説明

植物系バイオマスをガス化して移送や貯留が容易な液体燃料を製造するための方法。

【課題】
本発明は、植物系バイオマスを、移送や貯留が容易な液体状の燃料に効率的に変換するとともに、その過程で発生する余熱や副生物を有効利用するための方法に関する。
【解決手段】
植物系バイオマスを酸素を含む気体で部分酸化して700〜820℃にしてガス化し、得られた硫黄含有量の低いガスを用いてジメチルエーテルあるいはメタノールの合成を行い、その反応時に発生する熱を用いて植物系バイオマス原料の含有水分を調整する。合成反応後の生成物を分離して得られたガスの全部あるいはその1部を燃焼して遊離酸素を0.2%以上、2.5%以下にしたものを植物栽培用の温室に供給する。ガス化されたものを冷却して得られた水分、あるいは/および 合成反応の生成物から分離された水分を、メタン発酵処理の原料の1部として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木、竹、草、廃木材、茸類の栽培に用いた廃菌床などの植物系バイオマスをガス化してから、エタノールやジメチルエーテルなどの、液体にして移送や貯蔵の可能な燃料を効率的に製造するとともに、その過程で発生する余熱や副生物を有効利用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の炭酸ガス濃度上昇による地球温暖化を抑制する方法の1つとして、化石燃料に代わり植物系バイオマスをエネルギー源として利用拡大することが重要な課題になっている。植物系バイオマスとしては樹木、竹、草など種々のものがあるが、これらは大気中の炭酸ガスを用いて植物が光合成によって形成した、炭素と水素を主体とする有機物である。これらは燃焼してエネルギーとして利用する時に炭酸ガスを発生するが、それはもともと大気中の炭酸ガスを用いて生成されたものであり、また再び植物の光合成に利用されるので、カーボンニュートラルと定義されている。この植物系バイオマスをエネルギー源として有効利用する場合の課題としては、化石燃料に比べて分散して存在しているので、それを収集、運搬に要するエネルギーおよびコストをいかに下げるか、また、エネルギー源としての濃縮度が低いので、人間が利用しやすいエネルギー形態にいかにして効率的に変換するかが重要な課題である。
【0003】
大型ボイラーなどのエネルギー源あるいはその1部として、木質などのバイオマスを直接燃焼して利用する方法は、工場など発生熱が連続的に有効に利用できる条件の下では有効であるが、たとえば大型発電所などでは、多量の発生余熱が有効利用できないので冷却用の海水を無駄に温めて捨てている場合が多い。そこで、バイオマスエネルギーの特色を発揮するためには地域分散型、すなわち中小規模で効率よく、発電と発生余熱を有効利用するために、バイオマスを一旦、ガス化してそれを燃焼する方法が考えられている(特許文献1など)。しかし、電力や発生余熱の需要は、一般に昼夜などの時間帯、曜日、季節によって変動し、一方、電気や熱を貯留することは経済的には容易に行えないという問題があり、設置場所の制約が大きい。この問題を解決するために、製造されたエネルギーを移送や貯留が容易なものにするために、ガス合成してメタノール化(特許文献2など)、ジメチルエーテル化(特許文献3など)など液体として取り扱えるようにする方法がある。しかし、これまでの方法では、化石燃料から得られた一酸化炭素、水素などのガスからこれらの合成反応を行わせるに大掛かりなプラントを必要としていた。したがって、これまで植物系バイオマスをガス化して、その生成ガスを利用して、移送、貯留が容易なエネルギー源にガス合成によって変換するという方法は実用化に至っていない。
【特許文献1】特開2008−81636号公報
【特許文献2】特開2005−132739号公報
