説明

棒鋼接合装置

【課題】締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能を得ることが可能な棒鋼接合装置を提供する。
【解決手段】2本の棒鋼Pが隙間Gを空けた並列状態で貫通される貫通穴3が形成された接合用金物2と、接合用金物に、棒鋼間の隙間へ向かって棒鋼の貫通方向と直交する方向に貫通形成された第1および第2通孔4,5と、接合用金物に、通孔に合致させて設けられるナット6と、ナットに締結されるボルト9が一端に形成され、他端に、ボルト・ナットの締結作用で棒鋼の隙間に引き込まれて当該棒鋼を接合用金物との間で拘束する楔10が形成され、通孔を介して接合用金物に装着される接合用締結体8と、接合用締結体の楔以外の箇所に形成され、設定した締結トルクで破断されるトルク入力部11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能を得ることが可能な棒鋼接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
断面長円状のスリーブと楔部材からなり、スリーブ内に2本の棒鋼をそれぞれ逆方向から挿入して、スリーブに形成された楔挿通孔から2本の棒鋼間に楔部材を打ち込むことで、棒鋼同士を機械的に接合するようにした継手具が知られている。
【0003】
特許文献1は、ボルトを、スリーブに設けたナットにねじ込むことで、楔部材を棒鋼間に係合させて棒鋼同士を接合する継手具である。
【0004】
特許文献2〜4は、楔部材の一端部に形成したボルトを、スリーブに設けたナットによりねじ上げることで、楔部材を棒鋼間に係合させて棒鋼同士を接合する継手である。
【特許文献1】実公平07−005156号公報
【特許文献2】実公昭56−019617号公報
【特許文献3】実開平01−078711号公報
【特許文献4】特許第3972134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら継手具はいずれも、ボルトをナットに締結していくことで、楔部材を棒鋼に係合させる機構であるため、作業者に応じてねじ込み量やねじ上げ量に差が生じ、係合力にバラツキが生じる問題があった。確実に所定の継手性能を得るには、別途トルク管理が必要になり、従ってこれら継手具は施工に手間がかかるという課題があった。
【0006】
特許文献1では、更に前記締付けボルトの締付け頭部を強く締付けることによって、ねじ杆の下端面が楔材の頂面に圧着し、楔材を時計方向に反転せしめ、それ以上の楔材の回転ができない位置まで締付け頭部を締付けると、遂には小径の軸部が切断され……(第3頁第6欄第19〜24行参照)と記載されている。
【0007】
しかしながら、この接合具は、楔材の大きさがボルト受け金具に形成されたねじ孔の径以上にはできないことから、接合する棒鋼同士の間隔次第では、楔材と棒鋼が確実に係合していない、即ち、所定の接合性能が得られていない不完全な状態で接合され、さらには、楔材が戻ってしまう可能性もあることから、接合管理という面においては安定性に欠けるものであった。
【0008】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能を得ることが可能な棒鋼接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる棒鋼接合装置は、2本の棒鋼が隙間を空けた並列状態で貫通される貫通穴が形成された接合用金物と、該接合用金物に、棒鋼間の隙間へ向かって棒鋼の貫通方向と直交する方向に貫通形成された通孔と、上記接合用金物に、上記通孔に合致させて設けられるナットと、該ナットに締結されるボルトが一端に形成され、他端に、ボルト・ナットの締結作用で棒鋼の隙間に引き込まれて当該棒鋼を上記接合用金物との間で拘束する楔が形成され、上記通孔を介して該接合用金物に装着される接合用締結体と、該接合用締結体の上記楔以外の箇所に形成され、設定した締結トルクで破断される破断部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記破断部が、前記ボルトに形成されるトルク入力部であることを特徴とする。
【0011】
