説明

染色織編物の製造方法

【課題】極細フィラメントの仮撚加工糸の染色織編物が持つ周期的な濃淡差を弱め、殆ど見えないレベルにまで向上させて、織編物製品の染色品位を均斉にできる仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法を提供する。
【解決手段】仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる織編物の製造方法であって、仮撚加工糸は、単繊維繊度が0.8[dtex]以下で、かつポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートから選ばれるポリエステルマルチフィラメントよりなり、かつ流体交絡処理されていない延伸糸であり、前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度のバラツキを測定した際に、デジタル化した5000個のデータのCV値が1.0[%]以下、あるいはFYLアナライザーで測定しデジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値が25[−]以下となるように、(a)紡糸口金に設ける複数ケの吐出孔各々の間隔を広くする、(b)風の貫通性が高くなる吐出孔配列とする、あるいは、(c)紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くする、ことを特徴とする染色織編物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法に関し、更に詳しくは繊維軸方向の染色濃度バラツキが少なく織編物に使用した際に均斉な外観を与える極細フィラメントから構成された仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
仮撚加工は熱可塑性合成繊維マルチフィラメントを嵩高化手段の最も合理的な手段として広く利用されている。スポーツ衣料分野等で利用される極細フィラメントから構成された仮撚加工糸も上市されている。近年、コスト追求の観点から摩擦仮撚施撚体を用いた高速延伸同時仮撚加工糸も展開されている。極細フィラメントはその溶融紡糸工程において一定の紡糸口金面積に多くの吐出孔を設ける必要があり、ポリマーを溶融吐出後空冷する際の風の貫通性が悪く、紡糸口金直下での細化現象が不均斉になりやすいため、繊維軸方向に周期的な繊度斑を生じ易い問題がある(いわゆるレゾナンス周期斑)。
【0003】
その様な繊維軸方向に周期的な繊度斑を有する極細フィラメントから構成された高配向未延伸マルチフィラメントを延伸同時仮撚した仮撚加工糸を筒編染色評価すると、繊維軸方向に周期的な濃淡差(トラ縞、バンド縞等と呼ぶ)を生じる。特にその延伸同時仮撚が摩擦仮撚施撚体を用いた高速延伸同時仮撚の場合、加撚張力、解撚張力に高配向未延伸マルチフィラメントの有する繊度斑周期に設定延伸倍率が加味された周期性の変動が明瞭に起こり、その加工糸から得られる染色筒編地は加撚張力、解撚張力変動にほぼ一致した強い周期性の濃淡差を示すものとなる。
【0004】
筒編地に強い周期性濃淡差が見られるような仮撚加工糸を使用して染色織編物製品を得ると見苦しい縞、筋の問題を持つものとなるため、高配向未延伸マルチフィラメントの周期的繊度斑を小さくしようと溶融紡糸工程の条件を設定しているが、織編物製品でひどい縞、筋に見えない程度の濃淡差は許容範囲として生産されている極細フィラメント仮撚加工糸が多くある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の課題を解決しようとするものであって、極細フィラメントの仮撚加工糸の染色織編物が持つ周期的な濃淡差を弱め、殆ど見えないレベルにまで向上させて、織編物製品の染色品位を均斉にできる仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段、即ち、本発明の第1は、仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法であって、仮撚加工糸は、単繊維繊度が0.8[dtex]以下で、かつポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートから選ばれるポリエステルマルチフィラメントよりなり、かつ流体交絡処理されていない延伸糸であり、前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度のバラツキを測定した際に、デジタル化した5000個のデータのCV値が1.0[%]以下となるように、(a)紡糸口金に設ける複数ケの吐出孔各々の間隔を広くする、(b)風の貫通性が高くなる吐出孔配列とする、あるいは、(c)紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くする、ことを特徴とする染色織編物の製造方法である。
