説明

椎間板変性関連疾患感受性遺伝子およびその用途

【課題】椎間板変性症および椎間板変性に付随する各種疾患(DDD)に対する遺伝的感受性の診断方法、該疾患の予防・治療剤などの提供。
【解決手段】CILP遺伝子内に存在する多型を検出することによるDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニアなど)に対する遺伝的感受性の診断方法、CILPの発現もしくは活性を調節(例えば、阻害)することによる上記疾患の予防および治療。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椎間板ヘルニアなどの椎間板変性が関与する疾患に関連する遺伝子および該疾患と相関する該遺伝子内の多型の同定、並びにそれらに基づく椎間板変性関連疾患の予防・治療、該疾患に対する遺伝的感受性の診断などに関する。
【背景技術】
【0002】
椎間板変性症や椎間板ヘルニアなどの腰椎椎間板疾患(Lumbar Disc Diseases; 以下「LDD」という)は、腰椎椎間板の変性の結果として起こる、世界的に最もありふれた筋骨格疾病の1つである。椎間板は脊椎体と脊椎体の間に存在する円盤状の軟骨板で、線維輪と髄核からなっており、衝撃吸収体および椎体運動の支点としての役割を果たしている。椎間板変性は、二足起立歩行する人類にとって不可避の加齢的変化であり、早期の変性は20歳代に水分の喪失として始まり、弾力性が失われ、水力学的構造が破壊される。次いで、髄核の壊死・腐骨が起こり、線維輪が弱化して亀裂を生じ、髄核がそこに移動する。
【0003】
椎間板ヘルニアは、椎間板変性の始まった20〜40歳代の男性に多く、重量物挙上や身体を捻ったなどの原因で、線維輪の変性・亀裂などの障害部から髄核が後方または後側方に突出・脱出して、硬膜、神経根、馬尾神経を圧迫したものをいい、坐骨神経痛(腰痛および片側性下肢痛)の原因として最も重要な疾患の1つである。腰椎椎間板ヘルニア(LDH)は、45歳未満における行動制限の最も一般的な原因であり、また、長期にわたる悪質な下肢痛のために患者の20%が外科的治療を必要とすることが、追跡調査により明らかにされている。
したがって、椎間板変性およびそれに付随する椎間板ヘルニア等のLDDは、社会的にも重要な問題となってきている。しかしながら、椎間板変性症や椎間板ヘルニアについては、現在のところ、X線検査やmagnetic resonance imaging(MRI)などの画像診断以外には診断法がなく、また、画像診断は発症前や発症初期には無効であることが多い。さらに、これらの疾患の治療法としては、対症療法があるのみであり、有効な原因療法がないのが現状である。
【0004】
LDDの病因については不明なところが多い。重労働、振動、運動、喫煙などの種々の環境的・身体的危険因子が報告されているが、それらの影響は、いずれも些細であったり、疑義のあるものであったりする。LDDは家族性の素因が強く、陽性の家系では若年性LDHの危険度が5倍以上にまで増大する。また、一卵性双生児におけるMRIの知見から、腰椎椎間板の変性の遺伝性は74%と計算されている。最近の遺伝学的研究からいくつかの遺伝子がLDDと関連することが示されている。これらの知見は、LDDの病因として遺伝的要因が関与することを示唆している。
【0005】
髄核は、アグリカンを主とするプロテオグリカンとコラーゲンとからなる細胞外マトリックスを豊富に含む軟骨様組織である。II型コラーゲンやcartilage oligomeric matrix protein(COMP)等のマトリックス蛋白質に変異を有する患者は、重篤な椎間板変性を呈する。また、コラーゲンIXのトランスジェニックマウスは椎間板変性に引き続きヘルニアを発症し、アグリカン遺伝子の変異マウスは脊椎椎間板の変性と椎体の変形を示す。さらに、LDDとの相関が、コラーゲンIX(COL9A2およびCOL9A3)およびアグリカン遺伝子において見出されたことが報告されている。
【0006】
CILP(Cartilage Intermediate Layer Protein)は、関節軟骨から単離されたectonucleotide pyrophosphohydrolase活性を有する蛋白質で(非特許文献1)、Lorenzoら(非特許文献2)により遺伝子がクローニングされている。CILPは関節軟骨、成長軟骨、椎間板に局在しており(非特許文献3)、その発現はTGFβ-1により上昇し、IGF1により低下する(非特許文献4)。また、CILPはIGF1のアンタゴニストであることも報告されている(非特許文献5)。さらに、CILPのN末端側の組換え蛋白質をマウスに免疫感作したところ、軽度の関節炎を引き起こしたことが報告されている(非特許文献6)。
しかしながら、CILPとLDDとの関連についてはこれまで全く報告されていない。
【非特許文献1】J. Clin. Invest., 95(2): 699-704 (1995)
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 273(36): 23469-75 (1998)
【非特許文献3】J. Bone Miner. Res., 16(5): 868-75 (2001)
【非特許文献4】Arthritis Rheum., 46(12): 3218-29 (2002)
【非特許文献5】Arthritis Rheum., 48(5): 1302-14 (2003)
【非特許文献6】Ann. Rheum. Dis., 63(3): 252-8 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、椎間板変性症および椎間板変性が関与する各種疾患(Degenerative Disc Diseases; 以下「椎間板変性関連疾患」または「DDD」という場合がある。尚、ここで「椎間板」は、腰椎椎間板の他、頚椎椎間板、胸椎椎間板等をも包含することは言うまでもない)、特にLDDの発症・進行に関与する遺伝子を同定し、その機能を解明することにより、当該疾患の新規且つ根本的な予防・治療手段を提供することである。また、本発明の別の目的は、DDDの早期診断方法、並びに該疾患に対する遺伝的感受性(易罹患性)の簡便且つ高確度な予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、LDD感受性遺伝子の候補として椎間板の20の細胞外マトリックス関連遺伝子に着目し、それらにおける30の公知の候補遺伝子多型を公開されているデータベースから選択し、疾患(Case)−対照(Control)相関解析を行った結果、LDDとCILP遺伝子およびその周辺領域における多型との相関を検出した。さらに、連鎖不平衡解析によりLDD感受性遺伝子の存在領域を同定し、LDD感受性多型がCLIP遺伝子領域内にあることを実証した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
[1]被験者より採取されたゲノムDNA含有試料において、CILP遺伝子内に存在する多型であって、一方のアレル頻度が、任意の椎間板変性関連疾患(DDD)非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型を検出することを特徴とする、該被験者のDDDに対する遺伝的感受性の診断方法、
[2]多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型、および該多型と連鎖不平衡係数D’が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型からなる群より選択される上記[1]記載の方法、
[3]多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基もしくは塩基配列からなる群より選択される1以上の塩基もしくは塩基配列における多型である上記[2]記載の方法、
[4]DDDが、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法、
[5]GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36288209で示される塩基(但し、該塩基はAである)を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸、
[6]GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296207〜36296208で示される2塩基を含む約15〜約500塩基の連続した塩基配列において、該2塩基が欠失した配列を含有してなる核酸、
[7]GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296631で示される塩基(但し、該塩基はTである)を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸、
[8]GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296728および36296729を含む約15〜約500塩基の連続した塩基配列において、該2塩基の間にGが挿入された配列を含有してなる核酸、
[9]CILP遺伝子内に存在する多型であって、一方のアレル頻度が、任意のDDD非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型の各々を検出し得る1組以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含んでなる、DDDに対する遺伝的感受性の診断用キット、
[10]多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型、および該多型と連鎖不平衡係数D’が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型からなる群より選択される上記[9]記載のキット、
[11]多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基もしくは塩基配列からなる群より選択される1以上の塩基もしくは塩基配列における多型である上記[10]記載のキット、
[12]核酸プローブが、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729からなる群より選択される塩基番号で示される多型部位の塩基を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸であり、核酸プライマーが、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、上記の群より選択される塩基番号で示される多型部位の塩基を含む約50〜約1,000塩基の連続した塩基配列を増幅し得る一対の核酸である上記[10]記載のキット、
[13]DDDが、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである上記[9]〜[12]のいずれかに記載のキット、
[14]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を有する核酸を含有してなるDDDの予防・治療剤、
[15]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドまたはその塩に対する中和抗体を含有してなるDDDの予防・治療剤、
[16]中和抗体が該蛋白質の81kDaのN末フラグメントを認識するものである、上記[15]記載の剤、
[17]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくはその部分ペプチドまたはその塩の発現もしくは活性を抑制する化合物またはその塩を含有してなるDDDの予防・治療剤、
[18]DDDが、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである上記[14]〜[17]のいずれかに記載の剤、
[19]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドまたはその塩に対する抗体を含有してなる、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の診断剤、
[20]抗体が該蛋白質の81kDaのN末フラグメントを認識するものである、上記[19]記載の剤、
[21]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列またはその一部を有する核酸を含有してなる、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の診断剤、
[22]椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである[19]〜[21]のいずれかに記載の剤、
[23]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくはその部分ペプチドまたはその塩を用いることを特徴とする、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法、
[24]配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列またはその一部を有する核酸、あるいは配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくは該部分ペプチドまたはその塩に対する抗体を用いることを特徴とする、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法、および
[25]椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである上記[23]または[24]記載の方法などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
CILP遺伝子における多型はDDDと相関すること、また、CILPはTGF-β1と結合してTGF-β1シグナルを抑制することにより、椎間板の基質であるアグリカンやコラーゲン蛋白質の合成を抑制するが、CILP遺伝子のDDD感受性アレルにおいては、TGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性がより強いことから、該多型は、椎間板変性症や椎間板ヘルニアをはじめとするDDDに対する遺伝的感受性の簡便な判定に利用することができる。また、CILPの発現および/または活性を調節することにより、椎間板基質の変性・消失・産生異常などが関連する疾患に対して予防・治療効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のDDDに対する遺伝的感受性の診断方法(以下、単に「本発明の診断方法」という場合がある)は、被験者のCILP遺伝子における多型を検出することを特徴とする。
本明細書において「(遺伝子)多型」とは、ゲノムDNA上の1または複数の塩基の変化(置換、欠失、挿入、転位、逆位等)であって、その変化が集団内に1%以上の頻度で存在するものをいい、例えば、1個の塩基が他の塩基に置換されたもの(SNP)、1〜数十塩基が欠失もしくは挿入されたもの(DIP)、2〜数十塩基を1単位とする配列が繰り返し存在する部位においてその繰り返し回数が異なるもの(繰り返し単位が2〜4塩基のものをマイクロサテライト多型、数〜数十塩基のものをvariable number of tandem repeat (VNTR)という)等が挙げられる。本発明の診断方法に利用することができる多型は、下記の条件を満たす限りいずれのタイプのものであってもよいが、好ましくはSNPである。
【0011】
本発明の診断方法において利用することができる多型は、
(1) CILP遺伝子内に存在する多型であって、
(2) その一方のアレル頻度が、任意のDDD非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において有意に高いものであれば特に制限されない。
CILP遺伝子内に存在する多型としては、例えば、NCBI SNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)、JSNPデータベース(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/)、Applied Biosystemsホームページ(http://www.appliedbiosystems.com/index.cfm)等に登録された公知多型、あるいは本発明において見出された新規多型[「GenBankアクセッション番号NT_010194 (VERSION: NT_010194.16, GI: 37540936, 2004年8月20日更新)」(本明細書においては、単に「NT_010194.16」と略記する場合もある)で表される塩基配列中、塩基番号36288209、36296207〜36296208、36296631、36296729で示される塩基もしくは塩基配列における多型]等が挙げられる(後記実施例1,図1を参照)。尚、NCBI Nucleotide (GenBank) データベース上の情報更新による配列不一致の混乱を避けるために、NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36278901〜36296800に相当する部分配列(逆鎖の配列;CILPのセンス鎖は逆鎖のため)を配列番号1に示した。これにより、万一NT_010194.16の配列情報が参照不能となった場合でも、NT_010194.16における塩基番号(N0)を配列番号1で表される塩基番号(N = 36296801-N0)に換算することにより、本発明の実施に必要な配列情報の記載は担保される。以下、本明細書において、特にことわらない限り、多型部位等のヌクレオチド(塩基)の位置はすべてNT_010194.16の塩基番号により表記する。
【0012】
本発明の診断方法において利用することができる多型としては、好ましくは、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型と連鎖不平衡係数D’が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型である。ここで「連鎖不平衡係数D’」は、2つのSNPについて第一のSNPの各アレルを(A, a)、第二のSNPの各アレルを(B, b)とし、4つのハプロタイプ(AB, Ab, aB, ab)の各頻度をPAB, PAb, PaB, Pabとすると、下記式により得られる。
D’=(PABPab−PAbPaB)/Min [(PAB+PaB)(PaB+Pab), (PAB+PAb)(PAb+Pab)]
[式中、Min [(PAB+PaB)(PaB+Pab), (PAB+PAb)(PAb+Pab)]は、(PAB+PaB)(PaB+Pab)と(PAB+PAb)(PAb+Pab)とのうち、値の小さい方をとることを意味する。]
好ましくは、D’が0.95以上、より好ましくは0.99以上、最も好ましくは1である多型が挙げられる。
【0013】
上記多型のうち、一方のアレル頻度が任意のDDD非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において有意に高いものが、本発明の診断方法に利用することができる。本明細書においては、以下、かかる多型をDDDマーカー多型という場合もある。
DDD患者集団およびDDD非罹患者集団は、それぞれ統計学上信頼し得る結果を与えるに十分な数からなる集団であれば、その大きさ(サンプル数)、各サンプルの背景(例えば、出身地、年齢、性別、疾患等)などに特に制限はない。DDDとしては、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等が挙げられる。また、倫理上、試料提供者のインフォームド・コンセントを必要とすることから、DDD非罹患者集団としては、通常、ある医療機関におけるDDD以外の患者群、あるいはある地域における集団検診においてDDDに罹患していないと診断された被験者群などが好ましく用いられる。