前記破断部が、前記楔と前記ボルトとの間に形成される薄肉部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる棒鋼接合装置にあっては、締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能で棒鋼を接合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる棒鋼接合装置の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、第一実施形態にかかる棒鋼接合装置の正面断面であって、その使用状態の説明図である。図2は、図1の棒鋼接合装置に適用される接合用締結体の説明図であって、(a)は側面図、(b)は(a)のX−X線矢視図である。
【0014】
棒鋼接合装置1の接合用金物2は、2本の棒鋼Pを接続して長さを延長するものであって、長円状の貫通穴3が形成されたスリーブ状に形成される。接合用金物2は、金属製で、例えば、熱処理により硬度を高めた鋼材や、鋳鉄などで形成される。貫通穴3は、短径が棒鋼Pの外径よりも僅かに大きく、長径が、2本の棒鋼Pを横並びで隙間Gを空けた並列状態で貫通させ得る寸法で形成される。
【0015】
接合用金物2には、挿入される棒鋼P間の隙間Gへ向かって、棒鋼Pの貫通方向、すなわち貫通穴3と直交する方向(短径方向)に通孔4,5が貫通形成される。図示では、接合用金物2の上壁2a上面および下壁2b下面が平坦に形成され、通孔4,5は、接合用金物2の上壁2aを貫通する第1通孔4と、下壁2bを貫通する第2通孔5から構成される。第1通孔4と第2通孔5は、貫通される棒鋼P間の隙間Gを介して互いに一連に連通される。
【0016】
接合用金物2の上壁2a上面には、第1通孔4に合致させてナット6が設けられる。図示例にあっては、ナット6はワッシャ7を介して接合用金物2の上壁2a上に設置される。ワッシャ7に代えて、ナット6に一体的な取付座を形成してもよい。これにより、第1通孔4とナット6のねじ穴が一連に連通される。
【0017】
接合用金物2には、第2通孔5から第1通孔4へ向かって挿入して、接合用締結体8が装着される。接合用締結体8は金属製で、図2にも示すように、上部にボルト9が形成され、下部に楔10が形成される。
【0018】
楔10は、正面から見て、上方から下方に向かって末広がりに幅Wが広がる傾斜面10aで形成され、側面から見ると、上方から下方にわたってほぼ等しい厚さTで形成される。第1通孔4は、ボルト9が通る円形状とする一方で、第2通孔5については、円形状でもよいが、楔10の外形輪郭に合わせて、貫通穴3の向きに短径であって、貫通穴3と直交する左右方向に長径の長円形状に形成してもよい。
【0019】
接合用締結体8は、図示にあっては、ボルト9を上にして、第2通孔5から接合用金物2内に挿入され、当該ボルト9が第1通孔4を介して、その上のナット6に螺合される。ボルト9がナット6に螺合されて行くにつれ、接合用締結体8は、ボルト・ナットの締結作用で上方に引き上げられ、これにより楔10が第2通孔5から貫通穴3内方に進入していく。
【0020】
貫通穴3内に2本の棒鋼Pが貫通しているときには、ボルト・ナットの締結作用で上方に引き上げられる楔10は、棒鋼P間の隙間Gに引き込まれつつ、各棒鋼Pに側方から圧接する。楔10は、これら棒鋼Pをそれぞれ、貫通穴3の長径方向に向かって左右に押圧するので、棒鋼Pは楔10と接合用金物2との間で拘束される。
【0021】
楔10の傾斜面10aには、楔10の厚さT方向に適宜間隔で突起10bが形成されている。突起10bは、楔10が棒鋼Pに圧接するに伴って、その棒鋼Pに食い込むようになっている。
【0022】
接合用締結体8には、ボルト9とナット6を締結する締結トルクが設定した締結トルクに達すると破断される破断部が形成される。破断部は、接合用締結体8全体において、楔10以外の箇所に形成される。
【0023】
第一実施形態にあっては、破断部は、ボルト9の上部に形成され、ボルト9に締め付けトルクを入力する締め付け工具(図示せず)が装着されるトルク入力部11で構成される。トルク入力部11は、接合用締結体8全体で、最小のトルクで破断される部位として設定される。トルク入力部11は、締め付け工具が嵌め合わされる一般周知の形状で形成される。
【0024】
第一実施形態にかかる棒鋼接合装置1の作用について説明すると、第2通孔5から挿入した接合用締結体8のボルト9を第1通孔4から突出させ、この突出したボルト9に、ワッシャ7を介して、ナット6を螺合させ、ナット6が接合用金物2の上壁2a上に緩く当接するまでねじ込む。この際、楔10の厚さT方向を貫通穴3の向きに合わせ、楔10の幅方向Wを貫通穴3の長径方向、すなわち棒鋼Pが並ぶ方向に合わせる。ボルト9にナット6を緩く螺合させたら、次に、図1(a)に示すように、接合用金物2の貫通穴3に、両側から2本の棒鋼Pを貫通させる。棒鋼Pはそれぞれ、貫通穴3から適宜長さ突出するように挿入する。
