説明

柔軟ガスバリア性部材及びその製造方法並びにこれを用いた有機エレクトロルミネセンス素子

【解決手段】 厚み10μm〜100μmの板ガラスと、当該板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が10MPa以下の第一樹脂層が形成され、更にその上にヤング率が100MPa以上の第二樹脂層が形成されたことを特徴とする柔軟ガスバリア性部材。
【効果】 本発明によれば、柔軟性とガスバリア性を同時に満足した柔軟ガスバリア性部材を得ることができる。本発明の柔軟ガスバリア性部材を用いた有機エレクトロルミネセンス素子は長期に使用しても変質せず、曲面状のディスプレイ用として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス素子のITO電極形成用ガラス基板として用いるのに好適な柔軟ガスバリア性部材及びその製造方法並びにこれを用いた有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネセンス素子とは、蛍光性物質(発光体)の電界発光(エレクトロルミネセンス)といわれる現象を利用した発光デバイスであり、フラットディスプレイへの応用展開がなされている。一方、電子ペーパーのように折り曲げ可能にした柔軟性ディスプレイが大きな注目を浴びている。この場合、有機エレクトロルミネセンス素子を構成する封止材(基板も含む)は柔軟性を有する必要がある。従って、有機エレクトロルミネセンス素子用ガスバリア性部材は高いガスバリア性を有すると共に曲面を形成できるための柔軟性が必要となる。
【0003】
しかしながら、有機エレクトロルミネセンス素子に使用される発光層(有機発光体)や、電子・正孔輸送材料等の有機固体は、一般的に水分や酸素に対して極めて不安定であり、有機エレクトロルミネセンス素子内に存在する水分や酸素は勿論のこと、素子の外部から侵入する水分や酸素によって劣化し、いわゆるダークスポットの成長や光透過度の低下の他、発光効率の著しい低下を引き起こしてしまうという問題がある。従って、有機エレクトロルミネセンス素子の信頼性を高め、寿命を保証するためには、外部環境からの水分や酸素の侵入を阻止する必要がある。
【0004】
有機エレクトロルミネセンス素子に対する外部からの水分や酸素の侵入遮断方法については、従来より多数の提案がなされてきた。特に、有機エレクトロルミネセンス素子に用いるフィルムとしては、ポリクロロトリフルオロエチレン(PTCFE)等の高分子フィルムの他、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)や、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)を利用して、プラスチックフィルムの表面上に、SiO2、Al23、MgO、SiN、SiOx、Diamond Like Carbon等の無機酸化物膜を形成した透明なガスバリア性フィルムなどが検討されており、例えば特開平11−80934号公報(特許文献1)には、プラスチック基材の表面に蒸着した酸化アルミニウム膜表面に、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスによるプラズマ処理を施し、水酸基を導入して、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムとからなる複合薄膜を設けた酸化アルミニウム蒸着複合フィルム、特開平11−322979号公報(特許文献2)には、ポリエチレンテレフタレートフィルム表面を酸素ガスでプラズマ処理した後に、無機酸化物の蒸着膜を形成したフィルムが提案されている。しかし、膜は柔軟であるものの、水分や酸素の侵入を完全に防止することができなかった。
【0005】
また、平面ディスプレイで使用されているガラス板は、酸素透過度や水蒸気透過度には優れるものの、折り曲げ可能なように柔軟性にするためにはその厚みは100μm以下である必要があるが、極薄のガラス板は少しの曲げに対しても簡単に破損するという問題があった。
【0006】
以上説明したように、酸素透過度や水蒸気透過度が実質的に零であると共に、柔軟性をも兼ね備えたガスバリア性部材は実現されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平11−80934号公報
【特許文献2】特開平11−322979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決するべくなされたものであり、有機エレクトロルミネセンス素子に要求されるガスバリア性を十分に有すると共に、柔軟性を有するガスバリア性部材及びその製造方法並びにこれを用いた有機エレクトロルミネセンス素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、厚み10μm〜100μmの板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が異なる2層の有機層を形成することにより、柔軟性とガスバリア性を兼ね備えたガスバリア性部材が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
従って、本発明は、下記の柔軟ガスバリア性部材、その製造方法、並びに有機エレクトロルミネセンス素子を提供する。
