条件付き複製ウイルスベクターおよびその用途
【課題】ウイルス感染の予防および治療的処置についての代替の方法の提供。
【解決手段】条件付き複製ウイルスベクター、そのようなベクターの製造、修飾、増殖および選択的パッケージング方法、並びに使用方法、そのようなベクターに適した特定のヌクレオチドおよびアミノ酸配列の単離された分子、そのようなベクターを含む医薬組成物および宿主細胞、薬剤をスクリーニングするためのそのような宿主細胞の使用。本法はウイルス感染、特にHIV感染の予防的および治療的処置を含み、したがって、ウイルスワクチンおよび癌、特にウイルスが病因の癌の治療にも向けられる。他の方法として、遺伝子治療および他の適用におけるそのような条件付き複製ウイルスベクターの使用が挙げられる。
【解決手段】条件付き複製ウイルスベクター、そのようなベクターの製造、修飾、増殖および選択的パッケージング方法、並びに使用方法、そのようなベクターに適した特定のヌクレオチドおよびアミノ酸配列の単離された分子、そのようなベクターを含む医薬組成物および宿主細胞、薬剤をスクリーニングするためのそのような宿主細胞の使用。本法はウイルス感染、特にHIV感染の予防的および治療的処置を含み、したがって、ウイルスワクチンおよび癌、特にウイルスが病因の癌の治療にも向けられる。他の方法として、遺伝子治療および他の適用におけるそのような条件付き複製ウイルスベクターの使用が挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、1995年11月28日に出願され、その後仮特許出願に変更された米国特許出願第08/563,459号に基づく優先権を主張するものであり、ここで言及することによってそのすべてが組み込まれる。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、条件付きで複製するウイルスベクター、そのようなベクターの作製、修飾、増殖および選択的パッケージング方法、そのようなベクターに適した特定の核酸およびアミノ酸配列を有する単離された分子、そのようなベクターを含む医薬組成物および宿主細胞、並びにそのようなベクターおよび宿主細胞の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因としてのヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見は、このウイルスの感染サイクルの根元的メカニズムおよびこのウイルスの病原についての過度の研究を助長している。このようなメカニズムに関する研究は、研究者らに、HIVだけでなく他のウイルスに対しても同様に有効な抗ウイルス剤の開発のためのターゲットを、絶えず数を増やしながら提供している。これらの抗ウイルス剤、特にHIVに対するものは、その作用機序によってグループに分類することができる。そのようなグループには、逆転写酵素阻害剤、ウイルスの細胞への侵入の競合物およびプロテアーゼ阻害剤、さらに、ここでは「遺伝的抗ウイルス剤」と称するより最近のグループが含まれる。
【0004】
一般に、各種の抗ウイルス剤はそれぞれ固有の利点と制限を有しており、特定の治療状況の緊急性に基づいて評価されなければならない。ジドブジン(3’−アジド−3’−デオキシチミジン、AZTとしても知られる)、プロテアーゼ阻害剤等のような抗ウイルス剤は、患者の身体の細胞に比較的容易に送達することができ、広く研究されている。ウイルスの感染サイクル中にある特定の因子をターゲッティングすると、そのような薬剤はHIVに対してあまり有効ではないことが分かっている。これは、第一には、HIVの系統が急速に変化し、単一の効果の位置を有する薬剤に対して耐性になるという事実による(非特許文献1)。したがって、HIVゲノムにおける遺伝的変異(variation )と急速な突然変異(mutation)の問題は、HIV感染を治療するための新たな抗ウイルス戦略を考えることを強いている。このような考え方に沿えば、遺伝的抗ウイルス剤は、細胞内で、多くの異なるレベルで働くので魅力的である。
【0005】
遺伝的抗ウイルス剤は、それらがウイルス感染から防御する標的細胞に分子的要素として導入されるという点で他の治療剤とは異なる(非特許文献2−3)。遺伝的抗ウイルス剤はいかなる遺伝的配列であってもよく、アンチセンス分子、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、インターフェロン、毒素、免疫原およびリボザイムが含まれるが、それらに限定されない。特にリボザイムは、HIV RNAを含む標的RNAを配列特異的なやり方で切断する遺伝的抗ウイルス剤である。リボザイムを介した標的RNAの切断の特異性は、HIV複製を含めたウイルス複製の治療的阻害剤としての、リボザイムの可能性のある使用を示唆する。ハンマーヘッドおよびヘアピン状のリボザイムのように、さまざまなタイプのリボザイムを抗HIV戦略において使用することができる(例えば、特許文献1−5)。ハンマーヘッドおよびヘアピンリボザイムはどちらも、GUC配列を含むいかなる標的RNAも切断するのに操作することができる(非特許文献4−7)。一般的にいって、ハンマーヘッドリボザイムは2種類の機能ドメイン、すなわち2つのハイブリダイゼーションドメインにフランキングされる保存された触媒ドメインを有する。ハイブリダイゼーションドメインは、GUC配列の周りの配列に結合し、触媒ドメインはRNA標的3’がGUC配列となるように切断する(非特許文献4、5、7)。
【0006】
組織培養細胞におけるHIVの増殖を阻害するのに、リボザイムが少なくとも部分的に有効であることが、多くの研究により確認されている(例えば、非特許文献8−14)。特に、Sarverら(非特許文献8)は、HIV gag遺伝子の転写領域内で切断するようにデザインされたハンマーヘッドリボザイム、すなわち抗−gag リボザイムがインビトロでHIV gag RNAを特異的に切断し得ることを実証した。さらに、抗−gag リボザイムを発現する細胞株をHIV−1で攻撃すると、50〜100倍のHIV複製阻害が観察された。同様に、Weerasinghe ら(非特許文献14)は、HIV−1 RNAのU5配列内で切断するようにデザインされたリボザイムをコードするレトロウイルスベクターが、それを形質導入した細胞に、それに続くHIVの攻撃に対してHIV耐性を付与することを示した。リボザイム発現を駆動するのに用いられるプロモーター系で測定すると、形質導入された細胞の異なるクローンは攻撃に対して異なるレベルの耐性を示したが、リボザイム発現細胞株のほとんどは、培養中に限られた時間の後、HIVの発現に負けた。
【0007】
nef 遺伝子(それは組織培養中でのウイルス複製に不可欠ではない)中にリボザイムが導入されたプロウイルスを組織培養細胞に形質導入することにより、野生型プロウイルスを形質導入された細胞と比較して、形質導入された細胞内で、ウイルス複製が100倍阻害されることが分かっている(例えば、非特許文献10、11)。同様に、U5ヘアピンリボザイムを含むベクターを形質導入され、HIVで攻撃されたT細胞において、ヘアピンリボザイムはHIV複製を阻害することが分かっている(非特許文献12)。他の研究により、tRNAプロモーターから発現するリボザイムを含むベクターもまた、種々のHIVの系統を阻害することが分かっている(非特許文献13)。
【0008】
HIV感染の細胞のターゲット(例えば、CD4+T細胞および単球マクロファージ)に対するリボザイムまたは他の遺伝的抗ウイルス剤の送達が、エイズの有効な遺伝的治療処置にとって主要なハードルとなっている。造血系(すなわち、HIV感染の初期ターゲット)の細胞をターゲッティングするための現在のアプローチは、分化の際に成熟T細胞を生じる前駆多機能幹細胞、あるいはまた、成熟CD4+Tリンパ球自身への治療遺伝子の導入を要する。しかしながら、幹細胞をインビトロで培養し、形質導入することは困難なので、該細胞のターゲッティングは問題がある。循環Tリンパ球は非常に広く散らばっているので、現在のベクター送達系を用いてはすべての標的細胞に到達させるのが困難であり、それ故、これらの細胞のターゲッティングもまた問題がある。さらに、マクロファージはウイルスが他の器官に拡がるための主要な貯蔵器であるから、それを細胞のターゲットとして考慮する必要がある。しかしながら、マクロファージは最終分化しており、それ故細胞分裂をしないので、それらはよく使用されるベクターで容易に形質導入されない。
【0009】
したがって、HIV治療に対する現在の有力なアプローチは、複製欠損ウイルスベクターとパッケージング(すなわち「ヘルパー」)細胞株(例えば、非特許文献15−20)を使用して、(HIV感染のような)ウイルス感染に鋭敏な細胞に、ウイルス複製を特異的に妨害するか、あるいは感染細胞の死を引き起こす外来遺伝子を導入することである(非特許文献15に総説)。そのような複製欠損ウイルスベクターは、目的の外来遺伝子に加えて、ウイルス複製には必要であるが、必須のウイルス蛋白質をコードする配列ではないシス活性化配列を含む。その結果、そのようなベクターはウイルス複製サイクルを完遂することができず、それを増殖させるために、ゲノム内にウイルス遺伝子を含みそれを構成的に発現するヘルパー細胞株が使用される。複製欠損ウイルスベクターをヘルパー細胞株に導入した後、ウイルス粒子の形成に必要な蛋白質が該ベクターにトランスに供給され、該蛋白質は、細胞をターゲッティングし且つそこでウイルス複製を妨害するかウイルス感染細胞に死を引き起こす遺伝子を発現することができるウイルス粒子の産生を指示する。
【0010】
このような複製欠損レトロウイルスベクターとしては、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、さらにはHIV遺伝子治療の臨床試験で使用されるレトロウイルスベクターが挙げられ、特にMoloney ネズミ白血病ウイルス(MuLV)として知られるマウスアンフォトロピックレトロウイルスベクターが挙げられる。これらの欠損ウイルスベクターは、CD4+細胞に抗HIVリボザイムのような遺伝的抗ウイルス剤を形質導入するのに使用されているが、成功の度合いはまちまちである(非特許文献8、11−14)。しかしながら、これらのベクターは、HIVの遺伝子治療への適用が固有に制限される。例えば、形質導入頻度が高いことがHIVの治療において特に重要であり、ここでベクターは稀少なCD34+前造血幹細胞または広く散らばった標的CD4+T細胞のいずれかに形質導入しなければならないが、そのほとんどは病気の臨床上の「潜伏」期の間にすでにHIVに感染している。しかしながら、MuLVベクターは高力価を得ることが難しく、それ故、結果として十分な形質導入が得られない。さらに、CD34+前造血幹細胞では、特に成熟Tリンパ球に分化した後では、形質導入されたDNAの長期発現が得られていない。さらに、欠損ウイルスベクターの使用は、生体外での遺伝子導入戦略(例えば、特許文献6)を必要とするが、それは高価で一般市民の負担できる限度を越える可能性がある。
【0011】
エイズの遺伝子治療的処置に現在利用できるベクターの使用に伴うこれらの欠点のために、研究者らは新たなウイルスベクターを探し出そうとしている。そのようなベクターの1つはHIV自身である。HIVベクターは感染能の研究(非特許文献21)およびCD4+細胞、特にCD4+HIV感染細胞への遺伝子(例えば自殺遺伝子)の導入に使用されている(例えば、非特許文献22−25)。これらの研究戦略は、HIVベクターをCD4+T細胞および単球細胞への遺伝子導入に使用するというものである。しかしながら、現在までのところ、これらのベクターはきわめて複雑である。さらに、これらのベクターの使用は、細胞内での組換えにより野生型のHIVを生じる危険を伴う。欠損ベクター配列とヘルパーウイルスの共トランスフェクション/共感染の結果、ウイルスゲノムの相同領域間で組換えが起こることが観察されている(非特許文献26)。観察されるインビトロでの相補は、同様の複製欠損HIVベクターがインビボでも組換わり得るので、すでに存在するHIV感染を悪化させるかもしれないことを示している。レトロウイルスは2つのRNAゲノムを1つのビリオン中にパッケージングするという事実から、研究者らは、レトロウイルスは相補および/または組換えによって起こるいかなる遺伝的欠損も回避するために、2つのウイルスRNAを担持していると提唱している(非特許文献26)。
【0012】
細胞内での組換え、それにより結果的に野生型HIVを生じる危険に加えて、HIVベクターは、該ウイルスベクターの病原性を増大させるインビボでの突然変異という付随的な危険を有する。このことからSarverら(非特許文献27)は、複製能力はあるが病原性のない第二世代組換えHIVベクターの開発について思索した。そのようなベクターは、広く用いられている非複製ベクター(すなわち、複製欠損ベクター)と比較して、患者の体内で複製し続け、そうして絶えず野生型HIVと拮抗するようにする。しかしながら、ここまでではそのようなベクターは利用できない。
【0013】
理想的には、感染した個体を処置する最良の機会は接種された時点、すなわちウイルスが宿主に感染すらする前である。しかしながら、個体の多くは、病気の臨床上の潜伏期になって初めてHIVに感染したことに気づくので、これを達成することは困難である。これに基づけば、抗ウイルス的妨害を最も必要とする段階は臨床上の潜伏期間である。この段階での治療は、ウイルスゲノムを担持するすでに感染した多数のCD4+リンパ球によって提示される攻撃に立ち向かうことを必要とする。HIVが不治のままであり、現在利用できる治療では不十分な処置しかできないという事実によって証明されるように、これは平凡な攻撃ではない。有効なワクチンは未だ出現せず、また、逆転写酵素やプロテアーゼの阻害剤は、組織培養においてはHIV複製を防ぐことが示されているが、インビボではウイルスが抵抗性を生じるために治療に失敗している。したがって、HIVの遺伝子治療は、2000年までに4000万人以上に達すると予想されるHIV感染個体の大多数について、ほとんど恩恵を与えていないだろう。
【0014】
上記の点を考慮すると、特にエイズや癌において、例えば、ある特定の病原体、特にウイルスに対する長期間のおよび永続性の免疫学的応答を生じることも、ますます重大になるだろう。複製能力はあるが病原性のないウイルスを使用した生弱毒化(LA)ワクチンが考慮されている(非特許文献28、29)。しかしながら、対応する野生型ウイルスとは1つ以上の遺伝子に欠失があることで異なる、そのような非病原性ウイルスは、(i) 抗原が持続しないので(LAウイルスは効率よく複製しないので)、防御的な免疫応答を誘導しないか、(ii)幼動物モデルにおいてLAウイルスが病気を引き起こす能力があることで立証されるように(非特許文献30)、LAウイルスは複製するが、他の病原性を有する可能性があるかのいずれかである。
【特許文献1】米国特許第5,144,019号
【特許文献2】米国特許第5,180,818号
【特許文献3】米国特許第5,272,262号
【特許文献4】国際公開第WO 94/01549号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO 93/23569号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5,399,346号
【非特許文献1】Richman, AIDS Res. and Hum. Retrovir., 8, 1065-1071 (1992)
【非特許文献2】Baltimore,Nature, 325, 395-396 (1988)
【非特許文献3】Dropulic'ら,Hum. Gene Ther., 5, 927-939 (1994)
【非特許文献4】Haseloffら,Nature, 334, 585-591 (1988)
【非特許文献5】Uhlenbeck,Nature, 334, 585 (1987)
【非特許文献6】Hampelら,Nuc. Acids Res., 18, 299-304 (1990)
【非特許文献7】Symons, Ann. Rev. Biochem., 61, 641-671 (1992)
【非特許文献8】Sarverら,Science, 247, 1222-1225 (1990)
【非特許文献9】Sarverら,NIH Res., 5, 63-67 (1993a)
【非特許文献10】Dropulicら,J. Virol., 66, 1432-1441 (1992)
【非特許文献11】Dropulicら,Methods: Comp. Meth. Enzymol., 5, 43-49 (1993)
【非特許文献12】Ojwangら,PNAS, 89, 10802-10806 (1992)
【非特許文献13】Yuら,PNAS,90, 6340-6344 (1993)
【非特許文献14】Weerasinghe ら,J. Virol., 65, 5531-5534 (1991)
【非特許文献15】Buchschacher, JAMA, 269(22), 2880-2886(1993)
【非特許文献16】Anderson,Science, 256, 808-813(1992)
【非特許文献17】Miller, Nature, 357, 455-460 (1992)
【非特許文献18】Mulligan,Science, 260, 926-931 (1993)
【非特許文献19】Friedmann, Science, 244, 1275-1281(1989)
【非特許文献20】Cournoyerら,Ann. Rev. Immunol., 11, 297-329 (1993)
【非特許文献21】Pageら,J.Virol., 64, 5270-5276(1990)
【非特許文献22】Buchschacherら,Hum. Gener. Ther., 3, 391-397 (1992)
【非特許文献23】Richardsonら,J. Virol., 67, 3997-4005(1993)
【非特許文献24】Carrollら,J. Virol, 68, 6047-6051(1994)
【非特許文献25】Parolin ら,J. Virol., 68, 3888-3895(1994)
【非特許文献26】Inoue ら,PNAS, 88, 2278-282 (1991)
【非特許文献27】Sarverら,AIDS Res. and Hum. Retrovir., 9, 483-487 (1993b)
【非特許文献28】Danielら,Science, 258, 1938-1941 (1992)
【非特許文献29】Desrosiers, AIDS Res. & Human Retrovir.,10, 331-332 (1994)
【非特許文献30】Babaら,Science, 267, 1823-1825 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記の理由により、特にエイズおよび癌において、ウイルス感染の予防および治療的処置の代替のモダリティーが依然として必要である。本発明は、条件付きで複製するベクターを提供することによって、そのような代替の方法を提供するものである。本発明はまた、そのようなベクターを使用することができるさらなる方法を提供する。本発明のこれらの、そして他の目的および本発明の利点、並びに本発明の付加的な特徴は、後記の詳細な説明から明確になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の簡単な要約
本発明は、そのベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力を有することを特徴とする条件付き複製ウイルスベクターを提供する。
【0017】
一実施態様において、該条件付き複製ウイルスベクターは、その存在、転写または翻訳が、複製を許容する宿主細胞内で、該ベクターが由来するウイルスに対応する野生株ウイルスよりも該ベクターに選択的に優位性を与える、少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0018】
条件付き複製ウイルスベクターの別の態様において、好ましくはレトロウイルスである該ベクターは、その存在、転写または翻訳が、該ベクターに感染した宿主細胞に、該ベクターが由来するウイルスに対応する野生株のウイルスに感染した細胞よりも選択的に優位性を与える、少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0019】
また、本発明により、条件付き複製ウイルスベクターおよび医薬上許容される担体を含む医薬組成物が提供される。さらに、条件付き複製ウイルスベクターを含む宿主細胞も提供される。また、DNAであれば、配列番号2,3,4,5,6,14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、RNAであれば、配列番号2,3,4,5,6,14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるヌクレオチド配列を含むベクターが、以下に示される通り、単離および精製された分子であるように提供される。同様に、リボザイムを有するベクターの生産方法、ベクターの修飾方法、並びにパッケージング細胞株なしに条件付き複製ベクターを増殖させ、選択的にパッケージングする方法が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の態様において、ウイルス感染について宿主細胞を治療的および予防的に処置する方法が提供される。そのような方法は、さらにヘルパー発現ベクター、細胞毒性のある薬剤、蛋白質/因子またはプロテアーゼ阻害剤/逆転写酵素阻害剤を適宜使用してもよい。
【0021】
さらにまた、別の態様においては、薬剤/因子と蛋白質間の相互作用を検出するための条件付き複製ベクターを含む宿主細胞の使用方法が提供される。そのような方法により、蛋白質の特性解析および所定の蛋白質に対する活性に関する薬剤/因子のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
好ましい態様の説明
本発明は、野生株ウイルスの複製を阻害する方法を提供する。該方法は、野生株ウイルスに感染し得る宿主、好ましくはそのような野生株ウイルスに実際に感染した宿主に、ベクター(すなわち、非病原性の条件付き複製(cr)ベクター)の複製を許容する宿主内でのみ増殖するベクターを接触させることを含む。
【0023】
以下にさらに記載されるように、該方法の特別の目的は、そのような非病原性の条件付き複製ベクターを有する宿主内での拮抗的感染を確立することである。一般に、本発明の条件付き複製ベクターは、野生型ウイルスと比較して、条件付き複製ベクターに複製に関する選択的な利点と幅を与える少なくとも1つの核酸配列、および/または野生型ウイルスを含む宿主細胞と比較して、条件付き複製ベクターを含む宿主細胞にウイルス粒子の増殖に関する選択的な利点を与える少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0024】
本発明の好ましい態様においては、該ベクターはHIV配列を含み、HIV感染の治療に使用される。すなわち、該ベクターまたは該ベクターを含む宿主細胞は、(1) 子ビリオンへのパッケージングに関して野生型HIVゲノムと比較して選択的な利点を有するcrHIVゲノムを提供する(すなわち、それらがどちらも存在する細胞内で)、および/または(2) 野生型ウイルスを産生する宿主細胞と比較すると、crHIVビリオンの産生に関して選択的な利点を有する、条件付き複製ベクター(ウイルス)を産生する宿主細胞を提供する少なくとも1つの核酸配列を含む。(本発明はこれに限定されないが)1つの方法は、野生型HIVゲノムを切断し得る1つ以上のリボザイムを有するcrHIVゲノムを供給することによって、パッケージングに関する選択的な利点を与えるというものである。
【0025】
野生型ウイルス
本発明によれば、「ウイルス」とは、蛋白質と核酸からなり、宿主細胞の遺伝装置を用いてウイルス核酸によって特定されるウイルス産物を生産する、感染性の病原体である。「核酸」とは、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状で、最も好ましくは、DNAまたはRNAのポリマーに組み込まれ得る合成、非天然または修飾されたヌクレオチドを含むDNAまたはRNAのポリマーを指す。DNAポリヌクレオチドは、好ましくはゲノミックまたはcDNA配列より構成される。
【0026】
「野生株ウイルス」とは、以下に記載されるようないかなる人為的変異も含まない株、すなわち、自然界から単離され得るあらゆるウイルスである。あるいは、野生株は、研究室内で培養されているが、他のいずれのウイルスの非存在下においても、なお自然界から単離されるような子ゲノムまたはビリオンを産生し得るあらゆるウイルスである。例えば、以下の実施例に記載されるpNL4−3HIV分子クローンは野生株である。
【0027】
一般に、本発明の方法は、好ましくはウイルス感染の結果生じるウイルス性疾患の処置に使用される。望ましくは、ウイルス(および以下で論じるようにベクター)はRNAウイルスであるが、DNAウイルスであってもよい。RNAウイルスは原核生物に感染し(例えば、バクテリオファージ)、さらに、哺乳動物、特にヒトを含む多くの真核生物にも感染する多様なグループである。少なくとも1つの科は遺伝的材料として二本鎖RNAを有するが、たいていのRNAウイルスはその遺伝的材料として一本鎖RNAを有する。RNAウイルスは3つの主要なグループ:プラス鎖ウイルス(すなわち、該ウイルスにより導入されたゲノムは蛋白質に翻訳され、その脱蛋白質された核酸は感染を開始するのに十分であるもの)、マイナス鎖ウイルス(すなわち、該ウイルスにより導入されたゲノムはメッセージセンスに相補的で、翻訳が起こり得る前にビリオンに付随した酵素によって転写されなければならないもの)および二本鎖RNAウイルスに分けられる。
【0028】
ここで用いられるように、RNAウイルスは、シンドビス様ウイルス(例えば、トガウイルス科、ブロモウイルス属、ククモウイルス属、トバモウイルス属、イラルウイルス属、トブラウイルス属およびポテックスウイルス属)ピコルナウイルス様ウイルス(例えば、ピコルナウイルス科、カリシウイルス科、コモウイルス属、ネポウイルス属およびポティウイルス属)、マイナス鎖ウイルス(例えば、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科およびアレナウイルス科)、二本鎖ウイルス(例えば、レオウイルス科およびビルナウイルス科)、フラビウイルス様ウイルス(例えば、フラビウイルス科およびペスチウイルス属、レトロウイルス様ウイルス(例えば、レトロウイルス科)、コロナウイルス科およびノダウイルス科を含むがそれに限定されない他のウイルス群を包含する。
【0029】
本発明の好適なRNAウイルスは、フラビウイルス科のウイルス、好ましくはフィロウイルス属のウイルス、特にマールブルグもしくはエボラウイルスである。好ましくは、フラビウイルス科のウイルスはフラビウイルス属のウイルス、例えば、黄熱ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、ロシオ(Rocio )ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス等である。
【0030】
ピコルナウイルス科のウイルスもまた好適であり、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)または非A非B型肝炎ウイルスが好ましい。
【0031】
別の好適なRNAウイルスは、レトロウイルス科のウイルス(すなわち、レトロウイルス)、特に、オンコウイルス亜科、スプーマウイルス亜科、スプーマウイルス属、レンチウイルス亜科およびレンチウイルス属の属もしくは亜科のウイルスである。オンコウイルス亜科のRNAウイルスは、望ましくはヒトTリンパ球指向性ウイルス1または2型(すなわち、HTLV−1またはHTLV−2)またはウシ白血病ウイルス(BLV)、トリ白血病−肉腫ウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)、トリ赤芽球症ウイルス(AEV)およびラウス随伴ウイルス(RAV;RAV−0〜RAV−50))、哺乳動物のCタイプウイルス(例えば、Moloney ネズミ白血病ウイルス(MuLV)、Harveyネズミ肉腫ウイルス(HaMSV)、Abelson ネズミ白血病ウイルス(A−MuLV)、AKR−MuLV、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、サル肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス(REV)、脾壊死ウイルス(SNV))、Bタイプウイルス(例えば、マウス乳癌ウイルス(MMTV))およびDタイプウイルス(例えば、Mason-Pfizerモンキーウイルス(MPMV)および「SAIDS」ウイルス)である。レンチウイルス亜科のRNAウイルスは、望ましくはヒト免疫不全ウイルス1または2型(すなわち、HIV−1またはHIV−2、HIV−1は以前リンパ節症随伴ウイルス3(HTLV−III )および後天性免疫不全症候群(AIDS)関連ウイルス(ARV)と呼ばれていた)、あるいは同定され、エイズまたはエイズ様疾患に付随する、HIV−1またはHIV−2に関連した別のウイルスである。「HIV」という頭字語または「エイズウイルス」もしくは「ヒト免疫不全ウイルス」という術語は、ここではこれらのHIVウイルス並びにHIV関連およびHIV随伴ウイルスを包括的に指すのに用いる。さらに、レンチウイルス亜科のRNAウイルスは、好ましくはヴィスナ/マエディ(Visna/maedi )ウイルス(例えば、ヒツジに感染するような)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシレンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)またはヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)である。
【0032】
本発明のウイルスとしてはDNAウイルスもまた望ましく、好ましくは、該DNAウイルスはエプスタイン−バールウイルス、アデノウイルス、ヘルペス単純ウイルス、パピローマウイルス、ワクシニアウイルス等である。
【0033】
これらのウイルスの多くは、最高の封じ込め設備がすべての研究室作業に要求される「生物安全性レベル4」(すなわち、世界保健機関(WHO)の「危険群4」の病原体に分類される。しかしながら、当業者はこれらのウイルスに対して必要な安全予防措置に精通しており、これを厳守することができる。
【0034】
「宿主細胞」はいかなる細胞であってもよいが、好ましくは真核細胞である。望ましくは、該宿主細胞は、リンパ球(例えばTリンパ球)またはマクロファージ(例えば単球性マクロファージ)、あるいはこれらの細胞のいずれかの前駆体である。該細胞は細胞表面上にCD4+の糖蛋白質を含むこと、すなわちCD4+であることが好ましい。しかしながら、エイズウイルスに感染したCD4+Tリンパ球はまだ活性化されていないことが望ましい(すなわち、以下にさらに論じるように、nef の発現がまだ起っていないことが好ましく、CD4遺伝子の発現が下向きに調節されていないことがよりいっそう好ましい)。さらに、宿主細胞は、CD4マーカーを欠くが、それでも本発明のウイルスに感染し得る細胞であることが好ましい。そのような細胞としては、星状膠細胞、皮膚線維芽細胞、腸上皮細胞等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、該宿主細胞は真核の多細胞腫のもの(例えば、単細胞の酵母細胞とは対照的な)、いっそう好ましくは哺乳動物、例えばヒト細胞である。細胞は単一で存在しても、あるいは細胞のより大きな集まりであってよい。そのような「細胞のより大きな集まり」としては、例えば、細胞培養(混合もしくは純粋の)、組織(例えば上皮または他の組織)、器官(例えば心臓、肺、肝臓、胆嚢、眼および他の器官)、器官系(例えば循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、皮膚系または他の器官系)または生物(例えば鳥、哺乳動物など)が含まれ得る。好ましくは、ターゲッティングされる器官/組織/細胞は、循環器系(例えば心臓、血管および血液を含むが、それらに限定されない)、呼吸器系(例えば鼻、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等)、消化器系(例えば口、咽頭、食道、胃、腸、唾液腺、膵臓、肝臓、胆嚢他)、泌尿器系(例えば腎臓、尿管、膀胱、尿道等のような)、神経系(例えば脳、および脊椎、および眼のような特殊な感覚器官を含むが、それらに限定されない)、並びに皮膚系(例えば皮膚)である。いっそう好ましくは、ターゲッティングされる細胞は、心臓、血管、肺、肝臓、胆嚢、膀胱および眼細胞からなる群より選択される。
【0035】
ベクター
「ベクター」は、パッセンジャー核酸配列(即ち、DNAまたはRNA)を宿主細胞内に運ぶ役目をする核酸分子(典型的にはDNAまたはRNA)である。3つの一般的なベクターのタイプには、プラスミド、ファージおよびウイルスが含まれる。好ましくはベクターはウイルスである。
【0036】
望ましくは、ベクターは人為的な突然変異を含むので、野生株ウイルスではない。従って、本明細書でさらに説明するように、該ベクターは通常遺伝子操作により(即ち、欠失により)条件付き複製ウイルスを含有するように野生株ウイルスから誘導される。最も望ましくは、ウイルスベクターは、治療すべき感染を起こす野生型ウイルス(好ましくは前記の野生型ウイルスの1つである)と同じタイプのウイルス株を含有する。従って、好ましくはベクターはRNAウイルス由来であり、より好ましくはベクターはレトロウイルス由来であり、最も好ましくはベクターはヒト免疫不全ウイルス由来である。このようなヒト免疫不全ウイルス由来のベクターを本明細書では一般的に「crHIV」ベクターという。
【0037】
ベクターはまた、好ましくは、「キメラベクター」、例えば、ウイルスベクターと他の配列との組み合わせ、例えば、HIV配列と他のウイルスとの組み合わせ(望ましくは、条件付き複製ベクターを含有するように野生株ウイルスから誘導された)である。特に、HIV配列は望ましくは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、シンドビスウイルスベクター、またはアンフォトロピックマウスレトロウイルスベクターの修飾された(即ち、非野生型)株に結合させることができる。
【0038】
ここで包含するように、ベクターはDNAまたはRNAのいずれを含有してもよい。例えば、DNAまたはRNAベクターのいずれもウイルスを誘導するのに使用することができる。同様に、cDNAコピーをウイルスRNAゲノムから作ることができる。あるいは、cDNA(またはウイルスゲノミックDNA)部分をインビトロで転写してRNAを産生することができる。これらの手法は当業者に周知であり、また後記の実施例においても説明する。
【0039】
「条件付き複製ベクター」は、特定の条件下でのみ欠損している複製欠損ウイルスである。特に、このウイルスは許容宿主細胞内ではその複製サイクルを完結させることができるが、制限宿主細胞内ではその複製サイクルを完結させることができない。「許容宿主細胞」は、野生株ウイルスに感染した宿主細胞である。そのような感染は本発明による条件付き複製ウイルスによる感染の前または後のいずれで起こってもよい。あるいは、「許容宿主細胞」は、ウイルス複製に必要な野生型ウイルス遺伝子産物をコードするものである。従って、本発明による条件付き複製ベクターは、野生株ウイルスによる相補のとき、または野生型ウイルスが条件付き複製ベクターゲノムを含有する細胞に感染したときにのみ複製するウイルス(好ましくは治療すべき感染と同じタイプのウイルスである)である。
【0040】
好ましい態様においては、ベクターはRNAウイルス(例えば、条件付き複製HIVウイルス)を含有し、それはDNAの形態で導入される。この好ましい態様は、病原性野生型HIVゲノムよりも非病原性crHIV−1ベクターゲノムに選択的に優位性を与える複製HIV−1(crHIV)ベクター戦略を提供する。具体的には、野生型HIVおよびcrHIVゲノムの両方を含有する細胞において、crHIV RNAはビリオンへのパッケージングに関して優位に選択される。なぜなら、crHIV RNAは、野生型RNAを切断するがcrHIV RNAを切断しない、例えばリボザイムを含有するからだ。このような非病原性crHIVは、野生型ヘルパーウイルスの存在下でHIV感染を受けやすい非感染細胞(例えば、CD4+細胞)に広がることが可能である。この方法により、crHIVの選択的パッケージングおよび広がりは野生型HIV複製を妨げる。
【0041】
特に、crHIVゲノムは感染細胞または非感染細胞内に導入される。感染細胞はエンキャプシデーションおよび子ビリオンの産生に必要な蛋白質をcrHIVゲノムに供給する。crHIVゲノムは、好ましくは、形質導入により直接的に(例えば、これはcrHIV DNAのリポソームを介した形質導入により、またはキメラウイルスベクターを用いることにより行うことができる)、または野生型HIV感染細胞のトランスフェクションにより生じるcrHIV粒子の感染のいずれかにより非感染細胞内に導入される。非感染細胞は独立ではcrHIV粒子を産生しない。しかしながら、さらにcrHIV粒子を産生するのに必要な蛋白質を供給する野生型ウイルスで重感染することができるようになる。この意味では、本発明による条件付き複製ベクターはまた、複数回のcrHIV感染(即ち、野生型HIVとの同時感染の存在下で)を起こし得る手段を提供する「ウイルス送達ベクター」のタイプとして機能する。2回以上のウイルス複製のためのウイルス源を提供するこのようなベクターは、パッケージング細胞株とともに使用されるような1回のみの複製を提供する他の現在採用されているベクターと対照的である。
【0042】
所望により(例えば、インビトロでのベクターの使用を容易にするために)、条件付き複製ベクターに感染した細胞に野生型ウイルス遺伝子産物を一緒に供給することができる。野生型ウイルス遺伝子産物は、野生株ウイルス(またはcDNAまたはRNAウイルスのプロウイルス)による共感染によるだけでなく、発現ベクター、例えば、ヘルパー発現ベクター(「ヘルパー」)(これは宿主細胞が配列(調節または構造配列)を転写または翻訳できるようにし得る)中のそれらのサブクローニングされた遺伝子の形態で細胞に供給することによっても供給することができ、あるいは遺伝子産物は外因的に、例えば、細胞に蛋白質産物を添加することにより供給することができる。「ヘルパー」に関して、その発現は細胞特異的であっても、または細胞に特異的でなくてもよく、それは本明細書で定義する条件付き複製ウイルスベクターと共に宿主細胞に導入することができ、これにより条件付き複製ウイルスベクターの継続的な複製を可能にする。
【0043】
ここで用いる「相補(complementation) 」とは、細胞中の異なるソースからのウイルス遺伝子産物の非遺伝子的相互作用をいう。具体的には、混合感染に伴い、相補は親のゲノムの遺伝子型を変化させずに維持すると同時に、片方または両方の親のゲノムのウイルス収率を増大させることを含む。相補は、非対立的(即ち、遺伝子間の−異なる機能を欠損する変異体が、他方のウイルスが欠損する機能を補うことによりウイルス複製において互いに助け合う)であっても、または対立的(即ち、遺伝子内の−二つの親が多量体蛋白質の異なるドメインにおいて欠損する)であってもよい。
【0044】
望ましくは、crHIV DNAで(即ち、リポソームにより、またはアデノウイルスベクターもしくはアンフォトロピックレトロウイルスベクターを用いることにより)トランスフェクションすることができる細胞のタイプは、HIV感染細胞でも非感染細胞のいずれでもよい。HIV感染細胞は活性化または非活性化することができる。もし活性化されるならば、野生型HIV RNAおよびcrHIV RNAを直ちに転写し、crHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。もしHIV非感染細胞が活性化されないならば、crHIV DNAは細胞が(例えば、マイトジェン、抗体などによる刺激によって)活性化されるまで細胞内に存在し、再びcrHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。crHIV DNAでトランスフェクションされた活性化および非活性化された非感染細胞は両方とも、野生型HIVで重感染されるまでビリオンを産生しないだろう。そして刺激により活性化されると、再びcrHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。
【0045】
crHIVゲノムを含有する細胞の重感染が(例えば、トランスフェクションまたは感染の結果として)起こる。なぜなら、crHIVゲノムは重感染を妨げるウイルス蛋白質(env やnef など)をコードしないからだ。生成したcrHIVビリオンは非感染細胞に感染し得る。なぜなら、ウイルス粒子は逆転写酵素分子を含有するからだ(全てのHIV粒子は、それらのゲノミックRNAからDNAプロウイルスを作り出すことができるように逆転写酵素分子を担持する)。このプロセスは逆転写と呼ばれる。いったん、crHIVビリオンが非感染細胞に感染すると、それらは逆転写を経てそれらのゲノミックRNAからプロウイルスを産生する。従って、これらの細胞は、crHIV DNAで直接形質導入された非感染細胞と等価である。これらの細胞は野生型HIVで重感染され活性化されるまでcrHIV粒子を産生することができないが、その後再びcrHIV RNAの子ビリオンへの選択的パッケージングが起こる。crHIV粒子はまた、すでにHIVに感染した幾つかの細胞にも感染することができる(例えば、Yunoki et al., Arch. Virol., 116, 143-158 (1991); Winslow et al., Virol., 196, 849-854 (1993); Chen et al., Nuc. Acids Res., 20, 4581-4589(1992); およびKim et al., AIDS Res. & Hum. Retrovir.,9, 875-882 (1993) 参照)。しかしながら、これが起こるためには、これらのHIV感染細胞はCD4発現を下向きに調節(down-regulate) する蛋白質を発現してはならない。なぜなら、この蛋白質はcrHIVビリオンがこれらの細胞に感染するのを防ぐと考えられるからだ。活性化されたHIV感染細胞は一般にCD4発現を下向きに調節する。従って、活性化されていないHIV感染細胞は潜在的にcrHIVによる重感染を受けやすい。従って、crHIV粒子産生のもう一つのソースになり得る。
【0046】
本発明による好ましいcrHIVベクターにおいて、ベクターはRNA転写、tRNAプライマー結合、二量化およびパッケージングに必要な配列を含有し、且つ、野生型HIVによる重感染を妨げる蛋白質(例えば、nef またはenv 蛋白質)をコードする配列を欠くか、またはそのような配列を含有するがそれは転写されないかもしくは機能蛋白質に翻訳されないかであり、その発現が「サイレント」と考えられるかのいずれかである。より好ましくは、ベクターはgag コード配列内からnef 遺伝子まで(nef 遺伝子を含む)の野生型HIVの領域またはその領域をコードする配列を欠く。しかしながら、最も好ましくは、ベクターはrev 応答エレメント(RRE)を含有し、このRREは欠失の領域または他の適当な領域内でベクターにクローンニングされる。このような好ましいHIVベクターは、前記のようにそのRNA発現の形態で、または代わりにDNAとして投与され得るので、「領域またはその領域をコードする配列を欠く」と呼ばれる。
【0047】
ベクターの構築は当業者に周知である。例えば、実施例1に記載するように、HIVのようなRNAウイルスのDNA発現を制限酵素を用いて切断し、HIVコード配列のgag コード領域内からnef 遺伝子に続くU3領域内までを切除する。多制限部位を含有するポリリンカーを含むクローニングカセットを、ライゲーションの前に欠失の領域に挿入し、クローニングに適当な制限部位をベクターに与える。RREを含有するDNA断片をこれらの部位の一つにサブクローニングする。得られたベクターは切端(truncated) gag 転写産物を産生し、野生型Gag蛋白質または他のいかなる野生型HIV蛋白質も産生しない。さらに、gag 翻訳開始配列はその翻訳を防止するように変異させることができるので、ベクターは切端gag 蛋白質さえも発現する必要がない。
【0048】
キメラベクターを誘導するために、同じアプローチを用いて、crHIV配列を、ウイルスや他のベクターの配列のような他の配列に結合させることが出来る。例えばcrHIV配列は、crHIV配列の送達をするために用いられ得るようなウイルスの少数の例を挙げれば、シンドビスウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルスまたはアンフォトロピックウイルスの配列に連結させることが出来る。このようなキメラベクターで、連接したウイルスの細胞侵入のための機構(例えば、アデノウイルスのレセプターを介したエンドサイトーシス)またはその他の方法、例えば、リポソームを用いて、ベクターを細胞の中に導入することが可能である。