CILP遺伝子内に存在するDDDマーカー多型としては、例えば、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170(GenBankアクセッション番号rs12439736)、36284530(GenBankアクセッション番号rs2073711)、36286605(GenBankアクセッション番号rs11856834)、36288167(GenBankアクセッション番号rs2681038)、36288209、36292837(GenBankアクセッション番号rs1442795)、36292929(GenBankアクセッション番号rs1561888)、36295356(GenBankアクセッション番号rs17805775)、36296103(GenBankアクセッション番号rs1955142)、36296207〜36296208、36296631および36296729における多型が挙げられる。
【0014】
本発明の診断方法に利用されるDDDマーカー多型として、特に好ましくは、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型が挙げられる。塩基番号36284530で示される塩基における多型は、後記実施例に示される通りTGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性におけるアレル間の差異をもたらす。即ち、Cアレルでは、Tアレルに比べて上記活性が顕著に増大している。また、ケース−コントロール解析の結果、Cアレルのアレル頻度は、DDD非罹患者集団におけるそれよりもDDD患者集団において有意に高いことが示された。以上の事実とCILPの椎間板組織における強発現およびCILPとTGF-β1とが椎間板組織で共局在することなどを考慮すれば、CILPはTGF-β1シグナルを調節して椎間板の形成・代謝において重要な役割を果たしているが、Cアレル保有者では、CILPのTGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性が増大しているために椎間板基質の産生能が低下し、椎間板変性を引き起こすリスクが増大するので、DDDに罹患しやすい(感受性である)ことが強く示唆される。従って、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型は、DDDへの易罹患性を規定する多型、即ちDDD感受性多型である。
【0015】
本発明の診断方法において検出される多型は、上記した多型のうちのいずれか1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
本発明の診断方法において、多型の検出は公知のSNP検出方法のいずれも使用することができる。古典的な検出方法としては、例えば、被験者の細胞等から抽出したゲノムDNAを試料とし、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、上記したいずれかの多型部位の塩基(好ましくは、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170(GenBankアクセッション番号rs12439736)、36284530(GenBankアクセッション番号rs2073711)、36286605(GenBankアクセッション番号rs11856834)、36288167(GenBankアクセッション番号rs2681038)、36288209、36292837(GenBankアクセッション番号rs1442795)、36292929(GenBankアクセッション番号rs1561888)、36295356(GenBankアクセッション番号rs17805775)、36296103(GenBankアクセッション番号rs1955142)、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基)を含む約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸をプローブとして用い、例えばWallaceら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80, 278-282 (1983))の方法に従って、ストリンジェンシーを正確にコントロールしながらハイブリダイゼーションを行い、プローブと完全相補的な配列のみを検出する方法や、上記核酸と上記核酸において多型部位の塩基が他の塩基に置換された核酸のいずれか一方を標識し、他方を未標識としたミックスプローブを用い、変性温度から徐々に反応温度を低下させながらハイブリダイゼーションを行い、一方のプローブと完全相補的な配列を先にハイブリダイズさせ、ミスマッチを有するプローブとの交差反応を防ぐ方法などが挙げられる。ここで標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。
【0016】
好ましくは、多型の検出は、例えば、WO 03/023063に記載された種々の方法、例えば、RFLP法、PCR-SSCP法、ASOハイブリダイゼーション、ダイレクトシークエンス法、ARMS法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法、RNaseA切断法、化学切断法、DOL法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI-TOF/MS法、TDI法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アレルスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法、UCAN法、DNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いた核酸ハイブリダイゼーション法、、およびECA法などにより実施することができる(WO 03/023063,第17頁第5行〜第28頁第20行を参照)。以下、代表的な方法として、後記実施例で使用されるTaqMan PCR法とインベーダー法について、より詳細に説明する。
【0017】
(1)TaqMan PCR法
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用した方法である。TaqManプローブとしては、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、上記したいずれかの多型部位の塩基を含む約15〜約30塩基の連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが用いられる。該プローブは、その5’末端がFAMやVICなどの蛍光色素で、3’末端がTAMRAなどのクエンチャー(消光物質)でそれぞれ標識されており、そのままの状態ではクエンチャーが蛍光エネルギーを吸収するため蛍光は検出されない。プローブは双方のアレルについて調製し、一括検出のために互いに蛍光波長の異なる蛍光色素(例えば、一方のアレルをFAM、他方をVIC)で標識することが好ましい。また、TaqManプローブからのPCR伸長反応が起こらないように3’末端はリン酸化されている。TaqManプローブとハイブリダイズする領域を含むゲノムDNAの部分配列を増幅するように設計されたプライマーおよびTaq DNAポリメラーゼとともにPCRを行うと、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイズし、同時にPCRプライマーからの伸長反応が起こるが、伸長反応が進むとTaq DNAポリメラーゼの5’ヌクレア−ゼ活性によりハイブリダイズしたTaqManプローブが切断され、蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光が検出される。鋳型の増幅により蛍光強度は指数関数的に増大する。
例えば、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型の検出において、当該塩基を含むアレル特異的オリゴヌクレオチド(約15〜約30塩基長;TアレルはFAMで、CアレルはVICでそれぞれ5’末端標識し、3’末端はいずれもTAMRAで標識)をTaqManプローブとして用いた場合、被験者のジェノタイプがTT、あるいはCCであれば、それぞれFAMあるいはVICの強い蛍光強度を認め、他方の蛍光はほとんど認められない。一方、被験者のジェノタイプがTCであれば、FAMおよびVIC両方の蛍光が検出される。
【0018】
(2)インベーダー法
インベーダー法では、TaqMan PCR法と異なり、アレル特異的オリゴヌクレオチド(アレルプローブ)自体は標識されず、多型部位の塩基の5’側に鋳型DNAと相補性のない配列(フラップ)を有し、3’側には鋳型に特異的な相補配列を有する。インベーダー法では、さらに鋳型の多型部位の3’側に特異的な相補配列を有するオリゴヌクレオチド(インベーダープローブ;該プローブの5’末端である多型部位に相当する塩基は任意である)と、5’側がヘアピン構造をとり得る配列を有し、ヘアピン構造を形成した際に5’末端の塩基と対をなす塩基から3’側に連続する配列がアレルプローブのフラップと相補的な配列であることを特徴とするFRET(fluorescence resonance energy transfer)プローブとが用いられる。FRETプローブの5’末端は蛍光標識(例えば、FAMやVICなど)され、その近傍にはクエンチャー(例えば、TAMRAなど)が結合しており、そのままの状態(ヘアピン構造)では蛍光は検出されない。
鋳型であるゲノムDNAにアレルプローブおよびインベーダープローブを反応させると、三者が相補結合した際に多型部位にインベーダープローブの3’末端が侵入する。この多型部位の構造を認識する酵素(cleavase)を用いてアレルプローブの一本鎖部分(即ち、多型部位の塩基から5’側のフラップ部分)を切り出すと、フラップはFRETプローブと相補的に結合し、フラップの多型部位がFRETプローブのヘアピン構造に侵入する。この構造をcleavaseが認識して切断することにより、FRETプローブの末端標識された蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなって蛍光が検出される。多型部位の塩基が鋳型とマッチしないアレルプローブはcleavaseによって切断されないが、切断されないアレルプローブもFRETプローブとハイブリダイズすることができるので、同様に蛍光が検出される。但し、反応効率が異なるため、多型部位の塩基がマッチするアレルプローブでは、マッチしないアレルプローブに比べて蛍光強度が顕著に強い。
通常、3種のプローブおよびcleavaseと反応させる前に、鋳型DNAはアレルプローブおよびインベーダープローブがハイブリダイズする部分を含む領域を増幅し得るプライマーを用いてPCRにより増幅しておくことが好ましい。
【0019】
上記のようにして多型を調べた結果、任意のDDD非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において有意に高いアレルを保有していると判定された場合、特に該アレルについてホモ接合体であると判定された場合には、被験者は当該DDDに対する遺伝的感受性が高いと診断することができる。例えば、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、
(1) 塩基番号36284170で示される塩基がTのアレルを保有する場合、
(2) 塩基番号36284530で示される塩基がCのアレルを保有する場合、
(3) 塩基番号36286605で示される塩基がAのアレルを保有する場合、
(4) 塩基番号36288167で示される塩基がCのアレルを保有する場合、
(5) 塩基番号36288209で示される塩基がAのアレルを保有する場合、
(6) 塩基番号36292837で示される塩基がTのアレルを保有する場合、
(7) 塩基番号36292929で示される塩基がTのアレルを保有する場合、
(8) 塩基番号36295356で示される塩基がAのアレルを保有する場合、
(9) 塩基番号36296103で示される塩基がGのアレルを保有する場合、
(10)塩基番号36296207〜36296208で示される塩基の位置のCTが欠失したアレルを保有する場合、
(11)塩基番号36296631で示される塩基がTのアレルを保有する場合、あるいは
(12)塩基番号36296728および36296729で示される塩基の間にGが挿入されたアレルを保有する場合、被験者は、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に罹患しやすい(感受性である)と診断することができる。
尚、2以上の多型を調べた際に、1以上の結果が他の結果と相反する場合には、塩基番号36284530で示される塩基における多型の結果が優先される。
【0020】
上述のように、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36288209、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基もしくは塩基配列における多型は、本発明において初めて見出された新規多型であり、且つDDDに対する遺伝的感受性の診断に利用できるマーカー多型である。より詳細には、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36288209で示される塩基はCであるが、本発明者らは該塩基がCからAに置換された新規SNPを同定した。Aアレルの頻度は、DDD非罹患者集団に比べてDDD患者集団において有意に高いことから、該アレルは、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に罹患し易い(感受性である)。また、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36296207〜36296208で示される塩基はCTであるが、本発明者らは該2塩基が欠失した新規DIPを同定した。欠失アレルの頻度は、DDD非罹患者集団に比べてDDD患者集団において有意に高いことから、該アレルは、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に罹患し易い(感受性である)。また、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36296631で示される塩基はAであるが、本発明者らは該塩基がAからTに置換された新規SNPを同定した。Tアレルの頻度は、DDD非罹患者集団に比べてDDD患者集団において有意に高いことから、該アレルは、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に罹患し易い(感受性である)。さらに、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36296729で示される塩基はTであるが、本発明者らは該塩基の前(即ち、塩基番号36286728と36296729の間)にGが挿入された新規DIPを同定した。挿入アレルの頻度は、DDD非罹患者集団に比べてDDD患者集団において有意に高いことから、該アレルは、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に罹患し易い(感受性である)。
従って、本発明はまた、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、
(a) 塩基番号36288209で示される塩基(但し、該塩基はAである)、
(b) 塩基番号36296207〜36296208で示される2塩基、
(c) 塩基番号36296631で示される塩基(但し、該塩基はTである)、または
(d) 塩基番号36296728〜36296729で示される2塩基
を含む、約15〜約500塩基(好ましくは約15〜約200塩基、より好ましくは約15〜約50塩基)の連続した塩基配列(但し、(b)においては塩基番号36296207〜36296208で示される2塩基は欠失しており、(d)においては塩基番号36296728〜36296729で示される2塩基の間にGが挿入されている)を含有してなる核酸を提供する。かかるSNPもしくはDIP部位を含む新規核酸は、上記した本発明の診断方法において、当該塩基における多型を検出するのに好ましく用いることができる。
【0021】
本発明はまた、上記本発明の診断方法に用いるためのキットを提供する。即ち、本発明の診断用キットは、CILP遺伝子内に存在する多型であって、一方のアレル頻度が、任意のDDD非罹患者集団におけるよりも任意のDDD患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型の各々を検出し得る1組以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含むことを特徴とする。
【0022】
具体的には、本発明の診断用キットに用いられる核酸プローブは、上記本発明の診断方法において検出すべき多型部位の塩基を含む領域でゲノムDNAとハイブリダイズする核酸であり、標的部位に対して特異的であり且つ多型性を容易に検出し得る限りその長さ(ゲノムDNAとハイブリダイズする部分の塩基長)に特に制限はなく、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約500塩基、より好ましくは約15〜約200塩基、いっそう好ましくは約15〜約50塩基である。
該プローブは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)を含んでいてもよい。例えば、上記インベーダー法に用いられるアレルプローブは、多型部位の塩基の5’末端にフラップと呼ばれる付加的配列を有する。
また、該プローブは、適当な標識剤、例えば、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0023】
好ましくは、本発明の診断用キットに用いられる核酸プローブは、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170(GenBankアクセッション番号rs12439736)、36284530(GenBankアクセッション番号rs2073711)、36286605(GenBankアクセッション番号rs11856834)、36288167(GenBankアクセッション番号rs2681038)、36288209、36292837(GenBankアクセッション番号rs1442795)、36292929(GenBankアクセッション番号rs1561888)、36295356(GenBankアクセッション番号rs17805775)、36296103(GenBankアクセッション番号rs1955142)、36296207〜36296208、36296631および36296729からなる群より選択される塩基番号で示される多型部位、より好ましくは塩基番号36284530の塩基を含む、約15〜約500塩基、好ましくは約15〜約200塩基、より好ましくは約15〜約50塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸である。ここで、
(1) 塩基番号36284170で示される塩基はCまたはT、
(2) 塩基番号36284530で示される塩基はTまたはC、
(3) 塩基番号36286605で示される塩基はGまたはA、
(4) 塩基番号36288167で示される塩基はTまたはC、
(5) 塩基番号36288209で示される塩基はCまたはA、
(6) 塩基番号36292837で示される塩基はGまたはT、
(7) 塩基番号36292929で示される塩基はCまたはT、
(8) 塩基番号36295356で示される塩基はGまたはA、
(9) 塩基番号36296103で示される塩基はTまたはG、
(10)塩基番号36296207〜36296208で示される塩基はCTまたは--(欠失)、
