説明

板材保持装置、板材保持方法、レーザ溶接システム、およびレーザ溶接方法

【課題】板材間の隙間を容易に把握することができる板材保持装置を提供する。
【解決手段】本発明の板材保持装置10は、押圧部材111、駆動手段120、移動量検出手段123、反力検出手段122、および判定手段30を有する。押圧部材は、隙間を空けて重ねられている複数枚の板材41,42,43のうち最外部に配置される板材を押圧する。駆動手段は、押圧部材を押圧方向に移動させて、板材間の隙間を矯正する。移動量検出手段は、駆動手段により移動される押圧部材の押圧方向における移動量を検出する。反力検出手段は、押圧部材により押圧されて変形した板材から押圧部材が受ける反力を検出する。判定手段は、移動量検出手段により検出された押圧部材の移動量と、反力検出手段により検出された板材からの反力とに基づいて、板材の接触状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材保持装置、板材保持方法、レーザ溶接システム、およびレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材の重ね合わせ溶接では、板材間の隙間を管理することが重要である。特に、亜鉛メッキ層が形成された鋼板同士をレーザ溶接する場合、鋼板間の隙間が大き過ぎると溶接不良が起こるおそれがあり、逆に隙間が小さ過ぎると亜鉛メッキ層の気化ガスが十分に排出されず、溶接ビードにポロシティが生成されるおそれがある。
【0003】
これに関連する技術として、下記の特許文献1に示すような板間隙間量計測装置が知られている。引用文献1に開示されている隙間量計測装置は、2枚の板材の振動を付与しつつピックアップセンサにより板材の振動を検出し、検出される周波数が板材間の隙間量に応じて異なることを利用して、板材間の隙間量を求めるものである。このような構成によれば、求められた隙間量に基づいて、板材を押圧する押圧力または溶接条件を変更することにより、溶接欠陥を伴うことなく2枚の板材を溶接することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−122205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の隙間量計測装置では、隙間と周波数との関係を示すデータを、溶接する板材の組毎に予め測定する必要があり、種々の板材への対応が困難であるという問題がある。板材の厚みおよび材質が変われば、隙間と周波数との関係も変わるため、新たな板材同士を溶接しようとすれば、改めてデータを取得する必要が生じる。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、板材間の隙間を容易に把握することができる板材保持装置および板材保持方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、板材間の隙間を調整して、溶接品質を確保することができるレーザ溶接システムおよびレーザ溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
本発明の板材保持装置は、押圧部材、駆動手段、移動量検出手段、反力検出手段、および判定手段を有する。前記押圧部材は、隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する。前記駆動手段は、前記押圧部材を押圧方向に移動させて、前記板材間の隙間を矯正する。前記移動量検出手段は、前記駆動手段により移動される前記押圧部材の前記押圧方向における移動量を検出する。前記反力検出手段は、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する。前記判定手段は、前記移動量検出手段により検出された前記押圧部材の前記移動量と、前記反力検出手段により検出された前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する。
【0010】
本発明の板材保持方法は、第1および第2段階を有する。前記第1段階は、隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材の押圧方向における移動量を検出するとともに、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する。前記第2段階は、前記押圧部材の前記移動量と前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する。
【0011】
