説明

架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物

【課題】 極めて耐熱老化性に優れたゴム架橋物を与えるゴム組成物を提供すること。
【解決手段】
ヨウ素価120以下、メタクリロニトリル系単量体単位含有量10〜70重量%のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対して、芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)0.2〜10重量部および架橋剤(c)0.2〜10重量部を含有してなり、160℃で1000時間処理後の伸びが80%以上のゴム架橋物を与える架橋性ゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて耐熱老化性に優れたゴム架橋物を与える架橋性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐油性、耐熱性および耐オゾン性を有するゴムとして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムが知られており、その架橋物はベルト、ホース、ガスケット、パッキン、オイルシールなど種々の自動車用ゴム製品の材料等に用いられている。しかしながら、近年、内燃機関の高出力化や排気ガス対策などのため、内燃機関周囲の熱的環境条件が過酷化する傾向があり、それに対応できるゴム架橋物が必要になっている。
【0003】
このような状況にあって、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単位を含有するニトリル基含有高飽和共重合体ゴム、ポリアミン系架橋剤及び塩基性架橋促進剤を含有する架橋性ゴム組成物が提案されている(特許文献1)。該組成物を架橋することにより、耐熱性、耐屈曲疲労性及び圧縮永久ひずみの改善されたゴム架橋物が得られる。しかしながら、より高温の過酷な条件で使用される場合に、なお一層の耐熱老化性の向上、殊に伸びの低下度を小さくすることが求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−55471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、極めて耐熱老化性に優れたゴム架橋物を与える架橋性ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を特定割合で含有してなるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)、特定の老化防止剤(b)および架橋剤(c)を含有してなる架橋性ゴム組成物を架橋することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、
(1)ヨウ素価120以下、メタクリロニトリル系単量体単位含有量10〜70重量%のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対して、芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)0.2〜10重量部および架橋剤(c)0.2〜10重量部を含有してなり、160℃で1000時間処理後の伸びが80%以上のゴム架橋物を与える架橋性ゴム組成物、
(2)上記に記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、および
(3)ベルトまたはシール材である上記に記載のゴム架橋物、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、極めて耐熱老化性に優れたゴム架橋物を与えることのできる架橋性ゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の架橋性ゴム組成物は、ヨウ素価120以下、メタクリロニトリル系単量体単位含有量10〜70重量%のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対して、芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)0.2〜10重量部および架橋剤(c)0.2〜10重量部を含有してなり、160℃で1000時間処理後の伸びが80%以上のゴム架橋物を与える。
なお、上記伸びは、JIS K6257のノーマルオーブン法に従って、160℃で1000時間処理した際の値であり、測定方法の詳細は後述の「(3)ゴム架橋物の耐熱老化試験」と同様である。
【0010】
本発明に用いるヨウ素価120以下、メタクリロニトリル系単量体単位含有量10〜70重量%のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)(以下、「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)」と略す。)は、メタクリロニトリル系単量体を、共重合可能な他の単量体と共重合して得られるゴムである。
ここで、メタクリロニトリル系単量体とは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体であって、ニトリル基と結合した炭素間二重結合を形成するα位の炭素にメチル基が結合している単量体をいい、ハロゲン等の他の置換基を有していても良い。
メタクリロニトリル系単量体としては、メタクリロニトリル、β−クロロメタクリロニトリル、β−ブロモメタクリロニトリル、β−メチルメタクリロニトリルなどが挙げられ、メタクリロニトリルが好ましい。
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)のメタクリロニトリル系単量体単位含有量は、10〜70重量%、好ましくは15〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%である。メタクリロニトリル系単量体単位含有量が少なすぎるとゴム架橋物は耐熱性に劣り、逆に、多すぎると耐寒性に劣る。
【0011】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)は、ニトリル基含有単量体単位として上記メタクリロニトリル系単量体単位の他に、メタクリロニトリル系単量体以外のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の単位を、通常70重量%以下、好ましくは50重量%、より好ましくは30重量%以下、特に好ましくは5重量%以下含有しても良い。そのようなα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;などが挙げられる。なお、メタクリロニトリル系単量体以外のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が多すぎると、ゴム架橋物の耐熱老化性が低下するおそれがある。
【0012】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)を形成するための、メタクリロニトリル系単量体と共重合する他の単量体としては、ゴム弾性を発現する観点で共役ジエンおよび/またはα−オレフィン単量体が好ましい。
共役ジエン単量体としては、メタクリロニトリル系単量体と共重合可能な共役ジエン含有化合物であれば限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられ、1,3−ブタジエンおよびイソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
α−オレフィンは、炭素数が2〜12のものが好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。