その第2は、仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法であって、仮撚加工糸は、単繊維繊度が0.8[dtex]以下で、かつポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートから選ばれるポリエステルマルチフィラメントよりなり、かつ流体交絡処理されていない延伸糸であり、前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度の変動の周期性を測定した際に、デジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30mの範囲内における最大値が25[−]以下となるように、(a)紡糸口金に設ける複数ケの吐出孔各々の間隔を広くする、(b)風の貫通性が高くなる吐出孔配列とする、あるいは、(c)紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くする、ことを特徴とする染色織編物の製造方法である。
その第3は、前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度の変動の周期性を測定した際に、デジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30mの範囲内における最大値が25[−]以下である第1に記載の染色織編物の製造方法である。
その第4は、仮撚加工糸を構成するフィラメントの単繊維繊度が0.4[dtex]以下である第1〜3のいずれかに記載の染色織編物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は従来の極細フィラメントから構成された仮撚加工糸による織編物製品でひどい縞、筋に見えない程度の濃淡差は許容範囲として生産されていたのに対し、繊維軸方向の染色濃度斑の程度及び/又は周期性を極めて厳しい評価基準に合格させた仮撚加工糸を用いることによって、織編物に極めて均斉な染色品位を与えることができる。スポーツ衣料用途や婦人衣料用途等の織編物として好適であり、ソフトで美しく均斉な染色品位が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明で用いる仮撚加工糸をFYLアナライザーで測定しデジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値を求める際に描くグラフ(スペクトログラム)の好ましい例を示す。
【図2】本発明で用いる仮撚加工糸をFYLアナライザーで測定しデジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値を求める際に描くグラフ(スペクトログラム)の好ましくない例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で言う熱可塑性合成繊維マルチフィラメントとは熱可塑性を有するポリマーからなるマルチフィラメントであり、ポリエステルを指す。具体的にはポリエチレンテレフトレート、ポリトリメチレンテレフトレート、ポリブチレンテレフトレート、ポリエチレンイソフタレート等が該当する。これらに少量の重合体や酸化防止剤、制電剤、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、微細孔形成剤、その他の添加剤等が含有されていても良い。但し、極細フィラメントからなるマルチフィラメントを安定的に溶融紡糸する上で、ポリエステルは好ましく、もっとも好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0010】
