説明

植物の病原体抵抗性増強方法

本発明者等は、植物の抵抗性増強に関与する諸作用のうち、過敏感反応に注目して鋭意研究を行なった結果、該反応を惹き起こすタンパク質としてAAM97746.1を見出した。該タンパク質等を用いることにより、植物の耐病性または耐虫性を増強させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、病原菌や害虫などの病原体の侵入に対する植物の抵抗性増強に関する。
【背景技術】
病原菌や害虫などの病原体の侵入に対する植物の抵抗性反応として、過敏感反応(Hypersensitive reaction;HR)が知られている。すなわち、植物は、病原体が侵入した際、感染細胞がHRを起こすことにより、膨圧を失って速やかに死に、病原体から自己を防御しようとする。この反応により死んだ細胞群は壊死・褐変し、局部病斑(local lesion)を形成して病原体の拡大を防いでいる。従って、植物のHRを増強することは、病原体に対する抵抗性育種にとって重要であると考えられている。
一方、病原体が侵入しなくても壊死斑を引き起こす病斑葉(lesion mimic)変異体が知られており、このような変異体の中には常に植物の抵抗性機構が活性化されているものもある。このような病斑葉変異体として、イネのcdr1〜3,spl1〜9などが知られている(非特許文献1及び2参照)。
このような病斑葉を引き起こす原因遺伝子の中に、HRを引き起こす遺伝子もあると考えられているが、具体的にHRを引き起こす遺伝子は僅かしか単離されていない。このようなHRを引き起こす遺伝子として、イネでは、Rac及びG protein alfa subunitが知られているのみである(非特許文献3及び4参照)。
また、タバコにおけるHRにおいて多くの遺伝子の転写が活性化されることが知られている(非特許文献5〜10参照)。Nicotiana tabacum hsr201は、その中の1つとして、その転写がHRにより誘導される旨が報告されてはいるが(非特許文献6)、該遺伝子の過剰発現がHRを誘導するか否かについては知られていなかった。
【非特許文献1】Takahashi A,Tsutomu Kawasaki,Kenji Henmi,Katsuhiko Shii,Osamu Kodama,Hikaru Satoh,Ko Shimamoto.Lesion mimic mutants of rice with alterations in early signaling events of defense.Plant J(1999)17(5)535−545.
【非特許文献2】Yin Z,Chen J,Zeng L,Goh M,Leung H,Khush GS,Wang GL.Characterizing rice lesion mimic mutants and identifying a mutant with broad−spectrum resistance to rice blast and bacterial blight.Mol Plant Microbe Interact.2000 Aug;13(8):869−76.
【非特許文献3】Ono E,Wong HL,Kawasaki T,Hasegawa M,Kodama O,Shimamoto K.Essential role of the small GTPase Rac in disease resistance of rice.Proc Natl Acad Sci U S A.2001 Jan 16;98(2):759−64.
【非特許文献4】Suharsono U,Fujisawa Y,Kawasaki T,Iwasaki Y,Satoh H,Shimamoto K.The heterotrimeric G protein alpha subunit acts upstream of the small GTPase Rac in disease resistance of rice.Proc Natl Acad Sci U S A.2002 Oct 1;99(20):13307−12.
【非特許文献5】Pellegrini L,Rohfritsch O,Fritig B,Legrand M.Phenylalanine ammonia−lyase in tobacco.Molecular cloning and gene expression during the hypersensitive reaction to tobacco mosaic virus and the response to a fungal elicitor.Plant Physiol.1994 Nov;106(3):877−86.
【非特許文献6】Czernic P,Huang HC,Marco Y.Characterization of hsr201 and hsr515,two tobacco genes preferentially expressed during the hypersensitive reaction provoked by phytopathogenic bacteria.Plant Mol Biol.1996 May;31(2):255−65.
【非特許文献7】Hiraga S,Ito H,Yamakawa H,Ohtsubo N,Seo S,Mitsuhara I,Matsui H,Honma M,Ohashi Y.An HR−induced tobacco peroxidase gene is responsive to spermine,but not to salicylate,methyl jasmonate,and ethephon.Mol Plant Microbe Interact.2000 Feb;13(2):210−6.