【0049】
好ましくは、本発明に従って、ベクター(つまり、条件付き複製ウイルス、好ましくはcrHIVベクター)は少なくとも一つの核酸配列を含んでおり、その配列の所有(つまり、存在、転写または翻訳)は選択的に優位性を与えている。ベクターへの組み込み用にもくろまれている、そのような核酸配列には2つの型がある。(1)その配列の所有が最適には、ウイルスの複製を選択的に有利にし、野生株ウイルス(つまり、好ましくは、ベクターが誘導された株でかつその配列を含まないような野生株)に、そのような配列を含むベクターを広げるようなある核酸配列、および(2)その配列の所有が、野生株ウイルス(つまり、好ましくは、ベクターが誘導された野生株(かつまた、例えば、感染していない宿主細胞でのベクターの複製および/または機能を促進するヘルパー発現ベクター)で、かつその配列を含まないような野生株)に感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞に、最適には、選択的に優位性をもたらすような核酸配列で、その優位性は、望まれる予防的、治療的または生物学的結果を達成するために、次のようなことによって与えられる。例えば、細胞の生存を促進すること、ベクター粒子の産生および/または増殖を促進すること、crHIVベクター産生細胞からcrHIVベクター粒子の産生を促進すること、アポトーシスを誘導すること、蛋白合成を促進すること、または免疫機能もしくはターゲッティングを高めることによってである。これらの配列のそれぞれ、または、これらの配列のそれぞれの複数の存在、つまり、その配列はそれだけで、または、他の因子と組み合わせて、好ましい予防、治療および/または生物学的結果を可能にするために、ベクターの増殖を促進し、および/または宿主細胞の特定の機能を促進する。その配列は、その他の配列の非存在下または存在下のどちらでも、ベクターに組みこむことができる。つまり、ベクターは「少なくとも一つの核酸配列」および「少なくとも一つの付加的な核酸配列」を含むことができる。
【0050】
「核酸」は以前に説明されているとおりである。「核酸配列」は特に、どんな大きさの可能性もある(つまり、ベクターによって課されたパッケージングの制約にもちろん制限されている)遺伝子またはコード配列(つまり、DNAまたはRNA)であり、その所有がここでさらに定義されるように、選択的に優位性を与えている。「遺伝子」とは(その配列が転写および/または翻訳されるかどうかに関わらず)蛋白をコードする核酸配列または初期mRNA分子である。遺伝子は非コード配列(例えば、制御配列)と同様にコード配列を含んでいるが、コード配列は非コードのDNAを全く含まない。
【0051】
1.その配列の所有が、野生株ウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、宿主細胞内で選択的に優位性を与えるような核酸配列。
ある核酸配列は、それを有することで、野生株ウイルスよりも、宿主細胞内でベクターに選択的に優位性を与える配列で、好ましくは、野生型ウイルスから増殖したウイルス粒子に比べて、ベクターから増殖したウイルス粒子が選択的に産生され、パッケージされることを許容する配列である。そのような配列は、野生型のゲノムに比べて、細胞内で産生されるベクターのゲノムの数の増加をもたらすような配列および抗ウイルス核酸配列を含むが、それらに限定されない。
【0052】
野生株ウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、宿主細胞内で選択的に優位性を与えるような核酸配列の第1のカテゴリーは、プロモーターのような配列である。「プロモーター」とはRNAポリメラーゼの結合およびそれによるRNA合成の促進を指示するような配列で、1つまたはそれ以上のエンハンサーを含んでいる。「エンハンサー」とはシス活性化因子であり、隣接する遺伝子の転写を促進または阻害する。転写を阻害するエンハンサーは「サイレンサー」とも呼ばれている。エンハンサーは、どちらの方向でも数キロ塩基対(kb) までの距離を越えて、転写領域の下流位置からでさえも機能することができる点で、プロモーターの中だけに見出されている配列特異的DNA結合蛋白のDNA結合部位(プロモーター因子とも呼ばれている)とは、異なっている。
【0053】
従って、好ましくは、条件付き複製HIVベクターのプロモーター(つまり、ロングターミナルリピート(LTR))は修飾されて、そのベクターは野生株HIVよりもある種のサイトカインに対してより反応性が高くなっている。例えば、インターロイキン−2の存在下で転写活性の増加を示す修飾されたHIVプロモーターが利用可能である。このプロモーターのベクターへの組み込み、および野生型のHIVに感染した細胞へのベクターの導入は好ましくは、ベクターゲノムからの子粒子の産生およびパッケージングを野生型HIVゲノムよりも増加させる結果になる。その他のサイトカインおよび/またはケモカイン(例えば、腫瘍壊死因子α、RANTESなどのようなものを含むがこれらには限定されない)は同様に、ベクターにコードされているウイルス粒子の選択的なパッケージングを促進するために用いられ得る。
【0054】
野生型株のウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、選択的に優位性を与えるような核酸配列の第2のカテゴリーには、好ましい核酸配列として、抗ウイルス核酸配列が含まれる。「抗ウイルス剤」は例えば、逆転写酵素阻害剤、ウイルスの細胞侵入阻害剤、ワクチン、プロテアーゼインヒビターおよび遺伝学的抗ウイルス剤といった作用機作によって分類される。「遺伝学的抗ウイルス剤」とは細胞に導入されてそれらの細胞内標的に直接的に(つまり、細胞内に導入される)またはRNAまたは蛋白に変換された後に(Dropuli et al(1994) 上述に総説)影響を及ぼすDNAまたはRNAである。遺伝学的抗ウイルス配列も好ましい核酸配列である。遺伝学的抗ウイルス剤には、アンチセンス分子、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、毒素、免疫原、およびリボザイムが含まれるがこれらに限定されない。望ましくは、遺伝学的抗ウイルス剤とは、アンチセンス分子、免疫原、およびリボザイムである。従って、野生株ウイルスよりもベクターに、選択的に優位性を与える好ましい核酸配列は、アンチセンス分子、免疫原、およびリボザイムからなる群から選択される遺伝学的抗ウイルス剤である。
【0055】
「アンチセンス分子」とは、発現がブロックされることになっている遺伝子の短い分節を鏡として写す分子である。HIVに対して向けられたアンチセンス分子は野生型HIVのRNAにハイブリダイズし、細胞のヌクレアーゼによる優先的な分解を許す。アンチセンス分子は、好ましくは、DNAオリゴヌクレオチドであり、望ましくは、約20から約200塩基対の長さで、好ましくは、約20から約50塩基対の長さで、最適には、25塩基対未満の長さである。アンチセンス分子は、野生型ゲノムRNAに優先的に結合し、従ってcrHIV RNAに子粒子へのパッケージングに関して選択的に優位性をもたらすcrHIV RNAから発現されることができる。
【0056】
「免疫原」とは、ウイルスの構造蛋白に対する一本鎖の抗体(scAb)である。免疫原は核酸として導入され、細胞内で発現される。同様に、免疫原はどんな抗原、表面蛋白(クラスで制限されているものも含む)または抗体でもよく、免疫原は、ベクターおよび/または宿主細胞の選択を促進する。好ましいベクターでは、核酸配列は、野生型HIV Rev蛋白に結合するscAbを含んでいる。これは小胞体内にとどまるという結果によって、好ましくは、Rev蛋白の成熟化を阻止する。詳しく述べると、Rev蛋白は、RREに結合し、それから、HIV RNAを取り巻くためにオリゴマー化することによって、スプライスされていないHIV RNAを細胞質に輸送する。Revと複合体を形成するHIV RNAは細胞質に輸送され、細胞のスプライシング機構を回避する。このようにして、野生型のRevが野生型のRREに結合しないならば、野生型のHIV RNAは細胞質に輸送されず、子粒子にエンキャプシデーションされない。
【0057】
最適には、scAb核酸配列を含むベクターは修飾されたRRE配列をさらに含んでいて、修飾されたRREは認識するが、野生型のものは認識しない変異Rev蛋白をコードしている。従って、野生型HIVおよびscAb核酸配列を含むベクターを含有している細胞において、ベクターは粒子に優先的にパッケージされる。野生型HIVマトリックスまたはヌクレオキャプシドの蛋白(つまり、またはウイルスRNAのエンキャプシデーションに影響を及ぼす蛋白/RNA相互作用に関与するあらゆる蛋白)がscAbの標的であるという同様の戦略が好ましくは用いられる。
【0058】
「リボザイム」とは触媒活性を持ったアンチセンス分子であり、つまり、RNAに結合して翻訳を阻害する代わりに、リボザイムはRNAに結合して、結合状態のRNA分子の部位特異的切断に影響を及ぼす。一般的には、4つのリボザイム群がある。テレラヒメナ グループI介在配列、RNase P 、ハンマーヘッドリボザイムおよびヘアピンリボザイムである。しかしながら、付加的な触媒モチーフは他のRNA分子にも存在している。例えば、デルタ肝炎ウイルスおよび真菌類のミトコンドリア内のリボゾームRNAである。
【0059】
好ましいリボザイムとは、Nがどのヌクレオチドでもよく(つまり、G 、A 、U またはC )かつHがA 、C 、またはU であるような3’ヌクレオチドNUH 配列を触媒ドメインが切断するようなリボザイムである。しかしながら、このようなリボザイムによって最も効率的に切断される配列がGUC 部位である限りは、好ましくは、NUH 配列はGUC 部位を含む。
【0060】
望ましくは、そのようなリボザイムは、野生株ウイルスまたはその転写物の領域で切断するが、ベクターまたはその転写物の領域では切断しない。以前記述されたように、そのようなウイルスまたはベクターがRNAまたはDNAであるという意味において、リボザイムはウイルスまたはその転写物を切断する。「領域で」切断するとは、標的部位におけるつまり、好ましくは、ウイルスの増殖に必要なウイルスの領域における切断を意味する。この標的にされている特定の部位が(つまり、もし、ベクターに存在しているならば、)リボザイムによって切断されないように、ベクターが修飾されているのが望ましい。リボザイムは任意でウイルス粒子、例えば、crHIV粒子の増殖に必要とされている領域で切断が起こらない限りは、ベクターを切断してもよい。
【0061】
最適には、リボザイムは、配列番号:3(つまり、CACACAACACTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACGGGCACA)および配列番号:4(つまり、ATCTCTAGTCTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACCAGAGTC)からなる群より選択される配列によってコードされる。配列番号:3は野生型HIVのU5領域の+115部位(すなわち、転写開始点から下流への塩基数に基づけば)に標的にされているリボザイムを含んでいるが、配列番号:4は野生型HIVのU5領域の+133部位に標的されているリボザイムを含む。
【0062】
公知技術および実施例1で説明されているように、ベクターU5配列がインビトロでの部位特異的変異によって修飾されている限りにおいては、そのようなリボザイムは、野生型HIVゲノム(またはその転写物)内で切断することはできるが、ベクターのゲノム(またはその転写物)内を切断することはできない。特に、ベクターの配列は望ましくは、配列番号:2(つまり、GTGTGCCCACCTGTTGTGTGACTCTGGCAGCTAGAGAAC )、配列番号:5(つまり、GTGTGCCCGCCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC )、配列番号:6:(つまり、GTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGCAACTAGAGATC )、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16からなる群より選択される配列をベクターが含むように修飾されている。RNAの形で、ベクターは好ましくは、配列番号:2、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16からなる群より選択される配列によってコードされる配列を含む。それとは対照的に、野生型HIVは配列番号:1(つまり、GTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC )の配列によってコードされるU5配列を含んでいる。イントト(in toto ) における修飾および野生型U5配列(DANの形での)との比較が図2に示されている。
【0063】
さらには、ウイルスおよび特にHIVゲノムの領域に標的されている他のリボザイムは、単独でまたは組み合わせて使用されることができる。例えば、リボザイムはウイルス複製に必要とされる他のRNA配列内、例えば、逆転写酵素、プロテアーゼ、若しくはトランス活性化因子蛋白の内、Rev内、または、既に説明されたようなその他の必要な配列内、を切断させることができる。好ましくは、ベクターは複数のリボザイムを含んでおり、例えば、複数の部位にターゲッティングされている。その場合には、そのようなリボザイムの切断に抵抗性のベクターを誘導するために、ベクター内の類似配列は、部位特異的変異または当該技術分野で知られている他の方法によって修飾される。
【0064】
ベクターがヒト免疫不全ウイルスである時、好ましくは、ベクターはtat 遺伝子およびその5'スプライス部位を欠いており、その場所に、3重アンチ−Tat リボザイムカセットを含んでいて、その3重リボザイムカセットのリボザイムそれぞれの触媒ドメインは、野生型ヒト免疫不全ウイルス核酸分子の異なる部位、特に、tat 内の異なる配列内で切断する。好ましくは、ベクター自身にはリボザイム耐性の対応部がない野生型ヒト免疫不全ウイルスの核酸分子のある領域の核酸配列をそれぞれのリボザイムの触媒ドメインは切断する。
【0065】
2.その配列の所有が、野生株ウイルスに感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞に選択的に優位性を与えるような核酸配列。
ある核酸配列は、ウイルスの野生型株(つまり、その配列を欠いている)に感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞を選択的に有利にする配列で、好ましくは、野生型ウイルスを含む細胞よりも、ベクターを含む細胞が生き残りウイルス粒子(つまり、crHIVウイルス粒子)を増殖させるのを許す配列である。そのような配列は、細胞または細胞に含まれているベクターが破壊を回避するようなあらゆる配列、細胞の生存を促進するような配列、アポトーシスを誘導するような配列、蛋白合成を促進するような配列または、免疫機能もしくはターゲティングを促進するような配列を含むがこれらに限定されない。
【0066】
例えば、望ましくは、ベクターに含まれているそのような核酸配列は、多剤耐性の遺伝子をコードしている(例えば、Ueda et al., Biochem. Biophys. Res.Commun., 141, 956-962 (1986); Ueda et al., J. Biol. Chem., 262, 505-508(1987); and Ueda et al., PNAS, 84, 3004-3008(1987) を参照) 。添加された細胞毒性の薬剤の存在下、(例えば、ガンの化学療法に用いられるように)この核酸配列は、ベクターを含む細胞を生き延びさせるが、HIVのような野生型のウイルスを含む細胞は生き延びさせない。そのような細胞毒性薬物には、アクチノマイシンD、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、VP−16およびAMSAが含まれるがこれらに限定されない。
【0067】
あるいは、そのような核酸配列は望ましくは、変異した(つまり、変異)プロテアーゼの配列(またはそれをコードする配列)、および変異した(つまり、変異)逆転写酵素の配列(またはそれをコードする配列)からなる群から選ばれる配列を含んでいる。好ましくは、変異された逆転写酵素は遺伝子工学操作が行れてヌクレオシドおよび非ヌクレオシドの逆転写酵素阻害剤に抵抗性になっており、かつ、変異されたプロテアーゼも遺伝子工学操作が行われて、通常良く用いられるプロテアーゼインヒビターに抵抗性になっている。
【0068】
ベクターと組み合わせた、これらのプロテアーゼインヒビターまたは逆転写酵素阻害剤の宿主への投与は、野生型ウイルスを産生する細胞と比較して、ベクターを産生する細胞を選択するのに用いられる。同様に、ウイルスの複製が阻害されて、ウイルスが阻害から逃れるために、変異し得るようなあらゆる薬剤との使用のために、このアプローチは修飾される。従って、HIVの治療には、ベクターに組み込まれている選択的な核酸配列は、好ましくは、変異されたHIV配列を含む。しかしながら、最適には、これらの配列は、野生型HIVとの重感染を阻止しない。
【0069】
好ましくは、ベクターは上記に示されるもの並びに、特に、図1B−1Eに描かれている望ましいcrHIVベクターつまり、それぞれcrHIV−1.1、crHIV−1.11、crHIV−1.12およびcrHIV−1.111のひとつである(Dropulic' et al., PNAS, 93, 11103-11108 (1996))。同様に好ましいのは、実施例11で説明されているベクターつまり、cr2HIVである。
【0070】
そのcr2HIVベクターは望ましくは、野生型ヒト免疫不全ウイルスのゲノムからtat 遺伝子およびそのスプライス部位を欠いている。tat 遺伝子およびそのスプライス部位の代わりに、cr2HIVベクターは、3重アンチ−Tat リボゾームカセットを含んでおり、3重アンチ−Tat リボゾームカセットのそれぞれのリボゾームの触媒部位は、野生型HIV核酸分子のtat 内の異なる部位を切断する。好ましくは、3重リボゾームカセットのそれぞれのリボザイムの触媒ドメインは、野生型HIV核酸分子の異なる部位を切断する。さらに望ましくは、それぞれのリボザイムの触媒ドメインは、ベクター自身にはリボザイム耐性の対応部のない、野生型HIVの核酸分子のある領域の核酸配列を切断する。
【0071】
最適には、ベクターは導入された細胞に適合性である。例えば、ベクターがコードしている核酸配列を細胞で発現させる性質を与えることができる。望ましくは、ベクターは細胞で機能する複製起点を含んでいる。(例えば、それ自身のプロモーターを含む完全な遺伝子の形に対して)核酸配列がそのDNAコード遺伝子の形で導入されるとき、最適には、コード配列の発現を促すことができ、かつ、コード配列に機能的に結合されているプロモーターもベクターは含んでいる。コード配列がプロモーターに「機能的に結合されている」(例えば、コード配列およびプロモーターの両方が一緒に天然型または、組換え遺伝子を構成する)のは、プロモーターがコード配列の転写を指示することが出来るときである。
【0072】
本発明の組換えベクターでは、好ましくは、全ての正常な転写(例えば、開始シグナルおよび終止シグナル)、翻訳(例えば、リボゾームエントリーまたは結合部位等)およびプロセシンングシグナル(例えば、スプライスのドナー部位またはアクセプター部位、必要であれば、かつポリアデニル化シグナル)が正しくベクターに配置され、どの遺伝子またはコード配列も、ベクターが導入された細胞内で正しく転写(所望であれば、および/また翻訳)される。宿主細胞での正しい発現を保証するようなそのようなシグナルの操作は、十分に、当業者の知識および技術の範囲内である。
【0073】
ベクターは好ましくは、ベクターまたはそれに含有されサブクローニングされた配列が同定されかつ選択されるようないくつかの手段も含んでいる。ベクターの同定および/または選択は、当業者に知られている様々なアプローチを用いて達成される。例えば、特定の遺伝子またはコード配列を含むベクターは好ましくは、ハイブリダイゼーション、ベクターに存在するマーカー遺伝子にコードされたいわゆる「マーカー」遺伝子の機能の非存在または存在、および/または特定の配列の発現によって同定される。第1のアプローチでは、ベクター内での特定配列の存在は、関連する配列と相同である配列を含むプローブを用いて、ハイブリダイゼーション(例えば、DNA−DNAハイブリダイゼーション)によって検出される。第2のアプローチでは、組換えベクター/宿主系は、ベクターに存在して以下の機能をコードする特定の遺伝子によって引き起こされる、抗生物質耐性、チミジンキナーゼ活性等のような或るマーカー遺伝子の機能の存在または非存在に基づいて同定および選択される。第3のアプローチでは、ベクターはそのベクターによってコードされる特定の遺伝子産物についての分析によって同定される。そのような分析は遺伝子産物の物理的、免疫学的または機能的な性質に基づいている。
【0074】
従って、本発明は、もしDNAなら配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列を含み、並びに、もしRNAなら配列番号:2、4、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列によってコードされている核酸配列を含んでいる、ベクターも提供するものである。
【0075】
本発明は、さらに、野生型ヒト免疫不全ウイルスから誘導され、かつ、そのベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力のある、リボザイムを有するベクターの生成方法を提供する。ベクターに含まれる又はベクターにコードされているリボザイムは、野生型のヒト免疫不全ウイルスの核酸配列を切断するが、ベクターそれ自身、及びもしあるとすれば、その転写物の核酸配列は切断しない。この方法は、野生型ヒト免疫不全ウイルスから誘導され、並びにそのベクターの複製を許容する宿主細胞内でだけ複製するベクターを取得し、野生型のヒト免疫不全ウイルスの核酸配列を切断するが、ベクターそれ自身、及びもしあるとすれば、その転写物の核酸配列は切断しないような触媒ドメインをもったリボザイムを含むまたはコードしている核酸配列を該ベクターに組み込むことを含む。そのような方法では、野生型ヒト免疫不全ウイルスのU5配列を含むまたはコードする核酸配列がベクターから欠失され、かつ、ベクターがDNAならば配列番号:2、5、6、14、15及び16から構成される群から選択される核酸配列によって、ベクターがRNAならば配列番号:2、5、6、14、15及び16から構成される群から選択される核酸配列にコードされる核酸配列によって置換され得る。好ましくはベクターの複製を許容する宿主細胞内でベクターは2回以上複製する。
【0076】
本発明によって、ベクターの修飾方法も提供される。この方法は、ベクターを得ること並びに、ベクターがDNAならば配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16から構成される群から選択される核酸配列を、ベクターがRNAならば配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16から構成される群から選択される核酸配列によってコードされる核酸配列をベクターに導入することを含んでいる。
【0077】
本発明によってさらに提供されるものは、パッケージング細胞株を用いずに、条件付きで複製したベクターを増殖させかつ選択的にパッケージングする方法である。この方法は、条件付き複製ベクターと同じタイプのベクターで、かつ複製能力については野生型であることによりそれとは異なっている他のベクターによって感染させることができる細胞と、条件付き複製ベクターを接触させること;その後、細胞をその他のベクターと接触させること;それから条件付き複製ベクターを増殖に導くことができるような条件下で細胞を培養すること含んでいる。
【0078】
さらに提供されるものは、配列番号:2、5、6、14、ここで少なくとも1つのNは変異されている、15および16からなる群から選択される核酸配列を含むDNA分子、および配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むRNA分子からなる群から選択された、単離精製された核酸分子である。
【0079】
使用方法
ウイルス感染の予防的および治療的処置のためには、上述のベクターは、ベクターの維持の容易さ、並びにその他の理由によって、好ましくは宿主細胞に導入される。従って、本発明は、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞の単離、および/または培養によりそれから由来するそのような細胞あるいは細胞株の維持は、決まりきった事柄で、当業者はそれによく精通している。
【0080】
特に、好ましくは上述のベクターは、野生型ウイルス、好ましくは野生型RNAウイルスから、より好ましくは野生型レトロウイルスから、そして最適には野生型HIVからの感染のようなウイルス感染の予防的および治療的処置において用いられる。
【0081】
該方法は、野生型ウイルスで感染され得る宿主細胞を、ベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力のある条件付き複製ベクターに接触させることを含み、その存在、転写あるいは翻訳は、宿主細胞内での野生株ウイルスの複製を阻害する。望ましくは、該ベクターは1回以上複製し、少なくとも1つの核酸配列を含み、その所有(すなわち存在、転写あるいは翻訳)は、野生株ウイルス、最適にはベクターが由来する株よりも宿主細胞内で該ベクターに選択的に優位性を付与する。
【0082】
この方法によると、核酸配列は好ましくは、該ベクター以外のウイルスの複製および/または発現に不利に影響を及ぼす遺伝的抗ウイルス剤を含むかコードする核酸配列を含む。望ましくは遺伝的抗ウイルス剤は、アンチセンス分子、リボザイムおよび免疫原からなる群より選択される。最適には、該遺伝的抗ウイルス剤はリボザイム、好ましくは3’ヌクレオチドNUH配列(すなわち特にGUC配列)で切断する触媒ドメインである。最適にはリボザイムは、少なくとも部分的には配列番号:3および配列番号4からなる群より選択される配列によってコードされる。望ましくは、該リボザイムは野生株ウイルスまたはその転写産物の領域内で切断するが、該ベクターまたはその転写産物の領域内では切断しない。好ましくは、これは野生株ウイルスが配列番号:1によってコードされる配列を含み、一方で該ベクターがDNAであれば配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、もしRNAであれば、配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるヌクレオチド配列を含むことによる。
【0083】
望ましくは該方法はまた、該ベクターが少なくとも1つの核酸配列を含み、その所有(すなわち存在、転写あるいは翻訳)が、野生株ウイルス、最適にはベクターが由来する株よりも宿主細胞内で選択的に優位性を該ベクターに付与するように行われる。この点については、ベクターは少なくとも1つの核酸配列を含むことができ、該ウイルスで感染させた宿主細胞に1つの選択的に優位性を付与し、そして少なくとも核酸配列、それは該ベクターがそれから誘導されるウイルスに対応する野生株ウイルスよりも選択的に優位性を該ベクターに付与する。
【0084】
従って、該方法は好ましくは、該核酸配列が多剤耐性をコードするように行われる。あるいは該方法は、予防的あるいは治療的に処置されるべくウイルス感染がレトロウイルスである場合のように、該核酸配列が変異した(変異)プロテアーゼをコードしているヌクレオチド配列および変異した(変異)逆転写酵素をコードしているヌクレオチド配列を含むように行われる。
【0085】
該方法はさらに好ましくは、宿主細胞への、細胞毒性のある薬剤、プロテアーゼ阻害剤および逆転写酵素阻害剤からなる群より選択される作用薬の投与を含む(すなわち該ベクターの投与に加えて)。
【0086】
従って、ウイルス感染を治療的に処置するためだけでなく、感染の可能性のある宿主細胞をウイルス感染から保護するためにも上述の方法に従ってベクターを用いることができる。すなわちウイルス感染を予防的に処置する方法、あるいはRNAウイルス、特にHIV等のレトロウイルスのような目的とするウイルスに対する「予防接種」である。該方法は野生株ウイルスと宿主細胞を接触させる前に該野生株ウイルスの複製を本質的に阻害する。この点で、該ベクターは野生型ウイルスでの重感染を妨げる蛋白質を含むかコードすることができる。該方法は、宿主細胞を、上述のような条件付き複製ベクターおよび「ヘルパー発現ベクター」(すなわち非感染宿主内で「ベクター」の複製を促進するウイルスゲノム)に接触させることを含む。条件付き複製ベクターはパッケージングおよび/または増殖に関して優位に選択される。さらに、該ベクターは例えば、細胞の生存を増強し、ウイルス産生を促進し、アポトーシスを引き起し、蛋白質生産を容易にし、および/または免疫機能および/またはターゲティングを促進する配列を有することができる。該「ヘルパー発現ベクター」構築物は、該「ベクター」の複製に対する能力のなさを補う任意の発現ベクターである。そのようなヘルパー発現ベクターは一般的であり、当業者によって容易に構築される。該ヘルパー発現ベクターはベクターのようにビリオンにパッケージングされ得るか、あるいはパッケージングの必要なしに発現され得る。該「ベクター」は、パッケージングおよび/または増殖に関して優位に選択されるので、この系は、生弱毒化ウイルスが引き起こす可能性のある、起こり得る病原性の影響なしにウイルスの高複製を達成するための安全な手段を与える。加えて該ベクターは、免疫原性を高める為に非特異的なアジュバントと混合することができる。そのようなアジュバントは当業者には公知であって、それには限定されないが、フロイントの完全あるいは不完全アジュバント、バクテリアやマイコバクテリアの細胞壁成分等からなる乳剤を包含する。
【0087】
ベクターをウイルス感染の予防的処置として上述の方法に従って使用する場合、該ベクターは、変異ウイルス蛋白質あるいは非ウイルス蛋白質等の野生型ウイルスによってコードされていない蛋白質の抗原をコードすることができる。従って、該ベクターによってコードされる抗原は例えば細菌起源あるいは癌細胞起源のものであり得る。さらに該「ベクター」はまた、宿主の免疫系への該抗原の適切な提示のためのMHC遺伝子をコードすることができる。すなわち、そのようなベクターは、一連の種々の異常な細胞で選択的に発現されている、可能性のある病原体および/または内因性蛋白質(例えば腫瘍特異性抗原)に対する持続性の免疫学的応答を容易にするために用いることができる。
【0088】
さらに、該「ヘルパーウイルス」(ここでは「ヘルパー」ともいう)発現ベクターを、細胞特異的なベクター複製および蔓延を可能にする、特別な遺伝的要素/因子の付加あるいは除去(該ベクターあるいはヘルパーウイルス発現構築物のどちらかで)によって、特別な細胞種(例えば幹細胞、専門的抗原提示細胞(professional antigen presentingcells) 、および腫瘍細胞)でのみ発現するように工作することができる。すなわち該ベクターはヘルパーウイルス構築物での相補によって依然蔓延するが、しかしこの蔓延は細胞特異的であり、該ベクターあるいはヘルパーウイルス発現構築物からある遺伝的要素/因子が付加されているかあるいは省かれているかに依拠している。これは単独で、あるいは他の上述の戦略を組み合わせて用いることができる。
【0089】
例えば、条件付き複製HIVベクターは、T細胞ではなくマクロファージで特異的に複製するように設計することができる。Tat欠損HIVを構成するであろう該ベクター(該ベクターは他のHIV蛋白質をコードしている、それらはTat転写トランスアクチベーターがないので発現されない)は、野生型HIVは切断するが条件付き複製HIV RNAは切断しないリボザイムをコードすることができる。このベクターのためのヘルパー発現ベクターはマクロファージ特異的プロモーターから発現されるtat 遺伝子をコードすることができる。すなわち、crHIVはマクロファージ細胞でのみ条件付きで複製するであろう一方で、T細胞やその他の細胞種では複製することができないであろう。
【0090】
あるいは、tat 遺伝子を腫瘍特異的プロモーターに機能的に連結することができる;すなわち、今度はcrHIVは腫瘍CD4細胞でのみ複製し、正常なCD4細胞では複製しないであろう。「ヘルパーウイルス」発現構築物と協力して該ベクターが特異的な細胞種でのみ発現され、他の細胞種では発現されないように、遺伝的要素/因子はまた該ベクターのプロモーター配列の修飾であり得る。
【0091】
別の態様においては、該ヘルパー発現構築物あるいは該ベクター構築物エンベロープ蛋白質(もしそのような構築物がエンベロープ蛋白質を含むように工夫されていれば)は、ベクター−ビリオンが特異的にある細胞種(例えば腫瘍細胞)に感染し、他の細胞種(例えば正常細胞)に感染することができないであろうように修飾することができる。さらに別の態様においては、1つあるいは幾つかの複製の鍵となる因子を欠いているアデノウイルスが、腫瘍特異的プロモーターに連結されたそのような因子を供給するヘルパー構築物を用いることによって相補され得る。すなわち、アデノウイルスの複製を相補する該因子は腫瘍細胞内でのみ発現するであろうし、それによって正常細胞内ではなく腫瘍細胞内で、ウイルス複製(細胞致死に要求される蛋白質の発現を伴って)が可能になるであろう。
【0092】
すなわち、本発明はまた癌の処置、特にT細胞白血病の処置方法をも提供する。本発明において「癌の処置」は、治療的応答をもたらすことを目的とした、ここで述べたようなさらなる修飾ベクターの宿主への投与を含む。そのような応答は、例えば腫瘍の増殖の減衰および/または腫瘍の退縮をモニタリングすることによって評価することができる。「腫瘍の増殖」は腫瘍サイズの増加および/または腫瘍の数を包含する。「腫瘍の退縮」は腫瘍集団の縮小を包含する。
【0093】
本発明において「癌」は、腫瘍形成によって証明され得る異常な細胞増殖および接触阻止の消失によって特徴づけられる癌を包含する。該語句は、例えば、浸潤による局所的に、あるいは転移による全身的に腫瘍から広がった癌細胞のような、腫瘍にとどまった癌および腫瘍にとどまっていない癌を包含する。理論上、いかなるタイプの癌も本発明による治療の標的となり得る。しかしながら好ましくは癌はウイルス起源のものである。
【0094】
最終的には、上述のベクターはインビボの遺伝子治療に直接用いることができる。最近の遺伝子治療戦略は、感染させた細胞のある割合しか遺伝子送達を仲介することができず、大部分の細胞へはできないので苦痛を伴うものである。このことは全腫瘍集団の遺伝子導入が重要な抗腫瘍戦略において特に重要である。該「ベクター」を「ヘルパー」といっしょに与えることにより、直接に導入された細胞は、近隣の細胞に感染することのできる、すなわち高い、そしておそらくは完全な形質導入効率を可能にするウイルス粒子を産生するであろう。この発明のひとつの態様において、ヒトレトロウイルス(HIVあるいはレトロトランスポゾン要素であり得る)を、「ヘルパー」構築物とともに組織(あるいはインビトロでの細胞)に送達することができた。直接に該ベクターおよびヘルパーを含有する細胞は、ウイルスを産生し、該ベクターをビリオンに条件付きでパッケージングするであろう。これらのビリオンは近隣細胞(細胞に形質導入を生じさせるのには、細胞−細胞接触が最も効果的な手段であるので)の高い導入効率を仲介し得るであろう。直接に導入された細胞は、ベクター/ヘルパーの組み合わせが結果として細胞溶解感染を起こさせるかどうかによって、死ぬかもしれないし死なないかもしれない。レトロトランスポゾンの場合には、正常または腫瘍細胞がビリオンへのエンキャプシデーション(encapsidation) に必要な蛋白質/因子を含んでいるかもしれないので、該ヘルパーは構造蛋白質を含む必要がないかもしれない。この場合には、該ヘルパーは、それに限定されないが、単なるレトロトランスポゾンのエンキャプシデーションに要求される因子の転写を活性化するトランスアクチベーター蛋白質であり得る。HIVの場合には、必須ではないが、他の因子が、細胞の感染/形質導入のための、HIVゲノムの子孫ビリオンへのエンキャプシデーションに他の因子が要求されてもよい。
【0095】
上述のベクターはまた、対−生物学的および対−化学的闘争戦略において使用され得る。例えば、最近高い病原性のウイルスあるいは細菌もしくは化学作用薬(例えば毒素)で感染させた個体に、条件付き複製ベクターを送達することができる。該ベクターは、先に述べたような病原性ウイルスの複製を妨害する。しかしながら、条件付き複製ベクターをまたヘルパー発現ベクター(「ヘルパー」)といっしょに抗細菌的あるいは抗化学的戦略に用いることもできる。
【0096】
例えば、条件付き複製ベクターは、「ヘルパー」がその発現および増殖を可能にした後で、抗細菌あるいは抗毒素抗体を分泌することができる。該「ヘルパー」は、必須ではないが、細菌やサイトカイン(細菌の感染に応答して)、抗生物質(テトラサイクリン誘導性プロモーター系(Paulus ら, J. Virol. 70,62-67(1996)) での場合)あるいは化学薬品(例えば毒素、そのもの)によって活性化すると、その発現を可能にする誘導性プロモーターを駆動させ得る。すなわち条件付き複製ベクターは、好ましくない結果をまねく病原体あるいは毒素(ヘルパーの活性化の結果として)に応答して「ヘルパー」の助けで選択的に増殖するだけでなく、腫瘍抗原、病原体あるいは化学薬品(例えば毒素)の病原性の影響を阻止するための抗病原体あるいは抗毒素抗体を分泌するであろう。すなわち、mRNAおよび/または蛋白質のどちらかに転写されるいかなる蛋白質、因子あるいは遺伝的要素が、病原性応答を阻止するために、条件付き複製ベクターに挿入され得る−−その選択的な増殖および発現(該ヘルパーの産物は条件付き(それには限定されないが、例えば(a)誘導性プロモーター系−−腫瘍細胞中のある因子は、ヘルパー因子、ヘルパー因子を発現する毒素応答性配列(toxin responsivesequence) 、あるいはヘルパー因子の産生を引き起こすサイトカイン応答性プロモーター(cytokine responsivepromoter)の産生を活性化する、(b)ヘルパーRNA/蛋白質/因子は、ある細胞内で選択的に安定化され、他では安定化されない、そして(c)ヘルパーウイルスの蛋白質の産生、シャペロニング(chaperoning) 、ターゲティング、構造あるいは別の生物機能に影響を及ぼす第3者的な遺伝子の間接的な導入)で発現されるので選択的)を促進する「ヘルパー」と協力して。そのような戦略を、形質転換植物および動物に病原体から保護するために用いることができる。同様にして、そのような戦略を価値ある異種蛋白質/因子の生産のための形質転換系に用いることができる。
【0097】
本発明による方法の別の態様において、例えば、蛋白質/因子のどの部分がある特定の機能に重要なであるかを決定するための薬剤/因子をスクリーニングするための細胞株を開発することができる。所定の細胞株内で目的とする変異させた蛋白質が発現するようにベクターを創製することができる。しかしながら該変異させた蛋白質をコードするRNAは、例えばサイレント点変異の挿入によってリボザイムに抵抗性に作られる。しかしながら、野生型蛋白質の発現は細胞株内では阻害されている。また、目的の蛋白質に対してリボザイムを発現するベクターをまた、変異被検蛋白質を発現し得るように構築することができる。該ベクターが細胞に導入されると、正常な蛋白質をコードしている天然RNAのほとんどは切断され、一方で該変異被検蛋白質が発現される。どのように所定の蛋白質が機能するのか、またどのように所定の因子/薬剤が該蛋白質に相互作用しているのかを決定するための、迅速且つ強力な技術として、最近開発された送達および選択技術とともにこの方法を用いることができる。
【0098】
また、インビトロで、無数の本発明の使用方法ならびにベクターがある。例えば、ウイルス複製およびリボザイム機能の、ある微妙な差異を明確にするために該ベクターを用いることができる。同様に、リボザイムを含有するベクターを、例えば羅病細胞における変異の存在を調べるための、あるいは遺伝的浮動を確かめるための診断の道具として用いることができる。上述の考察は、決して本発明の用途を包括的にみなすものではない。
【0099】
発明の利点
エイズおよび他のウイルスの遺伝子治療処置にcrHIVストラテジーを用いる利点は大きい。例えば、HIVに感染した細胞にベクターをターゲッティングする問題が解決されるようになる。感染したCD4+細胞にcrHIVをインビボでトランスフェクション後、crHIVは内因性感染性HIVエンベロープ蛋白質を用いて子ビリオンにパッケージされるようになる。従って、crHIV RNAは子ビリオン内部について行き、非病原性ビリオンを産生するその特定のHIV株に通常感染し得る細胞タイプに感染する。これは、脳の小グリア細胞(中枢神経系のHIV感染のための主な貯蔵器官である)のようなターゲットが困難な細胞を含む。crHIVベクターによりコードされるウイルス蛋白質はないので、非感染CD4+細胞に感染するcrHIVベクターに関連する毒性の可能性はほとんどない。さらに、crHIVベクターの野生型HIVとの競合の結果、非病原性粒子が産生され、その結果ウイルス負荷が低下する。crHIV粒子もまた全身的に広がり得るので(即ち、感染性HIVがそうであるように)、病原性HIV−1負荷の低下は、感染個体の生存期間を延長し得るだけでなく、非感染個体への感染の割合を低下させることもできる。crHIVの産生はまた、感染した母親から子宮内の胎児へのHIV−1感染を減少させるので、血液中の病原性HIV−1負荷の低下は妊娠中のHIV感染個体において特に重要である。
【0100】
crHIVベクターを宿主細胞に導入するために使用することができるプラスミドDNA/脂質混合物は、高価な生体外ストラテジーを避けて安定でかつ安価に製造できなければならない。勿論、本発明の方法は、所望により生体外遺伝子送達にも利用することができ、本質的に自由に変えられる。それとは関係なく、リポソームを仲介したアプローチの有用性は一般大衆の治療の可能性(それは現在の遺伝子治療ストラテジーでは実現可能でない)への道を開く。crHIVベクターはまた、HIVゲノム上の異なるターゲットに向けて作られた幾つかのリボザイムを含有するように操作することができる。これは、感染性HIVが突然変異して抗HIVリボザイムの効果から逃れ得る可能性を少なくする。さらにまた、条件付き複製可能ウイルスストラテジーは他のウイルス感染、特にウイルスの代謝回転が高いウイルス感染の治療に適用することができる。
【0101】
crHIVベクターの特に有用な性質は、遺伝的抗ウイルス剤、例えば、リボザイムを転写後に発現するのに利用することができる点である。従って、非感染細胞にcrHIVベクターを感染させると毒性が低い。なぜなら、Tat蛋白質の非存在下でHIV末端反復配列(LTR)プロモーターからわずかな発現しか起こらないからだ。高レベルのcrHIV発現およびその結果として起こる抗ウイルス活性は、野生型HIVとの相補によりTat蛋白質が提供されるときにのみ起こる。このように、crHIVベクターはHIV感染から細胞を保護するように設計されているのではなく、非病原性crHIV粒子の選択的蓄積により全体の野生型HIVウイルスの負担を低くするように設計されている。
【0102】
本発明の実施または作用に関して特定の理論に束縛されることを求めているわけではないが、以下の実施例で確認されるように、リボザイムは(1)高度の特異性を有し、(2)ターゲットRNAと共局在化する能力に応じて相対的な効率を有するという2つの有用な性質のために、選択的にcrHIVゲノムに優位性を付与するのに用いることができると考えられる(Cech, Science, 236, 1532-1539 (1987)) 。リボザイムの特異性は、それらがXUY部位を含有する相補ターゲット配列へ特異的にハイブリダイズすることにより付与される。リボザイムはターゲットRNAと効率的に共局在化するときにのみ高い効率でターゲットRNAを切断するので、リボザイムは相対的に効率的である。HIV/crHIV混合感染において、リボザイム含有crHIV RNAの野生型HIV RNAとの共局在化が起こるはずである。なぜなら、HIV RNAゲノムは子ビリオンへのパッケージングの前に二量化するからだ。非ゲノミックHIV RNAは二量化しないので、ウイルス蛋白質の産生に必要な野生型HIV RNAの非ゲノミック種の切断は、ゲノミック野生型HIV RNAの切断よりも効率が低い可能性が高い。crHIV RNAに付与された選択的優位性は、crHIVがウイルス粒子に選択的にパッケージングされるためであることが本明細書に記載する実験で見い出された。これらの結果は、最も効率的な切断は細胞内で二量化の間に起こり、結果として宿主ヌクレアーゼによる野生型HIV RNAの選択的破壊が生じることを示唆する。これは、crHIV RNAがウイルス粒子に優先的にパッケージングされることを可能にする。
【0103】
