説明

板ガラスをミラー形状に切断する方法

【課題】板ガラスから曲線を有する形状の板ガラス製品を、瑕の発生を抑え且つ効率的に切り出す方法の提供。
【解決手段】熱された板ガラス1の上面に、ミラー形状の切断線2、及び、一端が板ガラス1の端部、他の一端が形状部に向かうブレーキング線3を設け、切断線2及びブレーキング線3上に冷却された空気を吹き付けて、切断線2及びブレーキング線3を板ガラス1の内部に進展させる第1工程、切断線2を板ガラス1の下面にまで進展させる第2工程、並びに、ブレーキング線3を進展させることにより不要部を切断、除去する第3工程からなる板ガラス1の切断方法。第2工程において、板ガラス1の下面側に、切断線2を跨ぐようにヒーター21を押し当てて、板ガラス1の下面を加熱し、切断線2を板ガラス1の下面にまで進展させ、第3工程において、板ガラス1の上方から、ブレーキング線3の板ガラス1の端部側の末端に熱気を吹き付けて急速加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断時に製品の瑕の発生を抑え、効率的にミラーの形状に板ガラスを切断する方法に関し、特に、自動車用ミラー等の曲面ガラスの切断にも適した板ガラスを切断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサイドミラー等のミラーは、最近ではデザインも重視されることから、曲線的な外形を有する形状のものも少なくない。特にサイドミラー等の車両に用いるものは、小型でありながら広範囲を視認できるように、凸面形状を有している。
【0003】
従来、曲線形状を有する板ガラス製品の場合、特に曲面ガラスの場合には、機械による切り出しが困難であるため、手作業によってなされているが、寸法誤差の少ない製品を切り出すためには相当の熟練を要し、作業にも長時間も要するものであった。
【0004】
板ガラスを切断する手段として、板ガラスに切り目を入れ、切り目から仮想切断線に沿って加熱バーナーにより加熱し、次いでこの加熱部をミストにより仮想切断線に沿って局所冷却することにより、前記切り目から仮想切断線に沿ってクラックを形成し、板ガラスを該クラックに沿って折割する板ガラスの切断方法が開示されているが(特許文献1)、この切断方法は直線的な切断には適しているが、曲線的な切断には適していない。
【0005】
また、加工時間を短縮して板ガラスから曲線を有する形状の製品を切り出すことができる切断方法として、板ガラス素材の一方の面に所定形状の切断線及び該切断線の複数箇所から外方に延びる切り込み線を入れ、前記板ガラスの他方の面側から、前記切り込み線に対応する部分を加熱する板ガラスの切断方法が開示されている(特許文献2)。
しかしながら、この切断方法では、切断線と切り込み線とが接続しているため、切り込み線を入れたときに、製品端部に瑕が入る場合がある。
このように、板ガラスから曲線を有する形状の製品を、瑕の発生を抑えつつ、効率的に切り出すための有効な手段は未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/054142
【特許文献2】特開2007‐186402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、板ガラス上面に、ミラー形状の切断線、及び、該ミラー形状より外側の不要部に、前記切断線の外側から始まり、前記板ガラスの端部に向かう、複数のブレーキング線を設け、部分加熱と部分冷却を組み合わせた場合には、製品端部に瑕が発生しないだけでなく最終工程まで不要部が脱落せず、切断作業を効率的に行えることが判明した。
従って、本発明の目的は、瑕の発生を抑えて、効率的にミラーの形状に板ガラスを切断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、ミラーの形状に板ガラスを切断する方法であって、80〜100℃に熱された板ガラスを固定し、該板ガラスの上面に、カッターで前記ミラー形状の切断線、及び、少なくとも異なる4方向に、一端が前記板ガラスの端部に向かい、他の一端が前記切断線に囲まれた形状部に向かうブレーキング線を設けると供に、該切断線及びブレーキング線上に冷却された空気を吹き付けて、前記切断線及びブレーキング線を前記板ガラスの内部に進展させる第1工程、
前記切断線を板ガラスの下面にまで進展させる第2工程、並びに、
前記ブレーキング線を進展させることにより、前記ミラー形状部より外側の不要部を切断して、前記ミラー形状部から分離し、除去する第3工程からなる板ガラスの切断方法であって、
前記第2工程において、前記形状部の中心を固定された板ガラスの下面側に、前記切断線を跨ぐようにヒーターを押し当てて、前記板ガラスの下面を100〜300℃に加熱し、前記切断線を前記板ガラスの下面まで進展させると供に、前記第3工程において、前記形状部の中心を固定された板ガラスの上方から、前記ブレーキング線の板ガラスの端部側に600〜700℃の熱気を吹き付けて急速加熱し、前記ブレーキング線を前記切断線及び板ガラスの端部まで進展させると供に、板ガラスの下面にまで進展させることを特徴とする板ガラスを切断する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、自動車のサイドミラーのような曲線を有する形状のガラス製品を効率的に生産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1工程により切断線及びブレーキング線が設けられた板ガラスの表面概念図である。
【図2】第1工程の概略図である。
【図3】第1工程後の板ガラスの切断線部分の断面図である