【0013】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)における共役ジエンおよび/またはα−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは40〜80重量%である。この含有量が少なすぎるとゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0014】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)は、さらに、メタクリロニトリル系単量体及び共役ジエン並びにα−オレフィン単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含有してもよい。このようなその他の単量体としては、非共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸及びそのエステル、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸並びにそのモノエステル、多価エステル及び無水物、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
【0015】
非共役ジエン単量体は、炭素数が5〜12のものが好ましく、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが例示される。
などが例示される。
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
フッ素含有ビニル単量体としては、例えば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0016】
α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが好ましく挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル(アクリル酸エチル及びメタクリル酸エチルの意。以下同様。)、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチルなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸多価エステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジn−ブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジ2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0017】
架橋性単量体としては、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物;エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどのトリメタクリル酸エステル類;などの多官能エチレン性不飽和単量体のほか、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチロール(メタ)アクリルアミドなどの自己架橋性単量体などが挙げられる。
【0018】
共重合性老化防止剤としては、例えば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0019】
これらの共重合可能なその他の単量体として、複数種類を併用してもよい。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)が有するその他の単量体単位の含有量は、好ましくは60重量%以下、より好ましくは30重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。
【0020】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)のヨウ素価は120以下、好ましくは80以下、より好ましくは25以下、特に好ましくは15以下である。
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)のヨウ素価が高すぎると、ゴム架橋物の耐熱性が低下するので、そのような場合には通常の水素添加処理を行って主鎖の不飽和結合を飽和させ、ヨウ素価を低下させればよい。
【0021】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)のムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕は、好ましくは10〜300、より好ましくは20〜200、特に好ましくは30〜150である。ムーニー粘度が小さすぎるとゴム架橋物の機械的物性が劣るおそれがあり、逆に、大きすぎると架橋性ゴム組成物の加工性が劣る可能性がある。
【0022】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)の製造方法は特に限定されない。一般的には、メタクリロニトリル系単量体、共役ジエンおよび/またはα−オレフィン単量体、並びに必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御の容易性等から乳化重合法が好ましい。
共重合して得られた共重合体のヨウ素価が上記の範囲より高い場合は、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うと良い。
水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0023】
本発明の架橋性ゴム組成物は、芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)を含有する。芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)を含有することにより、他の種類の老化防止剤、即ち、アミン・ケトン縮合物系、キノリン誘導体系、モノフェノール誘導体系、ポリフェノール誘導体系、ヒドロキノン誘導体系、硫黄化合物系、リン化合物系などの老化防止剤を用いる場合に比して、ゴム架橋物の耐熱老化性の向上が顕著になる。
【0024】
芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)は、分子内に芳香族第二級アミンを有する老化防止剤であれば特に限定されないが、その具体例としては、4,4’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(p,p’−ジクミルジフェニルアミンとも言う。)、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン等のオクチル化ジフェニルアミン、スチレン化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミンなどのジアリール第二級モノアミン系老化防止剤;ジフェニル−p−フェニレンジアミン、混合ジアリール−p−フェニレンジアミン、ジナフチル−p−フェニレンジアミンなどのジアリール−p−フェニレンジアミン系老化防止剤;N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(メタクリロイル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのアルキルアリール−p−フェニレンジアミン系老化防止剤などが挙げられる。
【0025】
本発明の架橋性ゴム組成物における芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)の含有量は、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対し0.2〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。架橋性ゴム組成物における(b)成分の含有量が少な過ぎるとゴム架橋物の耐熱老化性が低下し、逆に、多すぎるとゴム架橋物は機械的強度が低下する可能性がある。
【0026】