crHIVベクターのHIV治療への適用は、crHIVのゲノミック選択だけでなく、crHIV粒子を産生する細胞の細胞性選択も含む。そうでなければ、野生型HIVを産生する細胞は、crHIV粒子を産生する細胞に対する選択的優位性で野生型HIV粒子を産生し、速やかに優位を占めるだろう。crHIV発現細胞に(薬剤の存在下で)野生型HIV発現細胞に対する生存優位性を付与する遺伝子(例えば、多剤耐性遺伝子)をcrHIVゲノムに挿入することにより、crHIV発現細胞に選択的優位性を付与することができる。これらの条件下では、野生型HIV発現細胞は次第に死ぬが、いくらかの野生型HIVをまだ産生する。一方、crHIVを選択的に産生するcrHIV発現細胞は生存する。crHIV含有細胞を残りの野生型HIVに感染させると、crHIV含有ウイルス粒子をさらに産生させる結果となる。従って、ウイルスゲノミックシフトはCD4+細胞にcrHIVゲノムを累積的に感染させることになり、これにより宿主におけるウイルスバランスを病原性野生型HIVから非病原性crHIVゲノムに変化させる。いったん、HIVゲノムのバランスが野生型HIVからcrHIVに選択的にシフトすると、このようなストラテジーは野生型HIVを排除し得る。crHIVは野生型HIVヘルパーゲノムの存在下でのみ複製することができるので、ウイルス複製はいずれ止まる。従って、このような相互に制限する条件下では、野生型HIVウイルス負荷を減少させるようにするだけでなく、HIV感染宿主からウイルスを排除するようにcrHIVベクターを操作することが可能になる。
【0104】
投与手段
本発明によれば、前記のように、ウイルス感染の遺伝子治療を必要とする宿主細胞内にベクターを導入する。導入手段は、ウイルスに感染し得る宿主を本発明のベクターに接触させることを含む。好ましくは、かかる接触には、宿主細胞内にベクターを導入する手段であればいかなる手段も含まれる。方法は特定の導入手段によって決まるものではなく、またそのように解釈すべきでない。導入手段は当業者に周知であり、本明細書中でも例示する。
【0105】
従って、導入は、例えば、in vitro(例えば、遺伝子治療のex vivo タイプの方法)またはin vivo のいずれで行ってもよく、エレクトロポレーション、形質転換、形質導入、接合またはトリペアレンタルメイティング、トランスフェクション、感染、カチオン脂質を用いる膜融合、DNAでコーティングしたマイクロプロジェクタイルを用いる高速発砲、リン酸カルシウム−DNA沈殿物とのインキュベーション、単一細胞への直接マイクロインジェクションなどの使用が含まれる。他の方法も利用することができ、これは当業者に知られている。
【0106】
しかしながら、好ましくは、ベクターまたはリボザイムはカチオン脂質、例えば、リポソームにより導入する。このようなリポソームは市販されている(例えば、リポフェクチン(Lipofectin)R、リポフェクタミン(Lipofectamine)TMなど、Life Technologies, Gibco BRL, Gaithersburg, MD)。さらに、輸送能が増大しおよび/またはインビボ毒性が低下したリポソーム(例えば、PCT特許出願WO95/21259に記載)を本発明で使用することができる。リポソームの投与は、PCT特許出願WO93/23569に記載の推奨に従って行うことができる。一般に、このような投与に用いる処方は大多数のリンパ球により37℃で8時間以内に取り出され、静脈内投与の1時間後に注射投与量の50%を越える範囲内が脾臓で検出される。同様に、他のデリバリービヒクルには、ハイドロゲルおよびコントロール放出ポリマーが含まれる。
【0107】
宿主細胞に導入されるベクターの形態は、ベクターがインビトロまたはインビボのいずれで導入されるかによって一部は決定される。例えば、ベクターがゲノム外に保持されるか(即ち、自己複製ベクター)、プロウイルスまたはプロファージとして組み込まれるか、一時的にトランスフェクションされるか、複製欠損または条件付き複製ウイルスを用いて一時的に感染されるか、あるいはダブルまたはシングルクロスオーバー組換えを経て宿主ゲノムに安定に導入されるかに応じて、核酸は閉じた環状、ニック、または直鎖状であってよい。
【0108】
宿主に導入する前に、本発明のベクターを治療および予防処置方法に用いるための各種組成物に製剤化することができる。特に、ベクターを適当な医薬的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて医薬組成物とすることができ、ヒトまたは獣医学的適用に適するように製剤化することができる。
【0109】
従って、本発明の方法に用いられる組成物は1または2以上の上記のベクターを、好ましくは医薬上許容される担体と組み合わせて含有するものである。医薬上許容される担体は好適な投与手段として当業者には周知である。担体の選択は、一部は、特定のベクターにより、ならびに組成物の投与に用いる特定の方法によって決定される。組成物投与の各種経路を採用でき、また、投与に2以上の経路を用いてもよいが、特定の経路が他の経路よりも迅速かつ効果的な反応を与え得ることも、また当業者に理解されるだろう。従って、本発明の組成物の好適な製剤として広範囲の種類がある。
【0110】
本発明のベクターを単独あるいは他の抗ウイルス性の化合物と組み合わせて含有する組成物は、非経口投与、好ましくは腹腔内投与に好適な製剤にしてもよい。そのような製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および当該製剤を投与対象者の血液と等張にする溶質を含有してもよい水性または非水性の等張性無菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含有してもよい水性または非水性の無菌懸濁液が含まれる。この製剤は、単位投与量または多回投与量をアンプルおよびバイアルのような容器中に封入して提供してもよく、また、使用直前に例えば注射用水のような無菌液状担体を加えるだけでよいような凍結乾燥条件下に貯蔵してもよい。用時調製の注射溶液および懸濁液は、ここに記載のような、無菌の散剤、顆粒および錠剤から調製してもよい。
【0111】
経口投与に好適な製剤は、有効量の化合物を希釈液(例えば水、塩水またはフルーツジュース)に溶解したような液剤;それぞれ所定量の有効成分を固形または顆粒として含有するカプセル、薬袋(sachet)または錠剤;水性液体中の液剤または懸濁剤;ならびに水中油型乳剤または油中水型乳剤から構成することができる。錠剤の形態は、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、バレイショデンプン、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド状シリカ、クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose sodium)、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびその他の賦形剤、着色料、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、香料および医薬的に適合性の担体のうち1つまたは2以上含有してもよい。
【0112】
吸入による投与に好適なエアロゾル剤もまた調製される。エアロゾル剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容される圧縮不活性ガスに含ませてもよい。
【0113】
同様に、経口投与に好適な製剤としては、香料、通常はスクロースおよびアラビアゴムもしくはトラガント中に有効成分を含有する舐剤(lozenge form) ;ゼラチンおよびグリセリンのような不活性基剤、またはスクロースおよびアラビアゴム中に有効成分を含有する香錠;適当な液状担体中に有効成分を含有する含嗽剤;ならびに有効成分に加えて、当該分野で公知の担体を含有するクリーム、エマルジョン、ゲル等が含まれる。
【0114】
局所投与に好適な製剤は、クリーム、軟膏またはローションの剤形としてもよい。
【0115】
直腸投与の好適な製剤は、例えばカカオ脂またはサリチル酸塩を含有する適当な基剤と共に坐剤として提供してもよい。膣投与の好適な製剤としては、有効成分に加えて、当該分野で適当なものとして知られている担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレーの剤形として提供してもよい。同様に、有効成分をコンドーム上のコーティングとして潤滑剤と組み合わせてもよい。
【0116】
本発明においては、動物、特にヒトに投与する用量は、妥当な時間枠にわたって、感染した個体に対して治療的な反応を生じさせるのに十分であることが必要である。上記用量は、治療に用いられる特定のベクターの効力、病状の重さ、感染した個体の体重および年齢により決定される。上記用量はまた、用いられる特定のベクターに伴うかもしれない副作用の存在によっても決定される。できるだけ副作用は最小限となるようにすることが望ましい。
【0117】
上記用量は、錠剤またはカプセルのような単位投与形態としてもよい。ここで、「単位投与形態」とは、ヒトおよび動物の患者にとって単位投与量として好適な物理的に分離した単位のことをいい、各単位は、医薬上許容される希釈液、担体または賦形剤と共に所望の薬効を生じさせるのに十分な量として算出した所定量のベクターを、単独であるいは他の抗ウイルス剤と組み合わせて含有する。本発明の単位投与形態の明細事項は、用いられる特定化合物(2以上でもよい)および得られる薬効により、ならびに宿主内での各化合物に関連する薬力学により決定される。投与される量は、「抗ウイルス有効量」あるいは個々の患者において「有効なレベル」を達成するのに必要な量であることが必要である。
【0118】
「有効なレベル」は、投与の好ましい終点として用いているので、実際の用量およびスケジュールは薬物動態、薬物分布および代謝における個人差に応じて異なる。この「有効なレベル」は、例えば、患者の望ましい血液濃度または細胞濃度として規定してもよく、これは化学化合物の臨床上の抗ウイルス活性を予測するアッセイにおいて、HIVのようなウイルスを阻害する、本発明の1または2以上のベクターの濃度に相当する。本発明の化合物の「有効なレベル」はまた、本発明の組成物をジドブジンまたは他の公知の抗ウイルス性化合物あるいはこれらを組み合わせたものと併用する場合には変わり得る。
【0119】
当業者は、個々の患者における望ましい「有効なレベル」を達成するために、用いられる組成物の厳密な製剤に対する適切な投与量、スケジュールおよび投与方法を容易に決定できる。当業者はまた、適当な患者の試料(例えば血液および/または細胞)を直接的に(例えば分析的化学分析)あるいは間接的に(例えばp24もしくはAIDSまたはAIDS様疾患の治療のための逆転写酵素のようなウイルス性感染の代用指標を用いて)分析することによって、本発明の化合物の「有効なレベル」の適切な指標を決定し用いることもできる。
【0120】
さらに、AIDSまたはAIDS様疾患の治療のための患者における有効なレベルの決定に関しては、特に適当な動物モデルが利用可能であり、各種の遺伝子治療プロトコールのHIVに対するin vivo 有効性を評価するために広く使われている(Sarver et al., (1993b), 前記)。これらのモデルはマウス、サルおよびネコを含む。これらの動物は自然にはHIV疾患に感染しないが、ヒト末梢血液単核細胞(PBMC)、リンパ節または胎児肝/胸腺組織で再構成したキメラマウスモデル(例えば、SCID、bg/nu/xid、骨髄除去したBALB/c)がHIVに感染し得るので、これをHIVの病理および遺伝子治療のモデルとして使用することができる。同様に、サル免疫不全ウイルス(SIV)/サルモデルを使用することができ、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)/ネコモデルも使用することができる。
【0121】
一般に、投与したリボザイム(またはベクター)の組織濃度を達成するのに十分なベクターの量は約50〜約300mg/kg体重/日が好ましく、特に約100〜約200mg/kg体重/日である。ある適用では、例えば、局所投与、眼投与または膣投与では1日に複数回投与することが好ましい。さらに、投与回数は送達手段および投与する特定のベクターに応じて変わり得る。
【0122】
ウイルスに感染した個体の治療においては、「メガ用量(mega-dosing)」規制を用いることが好ましく、これは大用量のベクターを投与し、当該化合物が作用するだけの時間を与え、その後適当な試薬を個体に投与して活性化合物を不活性化させるものである。本発明の方法において、治療(即ち、治療すべきウイルスと競合するベクターの複製)は必然的に限定される。換言すれば、例えば、HIVのレベルが低下すると、ビリオン産生のためにHIVに依存するベクターのレベルもまた低下するだろう。
【0123】
AIDSの治療処置に用いる場合、医薬組成物に本発明のベクターと組み合わせて他の医薬を配合することができる。これらの他の医薬は慣用の方法(即ち、HIV感染を治療する薬剤として)、より詳細にはin vivo でcrHIVウイルスに対して選択する方法で使用することができる。本明細書に記載するそのような選択は、条件付き複製HIVの広がりを促進し、条件付き複製HIVがより効果的に野生型HIVと拮抗するようにし、必然的に野生型HIVの病原性を制限するだろう。特に、好ましくはジドブジンのような抗レトロウイルス剤を使用することが意図される。さらに、前記したものに加えて使用できる、これらの併用医薬の代表的な例には、抗ウイルス化合物、免疫調節剤(immunomodulator) 、免疫促進剤、抗生物質、およびAIDSの治療に使用できるその他の薬剤および治療規制(regime)(代替医薬として認識されるものを含む)が含まれる。抗ウイルス化合物には、ddI、ddC、ガンシクロビル、フッ素化ジデオキシヌクレオチド、ネビラピン(nevirapine)(Shih et al., PNAS, 88,9878-9882 (1991))のような非ヌクレオシド類縁化合物、R82913(White et al., Antiviral Research, 16, 257-266 (1991)) のようなTIBO誘導体およびBI−RJ−70(Shih et al., Am. J. Med., 90 (Suppl. 4A), 8S-17S (1991))が含まれるが、これらに限定されない。免疫調節剤および免疫促進剤には、各種インターロイキン、CD4、サイトカイン、抗体製剤、輸血剤および細胞輸注剤が含まれるが、これらに限定されない。抗生物質には、抗真菌剤、抗菌剤および抗ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii) 剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
他の抗レトロウイルス剤とともに、特にddC、ジドブジン、ddI、ddAのようなRT阻害剤、または抗TAT剤のような他のHIV蛋白質に対して作用する他の阻害剤とともに、ウイルス阻害化合物を投与することによって、一般にウイルスのライフサイクルのうち、複製期の大部分または全てを阻害するだろう。AIDSまたはARC患者に用いるddCおよびジドブジンの用量は発表されている。ddCのウイルス抑制範囲は、一般に0.05μMから1.0μMまでである。約0.005〜0.25mg/kg体重の範囲で大部分の患者においてウイルス抑制性を示す。経口投与にあたっての予備投与量の範囲は幾分広く、例えば0.001〜0.25mg/kgを1回または2、4、6、8、12時間等の時間間隔で2回以上投与する。0.01mg/kg体重のddCを8時間毎に与えるのが好ましい。併用療法の場合、他の抗ウイルス化合物は、例えば、本発明のベクターと同時に投与してもよく、あるいは適宜時間をずらして投与するようにしてもよい。またベクターを1つの組成物に組み合わせてもよい。それぞれの用量は、組み合わせて用いる場合は、いずれかを単独で用いる場合より少なくてもよい。
【0125】
実施例
次の実施例に本発明の化合物と方法をさらに記載する。これらの実施例は、本発明をさらに説明するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0126】
実施例1
この実施例は、本発明の条件付き複製可能ベクターの構築を記載する。特に、この実施例は、HIV、すなわちcrHIVベクターをもとにした条件付き複製ベクターの構築を記載する。
【0127】
HIV−1病原性の最も顕著な局面のひとつはウイルスの遺伝的変異型の生成である。インビボでのその早いHIV変異型の生成は、このウイルスをダーウィン遺伝的モデルの枠組みの中で考えることができる(例えば、Coffin, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 176, 143-164 (1992);およびCoffin, Science, 267, 483-489 (1995) 参照)。ウイルスゲノムのRNAから新しく転写されたプロウイルスに変異を起こすHIV−1の逆転写酵素の分子の不誠実さによって、変異型はつくられる。それ故に、重要な進行の妨げがなく、多くの複製サイクルが起こる生体内での条件では、遺伝的変化の実質的な程度により、多くのウイルス変異体が生成する。今のところ、HIV野生型は、このような制限のない条件では、最も高い選択優位性を持つため、優勢である。しかし、阻害剤、例えばジゾブジンの存在下では、ウイルス変異型は野生型よりも選択的に優位性が与えられ、選択され、その結果優位を占めるだろう(Coffin (1992) および(1995), 上記)。これをもとに、本発明は病原性を持つHIV−1野生型よりも高い選択優位性を持つ、非病原性HIV−1ゲノムを与える条件付き複製ウイルスベクター法を提供するものである。
【0128】
これらの非病原性の条件付き複製HIV(crHIV)ベクターは欠損HIVであり、野生型ウイルスが感染した細胞内においてのみ、複製とパッケージングを行う。crHIVゲノムは、病原性をもつ野生型HIVウイルスの拡大と競合し、そして減少させる。感染宿主における、野生型HIVウイルスの拡大を減少させる効果は、延命を導くはずである。これはまた、感染宿主の、非感染個体へ野生型HIVを感染させる能力を減少させるはずである。crHIVの野生型HIV−1に対する競合を達成させるためには2つの因子が重要である。(1)野生型HIVゲノムよりも、crHIVゲノムの選択優位性が高いこと、そして、(2)野生型HIVが発現している細胞よりも、crHIVが発現している細胞の選択優位性が高いこと(すなわち、crHIVが発現している細胞からのcrHIVビリオン生成の選択優位性が野生型HIVが発現している細胞よりも高いこと)。
【0129】
crHIVベクターは、RNA発現、二量体形成およびパッケージングに必要な配列を持っているので、条件によっては複製するが、機能的(野生型)HIV−1蛋白質HIV−1蛋白質は発現しない。crHIVのU5 RNAではなく、野生型HIVゲノムのU5領域を切断するようにリボザイムカセットを挿入することによって、選択優位性がcrHIVベクターに与えられた。
【0130】
このベクター中に存在するリボザイムは、crHIV RNAを切断しない。なぜなら、crHIV RNAのU5領域は、リボザイムがこれらのサイトへ有効に結合し、切断することを防ぐために保護された塩基置換(塩基置換は他のHIV株おいて存在する)によって改変されているからである。さらに、crHIVは病原性を持たない。なぜならば、crHIVはCD4+細胞死をもたらすと信じられている蛋白質をコードしないからである。(crHIVベクターによって形質転換された)HIV感染細胞が、活性化されるとき、その細胞は、crHIVのゲノムの欠損を相補することができるようになり、その結果、crHIVの子ビリオンが生成する。
【0131】
一般的にcrHIVゲノムは完全な長さを持った感染能を有するHIVのクローンであるpNL4−3(Adachi et al., J. Virol., 59,284-291 (1986)) から構築された。すべてのクローニング反応や、DNA、RNAおよび蛋白質の操作は、当業者によく知られた方法を用いてなされる。そして、それは、例えばManiatisら、Molecular Cloning: A LaboratoryManual, 2nd ed. (Cold SpringHarbor Laboratory, NY (1982))の文献に記載されている。これらの反応に使用する酵素や試薬は商業的提供者(例えば、New England Biolabs, Inc., Beverly, MA; Clontech, Palo Alto, CA;および Boehringer Mannheim,Inc., Indianapolis, IN)から得、製造者の説明に従って使用した。さらに、ベクターの維持と増殖は、一般的に知られている方法、および、以前に報告されている方法(例えば、Dropulic' et al. (1992), 上記、およびDropulic' et al. (1993), 上記)を用いて行った。
【0132】
pNL4−3は、酵素Pst I (転写開始点から約+1000の位置にあるgagを切断する)およびXho I (転写開始点から約+8400の位置にあるnef を切断する)によって切断され、都合のよい制限部位を持っているポリリンカーが挿入された。rev 応答性エレメント(RRE)を含む0.86KbのBgl IIからBam HIまでのフラグメントは、ポリリンカーの中に存在するBam HI部位にクローニングされた。これら操作は、gag がコードされている領域から、U3がコードされている領域まで(すなわち、このようにnef 遺伝子も欠損)のHIV野生型ゲノムを欠損させることになった。このベクターは不完全なgag 転写産物を生成することができるが、機能可能な完全な長さを持つGag 蛋白質を生成することはできない。しかし、野生型Gag の機能は本発明には不要であるから、gag の配列はGag 蛋白質の翻訳をさせないように変異させることができる。
【0133】
ここに記載したシングルあるいはマルチプルのリボザイムを持つリボザイムカセットはBam HI部位の下流のSal I 部位に挿入された。このことを達成するために、リボザイム配列をコードする相補的デオキシオリゴヌクレオチドを合成し、アニーリングし、そしてSal I 部位にクローニングした。crHIVの構築のために用いたリボザイムは、ハンマーヘッド構造を持つリボザイムであった。これらリボザイムは22塩基対からなる触媒ドメインと、それぞれ9塩基対からなる2つのハイブリダイゼイションドメインを含む。このリボザイムはU5RNA配列の+115または+133の部位(すなわち、転写開始点から下流の塩基対の数に対応する部位)のどちらかを標的とする。+115部位と+133部位を標的とするリボザイムのハイブリダイゼイションドメインと触媒ドメイン(下線部)は以下に示す通りである。
CACACAACACTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACGGGCACA ("+115 リボザイム")〔配列番号3〕
ATCTCTAGTCTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACCAGAGTC ("+133 リボザイム")〔配列番号4〕
このリボザイムカセットは、直列に位置する単一、2重あるいは3重のリボザイムのいずれかから構成される。単一(”crHIV−1.1”ベクター、図1B)あるいは3重(”crHIV−1.1”ベクター、図1E)のリボザイムを含むベクターは、+115のU5 HIV RNAの同一部位を標的とする。2重リボザイムを含むベクターは+115の同一部位(”crHIV−1.11”ベクター、図1C)あるいは、U5 HIV RNAの+115と+133の異なった部位:crHIV−1.12 (crHIV−1.12 ”ベクター、図1D)のいずれかを標的とする。これらのベクターはここでは総括的に”crHIV”ベクターと呼ぶ。
【0134】
このベクターの構築を完成させるために、crHIVゲノムのU5領域内にあるハンマーヘッド型のリボザイム認識部位の変異によって、crHIVベクターは、リボザイムによる切断に対する抵抗性(即ち、RNAとしての発現)を与えられた。これを達成させるために、図2〔配列番号2〕に示した塩基置換を含む二本鎖オリゴヌクレオチド(すなわち、AAGCTTGCCTTGAGTGCTCAAAGTAGTGTGTGCCCACCTGTTGTGTGACTCTGGCAGCTAGAGATCCCACAGACCCTTTTAGTCAGTGTGGAAAATCTCTAGCAGTGGCGCC 〔配列番号13〕)をベクターに改変部位を導入するために用いた。特別に、塩基置換は115と133塩基対のリボザイムのハイブリダイゼーションと切断部位に工作された。特に図2に図示されたように、変異は113、114、132、134および142の塩基対に導入された。これら部位はいかなる変異も含んで、改変することができる。(すなわち、GTGTGCCCNNCTGTTGTGTGACTCTGGNANCTAGAGANC 、これらの中でNはどんな変異ヌクレオチドでもよい〔配列番号14〕)。しかし、より好ましくはこの配列は、例えば+113部位のGをAに(この配列は GTGTGCCCATCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC〔配列番号15〕からなる)、+114部位のU(DNA配列としてはT)をCに〔配列番号5〕、+132部位のU(DNA配列としてはT)をCに〔配列番号6〕、+134部位のAをGに(この配列はGTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGTAGCTAGAGATC 〔配列番号16〕からなる)、および+142部位のU(DNA配列ではT)をAに置換して変異させたものであり、これらの変異はそれぞれ単独或いは組み合わせることができる。特に他のU5の変異がない場合、crHIVU5RNAの+114部位〔配列番号5〕および/または+132部位〔配列番号6〕のU(DNAとしてはT)をCに置換したすることにより、リボザイムによる切断を防ぐことができる(Uhlenbeck (1987)、上記)。挿入した塩基置換は、他の種々のHIV株において存在し(Myers et al., HIV Sequence Database, Los Alamos Nat. Lab. (1994))、このことは、これらの置換がHIVゲノムの複製能を下げるものではないことを示している。
【0135】
ここで、公表した方法は、他の条件付き複製ベクター、例えば異なったウイルスゲノム(例えば、異なったRNAウイルス)からなる、あるいは異なった遺伝的抗ウイルス剤からなるベクターの構築に用いることができる。さらに、条件付き複製ベクターは、ベクターが導入された宿主細胞に対して、野生型のウイルスを含む宿主細胞よりも高い選択優位性を与えるようさらに改変することができる。例えば、このようなベクターは、多剤耐性、あるいは、変異プロテアーゼあるいは逆転写酵素をコードするようにさらに改変することができる。
【0136】
実施例2
この実施例は条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターのリボザイムによる切断に対する抵抗性について記載するものである。crHIVベクターのリボザイムによる切断に対する抵抗性を確認するために、インビトロでの転写を行った。これを達成するために、リボザイム配列を、pBluescript KSII (Stratagene, La Jolla, CA) のXho I 部位へクローニングした。変異crHIV U5領域を同様に含んでいる0.21キロ塩基対(Kb)のBgl IIフラグメントを、crHIVベクターから切除し、pBluescript KSIIのBam HI部位に挿入した。その結果得られた改変pBluescript KSIIベクターを、インビトロでの転写の前に、Bss HII によって線状にした。野生型HIV U5 RNAを発現する同様のプラスミド(Myers et al. (1994) (上記)に記載されている)を対照として用いた。これをインビトロでの転写の前にEco RIで線状にした。
【0137】
放射性同位元素標識したU5 HIV RNAとリボザイムRNAを、以前報告されたように(Dropulic' et al. (1992), 上記)、そのベクターのインビトロでの転写によって作製した。放射性同位元素標識した転写産物は40mMのトリス−塩酸、pH7.5、6mMのMgCl2、2mMのスペルミジンおよび10mMのNaClを含む1×転写バッファー中で、(標的物とリボザイムのモル比1:2で)一緒にインキュベートされた。その試料は65℃に加熱され、そして95%のホルムアミド、20mMEDTA、0.05%のブロモフェノールブルーおよび0.05%のキシレンシアノールFFを含む反応停止バッファーを加える前に、5分間37℃に冷やされた。そして、反応生成物は、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分析され、オートラジオグラフィーによって検出された。
【0138】
野生型U5−HIV RNAを+115部位に対する単一リボザイムを含む転写産物とインキュベートした場合、切断は容易に観察された。このような切断によって、生成物PIとP2が生成した。同じ部位あるいは異なった部位に対する2重リボザイムを含むRNAと、野生型HIV RNAをインキュベートした場合にも、切断が認められた。2つの異なった部位を標的とするリボザイムを含む転写産物を、野生型HIV RNAとインキュベートした場合、生成物P1、P2およびP3が生成された。P3は+133部位の切断により生じたものである。
【0139】
これに比較して、改変U5を含むcrHIV RNAを+115部位を標的とする単一リボザイムあるいは+115部位または+133部位のいずれかを標的とする2重リボザイムのいずれとインキュベートした場合も、切断による生成物は検出できなかった。それゆえ、これらの結果は、crHIV U5 RNAは、リボザイムによる切断に対して抵抗性を示し、一方野生型HIV−U5 RNAは、アンチ−U5リボザイムによって切断されることを確認するものである。さらに、これらの結果は、本ベクターが宿主細胞に導入された場合に、野生型のウイルス株が導入された場合と比較して高い複製の選択優先性を持つ条件付き複製ベクター(crHIVベクター以外のベクターを含めて)を与えるために、本発明のアプローチを用いることができることを確認したものである。
【0140】
実施例3
この実施例では、リボザイムを含む条件付き複製ベクターの野生型ウイルスRNAを細胞内で切断する能力について記載する。特にこの実施例では、crHIVベクターの野生型HIV RNAを細胞内で切断する能力について記載する。
【0141】
crHIVベクターを介した野生型HIVの阻害の有効性は、Jurkat細胞へのゲノムの共形質転換によって調べられた。形質転換は、約106のJurkat細胞を最適MEM培地(Life Technologies, Gibco BRL, Gaithersburg,MD) で洗浄し、そして約0.6μgの野生型HIV DNA(pNL4−3)と約1.8μgのcrHIV DNAでその細胞を共形質転換することによって行った。野生型HIVによって形質転換したすべての細胞がcrHIVプロウイルスも含んでいることを確実にするために、野生型HIVとcrHIVプロウイルスのモル比約1:3を用いた。DNAはリポフェクチン溶液(Life Technologies )の中で30分間混合され、そしてJurkat細胞と約3〜6時間インキュベートされた。その後、10%のウシ胎児血清(FBS)を含む完全RPMI1640培地を加えた。ウイルスを含んでいる上清を2−4日ごとに採取し、ウイルスレベルを以前に報告されたように(Dropulic' et al. (1992) 、上記)細胞上清中の逆転写酵素活性により測定した。
【0142】
野生型HIVの複製におけるcrHIVゲノムの影響を図3に示す。野生型HIVと対照ウイルスで共形質転換された細胞(図3、ぬりつぶしたボックス)に比べて、野生型HIVとcrHIV−1.1で共形質転換した場合、ウイルスの増殖は遅くなった(図3、白抜きボックス)が、増殖は阻害されなかった。共存条件下(たとえばDropulic' et al. (1992), 上記)、インビボで、アンチ−U5リボザイムは、HIVの複製を阻害することができるので、ここで認められたウイルスの増殖は、次のいずれかの結果によるものであろう。(a)子ビリオンへの野生型HIV RNAの優先的なパッケージング、(b)リボザイムによる切断に対して抵抗性を示す野生型HIV RNAの生成、あるいは(c)crHIV RNAでの機能しないリボザイムの蓄積。
【0143】
2重リボザイムを含むcrHIVベクターと野生型HIVでの共形質転換により、「エスケープ」ウイルスの増殖の性質が、調べられた。もし、野生型HIVの優先的なパッケージングによってウイルスの増殖が起こったのであれば、2重リボザイムを持つcrHIVベクターを含む培養は、単一リボザイムを持つcrHIVを含む培養と同様の増殖速度をもつはずである。しかし、もし、(ウイルスの逆転写酵素の不誠実さの結果として)野生型HIV RNAが、リボザイムの作用に対する抵抗性になったことにより、ウイルスが増殖するのであれば、ウイルスの増殖速度は、crHIV−1.11(単一のウイルスの部位に対して標的を持つ)を含む培養に比べて、crHIV−1.12(2つのウイルスの部位に対して標的を持つ)を含む培養において、より大きく遅くなるはずである。あるいは、もしウイルスの増殖のおくれが、異なった2重のリボザイムを持つcrHIVを含む培養において、似ているのであれば、これは単一に発現しているリボザイムの一部は、インビボでは機能しないものであることを示唆するものであろう。
【0144】
図3に示されているようにcrHIV−1.11を含む培養(図3、白抜きに十字のボックス)、または、crHIV−1.12を含む培養(図3、斑点の入ったボックス)は単一に転写されるリボザイムを含むcrHIV−1.1(図3、白抜きボックス)よりもウイルスの増殖の始まりが著しく遅くなった。しかし、crHIV−1.11とcrHIV−1.12の間では、ウイルス増殖始まりの遅れは同程度であり、これらの結果は3番目の可能性が正しいこと、すなわち、単一に転写されるリボザイムは2重のリボザイムよりも、切断される標的RNAにおいて、動的に効果が小さいことを示すものである。共形質転換の実験が、リボザイムを持つcrHIVゲノムの分子が過剰な条件で行われているので、このことは、細胞内で転写されたリボザイムのある部分が、機能しない、おそらくミスフォールディングされた立体配座を形成できることを示唆するものである。
【0145】
野生型HIV RNAと関連する機能的リボザイムの、より大きな可能性を用意することにより、この動的制限を開放するマルチプルリボザイムの能力を調べた。これらの実験のために、野生型HIVと+115部位に対する3重リボザイムを持つcrHIV−1.111により、Jurkat細胞を共形質転換した。図3(斑点の入ったボックス)に示すように、22日間の培養後でも、3重リボザイムを使うことで、ウイルスの増殖は認められなかった。これらの結果は、HIVの感染後に、正常な初代T細胞はしばしば短期間(約1週間)で死滅するという事実があるので、特に重要なものである。
【0146】
さらにこれらの結果は、crHIVベクター、特にマルチプルのリボザイムを持つcrHIVベクターのような、リボザイムを持つ条件付き複製ベクターを、HIVのような野生型ウイルスゲノムと細胞内で競合させるために用いることができることを確認するものである。
【0147】
実施例4
この実施例は、野生型ウイルスRNAを細胞内で切断するための、リボザイムを持つ条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの潜在的な能力が存在するメカニズムに関する研究について記載する。
【0148】
これらの実験のために、野生型HIVとcrHIV−1.111の共形質転換培養から得た細胞上清のRNAを、ここに記載したように逆転写ポリメラーゼチェーンリアクション(RT−PCR)を用いることによって調べた。RT−PCRは図5A−Cに示したプライマーを用いて行った。すなわち、リボザイムRNAを、プライマーR1とR2を用いて検出し、野生型HIV RNAをプライマーV1とV3を用いて検出し、そして、crHIV RNAを、プライマーV2とV3を用いて検出した。プライマーR1(TGTGACGTCGACCACACAACACTGATG 〔配列番号7〕)とR2(TGTGACGTCGACTCTAGATGTGCCCGTTTCGGC 〔配列番号8〕)はどちらもSal I の制限部位を持ち、また、リボザイムのハイブリダイゼイション配列に結合することによってアンチ−U5リボザイムRNAを増幅させる。crHIV−1.111が発現している細胞では、単一、2重および3重のリボザイム増幅生成物が認められる。プライマーV1(GGTTAAGCTTGAATTAGCCCTTCCAGTCCCC〔配列番号9〕)とV2(GGTTGGATCCGGGTGGCAAGTGGTCAAAAAG 〔配列番号10〕)はどちらもBam HIまたはHin dIIIの制限部位を持ち、また、野生型HIV RNAを増幅する。前述のV1プライマーに加えて、V3プライマー(CGGATCCACGCGTGTCGACGAGCTCCCATGGTGATCAG 〔配列番号11〕)はBam HIと他の制限部位を持つ。このプライマーは、crHIV−特異的なポリリンカー配列から、crHIV RNAを増幅させる。
【0149】
RT−PCRを行うためにビリオンと細胞内RNAをTrizolTM (Life Technologies)を用いて単離した。細胞内のウイルスRNAは、微量遠心分離によって得られた細胞のペレットから直接単離した。ビリオンRNAは細胞と残渣を12,000×g 、5分間の微量遠心分離で除いた最初の培養上清から単離した。TrizolTMを細胞を除いた上清に添加し、相分配のためにクロロホルムを加える前に、この混合液を5分間インキュベートした。この水相を新しいチューブに移し、RNAをグリコーゲンを用いたイソプロパノールによって沈殿させた。RNAペレットを再構成させた後、ウイルスのRNAは逆転写され、放射性同位元素標識したプライマーを用いたPCRにより増幅された。
【0150】
50mMのトリス−塩酸、pH8.3、75mMのKCl、3mMのMgCl2、5mMのDTT、1mMのdNTPsおよび20ユニット(U)のRNase阻害剤を含んだファースト−ストランドバッファーに、25UのMuLV逆転写酵素を加えて、逆転写を、42℃で1時間行った。逆転写が完了した後、逆転写酵素を65℃10分間の加熱処理によって不活化した。完全な混合液を、終濃度10mMのトリス−塩酸、pH8.3、50mMのKClおよび1.5mMのMgCl2を含む混合液をつくるために、PCRバッファーへ直接添加した。この混合液を2.5UのTaq酵素を用いて30サイクル増幅した。放射性同位元素標識したPCR生成物を、変性PAGEで分析し、オートラジオグラフィーにより検出した。
【0151】
crHIV−1.111リボザイムRNAは、野生型HIV−1とcrHIV−1.111プロウイルスゲノムで共形質転換した後、20日以上経過した細胞の培養上清に存在する。これは単一、2重または3重のリボザイムRNAのPCR生成物が存在することから明らかである。これに比べて、対照の野生型HIVが形質転換した培養により生成されたビリオンのなかには、このような生成物は認められない。この期間、crHIVにより誘導された細胞毒性を示すような兆候はなく、細胞は正常な状態を示した。このことは、逆転写酵素の活性は観察されたなったにもかかわらず、crHIVがウイルス粒子の中にパッケージされたことを確認するものである。さらにこのことは、crHIVがHIVの遺伝子機能によって細胞内において相補されることができることを示すものである。
【0152】
それゆえ、これらの結果は、crHIVが野生型HIVの拡大を阻害することにより野生型HIVの複製を阻害することを示すものである。これらの結果はさらに他の条件付き複製ベクター、例えば、他のウイルスベクターおよび/または他の遺伝的抗ウイルス剤を含むベクターが同様に野生型ウイルスの複製と拡大を阻害するために用いることができることを示すものである。
【0153】
実施例5
この実施例は、リボザイム含有条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの、細胞内で野生型ウイルスRNAを切断する能力の基礎となるメカニズムのさらなる研究を説明する。
【0154】
一つの可能性のあるメカニズムは、野生型HIVおよびcrHIV RNAの両方が子ビリオンにパッケージされ、リボザイムおよび標的RNAが共に局在化することによりこの小さなウイルス容積内で効果的な切断が起こることである。あるいは、crHIV RNAの子ビリオンへの選択的パッケージングが起こり得る。なぜなら、野生型HIV RNAの切断が細胞内で優勢的に起こり、HIVビリオン内では起こらないからだ。これらのメカニズムをここで研究した。
【0155】
crHIV−1.111が野生型HIVの広がりを阻害した手段を、野生型HIV単独でトランスフェクションした細胞培養液、または野生型HIVとcrHIV−1.111で共トランスフェクションした細胞培養液中のビリオン−および細胞−関連ウイルスRNAのRT−PCRにより調べた。crHIV−1.111 RNAは、共トランスフェクションの後に産生された子ビリオン中に独占的に存在した。対照的に、コントールの野生型HIVでトランスフェクションした培養液は野生型HIV RNAのみを含有するビリオンを産生した。細胞内では野生型HIVおよびcrHIV−1.111 RNAの両方が共トランスフェクションした培養液中に明らかに存在した。従って、野生型HIVおよびcrHIV RNAの両方が細胞内で合成されるにもかかわらず、crHIV RNAが選択的に子ビリオンにパッケージされる。これは、crHIV−1.111が、幾つかのサブゲノミック野生型RNAをビリオン産生の蛋白質に翻訳されるようにする一方で、カプシド化の前にゲノミック野生型HIV RNAを選択的に切断することにより、野生型HIVの広がりを阻害したことを示唆する。
【0156】
ゲノミック野生型RNAがcrHIV RNAにより選択的に切断されるかを試験するために、共トランスフェクションの約20日後に得たJurkat細胞培養液中に存在する細胞内RNAのタイプをノーザン ハイブリダイゼーションにより調べた。ノーザン ブロット分析に用いたプローブは、図5に示すように、pNL4−3のU5領域からの0.21kb Bgl II断片から単離した。
【0157】
野生型HIVでトランスフェクションした培養液は、全ての野生型HIV RNA種、即ち、ゲノミックおよびサブゲノミックRNA種を発現する。対照的に、crHIV−1.111共トランスフェクションした培養液は、著しい量のゲノミック(9.7kb)野生型HIV RNAを発現しない。低分子量のRNA(これはサブゲノミック野生型HIV RNAの存在を反映する)が共トランスフェクションした培養液中にみとめられた。これらのサンプル中のHIV−RNAスメア化は、これらの低分子量RNA内にいくらかの分解されたゲノミックHIV RNAが存在するかもしれないことを示唆する。対照的に、コントールの野生型HIV細胞からの野生型HIV RNAのスメア化は、HIV感染の後期にみられる著しいCPEから生じるRNA分解に起因する。
【0158】
従って、これらの結果は、野生型HIVおよびcrHIV−1.111ゲノムを含有する細胞内でゲノミック野生型HIV RNAが選択に切断、分解され、ビリオンへの選択的crHIV RNAパッケージングを可能にすることを裏付ける。さらにまた、これらの結果は、他のウイルス、特に他のRNAウイルスにもこの方法が同様に用いられることを示す。
【0159】
実施例6
この実施例は、リボザイム含有条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの、野生型ヘルパーウイルスの存在下で完全なウイルス複製サイクルを経る能力の研究を説明する。
【0160】
crHIVゲノムがヘルパー野生型HIVゲノムの存在下で完全なウイルス複製サイクルを経ることを確かめるために、crHIVゲノムを含有するウイルス粒子の産生を幾つかの条件下で調べた。詳細には、まず、crHIVゲノムを含有するウイルス粒子の産生を活性化ACH2細胞(AIDS Reagent Reference Program, Rockville, Maryland) 内で調べた。これらの細胞は潜伏性のHIV−1感染細胞株からなる。次に、これらの培養液由来のcrHIV粒子が、非感染Jurkat細胞に感染しcrHIV DNAを産生する能力を調べた。
【0161】
これらの実験のために、約106個のACH2細胞を約2.5μgのベクターDNAでトランスフェクションした。この細胞をトランスフェクションの約24時間後、50nM 12−O−テトラデカノイルホルボール 13−アセタート(TPA)で刺激した。トランスフェクションの約72時間後、細胞上清からRNAを単離した。実施例4に記載するように、R1およびR2プライマーを用いてRT−PCRを行った。crHIVリボザイムRNAが、crHIV−1.11でトランスフェクション後の活性化ACH2細胞により産生されたビリオン中で検出されたが、pGEM 3Zコントロールプラスミド(Promega, Madison, WI)でトランスフェクション後には検出されなかった。従って、crHIVベクターの感染CD4+細胞へのトランスフェクションは、crHIV RNAを含有するウイルス粒子を産生させる。