【0025】
その後、更にボルト9をナット6に螺合させていき、楔10を第2通孔5から貫通穴3内方へ引き上げていく。ボルト・ナットの締結作用で引き上げられる楔10は図1(b)に示すように、棒鋼Pの間に引き込まれる。
【0026】
次いで、トルク入力部11に締め付け工具を装着し、ボルト9をナット6に強く締結していく。この締結操作によってさらに引き上げられて棒鋼P間の隙間Gに引き込まれた楔10は、貫通穴3内で並列状態にある2本の棒鋼Pの当該隙間Gを左右に押し広げるように棒鋼Pを押圧し、これにより各棒鋼Pは、楔10と係合しつつ、これら楔10と接合用金物2との間で拘束されていく。またこの過程で、ナット6も接合用金物2にしっかりと定着されていく。
【0027】
この際、第2通孔5の内径を、ボルト9の径や第1通孔4に左右されることなく任意に大きく設定できるので、楔10の幅寸法Wも大きく設定することができ、棒鋼Pに適切に係合させることができる。例えば棒鋼が異形鉄筋の場合、当該異形鉄筋は、鉄筋径、節やリブの高さにバラツキがある。断面寸法についても、上下寸法と左右寸法が相違する。従って、異形鉄筋の場合、挿入した向きによって、楔を適切に係合させることができないおそれがある。具体的には、寸法のバラツキで2本の異形鉄筋の間隔が広くなっている状態では、楔の係合が緩くなってしまうおそれがある。これに対し、第一実施形態にあっては、楔10の幅寸法Wを大きく形成できて、緩みのない適切な係合を確保することができる。
【0028】
その後、更に締め付け工具でボルト9をナット6に螺合させていき、接合強度を高めていく。そして、締め付け工具による締め付け力が、トルク入力部11が破断するように設定した設定トルクに達すると、図1(c)に示すように、トルク入力部11が破断し、接合作業が完了する。これにより、楔10と棒鋼Pとが適切に係合した状態で、楔10と接合用金物2との間で当該棒鋼Pを拘束して接合することができる。
【0029】
第一実施形態にあっては、トルク入力部11の破断によって接合完了を確認することができ、締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能を得ることができる。
【0030】
また、第一実施形態では、ボルト9がナット6に締結する一方で、楔10が棒鋼Pと係合していて、楔10とボルト9との間にテンションを生じさせることができ、棒鋼Pの接合状態を安定的に保持することができる。
【0031】
図3および図4には、本発明にかかる棒鋼接合装置の第二実施形態が示されている。図3は、第二実施形態にかかる棒鋼接合装置の正面断面であって、その使用状態の説明図である。図4は、図3の棒鋼接合装置に適用される接合用締結体の正面図である。第一実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0032】
ナット6には、第1通孔4に面する下端部に、ねじ穴よりも大きな内径の孔6aが形成されている。接合用締結体8については、破断部として、第一実施形態のトルク入力部に代えて、楔10とボルト9との間に、平坦な平板状の薄肉部12が形成される。この薄肉部12は、接合用締結体8全体で、最小のトルクで破断される部位として設定される。
【0033】
第二実施形態にかかる棒鋼接合装置1の作用について説明すると、接合用金物2の上壁2a上に、第1通孔4に合わせて、ナット6を当接し、第2通孔5から接合用締結体8のボルト9を挿入する。この際、第一実施形態と同様に、楔10の厚さT方向を貫通穴3の向きに合わせ、末広がりに広がる幅方向Wを貫通穴3と直交する向きとする。第1通孔4から突出するボルト9に、ナット6を緩く螺合させたら、図3(a)および(b)に示すように、接合用金物2の貫通穴3に、両側から棒鋼Pを貫通させる。
【0034】
その後、ナット6をボルト9に螺合させていき、楔10を第2通孔5から貫通穴3内方へ引き上げていく。ボルト・ナットの締結作用で引き上げられる楔10は図3(c)に示すように、棒鋼Pの間に引き込まれる。
【0035】
次いで、ナット6にこれを締め付ける締め付け工具(図示せず)を装着し、ナット6をボルト9に強く締結していく。この締結操作によってさらに引き上げられて棒鋼P間の隙間Gに引き込まれた楔10は、棒鋼Pに係合しつつ、接合用金物2との間で棒鋼Pを拘束していく。またこの過程で、ナット6も接合用金物2にしっかりと定着されていく。
【0036】
