説明

架橋剤、架橋性組成物、架橋物、化合物及びその製造方法

【課題】耐レトルト性に優れた架橋物であって、かつ架橋物からのブリードアウトが抑制され、多層構造体としたときの層間の接着性に優れた架橋物を形成可能な架橋剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される架橋剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋剤、これを含む架橋性組成物、架橋剤を用いて得られる架橋物、架橋剤として好適に用いられる化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系重合体、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、単に「EVOH」ともいう)は、その酸素透過量が他のプラスチックに比べて非常小さく、また溶融成形性も良好であるため、食品包装材料その他の包装材料として幅広く使用されている。しかしながら、EVOH等を用いた包装材料に高温高湿度条件のレトルト処理を行うと、白化や変形が生じたり、バリア性が低下したりすることがあり、耐レトルト性の向上が求められている。
【0003】
このようなEVOHを用いた包装材料の耐レトルト性等を改善する方策として、電子線等の活性エネルギー線の利用によりEVOHに架橋を施すという技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には架橋剤としてトリアリルシアヌレート又はトリアリルイソシアヌレートを使用し、これらをEVOHと溶融混練した後に電子線照射しEVOHを架橋する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3には、EVOHに多官能アリル系化合物、多官能(メタ)アクリル系化合物、多価アルコール及び金属酸化物から選ばれる少なくとも一種の架橋剤及び/又は架橋助剤を添加し、電子線を照射して架橋するという手法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、EVOHにアリルエーテル基を2つ以上有する化合物を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載がある。
【0006】
また、特許文献5には、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A)を、二重結合を有するエポキシ化合物(B)及び二重結合を有しないエポキシ化合物(E)で変性し、得られた変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C)の少なくとも一部を電子線で架橋させる方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1から特許文献4の方策では、得られた架橋物中に残存した架橋剤がブリードアウトすることがある。このようなブリードアウトは、特に架橋物を食品包装容器に使用する場合には衛生上の問題が懸念される。また、得られた架橋物を用いたフィルムをラミネートして多層フィルムを製造する場合、発生したブリードアウトに起因して層間の接着性が不充分となることがある。一方、特許文献5では、EVOHを変性させるのに特殊な押出機が必要となって、汎用性に欠けるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−252409号公報
【特許文献2】特開平5−271498号公報
【特許文献3】特開平9−157421号公報
【特許文献4】特開平9−234833号公報
【特許文献5】国際公開第2007/123108号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、耐レトルト性に優れた架橋物であって、かつ架橋物からのブリードアウトが抑制されており、多層構造体としたときの層間の接着性に優れた架橋物を形成可能な架橋剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述のようなブリードアウトの原因について検討した結果、架橋剤の被架橋物への相溶性が低いことにあるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0011】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で表される架橋剤である。
【化1】

(式(1)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、X及びXは、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、nは0〜4の整数である。nが2以上の整数である場合、複数のRは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、複数のXは、それぞれ独立して、2価の炭化水素基である。)
【0012】
当該架橋剤は、分子構造中に複数のアミド基を有しているので、EVOHに代表される被架橋物との相溶性が向上する。その結果、架橋がスムーズかつ充分に進行し、得られる架橋物における架橋剤の残存を防止することができ、ひいては架橋剤のブリードアウトを防止することができる。また、架橋剤の被架橋物への相溶性が向上していることから、架橋処理後に架橋剤が架橋物に残存した場合であっても架橋物からの脱出が抑制され、ブリードアウトの発生を防止することができる。さらに、当該架橋剤は複数の反応性基を有しているので、架橋物の製造には互いに相溶状態にある被架橋物と当該架橋剤とに活性エネルギー線を照射するだけでよく、これにより、特殊な製造機器等の使用を省くことができ、効率良く架橋物を製造することができる。
【0013】
当該架橋剤では、上記式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基若しくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、nは0〜4の整数であることが好ましい。当該架橋剤がこのような構造を有することにより、被架橋物への相溶性がより向上して架橋が充分に進行し、架橋物での架橋剤の残存をより低減させることができ、さらに衛生的かつ層間の接着性に優れた架橋物を提供することができる。
【0014】
当該架橋剤において、上記式(1)中、R、R及びRは、炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは、水素原子であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、nは0又は1であることがより好ましい。当該架橋剤がこのような特定構造を有することにより被架橋物への相溶性がさらに高まって、当該架橋剤による被架橋物の架橋を充分進行させることができ、架橋剤のブリードアウトを抑制することができる。
【0015】
当該架橋剤の分解温度は240℃以上であることが好ましい。架橋物の製造プロセスにおいては、EVOH等の被架橋物を高温で溶融混練して成形する際に当該架橋剤をEVOHとの相溶状態とすることがある。このような場合であっても、当該架橋剤の分解温度が240℃以上であると、溶融混練時の架橋剤の分解を防止することができ、得られる架橋物での架橋レベルを充分なものとすることができる。
【0016】
当該架橋剤の融点は220℃以下であることが好ましい。これにより、上述のような溶融混練プロセスにおける架橋剤の相溶状態を容易に実現することができる。
【0017】
