説明

栄養素の吸収を促進させるのに有用な医薬組成物およびポリア抽出物

本発明は、栄養素摂取の促進における下記式(I)であるラノスタンまたはそれらの製薬上許容されうる塩の新規な使用に関する:


式中、RはHまたはCHであり;RはOCOCH、=OまたはOHであり;RはHまたはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CHまたは−CH=C(CH)−Rであり、ここでRはHまたはOHであり、およびRはCHまたはCHOHであり;RはCHまたはCHOHである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は栄養素の摂取を促進させるラノスタン化合物の新規な用途および特に有効な成分としてラノスタン化合物を含む栄養素の摂取を促進させる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の記載
本出願の出願人は、台湾特許出願第92113393号(台湾特許200425900号公報、2004年12月1日公開)において、人体の免疫力の増強において有用な医薬組成物を開示した。当該組成物は有効な成分のラノスタン(lanostane)化合物を含む。人体の免疫力増強のためのポリア(Poria)抽出物も提示され、当該抽出物は、その重量の5〜60%のラノスタン化合物を含み、実質的にセコラノスタン(secolanostane)を含まない。抽出物はマツホド(Poria cocos (Schw) Wolf)の代謝産物、菌核粒子(sclerotium)または発酵産物から得られる。
【0003】
一般的に、栄養素の摂取は健康なおよび精力的な人体を維持するのに不可欠なものである。消化管における綿密な栄養素の摂取は人体の様々な細胞によりその栄養素が利用されるのを可能とし、健全な人体のために強い基礎を築く。例えば、グルコースは人体細胞においてATP(アデノシン三リン酸)に変わり、その細胞はATPを心臓の脈動、神経伝達、および骨格筋の活動のような細胞組織の通常の機能を行うのに利用される。したがって、栄養素の摂取を促進させる物質や方法の調査はその関連分野の研究者および一般人にとっても重大な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】台湾特許出願第92113393号
【特許文献2】台湾特許200425900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
本発明の第一の目的は栄養素の摂取の促進におけるラノスタン化合物の新規な用途を提供することである。
【0006】
本発明の他の一の目的は栄養素の摂取の促進のためにラノスタン化合物を食物または飲料の添加物として使用することである。
【0007】
本発明の他の一の目的は有効な成分としてラノスタン化合物を含む栄養素の摂取を促進するための医薬組成物を提供することである。ここで記載される「医薬組成物」は文字通りの調合薬を意味するだけでなく、栄養素の補助組成物をも意味する。栄養の補助組成物は栄養素を含むだけでなく、栄養素の摂取を促進させる有効な成分としてのラノスタン化合物も含む。
【0008】
哺乳類(例えば、ヒト)の栄養素の摂取を促進させうる医薬組成物は、活性成分として下記化学式(I)を有するラノスタンの栄養摂取を促進させるために効果的な量を含む:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、RはHもしくはCHであり;RはOCOCH、=OもしくはOHであり;RはHもしくはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CHであり(ここでRはH、OH、もしくは−CH=C(CH)−R(ここでRはCHもしくはCHOHである)である);RはHもしくはOHであり;およびRはCHもしくはCHOHであり、またはそれらの製薬上許容されうる塩である。
【0011】
好ましくは、下記化学式(I)を有するラノスタンは下記で表される。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
または
【0016】
【化5】