本発明で用いる仮撚加工糸は前記のような熱可塑性合成ポリマーを紡糸して得たマルチフィラメントに仮撚加工されてなる。仮撚加工糸を構成するフィラメントの単繊維繊度は0.8[dtex]以下であることが必要である。0.8[dtex]より単繊維繊度が大きいと、スポーツ衣料用途織物の耐水圧が満足しづらくなり、風合いも硬く好ましくない。更に好ましくは0.4[dtex]以下である。但し、あまりにも単繊維繊度が小さくなり過ぎると仮撚加工時の糸切れや仮撚加工糸の毛羽が増え、製編織性が悪くなるので0.1[dtex]以上であることが好ましい。
【0011】
本発明で用いる仮撚加工糸はFYLアナライザーで測定し、デジタル化した5000個データのCV値が1.0[%]以下であるか、あるいはFYLアナライザーで測定したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値が25[−]以下であることが必要である。
【0012】
FYLアナライザーは糸の繊維軸方向の染色濃度を連続的に測定する装置で、そのアナログデータを市販のADコンバーターでデジタルデータに変換してパソコンに記録することができる。このデータ5000個のCV値が小さいことは糸の繊維軸方向の染色濃度バラツキが小さいことを意味する。(詳細測定法は後述する。)市販されている極細フィラメント仮撚加工糸のCV値は1.5[%]程度であることが多い。後述のパワースペクトルのレベルにもよるが、CV値が1.5[%]レベルの加工糸を筒編染色評価すれば、一見しても欠点と取られる様な強い濃淡差にはならないが、まじまじと見るとうっすら濃淡差を持っていることがわかる。このCV値が1.5[%]レベルの仮撚加工糸を織物の緯糸に使用し製織後染色すると、欠点に取られる程ではないが、うっすら縞、筋状の濃淡差を感じ、好ましくない。CV値が2.0[%]より大きい加工糸は染色筒編地を一見して濃淡差が強く不合格となる。もちろん織物に使用した場合は筋、縞の欠点となり、不合格品と判定される。CV値が1.0[%]以下の場合、染色筒編地をまじまじと見ても濃淡差を感じることはなく、織物に使用し染色して、まじまじと見ても、殆ど縞、筋状の濃淡差を感じない好ましい均斉なものとなる。
【0013】
一方、FYLアナライザーで測定したアナログデータをADコンバーターでデジタルデータに変換し、パソコンに集積すれば、市販のソフトを用いてフーリエ解析し、パワースペクトルが得られる。特定波長(糸長)のパワースペクトルが小さいことは繊維軸方向の染色濃度変動の周期性が弱いことを意味する。極細フィラメント特有の問題点として、吐出孔から溶融吐出し空冷する際の冷却不良による周期的な繊度斑が起こり易いことがあげられる。未延伸マルチフィラメントを延伸後、又は延伸と同時に仮撚加工すると問題となる周期性はその紡糸速度と延伸倍率に依存するが、3〜30mレベルになる。その波長3〜30m内のパワースペクトルの最大値が25[−]以下であれば、染色濃度変動が周期的に現われにくく、結果的に染色筒編地や染色織物に縞を感じにくくなり、好ましい。 パワースペクトルが25[−]より強いと前記のCV値レベルにもよるが、染色筒編地や緯糸に使用した染色織物に縞状の濃淡差がうっすら見える様になり、好ましくない。パワースペクトルが30[−]より強いとCV値レベルにもよるが、緯糸に使用した染色織物は縞欠点により不合格判断となる場合が多い。第1図は横軸に波長、縦軸にパワースペクトルを取ったグラフ(スペクトログラム)を示しているが、波長3〜30m内でパワースペクトルが25[−]以上を示す部分はなく、本発明において好ましい仮撚加工糸を測定した場合の例である。第2図は別の仮撚加工糸を測定したスペクトログラムを示すが、波長約12mの部分において、パワースペクトルが25[−]を越え、33[−]程度になっており、本発明中において好ましくないものである。
【0014】
前記のCV値が1.0[%]以下であることとパワースペクトルが25[−]以下であることの両者を満足する仮撚加工糸は染色織編物の均斉さにおいて申し分なく、極めて好ましい加工糸である。
【0015】
本発明で用いる仮撚加工糸は未延伸マルチフィラメントを摩擦仮撚施撚体で延伸同時仮撚されていることが好ましい。高速生産性の点で未延伸マルチフィラメントの摩擦仮撚施撚体による延伸同時仮撚は優れており、コスト低減に有効である。