当該架橋剤のSP値は11.0(cal/cm1/2以上14.5(cal/cm1/2以下であることが好ましい。当該架橋剤のSP値を上記特定範囲とすることで、特にEVOHへの相溶性を高めることができ、これにより、架橋物からのブリードアウトを防止すると共に、層間接着性及び耐レトルト性に優れた架橋物を提供することができる。なお、SP値は、Fedorsの式(Polym.Eng.Sci.,14[2],147(1974))により求めることができる。
【0018】
当該架橋剤は、上記特定構造により、SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体との高い相溶性を有するので、このような重合体、特にポリビニルアルコール系重合体の架橋に好適に用いることができる。
【0019】
上記ポリビニルアルコール系重合体がEVOHであると、得られる架橋性組成物の溶融成形性、バリア性が良好となる。
【0020】
本発明の架橋性組成物は、[A]SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体(以下、「[A]重合体」ともいう。)、及び[B]当該架橋剤を含有する。当該架橋性組成物では、[A]重合体の架橋剤として[B]当該架橋剤を採用しているので、両者の相溶状態を良好なものとすることができ、これにより、[A]重合体の架橋を安定してかつ充分に進行させることができる。その結果、架橋物からの架橋剤のブリードアウトを抑制することができ、耐レトルト性及び層間接着性に優れかつ衛生的な架橋物を提供することができる。
【0021】
当該架橋性組成物では、[A]重合体のSP値と[B]架橋剤のSP値との差が2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。これにより、[A]重合体と[B]架橋剤との相溶状態をより良好にすることができる。また、[A]重合体としてポリビニルアルコール系重合体を用いることが好ましく、この場合、得られる架橋物が耐レトルト性及び層間接着性を発揮することができる。
【0022】
本発明の架橋物は、ポリビニルアルコール系重合体が、当該架橋剤により架橋されているので、架橋剤のブリードアウトが充分に抑制され、これにより衛生的で、かつ優れた耐レトルト性及び層間接着性を発揮することができる。
【0023】
本発明の化合物は、下記式(1’)で表される。
【化2】

(式(1’)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜8のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、nは0〜4の整数である。nが2以上の整数である場合、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜8のアルケニル基であり、複数のXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基である。)
【0024】
当該化合物は、上記式(1’)で表される特定の構造を有するので、例えばポリビニルアルコール系重合体等の被架橋物の架橋剤等として好適に用いることができる。
【0025】
本発明の化合物の製造方法は、不飽和カルボン酸誘導体とアミノ基を2つ以上有する化合物とを反応させる工程を有するので、当該化合物を効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の架橋剤は、耐レトルト性に優れた架橋物であって、かつ架橋物からのブリードアウトが抑制され、多層構造体としたときの層間の接着性に優れた架橋物を形成可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<架橋剤>
本発明の架橋剤は上記式(1)で表される。当該架橋剤は上記式(1)で表される構造を有することから、被架橋物との相溶性が良好であると共に、被架橋物の架橋をスムーズかつ充分に進行させることができる。これにより、架橋物からの架橋剤のブリードアウトを抑制することができ、また、優れた耐レトルト性及び層間接着性を実現することができる。
【0028】
上記式(1)中、R、R、R、R及びRで表される置換基を有していてもよい炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基が挙げられ、これらが置換基を有する場合、その骨格を構成する炭素の一部が置換基で置換されていてもよく、その水素原子の一部又は全部が置換基で置換されていてもよい。
【0029】
上記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。また、脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。中でも、上記脂肪族炭化水素基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状の飽和炭化水素基、又は直鎖状若しくは分岐鎖状の不飽和炭化水素基が好ましい。
【0030】
上記直鎖状の飽和炭化水素基(アルキル基)の炭素数としては、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜4が特に好ましい。このような直鎖状のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
【0031】
上記分岐鎖状の飽和炭化水素基(アルキル基)の炭素数としては、3〜20であることが好ましく、3〜15であることがより好ましく、3〜10が特に好ましい。このような分岐鎖状のアルキル基の具体例としては、例えば、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、イソトリデシル基、イソヘキサデシル基等が挙げられる。
【0032】
上記不飽和炭化水素基の炭素数としては、代表的には2〜12であり、このうち2〜10が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。直鎖状の不飽和炭化水素基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基(アリル基)、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル基等のアルケニル基、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等のアルキニル基等が挙げられる。分岐鎖状の不飽和炭化水素基としては、例えば1−メチルプロペニル基、2−メチルプロペニル基等が挙げられる。
【0033】
また、上記脂肪族炭化水素基においては、脂肪族炭化水素基骨格を構成する炭素原子の一部が、ヘテロ原子を含む置換基で置換されていてもよく、上記脂肪族炭化水素基を構成する水素原子の一部又は全部がヘテロ原子を含む置換基で置換されていてもよい。この場合のヘテロ原子としては、炭素原子及び水素原子以外の原子であれば特に限定されず、例えばハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0034】
上記ヘテロ原子を含む置換基は、上記ヘテロ原子のみからなるものであってもよく、上記ヘテロ原子以外の基又は原子を含む基であってもよい。
【0035】
炭素原子の一部を置換する置換基の具体例としては、例えば、−O−、−C(=O)−O−、−C(=O)−、−O−C(=O)−O−、−C(=O)−NH−、−NH−(Hがアルキル基、アシル基等の置換基で置換されていてもよい)、−S−、−S(=O)−、−S(=O)−O−等が挙げられる。
【0036】
一方、上記水素原子の一部又は全部を置換する置換基の具体例としては、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、酸素原子(=O)、シアノ基等が挙げられる。
【0037】
上記アルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0038】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0039】