【特許文献3】特開平10−182531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、樹木、竹、草、木材の廃棄物、茸類の栽培に用いた廃菌床などの植物系バイオマスを、移送や貯留が容易な液体状の燃料に変換するとともに、その過程で発生する余熱や副生物を有効利用するための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための具体的手段の第1は、植物系バイオマスを酸素を含む気体で部分酸化して700〜820℃でガス化し、得られた硫黄含有量の低いガスを用いてジメチルエーテルあるいはメタノールの合成を行い、その反応時に発生する熱を用いて植物系バイオマス原料の含有水分を調整することである。
【0006】
具体的手段の第2は、0005において、合成反応後の生成物を分離して得られた
ガスの全部あるいはその1部を燃焼して遊離酸素を0.2%以上、2.5%以下にしたものを植物栽培用の温室に供給することである。
【0007】
具体的手段の第3は、0005において、ガス化されたものを冷却して得られた水分、あるいは/および合成反応の生成物から分離された水分を、メタン発酵処理の原料の1部として使用することである。
【発明の効果】
【0008】
0005〜0007の方法によって、種々の植物系バイオマスを、移送や貯留の容易な液体として扱えるエネルギー源に変換することができて、1日の時間帯、曜日、季節の制約なく、ガス化装置を効率よく運転できる。また、その過程で発生した余熱や副生物を有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においてガス合成により製造しようとする、液体状態にして移送や貯蔵が可能な燃料としては、メタノール(CHOH)やジメチルエーテル(DME;CHOCH)などが挙げられる。メタノールは常温で液体であり、人体に入ると有害であるが、それを注意すれば、液体燃料として有効に用いることができる。一方、ジメチルエーテルは常温でも約6気圧以上にすれば液化でき、プロパンと同じように液体として移送や貯蔵を行うことができる。さらにジメチルエーテルはこれまで噴霧器用ガスとして用いられてきたことが示すように無害なガスである。また、燃焼特性も液体燃料に比べると、同一容積で比較すれば発熱量は60%くらいであるが、燃焼時に有害ガスを発生しにくいことから、各種の燃料として使用する方法が検討されており、これからの重要な燃料の1つであるといえる。一方、最近、有効な液体燃料として注目されているバイオエタノールは、ガス合成で作ることは容易ではないので、主としてトウモロコシなどのバイオマスを発酵させて作られているために、資源的に食糧問題とからみあうおそれがある。それに対して、メタノール、ジメチルエーテルは、それぞれ(1)、(2)式に示すように、一酸化炭素や水素ガスなどからガス合成によって作ることが可能である。
CO + 2H = CHOH (1)
3CO + 3H = CHOCH+ CO(2)
この合成反応の原料になる一酸化炭素や水素を含むガスは、これまで主として石炭や石油などの化石燃料から作ったものを用いることが考えられてきたが、カーボンニュートラルの特性を生かすためにバイオマス資源から作られたものが用いられることが望まれる。そのためには、地域分散型の設備としても使えるようにコンパクトなものにすることが必要になる。
【0010】
図1に植物系バイオマスを用いて、本発明のガス合成に用いられるガスを製造するプロセスの1例を示す。本発明で使用の対象とする植物系バイオマス原料とは、樹木、竹、草などの未利用系、木材の廃棄物、茸類の栽培に用いた廃菌床などの廃棄物系などである。これらは通常、水分を30〜70%含んでいる。これらをガス化炉に入れる前に、チップ化あるいはブリケット化して、サイズを例えば長さが70mm以下、幅が70mm以下、厚さを10mm以下に加工する。その加工の前あるいは後で、加熱、乾燥して水分含有量を調整する。バイオマス原料に伴ってガス化炉に持ち込まれる水分は、ガス化炉の温度を下方に調製するとともに水素ガス濃度を上げる作用をするので、本発明ではガス化炉温度および得られるガスの水素ガスや一酸化炭素の含有量の調整手段の1つになり、加熱、乾燥の程度によって10〜45%の範囲内の値に調整される。その調整のための加熱、乾燥のための熱源としては、系内の余熱、とくに本発明の対象とする発熱型のガス合成反応の温度調整に用いられた余熱(水蒸気や高温ガス)などを用いることができる。なお、バイオマス原料の加熱、乾燥は、チップは加工後、ブリケットは加工前に行なわれる。