【非特許文献8】Dhondt S,Geoffroy P,Stelmach BA,Legrand M,Heitz T.Soluble phospholipase A2 activity is induced before oxylipin accumulation in tobacco mosaic virus−infected tobacco leaves and is contributed by patatin−like enzymes.Plant J.2000 Aug;23(4):431−40.
【非特許文献9】Yoda H,Ogawa M,Yamaguchi Y,Koizumi N,Kusano T,Sano H.Identification of early−responsive genes associated with the hypersensitive response to tobacco mosaic virus and characterization of a WRKY−type transcription factor in tobacco plants.Mol Genet Genomics.2002 Apr;267(2):154−61.
【非特許文献10】Sasabe M,Toyoda K,Shiraishi T,Inagaki Y,Ichinose Y.cDNA cloning and characterization of tobacco ABC transporter:NtPDR1 is a novel elicitor−responsive gene.FEBS Lett.2002 May 8;518(1−3):164−8.
【発明の開示】
本発明は、新規な、病原体の侵入に対する植物の抵抗性を増強するタンパク質をコードする遺伝子を含有する耐病性または耐虫性増強のための薬剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該遺伝子を利用して抵抗性が増強された植物体、該遺伝子を利用した植物体の抵抗性の増強方法をも目的とする。さらに、本発明は、該タンパク質に結合する化合物または該遺伝子の発現を促進する化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、植物の抵抗性増強に関与する諸作用のうち、過敏感反応に注目して鋭意研究を行なった結果、該反応を誘導する遺伝子を見出し、本発明を完成した。
本発明は、より具体的には、
(1) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含有する、植物の病原体に対する抵抗性増強のための薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(2) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを含有する、植物の病原体に対する抵抗性増強のための薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(3) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAが導入された、病原体に対する抵抗性が増強した植物細胞;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(4) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含むベクターが導入された、病原体に対する抵抗性が増強した植物細胞;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(5) (3)または(4)に記載の植物細胞を含む、病原体に対する抵抗性が増強した形質転換植物体、
(6) (5)に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、病原体に対する抵抗性が増強した形質転換植物体、
(7) (5)または(6)に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
(8) (5)に記載の形質転換植物体の製造方法であって、植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(9) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させることを特徴とする、植物の病原体に対する抵抗性増強方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(10) 植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAにより発現が影響される遺伝子のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(f)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(d)植物細胞に上記DNAを導入し、該DNAを発現させる工程、
(e)該植物細胞における遺伝子発現を測定する工程、
(f)上記DNAを発現させない場合と比較して、発現が上昇している遺伝子を選択する工程、
(11) 下記(a)から(c)のいずれかに記載のタンパク質に結合する化合物のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(f)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質、
(d)上記タンパク質に被験化合物を接触させる工程、
(e)上記タンパク質と被験化合物との結合を検出する工程、
(f)上記タンパク質に結合する化合物を選択する工程、
(12) 下記(a)から(c)のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(g)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質、
(d)上記タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程、
(e)上記細胞または上記細胞抽出液に被験化合物を接触させる工程、
(f)上記細胞または上記細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(g)被験化合物を投与していない場合と比較して、上記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
に関する。
本発明は、植物の過敏感反応を誘導するタンパク質をコードするDNAを含有する植物の病原体に対する抵抗性増強のための薬剤を提供する。
そのようなDNAとしては、(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがある。
上記において、「1または複数」とは、1から50個であり、好適には、1から10個であり、より好適には、1から5個であり、より更に好適には、1から3個である。
「置換、欠失、付加、および/または挿入」は、好適には、タンパク質の活性に影響を与えない部位における置換、欠失、付加、および/または挿入(以下、「置換等」という。)である。また、「置換」として好ましくは、保存的置換(生物学的に同等の機能を有するアミノ酸同士の置換)である。
