説明

染毛用乳化組成物の製造方法

【課題】適正な後増粘により容器充填時と毛髪塗布時にそれぞれ好適な範囲の粘度を示し、かつ染料類の配合量が異なるシリーズ商品を構成する染毛用乳化組成物間での粘度のバラツキを防止できる染毛用乳化組成物を、低温乳化法によって製造する。
【解決手段】水相である(A)相と、炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールの1種以上及び特定の一般式(I)で表される(C)成分を含有する(B)相とを低温乳化法の温度条件下で混合する工程を含み、この工程において(A)相、(B)相、(A)/(B)混合相の少なくとも1相に対して(D)成分:染料を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は染毛用乳化組成物の製造方法に関する。更に詳しくは本発明は、低温乳化法によって、製造直後には容器充填に好適な流動性を示し、その後に粘度が上昇して毛髪への施用時には染毛用剤としての適正な粘度を示す染毛用乳化組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水相と油相とを界面活性剤等の存在下で混合・撹拌して乳化組成物を製造するに当たり、旧来の標準的な高温乳化法においては、油相を油相成分の融点以上の高い温度、例えば70〜80℃に調整すると共に、水相も同様の高い温度に調整する。このような高温乳化法では、水相と油相の両方を加熱するエネルギーが必要であり、しかも混合後は冷却によって過剰の熱エネルギーを除去する必要があるため、エネルギーの効率利用という要求に反する。更に、混合後の冷却時間が長くなるため、乳化組成物の製造効率も悪い。
【0003】
これに対して、近年提唱されている低温乳化法では、少なくとも水相は加温せずに、あるいは余り加温せずに用いられ、しかもこの水相により乳化と同時に冷却が行われるため、高温乳化法に比較してエネルギー効率及び製造効率が向上するという顕著なメリットがある。更に、一般的に、低温乳化法では調製直後から乳化組成物の粘度変化がなく、ロットごとに安定した品質の乳化組成物が得られることを特徴としている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−143935号公報。 上記の特許文献1では、低温乳化法で毛髪化粧料等を製造するに当たり、水相と油相とを撹拌混合処理する際の撹拌の剪断速度と処理時間をコントロールすることにより、乳化物の粘度を制御できるとしている。但し、撹拌処理時に乳化物の粘度を低下又は上昇させ得るとしても、処理後の乳化物の粘度変化については記載していない。
【0005】
【特許文献2】特開2005−255627号公報。 上記の特許文献2では、界面活性能を有するカチオン性化合物と特定の高級アルコールを含有する油相を用い、低温乳化法によって製造されるリンス、コンディショナー、トリートメント等の毛髪化粧料を開示している。但しその狙いは、毛髪塗布時の延展性に優れ、すすぎ時における毛髪の絡まり、きしみ等がないという毛髪化粧料の官能的優位性の実現にあり、毛髪化粧料の製造後の粘度変化については記載していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(第1の課題)
しかし、染毛用乳化組成物の製造及び毛髪への施用に関連して、第1の課題として、乳化組成物の粘度あるいは流動性に関わる次の(a)、(b)の性能を両立させる必要がある。しかも、低温乳化法を用いて前記の顕著なメリットを確保したもとで、これらの性能を両立させた乳化組成物を製造することは、容易ではない。
【0007】
(a)の性能として、乳化組成物一般に言えることではあるが、製造後の乳化組成物には十分な流動性(低粘度)が要求される。そうでなければ乳化組成物を容器に充填する際に歩留まりや充填速度の低下を招き、製造効率が悪化する。
【0008】
(b)の性能として、染毛用組成物に特有の事情であるが、染毛用組成物は毛髪に塗布した状態のままで数分ないし数十分間にわたり放置して使用するものであるため、その間に毛髪から垂れ落ちない程度の比較的高い粘度が要求される。即ち、製造後における適正な「後増粘」が要求される。従来、高温乳化法による乳化組成物においては後増粘の指摘が散見されるが、低温乳化法による乳化組成物については、このような報告は見られない。
【0009】