【0011】
一般に木質などのバイオマス原料をガス化するためには、固定床型、循環床型、噴流型あるいは内熱および外熱ロータリーキルン型などが用いられる。そのなかで本発明には特に固定床型が適している。固定床型はロータリーキルン型に比べて装置の動く部分が少ないこと、循環床型、噴流型に比べて、原料サイズの幅が広くとれて操業しやすく、一酸化炭素や水素ガスの濃度を広い範囲に調整できるからである。固定床型ガス化炉は、筒状の槽の中に、バイオマス原料と酸化性ガスを供給して、バイオマス原料(炭素、水素および酸素を含有する)に対して
2C(固体中) + O = 2CO (3)
2CO +O = 2CO (4)
O + C = CO + H (5)
2H(固体中) = H (6)
2H + O= 2HO (7)
(固体中)+ O
= C(液体あるいはガス) + CO + H (8)
などの反応によってガス化を行い、CO,H、CO、HO,CHなどを含むガスを発生させ、同時に固体酸化物系の灰分を分離する。なお、(8)式のpは3以上、qが5以上の場合、タール(常温で液体)となる炭化水素が発生し安定操業に悪影響を及ぼす。したがって、タール発生をできるだけ抑制することがガス化炉に求められる要件である。通常、ガス化用の酸化性ガスとしては空気を予熱して吹き込んで部分燃焼している。しかし、その場合には空気に含まれていた窒素が残留し、冷却して水分を除いた後では、たとえばCO=22±2%、H=20±2%、CO=8% CH=1〜4%、N=46%である。
【0012】
このように窒素を含むガスも本発明のガス合成に用いることができるが、窒素ガス含有量が高いと、ガス合成反応後の未反応ガスの循環使用などにおいて、希釈により悪影響を及ぼすので、窒素ガスを20%以下、できれば10%以下にするが望ましい。そのためにはあらかじめ空気から窒素ガスを分離した酸素主体のガスを用いる。この酸素主体のガスとしては、空気から深冷分離で得られたものであっても、あるいは膜分離などで窒素分を分離したものであってもよい。このように空気あるいは酸素ガスのような酸素を含む気体を主酸化性ガス(ガス化によって発熱する)として、0011で述べたタールの発生を抑制し、さらに灰分の溶融固着などが操業の安定に悪影響を及ぼさないようにするために炉内温度を700〜820℃の範囲に調整すること、また生成ガスの水素ガス/一酸化炭素の比を所定の値に調整するために、バイオマス原料の乾燥条件による残留水分量、炭酸ガスの混合量あるいは水蒸気の混合量などを調整する。
【0013】
これに用いられる炭酸ガスとしては、外部で作られた二酸化炭素を用いてもよいし、また、0015で述べるように生成ガスを冷却して水分を除いた後の生成ガスから膜分離などの方法によって除去した炭酸ガスであってもよい。炭酸ガスの量は、炭酸ガス/酸素ガス=0.05〜0.8(容積比)は範囲内である。これによって、例えば、一酸化炭素=36±2%、水素=37±2%、メタンガス=1〜4%、炭酸ガス=16±2%、窒素=8±2%(冷却して水分を除いた状態で分析したもの)が得られる。
【0014】
得られるガス組成のうち水素ガスと一酸化炭素は、後続のガス合成反応で反応ガスとして重要な働きをするので、合成の目的とする有機物に応じて、その比率を調整する必要がある。酸素ガスを主酸化剤とし、ガス化炉内の温度を調整するという制約下で水素ガス/一酸化炭素の比を上げるための第1の方法は、副酸化剤としての水あるいは水蒸気の供給量を増やし、炭酸ガスの供給量を減らすことである。これによって、水素ガス/一酸化炭素の比を上限2.5まで調整できる。
【0015】
