、近年小青竜湯の抗インフルエンザウイルス活性などの検討を通して、インフルエンザワクチンのアジュバントとなるpinellic acidと呼ばれる化合物、9S,13S-trihydroxy-10E-octadecaoic acidがこのハンゲから単離されている。この化合物のXS106細胞のMHC class II分子の発現への影響にも興味が持たれる。ゴボウシは、キク科のArctium lappa の果実であり、arctiinなどのリグナン化合物を含有する。四塩化炭素やアルコールによる肝障害に対し保護作用を示すことが報告されているが、最近抗炎症作用の一面として、Raw 264.7細胞を用いた培養系でLPSによるTNFα産生を阻害するということも報告されている。
これらの生薬には、樹状細胞の抗原提示刺激を増強して免疫応答を促進する効果が予想される。もし樹状細胞の癌細胞抗原ペプチドを提示する能力を高めることができるなら、これらの生薬は腫瘍免疫療法を増強する、アジュバントとしての利用が期待される。
一方、XS106細胞のMHC class II発現を低下させたキョウカツ、モッコウは前述したように、XS106細胞に対して細胞毒性を示す生薬エキスであったが、FACS解析の系では培養スケールの違いから明らかな細胞毒性は観察されていない。これらの生薬は、樹状細胞の活性化を抑制し、抗アレルギー作用を示すことが期待される。
最近、キョウカツの熱水抽出エキスは経口投与で2,4,6-trinitrochlorobenzene(TNCB)による接触性皮膚炎を投与量依存的に抑制することが報告されており、その抗原提示細胞を介した抑制メカニズムの有無に興味が持たれる。モッコウのセスキテルペン成分であるdehydrocostus lactoneには、in vitroでLPS刺激によるマウスマクロファージ株細胞であるRAW 264.7細胞の一酸化窒素産生やTNFα産生を抑制することが報告されており、XS106細胞のMHC class II発現抑制作用についても同様のメカニズムが存在するかどうかに興味が持たれる。また、セスキテルペン成分であるcostunolideは、ナツシロギクというキク科のTanacetum partheniumの葉部に多く含有されるparthenolideと構造が類似していることが明らかになっている。最近の報告で、parthenolideにはマスト細胞の脱顆粒、転写因子NF-κB、NF-AT、AP-1の活性化を抑制すること、Th2サイトカインであるIL-4、IL-13の産生、脂質メディエーターであるPGE2、LTC4の産生を抑制することなど、抗アレルギー作用をもつことが明らかになっている。costunolideにもこれらと類似の作用をもつか検討を行ってみる必要がある。
本検討の結果から、XS106細胞のMHC class II発現に影響与えることが判明した生薬の臨床応用の可能性を追及していくため、初代培養樹状細胞である骨髄細胞由来樹状細胞についても同様の影響を与えるか検討を行うことにした。
【0046】
2.生薬エキスによるBM-DCへの影響
2−1.BM-DCの調製
1.の検討から、樹状細胞機能を亢進しうる可能性をもつ生薬を5種に選択した。今後in vivoの検討を行っていくこともふまえ、これらの生薬が初代培養による樹状細胞に対してどのような影響を与えるか検討することにした。Primary cell cultureによる樹状細胞は末梢血や臍帯血の単球、骨髄細胞、脾臓細胞、ES細胞などから分化が可能であることが分かっている(引用文献19)。今回はマウスから骨髄細胞を回収し、樹状細胞への分化を行うことにした。
【0047】
マウス骨髄細胞由来樹状細胞(BM-DC)の調製に際して、以下に示す検討を行った。
(1)GM-CSFの至適濃度
(2)培養の際sub-cultureの必要性
(3)BALB/cマウス、C57BL/6マウスからの樹状細胞分化の差異
【0048】
まず、GM-CSF濃度条件について検討を行った。濃度を5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL、40ng/mLに調製したそれぞれの培地から樹状細胞を分化させた。5ng/mLの濃度でも樹状細胞が分化したが、GM-CSF濃度の増加に伴い、樹状細胞の分化割合が上昇した。しかし、20ng/mL以上ではプレートへ接着する細胞数が増加し、全体的に細胞収量が低くなること、アポトーシス細胞の割合が上昇してくることが認められた(データ示さず)。これらから、培地中に含まれるGM-CSF濃度は10ng/mLにすることにした。
【0049】
BM-DCによる検討を行っている報告は数多くされているが、その調製にsub-culture(継代)を行うかは個々様々であり、厳密な規定はされていない。そこで、sub-cultureの必要性について検討を行った。sub-cultureは細胞播種から6日目に行い、その2日後に細胞を回収した。その結果、sub-cultureを行わず分化させた樹状細胞のほうがCD11c+の割合が高いことが明らかになったため、sub-cultureを行わず培養を行うことにした。
【0050】
マウスの系統の違いから、分化してくる樹状細胞の割合、表面分子発現に違いはあるのか検討した。BALB/cマウス、C57BL/6マウスから樹状細胞を分化したところ、C57BL/6マウスから調製を行ったほうがCD11c+の細胞割合が高く、樹状細胞への分化割合が高かった。また、C57BL/6マウスの方が、同週齢の条件において得られる骨髄細胞数が多いこと、得られたBM-DCのMHC class II発現が低かったため、BM-DCの調製にはC57BL/6マウスを用いることにした。
【0051】
これらの検討より、BM-DCの調製は以下のように行うことにした。Female C57BL/6マウスから大腿骨、頚骨を採取し、骨髄細胞を回収した。細胞数を調整し、10 ng/mLのGM-CSFを含む培地へ播種した。培養開始から2日目、4日目に軽く振とうし、浮遊してきた細胞を含む培地を除き、新しい培地に交換した。培養開始から7日目、ピペッティングにより浮遊してきた細胞を回収し、CD11c+細胞群を樹状細胞として用いた。なお、細胞全体の10%程度はCD11c-細胞群だが、表面分子による解析からこの細胞群はGr-1+であり、顆粒球であることが明らかになった(図6)。
【0052】
2−2.BM-DCに対する生薬エキスの影響
1.で選択した5種の生薬について、XS106細胞の検討と同様に、BM-DCにおける生薬エキスの影響を検討した。BM-DC培養開始から6日目に生薬エキス濃度を100μg/mLになるよう培地へ添加した。24時間反応後、細胞を回収しMHC class II、CD80、CD86で染色した。チョレイ、シュクシャ添加細胞は、MHC class II、CD86発現をLPSと同程度まで増強したが、CD80発現にはあまり影響を与えなかった(図7A、B)。一方シャゼンシ添加細胞ではMHC class II、CD86発現の増強は前者に劣るものの、CD80発現は5種の生薬のなかで最も高く、無添加群と比較して約3倍の発現増強がみられた(図7A、B)。
これらの生薬エキスが、成熟・活性化したBM-DCから産生されるサイトカインIL-12p70に影響を与えるか検討した。生薬エキスを添加して24時間反応後、培養上清を回収し、サイトカインの産生についてELISAを用いて測定した。
無添加群ではIL-12p70産生が認められなかったが、LPS添加により非常に高い産生がみられた。生薬エキスの中では、シュクシャ添加により有意な産生がみられた(図7C)。しかし、これまでの検討からシュクシャと同程度の表面分子発現増強作用を示していたチョレイではIL-12p70の産生がみられなかった(図7C)。また、シャゼンシ、ジコッピでは低い産生がみられたが、ハンゲでは産生はみられなかった(図7C)。
【0053】
2−3.シュクシャのBM-DCへの影響
ここまでの検討より、数種の生薬エキスに樹状細胞機能を修飾しうるものが存在している可能性が示唆された。中でも、特にシュクシャはXS106、BM-DCの両細胞の表面分子発現をLPSと同程度まで増強すること、BM-DC培養上清からIL-12p70を有意に産生することが明らかになり、樹状細胞機能を亢進することが強く示唆された。そこで100種の生薬からシュクシャを選択し、以後の検討を行った。