【0162】
これらの培養液由来のcrHIVビリオンが、非感染Jurkat細胞に感染しcrHIVプロウイルスを産生する能力を次に調べた。このようなプロウイルスは、TrizolTMを使用して細胞DNAを単離し、DNAをEco RIで切断し、リボザイムDNAを実施例4に記載のR1およびR2プライマーを用いるPCRにより増幅することにより検出した。crHIVでトランスフェクションしたACH2細胞由来の細胞上清を感染させた後のJurkat細胞中でcrHIV DNAが産生された。即ち、このケースでは、crHIV−1.11リボザイムDNAの特異的増幅がみとめられる。対照的に、刺激したACH2細胞上清のみを感染させた細胞(即ち、crHIV−1.111によるACH2細胞の感染がない)では、リボザイムDNA生成物はみとめられなかった。
【0163】
crHIVベクターは野生型ヘルパーHIVゲノムの存在下でのみ広がるので、crHIVゲノムを含有する非感染細胞が、野生型HIVに感染後、レスキューされる能力を調べた。これらの実験は、まず、細胞をcrHIV−1.11(即ち、crHIVベクターの代表として)でトランスフェクションし、次いで野生型HIV(即ち、pNL4−3)で重感染することにより実施した。従って、約106個のJurkat細胞を約2.5μgのcrHIV DNAでトランスフェクションした。この細胞を野生型HIVストックウイルスに感染させる前に約72時間増殖させた。crHIV−1.11でトランスフェクションしたJurkat細胞をストックpNL4−3(細胞106個あたり2×105 TCID50単位)と共に37℃で約2時間インキュベートし、Opti−MEMR I Reduced Serum Mediumで3回洗浄し、完全培地(10%FBSを添加したRPMI 1640)に再懸濁した。感染の約5日後に、実施例4に記載のように細胞上清からRNAを単離した。
【0164】
TCID50アッセイのために、HIVを含有する上清を96穴プレートに5倍限界希釈で入れた。約104個のMT4細胞(AIDS Reagent Reference Program, Rockville, Maryland; Harada et al.,Science, 229, 563-566 (1985)) を希釈したウイルス懸濁液に添加し、得られた懸濁液をウイルスが完全に増殖するまで7日間インキュベートした。MT4細胞は、HTLV−1からのTax遺伝子(これはHIV−1におけるTatに類似したトランスアクチベーター遺伝子である)を含有する修飾されたT細胞である。次いで上清の逆転写酵素活性を測定し、前記のように評価した(Dropulic' et al. (1992), 前記)。組織培養感染投与量(TCID50)をReedとMuenchの方法(Tech. in HIV Res., Johnson et al., eds., Stockton Press, 71-76 (1990))により測定した。
【0165】
crHIVでトランスフェクションしたJurkat細胞の野生型HIVによる重感染は、crHIVゲノムがウイルス粒子内へレスキューされる結果となった(図10C、レーン4)。野生型HIVで重感染後、crHIVゲノムはウイルス粒子内へパッケージされる。この間、細胞は正常のようであり、細胞毒性の明らかな徴候はなかった。
【0166】
これらの結果は、crHIVゲノムが、野生型HIVヘルパーウイルスの補充後、完全な複製サイクルを経ることが可能であることを裏付ける。これらの結果は、他のウイルスゲノムが、対応する野生型ウイルスの補充後、完全な複製サイクルを経ることができる可能性もまた裏付ける。
【0167】
実施例7
この実施例は、前の実施例で報告されたエスケープウイルス増殖の性質を説明する。
【0168】
野生型HIVでトランスフェクションした、または野生型HIVおよびcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液からのエスケープウイルス増殖の性質を、前記のようにRT−PCRを用いてビリオンRNAを分析することにより調べた。ウイルス増殖の初期に培養液により産生されたウイルス(即ち、11日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、19日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)は、crHIV RNAを優勢的に含有していた。対照的に、種々の増殖の後期の培養液(即ち、17日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、23日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)は、野生型HIV RNAを優勢的に含有していた。従って、野生型HIVおよびcrHIV−1.11プロウイルスで共トランスフェクションした細胞からのウイルス増殖は、細胞内リボザイム制限からエスケープした野生型HIVの増殖に起因すると考えられる。重要なことに、crHIVゲノムは、ウイルス増殖の後期の培養液においてもまだ総HIVゲノムのかなりの割合を含有していた。これは、野生型HIVゲノムが優位であるにもかかわらず、crHIVゲノムが野生型HIVゲノムよりも効率は低いけれども培養液中に広がっていたことを示唆する。
【0169】
これは、crHIVベクターが、さらに条件付き複製ベクターと同様に、ウイルス複製のための野生型ウイルスゲノムに有効に対抗し得ることを裏付ける。
【0170】
実施例8
この実施例は、前の実施例で報告されたエスケープウイルス増殖の性質をさらに説明する。
【0171】
エスケープウイルス増殖の間のビリオンへのcrHIV RNAパッケージングの効果を、感染性野生型HIV力価を測定することにより調べた。限界希釈TCID50アッセイ(実施例6に記載)を、ウイルス増殖の指数増殖期の培養液(即ち、14日目の野生型HIV培養液、16日目のcrHIV−1.1培養液、20日目のcrHIV−1.11またはcrHIV−1.12培養液)からのウイルス上清で行った。逆転写酵素活性を用いるアッセイの前にサンプルを標準化した。野生型HIV、crHIV−1.1、crHIV−1.11およびcrHIV−1.12培養液からの上清の感染投与量は、それぞれ1.3×104 TCID50/ml、5.4×103 TCID50/ml、3.8×103 TCID50/mlおよび3.8×103 TCID50/mlであった。従って、escapeウイルス増殖の間のビリオンへのcrHIV RNAのパッケージングは、産生される感染性野生型HIV粒子の数を減少させる。
【0172】
次に、感染性野生型HIV力価の減少が、エスケープしたビリオン内の野生型HIV RNAの切断の結果であるかを調べた。共トランスフェクションした細胞の上清中に存在するビリオンからのRNA切断生成物をプライマー伸長法により評価した。図5に示すPEプライマー(GGTTAAGCTTGTCGCCGCCCCTCGCCTCTTG [配列番号12])(これはHindIII制限部位を有する)を使用した。切断部位を越えるプライマー伸長を、50mMトリス−HCl,pH8.3,75mM KCl,3mM MgCl2,5mMDTT,1mM dNTPsおよび20U RNase阻害剤を含有するfirst−strand緩衝液に25U MuLV逆転写酵素を添加した液中で42℃で2時間行った。crHIVで共トランスフェクションした培養液由来の濃縮ビリオン調製物からウイルスRNAを単離した。4℃で15分間、2,000×gで遠心分離することにより細胞および残滓を除去した。次いで4℃で4時間、30,000×gで超遠心分離することによりウイルスを濃縮した。次いで前記のようにTrizolTMを使用してウイルスペレットからウイルスRNAを単離した。
【0173】
ウイルス増殖の後期に野生型HIVでトランスフェクションし、crHIV−1.11で共トランスフェクションした培養上清(即ち、17日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、23日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)からウイルスRNAを単離した。これらの培養液中のビリオンは野生型HIVおよびcrHIV ゲノミックRNAの両方を含有していた。完全長のプライマー伸長cDNAが、野生型HIVでトランスフェクションした培養液およびcrHIV−1.11で共トランスフェクションした
培養液の両方にみとめられた。広範なプライマー・エクステンション分析にもかからわず、U5 RNA切断に起因するはずのより小さいcDNAは検出されなかった。従って、感染性野生型HIV力価の減少は、野生型HIV RNAのウイルス内での切断によるのではなく、子ビリオン内でのcrHIV RNAによる数的な置換による。
【0174】
従って、これらの結果は、ここに記載する方法を、本発明による条件付き複製ベクターを用いて子ビリオンからHIVゲノムや他のゲノムのような野生型ゲノムを置換するために用いることができることを示す。
【0175】
実施例9
この実施例は、crHIVベクターが、プラスミドまたは組換えcrHIV−1.111ウイルスで攻撃した後、野生型HIV複製を阻害し得ることを実証する。
【0176】
Jurkat細胞をストックHIV(クローンpNL4−3)に感染させ、(1)crHIV−1.111構成体を含有するプラスミドDNAまたは(2)293細胞中にパッケージされた組換えcrHIV−1.111ウイルス、即ち、変異株crHIV−1.M(Nadlini et al., Science, 272, 263-267 (1996))のいずれかで攻撃した。細胞をDLS脂質を介したトランスフェクション(Thierry et al., PNAS, 92, 9742-9746 (1995)) またはcrHIVを介した送達に付した。元々のHIV感染の12日後、逆転写酵素アッセイを用いることによりウイルス複製を測定した。野生型陽性コントロール培養液は正常なレベルの野生型HIV増殖を示した。野生型HIVに感染した細胞を、DLSを介したトランスフェクションにより変異株crHIV−1.Mで攻撃したとき、野生型HIVウイルス増殖は影響を受けなかった。対照的に、野生型HIVに感染した細胞を、DLSを介したトランスフェクションによりcrHIV−1.111(これは抗HIVリボザイムをコードする)で攻撃したとき、野生型HIVウイルス増殖(即ち、複製)は有意に阻害された。さらに、変異株crHIV−1.Mを野生型HIVで攻撃したとき、野生型HIV複製は影響を受けなかった。対照的に、野生型HIVをcrHIV−1.111で攻撃したとき、野生型HIV複製は有意に阻害された。このデータは、野生型HIV複製を細胞内で有意に阻害するためにcrHIVベクターを使用し得ることを示す。
【0177】
実施例10
この実施例は癌の治療的処置における条件付き複製ベクターの用途を説明する。
【0178】
条件付き複製癌治療ウイルスベクターは、その複製に必須のウイルス蛋白質を欠いているので、正常細胞内での複製能を欠くように構築することができる。しかしながら、このベクターは癌細胞に感染すると、癌細胞のユニークな特性が不完全な癌治療ベクターの複製を促進する因子(例えば、好ましくは癌細胞の異常な増殖を促進する同じ変異細胞蛋白質)を提供する。従って、この方法は、ウイルスベクターの選択的パッケージングが起こらず、代わりに細胞内で子ベクター由来ビリオンのパッケージングにより癌細胞が優先的に溶解するので、ウイルス感染の治療に用いられる方法とは異なる。しかしながら、この方法は、癌細胞中で条件付き複製ベクターを選択的に増殖させるためにヘルパーウイルス発現ベクターを使用できる点でウイルス感染に用いられる方法と類似する。ベクターおよび/またはヘルパーウイルス発現ベクターを腫瘍特異的因子に応答し得るようにすることができ、これによりベクターが腫瘍細胞中に選択的に広がるのを促進する。
【0179】
この治療方法で利用できる腫瘍特異的因子としては、(1)ウイルスの細胞内への進入のレベル(例えば、ウイルスベクターを癌細胞に選択的に進入させるが、正常細胞には進入させない腫瘍特異的レセプターの存在);(2)ウイルスの転写のレベル(例えば、癌治療ベクターが癌細胞内で選択的にそのRNAを転写するが、正常細胞内では転写しないようにする変異癌細胞蛋白質);(3)ウイルスの成熟および遊離のレベル(例えば、条件付き複製癌治療ベクターを選択的に成熟させ(例えば、ウイルス蛋白質またはゲノムへの変異細胞蛋白質の結合により)、結果としてウイルス成熟および遊離を促進し得る変異癌細胞蛋白質)で作用するものが含まれるがこれらに限定されない。従って、癌細胞内に存在する変異蛋白質はウイルス複製サイクルの多くの段階でウイルス蛋白質(またはゲノミックRNAまたはDNA)と相互作用し得る。これらの相互作用を操作して、条件付き複製癌治療ベクター(正常細胞内では不完全だが、癌細胞内では複製し得る)を作り出すことができる。
【0180】
特に、この方法はT細胞白血病の治療に利用することができる。T細胞白血病は予後の悪い、癌の重篤な状態である。白血病T細胞の多くはCD4+である。従って、抗T細胞白血病処置用の条件付き複製ベクターは、ベクター主要要素として野生型HIVを用いて構築することができる。HIVが表面上、CD4糖蛋白質を介して細胞内に入るので、このベクターはウイルスの細胞への進入のレベルで作用し得る。
【0181】
このベクターは、例えば、野生型HIVに欠失を導入することにより、癌治療ベクターにすることができる。HIVゲノムは前記のように、それをDNAの形にし、部位特異的な突然変異誘発を行うことにより変異させることができる。この方法は、ウイルスの欠損を他の腫瘍抑圧突然変異または陰性発癌遺伝子で補うことにより、またはウイルス蛋白質と相互作用する他の腫瘍特異的因子を利用することにより同様に用いることができる。例えば、HIV複製に重要な蛋白質をコードするtat遺伝子を欠失させることができる。Tatの非存在下ではHIVはその発現を上向きに調節することがもはやできないので、HIV増殖に絶対的に必須である。Tat蛋白質は、HIVプロモーターに関連するTAR RNAステムループ構造に結合することにより機能し、100倍以上のHIV発現を上向きに調節し得る。従って、TatなしではHIVをベースとするベクターはHIV蛋白質を発現せず、増殖もせず、正常な(即ち、癌性でない)T細胞を殺すこともない。
【0182】
しかしながら、白血病T細胞は典型的に機能的に変性された分子(変異した、過剰発現の、または機能しないのいずれかである)を含有する。この分子機能の変性された状態は正常細胞には関係ない。非変異状態(しかし変異状態ではない)では、この分子は細胞増殖および/またはアポトーシス(プログラムされた細胞死)の調節に機能している。変異状態に関連するこの変化を、条件付き複製ウイルスベクターの増殖を特異的に促進するために用いることができる。これはヘルパーウイルス発現ベクターの存在下または非存在下で行うことができる。例えば、Tatの欠損は腫瘍特異的プロモーター(このプロモーターは過剰発現される白血病細胞中の遺伝子からのものである)により駆動されるヘルパー発現ベクターで補充することができる。このようなベクターは白血病T細胞内のみで複製することができ、正常細胞内では複製できない。白血病T細胞内でのウイルス発現および増殖は、初期のウイルス産生に伴う細胞の溶解と死を結果としてもたらすだろう。このベクターは細胞死を促進するさらなる要素(例えば、毒素、サイトカインまたは免疫ターゲッティングを促進する抗原をコードする配列)を担持するようにすることもできる。
【0183】
他の方法および計画も同様に、さらなる条件付き複製癌治療ベクターの構築に利用することができる。
【0184】
実施例11
この実施例は、crHIV−1.111ベクターよりも改良された増殖特性を有する第二世代crHIV構成体(cr2HIV)の開発を説明する。
【0185】
第二世代ベクターはcrHIV産生細胞からのcrHIV粒子の産生を増加させることができる。より多くのcrHIV粒子の産生はそれらが広がるのを容易にし、野生型HIVの培養液中の増殖を防ぐ。野生型HIVによる重感染を妨害する蛋白質をコードする配列を欠くため、このベクターは、天然の野生型HIVの全ての配列を含有するが、Tat遺伝子をコードしない。Tat遺伝子の代わりにTat遺伝子上の3つの異なる部位に作られた3重抗Tatリボザイムカセット([配列番号17])が存在する。また、Tatリボザイムがゲノミック野生型HIV RNAを選択的に切断し、野生型HIV RNAをスプライスしないようにTatスプライス部位が欠失している。これはTatの欠損を補充し、crHIV複製を容易にする。蛋白質(おそらく免疫原のような蛋白質遺伝子抗ウイルス剤以外の蛋白質)をコードしない以前のベクターとは対照的に、第二世代ベクターはTatの存在下でこれらの蛋白質をコードするが、発現するのみである。野生型HIVおよびcrHIVゲノムの両方を含有する細胞内で、crHIVゲノムは選択的にパッケージされるだけでなく、crHIV−1.111細胞からに比べてより多くのビリオンが産生されるだろう。なぜなら、構造蛋白質が野生型HIVから産生されるだけでなく、crHIVゲノムからも産生されるからだ。従って、このベクターは増殖のための選択的な利点を付与されている。なぜなら、このベクターは野生型HIV鋳型からビリオンを産生するだけでなく、crHIV鋳型からも産生するからだ。
【0186】
第二世代ベクターもまたリボザイムを含有するかまたはコードすることを特徴とし、このリボザイムの触媒ドメインはベクター自身の触媒ドメイン以外の領域を標的とする。HIVリーダー配列のU5領域を標的とするリボザイムを含有するかまたはコードし、crHIVベクターのリーダー中に修飾されたU5配列を取り込むことを必要とするcrHIV−1.111と対照的に、第二世代ベクターのリボザイムはベクター自身中にはない領域を標的とし、このためベクターの配列を修飾する必要がない。これは野生型HIVの修飾crHIV U5配列との組換えにより耐性HIVが形成され得る可能性を少なくする。従って、野生型HIVのcrHIV配列との組換えは、野生型HIVに何ら利点を与えず、リボザイム配列を野生型HIVに取り込むことは野生型HIVにとって有害なだけである。
【0187】
第二世代ベクターはさらに、多くの異なるリボザイムを取り込むことを特徴とし、それぞれのリボザイムは異なる部位を標的とし、野生型HIVがリボザイム耐性変異株を形成する可能性を少なくする。
【0188】
安全を目的とするベクターシステムのさらなる改良において、条件付き複製ワクチン、即ち、「ヘルパー−ベクター」構成体に、crHIV複製を特異的に促進し、安全な方法で広がる遺伝子的要素/因子を加えることによりさらに改良することができる。一つの態様は、野生型ウイルスを産生するベクターとの遺伝子組換えを防ぐためにヘルパー−ベクターにリボザイムを導入することである。このようにして、上記cr2HIVベクターに、その広がりを促進するためにTatヘルパー発現ベクターを補充することができる。ヘルパー発現ベクターに抗HIVリボザイムを挿入することにより、組換えの機会が最小限になる。なぜなら、ベクターがヘルパー−ベクターRNAと遭遇することは相互の切断と破壊をもたらすことになるからだ。従って、ヘルパー発現ベクターは特に予防または治療計画を助けるために多くのやり方で改変することができる。従って、cr2HIVベクターはHIVに対するワクチンとしての有用性を有する。なぜなら、このベクターは(1)複製し、よって宿主の免疫応答を持続的に刺激し、(2)HIVに由来し抗原的に変化するので宿主が多様なエピトープを認識するようにさせるからだ。
【0189】
本明細書において引用した全ての文献(特許、特許出願および刊行物を含む)は、言及したことで、その全体が本明細書に組み入れられるものである。
【0190】
好適な実施態様を強調して本発明を説明したが、当業者には好適な実施態様の変形を調製および使用し得ること、ならびに本明細書で特に説明した以外でも本発明を実施し得ることは自明であろう。本発明は、そのような変形および代替の実施を含むことを意図している。従って、上記の特許請求の範囲で定義される発明の精神および範囲内に包含される全ての変形を本発明は含む。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1A】図1Aは、野生型HIV中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称:cr,条件付き複製;U5,U5コード配列;Rz,リボザイム;Ψ, パッケージングシグナル;gag, polおよびenv,それぞれウイルスコアを形成する蛋白質、逆転写酵素およびエンベロープのコード配列;tat, rev, rre およびnef,付加的なウイルス遺伝子;白抜きのボックス,ウイルスロングターミナルリピート。野生型U5コード領域中の十字は、本発明のリボザイムが、野生型U5 RNA中で切断するが、修飾crHIV U5 RNA(すなわち、「mU5」)中では切断しない、おおよその位置を示す。
【図1B】図1Bは、crHIV−1.1中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1C】図1Cは、crHIV−1.11中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1D】図1Dは、crHIV−1.12中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1E】図1Eは、crHIV−1.111中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図2】図2は、野生型HIV U5 RNA[配列番号1](A)および修飾crHIV U5 RNA[配列番号2](B)のDNA配列を示す。番号は転写開始点から下流への塩基数を指す。
【図3】図3は、野生型HIVおよびcrHIV−1.1(白抜きのボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.11(白抜きに十字を入れたボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.12(斑点をつけたボックス)、並びに野生型HIVおよび対照プラスミドpGEM-3Z (塗りつぶしたボックス)で共トランスフェクションされたJurkat細胞における野生型HIV複製のcrHIVを介した阻害についての、時間(共トランスフェクション後の日数)に対する逆転写酵素活性(cpm/μl)を示すグラフである。
【図4】図4は、野生型HIVおよびcrHIV−1.1(白抜きのボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.11(白抜きに十字を入れたボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.111(斑点をつけたボックス)、並びに野生型HIVおよび対照プラスミドpGEM-3Z (塗りつぶしたボックス)で共トランスフェクションされたJurkat細胞における野生型HIV複製のcrHIVを介した阻害についての、時間(共トランスフェクション後の日数)に対する逆転写酵素活性(cpm/μl)を示すグラフである。
【図5A】図5Aは、野生型HIVからのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称:U5,U5コード配列;Ψ, パッケージングシグナル;gag, polおよびenv,それぞれウイルスコアを形成する蛋白質、逆転写酵素およびエンベロープのコード配列;白抜きのボックス,ウイルスロングターミナルリピート;塗りつぶしたボックス,tat およびrev コード配列;およびPE,V1,V2,V3,R1およびR2,野生型および/または条件付き複製ウイルスに使用されたプライマー。野生型U5コード領域中の十字は、本発明のリボザイムが、野生型U5 RNA中で切断するが、修飾crHIV U5 RNA(すなわち、「mU5」)中では切断しない、おおよその位置を示す。
【図5B】図5Bは、crHIV−1.1からのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称等は、図5Aと同様であり得る。
【図5C】図5Cは、crHIV−1.111からのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称等は、図5Aと同様であり得る。
【技術分野】
【0001】
本願は、1995年11月28日に出願され、その後仮特許出願に変更された米国特許出願第08/563,459号に基づく優先権を主張するものであり、ここで言及することによってそのすべてが組み込まれる。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、条件付きで複製するウイルスベクター、そのようなベクターの作製、修飾、増殖および選択的パッケージング方法、そのようなベクターに適した特定の核酸およびアミノ酸配列を有する単離された分子、そのようなベクターを含む医薬組成物および宿主細胞、並びにそのようなベクターおよび宿主細胞の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因としてのヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見は、このウイルスの感染サイクルの根元的メカニズムおよびこのウイルスの病原についての過度の研究を助長している。このようなメカニズムに関する研究は、研究者らに、HIVだけでなく他のウイルスに対しても同様に有効な抗ウイルス剤の開発のためのターゲットを、絶えず数を増やしながら提供している。これらの抗ウイルス剤、特にHIVに対するものは、その作用機序によってグループに分類することができる。そのようなグループには、逆転写酵素阻害剤、ウイルスの細胞への侵入の競合物およびプロテアーゼ阻害剤、さらに、ここでは「遺伝的抗ウイルス剤」と称するより最近のグループが含まれる。
【0004】
一般に、各種の抗ウイルス剤はそれぞれ固有の利点と制限を有しており、特定の治療状況の緊急性に基づいて評価されなければならない。ジドブジン(3’−アジド−3’−デオキシチミジン、AZTとしても知られる)、プロテアーゼ阻害剤等のような抗ウイルス剤は、患者の身体の細胞に比較的容易に送達することができ、広く研究されている。ウイルスの感染サイクル中にある特定の因子をターゲッティングすると、そのような薬剤はHIVに対してあまり有効ではないことが分かっている。これは、第一には、HIVの系統が急速に変化し、単一の効果の位置を有する薬剤に対して耐性になるという事実による(非特許文献1)。したがって、HIVゲノムにおける遺伝的変異(variation )と急速な突然変異(mutation)の問題は、HIV感染を治療するための新たな抗ウイルス戦略を考えることを強いている。このような考え方に沿えば、遺伝的抗ウイルス剤は、細胞内で、多くの異なるレベルで働くので魅力的である。
【0005】
遺伝的抗ウイルス剤は、それらがウイルス感染から防御する標的細胞に分子的要素として導入されるという点で他の治療剤とは異なる(非特許文献2−3)。遺伝的抗ウイルス剤はいかなる遺伝的配列であってもよく、アンチセンス分子、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、インターフェロン、毒素、免疫原およびリボザイムが含まれるが、それらに限定されない。特にリボザイムは、HIV RNAを含む標的RNAを配列特異的なやり方で切断する遺伝的抗ウイルス剤である。リボザイムを介した標的RNAの切断の特異性は、HIV複製を含めたウイルス複製の治療的阻害剤としての、リボザイムの可能性のある使用を示唆する。ハンマーヘッドおよびヘアピン状のリボザイムのように、さまざまなタイプのリボザイムを抗HIV戦略において使用することができる(例えば、特許文献1−5)。ハンマーヘッドおよびヘアピンリボザイムはどちらも、GUC配列を含むいかなる標的RNAも切断するのに操作することができる(非特許文献4−7)。一般的にいって、ハンマーヘッドリボザイムは2種類の機能ドメイン、すなわち2つのハイブリダイゼーションドメインにフランキングされる保存された触媒ドメインを有する。ハイブリダイゼーションドメインは、GUC配列の周りの配列に結合し、触媒ドメインはRNA標的3’がGUC配列となるように切断する(非特許文献4、5、7)。
【0006】
組織培養細胞におけるHIVの増殖を阻害するのに、リボザイムが少なくとも部分的に有効であることが、多くの研究により確認されている(例えば、非特許文献8−14)。特に、Sarverら(非特許文献8)は、HIV gag遺伝子の転写領域内で切断するようにデザインされたハンマーヘッドリボザイム、すなわち抗−gag リボザイムがインビトロでHIV gag RNAを特異的に切断し得ることを実証した。さらに、抗−gag リボザイムを発現する細胞株をHIV−1で攻撃すると、50〜100倍のHIV複製阻害が観察された。同様に、Weerasinghe ら(非特許文献14)は、HIV−1 RNAのU5配列内で切断するようにデザインされたリボザイムをコードするレトロウイルスベクターが、それを形質導入した細胞に、それに続くHIVの攻撃に対してHIV耐性を付与することを示した。リボザイム発現を駆動するのに用いられるプロモーター系で測定すると、形質導入された細胞の異なるクローンは攻撃に対して異なるレベルの耐性を示したが、リボザイム発現細胞株のほとんどは、培養中に限られた時間の後、HIVの発現に負けた。
【0007】
nef 遺伝子(それは組織培養中でのウイルス複製に不可欠ではない)中にリボザイムが導入されたプロウイルスを組織培養細胞に形質導入することにより、野生型プロウイルスを形質導入された細胞と比較して、形質導入された細胞内で、ウイルス複製が100倍阻害されることが分かっている(例えば、非特許文献10、11)。同様に、U5ヘアピンリボザイムを含むベクターを形質導入され、HIVで攻撃されたT細胞において、ヘアピンリボザイムはHIV複製を阻害することが分かっている(非特許文献12)。他の研究により、tRNAプロモーターから発現するリボザイムを含むベクターもまた、種々のHIVの系統を阻害することが分かっている(非特許文献13)。
【0008】
HIV感染の細胞のターゲット(例えば、CD4+T細胞および単球マクロファージ)に対するリボザイムまたは他の遺伝的抗ウイルス剤の送達が、エイズの有効な遺伝的治療処置にとって主要なハードルとなっている。造血系(すなわち、HIV感染の初期ターゲット)の細胞をターゲッティングするための現在のアプローチは、分化の際に成熟T細胞を生じる前駆多機能幹細胞、あるいはまた、成熟CD4+Tリンパ球自身への治療遺伝子の導入を要する。しかしながら、幹細胞をインビトロで培養し、形質導入することは困難なので、該細胞のターゲッティングは問題がある。循環Tリンパ球は非常に広く散らばっているので、現在のベクター送達系を用いてはすべての標的細胞に到達させるのが困難であり、それ故、これらの細胞のターゲッティングもまた問題がある。さらに、マクロファージはウイルスが他の器官に拡がるための主要な貯蔵器であるから、それを細胞のターゲットとして考慮する必要がある。しかしながら、マクロファージは最終分化しており、それ故細胞分裂をしないので、それらはよく使用されるベクターで容易に形質導入されない。
【0009】
したがって、HIV治療に対する現在の有力なアプローチは、複製欠損ウイルスベクターとパッケージング(すなわち「ヘルパー」)細胞株(例えば、非特許文献15−20)を使用して、(HIV感染のような)ウイルス感染に鋭敏な細胞に、ウイルス複製を特異的に妨害するか、あるいは感染細胞の死を引き起こす外来遺伝子を導入することである(非特許文献15に総説)。そのような複製欠損ウイルスベクターは、目的の外来遺伝子に加えて、ウイルス複製には必要であるが、必須のウイルス蛋白質をコードする配列ではないシス活性化配列を含む。その結果、そのようなベクターはウイルス複製サイクルを完遂することができず、それを増殖させるために、ゲノム内にウイルス遺伝子を含みそれを構成的に発現するヘルパー細胞株が使用される。複製欠損ウイルスベクターをヘルパー細胞株に導入した後、ウイルス粒子の形成に必要な蛋白質が該ベクターにトランスに供給され、該蛋白質は、細胞をターゲッティングし且つそこでウイルス複製を妨害するかウイルス感染細胞に死を引き起こす遺伝子を発現することができるウイルス粒子の産生を指示する。
【0010】
このような複製欠損レトロウイルスベクターとしては、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス、さらにはHIV遺伝子治療の臨床試験で使用されるレトロウイルスベクターが挙げられ、特にMoloney ネズミ白血病ウイルス(MuLV)として知られるマウスアンフォトロピックレトロウイルスベクターが挙げられる。これらの欠損ウイルスベクターは、CD4+細胞に抗HIVリボザイムのような遺伝的抗ウイルス剤を形質導入するのに使用されているが、成功の度合いはまちまちである(非特許文献8、11−14)。しかしながら、これらのベクターは、HIVの遺伝子治療への適用が固有に制限される。例えば、形質導入頻度が高いことがHIVの治療において特に重要であり、ここでベクターは稀少なCD34+前造血幹細胞または広く散らばった標的CD4+T細胞のいずれかに形質導入しなければならないが、そのほとんどは病気の臨床上の「潜伏」期の間にすでにHIVに感染している。しかしながら、MuLVベクターは高力価を得ることが難しく、それ故、結果として十分な形質導入が得られない。さらに、CD34+前造血幹細胞では、特に成熟Tリンパ球に分化した後では、形質導入されたDNAの長期発現が得られていない。さらに、欠損ウイルスベクターの使用は、生体外での遺伝子導入戦略(例えば、特許文献6)を必要とするが、それは高価で一般市民の負担できる限度を越える可能性がある。
【0011】
エイズの遺伝子治療的処置に現在利用できるベクターの使用に伴うこれらの欠点のために、研究者らは新たなウイルスベクターを探し出そうとしている。そのようなベクターの1つはHIV自身である。HIVベクターは感染能の研究(非特許文献21)およびCD4+細胞、特にCD4+HIV感染細胞への遺伝子(例えば自殺遺伝子)の導入に使用されている(例えば、非特許文献22−25)。これらの研究戦略は、HIVベクターをCD4+T細胞および単球細胞への遺伝子導入に使用するというものである。しかしながら、現在までのところ、これらのベクターはきわめて複雑である。さらに、これらのベクターの使用は、細胞内での組換えにより野生型のHIVを生じる危険を伴う。欠損ベクター配列とヘルパーウイルスの共トランスフェクション/共感染の結果、ウイルスゲノムの相同領域間で組換えが起こることが観察されている(非特許文献26)。観察されるインビトロでの相補は、同様の複製欠損HIVベクターがインビボでも組換わり得るので、すでに存在するHIV感染を悪化させるかもしれないことを示している。レトロウイルスは2つのRNAゲノムを1つのビリオン中にパッケージングするという事実から、研究者らは、レトロウイルスは相補および/または組換えによって起こるいかなる遺伝的欠損も回避するために、2つのウイルスRNAを担持していると提唱している(非特許文献26)。
【0012】
細胞内での組換え、それにより結果的に野生型HIVを生じる危険に加えて、HIVベクターは、該ウイルスベクターの病原性を増大させるインビボでの突然変異という付随的な危険を有する。このことからSarverら(非特許文献27)は、複製能力はあるが病原性のない第二世代組換えHIVベクターの開発について思索した。そのようなベクターは、広く用いられている非複製ベクター(すなわち、複製欠損ベクター)と比較して、患者の体内で複製し続け、そうして絶えず野生型HIVと拮抗するようにする。しかしながら、ここまでではそのようなベクターは利用できない。
【0013】
理想的には、感染した個体を処置する最良の機会は接種された時点、すなわちウイルスが宿主に感染すらする前である。しかしながら、個体の多くは、病気の臨床上の潜伏期になって初めてHIVに感染したことに気づくので、これを達成することは困難である。これに基づけば、抗ウイルス的妨害を最も必要とする段階は臨床上の潜伏期間である。この段階での治療は、ウイルスゲノムを担持するすでに感染した多数のCD4+リンパ球によって提示される攻撃に立ち向かうことを必要とする。HIVが不治のままであり、現在利用できる治療では不十分な処置しかできないという事実によって証明されるように、これは平凡な攻撃ではない。有効なワクチンは未だ出現せず、また、逆転写酵素やプロテアーゼの阻害剤は、組織培養においてはHIV複製を防ぐことが示されているが、インビボではウイルスが抵抗性を生じるために治療に失敗している。したがって、HIVの遺伝子治療は、2000年までに4000万人以上に達すると予想されるHIV感染個体の大多数について、ほとんど恩恵を与えていないだろう。
【0014】
上記の点を考慮すると、特にエイズや癌において、例えば、ある特定の病原体、特にウイルスに対する長期間のおよび永続性の免疫学的応答を生じることも、ますます重大になるだろう。複製能力はあるが病原性のないウイルスを使用した生弱毒化(LA)ワクチンが考慮されている(非特許文献28、29)。しかしながら、対応する野生型ウイルスとは1つ以上の遺伝子に欠失があることで異なる、そのような非病原性ウイルスは、(i) 抗原が持続しないので(LAウイルスは効率よく複製しないので)、防御的な免疫応答を誘導しないか、(ii)幼動物モデルにおいてLAウイルスが病気を引き起こす能力があることで立証されるように(非特許文献30)、LAウイルスは複製するが、他の病原性を有する可能性があるかのいずれかである。
【特許文献1】米国特許第5,144,019号
【特許文献2】米国特許第5,180,818号
【特許文献3】米国特許第5,272,262号
【特許文献4】国際公開第WO 94/01549号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO 93/23569号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5,399,346号
【非特許文献1】Richman, AIDS Res. and Hum. Retrovir., 8, 1065-1071 (1992)
【非特許文献2】Baltimore,Nature, 325, 395-396 (1988)
【非特許文献3】Dropulic'ら,Hum. Gene Ther., 5, 927-939 (1994)
【非特許文献4】Haseloffら,Nature, 334, 585-591 (1988)
【非特許文献5】Uhlenbeck,Nature, 334, 585 (1987)
【非特許文献6】Hampelら,Nuc. Acids Res., 18, 299-304 (1990)
【非特許文献7】Symons, Ann. Rev. Biochem., 61, 641-671 (1992)
【非特許文献8】Sarverら,Science, 247, 1222-1225 (1990)
【非特許文献9】Sarverら,NIH Res., 5, 63-67 (1993a)
【非特許文献10】Dropulicら,J. Virol., 66, 1432-1441 (1992)
【非特許文献11】Dropulicら,Methods: Comp. Meth. Enzymol., 5, 43-49 (1993)
【非特許文献12】Ojwangら,PNAS, 89, 10802-10806 (1992)
【非特許文献13】Yuら,PNAS,90, 6340-6344 (1993)
【非特許文献14】Weerasinghe ら,J. Virol., 65, 5531-5534 (1991)
【非特許文献15】Buchschacher, JAMA, 269(22), 2880-2886(1993)
【非特許文献16】Anderson,Science, 256, 808-813(1992)
【非特許文献17】Miller, Nature, 357, 455-460 (1992)
【非特許文献18】Mulligan,Science, 260, 926-931 (1993)
【非特許文献19】Friedmann, Science, 244, 1275-1281(1989)
【非特許文献20】Cournoyerら,Ann. Rev. Immunol., 11, 297-329 (1993)
【非特許文献21】Pageら,J.Virol., 64, 5270-5276(1990)
【非特許文献22】Buchschacherら,Hum. Gener. Ther., 3, 391-397 (1992)
【非特許文献23】Richardsonら,J. Virol., 67, 3997-4005(1993)
【非特許文献24】Carrollら,J. Virol, 68, 6047-6051(1994)
【非特許文献25】Parolin ら,J. Virol., 68, 3888-3895(1994)
【非特許文献26】Inoue ら,PNAS, 88, 2278-282 (1991)
【非特許文献27】Sarverら,AIDS Res. and Hum. Retrovir., 9, 483-487 (1993b)
【非特許文献28】Danielら,Science, 258, 1938-1941 (1992)
【非特許文献29】Desrosiers, AIDS Res. & Human Retrovir.,10, 331-332 (1994)
【非特許文献30】Babaら,Science, 267, 1823-1825 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記の理由により、特にエイズおよび癌において、ウイルス感染の予防および治療的処置の代替のモダリティーが依然として必要である。本発明は、条件付きで複製するベクターを提供することによって、そのような代替の方法を提供するものである。本発明はまた、そのようなベクターを使用することができるさらなる方法を提供する。本発明のこれらの、そして他の目的および本発明の利点、並びに本発明の付加的な特徴は、後記の詳細な説明から明確になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の簡単な要約
本発明は、そのベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力を有することを特徴とする条件付き複製ウイルスベクターを提供する。
【0017】
一実施態様において、該条件付き複製ウイルスベクターは、その存在、転写または翻訳が、複製を許容する宿主細胞内で、該ベクターが由来するウイルスに対応する野生株ウイルスよりも該ベクターに選択的に優位性を与える、少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0018】
条件付き複製ウイルスベクターの別の態様において、好ましくはレトロウイルスである該ベクターは、その存在、転写または翻訳が、該ベクターに感染した宿主細胞に、該ベクターが由来するウイルスに対応する野生株のウイルスに感染した細胞よりも選択的に優位性を与える、少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0019】
また、本発明により、条件付き複製ウイルスベクターおよび医薬上許容される担体を含む医薬組成物が提供される。さらに、条件付き複製ウイルスベクターを含む宿主細胞も提供される。また、DNAであれば、配列番号2,3,4,5,6,14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、RNAであれば、配列番号2,3,4,5,6,14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるヌクレオチド配列を含むベクターが、以下に示される通り、単離および精製された分子であるように提供される。同様に、リボザイムを有するベクターの生産方法、ベクターの修飾方法、並びにパッケージング細胞株なしに条件付き複製ベクターを増殖させ、選択的にパッケージングする方法が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の態様において、ウイルス感染について宿主細胞を治療的および予防的に処置する方法が提供される。そのような方法は、さらにヘルパー発現ベクター、細胞毒性のある薬剤、蛋白質/因子またはプロテアーゼ阻害剤/逆転写酵素阻害剤を適宜使用してもよい。
【0021】
さらにまた、別の態様においては、薬剤/因子と蛋白質間の相互作用を検出するための条件付き複製ベクターを含む宿主細胞の使用方法が提供される。そのような方法により、蛋白質の特性解析および所定の蛋白質に対する活性に関する薬剤/因子のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
好ましい態様の説明
本発明は、野生株ウイルスの複製を阻害する方法を提供する。該方法は、野生株ウイルスに感染し得る宿主、好ましくはそのような野生株ウイルスに実際に感染した宿主に、ベクター(すなわち、非病原性の条件付き複製(cr)ベクター)の複製を許容する宿主内でのみ増殖するベクターを接触させることを含む。