【特許文献3】特表2002−519187号公報。 上記の特許文献3では、例えばその請求項10に規定するように、毛髪染色クリームの低温乳化法を開示し、発明の効果として、エネルギー効率及び製造効率の向上等の低温乳化法の一般的な利点を挙げている。しかし、乳化物の粘度に関しては、「後増粘が起こらず、製造後の粘度が安定している」としており、前記の第1及び第2の性能を両立させるという課題及びその解決手段を示していない。(第2の課題) 更に染毛用乳化組成物の製造及び毛髪への施用に関連して、染毛用乳化組成物に特有の事情に基づく、次のような第2の課題を指摘することができる。
【0010】
即ち、染毛剤商品は多種の色調をシリーズにおいて取揃える必要があるため、その商品シリーズにおいて染料類の配合量が色調によって大きく異なる。そしてこれらの染料は通常は水溶性であって、塩の形態であるものも多い。一方、一般的に乳化組成物は塩などの水溶性成分の配合量により粘度が左右され易いという現象が知られている。従って、染料類以外の乳化物組成が同一でも水溶性成分としての染料類の配合量が異なるような、「同種染毛剤の多種色調に係るシリーズ商品」の相互間で粘度のバラツキが生じる。このような粘度のバラツキは特に低粘度領域において顕著に現れる。
【0011】
この点に関連して、高温乳化法により調製した乳化物では後増粘が起こって高粘度になり、粘度のバラツキは相対的に小さくなるため、上記のような粘度のバラツキは余り問題にはならない。しかし従来の低温乳化法では後増粘が起こらないので、例えば文献3に示すような低温乳化法を染毛剤に適用すると、同種染毛剤の多種色調に係るシリーズ商品が色調により粘度の顕著なバラツキを伴う結果となり、製品の品質管理上に問題がある。
【0012】
上記の「製品の品質管理上の問題」として、次のような具体例を挙げることができる。即ち、業務上多種色調の染毛剤を使い分ける美容師にとって、同種染毛剤の色調毎に粘度が異なると、客が求める色調によって塗布液の粘度が異なることになり、毎回塗布する際に塗布方法を注意しなければならず、使いづらい染毛剤であるとの印象を与えかねない。また、染毛用乳化組成物はチューブに充填されていることが多く、例えば色調により粘度が低いものがあると、その色調だけ流動性が高くなってしまうので、思いがけず多量に出しすぎてしまうことも想定される。
【0013】
この第2の課題は、例えば染料以外の乳化物組成を適宜変更すれば解決可能である。しかし、場合によっては何十種類もの色調を取り揃えるケースもあり、そのような場合に、それぞれの色調ごとに適切な乳化物組成を検討するのは現実的な解決策ではない。
【0014】
そこで本発明は、上記の第1の課題及び第2の課題を解決できる染毛用乳化組成物の製造方法を提供することを目的とする。本願発明者は、低温乳化法に供する染毛用乳化組成物に特定の成分を配合した場合に、恐らくはその成分と染毛用乳化組成物の必須成分である染料との経時的な相互作用によって、第1の課題及び第2の課題を解決できる適正な後増粘を発現させ得ることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、(1)下記の(A)相と(B)相とを、(B)相についてはこれに含有される直鎖状高級アルコールのうち最も融点が高い直鎖状高級アルコールの融点以上の温度に調整し、(A)相については(B)相の温度よりも低い温度に調整したもとで、混合する工程を含み、
(2)上記の混合工程において、下記の(D)成分を混合前の(A)相、混合前の(B)相、(A)相と(B)相との混合相のうちの少なくとも1相に対して添加する、染毛用乳化組成物の製造方法である。
【0016】
(A)相:水相。
【0017】
(B)相:炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールの1種以上を含有すると共に、下記の一般式(I)で表される(C)成分を、最終的に調製された乳化組成物中における(C)成分の含有量(c質量%)が(D)成分の含有量(d質量%)に対してd/c=0.1〜50の範囲内となるように、含有する。
【0018】
R−(OCHCH−OH・・・(I)
(この一般式において、Rは水素原子又は炭化水素を表す。但し、この炭化水素は炭素数が1〜22の範囲内であり、飽和又は不飽和であり、直鎖状又は分岐鎖状であり、炭化水素を構成する炭素に結合した水素原子の一部が水酸基に置換されていても良い。又、nは20〜200の範囲内の整数である。)
(C)成分としてはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール1000(INCI名PEG−20、上記の一般式におけるRが水素原子で、nが20である)、ポリエチレングリコール4000(INCI名PEG−90、上記の一般式におけるRが水素原子で、nが90である)、セテス−20(上記の一般式におけるRがC1631で、nが20である)、ベヘネス−50(上記の一般式におけるRがC2245で、nが50である)等が例示される。
