説明

検出可能なスレッディングインターカレーター

一般式Iのスレッディングインターカレーターであって:
IG1-DG-IG2-(DG-IG3)n (I)
式中のIG1, IG2 およびIG3は、同じ又は異なるものであり、平面の多環芳香族基を含んでいるインターカレーティング基を表し;式中のDGは、電気化学的に, 化学発光で, 触媒作用で、又はエレクトロケミルミネッセントで検出可能な基を表し;式中のnは0または1を表す。また、本発明は、スレッディングインターカレーターを用いて二本鎖の核酸分子を検出する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、スレッディングインターカレーター(threading intercalator)およびスレッディングインターカレーターを用いて二本鎖の核酸分子を検出する方法に関する。
[発明の背景]
多くの関心が、ヒトゲノム解析計画の完了に続いて超高感度なDNAバイオセンサーの開発に向けられてきた。これらのバイオセンサーは、分子診断学のためのジェノタイピング(genotyping)などに関する広範囲の潜在的な適用を有している。表面修飾技術に関連した蛍光で標識されたオリゴヌクレオチドを使用することによって、特異的なDNA配列および遺伝子発現のための高密度DNAアレイが提供される。しかし、サブナノモルレベルの検出に関して十分な感度を有している蛍光に基づく技術は少数である。
他の導入技術〔例えば、オートラジオグラフィー, 電気化学的な方法, 化学発光, および遷移金属ビピリジン複合体に基づくエレクトロケミルミネッセント法(ECL)〕を用いることが、DNAハイブリダイゼーション現象の超高感度検出に提案されてきた。その中でも、ECLは、最も感度の高い技術の1つであることが実証されている。ECLは、電極の表面で光感受性分子に励起状態を発生させ、基底状態へ戻る際にルミネセンスを誘導する方法である。広く研究されている化合物の1つは、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウム [Ru(bpy)32+]である。Ru(bpy)32+のECLは、約30年前にTokel等(Tokel et al., J. Am Chem. Soc. 1972, 94, 2862-2866)によって報告された。その低い、金属とリガンドとの荷電転移(MLCT;metal-to-ligand charge-transfer)励起状態、高い発光量子収率(emission quantum yields)(H2O中で~4.2%)および長い励起状態寿命(~600 ns)のために、Ru(bpy)32+/tri-n-プロピルアミン(TPA)システムは、一般的に分析的な用途に採用されている。DNA検出技術としてのECLは、オートラジオグラフィーの感度と同等又は超える可能性を有している。というのも、ECLが励起および検出のために異なる形態のエネルギーを有しているとの利点を享受しているからである。ECLの超高感度の要点は、その非常に低いバックグランドノイズに基づいており、これは分析シグナルの発生および検出のための2つの異なる形態のエネルギーを有していることの直接的な結果である。蛍光に基づく技術とは異なり、ECLは励起光源を使用しなく、理論的にバックグランドがない。
ECLシグナルの増強に関する有望なアプローチは、1本の二本鎖の核酸分子(例えば、DNA)において複数のECLタグを構築することである。この戦略は、複数の酸化還元部位を提供する効果を有し、これによって標的DNA分子ごとの荷電組換え現象(charge recombination events)の数を大きく増加させ、結果的にDNAバイオセンサーの感受性および検出限界を増加させる。複数のECLタグシステムの開発に必要な2つの基礎的なことは、次の(i)および(ii)である:(i)ECL酸化還元部位の電極および活性なTPA種への接触性、および(ii)励起部位から受容部位の最低空軌道(lowest-lying unoccupied molecular orbital)への分子内のエネルギー移動を回避するための酸化還元部位の電気的な独立。Ru(bpy)32+ドープ処理したポリスチレンミクロスフェアをECL標識として使用した場合に、1.0fM程度の少量のDNAが検出されたことが実証されている。前記ミクロスフェアは、標的DNAの固定化およびECLシグナルの増幅の双方に有益であることが示された。
スレッディングインターカレーターは、修飾された又は無修飾の二本鎖の核酸ポリマー(例えば、ds-DNA, ds-ペプチド核酸, およびペプチド核酸-核酸ハイブリッド)と可逆的に相互作用する化合物の重要なグループである。幾つかの既知のスレッディングインターカレーターは、卵巣および乳房の癌の治療に現在使用される価値ある抗腫瘍薬である。スレッディングインターカレーターは、塩基対の間に挿入されることによってds-DNAに結合する平面の多環芳香族系の存在などの、共通の構造上の特徴を有する。電気活性なDNAインターカレーターをハイブリダイゼーションの指標として使用することによって、一般に従来のDNA検出技術において行われる標的DNAの標識化をさけることも示されている(これによって単調な標識化処置および高価な設備の使用が避けられる)。しかしながら、これらのバイオセンサーは、低いシグナル/ノイズ比の問題を解決しなければならない。というのも、大抵のスレッディングインターカレーターは、ds-DNAのみならず、より低い限度ではあるが1本鎖のDNA(ss-DNA)分子に静電気的な相互作用で結合するからである。ss-およびds-DNAの間のより良い識別性を提供するインターカレーターが、大きなシグナル/ノイズ比を達成するために開発されている。
