説明

板ガラス収納積層梱包体、及び板状物収納トレイ

【課題】小寸法の固体撮像素子用カバーガラスなどの板状物が、静電気によって帯電して容器に付着し難く、搬送時にダストが発生し難く、開封時に作業性を低下させない板状物収納積層梱包体と、それに用いる板状物収納トレイを提供する。
【解決手段】板状物収納積層梱包体10は、上面に板状物30を水平に整列収納したトレイ20を複数枚積層された構成を有するもので、トレイ20が帯電防止材により構成され、トレイ20の上面側及び下面側に互いに独立した少なくとも3種以上の板状物移動規制手段21〜23を有し、積層されたトレイ20全体が有機フィルム材40により一体的に被覆包装されてなる。本発明の板状物収納トレイ20は、上記の板状物収納積層梱包体10の内部に、板状物30を載せた状態で積層されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
固体撮像素子用カバーガラス等の小寸法の板状物を収納した板状物収納積層梱包体と、この板状物収納積層梱包体に用いる板状物収納トレイに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にCCDやCMOS等の固体撮像素子や、LCD等の光半導体を収納する気密性の求められるパッケージに用いられる窓材(カバーガラス)としては、高い透光性と安定した耐候性を有する無機酸化物よりなる板ガラスが用いられている。このような板ガラスは、各種のガラス原料を熔融して冷却固化したものを所定寸法となるように加工したものであり、所望の性能を発揮するために光学的に高い均質度を有している。固体撮像素子は、様々な用途に用いられているが、デジタルカメラ等の用途に加えて近年は携帯電話や携帯情報端末等にも使用され、今後も車載用途などに適用されていくと考えられている。
【0003】
このような多様な用途に用いられる固体撮像素子を保護し、高い要求性能に応える安定した機能を発揮させるため、固体撮像素子のパッケージのカバーガラスに使用される板ガラスは数多くの仕様を満足しなければならない。板ガラスの表面品位や光学的性能は、基本的に要求されるものであるが、それ以外にもパッケージとして組み立てる際に発生する異物付着などの問題や、組み立てられたパッケージの性能を左右するα線に関わる問題等が知られている。また板ガラスは、固体撮像素子のパッケージとして組み立てる際に、パッケージ組み立てラインまで搬送される。搬送途中の板ガラスは、衝撃などから保護し、異物の付着等を防ぐ必要性が生じる。このため製造された板ガラスをパッケージ組み立てラインまで搬送する時に用いられる梱包材にも上述したような観点から十分な注意が必要となる。
【0004】
以上に示したような観点から、これまでも固体撮像素子用カバーガラスを収納して搬送するために用いられる梱包部材については、多くの発明が提案されてきた。例えば特許文献1には、ガラス基板の荷重による容器の変形が生じにくく、輸送時におけるガラス基板の振動による粉塵が発生しにくいガラス基板搬送用トレイに関する記戴がある。この文献は、輸送時にガラス基板の振動が生じにくいものとするため、上面にガラス基板を水平に収容する収納部が形成されたポリオレフィン系樹脂発泡体からなるガラス基板搬送用トレイに関するものである。このトレイの収納部は、ガラス基板が収容される底面と底面を取り囲む側壁とを有し、側壁の内壁面を構成し、収納部における側壁の角部に凹部を有するものとするという発明が開示されている。
【0005】
特許文献2は、電子部品収納容器の導電特性、寸法精度等の課題を解決するため電子部品収納容器に使用する導電性樹脂組成物に関するものである。この文献では、少なくとも5〜50重量%の酸化亜鉛ウイスカと、3〜30重量%の導電性フィラーと、0〜30重量%の板状の無機質フィラーとを樹脂に配合し成形するという技術的手段により、導電性,機械的特性,寸法精度に優れた電子部品収納容器が得られるという発明が開示されている。
【0006】
特許文献3には、下ケース側の収納凹所上に光学部品を収納し、上ケースにより蓋をするタイプの光学部品梱包ケースに関するものである。この文献では、ケースを複数個積み重ねることによって圧力が加わった場合においても、光学部品収納空間に対してこれを変形させるに足る大きな加圧力が加わることを防止したものとする梱包形態に関する記載がある。この文献には上面に光学部品収納凹所を備えた収納領域、及び収納領域の外周に連設された外周領域を有した下ケースと、下ケース上に積層されることにより収納領域を覆う収納領域被覆領域、及び外周領域を覆う外周領域被覆領域を有した上ケースと、を備えた光学部品梱包ケースで、下ケースの収納領域内であって光学部品収納凹所を回避した位置に光学部品収納凹所の下方への突出長を超えた下方への突出長を備えた下リブを設けると共に、上ケースの収納領域被覆領域内の下リブと対応するという発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−119071号公報
【特許文献2】特開平5−117447号公報
【特許文献3】特開2007−217027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらこれまでに行われた発明だけでは、著しい技術水準の進捗に対応する微細なガラス部品等を収納する容器、あるいは搬送用トレイとしては、十分なものとは言えない。固体撮像素子は、機能の向上に伴って様々な要途に用いられ、特に携帯情報端末(PDA)や携帯電話などの収納スペースの限られた電子機器に搭載されることが多くなっている。そして、このような新しい用途では固体撮像素子の大きさは、従来よりも小さい寸法のものが用いられるようになっている。従来よりも小さい固体撮像素子では、使用されるカバーガラスの寸法もこれまでよりも小さな寸法のものとなる。
【0009】
この様な従来よりも寸法の小さい固体撮像素子用カバーガラスを使用する場合には、従来は問題とならなかったカバーガラスが搬送等に使用する梱包容器の蓋に付着するという問題が生じるようになった。すなわちこの問題は、梱包された容器を開封して各々のカバーガラスを使用する際の静電気に係る問題である。上下に積層されたトレイの1つを開封時に持ち上げると、そのトレイの下面に下側のトレイに収納されていたカバーガラスが、持ち上げたトレイに静電気で付着した状態のまま持ち上げられてしまう。この現象は、カバーガラスが搬送中の微細な振動等によって静電気を帯びて発生する。カバーガラスのトレイへの静電気による付着が生じると、カバーガラスを固体撮像素子として組み立てる組み立て作業をそのまま続けることができず、パッケージ製造時の作業性が著しく低減してしまう。このため、製造効率の向上という観点、あるいは省人化という観点からカバーガラスが、トレイに付着する問題を回避できないかということが問題になった。そのため、特許文献2に記載のあるような導電性材料でトレイを作製することについても検討が行われたが、例え導電性材料をトレイ材料として使用しても、ガラスのように帯電性の高い材料をトレイに収納する場合、特に板ガラスの一方側の透光面の面積が30mm未満になる、小型のパッケージを構成するために用いられる小寸法の板ガラスの場合には大きな改善が得られなかった。すなわち、易帯電性を有するカバーガラスが従来寸法よりも著しく小さいため、トレイを構成する材料を変更することでは、静電気による帯電は全く解決できなかった。
【0010】
本発明は係る状況に鑑み、上記したような寸法の極めて小さい固体撮像素子用カバーガラスのような板ガラスであっても、静電気によって板ガラス表面が帯電して搬送用の容器表面に付着し難く、また搬送時の振動に起因するダスト等の異物付着が発生し難く、固体撮像素子パッケージを製造する際の作業性を低下させることのない板状物収納積層梱包体と、この板状物収納積層梱包体に用いられる板状物収納トレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、板ガラス等の板状物の梱包体を開封し、梱包されていた板ガラス等板状物をトレイから取り出して利用する際に板状物がトレイに付着することなく円滑な作業性を実現することのできる板状物の収納積層梱包体を実現するための研究を重ねた。そして、板ガラスを収納する構造に配慮したトレイとすることによって、板ガラス表面の帯電を減少させ、しかも板状物とトレイとの接触によって発生するダスト等の異物付着の低減が可能となる板状物収納積層梱包体とその梱包体に用いられる板ガラス収納トレイを見出して、ここにその発明を提供するものである。
【0012】
本発明の板状物収納積層梱包体は、上面に板状物を水平に整列収納したトレイが複数枚積層された構成を有する板状物収納積層梱包体であって、前記トレイが帯電防止材により構成され、トレイ上面側及びトレイ下面側に互いに独立した少なくとも3種以上の板状物移動規制手段を有し、積層されたトレイ全体が一体的に被覆包装されてなることを特徴とする。
【0013】