(D)成分:酸化染料、酸性染料、塩基性染料から選ばれる少なくとも1種の染料。
【0019】
上記の第1発明において、(C)成分の一般式(I)中の「R」に関して、「炭化水素を構成する炭素に結合した水素原子の一部が水酸基に置換されていても良い」とは、「該当する水素原子の1個以上が水酸基に置換されていても良いが、該当する水素原子の全部が水酸基に置換されている場合を含まない」ことをいう。
【0020】
第1発明によれば、(B)相はある程度高い温度に調整されるが(A)相はそれよりも低い温度に調整して(B)相と混合されるので、エネルギー効率及び製造効率の向上等という低温乳化法の利点が得られる。(A)相の温度が(B)相の温度より低くない場合に低温乳化法の利点を享受できないことは明確であるとしても、低温乳化法の利点が十分に得られたか否かは発明を実施する者の実施目的や価値判断に関わる問題であるため、その判定基準を一律に述べることができない。そのため、(B)相の温度に対して(A)相の温度がどの程度低くあるべきかという基準を一律に規定することは困難である。しかし、一般的に言えば、(A)相の温度が(B)相の温度よりも15℃以上低く、特に20℃以上低いことが好ましい。
【0021】
第1発明においては、上記した公知技術としての低温乳化法のメリットが確保されたもとで、以下の特徴的な効果が得られる。
【0022】
第1発明によって製造された染毛用乳化組成物は、製造直後には容器充填に好適な流動性を示すので、乳化組成物の容器充填を高い歩留まりと充填速度を以て行うことができ、良好な製造効率を確保できる。このような効果を確保するための流動性(低粘度)の程度は、具体的には容器の形状及び容量や充填方法、充填速度等によって異なるため、数値的に一律に規定することは困難である。しかし、あえて一つの基準を示せば、染毛用乳化組成物は、その製造直後から24時間〜72時間経過あたりまでは、5,000〜25,000mPa・s程度の低粘度を示すことが好ましい。なお、本明細書中における粘度値は、特に断りのない限り、東機産業株式会社製TV−10M型粘度計、4号ロータ、25℃、12rpm、1minによって測定される粘度を示す。
【0023】
更に、この染毛用乳化組成物は、その後に粘度が上昇して毛髪への施用時には染毛用組成物としての適正な粘度を示す。そのため、毛髪に塗布した状態のままで数分ないし数十分間にわたり放置して使用しても毛髪から垂れ落ちない。即ち、適正な程度の後増粘を発現することにより前記した第1の課題を解決する。更に、このような後増粘による高粘度化により、同種染毛剤の多種色調に係るシリーズ商品間の粘度のバラツキが事実上解消され、前記した第2の課題も解決する。
【0024】
以上のような後増粘の効果を確保するための粘度上昇の程度は、具体的には配合される成分によって異なるため、数値的に一律に規定することは困難である。しかし、あえて一つの基準を示せば、染毛用乳化組成物は、製造後72時間を経過した辺りから粘度が上昇し、製造後10日〜14日を経過した頃以後は、25,000〜75,000mPa・s程度の高粘度を示すことが好ましい。なお、50,000mPa・sを越える粘度については、前記した粘度測定条件において、12rpmを6rpmに変更して測定した値を示す。
【0025】
第1発明によって製造された染毛用乳化組成物が、低温乳化法であるにも関わらず上記のような好適な範囲における経時的粘度変化を示す理由は、未だ十分には解明していない。しかし、(A)相と(B)相との混合後、(D)成分である染料と強く水和していた水和水が徐々に非イオン性の化合物である(C)成分及び直鎖状高級アルコールと親和してゲルを形成していくことにより、10日〜14日経過頃までに粘度が適正範囲まで上昇するものと推定している。
【0026】
このようなゲル形成による経時的な粘度の上昇が良好に発現するためには、最終的に調製された乳化組成物中における(C)成分の含有量(c質量%)と(D)成分の含有量(d質量%)との比率d/cが、d/c=0.1〜50である必要がある。d/cが0.1未満である場合には、(C)成分の相対的な過剰のため、染毛用乳化組成物の毛髪施用時における粘度のバラツキが生じないものの、経時的な粘度上昇のレベルが高くなりすぎるため、充填時や使用時に支障がある。又、d/cが50を超える場合には、(C)成分の相対的な不足のため、経時的な粘度上昇のレベルが不十分となり、かつ染毛用乳化組成物の毛髪施用時における粘度のバラツキが顕著となる。d/cは、より好ましくは0.1〜10の範囲内である。