【発明の概要】
【0002】
一側面において、本発明は、以下の一般式Iのスレッディングインターカレーターを提供する:
IG1-DG-IG2-(DG-IG3)n (I)
式中のIG1, IG2 およびIG3は、同じ又は異なるものであり、平面の多環芳香族基を含んでいるインターカレーティング基(intercalating group)を表し;DGは、触媒作用で, 電気化学的に, 化学発光で, 触媒作用又はエレクトロケミルミネッセントで検出可能な基を表し;nおよびmは、各々が独立に0または1を表す。
別の側面において、本発明は、オリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルを本明細書中に使用されるスレッディングインターカレーターを用いて電気化学的に検出する方法を提供する。
【0003】
さらに別の側面において、本発明は、オリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルを電気化学的に検出するためのキットを提供し、該キットは本明細書中に使用されるスレッディングインターカレーターを含む。
【0004】
一態様において、スレッディングインターカレーターは、式VIIの化合物である:
【化1】

この化合物は、エレクトロケミルミネッセントRu(bpy)22+部分に配位結合している2つの1,4,5,8-ナフタレンジイミド(ND)イミダゾール誘導体を含む。式VIIのスレッディングインターカレーターは、本明細書中でND-Ru-NDと称される。
別の態様において、スレッディングインターカレーターは、式VIIIの化合物である:
【化2】

この化合物は、2つのエレクトロケミルミネッセントRu(bpy)22+部分に配位結合している3つの1,4,5,8-ナフタレンジイミド(ND)イミダゾール誘導体を含む。式VIIIのスレッディングインターカレーターは、本明細書中でND-Ru-ND-Ru-NDと称される。
【0005】
幾つかの態様において、複数の式Iのスレッディングインターカレーター中のインターカレーティング基によって、スレッディングインターカレーターおよび二本鎖の核酸分子の間に強い相互作用が提供され、これによって次にスレッディングインターカレーターに対して二本鎖および一本鎖の核酸分子の間のより良い選択性が提供される。
【0006】
本発明の上記側面は、例示の様式で本発明の多様な態様を説明している添付の図面を考慮して、以下の記述を理解することから明らかである。
【0007】
本発明の態様は、本願に添付の図面を参照して議論される。
【0008】
[発明の詳細な記述]
検出可能な基
スレッディングインターカレーター中の検出可能な基は、例えば、電気化学的に, 触媒作用で, 化学発光で, 又はエレクトロケミルミネッセントで検出可能な基を具備する。
電気化学的に検出可能な基は、前記基が、酸化還元的に活性(redox active)であり、その存在が電気化学的(例えば、ボルタメトリーで)に検出できる基を意味する。
【0009】
触媒作用で検出可能な基は、前記基が、DNA中の塩基(例えば、グアニン)を電気触媒的(electro-catalytically)に酸化し、その存在がボルタンメトリー(voltammetrically)で検出できる基を意味する。
化学発光で検出可能な基は、化学的に励起された場合(例えば、H2O2の付加によって)に、検出可能なルミネセンスを放射する基を意味する。係る基は、光応答性(photoresponsive)と称されてもよい。
エレクトロケミルミネッセントで検出可能な基は、ボルタメトリーまたは制御電位電解(controlled potential electrolysis)などで化学的または電気化学的に活性化された場合に、前記検出可能な基がルミネセンスを放射し、ボルタメーターピーク電流(voltametric peak current)に差を生じるように、該基が酸化還元的に活性で光応答性である基を意味する。
検出可能な基は、例えば、以下の式IIの基であってもよい:
-M[(L)n]- (II)
式中でMは、Ru, Fe, Co, Cu およびOsからなる群から選択される金属を表す。金属の酸化状態は、例えば、+2, +3または+4であってもよい。適切な検出可能な基の例には、Ru(bpy)22 および Os(bpy)22+が含まれる。
【0010】