上記ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基の水素原子の一部又は全部が上記ハロゲン原子で置換された基が挙げられる。
【0040】
上記脂環式炭化水素基としては、単環式基であってもよく、多環式基であってもよい。その炭素数は代表的には3〜30であり、5〜30であることが好ましく、5〜20がより好ましく、6〜15がさらに好ましく、6〜12が特に好ましい。このような脂環式炭化水素基として具体的には、例えばモノシクロアルキル基;ビシクロアルキル、トリシクロアルキル、テトラシクロアルキル等のポリシクロアルキル基等が挙げられる。
【0041】
上記脂環式炭化水素基のさらなる具体例としては、例えばシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のモノシクロアルキル基;アダマンチル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデシル基、テトラシクロドデシル基等のポリシクロアルキル基等が挙げられる。
【0042】
上記脂環式炭化水素基は、その環骨格構造を構成する炭素原子に結合した水素原子の一部が置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、水酸基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
【0043】
上記アルキル基としては特に限定されないものの、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基であることがより好ましい。
【0044】
上記アルコキシ基、ハロゲン原子はそれぞれ上記脂肪族炭化水素基の水素原子の一部又は全部を置換する置換基として挙げた例と同様のものが挙げられる。
【0045】
上記脂環式炭化水素基は、その環骨格構造中にヘテロ原子を含む置換基を有していてもよく、このような場合のヘテロ原子を含む置換基としては、例えば−O−、−C(=O)−O−、−S−、−S(=O)−、−S(=O)−O−等が挙げられる。
【0046】
上記芳香族炭化水素基は、芳香環を有する炭化水素基である。この芳香族炭化水素基の炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることがより好ましく、6〜15がさらに好ましく、6〜12が特に好ましい。ただし、ここでいう炭素数には、置換基における炭素数を含まないものとする。
【0047】
芳香族炭化水素基の具体例としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等の芳香族炭化水素環から水素原子を1つ除いたアリール基、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、1−ナフチルエチル基、2−ナフチルエチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。上記アリールアルキル基中のアルキル鎖の炭素数は、1〜4であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0048】
上記芳香族炭化水素基は、1又は複数の置換基を有していてもよい。例えば芳香族炭化水素基が有する芳香環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されていてもよく、芳香族炭化水素基が有する芳香環に結合した水素原子が置換基で置換されていてもよい。
【0049】
芳香環を構成する炭素原子の一部を置換した例としては、上記アリール基の環を構成する炭素原子の一部が酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換されたヘテロアリール基、上記アリールアルキル基中の芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部が上記ヘテロ原子で置換されたヘテロアリールアルキル基等が挙げられる。
【0050】
芳香族炭化水素基の芳香環に結合した水素原子を置換する置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0051】
上記芳香族炭化水素基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基であることがより好ましい。
【0052】
上記芳香族炭化水素基の置換基としてのアルコキシ基としては、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0053】
上記芳香族炭化水素基の置換基としてのハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、この中でもフッ素原子が好ましい。上記芳香族炭化水素基の置換基としてのハロゲン化アルキル基としては、上記アルキル基の水素原子の一部又は全部が上記ハロゲン原子で置換された基が挙げられる。
【0054】
上記式(1)中、X及びXで表される2価の炭化水素基としては、上述したような炭化水素基から水素原子をさらに1個引き抜いて2価とした基が挙げられる。その炭素数としては、1〜30が好ましく、2〜20がより好ましく、2〜10がさらに好ましい。
【0055】
上記2価の炭化水素基の好適例としては、例えば、メタンジイル基、エタンジイル基、n−プロパンジイル基、i−プロパンジイル基、n−ブタンジイル基、n−ペンタンジイル基、n−ヘキサンジイル基、n−ヘプタンジイル基、n−オクタンジイル基、n−ノナンジイル基、n−デカンジイル基等の炭素数1〜20の2価の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基;シクロブタンジイル基、シクロペンタンジイル基、シクロヘキサンジイル基、シクロオクタンジイル基、ノルボルナンジイル基、トリシクロデカンジイル基、テトラシクロドデカンジイル基、アダマンタンジイル基等の炭素数3〜20の2価の脂環式炭化水素基;フェニレン基、ナフチレン基等の炭素数6〜20のアリーレン基;ベンジレン基、フェニレンエチレン基、フェニレンプロピレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基等の炭素数7〜20のアリーレンアルキレン基等が挙げられる。
【0056】
当該架橋剤では、上記式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基若しくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、nは0〜4の整数であることが好ましい。R、R及びRで表される炭素数1〜8のアルキル基若しくは炭素数2〜8のアルケニル基、R及びRで表される炭素数1〜4のアルキル基、並びにX及びXで表される炭素数1〜6のアルカンジイル基としては、上記脂肪族炭化水素基及び2価の炭化水素基の説明を適用することができる。当該架橋剤がこのような構造を有することにより、被架橋物への相溶性がより向上して架橋が充分に進行し、架橋物での架橋剤の残存をより低減させることができ、さらに衛生的かつ層間の接着性に優れた架橋物を提供することができる。
【0057】
当該架橋剤の構造としては、上記式(1)中、R、R及びRが炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRが水素原子であり、X及びXが炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、nは0又は1であることがより好ましい。R、R及びRで表される炭素数1〜4のアルキル基、並びにX及びXで表される炭素数1〜3のアルカンジイル基としては、上記脂肪族炭化水素基及び2価の炭化水素基の説明を適用することができる。当該架橋剤がこのような特定構造を有することにより被架橋物への相溶性がさらに高まって、当該架橋剤による被架橋物の架橋を充分進行させることができ、架橋剤のブリードアウトを抑制することができる。