以上のような構成であるため、本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物をトレイに確実に保持された状態とし、しかも搬送あるいは輸送中の様々な取り扱いにより板状物に及ぼされる電気的、機械的な影響を抑制し、積層体を外部からの粉塵の侵入に対して防御し、積層体内部で発生する異物付着などの諸問題を低減させ続けることのできる構成である。
【0014】
本発明の板状物収納積層梱包体は、梱包体中に積層状態で梱包されている帯電防止材よりなるトレイにより構成されている。そして、このトレイ上面及び下面には3種以上の板状物移動規制手段を有している。「トレイ上面側及びトレイ下面側に互いに独立した少なくとも3種以上の板状物移動規制手段を有し」というのは、トレイ内で板状物が移動しないようにする構造を最低でも3つ持っていて、この3つの板状物移動規制手段に係る各々の構造が、互いに連なったものと見なすことのできない、すなわち離れた位置に独立して設けられた構造であるということである。これら3つの構造は、それぞれ異なった働きをし、梱包された状態のトレイ内で板状物を確実に保持する。すなわち、本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物の同じ方向の動作を妨げるような複数の異なる構造を要せず、本発明でトレイに設けられた構造は互いに異なる働きをするように構成されていることが必要である。同じ動作制御を異なる構造で対応するような構成にすると、トレイ全体の構造は複雑なものとせねばならず、トレイの製造費用が嵩むものとなるため好ましくない。
【0015】
本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え、その板状物移動規制手段の少なくとも1種が、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものである。
【0016】
ここで、板状物収納積層梱包体は、その板状物移動規制手段の少なくとも1種が、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するという点について、以下で説明する。本発明の板状物収納積層梱包体に収納される板状物は、対向する光透過面を少なくとも1以上有している。そしてこの対向する光透過面、すなわち少なくとも2つの相対する光透過面は、その全面積が有効に使用されるわけではない。本発明に係る板状物は、板状物自体が単独で用いられることはなく、他の構成部材に接合、接着等の各種手段で固定した状態で利用される。この場合に、光透過面の一部は、接合、接着等の各種手段による固定箇所として利用される。このような箇所を本発明では、光学的非有効規格面と呼んでいる。一方、光線が透過する光透過面、すなわち実質的に板状物の光学的機能が発揮される面を光学的有効規格面と呼ぶ。そして、小さい寸法の板状物の光学的有効規格面は、その面積が一面側の透過面について、30mm未満になっている。よって、本発明の本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物の光学的有効規格面の範囲内が、少なくとも1種の前記板状物移動規制手段によって支持されているということである。
【0017】
このような構成であるため、寸法の小さい板状物であっても、光学的非有効規格面を板状物移動規制手段で支持するのではなく、光学的非有効規格面よりも大きな面積の光学的有効規格面の範囲内を揺らぐことなく支持することにより、板状物収納積層梱包体が受ける振動や揺れなどに大きな影響を及ぼされることもなく、トレイ内で安定した板状物の保持状態を維持し続けることが容易である。
【0018】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるならば、外形寸法が小さい板状物、具体的には、その面積が一面側の透過面について、30mm未満のものを収納する場合に用い、板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持しても、板状物の光学的有効規格面の範囲内に、好ましくない傷や異物付着を生じさせにくい。なんとなれば、光学的有効規格面は、光線を透過させるため、その表面状態がより厳しく管理され、表面状態が所定の規格範囲となるように監視される必要があるからである。
【0019】
光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるとは、板状物と接触するトレイに設けられた接触部の表面粗さを表す「算術平均粗さ」であるRa値が、JIS B0601(2001)「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に基づいた表面粗さとして表され、0.15μm以下となることを表している。
【0020】
光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μmを超える場合には、搬送などの原因に伴う振動によって、トレイ表面が磨耗されて粉塵が発生し、発生した粉塵がダスト、すなわち異物として板状物の表面に付着し易くなるので好ましくない。このような観点から、光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の板状物との接触部の表面粗さのRa値は、より好ましくは0.12μm以下とすることであり、さらに好ましくは0.10μm以下とすることである。
【0021】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の板状物との接触部の表面粗さのRa値について、異なるトレイ10点の計測結果の全てが0.15μm以下となるものであれば、耐用期間の短いトレイが少なく、安定した品位が維持されるので好ましい。このような観点から光学的有効規格面の範囲内の支持手段について、該板状物との接触部の表面粗さのRa値の10点計測結果の全ては、より好ましくは0.12μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以下とすることである。
【0022】
以上のような構成であれば、本発明は、外形寸法が小さくなった板状物を収納する場合に用いると、板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持しても、板状物に好ましくない傷や異物付着を生じさせにくいものとなるので好適である。
【0023】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え板状物移動規制手段が、トレイ上面側に設けた、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、板状物を下方より支持する支持突起、及びトレイ下面側に積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起であり、被覆包装が有機フィルム材によるものであるなら、板状物の動きは確実に抑制できるものとなり、それぞれの突起は、その働きに応じた最適な表面形状、及び表面状態を有する構造とすることができる。
【0024】
ここで、板状物移動規制手段が、トレイ上面側に設けた、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起と、板状物を下方より支持する支持突起、トレイ下面側に積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起であり、被覆包装が有機フィルム材によるものであるという点について説明する。本発明の板状物収納積層梱包体は、前述したように梱包体中に積層状態で梱包されている帯電防止材よりなるトレイにより構成されており、そのトレイ上面及び下面には複数種の板状物移動規制手段である突起を有している。そして、トレイの上面の突起は2種類あり、第1の突起は、水平動規制突起と呼び、この突起の役割はトレイに収納された板状物の水平方向への移動や振動を規制するためのものである。また第2の突起は、支持突起と呼び、この突起の役割は、板状物を下方より支持するというものである。またトレイ下面に配設された上下動規制突起は、その役割としてトレイが積層状態となった時に、1枚下方のトレイ上に収納された板状物の上下方向の動きを限定的なものに規制するためのものである。以上の水平動規制突起と支持突起は、板状物収納部を形成している。また上下動規制突起は、板状物の動きを三次元的にも規制することによって板状物収納空間を構成している。そして本発明の板状物収納積層体では、複数のトレイが積層された状態で、その外側から有機フィルム材で全体を覆い、加熱して一体化したものとなっている。
【0025】
また、本発明に係るトレイの上面側にある支持突起のトレイ底面から垂直方向の高さは、水平動規制突起のトレイ底面から垂直方向の高さよりも低くする必要があり、具体的には、支持突起のトレイ底面から垂直方向の高さは、水平動規制突起のトレイ底面から垂直方向の高さの2分の1以下であることが好ましい。