式II中のLは、リガンドを表し、例えば、N, O, S およびPからなる群から選択される1〜6のヘテロ原子を含んでいるC5-C30複素環式基であってもよく、この複素環式基は任意でC1-C6 アルキル, C1-C6 アルケン, およびハロゲンからなる群から選択される1〜6の基などで置換される。適切なリガンドの具体例には、ビピリジン, ビイミダゾール, 1,10-フェナントロリンまたはジピリドフェナジン(dipyridophenazine)が含まれる。
【0011】
検出可能な基中のリガンド部分の数(式II中の変数nで表される)は、それぞれのリガンドおよび金属の性質に依存的である。より具体的には、リガンドの数は、リガンドの立体バルク(steric bulk)に、および金属の原子半径に依存的である。
インターカレーティング基
式Iのスレッディングインターカレーターのインターカレーティング基を表すIG1, IG2 およびIG3は、平面の多環芳香族基(即ち、2以上の環構造)を具備する。適切なインターカレーティング基の例には、とりわけピリドカルバゾール(pyridocarbazole), ジピリドフェナジン, ナフタレンイミド誘導体およびナフタレンジイミド誘導体が含まれる。
適切なナフタレンイミド誘導体には、以下の式IIIのものが含まれる:
【化3】

式中のR1基は、それが検出可能な基と配位結合(coordinative bond)を形成する能力があるように選択される。
【0012】
適切なナフタレンジイミド誘導体には、以下の式Vのものが含まれる:
【化4】

式中のR1基は、それが検出可能な基と配位結合を形成する能力があるように選択される。また、R2基は、スレッディングインターカレーターのインターカレーション特性を修飾するために使用される。
一態様において、R1は、式IVの化合物である:
-R6-AG (IV)
式中のR6は、分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 アルキレンである;或いはN, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 ヘテロアルキレンである;並びに、AGは、N, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している5〜10員の飽和または不飽和の複素環式基である。適切なAG基の例には、ピリジニル, ビピリジニル, イミダゾリルまたはビイミダゾリルが含まれる。
一態様において、R2は、-H, -NR3R4, -CONR3R4, -COOR5,任意で分枝状のC1-C10アルキルまたは任意で分枝状のC2-C10アルケンを表してもよい。ここで、C1-C10アルキルおよびC2-C10アルケンは、任意で1以上の(i)N, O, S, およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している5〜10員の複素環式基;(ii)C5-C14の飽和または不飽和の環状の基;(iii)C6-C14 アリール基;(iv)NR3R4;(v)CONR3R4;並びに(vi)COOR5からなる群から選択される置換基で置換される。R3, R4およびR5基は、独立にH, C1-C6 アルキルおよびC2-C6アルケンからなる群から選択される。加えて、R2基が窒素原子を含有する場合に、R2基はハロゲンなどと塩を形成してもよい。R2基の具体例には、-(CH2)3-イミダゾール, -NH2, -CO2H, -CH3, -(CH2)2N(CH3)2, -(CH2)4CH(NH2)(CONH2), -CH(CONH-アダマンチル)(CH2)4NH2, -CH(CH3)(CH2)3N(C2H5)2, -(CH2)N(CH3)2, -(CH2)N+(CH3)3I-, -(CH2)3N(CH3)2, -(CH2)4(CH)(CONH2)(NH2), -CH(CONH2)(CH2)4NH2, -CH(CONH-アダマンチル)(CH2)4NH2, -CH(CH3)(CH2)3N(C2H5)2, および-CH(CH3)(CH2)3N+(C2H5)2(CH3)I-が含まれる。
分析への適用
特異的なDNA断片の存在をスレッディングインターカレーターで検出するための方法は、EP1065278に記載されている(この文献の関連性のある部分は、本明細書中に参照によって援用される)。
【0013】
スレッディングインターカレーターを使用して、オリゴまたはポリ核酸サンプル中の特異的な一本鎖の核酸分子の存在を検出することができる。一態様において、一本鎖のオリゴ-またはポリ-ヌクレオチド分子のサンプルは、電極基板に固定化されたヌクレオチド酸分子プローブと接触される。一度、プローブ分子およびオリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプル中の対応するヌクレオチド分子がハイブリダイズしたら、本明細書中に記載されたスレッディングインターカレーターが導入され、前記スレッディングインターカレーターが優先的に電極基板に固定された二本鎖のハイブリッドにインターカレートされる。スレッディングインターカレーター中に見出される検出可能な基に適切な方法を用いて、電極基板における二本鎖のヌクレオチド分子の存在を検出できる。