【0054】
エキス作製の際、何らかのアジュバント活性をもつ微生物由来のものが混入したことにより、シュクシャに活性がみられたという可能性を除去しなければばらない。LPSはグラム陰性菌由来のリポ多糖で、アジュバント活性をもつ代表的な物質である。そこで、シュクシャによる樹状細胞活性化はLPS混入によるものではないことを明らかにするため検討を行った。
polymyxin BはLPS作用を阻害することが知られている(引用文献20)。そこで、polymyxin Bを添加し、その影響を検討した。polymyxin Bは5μg/mLになるよう調製し、シュクシャと同時に添加した。24時間反応後、BM-DCを回収し、MHC class II発現の変動を解析した。polymyxin B添加により、LPS添加では無添加群と同程度までMHC class II発現が低下したが、シュクシャ添加群ではMHC class II発現に変動はなかった(図8)。このことからシュクシャによる樹状細胞活性化は、LPSの混入によるものではないことが明らかになった。
【0055】
2−4.考察
初代培養樹状細胞のBM-DCを分化したところ、骨髄細胞からは樹状細胞だけでなく、顆粒球も分化してきた。これは、培地中に大量のGM-CSFを添加して分化を行うためであると思われる。しかし、分化してくる樹状細胞の割合が圧倒的に多いことからも本検討へ用いることに問題はないと考えられた。
活性化した樹状細胞から産生されるIL-12p70は、p40とp35サブユニットがヘテロダイマーを形成したもので、活性型としてNK細胞や細胞傷害性T細胞の活性化に重要な役割を果たしている(引用文献21)。また、IL-12p40のモノダイマーや、ホモダイマーはIL-12p70の活性に対し、抑制的に働くことがわかっているため、IL-12のなかでもp70の産生が最も重要であると考えられる。選択した5種の生薬のなかで、BM-DC表面分子の発現はチョレイ、シュクシャ、シャゼンシ添加により増強することが明らかになったが、シュクシャ添加の樹状細胞でIL-12p70の有意な産生がみられた。チョレイやシャゼンシは、IL-12p70の有意な産生は認められなかったことから、活性化作用が低い可能性が考えられた。しかし、漢方方剤である補中益気湯や、生薬由来のアルカロイドでトポイソメラーゼI阻害作用により抗腫瘍作用をもつcamptothecinなどにも、樹状細胞の表面分子発現は増強するが、サイトカインの産生には関与しないといった報告があるものの、補中益気湯やcamptothecinはT細胞を活性化しうることが報告されており(引用文献8、22)、チョレイやシャゼンシにも、強くT細胞を活性化することができるかもしれない。
これまでの検討から、樹状細胞機能を正に制御するものだけでなく、負に制御するものも見出されており、樹状細胞機能を修飾するものの探索に本スクリーニング系の有効性が確立できた。今回検討を行わなかった生薬に限らず、様々な化合物についても、本スクリーニング系により樹状細胞への影響を検討できるため、更なる樹状細胞機能を修飾する化合物の発見が期待される。
【0056】
ここまでのスクリーニングから、シュクシャはXS106、BM-DCの両細胞の表面分子発現をLPSと同程度まで増強すること、BM-DC培養上清からIL-12p70を有意に産生することが明らかになり、樹状細胞機能を亢進することが強く示唆された。そこで100種の生薬からシュクシャを選択し、更なる検討を行うことにした。そこでまず、シュクシャの作用はLPSの混入によるものではないことを、Polymyxin B処理によって明らかにし、樹状細胞活性成分が含まれることを裏付ける結果をえることができた。前述したように、シュクシャは胃腸薬や糖尿病薬としての応用がされているものの、樹状細胞機能を亢進するアジュバント効果を示すことは新しい知見である。アジュバント効果と強く関わりをもつとされるものに、90年代後半に発見されたToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)と呼ばれる一群の膜タンパク質がある(引用文献23)。TLRは、病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)を標的として認識し、細胞内のシグナル伝達機構を介して自然免疫の活性化、さらに獲得免疫の制御に関与している。多くのアジュバントはこのTLRファミリーを介して効果を示すことが明らかにされており、今回positive controlとして用いているLPSはTLR4のリガンドであり、また、臨床応用へ向けた研究がなされているアジュバントの一つ、CpG DNAはTLR9のリガンドである(引用文献24)。シュクシャの作用はこういったもののようにTLRを介する作用であるかもしれないが、現時点までの検討ではアジュバント作用をもつ成分の同定に至っていないため、今後の更なる検討が必要である。しかし、もしシュクシャに含まれる低分子化合物が活性成分であれば、それ自体に対する抗体産生や細胞性免疫応答はおこらないことからも、より安全性の高いアジュバントとしての応用も可能となるかもしれない。これまでに、セイヨウイチイの樹皮に含まれるtaxolや、イヌサフランの種子や球茎に含まれるcolchicineなど、微小管の脱重合阻害作用をもつ化合物がTLR4を介してアジュバント効果を示すことが報告されているものの、これらの化合物は劇薬指定化合物であり、必ずしも安全性が高い低分子化合物とはいえない。しかし、シュクシャは漢方方剤に含まれることや、生体に強い作用を及ぼすといった報告がないことからも、本研究から見出されたアジュバント作用は、安全性が高いことが期待される。
【0057】
3.シュクシャの腫瘍免疫への応用
ここまでの検討から、シュクシャ中の何らかの成分がアジュバント作用を示すことが示唆されている。そこで、in vivoにおいて免疫応答を亢進することが可能か、腫瘍免疫モデルを作製しアジュバント効果の検討を行った。
【0058】
3−1.T細胞活性化に対する影響
腫瘍免疫モデルによる検討を行う前の予備的検討として、樹状細胞によるT細胞の活性化能について検討を行った。検討にはOT-I transgenic マウスとBM-DCを用いた。OT-I transgenicマウスはC57BL/6マウス由来であり、MHC class Iに提示されたOVA257-264(SIINFEKL)を特異的に認識するTCRをもつマウスである。本マウスより脾臓細胞を採取し、MACS(magnetic cell sorting )システムとCD8+ T cell isolation kitによってCD8+ T cell(OT-I T cell)を回収した。BM-DCはC57BL/6マウスより分化し、培養開始から6日目にシュクシャ100 μg/mLまたはLPS 100 ng/mLを添加した。添加から18時間後、SIINFEKLを400 nM添加し、そこから6時間後BM-DCを回収した。BM-DCとOT-I T cellを1:5の比率になるようにwellへ播種し、48時間後の培養上清を回収した。IFN-γの産生をT細胞活性化の指標として、ELISAによって検討を行った。抗原ペプチドをパルスした樹状細胞とT細胞を共培養した群ではIFN-γの高い産生がみられ、そこへシュクシャまたはLPSをパルスした群は、更に高いIFN-γ産生がみられた(図9)。また、抗原ペプチドを添加せず、シュクシャまたはLPSをパルスした樹状細胞とT細胞を共培養した群でもIFN-γ産生がみられた(図9)。この2群の比較では、LPSよりもシュクシャの群のほうがより高い産生がみられる結果がえられた。T細胞のみ、樹状細胞のみではIFN-γ産生はみられなかった。
【0059】
3−2.腫瘍免疫モデルの作製
シュクシャ添加により、有意にT細胞を活性化しうることが示され、in vivoにおいてもアジュバント効果をもつことが期待された。次に、in vivoにおいて腫瘍免疫のアジュバントとなりうるか、腫瘍免疫モデルを作製し検討を行った。
腫瘍細胞にEG7を使用し、腫瘍ペプチドにOVA257-264のSIINFEKLを使用した。EG7はC57BL/6マウス由来の胸腺腫細胞であるEL4にOVAをトランスフェクションした細胞で、OVAを腫瘍抗原とするモデルである(引用文献25)。