[請求項1]
厚み10μm〜100μmの板ガラスと、当該板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が10MPa以下の第一樹脂層が形成され、更にその上にヤング率が100MPa以上の第二樹脂層が形成されたことを特徴とする柔軟ガスバリア性部材。
[請求項2]
第一樹脂層及び第二樹脂層の厚みがそれぞれ10μm〜200μmであることを特徴とする請求項1に記載の柔軟ガスバリア性部材。
[請求項3]
第一樹脂層及び第二樹脂層がそれぞれ放射線硬化型液状樹脂組成物を硬化させることにより形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の柔軟ガスバリア性部材。
[請求項4]
厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、放射線を照射して硬化させた後、その上に更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、この第二の組成物に放射線を照射して硬化させることを特徴とする柔軟ガスバリア性部材の製造方法。
[請求項5]
厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工した後、放射線を照射して上記両組成物を硬化させることを特徴とする柔軟ガスバリア性部材の製造方法。
[請求項6]
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柔軟ガスバリア性部材の板ガラスの樹脂層が形成されていない一面にITO電極を形成し、該柔軟ガスバリア性部材をITO電極形成用ガラス基板として用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟性とガスバリア性を同時に満足した柔軟ガスバリア性部材を得ることができる。本発明の柔軟ガスバリア性部材をITO電極形成用ガラス基板として用いた有機エレクトロルミネセンス素子は、長期に使用しても変質せず、曲面状のディスプレイ用として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の柔軟ガスバリア性部材は、厚み10μm〜100μmの板ガラスと、当該板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が10MPa以下の第一樹脂層が形成され、更にその上にヤング率が100MPa以上の第二樹脂層が形成されているものである。
【0013】
ここで、本発明に使用される板ガラスは、厚さ10μm〜100μm、望ましくは40μm〜90μmであり、特に望ましい厚みは50μm〜80μmである。板ガラスの厚みが100μmを超えると柔軟性がなくなり、厚みが10μmより薄いガラスは、基本的に製造が困難である上、あまりに薄くしすぎると、強度が低下し、曲げる際に破損するおそれがあるばかりでなく、ガスバリア性が低下してしまう。板ガラスの材質は、無水珪酸を代表とする通常の板ガラス等と同じ材料で形成することができる。ダウンロード法により製造されたガラスが平坦度がよく、光学的な透明度が高いため望ましい。
【0014】
板ガラスの少なくとも一面に形成される第一樹脂層はガラスに対する応力を緩和する目的で使用されるため、第一樹脂層の樹脂のヤング率は10MPa以下、望ましくは0.01MPa〜1MPaである。ヤング率が10MPaを超えると応力を緩和する効果が少なくなる。また、ヤング率が0.01MPa未満であると、ガラスとの密着性が低下するおそれが生じる。
【0015】
第一樹脂層の上に形成される第二樹脂層はガラスを機械的に保護したり、傷つき防止の目的で使用されるため、第二樹脂層の樹脂のヤング率は100MPa以上、望ましくは500MPa〜2,000MPaである。第二樹脂層の樹脂のヤング率が100MPa未満であると、ガラスを保護する効果が低下すると共に、傷がつき易くなり、光学的な問題が生じるおそれがある。樹脂のヤング率が2,000MPa以上になると樹脂が脆くなり、ひび割れなどが生じるおそれがある。
【0016】
なお、これら第一及び第二樹脂層は、特に有機エレクトロルミネセンス素子に用いる場合、透明に形成される。
【0017】
第一樹脂層及び第二樹脂層に使用される樹脂は液状の放射線硬化型樹脂が望ましい。
放射線硬化可能な樹脂としては放射線照射によりラジカル重合可能な官能基を有するものであればよいが、ラジカル重合性に優れる(メタ)アクリロイル基を分子中に1個以上有する化合物が望ましい。
【0018】
(メタ)アクリロイル基を分子中に1個有する化合物として、具体的にはメトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、クミルフェノール(メタ)アクリレート、クミルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、クミルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシッドフォスフェート、トリクロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボロニルオキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