本発明のレーザ溶接システムは、押圧部材、駆動手段、移動量検出手段、反力検出手段、判定手段、制御手段、およびレーザ光照射手段を有する。前記押圧部材は、隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する。前記駆動手段は、前記押圧部材を押圧方向に移動させて、前記板材間の隙間を矯正する。前記移動量検出手段は、前記駆動手段により移動される前記押圧部材の前記押圧方向における移動量を検出する。前記反力検出手段は、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する。前記判定手段は、前記移動量検出手段により検出された前記押圧部材の前記移動量と、前記反力検出手段により検出された前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する。前記制御手段は、前記判定手段により判定される前記板材の接触状態に基づいて前記駆動手段を制御することにより、前記隙間を調整する。前記レーザ光照射手段は、前記制御手段により前記隙間が調整された前記板材にレーザ光を照射して、当該板材をレーザ溶接する。
【0012】
本発明のレーザ溶接方法は、第1〜第4段階を有する。前記第1段階は、隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材の押圧方向における移動量を検出するとともに、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する。前記第2段階は、前記押圧部材の前記移動量と前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する。前記第3段階は、前記板材の接触状態に基づいて前記押圧部材を移動させることにより、前記隙間を調整する。前記第4段階は、前記隙間が調整された前記板材にレーザ光を照射して、当該板材をレーザ溶接する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の板材間の板材保持装置および板材保持方法によれば、複数枚の板材の接触状態が判定されるため、板材の接触状態から板材間の隙間を容易に把握することができる。
【0014】
また、本発明のレーザ溶接システムおよびレーザ溶接方法によれば、板材間の隙間の状態が容易に把握されるため、板材間の隙間の状態を適切に調整して、溶接品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるレーザ溶接システムを説明するための図である。
【図2】図1に示される板材保持装置の概略構成を説明するための図である。
【図3】図2に示される板材保持装置の押圧部材の移動にともなう板材の接触状態の変化を示す図である。
【図4】図2に示される板材保持装置の押圧部材の移動量と板材からの反力との関係を示す図である。
【図5】図2に示される板材保持装置の変形例を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における板材保持装置を示す図である。
【図7】図6に示される板材保持装置の変形例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態における板材保持装置を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態である強度調整処理を説明するための図である。
【図10】エンボスの位置と板材の強度との関係を示す図である。
【図11】強度調整処理の作用効果を説明するための図である。
【図12】強度調整処理の作用効果を説明するための図である。
【図13】強度調整処理の作用効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図中、同様の部材には、同一の符号を用いた。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるレーザ溶接システムを説明するための図である。
【0018】
図1に示すとおり、本実施の形態におけるレーザ溶接システムは、板材保持装置10、レーザ溶接装置20、および制御装置30を備える。
【0019】
板材保持装置10は、隙間を空けて重ねられた複数枚の板材40を保持するものである。板材保持装置10は、クランプ機構と駆動機構とを有しており、複数枚の板材40をクランプすることによって複数枚の板材40を保持する。板材保持装置10によって保持される板材40は、たとえば、亜鉛メッキ層が形成された鋼板であり、溶接時の亜鉛の気化ガスの排出経路が確保されるように、板材40は、隙間を空けて重ねられている。板材保持装置10についての詳細な説明は後述する。