実験動物に8週齢のfemale C57BL/6マウスを用い、EG7を打ち込む当日に背部を剃毛し、PBSに懸濁させた状態のEG7を5×105 cell背部皮下へ打ち込んだ。この日をday 0とし、3日毎に腫瘍面積を測定した。個体差はあるものの、6日目から腫瘍面積の増大が観察され、30日を過ぎた頃からマウスが死亡した(図10)。次に、本腫瘍モデルを用いシュクシャによるアジュバント効果を検討することにした。
【0060】
3−3.シュクシャによるアジュバント効果の検討−Vaccine Protocol−
これまでの検討と同様に、C57BL/6マウスよりBM-DCを調製した。無処置群(EG7)、ペプチド無添加・樹状細胞群(DC)、ペプチド添加・無刺激樹状細胞群(DC+SIINFEKL)、ペプチド添加・LPS添加樹状細胞群(DC+LPS+SIINFEKL)、ペプチド添加・シュクシャ添加樹状細胞群(DC+Ax+SIINFEKL)の5群、各群5匹で検討を行った。BM-DC培養から6日目に培地中へシュクシャ 100 μg/mL、またはLPS 100 ng/mLを添加して18時間後、SIINFEKL 400 nMを添加した。そこから6時間後、BM-DCを回収し、マウス腹部皮下へ1×106 cell打ち込んだ。なお、無処置群はPBSを腹部皮下へ打ち込んだ。樹状細胞打ち込みから1週間後、EG7を5×105 cell背部皮下へ打ち込んだ。腫瘍打ち込みの日をday 0とし、3日毎に腫瘍面積を測定した。また、死亡した日を記録し、生存日数を測定した。実験プロトコールを図11に示す。
【0061】
無処置群と比べ、ペプチド無添加・樹状細胞群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかったが、ペプチド添加群では無処置群と比べ、全ての群で増殖抑制効果がみられた(図12)。また、ペプチド添加・無刺激樹状細胞群と比べ、ペプチド添加・LPS添加樹状細胞群、ペプチド添加・シュクシャ添加樹状細胞群は有意な腫瘍増殖抑制効果がみられた(図12)。生存日数は無処置群が最も短く、50日で全てのマウスが死亡した(図12)。ペプチド無添加・樹状細胞群、ペプチド添加・無刺激樹状細胞群はそれぞれ62日目、63日目に全てのマウスが死亡したが、ペプチド添加・LPS添加樹状細胞群では2匹のマウスが生存し続け、ペプチド添加・シュクシャ添加樹状細胞群では3匹のマウスが生存し続けた(図12)。
【0062】
3−4.シュクシャによるアジュバント効果の検討−Therapeutic Protocol−
3−3.では樹状細胞ワクチン効果を検討したが、次に腫瘍が増殖してからでも腫瘍の治療は可能であるか検討することにした。前節と同様の群数で検討を行った。今回はまず、マウス背部皮下へEG7を5×105 cell背部皮下へ打ち込んだ。そこから8日後、前節と同様に調製したBM-DCをマウス腹部皮下へ打ち込んだ。腫瘍打ち込みの日をday 0とし、2日毎に腫瘍面積を測定した。また、死亡した日を記録し、生存日数を測定した。実験プロトコールを図13に示す。
【0063】
無処置群と比べ、ペプチド無添加・樹状細胞群では腫瘍増殖抑制効果はみられなかった(図14)。また、ペプチド添加・無刺激樹状細胞群と比較して、ペプチド添加・LPS刺激樹状細胞群では増殖抑制効果がみられなかったが、ペプチド添加・シュクシャ添加樹状細胞群では有意な腫瘍増殖抑制効果がみられた(図14)。
【0064】
4.シュクシャによる作用の解析
腫瘍免疫モデルによる検討から、シュクシャにアジュバント効果が認められた。In vivoの検討から、LPS添加による腫瘍増殖抑制作用・生存日数延長作用よりもシュクシャ添加による作用が強い結果となった。そこで、樹状細胞に対するシュクシャの作用を解析するため検討を行った。
【0065】
4−1.抗原取り込み能への影響
樹状細胞は、未成熟状態では抗原を取り込む能力が高いが、成熟・活性化すると取り込む能力は低下することが知られている。そこで、抗原として蛍光標識(Alexa Fluor 488)されたdextranを用い、細胞内へ取り込まれた抗原をフローサイトメーターによって解析し、取込み能への影響を検討した。シュクシャ、またはLPSを添加し、3、6、12、24時間反応させたBM-DCを用いて検討を行った。dextran取り込みは時間依存的に低下がみられ、LPS添加では6〜12時間に最も低下したが、シュクシャ添加ではLPSよりも遅れて取り込み低下がみられた(図15)。また、無添加群の取り込みは24時間反応することで低下した(図15)。なおシュクシャまたはLPS添加細胞ともに、24時間反応を行った細胞は12時間反応を行った細胞よりも高い値であった(図15)。
【0066】
4−2.リンパ節移行への影響
前述のように、樹状細胞は末梢組織で抗原を捕捉すると、リンパ組織へと移行して抗原情報を提示する機能をもっている。腫瘍免疫において、アジュバントをパルスした樹状細胞はリンパ節へ移行して免疫応答を活性化するため、この過程は重要である。しかし、リンパ節へ移行するパルスした樹状細胞の割合はごく少数であることが明らかになっている。そこでシュクシャを添加した樹状細胞による、末梢組織からリンパ節への移行について検討を行った。
シュクシャ、またはLPSを添加して24時間反応したBM-DCを回収し、PKH67によって細胞膜を蛍光染色した。染色したBM-Dcをマウス腹部皮下へ打ち込み、24時間後にリンパ節を採取し、リンパ節中におけるPKH67で染色されたBM-DCの割合をFACSにより解析した。その結果、パルスを行わなかったBM-DCと比較してLPSまたはシュクシャをパルスしたBM-DCのリンパ節への移行割合は増加しており、さらにLPSよりもシュクシャをパルスしたBM-DCのほうがリンパ節への移行割合が多いことが明らかになった。
【表4】

BM-DCのリンパ節移行に対するAmomum xanthioides(シュクシャ)の作用。BM-DCをシュクシャ又はLPS存在下で24時間培養した後、細胞膜をPKH67で標識した。1×106個のPKH67標識BM-DCをマウスの腹部に皮下注射した。翌日、PKH67+移行BM-DCを解析するために、腋窩(axillary)、鼡径(inguinal)LNを回収し、PE結合抗CD11cモノクローナル抗体で染色しFACS解析を行った。結果を、CD11c+PKH67+細胞の割合で示す。
【0067】
4−3.NF-κB活性化への影響
樹状細胞は種々の刺激によって活性化し、その際活性化シグナルを核内へ伝達するが、その際、最も重要な経路がNF-κBの経路であることが明らかになっている。そこで、シュクシャ添加によるNF-κBの核内への移行への影響について検討を行った。
シュクシャ、またはLPSを添加し、0.5、1、3、6、12、24時間反応させたBM-DCを回収し、核タンパク質の抽出を行った。タンパク濃度を調整した後、NF-κB p65の核内タンパク濃度を測定した。LPS添加群では、0.5時間から1時間の反応時間でNF-κBの核内への移行が顕著にみられ、その後減少するものの24時間まで存在していた(図16)。シュクシャ添加群では1時間から移行がみられるものの、LPSの挙動とは異なっており、24時間の反応時間で核内への顕著な移行がみられた(図16)。
【0068】
4−4.考察
結果に示したようにシュクシャ添加により抗腫瘍効果が認められ、in vivoにおいてアジュバント作用をもつことが示された。また、腫瘍打ち込みの前に投与を行うことによるワクチン効果だけでなく、腫瘍を打ち込んだ後に投与を行うことにおいても治療効果を示したことは重要な知見だと考えられる。すなわち、遺伝情報の解明などによりテーラーメイド医療が整うことで、様々な疾患に対応できるようになれば、ワクチン療法の応用は可能となりうるかもしれないが、腫瘍が発見されてからでも効果を示すことは現在の医療への応用が可能であるためである。さらに、強力なアジュバントとして知られるLPSよりも抗腫瘍効果がみられたことはとても興味深い点である。では、なぜこのように強い抗腫瘍効果が誘導できたのであろうか、またシュクシャはどのように作用しているのだろうか。
【0069】
