説明

架橋樹脂の製造法及び繊維強化樹脂成形品

【課題】ビス(2−オキサゾリン)化合物と反応させる芳香族アミンを特定することにより、機械的特性の向上を図った架橋樹脂及び疲労寿命の向上を図った繊維強化樹脂成形品を提供する。
【解決手段】ビス(2−オキサゾリン)化合物((A)成分)と、芳香族アミンとしてメタフェニレンジアミン((B)成分)又はパラフェニレンジアミンとを反応させて架橋樹脂を得る。(A)成分は、好ましくは、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンである。繊維強化樹脂成形品は、上記架橋樹脂と補強繊維(好ましくは、アラミド短繊維が抄造により所定形状に附形されたもの)を複合したものである。その製造は、補強繊維基材を配置した成形金型に、上記(A)(B)成分を加熱して混合溶解した液状物を硬化促進剤とともに注入し、これを補強繊維間に浸透させ加熱硬化させることにより行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な架橋樹脂の製造法に関する。また、前記製造法により得た架橋樹脂を用いた繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(2−オキサゾリン)化合物と多価アミンを反応させることによって、架橋樹脂を製造することが特許文献1に記載されている。また、ビス(2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミン及びエポキシ化合物を反応させることにより架橋樹脂を製造することが特許文献2に記載されている。さらに、熱硬化性樹脂と補強繊維を主成分として抄造したシートを使用し、これを積層して加熱加圧成形することにより繊維強化樹脂成形品(樹脂ギヤ)を製造することが特許文献3に記載されている。
【0003】
しかし、ビス(2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミンを反応させることにより得られる架橋樹脂の性質が芳香族アミンの化学構造に依存し、これによって変化することは全く知られていない。さらに、繊維強化樹脂成形品(樹脂ギヤ)の機械特性、特に疲労寿命が熱硬化性樹脂と補強繊維の組み合せに依存し、これによって変化することは全く知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−104838号公報
【特許文献2】特開平06−306169号公報
【特許文献3】特開平11−227061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビス(2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミンを反応させることにより得られる架橋樹脂は、優れた機械的特性を有する。
本発明が解決しようとする課題は、芳香族アミンを特定することにより、さらに、機械的特性の向上を図った架橋樹脂を製造することである。
【0006】
また、熱硬化性樹脂と補強繊維の形態の組み合せを特定することにより、機械特性、特に疲労寿命の向上を図った繊維強化樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る製造法は、ビス(2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミンとしてメタフェニレンジアミンとを反応させて架橋樹脂を得る(請求項1)。又は、ビス(2−オキサゾリン)化合物と芳香族アミンとしてパラフェニレンジアミンとを反応させて架橋樹脂を得る(請求項2)。ビス(2−オキサゾリン)化合物は、好ましくは、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンである(請求項3)。
【0008】
上記のように、芳香族アミンを特定すると、架橋樹脂は分子構造内の架橋間距離が小さくなり、また、分子鎖の絡み合いが大きくなる。その結果、機械的特性を向上させることができる。ビス(2−オキサゾリン)化合物を、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとすると、硬化反応で得られた架橋樹脂がアラミド繊維と類似した構造を持つため、架橋樹脂とアラミド繊維の親和性がより向上し、機械特性、特に疲労寿命の大幅な向上が可能となる。
2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとメタフェニレンジアミンとを反応させて得られる架橋樹脂モデルは、(化1)に示すような分子構造である。
また、2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンとパラフェニレンジアミンとを反応させて得られる架橋樹脂モデルは、(化2)に示すような分子構造である。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
また、本発明に係る繊維強化樹脂成形品は、上記方法により製造した架橋樹脂を補強繊維、好ましくはアラミド繊維と複合したものであり(請求項4、5)、さらに、架橋樹脂と複合する補強繊維を、抄造により所定形状に附形されたものとすることにより、架橋樹脂と補強繊維の接着面積が増加し、繊維強化樹脂成形品の機械特性、特に疲労寿命の大幅な向上が可能となる(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は2に係る発明は、ビス(2−オキサゾリン)化合物とメタフェニレンジアミン又はパラフェニレンジアミンを反応させることを特徴とする架橋樹脂であり、分子構造内の架橋間距離が小さくなり、また、分子鎖の絡み合いが大きくなるので、機械的特性を向上させることができる。