【0017】
好ましくは、
前記医薬組成物はラノスタン(I)またはそれらの製薬上許容されうる塩を0.1〜20重量%含む。
【0018】
好ましくは、前記医薬組成物は経口投与される。
【0019】
好ましくは、前記医薬組成物はラノスタン(I)の原料としてポリア抽出物を含み、前記ポリア抽出物は1〜60重量%のラノスタン(I)を含み、およびセコラノスタンを実質的に含まない。
【0020】
好ましくは、前記ポリア抽出物は以下の工程を含む方法で調製される:
a)水、メタノール、エタノールまたはそれらの混合溶媒により、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を抽出し;
b)前記a)工程で得られた液体抽出物を濃縮し;
c)前記b)工程で得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;
d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、得られた溶出液を集め;および
e)前記d)工程で得られた溶出液を濃縮する。
【0021】
好ましくは、e)工程で得られた濃縮された溶出液が、塩化メチレン:メタノール=96:4の混合溶媒で展開され、紫外線ランプおよびヨウ素で検出された、シリカゲル薄層クロマトグラフィーによるクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上である。
【0022】
好ましくは、a)工程における抽出は95%エタノールを用いて行われる。
【0023】
好ましくは、a)工程における抽出は、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を沸騰水で抽出し;pH値を9〜11になるまで得られた抽出水溶液に塩基を添加し;塩基性水溶液を回収し;前記塩基性水溶液にpH値が4〜6になるまで酸を加え、沈殿を形成し;前記沈殿を回収し;前記沈殿をエタノールで抽出し;および抽出液を回収することを含む。
【0024】
好ましくは、工程b)で得られた濃縮物が、さらに体積比1:1の95%v/vメタノール水溶液およびn−ヘキサンを含む二相溶媒で抽出され、メタノール層が二相溶媒抽出混合物から分離され、および前記メタノール層が濃縮され、工程c)でシリカゲルカラムに供給される濃縮物として用いる。
【0025】
好ましくは、工程d)における前記極性の低い溶離液が塩化メチレンおよびメタノールを96.5:3.5の体積比で含む混合溶媒である。
【0026】
好ましくは、前記ポリア抽出物が5〜35重量%のラノスタン(I)を含む。
【0027】
好ましくは、本発明の組成物は栄養素、例えば、グルコース、アミノ酸、ビタミン、またはそれらの混合物をさらに含む。
【0028】
本発明において、式(I)のラノスタンもしくはそれらの製薬上許容されうる塩、または前述の活性成分として栄養の摂取の促進に使用するポリア抽出物が以下の状況で適用される:(1)年配者の栄養状態を向上するため;年配者は消化器官が老化に伴って機能低下するため、結果として、栄養素の摂取が低下し、年配者の栄養失調の原因となる;前記活性成分の使用は年配者の栄養状態を向上しうる。(2)虚弱な子供を強化するため;成長過程で、ある子供は平均よりも生来虚弱であり、栄養補助剤のみを増加しても体格を良くすることはできず、前記活性成分の使用は栄養面で不利な子供を強くすることができる。(3)一定のストレスにさらされているか、またはしばしば夜遅くまで働く人のため;これらの人はストレスを原因とする疾患のため胃腸の問題にしばしば悩まされ、胃腸の問題の一つは疲労や低活力のような他の問題を引き起こす吸収不良症候群であり、この際に、活性成分を使用すれば問題を緩和しうる。(4)多量のエネルギーを使用するまたは多量の仕事量を行う必要のあるおよびしばしば栄養補助剤を摂取する必要のある運動選手、肉体労働者および事務員のため;働くまたは肉体労働をする人は(ATPの形で)過度に多量のエネルギーを使用する必要があり、しばしばエネルギーを補充しなければならない;エネルギーは人体ではグルコースから得られ、グルコースの補充の速度を高めるのはエネルギー生成を促進するので、活性成分の使用は自己の能力を高めようとする運動選手、肉体労働者および労働者がグルコースを補充するための効果的な方法となりうる。(5)外科手術や癌治療(化学療法または放射線療法)および緊急に栄養補助剤(アミノ酸、グルコースおよびビタミンを含む)を必要とする肉体的に虚弱な患者のため;活性成分の摂取は患者を急速に回復させることを補助しうる。(6)ウイルス性下痢に苦しむ人のため;季節の変わり目にしばしばウイルス感染(例えば、ロタウイルス感染)によるインフルエンザや下痢になる子供、重症の場合であれば、下痢は水、電解質、栄養素の重度な不足の原因となり、死に至る;本発明の活性成分は(ウイルスを撲滅する)免疫増強剤として知られており栄養摂取を促進することができるため、当該活性成分を摂取すれば(浸透圧を変化して)栄養摂取と共に水分を吸収させることが可能となり、人体に入ることが可能となり、さらに人命に脅威である下痢に苦しむ子供を守ることができる。つまり、本発明の活性成分は栄養補助剤として使用することができ、粉ミルク、飲料および食品に添加され;本発明の活性成分は医療目的にも利用され、錠剤、カプセル、粒状の調剤、液体の調剤および注射用の調剤の形態で活性成分の製薬上許容されうる賦形剤または希釈剤の混合物に医薬品として使用してもいい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、腸細胞(Caco−2)によるグルコースの摂取における本発明のラノスタン化合物K2の効果を示すグラフである。