上記において、「ストリンジェントな条件」とは、6M尿素、0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等なストリンジェンシーの条件のことである。ストリンジェントな条件として、好適には、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件である。
本発明のDNAは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、並びに、その変異体、誘導体、アレル、バリアント及びホモログを含む。
本発明において、「DNA」とは、ゲノムDNA、cDNA等の自然界から得られるDNA、および、人工的な合成により得られるDNAのことである。本発明のDNAとして、好適には、植物由来のDNAであり、より好適には、単子葉植物由来のDNAであり、より更に好適には、イネ科植物由来のDNAであり、最も好適には、イネ由来のDNAである。上記において、「由来」とは、人工的な改変の有無に関わらず、その植物等から得られたものを意味する。例えば、「植物由来のDNA」とは、植物から直接得られたDNAまたは該DNAに人工的な改変を加えたDNAのことである。
DNAに人工的な変異を加える方法が、当業者周知の手段として知られている。このような変異により、アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAも、そのコードするタンパク質が植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有する限り、本発明のDNAに含まれる。
また、自然界において、紫外線等の物理的・化学的要因による突然変異等によりDNAの塩基配列が変異し、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することがある。このような変異により、アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAも、そのコードするタンパク質が植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有する限り、本発明のDNAに含まれる。
更に、上記のDNAの塩基配列の変異には、そのDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列の変異を伴わない場合(縮重変異)もありうるが、このような変異体(縮重変異体)も本発明のDNAに含まれる。
上記(c)に記載された本発明のDNAは、アミノ酸レベルにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有する場合がある。ここで、「高い相同性」とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上の同一性のことである。本発明のDNAとして、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、より更に好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の、配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性を有するアミノ酸配列をコードしたDNAである。
上述のようなアミノ酸配列や塩基配列の「同一性」は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sei.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol.215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合、例えば、パラメーターをscore=100、wordlength=12として塩基配列の同一性を解析することができる。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合、例えば、パラメーターをscore=50、wordlength=3としてアミノ酸配列の同一性を解析することができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いて解析することができる。具体的には、これらの解析は公知の方法に基づいて行うことができる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
本発明のDNAとしては、例えば、
配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:2に記載のタンパク質(以下、「AAM97746.1タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAM97746.1遺伝子」ということがある。)、
配列番号:4または配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:5に記載のタンパク質(以下、「BAC65990.1タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「BAC65990.1遺伝子」ということがある。)、
配列番号:7または配列番号:9に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:8に記載のタンパク質(以下、「AAG12479.2タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAG12479.2遺伝子」ということがある。)、
配列番号:10または配列番号:12に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:11に記載のタンパク質(以下、「AAG12486.2タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAG12486.2遺伝子」ということがある。)、
配列番号:13または配列番号:15に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:14に記載のタンパク質(以下、「AAL75750.1タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAL75750.1遺伝子」ということがある。)、
配列番号:16または配列番号:18に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:17に記載のタンパク質(以下、「AAG12484.2タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAG12484.2遺伝子」ということがある。)、
配列番号19または配列番号:21に記載の塩基配列からなるDNA等の配列番号:20に記載のタンパク質(以下、「AAG12478.2タンパク質」ということがある。)をコードするDNA(以下、「AAG12478.2遺伝子」ということがある。)を挙げることができる。