【0026】
トレイの材質は、帯電防止材よりなるものであればよく、基材の表面に帯電防止膜や導電性膜を被覆した構成や、基材そのものを帯電防止性能や導電性性能の付与された導電性材料によって構成すればよい。このような構成とするには、例えば、樹脂材であってもカーボンや金属等の導電材料を練り込んだ複合材料を使用すればよい。
【0027】
支持突起、水平動規制突起及び上下動規制突起の3種類の突起は、いずれもその先端は鋭角に尖った表面ではなく、R面、すなわち丸みを有する面であることが必要である。R面のRの値、すなわち曲率半径の値は限定しない。
【0028】
また本発明の板状物収納トレイの上面、あるいは下面に施される突起の平面形状は、所定の寸法の板状物を収納するトレイの大きさや、トレイの材質などによって任意の形状を採用してよい。例えば突起の平面形状は、略楕円形、略矩形、略多角形、繭形、十字形、星形、線形あるいはこれらが連結したような形状であってもよい。
【0029】
本発明の板状物収納積層梱包体では、板状物を収納する板状物収納空間に於いて、板状物収納積層梱包体の搬送等で板状物と接触するトレイの表面を帯電防止性能を有するものとし、さらに接触面積をなるべく少なくし、そして板状物の板状物収納空間内における移動量をなるべく小さくするという限定を施すという技術思想に従って得られたものである。このため板状物は、下方からもなるべく少ない面積で支持された状態とする必要があり、このような限定によって複数の支持突起で板状物を支えることができることとなった。
【0030】
本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え支持突起が、板状物の端面に沿ってトレイに配設されてなるならば、板状物が不安定な支持状態とならずに支持することが可能である。
【0031】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上記したように積層されたトレイの外周にポリオレフィン系フィルム等の熱収縮材を巻き付けて一体となるように固定した構成とすれば、梱包体外部からの粉塵等の微細なダストが板状物表面に付着することもなく、優れた品位の板状物を外部から遮断した状態に維持することができるので好ましい。
【0032】
本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物の上面と、上層のトレイの該板状物の上方に位置する下面部位との最短間隔が0.5mm以下であるならば、板状物の上下方向の動きは抑制され、接触帯電の危険性を低減することになり、また接触によって発生するダスト等の低減にも繋がるものである。
【0033】
ここで、支持突起が、板状物の端面に沿ってトレイに配設されてなるならば、板状物が不安定な支持状態とならずに支持するとは、トレイの板状物収納部に複数の板状物を収納した状態としたトレイの端面を揃えた状態で2以上積層した場合に、上層を構成するトレイの下面部位から、下層を構成するトレイ上に収納された板状物の上面までの最も短い距離が0.5mmから0mmの範囲内にあることを意味している。
【0034】
トレイの下面部位と前記板状物の上面との間隔が0.5mmを越えると、搬送中などの振動等によって板状物端面と収納部の突起部とが擦れて突起部が削られ、発生した粉塵がダストとして板状物の表面に付着することでガラス等の板状物の品位を損なうものとなるので好ましくない。このような観点から本発明の板状物収納積層梱包体は、トレイの下面と前記板状物の上面との間隔が0.45mm以下の範囲内とするのがさらに好ましく、一層好ましくはトレイの下面と前記板状物の上面との間隔が0.40mm以下の範囲内とすることであり、さらに一層好ましくは0.20mm以下、最も好ましくは0.10mm以下とすることである。しかしながら、板状物が粉塵を発生しにくい構成である場合、例えばその表面に被膜などが施されていないもので、さらに帯電性の高いガラス材質である場合には、トレイの下面と前記板状物の上面との間隔は0.001mm以上とした方がよく、より好ましくは0.01mm以上とする方がよく、さらに好ましくは0.02mm以上とすることである。
【0035】
トレイの下面と板状物の上面との間隔が0.5mm以下の所定の大きさとなるようにするには、トレイの外周端近傍部を上方に突出した凸部を設け、凸部の高さを所定値とすることによってトレイの下面と板状物の上面との間隔を所定値となるように調整すればよい。
【0036】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加えトレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるものであれば、板状物を収納した状態で検査等のために搬送する際に搬送用治具によって支え易くなる。また板状物収納積層梱包体から板状物を順番に取り出して使用する際に、積層されたトレイの収納部に収められた板状物を取り出した後に最上段のトレイを積層されたトレイから外す操作を行う時に、上方のトレイと下方のトレイとが強固に固定されて、取り外し難い場合であっても、トレイ外周の対向する辺の端面の窪みに解体用の治具の爪を挿入して上方のトレイを下方のトレイから解離させる操作が容易に行えるため好ましい。
【0037】
ここで、トレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるとは、略矩形状の外周形状を有するトレイの向かいあった辺に夫々1以上、外周には合わせて2以上の窪みを有しているということである。窪みの数は任意であるが、余りに多いと加工が手間になる一方、それによってトレイが強度的に弱くなるという問題もある。このような観点からトレイの外周の対向する辺の端面にある窪みは、5以下とすることが好ましく、より好ましくは3以下とすることである。
【0038】
また、この窪みの形状や大きさについてもトレイの機械的強度が著しく低下するような構造でなければ、どのような形状、寸法のものであってもよい。
【0039】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物が、レーザー切断加工により得られたものであるならば、板状物のレーザー加工面は平坦性が高く、トレイと接触する場合があっても、接触箇所でトレイ表面が磨耗してダストを発生させる確率が少ない状態となるため、板状物表面にトレイ起源のダストの付着する危険性が少なくなり好ましい。
【0040】
本発明で板状物を得るために行われるレーザー切断は、例えばレーザーによる溶断ではなく、レーザーにより発生した熱によって板状物表面に熱衝撃を与えて、それによって板状物に微細な切断予備線を形成し、その後その切断予備線に応力を集中させることによって割断する方法によるものである。より具体的には、例えば炭酸ガスレーザー照射によって形成された第一加工面の先端を支点となるように、支点の真下に曲げ応力が加わるように押圧することで、第二加工面が形成されるようにするというものである。ここで第一加工面の形成は、板状物の表面に、所定のビーム強度分布を有する出力条件により、ビームスポット形状が楕円、略矩形状、直線状、三角形状を有する炭酸ガスレーザーを照射しつつ等速度で直線駆動することによって、ビーム駆動箇所に相当する板状物表面に切り込みを形成する。こうして、新たに生じた表面が第一加工面になるというものである。
【0041】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、レーザー切断加工が、板状物の端面を形成するものであるならば、板状物の端面の平坦性が高く、水平動規制突起との接触によって水平動規制突起に起因するダストの発生を低減するものとなる。
【0042】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え板状物が、板ガラスであり、板厚方向に対向する透光面の少なくとも一面に被覆膜を有してなるものであれば、種々の用途に応じて所望の光学性能を発揮する被膜を施した板ガラスを、ダスト等の汚れが付着することのない状態で梱包されたものとすることが可能である。
【0043】
ここで、板状物が、板ガラスであり、板厚方向に対向する透光面の少なくとも一面に被覆膜を有してなるものであるとは、板ガラスの透光面の一方、あるいは両方に有機材、あるいは無機材よりなる被膜が形成されたものであるということである。この被膜としては、反射防止膜(ARコートともいう)、赤外線反射膜(又は赤外線カットフィルター)、無反射膜、導電膜、帯電防止膜、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター、遮蔽膜、強化膜、保護膜などを必要に応じて選択して採用してよい。特に赤外線反射膜は、板ガラスがCCD用途である場合には、CCDはその赤外域の感度が高いため、それを赤外線の素子への入射を抑制することによって肉眼による画像に固体撮像素子の画像を近づけることができるので好ましい。板ガラスの両面に被覆膜を形成する場合には、同じ被膜を形成してもよく、異なる被膜を形成してもよい。