【0023】
以下にさらに記載されるように、該方法の特別の目的は、そのような非病原性の条件付き複製ベクターを有する宿主内での拮抗的感染を確立することである。一般に、本発明の条件付き複製ベクターは、野生型ウイルスと比較して、条件付き複製ベクターに複製に関する選択的な利点と幅を与える少なくとも1つの核酸配列、および/または野生型ウイルスを含む宿主細胞と比較して、条件付き複製ベクターを含む宿主細胞にウイルス粒子の増殖に関する選択的な利点を与える少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0024】
本発明の好ましい態様においては、該ベクターはHIV配列を含み、HIV感染の治療に使用される。すなわち、該ベクターまたは該ベクターを含む宿主細胞は、(1) 子ビリオンへのパッケージングに関して野生型HIVゲノムと比較して選択的な利点を有するcrHIVゲノムを提供する(すなわち、それらがどちらも存在する細胞内で)、および/または(2) 野生型ウイルスを産生する宿主細胞と比較すると、crHIVビリオンの産生に関して選択的な利点を有する、条件付き複製ベクター(ウイルス)を産生する宿主細胞を提供する少なくとも1つの核酸配列を含む。(本発明はこれに限定されないが)1つの方法は、野生型HIVゲノムを切断し得る1つ以上のリボザイムを有するcrHIVゲノムを供給することによって、パッケージングに関する選択的な利点を与えるというものである。
【0025】
野生型ウイルス
本発明によれば、「ウイルス」とは、蛋白質と核酸からなり、宿主細胞の遺伝装置を用いてウイルス核酸によって特定されるウイルス産物を生産する、感染性の病原体である。「核酸」とは、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状で、最も好ましくは、DNAまたはRNAのポリマーに組み込まれ得る合成、非天然または修飾されたヌクレオチドを含むDNAまたはRNAのポリマーを指す。DNAポリヌクレオチドは、好ましくはゲノミックまたはcDNA配列より構成される。
【0026】
「野生株ウイルス」とは、以下に記載されるようないかなる人為的変異も含まない株、すなわち、自然界から単離され得るあらゆるウイルスである。あるいは、野生株は、研究室内で培養されているが、他のいずれのウイルスの非存在下においても、なお自然界から単離されるような子ゲノムまたはビリオンを産生し得るあらゆるウイルスである。例えば、以下の実施例に記載されるpNL4−3HIV分子クローンは野生株である。
【0027】
一般に、本発明の方法は、好ましくはウイルス感染の結果生じるウイルス性疾患の処置に使用される。望ましくは、ウイルス(および以下で論じるようにベクター)はRNAウイルスであるが、DNAウイルスであってもよい。RNAウイルスは原核生物に感染し(例えば、バクテリオファージ)、さらに、哺乳動物、特にヒトを含む多くの真核生物にも感染する多様なグループである。少なくとも1つの科は遺伝的材料として二本鎖RNAを有するが、たいていのRNAウイルスはその遺伝的材料として一本鎖RNAを有する。RNAウイルスは3つの主要なグループ:プラス鎖ウイルス(すなわち、該ウイルスにより導入されたゲノムは蛋白質に翻訳され、その脱蛋白質された核酸は感染を開始するのに十分であるもの)、マイナス鎖ウイルス(すなわち、該ウイルスにより導入されたゲノムはメッセージセンスに相補的で、翻訳が起こり得る前にビリオンに付随した酵素によって転写されなければならないもの)および二本鎖RNAウイルスに分けられる。
【0028】
ここで用いられるように、RNAウイルスは、シンドビス様ウイルス(例えば、トガウイルス科、ブロモウイルス属、ククモウイルス属、トバモウイルス属、イラルウイルス属、トブラウイルス属およびポテックスウイルス属)ピコルナウイルス様ウイルス(例えば、ピコルナウイルス科、カリシウイルス科、コモウイルス属、ネポウイルス属およびポティウイルス属)、マイナス鎖ウイルス(例えば、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、オルトミクソウイルス科、ブニヤウイルス科およびアレナウイルス科)、二本鎖ウイルス(例えば、レオウイルス科およびビルナウイルス科)、フラビウイルス様ウイルス(例えば、フラビウイルス科およびペスチウイルス属、レトロウイルス様ウイルス(例えば、レトロウイルス科)、コロナウイルス科およびノダウイルス科を含むがそれに限定されない他のウイルス群を包含する。
【0029】
本発明の好適なRNAウイルスは、フラビウイルス科のウイルス、好ましくはフィロウイルス属のウイルス、特にマールブルグもしくはエボラウイルスである。好ましくは、フラビウイルス科のウイルスはフラビウイルス属のウイルス、例えば、黄熱ウイルス、デングウイルス、西ナイルウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、マレー渓谷脳炎ウイルス、ロシオ(Rocio )ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス等である。
【0030】
ピコルナウイルス科のウイルスもまた好適であり、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)または非A非B型肝炎ウイルスが好ましい。
【0031】
別の好適なRNAウイルスは、レトロウイルス科のウイルス(すなわち、レトロウイルス)、特に、オンコウイルス亜科、スプーマウイルス亜科、スプーマウイルス属、レンチウイルス亜科およびレンチウイルス属の属もしくは亜科のウイルスである。オンコウイルス亜科のRNAウイルスは、望ましくはヒトTリンパ球指向性ウイルス1または2型(すなわち、HTLV−1またはHTLV−2)またはウシ白血病ウイルス(BLV)、トリ白血病−肉腫ウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)、トリ赤芽球症ウイルス(AEV)およびラウス随伴ウイルス(RAV;RAV−0〜RAV−50))、哺乳動物のCタイプウイルス(例えば、Moloney ネズミ白血病ウイルス(MuLV)、Harveyネズミ肉腫ウイルス(HaMSV)、Abelson ネズミ白血病ウイルス(A−MuLV)、AKR−MuLV、ネコ白血病ウイルス(FeLV)、サル肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス(REV)、脾壊死ウイルス(SNV))、Bタイプウイルス(例えば、マウス乳癌ウイルス(MMTV))およびDタイプウイルス(例えば、Mason-Pfizerモンキーウイルス(MPMV)および「SAIDS」ウイルス)である。レンチウイルス亜科のRNAウイルスは、望ましくはヒト免疫不全ウイルス1または2型(すなわち、HIV−1またはHIV−2、HIV−1は以前リンパ節症随伴ウイルス3(HTLV−III )および後天性免疫不全症候群(AIDS)関連ウイルス(ARV)と呼ばれていた)、あるいは同定され、エイズまたはエイズ様疾患に付随する、HIV−1またはHIV−2に関連した別のウイルスである。「HIV」という頭字語または「エイズウイルス」もしくは「ヒト免疫不全ウイルス」という術語は、ここではこれらのHIVウイルス並びにHIV関連およびHIV随伴ウイルスを包括的に指すのに用いる。さらに、レンチウイルス亜科のRNAウイルスは、好ましくはヴィスナ/マエディ(Visna/maedi )ウイルス(例えば、ヒツジに感染するような)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシレンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)またはヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)である。
【0032】
本発明のウイルスとしてはDNAウイルスもまた望ましく、好ましくは、該DNAウイルスはエプスタイン−バールウイルス、アデノウイルス、ヘルペス単純ウイルス、パピローマウイルス、ワクシニアウイルス等である。
【0033】
これらのウイルスの多くは、最高の封じ込め設備がすべての研究室作業に要求される「生物安全性レベル4」(すなわち、世界保健機関(WHO)の「危険群4」の病原体に分類される。しかしながら、当業者はこれらのウイルスに対して必要な安全予防措置に精通しており、これを厳守することができる。
【0034】
「宿主細胞」はいかなる細胞であってもよいが、好ましくは真核細胞である。望ましくは、該宿主細胞は、リンパ球(例えばTリンパ球)またはマクロファージ(例えば単球性マクロファージ)、あるいはこれらの細胞のいずれかの前駆体である。該細胞は細胞表面上にCD4+の糖蛋白質を含むこと、すなわちCD4+であることが好ましい。しかしながら、エイズウイルスに感染したCD4+Tリンパ球はまだ活性化されていないことが望ましい(すなわち、以下にさらに論じるように、nef の発現がまだ起っていないことが好ましく、CD4遺伝子の発現が下向きに調節されていないことがよりいっそう好ましい)。さらに、宿主細胞は、CD4マーカーを欠くが、それでも本発明のウイルスに感染し得る細胞であることが好ましい。そのような細胞としては、星状膠細胞、皮膚線維芽細胞、腸上皮細胞等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、該宿主細胞は真核の多細胞腫のもの(例えば、単細胞の酵母細胞とは対照的な)、いっそう好ましくは哺乳動物、例えばヒト細胞である。細胞は単一で存在しても、あるいは細胞のより大きな集まりであってよい。そのような「細胞のより大きな集まり」としては、例えば、細胞培養(混合もしくは純粋の)、組織(例えば上皮または他の組織)、器官(例えば心臓、肺、肝臓、胆嚢、眼および他の器官)、器官系(例えば循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、神経系、皮膚系または他の器官系)または生物(例えば鳥、哺乳動物など)が含まれ得る。好ましくは、ターゲッティングされる器官/組織/細胞は、循環器系(例えば心臓、血管および血液を含むが、それらに限定されない)、呼吸器系(例えば鼻、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺等)、消化器系(例えば口、咽頭、食道、胃、腸、唾液腺、膵臓、肝臓、胆嚢他)、泌尿器系(例えば腎臓、尿管、膀胱、尿道等のような)、神経系(例えば脳、および脊椎、および眼のような特殊な感覚器官を含むが、それらに限定されない)、並びに皮膚系(例えば皮膚)である。いっそう好ましくは、ターゲッティングされる細胞は、心臓、血管、肺、肝臓、胆嚢、膀胱および眼細胞からなる群より選択される。
【0035】
ベクター
「ベクター」は、パッセンジャー核酸配列(即ち、DNAまたはRNA)を宿主細胞内に運ぶ役目をする核酸分子(典型的にはDNAまたはRNA)である。3つの一般的なベクターのタイプには、プラスミド、ファージおよびウイルスが含まれる。好ましくはベクターはウイルスである。
【0036】
望ましくは、ベクターは人為的な突然変異を含むので、野生株ウイルスではない。従って、本明細書でさらに説明するように、該ベクターは通常遺伝子操作により(即ち、欠失により)条件付き複製ウイルスを含有するように野生株ウイルスから誘導される。最も望ましくは、ウイルスベクターは、治療すべき感染を起こす野生型ウイルス(好ましくは前記の野生型ウイルスの1つである)と同じタイプのウイルス株を含有する。従って、好ましくはベクターはRNAウイルス由来であり、より好ましくはベクターはレトロウイルス由来であり、最も好ましくはベクターはヒト免疫不全ウイルス由来である。このようなヒト免疫不全ウイルス由来のベクターを本明細書では一般的に「crHIV」ベクターという。
【0037】
ベクターはまた、好ましくは、「キメラベクター」、例えば、ウイルスベクターと他の配列との組み合わせ、例えば、HIV配列と他のウイルスとの組み合わせ(望ましくは、条件付き複製ベクターを含有するように野生株ウイルスから誘導された)である。特に、HIV配列は望ましくは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、シンドビスウイルスベクター、またはアンフォトロピックマウスレトロウイルスベクターの修飾された(即ち、非野生型)株に結合させることができる。
【0038】
ここで包含するように、ベクターはDNAまたはRNAのいずれを含有してもよい。例えば、DNAまたはRNAベクターのいずれもウイルスを誘導するのに使用することができる。同様に、cDNAコピーをウイルスRNAゲノムから作ることができる。あるいは、cDNA(またはウイルスゲノミックDNA)部分をインビトロで転写してRNAを産生することができる。これらの手法は当業者に周知であり、また後記の実施例においても説明する。
【0039】
「条件付き複製ベクター」は、特定の条件下でのみ欠損している複製欠損ウイルスである。特に、このウイルスは許容宿主細胞内ではその複製サイクルを完結させることができるが、制限宿主細胞内ではその複製サイクルを完結させることができない。「許容宿主細胞」は、野生株ウイルスに感染した宿主細胞である。そのような感染は本発明による条件付き複製ウイルスによる感染の前または後のいずれで起こってもよい。あるいは、「許容宿主細胞」は、ウイルス複製に必要な野生型ウイルス遺伝子産物をコードするものである。従って、本発明による条件付き複製ベクターは、野生株ウイルスによる相補のとき、または野生型ウイルスが条件付き複製ベクターゲノムを含有する細胞に感染したときにのみ複製するウイルス(好ましくは治療すべき感染と同じタイプのウイルスである)である。
【0040】
好ましい態様においては、ベクターはRNAウイルス(例えば、条件付き複製HIVウイルス)を含有し、それはDNAの形態で導入される。この好ましい態様は、病原性野生型HIVゲノムよりも非病原性crHIV−1ベクターゲノムに選択的に優位性を与える複製HIV−1(crHIV)ベクター戦略を提供する。具体的には、野生型HIVおよびcrHIVゲノムの両方を含有する細胞において、crHIV RNAはビリオンへのパッケージングに関して優位に選択される。なぜなら、crHIV RNAは、野生型RNAを切断するがcrHIV RNAを切断しない、例えばリボザイムを含有するからだ。このような非病原性crHIVは、野生型ヘルパーウイルスの存在下でHIV感染を受けやすい非感染細胞(例えば、CD4+細胞)に広がることが可能である。この方法により、crHIVの選択的パッケージングおよび広がりは野生型HIV複製を妨げる。
【0041】
特に、crHIVゲノムは感染細胞または非感染細胞内に導入される。感染細胞はエンキャプシデーションおよび子ビリオンの産生に必要な蛋白質をcrHIVゲノムに供給する。crHIVゲノムは、好ましくは、形質導入により直接的に(例えば、これはcrHIV DNAのリポソームを介した形質導入により、またはキメラウイルスベクターを用いることにより行うことができる)、または野生型HIV感染細胞のトランスフェクションにより生じるcrHIV粒子の感染のいずれかにより非感染細胞内に導入される。非感染細胞は独立ではcrHIV粒子を産生しない。しかしながら、さらにcrHIV粒子を産生するのに必要な蛋白質を供給する野生型ウイルスで重感染することができるようになる。この意味では、本発明による条件付き複製ベクターはまた、複数回のcrHIV感染(即ち、野生型HIVとの同時感染の存在下で)を起こし得る手段を提供する「ウイルス送達ベクター」のタイプとして機能する。2回以上のウイルス複製のためのウイルス源を提供するこのようなベクターは、パッケージング細胞株とともに使用されるような1回のみの複製を提供する他の現在採用されているベクターと対照的である。
【0042】
所望により(例えば、インビトロでのベクターの使用を容易にするために)、条件付き複製ベクターに感染した細胞に野生型ウイルス遺伝子産物を一緒に供給することができる。野生型ウイルス遺伝子産物は、野生株ウイルス(またはcDNAまたはRNAウイルスのプロウイルス)による共感染によるだけでなく、発現ベクター、例えば、ヘルパー発現ベクター(「ヘルパー」)(これは宿主細胞が配列(調節または構造配列)を転写または翻訳できるようにし得る)中のそれらのサブクローニングされた遺伝子の形態で細胞に供給することによっても供給することができ、あるいは遺伝子産物は外因的に、例えば、細胞に蛋白質産物を添加することにより供給することができる。「ヘルパー」に関して、その発現は細胞特異的であっても、または細胞に特異的でなくてもよく、それは本明細書で定義する条件付き複製ウイルスベクターと共に宿主細胞に導入することができ、これにより条件付き複製ウイルスベクターの継続的な複製を可能にする。
【0043】
ここで用いる「相補(complementation) 」とは、細胞中の異なるソースからのウイルス遺伝子産物の非遺伝子的相互作用をいう。具体的には、混合感染に伴い、相補は親のゲノムの遺伝子型を変化させずに維持すると同時に、片方または両方の親のゲノムのウイルス収率を増大させることを含む。相補は、非対立的(即ち、遺伝子間の−異なる機能を欠損する変異体が、他方のウイルスが欠損する機能を補うことによりウイルス複製において互いに助け合う)であっても、または対立的(即ち、遺伝子内の−二つの親が多量体蛋白質の異なるドメインにおいて欠損する)であってもよい。
【0044】
望ましくは、crHIV DNAで(即ち、リポソームにより、またはアデノウイルスベクターもしくはアンフォトロピックレトロウイルスベクターを用いることにより)トランスフェクションすることができる細胞のタイプは、HIV感染細胞でも非感染細胞のいずれでもよい。HIV感染細胞は活性化または非活性化することができる。もし活性化されるならば、野生型HIV RNAおよびcrHIV RNAを直ちに転写し、crHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。もしHIV非感染細胞が活性化されないならば、crHIV DNAは細胞が(例えば、マイトジェン、抗体などによる刺激によって)活性化されるまで細胞内に存在し、再びcrHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。crHIV DNAでトランスフェクションされた活性化および非活性化された非感染細胞は両方とも、野生型HIVで重感染されるまでビリオンを産生しないだろう。そして刺激により活性化されると、再びcrHIV RNAを子ビリオン内に選択的にパッケージングするだろう。
【0045】
crHIVゲノムを含有する細胞の重感染が(例えば、トランスフェクションまたは感染の結果として)起こる。なぜなら、crHIVゲノムは重感染を妨げるウイルス蛋白質(env やnef など)をコードしないからだ。生成したcrHIVビリオンは非感染細胞に感染し得る。なぜなら、ウイルス粒子は逆転写酵素分子を含有するからだ(全てのHIV粒子は、それらのゲノミックRNAからDNAプロウイルスを作り出すことができるように逆転写酵素分子を担持する)。このプロセスは逆転写と呼ばれる。いったん、crHIVビリオンが非感染細胞に感染すると、それらは逆転写を経てそれらのゲノミックRNAからプロウイルスを産生する。従って、これらの細胞は、crHIV DNAで直接形質導入された非感染細胞と等価である。これらの細胞は野生型HIVで重感染され活性化されるまでcrHIV粒子を産生することができないが、その後再びcrHIV RNAの子ビリオンへの選択的パッケージングが起こる。crHIV粒子はまた、すでにHIVに感染した幾つかの細胞にも感染することができる(例えば、Yunoki et al., Arch. Virol., 116, 143-158 (1991); Winslow et al., Virol., 196, 849-854 (1993); Chen et al., Nuc. Acids Res., 20, 4581-4589(1992); およびKim et al., AIDS Res. & Hum. Retrovir.,9, 875-882 (1993) 参照)。しかしながら、これが起こるためには、これらのHIV感染細胞はCD4発現を下向きに調節(down-regulate) する蛋白質を発現してはならない。なぜなら、この蛋白質はcrHIVビリオンがこれらの細胞に感染するのを防ぐと考えられるからだ。活性化されたHIV感染細胞は一般にCD4発現を下向きに調節する。従って、活性化されていないHIV感染細胞は潜在的にcrHIVによる重感染を受けやすい。従って、crHIV粒子産生のもう一つのソースになり得る。
【0046】
本発明による好ましいcrHIVベクターにおいて、ベクターはRNA転写、tRNAプライマー結合、二量化およびパッケージングに必要な配列を含有し、且つ、野生型HIVによる重感染を妨げる蛋白質(例えば、nef またはenv 蛋白質)をコードする配列を欠くか、またはそのような配列を含有するがそれは転写されないかもしくは機能蛋白質に翻訳されないかであり、その発現が「サイレント」と考えられるかのいずれかである。より好ましくは、ベクターはgag コード配列内からnef 遺伝子まで(nef 遺伝子を含む)の野生型HIVの領域またはその領域をコードする配列を欠く。しかしながら、最も好ましくは、ベクターはrev 応答エレメント(RRE)を含有し、このRREは欠失の領域または他の適当な領域内でベクターにクローンニングされる。このような好ましいHIVベクターは、前記のようにそのRNA発現の形態で、または代わりにDNAとして投与され得るので、「領域またはその領域をコードする配列を欠く」と呼ばれる。
【0047】
ベクターの構築は当業者に周知である。例えば、実施例1に記載するように、HIVのようなRNAウイルスのDNA発現を制限酵素を用いて切断し、HIVコード配列のgag コード領域内からnef 遺伝子に続くU3領域内までを切除する。多制限部位を含有するポリリンカーを含むクローニングカセットを、ライゲーションの前に欠失の領域に挿入し、クローニングに適当な制限部位をベクターに与える。RREを含有するDNA断片をこれらの部位の一つにサブクローニングする。得られたベクターは切端(truncated) gag 転写産物を産生し、野生型Gag蛋白質または他のいかなる野生型HIV蛋白質も産生しない。さらに、gag 翻訳開始配列はその翻訳を防止するように変異させることができるので、ベクターは切端gag 蛋白質さえも発現する必要がない。
【0048】
キメラベクターを誘導するために、同じアプローチを用いて、crHIV配列を、ウイルスや他のベクターの配列のような他の配列に結合させることが出来る。例えばcrHIV配列は、crHIV配列の送達をするために用いられ得るようなウイルスの少数の例を挙げれば、シンドビスウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルスまたはアンフォトロピックウイルスの配列に連結させることが出来る。このようなキメラベクターで、連接したウイルスの細胞侵入のための機構(例えば、アデノウイルスのレセプターを介したエンドサイトーシス)またはその他の方法、例えば、リポソームを用いて、ベクターを細胞の中に導入することが可能である。
【0049】
好ましくは、本発明に従って、ベクター(つまり、条件付き複製ウイルス、好ましくはcrHIVベクター)は少なくとも一つの核酸配列を含んでおり、その配列の所有(つまり、存在、転写または翻訳)は選択的に優位性を与えている。ベクターへの組み込み用にもくろまれている、そのような核酸配列には2つの型がある。(1)その配列の所有が最適には、ウイルスの複製を選択的に有利にし、野生株ウイルス(つまり、好ましくは、ベクターが誘導された株でかつその配列を含まないような野生株)に、そのような配列を含むベクターを広げるようなある核酸配列、および(2)その配列の所有が、野生株ウイルス(つまり、好ましくは、ベクターが誘導された野生株(かつまた、例えば、感染していない宿主細胞でのベクターの複製および/または機能を促進するヘルパー発現ベクター)で、かつその配列を含まないような野生株)に感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞に、最適には、選択的に優位性をもたらすような核酸配列で、その優位性は、望まれる予防的、治療的または生物学的結果を達成するために、次のようなことによって与えられる。例えば、細胞の生存を促進すること、ベクター粒子の産生および/または増殖を促進すること、crHIVベクター産生細胞からcrHIVベクター粒子の産生を促進すること、アポトーシスを誘導すること、蛋白合成を促進すること、または免疫機能もしくはターゲッティングを高めることによってである。これらの配列のそれぞれ、または、これらの配列のそれぞれの複数の存在、つまり、その配列はそれだけで、または、他の因子と組み合わせて、好ましい予防、治療および/または生物学的結果を可能にするために、ベクターの増殖を促進し、および/または宿主細胞の特定の機能を促進する。その配列は、その他の配列の非存在下または存在下のどちらでも、ベクターに組みこむことができる。つまり、ベクターは「少なくとも一つの核酸配列」および「少なくとも一つの付加的な核酸配列」を含むことができる。
【0050】
「核酸」は以前に説明されているとおりである。「核酸配列」は特に、どんな大きさの可能性もある(つまり、ベクターによって課されたパッケージングの制約にもちろん制限されている)遺伝子またはコード配列(つまり、DNAまたはRNA)であり、その所有がここでさらに定義されるように、選択的に優位性を与えている。「遺伝子」とは(その配列が転写および/または翻訳されるかどうかに関わらず)蛋白をコードする核酸配列または初期mRNA分子である。遺伝子は非コード配列(例えば、制御配列)と同様にコード配列を含んでいるが、コード配列は非コードのDNAを全く含まない。
【0051】
1.その配列の所有が、野生株ウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、宿主細胞内で選択的に優位性を与えるような核酸配列。
ある核酸配列は、それを有することで、野生株ウイルスよりも、宿主細胞内でベクターに選択的に優位性を与える配列で、好ましくは、野生型ウイルスから増殖したウイルス粒子に比べて、ベクターから増殖したウイルス粒子が選択的に産生され、パッケージされることを許容する配列である。そのような配列は、野生型のゲノムに比べて、細胞内で産生されるベクターのゲノムの数の増加をもたらすような配列および抗ウイルス核酸配列を含むが、それらに限定されない。
【0052】
野生株ウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、宿主細胞内で選択的に優位性を与えるような核酸配列の第1のカテゴリーは、プロモーターのような配列である。「プロモーター」とはRNAポリメラーゼの結合およびそれによるRNA合成の促進を指示するような配列で、1つまたはそれ以上のエンハンサーを含んでいる。「エンハンサー」とはシス活性化因子であり、隣接する遺伝子の転写を促進または阻害する。転写を阻害するエンハンサーは「サイレンサー」とも呼ばれている。エンハンサーは、どちらの方向でも数キロ塩基対(kb) までの距離を越えて、転写領域の下流位置からでさえも機能することができる点で、プロモーターの中だけに見出されている配列特異的DNA結合蛋白のDNA結合部位(プロモーター因子とも呼ばれている)とは、異なっている。
【0053】
従って、好ましくは、条件付き複製HIVベクターのプロモーター(つまり、ロングターミナルリピート(LTR))は修飾されて、そのベクターは野生株HIVよりもある種のサイトカインに対してより反応性が高くなっている。例えば、インターロイキン−2の存在下で転写活性の増加を示す修飾されたHIVプロモーターが利用可能である。このプロモーターのベクターへの組み込み、および野生型のHIVに感染した細胞へのベクターの導入は好ましくは、ベクターゲノムからの子粒子の産生およびパッケージングを野生型HIVゲノムよりも増加させる結果になる。その他のサイトカインおよび/またはケモカイン(例えば、腫瘍壊死因子α、RANTESなどのようなものを含むがこれらには限定されない)は同様に、ベクターにコードされているウイルス粒子の選択的なパッケージングを促進するために用いられ得る。
【0054】
野生型株のウイルスよりもそのような配列を含むベクターに、選択的に優位性を与えるような核酸配列の第2のカテゴリーには、好ましい核酸配列として、抗ウイルス核酸配列が含まれる。「抗ウイルス剤」は例えば、逆転写酵素阻害剤、ウイルスの細胞侵入阻害剤、ワクチン、プロテアーゼインヒビターおよび遺伝学的抗ウイルス剤といった作用機作によって分類される。「遺伝学的抗ウイルス剤」とは細胞に導入されてそれらの細胞内標的に直接的に(つまり、細胞内に導入される)またはRNAまたは蛋白に変換された後に(Dropuli et al(1994) 上述に総説)影響を及ぼすDNAまたはRNAである。遺伝学的抗ウイルス配列も好ましい核酸配列である。遺伝学的抗ウイルス剤には、アンチセンス分子、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、毒素、免疫原、およびリボザイムが含まれるがこれらに限定されない。望ましくは、遺伝学的抗ウイルス剤とは、アンチセンス分子、免疫原、およびリボザイムである。従って、野生株ウイルスよりもベクターに、選択的に優位性を与える好ましい核酸配列は、アンチセンス分子、免疫原、およびリボザイムからなる群から選択される遺伝学的抗ウイルス剤である。
【0055】
「アンチセンス分子」とは、発現がブロックされることになっている遺伝子の短い分節を鏡として写す分子である。HIVに対して向けられたアンチセンス分子は野生型HIVのRNAにハイブリダイズし、細胞のヌクレアーゼによる優先的な分解を許す。アンチセンス分子は、好ましくは、DNAオリゴヌクレオチドであり、望ましくは、約20から約200塩基対の長さで、好ましくは、約20から約50塩基対の長さで、最適には、25塩基対未満の長さである。アンチセンス分子は、野生型ゲノムRNAに優先的に結合し、従ってcrHIV RNAに子粒子へのパッケージングに関して選択的に優位性をもたらすcrHIV RNAから発現されることができる。
【0056】
「免疫原」とは、ウイルスの構造蛋白に対する一本鎖の抗体(scAb)である。免疫原は核酸として導入され、細胞内で発現される。同様に、免疫原はどんな抗原、表面蛋白(クラスで制限されているものも含む)または抗体でもよく、免疫原は、ベクターおよび/または宿主細胞の選択を促進する。好ましいベクターでは、核酸配列は、野生型HIV Rev蛋白に結合するscAbを含んでいる。これは小胞体内にとどまるという結果によって、好ましくは、Rev蛋白の成熟化を阻止する。詳しく述べると、Rev蛋白は、RREに結合し、それから、HIV RNAを取り巻くためにオリゴマー化することによって、スプライスされていないHIV RNAを細胞質に輸送する。Revと複合体を形成するHIV RNAは細胞質に輸送され、細胞のスプライシング機構を回避する。このようにして、野生型のRevが野生型のRREに結合しないならば、野生型のHIV RNAは細胞質に輸送されず、子粒子にエンキャプシデーションされない。
【0057】
最適には、scAb核酸配列を含むベクターは修飾されたRRE配列をさらに含んでいて、修飾されたRREは認識するが、野生型のものは認識しない変異Rev蛋白をコードしている。従って、野生型HIVおよびscAb核酸配列を含むベクターを含有している細胞において、ベクターは粒子に優先的にパッケージされる。野生型HIVマトリックスまたはヌクレオキャプシドの蛋白(つまり、またはウイルスRNAのエンキャプシデーションに影響を及ぼす蛋白/RNA相互作用に関与するあらゆる蛋白)がscAbの標的であるという同様の戦略が好ましくは用いられる。
【0058】
「リボザイム」とは触媒活性を持ったアンチセンス分子であり、つまり、RNAに結合して翻訳を阻害する代わりに、リボザイムはRNAに結合して、結合状態のRNA分子の部位特異的切断に影響を及ぼす。一般的には、4つのリボザイム群がある。テレラヒメナ グループI介在配列、RNase P 、ハンマーヘッドリボザイムおよびヘアピンリボザイムである。しかしながら、付加的な触媒モチーフは他のRNA分子にも存在している。例えば、デルタ肝炎ウイルスおよび真菌類のミトコンドリア内のリボゾームRNAである。
【0059】
好ましいリボザイムとは、Nがどのヌクレオチドでもよく(つまり、G 、A 、U またはC )かつHがA 、C 、またはU であるような3’ヌクレオチドNUH 配列を触媒ドメインが切断するようなリボザイムである。しかしながら、このようなリボザイムによって最も効率的に切断される配列がGUC 部位である限りは、好ましくは、NUH 配列はGUC 部位を含む。
【0060】
望ましくは、そのようなリボザイムは、野生株ウイルスまたはその転写物の領域で切断するが、ベクターまたはその転写物の領域では切断しない。以前記述されたように、そのようなウイルスまたはベクターがRNAまたはDNAであるという意味において、リボザイムはウイルスまたはその転写物を切断する。「領域で」切断するとは、標的部位におけるつまり、好ましくは、ウイルスの増殖に必要なウイルスの領域における切断を意味する。この標的にされている特定の部位が(つまり、もし、ベクターに存在しているならば、)リボザイムによって切断されないように、ベクターが修飾されているのが望ましい。リボザイムは任意でウイルス粒子、例えば、crHIV粒子の増殖に必要とされている領域で切断が起こらない限りは、ベクターを切断してもよい。
【0061】
最適には、リボザイムは、配列番号:3(つまり、CACACAACACTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACGGGCACA)および配列番号:4(つまり、ATCTCTAGTCTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACCAGAGTC)からなる群より選択される配列によってコードされる。配列番号:3は野生型HIVのU5領域の+115部位(すなわち、転写開始点から下流への塩基数に基づけば)に標的にされているリボザイムを含んでいるが、配列番号:4は野生型HIVのU5領域の+133部位に標的されているリボザイムを含む。
【0062】
公知技術および実施例1で説明されているように、ベクターU5配列がインビトロでの部位特異的変異によって修飾されている限りにおいては、そのようなリボザイムは、野生型HIVゲノム(またはその転写物)内で切断することはできるが、ベクターのゲノム(またはその転写物)内を切断することはできない。特に、ベクターの配列は望ましくは、配列番号:2(つまり、GTGTGCCCACCTGTTGTGTGACTCTGGCAGCTAGAGAAC )、配列番号:5(つまり、GTGTGCCCGCCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC )、配列番号:6:(つまり、GTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGCAACTAGAGATC )、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16からなる群より選択される配列をベクターが含むように修飾されている。RNAの形で、ベクターは好ましくは、配列番号:2、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16からなる群より選択される配列によってコードされる配列を含む。それとは対照的に、野生型HIVは配列番号:1(つまり、GTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC )の配列によってコードされるU5配列を含んでいる。イントト(in toto ) における修飾および野生型U5配列(DANの形での)との比較が図2に示されている。
【0063】
さらには、ウイルスおよび特にHIVゲノムの領域に標的されている他のリボザイムは、単独でまたは組み合わせて使用されることができる。例えば、リボザイムはウイルス複製に必要とされる他のRNA配列内、例えば、逆転写酵素、プロテアーゼ、若しくはトランス活性化因子蛋白の内、Rev内、または、既に説明されたようなその他の必要な配列内、を切断させることができる。好ましくは、ベクターは複数のリボザイムを含んでおり、例えば、複数の部位にターゲッティングされている。その場合には、そのようなリボザイムの切断に抵抗性のベクターを誘導するために、ベクター内の類似配列は、部位特異的変異または当該技術分野で知られている他の方法によって修飾される。
【0064】
ベクターがヒト免疫不全ウイルスである時、好ましくは、ベクターはtat 遺伝子およびその5'スプライス部位を欠いており、その場所に、3重アンチ−Tat リボザイムカセットを含んでいて、その3重リボザイムカセットのリボザイムそれぞれの触媒ドメインは、野生型ヒト免疫不全ウイルス核酸分子の異なる部位、特に、tat 内の異なる配列内で切断する。好ましくは、ベクター自身にはリボザイム耐性の対応部がない野生型ヒト免疫不全ウイルスの核酸分子のある領域の核酸配列をそれぞれのリボザイムの触媒ドメインは切断する。
【0065】
2.その配列の所有が、野生株ウイルスに感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞に選択的に優位性を与えるような核酸配列。
ある核酸配列は、ウイルスの野生型株(つまり、その配列を欠いている)に感染した細胞よりも、その配列を含むベクターに感染した細胞を選択的に有利にする配列で、好ましくは、野生型ウイルスを含む細胞よりも、ベクターを含む細胞が生き残りウイルス粒子(つまり、crHIVウイルス粒子)を増殖させるのを許す配列である。そのような配列は、細胞または細胞に含まれているベクターが破壊を回避するようなあらゆる配列、細胞の生存を促進するような配列、アポトーシスを誘導するような配列、蛋白合成を促進するような配列または、免疫機能もしくはターゲティングを促進するような配列を含むがこれらに限定されない。
【0066】
例えば、望ましくは、ベクターに含まれているそのような核酸配列は、多剤耐性の遺伝子をコードしている(例えば、Ueda et al., Biochem. Biophys. Res.Commun., 141, 956-962 (1986); Ueda et al., J. Biol. Chem., 262, 505-508(1987); and Ueda et al., PNAS, 84, 3004-3008(1987) を参照) 。添加された細胞毒性の薬剤の存在下、(例えば、ガンの化学療法に用いられるように)この核酸配列は、ベクターを含む細胞を生き延びさせるが、HIVのような野生型のウイルスを含む細胞は生き延びさせない。そのような細胞毒性薬物には、アクチノマイシンD、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、VP−16およびAMSAが含まれるがこれらに限定されない。
【0067】
あるいは、そのような核酸配列は望ましくは、変異した(つまり、変異)プロテアーゼの配列(またはそれをコードする配列)、および変異した(つまり、変異)逆転写酵素の配列(またはそれをコードする配列)からなる群から選ばれる配列を含んでいる。好ましくは、変異された逆転写酵素は遺伝子工学操作が行れてヌクレオシドおよび非ヌクレオシドの逆転写酵素阻害剤に抵抗性になっており、かつ、変異されたプロテアーゼも遺伝子工学操作が行われて、通常良く用いられるプロテアーゼインヒビターに抵抗性になっている。
【0068】
ベクターと組み合わせた、これらのプロテアーゼインヒビターまたは逆転写酵素阻害剤の宿主への投与は、野生型ウイルスを産生する細胞と比較して、ベクターを産生する細胞を選択するのに用いられる。同様に、ウイルスの複製が阻害されて、ウイルスが阻害から逃れるために、変異し得るようなあらゆる薬剤との使用のために、このアプローチは修飾される。従って、HIVの治療には、ベクターに組み込まれている選択的な核酸配列は、好ましくは、変異されたHIV配列を含む。しかしながら、最適には、これらの配列は、野生型HIVとの重感染を阻止しない。
【0069】
好ましくは、ベクターは上記に示されるもの並びに、特に、図1B−1Eに描かれている望ましいcrHIVベクターつまり、それぞれcrHIV−1.1、crHIV−1.11、crHIV−1.12およびcrHIV−1.111のひとつである(Dropulic' et al., PNAS, 93, 11103-11108 (1996))。同様に好ましいのは、実施例11で説明されているベクターつまり、cr2HIVである。
【0070】
そのcr2HIVベクターは望ましくは、野生型ヒト免疫不全ウイルスのゲノムからtat 遺伝子およびそのスプライス部位を欠いている。tat 遺伝子およびそのスプライス部位の代わりに、cr2HIVベクターは、3重アンチ−Tat リボゾームカセットを含んでおり、3重アンチ−Tat リボゾームカセットのそれぞれのリボゾームの触媒部位は、野生型HIV核酸分子のtat 内の異なる部位を切断する。好ましくは、3重リボゾームカセットのそれぞれのリボザイムの触媒ドメインは、野生型HIV核酸分子の異なる部位を切断する。さらに望ましくは、それぞれのリボザイムの触媒ドメインは、ベクター自身にはリボザイム耐性の対応部のない、野生型HIVの核酸分子のある領域の核酸配列を切断する。
【0071】
最適には、ベクターは導入された細胞に適合性である。例えば、ベクターがコードしている核酸配列を細胞で発現させる性質を与えることができる。望ましくは、ベクターは細胞で機能する複製起点を含んでいる。(例えば、それ自身のプロモーターを含む完全な遺伝子の形に対して)核酸配列がそのDNAコード遺伝子の形で導入されるとき、最適には、コード配列の発現を促すことができ、かつ、コード配列に機能的に結合されているプロモーターもベクターは含んでいる。コード配列がプロモーターに「機能的に結合されている」(例えば、コード配列およびプロモーターの両方が一緒に天然型または、組換え遺伝子を構成する)のは、プロモーターがコード配列の転写を指示することが出来るときである。
【0072】
本発明の組換えベクターでは、好ましくは、全ての正常な転写(例えば、開始シグナルおよび終止シグナル)、翻訳(例えば、リボゾームエントリーまたは結合部位等)およびプロセシンングシグナル(例えば、スプライスのドナー部位またはアクセプター部位、必要であれば、かつポリアデニル化シグナル)が正しくベクターに配置され、どの遺伝子またはコード配列も、ベクターが導入された細胞内で正しく転写(所望であれば、および/また翻訳)される。宿主細胞での正しい発現を保証するようなそのようなシグナルの操作は、十分に、当業者の知識および技術の範囲内である。
【0073】
ベクターは好ましくは、ベクターまたはそれに含有されサブクローニングされた配列が同定されかつ選択されるようないくつかの手段も含んでいる。ベクターの同定および/または選択は、当業者に知られている様々なアプローチを用いて達成される。例えば、特定の遺伝子またはコード配列を含むベクターは好ましくは、ハイブリダイゼーション、ベクターに存在するマーカー遺伝子にコードされたいわゆる「マーカー」遺伝子の機能の非存在または存在、および/または特定の配列の発現によって同定される。第1のアプローチでは、ベクター内での特定配列の存在は、関連する配列と相同である配列を含むプローブを用いて、ハイブリダイゼーション(例えば、DNA−DNAハイブリダイゼーション)によって検出される。第2のアプローチでは、組換えベクター/宿主系は、ベクターに存在して以下の機能をコードする特定の遺伝子によって引き起こされる、抗生物質耐性、チミジンキナーゼ活性等のような或るマーカー遺伝子の機能の存在または非存在に基づいて同定および選択される。第3のアプローチでは、ベクターはそのベクターによってコードされる特定の遺伝子産物についての分析によって同定される。そのような分析は遺伝子産物の物理的、免疫学的または機能的な性質に基づいている。
【0074】
従って、本発明は、もしDNAなら配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列を含み、並びに、もしRNAなら配列番号:2、4、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列によってコードされている核酸配列を含んでいる、ベクターも提供するものである。
【0075】
本発明は、さらに、野生型ヒト免疫不全ウイルスから誘導され、かつ、そのベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力のある、リボザイムを有するベクターの生成方法を提供する。ベクターに含まれる又はベクターにコードされているリボザイムは、野生型のヒト免疫不全ウイルスの核酸配列を切断するが、ベクターそれ自身、及びもしあるとすれば、その転写物の核酸配列は切断しない。この方法は、野生型ヒト免疫不全ウイルスから誘導され、並びにそのベクターの複製を許容する宿主細胞内でだけ複製するベクターを取得し、野生型のヒト免疫不全ウイルスの核酸配列を切断するが、ベクターそれ自身、及びもしあるとすれば、その転写物の核酸配列は切断しないような触媒ドメインをもったリボザイムを含むまたはコードしている核酸配列を該ベクターに組み込むことを含む。そのような方法では、野生型ヒト免疫不全ウイルスのU5配列を含むまたはコードする核酸配列がベクターから欠失され、かつ、ベクターがDNAならば配列番号:2、5、6、14、15及び16から構成される群から選択される核酸配列によって、ベクターがRNAならば配列番号:2、5、6、14、15及び16から構成される群から選択される核酸配列にコードされる核酸配列によって置換され得る。好ましくはベクターの複製を許容する宿主細胞内でベクターは2回以上複製する。
