説明

染料混合物の水性配合物

本発明は、少なくとも1種のアニオン染料、少なくとも1種のカチオン性構造単位から誘導されるカチオン染料および/または酸性染料、ならびに場合により少なくとも1種類の配合助剤を含む染料混合物の水性配合物、その製造法、ならびに天然または合成繊維、特に紙または板紙を染色するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類のアニオン染料、少なくとも1種類のカチオン性構造単位から誘導されるカチオン染料および/または酸性染料、ならびに場合により少なくとも1種類の配合助剤を含む染料混合物の水性配合物、その調製法、ならびに天然または合成繊維、特に紙または板紙を染色するためのその使用に関する。
【0002】
アニオン直接染料およびカチオン直接染料は、両方とも、従来から紙の染色のための幅広い使用が見出されていた。しかし、アニオン直接染料は、概して、特に漂白されたパルプに対する、高い親和性、比較的高い光安定性、しかし中程度にすぎない色の濃さおよび輝度を特徴とするのに対して、カチオン染料は、本発明に定義される限りで、概して、漂白されたパルプに対する、強い色の濃さおよび輝度、しかし中程度にすぎない親和性を、不充分な光安定性と併せて示す。
【0003】
その結果、紙を鮮やかな色調で染色できる染料系を生成するために、両方の種類の染料の望ましい特性を高度の吸尽性と結合して、優れた堅牢性という特性を有する染色物を許容され得る費用で得ることは、明らかに好都合であると思われる。
【0004】
更に、近年では、染料の濃縮された水溶液の使用は、そのような溶液が粉末形態の染料と比較したときに保有する利点のために、特に紙を染色するために重要になっている。したがって、たとえば、溶液の使用は、粉塵形成に付随する困難を回避し、時間を消費し、かつ困難なことが多い、染料粉末の水への溶解から使用者を解放する。濃縮溶液の使用は、連続的な染色工程の発達によっても促進されるが、これらの工程では、溶液をパルプ流に直接計り入れるか、または製紙工程の間のその他何らかの適切な時点で加えることが好都合だからである。しかし、そのような溶液は、生態学的および毒物学的に許容されるべきであり、濃縮された形態でも貯蔵の際に安定的であるべきであり、かつ比較的低い温度でさえ、容易に供給できるべきである。
【0005】
したがって、染料のそのような組合せの更なる要件は、貯蔵安定的であり、好ましくは濃縮された、水溶液または懸濁液として配合することができることである。
【0006】
しかし、通常は、水性媒体中でのアニオン染料およびカチオン染料の組合せは、沈澱を導き、染色物の輝度および色の濃さの低下、不安定な水性液体配合物、および染料混合物の紙に対する極めて不充分な親和性を生じることが予想されるであろう。
【0007】
特定の直接染料および酸性染料、反応染料および酸性染料、ならびに酸性染料、直接染料および反応染料の組合せが、米国特許願第2003/0116056 A1号(US2003/0116056 A1)および第2003/0019393 A1号明細書(US2003/0019393 A1)に、インクジェット印刷での使用に適切な混合物としてクレームされている。しかし、5%という最高の染料濃度を、かなりの量の溶媒およびその他の有機添加剤と一緒に含有する配合物のみが実際に記載されているにすぎない。インクジェット記録材料に用いるのに適切な、黄色の直接染料および酸性染料の混合物も、特開平(11)012514に開示されている。しかし、適切な酸性染料は、すべて、カチオン性発色団から誘導されないアゾ染料誘導体である。
【0008】
しかしながら、驚くべきことに、適当な染料の適切な組合せは、上記の問題を抱えることがなく、むしろ、個々の成分の望ましい効果を結びつけ、さらに、貯蔵安定的な水性配合物として容易に入手できる場合があることが見出された。
【0009】
したがって、本発明は、水性配合物であって、
(a)配合物の総重量に基づいて、5〜25重量%、好ましくは8〜15重量%の、アニオン直接染料、加水分解形態を含めた反応染料、およびカチオン性の基または構造単位を含有しない酸性染料からなる群から選ばれる、少なくとも1種類のアニオン染料と、
(b)配合物の総重量に基づいて、1〜10重量%、好ましくは2〜6重量%の、カチオン電荷が一つ以上の酸性の基の存在によって補償もしくは過補償されるカチオン性構造単位から誘導される、少なくとも1種類の塩基性カチオン染料および/または酸性染料と、ただし、C.I. Acid Red 52、C.I. Acid Red 92およびC.I. Acid Blue 9を除き、
(c)配合物の総重量に基づいて、0〜10重量%、好ましくは0〜1重量%の、少なくとも1種類の配合助剤と、
(d)100%にする水と
を含む水性配合物に関する。
【0010】
アニオン染料、配合物の成分(a)は、アニオン直接染料、加水分解形態を含めた反応染料および酸性染料(ただし、後者は、カチオン性の基または構造単位を含まない)からなる群から選ばれるが、アニオン直接染料が最も好ましい。