【0016】
本発明で用いる仮撚加工糸のトータル繊度は10[dtex]〜300[dtex]程度が好ましい。また、仮撚加工に供給するマルチフィラメントの構成フィラメント断面形状は通常の丸断面の他、多葉断面、多角断面、偏平断面、中空断面の他、特殊異形断面等、紡糸操業性、仮撚操業性を害しないものであれば、どのようなものも適用可能である。仮撚加工糸を構成するフィラメントの断面はねじり変形によるフィラメント間接触により断面変形を受けたものとなることが多い。仮撚加工糸の捲縮特性は1段ヒーター仮撚の場合と2段ヒーターによりスタビライズ処理した場合で異なるが、後述の方法による捲縮発現率が5〜60[%]であることが好ましい。
【0017】
本発明で用いる仮撚加工糸を製造する方法は特に限定されないが、一例を説明する。本発明で用いる仮撚加工糸は熱可塑性合成ポリマーを溶融紡糸設備で紡糸し、延伸後仮撚加工するか、又は延伸同時仮撚することにより得られる。仮撚加工糸を構成するフィラメントの単繊維繊度が0.8[dtex]以下であることが必要である。仮撚加工糸のFYLデータCV値を小さくし、パワースペクトルの波長3〜30m内最大値を小さくするためには、溶融紡糸工程において、溶融吐出されたフィラメントの細化現象を均斉にして未延伸マルチフィラメントの繊維軸方向の周期的な繊度斑を小さくすることが重要である。未延伸マルチフィラメントの後述の測定法によるURI値が2.5[%]以下であり、2〜20m程度の波長部分のパワースペクトルが弱いことが好ましい。そのためには紡糸口金に設けられた複数ケの吐出孔各々の間隔を広くすることや風の貫通性が高くなる吐出孔配列とすることが効果的である。また、紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くすることが有効で、風速は紡糸操業性を害しない程度に大きくすることが好ましい。 但し、紡糸口金吐出面が冷却され温度が低下すると操業性や未延伸マルチフィラメントの力学的特性を害するので、必要に応じて紡糸口金を保温するヒーターを使用すること、風の向きを一定に保つ様な整流板を設けることなどの工夫は有効である。未延伸マルチフィラメントにはなるべく均斉に適宜油剤を付与して巻き取られる。
【0018】
未延伸マルチフィラメントを延伸して延伸糸を得た後、仮撚する場合には紡糸速度は特に限定されず、1000〜4000[m/min]で紡糸巻き取りを行う。紡糸巻き取り後の未延伸マルチフィラメントはガラス転移温度近傍の温度で適宜延伸し、延伸マルチフィラメントとなる。延伸中に熱セットを施して熱収縮率を適宜調節することができる。紡糸と延伸を連続させて延伸糸を得た後、仮撚加工しても良い。未延伸マルチフィラメントを延伸同時仮撚する場合には延伸同時仮撚時の糸掛け性や未延伸マルチフィラメントの経時変化の観点からあまりに遅いことは好ましくなく、1800〜4000[m/min]の紡糸巻き取り速度が好ましい。仮撚施撚体はピンスピンドルタイプ、旋回流エアノズルタイプ、摩擦仮撚施撚体タイプ(3軸外接式摩擦仮撚タイプ、交差ベルト式ニップ仮撚タイプ)等が使用できるが、高速生産性の観点からは未延伸マルチフィラメントを、摩擦仮撚施撚体を用いて延伸同時仮撚することが好ましい。仮撚加工は1段ヒーターでも良いし、2段ヒーター仮撚してスタビライズ処理しても良い。1段目ヒーター(仮撚熱固定ヒーター)出口での糸温度はポリマーの種類や延伸糸を仮撚加工する場合と未延伸糸を延伸同時仮よりする場合等で若干異なるが、140〜220[℃]程度が好ましい。2段目ヒーター(残留トルク減殺、捲縮スタビライズヒーター)を用いてスタビライズ処理する場合は、2段目ヒーターの温度を160〜220[℃]程度に設定し、2段目ヒーターゾーンのフィード率を5〜20[%]程度の弛緩状態とすることが好ましい。仮撚加工時の仮撚数はポリマーの種類にもよるが、ピンスピンドルタイプの場合、仮撚数[T/m]×√加工糸dtexが26000〜34000程度が好ましい。仮撚解撚後、巻き取りまでの間で流体交絡処理することは巻形状不良の防止、仮撚加工糸解舒性の向上、後工程での取扱い性向上の観点から好ましい。巻き取り前に適宜オイリングしておくことにより、解舒性、後工程での取扱い性が向上する。
【0019】