前述のように、樹状細胞の大きな特徴は、(1)末梢においては免疫監視細胞として働き、抗原捕食能をもつこと、(2)抗原を取り込むと活性化し、末梢組織からリンパ器官へと移動すること、(3)所属リンパ節において、抗原未感作なT細胞を含む免疫系細胞へ抗原情報を提示すること、である。外部から異物が侵入した場合、樹状細胞表面に発現するTLRやレクチンを介して免疫応答が誘導され、異物を除去する方向へ機能が働く。しかし、腫瘍は自己の細胞に由来するものであるので、TLRやレクチンなどのリガンドをもたず、樹状細胞に認識されない。そのため腫瘍に対する免疫応答はおこらず、腫瘍は除去されず分化・増殖を繰り返すことが可能となる。そこで腫瘍に対する免疫応答を起こすために、樹状細胞を生体外で成熟・活性化させ、腫瘍に対する強い免疫応答が起こるよう、人為的に誘導したものが樹状細胞による腫瘍免疫療法である(引用文献26)。現在、効率的な腫瘍免疫療法を行うための研究は盛んに行われており、治療の最適化に向けて考慮すべき点、問題点が幾つかある。一つは樹状細胞の状態であるが、未成熟な樹状細胞を投与しても強い腫瘍特異的なT細胞活性化はえられないだけでなく、免疫抑制性のT細胞を誘導することが明らかにされている(引用文献27)。また、成熟した樹状細胞のほうがリンパ節に効率よく移行することからも(引用文献28)、成熟・活性化した樹状細胞を投与すべきであると認識されている。次に樹状細胞の投与経路であるが、現在は皮下または皮内投与が最も一般的である。しかし投与された樹状細胞のうち、わずか2%程度しか所属リンパ節に移行しないことが報告されており、この問題を克服するためにリンパ節へ直接投与を行う方法の研究も行われている(引用文献29)。また、腫瘍免疫療法に限ることではない問題点でもあるが、腫瘍巣の周辺には制御性T細胞が存在することが報告されており、このT細胞により腫瘍に対する免疫応答を起こしにくくする環境が形成されている(引用文献30)。このように腫瘍免疫療法の効率化には、まだ多くの課題が残されているが、樹状細胞機能の詳細な機構や腫瘍による免疫抑制機構などが解明されることと並行して、発展していくことが期待される。
【0070】
In vivo腫瘍免疫モデルの検討を行う前に、OT-I T細胞との共培養によるT細胞活性化について検討した。ペプチド添加群のなかで、シュクシャ添加群ではLPS添加群と同等のT細胞活性化がみられ、無添加群と比較して有意な活性化作用が認められた。以前の検討において、T細胞活性化に重要な共刺激分子の一つであるCD80発現がシュクシャ添加BM-DCでは低いことが明らかになっているが、本検討におけるT細胞活性化には影響しなかった。CD86は活性化シグナルによって発現が誘導されるが、CD86と比較して、CD80は恒常的に発現がみられることが報告されている。そのため、T細胞活性化の際はCD86のほうが重要であると考えられており、今回の結果もそれを裏付けていると思われる。次に検討した腫瘍免疫モデルにおいて、打ち込んだ樹状細胞は、シュクシャまたはLPSを添加して24時間経過したものを用いた。樹状細胞の表面分子発現の検討から、24時間反応させることで両者とも樹状細胞を強く活性化することが明らかになっている。しかし、抗原取り込みについての検討、核内NF-κBの移行についての検討から、シュクシャはLPSよりも遅れて樹状細胞を活性化することが明らかになった。なお、抗原取り込みの検討において、12時間反応した群よりも24時間反応した群で取り込みの増加がみられたのは、LPSやシュクシャの刺激が新たな樹状細胞の分化を促進したことによると思われる。この際、シュクシャ添加群のほうがLPS添加群よりも取り込みの増加がみられたことについて、LPS添加群では12時間から24時間の間に新たに分化した樹状細胞も活性化したが、シュクシャ添加群ではLPSよりも遅れて活性化するため、新たに分化した樹状細胞の活性化が遅れたことによると考えられた。前述したように、樹状細胞は活性化することで特徴が大きく変化すること、樹状細胞の活性化は腫瘍免疫療法を効率的に行うために重要な要因であることからも、この活性化までの時間差が樹状細胞機能の変化に関係し、抗腫瘍効果に影響しているかもしれない。また、シュクシャまたはLPSを反応させた樹状細胞を蛍光標識しリンパ節へ移行する割合を検討すると、無添加またはLPS添加細胞と比較してシュクシャ添加細胞のほうが高い割合でリンパ節へ移行しており、この作用は抗腫瘍効果の誘導に有利に働いた理由の一つと考えられた。つまり、シュクシャ添加樹状細胞はLPS添加樹状細胞よりも遅れて活性化することでリンパ節へ移行する細胞数が多くなり、T細胞活性化の割合が増加し、LPSよりも強い抗腫瘍効果がえられたのかもしれない。
【0071】
アジュバント作用をもつものは、これまでに報告されている限り、TLRを介した作用によるものばかりである。TLRはマクロファージや樹状細胞により誘導される自然免疫システムに重要な役割を担っていることが明らかになっている膜タンパク質であり、このレセプターは、種々の微生物成分を認識し、抗原提示細胞内のシグナル伝達経路を活性化して自然免疫応答を活性化する。このシグナル伝達経路のなかでも最も主要の経路であるのがNF-κBを介した経路であり、活性化シグナルによってNF-κBは核内へ移行し、サイトカイン産生などに関与する(引用文献31)。本検討で、核内に移行したNF-κB p65タンパクを測定したところ、LPS刺激では0.5〜1時間で核内への移行が強くみられたが、シュクシャ刺激では24時間で核内への移行が強くみられた。LPSはTLR4のリガンドであることが明らかにされていることから(引用文献32)、TLR4を介した活性化シグナルが伝達された結果、即時的に核内への移行が観察されたものと考えられるが、シュクシャによるNF-κB活性化は即時的なものでないことから、シュクシャそのものはTLRを介さないことが考えられた。シュクシャの作用はNF-κB以外のシグナルを介することで、そのシグナルから産生されたサイトカインなどの情報伝達物質がオートクラインによる2次的なNF-κBの活性化を引き起こしている可能性や、樹状細胞から産生される代謝酵素や活性酸素によって活性型に変化し、NF-κBの活性化を引き起こしている可能性などが考えられるものの、12時間 反応した際の抗原取り込みはLPSとシュクシャは同程度であるにも関わらず、シュクシャによるNF-κB活性化はおこっていないことをふまえて考えると、シュクシャによるNF-κB活性化は2次的なものである可能性が高いのではないだろうか。これまでにこのような作用を示す類似の報告はなく、本研究から得られた内容は大変興味深い。
【0072】
5.まとめ
(1)厚生労働省承認漢方方剤210処方に主に配合される生薬100種のうち、XS106細胞に対して強い細胞毒性を示したものはカンキョウ、キョウカツ、ボウフウ、モッコウ、リョウキョウであった。
(2)スクリーニングの指標としたMHC class II分子の発現を強く亢進した生薬はシュクシャ(縮砂)、チョレイ(猪苓)、シャゼンシ(車前子)であり、特にシュクシャは100μg/mLの濃度でXS106細胞、BM-DC両細胞のMHC class II、CD86発現をLPS(100ng/mL)と同等に亢進し、さらにBM-DC培養上清からのIL-12p70産生を顕著に誘導した。
(3)シュクシャによる樹状細胞の活性化はLPSの混入によるものではなく、シュクシャエキス中にアジュバント活性成分が存在することが示唆された。
(4)シュクシャを添加した樹状細胞により、有意にT細胞を活性化することが明らかになった。また、EG7を用いたin vivo腫瘍免疫モデルの検討から、シュクシャと抗原ペプチドを添加した樹状細胞によって有意な腫瘍増殖抑制、生存延長効果がみられた。
(5)シュクシャを添加した樹状細胞では、抗原取り込み能がLPSよりも遅れて低下することが明らかになった。また、シュクシャを24時間反応させた樹状細胞を打ち込んだところ、LPSを反応させたものよりもリンパ節へ移行する割合が高くなることが明らかになった。さらに、シュクシャによるNF-κB活性化は、LPSと比較して大きく遅れることが明らかになった。
(6)以上より、シュクシャは樹状細胞機能を修飾することが示され、これまで報告のなかった新しい知見がえられた。また、樹状細胞機能を修飾するものの探索に本スクリーニング系の有効性が確立できた。