なお、パラフェニレンジアミンを選択した場合は剛直な架橋樹脂が得られる。一方、メタフェニレンジアミンを選択した場合は、パラフェニレンジアミンを選択した場合と比較して柔軟性のある架橋樹脂が得られ、機械的特性が良好となる。このため、より高度の機械的特性を求める場合には、パラフェニレンジアミンよりもメタフェニレンジアミンを選択するほうが好ましい。
請求項5及び6に係る発明は、アラミド繊維と複合させると、硬化反応で得られた架橋樹脂がアラミド繊維と類似した構造を持つため、架橋樹脂と補強繊維の親和性がより向上し、さらに、補強繊維を、抄造により所定形状に附形された形態とすると、架橋樹脂と補強繊維の接着面積が増加するため、これらの複合成形品の機械特性、特に疲労寿命の大幅な向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る方法を実施するに当り、ビス(2−オキサゾリン)化合物((A)成分)は、例えば、2,2’−(1,3フェニレン)ビス−2−オキサゾリン、2,2’−(1,4フェニレン)ビス−2−オキサゾリンであり、その中でも、分子鎖の絡み合い及び融点の低さの観点から、2,2’−(1,3フェニレン)ビス−2−オキサゾリンが好ましい。
【0014】
(A)成分とメタフェニレンジアミン((B)成分)又はパラフェニレンジアミン((C)成分)との反応には、適宜、硬化促進剤を配合する。硬化促進剤は、例えば、n−オクチルブロマイドである。架橋樹脂を得る反応は、(A)成分と(B)成分又は(C)成分を加熱して混合溶解し、ここへ硬化促進剤を添加して行なう。
(A)成分と(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の総量を100質量部として、(A)成分を75〜83.2質量部とするのが好ましく、さらに好ましくは、79.5〜80.5質量部とする。(A)成分の配合量が少ないと架橋樹脂を得られなくなる傾向があり、(A)成分の配合量が多いと、非常に硬くて脆い架橋樹脂となる傾向がある。
また、(A)成分と(C)成分の配合量は、(A)成分と(C)成分の総量を100質量部として、(A)成分を75〜83.2質量部とするのが好ましく、さらに好ましくは、79.5〜80.5質量部とする。(A)成分の配合量が少ないと架橋樹脂を得られなくなる傾向があり、(A)成分の配合量が多いと、非常に硬くて脆い架橋樹脂となる傾向がある。
【0015】
本発明に係る繊維強化樹脂成形品は、上記のように製造した架橋樹脂を補強繊維と複合したものである。その製造は、例えば、補強繊維基材を配置した成形金型に、上記(A)(B)成分又は(A)(C)成分を加熱して混合溶解した液状物を硬化促進剤とともに注入し、これを補強繊維間に浸透させ加熱硬化させることにより行なう。成形した繊維強化樹脂成形品に占める補強繊維の割合は、50体積パーセント程度である。
上記補強繊維は、例えば、ポリアミド系繊維等の耐熱性有機合成繊維が挙げられ、その中でも振動吸収性の観点から、芳香族ポリアミド系の耐熱性有機合成繊維(アラミド繊維)がより好ましい。アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維を併用することができる。
【0016】
補強繊維は、成形品の形態に近似した形状に附形して用いることができる。例えば、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維を混紡した糸を筒状体に編み、この筒状体を端部から軸方向に巻き上げてリング状補強繊維基材としたものである。或いは、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維、必要に応じて他の成分を水中に分散し、これらを、所定長さの筒状体に抄造する。そして、この筒状体を軸方向に圧縮したリング状補強繊維基材である。
【0017】
耐熱性有機合成繊維を使用した上記の繊維強化樹脂製品は、優れた機械的性質と耐熱性に加えて高靭性が付与されるため、宇宙、航空、船艇、鉄道車両、自動車、土木建築、電気電子機器、耐食機器、スポーツ及びレジャー用品、医療機器、各種工業製品の部品として使用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例1
2,2’−(1,3フェニレン)ビス−2−オキサゾリン((A)成分)とメタフェニレンジアミン((B)成分)をモル比2.0/1.0(質量比80.0/20.0)の配合割合で加熱混合溶解して液状物とする。これに、硬化促進剤としてn−オクチルブロマイドを配合する。硬化促進剤の配合量は、(A)(B)成分の総量100質量部に対して1.0質量部である。これを、減圧状態にした成形金型(補強繊維基材とインサートを配置してある)に注入し、加熱して硬化させた。具体的には、以下のとおりである。
【0019】
上記補強繊維基材は、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維を質量比50/50の割合で混紡した糸を筒状体に編んだものを準備し、この筒状体を端部から軸方向に巻き上げて、外径82mm,内径60mm,厚さ20mmのリング状補強繊維基材としたものである。
二個積み重ねた上記リング状補強繊維基材の中央にインサートとして金属製ブッシュを配置し、200℃の成形金型に収容する。成形金型は、リング状補強繊維基材の厚さ方向に開閉動作するものであり、成形金型を閉じる動作によりリング状補強繊維基材を圧縮して、面方向に広がったリング状補強繊維基材を金属製ブッシュの周囲に圧接してその形状になじませる。