【0058】
当該架橋剤の分解温度は240℃以上であることが好ましい。架橋物の製造プロセスにおいては、EVOH等の被架橋物を高温で溶融混練して成形する際に当該架橋剤を相溶状態とすることがある。このような場合であっても、当該架橋剤の分解温度が240℃以上であると、溶融混練時の架橋剤の分解を防止することができ、得られる架橋物での架橋レベルを充分なものとすることができる。
【0059】
当該架橋剤の融点は220℃以下が好ましく、210℃以下がより好ましい。当該架橋剤の融点をこのような範囲とすることで、上述のような溶融混練プロセスにおける架橋剤の相溶状態を容易に実現することができる。
【0060】
当該架橋剤のSP値は11.0(cal/cm1/2以上14.5(cal/cm1/2以下であることが好ましく、11.5(cal/cm1/2以上13.5(cal/cm1/2以下であることがより好ましい。当該架橋剤のSP値を上記特定範囲とすることで、特にEVOHへの相溶性を高めることができ、これにより、架橋物からのブリードアウトを防止すると共に、層間接着性及び耐レトルト性に優れた架橋物を提供することができる。
【0061】
当該架橋剤は、上記特定構造により、SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体との高い相溶性を有するため、このような重合体の架橋に好適に用いることができる。このようなSP値を有する重合体としては、例えば
[1]ポリビニルアルコール系重合体(10.6−14.1)、
[2]セルロース(16.1)、
[3]ナイロン−6、ナイロン−66等のポリアミド(9.9−11.6)、
[4]ポリアクリロニトリル(13.1)、
[5]ポリ塩化ビニリデン(10.4)、
[6]ポリエチレンテレフタラート(11.3)
等が挙げられる。なお、()内はSP値を示し、単位は(cal/cm1/2である。これらの中でも、当該架橋剤は、反応性の点から、水酸基を有する構造単位を有する重合体に対して好適に用いることができる。さらには、当該架橋剤は、優れた耐レトルト性及び層間接着性、架橋剤のブリードアウト抑制の観点から、ポリビニルアルコール系重合体に対して好適に用いることができる。特に、上記ポリビニルアルコール系重合体がEVOHであると、得られる架橋性組成物の溶融成形性、得られる架橋物のガスバリア性が良好となる。
【0062】
<架橋剤の製造方法>
当該架橋剤の製造方法としては特に限定されず、公知の手順を組み合わせて又は変更して製造することができる。当該架橋剤としての本発明の化合物は、不飽和カルボン酸誘導体とアミノ基を2つ以上有する化合物(以下、単に「アミノ基含有化合物」ともいう)とを反応させる工程を経て製造することができる。
【0063】
上記不飽和カルボン酸誘導体としては、当該架橋剤のアミド結合及びそれより先の構造を与える限り特に限定されず、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ソルビン酸等の不飽和カルボン酸のハロゲン化物、エステル又は無水物等が挙げられる。このうち、アミノ基含有化合物との反応性を高める観点から、不飽和カルボン酸のハロゲン化物が好ましい。
【0064】
上記アミノ基含有化合物としては、アミノ基を2つ以上有する化合物であって当該架橋剤の主要骨格をなすアミノ基が連結した構造を与える限り特に限定されない。このようなアミノ基含有化合物としては、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン等のジアミノ化合物、ジエチレントリアミン、ジ(トリメチレン)トリアミン等のトリアミン化合物、トリエチレンテトラミン、トリ(トリメチレン)テトラミン等のテトラミン化合物等が挙げられる。
【0065】
上述の不飽和カルボン酸誘導体とアミノ基含有化合物とを適宜両者を混溶する溶媒と共に混合し、通常−20℃以上30℃以下、好ましくは−15℃以上0℃以下の温度条件下で、1分から12時間、好ましくは30分から8時間攪拌することにより、目的とする架橋剤としての化合物を製造することができる。
【0066】
このようにして得られる当該化合物は、ポリビニルアルコール系重合体を架橋するための架橋剤として好適に用いられる。
【0067】
<架橋性組成物>
本発明の架橋性組成物は、[A]SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体、及び[B]当該架橋剤を含有し、必要に応じてその他の添加物も含有させてもよい。当該架橋性組成物では、[A]重合体の架橋剤として上述した当該架橋剤を採用しているので、両者の相溶状態が良好なものとなり、これにより、[A]重合体の架橋を安定してかつ充分に進行させることができる。その結果、架橋物からの架橋剤のブリードアウトを抑制することができ、耐レトルト性及び層間接着性に優れかつ衛生的な架橋物を提供することができる。
【0068】
<[A]成分:SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体>
[A]重合体として、SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体を用いることにより、耐レトルト性、層間接着性、耐熱性が向上されたことに加えて、架橋剤のブリードアウトが抑制された架橋物を得ることができる。上記SP値としては、10.5(cal/cm1/2以上14.5(cal/cm1/2以下が好ましく、11.5(cal/cm1/2以上13.5(cal/cm1/2以下がさらに好ましく、12.0(cal/cm1/2以上13.0(cal/cm1/2以下が特に好ましい。上記SP値が9.5(cal/cm1/2未満、又は、16.5(cal/cm1/2を超える場合は、架橋剤のブリードアウトや架橋率の低下し、それにより耐レトルト性が低下するおそれがある。
【0069】
[A]SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体としては、このようなSP値の範囲を満たしていれば特に限定されず、上述した重合体を挙げることができる。これらの中でも、[B]架橋剤との反応性の点から水酸基を有する構造単位を有する重合体が好ましく、さらには、優れた耐レトルト性及び層間接着性、架橋剤のブリードアウト抑制の観点から、後述のポリビニルアルコール系重合体、特にEVOHが好ましい。
【0070】
(ポリビニルアルコール系重合体)
ポリビニルアルコール系重合体は、ビニルエステルの単独重合体、又はビニルエステルと他の単量体との共重合体(特にビニルエステルとエチレンとの共重合体)を、アルカリ触媒等を用いてケン化して得られる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的な化合物として挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)も使用できる。
【0071】
上記ポリビニルアルコール系重合体のビニルエステル成分のケン化度は、好適には90%モル以上であり、より好適には95モル%以上であり、さらに好適には96モル%以上である。ケン化度が90モル%未満では、高湿度下でのガスバリア性が低下する。また、上記ポリビニルアルコール系重合体がエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)である場合、ケン化度が90モル%未満では熱安定性が不充分となり、得られる成形体にゲル・ブツが含有され易くなる。
【0072】