その後、更に締め付け工具でナット6をボルト9に螺合させていき、接合強度を高めていく。そして、締め付け工具による締め付け力が、薄肉部12が破断するように設定した設定トルクに達すると、図3(d)に示すように、薄肉部12が破断し、接合作業が完了する。これにより、楔10と棒鋼Pとが適切に係合した状態で、楔10と接合用金物2との間で当該棒鋼Pを拘束して接合することができる。
【0037】
第二実施形態にあっては、薄肉部12が破断して、ボルト9およびナット6が接合用金物2および接合用締結体8から分離することによって、接合完了を確認することができ、締結トルクを別途管理することなく、高い品質で安定した接合性能を得ることができる。
【0038】
また、第二実施形態では、破断部となる薄肉部12を楔10とボルト9の間に形成したので、ボルト9およびナット6を接合用金物2から分離させることができ、接合用金物2回りの突起物を殆どなくすことができる。従って、棒鋼接合装置1をコンクリート中に埋設する際に、被り厚が厚くなることを防止することができる。また、破断個所となる薄肉部12の断面寸法は、ボルト9の外径や第1通孔4の内径よりももちろん小さいので、当該第1通孔4や第2通孔5を介して接合用金物2内部にモルタル分等が入り込む余地があり、埋設した場合の継手強度の向上を期待することができる。
【0039】
上記実施形態にあっては、棒鋼Pと称して説明したが、棒鋼Pとしては、異形鉄筋や全ネジボルト、セパレータ等に使用される丸鋼などであってもよく、また適用用途としても、主筋やせん断補強筋、スラブ筋などの構造用棒鋼の接続や仮設用棒鋼の接続など、特に限定されることはない。
【0040】
また、本実施形態にかかる棒鋼接合装置1を2つ用い、これら2つの接合装置1を添え筋の両端に取り付けるとともに、各接合装置1に、添え筋の相手としてそれぞれ棒鋼を取り付ける形態で、添え筋を介して棒鋼を接合する使用法にも適用することができる。
【0041】
接合する棒鋼Pが丸鋼の場合には、貫通穴3内面に凹凸などの粗面を形成し、異形の場合には、貫通穴3の内面を平滑にすることが好ましく、これにより継手性能を向上することができる。
【0042】
接合用締結体8の楔10とボルト9は、直結して形成してもよいが、棒鋼Pの貫通穴3への挿入操作性を考慮して、貫通穴3の長径方向に沿う外形寸法を、ボルト9と楔10の間で狭く形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる棒鋼接合装置の第一実施形態を説明する説明図である。
【図2】図1の棒鋼接合装置に適用される接合用締結体を説明する説明図である。
【図3】本発明にかかる棒鋼接合装置の第二実施形態を説明する説明図である。
【図4】図3の棒鋼接合装置に適用される接合用締結体を示す正面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 棒鋼接合装置
2 接合用金物
3 貫通穴
4 第1通孔
5 第2通孔
6 ナット
8 接合用締結体
9 ボルト
10 楔
11 トルク入力部
12 薄肉部
G 隙間
P 棒鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の棒鋼が隙間を空けた並列状態で貫通される貫通穴が形成された接合用金物と、該接合用金物に、棒鋼間の隙間へ向かって棒鋼の貫通方向と直交する方向に貫通形成された通孔と、上記接合用金物に、上記通孔に合致させて設けられるナットと、該ナットに締結されるボルトが一端に形成され、他端に、ボルト・ナットの締結作用で棒鋼の隙間に引き込まれて当該棒鋼を上記接合用金物との間で拘束する楔が形成され、上記通孔を介して該接合用金物に装着される接合用締結体と、該接合用締結体の上記楔以外の箇所に形成され、設定した締結トルクで破断される破断部とを備えたことを特徴とする棒鋼接合装置。
【請求項2】
前記破断部が、前記ボルトに形成されるトルク入力部であることを特徴とする請求項1に記載の棒鋼接合装置。
【請求項3】
前記破断部が、前記楔と前記ボルトとの間に形成される薄肉部であることを特徴とする請求項1に記載の棒鋼接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−150858(P2010−150858A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332174(P2008−332174)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】