また、前記方法は、スレッディングインターカレーターがハイブリダイゼーションの前に導入される場合に1工程で実施できる。スレッディングインターカレーターは二本鎖の核酸分子を優先的にインターカレートするので、インターカレーションはオリゴまたはポリ-ヌクレオチドのサンプル中に見出される対応する一本鎖の核酸分子でハイブリダイズされたプローブ分子に一度のみ発生する。
酸化還元的に活性で検出可能な基に関して、電極におけるヌクレオチドの存在は、インターカレーター中の酸化還元的に活性な基の存在によって生じるだろうボルタメーターピーク電流における差を観察することによって検出できる。光応答性基に関して、電極におけるヌクレオチドの存在は、電極基板に光源を適用することによって生じるルミネセンスを観察することによって検出できる。エレクトロケミルミネッセントで検出可能な基に関して、電極のヌクレオチドの存在は、電極を電流の通電又は光源の適用の何れかで活性化し、ボルタメーターピーク電流における差を観察すること又はルミネセンスを観察することによって決定できる。好ましくは、エレクトロケミルミネッセントで検出可能な基は、電流を電極に適用すること及び任意のルミネッセンス発光に対して電極を観察することによって活性化される。
適切な電極原料の例には、例えば、金、白金、ステンレススチール、インジウム-スズ酸化物フィルム被覆ガラス(indium-tin oxide film coated glass)、および炭素ベースの原料が含まれる。光応答性のスレッディングインターカレーターに関して、導電性材料が、好ましくは電極として使用される。
プローブ分子と一本鎖の核酸分子とのハイブリダイゼーションの実施に適切な溶媒の例には、例えば、トリ-n-プロピルアミン(TPA)が含まれる。
【0014】
以下の例によって、本発明が説明される。しかしながら、、各々の例に示される特定の詳細な記載は、説明の目的で選ばれ、本発明の範囲を限定するものと解釈されない。一般に、実験は、特に指定のない限り類似する条件下で実施された
【例】
【0015】
薬品
1(3-アミノプロピル)-イミダゾール(AI, 98%,)および1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTD, >95%)を、シグマ-アルドリッチ(St Louis, MO, USA)から購入した。Ru(bpy)2Cl2 (99%)を、Avocado Research Chemicals Ltd (Leysham, Lancester, UK)から入手した。全ての他の試薬を、シグマ-アルドリッチから入手し、更に精製をすることなく使用した。使用したオリゴヌクレオチド捕獲プローブ(CPs)は、Alpha-DNA(Montreal, Canada)でカスタムメードされた。全ての他のオリゴヌクレオチドは、1st Base Pte Ltd (Singapore)でカスタムメードされた。10 mM Tris-HCl-1.0 mM EDTA-0.10 M NaCl緩衝液(TE)を、ハイブリダイゼーション緩衝液として使用した。0.15 M NaClおよび20 mMリン酸緩衝液からなるリン酸緩衝生理食塩水(PBS, pH 7.4)を、支持電解質(supporting electrolyte)として使用した。
機器
電気化学的な実験を、CH Instruments モデル660A電気化学ワークステーションと低電流モジュール(CH Instruments, Austin, TX)とで実施した。従来の3.0mm直径の金作用電極からなる3電極システム, ノンリーク微小Ag/AgCl参照電極(Cypress Systems, Lawrence, KS), および白金針金カウンター電極を、全ての電気化学的な測定に使用した。3.0mm直径の作用領域をこえるサンプル液滴の伝播を回避するために、模様のついた疎水性フィルムをCPの固定化後に金電極に適用した。この試験において報告された全ての電位は、Ag/AgCl電極で参照した。UV可視スペクトルを、Agilent 8453 UV-visible分光光度計で記録した。質量分析実験を、Finnigan/MAT LCQ質量分析計(ThermoFinnigan, San Jose, CA)で実施した。全てのスペクトルは、他に断らない限り室温で記録した。
エレクトロケミルミネッセンス(electrochemiluminescence)の測定を、Fluorolog(登録商標)-3分光蛍光光度計(Jobin Yvon Inc, Edison, NJ)と660A電気化学ワークステーションとで実施した。3電極システムは、金作用電極(gold working electrode), ノンリーク微小Ag/AgCl参照電極(Cypress Systems, Lawrence, KS), および白金ホイルカウンター電極(platinum foil counter electrode)から構成されていた。3電極システムを、標準の蛍光キュベット中に置き、次のように配置する;つまり、作用電極を検出ウィンドウ(detection window)に向かせ、他の2つの電極を作用電極温度計(working electrode temperature)の後ろに導入した。この試験において報告された全ての電位は、Ag/AgCl電極で参照した。全ての実験は、他に断らない限り室温で実施した。