【0027】
なお、(B)相の直鎖状高級アルコールの炭素数が16〜22の範囲内を外れる場合には、前記ゲル構造を経時的にうまく形成しないという点から、乳化物自体を得ることが困難である。一方、(C)成分に代えてエステル構造やポリオキシプロピレン構造を有する界面活性剤を用いた場合、前記したゲル構造を適度に生じないためと推定されるが、染毛用乳化組成物の経時的な粘度変化のパターンが好適な時期を外れ、あるいは変化する粘度の絶対値が容器充填/毛髪塗布時の好適範囲を外れる。
【0028】
更に、(C)成分を表す前記の一般式(I)において、「R」の内容や「n」の数値が一般式(I)で規定する範囲を外れる場合にも、前記ゲル構造を経時的にうまく形成しないという点から、望ましい経時的粘度変化を示さない。
【0029】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る(D)成分が酸化染料である、染毛用乳化組成物の製造方法である。
【0030】
本発明に係る染毛用乳化組成物の製造方法は、第2発明のように、酸化染料を含む酸化染毛用組成物の製造に対して、特に好ましく適用される。
【0031】
なお、染料が酸化染料である場合は、通常は本発明の染毛用乳化組成物が第1剤とされ、この第1剤が使用時において一定の組成の第2剤と所定の比率で混合調製される。しかし、第1剤が第1発明で述べたような十分な高粘度領域に増粘しているため、第2剤との混合調製後も粘度の低下は実用上無視できる程度であり、毛髪への施用のための適正な粘度範囲を外れない。
【発明の効果】
【0032】
本発明によって、適正な後増粘により容器充填時と毛髪塗布時にそれぞれ好適な範囲の粘度を示す染毛用乳化組成物が得られ、かつ、染料類の配合量が異なるシリーズ商品を構成する染毛用乳化組成物間での粘度のバラツキを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0034】
〔染毛用乳化組成物の製造方法〕
本発明に係る染毛用乳化組成物の製造方法においては、(1)下記の(A)相と(B)相とを、(B)相についてはこれに含有される直鎖状高級アルコールのうち最も融点が高い直鎖状高級アルコールの融点以上の温度に調整し、(A)相については(B)相の温度よりも低い温度、好ましくは15℃以上低い温度、より好ましくは20℃以上低い温度に調整したもとで、混合する工程を含む。従って、本発明に係る染毛用乳化組成物の製造方法は低温乳化法の一種である。
【0035】
(A)相:水相。
【0036】
(B)相:炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールの1種以上を含有すると共に、下記の一般式(I)で表される(C)成分を、最終的に調製された乳化組成物中における(C)成分の含有量(c質量%)が(D)成分の含有量(d質量%)に対してd/c=0.1〜50の範囲内となるように、含有する。
【0037】
R−(OCHCH−OH・・・(I)
(この一般式において、Rは水素原子又は炭化水素を表す。但し、この炭化水素は炭素数が1〜22の範囲内であり、飽和又は不飽和であり、直鎖状又は分岐鎖状であり、炭化水素を構成する炭素に結合した水素原子の一部が水酸基に置換されていても良い。又、nは20〜200の範囲内の整数である。)
又、本発明に係る染毛用乳化組成物の製造方法においては、以上の混合工程において、(D)成分:酸化染料、酸性染料、塩基性染料から選ばれる少なくとも1種の染料を、混合前の(A)相、混合前の(B)相、あるいは、(A)相と(B)相との混合相のうちの少なくとも1相に対して添加する。
【0038】
(A)相と(B)相との混合・乳化の方法及び使用する装置は特段に限定されない。即ち、低温乳化のための温度調整が可能なように構成された一般的な乳化装置を任意に選択して使用すれば良い。混合・撹拌の方式としても、例えば、パルセーター攪拌、プロペラ攪拌、ホモミキサー攪拌、ラインミキサー攪拌、コンビミキサー攪拌等の任意の方法で行うことができる。高い攪拌強度を得たい場合には、ホモミキサー攪拌、ラインミキサー攪拌が望ましい。また、国際公開2001−56687号パンフレットに開示されたような低温乳化により適した構造を有する乳化装置を選択することも望ましい。
【0039】