これらのうち、好適には、AAM97746.1遺伝子、BAC65990.1遺伝子、AAG12479.2遺伝子、AAG12486.2遺伝子、AAL75750.1遺伝子、AAG12484.2遺伝子、または、AAG12478.2遺伝子であり、更に好適には、AAM97746.1遺伝子であり、より好適には、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAである。
本明細書において、「植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有する」とは、病原菌や害虫などの病原体の侵入に対する植物の抵抗性を増強させる機能のことである。具体的には、病原菌や害虫などの病原体の侵入時に植物の過敏感反応を増強させる機能である。タンパク質がこのような機能を有するか否かは、例えば、植物体の病斑葉の形成やPathogen Related(以下、「PR」という。)タンパク質の発現を後述の方法に従って観測することにより判定することができる。
「薬剤」は、本発明のDNAまたはベクター自体、または、本発明のDNAまたはベクターを含有する組成物のことである。前記において、「組成物」は種々の物質を含有することができる。そのような物質は、該組成物が本発明の目的を達成することができるものであれば特に限定はないが、例えば、該DNAまたはベクターが安定的に存在するための物質、該DNAまたはベクターの植物細胞内への導入を補助する物質、該DNAやベクターの計量を容易にする増量のための物質等を挙げることができる。
「植物細胞」は、その形態を問わず、種々の形態の植物細胞のことである。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片またはカルス等を挙げることができる。
「繁殖材料」とは、植物を繁殖させるための材料となる形態の植物(細胞)のことであり、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等を挙げることができる。
本発明は、本発明のDNAが導入された、植物細胞、該細胞を含む植物体、その子孫およびクローン、並びに、該植物体、その子孫またはクローンからなる繁殖材料を全て含むものである。
(I)DNAの調整
ゲノムDNAおよびcDNAは、当業者周知の方法を利用して調整することができる。
ゲノムDNAは、例えば、AAM97746.1遺伝子を有するイネ品種(例えば、Kasalath、日本晴、好適には、日本晴)から抽出したゲノムDNAを用いて、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどを利用することができる)を作成し、次いで、これを展開して、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNA)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することができる。また、本発明のタンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1または配列番号:3記載の塩基配列からなるDNA)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することもできる。
cDNAは、例えば、AAM97746.1遺伝子を有するイネ品種(例えば、Kasalath、日本晴、好適には、日本晴)から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、次いで、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、または、PCRを行うことにより調製することができる。
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAは、当業者によく知られた方法により調製することができる。例えば、site−directed mutagenesis法(Kramer,W.& Fritz,H.−J.(1987)Oligonucleotide−directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology,154:350−367)に記載の方法に従い調整することができる。
また、植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション法(Southern,E.M.(1975)Journal of Molecular Biology,98,503)またはポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)法(Saiki,R.K.et al.(1985)Science,230,1350−1354、Saiki,R.K.et al.(1988)Science,239,487−491)を利用する方法を挙げることができる。例えば、AAM97746.1遺伝子の塩基配列(配列番号:1または配列番号:3)若しくはその一部をプローブとして使用して、当業者周知の方法でハイブリダイゼーションを行うか、または、AAM97746.1遺伝子(配列番号:1または配列番号:3)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用して、PCRを行うことにより、イネや他の植物からAAM97746.1遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することができる。このようにハイブリダイゼーション法やPCR法により単離したDNAも、そのコードするタンパク質が植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有する限り、本発明のDNAに含まれる。
上記のハイブリダイゼーション法によりDNAを単離する場合には、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。
(II)形質転換植物体の作出方法
本発明のDNAは、例えば、病原体に対する抵抗性が増強した形質転換植物体の作出に利用することが可能である。このような形質転換植物体は、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、得られた形質転換植物細胞を再生させることにより作製することができる。例えば、DNAとしてAAM97746.1遺伝子を任意の品種に導入し発現させることにより当該植物の病原体に対する抵抗性を増強させることができる。本方法による形質転換に要する期間は、従来のような交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、また、他の形質の変化を伴わない点で他の方法より有利である。
植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることもできる。本発明において好適には、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターであり、更に好適には、病原菌や害虫などの病原体の進入に対して誘導的に活性化されるベクターである。
植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等、当業者に周知の方法により達成される。