例1: ND-Ru-NDの合成
ND-Ru-NDの形成
ND-Ru-NDを調製するための一般的な合成工程の概略を、図1に示す。
NDは、最初にジイミドの合成のための一般的な手順にしたがって調製された(Rademacher et al., Chem. Ber. 1982, 115, 2972-2976; および Katz et al., J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7787-7792)。簡単に説明すると、3.0 mlの1(3-アミノプロピル)-イミダゾール(AI)および3.0 mlのテトラヒドロフランを磁石で撹拌した混合物に、0.30 gのナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTD)をゆっくり添加した。添加の速度を、曇り(clogging)がわずかであるように制御した。反応混合物を24 h還流(reflux)し、室温に冷却した。次に、それを10 mlのアセトン/水(3/1)混合物に分散し、500 mlの急速に撹拌した無水エーテルに注ぎ、前記化合物を沈殿させた。沈殿物を、吸引で収集し、微細なフリット漏斗(fine fritted funnel)をとおして濾過し、短時間エタノールで洗浄した。精製を、クロロホルム/エタノール(1/1の容量)から結晶化し、そして減圧下、40゜Cで一晩乾燥させて行い、0.46 gの黄色結晶(収率85%)をえた。1H NMR(300 MHz CDCl3) δ8.76 (4H), 7.54 (2H), 7.26 (2H), 4.27 (4H), 4.12 (4H), 2.31 (4H) および1.83 9(2H)。逆相HPLC-MSの試験によって、所望の化合物が首尾よく合成されたこと及び化合物の純度は1.68 minでm/z 483.3の単一の溶出ピークが出現することによって指摘されるとおり>99%であることが示された(図2)。
Nd-Ru-NDを、1工程の二重のリガンド交換反応(single-step double ligand-exchange reaction)で合成した。8.0 mlの新鮮な蒸留エチレングリコール中のRu(bpy)2Cl2 (0.10 g, 0.20 mmol)の溶液に、少量のND(0.24 g, 0.50 mmol)が10 minにわたり添加され、生じる混合物を30〜40 min還流した。リガンド交換反応の完了を、サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)でモニターした。次に、オレンジの反応混合物を、500 mlの急速に撹拌した無水エーテルにゆっくりと注いだ。沈殿物を、吸引で収集し、微細なフリット漏斗をとおして濾過した。粗製品を、8.0-10 mlの水に溶解し、2回クロロホルムで抽出した。沈殿物を、さらにエタノールからの結晶化で精製し、収率75%の純粋な産物を得た。産物は、PBS中で0.68 VのE1/2を有している金電極で可逆的な酸化還元波(redox waves)の単一対を示した。完全な二重のリガンド交換を保証するために、若干の過剰のND(20〜25%)が必要とされた。
ND-Ru-NDの形成は、サイクリックボルタンメトリーでモニターできる。エチレングリコール中での還流の間に、サイクリックボルタンメトリーを5 minごとに行った。図3は、典型的な最初の40 minで得られたボルタンモグラム(voltammograms)を示す。NDをRu(bpy)2Cl2に添加する前に、0.40 Vを中心とする1対の可逆的なボルタメトリのピークが得られ、これはRu(bpy)2Cl2の周知の酸化還元プロセスに対応していた。NDを添加する際に、新しい対のボルタメトリのピークが0.68 Vに出現し、これはND-Ru-NDの形成を指摘している(図3のトレース1および2)。両方の電子伝達プロセスは、明瞭に解明され、全て可逆的なプロセスの特性を有していた。但し、ピーク-対-ピークの電位分離(peak-to-peak potential separations)は若干大きく、これは反応培地の高度のiR液滴が主な原因である。0.68 Vでのボルタメトリのピークの強度は、反応時間とともに徐々に増加した。同時に、0.40 Vでの強度は、徐々に減退した。0.40 Vでの小さなボルタメトリのピークは還流の40 min後に取得され、それらは長い還流後も不変のままであった;このことは反応が平衡に達していたことを示している。このように精製されたND-Ru-NDのボルタメトリの試験は、ただ1対のボルタメトリのピークを示した;このことは精製プロセスが非常に効果的であったことを意味している(図3のトレース3)。
出発原料のUV-vis吸光度スペクトル、Ru(bpy)2(Im)2 (Im=イミダゾール)モデル化合物、およびND-Ru-NDを、図4に示す。ND-Ru-NDのUV-visスペクトル(図3のトレース1)は、Ru(bpy)3-ナフタレンジイミド化合物のものと類似している。それは