【0044】
上記被膜に関して、その被覆膜の具体的な材質としては、次のものが採用できる。例えばシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、酸化タンタル(又はタンタラ)(Ta)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化クロム(Cr)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化バナジウム(VO)、酸化チタンジルコニウム(ZrTiO)、硫化亜鉛(ZnS)、クリオライト(NaAlF)、チオライト(NaAlF1)、フッ化イットリウム(YF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化ガドリニウム(GdF)、フッ化ディスプロシウム(DyF)、フッ化鉛(PbF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、アンチモン含有酸化スズ(ATO)膜、酸化インジウム−スズ膜(ITO膜)、SiOとAlの多層膜、SiOx−TiOx系多層膜、SiO−Ta系多層膜、SiOx−LaOx−TiOx系列の多層膜、In−Y固容体膜、アルミナ固容体膜、金属薄膜、コロイド粒子分散膜、ポリメチルメタクリレート膜(PMMA膜)、ポリカーボネート膜(PC膜)、ポリスチレン膜、メチルメタクリレートスチレン共重合膜、ポリアクリレート膜等の組成を有するものが使用できる。
【0045】
また被覆膜の形成方法についても所定の表面精度、機能を実現でき、製造に要する費用についても支障のない方法であれば特に限定されるものではなく各種の方法を採用してよい。例えばスパッタリング法、真空蒸着法、あるいは熱CVD法、レーザーCVD法、プラズマCVD法、分子線エピタキシー法(MBE法)、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の化学的気相成長法(またはCVD法)、さらにゾル−ゲル法、スピンコーティングやスクリーン印刷の塗布法、メッキ法等の液相成長法でも本発明に係る被覆膜を形成する方法として採用することができる。ただ、この中でも特にCVD法は、低温で密着性の良い被覆膜が形成でき、種々の被覆膜に対応することが可能であって、化合物の被覆膜形成にも適しているため好ましい方法である。
【0046】
また本発明の板状物収納積層梱包体は、上述に加え板ガラスが固体撮像素子収納パッケージに使用させるものであるならば、固体撮像素子のパッケージを構成する際に避けねばならない微細なダストの梱包体内への浸入を確実に防止した構成であり、また同時に梱包体内で板ガラスが振動することによって発生する板ガラスやトレイに起因するダストの発生も抑止することのできるものである。
【0047】
固体撮像素子用カバーガラスの材質についても、必要となる光学的な性能を満足するものであれば、どのような材質であっても使用してよい。例えば、硼珪酸ガラス、石英ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、ウランとトリウムが実質的にフリーなガラス、リン酸塩ガラス、ソーダ石灰ガラス、高屈折率ガラス、高歪点ガラス等の各種ガラス材質を適宜使用することができる。
【0048】
本発明の板状物収納積層梱包体の形成手順は、次のようになる。まず所定の製造工程によって固体撮像素子用カバーガラス等の透光面の面積が小さい板ガラスを製造する。次いで、これら板ガラスを本発明の板状物収納積層梱包体に係るトレイの収納部上に、真空ピンセットやロボットハンド等によって1つずつ、あるいは一度に複数枚の板ガラスを載置していく。そして1枚のトレイ上の複数の収納部の全てに板ガラスを載置し終えた後、その上に方向を揃えたもう1枚のトレイを載せて、下方のトレイの外周端近傍部の上方に突出した凸部を上方のトレイの下面に設けた噛み合わせ部に嵌め込んで仮固定を行う。そして上方のトレイ上の収納部に板ガラスを収納する操作を繰り返すことになる。この板ガラスとトレイとを交互に載せることによって、所定の層数を有する多層の積層体が得られる。そして最後に蓋となるトレイを下方のトレイの外周端近傍部の上方に突出した凸部に嵌め込んで、1つの積層体を形成した後に、その周囲からナイロン、あるいはポリオレフィンフィルム等の有機フィルム材を被せ、その状態で、減圧ポンプによる減圧梱包、あるいは熱風等による熱収縮梱包を施すことによって本発明の板状物収納積層梱包体が得られることになる。ここで使用する有機フィルム材は、例えば、ナイロンを層芯材とする積層フィルム等を使用してもよい。有機フィルム材の厚さは、0.01mm〜1.5mmの範囲のものを用いればよい。
【0049】
また本発明の板状物収納積層梱包体を構成する1枚の板状物の大きさは、透光面の片側の1面の面積の大きさをもって記述すると、2〜100mmの大きさである。100mmを越える大きさになれば、本発明で問題とするトレイとの付着を回避するために本発明以外の方法であっても対処することができ、本発明でなければ対応しがたくなることはなくなる。また2mm未満であれば、本発明であっても不十分になる。
【0050】
また本発明の板状物収納積層梱包体を構成する1枚の板ガラスの厚み寸法は、0.1mmから1.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0051】
本発明の板状物収納トレイは、複数の板状物を水平方向に整列載置可能であり、かつ互いに積層可能な嵌合部を有する板状物収納トレイであって、帯電防止材により構成され、トレイ上面側には、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、板状物を下方より支持する支持突起により構成される板状物収納部を有し、トレイ下面側には積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起を有することを特徴とする。
【0052】
ここで、複数の板状物を水平方向に整列載置可能であり、かつ互いに積層可能な嵌合部を有する板状物収納トレイであって、帯電防止材により構成され、トレイ上面側には、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、及び板状物を下方より支持する支持突起により構成される板状物収納部を有し、トレイ下面側には積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起を有する、とは、前記したように3種類の異なる役割を有する突起をトレイ表面に形成しており、物収納部内に収納される板状物の移動を規制した状態で保持するものである。またトレイが帯電防止材によりなるため、接触帯電が生じにくい状態で板ガラスを保持でき、それによってトレイを積層させた場合であっても、板状物が上方のトレイに付着し難い状態となる。
【0053】
また、本発明の板状物収納トレイは、上述に加えて前記支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものである。
【0054】
ここで、前記支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するとは、前記したように3種類の異なる役割を有する突起をトレイ表面に形成し、その内支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持することにより、小さい寸法の板状物であっても、そのトレイ内での動きを適正に規制するができるものである。
【0055】
本発明の板状物収納トレイは、上述に加えて嵌合部を構成する嵌合凸部をトレイ外周端近傍のトレイ上面側に有し、該嵌合凸部の高さKから支持突起の高さS、上下動規制突起の高さZ及び収納する板状物の厚さBを差し引いた値Tが、0.5mm以下であるならば、トレイを積層させた場合に板状物の移動を抑制し、しかも帯電しにくい状態で維持でき、さらにダスト等の発生を抑えた状態にできるものである。
【0056】
嵌合部を構成する嵌合凸部をトレイ外周端近傍のトレイ上面側に有し、該嵌合凸部の高さKから支持突起の高さS、上下動規制突起の高さZ及び収納する板状物の厚さBを差し引いた値Dが、0.5mm以下であるという点について、以下に説明する。本発明の板状物収納トレイは、トレイの上面側のトレイの外周端付近にある嵌合凸部、すなわち嵌め合わせができるように突起状の構造となるように構成された部分を、このトレイの上方にある他のトレイの下側の外周端付近の嵌合凸部と嵌合させて、一体化してゆき、このような操作を繰り返すことで3枚以上のトレイを重ね合わせていくことによって積層体とすることで搬送したりするものであるが、2つのトレイが重ねあわされた時に、図4にその部分拡大図を示すように、板状物と上方のトレイ下面の最短距離は、該嵌合凸部の高さKから支持突起の高さS、上下動規制突起の高さZ及び収納する板状物の厚さBを差し引いた値、すなわちT=(K−(S+Z+B))という式によって得られる値Tである。そしてこの値Tが、0.5mm以下であるというものであり、このような構成であれば、板状物をしっかりと固定し、上述した本発明の板状物収納積層梱包体を構成する上で好適な構成となる。
