説明

杭の継ぎ手構造

【課題】継ぎ手部分の外径が杭径より小さく、埋設した杭と地盤との間に空隙部が生じることがない杭の継手構造を提供する。
【解決手段】杭の端部に形成した杭径より小径の接続部2,6の端面に、周縁より突出する複数の係合用凸部4,8を有する端板3,7を装着してなる上下杭1,5と、前記端板を対接して配設した上下杭の接続部の外側に、複数個に分割可能としたリング12を嵌合し、該リングの内側に周方向に所定間隔で上下方向に延びる複数本の内方凸条部に、前記対接して配設した上下両端板の前記係合用凸部4,8が嵌合する周凹溝を形成してなる構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に貫入する支持杭の継ぎ手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上杭と下杭の接続構造としては、(1)上杭と下杭の端板同士を溶接により接続
する方法。(2)上杭の端部と下杭の端部とを一対の内嵌部と外嵌部に振り分け、内嵌部
と外嵌部を螺合接続する方法若しくは嵌合接続する方法。(3)上杭と下杭の端部にフラ
ンジ板をそれぞれ取り付け、該フランジ板同士をボルトにより接続する方法等が汎用され
ていた。
【0003】
【特許文献1】特開平11−218270
【特許文献2】特開2001−64959
【特許文献3】特開2000−46273
【特許文献4】特開平11−21882
【特許文献5】特開2001−11851
【特許文献6】特開2002−161532
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記(1)乃至(3)に記載したような従来の杭の接続構造には、それぞれ次
のような諸問題点を有している。まず、上記(1)の溶接による杭の接続方法は、溶接に
多くの時間を要したり、施工現場の天候によっては溶接作業を行う事が出来ない場合もあ
り、能率が悪かった。また、このような溶接作業は、溶接の欠陥や溶接部の脆化を防止す
るために所要の設備と熟練した技術者を必要としコストがかかった。また、溶接強度は作
業者の技能に左右されるところが大きく、接合強度の安定性,信頼性に欠けるという問題
点もある。
【0005】
一方、上記(2)の上杭の端部と下杭の端部に設けた内嵌部と外嵌部を螺合によって接
続する杭の接続方法は、締め込みが進むにつれて大きなトルクが必要になり、接続に大き
な労力を必要とするという問題がある。また杭の接続部分であるねじ部のさび付きや砂か
み等により接続が困難になる場合も生じる。そして又、嵌合による接続方法では、継ぎ手
部分の外径が設置穴の外径よりも大きいため、この継ぎ手部分が杭を地盤中に埋設する際
に大きな貫入抵抗となり、更には杭と地盤との間に空隙部が生じてしまうため適切な水平
支持力を確保できないという問題があった。
【0006】
また、上記(3)の上杭と下杭の端部に設けたフランジ同士をボルト締めにより接続す
る杭の接続方法は、継ぎ手部分の外径が杭の外径よりも大きく、杭の外周面から大きく突
出することから、杭を打ち込む際に大きな貫入抵抗が生じ、また継ぎ手部分に曲げモーメ
ントが作用するという問題が生じる。更に、嵌合による杭の接続方法と同様に、杭と地盤
の間に空隙部が生じてしまうため適切な水平支持力が確保できない等の問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来の課題を解決するためになされたもので、構造が簡単で施
工が容易であり、コストを低減できる上に信頼性が高く且つ杭と地盤との間に空隙部が生
じることがなく適切な水平支持力を確保できる杭の継ぎ手構造を提供することを目的とし
たものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る杭の継ぎ手構造は、杭の端部に杭径より小
径の接続部を形成するとゝもに、該接続部の端面に周縁より突出する複数の係合用凸部を
有する端板を装着してなる接続される上下杭と、前記端板を対接して配設した上下杭の接
続部の外側に嵌合して、相対的に上下及び水平方向の移動を規制するリングとから構成さ
れ、該リングを、前記接続部の周方向に複数個に分割可能とし、内側には周方向に所定間
隔で上下方向に延びる複数本の内方凸条部を突設するとゝもに、該内方凸条部に、前記対
接して配設した上下両端板の係合用凸部が嵌合する周凹溝を形成した構成としたことを特
徴とする。
【0009】
上記構成によれば、接続される上下の杭は杭径より小径の接続部においてその外周に嵌
めたリングによって連結されることになり、この継ぎ手部分の外径を杭本体の外径より小
さく形成することが出来る。そのため、杭を地盤中に埋設する際の貫入抵抗が小さくてす
み、更には杭と地盤との間に空隙部が生じず、適切な水平支持力を確保できる。
【0010】
また、本発明に係る杭の接続構造は、前記接続される上下杭の両端板の接合面にせん断
キー挿入用の環状凹溝をそれぞれ形成し、該上下の環状凹溝内に挿入した環状のせん断キ
ーを介して前記上下杭を接続する構成としたことを特徴とする。この構成によれば、下杭
の中心軸と上杭の中心軸とを容易に合致させることができると同時に、上杭の下杭に対す
る水平方向へのずれを規制することができる。
【0011】
そして又、本発明に係る杭の接続構造は、前記リングの内周面と前記上下杭の接続部の