【図2】図2は、腸細胞(Caco−2)によるグルコースの摂取における本発明のラノスタン化合物K3の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、腸細胞(Caco−2)によるグルコースの摂取における本発明のラノスタン化合物K4の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、腸細胞(Caco−2)によるアルギニンの摂取における本発明のラノスタン化合物K1の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、腸細胞(Caco−2)によるアルギニンの摂取における本発明のラノスタン化合物K2の効果を示すグラフである。
【図6】図6は、腸細胞(Caco−2)によるアルギニンの摂取における本発明のラノスタン化合物K3の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、腸細胞(Caco−2)によるアルギニンの摂取における本発明のラノスタン化合物K4の効果を示すグラフである。
【図8】図8は、腸細胞(Caco−2)によるトリプトファンの摂取における本発明のラノスタン化合物K1の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、腸細胞(Caco−2)によるトリプトファンの摂取における本発明のラノスタン化合物K3の効果を示すグラフである。
【図10】図10は、腸細胞(Caco−2)によるトリプトファンの摂取における本発明のラノスタン化合物K4の効果を示すグラフである。
【図11】図11は、腸細胞(Caco−2)による葉酸の摂取における本発明のラノスタン化合物K1の効果を示すグラフである。
【図12】図12は、腸細胞(Caco−2)による葉酸の摂取における本発明のラノスタン化合物K2の効果を示すグラフである。
【図13】図13は、腸細胞(Caco−2)による葉酸の摂取における本発明のラノスタン化合物K3の効果を示すグラフである。
【図14】図14は、腸細胞(Caco−2)による葉酸の摂取における本発明のラノスタン化合物K4の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実施するための最良形態
近年の生化学は、エネルギーを生み出し、または細胞の代謝活性を維持するのに主に必要であるグルコース、アミノ酸、およびビタミンを含む様々な栄養素を人間は食物から得ることができることを明らかにした。しかしながら、これらの栄養素は自由にヒト組織または細胞に出入りすることはできず、代わりに異なるメカニズムで厳密に制御されている。その現象は化学薬品(例えば医薬品)が人体に吸収される状況により異なり、濃度の違いに基づき拡散され人体に出入りする。しかし、栄養素が細胞内に入りおよび出るとき、栄養素は特定のキャリアタンパクまたは細胞膜上にあるチャネルより入りまたは出なければならない。ある研究事例を以下に示すが、これには、ヒトの腸内におけるグルコースの吸収工程が開示されている。はじめ、腸内のキャリアタンパク質はナトリウムイオンと結合し、キャリアタンパク質は構造的に変性し、次いで結合しているグルコースのための部分を広げる。グルコースとナトリウムイオンのキャリアタンパク質との共同連携は、グルコースとナトリウムイオンが細胞に結果として入り込む(細胞内部に面する)ような、キャリアタンパク質の形態変化を引き起こす。ナトリウムイオンははじめ分離して細胞に入り、グルコースおよび関連するキャリアタンパク質を不安定にする。最後に、グルコースも分離して細胞に入り、キャリアタンパク質は新にグルコースおよびナトリウムイオンを欠き、元の方向に戻り、腸の方向を向く。細胞にグルコースがある程度まで溜まると、別のキャリアタンパク質がグルコースが腸細胞から出て濃度勾配を経て血管に入るのに使用され、この型のキャリアタンパク質は、促進拡散タンパク質に属する。
【0031】
Caco2細胞はヒト結腸癌由来の細胞株であり;この細胞株の主な特徴は細胞が自発的に、かつ迅速にヒトの腸管に類似した極性を有する細胞単層に分裂することである。2〜3週間の細胞培養の後、Caco2細胞は刷子縁および高い加水分解機能を有する堅い結合に分裂し、次いで特定の物質の透過を阻止したり可能としたりしうる細胞単層を形成する。Caco2細胞からなる細胞単層は、腸管に類似したおよそ300Ωcmの電気抵抗値を有する。さらに、Caco2細胞単層は種々の栄養素に対応したキャリアタンパク質を有する、つまりアミノ酸、グルコース、およびビタミン用のキャリアタンパク質を含むことが明らかとなっている。したがって、Caco2細胞単層はしばしば腸細胞での薬剤または栄養素の処理に関する調査または試験に使用され、その結果はヒトの腸細胞による薬剤または栄養素の吸収を解明するのに使用され、関連分野の者に難なく受け入れられている。[Hidalgo IJ, al., Gastroenterology, 1989;96:736〜749.; Artursson P., J Pharm Sci, 1990;79:476〜482.].