【0020】
レーザ溶接装置20は、隙間を空けて重ねられた複数枚の板材40をレーザ溶接するものである。レーザ溶接装置20は、レーザ光を照射する加工ヘッド21と、加工ヘッド21を所定の位置へ移動させる移動ロボット22とを有しており、移動ロボット22によって加工ヘッド21を移動させて所定の溶接箇所へレーザ光を照射する。また、加工ヘッド21の内部には、光学ミラーなどの光学系が備えられており、板材40上でレーザ光を走査させることができる。なお、レーザ溶接装置20自体は、一般的なレーザ溶接装置であるため、詳細な説明は省略する。
【0021】
制御装置30は、板材保持装置10およびレーザ溶接装置20を制御するものである。制御装置30は、板材保持装置10と電気的に接続されており、板材保持装置10の駆動機構の駆動情報を取得する。制御装置30は、板材保持装置10を制御して、板材40間の隙間を矯正するとともに、レーザ溶接装置20を制御して、隙間が矯正された板材40にレーザ光を照射する。
【0022】
次に、図2を参照して、本実施の形態における板材保持装置10について詳細に説明する。
【0023】
図2は、図1に示される板材保持装置の概略構成を説明するための図である。図2に示すとおり、本実施の形態の板材保持装置10は、クランプ機構110と駆動機構120とを有する。板材保持装置10には、3枚の板材41,42,43が保持されている。
【0024】
クランプ機構110は、支軸を中心に回動可能に設けられている押圧部材111と、押圧部材111とともに板材41,42,43をクランプする受け部材112とを有する。押圧部材111は、駆動機構120と連結されており、駆動機構120の連結部121aが昇降することにより、押圧方向に移動する。押圧部材111が移動することにより、押圧部材111と受け部材112とによって板材41,42,43をクランプすることができる。板材41,42,43は、所定の隙間を空けて配置されるように、片持ち支持構造に形成されている。押圧部材111の押圧方向における位置が制御されることにより、板材41,42,43が変形し、板材41,42,43間の隙間が矯正される。
【0025】
駆動機構120は、昇降機構121とサーボモータ122とを有する。昇降機構121は、リニアステージであり、連結部121aを介して押圧部材111と連結されている。サーボモータ122は、昇降機構121の連結部121aを昇降させるものであり、制御装置30によって制御される。サーボモータ122は、制御装置30に電気的に接続されており、サーボモータ122の駆動トルクを示す駆動電流が検出される。また、サーボモータ122には、エンコーダ123が取り付けられており、サーボモータ122の回転量が検出される。制御装置30は、サーボモータ122の駆動電流と回転量とから、押圧部材111に作用する板材41,42,43からの反力と押圧部材111の移動量とをそれぞれ算出する。
【0026】
以上のとおり構成される本実施の形態の板材保持装置10では、隙間を空けて保持されている複数枚の板材を押圧する押圧部材111の移動量と押圧部材111が押圧する板材41,42,43からの反力とに基づいて、複数枚の板材40の接触状態が判定される。そして、接触状態の判定結果に基づいて、押圧部材111の押圧方向における位置が制御されることにより、板材41,42,43の隙間が調整される。以下、図3および図4を参照して、本実施の形態の板材保持装置10を用いた板材保持方法について説明する。なお、以下では、隙間を空けて重ねられている3枚の板材(上板41、中板42、および下板43)の接触状態を判定し、接触状態に基づいて板材間の隙間を調整する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
図3は、押圧部材の移動にともなう板材の接触状態の変化を示す図であり、図4は、押圧部材の移動量と板材からの反力との関係を示す図である。図4の縦軸は、押圧部材111の移動量であり、横軸は、変形した板材から押圧部材111が受ける反力である。
【0028】
板材保持装置10の押圧部材111が3枚の板材41,42,43を上方から押圧する場合、押圧部材111の押圧方向に沿った移動量に応じて、3枚の板材41,42,43の接触状態が変化する。本実施の形態の板材保持装置10は、3枚の板材41,42,43の接触状態に応じて変化する板材からの反力を検出することにより、板材41,42,43の接触状態を判定する。なお、本実施の形態では、下板43と受け部材112との間に厚板(不図示)が配置され、クランプ機構110によってクランプされても下板43が変形しないように構成されている。
【0029】