【0073】
6.実験材料及び実験方法
6−1.生薬による樹状細胞表面分子の発現変動の検討(上記1.)に使用した材料、方法などは次の通りである。
・使用生薬一覧
使用した生薬を図17、18に示す。生薬は全て株式会社ツムラ(東京、日本)のものを使用した。
【0074】
・生薬エキスの作製
厚生労働省承認漢方方剤210処方に主に配合される100種類の生薬を使用した。各生薬に対して10倍量の70%EtOHを溶媒に用い、24時間遮光冷浸抽出した。この行程を3日繰り返したものを抽出液とした。
次に抽出液を減圧下で濃縮乾固し、さらにH2Oに溶解したものを凍結乾燥した。この乾燥エキスをDMSOに100mg/mLになるよう溶解し、分注したエキスを凍結保存した。
【0075】
・HPLC分析条件
サンプル調製法:生薬エキスをH2O 1mLまたはMeOH 1 mLに溶解し、15,000rpmで10分間遠心を行った。上清を0.45μmメンブランフィルター処理し、サンプルとした。
カラム:TSK-GEL ODS-80TS(Φ4.6 mm×250 mm)(TOSOH)
移動相:A液 50 mM AcOH-AcONH4 Buffer、B液 CH3CN
測定モード:リニアグラジエント(A液90%、B液10%からA液0%、B液100%へのリニアグラジエント(60分間))
カラム温度:40℃
流速:1.0 mL/min
測定波長:200-400 nm
分析システム構成:送液ポンプ LC-10ADVP(SHIMADZU)
検出器 SPD-M10AVP(SHIMADZU)
解析ソフトウェア CLASS LC-10Ver 1.62(SHIMADZU)
【0076】
・XS106細胞培養
Culture medium:RPMI1640(SIGMA)with 10%FCS(GIBCO)
50mM Hepes buffer(SIGMA)
5mM SODIUM PYRUVATE(SIGMA)
0.5mM MEM non-essential amino acids solution(GIBCO)
5×Antibiotic-antimycotic(GIBCOBRL)
10mL NS47 supernatent
0.5ng/mL rmGM-CSF(Prospec)
【0077】
・NS47細胞培養
Culture medium:RPMI1640(SIGMA)with 10%FCS(GIBCO)
50mM Hepes buffer(SIGMA)
5mM SODIUM PYRUVATE(SIGMA)
0.5mM MEM non-essential amino acids solution(GIBCO)
5×Antibiotic-antimycotic(GIBCOBRL)
尚、以下ではこの調製培地をcomplete-RPMI(c-RPMI)mediumとして表記した。
【0078】
・細胞数の計測(Cell Count)
培養細胞はCO2インキュベーター内37℃、5% CO2濃度の条件で、10mLフラスコ(Nunc)を用いて培養した。
(1)10mLフラスコを軽く振とうし、浮遊してきた細胞を含む培地を10mLピペットで15 mLチューブ(Greiner)に回収し、1,500rpm、4℃で10分間遠心した。
(2)遠心後、上清を吸い取り、沈殿した細胞を2%FCSを含むPBS 10mLに懸濁した。そこから100μL吸い取り、trypan blue(GIBCO)を100μL添加し全量200μLに調製した。
(3)血球計算板に適量を滴下し、細胞数を計測した。
【0079】
・Cell viabilityの測定(XTT assay)
測定にはXTT assay kit(Roche)を用いた。
(1)100 mg/mLで凍結保存されている生薬エキスを2μg/mL、20μg/mL、200μg/mLになるよう希釈し、96wellフラットプレート(Falcon)に各50μLずつ添加した(finalの濃度はそれぞれ1μg/mL、10μg/mL、100μg/mL)。一濃度につき6well使用した。
(2)XS106細胞を4×105cell/mLに調製し、6wellのうち3wellに細胞調製液を50μLずつ添加した。細胞を添加しなかったwellは、生薬エキスの吸光度への影響を除外する為に用いた。
(3)CO2インキュベーター内で24時間培養し、XTT試薬(XTT標識試薬5mL :電子カップリング試薬100μL)を50μL/wellずつ添加しCO2インキュベーター内で3時間反応させた。
(4)マイクロプレートリーダー(SPECTRA MAX 340:Molecular Devices)を用い480 nmの吸光度波長を測定し、viabilityを以下の方法で算出した。
【数1】

【0080】
・フローサイトメトリー FACScan(BD)
(1)80〜90%コンフルエントになったXS106細胞を回収し、最終濃度が2×105 cell/wellになるよう24wellフラットプレートに添加した。生薬エキス 10μg/mLまたはLPS 100 ng/mLになるよう添加し、24時間反応した。
(2)群ごとに細胞を回収し、FACSチューブへ移した。1,800rpm、4℃で10分間遠心後、各チューブの液量が300μLになるよう上清を吸引除去した。
(3)再び1,800rpm、4℃で10分間遠心後、各チューブの液量が300μLになるよう上清を吸引除去した。
(4)100倍に希釈した抗体を各チューブへ100μL添加し、冷暗所で40分間放置した。
(5)PBS w/ 2%FCSを各チューブへ600μL添加し、1,800rpm、4℃で10分間遠心後上清を吸引除去した。
(6)この操作をもう一度行い、上清を吸引除去してPBS w/ 2%FCSを200μL添加したものをサンプルとして、フローサイトメーター(FACScan)で解析を行った。
【0081】
6−2.生薬エキスによるBM-DCへの影響の検討(上記2.)に使用した材料、方法などは次の通りである。
・BM-DC細胞培養
Culture medium:RPMI1640(SIGMA)with 10%FCS(GIBCO)
50 mM Hepes buffer(SIGMA)
5 mM SODIUM PYRUVATE(SIGMA)
0.5 mM MEM non-essential amino acids solution(GIBCO)
5× Antibiotic-antimycotic(GIBCOBRL)
10 ng/mL rmGM-CSF(Prospec)
【0082】
・BM-DCの調製
使用動物:Female C57BL/6j マウス(6〜10 weeks)
(1)マウスを頸椎脱臼により屠殺し、両脚の筋組織を取り除き大腿骨、頚骨を採取し6cm dish(Falcon)へ移した。
(2)はさみで骨の両端を切り取り、1mLシリンジ(TERUMO)、26G注射針(NIPRO)を用い、骨髄中へRPMI1640 medium 3mLを流し込んで骨髄細胞を採取した。
(3)1,500rpm、4℃で10分間遠心後、c-RPMI mediumで洗浄し細胞計数を行った。
(4)再び1,500rpm、4℃で10分間遠心後、c-RPMI w/ 10 ng/mL GM-CSFの培地を用いて1×106 cell/mLになるよう細胞浮遊液を調製し、24wellフラットプレート(COSTAR)に細胞浮遊液を1mLずつ添加しCO2インキュベーター内で培養した。
(5)培養開始から2日おきにプレートを静かに揺らし、70%の培地を新しい培地に交換した。
(6)生薬エキスまたはLPSは培養開始から6日目に添加し、24時間反応させた。
(7)培養開始から7日後、樹状細胞が分化・増殖してくる。ピペッティングにより浮遊してくる細胞を回収しBM-DCとして用いた。
【0083】
・フローサイトメトリー FACScan(BD)
(1)BM-DC培養開始から6日目に生薬エキスまたはLPSを添加し、24時間反応した。
(2)分化したBM-DCはピペッティングにより浮遊してくる。この細胞を群ごとに15mLチューブへ回収した。
(3)1,500rpm、4℃で10分間遠心し、PBS w/ 2%FCSで洗浄し細胞計数を行った。
(4)同細胞数になるよう調製してFACSチューブへ分注し、1,800rpm、4℃で10分間遠心後、各チューブの液量が300μLになるよう上清を吸引除去した。