【0011】
適切なアニオン直接染料の例は、カラーインデックスに、色および適切な数が後に続く「C.I. Direct」なる名称の下に開示されている。
【0012】
そのような直接染料は、非常に様々な化学物質から誘導される場合があるが、少なくとも一つのスルホン酸基を含有しており、それにより、スルホン酸基の数が変えられ、最適の親和性を得る一方で、充分な水溶性を確保する。スルホン酸基に加えて、カルボン酸およびホスホン酸の基も存在してよい。最も好適な化学物質は、スチルベン誘導体、および特にアゾ化合物である。
【0013】
配合物の成分(a)として用いるのに適切な染料の具体的な例は、C.I. Direct Yellow 11、47、50、84、137、157および160、C.I. Direct Orange 29、C.I. Direct Red 80、239および254、C.I. Direct Violet 9および51、ならびにC.I. Direct Blue 290であるが、これらの例は、本質的に制限しようとするものではない。
【0014】
カチオン性発色団から誘導されない適切な酸性染料は、たとえば、酸性基で置換されたモノ−またはビス−アゾ染料、およびその金属錯体であって、さらに、カラーインデックスに、色および適切な数が後に続く「C.I. Acid」なる名称の下に開示されているとおりである。
【0015】
配合物の成分(b)に関して、これは、カチオン性構造単位から誘導される塩基性カチオン染料および/または酸性染料であって、カチオン電荷は、一つ以上の酸性の基の存在によって補償もしくは過補償される。
【0016】
好ましくは、塩基性カチオン染料は、モノ−、ビス−およびトリス−アザヘミシアニンからなる群から選ばれ、C.I.Basic Red 46、C.I.Basic Blue 3および41によって例示される場合がある。
【0017】
酸性染料は、好ましくは、ジフェニル−およびトリフェニル−メタンならびにキサンテンを含有するスルホン酸基からなる群から選ばれ、たとえばC.I. Acid Blue 1、83および90であって、これらはすべて、カチオン電荷が、二つのスルホン酸基の存在によって過補償されたトリフェニルメタンのカチオン染料であり、この種の染料が特に好ましくて、本来の発色団がカチオン染料のそれであるのに、最終的には負の電荷を有する、酸性染料が得られる。好適なそれ以上の例は、C.I. Acid Violet 17および45である。
【0018】
好ましくは、アニオン染料は、また酸性染料も、水に易容性の塩の形態で存在する。その結果、適切な塩は、アルカリ金属塩、たとえばリチウム、カリウムもしくは特にナトリウム塩、またはアンモニウム塩、モノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−C1〜C4アルキルアンモニウム塩もしくはC2〜C4ヒドロキシアルキルアンモニウム塩、あるいはその混合物である。
【0019】
同様に、カチオン染料の場合、対イオンは、充分な水溶性を確保するようなものであるべきである。この場合に好適な塩は、たとえばハロゲン化物、特に塩化物、硫酸塩、メチル硫酸塩、ならびに特に低級脂肪族カルボン酸塩、たとえばギ酸塩、酢酸塩および乳酸塩である。
【0020】
配合促進剤を用いることが必要であるべき場合、これらは、配合物を適用するのに望ましい特性を付与するために普通に用いられる薬剤から選ばれる。したがって、これらは、可溶化剤、ヒドロトロピー剤、粘度調節剤、分散剤、殺菌剤およびpH調整剤からなる群から選ばれてもよい。
【0021】
配合物のpHは、概して、5〜12の範囲内にあるが、好ましくは6〜10である。
【0022】
更に、配合物の調製に用いられる染料は、それらの合成から生じる少量の副生物および/または添加物、特に無機塩、たとえば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、またはギ酸、酢酸および乳酸のナトリウム塩を含有してもよい。
【0023】
配合物は、上記の個々の成分を所望のいかなる順序で混合することによって、簡単に調製してもよい。しかし、好ましくは、アニオン染料、配合物の成分(a)を、特に膜分離手法によって、たとえば精密または限外濾過によって、初めに精製して、副生物を除去し、塩含有量を低下させる。精製されていてもよい湿潤フィルターケーキの形態での、第二の染料、配合物の成分(b)を、アニオン染料、成分(a)の低塩分の濃縮された水溶液に加えた後、必要に応じて、配合促進剤を加える。次いで、混合物を、30〜80℃の温度、好ましくは40〜60℃で、溶解が完了するまで撹拌する。必要ならば、混合物を膜分離法に付して、残留する塩を除去してもよい。20〜30℃に冷却した後、必要ならば、溶液を清澄化させてもよい。
【0024】
本発明の配合物は、天然または合成材料、特にセルロース性材料を、いかなる望ましい色調にも染色するのに適切である。特に、配合物は、紙および板紙を染色するのに適切である。