図3(A)は、片持ち構造の上板41を押圧部材111が押圧する第1の状態を示す図である。
【0030】
受け部材112上に載置される板材41,42,43に向かって押圧部材111が移動する場合、まず、押圧部材111は、上板41のみを押圧する。押圧部材111が、上板41のみを押圧している第1の状態では、押圧部材111には、変形した上板41からの反力のみが作用する。
【0031】
具体的には、図4の第1領域(a)に示すとおり、押圧部材111が上板41のみを押圧する第1の状態では、押圧部材111の移動量が増加するに連れて上板41の変形量が増加し、これにともなって、上板41から押圧部材111に作用する反力が増加する。したがって、第1領域(a)では、押圧部材111の移動量に対して比例的に増加する反力が検出される。押圧部材111の移動量がさらに増加するにともなって、上板41の先端部は、中板42の先端部に接触する。
【0032】
図3(B)は、上板41の先端部と中板42の先端部とが接触している板材を押圧部材111が押圧する第2の状態を示す図である。
【0033】
上板41の先端部と中板42の先端部とが接触している第2の状態では、押圧部材111には、変形した上板41および中板42からの反力が作用する。したがって、第1の状態に比べて、押圧部材111が受ける反力が増加する。
【0034】
具体的には、図4の第2領域(b)に示すとおり、上板41の先端部が中板42に接触した時点から、反力−変位量曲線の傾きが増加する。より具体的には、上板41と中板42とが同じ厚さおよび材料の板材である場合、第1領域(a)における直線の傾きAに比べて、第2領域(b)における直線の傾きBは、2倍の大きさ(B=2A)を示す。押圧部材111の移動量がさらに増加するにともなって、中板42の先端部は、下板43の先端部に接触する。
【0035】
図3(C)は、上板41、中板42、および下板43の先端部が接触している板材を押圧部材111が押圧する第3の状態を示す図である。
【0036】
上板41、中板42、および下板43の先端部が接触している第3の状態では、押圧部材111には、下板43によって両持ち支持されている上板41および中板42からの反力が作用する。したがって、上板41および中板42が片持ち支持されている第2の状態に比べて、変形した上板41および中板42から押圧部材111が受ける反力が増加する。
【0037】
具体的には、図4の第3領域(c)に示すとおり、中板42の先端部が下板43に接触した時点から、反力−変位量曲線の傾きが大きくなる。押圧部材111の移動量がさらに増加するにともなって、上板41と中板42との接触面積が増加し、上板41と中板42との間の隙間がなくなる。
【0038】
図3(D)は、上板41と中板42との間の隙間がなくなっている第4の状態を示す図である。
【0039】
上板41と中板42との間の隙間がなくなっている第4の状態では、押圧部材111には、さらに大きな反力が作用する。具体的には、図4の第4領域(d)に示すとおり、上板41と中板42との間の隙間がなくなった時点から、反力−変位量曲線の傾きが大きくなる。押圧部材111の移動量がさらに増加するにともなって、今度は、中板42と下板43との接触面積が増加し、中板42と下板43との間の隙間がなくなる。
【0040】
図3(E)は、中板42と下板43との間の隙間がなくなっている第5の状態を示す図である。
【0041】
中板42と下板43との間の隙間がなくなっている第5の状態では、押圧部材111には、さらに大きな反力が作用する。具体的には、図4の第5領域(e)に示すとおり、中板42と下板43との間の隙間がなくなった時点から、反力−変位量曲線の傾きがさらに大きくなる。
【0042】
以上のとおり、本実施の形態の板材保持装置10によれば、押圧部材111の押圧方向に沿った移動量に応じて変化する3枚の板材41,42,43からの反力を検出することにより、板材41,42,43の接触状態が判定される。板材41,42,43の接触状態を判定することにより、板材間の隙間を調整することが可能となる。
【0043】
具体的には、たとえば、図4における第3領域(c)と第4領域(d)との境界に位置する2つの直線の傾きが変化する特徴点を基準として、当該特徴点を示す押圧部材111の位置から所定量だけ押圧部材111を移動させる。これにより、板材の接触状態および隙間を所望の状態および大きさに調整することができる。
【0044】
そして、上記特徴点を基準にして所定量だけ押圧部材111を移動させて板材41,42,43間の隙間を調整した後、板材41,42,43にレーザ光を照射して、板材をレーザ溶接する。このとき、板材41,42,43間の隙間から亜鉛メッキの気化ガスが排出される。その結果、隙間が小さすぎて溶接ビードにポロシティを発生させることも、隙間が大き過ぎて溶接不良を起こすこともなく、板材41,42,43をレーザ溶接することができる。すなわち、レーザ溶接による板材の溶接品質を確保することができる。