ガス化で得られたガスを冷却すると水が液体として分離する。この液体には1%程度の有機物が含有されているので、排水しようとするとCODの規制などにより活性汚泥などの処理が必要になる。その対応策の第1は、加熱して水蒸気にしてガス化炉の中に吹き込む方法である。これによって水蒸気は炉内で、バイオマス原料に含まれていた水分と同様に、炉内温度を下げる側の調整と水素ガス生成量を増やす働きをする。また、水に伴われていた有機物は、ガス化炉の中で分解する。ただし、これによって持ち込まれる水分量の増加に対応して、バイオマス原料から持ち込まれる水分の量を減らすように原料の乾燥を強化することが必要になる。また、その対応策の第2は、有機物が含有されている水を、メタン発酵の原料の1部として処理する方法である。メタン発酵原料の全体量の10%以下であれば、この液を用いてもメタン発酵には悪影響を起こさないで、含まれている有機物をメタンガスに変換し利用することができる。
【0016】
ガス化炉から出て冷却によって水分を除去されたガスに対して、炭酸ガスを除いた方が後のガス合成に有利である場合(たとえば(2)式の反応)には膜分離法などで炭酸ガス分の除去が行われる。これによって分離された炭酸ガスは、0013で述べたようにガス化工程で有効利用できる。
【0017】
0011〜0016に示された方法で植物系バイオマス原料から製造された一酸化炭素、水素そして少量のメタンガスなどを含むガスは、図2に示すプロセスによってガス合成されて、液体にして移送、貯蔵が可能な燃料に変換される。ガスは、まず所定圧に加圧され、次に目的とする反応を進めるための触媒が存在する反応槽に導かれる。本発明の特色は、合成に用いるガスが植物系バイオマスのガス化によって作られているので硫黄含有量が低く、触媒に悪影響を及ぼさず、効率的にガス合成反応を進めることができることである。
【0018】
ガス合成反応の触媒としては、生成しようとする有機物によって種々のものが用いることができ、本発明ではそれを限定しないが、例えば、反応式(1)によりメタノールを合成する場合には、酸化銅―酸化亜鉛、酸化亜鉛―酸化クロム、酸化銅−酸化亜鉛/酸化クロム、酸化銅―酸化亜鉛/アルミナの触媒を用いることができる。一方、ジメチルエーテルを合成する場合は、
CO + 2H = CHOH (1)
2CHOH = CHOCH+ HO (9)
CO+HO = CO + H (10)
の1連の反応が起こり、(1)、(9)、(10)を合わせて全体として
3CO + 3H = CHOCH+ CO(2)
で表される反応が起こる。(1)式の反応の触媒については先に述べたが、(9)式で表される反応を起こすためには酸塩基触媒であるアルファーアルミナ、シリカ・アルミナ、ゼオライト、ゼオライトの金属酸化物;アルカリ、アルカリ土類酸化物を用いることができる。また(10)の反応を起こさせるためには(1)式の反応の触媒がかねることもできる。これらの反応を、別の反応槽にそれぞれの触媒を配置して別々に進めることもできるが、同じ反応槽にこれらの触媒をあわせて配置することによって、(2)式の反応を進めることも可能である。各反応の進捗の程度は、反応ガスと触媒の接触度と、その接触した状態で反応速度によって決まる。触媒の設置方法としては装置的に簡単な固定床型、反応ガスと触媒の接触度を高めた媒体油を用いたスラリー床などがある。
【0019】
(1)、(2)式などで示される本発明が目的とするガス合成反応を右側に進めるためには、平衡的には圧力については低いほど、また温度についても低いほど有利である。しかし、速度的には逆に、圧力が高いほど、また温度が高いほど有利になる。温度、圧力はこのバランスによって選択されるが、圧力は10〜70気圧、温度は250〜350℃の範囲内で選定される。(1)式で表される反応は発熱を伴うので、合成反応槽にパイプを装入して間接的に水や空気などで冷却して熱を取り出すことで、反応槽の温度を例えば230〜280℃の範囲に調整する。取り出された熱の利用方法の第1は、ガス化炉に装入する前の植物系バイオマスの加熱、乾燥などに用いることである。また、利用方法の第2は、植物栽培用の温室が近接して設置されている場合、その温度調整、とくに暖房に用いることである。なお夏季については、吸収式冷房機を導入することで熱を冷房にも用いることができる。
【0020】