ポリビニルアルコール系重合体がケン化度の異なる2種類以上のポリビニルアルコール系重合体の混合物からなる場合には、混合質量比から算出される平均値を混合物のケン化度とする。
【0073】
上記のようなポリビニルアルコール系重合体の中でも、溶融成形が可能で、高湿度下でのガスバリア性が良好な点から、EVOHが好適である。
【0074】
EVOHのエチレン含有量は5〜60モル%であるのが好ましい。エチレン含有量が5モル%未満では、高湿度下でのガスバリア性が低下し溶融成形性も悪化することがある。EVOHのエチレン含有量は、好適には10モル%以上であり、より好適には15モル%以上、最適には20モル%以上である。一方、エチレン含有量が60モル%を超えると十分なガスバリア性が得られないことがある。エチレン含有量は、好適には55モル%以下であり、より好適には50モル%以下である。
【0075】
好適に用いられるEVOHは、上述のようにエチレン含有量が5〜60モル%であり、かつケン化度が90モル%以上である。当該架橋性組成物を用いて得られる架橋物を成形した多層構造体において、耐衝撃剥離性に優れたものを所望する場合は、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が90モル%以上99モル%未満のEVOHを使用することが好ましい。
【0076】
EVOHがエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物からなる場合には、混合質量比から算出される平均値を混合物のエチレン含有量とする。この場合、エチレン含有量が最も離れたEVOH同士のエチレン含有量の差が30モル%以下であり、かつケン化度の差が10モル%以下であることが好ましい。これらの条件から外れる場合には、得られる架橋物の透明性が損なわれる場合がある。エチレン含有量の差はより好適には20モル%以下であり、さらに好適には15モル%以下である。また、ケン化度の差はより好適には7モル%以下であり、さらに好適には5モル%以下である。当該架橋性組成物を用いて得られる架橋物を成形した多層構造体において、耐衝撃剥離性及びガスバリア性がより高いレベルでバランスがとれたものを所望する場合は、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が90モル%以上99モル%未満のEVOH(b’1)と、エチレン含有量が25モル%以上55モル%以下であり、ケン化度が99モル%以上のEVOH(b’2)とを、配合質量比(b’1)/(b’2)が5/95〜95/5となるように混合して使用することが好ましい。
【0077】
EVOHのエチレン含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0078】
このEVOHは、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外のその他の単量体の単位を共重合単位として少量含有することもできる。このような単量体の例としては、例えば、次の化合物等が挙げられる:プロピレン、1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分又は完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;不飽和チオール類;ビニルピロリドン類等。
【0079】
上記その他の単量体の中でも、EVOHが共重合成分としてビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有すると、このEVOHを含む本発明の架橋性組成物を、基材となるべき重合体(例えば、ポリエステル;以下、本明細書中でポリエステルを単に「PES」と称することがある)と共に、共押出成形又は共射出成形して多層構造体を得る際に、この基材重合体との溶融粘性の整合性が改善され、均質な成形物の製造が可能である。ビニルシラン系化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が好適に用いられる。
【0080】
また、EVOHに柔軟性を付与するために従来公知の方法でEVOHを変性することも好適である。この場合、柔軟性を付与するための変性によって多少ガスバリア性が犠牲になったとしても、当該架橋剤の構造や量、EVOHの製法を調整して酸素透過速度を調整することもできる。
【0081】
EVOHのSP値は本発明の効果が得られる限り特に限定されず、11.5〜13.5(cal/cm1/2が好ましく、12.0〜13.0(cal/cm1/2がより好ましい。EVOHのSP値を上記範囲とすることで、架橋剤との相溶性が良好となり、両者の反応をスムーズかつ充分に進行させることができ、架橋剤のブリードアウトを抑制することができる。
【0082】
EVOHの好適なメルトフローレート(MFR)(210℃、2160g荷重下、JIS K7210に基づく)は0.1〜100g/10分、より好適には0.5〜50g/10分、さらに好適には1〜30g/10分である。
【0083】
<[B]成分:架橋剤>
本発明の架橋性組成物に[B]成分として含まれる架橋剤としては、当該架橋剤を好適に用いることができる。当該架橋剤については既に詳述しているのでここでの説明は省略する。
【0084】
当該架橋性組成物における[B]架橋剤の使用量としては、架橋物において要求される架橋度に応じて決めればよく、[A]重合体100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、0.5質量部以上20質量部以下がより好ましく、0.8質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。[B]架橋剤の使用量を上記範囲とすることで、[A]重合体の架橋を充分に進行させることができ、耐レトルト性及び層間接着性に優れた架橋物を得ることができる。
【0085】
<[A]重合体と[B]架橋剤とのSP値の関係>
当該架橋性組成物では、[A]重合体のSP値と[B]架橋剤のSP値との差が2(cal/cm1/2以下であることが好ましく、1(cal/cm1/2以下であることがより好ましく、0.7(cal/cm1/2以下が特に好ましい。これにより、[A]重合体と[B]架橋剤との相溶状態をより良好にすることができる。
【0086】
<その他の成分>
当該架橋性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えばホウ素化合物、アルカリ金属塩、リン酸化合物、酸化され得る物質、その他の重合体、酸化促進剤、その他の添加剤等が挙げられる。
【0087】
(ホウ素化合物)
当該架橋性組成物にホウ素化合物が添加されている場合にも、EVOHの溶融粘性が改善され、均質な共押出成形体又は共射出成形体が得られる点で有効である。上記ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸(以下、単に「ホウ酸」ともいう)、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等が挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂等が挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸が好ましい。
【0088】
ホウ素化合物が添加される場合に、当該組成物中での含有量は好適にはホウ素元素換算で20〜2000ppm、より好適には50〜1000ppmである。この範囲にあることで加熱溶融時のトルク変動が抑制されたEVOHを得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、一方、2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0089】
(アルカリ金属塩)