【0057】
値Tが、0.5mmより大きくなると振動などによって突起部が摩耗する危険性が大きくなる。以上のような観点から、値Tは0.45mm以下とするのがさらに好ましく、一層好ましくは0.40mm以下とすることであり、さらに一層好ましくは0.20mm以下とすることで、最も好ましくは0.10mm以下とすることである。
【0058】
また本発明の板状物収納トレイは、上述に加えて光学的有効規格面の範囲内の支持突起、及び上下動規制突起の何れかについて、板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるならば、支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、板状物の移動を抑制し、しかも振動などによるダストの発生を抑える構成であるので、長期に亘り使用することが可能である。
【0059】
該板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μmを超えると、上述したようにダストが発生し易くなり、板状物に付着し、収納された製品の品位が劣化することに繋がるので好ましくない。このような観点から板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.12μm以下、さらに好ましくは0.10μm以下とすることであり、最も好ましくは0.90μm以下とすることである。
【0060】
また本発明の板状物収納トレイは、上述に加えて光学的有効規格面の範囲内の支持手段について、支持突起、及び上下動規制突起の何れかについて、板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるならば、複数のトレイが何れかが耐用期間の短いトレイとならず、安定した品位が維持されるので好ましい。このような観点から光学的有効規格面の範囲内の支持手段について、支持突起、及び上下動規制突起の何れかについて、該板状物との接触部の表面粗さのRa値は、より好ましくは0.12μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以下とすることである。
【0061】
また本発明の板状物収納トレイは、上述に加えてトレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるものであれば、上述したように検査工程などで板ガラス等の板状物が収納されたトレイを把持し易く、さらに前記したようにトレイを積層状態から解体する場合に、大きな応力を付与せずともトレイを積層状態から解体しやすく、また積層状態に組み立てる際にも、容易に組み立てることができる。
【0062】
ここで、トレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるとは、略矩形状の外周形状を有するトレイの四つの辺について、対向する二つの辺に、それぞれ少なくとも1以上の窪みがあるということを意味している。窪みの数は任意であるが、余りに多いと加工が手間になる一方、それによってトレイが強度的に弱くなるという問題もある。このような観点からトレイの外周の対向する辺の端面にある窪みは、5以下とすることが好ましく、より好ましくは3以下とすることである。
【0063】
本発明の板状物収納トレイは、例えば1枚のトレイに10〜300枚の板状物を収納することができるものである。そして本発明の板状物収納積層梱包体は、この本発明の板状物収納トレイを5〜50層まで積層することができる。よって1つの板状物収納積層体に収納される板状物の枚数は、50枚から15000枚まで収納することができる。
【0064】
また本発明の板状物収納トレイは、上述に加えてトレイの外周に、方向識別部を有するものであれば、複数の板状物を収納したトレイの上方より別のトレイを被せて積層させる際に下方のトレイと上方のトレイの位置がずれることなく積層させることが容易であり、板状物収納積層梱包体の構成に要する時間を要さず、作業効率が向上して経済的である。
【0065】
方向識別部をトレイ外周に有するとは、トレイの端面部の1以上の箇所に特定の識別部を設け、複数のトレイを積層する際にその識別部を上下に連なるトレイで揃えることのできる目印を有しているということである。方向識別部としては、例えば所定形状の刻印を施す、トレイ角部を切り落としたカット面(C面取りとも言う)にする、目印となる突起を接着する、所定範囲のみ表面粗さを変更して光沢面、あるいはつや消し面、又はつや消し面と光沢面とが交互に表れる面になるように研磨あるいはブラスト処理などの表面改変処理を行う、難剥離性の塗料による彩色印を施すなどの処理によって得られる方向識別部であればよい。
【0066】
また本発明の板状物収納トレイは、上述に加えて支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起は、板状物1枚当たり1〜20箇形成されてなるものであれば、板状物との接触面積を抑えた状態で板状物の移動を規制することができるので、板状物の接触帯電を抑止し、トレイへの板状物の付着を一層生じにくいものとできる。
【0067】
支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起は、板状物1枚当たり1〜20箇形成されてなるものとは、トレイ上面に施された整列状態に配置された支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起のいずれかが、板状物の平面あるいは外周面と接触する箇所として、板状物1枚について、1から20カ所の接触箇所を有しているものがあるということを意味している。支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起は、その数が、板状物1枚当たり20箇所を超えた接触箇所を有する場合、トレイの構造が複雑になり、トレイの製造費が嵩むものとなる。また板状物とトレイの接触点において、荷重の掛かりやすさの偏在が認められる場合もあるので、振動等によって損耗し易い接触箇所が生じ易くなる場合もあるので好ましくない。また20箇所を超えた接触箇所を有する場合、トレイの製造費の問題、あるいは荷重の偏在などにも懸念が生じるので好ましくない。
【0068】
突起と板状物との接触部の接触面積は、小さい方が好ましいが、余りに小さいと板状物を安定した状態で水平に保持するという点で支障のある場合がある。また接触面積は、小さいと、板状物収納積層梱包体の振動などに対して強度的に弱い構成となり、振動によってダストを発生する場合もある。一方、突起と板状物との接触面積は、大きすぎると接触による帯電を生じやすくなるので好ましくない。このような観点から突起と板状物との接触面積は、0.05mm〜10mmの範囲内とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1mm〜5mmの範囲とすることであり、一層好ましくは0.12mmから1mmの範囲とすることである。
【発明の効果】
【0069】
(1)以上のように、本発明の板状物収納積層梱包体は、上面に板状物を水平に整列収納したトレイが複数枚積層された構成を有する板状物収納積層梱包体であって、前記トレイが帯電防止材により構成され、トレイ上面側及びトレイ下面側に互いに独立した少なくとも3種以上の板状物移動規制手段を有し、前記板状物移動規制手段の少なくとも1種が、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものであり、積層されたトレイ全体が一体的に被覆包装されてなるため、互いに独立した板状物移動規制手段が、板状体の位置を確実に規制し、その結果振動によって生じるダストの量を少なく抑制し、また振動によって生じる帯電量をも減らすことができ、梱包体からの開封作業を円滑に行える。また外部からのダストの梱包体内への侵入も阻止することができる。
【0070】
(2)本発明の板状物収納積層梱包体は、前記板状物移動規制手段の少なくとも1種が、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものであるならば、透光面の面積が30mm未満の板状物であっても、振動等による静電気による付着や、異物の発生を抑えた状態で、板状物の動きを適正に抑制することが可能である。
【0071】