外周面との間にあって隣り合う前記内方凸条部間の空隙部に、前記リングの上方から嵌め
込んだくさびを介在させる構成としたことを特徴とする。この構成によれば、上下杭の相
対的に円周方向のずれを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係る杭の接続構造は、前記接続部の周方向に複数個に分割可能とした前
記リングは、その両端の連結部を、いんろう構造からなる一対の嵌め込み部分と、該嵌め
込み部分の接合面にそれぞれ形成した対峙する凹溝によって形成される溝孔内にその上端
開口部から棒状のせん断キーを挿入して一体に連結する構成とした。
【0013】
この構成によれば、一対の嵌め込み部分を互いに嵌め込むことで複数個のリング片をリ
ング状に組立、この嵌め込み部分に形成された溝孔内にその上端開口部から棒状のせん断
キーを挿入するといった簡単な作業で一体構造のリングを形成でき、且つ上下杭の接続部
に設置する前記リングの施工作業も容易に行える。
【0014】
そして更に、本発明に係る杭の接続構造は、前記上杭の接続部の長さを下杭の接続部の
長さより長く形成することを特徴とする。このような構成とすることで、上杭の接続部の
外周上方部に大きな凹部空間を形成することができ、前記リングを一体構造とする際の棒
状のせん断キーの打ち込み作業および一体構造となった前記リングの内周面と前記上下杭
の接続部の外周面との間に設置するクサビの打ち込み作業等が容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る杭の継手構造は、上記のような構成であるから、継手部分の外径は杭本体
の外径と同じか或いはこれよりも小さい径とする事が出来る。したがって、杭を地盤中に
埋設する際に、継手部分によって貫入抵抗が大きくなることはないし、更には杭と地盤と
の間に空隙部が生じることがなく。したがって、適切な水平支持力を確保することができ
るとゝもに、接続構造が簡単で施工も容易であり、コストの低減を図ることができるとい
った諸効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る杭の接続構造を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。図
において、1は下端部に接続部2を有する上杭で、この接続部2の杭径の大きさは杭本体
である上杭1の杭径の大きさより小さく形成されている。3は前記接続部2の端面に装着
した端板で、周縁には所定間隔をおいて複数の係合用凸部4が設けられており、該係合用
凸部4は前記接続部2の外周面から放射状に突出した構成としている。
【0017】
5は下杭で、前記上杭1とほゞ同一の構成からなっている。すなわち、6は前記上杭1
の接続部2と接続するための接続部で、7はその端面に装着した端板、8は該端板7の周
縁に設けた係合用凸部である。そして、これら各部分の大きさや形状は前記上杭1の各部
分とそれぞれ同一の形状,同一の大きさとしており、上杭1の接続部2の長さを下杭5の
接続部6の長さの約3倍長い構成としている点で相違するのみである。
【0018】
9A,9Bは前記端板3,7の接合面にそれぞれ形成した環状の凹溝で、この環状凹溝
9A,9B内に環状のせん断キー10を嵌合によって設置することで、前記下杭5に対し
上杭1が水平方向にずれることなく同一中心軸線上に接続される構成としている。なお、
図中11A,11Bは上下杭1,5の接続部2,6の外周に巻いた接続金具である。
【0019】
12は接続される前記上下杭1,5をその接続部2,6の部分において接続するための
リングで、該リング12は前記接続部2,6の周方向に2つに分割したリング構成部材1
2A,12Bでそれぞれ構成されており、両リング構成部材12A,12Bをその両端に
形成した一対のいんろう構造からなる連結部13,15と、該連結部13,15を嵌め合
わせることで、径方向の接合面に形成した凹溝が対峙することで形成された溝孔17内に
棒状のせん断キー18を打ち込むことで、一体構造のリング12を形成できる構成として
いる。
【0020】
13は前記リング構成部材12Aの両端にそれぞれ形成したいんろう構造の連結部で、
内面側に開口する凹部を中央備えた嵌合用突出部14A,14Bを備えている。15は前
記リング構成部材12Bの両端にそれぞれ形成した連結部で、前記リング構成部材12A
の連結部13と嵌め合わせによって連結するためのものであり、外面側に開口する凹部1
6Bを介して嵌合用突出部16Aが端縁に形成されており、該嵌合用突出部16Aを前記
リング構成部材12Aの嵌合用突出部14A,14Bの間に、嵌合用突出部14Bを前記
リング構成部材12Bの凹部16Bにそれぞれ嵌め合わせることでリング12を組み立て
る構成としている。
【0021】
19は前記リング構成部材12A,12Bの内側に形成した上下方向に平行して延びる
複数本の内方凸条部で、周方向に所定間隔をおいて形成されており、該内方凸条部19に
は、前記上下両杭1,5の対峙する上下両端板3,7に形成した係合用凸部4,8を重ね
合わせた状態で嵌合できる上下幅を有する周溝20が形成されている。なお、図中21は
前記リング12の内周面と前記上下杭の接続部2,6の外周面との間にあって、前記内方
凸条部19,19間の空隙部に前記リング12の上方から嵌め込むくさびである。