(5)100倍に希釈した抗体を各チューブへ100μL添加し、冷暗所で40分間放置した。
(6)PBS w/ 2%FCSを各チューブへ600μL添加し、1,800rpm、4℃で10分間遠心後上清を吸引除去した。
(7)この操作をもう一度行い、上清を吸引除去してPBS w/ 2%FCSを200μL添加したものをサンプルとして、フローサイトメーター(FACScan)で解析を行った。
【0084】
・使用抗体
【表5】

【0085】
・Cytokineの測定(ELISA:Enzyme Linked ImmunoSorbent Assay)
Cytokineの測定にはQuantikine Mキット(R&D systems)を用いた。使用する試薬は全て室温に戻しておいた。
(1)生薬エキスまたはLPSを24時間反応したプレートからBM-DC培養上清を採取した。
(2)添加測定するサンプル数のwellを枠にセットし、各wellへ希釈液(assay diluent)を50μL添加した。
(3)サンプル、検量線をとる為のstandardをそれぞれ50μL添加し、sealingして2時間、室温で放置した。
(4)Wash bufferをwellへ添加して除去する行程を5回繰り返した。
(5)Wash bufferを完全に除去した後、cytokine conjugateを100μLずつ添加し、sealingして2時間、室温で放置した。
(6)Wash bufferによる洗浄、除去の行程を前回と同様に5回繰り返した。
(7)発色基質試薬(color reagent)を100μLずつ添加し、30分間以上、遮光室温で放置した。発色試薬は添加の直前に調製した。
(8)反応停止液(stop solution)を100μLずつ添加し、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度波長を測定した。
(9)検量線から各サンプルのcytokine産生を測定した。
【0086】
・Polymyxin Bの調製
Polymyxin B(SIGMA)粉末をculture medium 中に溶解し、最終濃度が5μg/mLになるように調製した。Polymyxin Bは生薬エキスとともに培地へ添加し、24時間インキュベーション後の表面抗原発現変動をフローサイトメトリーで解析した。
【0087】
6−3.シュクシャの腫瘍免疫への応用の検討(上記3.)に使用した材料、方法などは次の通りである。
・OT-I T cell activation assay
A:OT-I T cellの調製
OT-I T cellの調製には、auto MACS(magnetic cell sorting)システムとCD8+ T cell isolation kit(Miltenyi Biotec)を用いた。
(1)OT-I マウス脾臓細胞の細胞計数を行い、1×108 cell/400μLに調製した。
(2)Biotin-antibody cocktailを100μL添加し、冷所で10分間反応した。
(3)PBS w/ 2% FCSを300μL、anti-biotin microbeadsを200μL添加し、冷所で15分間反応した。
(4)1,500rpm、4℃で10分間遠心後、上清を除き、500μLのPBS w/ 2% FCSで希釈した。
(5)Auto MACSシステムによりCD8+ T cellを回収し、細胞計数を行った。
B:BM-DCの調製
抗原ペプチドはOVA peptide257-264(257-264:SIINFEKL)を用いた。
(1)マウス骨髄細胞からBM-DCを調製し、培養開始から6日目にシュクシャエキス100μg/mLまたはLPS 100ng/mLを添加し培養した。
(2)シュクシャエキス添加から18時間後、SIINFEKL 400nMを添加した。
(3)エキス添加から24時間後、細胞を15mLチューブへ回収し、1,500rpm、4℃で10分間遠心した。
(4)PBSで希釈し、細胞計数を行った。
OT-I T cell 2×105 cells/well、BM-DC 4×104 cells/wellになるよう96wellフラットプレートに添加した。各wellの液量は200μLに調製した。48時間反応後、培養上清を回収し、ELISAによってIFN-γの産生を測定した。
【0088】
・EG7細胞培養
Culture medium:RPMI1640(SIGMA)with 10%FCS(GIBCO)
50mM Hepes buffer(SIGMA)
5mM SODIUM PYRUVATE(SIGMA)
0.5mM MEM non-essential amino acids solution(GIBCO)
5×Antibiotic-antimycotic(GIBCOBRL)
【0089】
・腫瘍免疫モデルの作製
使用動物:female C57BL/6 マウス(6〜10weeks)
腫瘍細胞:EG7(EL4 OVA-transfectant)
腫瘍抗原ペプチド:OVA peptide257-264(257-264:SIINFEKL)
(1)マウス骨髄細胞からBM-DCを調製し、培養開始から6日目にシュクシャエキス100μg/mLまたはLPS 100ng/mLを添加し培養した。
(2)シュクシャエキス添加から18時間後、SIINFEKL 400nMを添加した。
(3)エキス添加から24時間後、細胞を15mLチューブへ回収し、1,500rpm、4℃で10分間遠心した。
(4)PBSで希釈し、細胞計数を行った。
(5)再び1,500rpm、4℃で10分間遠心を行い、細胞数を調製し、PBSに懸濁させたものをサンプルとした。
(6)1mLシリンジ、26Gの針を用い、各サンプルをマウス腹部皮下へ打ち込んだ。
(7)初回の打ち込みから7日後、5×105 cell/miceのEG7を背部皮下へ打ち込み、この日をday 0としてその後の腫瘍増殖、生存日数を計測した。
【0090】
6−4.シュクシャによる作用の解析(上記4.)に使用した材料、方法などは次の通りである。
・Endocytosis assay
(1)ピペッティングによりBM-DCを群ごとにFACSチューブへ回収し、1,800rpm、4℃で10分間遠心した。
(2)上清を吸引除去して、RPMI1640 mediumで1mLに希釈し細胞計数を行った。
(3)1,800rpm、4℃で10分間遠心し、RPMI 1640 medium w/ 1% FCSで希釈して2×106 cell/mLに調製した。
(4)細胞浮遊液を96wellフラットプレートに100μLずつ添加し、CO2インキュベーター内で1時間放置した。
(5)Alexa fluor 488で標識されたdextran(Molecular Probes)を1mg/mLに調製し、各wellに100μL添加してCO2インキュベーター内で2時間放置した。
(6)ピペッティングにより細胞をFACSチューブへ回収して、1,800rpm、4℃で10分間遠心した。
(7)上清を吸引除去しPBSで洗浄し、再び1,800rpm、4℃で10分間遠心した。
(8)上清を吸引除去したものをサンプルとしてフローサイトメトリーで解析した。
【0091】
・Nuclear Protein の抽出
(1)ピペッティングによりBM-DCを群ごとに15mLチューブに回収し、1,500rpm、4℃で10分間遠心した。
(2)上清を吸引除去しPBSで洗浄し、再び1,500rpm、4℃で10分間遠心した。
(3)上清を吸引除去し、全量1mLになるようPBSを添加した。ピペッティングにより細胞を懸濁させ、1.5mLエッペンドルフチューブへ移した。
(4)15分間氷上で放置した後、10% nonidet P-40(片山化学)を50μL添加しピペッティングにより充分に混和した。
(5)卓上遠心機で30sec遠心して細胞を下へ落とした。
(6)上清を吸引除去した後、complete-lysis bufferを100μL添加してピペッティングにより細胞を溶解させた。
(7)30分間氷上に放置した後15,000rpm、4℃で10分間遠心して上清を回収した。この上清を核タンパク抽出液とし、分注してフリーザーに保存した。
【0092】
・タンパク濃度の定量
タンパク濃度の定量にはBCA protein assay キット(PIERCE)を用いた。