(11)塩基番号36296631で示される塩基はAまたはT、
(12)塩基番号36296729で示される塩基は-(欠失)またはGであり、使用する多型検出法に応じて、各多型部位についていずれか一方の塩基を有する核酸を用いることもできるし、各アレルに対応する塩基を有する2種類の核酸を用いることもできる。尚、上記インベーダー法に使用されるインベーダープローブについては、多型部位の塩基(即ち、3’末端の塩基)は任意の塩基でよい。
【0024】
本発明の診断用キットに用いられる核酸プライマーは、上記本発明の診断方法において検出すべき多型部位の塩基を含むゲノムDNAの領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。例えば、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、検出すべき多型部位の塩基より5’側の相補鎖配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約15〜約30塩基の塩基配列を含む核酸と、該多型部位の塩基より3’側の配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約15〜約30塩基の塩基配列を含む核酸との組み合わせであり、それらによって増幅される核酸の断片長が約50〜約1,000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基である、一対の核酸が挙げられる。
該プライマーは、多型性の検出に適した付加的配列(ゲノムDNAと相補的でない配列)、例えばリンカー配列を含んでいてもよい。
また、該プライマーは、適当な標識剤、例えば、例えば、放射性同位元素(例:125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0025】
好ましくは、本発明の診断用キットに用いられる核酸プライマーは、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36284170(GenBankアクセッション番号rs12439736)、36284530(GenBankアクセッション番号rs2073711)、36286605(GenBankアクセッション番号rs11856834)、36288167(GenBankアクセッション番号rs2681038)、36288209、36292837(GenBankアクセッション番号rs1442795)、36292929(GenBankアクセッション番号rs1561888)、36295356(GenBankアクセッション番号rs17805775)、36296103(GenBankアクセッション番号rs1955142)、36296207〜36296208、36296631および36296729からなる群より選択される塩基番号で示される多型部位、より好ましくは塩基番号36284530の塩基を含む、約50〜約1,000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基の連続した塩基配列を増幅し得る一対の核酸である。
【0026】
本発明の診断用キットに用いられる核酸プローブまたはプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖の場合は二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。従って、本明細書においてある塩基配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該塩基配列を有する一本鎖核酸、該塩基配列と相補的な配列を有する一本鎖核酸、それらのハイブリッドである二本鎖核酸をすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
上記核酸プローブまたはプライマーは、例えば、NT_010194.16で表される塩基配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0027】
上記核酸プローブおよび/またはプライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度(例:2×〜20×濃度で1〜50μMなど)となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
本発明の診断用キットは、多型検出法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。例えば、該キットがTaqMan PCR法による多型検出用である場合には、該キットは、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)等をさらに含むことができる。
【0028】
本発明の診断用キットは、DDD、例えば、椎間板変性症、椎間板ヘルニア等に対する遺伝的感受性の診断に使用することができる。
【0029】
本発明はまた、CILPの発現および/または活性を調節(例えば、低減)することによる、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患、即ち基質の変性もしくは合成低下が関与する疾患(好ましくはDDD)などの予防および/または治療に関する。
本発明で用いられるCILP蛋白質は、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質である。該蛋白質は、ヒトもしくは他の温血動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、椎間板、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]より単離された天然蛋白質であってもよく、また、後述のように、化学的に、もしくは無細胞蛋白質合成系を用いて生化学的に合成された蛋白質であってもよい。あるいは、上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換え蛋白質であってもよい。
【0030】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、該アミノ酸配列を有する蛋白質が配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性を有するような配列をいう。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
アミノ酸配列の相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
実質的に同質の活性としては、例えば、TGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性(例:Smad2リン酸化抑制活性)および椎間板基質蛋白質(例:アグリカン、コラーゲン蛋白質)の発現抑制活性などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの性質が定性的に(例:生理学的に、または薬理学的に)同等であることを意味する。したがって、上記の活性の程度といった量的要素については同等であることが好ましいが、異なっていてもよい(例えば、約0.01〜約100倍、好ましくは約0.1〜約10倍、より好ましくは約0.5〜約2倍)。
CILPの活性の測定は自体公知の方法に準じて行うことができる。例えば、TGF-β1との結合試験、TGF-β1刺激によるSmad2のリン酸化をを検出する方法、TGF-β1刺激によるアグリカン、II型コラーゲンなどの椎間板基質遺伝子の発現を測定する方法などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0032】
また、本発明で用いられるCILPとしては、例えば、(1)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質であって、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質も含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、当該蛋白質の活性を損なわない限り、特に限定されない。
【0033】
本明細書においてアミノ酸配列により特定される蛋白質は、ペプチド標記の慣例に従って、左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質をはじめとする、本発明で用いられるCILPは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明で用いられる蛋白質がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられる蛋白質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明で用いられる蛋白質には、N末端のアミノ酸残基(例:メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども含まれる。
本発明で用いられる蛋白質の具体例としては、例えば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を有するヒトCILP(GenBankアクセッション登録番号:NP_003604.1)などがあげられる。
【0034】
本発明で用いられるCILPの部分ペプチドは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドであって、前記した本発明で用いられるCILPと実質的に同質の活性を有するものであればいずれのものでもよい。ここで「実質的に同質の活性」とは上記と同義である。また、「実質的に同質の活性」の測定は、上記と同様にして行うことができる。
具体的には、該部分ペプチドとしては、本発明で用いられるCILPの構成アミノ酸配列のうち少なくとも50個以上、好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが用いられる。
また、本発明で用いられるCILPの部分ペプチドは、(1)そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失し、または、(2)そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が付加し、または、(3)そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が挿入され、または、(4)そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは1〜5個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよく、あるいは(5)それらが組み合わされていてもよい。
【0035】
CILPは、生体内ではプロセッシングを受けて、N末端側(81kDa)とC末端側(52kDa)に分離して働くと考えられている。後記実施例に示される通り、N末端側のCILPフラグメントは全長CILPと同様に、TGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性を示すことから、本発明で用いられるCILPの部分ペプチドは、81kDaのN末フラグメントを含むものであることが好ましい。
【0036】
本発明で用いられるCILPの部分ペプチドは、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、CILPについて上記したと同様のものが挙げられる。また、該部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、該カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられるCILPの部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、C末端のエステルと同様のものが例示される。さらに、該部分ペプチドには、CILPの場合と同様に、N末端のアミノ酸残基(例:メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0037】
本発明で用いられるCILPまたはその部分ペプチドの塩としては、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0038】
本発明で用いられるCILPまたはその塩は、前述したヒトや他の温血動物の細胞または組織から自体公知の蛋白質の精製方法によって調製することができる。具体的には、該動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行い、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0039】
本発明で用いられるCILPもしくは部分ペプチドまたはその塩(以下、「CILP類」と包括的に略記する場合がある)は、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の蛋白質を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする蛋白質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)〜(5)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
(3) 泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年)
(4) 矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 蛋白質の化学IV、 205、(1977年)
(5) 矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0040】
本発明のCILP類の合成には、通常市販の蛋白質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4-ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4-メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4-ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4-(2’,4’-ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4-(2’,4’-ジメトキシフェニル-Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などを挙げることができる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とする蛋白質等の配列通りに、自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂から蛋白質または部分ペプチドを切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的の蛋白質もしくは部分ペプチドまたはそれらのアミド体を取得する。
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、蛋白質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt,HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行なった後に樹脂に添加することができる。
【0041】
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、蛋白質縮合反応に使用しうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド,N,N-ジメチルアセトアミド,N-メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適宜の混合物などが用いられる。反応温度は蛋白質結合形成反応に使用され得ることが知られている範囲から適宜選択され、通常約-20℃〜50℃の範囲から適宜選択される。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行なうことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行なうことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
【0042】
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択しうる。
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t-ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4-メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl-Z、Br-Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2-ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2-アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4-ニトロベンジルエステル、4-メトキシベンジルエステル、4-クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t-ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級(C1-6)アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t-ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2-Bzl、2-ニトロベンジル、Br-Z、t-ブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
【0043】
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd-黒あるいはPd-炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約-20℃〜40℃の温度で行なわれるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4-ブタンジチオール、1,2-エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4-ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2-エタンジチオール、1,4-ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5-トリクロロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N-ヒドロキシスクシミド、N-ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
【0044】