【0022】
次に、上記構成からなる杭の継ぎ手構造を施工するには、地中に打ち込んだ下杭5の上
方に上杭1を配置し、下杭5の接続部6端面に装着した端板7と接続される上杭1の接続
部2端面に装着した端板3とを対面させる。そして、下杭5の端板7に形成した係合用凸
部8の上に、上杭1の端板3に形成した係合用凸部4をそれぞれが合致するように上杭1
の位置を調整する。その後、両端板3,7の間に環状のせん断キー10を配設し、該環状
のせん断キー10が各端板3,7の接合面にそれぞれ形成した環状の凹溝9A,9B内に
それぞれ嵌合するようにセットする。
【0023】
この状態で、下杭5の上に上杭1を降ろすことで、下杭5と上杭1とはそれぞれの端板
3,7の環状凹溝9A,9B内に嵌合したせん断キー10を介し、上下杭1,5はその中
心軸が合致した状態で、下杭5の上に上杭1が接合される。つぎに、前記リング構成部材
12A,12Bを前記上下杭1,5の接合部2,6に外側から配設し、下杭5の端板7に
形成した係合用凸部8と上杭1の端板3に形成した係合用凸部4とが上下に重ね合わされ
た部分4,8を、前記リング構成部材12A,12Bの内側に形成した内方凸条部19の
周溝20内にそれぞれ嵌合させ、上下両杭1,5の接合部2,6を外周から覆う状態でセ
ットする。
【0024】
上記のようにセットされた前記リング構成部材12A,12Bを、前記リング構成部材
12A,12Bの両端にそれぞれ形成したいんろう構造の連結部13,15を嵌め合わせ
によって組み立てるとゝもに、該連結部13,15に形成された溝孔17内に棒状のせん
断キー18を上方から打ち込むことで一体構造のリング12を形成する。これにより、上
下両杭1,5は相対的に上下方向及び水平方向へのずれが規制される。
【0025】
そして、最後に、前記リング構成部材12A,12Bの内周面と前記上下杭1,5の接
続部2,6の外周面との間にあって、前記内方凸条部19,19間の空隙部に、その上方
からくさび21を打ち込むことで施工作業が完了する。これにより、上下両杭1,5は相
対的に周方向へのずれが規制される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明に係る杭の継ぎ手構造の分解斜視図である。
【図2】同上発明の第1施工状態を示す半部縦断面である。
【図3】同上発明の第2施工状態を示す半部縦断面である。
【図4】本発明で使用するリングの組立状態を示す斜視図である。
【図5】同上発明の第3施工状態を示す半部縦断面である。
【図6】図5のVIーVI線断面矢指図である。
【符号の説明】
【0027】
1 上杭
5 下杭
2,6 接続部
3,7 端板
4,8 係合用凸部
9A,9B 環状凹溝
10 せん断キー
12 リング
12A,12B リング構成部材
13,15 連結部
14A,14B 嵌合用突出部
16A 嵌合用突出部
16B 凹部
17 溝孔
18 棒状のせん断キー
19 内方凸条部
20 周凹溝
21 くさび

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭の端部に杭径より小径の接続部を形成するとゝもに、該接続部の端面に周縁より突出する複数の係合用凸部を有する端板を装着してなる接続される上下杭と、前記端板を対接して配設した上下杭の接続部の外側に嵌合して、相対的に上下及び水平方向の移動を規制するリングとから構成され、該リングを、前記接続部の周方向に複数個に分割可能とし、内側には周方向に所定間隔で上下方向に延びる複数本の内方凸条部を突設するとゝもに、該内方凸条部に前記対接して配設した上下両端板の係合用凸部が嵌合する周凹溝を形成した構成としたことを特徴とする杭の継ぎ手構造。
【請求項2】
前記接続される上下杭の両端板の接合面にせん断キー挿入用の環状凹溝をそれぞれ形成し、該上下の環状凹溝内に挿入した環状のせん断キーを介して前記上下杭を接続する構成としたことを特徴とする請求項1記載の杭の継ぎ手構造。
【請求項3】
前記リングの内周面と前記上下杭の接続部の外周面との間にあって隣り合う前記内方凸条部間の空隙部に、前記リングの上方から嵌め込んだくさびを介在させる構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載の杭の継ぎ手構造。
【請求項4】
前記接続部の周方向に複数個に分割可能とした前記リングは、その両端の連結部を、いんろう構造からなる一対の嵌め込み部分と、該嵌め込み部分の接合面にそれぞれ形成した対峙する凹溝によって形成される溝孔内にその上端開口部から棒状のせん断キーを挿入して一体に連結する構成としたことを特徴とする請求項1,2又は3記載の杭の継ぎ手構造。
【請求項5】
前記上杭の接続部の長さを下杭の接続部の長さより長く形成したことを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の杭の継ぎ手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231732(P2008−231732A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70947(P2007−70947)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【Fターム(参考)】