乳化装置の具体的な使用形態として、まず(A)相と(B)相とのいずれか一方の相を撹拌槽に収容しておき、これに対して他一方の相を投入して混合・撹拌するという形態が多い。後述の実施例、比較例においては、撹拌槽に収容した(B)相に対して(A)相を投入して混合・撹拌している。しかしその逆に、撹拌槽に収容した(A)相に対して(B)相を投入して混合・撹拌することも、もちろん可能である。
【0040】
混合・乳化の処理条件、即ち撹拌の剪断速度、処理時間等も特段に限定されず、必要に応じて適宜に設計すれば良い。上記のように(A)相と(B)相との混合相に(C)成分や(D)成分を添加する場合には、(C)成分や(D)成分の添加後にも十分に混合・乳化処理を行うことが好ましい。
【0041】
〔(A)相〕
(A)相は、水を媒体とするいわゆる水相であり、水のみからなることもあり得るが、(D)成分を含めて任意の成分が分散又は溶解していても良い。
【0042】
(A)相には、例えば、任意の水溶性成分やポリマー等の水膨潤性分散物、O/W型エマルジョン等の水分散性成分等を混合することができる。これらの成分は、調整温度において、(A)相中で溶解又は均一に分散していることが好ましい。
【0043】
〔(B)相〕
(B)相は、炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールの1種以上と、前記一般式(I)で表される(C)成分とを少なくとも含有する、油相である。
【0044】
直鎖状高級アルコールには、炭素鎖が飽和のものも不飽和のものも含まれる。炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールとしては、セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール等を例示することができ、特にセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、セトステアリルアルコール等が好ましい。これらの高級アルコールは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
(B)相における1種または2種以上の直鎖状高級アルコールの合計含有量は限定されないが、最終的に調製された染毛用乳化組成物中の2〜20質量%となるように、特に好ましくは5〜15質量%となるように配合される。直鎖状高級アルコールの合計含有量が上記の範囲を下回ると乳化物の粘度が十分確保されないという面で不満足になる恐れがあり、逆に、上記の範囲を上回ると乳化物の粘度が高くなりすぎ、充填時や使用時に支障があるという面で不満足になる恐れがある。
【0046】
(C)成分は前記一般式(I)で表される成分であり、一般式中の「R」が炭化水素である場合の炭素数は12〜22の範囲内、より好ましくは16〜22の範囲内であり、一般式中の整数「n」の数値は20〜200の範囲内、より好ましくは20〜150の範囲内である。
【0047】
前記した理由から、(C)成分の含有量(c質量%)は、(A)相と(B)相との混合時において、染料の含有量(d質量%)に対してd/c=0.1〜50の範囲内となるように調整される。更に、(C)成分の含有量(c質量%)の絶対値は必ずしも限定されないが、一般的には、最終的に調製された乳化組成物中における1〜10質量%程度であることが好ましい。
【0048】
(B)相には、上記の直鎖状高級アルコール、(C)成分の他に、任意の油性成分や多価アルコール、界面活性剤などを混合することができる。これらの成分は、(B)相の混合前調整温度において融解または他の成分に溶解することが好ましく、又、調整温度において直鎖状高級アルコールと相溶性を有することが好ましい。
【0049】
〔(A)相、(B)相におけるその他の成分〕
(A)相及び/又は(B)相には、上記した各成分の他にも、必要に応じて、かつ、本発明の効果を損なわない範囲で、染毛用乳化組成物に通常使用されている任意の成分を含有させることが出来る。これらの成分としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウムなどのカチオン界面活性剤、両性界面活性剤、セテス−10(ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル)、セテス−15(ポリオキシエチレン(15)セチルエーテル)、ステアレス−5(ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル)、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の(C)成分に該当しない非イオン界面活性剤、(A)成