この触媒を含む反応槽を通過した後の生成物を含む混合物は、温度、圧力を変えるなどの操作によって、目的とする生成物を分離、回収する。そして分離された未反応ガスが供給されたガスの例えば20%以上と高い場合には、必要により炭酸ガスなどの除去などを行ってから、循環使用する。一方、未反応ガスの比率が供給ガスの例えば20%未満と低い場合には、ガスとしてボイラーなどで燃焼して、その熱を利用することも可能である。
【0021】
合成の目的物がメタノールの場合、反応後の混合物は温度を下げることによってメタノールと水の混合物を液体としてガスから分離し、ついで64℃以上に液体を再加熱して、メタノールを蒸留して、水と分離する。得られたメタノールは常温、常圧で液体であるので、液体として運送、貯蔵が可能である。生成物から分離されたガスの利用方法の第1は、反応槽に循環使用することである。
【0022】
その利用法の第2は、循環使用しない場合、あるいは1部は循環使用する場合にも残りのパージする部分を、空気を加えて燃焼して熱利用を行ない、排ガスは外気に放散することである。反応後のガスは発熱量が低いため、燃焼後の廃ガスには窒素酸化物(NO)の含有量が低く、また、化石燃料ではなく植物バイオマス原料にはもともと硫黄含有量(SO)が低いので、硫黄酸化物も低い。したがって、排ガス処理を簡略できるという利点がある。
【0023】
その利用方法の第3は、この燃焼排ガスを温室栽培の炭酸ガス富化に利用することである。温室の炭酸ガス富加に用いるためには、ガス中の窒素酸化物および硫黄酸化物濃度が低いこと(たとえば50ppm以下)が必要である。これを満足するためには、本発明の反応残ガスのように発熱量が低いものを遊離酸素ガスが0.2%以上、2.5%以下で燃焼(酸化)すればよい。遊離酸素ガスが0.2%未満では、COが残留し、一方、2.5%超ではNOが増える傾向があるので好ましくない。このガスを日の出前から、特に午前中、温室内のCO濃度が1000〜1400ppmになるように供給することによって成長促進、収穫増大(約20%)が得られる。温室内の空間の炭酸ガス濃度は、赤外吸収法で連続測定して、自動でガス供給量を最適状態に調整する。
【0024】
合成の目的物がジメチルエテールの場合、植物系バイオマスなどをガス化して得られた水素ガス/一酸化炭素=0.8〜1.2(容積比)、窒素ガス=20%以下のガスを用いる。これらは合成におけるガスの反応効率を上げるために必要な条件である。このガスを冷却して水分を除き、さらに炭酸ガスを除いた後、7〜50気圧の範囲内に加圧し、また、温度は200〜270℃の範囲に調整して触媒存在下でジメチルエ―テルの合成を行う。反応後の混合物には、ジメチルエーテルのほかに、メタノール、水、二酸化炭素および未反応の一酸化炭素、水素ガスなどが含まれている。これを分離するためには、二酸化炭素を膜分離などで分離後(これは0013で述べたようにガス化工程に利用することができる)、冷却してジメチルエーテル、水、エタノールの混合物と、未反応ガスを主とするガス相に分離し、未反応ガスは循環使用する。メチルエーテル、水、エタノールの混合物は、利用先の条件によって、混合物として液体状態で供給することも、あるいは温度、圧力を調整して分離操作を経てから、ジメチルエーテル、エタノールに分けて供給することも可能である。いずれの場合にも、ジメチルエーテルを主とするものは、常温で6気圧以上に加圧すれば容易に液化し、液体として運送、貯蔵が可能である。なお、装置をコンパクトしたい場合は、生成ガスを冷却して、ジメチルエーテルを主とする液体として回収できるものとガス状のものに分け、ガス状のものは0022,0023で述べたのと同様に熱として利用し、さらには窒素酸化物、硫黄酸化物の低い炭酸ガス源として利用すること、また、液体分はその状態で、精製、分離装置のあるところに運んで集中的に処理するという方法を取ることも可能である。
【0025】