伝統的に、漢方医は特に虚弱な子供、年齢により衰えた老人、または病気や(癌のような)疾患により衰えた患者を治療するとき、漢方医は通常上述した患者を健康に戻す目的で、改善または治療するのに有望な漢方薬を使用する。しかしながら、有望な漢方薬がヒトの健康を改善する仕組みはあまり知られていない;これは、漢方薬が必要な栄養素を有しているから効果的であるか、栄養素の摂取を促進させることに効果的であるか、または前記の二つの点により個人的健康状態をさらによくすることができるかであると考えられる。もし栄養素の摂取が吸収の促進メカニズムにより向上しているのであれば、どの成分がキャリアタンパク質に影響するのに効果的であるか未だ明らかではなく、関連する科学的証拠は今のところ見出されていない。したがって、栄養素の摂取を促進するために有望な漢方薬の抽出物および/または有望な漢方薬の成分の効果を見つけるために、栄養素の摂取についての試験に前述のCaco2細胞を使用することが提案されている。本発明の発明者がCaco2細胞を用いて試験をするために典型的な有望な漢方薬(朝鮮人参およびレンゲ)を選択しているとき;典型的でない有望な漢方薬であるポリアについても試験し、予想外にポリアの抽出物とラノスタン化合物がCaco2細胞による栄養素の摂取を促進させるのに効果的であることを見出した。
【0032】
本発明で開示された、哺乳類(例えば、ヒト)による栄養素の摂取を促進させるポリア抽出物は台湾公開番号第200425900号に開示されているのと同様の方法で調製することができ、それはマツホドを通常の抽出方法で抽出して粗抽出物を入手し、その粗抽出物をクロマトグラフィーによりラノスタン(lanostane)の低極性留分(塩化メチレン:メタノール=96:4の溶離液を使用)およびセコラノスタン(secolanostane)の高極性留分(塩化メチレン:メタノールが体積比90:10または0:100の溶離液を使用)に分離し、ここで塩化メチレン:メタノール=96:4の混合溶媒によって薄層クロマトグラフィーで展開したときに、ラノスタン留分はクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上のところで検出され、また、セコラノスタン留分はRfが0.1未満のところで検出される。いくつかのラノスタンは前記ラノスタン留分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより溶出することで分離される。ここで前記溶出は塩化メチレン:メタノール=97:3〜95:5である。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するために提示されるものであり、本発明の範囲を限定するために使用されてはならない。
【0034】
実施例1:
ポリア粉末を中国で成長したマツホド(Poria cocos(Schw) Wolf)30kgから製造した。このポリア粉末を、95%アルコール120Lを用いて24時間かけて抽出した。この混合物をろ過し、ろ液を得た。さらに3回残渣を抽出してろ過した。ろ液を合わせて濃縮し、265.2gの量の乾燥抽出物を得た。乾燥抽出物を、二相抽出剤(n−ヘキサン:95%メタノール=1:1)を用いて分配抽出し、そこからメタノール相を除き、その後、濃縮して246.9gの量の乾燥固形物を得た。乾燥固形物の分離を、乾燥固形物の10〜40倍の重量のシリカゲルを充填したシリカゲルカラムを用いて行った。70〜230メッシュの直径を有する前記シリカゲルは、Merck社製のSilica Gel 60である。前記カラムを次の溶離液を順に用いて溶出した:塩化メチレン:メタノール=96:4の混合溶媒;塩化メチレン:メタノール=90:10の混合溶媒;および純粋メタノール。溶離液を、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって試験し、ここでは検出に紫外線ランプおよびヨウ素蒸気を用い、塩化メチレン:メタン=96:4の混合溶媒を展開液として使用した。TLCにおいて類似の組成を有する溶出液を混合した。
【0035】
塩化メチレン:メタノール=96:4の混合溶媒を用いた溶離液からは、78gの量のPCM部分を得た。前記PCMは薄層クロマトグラフィーにおいて6つのスポット跡を示した。塩化メチレン:メタノール=90:10および純粋メタノールの溶離液を用いた溶出により得られた溶出液を混合し、168gの量のPCW部分を得た。
【0036】
前記PCM部分を、塩化メチレン:メタノール=96.5:3.5の溶離液および同様のシリカゲルカラムを使用してさらに分離し、K1(K1−1およびK1−2)、K2(K2−1およびK2−2)、K3、K4、K4a、K4b、K5、K6aおよびK6bの精製ラノスタン成分を得た。なお、前記分離工程および同定分析データの詳細については、US2004/0229852A1公報に記載されている。
【0037】
前記K1〜K6b化合物は下記の構造を有する:
【0038】
【化6】