(1)試薬A:試薬Bを50:1の比率で混和した。
(2)作製した試薬を96 wellフラットプレートに200μLずつ添加した。
(3)検量線を作製するために、BSA(2mg/mL)を0〜5μLまで1μL間隔でwellに添加した。なお、液量を揃えるためにH20を10〜5μLずつ添加し、全量210μLにした。
(4)サンプルを溶解し、氷上に置いた。サンプルとH2Oの和が10μLになるようにwellへ添加した。発色の程度をみて全てのサンプルの添加量を決定した。
(5)サンプル添加後、37℃のオーブンへ入れ、0.5〜1時間発色させた。
(6)プレートリーダーにより595nmの吸光度を測定し、タンパク濃度を決定した。
【0093】
・Cell tracking assay
細胞の染色には、PKH67 green fluorescent cell linker kit(SIGMA)を用いた。細胞の染色を行う際、全て室温で反応を行った。
(1)BM-DC培養から6日目に、シュクシャエキス100μg/mLまたはLPS 100ng/mLを添加した。
(2)24時間反応後、細胞を回収し、1,500rpm、4℃で遠心・洗浄後細胞計数を行った。
(3)1×107 cellに調製し、RPMI1640で遠心した。
(4)0.5 mLのdiluent Cを添加し、ピペッティングにより細胞を懸濁した。
(5)1×10-3 Mで保存されているPKH67をDiluent Cで2×10-6 Mに調製した。
(6)調製したPKH67と細胞懸濁液を混和し、5分間反応した。
(7)等量のc-RPMIを添加し、反応を停止させた。
(8)遠心・洗浄を3回行った後、1×106 cells/100μLに細胞数を調製した。
(9)調製した細胞をC57BL/6マウス腹部皮下へ打ち込んだ。
(10)24時間後、マウスを屠殺し、リンパ節を採取した。
(11)採取したリンパ節をすりつぶし、15mLチューブ中でRPMI1640に懸濁させ、1,500rpm、4℃で遠心を行った。
(12)上清を除きRPMI1640に懸濁させ、メッシュに通して再び遠心を行った。
(13)FACSチューブへ移し、PI-cojugated anti-CD11c mAbを添加して30分間反応した。
(14)反応後、1,500rpm、4℃で遠心を2度行い、FACScaliburで解析した。
【0094】
・NF-κB assay
NF-κBの測定にはTransAM NF-κB p65キット(Active Motif)を用いた。
(1)BM-DCから核タンパク質抽出を行い、各サンプル濃度を揃えた。
(2)必要なwell数を枠にセットし、complete-binding bufferを30μL添加した。
(3)各サンプルを20mL添加した。positive controlにはHela cell extractを添加し、blankにはlysis bufferを添加した。
(4)sealingして1時間、室温で放置した。
(5)Wash bufferにより洗浄を3回行った後、NF-κB p65 antibodyを100μL添加し、1時間室温で放置した。
(6)Wash bufferにより洗浄を3回行った後、HRP antibodyを100μL添加し、1時間室温で放置した。この間に発色試薬を室温に戻しておいた。
(7)Wash bufferにより洗浄を4回行った後、発色試薬を100μL添加し、遮光して5〜10分間反応させた。
(8)反応停止試薬を100μL添加し、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。測定値はblankの吸光度を差し引いた値で検討した。
【0095】
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【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の未成熟樹状細胞活性化剤を使用することによって、細胞傷害性T細胞の誘導に有効な活性化樹状細胞を調製することができる。活性化樹状細胞は例えば、腫瘍に対する免疫療法においてその利用が図られる。一方、本発明の未成熟樹状細胞活性化剤を抗腫瘍作用及び/又はアジュバント作用を期待して生体に投与することも可能である。このように、本発明の未成熟樹状細胞活性化剤は腫瘍に対する予防又は治療薬としても利用され得る。
【0097】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】DMSO処理後のXS106細胞の生存率を示すグラフ。独立した三回の実験による平均細胞生存率±標準誤差で各データを示す。
【図2】LPS処理によるXS106細胞上のMHC class II発現を示す図。A)LPSはXS106細胞を活性化する。XS106細胞(2×105)を102ng/mLのLPSで24時間処理した。その後、XS106細胞をFITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験から得られた代表的なヒストグラムを示す。B)XS106細胞(2×105)を10-4〜102ng/mLのLPSで24時間処理した。その後、XS106細胞をFITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験より求めた平均蛍光強度±標準誤差で各データを示す。
【図3】99種類の生薬で処理した後のXS106細胞のMHC class II発現を示す図。厚生労働省承認漢方方剤である210処方に主に配合される生薬の中から99種類を選択し、スクリーニングに使用した。XS106細胞を生薬(10μg/mL)の存在下で24時間培養した後、FITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験より求めた平均活性±標準誤差で結果を示す。
【図4】選択した10種類の生薬が濃度依存的にMHC class II発現を増強することを示す図。XS106細胞(2×105)を1μg/mL、10μg/mL、及び100μg/mLの生薬で24時間処理した後、FITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験より求めた平均活性±標準誤差で結果を示す。*p<0.05、**p<0.01対 無添加群。
【図5】選択した5種類の生薬がXS106細胞上の共刺激分子に及ぼす効果を示す図。XS106細胞(2×105)をA)1μg/mL、10μg/mL、100μg/mL又はB)100μg/mLの生薬で24時間処理した後、A)FITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体、B)抗CD80及びCD86モノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験より求めた平均活性±標準誤差で結果を示す。*p<0.05、**p<0.01対 無添加群。
【図6】骨髄由来樹状細胞(BM-DC)のフローサイトメトリー解析。樹状細胞を、7〜10週齢のA)BALB/c、B)、C)C57BL/6メスマウスの骨髄より調製した。10nm/mLのGM-CSFを添加したc-RPMI培地中、1×106cells/wellとなるように24ウェルフラットプレートに骨髄細胞を播種した。A)緩やかな接着性を示す細胞を6日目に継代し、7日目、緩やかな接着を示す細胞であるBM-DCをFITC結合抗CD11cモノクローナル抗体で染色した後、FACS解析に供した。B),C)7日目、骨髄細胞から分化し、緩やかな接着性を示す細胞であるBM-DC及び顆粒球を含むと考えられる細胞集団を前方散乱光及び側方散乱光でゲートし、B)FITC結合抗CD11cモノクローナル抗体又はC)FITC結合Gr-1モノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験から得られた代表的なヒストグラムを示す。