【0045】
(変形例)
なお、本実施の形態の板材保持装置10では、サーボモータの回転量のみから押圧部材111の移動量を算出した。しかしながら、押圧部材111の移動量を精度良く検出する見地から、押圧部材111に歪みゲージ113のような変形量検出手段を貼り付けてもよい(図5参照)。このような構成によれば、歪みゲージ113からの信号に基づいて取得される押圧部材111の変形量に基づいて、制御装置30が、押圧部材111の移動量を補正することにより、押圧部材111の移動量を精度良く検出することができる。
【0046】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、以下の効果を奏する。
【0047】
(a)本実施の形態の板材保持装置10は、押圧部材111の押圧方向における移動量と、板材41,42,43から押圧部材111が受ける反力とに基づいて、板材41,42,43の接触状態を判定する。したがって、複数枚の板材の接触状態が判定されるため、板材の接触状態から板材間の隙間を容易に把握することができる。また、本実施の形態の板材保持装置10では、隙間を調整するクランプ機構110と、板材の接触状態を判定するための判定機構とが一体化されているため、装置構成が簡略化される。さらに、3枚以上の板材の接触状態を判定することが可能であり、たとえば、3枚の板材間の2つの隙間を把握することができる。なお、板材間の隙間量に応じて周波数が異なることを利用して隙間量を求める方式では、3枚の板材の接触状態を把握することはできない。また、ストッパを用いてクランプ機構の押圧部材と受け部材との間隔を調整する方式では、3枚の板材間の2つの隙間を調整することはできない。
【0048】
(b)板材からの反力と押圧部材の移動量との関係を示す反力の特性曲線は、板材の接触状態に応じて曲線の傾きが変化する複数の特徴点を有し、制御装置は、特徴点および曲線の傾きの少なくとも一方から、板材の接触状態を判定する。したがって、反力の特性曲線における特徴点の通過数をカウントすることにより、あるいは、板材の剛性および厚さから曲線の傾きを求めることにより、板材の接触状態を判定することができる。
【0049】
(c)本実施の形態では、駆動機構120の駆動情報から、移動量および反力がそれぞれ検出される。したがって、移動量および反力を検出するためのセンサを別途に準備する必要がなく、板材保持装置10の構成を簡素化することができる。
【0050】
(d)駆動機構120は、サーボモータ122を有し、サーボモータ122の回転量から移動量が検出され、サーボモータ122の駆動トルクから反力が検出される。したがって、移動量および反力がサーボモータ122からともに取得されるため、移動量と反力との時間軸を調整する必要がなく、調整性および制御性が向上する。
【0051】
(e)板材保持装置10は、板材を押圧している押圧部材111の変形量を検出する歪みゲージ113をさらに有し、制御装置30は、歪みゲージ113により検出された押圧部材111の変形量から、押圧部材111の移動量を補正する。したがって、押圧部材111の移動量をより正確に検出することができる。
【0052】
(f)本実施の形態のレーザ溶接システムは、駆動機構20を制御して板材間の隙間を調整する制御装置30と、制御装置30により隙間が調整された3枚の板材40にレーザ光を照射して板材をレーザ溶接するレーザ溶接装置20とを有する。したがって、板材間の隙間の状態を適切に調整して、溶接品質を確保することができる。
【0053】
(g)本実施の形態の板材保持方法は、隙間を空けて重ねられる板材のうち最上部の板材を押圧する押圧部材の移動量を検出するとともに、押圧部材が受ける反力を検出する段階と、移動量と反力とに基づいて板材の接触状態を判定する段階と、を有する。したがって、複数枚の板材の接触状態が判定されるため、板材の接触状態から板材間の隙間を容易に把握することができる。また、3枚以上の板材の接触状態を判定することが可能であり、たとえば、3枚の板材間の2つの隙間を把握することができる。
【0054】
(h)本実施の形態のレーザ溶接方法は、駆動機構20を制御して板材間の隙間を調整する段階と、制御装置30により隙間が調整された板材にレーザ光を照射して、板材をレーザ溶接する段階と、を有する。したがって、板材間の隙間の状態を適切に調整して、溶接品質を確保することができる。