【0039】
PCM部分から分離されたラノスタン化合物K1〜K6bの量を下記表に列記する。PCM部分は、ラノスタン化合物K1〜K6bを約15wt%含む。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2:
ラノスタン化合物K1、K2、K3、およびK4ならびに本発明の実施例1で調製されたPCM抽出物の栄養素の摂取を促進させることにおける効果を以下の方法で評価した。
【0042】
ヒトCaco2細胞の培養および栄養素の摂取の試験
本実施形態のラノスタン化合物またはPCM抽出物は、試験において、Caco2細胞によりグルコース、アミノ酸、およびビタミンのような栄養素の摂取を促進することを示し、ここでCaco2細胞をPolycarbonate Membrane Transwell(登録商標)インサート(アメリカ、ニュウヨーク州のコーニング社製、製品番号3413)に稙菌し、細胞培地を2〜3日毎に1度置き換えた;前記Caco2細胞は14〜21日後に単層に分離した。その後、単層のトランス上皮電気抵抗(trans−epithelial electrical resistance (TEER))をMillicell(登録商標)−ERS(Millipore EVOM−6;アメリカ フロリダ州サラソータのワールドプレシジョンインストゥルメント製)を使用して測定し、TEERが300〜450Ωcmになり、Caco2細胞が分離した刷子縁を形成した時、Caco2細胞は栄養素の摂取の試験をする準備が整った。Caco2細胞単層を異なる濃度の栄養素を含む細胞培地で二日間試験するために培養し、使用した血清は常にチャコール−デキストラン(CD−FBS)で処理したウシ胎仔血清であった。培養の二日後、細胞培地をPBSで洗浄し、替わりに試験用の栄養素を含まない緩衝液で1時間培養した(例えば、グルコース吸収を試験したときは、グルコースを含まない緩衝液を使用した)。その後、Caco2細胞単層を通過する栄養素分子の速度を追跡するために、前記緩衝液を、放射性標識化した個々の栄養素を前もって定められた濃度で含む新鮮な緩衝液に取り替えた。放射性標識化した栄養素は[14C]−D−グルコースまたは[14C]−D−2−デオキシグルコースならびに[H]−L−アルギニン、[H]−L−トリプトファンおよび[H]−葉酸を含んでいた。さらに炭素−14または水素−3で放射性標識化したD−キシリトールの測定をCaco2の細胞単膜の統合性を確認するための手段とした[参考文献: Artursson, P., J Pharm Sci, 1990, 79: 476〜482; Ferraris RP, et al., Am J Physiol, 1993, 264: G285〜G293.]。
【0043】
グルコース吸収の分析
ヒトCaco2細胞を完全な単層に分離可能とするためにトランスウェルインサートに植菌した。実際の測定の前に、細胞単層を試験に用いる栄養素で2日間処理し、グルコースを含まない緩衝液(80mM NaCl、 100mM マンニトール、 20mM トリス−HCl、 pH 7.4、 3mM KHPO、 1mM CaCl、 1mg/ml BSAの組成である)で1時間培養し、その後、上位の細胞層で緩衝液を最終的な10mMのグルコースの濃度の新鮮な緩衝液に置き換え、ここで緩衝液には炭素−14で放射性標識化したD−グルコースまたはD−デオキシグルコース(60mCi/mmol、アメリカ、ミズーリ州、セントルイスのアメリカンラジオレーベルドケミカルズ(American Radiolabeled Chemicals)社製)が2μCi/mL含まれ、Caco2細胞単膜を透過するグルコース分子の速度を追跡した。10μLの緩衝液をそれらの放射線強度を試験するために特定の時間間隔で低い細胞層から抽出し;放射線強度の値は、特定の時間間隔で低い細胞層の緩衝液のグルコース分子濃度を示す、グルコース濃度の値に変換した。TEER値の測定に加えて、その試験は、グルコース輸送剤によりグルコースが吸収されないことを示す非特異的なバックグラウンドの値を測定するための炭素−14により放射性標識化されたL−グルコースのレベルに加えて、同時に炭素−14により放射性標識化されたD−キシリトールのレベルを測定し、Caco2細胞単層の結合性を確認した。放射線強度の値は、特定の時間間隔でCaco2細胞をより低い細胞層へ透過するグルコース分子の濃度を示すものに変換しうる。細胞単層が前記の濃度の栄養素で処理されたとき;グラフは異なる時間間隔の低い細胞層のグルコース濃度に基づき描かれており、直線は数値解析法を使用して得られ、傾きはCaco2細胞単層を透過するグルコース分子の平均速度を示す。この試験でコントロールのデータは試験に用いる栄養素で処理していない細胞単層を使用して得られた。前記測定方法は主に以下の参考文献に基づく: Kimura T. et al., J. Pharm. Pharmacol., 2001, 54, 213〜219.。
【0044】
アミノ酸吸収の分析
アルギニンおよびトリプトファンのようなアミノ酸の吸収の試験において、Caco2細胞単層を試験に用いる異なる濃度の栄養素を含む細胞培地ではじめの2日間培養し、その後PBSで洗浄し、代わりに前記アミノ酸を含まない緩衝液(アルギニンの試験用の組成は:NaCl 137mM、pH 7.4のヘペス 10mM、NaHPO 0.3 mM、KHPO 0.3 mM、KCl 5.4 mM、CaCl 2.8mM、MgSO 1mM、およびグルコース 10mM;一方、トリプトファンの吸収の試験用の組成は:塩化コリン 137mM、pH 7.4のヘペス 10mM、KHPO 0.6mM、KCl 5.4mMCaCl 2.8 mM、MgSO 1 mM、およびグルコース 10 mM)で培養した。培養の一時間後、水素−3で放射性標識化されたアミノ酸(L−H−アミノ酸)をアミノ酸の吸収において異なる濃度の栄養素のCaco2細胞単層の処理への影響を観察するために使用した。TEER値の測定に加えて、試験ではCaco2細胞単層の結合性を確認するために水素−3で放射性標識化されたD−キシリトールのレベルを測定した。放射線強度の値はCaco2細胞単層から特定な時間間隔で低い細胞層へ透過するアミノ酸分子の濃度を表すものに変換しうる。細胞単層が前記濃度の栄養素で処理されたとき;グラフは低い細胞層のアミノ酸濃度に基づき異なる時間間隔ごとに示され、直線は数値解析法を用いて得られ、傾きはアミノ酸分子のCaco2細胞単層を透過する平均速度を示す。この試験でのコントロールのデータは試験に用いる栄養素で処理されていない細胞単層を使用して得られた。前記測定方法は主に以下の参考文献に基づく:Pan M., et al., Am J Physiol. Gastrointest Liver Physiol 1995, 268: G578〜G585.。
【0045】
葉酸吸収の分析
ヒトCaco2細胞を10cmの培養皿に稙菌し、測定に先立ってその後2週間分裂過程が完了するのを待った。測定を行う前に、前記細胞を異なる濃度の栄養素で2日間処理し、その後葉酸を含まない緩衝液(葉酸輸送培養緩衝液(pH6.0): 0.14 g/L CaCl、0.1 g/L MgCl、および0.1 g/L MgSOを補ったハンク平衡塩液(HBSS))で1時間培養し、次いで最終濃度である葉酸5μM(水素−3で放射性標識化された2μCi/mLの葉酸(アメリカ、ミズーリ州、セントルイスのARC製の3,5,7,9−H−葉酸、25 mCi/mmol)を含む)の新鮮な緩衝溶液で置き換えた。その後、その細胞を特定の時間間隔でPBSで洗浄し、遠心分離で回収する前に0.2mLの0.2N NaOHに溶解し、破壊した。定量の上澄み液をタンパク質濃度を測定するために抽出し、一方、20μLの上澄み液をCaco2細胞に吸収され蓄積している葉酸の濃度を測定するために抽出した。計算値は等量のタンパク質の質量を有するCaco2細胞の細胞液中の葉酸分子の濃度を一定の時間ごとに示す。細胞が前記濃度を有する栄養素で処理されたとき;グラフは細胞中の葉酸の濃度に基づき異なる時間間隔で示され、直線は数値解析法を用いて得られ、傾きはCaco2細胞に吸収された葉酸分子の平均速度を示す。この試験でのコントロールのデータは試験用の栄養素で処理されていない細胞単層を用いて得られた。測定する前記方法は主に以下の参考文献に基づく: Dudeja PK., et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physi , 2001, 281(1): G54〜G60.
結果
(1)Caco2細胞による2−デオキシグルコースの摂取の促進における実施例1で調製されたPCM抽出物の効果が表1に示されている。表1はPCM抽出物が低投与量(0.0033μg/cc)でCaco2細胞による2−デオキシグルコースの摂取の促進にとても効果的であることを示している。
【0046】
【表2】