【図4】第1工程で使用されるカッターの一例を示す概略図である。
【図5】第2工程の概略図である。
【図6】第2工程後の板ガラスの切断線部分の断面図である。
【図7】第3工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0012】
本発明の板ガラスを切断する方法は、板ガラスの上面に、曲線及び又は直線からなるミラー形状を描く切断線、及び、前記ミラー形状部の外側から、前記板ガラスの端部に向かって4本以上のブレーキング線を設ける第1工程、前記切断線を板ガラスの下面にまで進展させる第2工程、並びに、前記形状の部分の外側の部分を切断する第3工程からなる。
【0013】
前記第1工程は、80〜100℃に熱された板ガラスを固定し、該板ガラスの上面に、カッターで前記ミラー形状を描く切断線、及び、少なくとも異なる4方向に、一端が前記板ガラスの端部に向かい、他の一端が前記切断線に向かう前記ブレーキング線を設けると同時に、該切断線及びブレーキング線上に冷却された空気を吹き付けて、切断線及びブレーキング線を前記板ガラスの内部に進展させる工程である。
【0014】
図1に切断線及びブレーキング線が設けられた板ガラスを示す。
本発明により切断される板ガラスは、加工が容易なソーダガラスであることが好ましい。本発明の方法は、平面ガラスばかりでなく、曲面ガラスの切断にも使用することができる。板ガラスの厚さは4mm以下であればよいが、本発明の方法は、特に厚さが2〜3mmの板ガラスの切断に効果的である。
また、曲面ガラスの場合には、特に曲率半径が1000〜2000mmの曲面ガラスの切断に効果的である。
【0015】
切断線2で描かれる形状は所望するミラーの形状であり、形状は四角形ばかりでなく、円形又は楕円形のような曲線形状でもよい。また、四角形には、直線のみからなるものばかりでなく、角や辺を曲線にした形状も含まれる。
特に、自動車のサイドミラー等を切り出す場合には、曲面ガラスを使用してもよい。
【0016】
本発明では、前記切断線2に囲まれたミラー形状部に衝撃を与えることなく、外側の不要部を除去するために、ミラー形状部より外側の不要部にブレーキング線3を設ける。該ブレーキング線3は、少なくとも異なる4方向に設け、それぞれ一端が前記板ガラスの端部に向かい、他の一端が前記切断線に囲まれた形状部に向かうように描く必要がある。
板ガラスの端部側の一端は、後述する第3工程の熱気の吹き付け部分になるように描かれる。また、第3工程によりブレーキング線が熱割して板ガラス端部まで達し、不要部が脱落する。
【0017】
また、ブレーキング線の切断線側の一端は、切断線と接続していると、前記形状部の端部に瑕が付くおそれがあるばかりでなく、本工程又は後述する第2工程で不要部が脱落する場合があるので、ブレーキング線は切断線から離れるように描く。ブレーキング線の末端から切断線までは3〜5mm離れていることが好ましい。
【0018】
図2に第1工程の概略を示す。
板ガラス1を80〜100℃に熱するにはヒーターを用いてもよいが、曲面ガラスを切断する場合、曲げ炉から取り出された曲面ガラスの温度は300℃に達しているので、これを80〜100℃まで冷却して切断することが、エネルギー効率及び作業効率の観点から好ましい。
また、板ガラス1を固定する手段(図示せず)としては、板ガラスに瑕を付けず、着脱が容易である真空吸引によるものを使用することが好ましい。
【0019】
カッター10を用いて前記切断線及びブレーキング線を設けると同時に、板ガラス表面に冷却された空気を吹き付けることにより(矢印a)、切断線及びブレーキング線周辺の板ガラス表面が図3に示す矢印bの方向に収縮し、前記切断線及びブレーキング線が板ガラス内部に深く進展する(図3、2b)。
【0020】
カッター10は、図4に示すように、板ガラスに切断線及びブレーキング線を描くカッターチップ11及び該カッターチップを固定するカッターヘッド12からなる。カッターチップ11としてはダイヤモンド、タンガロイ等の公知のものを使用することができる。
カッター10は、コンピュータ数値制御(以下「CNC」という。)により所望の形状の切断線及びブレーキング線を描くように制御される。
カッターヘッド12は、カッターチップ11近傍に冷却された空気を吹出す為の吹出口13を有していることが好ましい。
吹き付ける空気の温度は0〜10℃であることが好ましい。
【0021】
板ガラスからミラー形状部を切り出して製品を得るためには、切断線が板ガラスの下面まで達していなければならないが、第1工程のみでは充分でない。
そこで、第1工程の処理を受けた板ガラスを、真空パッドを用いて第2工程へ移送する。第2工程では、前記切断線及びブレーキング線が設けられた板ガラスの切断線の内側部分を固定し、前記板ガラスの下面側に、前記切断線を跨ぐようにヒーターを押し当てて100〜300℃に加熱して、前記切断線を前記板ガラスの下面まで進展させる。
【0022】
第2工程の概略を図5に示す。
製品となる板ガラスの切断線の内側部分を固定する手段20としては、第1工程と同様、裏面側を真空吸引することが好ましい。
ヒーター21としては公知のものを使用することができる。
ヒーター21を、板ガラスの切断線が設けられた面の下面から、前記切断線を跨ぐようにヒーターを押し当てて加熱することにより、図6に示すように、板ガラスの前記反対側の面が切断線部分を中心に矢印cの方向に膨張し、切断線2が更に進展して、前記下面まで達する(図6、2c)。
また、1枚の板ガラスに2以上の切断線が設けられている場合、図5に示すように、1個のヒーターが2本の切断線を跨いでいてもよい
【0023】