【0055】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態における板材保持装置を示す図である。本実施の形態は、押圧部材を押圧方向に移動させる駆動機構として、エアシリンダを用いる実施の形態である。
【0056】
図6に示すとおり、本実施の形態の板材保持装置10は、クランプ機構110とブレーキ付エアシリンダ124とから構成される。クランプ機構110の押圧部材111の先端部には、反力を検出するためのロードセル114が取り付けられており、エアシリンダ124のロッドには、磁歪式変位センサ126が取り付けられている。エアシリンダ124は、電空比例弁125と接続されており、電空比例弁125は、制御装置30によって制御される。
【0057】
このような構成によれば、制御装置30によってエアシリンダ124のエア圧が制御されることによって連結部121aが昇降し、押圧部材111が移動されるため、サーボモータを用いる場合と比較して、より安価に板材保持装置10を構成することができる。
【0058】
なお、本実施の形態とは異なり、磁歪式変位センサ126の代わりに、レーザ変位計127を用いてもよい(図7参照)。また、ロードセル114の代わりに、エアシリンダ124のエア圧力を検出する圧力計を用いてもよい。
【0059】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0060】
(i)本実施の形態の駆動機構120は、エアシリンダ124と、エアシリンダ124に接続される電空比例弁125と、を有する。したがって、サーボモータを用いる場合と比較して、板材保持装置10の製造コストを抑制することができる。
【0061】
(第3の実施の形態)
図8は、本発明の第3の実施の形態における板材保持装置を示す図である。本実施の形態は、クランプ機構110の押圧部材111をサーボモータ122により直接的に駆動する実施の形態である。
【0062】
図8に示すとおり、本実施の形態の板材保持装置10は、押圧部材111の支軸に直接的に連結されるサーボモータ122を備える。サーボモータ122には、エンコーダ123が取り付けられている。
【0063】
このような構成によれば、押圧部材111にサーボモータ122が直接的に連結されるため、サーボモータ122の駆動トルクを検出することにより、押圧部材111が板材40から受ける反力をより高精度に検出することができる。
【0064】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1および第2の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0065】
(j)本実施の形態の駆動機構120は、押圧部材111に直接的に接続されるサーボモータ122を有する。したがって、板材保持装置10の構成をより簡素化することができる。また、押圧部材111が板材40から受ける反力をより精度よく検出することができる。
【0066】
(第4の実施の形態)
隙間を空けて重ねられている3枚の板材をクランプ機構によってクランプする場合、上板と中板との間の隙間の変形量、および、中板と下板との間の隙間の変形量は、板材の強度(剛性)によって決まる。本実施の形態は、板材の強度を変化させることにより、板材間の隙間の変形量を調整する実施の形態である。
【0067】
図9は、本発明の第4の実施の形態である強度調整処理を説明するための図である。図9に示すとおり、本実施の形態の板材保持装置10では、上板41に補強部材としてのエンボス41a,41bが形成される。本実施の形態のエンボス41a,41bは、上板41と中板42との間の隙間を確保するためのスペーサの役割も果たしている。
【0068】
2つのエンボス41a,41bの間隔は、3枚の板材41,42,43の厚さおよび保持構成に応じて適宜調整される。たとえば、図10(A)に示すとおり、中板42と下板43とが片側の端部のみで固定されている場合には、図10(B)に示すとおり、中板42と下板43とが両方の端部で固定されている場合に比べて、2つのエンボス41a,41bの間隔Lが長く形成される。
【0069】
そして、このような構成によれば、押圧部材111に対する上板41の強度を高めることができる。その結果、押圧部材111により押圧されることによって矯正される上板41と中板42との間の隙間と、中板42と下板43との間の隙間とを同じにすることができる。
【0070】
なお、板材間の隙間の変形量を調整するために板材の強度を変更する方法は、エンボスを形成する方法のみに限定されず、たとえば、上板41の形状を変更して中板42と接触する状態を形成したり、あるいは、板材の厚さを変更させたりしても実現される。
【0071】