【図7】選択された5種類の生薬で処理されたBM-DCにおける、細胞表面分子の発現及びサイトカインの産生を示す図。A)100μg/mLの生薬の存在下でBM-DCを24時間培養し、FITC結合抗MHC class II、CD80、及びCD86モノクローナル抗体で染色した後、FACS解析に供した。独立した三回の実験による平均蛍光強度±標準誤差で結果を示す。B)独立した三回の実験から得られた代表的なヒストグラム及びMFIを示す。C)生薬存在下で培養したBM-DCの培養上清中における分泌IL-12p70をELISAで測定した。独立した三回の実験より求めた平均濃度±標準誤差で結果を示す。*p<0.05、**p<0.01対 無添加群。
【図8】Amomum xanthioides(シュクシャ)によるBM-DCの活性化においてPolymyxin Bは影響しないことを示す図。100μg/mLのシュクシャ又は100ng/mLのLPSの存在下でBM-DCを24時間培養した後、FITC結合抗MHC class IIモノクローナル抗体で染色し、FACS解析に供した。独立した三回の実験より求めた平均濃蛍光強度±標準誤差で結果を示す。*p<0.05対 無添加群。
【図9】Amomum xanthioides(シュクシャ)のBM-DCに対するT細胞活性可能を示す図。シュクシャ又はLPSでBM-DCを24時間パルスした後、OVAペプチド257-264(SIINFEKL)で6時間パルスした。MACSを用いて、OT-I T細胞受容体トランスジェニックマウスの脾臓よりCD8+T細胞を単離した。BM-DC(4×104cell/well)及びT細胞(2×105cell/well)を96ウェルフラットプレートで48時間共培養した。ELISAでIFN-γの分泌を測定した。独立した三回の実験より求めた平均濃度±標準誤差で結果を示す。**p<0.01対 無添加群。
【図10】ナイーブマウスにおけるEG7腫瘍の成長を示す図。7〜8週齢C57BL/6メスマウスの背中にEG7腫瘍細胞(5×105)を皮下注射した。3日毎に腫瘍サイズを計測した。5匹のマウスの平均腫瘍サイズ±標準誤差で結果を示す。
【図11】シュクシャのアジュバント効果を調べるための実験プロトコール(ワクチン プロトコール)。
【図12】Amomum xanthioides(シュクシャ)及び腫瘍ペプチドをパルスしたBM-DCの腫瘍サイズ及びマウスの生存率に対する影響を示す図。BM-DCをシュクシャで24時間パルスした後、EG7ペプチド(SIINFEKL)で6時間パルスした。パルス処理後のBM-DC(1×106)をマウスの腹部に皮下免疫した。免疫1週後、マウスの背中にEG7腫瘍細胞(5×105)を皮下注射した。A)EG7腫瘍の拒絶。3日毎に腫瘍サイズを計測した。腫瘍が認められないマウスの数を各グラフの左上に示した。†:その時点でのマウスの死。B) Amomum xanthioides(シュクシャ)及び腫瘍ペプチドをパルスしたBM-DCの生存率を示す。生存したマウス/全マウス(n=5)(%)で結果を示す。
【図13】シュクシャによるアジュバント効果を調べるための実験プロトコール(治療プロトコール)。
【図14】Amomum xanthioides(シュクシャ)及び腫瘍ペプチドをパルスしたBM-DCの、腫瘍の成長に対する影響を示す図。シュクシャでBM-DCを24時間パルスした後、EG7ペプチド(SIINFEKL)で6時間パルスした。0日目にマウスの背中にEG7腫瘍細胞(5×105)を皮下注射した。腫瘍領域が10〜50mm3(8日目)に達した後、パルス処理後のBM-DC(1×106)をマウスの腹部に皮下注射した。5匹のマウスの平均腫瘍サイズ±標準誤差で結果を示す。*p<0.05、**p<0.01対 DC+ SIINFEKL(○)処理群。
【図15】BM-DCの取り込み能に対するAmomum xanthioides(シュクシャ)の影響を示す図。シュクシャ又はLPS存在下でBM−DCを3、6、12、24時間培養した。1mg/mLのAlexa Fluor(登録商標)488-デキストランでBM-DCを2時間処理した。独立した三回の実験より求めた平均蛍光強度±標準誤差で結果を示す。**p<0.01対 無添加群。
【図16】BM-DCにおけるNF-κB活性化に対するAmomum xanthioides(シュクシャ)の影響を示す図。シュクシャ又はLPS存在下でBM−DCを0、0.5、1、3、6、12、24時間培養した。BM-DCより核タンパク質を抽出し、NF-κBp65核タンパク質の濃度を調べた。代表的な結果を示す。
【図17】実験に使用した生薬一覧。
【図18】実験に使用した生薬一覧(図17の続き)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物を含有する、未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項2】
チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ及びシャゼンシからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項3】
チョレイ及びシュクシャからなる群より選択される一種又は二種の生薬又はその抽出物が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項4】
シュクシャ又はその抽出物が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項5】
前記抽出物が含水アルコール抽出物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項6】
前記アルコールがエタノールであることを特徴とする、請求項5に記載の未成熟樹状細胞活性化剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤を含有する食品。
【請求項8】
未成熟樹状細胞を、請求項1〜6のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤の存在下で培養するステップを含む、未成熟樹状細胞活性化法。
【請求項9】
前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原を取り込ませるステップを更に含むことを特徴とする、請求項8に記載の未成熟樹状細胞活性化法。
【請求項10】
前記ステップを、前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件下で実施することを特徴とする、請求項8に記載の未成熟樹状細胞活性化法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の未成熟樹状細胞活性化法によって得られる、腫瘍抗原を取り込んだ活性化樹状細胞と、リンパ球とを生体外で接触させるステップを含む、細胞傷害性T細胞誘導法。
【請求項12】
未成熟樹状細胞を、請求項1〜6のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤の存在下、且つ前記未成熟樹状細胞に腫瘍抗原が取り込まれる条件下、リンパ球と共培養するステップを含む、細胞傷害性T細胞誘導法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化剤、請求項8〜10のいずれかに記載の未成熟樹状細胞活性化法によって調製された活性化樹状細胞、又は請求項11若しくは12に記載の細胞傷害性T細胞誘導法によって調製された細胞傷害性T細胞を対象に投与するステップを含む、腫瘍の予防又は治療法。
【請求項14】
未成熟樹状細胞活性化剤を製造するための、活性化樹状細胞を調製するための、又は細胞傷害性T細胞を調製するための、チョレイ、シュクシャ、ハンゲ、ジコッピ、シャゼンシ、ゴボウシ、ショウマ、エンゴサク、サイシン及びケイガイからなる群より選択される一種又は二種以上の生薬又はその抽出物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−238559(P2007−238559A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66453(P2006−66453)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【Fターム(参考)】