本発明の架橋性ゴム組成物において、老化防止剤として上記(b)成分に加えて他の化学構造を有する老化防止剤を併用する場合は、その量が上記(b)成分の量の1.5倍以下の重量であることが好ましく、当重量以下の量であることがより好ましい。他の老化防止剤の量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱老化性が改善されないおそれがある。
【0027】
本発明の架橋性ゴム組成物は、架橋剤(c)を含有する。
架橋剤(c)としては、有機過酸化物、ポリアミン化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、硫黄化合物、塩基性金属酸化物および有機金属ハロゲン化物などのゴムの架橋に通常用いられる従来公知の架橋剤を用いることができるが、有機過酸化物が好ましい。
【0028】
有機過酸化物としては、通常、ゴム加工で架橋剤として使われるものを限定なく使用することができる。有機過酸化物の例としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類などが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。ジアシルパーオキサイド類として、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドなどが挙げられる。パーオキシエステル類としては、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが挙げられる。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対する架橋剤(c)の配合量は、0.2〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。架橋剤(c)の配合量が少なすぎると、ゴム架橋物は架橋密度が低下し、圧縮永久ひずみが大きくなるおそれがある。架橋剤(c)の配合量が多すぎると、ゴム架橋物はゴム弾性が不十分になる可能性がある。
【0029】
また、架橋効率を高めるために、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのラジカル重合性のある多官能性単量体を架橋助剤として含有させることもできる。
【0030】
本発明のゴム組成物および架橋性ゴム組成物には、その他一般的なゴムに使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、シリカ、短繊維などの補強剤;炭酸カルシウム、クレー、タルク、珪藻土、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの充填剤;可塑剤(フタル酸エステル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジノルマルアルキル、アジピン酸ジアルキル、アゼライン酸ジオクチル、セバシン酸ジアルキル、セバシン酸ジオクチル、クエン酸トリアルキル、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエーテルエステル、ポリエステル系、リン酸系およびパラフィン系等);顔料;滑剤;粘着付与剤;潤滑剤;難燃剤;防黴剤;受酸剤;帯電防止剤;磁性化合物;加工助剤;スコーチ防止剤;架橋促進剤;架橋遅延剤などを含有させてもよい。また、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)以外のゴムや樹脂を本発明の効果を実質的に阻害しない範囲で含有させてもよい。
【0031】
本発明の架橋性ゴム組成物の調製方法は特に限定されないが、好ましくは各成分を非水系で混合して調製される。混合方法に限定はないが、熱に不安定な架橋剤等を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダーなどの混合機で一次混練した後、ロ−ルなどに移して架橋剤等を加えて二次混練することが好ましい。
【0032】
本発明の架橋性ゴム組成物のムーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕(コンパウンドムーニー)は、好ましくは15〜150、より好ましくは50〜120である。本発明の架橋性ゴム組成物が上記コンパウンドムーニーを有すると、成形加工性に優れる。
【0033】
本発明のゴム架橋物は、前述の本発明の架橋性ゴム組成物を成形、加熱して架橋することにより得ることができる。一般的には、成形してから加熱するか、成形と同時に加熱する。
【0034】
成形温度は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、好ましくは100〜200℃、より好ましくは130〜190℃である。
【0035】
また、架橋時間は、架橋方法、架橋温度、成形形状などにより異なるが、1分間〜24時間、より好ましくは2分〜1時間が架橋密度と生産効率の面から好ましい。
【0036】
架橋するための加熱方法としては、ゴムの架橋に通常用いられるプレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、熱風加熱などの方法から適宜選択すればよい。
【0037】
また、ゴム架橋物の機械的強度を向上させるために、さらに上記と同様の温度および時間の加熱工程(二次架橋)を加えてもよい。二次架橋は空気、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン、ラドンなどのガス中に限らず真空中でも行うことができるが、好ましくは空気中で行う。
【0038】
本発明のゴム架橋物は、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れるニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの特性に加えて、耐熱老化性が極めて優れる。
【0039】
本発明のゴム架橋物は上記特徴を有するので、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;として好適に用いられるが、特にベルトおよびシール材として好適に用いられる。また、本発明のゴム架橋物は、印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、および医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、「部」および「%」は、特に記載しない限り重量基準である。また、測定は、下記の方法で行った。
(1)ムーニー粘度
JIS K6300−1に従って測定した。単位はML1+4(100℃)。
【0041】
(2)ゴム架橋物の常態物性試験
調製した架橋性ゴム組成物を170℃で20分間、10MPaでプレスして架橋させた後、ギヤーオーブンにて170℃で4時間二次架橋し、厚さ2mmのシートを得、これよりJIS K6251に従いJIS3号ダンベル形状の試験片を作製した。この試験片4枚を用いて引張強さ及び破断伸び(伸び)をJIS K 6251に従い、また、タイプAデュロメータ硬さをJIS K6253に従い、それぞれ測定して常態物性とした。
【0042】
(3)ゴム架橋物の耐熱老化試験
上記(2)と同様にして作製した試験片4枚をJIS K6257のノーマルオーブン法に従って160℃に1000時間置いてから取り出して上記(2)と同様にして引張強さ及び伸びを測定し、それらの上記(2)の常態物性からの変化の百分率を求めた。
【0043】
(製造例1)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、メタクリロニトリル45部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン55部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。濃度10重量%のハイドドキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、メタクリロニトリル単位45重量%、ブタジエン単位55重量%のメタクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0044】