下記(1)および(2)式に示すような片持ち梁および両持ち梁のたわみの式からも明らかなように、板材の強度は、板厚の3乗に比例して増加する。また、板材の強度は、エンボス間の距離の3乗に比例して増加する。さらに、片持ち支持の状態の板材にエンボスを形成して、板材を両持ち支持の状態にすることによっても、板材の強度は向上される。
【0072】
【数1】

【0073】
【数2】

【0074】
ここで、P:加圧力、E:板材のヤング率、I:断面二次モーメント(∝板厚h)、a:加圧位置、L:板材の長さである。
【0075】
次に、図11〜図13を参照して、本実施の形態の強度調整処理の効果を説明する。なお、以下では、エンボスを形成する代わりに、上板41を厚く形成することにより、上板41の強度を調整している。
【0076】
図11および図12は、比較例として、上板41と下板43とが同じ厚さ(すなわち、同じ強度)を有している場合の板材の挙動を示す図である。
【0077】
図11に示すとおり、上板41と下板43の厚さが同じであって、板材間の隙間g1,g2の初期値が異なる場合、初期値が小さい上板41の方が、下板43よりも先に中板42に接触する。
【0078】
しかしながら、図13に示すとおり、上板41を下板43よりも厚く形成することにより、隙間の初期値が異なる場合であっても、上板41と中板42との間の隙間g1と、中板42と下板43との間の隙間g2とを最終的に同じ大きさに調整することができる。
【0079】
以上のとおり、説明した本実施の形態は、第1〜第3の実施の形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0080】
(k)上板の強度が調整されることにより、上板41と中板42との間の隙間g1と、中板42と下板43との間の隙間g2とが調整される。したがって、3枚の板材41,42,43間の隙間を適切に確保することが可能となる。
【0081】
(l)本実施の形態における上板41と中板42との間には、上板41の強度を変化させるためのエンボス41a,41bが備えられている。したがって、板材41にエンボス41a,41bを設けることにより、上板41の強度を容易に調整することができる。
【0082】
(m)本実施の形態のエンボス41a,41bは、板材41,42間の隙間を確保するためのスペーサを兼ねる。したがって、上板41にエンボス41a,41bを設けることにより、上板41の強度を調整するのみならず、板材間の隙間を確保することができる。
【0083】
以上のとおり、説明した第1〜第4の実施の形態において、本発明の板材保持装置、板材保持方法、レーザ溶接システム、およびレーザ溶接方法を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0084】
10 板材保持装置、
20 レーザ溶接装置、
30 制御装置(判定手段、制御手段、補正手段)、
40 板材、
41 上板(第3の板材)、
41a,41b エンボス(補強手段)、
42 中板(第2の板材)、
43 下板(第1の板材)、
110 クランプ機構、
111 押圧部材、
112 受け部材、
113 歪みゲージ(変形量検出手段)、
114 ロードセル(反力検出手段)、
120 駆動機構(駆動手段)、
121 昇降機構(駆動手段)、
122 サーボモータ(駆動手段、反力検出手段)、
123 エンコーダ(移動量検出手段)、
124 エアシリンダ、
125 空電比例弁(制御バルブ)、
126 磁歪式変位センサ(移動量検出手段)、
127 レーザ変位計(移動量検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材と、
前記押圧部材を押圧方向に移動させて、前記板材間の隙間を矯正する駆動手段と、
前記駆動手段により移動される前記押圧部材の前記押圧方向における移動量を検出する移動量検出手段と、
前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する反力検出手段と、
前記移動量検出手段により検出された前記押圧部材の前記移動量と、前記反力検出手段により検出された前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する判定手段と、を有することを特徴とする板材保持装置。
【請求項2】
前記板材からの前記反力と前記押圧部材の前記移動量との関係を示す反力の特性曲線は、前記板材の接触状態に応じて曲線の傾きが変化する特徴点を有し、
前記判断手段は、前記特徴点および前記曲線の傾きの少なくとも一方から、前記板材の接触状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の板材保持装置。
【請求項3】