蛋白質または部分ペプチドのアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド(蛋白質)鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いた蛋白質または部分ペプチドとC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去した蛋白質または部分ペプチドとを製造し、これらの蛋白質またはペプチドを上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護蛋白質またはペプチドを精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗蛋白質またはペプチドを得ることができる。この粗蛋白質またはペプチドは既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望の蛋白質またはペプチドのアミド体を得ることができる。
蛋白質またはペプチドのエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、蛋白質またはペプチドのアミド体と同様にして、所望の蛋白質またはペプチドのエステル体を得ることができる。
【0045】
本発明で用いられるCILPの部分ペプチドまたはその塩は、上述もしくは後述のいずれかの方法により得られるCILPまたはその塩を、適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
【0046】
このようにして得られた本発明のCILP類は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られる蛋白質または部分ペプチドが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に蛋白質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0047】
本発明のCILP類は、CILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸を含有する発現ベクターを導入した形質転換体を培養してCILP類を生成せしめ、得られる培養物からCILP類を分離・精製することによって製造することもできる。
CILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸としては、前述した本発明で用いられるCILPのアミノ酸配列もしくはその部分アミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものでもよい。該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
CILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAは、ゲノムDNA、ヒトもしくは他の温血動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ニワトリなど)の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官[例えば、脳、脳の各部位(例:嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例:大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、椎間板、脂肪組織(例:褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。CILPまたはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、CILPまたはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0048】
CILPをコードするDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列を含有するDNA、あるいは該塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記した配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有する蛋白質と実質的に同質の活性(例えば、TGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性など)を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAなどが挙げられる。
配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0049】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム塩濃度が約19〜約40mM、好ましくは約19〜約20mMで、温度が約50〜約70℃、好ましくは約60〜約65℃の条件等が挙げられる。特に、ナトリウム塩濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0050】
CILPをコードするDNAは、好ましくは配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列を含有するヒトCILP cDNA(GenBankアクセッション番号:NM_003613.1)もしくはそのアレル変異体または他の温血動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)におけるそのオルソログ(ortholog)等の塩基配列を少なくとも含有するDNAである。
【0051】
CILPの部分ペプチドをコードするDNAは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列の一部と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、上記した細胞・組織由来のcDNA、合成DNAのいずれでもよい。
具体的には、該部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、
(1)配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列を有するDNAの部分塩基配列、または
(2)配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有し、且つ該DNAにコードされるアミノ酸配列を含む蛋白質と実質的に同質の活性(例:TGF-β1との結合活性、TGF-β1シグナルの抑制活性および椎間板基質蛋白質の発現抑制活性など)を有するペプチドをコードするDNAなどが用いられる。
配列番号:1で表される塩基配列中コード領域として示される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該塩基配列中の対応する部分と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
【0052】
CILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAは、該蛋白質またはペプチドをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、CILPの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションさせることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0053】
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM-K(宝酒造(株))等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
【0054】
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0055】
上記のCILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで宿主を形質転換し、得られる形質転換体を培養することによって、該蛋白質またはペプチドを製造することができる。
CILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、CILPをコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例:pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例:pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例:pSH19,pSH15);λファージなどのバクテリオファージ;レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルス;pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-TKプロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。
宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0056】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Amprと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neorと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル(もしくはプレプロ)配列をコードする塩基配列を、CILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが;宿主がバチルス属菌である場合、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが;宿主が酵母である場合、MFα・シグナル(プレプロ)配列、SUC2・シグナル配列などが;宿主が動物細胞である場合、インシュリン・シグナル(プレプロ)配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0057】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160 (1968)〕,JM103〔ヌクイレック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),9巻,309 (1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517 (1978)〕,HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459 (1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440 (1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン(Gene),24巻,255 (1983)〕,207-21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87 (1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87-11A,DKD-5D,20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
【0058】
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N 細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn, J.L.ら、イン・ヴィボ(In Vivo),13, 213-217 (1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔前田ら、ネイチャー(Nature),315巻,592 (1985)〕。
【0059】
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS-7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT-20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞などが用いられる。
【0060】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
エシェリヒア属菌は、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110 (1972) やジーン(Gene),17巻,107 (1982) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
バチルス属菌は、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111 (1979) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
酵母は、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182-187 (1991)、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929 (1978) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
昆虫細胞および昆虫は、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6, 47-55 (1988) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973) に記載の方法に従って形質転換することができる。
【0061】
形質転換体の培養は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
例えば、宿主がエシェリヒア属菌またはバチルス属菌である形質転換体を培養する場合、培養に使用される培地としては液体培地が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物などを含有することが好ましい。ここで、炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが;窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質が;無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどがそれぞれ挙げられる。また、培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431-433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York 1972〕が好ましい。必要により、プロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β-インドリルアクリル酸のような薬剤を培地に添加してもよい。
宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。必要により、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が酵母である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Bostian, K. L. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),77巻,4505 (1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Bitter, G. A. ら、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),81巻,5330 (1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5〜8である。培養は、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えばGrace's Insect Medium(Grace, T.C.C.,ネイチャー(Nature),195, 788 (1962))に非動化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2〜6.4である。培養は、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する場合の培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔サイエンス(Science),122巻,501 (1952)〕,DMEM培地〔ヴィロロジー(Virology),8巻,396 (1959)〕,RPMI 1640培地〔ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medical Association),199巻,519 (1967)〕,199培地〔プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティ・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1 (1950)〕などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6〜8である。培養は、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
以上のようにして、形質転換体の細胞内または細胞外にCILP類を生成させることができる。
【0062】
前記形質転換体を培養して得られる培養物から、CILP類を自体公知の方法に従って分離精製することができる。
例えば、CILP類を培養菌体あるいは細胞から抽出する場合、培養物から公知の方法で集めた菌体あるいは細胞を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性蛋白質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX-100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。一方、CILP類が細胞外に分泌される場合は、培養物から遠心分離または濾過等により培養上清を回収する。
このようにして得られた可溶性画分もしくは培養上清中に含まれるCILP類の単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0063】
かくして得られるCILPまたはその部分ペプチドが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該蛋白質またはペプチドが塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、形質転換体が産生するCILP類を、精製前または精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。該蛋白質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
かくして得られるCILP類の存在は、特異的な抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより確認することができる。
【0064】