分及び(C)成分以外の油分、シリコーン類、プロピレングリコールなどの多価アルコール、紫外線吸収剤、防腐剤、保湿剤、ポリマー類、アミノ酸誘導体、糖誘導体、香料、水、低級アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、増粘剤、色剤、金属イオン封鎖剤、アンモニア水やモノエタノールアミン、乳酸などのpH調整剤、亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸などの酸化防止剤、薬剤等が挙げられ、これら成分は本発明の効果を損なわない限り、(A)相と(B)相との混合相に添加されることを妨げない。
【0050】
〔(D)成分〕
(D)成分たる染料は、混合前の(A)相、混合前の(B)相、又は(A)相と(B)相との混合相のうちの少なくとも1相に添加される成分であるが、あえて言えば、染料の耐熱性等の点から、(A)相、あるいは(A)相と(B)相との混合相に、より好ましく添加される。
【0051】
染料は酸化染料、酸性染料、塩基性染料から選ばれるが、通常、それらの内のいずれか一つのカテゴリーから選ばれる1種又は2種以上の染料である。
【0052】
染料が酸化染料から選ばれる場合、染毛用乳化組成物は酸化染毛剤の構成要素であり、通常は酸化染毛剤の第1剤を構成して、少なくとも酸化剤を含有する酸化染毛剤第2剤と組み合わせて使用される。染料が酸性染料又は塩基性染料から選ばれる場合、染毛用乳化組成物は通常は1剤式の染毛料を構成する。
【0053】
染料の含有量は特段に限定されないが、例えば、酸化染料の場合は最終的に調製された染毛用乳化組成物中の0.01〜10質量%となるように、酸性染料の場合は最終的に調製された染毛用乳化組成物中の0.05〜3質量%となるように、塩基性染料の場合は最終的に調製された染毛用乳化組成物中の0.05〜3質量%となるように、配合することができる。
【0054】
酸化染料は主要中間体からなり、あるいは主要中間体とカプラーからなる。主要中間体としては、例えばオルト−又はパラ−のフェニレンジアミン類やアミノフェノール類等が例示され、より具体的にはp−フェニレンジアミン、トルエン−2,5−ジアミン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−p−フェニレンジアミン、2−β−ヒドロキシエチル−p−フェニレンジアミン、N−β−ヒドロキシエチル−N−エチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、p−アミノフェノール、o−アミノフェノール、p−メチルアミノフェノール、o−クロル−p−フェニレンジアミンおよび2,4−ジアミノフェノール等が例示される。カプラーとしては、例えばメタ−のジアミン類、アミノフェノール類又はジフェノール類等が例示され、より具体的にはレゾルシン、カテコール、ピロガロール、フロログルシン、没食子酸、ハイドロキノン、5−アミノ−o−クレゾール、m−アミノフェノール、5−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−2−メチルフェノール、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノフェノキシエタノール、トルエン−3,4−ジアミン、α−ナフトール、2,6−ジアミノピリジン、ジフェニルアミン、3,3’−イミノジフェニール、1,5−ジヒドロキシナフタレンおよびタンニン酸等が例示される。
【0055】
酸性染料としては、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号の(1)、赤色105号の(1)、赤色106号、赤色227号、赤色230号の(1)、黄色4号、黄色5号、黄色202号の(1)、黄色202号の(2)、黄色203号、だいだい色205号、だいだい色207号、だいだい色402号、緑色3号、緑色204号、緑色401号、紫色401号、青色1号、青色2号、青色202号、かっ色201号、黒色401号等が例示される。
【0056】