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に周知の方法で行うことができる(Tokiら(1995)Plant Physiol.100:1503−1507参照)。
例えば、イネの形質転換植物体を作製する手法として、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(好適には、インド型イネ品種を用いる)を再生させる方法(Datta,S.K.(1995)In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.)pp66−74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(好適には、日本型イネ品種を用いる)を再生させる方法(Toki et al(1992)Plant Physiol.100,1503−1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al.(1991)Bio/technology,9:957−962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al.(1994)Plant J.6:271−282.)等の技術が当業者に周知である。本発明の形質転換植物体は、これらの方法を用いて作製することができ、好適には、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法を用いる。
本発明の形質転換植物体の子孫は、上記により得られた本発明の形質転換植物体から有性生殖または無性生殖により得ることができる。また、本発明の形質転換植物体の繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)は、該植物体やその子孫またはクローンを用いて、当業者周知の方法により得ることができる。そのようにして得られた子孫や繁殖材料は、本発明の形質転換植物体の大量生産のために使用することができる。
(III)病原体に対する抵抗性増強機能判定方法
タンパク質が植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するか否かは、当業者に周知の方法であればいかなる方法で確認してもよいが、例えば、ウイルスのエンハンサー領域の下流に挿入された当該タンパク質をコードする遺伝子を導入した植物体が病斑葉を示すかどうかを調べることにより確認することができる。すなわち、あるタンパク質をコードする遺伝子を導入することにより病斑葉を示した場合、当該タンパク質は、植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有すると判定することができる。
また、タンパク質がこのような機能を有することを確認する別の方法としては、一般的な病害抵抗性に関与することが知られているPRタンパク質の発現量を測定する方法も挙げることができる。詳細には、目的タンパク質をコードする遺伝子を導入していない植物細胞(または植物体)と導入した植物細胞(または植物体)におけるPRタンパク質の発現量を比較し、導入した植物細胞(または植物体)の発現量が多い場合、当該タンパク質が植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有すると判定することができる。
本発明のスクリーニング方法は、当業者に周知の方法であればいかなる方法で行ってもよい。例えば、本発明のDNAにより発現が促進若しくは抑制される遺伝子は、上記に準じて本発明のDNAを導入した細胞と導入していない細胞、または、本発明のタンパク質を添加した細胞と添加していない細胞におけるmRNAまたはタンパク質の発現量を測定し、それらを比較することにより判定することができる。
例えば、mRNAの発現量から判定する方法として、ディファレンシャルクローニング法(Lau,L.F.and Nathans,D.EMBO J.(1985)4,3145−3151)、ディファレンシャルディスプレー法(Liang,P.and Pardee,A.B.Science(1992)257,967−971;辻本豪三ら、「ゲノム機能研究プロトコール」第1版、羊土社、2000年、4月10日、p.84−98;辻本賀英ら、「新アポトーシス実験法」、改訂第2版、羊土社、1999年8月10日、p.289−294)、サブトラクティブクローニング法(Nucleic Acids Research(1988)16,10937)又はシリアルアナリシスジーンエクスプレッション法(SAGE法)(Velculescu,V.E.et al.Science(1995)270,484−487)等を使用することができる。
また、DNAチップを用いた発現解析法も使用することができる。例えば、ある遺伝子の発現が本発明のDNAより変化したか否かは、本発明のDNAを導入した細胞から取得したcDNAと導入していない細胞から取得したcDNAをそれぞれ別の蛍光色素で標識し、これらの混合物をDNAチップと反応させ、各々の色素の蛍光強度を測定することにより判定することができる。(榊佳之ら、「ゲノムサイエンスの新たなる挑戦」、共立出版、2001年12月10日、p.2626−2629)
(IV)本発明のタンパク質に結合する化合物のスクリーニング方法
標記本発明のスクリーニング方法は、以下の工程からなる。
(i)本発明のタンパク質に被験化合物を接触させる工程、
(ii)本発明のタンパク質と被験化合物との結合を検出する工程、
(iii)本発明のタンパク質に結合する化合物を選択する工程。
上記において「被験化合物」としては、特に制限はないが、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被験化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
上記において、接触は、本発明のタンパク質と被験化合物が触れることができる条件であれば、当業者周知の方法を使用することができるが、好ましくは、本発明のタンパク質の状態に応じて行う。例えば、本発明のタンパク質が精製された状態であれば、精製標品に被験化合物を添加することにより行うことができる。また、細胞内に発現した状態または細胞抽出液内に発現した状態であれば、それぞれ、細胞の培養液または該細胞抽出液に被験化合物を添加することにより行うことができる。被験化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、本発明のタンパク質が発現している細胞へ導入することにより行うこともできる。
本発明のタンパク質と被験化合物との結合の検出は、タンパク質と結合した化合物を検出する方法であれば、当業者周知の方法を使用することができるが、例えば、被験化合物に予め標識を付しておき、上記に従い本発明のタンパク質と結合させた後、本発明のタンパク質を分離・精製し、本発明のタンパク質に結合した被験化合物に付された標識(例えば、放射標識や蛍光標識など定量的測定が可能な標識)により行うことができる。
上記に従い、検出した化合物の中から、本発明のタンパク質に結合すると判定された化合物を選択することにより、本方法の目的の化合物を得ることができる。