さらに、CILPまたはその部分ペプチドは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞蛋白質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。あるいは、さらにRNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、CILPまたはその部分ペプチドをコードするDNAを鋳型としても合成することができる。無細胞蛋白質(転写/)翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.ら, “Transcription and Tranlation”, Hames B.D.およびHiggins S.J.編, IRL Press, Oxford 179-209 (1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system (Promega社製)やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM (TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.ら, Nature, 179, 160-161 (1957)あるいはErickson A.H.ら, Meth. Enzymol., 96, 38-50 (1996)等に記載の方法を用いることができる。
蛋白質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.ら (1984) 前述)や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞蛋白質合成システム(Spirin A.S.ら, Science, 242, 1162-1164 (1988))、透析法(木川ら、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(PROTEIOSTMWheat germ cell-free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000-333673)等を用いることができる。
【0065】
「配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するポリペプチドをコードする塩基配列またはその一部」、あるいは「該塩基配列と相補的な塩基配列またはその一部」を含有する核酸とは、前述のCILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸だけではなく、コドンの読み枠の合わない部分塩基配列をも含む意味で用いられる。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
目的核酸の標的領域と相補的な塩基配列を含む核酸、即ち、目的核酸とハイブリダイズすることができる核酸は、該目的核酸に対して「アンチセンス」であるということができる。一方、目的核酸の標的領域と相同性を有する塩基配列を含む核酸は、該目的核酸に対して「センス」であるということができる。ここで「相同性を有する」または「相補的である」とは、塩基配列間で約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性または相補性を有することをいう。
【0066】
CILPをコードする塩基配列と相補的な塩基配列またはその一部を含有する核酸(以下、「アンチセンスCILP」ともいう)は、クローン化した、あるいは決定されたCILPをコードする核酸の塩基配列情報に基づき設計し、合成しうる。そうした核酸は、CILPをコードする遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、アンチセンスCILPは、CILPをコードする遺伝子から転写されるRNAとハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(蛋白質への翻訳)を阻害することができる。
【0067】
アンチセンスCILPの標的領域は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、結果としてCILP蛋白質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該蛋白質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性の問題を考慮すれば、約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいがそれに限定されない。具体的には、例えば、CILPをコードする核酸の5’端ヘアピンループ、5’端6-ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域、および3’端ヘアピンループが標的領域として選択しうるが、CILPをコードする遺伝子内の如何なる領域も標的として選択しうる。例えば、該遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもまた好ましい。
さらに、アンチセンスCILPは、CILPをコードするmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして蛋白質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるCILPをコードする遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0068】
アンチセンス核酸は、2-デオキシ-D-リボースを含有しているデオキシリボヌクレオチド、D-リボースを含有しているリボヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販の蛋白質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、さらにDNA:RNAハイブリッドであることができ、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。こうした修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、あるいはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。
【0069】
好ましくは、アンチセンス核酸は、修飾されていてもよいRNAまたはDNAである。修飾された核酸(RNA、DNA)の具体例としては、核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、そしてポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものが挙げられるが、それに限定されるものではない。アンチセンスCILPは次のような方針で好ましく設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンス核酸をより安定なものにする、アンチセンス核酸の細胞透過性をより高める、標的とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、そしてもし毒性があるならアンチセンス核酸の毒性をより小さなものにする。こうした修飾は当該分野で数多く知られており、例えば J. Kawakami et al., Pharm Tech Japan, Vol. 8, pp.247, 1992; Vol. 8, pp.395, 1992; S. T. Crooke et al. ed., Antisense Research and Applications, CRC Press, 1993 などに開示されている。
【0070】
アンチセンス核酸は、変化せしめられたり、修飾された糖、塩基、結合を含有していてもよく、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療において適用されたり、付加された形態で与えられることができうる。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例えば、ホスホリピド、コレステロールなど)といった疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例えば、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端あるいは5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端あるいは5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0071】
CILPをコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、アンチセンスCILPに包含され得る。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。CILP mRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0072】
CILPをコードするmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な塩基配列を有する二本鎖オリゴRNA(siRNA)もまた、アンチセンスCILPに包含され得る。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAの一方の鎖に相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が哺乳動物細胞でも起こることが確認されて以来[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として広く利用されている。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、CILPをコードするcDNA配列もしくはゲノムDNA配列情報に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的領域を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。RNAi活性を有するsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中で、例えば、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。
【0073】
アンチセンスCILPの遺伝子発現阻害活性は、CILPをコードする核酸を含有する形質転換体、生体内や生体外のCILPをコードする遺伝子発現系またはCILPの生体内や生体外の翻訳系を用いて調べることができる。
【0074】
本発明はまた、CILPまたはその部分ペプチドに対する抗体(以下、「抗CILP抗体」と略記する場合がある)を提供する。抗CILP抗体は、CILPまたはペプチドに対して特異的親和性を有するものであれば、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。該抗体は、CILPまたはその部分ペプチドを抗原として用い、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。
【0075】
〔モノクローナル抗体の作製〕
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
CILPまたはその部分ペプチドを、哺乳動物に対して、投与により抗体産生が可能な部位に、それ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行われる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等が挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
例えば、抗原で免疫された哺乳動物、例えばマウスから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種または異種動物の骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化CILPと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。融合操作は、既知の方法、例えば、ケーラーとミルスタインの方法〔ネイチャー(Nature)、256、495 (1975)〕に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。
【0076】
骨髄腫細胞としては、例えば、NS-1、P3U1、SP2/0、AP-1などの哺乳動物の骨髄腫細胞が挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、20〜40℃、好ましくは30〜37℃で1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例:マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したCILPを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法;などによりスクリーニングすることができる。
モノクローナル抗体の選別は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。モノクローナル抗体の選別は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地で行うことができる。モノクローナル抗体の選別および育種用培地は、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いてもよい。このような培地としては、例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%のウシ胎仔血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))あるいはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM-101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行うことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
このようにして得られたモノクローナル抗体は、自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法〔例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例:DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って分離精製することができる。
【0077】
〔ポリクローナル抗体の作製〕
CILPまたはその部分ペプチドに対するポリクローナル抗体は、自体公知の方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(CILPまたはその部分ペプチド)自体、あるいはそれとキャリアー蛋白質との複合体を作製し、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行い、該免疫動物から抗CILP抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行うことにより製造することができる。
哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアー蛋白質との複合体に関し、キャリアー蛋白質の種類およびキャリアーとハプテンとの混合比は、キャリアーに架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どのようなものをどのような比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアーのカプリングには、種々の縮合剤、例えばグルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行われる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0078】
CILPの部分ペプチドを抗原として用いる場合、そのCILP上の位置は特に限定されないが、例えば、各種温血動物間でよく保存された領域の部分アミノ酸配列を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドが挙げられる。特に目的の抗体が中和抗体である場合には、抗原として用いる部分ペプチドは、CILPのN末側81kDaの全部もしくは一部を含むものであることが好ましい。
【0079】
上記した(i)CILP類、(ii)CILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸(好ましくは、DNA)、(iii)抗CILP抗体、(iv)アンチセンスCILPは、例えば以下の用途を有する。
【0080】
後記実施例において示される通り、CILPは、TGF-β1と結合してTGF-β1のシグナルを抑制することにより、椎間板の基質であるアグリカンやコラーゲン蛋白質の発現を抑制する。これらの事実は、CILPの発現または活性を調節(例えば、阻害)し得る物質が、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患、特に椎間板変性・椎間板基質の産生低下が関与する疾患(例:DDD)の予防・治療に有効であることを示すものである。ここで「関与する疾患」とは、それに起因するか、あるいは結果としてそのような状態を生じる疾患をいう。
【0081】
(1)椎間板変性・椎間板基質の産生能低下が関与する疾患の予防・治療剤
上記のように、CILPはTGF-β1と結合してTGF-β1のシグナルを抑制することにより、椎間板の基質であるアグリカンやコラーゲン蛋白質の発現を抑制するので、生体内においてCILPまたはそれをコードする核酸(例:遺伝子、mRNA等)に異常がある(高活性変異体の出現)場合、あるいはその発現量が異常に増加している場合、さらには他の何らかの要因で椎間板変性が起こったり、椎間板基質の産生能が低下している場合に、a)抗CILP抗体を患者に投与してCILPを不活性化(中和)したり、b)(i)アンチセンスCILPを患者に投与して標的細胞内に導入する(および発現させる)ことによって、あるいは(ii)単離した標的細胞にアンチセンスCILPを導入し発現させた後に、該細胞を該患者に移植することなどによって、患者の体内におけるCILPの量を減少させ、TGF-β1シグナルを促進して椎間板基質蛋白質の合成を促進し、椎間板変性・椎間板基質の産生能低下が関与する疾患、例えばDDDなどを予防・治療することができる。
したがって、a)抗CILP抗体またはb)アンチセンスCILPを、上記のような疾患、例えばDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニア)などの疾患の予防・治療剤として用いることができる。
【0082】
抗CILP抗体を上記予防・治療剤として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
一方、アンチセンスCILPを上記予防・治療剤として使用する場合は、該核酸を単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該核酸は、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することができる。