前記の様にして得られた仮撚加工糸は製編織して布帛となし、染色加工される。仮撚加工糸に必要に応じて実撚、オイリング、サイジング等を施し、製編織する。該仮撚加工糸は他の糸条と合糸、合撚、混繊、交編、交織等の方法で混用させて用いても良い。織編物はその用途に応じて染色加工される。例えばスポーツ衣料用織物の場合、リラックス、プレセット、染色、ファイナルセットされるが、染色前あるいは染色後にカレンダー加工を施すこともある。必要に応じてラミネート加工、コーティング加工、パディング加工等で透湿防水性、撥水性、吸湿発熱性等、特殊な機能性を付与することもできる。婦人衣料ポリエステル織物用途の場合、染色前にアルカリ減量処理することにより、風合いがソフト化し、好ましい。染色後、帯電防止剤等適宜付与してファイナルセットし、染色加工織物を得る。
【実施例】
【0020】
以下具体的実施例を挙げて説明する。尚、本発明中で用いた各特性値の測定法は下記によった。
【0021】
(FYLアナライザー測定)
東レエンジニアリング社製FYL−500SR装置を使用する。基本的には取扱説明書に沿って、染色槽、洗浄槽の準備をする。染色槽は水約30リットルに指定染料(東レブルー)あるいはそれに準ずるブルー色相検定染料を1kgと分散剤(日華化学社製サンソルトWA)を200g入れて溶解させた状態にし、95℃に保つ。洗浄槽には水を満たし、85℃に保つ。洗浄槽には常に新しい水が注がれ、オーバーフローによって、少しずつ入れかわるようにしておく。試料加工糸をクリールに立て、解舒させて染色槽に導く。染色槽中のネルソンローラー上での糸−糸接触が起こらないようにネルソンローラーの角度を適宜調節して、ネルソンローラーに試料加工糸を45回捲回させる。染色槽から試料加工糸を洗浄ノズルに導き、洗浄槽に導く。洗浄槽中のネルソンローラー上での糸−糸接触が起こらないようにネルソンローラーの角度適宜調節して、ネルソンローラーに試料加工糸を7回捲回させる。洗浄槽から試料加工糸を水切りノズル、水切りスピンドルに順次導き、測定部に導く。洗浄ノズルの調圧弁を調節し、圧力を1.0[kg/cm]に設定する。水切りノズルについても調圧弁を調節し、1.2[kg/cm]に設定する。測定部については事前に標準サンプル(白色100[%]及び青色40[%])を30[m/min]で走行させ、FYL[%]データレベルを設定しておく。
【0022】
水切りノズルから測定部に導いた試料加工糸は取扱説明書に沿って糸道を作る。ノット検知端から仮撚パートを通って、測色部に導き、ローラーを介してエジェクターで引き取る。エジェクターの調圧弁を調節して1.5[kg/cm]に調節する。
【0023】
通常のFYL測定では付属の出力パートを用いてデータ出力させるが、本発明においてはFYL測色アナログ信号をADコンバーターとウインドウズ’98インストールパソコンを用いてデータ出力させる。ADコンバーターはキーエンス社製NR−2000を用い、付属ソフトをパソコンにインストールしておく。また、パソコンにはマイクロソフトエクセル’98ソフトをインストールしておく。ADコンバーターからの配線を専用PCカード等を用いてパソコンに接続する。パソコンを操作してADコンバーターの0点調節をする。FYLアナログデータ信号配線2本をADコンバーターに導き、アナログ電圧信号をデジタルデータ化してパソコンのハードディスクに集積できるようにする。
【0024】
クリールからエジェクターまでの試料加工糸の糸道とADコンバーター、パソコンの設定ができれば30[m/min]の速度でFYLアナライザーを運転する。パソコンを操作して、デジタル電圧データサンプリング周波数を2.67[Hz](375[ミリ秒]毎のデータサンプリング)、測定回数をシングルモードとし、サンプリング数5000個に設定する。試料加工糸を走行させてしばらくの間は染色槽中に滞留して長時間放置染色された濃染性部分があるため、FYLアナライザーのFYL[%]データアナログメーターを見て、安定するまで待つ。(濃染性部のFYL[%]データは低い値を示す。)新たに染色槽に連続的に送られた糸が測色部を通過することによって、FYL[%]データが高い値に上昇し、安定したのを確認後、パソコンを操作して、デジタル電圧データサンプリングを実施する。サンプリングされたデジタル電圧データ[V]をパソコンのハードディスクに保存する(拡張子は.ndh)。
【0025】
(CV値の算出)
拡張子.ndhから.csvを介して最終的にマイクロソフトエクセル’97で演算できる様に.xlsに変換する。マイクロソフトエクセル’97を起動し、集積された5000個サンプリングデジタル電圧データ[V]の平均値と母標準偏差を算出し、次式によりCV値を得る。