【0025】
その結果、更なる態様では、本発明は、前に定義されたような液体組成物で紙を処理することによって、紙を染色する方法に関する。液体調製品は、場合により水で希釈した後に、紙または板紙を染色するのに用いられて、それにより、これらの材料は、たとえば、パルプにブラシがけもしくは浸漬によってか、または紙の表面に塗装もしくは吹付けによって塗布することによってか、あるいは連続染色法での適用に向けて染色することができて、それにより、本発明の液体組成物で染色された紙または板紙は、本発明の更なる態様を構成する。
【0026】
下記の実施例は、本発明を、本質的に制限しようとすることなく例示するのに役立つ。部および百分率は、別途記述されない限り重量による。
【0027】
実施例1
12%のC.I. Direct Blue 290を含有する水性混合物(Pergasol(登録商標)Blue 2R-Z液)200gに、40%のC.I. Basic Blue 41を含有する粉末配合物(Maxilon(登録商標)Blue GRLの300%粉末)10.6gを加え、混合物を60℃で30分間撹拌した。一晩冷却させておいた後、混合物を清澄化した。得られた溶液は、優れた吸尽度および水に対する堅牢性を有して、紙を鮮明な青の色調に、Direct Blue 290単独より鮮明に染色した。配合物は、−10〜50℃の温度での数ヶ月の期間を越える貯蔵に対して安定的であった。
【0028】
実施例2
実施例1で、Maxilon Blue GRL300%粉末10.6gを、200%のMaxilon Blue 5G-GR(C.I. Basic Blue 3)5.0gに置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0029】
実施例3
実施例1で、Maxilon Blue GRLの300%粉末10.6gを、300%のPolar(登録商標)Blue G-01(C.I. Acid Blue 90)5.0gに置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0030】
実施例4
13%のC.I. Direct Violet 9を含有する水性混合物(Pergasol Violet BN-Z液)200gに、40%のC.I. Basic Blue 41を含有する粉末配合物(Maxilon Blue GRLの300%粉末)8.3gを加え、混合物を60℃で30分間撹拌した。一晩冷却させておいた後、混合物を清澄化した。得られた溶液は、優れた吸尽度および水に対する堅牢性を有して、紙を鮮明な青の色調に、Direct Violet 9単独に比べより鮮明に染色した。配合物は、−10〜50℃の温度での数ヶ月の期間を越える貯蔵に対して安定的であった。
【0031】
実施例5
実施例4で、Maxilon Blue GRLの300%粉末8.3gを、200%のMaxilon Blue 5G-GR(C.I. Basic Blue 3)5.0gに置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0032】
実施例6
実施例4で、Maxilon Blue GRLの300%粉末8.3gを、2.5gのC.I. Acid Blue 1に置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0033】
実施例7
実施例4で、Maxilon Blue GRLの300%粉末8.3gを、2.0gのC.I. Acid Blue 83に置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0034】
実施例8
実施例4で、Maxilon Blue GRLの300%粉末8.3gを、3.0gのC.I. Acid Blue 90に置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0035】
実施例9
実施例4で、Maxilon Blue GRLの300%粉末8.3gを、5.0gのC.I. Acid Violet 17に置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。
【0036】
実施例10
12%のC.I. Direct Blue 290を含有する水性混合物(Pergasol Blue 2R-Z液)350gに、13%のC.I. Direct Violet 9を含有する液体組成物(Pergasol Violet BN-Z液)131g、およびC.I. Basic Blue 41の湿潤低塩分フィルターケーキ9g(Maxilon Blue GRLの300%粉末14.8gの濃さに相当する)を加え、混合物を60℃で30分間撹拌した。一晩冷却させておいた後、混合物を清澄化した。得られた溶液は、優れた吸尽度および水に対する堅牢性を有して、紙を鮮明な帯赤青色の色調に染色した。配合物は、−10〜50℃の温度での数ヶ月の期間を越える貯蔵に対して安定的であった。