また、一分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物として、ポリエーテルジオールとジイソシアネートを反応させ、更に水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させたポリエーテルウレタン(メタ)アクリレートが硬化皮膜の特性調整が容易なことから好ましい。
【0020】
ポリエーテルジオールとしては、例えば、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランなどのC2〜C5アルキレンオキシド)の単独重合体又は共重合体、脂肪族C12〜C40ポリオール(例えば、1,2−ヒドロキシステアリルアルコール、水添ダイマージオールなど)を開始剤とした上記アルキレンオキシド単独重合体又は共重合体、ビスフェノールAのアルキレンオキシド(例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなど)付加体、水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド(例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなど)付加体などが挙げられる。これらのポリエーテルジオールは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
ジイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族等の有機ジイソシアネートが挙げられる。例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が使用される。
【0022】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−又は3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−又は4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい水酸基含有(メタ)アクリレートは、ヒドロキシC2〜C4アルキル(メタ)アクリレート、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどである。
【0023】
この場合、ポリエーテルジオールとジイソシアネートとの反応割合は、OH/NCO=0.8〜1.2(モル比)とすることが好ましく、また水酸基を有する(メタ)アクリレートの反応割合はOH/NCO=0.8〜1.2(モル比)とすることが好ましい。
【0024】
反応は、公知の方法に従って行うことができ、これらの反応に際し、ウレタン化触媒としてはアミン系触媒、錫系又は鉛系の金属触媒を使用することができる。得られるポリエーテルウレタン(メタ)アクリレートは、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が500〜50,000、特に1,000〜10,000であることが好ましい。
【0025】
その他の一分子中に2個のアクリロイル基を有する化合物の具体例としては、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネートのジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリセリンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、2,2’−ジ(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールのジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、ペンタンジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(グリシジルオキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0026】
更に、一分子中に3個以上のアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(アクリロキシプロピル)イソシアヌレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0027】
また、(メタ)アクリロイル基含有化合物以外に、ラジカル重合性に優れるN−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミドなどのN−ビニル化合物を使用することも可能である。
【0028】
これらの放射線硬化可能樹脂は単独或いは2種類以上のものを配合して撹拌混合し、調製することができるが、その粘度はガラス板に塗工するため通常100〜10,000mPa・s(25℃)、特に均一な面を形成するためには300〜2,000mPa・s(25℃)の範囲が望ましい。
【0029】
なお、放射線硬化可能樹脂の官能基密度を適宜調整することにより、第一樹脂層と第二樹脂層のヤング率を、所望の値に調整することが可能である。
例えば、ヤング率10MPa以下の第一樹脂層を得る場合は、官能基当量を3,000〜25,000とすればよい。一方、ヤング率100MPa以上の第二樹脂層を得る場合は、官能基当量を250〜2,000とすればよい。