例えば、a)抗CILP抗体、あるいはb)アンチセンスCILPは、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、a)抗CILP抗体、あるいはb)アンチセンスCILPを、生理学的に認められる公知の担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0083】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例:エタノール)、ポリアルコール(例:プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例:ポリソルベート80TM、HCO-50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0084】
また、上記予防・治療剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)に対して投与することができる。
【0085】
抗CILP抗体の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、例えば、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg程度が挙げられる。一方、非経口的に投与する場合、例えば注射剤として投与する場合には、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mg程度が挙げられる。投与対象が他の動物の場合には、ヒト60kg当たりの投与量を該動物の体重に換算した量を投与することができる。
アンチセンスCILPの投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、例えば、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg程度が挙げられる。一方、非経口的に投与する場合、例えば注射剤として投与する場合には、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mg程度が挙げられる。投与対象が他の動物の場合には、ヒト60kg当たりの投与量を該動物の体重に換算した量を投与することができる。
【0086】
(2)椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング
上記のように、CILPの活性を調節(例えば、阻害)し得る物質は、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患、特に椎間板変性・椎間板基質の産生低下が関与する疾患(例:DDD)の予防・治療に有効である。従って、本発明は、CILP類を用いてその活性の変動を測定することによる、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法を提供する。
【0087】
より具体的には、本発明は、
(a)椎間板基質(例:アグリカン等)を産生する能力を有する細胞を、CILP類の存在下、またはCILP類および被験物質の存在下に培養し、両条件下におけるCILP類の活性を比較することを特徴とする、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法を提供する。
上記スクリーニング方法において、CILP類は、前述のいずれかの方法により単離・精製されたものを添加してもよいし、あるいは、椎間板基質を産生する能力を有する細胞が、CILP類を産生する能力を同時に有していてもよい。CILPまたはその塩および椎間板基質を産生する能力を有する細胞としては、生来それらを発現しているヒトもしくは他の温血動物細胞またはそれを含む生体試料(例:髄核、椎間板組織等)であれば特に制限はないが、物理的または化学的刺激に応じてCILPの発現および/または活性化が誘導されるものが好ましく、例えば、髄核、椎間板組織、軟骨細胞等が挙げられるが、それらに限定されない。非ヒト動物由来の細胞、組織等の場合は、それらを生体から単離して培養してもよいし、あるいは生体に被験物質を投与し、一定時間経過後にそれら生体試料を単離してもよい。上記の遺伝子工学的手法により、椎間板基質遺伝子を産生する能力を有する細胞にCILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸を導入して得られる各種の形質転換体を用いることもできる。
被験物質としては、例えば蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
【0088】
CILP類の活性の測定は、例えば、椎間板基質の産生を指標にして測定することができる。例えば、一定期間(例えば、1〜25日程度)培養した細胞から常法により総RNAを抽出して、定量的RT-PCRやノーザンハイブリダイゼーションにより椎間板基質遺伝子[例:アグリカン遺伝子等]の発現量を定量する。あるいは、細胞からプロテオグリカン含有画分を分離し、後述のCILP類の定量と同様の方法により、抗アグリカン抗体等を用いて椎間板基質プロテオグリカンを定量することによっても行うことができる。
【0089】
上記(a)のスクリーニング法において、椎間板基質の産生を低下させた被験物質を「CILP活性阻害物質」として選択することができる。CILP活性阻害物質は、椎間板変性・椎間板基質の産生能低下が関与する疾患、例えばDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニア)などの予防・治療剤として用いることができる。
【0090】
CILP活性阻害物質を上記予防・治療剤として使用する場合は、前記した抗CILP抗体と同様にして製剤化することができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)に対して投与することができる。
CILP活性阻害物質の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、例えば、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg程度が挙げられる。一方、非経口的に投与する場合、例えば注射剤として投与する場合には、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mg程度が挙げられる。投与対象が他の動物の場合には、ヒト60kg当たりの投与量を該動物の体重に換算した量を投与することができる。
【0091】
上述のように、CILPの発現を調節(例えば、阻害)する物質もまた、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患、特に椎間板変性・椎間板基質の産生低下が関与する疾患(例:DDD)の予防・治療に有効である。従って、本発明は、CILP類を産生する能力を有する細胞におけるCILP類の発現を、被験物質の存在下と非存在下で比較することを特徴とする、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法を提供する。
【0092】
CILPの発現量は、CILPをコードする核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸(即ち、前記したCILPをコードする塩基配列またはその一部を含有する核酸(以下、「センスCILP」ともいう)またはCILPをコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部(アンチセンスCILP))を用いてそのmRNAを検出することにより、転写レベルで測定することもできる。あるいは、該発現量は、前記した抗CILP抗体を用いて蛋白質(ペプチド)を検出することにより、翻訳レベルで測定することもできる。
従って、より具体的には、本発明は、
(b)CILP類を産生する能力を有する細胞を被験物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるCILP類をコードするmRNAの量を、センスもしくはアンチセンスCILPを用いて測定、比較することを特徴とする、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法、および
(c)CILP類を産生する能力を有する細胞を被験物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるCILP類の蛋白質(ペプチド)量を、抗CILP抗体を用いて測定、比較することを特徴とする、椎間板基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療物質のスクリーニング方法を提供する。
上記(b)および(c)のスクリーニング方法において、CILP類を産生する能力を有する細胞としては、上記(a)のスクリーニング方法において用いられるのと同様のものが好ましく用いられる。
【0093】
例えば、CILP類のmRNA量または蛋白質(ペプチド)量の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)に対して、薬剤あるいは物理的刺激などを与える一定時間前(30分前〜24時間前、好ましくは30分前〜12時間前、より好ましくは1時間前〜6時間前)もしくは一定時間後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)、または薬剤あるいは物理的刺激と同時に被験物質を投与し、投与から一定時間が経過した後、髄核、椎間板組織などを採取する。得られた生体試料に含まれる細胞において発現したCILPのmRNAは、例えば、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出し、例えば、RT-PCRなどの手法を用いることにより定量することができ、あるいは自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、CILP蛋白質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)CILPまたはその部分ペプチドをコードする核酸を導入した形質転換体を上記の方法に従って作製し、該形質転換体を常法に従って培養する際に被験物質を培地中に添加し、一定時間培養後、該形質転換体に含まれるCILP類のmRNA量または蛋白質(ペプチド)量を定量、解析することにより行うことができる。
被験物質としては、ペプチド、蛋白質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などが挙げられ、これら物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。
【0094】
上記(c)のスクリーニング方法におけるCILP類の量の測定は、具体的には、例えば、
(i)抗CILP抗体と、試料液および標識化されたCILP類とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化されたCILP類を検出することにより試料液中のCILP類を定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に不溶化した抗CILP抗体および標識化された別の抗CILP抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中のCILP類を定量する方法等が挙げられる。
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体はCILP類の異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体がCILP類のN端部を認識する抗体であれば、他方の抗体としてCILP類のC端部と反応するものを用いることができる。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
試料液としては、CILP類が細胞内に局在する場合は、細胞を適当な緩衝液に懸濁した後、超音波処理または凍結融解などによって細胞を破壊して得られる細胞破砕液が、CILP類が細胞外に分泌される場合には、細胞培養上清がそれぞれ用いられる。必要に応じて、破砕液や培養上清からCILP類を分離・精製した後に定量を行ってもよい。また、標識剤の検出が可能である限り、無傷細胞を試料として用いてもよい。
【0095】
抗CILP抗体を用いるCILP類の定量法は、特に制限されるべきものではなく、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
【0096】
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常蛋白質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
【0097】
サンドイッチ法においては不溶化した抗CILP抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の抗CILP抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中のCILP類を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
【0098】
抗CILP抗体は、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
競合法では、試料液中のCILP類と標識したCILP類とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中のCILP類を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、試料液中のCILP類と固相化したCILP類とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中のCILP類と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化したCILP類を加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中のCILP類の量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0099】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてCILP類の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
以上のようにして、抗CILP抗体を用いることによって、細胞におけるCILP類の生産量を感度よく定量することができる。
【0100】
上記(b)および(c)のスクリーニング法において、CILP類の発現量(mRNA量または蛋白質(ペプチド)量)を減少させた物質をCILP発現阻害物質として選択することができる。CILP活性阻害物質は、椎間板変性・椎間板基質の産生能低下が関与する疾患、例えばDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニア)などの予防・治療剤として用いることができる。
【0101】
CILP発現阻害物質を上記予防・治療剤として使用する場合は、前記した抗CILP抗体の場合と同様にして製剤化することができる。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)に対して投与することができる。
CILP発現阻害物質の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、経口投与の場合、例えば、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg程度が挙げられる。一方、非経口的に投与する場合、例えば注射剤として投与する場合には、椎間板ヘルニア患者(60kgとして)においては、一日につき約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mg程度が挙げられる。投与対象が他の動物の場合には、ヒト60kg当たりの投与量を該動物の体重に換算した量を投与することができる。
【0102】
(3)遺伝子診断剤
CILPをコードする塩基配列またはその一部を含有する核酸(センスCILP)、あるいは該塩基配列と相補的な塩基配列またはその一部を含有する核酸(アンチセンスCILP)は、プローブ等として使用することにより、ヒトまたは他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)におけるCILPをコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができるので、例えば、該DNAの損傷もしくは突然変異やmRNAのスプライシング異常あるいは発現低下、あるいは該DNAの増幅やmRNAの発現上昇などの遺伝子診断剤として有用である。CILPをコードする塩基配列の一部を含有する核酸は、プローブとして必要な長さ(例えば、約15塩基以上)を有する限り特に制限されず、また、CILPの部分ペプチドをコードしている必要もない。
【0103】
センスもしくはアンチセンスCILPを用いる上記の遺伝子診断は、例えば、自体公知のノーザンハイブリダイゼーション、定量的RT-PCR、PCR-SSCP法、アレル特異的PCR、PCR-SSOP法、DGGE法、RNaseプロテクション法、PCR-RFLP法などにより実施することができる。
上記のように、CILPはTGF-β1と結合してTGF-β1のシグナルを抑制することにより、椎間板の基質であるアグリカンやコラーゲン蛋白質の発現を抑制するので、椎間板基質の変性・消失・産生能低下が関与する疾患の発症・進行に関連する。そのため、そのような疾患に罹患しているか、あるいは将来罹患するリスクが高い状態にあれば、CILP遺伝子の発現が正常な状態に比して上昇していると考えられる。従って、例えば、被験温血動物の細胞から抽出したRNA画分についてのノーザンハイブリダイゼーションや定量的RT-PCRの結果、CILP遺伝子の発現上昇が検出された場合は、椎間板基質の変性・消失・産生能低下が関与する疾患、例えばDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニア)などの疾患に罹患しているか、あるいは将来罹患する可能性が高いと診断することができる。
【0104】
前記した抗CILP抗体は、ヒトまたは他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)におけるCILPまたはその塩の量を測定することができるので、例えば、該蛋白質の発現低下または発現上昇などの遺伝子診断剤として有用である。
抗CILP抗体を用いる上記の遺伝子診断は、前記した抗CILP抗体を用いるCILP発現調節(例えば、阻害)物質のスクリーニング方法((c)のスクリーニング方法)において、CILP類を産生する能力を有する細胞として、被験温血動物から採取した生体試料(例:関節液、生検など)を用いてイムノアッセイを実施することにより行うことができる。
【0105】
イムノアッセイの結果、該試料中のCILPまたはその塩の増加が検出された場合は、椎間板基質の変性・消失・産生能低下が関与する疾患、例えばDDD(例:椎間板変性症、椎間板ヘルニア)などの疾患に罹患しているか、あるいは将来罹患する可能性が高いと診断することができる。
【0106】
本明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
Sec :セレノシステイン(selenocysteine)
【0107】
また、本明細書中で繁用される置換基、保護基および試薬を下記の記号で表記する。
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Ph :フェニル基
TC :チアゾリジン-4(R)-カルボキサミド基
Tos :p-トルエンスルフォニル
CHO :ホルミル
Bzl :ベンジル
Cl2-Bzl :2,6-ジクロロベンジル
Bom :ベンジルオキシメチル
Z :ベンジルオキシカルボニル
Cl-Z :2-クロロベンジルオキシカルボニル
Br-Z :2-ブロモベンジルオキシカルボニル
Boc :t-ブトキシカルボニル
DNP :ジニトロフェニル