【数1】

【0016】
によるUV領域の強いバンドを呈し、スピンによる可視領域(400-600 nm)における広域バンドによってRu(dπ)→bpy(π*)金属-リガンド電荷伝達(MLCT;metal-to-ligand charge-transfer)遷移が許容される;380および361 nmでのピークは、主にNDにおけるπ→π*遷移であり、基礎に存在しているMLCT吸光度からの何らかの寄与を伴っている。ND-Ru-NDの吸収極大は、Ru(bpy)2Cl2に関して415から495 nmに赤方偏移した(図3のトレース3)。また、同じ変化は、Ru(bpy)2Cl2と比較したモデル化合物Ru(bpy)2(Im)2のスペクトルにおいて観察された(図4のトレース2)。この事象は、ルテニウム複合体内の2つのタイプのMLCT遷移を生じるリガンド交換の直接的な結果であるかもしれない:即ち Ru*→bpy, およびRu*→AI。NDのイミダゾール基が結合されて、このリガンドに対する前記複合体の塩素イオンと比較してより低いπ*レベルが生じる。さらに、ND-Ru-NDのスペクトルは、ND部分およびRu(bpy)2(Im)2複合体の双方からの吸光スペクトルの複合(composite)である(トレース1, 2および4)。Ru(bpy)2(Im)2 およびNDの単純なオーバレイによって、ND-Ru-NDのものとほとんど同一のスペクトルが発生し、ND-Ru-NDの形成が確認された。
UV-vis 分光光度的な及び電気化学的な証拠は、NDおよびRu(bpy)2Cl2の間のカップリングによって配位結合(coordinative linkage)が生じること及び2つのND分子がRu(bpy)2にグラフト(grafted)されることを示す。ND-Ru-NDの形成のより直接的な証拠は、エレクトロンスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)を用いるND-Ru-NDにおける一連の質量分析によって提供された。主なピークは、m/z 689, 483.3, 460, および 242.3に認められ、それぞれ(ND-Ru-ND)2+/2, (ND+H+), (ND-Ru-ND+H+)3+/3, および (ND+2H+)/2に対応しており(表1)、これらは所望の化合物の分子量とうまく一致している。モノグラフト(mono-grafted)されたRu(bpy)2はESI-MSスペクトルにおいて観察されないので、Ru(bpy)2の不完全なグラフトを除外することができる。
【表1】

ND-Ru-NDの電気化学的な特性
図3のトレース3に記載されたとおり、ND-Ru-NDは、溶液中で高度に可逆的な酸化還元対に関して正確に期待したとおり振舞った。僅かな変化が0.0Vおよび+1.0Vの間の多数の反復性の電位サイクリングの後に観察され、溶液中のND-Ru-NDの安定性が良好であることを明らかにしている。遅い走査周波数(<1.0 V mV/s)で、典型的な拡散制御ボルタモグラム(diffusion-controlled voltammogram)が、理想的なNernstian挙動を呈している1電子交換系に対して期待されたとおり記録された。つまり、ピーク電流は電位走査周波数の平方根に比例し、ピーク-対-ピークの電位分離は59 mVの理論値に非常に近似し、電位走査周波数(potential scan rate)に非依存である。このような結果によって、ルテニウムの酸化還元中心の全てが、電極表面に達し、可逆的で不均一な電子伝達へと進行することが確認される。
DNAのインターカレーション
ND-Ru-NDがds-DNAに非常に強くインターカレートすることが認められた。ND-Ru-NDとds-DNAとの相互作用のモードを決定するために、サケ精子DNAの量を増加させた条件下でND-Ru-NDのUV-vis 分光光度が調査された。UV-vis 分光光度法において、スレッディングインターカレーターの融合した平面の芳香環系がds-DNAの塩基対間に挿入されるインターカレート性の結合のサイン(signatures)は、淡色効果(hypochromism)および赤方偏移(red shifts)である。図5Aに示されるとおり、DNA塩基対/ND-Ru-ND比6.0でのDNAのND-Ru-NDへの付加によって、364 および 385 nmでのND吸光度バンドの40%減少および3nmの赤方偏移が生じる。類似する現象は、脂肪族三級アミン側分子(aliphatic tertiary amine side molecules)を有しているNDで以前に観察された。ND吸光度バンドの淡色効果は塩基対/ND-Ru-ND比が>7.0でプラトーに達し、そして定常的(constant)な淡色効果は7.0を超える比で観察され、ND-Ru-NDとds-DNAとの結合が優先的(preferential)なNDのインターカレーションで生じることを指摘している。