第2工程により切断線が下面まで達した板ガラスは、真空パッドによって第3工程に移送され、第3工程を経て前記切断線の外側の不要部が切断分離される。
図7に第3工程の概略を示す。
第3工程は、固定された前記板ガラス1の上方から、前記ブレーキング線の端部に600〜700℃の熱気を吹き付け(矢印d)、前記形状部より外側の不要部を切断し除去する工程である。
こうすることにより、板ガラスのブレーキング線の部分が熱割れして、不要部がミラー形状部から分離され、所望のミラーの形状の板ガラスが得られる。
このとき、第2工程により切断線が下面まで達しているので、ブレーキング線の進展が該切断線に達した時点で終わり、切断線の内側の形状部分にまで及ぶことはない。
【0024】
板ガラスの切断線の内側部分は、落下防止のために固定する必要がある。固定手段30としては、前述の通り真空吸引によるものを使用することが好ましい。
ブレーキング線端部に600〜700℃の熱気を吹き付ける手段31としては、安全面から、ノンフレームトーチを使用することが好ましい。
また、熱気吹き付け部は、板ガラスの端部の上方に、各ブレーキング線の板ガラス端部側の末端に吹き付けを行うように配置する。
1枚の板ガラスに2本以上の切断線が設けられている場合、1つづつ順に不要部の除去を行ってもよいが、切断線の個数分の吹き付け手段を用いて一度に全ての不要部を除去してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、板ガラス製品、特に自動車用のサイドミラー等の車両用のガラス製品を板ガラスから切り出す工程に有用である。
【符号の説明】
【0026】
1 板ガラス
2 切断線
3 ブレーキング線
10 カッター
11 カッターチップ
12 カッターヘッド
13 吹出し口
14 カッターチップ回転軸
20 板ガラス固定手段
21 ヒーター
30 板ガラス固定手段
31 熱気吹き付け手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーの形状に板ガラスを切断する方法であって、80〜100℃に熱された板ガラスを固定し、該板ガラスの上面に、カッターで前記ミラー形状の切断線、及び、少なくとも異なる4方向に、一端が前記板ガラスの端部に向かい、他の一端が前記切断線に囲まれた形状部に向かうブレーキング線を設けると供に、該切断線及びブレーキング線上に冷却された空気を吹き付けて、前記切断線及びブレーキング線を前記板ガラスの内部に進展させる第1工程、
前記切断線を板ガラスの下面にまで進展させる第2工程、並びに、
前記ブレーキング線を進展させることにより、前記ミラー形状部より外側の不要部を切断して、前記ミラー形状部から分離し、除去する第3工程からなる板ガラスの切断方法であって、
前記第2工程において、前記形状部の中心を固定された板ガラスの下面側に、前記切断線を跨ぐようにヒーターを押し当てて、前記板ガラスの下面を100〜300℃に加熱し、前記切断線を前記板ガラスの下面まで進展させると供に、前記第3工程において、前記形状部の中心を固定された板ガラスの上方から、前記ブレーキング線の板ガラスの端部側に600〜700℃の熱気を吹き付けて急速加熱し、前記ブレーキング線を、前記切断線及び板ガラスの端部まで進展させると供に板ガラスの下面にまで進展させることを特徴とする、板ガラスを切断する方法。
【請求項2】
前記形状が、四角形、円形又は楕円形である、請求項1に記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項3】
前記板ガラスが、2以上の前記切断線を描くことが可能な四角形状の板ガラスである、請求項1又は2に記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項4】
前記板ガラスの厚さが2〜3mmである、請求項1〜3の何れか記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項5】
ブレーキング線の前記他の一端が、切断線から3〜5mm離れた箇所である、請求項1〜4の何れか記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項6】
前記板ガラスが曲面ガラスであり、前記板ガラスの上面が曲面ガラスの凸面であり、前記80〜100℃に熱された板ガラスが、曲げ炉から取り出された後、80〜100℃まで冷却された曲面ガラスである、請求項1〜5の何れか記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項7】
前記曲面ガラスの曲率半径が1000〜2000mmである請求項6に記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項8】
前記ミラーが車両用のミラーである、請求項1〜7の何れか記載された板ガラスを切断する方法。
【請求項9】
前記車両用のミラーが自動車用のサイドミラーである、請求項8に記載された板ガラスを切断する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−178575(P2011−178575A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41436(P2010−41436)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(397002119)ハイテックエンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】