CV値[%]={(母標準偏差)/(平均値)}×100
【0026】
(パワースペクトル最大値の算出)
デジタルサンプリング電圧データ[V]は糸長0.1875[m]に1回毎である。従って5000個サンプリングに対応する糸長は937.5[m]に相当する。このデータのうち、サンプリング開始1回目から4096回目(糸長768[m])についてパワースペクトル解析を行う。マイクロソフトエクセル’97の分析ツールの中のフーリエ解析を実施する。フーリエ解析データは複素数となるが、マイクロソフトエクセル’97中の関数IMABSを用いて複素数の絶対値を得て、1回目から4096回目の4096個のパワースペクトルデータとする。それぞれの測定糸長から波長[m]をマイクロソフトエクセル’97で算出する。サンプリング開始1回目のデータは糸長0.1875[m]部に当たり、4096回目は糸長768[m]に当たるが、それぞれ次式によって波長が導かれる。
サンプリングn回目の波長[m]=144/サンプリングn回目の糸長[m] =144/(0.1875[m]×n)
従って、サンプリング開始1回目の波長は768[m]、2回目は384[m]、3回目は256[m]となり、順次計算すると4096回目の波長は0.1875[m]となる。横軸に波長データ[m]、縦軸にパワースペクトルデータ[−]を取り、横軸範囲を3〜30[m]、縦軸を0[−]以上の適当なスケールを選ぶと第1図の様なグラフが得られる。横軸(波長)3〜30[m]内におけるパワースペクトル最大値[−]を読み取る。例えば第1図の例ではパワースペクトル最大値は13.3[−]であり、本発明で用いる仮撚加工糸として好ましいものである。
【0027】
(交絡度)
適当な長さの試料加工糸を取り出し、下端に1/10[cN/dtex]の荷重をかけて垂直に吊り下げる。次いで適当な針を試料加工糸中につき出し、ゆっくり持ち上げ荷重が持ち上がるまでに針が移動する距離[mm]を20[回]測定し、平均値L[mm]を得る。交絡度は次式により算出する。
交絡度[ケ/m]=1000/(2×L)
【0028】
(捲縮発現率)
適当な枠周のラップリールで1/10[cN/dtex]の荷重下において、8回巻のカセをつくる。無荷重の状態で沸騰水中に5分間浸漬する。試料を沸騰水中から取り出し湿潤状態のまま2/10[cN/dtex]の荷重をかけて1分後のカセの長さm〔cm〕を測定する。次に荷重を取り除き、軽く水を切った後、60〔℃〕のオーブン中で30分間乾燥する。オーブンから糸を取り出し、1時間放冷後、2/1000[cN/dtex]の荷重をかけ、1分後のカセの長さn[cm]を測定する。測定は5回繰り返し、m[cm]、n[cm]各々の平均値M[cm]、N[cm]を求める。捲縮発現率[%]は次式により算出される。
捲縮発現率[%]={(M−N)/M}×100
【0029】
(URI値)
ツェルベガーウースター社製ウースターイーブネステスター3を用い、イナートテストにて測定する。マルチフィラメントのデニールによりスロットを選定し、仮撚を付与しながら糸速50m/minで2分間測定し、チャートを描かせる。その際、マルチフィラメントの平均デニールがチャートの中央に描かれる様、調節しておく。得られたチャートの最大値をA[%]、最小値をB[%]とするとき、URI値は次式により算出される。
URI〔%〕=A−B
【0030】
(繊度斑の周期性)
ツェルベガーウースター社製ウースターイーブネステスター3を用い、ノルマルテストにて測定する。マルチフィラメントのデニールによりスロットを選定し、仮撚を付与しながら糸速50m/minで10分間測定し、付属のパワースペクトル解析装置でスペクトログラムを描かせる。周期的な繊度斑があれば、パワースペクトルの高い波長部分が現われる。
【0031】
(実施例1)