(V)本発明の遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物のスクリーニング方法
標記本発明のスクリーニング方法は、以下の工程からなる。
(i)上記タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程、
(ii)上記細胞または上記細胞抽出液に被験化合物を接触させる工程、
(iii)上記細胞または上記細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(iv)被験化合物を投与していない場合と比較して、上記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。
上記において、「機能的に結合した」とは、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合タンパク質を形成する場合であっても、本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合することによって、該融合タンパク質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。
上記レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、本発明のタンパク質をコードするDNAも含まれる。
本発明のタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液は、当業者に周知の方法で調製することができる。
接触は、本発明のレポーター遺伝子を有する細胞と被験化合物が触れることができる条件であれば、当業者周知の方法を使用することができる。例えば、該レポーター遺伝子が細胞内で発現する場合、細胞の培養液に被験化合物を添加することにより行うことができる。また、該レポーター遺伝子が細胞抽出液内で発現する場合、細胞抽出液に被験化合物を添加することにより行うことができる。被験化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、本発明のタンパク質が発現している細胞へ導入することにより行うこともできる。
レポーター遺伝子の発現レベルの測定は、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に周知の方法により行うことができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することによりレポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
また、本発明のタンパク質をコードする遺伝子をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
また、該遺伝子からコードされる本発明のタンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該本発明のタンパク質の発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルとして遺伝子の発現レベルを測定することもできる。また、遺伝子の翻訳レベルは、本発明のタンパク質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施し、該本発明のタンパク質の発現を検出することにより、測定することもできる。該タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。該抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。
上記に従い、検出した化合物の中から、本発明の遺伝子の発現レベルを上昇させると判定された化合物を選択することにより、本方法の目的の化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、アクチベーションタギングベクターの概念図である。
図2は、AAM97746.1遺伝子の塩基配列の一例を示す図である。(配列番号:1)
図3は、AAM97746.1タンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
図4は、次世代29個体について、T−DNAの存在をサザンブロット解析により確認したもの(図4a)、AAM97746.1遺伝子(配列番号:1)の存在をサザンブロット解析(図4b)およびノーザンブロット解析(図4d)により確認したもの、並びに、病斑葉の発生(図4c)を示す写真および図である。
図5は、次世代のうち、病斑葉を示した5個体について、PRタンパク質の転写活性を示す写真である。
図6は、いもち病菌接種(噴霧法)6日後の病斑数を示す図である。
図7は、pSMAB−AT1の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕病斑葉誘導タンパク質の取得
カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター由来のエンハンサー領域(EN)4コピーを、35Sプロモーターのコア領域の上流にタンデムに連結し、T−DNA中に挿入した。図1に示すアクチベーションタギングベクターをイネ(日本晴)にアグロバクテリウム法(種子法)を用いて導入し、アクチベーションタギングラインを作製した。薬剤選抜マーカーPATの働きによる5μg/mlビアラフォスにおける抵抗性を標識として、遺伝子導入個体8,000系統を取得した。
取得した遺伝子導入個体の中から病斑葉を示すものを1系統得た。この変異体の形質転換当代よりゲノムDNAを抽出しサザンブロット解析を行った結果T−DNAが1個挿入されていることが示された(図4a)。次世代29個体を解析し、病斑葉を示すものを21個体得た(図4c)。病斑葉を示した個体には、全てT−DNAの挿入が認められた。この結果から、T−DNAが挿入されたことにより、病斑葉を引き起こしている可能性が強く示唆された。
次にT−DNAのRB側に隣接するゲノム領域をTAIL−PCR法によりクローニングし、塩基配列を決定した(図2)。更にT−DNA挿入領域の下流482bpの位置に推定タンパク質(AAM97746.1;putative acetyl transferase protein)が存在していることが確認された(図3)。
〔実施例2〕AAM97746.1の過敏感反応活性測定
実施例1で得られた、次世代の29個体よりtotal RNAを抽出しノーザン解析を行った。その結果AAM97746.1を発現している植物体では全て病斑葉がみられ、発現の強さと病斑の強さに正の相関が認められた(図4cおよびd)。以上のことからAAM97746.1の過剰発現が病斑葉を引き起こすことが確認された。
更に、病斑葉を示す植物体で、Pathogen Related(PR)タンパク質遺伝子の発現の変化をノーザンブロット解析で調べた(図5)。すると病斑が強い葉ほどPRタンパク質遺伝子の発現が高いことが確認された。
〔実施例3〕いもち病抵抗性試験
実施例1で得られていた病斑葉(擬似病斑)を示す変異体を以後Lmm1(Lesion mimic 1)と称する。実施例2の過敏感反応活性測定の結果Lmm1で病害抵抗性関連遺伝子の発現が増加していたため(図5)、いもち病菌を接種することにより実際に抵抗性が認められることを確認した。