【0076】
本発明によって、ベクターの修飾方法も提供される。この方法は、ベクターを得ること並びに、ベクターがDNAならば配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16から構成される群から選択される核酸配列を、ベクターがRNAならば配列番号:2、3、4、5、6、14、15および16から構成される群から選択される核酸配列によってコードされる核酸配列をベクターに導入することを含んでいる。
【0077】
本発明によってさらに提供されるものは、パッケージング細胞株を用いずに、条件付きで複製したベクターを増殖させかつ選択的にパッケージングする方法である。この方法は、条件付き複製ベクターと同じタイプのベクターで、かつ複製能力については野生型であることによりそれとは異なっている他のベクターによって感染させることができる細胞と、条件付き複製ベクターを接触させること;その後、細胞をその他のベクターと接触させること;それから条件付き複製ベクターを増殖に導くことができるような条件下で細胞を培養すること含んでいる。
【0078】
さらに提供されるものは、配列番号:2、5、6、14、ここで少なくとも1つのNは変異されている、15および16からなる群から選択される核酸配列を含むDNA分子、および配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群から選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むRNA分子からなる群から選択された、単離精製された核酸分子である。
【0079】
使用方法
ウイルス感染の予防的および治療的処置のためには、上述のベクターは、ベクターの維持の容易さ、並びにその他の理由によって、好ましくは宿主細胞に導入される。従って、本発明は、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞の単離、および/または培養によりそれから由来するそのような細胞あるいは細胞株の維持は、決まりきった事柄で、当業者はそれによく精通している。
【0080】
特に、好ましくは上述のベクターは、野生型ウイルス、好ましくは野生型RNAウイルスから、より好ましくは野生型レトロウイルスから、そして最適には野生型HIVからの感染のようなウイルス感染の予防的および治療的処置において用いられる。
【0081】
該方法は、野生型ウイルスで感染され得る宿主細胞を、ベクターの複製を許容する宿主細胞内でのみ複製する能力のある条件付き複製ベクターに接触させることを含み、その存在、転写あるいは翻訳は、宿主細胞内での野生株ウイルスの複製を阻害する。望ましくは、該ベクターは1回以上複製し、少なくとも1つの核酸配列を含み、その所有(すなわち存在、転写あるいは翻訳)は、野生株ウイルス、最適にはベクターが由来する株よりも宿主細胞内で該ベクターに選択的に優位性を付与する。
【0082】
この方法によると、核酸配列は好ましくは、該ベクター以外のウイルスの複製および/または発現に不利に影響を及ぼす遺伝的抗ウイルス剤を含むかコードする核酸配列を含む。望ましくは遺伝的抗ウイルス剤は、アンチセンス分子、リボザイムおよび免疫原からなる群より選択される。最適には、該遺伝的抗ウイルス剤はリボザイム、好ましくは3’ヌクレオチドNUH配列(すなわち特にGUC配列)で切断する触媒ドメインである。最適にはリボザイムは、少なくとも部分的には配列番号:3および配列番号4からなる群より選択される配列によってコードされる。望ましくは、該リボザイムは野生株ウイルスまたはその転写産物の領域内で切断するが、該ベクターまたはその転写産物の領域内では切断しない。好ましくは、これは野生株ウイルスが配列番号:1によってコードされる配列を含み、一方で該ベクターがDNAであれば配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、もしRNAであれば、配列番号:2、5、6、14、15および16からなる群より選択されるヌクレオチド配列によってコードされるヌクレオチド配列を含むことによる。
【0083】
望ましくは該方法はまた、該ベクターが少なくとも1つの核酸配列を含み、その所有(すなわち存在、転写あるいは翻訳)が、野生株ウイルス、最適にはベクターが由来する株よりも宿主細胞内で選択的に優位性を該ベクターに付与するように行われる。この点については、ベクターは少なくとも1つの核酸配列を含むことができ、該ウイルスで感染させた宿主細胞に1つの選択的に優位性を付与し、そして少なくとも核酸配列、それは該ベクターがそれから誘導されるウイルスに対応する野生株ウイルスよりも選択的に優位性を該ベクターに付与する。
【0084】
従って、該方法は好ましくは、該核酸配列が多剤耐性をコードするように行われる。あるいは該方法は、予防的あるいは治療的に処置されるべくウイルス感染がレトロウイルスである場合のように、該核酸配列が変異した(変異)プロテアーゼをコードしているヌクレオチド配列および変異した(変異)逆転写酵素をコードしているヌクレオチド配列を含むように行われる。
【0085】
該方法はさらに好ましくは、宿主細胞への、細胞毒性のある薬剤、プロテアーゼ阻害剤および逆転写酵素阻害剤からなる群より選択される作用薬の投与を含む(すなわち該ベクターの投与に加えて)。
【0086】
従って、ウイルス感染を治療的に処置するためだけでなく、感染の可能性のある宿主細胞をウイルス感染から保護するためにも上述の方法に従ってベクターを用いることができる。すなわちウイルス感染を予防的に処置する方法、あるいはRNAウイルス、特にHIV等のレトロウイルスのような目的とするウイルスに対する「予防接種」である。該方法は野生株ウイルスと宿主細胞を接触させる前に該野生株ウイルスの複製を本質的に阻害する。この点で、該ベクターは野生型ウイルスでの重感染を妨げる蛋白質を含むかコードすることができる。該方法は、宿主細胞を、上述のような条件付き複製ベクターおよび「ヘルパー発現ベクター」(すなわち非感染宿主内で「ベクター」の複製を促進するウイルスゲノム)に接触させることを含む。条件付き複製ベクターはパッケージングおよび/または増殖に関して優位に選択される。さらに、該ベクターは例えば、細胞の生存を増強し、ウイルス産生を促進し、アポトーシスを引き起し、蛋白質生産を容易にし、および/または免疫機能および/またはターゲティングを促進する配列を有することができる。該「ヘルパー発現ベクター」構築物は、該「ベクター」の複製に対する能力のなさを補う任意の発現ベクターである。そのようなヘルパー発現ベクターは一般的であり、当業者によって容易に構築される。該ヘルパー発現ベクターはベクターのようにビリオンにパッケージングされ得るか、あるいはパッケージングの必要なしに発現され得る。該「ベクター」は、パッケージングおよび/または増殖に関して優位に選択されるので、この系は、生弱毒化ウイルスが引き起こす可能性のある、起こり得る病原性の影響なしにウイルスの高複製を達成するための安全な手段を与える。加えて該ベクターは、免疫原性を高める為に非特異的なアジュバントと混合することができる。そのようなアジュバントは当業者には公知であって、それには限定されないが、フロイントの完全あるいは不完全アジュバント、バクテリアやマイコバクテリアの細胞壁成分等からなる乳剤を包含する。
【0087】
ベクターをウイルス感染の予防的処置として上述の方法に従って使用する場合、該ベクターは、変異ウイルス蛋白質あるいは非ウイルス蛋白質等の野生型ウイルスによってコードされていない蛋白質の抗原をコードすることができる。従って、該ベクターによってコードされる抗原は例えば細菌起源あるいは癌細胞起源のものであり得る。さらに該「ベクター」はまた、宿主の免疫系への該抗原の適切な提示のためのMHC遺伝子をコードすることができる。すなわち、そのようなベクターは、一連の種々の異常な細胞で選択的に発現されている、可能性のある病原体および/または内因性蛋白質(例えば腫瘍特異性抗原)に対する持続性の免疫学的応答を容易にするために用いることができる。
【0088】
さらに、該「ヘルパーウイルス」(ここでは「ヘルパー」ともいう)発現ベクターを、細胞特異的なベクター複製および蔓延を可能にする、特別な遺伝的要素/因子の付加あるいは除去(該ベクターあるいはヘルパーウイルス発現構築物のどちらかで)によって、特別な細胞種(例えば幹細胞、専門的抗原提示細胞(professional antigen presentingcells) 、および腫瘍細胞)でのみ発現するように工作することができる。すなわち該ベクターはヘルパーウイルス構築物での相補によって依然蔓延するが、しかしこの蔓延は細胞特異的であり、該ベクターあるいはヘルパーウイルス発現構築物からある遺伝的要素/因子が付加されているかあるいは省かれているかに依拠している。これは単独で、あるいは他の上述の戦略を組み合わせて用いることができる。
【0089】
例えば、条件付き複製HIVベクターは、T細胞ではなくマクロファージで特異的に複製するように設計することができる。Tat欠損HIVを構成するであろう該ベクター(該ベクターは他のHIV蛋白質をコードしている、それらはTat転写トランスアクチベーターがないので発現されない)は、野生型HIVは切断するが条件付き複製HIV RNAは切断しないリボザイムをコードすることができる。このベクターのためのヘルパー発現ベクターはマクロファージ特異的プロモーターから発現されるtat 遺伝子をコードすることができる。すなわち、crHIVはマクロファージ細胞でのみ条件付きで複製するであろう一方で、T細胞やその他の細胞種では複製することができないであろう。
【0090】
あるいは、tat 遺伝子を腫瘍特異的プロモーターに機能的に連結することができる;すなわち、今度はcrHIVは腫瘍CD4細胞でのみ複製し、正常なCD4細胞では複製しないであろう。「ヘルパーウイルス」発現構築物と協力して該ベクターが特異的な細胞種でのみ発現され、他の細胞種では発現されないように、遺伝的要素/因子はまた該ベクターのプロモーター配列の修飾であり得る。
【0091】
別の態様においては、該ヘルパー発現構築物あるいは該ベクター構築物エンベロープ蛋白質(もしそのような構築物がエンベロープ蛋白質を含むように工夫されていれば)は、ベクター−ビリオンが特異的にある細胞種(例えば腫瘍細胞)に感染し、他の細胞種(例えば正常細胞)に感染することができないであろうように修飾することができる。さらに別の態様においては、1つあるいは幾つかの複製の鍵となる因子を欠いているアデノウイルスが、腫瘍特異的プロモーターに連結されたそのような因子を供給するヘルパー構築物を用いることによって相補され得る。すなわち、アデノウイルスの複製を相補する該因子は腫瘍細胞内でのみ発現するであろうし、それによって正常細胞内ではなく腫瘍細胞内で、ウイルス複製(細胞致死に要求される蛋白質の発現を伴って)が可能になるであろう。
【0092】
すなわち、本発明はまた癌の処置、特にT細胞白血病の処置方法をも提供する。本発明において「癌の処置」は、治療的応答をもたらすことを目的とした、ここで述べたようなさらなる修飾ベクターの宿主への投与を含む。そのような応答は、例えば腫瘍の増殖の減衰および/または腫瘍の退縮をモニタリングすることによって評価することができる。「腫瘍の増殖」は腫瘍サイズの増加および/または腫瘍の数を包含する。「腫瘍の退縮」は腫瘍集団の縮小を包含する。
【0093】
本発明において「癌」は、腫瘍形成によって証明され得る異常な細胞増殖および接触阻止の消失によって特徴づけられる癌を包含する。該語句は、例えば、浸潤による局所的に、あるいは転移による全身的に腫瘍から広がった癌細胞のような、腫瘍にとどまった癌および腫瘍にとどまっていない癌を包含する。理論上、いかなるタイプの癌も本発明による治療の標的となり得る。しかしながら好ましくは癌はウイルス起源のものである。
【0094】
最終的には、上述のベクターはインビボの遺伝子治療に直接用いることができる。最近の遺伝子治療戦略は、感染させた細胞のある割合しか遺伝子送達を仲介することができず、大部分の細胞へはできないので苦痛を伴うものである。このことは全腫瘍集団の遺伝子導入が重要な抗腫瘍戦略において特に重要である。該「ベクター」を「ヘルパー」といっしょに与えることにより、直接に導入された細胞は、近隣の細胞に感染することのできる、すなわち高い、そしておそらくは完全な形質導入効率を可能にするウイルス粒子を産生するであろう。この発明のひとつの態様において、ヒトレトロウイルス(HIVあるいはレトロトランスポゾン要素であり得る)を、「ヘルパー」構築物とともに組織(あるいはインビトロでの細胞)に送達することができた。直接に該ベクターおよびヘルパーを含有する細胞は、ウイルスを産生し、該ベクターをビリオンに条件付きでパッケージングするであろう。これらのビリオンは近隣細胞(細胞に形質導入を生じさせるのには、細胞−細胞接触が最も効果的な手段であるので)の高い導入効率を仲介し得るであろう。直接に導入された細胞は、ベクター/ヘルパーの組み合わせが結果として細胞溶解感染を起こさせるかどうかによって、死ぬかもしれないし死なないかもしれない。レトロトランスポゾンの場合には、正常または腫瘍細胞がビリオンへのエンキャプシデーション(encapsidation) に必要な蛋白質/因子を含んでいるかもしれないので、該ヘルパーは構造蛋白質を含む必要がないかもしれない。この場合には、該ヘルパーは、それに限定されないが、単なるレトロトランスポゾンのエンキャプシデーションに要求される因子の転写を活性化するトランスアクチベーター蛋白質であり得る。HIVの場合には、必須ではないが、他の因子が、細胞の感染/形質導入のための、HIVゲノムの子孫ビリオンへのエンキャプシデーションに他の因子が要求されてもよい。
【0095】
上述のベクターはまた、対−生物学的および対−化学的闘争戦略において使用され得る。例えば、最近高い病原性のウイルスあるいは細菌もしくは化学作用薬(例えば毒素)で感染させた個体に、条件付き複製ベクターを送達することができる。該ベクターは、先に述べたような病原性ウイルスの複製を妨害する。しかしながら、条件付き複製ベクターをまたヘルパー発現ベクター(「ヘルパー」)といっしょに抗細菌的あるいは抗化学的戦略に用いることもできる。
【0096】
例えば、条件付き複製ベクターは、「ヘルパー」がその発現および増殖を可能にした後で、抗細菌あるいは抗毒素抗体を分泌することができる。該「ヘルパー」は、必須ではないが、細菌やサイトカイン(細菌の感染に応答して)、抗生物質(テトラサイクリン誘導性プロモーター系(Paulus ら, J. Virol. 70,62-67(1996)) での場合)あるいは化学薬品(例えば毒素、そのもの)によって活性化すると、その発現を可能にする誘導性プロモーターを駆動させ得る。すなわち条件付き複製ベクターは、好ましくない結果をまねく病原体あるいは毒素(ヘルパーの活性化の結果として)に応答して「ヘルパー」の助けで選択的に増殖するだけでなく、腫瘍抗原、病原体あるいは化学薬品(例えば毒素)の病原性の影響を阻止するための抗病原体あるいは抗毒素抗体を分泌するであろう。すなわち、mRNAおよび/または蛋白質のどちらかに転写されるいかなる蛋白質、因子あるいは遺伝的要素が、病原性応答を阻止するために、条件付き複製ベクターに挿入され得る−−その選択的な増殖および発現(該ヘルパーの産物は条件付き(それには限定されないが、例えば(a)誘導性プロモーター系−−腫瘍細胞中のある因子は、ヘルパー因子、ヘルパー因子を発現する毒素応答性配列(toxin responsivesequence) 、あるいはヘルパー因子の産生を引き起こすサイトカイン応答性プロモーター(cytokine responsivepromoter)の産生を活性化する、(b)ヘルパーRNA/蛋白質/因子は、ある細胞内で選択的に安定化され、他では安定化されない、そして(c)ヘルパーウイルスの蛋白質の産生、シャペロニング(chaperoning) 、ターゲティング、構造あるいは別の生物機能に影響を及ぼす第3者的な遺伝子の間接的な導入)で発現されるので選択的)を促進する「ヘルパー」と協力して。そのような戦略を、形質転換植物および動物に病原体から保護するために用いることができる。同様にして、そのような戦略を価値ある異種蛋白質/因子の生産のための形質転換系に用いることができる。
【0097】
本発明による方法の別の態様において、例えば、蛋白質/因子のどの部分がある特定の機能に重要なであるかを決定するための薬剤/因子をスクリーニングするための細胞株を開発することができる。所定の細胞株内で目的とする変異させた蛋白質が発現するようにベクターを創製することができる。しかしながら該変異させた蛋白質をコードするRNAは、例えばサイレント点変異の挿入によってリボザイムに抵抗性に作られる。しかしながら、野生型蛋白質の発現は細胞株内では阻害されている。また、目的の蛋白質に対してリボザイムを発現するベクターをまた、変異被検蛋白質を発現し得るように構築することができる。該ベクターが細胞に導入されると、正常な蛋白質をコードしている天然RNAのほとんどは切断され、一方で該変異被検蛋白質が発現される。どのように所定の蛋白質が機能するのか、またどのように所定の因子/薬剤が該蛋白質に相互作用しているのかを決定するための、迅速且つ強力な技術として、最近開発された送達および選択技術とともにこの方法を用いることができる。
【0098】
また、インビトロで、無数の本発明の使用方法ならびにベクターがある。例えば、ウイルス複製およびリボザイム機能の、ある微妙な差異を明確にするために該ベクターを用いることができる。同様に、リボザイムを含有するベクターを、例えば羅病細胞における変異の存在を調べるための、あるいは遺伝的浮動を確かめるための診断の道具として用いることができる。上述の考察は、決して本発明の用途を包括的にみなすものではない。
【0099】
発明の利点
エイズおよび他のウイルスの遺伝子治療処置にcrHIVストラテジーを用いる利点は大きい。例えば、HIVに感染した細胞にベクターをターゲッティングする問題が解決されるようになる。感染したCD4+細胞にcrHIVをインビボでトランスフェクション後、crHIVは内因性感染性HIVエンベロープ蛋白質を用いて子ビリオンにパッケージされるようになる。従って、crHIV RNAは子ビリオン内部について行き、非病原性ビリオンを産生するその特定のHIV株に通常感染し得る細胞タイプに感染する。これは、脳の小グリア細胞(中枢神経系のHIV感染のための主な貯蔵器官である)のようなターゲットが困難な細胞を含む。crHIVベクターによりコードされるウイルス蛋白質はないので、非感染CD4+細胞に感染するcrHIVベクターに関連する毒性の可能性はほとんどない。さらに、crHIVベクターの野生型HIVとの競合の結果、非病原性粒子が産生され、その結果ウイルス負荷が低下する。crHIV粒子もまた全身的に広がり得るので(即ち、感染性HIVがそうであるように)、病原性HIV−1負荷の低下は、感染個体の生存期間を延長し得るだけでなく、非感染個体への感染の割合を低下させることもできる。crHIVの産生はまた、感染した母親から子宮内の胎児へのHIV−1感染を減少させるので、血液中の病原性HIV−1負荷の低下は妊娠中のHIV感染個体において特に重要である。
【0100】
crHIVベクターを宿主細胞に導入するために使用することができるプラスミドDNA/脂質混合物は、高価な生体外ストラテジーを避けて安定でかつ安価に製造できなければならない。勿論、本発明の方法は、所望により生体外遺伝子送達にも利用することができ、本質的に自由に変えられる。それとは関係なく、リポソームを仲介したアプローチの有用性は一般大衆の治療の可能性(それは現在の遺伝子治療ストラテジーでは実現可能でない)への道を開く。crHIVベクターはまた、HIVゲノム上の異なるターゲットに向けて作られた幾つかのリボザイムを含有するように操作することができる。これは、感染性HIVが突然変異して抗HIVリボザイムの効果から逃れ得る可能性を少なくする。さらにまた、条件付き複製可能ウイルスストラテジーは他のウイルス感染、特にウイルスの代謝回転が高いウイルス感染の治療に適用することができる。
【0101】
crHIVベクターの特に有用な性質は、遺伝的抗ウイルス剤、例えば、リボザイムを転写後に発現するのに利用することができる点である。従って、非感染細胞にcrHIVベクターを感染させると毒性が低い。なぜなら、Tat蛋白質の非存在下でHIV末端反復配列(LTR)プロモーターからわずかな発現しか起こらないからだ。高レベルのcrHIV発現およびその結果として起こる抗ウイルス活性は、野生型HIVとの相補によりTat蛋白質が提供されるときにのみ起こる。このように、crHIVベクターはHIV感染から細胞を保護するように設計されているのではなく、非病原性crHIV粒子の選択的蓄積により全体の野生型HIVウイルスの負担を低くするように設計されている。
【0102】
本発明の実施または作用に関して特定の理論に束縛されることを求めているわけではないが、以下の実施例で確認されるように、リボザイムは(1)高度の特異性を有し、(2)ターゲットRNAと共局在化する能力に応じて相対的な効率を有するという2つの有用な性質のために、選択的にcrHIVゲノムに優位性を付与するのに用いることができると考えられる(Cech, Science, 236, 1532-1539 (1987)) 。リボザイムの特異性は、それらがXUY部位を含有する相補ターゲット配列へ特異的にハイブリダイズすることにより付与される。リボザイムはターゲットRNAと効率的に共局在化するときにのみ高い効率でターゲットRNAを切断するので、リボザイムは相対的に効率的である。HIV/crHIV混合感染において、リボザイム含有crHIV RNAの野生型HIV RNAとの共局在化が起こるはずである。なぜなら、HIV RNAゲノムは子ビリオンへのパッケージングの前に二量化するからだ。非ゲノミックHIV RNAは二量化しないので、ウイルス蛋白質の産生に必要な野生型HIV RNAの非ゲノミック種の切断は、ゲノミック野生型HIV RNAの切断よりも効率が低い可能性が高い。crHIV RNAに付与された選択的優位性は、crHIVがウイルス粒子に選択的にパッケージングされるためであることが本明細書に記載する実験で見い出された。これらの結果は、最も効率的な切断は細胞内で二量化の間に起こり、結果として宿主ヌクレアーゼによる野生型HIV RNAの選択的破壊が生じることを示唆する。これは、crHIV RNAがウイルス粒子に優先的にパッケージングされることを可能にする。
【0103】
crHIVベクターのHIV治療への適用は、crHIVのゲノミック選択だけでなく、crHIV粒子を産生する細胞の細胞性選択も含む。そうでなければ、野生型HIVを産生する細胞は、crHIV粒子を産生する細胞に対する選択的優位性で野生型HIV粒子を産生し、速やかに優位を占めるだろう。crHIV発現細胞に(薬剤の存在下で)野生型HIV発現細胞に対する生存優位性を付与する遺伝子(例えば、多剤耐性遺伝子)をcrHIVゲノムに挿入することにより、crHIV発現細胞に選択的優位性を付与することができる。これらの条件下では、野生型HIV発現細胞は次第に死ぬが、いくらかの野生型HIVをまだ産生する。一方、crHIVを選択的に産生するcrHIV発現細胞は生存する。crHIV含有細胞を残りの野生型HIVに感染させると、crHIV含有ウイルス粒子をさらに産生させる結果となる。従って、ウイルスゲノミックシフトはCD4+細胞にcrHIVゲノムを累積的に感染させることになり、これにより宿主におけるウイルスバランスを病原性野生型HIVから非病原性crHIVゲノムに変化させる。いったん、HIVゲノムのバランスが野生型HIVからcrHIVに選択的にシフトすると、このようなストラテジーは野生型HIVを排除し得る。crHIVは野生型HIVヘルパーゲノムの存在下でのみ複製することができるので、ウイルス複製はいずれ止まる。従って、このような相互に制限する条件下では、野生型HIVウイルス負荷を減少させるようにするだけでなく、HIV感染宿主からウイルスを排除するようにcrHIVベクターを操作することが可能になる。
【0104】
投与手段
本発明によれば、前記のように、ウイルス感染の遺伝子治療を必要とする宿主細胞内にベクターを導入する。導入手段は、ウイルスに感染し得る宿主を本発明のベクターに接触させることを含む。好ましくは、かかる接触には、宿主細胞内にベクターを導入する手段であればいかなる手段も含まれる。方法は特定の導入手段によって決まるものではなく、またそのように解釈すべきでない。導入手段は当業者に周知であり、本明細書中でも例示する。
【0105】
従って、導入は、例えば、in vitro(例えば、遺伝子治療のex vivo タイプの方法)またはin vivo のいずれで行ってもよく、エレクトロポレーション、形質転換、形質導入、接合またはトリペアレンタルメイティング、トランスフェクション、感染、カチオン脂質を用いる膜融合、DNAでコーティングしたマイクロプロジェクタイルを用いる高速発砲、リン酸カルシウム−DNA沈殿物とのインキュベーション、単一細胞への直接マイクロインジェクションなどの使用が含まれる。他の方法も利用することができ、これは当業者に知られている。
【0106】
しかしながら、好ましくは、ベクターまたはリボザイムはカチオン脂質、例えば、リポソームにより導入する。このようなリポソームは市販されている(例えば、リポフェクチン(Lipofectin)R、リポフェクタミン(Lipofectamine)TMなど、Life Technologies, Gibco BRL, Gaithersburg, MD)。さらに、輸送能が増大しおよび/またはインビボ毒性が低下したリポソーム(例えば、PCT特許出願WO95/21259に記載)を本発明で使用することができる。リポソームの投与は、PCT特許出願WO93/23569に記載の推奨に従って行うことができる。一般に、このような投与に用いる処方は大多数のリンパ球により37℃で8時間以内に取り出され、静脈内投与の1時間後に注射投与量の50%を越える範囲内が脾臓で検出される。同様に、他のデリバリービヒクルには、ハイドロゲルおよびコントロール放出ポリマーが含まれる。
【0107】
宿主細胞に導入されるベクターの形態は、ベクターがインビトロまたはインビボのいずれで導入されるかによって一部は決定される。例えば、ベクターがゲノム外に保持されるか(即ち、自己複製ベクター)、プロウイルスまたはプロファージとして組み込まれるか、一時的にトランスフェクションされるか、複製欠損または条件付き複製ウイルスを用いて一時的に感染されるか、あるいはダブルまたはシングルクロスオーバー組換えを経て宿主ゲノムに安定に導入されるかに応じて、核酸は閉じた環状、ニック、または直鎖状であってよい。
【0108】
宿主に導入する前に、本発明のベクターを治療および予防処置方法に用いるための各種組成物に製剤化することができる。特に、ベクターを適当な医薬的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて医薬組成物とすることができ、ヒトまたは獣医学的適用に適するように製剤化することができる。
【0109】
従って、本発明の方法に用いられる組成物は1または2以上の上記のベクターを、好ましくは医薬上許容される担体と組み合わせて含有するものである。医薬上許容される担体は好適な投与手段として当業者には周知である。担体の選択は、一部は、特定のベクターにより、ならびに組成物の投与に用いる特定の方法によって決定される。組成物投与の各種経路を採用でき、また、投与に2以上の経路を用いてもよいが、特定の経路が他の経路よりも迅速かつ効果的な反応を与え得ることも、また当業者に理解されるだろう。従って、本発明の組成物の好適な製剤として広範囲の種類がある。
【0110】
本発明のベクターを単独あるいは他の抗ウイルス性の化合物と組み合わせて含有する組成物は、非経口投与、好ましくは腹腔内投与に好適な製剤にしてもよい。そのような製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および当該製剤を投与対象者の血液と等張にする溶質を含有してもよい水性または非水性の等張性無菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含有してもよい水性または非水性の無菌懸濁液が含まれる。この製剤は、単位投与量または多回投与量をアンプルおよびバイアルのような容器中に封入して提供してもよく、また、使用直前に例えば注射用水のような無菌液状担体を加えるだけでよいような凍結乾燥条件下に貯蔵してもよい。用時調製の注射溶液および懸濁液は、ここに記載のような、無菌の散剤、顆粒および錠剤から調製してもよい。
【0111】
経口投与に好適な製剤は、有効量の化合物を希釈液(例えば水、塩水またはフルーツジュース)に溶解したような液剤;それぞれ所定量の有効成分を固形または顆粒として含有するカプセル、薬袋(sachet)または錠剤;水性液体中の液剤または懸濁剤;ならびに水中油型乳剤または油中水型乳剤から構成することができる。錠剤の形態は、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、バレイショデンプン、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド状シリカ、クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose sodium)、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびその他の賦形剤、着色料、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、香料および医薬的に適合性の担体のうち1つまたは2以上含有してもよい。
【0112】
吸入による投与に好適なエアロゾル剤もまた調製される。エアロゾル剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容される圧縮不活性ガスに含ませてもよい。
【0113】
同様に、経口投与に好適な製剤としては、香料、通常はスクロースおよびアラビアゴムもしくはトラガント中に有効成分を含有する舐剤(lozenge form) ;ゼラチンおよびグリセリンのような不活性基剤、またはスクロースおよびアラビアゴム中に有効成分を含有する香錠;適当な液状担体中に有効成分を含有する含嗽剤;ならびに有効成分に加えて、当該分野で公知の担体を含有するクリーム、エマルジョン、ゲル等が含まれる。
【0114】
局所投与に好適な製剤は、クリーム、軟膏またはローションの剤形としてもよい。
【0115】
直腸投与の好適な製剤は、例えばカカオ脂またはサリチル酸塩を含有する適当な基剤と共に坐剤として提供してもよい。膣投与の好適な製剤としては、有効成分に加えて、当該分野で適当なものとして知られている担体を含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレーの剤形として提供してもよい。同様に、有効成分をコンドーム上のコーティングとして潤滑剤と組み合わせてもよい。
【0116】
本発明においては、動物、特にヒトに投与する用量は、妥当な時間枠にわたって、感染した個体に対して治療的な反応を生じさせるのに十分であることが必要である。上記用量は、治療に用いられる特定のベクターの効力、病状の重さ、感染した個体の体重および年齢により決定される。上記用量はまた、用いられる特定のベクターに伴うかもしれない副作用の存在によっても決定される。できるだけ副作用は最小限となるようにすることが望ましい。
【0117】
上記用量は、錠剤またはカプセルのような単位投与形態としてもよい。ここで、「単位投与形態」とは、ヒトおよび動物の患者にとって単位投与量として好適な物理的に分離した単位のことをいい、各単位は、医薬上許容される希釈液、担体または賦形剤と共に所望の薬効を生じさせるのに十分な量として算出した所定量のベクターを、単独であるいは他の抗ウイルス剤と組み合わせて含有する。本発明の単位投与形態の明細事項は、用いられる特定化合物(2以上でもよい)および得られる薬効により、ならびに宿主内での各化合物に関連する薬力学により決定される。投与される量は、「抗ウイルス有効量」あるいは個々の患者において「有効なレベル」を達成するのに必要な量であることが必要である。
【0118】
「有効なレベル」は、投与の好ましい終点として用いているので、実際の用量およびスケジュールは薬物動態、薬物分布および代謝における個人差に応じて異なる。この「有効なレベル」は、例えば、患者の望ましい血液濃度または細胞濃度として規定してもよく、これは化学化合物の臨床上の抗ウイルス活性を予測するアッセイにおいて、HIVのようなウイルスを阻害する、本発明の1または2以上のベクターの濃度に相当する。本発明の化合物の「有効なレベル」はまた、本発明の組成物をジドブジンまたは他の公知の抗ウイルス性化合物あるいはこれらを組み合わせたものと併用する場合には変わり得る。
【0119】
当業者は、個々の患者における望ましい「有効なレベル」を達成するために、用いられる組成物の厳密な製剤に対する適切な投与量、スケジュールおよび投与方法を容易に決定できる。当業者はまた、適当な患者の試料(例えば血液および/または細胞)を直接的に(例えば分析的化学分析)あるいは間接的に(例えばp24もしくはAIDSまたはAIDS様疾患の治療のための逆転写酵素のようなウイルス性感染の代用指標を用いて)分析することによって、本発明の化合物の「有効なレベル」の適切な指標を決定し用いることもできる。
【0120】
さらに、AIDSまたはAIDS様疾患の治療のための患者における有効なレベルの決定に関しては、特に適当な動物モデルが利用可能であり、各種の遺伝子治療プロトコールのHIVに対するin vivo 有効性を評価するために広く使われている(Sarver et al., (1993b), 前記)。これらのモデルはマウス、サルおよびネコを含む。これらの動物は自然にはHIV疾患に感染しないが、ヒト末梢血液単核細胞(PBMC)、リンパ節または胎児肝/胸腺組織で再構成したキメラマウスモデル(例えば、SCID、bg/nu/xid、骨髄除去したBALB/c)がHIVに感染し得るので、これをHIVの病理および遺伝子治療のモデルとして使用することができる。同様に、サル免疫不全ウイルス(SIV)/サルモデルを使用することができ、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)/ネコモデルも使用することができる。
【0121】
一般に、投与したリボザイム(またはベクター)の組織濃度を達成するのに十分なベクターの量は約50〜約300mg/kg体重/日が好ましく、特に約100〜約200mg/kg体重/日である。ある適用では、例えば、局所投与、眼投与または膣投与では1日に複数回投与することが好ましい。さらに、投与回数は送達手段および投与する特定のベクターに応じて変わり得る。
【0122】
ウイルスに感染した個体の治療においては、「メガ用量(mega-dosing)」規制を用いることが好ましく、これは大用量のベクターを投与し、当該化合物が作用するだけの時間を与え、その後適当な試薬を個体に投与して活性化合物を不活性化させるものである。本発明の方法において、治療(即ち、治療すべきウイルスと競合するベクターの複製)は必然的に限定される。換言すれば、例えば、HIVのレベルが低下すると、ビリオン産生のためにHIVに依存するベクターのレベルもまた低下するだろう。
【0123】
AIDSの治療処置に用いる場合、医薬組成物に本発明のベクターと組み合わせて他の医薬を配合することができる。これらの他の医薬は慣用の方法(即ち、HIV感染を治療する薬剤として)、より詳細にはin vivo でcrHIVウイルスに対して選択する方法で使用することができる。本明細書に記載するそのような選択は、条件付き複製HIVの広がりを促進し、条件付き複製HIVがより効果的に野生型HIVと拮抗するようにし、必然的に野生型HIVの病原性を制限するだろう。特に、好ましくはジドブジンのような抗レトロウイルス剤を使用することが意図される。さらに、前記したものに加えて使用できる、これらの併用医薬の代表的な例には、抗ウイルス化合物、免疫調節剤(immunomodulator) 、免疫促進剤、抗生物質、およびAIDSの治療に使用できるその他の薬剤および治療規制(regime)(代替医薬として認識されるものを含む)が含まれる。抗ウイルス化合物には、ddI、ddC、ガンシクロビル、フッ素化ジデオキシヌクレオチド、ネビラピン(nevirapine)(Shih et al., PNAS, 88,9878-9882 (1991))のような非ヌクレオシド類縁化合物、R82913(White et al., Antiviral Research, 16, 257-266 (1991)) のようなTIBO誘導体およびBI−RJ−70(Shih et al., Am. J. Med., 90 (Suppl. 4A), 8S-17S (1991))が含まれるが、これらに限定されない。免疫調節剤および免疫促進剤には、各種インターロイキン、CD4、サイトカイン、抗体製剤、輸血剤および細胞輸注剤が含まれるが、これらに限定されない。抗生物質には、抗真菌剤、抗菌剤および抗ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii) 剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
他の抗レトロウイルス剤とともに、特にddC、ジドブジン、ddI、ddAのようなRT阻害剤、または抗TAT剤のような他のHIV蛋白質に対して作用する他の阻害剤とともに、ウイルス阻害化合物を投与することによって、一般にウイルスのライフサイクルのうち、複製期の大部分または全てを阻害するだろう。AIDSまたはARC患者に用いるddCおよびジドブジンの用量は発表されている。ddCのウイルス抑制範囲は、一般に0.05μMから1.0μMまでである。約0.005〜0.25mg/kg体重の範囲で大部分の患者においてウイルス抑制性を示す。経口投与にあたっての予備投与量の範囲は幾分広く、例えば0.001〜0.25mg/kgを1回または2、4、6、8、12時間等の時間間隔で2回以上投与する。0.01mg/kg体重のddCを8時間毎に与えるのが好ましい。併用療法の場合、他の抗ウイルス化合物は、例えば、本発明のベクターと同時に投与してもよく、あるいは適宜時間をずらして投与するようにしてもよい。またベクターを1つの組成物に組み合わせてもよい。それぞれの用量は、組み合わせて用いる場合は、いずれかを単独で用いる場合より少なくてもよい。
【0125】
実施例
次の実施例に本発明の化合物と方法をさらに記載する。これらの実施例は、本発明をさらに説明するものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0126】
実施例1
この実施例は、本発明の条件付き複製可能ベクターの構築を記載する。特に、この実施例は、HIV、すなわちcrHIVベクターをもとにした条件付き複製ベクターの構築を記載する。
【0127】
HIV−1病原性の最も顕著な局面のひとつはウイルスの遺伝的変異型の生成である。インビボでのその早いHIV変異型の生成は、このウイルスをダーウィン遺伝的モデルの枠組みの中で考えることができる(例えば、Coffin, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 176, 143-164 (1992);およびCoffin, Science, 267, 483-489 (1995) 参照)。ウイルスゲノムのRNAから新しく転写されたプロウイルスに変異を起こすHIV−1の逆転写酵素の分子の不誠実さによって、変異型はつくられる。それ故に、重要な進行の妨げがなく、多くの複製サイクルが起こる生体内での条件では、遺伝的変化の実質的な程度により、多くのウイルス変異体が生成する。今のところ、HIV野生型は、このような制限のない条件では、最も高い選択優位性を持つため、優勢である。しかし、阻害剤、例えばジゾブジンの存在下では、ウイルス変異型は野生型よりも選択的に優位性が与えられ、選択され、その結果優位を占めるだろう(Coffin (1992) および(1995), 上記)。これをもとに、本発明は病原性を持つHIV−1野生型よりも高い選択優位性を持つ、非病原性HIV−1ゲノムを与える条件付き複製ウイルスベクター法を提供するものである。
【0128】
これらの非病原性の条件付き複製HIV(crHIV)ベクターは欠損HIVであり、野生型ウイルスが感染した細胞内においてのみ、複製とパッケージングを行う。crHIVゲノムは、病原性をもつ野生型HIVウイルスの拡大と競合し、そして減少させる。感染宿主における、野生型HIVウイルスの拡大を減少させる効果は、延命を導くはずである。これはまた、感染宿主の、非感染個体へ野生型HIVを感染させる能力を減少させるはずである。crHIVの野生型HIV−1に対する競合を達成させるためには2つの因子が重要である。(1)野生型HIVゲノムよりも、crHIVゲノムの選択優位性が高いこと、そして、(2)野生型HIVが発現している細胞よりも、crHIVが発現している細胞の選択優位性が高いこと(すなわち、crHIVが発現している細胞からのcrHIVビリオン生成の選択優位性が野生型HIVが発現している細胞よりも高いこと)。
【0129】
crHIVベクターは、RNA発現、二量体形成およびパッケージングに必要な配列を持っているので、条件によっては複製するが、機能的(野生型)HIV−1蛋白質HIV−1蛋白質は発現しない。crHIVのU5 RNAではなく、野生型HIVゲノムのU5領域を切断するようにリボザイムカセットを挿入することによって、選択優位性がcrHIVベクターに与えられた。
【0130】
このベクター中に存在するリボザイムは、crHIV RNAを切断しない。なぜなら、crHIV RNAのU5領域は、リボザイムがこれらのサイトへ有効に結合し、切断することを防ぐために保護された塩基置換(塩基置換は他のHIV株おいて存在する)によって改変されているからである。さらに、crHIVは病原性を持たない。なぜならば、crHIVはCD4+細胞死をもたらすと信じられている蛋白質をコードしないからである。(crHIVベクターによって形質転換された)HIV感染細胞が、活性化されるとき、その細胞は、crHIVのゲノムの欠損を相補することができるようになり、その結果、crHIVの子ビリオンが生成する。
【0131】
一般的にcrHIVゲノムは完全な長さを持った感染能を有するHIVのクローンであるpNL4−3(Adachi et al., J. Virol., 59,284-291 (1986)) から構築された。すべてのクローニング反応や、DNA、RNAおよび蛋白質の操作は、当業者によく知られた方法を用いてなされる。そして、それは、例えばManiatisら、Molecular Cloning: A LaboratoryManual, 2nd ed. (Cold SpringHarbor Laboratory, NY (1982))の文献に記載されている。これらの反応に使用する酵素や試薬は商業的提供者(例えば、New England Biolabs, Inc., Beverly, MA; Clontech, Palo Alto, CA;および Boehringer Mannheim,Inc., Indianapolis, IN)から得、製造者の説明に従って使用した。さらに、ベクターの維持と増殖は、一般的に知られている方法、および、以前に報告されている方法(例えば、Dropulic' et al. (1992), 上記、およびDropulic' et al. (1993), 上記)を用いて行った。
【0132】
pNL4−3は、酵素Pst I (転写開始点から約+1000の位置にあるgagを切断する)およびXho I (転写開始点から約+8400の位置にあるnef を切断する)によって切断され、都合のよい制限部位を持っているポリリンカーが挿入された。rev 応答性エレメント(RRE)を含む0.86KbのBgl IIからBam HIまでのフラグメントは、ポリリンカーの中に存在するBam HI部位にクローニングされた。これら操作は、gag がコードされている領域から、U3がコードされている領域まで(すなわち、このようにnef 遺伝子も欠損)のHIV野生型ゲノムを欠損させることになった。このベクターは不完全なgag 転写産物を生成することができるが、機能可能な完全な長さを持つGag 蛋白質を生成することはできない。しかし、野生型Gag の機能は本発明には不要であるから、gag の配列はGag 蛋白質の翻訳をさせないように変異させることができる。
【0133】