次に、閉じた成形金型に上記液状樹脂を注入し、リング状補強繊維基材に浸透させた液状樹脂を加熱硬化して金属製ブッシュをインサートとする円板を成形する。そして、成形した円板の周囲に切削加工により歯を形成し樹脂歯車とした。
【0020】
実施例2
パラ系アラミド繊維のカットファイバー(繊維長3mm)とメタ系アラミド繊維のカットファイバー(繊維長3mm)及びパラ系アラミド繊維パルプを質量比42/53/5の割合で水中で解離、分散した後、所定長さの筒状体に抄造する。この筒状体を脱水、乾燥し、併せて、筒状体の軸方向に圧縮して、外径82mm,内径60mm,厚さ20mmのリング状補強繊維基材としたものを使用し、そのほかは、実施例1と同様とした。
【0021】
実施例3
実施例1において、(B)成分の代わりにパラフェニレンジアミン((C)成分)を使用した。(A)成分と(C)成分をモル比2.0/1.0(質量比80.0/20.0)の配合割合で加熱混合溶解して液状物とする。これに、硬化促進剤としてn−オクチルブロマイドを配合する。硬化促進剤の配合量は、(A)(C)成分の総量100質量部に対して0.5質量部とし、そのほかは、実施例1と同様とした。
【0022】
実施例4
実施例2において、(B)成分の代わりにパラフェニレンジアミン((C)成分)を使用した。(A)成分と(C)成分をモル比2.0/1.0(質量比80.0/20.0)の配合割合で加熱混合溶解して液状物とする。これに、硬化促進剤としてn−オクチルブロマイドを配合する。硬化促進剤の配合量は、(A)(C)成分の総量100質量部に対して0.5質量部とし、そのほかは、実施例2と同様とした。
【0023】
比較例1
実施例1において、メタフェニレンジアミンの代わりに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを使用し、そのほかは、実施例1と同様とした。
【0024】
比較例2
実施例2において、メタフェニレンジアミンの代わりに4,4’−ジアミノジフェニルメタンを使用し、そのほかは、実施例2と同様とした。
【0025】
上記実施例、比較例で作製した繊維強化樹脂成形品試験片を用いて、曲げ強度、圧縮強度、衝撃強度を測定した結果を表2に示す。また、樹脂歯車を用いてモータリング耐久寿命を測定した結果も併せて示す。測定方法は、以下に示すとおりである。
曲げ強度:試験片形状を25mm×60mm×3mmとし、島津製作所製オートグラフAGS−500を用いて3点曲げ試験法にて測定した。
圧縮強度:試験片形状を13mm×13mm×25mmとし、島津製作所製オートグラフAGS−5000を用いて測定した。
衝撃強度:試験片形状を10mm×60mm×3mmのノッチなしとし、アイゾット衝撃試験法により測定した。
樹脂歯車モータリング耐久寿命:表1に示す試験条件により樹脂歯車を連続回転させ、樹脂歯車が破壊するまでの時間を測定した。
【0026】
さらに、表1における入力トルクを変化させ、樹脂歯車が破壊するまでの総回転数を測定したモータリング耐久試験結果を図1〜2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】

表2、図1〜2から明らかなように、本発明による架橋樹脂は、高い圧縮強度を付与できることを理解できる。複合成形品、殊に、樹脂歯車においては、疲労寿命の大幅な向上により耐久性を付与できる(実施例と比較例の対比)。
また、メタフェニレンジアミンを選択した場合は、パラフェニレンジアミンを選択した場合と比較して曲げ強度、圧縮強度、樹脂歯車の疲労寿命が向上することが理解できる(実施例1と実施例3、実施例2と実施例4の対比)。さらに、補強繊維を、アラミド短繊維が抄造により所定形状に附形された形態とすると、曲げ強度、衝撃強度が向上し、殊に樹脂歯車の疲労寿命が大幅に向上することが理解できる(実施例2と実施例1、実施例4と実施例3の対比)。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る実施例における樹脂歯車のモータリング耐久試験結果を示す直線図である。
【図2】本発明に係る他の実施例における樹脂歯車のモータリング耐久試験結果を示す直線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(2−オキサゾリン)化合物とメタフェニレンジアミンとを反応させることを特徴とする架橋樹脂の製造法。
【請求項2】
ビス(2−オキサゾリン)化合物とパラフェニレンジアミンとを反応させることを特徴とする架橋樹脂の製造法。
【請求項3】
ビス(2−オキサゾリン)化合物が2,2’−(1,3フェニレン)ビス2−オキサゾリンであることを特徴とする請求項1又は2記載の架橋樹脂の製造法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の方法により製造した架橋樹脂を補強繊維と複合した繊維強化樹脂成形品。
【請求項5】
請求項3記載の方法により製造した架橋樹脂を、補強繊維としてアラミド繊維と複合した繊維強化樹脂成形品。
【請求項6】
架橋樹脂と複合する補強繊維が、抄造により所定形状に附形されたものである請求項4又は5記載の繊維強化樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−70599(P2007−70599A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80135(P2006−80135)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】