(3)また本発明の板状物収納積層梱包体は、光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の、板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるため、搬送などによって生じる振動に伴い、接触部に生じやすいトレイ起源のダストの抑制を実現できる。
【0072】
(4)また本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物移動規制手段が、トレイ上面側に設けた、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、板状物を下方より支持する支持突起、及びトレイ下面側に積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起であり、被覆包装が有機フィルム材によるものであるため、静電気による帯電を抑制することができ、しかも板状物とトレイとの接触によって発生する危険性のあるトレイ起源のダストの発生の危険性も低くすることができる。
【0073】
(5)また本発明の板状物収納積層梱包体は、支持突起が、板状物の端面に沿ってトレイに配設されてなるものであれば、振動などの外力が加えられても板状物が傾いたりすることなく水平状態に支持した状態を維持することが容易である。
【0074】
(6)さらに本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物の上面と、上層のトレイの該板状物の上方に位置する下面部位との最短間隔が0.5mm以下であるならば、搬送時に振動によって発生する粉塵等を最小限に抑制でき、搬送先で安定した品位の板状物を取り出して使用することができる。
【0075】
(7)さらに本発明の板状物収納積層梱包体は、レイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるものであるため、検査や搬送等のトレイを動かす操作で、窪みに治具の爪を挿入することによって、確実にトレイを支持することができ、トレイが傾いたりすることなく、確実に水平に支持した状態を維持できる。またトレイの積層化操作と解体操作とが容易に行え、夫々の操作の途中で不要な応力が加わることによって、収納部に収められた板ガラスが収納部から飛び出したりすることがない。
【0076】
(8)また本発明の板状物収納積層梱包体は、レーザー切断加工により得られたものであるならば、板状物のトレイと接触する表面にトレイを摩耗させる凹凸がなく、平坦な状態の板状物を得ることが容易であり、そのためトレイの摩耗などによって生じるダストの発生を抑止することができるものである。
【0077】
(9)また本発明の板状物収納積層梱包体は、レーザー切断加工が、板状物の端面を形成するものであるため、トレイの上面側にある水平動規制突起表面の摩耗粉の発生の危険性を少なくするものである。
【0078】
(10)また本発明の板状物収納積層梱包体は、板状物が、板ガラスであり、板厚方向に対向する透光面の少なくとも一面に被覆膜を有してなるものであれば、種々の用途に応じて所望の光学性能を発揮する被膜を施した板ガラスを、ダスト等の汚れが付着することのない状態で梱包されたものとすることができるので、設計通りの高い光学性能を発揮することが可能であり、良品率も高くなるため経済的にも優れる。
【0079】
(11)さらに本発明の板状物収納積層梱包体は、板ガラスが、固体撮像素子収納パッケージに使用されるものであるならば、安定した品位の固体撮像素子用カバーガラスを表面ダスト付着や、トレイ表面との付着などの問題を回避した品位で顧客に供給することができる。
【0080】
(12)本発明の板状物収納トレイは、複数の板状物を水平方向に整列載置可能であり、かつ互いに積層可能な嵌合部を有する板状物収納トレイであって、帯電防止材により構成され、トレイ上面側には、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、及び板状物を下方より支持する支持突起により構成される板状物収納部を有し、トレイ下面側には積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起を有するものであるため、振動などによって板ガラスがトレイと擦れて発生するダストの量を低減し、しかも板ガラスとトレイの接触部で発生する接触帯電を抑止できる。
【0081】
(13)また本発明の板状物収納トレイは、前記支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものであるならば、小さな面積の透過面を有する板状物であっても、トレイへの収納時に安定した支持状態を実現でき、搬送などによって静電気発生の原因となる振動に起因する摩擦が生じにくいため好適である。
【0082】
(14)また本発明の板状物収納トレイは、嵌合部を構成する嵌合凸部をトレイ外周端近傍のトレイ上面側に有し、該嵌合凸部の高さKから支持突起の高さS、上下動規制突起の高さZ及び収納する板状物の厚さBを差し引いた値が、0.5mm以下であるならば、板ガラスとトレイとの間に適正な間隔をもった状態で複数のトレイを積層した状態とすることができる。
【0083】
(15)また本発明の板状物収納トレイは、光学的有効規格面の範囲内の支持突起、及び上下動規制突起の何れかについて、該板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であるならば、接触部に起因するダストの発生を長期的に抑制することができ、トレイの耐用期間を延ばすことができる。
【0084】
(16)また本発明の板状物収納トレイは、トレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなるものであるため、積層状態を形成する前、あるいはその後にトレイを動かす操作を要する場合にでも、不用意にトレイが傾いたりすることによって板状物に不測の欠陥が生じたりするのを抑止することができ、トレイを確実に把持し易い。
【0085】
(17)また本発明の板状物収納トレイは、トレイの外周に、方向識別部を有するものであれば、複数のトレイを積層状態にするのが容易であり、板状物収納積層梱包体を構成するに要する時間を短くすることができる。
【0086】
(18)また本発明の板状物収納トレイは、支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起が、板状物1枚当たり1〜20箇形成されてなるなら、板状物を安定した状態で保持できる板状物収納部を構成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の板状物収納積層梱包体に関する説明図であり、(A)は板状物収納積層梱包体の斜視全体図であり、(B)は本発明の板状物収納積層梱包体の部分断面図を表している。
【図2】本発明の板状物収納積層梱包体の要部に関する説明図であり、(A)は拡大断面図、(B)は本発明の板状物収納トレイを集積した状態の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の板状物収納トレイの部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下に本発明の板状物収納積層梱包体、さらに板状物収納トレイについて、実施例に基づいて詳細に説明を行う。
【実施例1】
【0089】
図1に本発明の板状物収納積層梱包体の全体図(A)、部分断面図(B)及び板状物収納積層梱包体に収納されている板状物の斜視図(C)を各々示す。図1のそれぞれの記号は、10が板ガラス収納積層梱包体、20が板状物収納トレイ、21が支持突起(板状物収納トレイの上面にある突起)、21aが支持突起の接触部、22が水平動規制突起(板ガラス収納トレイの上面にある突起)、23が上下動規制突起(板状物収納トレイの下面にある突起)、26がトレイの下面に設けた嵌合部凸部、27が板状物収納部、29が外周端近傍部の上方に突出した嵌合部凸部、30が板ガラス、30aが光学的有効規格面、30bが光学的非有効規格面、31が板ガラス透光面、40がシュリンクフィルムを表している。
【0090】
この板ガラス収納積層梱包体10は、携帯電話に搭載されるデジタルカメラ等に使用される固体撮像素子であるCMOS素子のカバーガラス30を収納するためのものである。このカバーガラス30は、赤外線反射膜(IR膜とも呼ぶ)を片側の透光面31上に成膜したもので、酸化物換算の質量百分率表示でSiO60%、Al14.6%、B11.1%、RO(RO=MgO+BaO)3%、JO(JO=CaO+SrO)11.3%のホウ珪酸ガラス材質よりなる。そしてこの板ガラス(カバーガラス)30の形状などは、対向する透光面31に挿まれた厚さBが0.5mmの板ガラス30で、その透光面31の片面側のみの外形寸法は、縦2.9×横3.1mmである。よって片面側の透光面31の面積は8.99mmである。
【0091】