ここに記載したシングルあるいはマルチプルのリボザイムを持つリボザイムカセットはBam HI部位の下流のSal I 部位に挿入された。このことを達成するために、リボザイム配列をコードする相補的デオキシオリゴヌクレオチドを合成し、アニーリングし、そしてSal I 部位にクローニングした。crHIVの構築のために用いたリボザイムは、ハンマーヘッド構造を持つリボザイムであった。これらリボザイムは22塩基対からなる触媒ドメインと、それぞれ9塩基対からなる2つのハイブリダイゼイションドメインを含む。このリボザイムはU5RNA配列の+115または+133の部位(すなわち、転写開始点から下流の塩基対の数に対応する部位)のどちらかを標的とする。+115部位と+133部位を標的とするリボザイムのハイブリダイゼイションドメインと触媒ドメイン(下線部)は以下に示す通りである。
CACACAACACTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACGGGCACA ("+115 リボザイム")〔配列番号3〕
ATCTCTAGTCTGATGAGGCCGAAAGGCCGAAACCAGAGTC ("+133 リボザイム")〔配列番号4〕
このリボザイムカセットは、直列に位置する単一、2重あるいは3重のリボザイムのいずれかから構成される。単一(”crHIV−1.1”ベクター、図1B)あるいは3重(”crHIV−1.1”ベクター、図1E)のリボザイムを含むベクターは、+115のU5 HIV RNAの同一部位を標的とする。2重リボザイムを含むベクターは+115の同一部位(”crHIV−1.11”ベクター、図1C)あるいは、U5 HIV RNAの+115と+133の異なった部位:crHIV−1.12 (crHIV−1.12 ”ベクター、図1D)のいずれかを標的とする。これらのベクターはここでは総括的に”crHIV”ベクターと呼ぶ。
【0134】
このベクターの構築を完成させるために、crHIVゲノムのU5領域内にあるハンマーヘッド型のリボザイム認識部位の変異によって、crHIVベクターは、リボザイムによる切断に対する抵抗性(即ち、RNAとしての発現)を与えられた。これを達成させるために、図2〔配列番号2〕に示した塩基置換を含む二本鎖オリゴヌクレオチド(すなわち、AAGCTTGCCTTGAGTGCTCAAAGTAGTGTGTGCCCACCTGTTGTGTGACTCTGGCAGCTAGAGATCCCACAGACCCTTTTAGTCAGTGTGGAAAATCTCTAGCAGTGGCGCC 〔配列番号13〕)をベクターに改変部位を導入するために用いた。特別に、塩基置換は115と133塩基対のリボザイムのハイブリダイゼーションと切断部位に工作された。特に図2に図示されたように、変異は113、114、132、134および142の塩基対に導入された。これら部位はいかなる変異も含んで、改変することができる。(すなわち、GTGTGCCCNNCTGTTGTGTGACTCTGGNANCTAGAGANC 、これらの中でNはどんな変異ヌクレオチドでもよい〔配列番号14〕)。しかし、より好ましくはこの配列は、例えば+113部位のGをAに(この配列は GTGTGCCCATCTGTTGTGTGACTCTGGTAACTAGAGATC〔配列番号15〕からなる)、+114部位のU(DNA配列としてはT)をCに〔配列番号5〕、+132部位のU(DNA配列としてはT)をCに〔配列番号6〕、+134部位のAをGに(この配列はGTGTGCCCGTCTGTTGTGTGACTCTGGTAGCTAGAGATC 〔配列番号16〕からなる)、および+142部位のU(DNA配列ではT)をAに置換して変異させたものであり、これらの変異はそれぞれ単独或いは組み合わせることができる。特に他のU5の変異がない場合、crHIVU5RNAの+114部位〔配列番号5〕および/または+132部位〔配列番号6〕のU(DNAとしてはT)をCに置換したすることにより、リボザイムによる切断を防ぐことができる(Uhlenbeck (1987)、上記)。挿入した塩基置換は、他の種々のHIV株において存在し(Myers et al., HIV Sequence Database, Los Alamos Nat. Lab. (1994))、このことは、これらの置換がHIVゲノムの複製能を下げるものではないことを示している。
【0135】
ここで、公表した方法は、他の条件付き複製ベクター、例えば異なったウイルスゲノム(例えば、異なったRNAウイルス)からなる、あるいは異なった遺伝的抗ウイルス剤からなるベクターの構築に用いることができる。さらに、条件付き複製ベクターは、ベクターが導入された宿主細胞に対して、野生型のウイルスを含む宿主細胞よりも高い選択優位性を与えるようさらに改変することができる。例えば、このようなベクターは、多剤耐性、あるいは、変異プロテアーゼあるいは逆転写酵素をコードするようにさらに改変することができる。
【0136】
実施例2
この実施例は条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターのリボザイムによる切断に対する抵抗性について記載するものである。crHIVベクターのリボザイムによる切断に対する抵抗性を確認するために、インビトロでの転写を行った。これを達成するために、リボザイム配列を、pBluescript KSII (Stratagene, La Jolla, CA) のXho I 部位へクローニングした。変異crHIV U5領域を同様に含んでいる0.21キロ塩基対(Kb)のBgl IIフラグメントを、crHIVベクターから切除し、pBluescript KSIIのBam HI部位に挿入した。その結果得られた改変pBluescript KSIIベクターを、インビトロでの転写の前に、Bss HII によって線状にした。野生型HIV U5 RNAを発現する同様のプラスミド(Myers et al. (1994) (上記)に記載されている)を対照として用いた。これをインビトロでの転写の前にEco RIで線状にした。
【0137】
放射性同位元素標識したU5 HIV RNAとリボザイムRNAを、以前報告されたように(Dropulic' et al. (1992), 上記)、そのベクターのインビトロでの転写によって作製した。放射性同位元素標識した転写産物は40mMのトリス−塩酸、pH7.5、6mMのMgCl2、2mMのスペルミジンおよび10mMのNaClを含む1×転写バッファー中で、(標的物とリボザイムのモル比1:2で)一緒にインキュベートされた。その試料は65℃に加熱され、そして95%のホルムアミド、20mMEDTA、0.05%のブロモフェノールブルーおよび0.05%のキシレンシアノールFFを含む反応停止バッファーを加える前に、5分間37℃に冷やされた。そして、反応生成物は、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分析され、オートラジオグラフィーによって検出された。
【0138】
野生型U5−HIV RNAを+115部位に対する単一リボザイムを含む転写産物とインキュベートした場合、切断は容易に観察された。このような切断によって、生成物PIとP2が生成した。同じ部位あるいは異なった部位に対する2重リボザイムを含むRNAと、野生型HIV RNAをインキュベートした場合にも、切断が認められた。2つの異なった部位を標的とするリボザイムを含む転写産物を、野生型HIV RNAとインキュベートした場合、生成物P1、P2およびP3が生成された。P3は+133部位の切断により生じたものである。
【0139】
これに比較して、改変U5を含むcrHIV RNAを+115部位を標的とする単一リボザイムあるいは+115部位または+133部位のいずれかを標的とする2重リボザイムのいずれとインキュベートした場合も、切断による生成物は検出できなかった。それゆえ、これらの結果は、crHIV U5 RNAは、リボザイムによる切断に対して抵抗性を示し、一方野生型HIV−U5 RNAは、アンチ−U5リボザイムによって切断されることを確認するものである。さらに、これらの結果は、本ベクターが宿主細胞に導入された場合に、野生型のウイルス株が導入された場合と比較して高い複製の選択優先性を持つ条件付き複製ベクター(crHIVベクター以外のベクターを含めて)を与えるために、本発明のアプローチを用いることができることを確認したものである。
【0140】
実施例3
この実施例では、リボザイムを含む条件付き複製ベクターの野生型ウイルスRNAを細胞内で切断する能力について記載する。特にこの実施例では、crHIVベクターの野生型HIV RNAを細胞内で切断する能力について記載する。
【0141】
crHIVベクターを介した野生型HIVの阻害の有効性は、Jurkat細胞へのゲノムの共形質転換によって調べられた。形質転換は、約106のJurkat細胞を最適MEM培地(Life Technologies, Gibco BRL, Gaithersburg,MD) で洗浄し、そして約0.6μgの野生型HIV DNA(pNL4−3)と約1.8μgのcrHIV DNAでその細胞を共形質転換することによって行った。野生型HIVによって形質転換したすべての細胞がcrHIVプロウイルスも含んでいることを確実にするために、野生型HIVとcrHIVプロウイルスのモル比約1:3を用いた。DNAはリポフェクチン溶液(Life Technologies )の中で30分間混合され、そしてJurkat細胞と約3〜6時間インキュベートされた。その後、10%のウシ胎児血清(FBS)を含む完全RPMI1640培地を加えた。ウイルスを含んでいる上清を2−4日ごとに採取し、ウイルスレベルを以前に報告されたように(Dropulic' et al. (1992) 、上記)細胞上清中の逆転写酵素活性により測定した。
【0142】
野生型HIVの複製におけるcrHIVゲノムの影響を図3に示す。野生型HIVと対照ウイルスで共形質転換された細胞(図3、ぬりつぶしたボックス)に比べて、野生型HIVとcrHIV−1.1で共形質転換した場合、ウイルスの増殖は遅くなった(図3、白抜きボックス)が、増殖は阻害されなかった。共存条件下(たとえばDropulic' et al. (1992), 上記)、インビボで、アンチ−U5リボザイムは、HIVの複製を阻害することができるので、ここで認められたウイルスの増殖は、次のいずれかの結果によるものであろう。(a)子ビリオンへの野生型HIV RNAの優先的なパッケージング、(b)リボザイムによる切断に対して抵抗性を示す野生型HIV RNAの生成、あるいは(c)crHIV RNAでの機能しないリボザイムの蓄積。
【0143】
2重リボザイムを含むcrHIVベクターと野生型HIVでの共形質転換により、「エスケープ」ウイルスの増殖の性質が、調べられた。もし、野生型HIVの優先的なパッケージングによってウイルスの増殖が起こったのであれば、2重リボザイムを持つcrHIVベクターを含む培養は、単一リボザイムを持つcrHIVを含む培養と同様の増殖速度をもつはずである。しかし、もし、(ウイルスの逆転写酵素の不誠実さの結果として)野生型HIV RNAが、リボザイムの作用に対する抵抗性になったことにより、ウイルスが増殖するのであれば、ウイルスの増殖速度は、crHIV−1.11(単一のウイルスの部位に対して標的を持つ)を含む培養に比べて、crHIV−1.12(2つのウイルスの部位に対して標的を持つ)を含む培養において、より大きく遅くなるはずである。あるいは、もしウイルスの増殖のおくれが、異なった2重のリボザイムを持つcrHIVを含む培養において、似ているのであれば、これは単一に発現しているリボザイムの一部は、インビボでは機能しないものであることを示唆するものであろう。
【0144】
図3に示されているようにcrHIV−1.11を含む培養(図3、白抜きに十字のボックス)、または、crHIV−1.12を含む培養(図3、斑点の入ったボックス)は単一に転写されるリボザイムを含むcrHIV−1.1(図3、白抜きボックス)よりもウイルスの増殖の始まりが著しく遅くなった。しかし、crHIV−1.11とcrHIV−1.12の間では、ウイルス増殖始まりの遅れは同程度であり、これらの結果は3番目の可能性が正しいこと、すなわち、単一に転写されるリボザイムは2重のリボザイムよりも、切断される標的RNAにおいて、動的に効果が小さいことを示すものである。共形質転換の実験が、リボザイムを持つcrHIVゲノムの分子が過剰な条件で行われているので、このことは、細胞内で転写されたリボザイムのある部分が、機能しない、おそらくミスフォールディングされた立体配座を形成できることを示唆するものである。
【0145】
野生型HIV RNAと関連する機能的リボザイムの、より大きな可能性を用意することにより、この動的制限を開放するマルチプルリボザイムの能力を調べた。これらの実験のために、野生型HIVと+115部位に対する3重リボザイムを持つcrHIV−1.111により、Jurkat細胞を共形質転換した。図3(斑点の入ったボックス)に示すように、22日間の培養後でも、3重リボザイムを使うことで、ウイルスの増殖は認められなかった。これらの結果は、HIVの感染後に、正常な初代T細胞はしばしば短期間(約1週間)で死滅するという事実があるので、特に重要なものである。
【0146】
さらにこれらの結果は、crHIVベクター、特にマルチプルのリボザイムを持つcrHIVベクターのような、リボザイムを持つ条件付き複製ベクターを、HIVのような野生型ウイルスゲノムと細胞内で競合させるために用いることができることを確認するものである。
【0147】
実施例4
この実施例は、野生型ウイルスRNAを細胞内で切断するための、リボザイムを持つ条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの潜在的な能力が存在するメカニズムに関する研究について記載する。
【0148】
これらの実験のために、野生型HIVとcrHIV−1.111の共形質転換培養から得た細胞上清のRNAを、ここに記載したように逆転写ポリメラーゼチェーンリアクション(RT−PCR)を用いることによって調べた。RT−PCRは図5A−Cに示したプライマーを用いて行った。すなわち、リボザイムRNAを、プライマーR1とR2を用いて検出し、野生型HIV RNAをプライマーV1とV3を用いて検出し、そして、crHIV RNAを、プライマーV2とV3を用いて検出した。プライマーR1(TGTGACGTCGACCACACAACACTGATG 〔配列番号7〕)とR2(TGTGACGTCGACTCTAGATGTGCCCGTTTCGGC 〔配列番号8〕)はどちらもSal I の制限部位を持ち、また、リボザイムのハイブリダイゼイション配列に結合することによってアンチ−U5リボザイムRNAを増幅させる。crHIV−1.111が発現している細胞では、単一、2重および3重のリボザイム増幅生成物が認められる。プライマーV1(GGTTAAGCTTGAATTAGCCCTTCCAGTCCCC〔配列番号9〕)とV2(GGTTGGATCCGGGTGGCAAGTGGTCAAAAAG 〔配列番号10〕)はどちらもBam HIまたはHin dIIIの制限部位を持ち、また、野生型HIV RNAを増幅する。前述のV1プライマーに加えて、V3プライマー(CGGATCCACGCGTGTCGACGAGCTCCCATGGTGATCAG 〔配列番号11〕)はBam HIと他の制限部位を持つ。このプライマーは、crHIV−特異的なポリリンカー配列から、crHIV RNAを増幅させる。
【0149】
RT−PCRを行うためにビリオンと細胞内RNAをTrizolTM (Life Technologies)を用いて単離した。細胞内のウイルスRNAは、微量遠心分離によって得られた細胞のペレットから直接単離した。ビリオンRNAは細胞と残渣を12,000×g 、5分間の微量遠心分離で除いた最初の培養上清から単離した。TrizolTMを細胞を除いた上清に添加し、相分配のためにクロロホルムを加える前に、この混合液を5分間インキュベートした。この水相を新しいチューブに移し、RNAをグリコーゲンを用いたイソプロパノールによって沈殿させた。RNAペレットを再構成させた後、ウイルスのRNAは逆転写され、放射性同位元素標識したプライマーを用いたPCRにより増幅された。
【0150】
50mMのトリス−塩酸、pH8.3、75mMのKCl、3mMのMgCl2、5mMのDTT、1mMのdNTPsおよび20ユニット(U)のRNase阻害剤を含んだファースト−ストランドバッファーに、25UのMuLV逆転写酵素を加えて、逆転写を、42℃で1時間行った。逆転写が完了した後、逆転写酵素を65℃10分間の加熱処理によって不活化した。完全な混合液を、終濃度10mMのトリス−塩酸、pH8.3、50mMのKClおよび1.5mMのMgCl2を含む混合液をつくるために、PCRバッファーへ直接添加した。この混合液を2.5UのTaq酵素を用いて30サイクル増幅した。放射性同位元素標識したPCR生成物を、変性PAGEで分析し、オートラジオグラフィーにより検出した。
【0151】
crHIV−1.111リボザイムRNAは、野生型HIV−1とcrHIV−1.111プロウイルスゲノムで共形質転換した後、20日以上経過した細胞の培養上清に存在する。これは単一、2重または3重のリボザイムRNAのPCR生成物が存在することから明らかである。これに比べて、対照の野生型HIVが形質転換した培養により生成されたビリオンのなかには、このような生成物は認められない。この期間、crHIVにより誘導された細胞毒性を示すような兆候はなく、細胞は正常な状態を示した。このことは、逆転写酵素の活性は観察されたなったにもかかわらず、crHIVがウイルス粒子の中にパッケージされたことを確認するものである。さらにこのことは、crHIVがHIVの遺伝子機能によって細胞内において相補されることができることを示すものである。
【0152】
それゆえ、これらの結果は、crHIVが野生型HIVの拡大を阻害することにより野生型HIVの複製を阻害することを示すものである。これらの結果はさらに他の条件付き複製ベクター、例えば、他のウイルスベクターおよび/または他の遺伝的抗ウイルス剤を含むベクターが同様に野生型ウイルスの複製と拡大を阻害するために用いることができることを示すものである。
【0153】
実施例5
この実施例は、リボザイム含有条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの、細胞内で野生型ウイルスRNAを切断する能力の基礎となるメカニズムのさらなる研究を説明する。
【0154】
一つの可能性のあるメカニズムは、野生型HIVおよびcrHIV RNAの両方が子ビリオンにパッケージされ、リボザイムおよび標的RNAが共に局在化することによりこの小さなウイルス容積内で効果的な切断が起こることである。あるいは、crHIV RNAの子ビリオンへの選択的パッケージングが起こり得る。なぜなら、野生型HIV RNAの切断が細胞内で優勢的に起こり、HIVビリオン内では起こらないからだ。これらのメカニズムをここで研究した。
【0155】
crHIV−1.111が野生型HIVの広がりを阻害した手段を、野生型HIV単独でトランスフェクションした細胞培養液、または野生型HIVとcrHIV−1.111で共トランスフェクションした細胞培養液中のビリオン−および細胞−関連ウイルスRNAのRT−PCRにより調べた。crHIV−1.111 RNAは、共トランスフェクションの後に産生された子ビリオン中に独占的に存在した。対照的に、コントールの野生型HIVでトランスフェクションした培養液は野生型HIV RNAのみを含有するビリオンを産生した。細胞内では野生型HIVおよびcrHIV−1.111 RNAの両方が共トランスフェクションした培養液中に明らかに存在した。従って、野生型HIVおよびcrHIV RNAの両方が細胞内で合成されるにもかかわらず、crHIV RNAが選択的に子ビリオンにパッケージされる。これは、crHIV−1.111が、幾つかのサブゲノミック野生型RNAをビリオン産生の蛋白質に翻訳されるようにする一方で、カプシド化の前にゲノミック野生型HIV RNAを選択的に切断することにより、野生型HIVの広がりを阻害したことを示唆する。
【0156】
ゲノミック野生型RNAがcrHIV RNAにより選択的に切断されるかを試験するために、共トランスフェクションの約20日後に得たJurkat細胞培養液中に存在する細胞内RNAのタイプをノーザン ハイブリダイゼーションにより調べた。ノーザン ブロット分析に用いたプローブは、図5に示すように、pNL4−3のU5領域からの0.21kb Bgl II断片から単離した。
【0157】
野生型HIVでトランスフェクションした培養液は、全ての野生型HIV RNA種、即ち、ゲノミックおよびサブゲノミックRNA種を発現する。対照的に、crHIV−1.111共トランスフェクションした培養液は、著しい量のゲノミック(9.7kb)野生型HIV RNAを発現しない。低分子量のRNA(これはサブゲノミック野生型HIV RNAの存在を反映する)が共トランスフェクションした培養液中にみとめられた。これらのサンプル中のHIV−RNAスメア化は、これらの低分子量RNA内にいくらかの分解されたゲノミックHIV RNAが存在するかもしれないことを示唆する。対照的に、コントールの野生型HIV細胞からの野生型HIV RNAのスメア化は、HIV感染の後期にみられる著しいCPEから生じるRNA分解に起因する。
【0158】
従って、これらの結果は、野生型HIVおよびcrHIV−1.111ゲノムを含有する細胞内でゲノミック野生型HIV RNAが選択に切断、分解され、ビリオンへの選択的crHIV RNAパッケージングを可能にすることを裏付ける。さらにまた、これらの結果は、他のウイルス、特に他のRNAウイルスにもこの方法が同様に用いられることを示す。
【0159】
実施例6
この実施例は、リボザイム含有条件付き複製ベクター、特にcrHIVベクターの、野生型ヘルパーウイルスの存在下で完全なウイルス複製サイクルを経る能力の研究を説明する。
【0160】
crHIVゲノムがヘルパー野生型HIVゲノムの存在下で完全なウイルス複製サイクルを経ることを確かめるために、crHIVゲノムを含有するウイルス粒子の産生を幾つかの条件下で調べた。詳細には、まず、crHIVゲノムを含有するウイルス粒子の産生を活性化ACH2細胞(AIDS Reagent Reference Program, Rockville, Maryland) 内で調べた。これらの細胞は潜伏性のHIV−1感染細胞株からなる。次に、これらの培養液由来のcrHIV粒子が、非感染Jurkat細胞に感染しcrHIV DNAを産生する能力を調べた。
【0161】
これらの実験のために、約106個のACH2細胞を約2.5μgのベクターDNAでトランスフェクションした。この細胞をトランスフェクションの約24時間後、50nM 12−O−テトラデカノイルホルボール 13−アセタート(TPA)で刺激した。トランスフェクションの約72時間後、細胞上清からRNAを単離した。実施例4に記載するように、R1およびR2プライマーを用いてRT−PCRを行った。crHIVリボザイムRNAが、crHIV−1.11でトランスフェクション後の活性化ACH2細胞により産生されたビリオン中で検出されたが、pGEM 3Zコントロールプラスミド(Promega, Madison, WI)でトランスフェクション後には検出されなかった。従って、crHIVベクターの感染CD4+細胞へのトランスフェクションは、crHIV RNAを含有するウイルス粒子を産生させる。
【0162】
これらの培養液由来のcrHIVビリオンが、非感染Jurkat細胞に感染しcrHIVプロウイルスを産生する能力を次に調べた。このようなプロウイルスは、TrizolTMを使用して細胞DNAを単離し、DNAをEco RIで切断し、リボザイムDNAを実施例4に記載のR1およびR2プライマーを用いるPCRにより増幅することにより検出した。crHIVでトランスフェクションしたACH2細胞由来の細胞上清を感染させた後のJurkat細胞中でcrHIV DNAが産生された。即ち、このケースでは、crHIV−1.11リボザイムDNAの特異的増幅がみとめられる。対照的に、刺激したACH2細胞上清のみを感染させた細胞(即ち、crHIV−1.111によるACH2細胞の感染がない)では、リボザイムDNA生成物はみとめられなかった。
【0163】
crHIVベクターは野生型ヘルパーHIVゲノムの存在下でのみ広がるので、crHIVゲノムを含有する非感染細胞が、野生型HIVに感染後、レスキューされる能力を調べた。これらの実験は、まず、細胞をcrHIV−1.11(即ち、crHIVベクターの代表として)でトランスフェクションし、次いで野生型HIV(即ち、pNL4−3)で重感染することにより実施した。従って、約106個のJurkat細胞を約2.5μgのcrHIV DNAでトランスフェクションした。この細胞を野生型HIVストックウイルスに感染させる前に約72時間増殖させた。crHIV−1.11でトランスフェクションしたJurkat細胞をストックpNL4−3(細胞106個あたり2×105 TCID50単位)と共に37℃で約2時間インキュベートし、Opti−MEMR I Reduced Serum Mediumで3回洗浄し、完全培地(10%FBSを添加したRPMI 1640)に再懸濁した。感染の約5日後に、実施例4に記載のように細胞上清からRNAを単離した。
【0164】
TCID50アッセイのために、HIVを含有する上清を96穴プレートに5倍限界希釈で入れた。約104個のMT4細胞(AIDS Reagent Reference Program, Rockville, Maryland; Harada et al.,Science, 229, 563-566 (1985)) を希釈したウイルス懸濁液に添加し、得られた懸濁液をウイルスが完全に増殖するまで7日間インキュベートした。MT4細胞は、HTLV−1からのTax遺伝子(これはHIV−1におけるTatに類似したトランスアクチベーター遺伝子である)を含有する修飾されたT細胞である。次いで上清の逆転写酵素活性を測定し、前記のように評価した(Dropulic' et al. (1992), 前記)。組織培養感染投与量(TCID50)をReedとMuenchの方法(Tech. in HIV Res., Johnson et al., eds., Stockton Press, 71-76 (1990))により測定した。
【0165】
crHIVでトランスフェクションしたJurkat細胞の野生型HIVによる重感染は、crHIVゲノムがウイルス粒子内へレスキューされる結果となった(図10C、レーン4)。野生型HIVで重感染後、crHIVゲノムはウイルス粒子内へパッケージされる。この間、細胞は正常のようであり、細胞毒性の明らかな徴候はなかった。
【0166】
これらの結果は、crHIVゲノムが、野生型HIVヘルパーウイルスの補充後、完全な複製サイクルを経ることが可能であることを裏付ける。これらの結果は、他のウイルスゲノムが、対応する野生型ウイルスの補充後、完全な複製サイクルを経ることができる可能性もまた裏付ける。
【0167】
実施例7
この実施例は、前の実施例で報告されたエスケープウイルス増殖の性質を説明する。
【0168】
野生型HIVでトランスフェクションした、または野生型HIVおよびcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液からのエスケープウイルス増殖の性質を、前記のようにRT−PCRを用いてビリオンRNAを分析することにより調べた。ウイルス増殖の初期に培養液により産生されたウイルス(即ち、11日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、19日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)は、crHIV RNAを優勢的に含有していた。対照的に、種々の増殖の後期の培養液(即ち、17日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、23日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)は、野生型HIV RNAを優勢的に含有していた。従って、野生型HIVおよびcrHIV−1.11プロウイルスで共トランスフェクションした細胞からのウイルス増殖は、細胞内リボザイム制限からエスケープした野生型HIVの増殖に起因すると考えられる。重要なことに、crHIVゲノムは、ウイルス増殖の後期の培養液においてもまだ総HIVゲノムのかなりの割合を含有していた。これは、野生型HIVゲノムが優位であるにもかかわらず、crHIVゲノムが野生型HIVゲノムよりも効率は低いけれども培養液中に広がっていたことを示唆する。
【0169】
これは、crHIVベクターが、さらに条件付き複製ベクターと同様に、ウイルス複製のための野生型ウイルスゲノムに有効に対抗し得ることを裏付ける。
【0170】
実施例8
この実施例は、前の実施例で報告されたエスケープウイルス増殖の性質をさらに説明する。
【0171】
エスケープウイルス増殖の間のビリオンへのcrHIV RNAパッケージングの効果を、感染性野生型HIV力価を測定することにより調べた。限界希釈TCID50アッセイ(実施例6に記載)を、ウイルス増殖の指数増殖期の培養液(即ち、14日目の野生型HIV培養液、16日目のcrHIV−1.1培養液、20日目のcrHIV−1.11またはcrHIV−1.12培養液)からのウイルス上清で行った。逆転写酵素活性を用いるアッセイの前にサンプルを標準化した。野生型HIV、crHIV−1.1、crHIV−1.11およびcrHIV−1.12培養液からの上清の感染投与量は、それぞれ1.3×104 TCID50/ml、5.4×103 TCID50/ml、3.8×103 TCID50/mlおよび3.8×103 TCID50/mlであった。従って、escapeウイルス増殖の間のビリオンへのcrHIV RNAのパッケージングは、産生される感染性野生型HIV粒子の数を減少させる。
【0172】
次に、感染性野生型HIV力価の減少が、エスケープしたビリオン内の野生型HIV RNAの切断の結果であるかを調べた。共トランスフェクションした細胞の上清中に存在するビリオンからのRNA切断生成物をプライマー伸長法により評価した。図5に示すPEプライマー(GGTTAAGCTTGTCGCCGCCCCTCGCCTCTTG [配列番号12])(これはHindIII制限部位を有する)を使用した。切断部位を越えるプライマー伸長を、50mMトリス−HCl,pH8.3,75mM KCl,3mM MgCl2,5mMDTT,1mM dNTPsおよび20U RNase阻害剤を含有するfirst−strand緩衝液に25U MuLV逆転写酵素を添加した液中で42℃で2時間行った。crHIVで共トランスフェクションした培養液由来の濃縮ビリオン調製物からウイルスRNAを単離した。4℃で15分間、2,000×gで遠心分離することにより細胞および残滓を除去した。次いで4℃で4時間、30,000×gで超遠心分離することによりウイルスを濃縮した。次いで前記のようにTrizolTMを使用してウイルスペレットからウイルスRNAを単離した。
【0173】
ウイルス増殖の後期に野生型HIVでトランスフェクションし、crHIV−1.11で共トランスフェクションした培養上清(即ち、17日目に野生型HIVでトランスフェクションした培養液、23日目にcrHIV−1.11で共トランスフェクションした培養液)からウイルスRNAを単離した。これらの培養液中のビリオンは野生型HIVおよびcrHIV ゲノミックRNAの両方を含有していた。完全長のプライマー伸長cDNAが、野生型HIVでトランスフェクションした培養液およびcrHIV−1.11で共トランスフェクションした
培養液の両方にみとめられた。広範なプライマー・エクステンション分析にもかからわず、U5 RNA切断に起因するはずのより小さいcDNAは検出されなかった。従って、感染性野生型HIV力価の減少は、野生型HIV RNAのウイルス内での切断によるのではなく、子ビリオン内でのcrHIV RNAによる数的な置換による。
【0174】
従って、これらの結果は、ここに記載する方法を、本発明による条件付き複製ベクターを用いて子ビリオンからHIVゲノムや他のゲノムのような野生型ゲノムを置換するために用いることができることを示す。
【0175】
実施例9
この実施例は、crHIVベクターが、プラスミドまたは組換えcrHIV−1.111ウイルスで攻撃した後、野生型HIV複製を阻害し得ることを実証する。
【0176】
Jurkat細胞をストックHIV(クローンpNL4−3)に感染させ、(1)crHIV−1.111構成体を含有するプラスミドDNAまたは(2)293細胞中にパッケージされた組換えcrHIV−1.111ウイルス、即ち、変異株crHIV−1.M(Nadlini et al., Science, 272, 263-267 (1996))のいずれかで攻撃した。細胞をDLS脂質を介したトランスフェクション(Thierry et al., PNAS, 92, 9742-9746 (1995)) またはcrHIVを介した送達に付した。元々のHIV感染の12日後、逆転写酵素アッセイを用いることによりウイルス複製を測定した。野生型陽性コントロール培養液は正常なレベルの野生型HIV増殖を示した。野生型HIVに感染した細胞を、DLSを介したトランスフェクションにより変異株crHIV−1.Mで攻撃したとき、野生型HIVウイルス増殖は影響を受けなかった。対照的に、野生型HIVに感染した細胞を、DLSを介したトランスフェクションによりcrHIV−1.111(これは抗HIVリボザイムをコードする)で攻撃したとき、野生型HIVウイルス増殖(即ち、複製)は有意に阻害された。さらに、変異株crHIV−1.Mを野生型HIVで攻撃したとき、野生型HIV複製は影響を受けなかった。対照的に、野生型HIVをcrHIV−1.111で攻撃したとき、野生型HIV複製は有意に阻害された。このデータは、野生型HIV複製を細胞内で有意に阻害するためにcrHIVベクターを使用し得ることを示す。
【0177】
実施例10
この実施例は癌の治療的処置における条件付き複製ベクターの用途を説明する。
【0178】
条件付き複製癌治療ウイルスベクターは、その複製に必須のウイルス蛋白質を欠いているので、正常細胞内での複製能を欠くように構築することができる。しかしながら、このベクターは癌細胞に感染すると、癌細胞のユニークな特性が不完全な癌治療ベクターの複製を促進する因子(例えば、好ましくは癌細胞の異常な増殖を促進する同じ変異細胞蛋白質)を提供する。従って、この方法は、ウイルスベクターの選択的パッケージングが起こらず、代わりに細胞内で子ベクター由来ビリオンのパッケージングにより癌細胞が優先的に溶解するので、ウイルス感染の治療に用いられる方法とは異なる。しかしながら、この方法は、癌細胞中で条件付き複製ベクターを選択的に増殖させるためにヘルパーウイルス発現ベクターを使用できる点でウイルス感染に用いられる方法と類似する。ベクターおよび/またはヘルパーウイルス発現ベクターを腫瘍特異的因子に応答し得るようにすることができ、これによりベクターが腫瘍細胞中に選択的に広がるのを促進する。
【0179】
この治療方法で利用できる腫瘍特異的因子としては、(1)ウイルスの細胞内への進入のレベル(例えば、ウイルスベクターを癌細胞に選択的に進入させるが、正常細胞には進入させない腫瘍特異的レセプターの存在);(2)ウイルスの転写のレベル(例えば、癌治療ベクターが癌細胞内で選択的にそのRNAを転写するが、正常細胞内では転写しないようにする変異癌細胞蛋白質);(3)ウイルスの成熟および遊離のレベル(例えば、条件付き複製癌治療ベクターを選択的に成熟させ(例えば、ウイルス蛋白質またはゲノムへの変異細胞蛋白質の結合により)、結果としてウイルス成熟および遊離を促進し得る変異癌細胞蛋白質)で作用するものが含まれるがこれらに限定されない。従って、癌細胞内に存在する変異蛋白質はウイルス複製サイクルの多くの段階でウイルス蛋白質(またはゲノミックRNAまたはDNA)と相互作用し得る。これらの相互作用を操作して、条件付き複製癌治療ベクター(正常細胞内では不完全だが、癌細胞内では複製し得る)を作り出すことができる。
【0180】
特に、この方法はT細胞白血病の治療に利用することができる。T細胞白血病は予後の悪い、癌の重篤な状態である。白血病T細胞の多くはCD4+である。従って、抗T細胞白血病処置用の条件付き複製ベクターは、ベクター主要要素として野生型HIVを用いて構築することができる。HIVが表面上、CD4糖蛋白質を介して細胞内に入るので、このベクターはウイルスの細胞への進入のレベルで作用し得る。
【0181】
このベクターは、例えば、野生型HIVに欠失を導入することにより、癌治療ベクターにすることができる。HIVゲノムは前記のように、それをDNAの形にし、部位特異的な突然変異誘発を行うことにより変異させることができる。この方法は、ウイルスの欠損を他の腫瘍抑圧突然変異または陰性発癌遺伝子で補うことにより、またはウイルス蛋白質と相互作用する他の腫瘍特異的因子を利用することにより同様に用いることができる。例えば、HIV複製に重要な蛋白質をコードするtat遺伝子を欠失させることができる。Tatの非存在下ではHIVはその発現を上向きに調節することがもはやできないので、HIV増殖に絶対的に必須である。Tat蛋白質は、HIVプロモーターに関連するTAR RNAステムループ構造に結合することにより機能し、100倍以上のHIV発現を上向きに調節し得る。従って、TatなしではHIVをベースとするベクターはHIV蛋白質を発現せず、増殖もせず、正常な(即ち、癌性でない)T細胞を殺すこともない。
【0182】
しかしながら、白血病T細胞は典型的に機能的に変性された分子(変異した、過剰発現の、または機能しないのいずれかである)を含有する。この分子機能の変性された状態は正常細胞には関係ない。非変異状態(しかし変異状態ではない)では、この分子は細胞増殖および/またはアポトーシス(プログラムされた細胞死)の調節に機能している。変異状態に関連するこの変化を、条件付き複製ウイルスベクターの増殖を特異的に促進するために用いることができる。これはヘルパーウイルス発現ベクターの存在下または非存在下で行うことができる。例えば、Tatの欠損は腫瘍特異的プロモーター(このプロモーターは過剰発現される白血病細胞中の遺伝子からのものである)により駆動されるヘルパー発現ベクターで補充することができる。このようなベクターは白血病T細胞内のみで複製することができ、正常細胞内では複製できない。白血病T細胞内でのウイルス発現および増殖は、初期のウイルス産生に伴う細胞の溶解と死を結果としてもたらすだろう。このベクターは細胞死を促進するさらなる要素(例えば、毒素、サイトカインまたは免疫ターゲッティングを促進する抗原をコードする配列)を担持するようにすることもできる。
【0183】
他の方法および計画も同様に、さらなる条件付き複製癌治療ベクターの構築に利用することができる。
【0184】
実施例11
この実施例は、crHIV−1.111ベクターよりも改良された増殖特性を有する第二世代crHIV構成体(cr2HIV)の開発を説明する。
【0185】
第二世代ベクターはcrHIV産生細胞からのcrHIV粒子の産生を増加させることができる。より多くのcrHIV粒子の産生はそれらが広がるのを容易にし、野生型HIVの培養液中の増殖を防ぐ。野生型HIVによる重感染を妨害する蛋白質をコードする配列を欠くため、このベクターは、天然の野生型HIVの全ての配列を含有するが、Tat遺伝子をコードしない。Tat遺伝子の代わりにTat遺伝子上の3つの異なる部位に作られた3重抗Tatリボザイムカセット([配列番号17])が存在する。また、Tatリボザイムがゲノミック野生型HIV RNAを選択的に切断し、野生型HIV RNAをスプライスしないようにTatスプライス部位が欠失している。これはTatの欠損を補充し、crHIV複製を容易にする。蛋白質(おそらく免疫原のような蛋白質遺伝子抗ウイルス剤以外の蛋白質)をコードしない以前のベクターとは対照的に、第二世代ベクターはTatの存在下でこれらの蛋白質をコードするが、発現するのみである。野生型HIVおよびcrHIVゲノムの両方を含有する細胞内で、crHIVゲノムは選択的にパッケージされるだけでなく、crHIV−1.111細胞からに比べてより多くのビリオンが産生されるだろう。なぜなら、構造蛋白質が野生型HIVから産生されるだけでなく、crHIVゲノムからも産生されるからだ。従って、このベクターは増殖のための選択的な利点を付与されている。なぜなら、このベクターは野生型HIV鋳型からビリオンを産生するだけでなく、crHIV鋳型からも産生するからだ。
【0186】
第二世代ベクターもまたリボザイムを含有するかまたはコードすることを特徴とし、このリボザイムの触媒ドメインはベクター自身の触媒ドメイン以外の領域を標的とする。HIVリーダー配列のU5領域を標的とするリボザイムを含有するかまたはコードし、crHIVベクターのリーダー中に修飾されたU5配列を取り込むことを必要とするcrHIV−1.111と対照的に、第二世代ベクターのリボザイムはベクター自身中にはない領域を標的とし、このためベクターの配列を修飾する必要がない。これは野生型HIVの修飾crHIV U5配列との組換えにより耐性HIVが形成され得る可能性を少なくする。従って、野生型HIVのcrHIV配列との組換えは、野生型HIVに何ら利点を与えず、リボザイム配列を野生型HIVに取り込むことは野生型HIVにとって有害なだけである。
【0187】
第二世代ベクターはさらに、多くの異なるリボザイムを取り込むことを特徴とし、それぞれのリボザイムは異なる部位を標的とし、野生型HIVがリボザイム耐性変異株を形成する可能性を少なくする。
【0188】
安全を目的とするベクターシステムのさらなる改良において、条件付き複製ワクチン、即ち、「ヘルパー−ベクター」構成体に、crHIV複製を特異的に促進し、安全な方法で広がる遺伝子的要素/因子を加えることによりさらに改良することができる。一つの態様は、野生型ウイルスを産生するベクターとの遺伝子組換えを防ぐためにヘルパー−ベクターにリボザイムを導入することである。このようにして、上記cr2HIVベクターに、その広がりを促進するためにTatヘルパー発現ベクターを補充することができる。ヘルパー発現ベクターに抗HIVリボザイムを挿入することにより、組換えの機会が最小限になる。なぜなら、ベクターがヘルパー−ベクターRNAと遭遇することは相互の切断と破壊をもたらすことになるからだ。従って、ヘルパー発現ベクターは特に予防または治療計画を助けるために多くのやり方で改変することができる。従って、cr2HIVベクターはHIVに対するワクチンとしての有用性を有する。なぜなら、このベクターは(1)複製し、よって宿主の免疫応答を持続的に刺激し、(2)HIVに由来し抗原的に変化するので宿主が多様なエピトープを認識するようにさせるからだ。
【0189】
本明細書において引用した全ての文献(特許、特許出願および刊行物を含む)は、言及したことで、その全体が本明細書に組み入れられるものである。
【0190】
好適な実施態様を強調して本発明を説明したが、当業者には好適な実施態様の変形を調製および使用し得ること、ならびに本明細書で特に説明した以外でも本発明を実施し得ることは自明であろう。本発明は、そのような変形および代替の実施を含むことを意図している。従って、上記の特許請求の範囲で定義される発明の精神および範囲内に包含される全ての変形を本発明は含む。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1A】図1Aは、野生型HIV中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称:cr,条件付き複製;U5,U5コード配列;Rz,リボザイム;Ψ, パッケージングシグナル;gag, polおよびenv,それぞれウイルスコアを形成する蛋白質、逆転写酵素およびエンベロープのコード配列;tat, rev, rre およびnef,付加的なウイルス遺伝子;白抜きのボックス,ウイルスロングターミナルリピート。野生型U5コード領域中の十字は、本発明のリボザイムが、野生型U5 RNA中で切断するが、修飾crHIV U5 RNA(すなわち、「mU5」)中では切断しない、おおよその位置を示す。
【図1B】図1Bは、crHIV−1.1中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1C】図1Cは、crHIV−1.11中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1D】図1Dは、crHIV−1.12中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図1E】図1Eは、crHIV−1.111中に存在するウイルスゲノムの構造の模式図である。名称等は、図1Aと同様であり得る。
【図2】図2は、野生型HIV U5 RNA[配列番号1](A)および修飾crHIV U5 RNA[配列番号2](B)のDNA配列を示す。番号は転写開始点から下流への塩基数を指す。
【図3】図3は、野生型HIVおよびcrHIV−1.1(白抜きのボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.11(白抜きに十字を入れたボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.12(斑点をつけたボックス)、並びに野生型HIVおよび対照プラスミドpGEM-3Z (塗りつぶしたボックス)で共トランスフェクションされたJurkat細胞における野生型HIV複製のcrHIVを介した阻害についての、時間(共トランスフェクション後の日数)に対する逆転写酵素活性(cpm/μl)を示すグラフである。