固有粘度0.62のポリエチレンテレフトレートセミダルチップを溶融紡糸設備を用い、口金外周面径66[mm]に72[ケ]の丸形状吐出孔を配列した紡糸口金から溶融吐出し、紡糸口金吐出面から20[mm]下方の地点から風速0.45[m/sec]で空冷し、油剤付与後、2400[m/min]で回転するゴデットローラーに捲回させ、連続的に延伸熱セットして56[dtex]/72[フィラメント]のポリエチレンテレフタレート延伸マルチフィラメントを得た。該延伸マルチフィラメントのURI値は1.5[%]でウースターイーブネステスターのスペクトログラムに見られる周期性は弱いものであった。該延伸マルチフィラメントを愛機製作所製TH−312型ピンスピンドルタイプ仮撚機で1段ヒーター仮撚した。仮撚加工速度は120[m/min]、仮撚数は4000[T/m]、ヒーター温度は190[℃]とし、加撚張力が6[g]になる様フィード率を調節した。得られた仮撚加工糸は捲縮発現率が41[%]で、FYLアナライザーで測定し、デジタル化した5000個データのCV値は0.74[%]、フーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値が13.0[−]であった。該仮撚加工糸を筒編検定染色したところ、若干のイラツキはあっても、縞、筋様の濃淡差は全く見られない好ましいものであった。経糸に56[dtex]/72[fil]のポリエチレンテレフタレートセミダル延伸マルチフィラメントをサイジング整経し、緯糸として該仮撚加工糸を用いて、経糸密度149[本/インチ]、緯糸密度112[本/インチ]で平織りし、高密度タフタ織物を得た。常法により、リラックス、プレセット、染色し、カレンダー加工して、染色加工織物とした。該染色加工織物はソフトでスポーツ衣料用途として耐水圧を一通り満足しており、緯糸の繊維軸方向の染色濃度斑による筋、縞を感じない均斉な好ましいものであった。
【0032】
(比較例1)
口金吐出孔の数が48[ケ]の紡糸口金に変更した他はほぼ実施例1と同様に延伸マルチフィラメント(56[dtex]/48[fil])を得た。URI値は1.4[%]で周期性は弱かった。実施例1とほぼ同様に仮撚加工糸を得た。該仮撚加工糸の捲縮発現率は48[%]、FYLアナライザーで測定し、デジタル化した5000個データのCV値は0.70[%]、フーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値は11.4[−]であった。実施例1と同様に染色筒編地と染色加工織物を得たところ、染色均一性には優れていたが、ソフト感、スポーツ衣料用織物としての耐水圧において、満足しないものであった。
【0033】
(実施例2)
固有粘度0.62のポリエチレンテレフトレートセミダルチップを溶融紡糸設備を用い、口金外周面径66[mm]に72[ケ]の吐出孔を配列した紡糸口金から溶融吐出し、紡糸口金吐出面から20[mm]下方の地点から風速0.45[m/sec]で空冷し、油剤付与後、2400[m/min]で、隣り合う2ケの紡糸口金から得られた未延伸マルチフィラメント2本を引き揃え、80[dtex]/144[fil]として引き取った。引き取られた未延伸マルチフィラメントのURI値は2.0[%]で周期性は弱かった。愛機製作所製TH−312型ピンスピンドルタイプ仮撚機で1段ヒーター延伸同時仮撚し、仮撚加工糸を得た。仮撚数は4200[T/m]、延伸倍率は1.47倍、ヒーター温度は170℃とした。該仮撚加工糸の捲縮発現率は35[%]で、FYLアナライザーで測定し、デジタル化した5000個データのCV値は0.94[%]、フーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値が17.0[−]であった。実施例1と同様に染色筒編地と染色加工織物を得た。該染色加工織物は実施例1の染色加工織物のソフト感、耐水圧を向上させた更に好ましいものであった。
【0034】
(比較例2)
実施例2の溶融紡糸工程に対して、口金外周面径66[mm]に144[ケ]の吐出孔を配列した紡糸口金から溶融吐出し、1ケの紡糸口金から1本の未延伸マルチフィラメントを80[dtex]/144[fil]として引き取る他は実施例2の溶融紡糸工程と同様に未延伸マルチフィラメントを得た。該未延伸マルチフィラメントのURI値は3.6[%]で、8m程度波長(糸長)毎の周期性がスペクトログラムに見られるものであった。該未延伸マルチフィラメントを、帝人製機製HTS−1500型3軸外接式摩擦仮撚機を用い、1段ヒーター延伸同時仮撚した。仮撚加工速度を600[m/min]、延伸倍率を1.47倍とし、ヒーター出口での糸温度を170[℃]にすべくヒーター温度を調節した。施撚ディスク材質はポリウレタンで、9[mm]厚で58[mm]の直径を持つものを4枚用い、前後にガイドディスクを入れて1−4−1構成とした。