Trt :トリチル
Bum :t-ブトキシメチル
Fmoc :N-9-フルオレニルメトキシカルボニル
HOBt :1-ヒドロキシベンズトリアゾール
HOOBt :3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン
HONB :1-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド
DCC :N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0108】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕
GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36278901〜36296800に相当する部分配列(逆鎖の配列)を示す。
〔配列番号:2〕
ヒトCILP蛋白質のアミノ酸配列を示す。
〔配列番号:3〜配列番号:8〕
下記実施例においてPCR用のプライマーとして使用された合成オリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明を何ら限定するものではない。
【0110】
実施例1 遺伝子多型を用いたケース-コントロール相関解析(候補遺伝子アプローチ)による椎間板変性症及び椎間板ヘルニアとCILP遺伝子との相関の検出
日本人椎間板ヘルニア患者集団群(ケース群)と非患者群(コントロール群)を用いて、候補遺伝子の相関解析を行った。ケース群の腰椎椎間板変性に関してはMRIで評価を行った。評価法はSchneiderman分類を用い、4段階評価とした(T2強調画像矢状断像にてgrade 1: normal, grade 2: decreased, grade 3: diffuse loss, grade 4: signal void)。十分なインフォームド・コンセントのもとに被験者より末梢血を採取し、ゲノムDNAを抽出した。有意差の検定はχ2乗検定を用いた。まず、ケース188例、コントロール376例のサンプルを用いて、20個の候補遺伝子で30候補遺伝子多型のスクリーニング(一次スクリーニング)を行った所、3つのcSNP(coding SNP; アミノ酸置換あり)との間に有意な相関(P<0.05)を認めた。確認の為、一次スクリーニングで用いたのとは独立のケース279例、コントロール278例を用いて、相関解析を行ったところ(二次スクリーニング)、CILP遺伝子のコード領域の翻訳開始点から1184番目の塩基(c.1184T>C;塩基はセンス鎖の塩基を示している)に有意な相関を認めた(P<0.05)。一次、二次スクリーニングを通じてCILP c.1184T>Cの相関はP=0.0000068であった。以上より、椎間板変性症とCILP遺伝子との相関が有意であることが明らかとなった(図1)。さらにCILP遺伝子領域内でc.1184T>Cより相関が高いものがないかどうかを検討するために、CILP遺伝子領域内をケースサンプル24例を用いて、直接シーケンス法にて、遺伝子領域内全部(エクソン、イントロン)と3’、5’側の近傍領域およそ3kbの領域の遺伝子多型検索を行った。そこで同定した14個の遺伝子多型をTaqman PCR法、invader法にてケースサンプル467例、コントロールサンプル654例を用いて、遺伝子型を決定した。Taqman PCR法は95℃で10分の後、92℃で15秒、60℃で1分を1サイクルとし、40サイクルさせて、ABI PRISM 9700 sequence detectorで検出した。Invader法は、ケース、コントロールサンプルをそれぞれPCR後に、蒸留水で5倍希釈し、インベーダープローブ、cleavase、invader buffer、fluoresent energy transfer (FRET) プローブ(すべてABI)を混合し、95℃で5分、63℃で30分反応させて、ABI PRISM 9700 sequence detectorで検出した。c.1184T>Cの相関(P=0.0000068)より高い相関を認めるものは無かった(図1)。c.1184T>CのCアレルの頻度は椎間板ヘルニア患者群で有意に高く24.6%、コントロール群16.9%であった。これらの解析より、この多型が疾患感受性多型であることがわかった(オッズ比=1.61)。この多型はCILPの395位のIle(Tアレル)がThe(Cアレル)に置換されるミスセンス変異(p.I395T)を起こす多型であった。
【0111】
実施例2 連鎖不平衡係数D'を用いた連鎖不平衡領域の決定および疾患感受性多型の同定
CILP周辺の連鎖不平衡領域を決定するために、データベース検索とケースサンプル24例を使用し、およそ250kb領域に渡り(図2a)、その領域に存在する遺伝子のエクソン領域を直接シーケンス法にて遺伝子多型検索を行った。CILP遺伝子領域以外の、アレル頻度が15%以上の9個のSNPをTaqman PCR法、invader法にてケースサンプル467例、コントロールサンプル654例を用いて、遺伝子型を決定し、連鎖不平衡係数D'を用いて連鎖不平衡解析を行ったところ、CILP遺伝子領域内は、一つの連鎖不平衡領域であることがわかった(図2b上)。アレル頻度が15%以上の全19個のSNPのケースサンプル467例、コントロールサンプル654例を用いた相関解析のアレル頻度に基づくP値を比較しても、やはりc.1184T>Cの相関(P=0.0000068)より高い相関を認めるものは無かった(図2b下)。大きな丸は最も高い相関を認めたc.1184T>CのSNPを示す。
【0112】
実施例3 ハプロタイプ解析
さらに、ハプロタイプで疾患アレルが効いている可能性、または別の疾患感受性多型がないかどうかを検討するために、Arlequin software (http://lgb.unige.ch/arlequin/software/) を用いてCILP領域のハプロタイプ解析を行った(図3)。まず、コントロールのアレル頻度15%以上のSNPの遺伝子型から、ハプロタイプを代表するtagging SNPを選択したところ、転写開始点の上流2623番目の塩基の挿入/欠失(-2624ins/delG)、転写開始点の上流1251番目の塩基の置換(-1251G>A)、イントロン1の1155番目の塩基の置換(IVS1+1155C>T)、イントロン4の1271番目の塩基の置換(IVS4+1271T>C)の4SNPであった。このSNPを用いてハプロタイプに基づく相関解析を行ったところ、もっとも相関を認めたのはハプロタイプ2(H2;2(-2624G)/2(-1251A)/2(IVS1+1155T)/2(IVS4+1271C))であった(P=0.0000071)。単点でのc.1184T>Cの相関(P=0.0000068)より高い相関を認めないことから、このSNPが疾患感受性多型である可能性が高いと考えられた。
【0113】
実施例4 Real-time PCRによるヒト椎間板組織におけるCILP 遺伝子の発現の同定
様々なヒト組織、及びヒト由来の細胞株からmRNAを抽出した。さらにヒト椎間板の髄核組織からもmRNAを抽出し、これを逆転写して作成したcDNAを用いて、Real-time PCRを行った。cDNAはTaqMan Reverse Transcription Reagents(ABI)を用いてrandom primerを鋳型にして合成した。様々なヒト組織はMultiple Tissue cDNA panels(Clontech)を用いた。Real-time PCRはQuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を用いて反応を行い、ABI PRISM 7700を用いて検出、定量した。温度は95℃で10分、95℃で15秒、55℃で30秒、72℃で30秒を1サイクルとし、40サイクルにて定量した。CILPのsense primerはCCACCATCAAGGCAGAGTTT(配列番号3)で、anti sense primerはCTGCACTGGATCTCCCTTTC(配列番号4)を使用した。細胞あたりの発現量の補正にはGAPDH遺伝子を用いた。CILP遺伝子はヒト椎間板組織で強く発現しており、椎間板の形成、代謝に重要な役割を果たしていることが示唆された(図4)。
【0114】
実施例5 椎間板ヘルニア患者の椎間板組織におけるCILP蛋白質の免疫組織化学的評価
椎間板ヘルニア患者の手術サンプル(MRI Schneiderman grade1 or 3)を用いて、CILP特異的抗体による免疫染色法(DAB発色法)にて、CILP蛋白質の組織での発現を調べた。まず中性緩衝ホルマリンにて組織を固定した後、パラフィン包埋し、500U/mlの精巣由来ヒアルロニダーゼで37℃、30分間処理した。0.1%アジ化ナトリウムを含む、3%過酸化水素水で室温、5分間処理し、さらに500倍希釈した、CILPのC末を認識する抗体で4℃、12時間処理した。検出はEnvision+ system(Dako Cytomation)で行った。手術的に摘出した椎間板ヘルニア患者の椎間板組織(Schneiderman grade 3)においてCILPの発現が著明に増加していた。細胞周囲の基質(territorial matrix)に特に強い発現を認めた(図5)。
【0115】
実施例6 椎間板変性症の重症度とCILP 遺伝子発現との相関
椎間板ヘルニア患者12人の椎間板変性の重症度をMRIで評価した。評価法はSchneiderman分類を用いた。これらの患者の椎間板組織におけるCILP遺伝子の発現をReal-time PCRにて調べた。Real-time PCRは、QuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を用いて反応を行い、ABI PRISM 7700を用いて検出、定量した。温度は95℃で10分、95℃で15秒、55℃で30秒、72℃で30秒を1サイクルとし、40サイクルにて定量した。CILPのsense primerはCCACCATCAAGGCAGAGTTT(配列番号3)で、anti sense primerはCTGCACTGGATCTCCCTTTC(配列番号4)を使用した。CILP遺伝子の発現量は、GAPDH遺伝子の発現量で補正した。変性の重症度ごとの遺伝子の発現量を検討したところ、重症度が増すにつれて遺伝子の発現量が有意に増加することがわかった(図6)。Grade1、2は3サンプル、Grade3は6サンプル、Grade4は3サンプルを用いて評価した。すなわち、ヒト椎間板髄核組織でのCILP遺伝子の発現は、髄核の変性の程度に相関した。これは変性した髄核組織でのCILPの役割が重大であるということを示唆している。
【0116】
実施例7
CILPの疾患感受性多型における、髄核細胞でのTGF-β1による椎間板基質遺伝子の発現誘導阻害の相違をreal-time PCRにて評価した。
日本白色家兎10羽にペントバルビタールナトリウム(大日本製薬)を過剰量投与し、屠殺後、ウサギ脊椎を摘出した。L2-S1 levelまでの椎間板を採取し、髄核組織、線維輪組織に分離後、0.004% DNaseI、0.4% プロネース(Calbiochem)の濃度でDMEM(Sigma)に溶かし、フィルター滅菌後、37℃で3時間インキュベートした。さらに、DMEMに0.012% コラゲネースP(Roche)、0.004% DNase Iの濃度で溶かし、同様にフィルター滅菌後に、37℃で12時間程度インキュベートした。組織が基本的に溶解したのを確認後、70μmセルストレイナーで1000rpm、5分間を3回行い、細胞成分を精製した後に、1.2% アルギン酸ナトリウム(Takara)に5×105cells/mlで溶解後、10ml注射器に22G針をつけて、細胞懸濁液を吸引し、冷却した102mM CaCl2 100mlに攪拌しながら、22G針で滴下し、ビーズの安定化を図った。20% FBS、DMEM(ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100ug/ml、ファンギゾン0.5μg/ml添加)で2週間培養後、55mM クエン酸ナトリウムで30分間インキュベートし、ビーズを溶解後12 well plateに1×105/wellで細胞を播種した。翌日に、CILPコード領域全長を含み、3’側にインフルエンザウイルス血球凝集素エピトープ(HA)tagを挿入した、p.I395およびp.T395アレルをそれぞれ発現するベクター(pcDNA3.1-F-CILP-HA-I/T)をFugene-6(Roche)を使って、それぞれ細胞にトランスフェクションした。48時間後にTGF-β1を1ng/mlの濃度となるように添加し、さらに24時間後にIsogen(ニッポンジーン)を500μl加えて、SV Total RNA Isolation System(Promega)でRNAを抽出した。cDNAはTaqman Reverse Transcription Reagents(ABI)を用いてrandom primerを鋳型にして合成した。Real-time PCRはQuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を用いて反応を行い、ABI PRISM 7700を用いて検出、定量した。このような方法でCILPを一過性過剰発現させた後にTGF-β1刺激を加え、アグリカン、および2型コラーゲン遺伝子の発現量を測定した。アグリカン遺伝子のプライマーとして、sense primerはAGAGCCTGCGCTCCAATGACT(配列番号5)、antisense primerはTCATAGGTCTCGTTGGTGTC(配列番号6)を用いた。2型コラーゲン遺伝子のプライマーとしては、sense primerはGACCCCATGCAGTACATG(配列番号7)、antisense primerはGACGGTCTTGCCCCACTT(配列番号8)を用いた。両アレルともmockと比較してTGF-β1刺激によるアグリカンおよび2型コラーゲン遺伝子の発現量の上昇を抑制した(図7a,b)。これらの細胞において一過性にCILPが過剰発現していることを確認した(図7c)。さらに、アグリカン遺伝子発現量の差がCILPの発現量の差によるものでないことを確認するために、各アレル間でアグリカン遺伝子抑制活性を算出した。計算方法は(TGF-β1刺激によるアグリカンmRNA発現量−TGF-β1非刺激によるアグリカンmRNA発現量)を、それぞれmock (A)、p.I395 (B)、およびp.T395 (C)について算出し、p.I395におけるアグリカン遺伝子発現抑制活性=(A)-(B)/(p.I395におけるCILPmRNA発現量)、p.T395におけるアグリカン遺伝子発現抑制活性=(A)-(C)/(p.T395におけるCILPmRNA発現量)を算出して比較した(図7d)。これにおいても、やはりp.T395アレルはp.I395に比べてアグリカンの発現抑制活性が強く、p.T395を持つ人では椎間板変性のリスクが高いことが示唆された。
【0117】
実施例8
CILPのN末単独(N-CILP)でも疾患感受性多型は、TGF-β1刺激後の椎間板基質遺伝子の発現誘導阻害に相違を認めた。
CILP(133KDa)はプロセッシングを受けて、N末端側(81kDa)とC末端側(52kDa)に分離して働くと考えられている。そのN末端側だけを含み、C末側にHA tagを含むコンストラクトpcDNA3.1-N-CILP-HA-I/Tを作成し、実施例7のF-CILPと同様の実験を行った。CILPを一過性過剰発現させた後にTGF-β1刺激を加え、アグリカン、および2型コラーゲン遺伝子の発現量を測定した結果、両アレルともmockと比較してTGF-β1刺激によるアグリカンおよび2型コラーゲン遺伝子の発現量の上昇が抑制された(図8a,b)。これらの細胞において一過性にN-CILPが過剰発現していることを確認した(図8c)。さらにアグリカン遺伝子発現量の差がN-CILPの発現量の差によるものでないことを確認するために、各アレル間でアグリカン遺伝子抑制活性を算出した(図8d)。N-CILPでも、p.T395アレルはp.I395に比べてアグリカンの発現抑制活性が強く、p.T395を持つ人では椎間板変性のリスクが高いことが示唆された。
【0118】
実施例9 COS7の培養上清からのN-CILPおよびF-CILP蛋白質のアフィニーティーカラムを用いた精製
COS7細胞を225cm3フラスコに1×106で播種した翌日に、pcDNA3.1-N/F-CILP-I/TをそれぞれFugene-6(Roche)を用いてリポフェクション法にてトランスフェクションした。DNA量は1フラスコあたり60μg、Fugene-6は180μlを使用した。全容30ml/フラスコの10% FBS含有DMEMで24時間培養後に、培地を吸引後、10% FBS含有DMEMを50ml入れ、48時間後に再度10% FBS含有DMEM 50mlに交換した。さらに72時間後に培養上清を回収した。トランスフェクション後、48時間および72時間で回収したDMEMをAmicon-Urtra-4 10000MWCO(Millipore)を用いて3000rpmで遠心して、10倍に濃縮した。濃縮したDMEMを10000rpm 15分間遠心し、沈殿を捨て、上清のみ回収した。回収後に界面活性剤(CHAPS)を0.05%となるように加えた。Econo-Column Chromatography Column(0.7x15cm)(Bio-Rad)にHAアガロース(Sigma)を2ml入れて、20mM Tris-HCl buffer pH 8.0(10% FBS, 0.05% CHAPS, 150mM NaCl)で平衡化した後に、回収した上清をぺリスタポンプを用いて、1ml/分の速度でカラムを2回通過させ、HAアガロースに吸着させた。吸着させたHAアガロースおよびカラムを20mM Tris-HCl buffer pH 8.0(0.05% CHAPS, 150mM NaCl)8mlで2回洗浄した後に、グリシン塩酸(pH 3.0)5mlをカラムに通過させた。下に10ml用のファルコンチューブに1M Tris-HCl(pH 8.0)を500μl入れて、氷中に置いておき、滴下してきた蛋白質を回収した。回収した蛋白質はVIVAspin MWCO30000(2ml)に入れ、10000rpmで遠心して200μlまで濃縮した。その後、PBSを1.5ml加えて再度200μlまで濃縮した。これを2回行い、完全にグリシン塩酸を除去した。200μlまで濃縮した蛋白質を回収し、蛋白定量を行い、200ngを取って、銀染色で蛋白質の純度を確認した(図9)。銀染色は2D-銀染色試薬(第一化学)を用い、プロトコールどおりに行った。ゲルは12.5%ポリアクリルアミドゲル(Bio-rad)を用いた。CILP蛋白質はプロセッシングを受けてN末、C末各断片に分離しており、不純物の混入も無く精製することができた。
【0119】
実施例10 F-CILPによるTGF-β1シグナルの抑制
アグリカン遺伝子は、TGF-β1刺激後の初期の遺伝子発現においてはSmad2が関与する。そこでまず、TGF-β1刺激後にSmad2のリン酸化が起こるかどうかをウサギ髄核細胞にて検討した。髄核細胞をアルジネートビーズに包埋後、2週間培養した後に、5×104/wellで10% FBS含有DMEMで24well plateにまいた。翌日に無血清DMEM500μl/wellを加え、24時間おいた。TGF-β1を10ng/mlの濃度になるように加え、37℃で15分、30分、60分、120分置いたものをすぐ4℃に冷却して反応を止め、M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent(Pierce)を100μl/well加えて、ピペッティングすることにより調整した。これを10000rpmで10分間遠心し、上清のみを回収した。その上清を10μlとってSDS-PAGEを12.5%ポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad)を用いて200V、30分で行った。その後、ウエスタンブロット法を行った。トランスファーは350mA、60分でニトロセルロース膜(Amersham biosciences)を用いた。ブロッキングは5% non-fat dry milkを用いて行い、一次抗体反応は抗phospho-Smad2(cell signaling #3021)抗体を1000倍希釈して行った。希釈したbufferは5% BSA含有TBSTで4℃、12時間反応させた。TBST(50mM Tris (pH7.4), 150mM NaCl, 0.05% Tween 20)で5分間洗浄(3回)を行い、次に二次抗体反応を、HRP標識した抗rabbit IgG抗体(cell signaling #7074)を1000倍希釈して、1時間、25℃で行った。その後、TBSTで5分間洗浄(3回)を行い、ECL plusで検出を行った(図10a上)。同様に、Smad2についても抗Smad2抗体(Zymed 51-1300)を用いて検討した(図10a下)。これらの検討から、髄核細胞においてTGF-β1刺激により、Smad2のリン酸化が起こり、15分から30分の間でピークに達するということがわかった。