前記移動量検出手段および前記反力検出手段は、前記駆動手段の駆動情報から、前記移動量および前記反力をそれぞれ検出することを特徴とする請求項1または2に記載の板材保持装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、サーボモータを有し、
前記移動量検出手段は、前記サーボモータの回転量から、前記移動量を検出し、
前記反力検出手段は、前記サーボモータの駆動トルクから、前記反力を検出することを特徴とする請求項3に記載の板材保持装置。
【請求項5】
前記押圧部材は、回動可能に回動軸により支持されており、
前記サーボモータの回転軸は、前記押圧部材の回動軸に直接的に連結されていることを特徴とする請求項4に記載の板材保持装置。
【請求項6】
前記駆動手段は、エアシリンダと、当該エアシリンダのエア圧を調整する制御バルブと、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の板材保持装置。
【請求項7】
前記押圧部材に取り付けられ、前記板材を押圧している前記押圧部材の変形量を検出する変形量検出手段と、
前記変形量検出手段により検出された前記押圧部材の変形量から、前記押圧部材の前記移動量を補正する補正手段と、をさらに有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の板材保持装置。
【請求項8】
前記複数枚の板材は、第1の板材と、前記第1の板材上に重ねられた第2の板材と、前記第2の板材上に重ねられ前記押圧部材により押圧される第3の板材と、を有し、
前記第3の板材の強度が調整されることにより、前記押圧方向に移動される前記押圧部材によって矯正される前記板材間の隙間の大きさが調整されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の板材保持装置。
【請求項9】
前記第2の板材と前記第3の板材との間には、前記強度を調整するための補強部材が備えられることを特徴とする請求項8に記載の板材保持装置。
【請求項10】
前記補強部材は、当該補強部材が備えられる前記板材間の隙間を確保するためのスペーサを兼ねることを特徴とする請求項9に記載の板材保持装置。
【請求項11】
隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材と、
前記押圧部材を押圧方向に移動させて、前記板材間の隙間を矯正する駆動手段と、
前記駆動手段により移動される前記押圧部材の前記押圧方向における移動量を検出する移動量検出手段と、
前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する反力検出手段と、
前記移動量検出手段により検出された前記押圧部材の前記移動量と、前記反力検出手段により検出された前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する判定手段と、
前記判定手段により判定される前記板材の接触状態に基づいて前記駆動手段を制御することにより、前記隙間を調整する制御手段と、
前記制御手段により前記隙間が調整された前記板材にレーザ光を照射して、当該板材をレーザ溶接するレーザ光照射手段と、を有することを特徴とするレーザ溶接システム。
【請求項12】
隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材の押圧方向における移動量を検出するとともに、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する段階と、
前記押圧部材の前記移動量と前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する段階と、を有することを特徴とする板材保持方法。
【請求項13】
隙間を空けて重ねられている複数枚の板材のうち最外部に配置される板材を押圧する押圧部材の押圧方向における移動量を検出するとともに、前記押圧部材により押圧されて変形した前記板材から当該押圧部材が受ける反力を検出する段階と、
前記押圧部材の前記移動量と前記板材からの前記反力とに基づいて、前記板材の接触状態を判定する段階と、
前記板材の接触状態に基づいて前記押圧部材を移動させることにより、前記隙間を調整する段階と、
前記隙間が調整された前記板材にレーザ光を照射して、当該板材をレーザ溶接する段階と、を有することを特徴とするレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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