【0047】
(2)Caco2細胞によるグルコースの摂取の促進における実施例1で調製されたラノスタン化合物K1、K2、K3、およびK4の効果が表2および図1〜3に示されている。表2は低投与量(1μM〜0.001μM)でラノスタン化合物K2、K3、およびK4がCaco2細胞によるグルコースの摂取を促進させるのに有効であることを示す。図1および図3はラノスタン化合物K2およびK4がグルコース吸収の促進に有効であり、吸収速度は時間と比例関係にある。当該比例関係はポリアの成分が関係するキャリアタンパク質に影響しまたはそれらを増加することによりグルコース吸収を促進していることを示すと推測できる。ラノスタン化合物K1は有効ではないものの、K1はK2のプロドラッグであり、容易にK2に変形でき、腸または血液中で有効となりうる。
【0048】
【表3】

【0049】
(3)Caco2細胞によるアミノ酸(アルギニンおよびトリプトファン)の摂取における実施例1で調製されたラノスタン化合物K1、K2、K3、およびK4の効果が表3および4、ならびに図4〜10に示されている。表3は低投与量(1μM〜0.001μM)でラノスタン化合物K1、K2、K3、およびK4がCaco2細胞によるアルギニンの摂取を促進させるのに有効であることを示す。表4は低投与量(1μM〜0.001μM)でK1、K3、およびK4がCaco2細胞によるトリプトファン吸収を促進させるのに有効であることを示す。より重要なことに、Caco2細胞による前記アミノ酸の摂取は低投与量のラノスタン化合物(1μM〜0.001μM)により促され、図4〜10で観察されるように吸収速度は時間と比例関係であることが示されている。比例関係は、ラノスタン化合物は前記アミノ酸の摂取を関連したキャリアタンパク質に影響を与えるかまたは増加することにより促進させていることを示している。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
(4)実施例1で調製されたラノスタン化合物K1、K2、K3、およびK4のCaco2細胞による葉酸の摂取における効果は表5および図11〜14に示されている。表5に示されるように、K1、K2、K3、およびK4は低投与量(1μM〜0.001μM)でCaco2細胞により葉酸の摂取を促進させるのに有効である。より重要なことに、図11〜14に見られるように、Caco2細胞による葉酸の摂取は低投与量のラノスタン化合物(1μM〜0.001μM)により促され、その吸収速度は時間と比例関係にある。当該比例関係は、ラノスタン化合物は関連するキャリアタンパク質に影響を与えるかまたは増加するかにより前記葉酸の摂取を促進させていると推測される。
【0053】
【表6】