インターカレーティング特性を良好に推定するために、Boger(Boger et al., J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 5878-7891)によって提案されたものと類似する競合実験を短いヘアピンオリゴヌクレオチドを用いて設計した。この方法論の基礎に、1つは蛍光で1つは非蛍光の2つのインターカレーターの使用が関与している。蛍光インターカレーターが最初にds-DNAを飽和し、次に第二のインターカレーター(このケースではND-Ru-ND)が濃度を徐々に増加させて系に導入される。2つのインターカレーターがds-DNA中の類似する部位に結合するだろうとの仮説が立てられた。競合実験に関して、蛍光強度の変化が、系におけるND-Ru-ND分子の濃度を増加させることによるds-DNA結合蛍光分子の置換の間にモニターされた。周知のスレッディングインターカレーター〔臭化エチジウム(EB)〕を、蛍光指示薬として選択した。EBはds-DNAとの結合に際して25倍の蛍光増強を呈し、これによって蛍光測定において自由なEB分子に対する十分な感受性と良好な識別性(discrimination)とが提供される。加えて、EBインターカレーションのカイネティクス(kinetics)は速く、平衡に達するために必要とされる時間を有意に短くする。前記アプローチがこの研究に適切であることを保証するために、よく研究された非蛍光性インターカレーター(ND)の濃度を増加(0〜100 μM)させて、最初にEBで飽和したds-DNA溶液に添加した。EBがインターカレートしたds-DNAの蛍光強度がNDの濃度を増加させるとともに徐々に減退したことが、ゲル電気泳動実験によって示された。実験データから推測された結合定数(Kd 8.1x105)は、公知の文献(Murr et al., Bioorg. Med. Chem. 2001, 9, 1141-1446)とよく一致していた。引き続いて、ND-Ru-NDを、ds-DNAへの結合に関してEBと競合する能力に関して同じアプローチを用いて研究した。図5Bに示されるとおり、ND-Ru-NDはds-DNAへの著しい結合親和性を呈した。実験データから推測された結合定数Kdは3.0x108であり、NDに対し約370倍の増強に相当する。理論に束縛されるものではないが、安定度定数の増強は、部分的に2つのND基の同時のインターカレーションに依存し、DNA/ND-Ru-ND付加物の安定性を増加させることが信じられている。加えて、ND基がds-DNAとインターカレートした後、ND-Ru-NDにおけるジカチオンのRu(bpy)2基はds-DNAのリン酸とイオン対を形成し、ds-DNAの塩基対間により密接に固定された2つのインターカレートしたND基を形成しえる。
TPA溶液中のND-Ru-NDのECL挙動
白金電極に0.20 MのTPA共反応物(TPA co-reactant)を含んでいるpH 9.0リン酸緩衝液中の5.0 μMのND-Ru-NDのサイクリックボルタンメトリーおよびECLの応答を、図6に示す。図6Aに示されるとおり、ND-Ru-ND酸化およびECLの開始電位は、~0.60 Vである。TPAの酸化に関するピーク電位は1.0 Vで発生し(図6Aのトレース3)、他方でND-Ru-NDの電位は0.68 Vで発生し(図6Aのトレース2)、電極表面でのND-Ru-NDの酸化がTPAの酸化が励起状態〔Ru(bpy)22+* およびECL〕の発生に必要とされる前に生じることを意味している。加えて、幾つかの触媒作用が、ND-Ru-NDの存在下でのTPAの酸化において観察された。この系に関する最大ECL強度は、0.94 Vで観察された(図6Aのトレース1)。期待したとおり、実験誤差範囲内で、異なる陽電位バイアスでND-Ru-NDに関して得られたECLスペクトルは、リン酸緩衝液中でのND-Ru-NDの光ルミネッセンススペクトルと同じ特性を有していた。というのも、発光は、イルミネーションまたは電気化学的な励起で発生した同じMLCT励起状態のRu(bpy)22+*の減衰の結果だからである。図6Bは、ND-Ru-NDのECLスペクトルを、その光ルミネッセンススペクトルと比較したものを示す。
例2: 金電極へのCPの固定化
金電極の調製および前処理を、以前に記載された文献に記載のとおり実施した。簡単に説明すると、捕獲プローブの吸着の前に、金電極を、酸素プラズマ(oxygen plasma)に5〜10 min暴露し、そして即座に酸化物層を還元するために無水エタノールに20 min浸漬した。CPの単層を、金電極を100 μg/ml CPのPBS溶液に16〜24 時間浸漬することによって吸着させた。吸着後、電極を、何回もPBSでリンスし、PBSに20 min浸漬し、再びリンスし、そして空気の流れで乾燥させた。CPの表面密度〔Steel(Steel et al., Anal. Chem. 1998, 70, 4670-4677)により提案された手順にしたがって陽イオン性の酸化還元プローブを使用することによって電気化学的に評価された〕は、1.13-1.30x10-11 モル/cm2の範囲であることが見出された。非DNA関連のPIND-Osの取り込みを最小化するため及びCP単層の質および安定性を改善するため、CP被覆した金電極を、2.0 mg/mlのメルカプトドデカン(MD)のエタノール溶液(ethanolic solution)中に4-6 h浸漬した。未反応のMD分子を、リンスして除去した。そして、電極を、撹拌したエタノールに10 min浸漬し、エタノールおよび水で徹底的にリンスすることによって洗浄した。電極は、空気乾燥後に使える状態となった。