塩基性染料としては、Basic Blue 3、Basic Blue 6、Basic Blue 7、Basic Blue 9、Basic Blue 26、Basic Blue 41、Basic Blue 47、Basic Blue 99、Basic Brown 4、Basic Brown 16、Basic Brown 17、Basic Green 1、Basic Green 4、Basic Orange 1、Basic Orange 2、Basic Orange 31、Basic Red 1、Basic Red 2、Basic Red 22、Basic Red 46、Basic Red 51、Basic Red 76、Basic Red 118、Basic Violet 1、Basic Violet 3、Basic Violet 4、Basic Violet 10、Basic Violet 11:1、Basic Violet 14、Basic Violet 16、Basic Yellow 11、Basic Yellow 28、Basic Yellow 57、Basic Yellow 87等が例示される。
【実施例】
【0057】
〔第1実施例群〕
(酸化染毛剤第1剤の組成)
表1〜表4の実施例1〜21及び表5〜表8の比較例1〜21に示す組成の、染毛用乳化組成物である酸化染毛剤第1剤を後述の方法により調製した。これらの各表に示す酸化染毛剤第1剤の組成は、(B)相を構成する成分である「B相構成成分」、(A)相を構成する成分である「A相構成成分」、(A)相と(B)相との混合相に投入する成分である「AB混合相投入成分」ごとに分けて表示した。表5〜表8の「混合相」とは「AB混合相投入成分」であることを意味する。「B相構成成分」中の直鎖状高級アルコールについては融点(m.p.)を付記した。表中の各成分について示す数値は、酸化染毛剤第1剤の全量に対する質量%の数値である。
【0058】
(酸化染毛剤第1剤の調製方法)
乳化装置としてプライミクス株式会社製のT.K.アジホモミクサー2M−03型を使用し、各実施例、各比較例とも300gずつの酸化染毛剤第1剤を調製した。
【0059】
具体的には、まず、(B)相が表中の「混合時のB相の温度(℃)」の欄に示す温度になるように設定し、(B)相の各成分が完溶するのを確認したうえで、ホモミキサー3,000r.p.m.、パドルミキサー90r.p.m.、減圧0.03MPaの条件で、ミキサーを回転させながら投入口より(A)相を添加した。この(A)相は、表中の「混合時のA相の温度(℃)」の欄に示す温度に調整したものである。
【0060】
(A)相を添加した後、上記の条件で2分間の乳化終了後、減圧0.04MPaに調節し、パドルミキサー15r.p.m.の条件で攪拌しながら25℃になるまで冷却し、投入口より25℃に調整した「AB混合相投入成分」を添加し、更にホモミキサー500r.p.m.、パドルミキサー90r.p.m.の条件で1分間の撹拌・混合を行い、組成物を得た。なお、表7の比較例11では以上の操作によって乳化することができなかったので、後述する各種の評価を行っていない。
【0061】
(酸化染毛剤第1剤の粘度の評価)
上記の冷却操作によって25℃まで冷却した時点で、各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤の粘度を、「第1発明」に関して前記した条件により測定した。それらの測定結果を表中の「第1剤の粘度(調製直後、mPa・s)」の欄に示す。また、これらの各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤を25℃の恒温室に2週間静置した後にも、前記条件により粘度を測定した。それらの測定結果を表中の「第1剤の粘度(調製2週間後、mPa・s)」の欄に示す。
【0062】
(酸化染毛剤第1剤の第2剤との混合性の評価)
表9に示す乳化組成物である酸化染毛剤第2剤(使用時粘度:前記粘度測定条件において、4号ロータを3号ロータに変更して測定した値で3000mPa・s)を常法により調製し、上記の各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤に対してそれぞれ質量混合比が1:1になるように、第1剤及び第2剤を各40gずつ染毛用カップに量り取り、染毛用ハケにて混合することにより、第2剤との混合性を評価した。その評価結果を表中の「第2剤との混合性」の欄に示す。表8に示す比較例18、21では「混合不可」と表記したように、第1剤の粘度が高すぎたため混ざり合わなかった。そのため、これらの比較例では、後述の「混合液の垂れ落ち」、「染毛色調」を評価していない。
【0063】
(混合液の垂れ落ちの評価)
上記の混合性の評価で調製した各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤と表9に示す酸化染毛剤第2剤との混合液を、それぞれ長さ15cmの毛束に常用される程度の一定量塗布した後、それらの毛束を37℃の恒温槽内に吊り下げ、30分放置後の混合液の垂れ落ちの有無を評価した。その評価結果を表中の「混合液の垂れ落ち」の欄に示す。「問題なし」との表記は、垂れ落ちが全くなかったことを意味する。