【0030】
前記成分の他に例えば重合開始剤、増感剤などの反応促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、有機溶剤、可塑剤、界面活性剤、シランカップリング剤、着色顔料、有機又は無機粒子等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて添加することができる。
【0031】
本発明において、厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、放射線を照射して硬化させた後、その上に更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、この第二の組成物に放射線を照射して硬化させるか、或いは、厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工した後、放射線を照射して上記両組成物を硬化させることにより、厚み10μm〜100μmの板ガラスと、当該板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が10MPa以下の第一樹脂層が形成され、更にその上にヤング率が100MPa以上の第二樹脂層が形成された柔軟ガスバリア性部材が得られるものである。
【0032】
ここで、放射線硬化可能樹脂に照射する放射線としては、γ線、X線、電子線、イオンビーム、紫外線などが例示される。取り扱いが容易であることから電子線、紫外線が好ましい。紫外線の場合はベンゾフェノンなどの光重合開始剤を併用することが好ましい。
【0033】
樹脂を硬化するに際し、照射する電子線の吸収線量は、5kGy以上であることが望ましい。5kGy未満であると、硬化が不十分になるおそれがある。また、500kGyを超えると樹脂の分解が生じるおそれがあるため、望ましい吸収線量は5〜500kGy、更に望ましい吸収線量は10〜100kGyである。
【0034】
紫外線の場合は10mJ/cm2以上の照射線量を照射すればよく、望ましい照射線量は10〜1,000mJ/cm2、更に望ましい照射線量は100〜500mJ/cm2である。10mJ/cm2未満であると、樹脂の硬化が不十分になるおそれがあり、1,000mJ/cm2を超えるとエネルギーが無駄になると共に生産効率も低下するため経済的でない。
【0035】
放射線を照射する際の温度は室温付近でよいが、樹脂の粘度を塗布し易いように調整したり、膜厚や塗工面の状態を一定にするため、予め樹脂及び/又は電極の温度を一定に調整したほうがよい。この場合、樹脂及び/又は電極の温度は25〜60℃で、定温が望ましい。
【0036】
また、この放射線の照射雰囲気としては、ラジカル重合を容易に進行させるため、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が好ましく、該ガス中の酸素濃度は500ppm以下が好ましく、200ppm以下が更に好ましい。
【0037】
以上のような方法により、図1に示したように、極薄板ガラス1の一面に低ヤング率の第一樹脂層2、その上に高ヤング率の第二樹脂層3が積層された柔軟ガスバリヤ性部材Aが得られる。
この柔軟ガスバリヤ性部材Aは、有機エレクトロルミネセンス素子のITO電極形成用ガラス基板として好適に用いられる。例えば、図2に示すようなガラス基板11、ITO電極12、正孔輸送層13、電子輸送層14、背面基盤15を備えた有機エレクトロルミネセンスディスプレイBにおいて、上記板ガラス1をガラス基板11とし、その第一及び第二樹脂層2,3が形成されていない面にITO電極12を形成するようにし、本発明に係る柔軟ガスバリヤ性部材Aを必要により湾曲させて使用し得る。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[実施例]
第一樹脂層用組成物の調製
アロニックスM−113(ノニルフェノールEO4モル変性アクリレート、東亜合成工業社製)106.8gr、2,4−トリレンジイソシアネート17.3gr、ジブチルチンジラウレート0.5gr、2,6−ジ−tert−ブチルヒドロキシトルエン0.15grを反応容器に仕込み、乾燥空気下で、15℃以下に保つ速度で2−ヒドロキシエチルアクリレート11.3grを滴下した。次いで反応温度を30℃にして2時間反応させた後、数平均分子量7,950のポリプロピレングリコール398grを添加し、50〜60℃で3時間反応させ、アロニックスM−113を20質量%含有するアクリルウレタンオリゴマー(オリゴマーAとする)を得た。
【0040】
オリゴマーA 75質量部、アロニックスM−113 5質量部、ラウリルアクリレート 10質量部、N−ビニルピロリドン 10質量部を混合し、第一樹脂層用組成物を調製した。このものの25℃における粘度は4,500mPa・sであった。
【0041】
第二樹脂層用組成物の調製
2,4−トリレンジイソシアネート51.5gr、数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール42.3gr、数平均分子量400のポリオキシプロピレングリコール22.0gr、トリオキシプロピレングリコール1.6grの混合液を反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、70〜80℃で3時間反応させた。次いでこの反応混合物を40℃まで冷却し、反応容器内を乾燥空気で置換し、2−ヒドロキシアクリレート50.0grを加え、徐々に昇温して温度60〜70℃で2時間反応させた。次いでジブチルチンジラウレート0.1grを仕込み、更に4時間反応させてアクリルウレタンオリゴマー(オリゴマーBとする)を得た。