当該架橋性組成物に、アルカリ金属塩を好適にはアルカリ金属元素換算で5〜5000ppm添加しておくことも層間接着性や相溶性の改善のために効果的である。アルカリ金属塩の添加量は、より好適にはアルカリ金属元素換算で20〜1000ppm、さらに好適には30〜500ppmである。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ金属塩としては、アルカリ金属の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられ、これらの中でも酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが好適である。
【0090】
(リン酸化合物)
当該架橋性組成物に対しリン酸化合物を好適にはリン酸根換算で20〜500ppm、より好適には30〜300ppm、最適には50〜200ppmの割合で添加することも好ましい。上記範囲でリン酸化合物を配合することにより、EVOHの熱安定性を改善することができる。特に、長時間にわたる溶融成形を行う際のゲル状ブツの発生や着色を抑制することができる。
【0091】
EVOHに添加するリン酸化合物の種類は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩は第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形であってもよい。リン酸塩のカチオン種も特に限定されないが、カチオン種がアルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましい。中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムの形でリン化合物を添加することが好ましい。
【0092】
当該架橋性組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲内で各種の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、防曇剤等が挙げられる。
【0093】
<架橋物>
本発明の架橋物は、ポリビニルアルコール系重合体が当該架橋剤により架橋されている。また、本発明の架橋性組成物を用いて、後述する同様な方法で架橋物を得ることができる。この架橋は、通常、電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射するか、加熱を行うことにより行うことが好ましい。
【0094】
電子線、X線又はγ線を用いる場合、吸収線量が1kGy以上であることが好ましい。より好ましくは1kGy〜1MGyであり、さらに好ましくは5kGy〜500kGyであり、特に好ましくは10kGy〜200kGyである。吸収線量が1MGyより大きい場合はEVOHの分解が生じるおそれがあり、架橋物をフィルム状にした際の強度の低下や、着色等の問題が生じることがある。また吸収線量が1kGyより小さい場合はゲル分率が向上せず、耐レトルト性等の目的の性能が得られないことがある。
【0095】
光照射を用いる場合、照射時間は架橋物の厚さ、光源の種類、その他の諸条件に影響されるが、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライドランプ、LED等を用い、長くて数分、通常1分以内、場合によっては1秒以下でも良い。
【0096】
なお、当該架橋性組成物の架橋工程は、目的とする成形物の性状に合わせて決めればよく、成形前であっても成形後であってもよい。特に、架橋性組成物を成形する際の自由度を考慮すると、成形後に架橋を行うことが好ましい。
【0097】
本発明の架橋性組成物を成形するに当たっては、成形方法を適宜採用することにより、種々の成形物、例えば、フィルム、シート、容器その他の包装材等に成形することができる。このとき、架橋性組成物を一旦ペレットとしてから成形に供してもよいし、架橋性組成物の各成分をドライブレンドして、直接成形に供してもよい。
【0098】
成形方法及び成形物としては、例えば、溶融押出成形によりフィルム、シート、パイプ等に、射出成形により容器形状に、また中空成形によりボトル状等の中空容器に成形することができる。中空成形としては、押出成形によりパリソンを成形し、これをブローして成形を行う押出中空成形と、射出成形によりプリフォームを成形し、これをブローして成形を行う射出中空成形を挙げることができる。これらのうちレトルト用包装材には、溶融押出成形によって多層フィルム等の包装材を成形する方法、溶融押出成形によって成形した多層シートを熱成形して容器状の包装材にする方法が好適に用いられる。また、用途によっては押出成形によってパリソンを形成し、これをブロー成形して比較的柔軟な多層容器状の包装材とする方法も好ましく用いられる。
【0099】
本発明の架橋物は、上記成形により得られる架橋物の層と他の層とを積層して多層構造体として用いられる。
【0100】
多層構造体の層構成としては、架橋性組成物以外の重合体からなる層をx層、架橋性組成物層をy層、接着性重合体層をz層とすると、x/y、x/y/x、x/z/y、x/z/y/z/x、x/y/x/y/x、x/z/y/z/x/z/y/z/x等が例示されるが、これらに限定されるものではない。複数のx層を設ける場合は、その種類は同じであっても異なっていてもよい。また、成形時に発生するトリム等のスクラップからなる回収重合体を用いた層を別途設けてもよいし、回収重合体を他の重合体からなる層にブレンドしてもよい。多層構造体の各層の厚み構成は、特に限定されるものではないが、成形性及びコスト等の観点から、全層厚みに対するy層の厚み比は2〜20%が好適である。
【0101】
上記のx層に使用される重合体としては、加工性等の観点から熱可塑性重合体が好ましい。かかる熱可塑性重合体としては、次の重合体が挙げられるが、特にこれらに限定されない:ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン又はプロピレン共重合体(エチレン又はプロピレンと次の単量体の少なくとも1種との共重合体:1−ブテン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分又は完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネート等のカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類等)、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ1−ブテン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリε−カプロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリメタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート等。かかる熱可塑性重合体層は無延伸のものであってもよいし、一軸もしくは二軸に延伸又は圧延されているものであっても構わない。これらの重合体のうち、レトルト用包装材に好適に用いられる重合体は、食品等を包装して包装体とした際の外層側がポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンであり、ポリアミド、ポリプロピレンが特に好適である。内層側にはポリプロピレンが好適に用いられる。
【0102】
これらの熱可塑性重合体のうち、ポリオレフィンは耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性等の点で、また、ポリエステルは機械的特性、耐熱性等の点で好ましい。
【0103】