該ラテックスに含有されるゴムの重量に対してパラジウム含有量が1000ppmになるようにオートクレーブにパラジウム触媒を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスを得た。
得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスに2倍容量のメタノールを加えて、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムを凝固した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1を得た。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1のヨウ素価は6、ポリマームーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕は75であった。
【0045】
(製造例2)
メタクリロニトリル45部を55部に、1,3−ブタジエン55部を45部にそれぞれ変えた他は製造例1と同様に行ってメタクリロニトリル単位55重量%、ブタジエン単位45重量%のメタクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
次に製造例1と同様に水素添加反応を行い、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム2を得た。ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム2のヨウ素価は6、ポリマームーニー粘度〔ML1+4(100℃)〕は70であった。
【0046】
(実施例1)
ヨウ素価6であるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1〔メタクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム水素添加物、メタクリロニトリル単位含有量45重量%、ポリマームーニー粘度ML1+4(100℃)75〕100部に、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)40部、酸化亜鉛(商品名「亜鉛華1号」、正同化学社製、架橋促進剤)5部、ステアリン酸(架橋促進剤)1部、N,N’−m−フェニレンジマレイミド(商品名「HVA#2」、昭和電工社製、架橋助剤)2部、4,4’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ナウガード445」ユニロイヤル社製、芳香族第二級アミン系老化防止剤)1.5部、2−メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩(商品名「ノクラックMBZ」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)1.5部および1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(バルカップ40KE、GEO Specialty Chemicals Inc製、有機過酸化物)10部(有機過酸化物純分4部)を配合し、50℃でロール混練して、架橋性ゴム組成物を調製した。この架橋性ゴム組成物を用いてゴム架橋物の常態物性および耐熱老化性を試験、評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1に代えてヨウ素価6であるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム2〔メタクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム水素添加物、メタクリロニトリル単位含有量55重量%、ポリマームーニー粘度ML1+4(100℃)70〕を同量用いた他は実施例1と同様に行った。実施例1と同様の試験、評価を行った結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
実施例1において、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1に代えてヨウ素価7以下のニトリル基含有共重合体ゴム〔商品名「Zetpol 2000L」、日本ゼオン社製、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム水素添加物、アクリロニトリル単位含有量37重量%、ポリマームーニー粘度ML1+4(100℃)65〕を同量用いた他は実施例1と同様に行った。実施例1と同様の試験、評価を行った結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
実施例1において、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム1に代えてヨウ素価7以下のニトリル基含有共重合体ゴム〔商品名「Zetpol 1000L」、日本ゼオン社製、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム水素添加物、アクリロニトリル単位含有量44重量%、ムーニー粘度ML1+4(100℃)70〕を同量用いた他は実施例1と同様に行った。実施例1と同様の試験、評価を行った結果を表1に示す。
【0050】
(比較例3)
実施例1において、4,4’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンに代えて2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリン(商品名「ノクラック224」、大内新興化学工業社製、老化防止剤)を同量用いた他は実施例1と同様に行った。実施例1と同様の試験、評価を行った結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1が示すように、本発明の架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物は、常態物性に比して耐熱老化試験(160℃で1000時間という厳しい条件)後の引張強さにほとんど低下はなく(実施例1のように増加の見られる例もある)、また、伸びは約半分程度しか減少していなかった(実施例1、2)。
一方、メタクリロニトリル系単量体単位を含有していないアクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物を用いると、耐熱老化試験後の物性は引張強さが本発明例の場合と同様であるが、伸びが大幅に低下して常態での測定値の1〜2割の値しかなかった(比較例1、2)。また、老化防止剤として、芳香族第二級アミン系でない老化防止剤を用いて得られるゴム架橋物の耐熱老化試験後の引張強さは実施例1と同様であったが、伸びは大幅に低下して常態での測定値の3割の値になった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価120以下、メタクリロニトリル系単量体単位含有量10〜70重量%のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(a)100重量部に対して、芳香族第二級アミン系老化防止剤(b)0.2〜10重量部および架橋剤(c)0.2〜10重量部を含有してなり、160℃で1000時間処理後の伸びが80%以上のゴム架橋物を与える架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項3】
ベルトまたはシール材である請求項2に記載のゴム架橋物。

【公開番号】特開2008−163114(P2008−163114A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352229(P2006−352229)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】