【0054】
実施例3
ポリア100kgを水800kg中で3時間煮沸し、その後放置して50℃になるまで冷却し、5N NaOH溶液を用いて、pH値を11になるように調整し、次いでその溶液を3時間攪拌した。遠心分離機を使用して、固形物から液体を分離し、分離した固形物にさらに水800kgを加えた。pH値をNaOHで11に調整し、攪拌し、遠心分離により固形物を除くことを含む、上記の手順を繰り返した。得られた2つの液体を合わせて、50℃で真空濃縮して100kgの溶液とし、次いで、3N HClを用いてpH値を6.5になるように調整して、沈殿物を生成した。前記沈殿物を溶液から分離し、続いて40LのHOで洗浄し、沈殿物を回収するために遠心分離し;沈殿物を水8Lを用いて噴霧乾燥し、380gの粉末を得た。その後、前記粉末を4Lのアルコールを用いて3回抽出し、抽出溶液を合わせて濃縮し、アルコール抽出物238.9gを得た;このアルコール抽出物は、HPLCで分離され、抽出物1グラムにつき、K2を185.93mg、K3を20.34mg、K4を15.82mgおよびK1を4.52mgを得た。言い換えれば、抽出物1グラムは約226.07mgのラノスタン化合物を含む。
【0055】
実施例4:
実施例1で調製されたPCM部分を含むカプセルが以下の組成に基づいて調製された:
【表7】