【図4】図4は、野生型HIVおよびcrHIV−1.1(白抜きのボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.11(白抜きに十字を入れたボックス)、野生型HIVおよびcrHIV−1.111(斑点をつけたボックス)、並びに野生型HIVおよび対照プラスミドpGEM-3Z (塗りつぶしたボックス)で共トランスフェクションされたJurkat細胞における野生型HIV複製のcrHIVを介した阻害についての、時間(共トランスフェクション後の日数)に対する逆転写酵素活性(cpm/μl)を示すグラフである。
【図5A】図5Aは、野生型HIVからのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称:U5,U5コード配列;Ψ, パッケージングシグナル;gag, polおよびenv,それぞれウイルスコアを形成する蛋白質、逆転写酵素およびエンベロープのコード配列;白抜きのボックス,ウイルスロングターミナルリピート;塗りつぶしたボックス,tat およびrev コード配列;およびPE,V1,V2,V3,R1およびR2,野生型および/または条件付き複製ウイルスに使用されたプライマー。野生型U5コード領域中の十字は、本発明のリボザイムが、野生型U5 RNA中で切断するが、修飾crHIV U5 RNA(すなわち、「mU5」)中では切断しない、おおよその位置を示す。
【図5B】図5Bは、crHIV−1.1からのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称等は、図5Aと同様であり得る。
【図5C】図5Cは、crHIV−1.111からのU5 RNA転写物を検出するのに使用されたプライマーおよびプローブの模式図である。名称等は、図5Aと同様であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
該レトロウイルスベクターは、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に不利に作用する第1の核酸配列を少なくとも含み、
該レトロウイルスベクターは、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製され、
但し、該第1の核酸配列は、リボザイム、または1つ、2つ若しくは複数のリボザイムを含むリボザイムカセット、あるいはアンチセンス分子ではない、条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項2】
該レトロウイルスベクターが、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの相補により宿主細胞内で複製する、請求項1記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項3】
該第1の核酸配列の産物が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製を阻害するか、あるいは野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に対して、条件付き複製レトロウイルスベクターの複製に選択的利点を付与する、請求項1または2記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項4】
該条件付き複製レトロウイルスベクターが、異なるレトロウイルスに由来する配列を含むキメラベクターである、請求項1〜3のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項5】
該第1の核酸配列が、遺伝学的抗ウイルス剤を含むか、またはそれが発現もする場合には、遺伝学的抗ウイルス剤をコードし、あるいは該第1の核酸配列が野生型レトロウイルスに由来する、請求項1〜4のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項6】
該ベクターが、スプーマウイルス亜科、スプーマウイルス属、レンチウイルス亜科、およびレンチウイルス属からなる群より選択される属または亜科のウイルスに由来する、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項7】
該標的が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターであり、且つ/または該ベクターが野生型ヒト免疫不全ウイルスに由来する、請求項4記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項8】
該ベクターが、RNA転写、tRNAプライマー結合、二量化および/またはパッケージングに必要な配列を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項9】
該遺伝学的抗ウイルス剤が、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、一本鎖抗体、サイトカイン、細胞性抗原または免疫原である、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項10】
該遺伝学的抗ウイルス剤が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルス若しくはヘルパーベクターの蛋白質に対する一本鎖抗体をコードするか、またはアンチセンス分子をコードする、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項11】
該条件付き複製レトロウイルスベクターが、少なくとも1つの第2の核酸配列をさらに含み、
該第2の核酸配列は、レトロウイルスの野生型株またはヘルパーウイルス若しくはヘルパーベクターに感染した第2の細胞よりも該宿主細胞に対して選択的な利点を付与するが、該第2の細胞は、該条件付き複製レトロウイルスベクターを欠如するか、あるいは
該第2の核酸配列は、該野生型レトロウイルス株、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも該条件付き複製レトロウイルスベクターに対して選択的な利点を付与する、請求項1〜10のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項12】
該第2の核酸配列が多剤耐性を付与するか、変異プロテアーゼをコードするか、変異逆転写酵素をコードするか、またはエンハンサーを含んでいてもよいプロモーターを含み、該プロモーターは、該野生型レトロウイルス株、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクター中に存在するプロモーターよりも優位に該宿主細胞内で活性化される、請求項11記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項13】
該第2の核酸配列が多剤耐性を付与し、且つ該条件付き複製レトロウイルスベクターが薬剤とともに使用されるか、あるいは該第2の核酸配列が、該宿主細胞内で優先的に活性化される、エンハンサーを含んでいてもよいプロモーターを含み、且つ該条件付き複製レトロウイルスベクターがサイトカインとともに使用される、請求項12記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項14】
該ベクターがHIV由来の配列を含むキメラベクターである、請求項1〜13のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項15】
該ベクターがHIV−1およびHIV−2由来の配列を含むキメラベクターである、請求項14記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項16】
該宿主細胞が、造血幹細胞、線維芽細胞、上皮細胞、血液または血管細胞、呼吸器系由来の細胞、消化器系由来の細胞、泌尿器系由来の細胞、神経系由来の細胞、皮膚系由来の細胞、および抗原提示細胞からなる群より選択される、請求項15記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項17】
該宿主細胞がリンパ球、マクロファージおよび星状膠細胞からなる群より選択される、請求項16記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項18】
該ベクターが、ヒト免疫不全ウイルス由来であり、且つヒト免疫不全ウイルスの野生株のゲノム由来のtat遺伝子およびそのスプライス部位を欠如する、請求項15の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項19】
該ベクターがEnvおよび/またはNef蛋白質をコードしない、請求項18記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項20】
該ベクターがgagおよびpol遺伝子を含む、請求項18または19記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項21】
そのための担体と組合わせられた、請求項1〜20のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項22】
宿主細胞の形質転換に使用される、請求項1〜20のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項23】
条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムをコードする核酸、及びウイルス複製阻害配列をコードする核酸を含み、
ウイルス複製阻害配列の産物は、条件付き複製レトロウイルスゲノムの複製を阻害せず、
ウイルス複製阻害配列の産物は、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、又は野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター。
【請求項24】
条件付き複製レトロウイルスゲノムがレトロウイルス5’ロングターミナルリピート(LTR)及び3’LTRを含み、かつLTRがウイルス複製阻害配列の転写活性を制御する、請求項23記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項25】
請求項23記載の条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムが、以下(a)、(b):
(a)レトロウイルス由来の5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRが、レトロウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRによる発現の制御が、未改変LTRによる発現の制御とは異なる;及び
(b)改変5’LTRによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
をさらに含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
異種配列はウイルス複製阻害配列を含み、ウイルス複製阻害配列の産物が、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、または野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター。
【請求項26】
レトロウイルスベクターであって、以下(a)、(b):
(a)レンチウイルスに由来する5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRまたは5’LTRプロモーターは、該レンチウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御が未改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御とは異なる;
(b)改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
を含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
(i)レトロウイルスベクターが条件付き複製ウイルスベクターであるか、(ii)3’LTRは、3’改変LTRまたは3’改変LTRプロモーター(レンチウイルス由来ではない配列を含むように改変)であるか、あるいは(iii)5’および3’LTRまたはプロモーターの双方が改変5’および3’LTRまたはプロモーターである、レトロウイルスベクター。
【請求項27】
請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターの作製方法であって、
(a)野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの相補により宿主細胞内で複製する開始ベクターを取得すること、必要に応じて、該ベクターがDNAであれば、少なくとも1つのNが変異している、配列番号14に相当する核酸配列、並びに該ベクターがRNAであれば、少なくとも1つのNが変異している、配列番号14に相当する核酸配列によりコードされる核酸配列を、該ベクターに導入すること、並びに
(b)該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに不利に作用する少なくとも第1の核酸配列を該開始ベクター中に組み込み、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製される該ベクターを取得すること、
を含む、方法。
【請求項28】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号3および配列番号4からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号3および配列番号4からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、少なくとも1つのNが変異した配列番号14の核酸配列、または、もしRNAであれば、少なくとも1つのNが変異した配列番号14の核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号3、または、もしRNAであれば、配列番号3によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、配列番号2、5および15からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号2、5および15からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号4、または、もしRNAであれば、配列番号4によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、配列番号2、6および16からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号2、6および16からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項28記載の方法。
【請求項31】
配列番号14に相当する該核酸配列が、もし該ベクターがDNAであれば、配列番号2、5、6、15および16からなる群より選択され、もし該ベクターがRNAであれば、配列番号2、5、6、15および16からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列である、請求項27記載の方法。
【請求項32】
パッケージング細胞株を用いずに、請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターを増殖および選択的にパッケージングさせる方法であって、
(a)該ベクターの複製を相補し得るヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに感染し得る細胞に、該レトロウイルスベクターを接触させること、
(b)該細胞を、該ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに接触させること、および
(c)該レトロウイルスベクターの増殖を助ける条件下で該細胞を培養すること、
を含む、方法。
【請求項33】
野生型レトロウイルスに感染するまたは感染する危険性がある細胞内で感染性の複製可能な野生型レトロウイルスの複製を阻害するための組成物であって、以下(I)、(II)または(III)のレトロウイルスベクターを含む、組成物:
(I)条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
該レトロウイルスベクターは、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に不利に作用する第1の核酸配列を少なくとも含み、
該レトロウイルスベクターは、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製される、条件付き複製レトロウイルスベクター;
(II)条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムをコードする核酸、及びウイルス複製阻害配列をコードする核酸を含み、
ウイルス複製阻害配列の産物は、条件付き複製レトロウイルスゲノムの複製を阻害せず、
ウイルス複製阻害配列の産物は、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、又は野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター;あるいは
(III)レトロウイルスベクターであって、以下(a)、(b):
(a)レンチウイルスに由来する5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRまたは5’LTRプロモーターは、該レンチウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御が未改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御とは異なる;
(b)改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
を含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
(i)レトロウイルスベクターが条件付き複製ウイルスベクターであるか、(ii)3’LTRは、3’改変LTRまたは3’改変LTRプロモーター(レンチウイルス由来ではない配列を含むように改変)であるか、あるいは(iii)5’および3’LTRまたはプロモーターの双方が改変5’および3’LTRまたはプロモーターである、レトロウイルスベクター。
【請求項34】
該組成物が医薬組成物である、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
該野生型レトロウイルスが癌を引き起こすか、またはHIVである、請求項33記載の組成物。
【請求項36】
該HIVがHIV−1またはHIV−2である、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
該レトロウイルスベクターがHIV−1およびHIV−2に由来する配列を含み、且つ/或いは該ベクターが、感染性ウイルス粒子中にパッケージングされているか、またはリポソーム中に、若しくはアジュバントとともに処方されている、請求項33記載の組成物。
【請求項38】
エキソビボ(ex vivo)またはインビトロ(in vitro)での使用のために処方されている、請求項33記載の組成物。
【請求項39】
エキソビボ(ex vivo)での使用のために処方されている、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
インビトロ(in vitro)において細胞内で遺伝子を発現させる方法であって、
(a)発現すべき少なくとも1つの遺伝子をさらに含む、請求項1〜20および23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターに細胞を接触させること、および
(b)該遺伝子の産物を該細胞内で発現させることを含む方法。
【請求項41】
工程(a)が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに該細胞を接触させることをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
工程(b)が、該細胞内で該レトロウイルスベクターから複製されるベクターに感染した細胞内で該遺伝子を発現させることをさらに含み、且つ/または該細胞内で該遺伝子を発現させることにより、該細胞内で該レトロウイルスの野生型株の複製が阻害される、請求項40又は41記載の方法。
【請求項43】
レトロウイルスベクターとヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの間の遺伝子組換えが、該第1の核酸配列の存在により低減する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
該細胞が、造血幹細胞、線維芽細胞、上皮細胞、血液または血管細胞、呼吸器系由来の細胞、消化器系由来の細胞、泌尿器系由来の細胞、神経系由来の細胞、皮膚系由来の細胞、および抗原提示細胞からなる群より選択される、請求項40〜43記載のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
該細胞がリンパ球、マクロファージおよび星状膠細胞からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
該細胞を薬剤/因子に接触させ、該薬剤/因子と該遺伝子産物との間の相互作用を検出することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項47】
薬剤/因子と蛋白質との間の相互作用を検出する方法であって、
(a)該蛋白質を発現する請求項1〜20および23〜26のいずれかのレトロウイルスベクターを含む細胞に、薬剤/因子を接触させること、および
(b)該薬剤/因子と該蛋白質との間の1以上の相互作用を検出することを含む方法。
【請求項48】
野生型レトロウイルスの細胞内での複製を阻害するための組成物の製造における、請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のベクターの使用。
【請求項49】
該組成物が医薬である、請求項48記載の組成物。
【請求項1】
条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
該レトロウイルスベクターは、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に不利に作用する第1の核酸配列を少なくとも含み、
該レトロウイルスベクターは、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製され、
但し、該第1の核酸配列は、リボザイム、または1つ、2つ若しくは複数のリボザイムを含むリボザイムカセット、あるいはアンチセンス分子ではない、条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項2】
該レトロウイルスベクターが、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの相補により宿主細胞内で複製する、請求項1記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項3】
該第1の核酸配列の産物が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製を阻害するか、あるいは野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に対して、条件付き複製レトロウイルスベクターの複製に選択的利点を付与する、請求項1または2記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項4】
該条件付き複製レトロウイルスベクターが、異なるレトロウイルスに由来する配列を含むキメラベクターである、請求項1〜3のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項5】
該第1の核酸配列が、遺伝学的抗ウイルス剤を含むか、またはそれが発現もする場合には、遺伝学的抗ウイルス剤をコードし、あるいは該第1の核酸配列が野生型レトロウイルスに由来する、請求項1〜4のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項6】
該ベクターが、スプーマウイルス亜科、スプーマウイルス属、レンチウイルス亜科、およびレンチウイルス属からなる群より選択される属または亜科のウイルスに由来する、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項7】
該標的が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターであり、且つ/または該ベクターが野生型ヒト免疫不全ウイルスに由来する、請求項4記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項8】
該ベクターが、RNA転写、tRNAプライマー結合、二量化および/またはパッケージングに必要な配列を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項9】
該遺伝学的抗ウイルス剤が、RNAデコイ、トランスドミナント変異体、一本鎖抗体、サイトカイン、細胞性抗原または免疫原である、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項10】
該遺伝学的抗ウイルス剤が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルス若しくはヘルパーベクターの蛋白質に対する一本鎖抗体をコードするか、またはアンチセンス分子をコードする、請求項5記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項11】
該条件付き複製レトロウイルスベクターが、少なくとも1つの第2の核酸配列をさらに含み、
該第2の核酸配列は、レトロウイルスの野生型株またはヘルパーウイルス若しくはヘルパーベクターに感染した第2の細胞よりも該宿主細胞に対して選択的な利点を付与するが、該第2の細胞は、該条件付き複製レトロウイルスベクターを欠如するか、あるいは
該第2の核酸配列は、該野生型レトロウイルス株、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも該条件付き複製レトロウイルスベクターに対して選択的な利点を付与する、請求項1〜10のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項12】
該第2の核酸配列が多剤耐性を付与するか、変異プロテアーゼをコードするか、変異逆転写酵素をコードするか、またはエンハンサーを含んでいてもよいプロモーターを含み、該プロモーターは、該野生型レトロウイルス株、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクター中に存在するプロモーターよりも優位に該宿主細胞内で活性化される、請求項11記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項13】
該第2の核酸配列が多剤耐性を付与し、且つ該条件付き複製レトロウイルスベクターが薬剤とともに使用されるか、あるいは該第2の核酸配列が、該宿主細胞内で優先的に活性化される、エンハンサーを含んでいてもよいプロモーターを含み、且つ該条件付き複製レトロウイルスベクターがサイトカインとともに使用される、請求項12記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項14】
該ベクターがHIV由来の配列を含むキメラベクターである、請求項1〜13のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項15】
該ベクターがHIV−1およびHIV−2由来の配列を含むキメラベクターである、請求項14記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項16】
該宿主細胞が、造血幹細胞、線維芽細胞、上皮細胞、血液または血管細胞、呼吸器系由来の細胞、消化器系由来の細胞、泌尿器系由来の細胞、神経系由来の細胞、皮膚系由来の細胞、および抗原提示細胞からなる群より選択される、請求項15記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項17】
該宿主細胞がリンパ球、マクロファージおよび星状膠細胞からなる群より選択される、請求項16記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項18】
該ベクターが、ヒト免疫不全ウイルス由来であり、且つヒト免疫不全ウイルスの野生株のゲノム由来のtat遺伝子およびそのスプライス部位を欠如する、請求項15の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項19】
該ベクターがEnvおよび/またはNef蛋白質をコードしない、請求項18記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項20】
該ベクターがgagおよびpol遺伝子を含む、請求項18または19記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項21】
そのための担体と組合わせられた、請求項1〜20のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項22】
宿主細胞の形質転換に使用される、請求項1〜20のいずれか1項記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項23】
条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムをコードする核酸、及びウイルス複製阻害配列をコードする核酸を含み、
ウイルス複製阻害配列の産物は、条件付き複製レトロウイルスゲノムの複製を阻害せず、
ウイルス複製阻害配列の産物は、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、又は野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター。
【請求項24】
条件付き複製レトロウイルスゲノムがレトロウイルス5’ロングターミナルリピート(LTR)及び3’LTRを含み、かつLTRがウイルス複製阻害配列の転写活性を制御する、請求項23記載の条件付き複製レトロウイルスベクター。
【請求項25】
請求項23記載の条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムが、以下(a)、(b):
(a)レトロウイルス由来の5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRが、レトロウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRによる発現の制御が、未改変LTRによる発現の制御とは異なる;及び
(b)改変5’LTRによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
をさらに含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
異種配列はウイルス複製阻害配列を含み、ウイルス複製阻害配列の産物が、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、または野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター。
【請求項26】
レトロウイルスベクターであって、以下(a)、(b):
(a)レンチウイルスに由来する5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRまたは5’LTRプロモーターは、該レンチウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御が未改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御とは異なる;
(b)改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
を含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
(i)レトロウイルスベクターが条件付き複製ウイルスベクターであるか、(ii)3’LTRは、3’改変LTRまたは3’改変LTRプロモーター(レンチウイルス由来ではない配列を含むように改変)であるか、あるいは(iii)5’および3’LTRまたはプロモーターの双方が改変5’および3’LTRまたはプロモーターである、レトロウイルスベクター。
【請求項27】
請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターの作製方法であって、
(a)野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの相補により宿主細胞内で複製する開始ベクターを取得すること、必要に応じて、該ベクターがDNAであれば、少なくとも1つのNが変異している、配列番号14に相当する核酸配列、並びに該ベクターがRNAであれば、少なくとも1つのNが変異している、配列番号14に相当する核酸配列によりコードされる核酸配列を、該ベクターに導入すること、並びに
(b)該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに不利に作用する少なくとも第1の核酸配列を該開始ベクター中に組み込み、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製される該ベクターを取得すること、
を含む、方法。
【請求項28】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号3および配列番号4からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号3および配列番号4からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、少なくとも1つのNが変異した配列番号14の核酸配列、または、もしRNAであれば、少なくとも1つのNが変異した配列番号14の核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号3、または、もしRNAであれば、配列番号3によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、配列番号2、5および15からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号2、5および15からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
工程(b)が、
(i)もしDNAであれば、配列番号4、または、もしRNAであれば、配列番号4によってコードされる核酸配列を開始ベクター中に組み込むこと、および
(ii)もしDNAであれば、配列番号2、6および16からなる群より選択される核酸配列、または、もしRNAであれば、配列番号2、6および16からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列を含むように開始ベクターを修飾すること、
を含む、請求項28記載の方法。
【請求項31】
配列番号14に相当する該核酸配列が、もし該ベクターがDNAであれば、配列番号2、5、6、15および16からなる群より選択され、もし該ベクターがRNAであれば、配列番号2、5、6、15および16からなる群より選択される核酸配列によってコードされる核酸配列である、請求項27記載の方法。
【請求項32】
パッケージング細胞株を用いずに、請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターを増殖および選択的にパッケージングさせる方法であって、
(a)該ベクターの複製を相補し得るヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに感染し得る細胞に、該レトロウイルスベクターを接触させること、
(b)該細胞を、該ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに接触させること、および
(c)該レトロウイルスベクターの増殖を助ける条件下で該細胞を培養すること、
を含む、方法。
【請求項33】
野生型レトロウイルスに感染するまたは感染する危険性がある細胞内で感染性の複製可能な野生型レトロウイルスの複製を阻害するための組成物であって、以下(I)、(II)または(III)のレトロウイルスベクターを含む、組成物:
(I)条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
該レトロウイルスベクターは、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターの複製に不利に作用する第1の核酸配列を少なくとも含み、
該レトロウイルスベクターは、該野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターよりも選択的に複製される、条件付き複製レトロウイルスベクター;
(II)条件付き複製レトロウイルスベクターであって、
条件付き複製レトロウイルスゲノムをコードする核酸、及びウイルス複製阻害配列をコードする核酸を含み、
ウイルス複製阻害配列の産物は、条件付き複製レトロウイルスゲノムの複製を阻害せず、
ウイルス複製阻害配列の産物は、レトロウイルス野生型ウイルスの複製を阻害するか、又は野生型ウイルスゲノムの複製よりも、条件付き複製レトロウイルスベクターゲノムの複製に選択的利点を付与する、ベクター;あるいは
(III)レトロウイルスベクターであって、以下(a)、(b):
(a)レンチウイルスに由来する5’及び3’ロングターミナルリピート(LTR)であって、5’LTRまたは5’LTRプロモーターは、該レンチウイルスに由来しない配列を含むように改変されており、それにより該改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御が未改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによる発現の制御とは異なる;
(b)改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターによるその発現の制御を可能にするように、改変5’LTRまたは5’LTRプロモーターの3’に機能可能に連結された異種核酸配列;
を含み、
該3’LTRは、異種配列の下流にあり、かつ
(i)レトロウイルスベクターが条件付き複製ウイルスベクターであるか、(ii)3’LTRは、3’改変LTRまたは3’改変LTRプロモーター(レンチウイルス由来ではない配列を含むように改変)であるか、あるいは(iii)5’および3’LTRまたはプロモーターの双方が改変5’および3’LTRまたはプロモーターである、レトロウイルスベクター。
【請求項34】
該組成物が医薬組成物である、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
該野生型レトロウイルスが癌を引き起こすか、またはHIVである、請求項33記載の組成物。
【請求項36】
該HIVがHIV−1またはHIV−2である、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
該レトロウイルスベクターがHIV−1およびHIV−2に由来する配列を含み、且つ/或いは該ベクターが、感染性ウイルス粒子中にパッケージングされているか、またはリポソーム中に、若しくはアジュバントとともに処方されている、請求項33記載の組成物。
【請求項38】
エキソビボ(ex vivo)またはインビトロ(in vitro)での使用のために処方されている、請求項33記載の組成物。
【請求項39】
エキソビボ(ex vivo)での使用のために処方されている、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
インビトロ(in vitro)において細胞内で遺伝子を発現させる方法であって、
(a)発現すべき少なくとも1つの遺伝子をさらに含む、請求項1〜20および23〜26のいずれか1項記載のレトロウイルスベクターに細胞を接触させること、および
(b)該遺伝子の産物を該細胞内で発現させることを含む方法。
【請求項41】
工程(a)が、野生型レトロウイルス、ヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターに該細胞を接触させることをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
工程(b)が、該細胞内で該レトロウイルスベクターから複製されるベクターに感染した細胞内で該遺伝子を発現させることをさらに含み、且つ/または該細胞内で該遺伝子を発現させることにより、該細胞内で該レトロウイルスの野生型株の複製が阻害される、請求項40又は41記載の方法。
【請求項43】
レトロウイルスベクターとヘルパーウイルスまたはヘルパーベクターとの間の遺伝子組換えが、該第1の核酸配列の存在により低減する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
該細胞が、造血幹細胞、線維芽細胞、上皮細胞、血液または血管細胞、呼吸器系由来の細胞、消化器系由来の細胞、泌尿器系由来の細胞、神経系由来の細胞、皮膚系由来の細胞、および抗原提示細胞からなる群より選択される、請求項40〜43記載のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
該細胞がリンパ球、マクロファージおよび星状膠細胞からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
該細胞を薬剤/因子に接触させ、該薬剤/因子と該遺伝子産物との間の相互作用を検出することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項47】
薬剤/因子と蛋白質との間の相互作用を検出する方法であって、
(a)該蛋白質を発現する請求項1〜20および23〜26のいずれかのレトロウイルスベクターを含む細胞に、薬剤/因子を接触させること、および
(b)該薬剤/因子と該蛋白質との間の1以上の相互作用を検出することを含む方法。
【請求項48】
野生型レトロウイルスの細胞内での複製を阻害するための組成物の製造における、請求項1〜20及び23〜26のいずれか1項記載のベクターの使用。
【請求項49】
該組成物が医薬である、請求項48記載の組成物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【公開番号】特開2007−14341(P2007−14341A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206871(P2006−206871)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【分割の表示】特願平9−520658の分割
【原出願日】平成8年11月27日(1996.11.27)
【出願人】(300053575)ザ ジョンズ ホプキンズ ユニヴァーシティ スクール オヴ メディシン (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【分割の表示】特願平9−520658の分割
【原出願日】平成8年11月27日(1996.11.27)
【出願人】(300053575)ザ ジョンズ ホプキンズ ユニヴァーシティ スクール オヴ メディシン (3)
【Fターム(参考)】
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