また図1(C)に示すように、収納される板ガラス30の透光面31には、CMOS素子として組み立てられた際に光線が透過するため、他の箇所以上に厳しい管理を要求される矩形状の光学的有効規格面30aと、光学的有効規格面30aを囲む周囲にあり、主として板ガラス30をCMOSに組み立てる際に接着剤で固定するために用いられる光学的非有効規格面30bとがある。光学的有効規格面30aの形状が矩形状となっているのは、端辺からの距離を限定すればよく、管理が行い易いからである。トレイ20に収納された板ガラス30は、光学的有効規格面30aの範囲内を下方のトレイにある4つの支持突起21の接触部21aによって、下方から支持されている。1枚の板ガラス30の一方側の透光面31について、その光学的有効規格面30aの面積比率は、板ガラス30の片面側の透光面31の面積に対して90%以上99.99%以下の範囲内であり、光学的非有効規格面30bよりも大きい面積となっている。
【0092】
板状物収納積層梱包体10は、その構成として10枚の板ガラス収納状物20が、トレイ20の外周のトレイ角部を切り落とした様に見えるカット面状の方向識別部28を揃えた状態で積層された構造を有している。そして、板状物収納積層梱包体10の最上段のトレイ20の上には、何も板ガラス30を収納していない板状物収納トレイ20を蓋材として被せている。板状物収納積層梱包体10は、板ガラス30を収納して積層された9枚の板状物収納トレイ20と、その上から蓋として載せたトレイ20の上方からダスト等のトレイ20内への侵入を防止し、積層状態を固定するために有機フィルム40を被せ、その後、加熱して固定し、これら周囲を被覆した構成としている。
【0093】
この板状物収納積層梱包体10の開封に際して発生する板ガラス20の付着を防ぐ構成に関して以下に説明する。図2(A)には、板状物収納積層梱包体10について、収納された板ガラス30が開封時にトレイ20を持ち上げた際にトレイ20の下面に静電気によって付着するのを防ぐために採用した構造部分を詳細に示すため、板状物収納積層梱包体10の積層断面の要部を拡大したものを示す。この図2では、図1で示した記号に加えて、上層のトレイ20の下面部位と板ガラス30の透光面31の上面との間隔をTとして示している。この板ガラス収納梱包体10では、板ガラス30の透光面31の面積が従来よりも小さくても、上層のトレイ20の下面部位と、板ガラス30の透光面31の間隔Tの大きさは、0.08mmとなっており、本発明の要件を満足する構成となっている。具体的には、トレイ20の下面には、上下動規制突起23が設けてあるので、このトレイ20下面部位の下向き突起23と板ガラス30の透光面との距離Tが、0.08mmであるということである。
【0094】
このトレイ20の下面部位にある上下動規制突起23は、収納部に載置された板ガラス30が搬送等の途中で振動や揺れ、傾き等によって収納部内で上方のトレイ20の下面部位と衝突を繰り返す等して破損したり、傷が形成されたりしないように設けられているものである。図2(B)に示す、この上下動規制突起23の高さZは、1.0mmである。
【0095】
板状物収納積層梱包体10を構成する板ガラス収納トレイ20について、以下に説明する。このトレイ20を構成する材料は、ポリカーボネート(PC)とアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)の特性を有する帯電性樹脂で、具体的には帝人化成株式会社製のマルチロン(登録商標)を射出成形することによって成形されたものである。このトレイ20は、図1(B)に示すように、その上面に2種類の突起21、22が整列配列した構造となっている。1つ目の突起は、板ガラス30を下方から支持するために設けられた支持突起21である。この支持突起21は、板ガラス30の透光面31に直接接することで板ガラス30を支持するため、その先端にはバリや鋭利な部位などがあると、板ガラス30の透光面31を損傷する場合、あるいは板ガラス30と擦れた収納トレイ20の支持突起21の先端が摩耗して粉塵となり、板ガラス30の透光面31に付着して問題となる場合も生じることになる。よって支持突起21は、板ガラスと接触する接触部21を先端に有しており、この接触部21aは丸くなるように磨いた形状となっており、その高さSは0.1mmである。
【0096】
また、この接触部21aの表面粗さは、射出成形用の金型表面を予め人力により精密研磨して仕上げ加工を施すことによって調整されたものである。このような厳しい表面精度の管理を施すことで、その接触部21aの表面粗さは、十分に粗さの小さい、滑らかな構造となっている。具体的には、JISB0601(2001)に従って触針式表面性状測定機(サーフコーダーET4000AK)により計測すると、トレイの支持突起21の接触部21aについて、異なる10点の計測に基づく算術平均粗さのRa値は、0.063μmとなっており、0.15μm以下という本発明の要件を満足している。また10個の異なるトレイについて同様に計測すると、支持突起21の接触部21aの算術平均粗さのRa値は、0.022μmから0.063μmの値となっており、10個の異なるトレイの接触部の表面粗さのRa値が何れも0.15μmとなり、本発明の要件を満足していることを確認することができた。
【0097】
2つ目の突起は、図2(B)に示すように板ガラス30の板状物収納トレイ20における収納位置を決める枠の一部を構成するために設けられているものであり、これを水平動規制突起22と呼ぶ。水平動規制突起22によって囲まれた領域が、この板ガラス収納トレイ20の収納部27となる。そしてこのトレイ20の1枚は、81箇所の収納部27を有する構成となっている。この水平動規制突起22の高さは、1.1mmである。よって、支持突起21のトレイ20底面から垂直方向の高さは、水平動規制突起22のトレイ20底面から垂直方向の高さの2分の1以下となっている。
【0098】
トレイ20の上面の外周近傍には、図2(B)に示すように、外周端近傍部の上方に突出した凸部29が設けられており、この部分がトレイ20の下面の外周近傍に設けられた噛み合わせ部26と嵌合することによって、複数のトレイ20を積層させることが可能となる。この外周端近傍部の上方に突出した凸部29の高さKは、1.68mmである。
【0099】
よって、外周端近傍部の上方に突出した凸部29の高さKの値1.68mmから支持突起の高さSの値0.1mm、上下動規制突起の高さZの値1.0mm、及び収納する板状物の厚さBの値0.5mmを差し引いた値Tは、0.08mmとなり本発明の要件を満足する構成となっていることが判る。
【0100】
次いで、この板状物収納積層梱包体10の製造方法について、順を追って説明する。
【0101】
まず、板ガラス30については、種々の成形方法によって成形したものを採用してよいが、例えばオーバーフローダウンドロー成形やスリットダウンドロー成形、さらにインゴット成形した母材から切り出す等の各種の方法により板ガラスを得ることができる。次いでこの板ガラスの表面に真空蒸着装置を使用することによってCVD(chemical Vapor deposition)によって、前記したSiOとTaを交互に40層以上積層することで、赤外線反射膜が成膜された薄板ガラスを得ることができる。
【0102】
次いで、この板ガラスを所定寸法の小片の板ガラスに切断する。この方法は各種あるが、ここではレーザー切断装置を用いる。まず、熱加工レーザー切断装置を使用して、板厚方向の20%の厚さまで薄板ガラスの一方の成膜されていない面上に、分割予備線としてレーザービーム移動速度180±5mm/sec、あるいは220±5mm/sec、レーザー出力120±5W、あるいは160±5Wの条件で碁盤目状の第一加工を行う。次いで、板ガラスの第一加工面に対して、その反対側の成膜された面より金属製のライン状ヘッドを作動方向Mに移動させ、同時に板ガラスの第一加工面側の透光面を押さえることによって、板ガラスの第一加工面に応力を加え、押圧速度1×10−3m/secで押し割りを行う。こうして第二加工の割断を行うことによって、第一加工によって形成された破断の起源となる予定線に沿って分割された短冊状の板ガラスが得られる。このようにして押し割り加工された短冊状の板ガラスは、それぞれ真空ピンセットを利用して次工程に運搬される。そして、短冊状の板ガラスを再度押し割り加工することによって、最終的な固体撮像素子用カバーガラス30が得られることになる。なお、ここでは板ガラス30の片面側のみに成膜を施したものについて示したが、両側に成膜したものについても、同様にレーザー切断によって加工することができ、所望の寸法の固体撮像素子用カバーガラスを得ることができる。
【0103】