一方、z層に使用される接着性重合体としては、各層間を接着できるものであれば特に限定されず、ポリウレタン系又はポリエステル系の一液型又は二液型硬化性接着剤、カルボン酸変性ポリオレフィン重合体等が好適に用いられる。カルボン酸変性ポリオレフィン重合体は、不飽和カルボン酸又はその無水物(無水マレイン酸等)を共重合成分として含むオレフィン系重合体又は共重合体;又は不飽和カルボン酸又はその無水物をオレフィン系重合体又は共重合体にグラフトさせて得られるグラフト共重合体である。
【0104】
これらの中でも、カルボン酸変性ポリオレフィン重合体がより好ましい。特に、x層がポリオレフィン重合体である場合、y層との接着性が良好となる。かかるカルボン酸変性ポリオレフィン系重合体の例としては、例えばポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)}、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル又はエチルエステル)共重合体等をカルボン酸変性したものが挙げられる。
【0105】
多層構造体を得る方法としては、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、共射出成形法、共押出成形法等が例示されるが、特に限定されるものではない。共押出成形法としては、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法等を挙げることができる。
【0106】
このようにして得られた多層構造体のシート、フィルム、パリソン等を、含有される重合体の融点以下の温度で再加熱し、絞り成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、インフレーション延伸法、ブロー成形法等により一軸又は二軸延伸して、延伸された成形物を得ることもできる。
【0107】
本発明の架橋物の用途は多岐に亘る。例えば、押出成形品、フィルム又はシート(特に延伸フィルム又は熱収縮フィルム)、熱成形品、壁紙又は化粧板、パイプ又はホース、異形成形品、押出ブロー成形品、射出成形品、フレキシブル包装材、容器(特にレトルト包装容器)等が好適なものとして例示される。成形品が多層構造体である場合には、共押出フィルム又は共押出シート、熱収縮フィルム、多層パイプ(特に燃料パイプ又は温水循環用パイプ)、多層ホース(特に燃料ホース)、多層容器(特に共押出ブロー成形容器、共射出成形容器、レトルト包装容器)等が好適なものとして例示される。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。ここで、部は、特記しない限り質量基準である。実施例及び比較例における各測定・評価は、下記の要領で行った。
【0109】
(1)ゲル分率
水(15質量%)−フェノール(85質量%)の混合溶剤100質量部に単層フィルム1質量部を浸し、60℃で12時間加熱溶解させた後、ろ過し、ろ液を蒸発乾固することで固形分残分(%)を算出し、これをゲル分率とした。
【0110】
(2)耐レトルト性(単層)
以下の実施例及び比較例で得られた架橋性組成物のペレットを20mmφ一軸押出機、210℃にてコートハンガーダイより溶融押出を行い、厚さ20μmの単層フィルムを得た。この単層フィルムを電子線照射装置(キュアトロン:NHVコーポレーション製)に導入して、加速電圧250kVにて電子線を照射して架橋を行い、照射単層フィルムを得た。得られた照射単層フィルムを120℃、30分間レトルト処理した後のフィルムの外観を目視にて観察した。そのときのフィルムの外観を以下の基準で評価した。
A:全体的にフィルムの溶解がなかった。
B:一部フィルムの溶解がみられた。
C:全体的にフィルムが溶解し、原形をとどめていなかった。
【0111】
(3)耐レトルト性(多層)
延伸ナイロンフィルム(ON)及び無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)をアンカーコート用接着剤(Ac)を介し上記(2)と同様にして得た架橋性樹脂組成物からなる単層フィルムの両側にラミネートすることにより、多層フィルム((外層)ON 15μm/Ac/EVOH層(単層フィルム) 20μm/Ac/CPP 50μm(内層))を得た。得られた多層フィルムを電子線照射装置(キュアトロン:NHVコーポレーション製)に導入して、加速電圧250kVにて電子線を照射して架橋を行い照射多層フィルムを得た。得られた照射多層フィルムを用いて、パウチを作成し、その中に水を注ぎ込んで、120℃で30分間レトルト処理した後のパウチの外観を目視にて観察した。そのときのパウチの外観を以下の基準で評価した。
A:EVOH層と内外層の剥離は確認されず、EVOH層の透明性は保たれていた。
B:EVOH層と内外層の一部に剥離、あるいは、EVOH層の白化が見られた。
【0112】
(4)OTR(酸素等加速度;レトルト前)
上記(3)と同様にして得た照射多層フィルムを用いてOTRを測定した。
条件:20℃、(外)65%RH/(内)100%RH
【0113】
(5)OTR(酸素等加速度;レトルト後)
上記(3)と同様にして得た照射多層フィルムを用いてパウチを作成し、その中に水を注ぎ込んで、120℃で30分間レトルト処理した後のOTRを測定した。
条件:20℃、(外)65%RH/(内)100%RH、レトルト1日後
【0114】
(6)接着性(ブリードアウトの指標としての評価)
上記(2)と同様にして得た照射単層フィルムを30℃、80%RH条件下にて3ヶ月保管した後、アンカーコート用接着剤を用いてCPPフィルム(50μm)とラミネートした。これを40℃、2日間エージング処理した後に接着性を評価した。
A:接着性は良好であり、力を入れても剥離しない。
B:良好に接着しているが、力を入れると剥離する場合がある。
C:通常の使用では剥離は見られないが、力を入れると剥離する。
【0115】
以下の実施例1〜7及び比較例1〜5においては、エチレン−ビニルアルコール共重合体として以下の組成及び物性を有するEVOH及び架橋剤を使用した:
(EVOH−1)
エチレン含有量:27モル%
ケン化度:99.8%
SP値:12.60(cal/cm1/2
(EVOH−2)
エチレン含有量:32モル%
ケン化度:99.8%
SP値:12.31(cal/cm1/2
【0116】
(架橋剤1)
下記式で表されるジエチレントリスクロトアミドを架橋剤1とした。
【化3】

【0117】
ジエチレントリスクロトアミドは以下の手順により合成した。1Lセパラブルフラスコにジエチレントリアミン46.42g(0.45mol)、水270g、炭酸カリウム223.9g(1.62mol)及びテトラヒドロフラン135mLを仕込んだ。冷却バスを用いて内温を−10℃程度まで冷却し、攪拌しながら塩化クロトノイル150.53g(1.44mol)をゆっくり滴下した。この時、内温が−5℃以下になるように塩化クロトノイルの滴下速度を調整した。滴下終了後、バスを氷水バスに変え、1時間攪拌し、バスを水に変え、さらに1時間攪拌した。水600mLを追加し、キシレン/1−プロパノール=1/1(約400mL)で抽出した後、油層に塩化ナトリウム20質量%及びリン酸5質量%の水溶液200mLを加え、分液した。次いで油層に塩化ナトリウム20質量%及び炭酸ナトリウム5質量%を加え分液した。油層に無水硫酸マグネシウム(5質量%程度)を加えろ過した後、エバポレーターで濃縮した。得られた固形物を酢酸ブチルにて再結晶することにより、ジエチレントリスクロトアミド(SP値:12.04(cal/cm1/2、融点:144℃、分解温度:300℃)120gを得た。得られた試料の同定は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒としてH−NMR測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により行った。1.6〜1.8ppm(9H):メチル位、3.1〜3.5ppm(8H):メチレン位、5.8〜6.8ppm(6H):二重結合のメチレン位、7.7ppm(2H):アミン部分。