植物体は第6葉展開時(播種後約40日)のWT(Wild Type)およびLmm1変異体の次世代(擬似病斑をはっきり示すもの)各6個体を用いた。いもち病菌はKyu89−246(MAFF101506)、レース003.0を用いた。いもち病菌の培養はオートミール培地(Hayashi,N.et al.(1997)Ann.Phytopathol.Soc.Jpn 63:316−323)で25℃12日行い、蛍光灯下で3日間照射して胞子形成を行った後、植物体に10x10000個/mlで3ml噴霧接種した。接種6日後に罹病性の病斑数を数えた。
その結果、第6葉(L6)、5葉(L5)、4葉(L4)の調べた全ての葉においてWTに比べてLmm1で罹病性病斑数が少なく、いもち病抵抗性が認められた(図6)。
〔実施例4〕再導入実験
実施例2の過敏感反応活性測定の結果AAM97746.1をコードする遺伝子の発現量と病斑(擬似病斑)の強さに正の相関が認められていたため(図4)、AAM97746.1をコードする遺伝子を過剰発現ベクターに連結後、WTのイネに再導入することにより、この遺伝子の過剰発現が擬似病斑の原因であることを確認した。
AAM97746.1をコードする図2に示した配列を過剰発現ベクターに連結しpSMAB−AT1を作製した(図7)。このベクターを日本晴に実施例1と同様に導入した。
ビアラフォス抵抗性植物体71個体を得たところ63個(約90%)で擬似病斑が認められた。この結果AAM97746.1の過剰発現が擬似病斑の原因であることが証明された。
産業上の利用の可能性
植物は、本発明により提供されたDNAがコードするタンパク質によって、過敏感反応を起こすことにより、病原体に対する抵抗性を増す。従って、本発明の薬剤または植物細胞等は、植物の耐病性、耐虫性を増強させることができ、植物の病原体に対する抵抗性育種に有用である。また、本発明の遺伝子を用いる植物の品種育成は、短期間で高い確実性をもって目的の植物体を得ることができる点で、従来の方法より有利である。
【配列表】


































































































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含有する、植物の病原体に対する抵抗性増強のための薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含むベクターを含有する、植物の病原体に対する抵抗性増強のための薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項3】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAが導入された、病原体に対する抵抗性が増強した植物細胞;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項4】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを含むベクターが導入された、病原体に対する抵抗性が増強した植物細胞;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項5】
請求項3または4に記載の植物細胞を含む、病原体に対する抵抗性が増強した形質転換植物体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、病原体に対する抵抗性が増強した形質転換植物体。
【請求項7】
請求項5または6に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項8】
請求項5に記載の形質転換植物体の製造方法であって、植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項9】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させることを特徴とする、植物の病原体に対する抵抗性増強方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項10】
植物の病原体に対する抵抗性を増強させる機能を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNAにより発現が影響される遺伝子のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(f)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(d)植物細胞に上記DNAを導入し、該DNAを発現させる工程、
(e)該植物細胞における遺伝子発現を測定する工程、
(f)上記DNAを発現させない場合と比較して、発現が上昇している遺伝子を選択する工程。
【請求項11】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のタンパク質に結合する化合物のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(f)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質、
(d)上記タンパク質に被験化合物を接触させる工程、
(e)上記タンパク質と被験化合物との結合を検出する工程、
(f)上記タンパク質に結合する化合物を選択する工程。
【請求項12】
下記(a)から(c)のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物のスクリーニング方法であって、以下の(d)から(g)の工程を含む方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質、
(c)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたは配列番号:3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするタンパク質、
(d)上記タンパク質をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合したDNAを有する細胞または細胞抽出液を提供する工程、
(e)上記細胞または上記細胞抽出液に被験化合物を接触させる工程、
(f)上記細胞または上記細胞抽出液における上記レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(g)被験化合物を投与していない場合と比較して、上記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程。

【国際公開番号】WO2004/106512
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506558(P2005−506558)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007672
【国際出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】