触媒を含むガス合成槽をコンパクトにし、あるいはガス反応効率を上げるために取られる特別な方法は、合成用のガスに静電気を発生させて活性化することである。石油関連の装置では、一般的に静電気を発生させないような対策が講じられる。これは、静電気によって火花が発生し、石油やそれから発生したガスが空気と共存している場合は発火をすることをおそれてのことである。それに対して、本発明のガス合成反応槽には酸素ガスは存在していないので、発火による燃焼のおそれはない。そして逆に静電気の効果によってガスを活性化して、触媒存在下で(1)式や(2)式の反応を促進することが可能である。これによって、これを利用しない場合に比べて触媒を含むガス合成槽をコンパクトにしてもガス反応効率を下げないこと、あるいは触媒を含むガス合成槽が同じであればガス合成反応効率を上げることが可能になる。合成用のガスに静電気を付与するためには例えば、加圧後の反応容器を外部から摩擦する方法がある。なお、その場合に、発火の危険を防止するために、その摩擦を与える容器の金属部分は、装置の他の金属部分と絶縁されていることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、樹木、竹、草などの植物系バイオマスを、移送や貯留が容易な液体燃料に変換する方法であって、設備の設置場所の周辺の条件によらず、稼働率および効率の高い操業を行うことができる。また、コンパクトな装置にすることによって、原料である植物系バイオマスの供給状況が変化すれば、本発明の装置全体を別の場所に移動することによって、植物系バイオマス原料の収集、輸送も含めた最適の形態を採用することができる。
【実施例1】
【0027】
植物系バイオマスを原料とし、酸素を含むガスとして空気から窒素を分離した作った窒素を約3%含む酸素ガスを用い、ガス化して得られたガスを用いてメタノールの合成を行った。ガス化炉は、フィンランドのプーダスエネルギア社の1MW規模の固定床型で、植物系バイオマス原料は木質のチップ80%と竹チップ20%の混合物である。原料のチップは、40〜50%の水分を含有していたが、これをメタノール合成槽のから抜きだした余熱を利用した120〜140℃の加熱空気を用いて乾燥して水分含有量を20〜25%にした。このチップの約400kg/hでガス化炉に供給した。ガス化炉に供給するガスとしては、窒素を約3%含む酸素ガスに、後述する生成ガスから分離した炭酸ガスの1部を加えて、酸素ガス/炭酸ガス=10にした混合ガスを、約150℃に余熱してものと、さらに、後述する生成ガスを冷却して分離された水および、メタノール合成後の生成物から分離された水を、システム内の余熱で水蒸気にしたものをあわせて用いた。ガス化炉内のガス温度を連続して測定し、その値が740〜760℃の範囲になるように、水蒸気の吹き込み量を調整した。ガス化によって得られたガスは、ガス化炉から出たところ冷却して80℃以下にした。これによって水分をガスから分離した。この水分には約1%の有機酸が含まれていた。この水分の処理方法は前述の通りである。この水分除去後のガスの成分は、一酸化炭素=26±2%、水素=50±2%、メタンガス=1〜3%、炭酸ガス=16±2%、窒素=6±2%、硫黄分<20ppmであった。なお、ガス化によって残留した灰分は、供給したバイオマス原料重量の約1.5〜2.0%得られたが、これは土壌改良剤として用いられた。このガスから膜分離法で炭酸ガス分の約90%を分離し、分離された炭酸ガスの1部は、前述のようにガス化用に循環使用された。合成用のガスは、20気圧に加圧後、そして、酸化銅―酸化亜鉛系の触媒が固定床型の高さ8.5mの反応層に導かれメタノール合成反応を行った。ガス1回通過による反応率は約75%であった。反応後のガス混合物は約50℃に冷却されて、エタノール分と水分を含む液体と、ガスに分離された。液体分は、再度約80℃に加熱され、メタノール分を蒸留し、残った水分は、前述のように、システム内の余熱で水蒸気にしたものをガス化炉に吹き込んだ。製造されたメタノールは、タンク車で搬送して自家発電用のエネルギーとして使用された。なお、分離されたガスの約80%は、合成用ガスに混ぜて循環使用された。残り20%はパージしてボイラーの熱源として燃焼利用し、遊離酸素1.2%で排出された。
【実施例2】
【0028】