【0118】
(架橋剤2)
下記式で表されるエチレンビスクロトアミドを架橋剤2とした。
【化4】

【0119】
エチレンビスクロトアミドは以下の手順により合成した。1Lセパラブルフラスコにエチレンジアミン40.66g(0.7mol)、水420g及び炭酸カリウム212.84g(1.54mol)を仕込んだ。冷却バスを用いて内温が−10℃程度まで冷却し、攪拌しながら塩化クロトノイル156.67g(1.47mol)をゆっくり滴下した。この時、内温を−5℃以下になるように塩化クロトノイルの滴下速度を調整した。滴下終了後、バスを氷水バスに変え、1時間攪拌し、バスを水に変え、さらに1時間攪拌した。水400mLを追加し、ろ過した。固形物及び水1350gを2Lセパラブルフラスコに移し、沸騰させることに溶解し、ろ過後、冷却することにより固形分が得られた。固形分を減圧乾燥することにより、エチレンビスクロトアミド(SP値:11.98(cal/cm1/2、融点:210℃、分解温度:250℃)65gを得た。得られた試料の同定は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒としてH−NMR測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により行った。1.6〜1.8ppm(6H):メチル位、3.1〜3.5ppm(4H):メチレン位、5.8〜6.8ppm(4H):二重結合のメチレン位、8.0ppm(2H):アミン部分。
【0120】
(架橋剤3)
トリアリルシアヌレート(TAC、SP値:11.32(cal/cm1/2
【化5】

【0121】
(架橋剤4)
ジアリルマレート(DAM、SP値:9.78(cal/cm1/2
【化6】

【0122】
(架橋剤5)
ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(PETAE、SP値:9.81(cal/cm1/2
【化7】

【0123】
[実施例1〜7及び比較例1〜5]
25mmφ二軸押出機を用いて、210℃にて上述のEVOH及び架橋剤を表1に示した割合で溶融混練することにより、架橋性樹脂組成物のペレットを調製した。各評価の照射線量は表1に示すとおりである。評価結果を表1に示す。
【0124】
【表1】

【0125】
表1の結果からも明らかなように、実施例に係る架橋性組成物を用いて得られた各フィルムでは、ゲル分率が高く充分に架橋が進行していた。これにより、実施例の各フィルムは、耐レトルト性に優れ、OTRも低い値となったと共に、良好な接着性を示す結果となった。これに対し、比較例の組成物を用いて得られたフィルムでは、耐レトルト性及びレトルト後のOTRか、又は接着性のいずれかに劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の架橋剤を含む架橋性組成物は、架橋物からの架橋剤のブリードアウトを抑制することができ、耐レトルト性及び層間接着性に優れかつ衛生的な架橋物を実現することができることから、食品包装材料その他の包装材料の製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される架橋剤。
【化1】

(式(1)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、X及びXは、それぞれ独立して、2価の炭化水素基であり、nは0〜4の整数である。nが2以上の整数である場合、複数のRは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、複数のXは、それぞれ独立して、2価の炭化水素基である。)
【請求項2】
上記式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基若しくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、nは0〜4の整数である請求項1に記載の架橋剤。
【請求項3】
上記式(1)中、R、R及びRは炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは水素原子であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、nは0又は1である請求項2に記載の架橋剤。
【請求項4】
分解温度が240℃以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の架橋剤。
【請求項5】
融点が220℃以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の架橋剤。
【請求項6】
SP値が11.0(cal/cm1/2以上14.5(cal/cm1/2以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の架橋剤。
【請求項7】
SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体の架橋に用いられる請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の架橋剤。
【請求項8】
上記重合体がポリビニルアルコール系重合体である請求項7に記載の架橋剤。
【請求項9】
上記ポリビニルアルコール系重合体が、エチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項8に記載の架橋剤。
【請求項10】
[A]SP値が9.5(cal/cm1/2以上16.5(cal/cm1/2以下である重合体、及び
[B]請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の架橋剤
を含有する架橋性組成物。
【請求項11】
[A]重合体のSP値と[B]架橋剤のSP値との差が2(cal/cm1/2以下である請求項10に記載の架橋性組成物。
【請求項12】
[A]重合体がポリビニルアルコール系重合体である請求項10又は請求項11に記載の架橋性組成物。
【請求項13】
ポリビニルアルコール系重合体が、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の架橋剤により架橋された架橋物。
【請求項14】
下記式(1’)で表される化合物。
【化2】

(式(1’)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜8のアルケニル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、X及びXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基であり、nは0〜4の整数である。nが2以上の整数である場合、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜8のアルケニル基であり、複数のXは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルカンジイル基である。)
【請求項15】
不飽和カルボン酸誘導体とアミノ基を2つ以上有する化合物とを反応させる工程を有する請求項14に記載の化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−208137(P2011−208137A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53595(P2011−53595)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】