以上のような工程によって得られた固体撮像素子用カバーガラス30を図3に部分平面図で示すように、1枚の板状物収納トレイ20上に順番に載置していく。こうして1枚のトレイ20の全ての収納部27に固体撮像素子用カバーガラス30を収納し終えた後に、上から別のトレイ20を載せ、下側のトレイ20外周端近傍部の上方に突出した嵌合凸部29を上側のトレイ下面の外周近傍に設けられた嵌合凸部26と嵌合する、すなわち嵌め合わせることによって、上下のトレイ20を積層させる。この際にトレイ20外周の対向する1つの辺の端面に2つ設けられた窪み25にロボットハンドの爪が固定できるため、この操作で爪が滑るのを防ぎ、確実にトレイ20を積層させることが容易である。そして、さらにこの2枚目のトレイ20の上にも先と同様に固体撮像素子用カバーガラス30を整列収納してゆき、全部を収納し終えた後に先と同様にして3枚目のトレイを載せる。以上のようにして次々とトレイ20を積層させ、9枚のトレイを積層させて9枚目のトレイ20上に固体撮像素子用カバーガラス30を収納し終えた後に、その上から空のトレイ20を蓋材として被せて固定する。そして最後にその上からナイロンを芯材として積層された有機フィルム材40を被せ、減圧ポンプにより減圧して有機フィルム材40を収縮させて積層されたトレイ20に密着させ、そのままの状態で熱封して板状物収納積層梱包体10を得られることになる。
【0104】
以上のような工程によって製造された板状物収納積層梱包体10は、搬送後の固体撮像素子パッケージの製造工程で、梱包を開封してトレイを持ち上げる操作を行う際にも、トレイ下面に固体撮像素子用カバーガラス30が静電気によって付着することが認められなくなり、固体撮像素子用パッケージの製造工程を円滑に行うことが可能となった。また、搬送途中の振動などによって固体撮像素子用カバーガラス30とトレイ20の接触部に起因して発生する粉塵の発生を抑制した状態で搬送が可能であり、搬送途中で問題となる固体撮像素子用カバーガラス30のダスト付着品位の低下を招くこともなく、安定した品位の固体撮像素子用カバーガラス30を供給することが可能となった。ちなみにトレイ20外周の対向する1つの辺の端面に2つ設けられた窪み25は、積層されたトレイ20の解体操作を円滑に行うために非常に役立つ構造である。またこの板状物収納積層梱包体10によって固体撮像素子用カバーガラス30を搬送する場合には、搬送時の振動などによって発生するダストも低減することができ、優れた品質の固体撮像素子用カバーガラス30を製造時の品位のまま、供給することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の板状物収納積層梱包体、及び板状物収納トレイは、主に固体撮像素子用カバーガラスに好適な構成であるが、それ以外にもフィルター用板ガラス、レーザーダイオード窓用板ガラス等の透過窓用途の板ガラス、太陽電池基板用板ガラス、強化薄板ガラス等の多様な用途の板ガラス製品にも好適であり、ガラスに関わらず光学結晶等にも適用することが可能であり、様々な板状物の梱包でその優れた性能を発揮するものである。
【符号の説明】
【0106】
10 板状物収納積層梱包体
20 板状物収納トレイ
21 支持突起(板状物収納トレイの上面にある突起)
21a 支持突起の板ガラスとの接触部
22 水平動規制突起(板状物収納トレイの上面にある突起)
23 上下動規制突起(板状物収納トレイの下面にある突起)
25 トレイの対向する辺の端面に設けられた窪み
26 外周端近傍部のトレイの下面に設けた嵌合凸部
27 収納部
28 方向識別部
29 外周端近傍部のトレイの上方に突出した嵌合凸部
30 板ガラス(板状物、カバーガラス)
30a 光学的有効規格面
30b 光学的非有効規格面
31 板ガラス透光面
40 有機フィルム材
K トレイ外周端近傍のトレイ上面側にある嵌合凸部の高さ
S 支持突起の高さ
Z 上下動規制突起の高さ
B 板状物の厚さ
T トレイの下面と板ガラスの透光面の上面との最短の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に板状物を水平に整列収納したトレイが複数枚積層された構成を有する板状物収納積層梱包体であって、
前記トレイが帯電防止材により構成され、トレイ上面側及びトレイ下面側に互いに独立した少なくとも3種以上の板状物移動規制手段を有し、
積層されたトレイ全体が一体的に被覆包装されてなることを特徴とする板状物収納積層梱包体。
【請求項2】
前記板状物移動規制手段の少なくとも1種が、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものであることを特徴とする請求項1に記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項3】
光学的有効規格面の範囲内を支持する板状物移動規制手段の、板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項4】
板状物移動規制手段が、トレイ上面側に設けた、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、板状物を下方より支持する支持突起、及びトレイ下面側に積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起であり、
被覆包装が有機フィルム材によるものであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項5】
支持突起が、板状物の端面に沿ってトレイに配設されてなることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項6】
板状物の上面と、上層のトレイの該板状物の上方に位置する下面部位との最短間隔が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項7】
トレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記戴の板状物収納積層梱包体。
【請求項8】
板状物が、レーザー切断加工により得られたものであることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項9】
レーザー切断加工が、板状物の端面を形成するものであることを特徴とする請求項8に記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項10】
板状物が、板ガラスであり、板厚方向に対向する透光面の少なくとも一面に被覆膜を有してなることを特徴とする請求項1から請求項9の何れかに記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項11】
板ガラスが、固体撮像素子収納パッケージに使用されるものであることを特徴とする請求項10に記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項12】
複数の板状物を水平方向に整列載置可能であり、かつ互いに積層可能な嵌合部を有する板状物収納トレイであって、
帯電防止材により構成され、トレイ上面側には、板状物の水平方向の移動を規制する水平動規制突起、及び板状物を下方より支持する支持突起により構成される板状物収納部を有し、トレイ下面側には積層時に直下方に位置する板状物の上下方向の移動を規制する上下動規制突起を有することを特徴とする板状物収納トレイ。
【請求項13】
前記支持突起、及び上下動規制突起の何れかが、収納された板状物の光学的有効規格面の範囲内を支持するものであることを特徴とする請求項12に記載の板状物収納トレイ。
【請求項14】
嵌合部を構成する嵌合凸部をトレイ外周端近傍のトレイ上面側に有し、該嵌合凸部の高さKから支持突起の高さS、上下動規制突起の高さZ及び収納する板状物の厚さBを差し引いた値Tが、0.5mm以下であることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の板状物収納トレイ。
【請求項15】
光学的有効規格面の範囲内の支持突起、及び上下動規制突起の何れかについて、板状物との接触部の表面粗さのRa値が0.15μm以下であることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の板状物収納積層梱包体。
【請求項16】
トレイ外周の対向する辺の端面に、少なくとも1以上の窪みを設けてなることを特徴とする請求項11から請求項15の何れかに記載の板状物収納トレイ。
【請求項17】
トレイの外周に、方向識別部を有することを特徴とする請求項11から請求項16の何れかに記載の板状物収納トレイ。
【請求項18】
支持突起、水平動規制突起あるいは上下動規制突起は、板状物1枚当たり1〜20箇形成されてなることを特徴とする請求項11から請求項17の何れかに記載の板状物収納トレイ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−47319(P2010−47319A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166884(P2009−166884)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】