植物系バイオマス原料は、木質チップ約80%、しいたけ栽培に用いた廃菌床をブリケット化したもの約20%である。ガス化法、得られたガス組成は、0027で述べたのとほぼ同じである。このガスを0027で述べた反応槽を2段連ねて反応を行わせ、メタノール合成を行わせ、ガス1回通過によるガス反応率を85%にした。メタノール合成槽の温度調整はパイプの中に水を通して行い、得られた熱水を用いて空気を間接加熱し、それを用いてガス化に供給するバイオマス原料の加熱、乾燥用に用いた。得られた反応物からのメタノールの精製は、0027で述べたのと同じである。反応混合物から分離されたガスは、ボイラーで遊離酸素ガスが約0.9%になるように燃焼して温水を得て、11月〜3月はこの温水を近接する苺栽培用の温室に供給して暖房に利用した。また、その廃ガス(CO;約35%、NO;35ppm)は、葉菜栽培温室に明け方から14時まで供給して、室内の炭酸ガス濃度を約1100ppmに調整した。これによって収穫量を約20%増加することができた。
【実施例3】
【0029】
間伐材をチップ化した木質バイオマスを原料として(約12t/日;水分含有量30
〜50%)固定床型ガス化炉(フィンランドのプーダス社製)で、予熱された空気を用いて部分燃焼し、炉内ガス温度を720〜750℃でガス化し、これを一旦、70℃まで冷却して水分の凝集分離を行って、CO=22±3%、H=20±3%、CH=1〜3%、CO=8〜10%、残りNのガスを得た。このガスをスラリー床(触媒微粉+媒体油)式のジメチルエーテル合成装置に供給し、反応温度;250〜270℃、圧力約40気圧で、直径2m、高さ5mの槽を2つ通過させて、供給ガスのCO,Hの約90%をデメチルエーテルに転化させた。デメチルエーテル合成槽内にはパイプを介して空気を供給して、発生熱を取り除き、温度が上記の範囲に収まるように調整した。この加熱された空気は、ガス化炉に供給されるチップの予熱乾燥に用いられた。これによって、ガス化炉に供給されるチップの水分量は15〜25%の範囲に調整できた。反応槽から出た生成された混合物のうち液体として分離されたデメチルエーテル(純度96%)は、7気圧に加圧状態で加圧容器に入れて、トラックで需要先に搬送された。ガスとして分離されたものはボイラーで燃焼し温水を製造し、廃ガス(遊離酸素1.0〜1.6%)は放散させた。
【実施例4】
【0030】
植物系バイオマスを原料としてガス化炉で得られたガスを用いてジメチルエーテルの製造を行った。ガス化炉および植物系バイオマス原料は、0027で述べたと同じである。原料のチップは、40〜50%の水分を含有していたが、これをシステム内の余熱を利用した120〜140℃の空気を用いて乾燥して水分含有量を10〜25%にした。このチップの約400kg/hでガス化炉に供給した。ガス化炉に供給するガスは、空気から膜分離で窒素ガスを分離した、窒素を約3%含む酸素ガスである。この酸素ガスに、後述する生成ガスから分離した炭酸ガスを加えて、酸素ガス/炭酸ガス=3にした混合ガスを、システム内の余熱を利用して約180℃に余熱してガス化炉に供給した。さらに、後述する生成ガスを冷却して分離された水を、システム内の余熱で水蒸気にしたものをガス化炉に吹き込んだ。ガス化炉内のガス温度を連続して測定し、その値が730〜760℃の範囲になるように、水蒸気の吹き込み量を調整した。ガス化によって得られたガスは、ガス化炉の外で水により間接冷却して80℃以下にした。これによって水分がガスから分離した。この水分には約1%の有機酸が含まれていた。この水分の処理方法は前述の通りである。この水分除去後のガスの成分は、一酸化炭素=36±2%、水素=37±2%、メタンガス=1〜4%、炭酸ガス=16±2%、窒素=8±2%であった。これを膜分離によって炭酸ガスの約9割を分離し、前述のようにガス化炉に循環使用した。なお、ガス化によって残留した灰分は、供給したバイオマス原料重量の約1.5〜2.0%得られたが、これは土壌改良剤として用いられた。合成用のガスは、約32気圧に加圧後、そして、酸化銅―酸化亜鉛/酸化クロム系の触媒と、アルファーアルミナ、シリカ・アルミナ、ゼオライトを含む触媒の粉末混合物を、脂肪酸からなる媒体油に分散させたスラリー層を通してジメチエーテルへの合成反応を行った。