PCM部分およびケイアルミン酸ナトリウムを#80メッシュを使用してふるい分けし、ジャガイモデンプンを#60メッシュを使用してふるい分けし、ステアリン酸マグネシウムを#40メッシュを使用してふるい分けした。続いて、上記成分はミキサーで均一に混合し、次いで得られた混合物をNo.1の空カプセルに充填した。各カプセルは、有効成分K1〜K6を約1.68mg(0.42wt%)含んでいる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類による栄養素の摂取を促進する薬剤の調製における、下記化学式(I)で示されるラノスタンまたはそれらの製薬上許容されうる塩の使用:
【化1】

式中、RはHまたはCHであり;RはOCOCH、=OまたはOHであり;RはHまたはOHであり;Rは−C(=CH)−C(CHまたは−CH=C(CH)−Rであり(ここでRはHまたはOHであり、およびRはCHまたはCHOHである);RはHまたはOHであり;およびRはCHまたはCHOHである。
【請求項2】
前記ラノスタン(I)が、
【化2】

【化3】

【化4】

または
【化5】

である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ラノスタン(I)またはそれらの製薬上許容されうる塩を0.1〜20重量%で含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が経口投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記哺乳類がヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
ポリア抽出物が前記ラノスタン(I)の原料として使用され、前記ポリア抽出物はラノスタン(I)を1〜60重量%含み、セコラノスタンを実質的に含まない、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記ポリア抽出物が以下の工程を含む方法で調製される、請求項6に記載の使用:
a)水、メタノール、エタノールまたはこれらの混合溶媒によって、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を抽出し;
b)前記a)工程から得られた液体抽出物を濃縮し;
c)前記b)工程から得られた濃縮物をシリカゲルカラムに導入し;
d)極性の低い溶離液で前記シリカゲルカラムを溶出し、得られた溶出液を集め;
e)前記d)工程から得られた溶出液を濃縮する。
【請求項8】
前記e)工程から得られた溶出液が、塩化メチレン:メタノール=96:4の混合溶媒で展開され、紫外線ランプおよびヨウ素で検出された、シリカ薄層クロマトグラフィーによるクロマトグラフィー値(Rf)が0.1以上である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記a)工程における抽出が、95%エタノールを用いて行われる、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記a)工程における抽出が、マツホドの代謝産物、発酵産物または菌核粒子を沸騰水により抽出し;得られた抽出水溶液にpH値が9〜11になるまで塩基を添加し;塩基性水溶液を回収し;塩基性水溶液にpH値が4〜6になるまで酸を添加し、沈殿を形成し;沈殿を回収し;沈殿をエタノールで抽出し;および抽出液を回収する、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
前記b)工程から得られた濃縮物が、体積比が1:1である95%v/vメタノール水溶液およびn−ヘキサンを含む二相溶媒でさらに抽出され、メタノール層が二相溶媒抽出混合物から分離され、および前記メタノール層が濃縮され、前記c)工程でシリカゲルカラムに供給される濃縮物を形成する、請求項9または10に記載の使用。
【請求項12】
前記d)工程における前記極性の低い溶離液が塩化メチレンおよびメタノールを96.5:3.5の体積比で含む混合溶媒である、請求項7に記載の使用。
【請求項13】
前記ポリア抽出物が5〜35重量%のラノスタン(I)を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項14】
前記ラノスタン(I)が下記式で示される請求項6に記載の使用:
【化6】

【化7】

【化8】

または
【化9】

【請求項15】
前記薬剤がさらに栄養素を含む、請求項1または6に記載の使用。
【請求項16】
前記栄養素がグルコース、アミノ酸、ビタミン、またはそれらの混合物である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
前記薬剤が、年配者の栄養状態を向上するためのものである、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記薬剤が虚弱な子供を強化するためのものである、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
前記薬剤が一定のストレスにさらされているまたはしばしば夜遅くまで仕事をしている人の栄養摂取を促進するためのものである、請求項15に記載の使用。
【請求項20】
前記薬剤が莫大な仕事をするために多量のエネルギーを使用する必要がある運動選手または勤労者による栄養摂取を促進するためのものである、請求項15に記載の使用。
【請求項21】
前記薬剤が外科手術を受けた虚弱な患者または化学療法または放射線療法を受けた癌患者による栄養摂取を促進するためのものである、請求項15に記載の使用。
【請求項22】
前記薬剤がウイルス性下痢に苦しむ患者のためのものである、請求項15に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−516505(P2011−516505A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503323(P2011−503323)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/CN2008/000749
【国際公開番号】WO2009/124420
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510118145)杏輝天力(杭州)藥業有限公司 (4)
【Fターム(参考)】