糸速に対する施撚ディスク周速の比は1.8倍に設定した。解撚ゾーンにテンションメータを入れてADコンバーターでデータをデジタル化し、パソコンに集積して、パワースペクトルを得、スペクトログラムを描かせると、12m程度周期の解撚張力周期変動が確認された。得られた仮撚加工糸の捲縮発現率は31[%]、FYLアナライザーで測定し、デジタル化した5000個データのCV値は2.14[%]、フーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30m内最大値が31.5[−]であった。尚、該パワースペクトル最大値を現した波長(糸長)は約12[m]部分であった。得られた仮撚加工糸の染色筒編地は明らかなトラ縞ではないが、幅を持って濃淡差を感じるもので、染色加工織物は緯方向に縞っぽさを感じる不均斉で好ましくないものであった。
【0035】
実施例1〜2、比較例1〜2の条件、糸物性、織物の評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
織編物に極めて均斉な染色品位を与えることができ、スポーツ衣料用途や婦人衣料用途等の染色織編物の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法であって、
仮撚加工糸は、単繊維繊度が0.8[dtex]以下で、かつポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートから選ばれるポリエステルマルチフィラメントよりなり、かつ流体交絡処理されていない延伸糸であり、
前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度のバラツキを測定した際に、デジタル化した5000個のデータのCV値が1.0[%]以下となるように、(a)紡糸口金に設ける複数ケの吐出孔各々の間隔を広くする、(b)風の貫通性が高くなる吐出孔配列とする、あるいは、(c)紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くする、ことを特徴とする染色織編物の製造方法。
【請求項2】
仮撚加工糸を製編織した布帛を染色加工してなる染色織編物の製造方法であって、
仮撚加工糸は、単繊維繊度が0.8[dtex]以下で、かつポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートから選ばれるポリエステルマルチフィラメントよりなり、かつ流体交絡処理されていない延伸糸であり、
前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度の変動の周期性を測定した際に、デジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30mの範囲内における最大値が25[−]以下となるように、(a)紡糸口金に設ける複数ケの吐出孔各々の間隔を広くする、(b)風の貫通性が高くなる吐出孔配列とする、あるいは、(c)紡糸口金吐出面から空冷による風が送られる地点までの距離を短くする、ことを特徴とする染色織編物の製造方法。
【請求項3】
前記仮撚加工糸をブルー色相検定染料と分散剤を水に溶解させ95℃に保った染色槽で染色させ、FYLアナライザーで糸の繊維軸方向における染色濃度の変動の周期性を測定した際に、デジタル化したデータをフーリエ解析して得たパワースペクトルの波長3〜30mの範囲内における最大値が25[−]以下である請求項1に記載の染色織編物の製造方法。
【請求項4】
仮撚加工糸を構成するフィラメントの単繊維繊度が0.4[dtex]以下である請求項1〜3のいずれかに記載の染色織編物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−31446(P2010−31446A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163867(P2009−163867)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【分割の表示】特願2001−335077(P2001−335077)の分割
【原出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】