【0037】
実施例11
C.I.Direct Yellow 11の30%水性配合物(Pergasol Yellow S-Z液)150gを、4.5gのC.I. Acid Violet 49、C.I. Direct Red 239の10.5%水性配合物(Pergasol Red G液)35g、C.I. Basic Red 46(Maxilon Red GRLの200%粉末)1.0g、および水50gと60℃で混合し、混合物を濾過した。得られた溶液は、優れた吸尽度で紙を褐色の色調に染色して、優れた堅牢性の特性を染色物に与えた。配合物は、−10〜50℃の温度での数ヶ月の期間を越える貯蔵に対して安定的であった。
【0038】
実施例12
C.I.Direct Yellow 11の30%水性配合物(Pergasol Yellow S-Z液)150gを、5.0gのC.I. Acid Violet 49、C.I. Direct Red 239の10.5%水性配合物(Pergasol Red G液)35g、および水20gと60℃で混合し、混合物を濾過した。得られた溶液は、優れた吸尽度で紙を褐色の色調に染色して、優れた堅牢性の特性を染色物に与えた。配合物は、−10〜50℃の温度での数ヶ月の期間を越える貯蔵に対して安定的であった。
【0039】
実施例13
実施例12で、C.I. Acid Violet 49を、Polar Blue G-01の300%(C.I. Acid Blue 90)に置き換えた場合、同様に優れた結果が達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性配合物であって、
(a)配合物の総重量に基づいて、5〜25重量%の、アニオン直接染料、加水分解形態を含めた反応染料、およびカチオン性の基または構造単位を含有しない酸性染料からなる群から選ばれる、少なくとも1種類のアニオン染料と、
(b)配合物の総重量に基づいて、1〜10重量%の、カチオン電荷が一つ以上の酸性の基の存在によって補償もしくは過補償されるカチオン性構造単位から誘導される、少なくとも1種類の塩基性カチオン染料および/または酸性染料と、ただしC.I. Acid Red 52、C.I. Acid Red 92およびC.I. Acid Blue 9を除き、
(c)配合物の総重量に基づいて、0〜10重量%の、少なくとも1種類の配合助剤と、
(d)100%にする水と
を含む水性配合物。
【請求項2】
(a)配合物の総重量に基づいて、8〜15重量%の、少なくとも1種類のアニオン染料と、
(b)配合物の総重量に基づいて、2〜6重量%の、少なくとも1種類の塩基性カチオン染料および/または酸性染料と、
(c)配合物の総重量に基づいて、0〜1重量%の、少なくとも1種類の配合助剤と、
(d)100%にする水と
を含む、請求項1記載の水性配合物。
【請求項3】
成分(b)が、モノ−、ビス−およびトリス−アザヘミシアニンからなる群から選ばれる塩基性カチオン染料である、請求項1または2記載の水性配合物。
【請求項4】
酸性染料が、ジフェニル−およびトリフェニル−メタンならびにキサンテンを含有するスルホン酸基からなる群から選ばれる、請求項1または2記載の水性配合物。
【請求項5】
酸性染料が、二つのスルホン酸基で置換されたトリフェニルメタンである、請求項4記載の水性配合物。
【請求項6】
配合助剤が、可溶化剤、ヒドロトロピー剤、粘度調節剤、分散剤、殺菌剤およびpH調整剤からなる群から選ばれる、先行する請求項のいずれか一項に記載の水性配合物。
【請求項7】
先行する請求項のいずれか一項に記載の配合物を調製する方法であって、個々の成分を所望のいかなる順序で混合することによる方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合物の使用であって、天然または合成材料、特にセルロース性材料を染色するための使用。
【請求項9】
紙および板紙を染色するための、請求項8記載の使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合物で染色された、紙または板紙。

【公表番号】特表2008−523183(P2008−523183A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544879(P2007−544879)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/056255
【国際公開番号】WO2006/061333
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(396023948)チバ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Holding Inc.
【Fターム(参考)】