【0120】
次に、F-CILPがTGF-β1シグナルを抑制するかどうかについて、つまりSmad2のリン酸化抑制が起こるかどうかをウサギ髄核細胞にて検討した。同様に、まず髄核細胞をアルジネートビーズに包埋後、2週間培養した後に、5×104/wellで10% FBS含有DMEMで24well plateにまいた。翌日に無血清DMEM 500μl/wellに交換し、24時間おいた。1.5mlエッペンドルフチューブにTGF-β1を10ngとF-CILP蛋白質(pcDNA3.1-F-CILP-HA-TをCOS7にトランスフェクションし精製した蛋白質)を各濃度になるように加え、1% FBS+DMEM buffer 500μlに加えたものを4℃で12時間インキュベートした。それを無血清DMEM 500μlに全量加え、全容1mlとし、37℃で15分置いたものをすぐに4℃に冷却して反応を止め、M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent(Pierce)を100μl/well加え、ピペッティングすることにより調整した。同様にウエスタンブロット法で検出した(図10b)。これらの結果から、F-CILPはSmad2を介したTGF-β1シグナルを抑制するということがわかった。
【0121】
実施例11 pTARE-cis-reporting systemを用いたN-CILP、F-CILPのTGF-β1シグナル抑制作用およびアレル間の相違
さらに、TGF-β1シグナルの抑制にアレル間で差があるかどうかを、pTARE-cis-reporting system(Stratagene)を用いて検討した。まず、髄核細胞をアルジネートビーズに包埋後、2週間培養した後に、5×104/wellで10% FBS含有DMEM中、24well plateにまいた。翌日にpcDNA3.1-N/F-CILP-HA-I/Tベクター(4種類)をpTAREベクターまたはpCIS-CKベクター(ネガティブコントロール)とともにウサギ髄核細胞にトランスフェクションした。このとき無血清DMEMにした。無血清DMEMで細胞を36時間培養後に、TGF-β1を10ng/mlの濃度になるように加え、さらに24時間培養した。細胞をPBSで一度リンスした後、細胞溶解液を100μl加え、15分間室温でインキュベートした。検出はPG-DUAL-SP Reporter Assay System(東洋インキ)のプロトコールどおりに行い、Lumbat LB9507(ワラックベルトールドジャパン)で検出した(図11)。N-CILP、F-CILPともにTGF-β1シグナルを抑制し、さらにTアレルはIアレルより抑制効果が強いということがわかった。これらの結果はTアレルを持つとTGF-β1シグナルをより強く抑制し、椎間板変性になりやすいということを示唆する。
【0122】
実施例12 マイクロプレートアッセイ法を用いたCILP蛋白質とTGF-β1との結合試験
マイクロプレートアッセイ法を用いたCILP蛋白質とTGF-β1との結合試験を、ビオチン化トロンボスポンジンとTGF-β1との結合阻害度を指標として以下のようにして行った。Nunc社Maxisorp 96-wellマイクロプレートに、0.05M 炭酸ナトリウムバッファー(pH9.6)で調製した1μg/ml TGF-β1溶液を100μl/wellずつ分注し、4℃で一晩コーティングした。TGF-β1コーティングしたwellを300μl/wellの結合バッファー(1% BSAおよび5% ショ糖含有PBS)中、4℃で12時間ブロッキングした。各wellを300μl/wellの結合バッファーで1回洗浄した後、1well当り100μlの結合バッファーを入れ、ビオチン化トロンボスポンジンと非ラベル化CILP蛋白質を添加し、4℃で12時間インキュベートした。wellを400μl/wellのTBSTで3回洗浄した後、TBSTで1000倍希釈したストレプトアビジン-AP(Novagen)を100μl/wellずつ加え、室温で60分間インキュベートした。wellを400μl/wellのTBSTで5回洗浄した後、Alkaline Phosphatase Substrate Kit(Bio-rad)の発色試薬を100μl/wellずつ加え、25℃で発色するまでインキュベートした。Ultramark Microplate Imaging System(Bio-rad)を用いて405nmの吸光度を測定した。その結果、F-CILPには蛋白量依存的にビオチン化トロンボスポンジンのTGF-β1との結合を阻害する活性が認められた(図12a)。つまり、F-CILPは、in vitroではTGF-β1と結合していることが示唆される。さらに、アレル間で差がないかどうかを検討したところ、N-CILP、F-CILPともにビオチン化トロンボスポンジンのTGF-β1との結合を阻害する活性があり、ともにIアレルよりTアレルの方が、結合強度が強いことが示唆された。
【0123】
実施例13 TGF-β1とCILPの局在性の免疫組織学的評価(蛍光2重染色)
CILP特異的抗体による免疫染色法(DAB発色法)にて、CILP蛋白質の組織での発現を調べた。まず、中性緩衝ホルマリンにて組織を固定した後、パラフィン包埋し、500U/mlの精巣由来ヒアルロニダーゼで、37℃、30分間処理した。0.1%アジ化ナトリウムを含む3%過酸化水素水で室温、5分間処理し、500倍希釈したCILPのC末を認識する抗体で4℃、12時間処理した。その後、10%ヤギ血清で30分間、室温にてインキュベートした。抗ヒトTGF-β1抗体を25μg/ml(R&D systems)の濃度で添加し、4℃、12時間インキュベートした。二次抗体としてAlexa Fluor 568 goat anti-mouse IgG (H+L)、 Alexa Flour 488 goat-anti rabbit IgG (H+L)(Molecular Probes)を用い、1時間、室温でインキュベートした。切片はDAPI(Vector Laboratories)を含むVECTASHIELD mounting mediumで接着させ、蛍光顕微鏡(AX80, OLYMPUS)下で検出した(図13)。TGF-β1とCILPとは共局在していることがわかった。この結果は、in vivoにおいてもTGF-β1とCILPが結合している可能性を示唆する。
【0124】
実施例14 F-CILP(pcDNA3.1-F-CILP-HA-I/T)ベクターのNTPPHase活性の測定
COS7にpcDNA3.1-F-CILP-HA-I/Tベクターをトランスフェクションして上清を回収し、100mM N-trismethyl-1,2-aminoethane sulfonic acid(TES)と1mM p-nitrophenyle thymidine monophosphate(pH7.3)をそれぞれ加えて、37℃で2時間インキュベートした。さらに、4倍量の100mM NaOHを加えて、410nmにおける吸光度を測定した(図14)。F-CILP(pcDNA3.1-F-CILP-HA-I/T)ベクターをCOS7細胞にトランスフェクションしても、NTPPHase活性は検出できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、DDD、特にLDDに対する遺伝的感受性を容易に判定することができる。また、CILPに対する抗体、CILPをコードする核酸、その他CILPの発現もしくは活性を抑制し得る物質は、DDD、特にLDDの予防・治療剤、あるいは診断剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】CILP遺伝子領域におけるケースーコントロール相関解析を示す図である。遺伝子型のP値は2×3 tableのχ2乗検定によって算出された。C.1184T>Cで最も高い相関を認めた。
【図2】(a)CILP遺伝子およびその周辺遺伝子の構造、CILP遺伝子一塩基多型(SNP)地図、(b)CILP遺伝子およびその周辺遺伝子領域における連鎖不平衡地図、周辺多型のケースコントロール相関解析のP値(アレル)を示す図である。
【図3】ハプロタイプ解析の結果を示す図である。H2ハプロタイプで高い相関を認めた。ハプロタイプを代表する多型として、-2623ins/delG, -1251G>A, IVS1+1155C>T, IVS4+1271T>Cを用いた。
【図4】CILP遺伝子のヒト各組織、細胞株における発現量をReal-time PCRにて定量した結果を示す図である。
【図5】ヒト椎間板組織におけるCILP蛋白質を免疫組織化学染色の結果を示す図である。図中(a)(b)は正常の椎間板組織、(c)(d)は変性した椎間板組織(Schneiderman grade3)である。(a)(c)はCILP抗体を用いた椎間板組織の免疫染色、(b)(d)はサフラニン−O染色を示す。スケールバーは50μmを示す。
【図6】各椎間板変性gradeでのCILP遺伝子の発現量をReal-time PCRにて定量した結果を示す図である。正常(grade1, 2)3サンプル、中等度変性(grade 3)6サンプル、高度変性(grade 4)3サンプルを使用した。
【図7】CILPの疾患感受性多型における、髄核細胞でのTGF-β1による軟骨基質遺伝子の発現誘導阻害の相違をReal-time PCRにて評価した結果を示す図である。調べた軟骨基質遺伝子はアグリカン(a)と2型コラーゲン(b)である。
【図8】N-CILP(CILPのN末側)の一過性過剰発現によるTGF-β1による軟骨基質遺伝子の発現誘導阻害を示す図である。(a)アグリカン(b)2型コラーゲン(c)CILP(d)アグリカン遺伝子の発現抑制活性をそれぞれ示す。
【図9】pcDNA3.1-N/F-CILP-HA-I/Tベクターを一過性過剰発現させたCOS7細胞からの、HA tagを用いた蛋白質精製の結果を示す図である。
【図10】F-CILPによるTGF-β1シグナルの抑制を抗リン酸化Smad2抗体を用いて確認した結果を示す図である。(a)髄核細胞では、TGF-β1 10ng/mlで刺激後、速やかにSmad2がリン酸化される。(b)F-CILP蛋白(pcDNA3.1-F-CILP-HA-T)とTGF-β1 10ng/mlをインキュベートし、細胞に添加後、Smad2のリン酸化を評価した。
【図11】N/F-CILPがTGF-β1シグナルの抑制を示すことを示す図である。pcDNA3.1-N/F-CILP-HA-I/TベクターをpTAREベクターと同時にトランスフェクションした。
【図12】N/F-CILPとTGF-β1との結合試験の結果を示す図である。(a)はビオチン化トロンボスポンジンとF-CILPのTGF-β1との結合阻害を指標とした結合試験、(b)はビオチン化トロンボスポンジンとN/F-CILP-I/TのTGF-β1との結合試験の結果を示す。
【図13】CILPとTGF-β1とが共局在することを免疫組織化学的(蛍光二重染色)に示す図である。髄核組織標本はgrade 3を用いた。
【図14】F-CILP-I/Tベクターを用いたNTPPH活性の評価結果を示す図である。COS7細胞にpcDNA3.1-F-CILP-HA-I/Tベクターをトランスフェクションし、NTPPHase活性を評価した。
【配列表フリーテキスト】
【0127】
配列番号:3
プライマー
配列番号:4
プライマー
配列番号:5
プライマー
配列番号:6
プライマー
配列番号:7
プライマー
配列番号:8
プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者より採取されたゲノムDNA含有試料において、CILP遺伝子内に存在する多型であって、一方のアレル頻度が、任意の椎間板変性関連疾患非罹患集団におけるよりも任意の椎間板変性関連疾患患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型を検出することを特徴とする、該被験者の椎間板変性関連疾患に対する遺伝的感受性の診断方法。
【請求項2】
多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型、および該多型と連鎖不平衡係数D’が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型からなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項3】
多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基もしくは塩基配列からなる群より選択される1以上の塩基もしくは塩基配列における多型である請求項2記載の方法。
【請求項4】
椎間板変性関連疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36288209で示される塩基(但し、該塩基はAである)を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸。
【請求項6】
GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296207〜36296208で示される2塩基を含む約15〜約500塩基の連続した塩基配列において、該2塩基が欠失した配列を含有してなる核酸。
【請求項7】
GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296631で示される塩基(但し、該塩基はTである)を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸。
【請求項8】
GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、塩基番号36296728および36296729を含む約15〜約500塩基の連続した塩基配列において、該2塩基の間にGが挿入された配列を含有してなる核酸。
【請求項9】
CILP遺伝子内に存在する多型であって、一方のアレル頻度が、任意の椎間板変性関連疾患非罹患者集団におけるよりも任意の椎間板変性関連疾患患者集団において高い多型からなる群より選択される1以上の多型の各々を検出し得る1組以上の核酸プローブおよび/またはプライマーを含んでなる、椎間板変性関連疾患に対する遺伝的感受性の診断用キット。
【請求項10】
多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284530で示される塩基における多型、および該多型と連鎖不平衡係数D’が0.9以上の連鎖不平衡状態にある多型からなる群より選択される請求項9記載のキット。
【請求項11】
多型が、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729で示される塩基もしくは塩基配列からなる群より選択される1以上の塩基もしくは塩基配列における多型である請求項10記載のキット。
【請求項12】
核酸プローブが、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列中、塩基番号36284170、36284530、36286605、36288167、36288209、36292837、36292929、36295356、36296103、36296207〜36296208、36296631および36296729からなる群より選択される塩基番号で示される多型部位の塩基を含む、約15〜約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸であり、核酸プライマーが、GenBankアクセッション番号NT_010194.16で表される塩基配列の部分塩基配列であって、上記の群より選択される塩基番号で示される多型部位の塩基を含む約50〜約1,000塩基の連続した塩基配列を増幅し得る一対の核酸である請求項10記載のキット。
【請求項13】
椎間板変性関連疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである請求項9〜12のいずれかに記載のキット。
【請求項14】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を有する核酸を含有してなる椎間板変性関連疾患の予防・治療剤。
【請求項15】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドまたはその塩に対する中和抗体を含有してなる椎間板変性関連疾患の予防・治療剤。
【請求項16】
中和抗体が該蛋白質の81kDaのN末フラグメントを認識するものである、請求項15記載の剤。
【請求項17】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくはその部分ペプチドまたはその塩の発現もしくは活性を抑制する化合物またはその塩を含有してなる椎間板変性関連疾患の予防・治療剤。
【請求項18】
椎間板変性関連疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである請求項14〜17のいずれかに記載の剤。
【請求項19】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質またはその部分ペプチドまたはその塩に対する抗体を含有してなる、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の診断剤。
【請求項20】
抗体が該蛋白質の81kDaのN末フラグメントを認識するものである、請求項19記載の剤。
【請求項21】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列またはその一部を有する核酸を含有してなる、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の診断剤。
【請求項22】
椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである請求項19〜21のいずれかに記載の剤。
【請求項23】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくはその部分ペプチドまたはその塩を用いることを特徴とする、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項24】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする塩基配列またはその一部を有する核酸、あるいは配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質もしくは該部分ペプチドまたはその塩に対する抗体を用いることを特徴とする、椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項25】
椎間板における基質の質または量の異常が関与する疾患が、椎間板変性症または椎間板ヘルニアである請求項23または24記載の方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図2】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−223167(P2006−223167A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39908(P2005−39908)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】