水で間接冷却を行って温度は180〜220℃、圧力が約32気圧で反応をおこなった。反応槽(1つ)の高さは9.2mで、1回の通過による反応率は約75%であった。合成反応後の混合物は、まず、150℃まで冷却して、触媒媒体油を液化して、反応槽に戻したのち、マイナス30度まで冷却してジメチルエーテルに、約2%の水と約8%のメタノールを含む液体―固体とガスに分離した。液体―固体分は、温度を常温に上げてジメチルエーテルを蒸留分離し、それを6.5気圧に加圧して液化して、タンクに詰めて搬送して、ガスエンジン型発電装置の燃料として使用した。水を含むエタノールは、70℃で蒸留して、エタノールを分離し、水は、前述のようにシステム内の余熱で水蒸気にしたものをガス化炉に吹き込んだ。分離されたガスの約80%は、合成反応に循環使用した。残り20%はボイラーで燃焼して熱利用を行った後、廃ガスは大気放散した。
【実施例5】
【0031】
植物系バイオマスを原料としてガス化炉で得られたガスを用いてジメチルエーテルの製造を行った。ガス化からジメチルエーテルの合成までの工程は、0030とほぼ同じである。合成反応後の混合ガスは、まず、150℃まで冷却して、触媒媒体油を液化して、反応槽に戻したのち、マイナス30度まで冷却してジメチルエーテルに、約2%の水と約8%のメタノールを含む液体―固体とガスに分離した。ジメチルエーテルに、約2%の水と約8%のメタノールを含む液体―固体とガスに分離した。液体ジメチルエーテル、水、メタノールを含むものは常温、7気圧で液体として、タンクに詰めて搬送して、ジーゼル型自家発電装置の燃料として使用した。ガスは、ボイラーの燃料として使用し、さらに排ガスは、遊離酸素ガス 0.8〜1.4%に調整することによって窒素酸化物、硫黄酸化物がいずれも30ppm以下にし、隣接する葉菜栽培用温室に日の出から日の入りまで、炭酸ガス濃度が約1200ppmになるように供給した。葉菜の栽培量は約25%増加した。
【実施例6】
【0032】
実施例4において、ガス化炉から出たガスから水分、炭酸ガスを分離した合成用ガスを加圧後、触媒が存在する部分までの長さ2.3mの鋼製容器の外側に回転ブラシをかけて、静電気を発生させた。これによって、合成用ガスの反応率を約7%上げることができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のガス合成に用いられるガスの製造プロセスの1例を示す。
【図2】本発明のガス合成のプロセスの1例を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系バイオマスを酸素を含む気体で部分酸化して700〜820℃でガス化し、得られた硫黄含有量の低いガスを用いてジメチルエーテルあるいはメタノールの合成を行い、その反応時に発生する熱を用いて植物系バイオマス原料を加熱、乾燥して含有水分を調整することを特徴とする植物系バイオマスをガス化して移送や貯留が容易な液体燃料を製造するための方法。
【請求項2】
請求項1において、合成反応後の生成物を精製、分離して得られたガスの全部あるいはその1部を燃焼して、遊離酸素を0.2%以上、2.5%以下にしたものを植物栽培用の温室に供給すること特徴とする植物系バイオマスをガス化して移送や貯留が容易な液体燃料を製造するための方法。
【請求項3】
請求項1において、ガス化されたものを冷却して得られた水分、あるいは/および
合成反応の生成物から分離された水分を、メタン発酵処理の原料の1部として使用することを特徴とする植物系バイオマスをガス化して移送や貯留が容易な液体燃料を製造するための方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31187(P2010−31187A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197109(P2008−197109)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(300057492)
【Fターム(参考)】