【0064】
(染毛色調の評価)
上記の混合性の評価で調製した各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤と表9に示す酸化染毛剤第2剤との混合液を、それぞれ白色山羊毛に塗布し、30分放置した後に洗浄し、乾燥させた後に山羊毛の色調を標準光源下にて評価した。その評価結果を表中の「染毛色調」の欄に示す。
【0065】
(保存安定性の評価)
上記の「酸化染毛剤第1剤の調製方法」の欄で調製した各実施例、各比較例に係る酸化染毛剤第1剤を、それぞれ第1サンプルと第2サンプルの2試料ずつ4号規格瓶に充填した。そして、第1サンプルの4号規格瓶は50℃の恒温槽にて、第2サンプルの4号規格瓶は25℃の恒温槽にてそれぞれ1ヶ月間保存した後、両者のサンプルの乳化状態を目視にて比較することにより、保存安定性を評価した。その評価結果を表中の「乳化組成物の保存安定性」の欄に示す。「問題なし」との評価は「第1サンプル、第2サンプルの乳化状態が共に良好であった」ことを意味し、「やや悪い」との評価は「第2サンプルの乳化状態は良好であるが、それに比較して第1サンプルではやや相分離が起きていた」ことを意味する。
【0066】
〔第2実施例群〕
表10に示す実施例22、23に係る組成の、染毛用乳化組成物である1剤式の染毛料を調製した。表10における染毛料の各成分の表記の要領は第1実施例群の場合と同様である。
【0067】
実施例22、23に係る染毛料の調製方法は第1実施例群に係る酸化染毛剤第1剤の場合と同様である。
【0068】
実施例22、23に係る染毛料についても、第1実施例群に係る酸化染毛剤第1剤の場合と同様に粘度の評価を行った。又、これらの染毛料は1剤式であるから第1実施例群のような「混合性の評価」は行っていないが、調製した染毛料を用いて、第1実施例群の場合と同様の要領で、「垂れ落ちの評価」、「染毛色調の評価」、「保存安定性の評価」をそれぞれ行い、それらの評価結果を表10の該当欄に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
【表8】

【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、適正な後増粘により容器充填時と毛髪塗布時にそれぞれ好適な範囲の粘度を示す染毛用乳化組成物が得られ、かつ、染料類の配合量が異なるシリーズ商品を構成する染毛用乳化組成物間での粘度のバラツキを防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記の(A)相と(B)相とを、(B)相についてはこれに含有される直鎖状高級アルコールのうち最も融点が高い直鎖状高級アルコールの融点以上の温度に調整し、(A)相については(B)相の温度よりも低い温度に調整したもとで、混合する工程を含み、
(2)上記の混合工程において、下記の(D)成分を混合前の(A)相、混合前の(B)相、(A)相と(B)相との混合相のうちの少なくとも1相に対して添加する、
ことを特徴とする染毛用乳化組成物の製造方法。
(A)相:水相。
(B)相:炭素数が16〜22の範囲内である直鎖状高級アルコールの1種以上を含有すると共に、下記の一般式(I)で表される(C)成分を、最終的に調製された乳化組成物中における(C)成分の含有量(c質量%)が(D)成分の含有量(d質量%)に対してd/c=0.1〜50の範囲内となるように、含有する。
R−(OCHCH−OH・・・(I)
(この一般式において、Rは水素原子又は炭化水素を表す。但し、この炭化水素は炭素数が1〜22の範囲内であり、飽和又は不飽和であり、直鎖状又は分岐鎖状であり、炭化水素を構成する炭素に結合した水素原子の一部が水酸基に置換されていても良い。又、nは20〜200の範囲内の整数である。)
(D)成分:酸化染料、酸性染料、塩基性染料から選ばれる少なくとも1種の染料。
【請求項2】
前記(D)成分が酸化染料であることを特徴とする請求項1に記載の染毛用乳化組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−269876(P2009−269876A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123245(P2008−123245)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】