【0042】
オリゴマーB 70質量部、イソボルニルアクリレート 10質量部、N−ビニルピロリドン 10質量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート 10質量部を混合し、第二樹脂層用組成物を調製した。このものの25℃における粘度は3,900mPa・sであった。
【0043】
こうして得られた組成物の硬化皮膜特性を下記のようにして測定した。その結果を表1に示す。
(1)硬化皮膜の作製
前記第一及び第二組成物を別々にポリエステルフィルム上にアプリケータを用いて約50μmの膜厚に塗布し、電子線照射装置を用い、酸素濃度50ppmの窒素雰囲気下で加速電圧100kV、吸収線量50kGyになるよう電子線照射し、それぞれ硬化皮膜を作製した。
(2)ヤング率の測定
25℃、相対湿度50%で硬化皮膜を24時間状態調整した後、標線間25mm、引っ張り速度1mm/minの条件で2.5%引っ張り弾性率を測定した。
(3)引っ張り強さ及び破断伸びの測定
25℃、相対湿度50%で硬化フィルムを24時間状態調整した後、標線間25mm、引っ張り速度50mm/minの条件で測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
有機エレクトロルミネセンス素子の評価
100mm角の厚さ70μmのガラス板(コーニング社製 商品名マイクロシートNo.00)上に、上記第一樹脂層用組成物をアプリケータを用いて厚さ約50μmに塗工し、100kVの電子線加速装置を用い、吸収線量50kGyになるよう電子線を照射して硬化させ、第一樹脂層を形成した。更に、ガラス板上に形成された第一樹脂層上に、上記第二樹脂層用組成物をアプリケータを用いて厚さ約50μmに塗工し、同様にして電子線を照射して硬化させ、第二樹脂層を形成した。
このものの550nmの可視光透過率は90%で、ガスバリア性部材として良好な光学特性を有していた。また、このものを折り曲げたところ、曲率半径100mmでも破損することはなかったが、樹脂層を形成しなかったガラスは曲率半径100mmに到達する前に破損した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態にかかる柔軟ガスバリア性部材の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】有機エレクトロルミネセンスディスプレイの概略構造図である。
【符号の説明】
【0047】
A ガスバリア性部材
1 板ガラス
2 第一樹脂層
3 第二樹脂層
B 有機エレクトロルミネセンスディスプレイ
11 ガラス基板
12 ITO電極
13 正孔輸送層
14 電子輸送層
15 背面基盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み10μm〜100μmの板ガラスと、当該板ガラスの少なくとも一方の面上にヤング率が10MPa以下の第一樹脂層が形成され、更にその上にヤング率が100MPa以上の第二樹脂層が形成されたことを特徴とする柔軟ガスバリア性部材。
【請求項2】
第一樹脂層及び第二樹脂層の厚みがそれぞれ10μm〜200μmであることを特徴とする請求項1に記載の柔軟ガスバリア性部材。
【請求項3】
第一樹脂層及び第二樹脂層がそれぞれ放射線硬化型液状樹脂組成物を硬化させることにより形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の柔軟ガスバリア性部材。
【請求項4】
厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、放射線を照射して硬化させた後、その上に更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、この第二の組成物に放射線を照射して硬化させることを特徴とする柔軟ガスバリア性部材の製造方法。
【請求項5】
厚み10μm〜100μmの板ガラスに第一樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工し、更に第二樹脂層用放射線硬化型液状樹脂組成物を膜厚10μm〜200μmに塗工した後、放射線を照射して上記両組成物を硬化させることを特徴とする柔軟ガスバリア性部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柔軟ガスバリア性部材の板ガラスの樹脂層が形成されていない一面にITO電極を形成し、該柔軟ガスバリア性部材をITO電極形成用ガラス基板として用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−130855(P2006−130855A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324528(P2004−324528)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】