例3: ハイブリダイゼーションおよび検出
標的DNAのハイブリダイゼーション及びその電気化学的な検出を、図8に示されるとおり、3工程で行った。最初に、CP被覆した電極を、60゜Cで維持した水飽和環境チャンバー(moisture saturated environmental chamber)に配置した。標的DNAを含んでいるハイブリダイゼーション溶液の2.5 μlのアリコートを、電極に均一に広げた(低い厳密性、塩で調整した融解温度の27゜Cした)。それを次に、100 μg/mlのND-Ru-NDをハイブリダイゼーション溶液中に含む溶液の5.0 μlのアリコートで、30-minハイブリダイゼーションし、25゜Cで10 minインキュベーションした後に、ブランクハイブリダイゼーション溶液で60゜Cで徹底的にリンスした。ND-Ru-NDを、スレッディングインターカレーションでハイブリダイズされた標的DNAに付着させた。それを次に、空気冷却し、10 min室温に維持し、10%エタノールを含有しているNaCl飽和リン酸緩衝剤(pH7.4)で徹底的にリンスした。ECLを、0.20 MのTPAを含有しているpH9.0のリン酸緩衝剤中で1.0 Vで測定した。
酸化還元的に活性な部分を電気化学的な指示薬として有しているDNAバイオセンサーは、以前に報告されている(Takenaka, S.; Yamashita, K.; Takagi, M.; Uto. Y.; Kondo, H. Anal. Chem. 2000, 72, 1334-1341)。ハイブリダイゼーションが発生した場合、スレッディングインターカレーターは、選択的にds-DNAに相互作用し、非ハイブリダイズ型のss-DNAと比較して非常に増加した分析用シグナルを生じた。ボルタメトリのピーク電流における差を、定量の目的で使用した。
酸化還元的に活性なインターカレーターと同様に、ND-Ru-NDは、最初に超高感度のDNAセンシングが可能な適用に関する新規の電気活性なタグとして評価された。最初のハイブリダイゼーション検査において、相補的および非相補的なオリゴヌクレオチドを、標的DNAとして選択した。バイオセンサーとのハイブリダイゼーションに際して、相補的な標的DNAを、その相補的なCPに選択的に結合し、バイオセンサー表面に固定した。一方で、非相補DNAとのハイブリダイゼーションは、ヌクレオチドの捕獲に失敗した。従って、バイオセンサーの僅かな変化が期待された。ハイブリダイゼーション緩衝剤での徹底的な水洗によって、大抵の非ハイブリダイゼーションのDNAが洗浄除去された。ND-Ru-NDを、引き続くND-Ru-ND溶液とのインキュベーションの間にバイオセンサー表面に配置した。相補的および非相補的な標的DNAでハイブリダイゼーションした後のバイオセンサーに関する直線走査ボルタンモグラム(Linear scan voltammograms)を、図7Aに示す。非相補DNAに関して、ハイブリダイゼーション後に、微小なボルタメトリのピークが、ND-Ru-NDの酸化還元電位で観察され(図7Aのトレース1)、この大部分はバイオセンサー表面でのND-Ru-NDおよびCPの純粋に静電気的な相互作用が原因である。図7Aのトレース2に示されるとおり、相補的な標的DNAとのハイブリダイゼーションの後に、酸化還元電位の若干の陽性偏移(positive shift)が観察され、ピーク電流が100倍程度増加した。NaClで飽和させたPBSでの頻繁な洗浄によって、多くの非DNA関連性のND-Ru-NDの取り込みが除かれることが見出された。これらの結果は、ND-Ru-NDが選択的にds-DNAと相互作用し、ND-Ru-ND-ds-DNA付加物が非常に緩徐な解離速度を有し、これによって超高感度のDNAバイオセンサーの開発の道が開かれることを明瞭に実証した。結果的に、インターカレートしたND-Ru-NDを電気活性な指標として用いて、DNAの直接的な検出が評価された。0.40 nM(0.80 フェムトモル)の検出限界および300 nMまでのダイナミックレンジが得られた。
ハイブリダイズされたバイオセンサーのND-Ru-NDとのインキュベーションの前後のECL挙動を、0.20 MのTPAを含有しているpH9.0のリン酸緩衝剤中でバイオセンサーに適用した1.0 Vの陽電位バイアスで試験した。相補的および非相補的な標的DNAでハイブリダイゼーションした後およびND-Ru-NDインキュベーションの後のバイオセンサーのECL応答を、図7Bは示している。図7B中のトレース1は非相補的な標的DNAとハイブリダイズされたバイオセンサーで得られ、トレース2は相補DNAでハイブリダイズされたバイオセンサーに対応した。大部分はDNAに対し少量の静電気的に結合したND-Ru-NDの存在が原因で、非常に僅かなECL応答が非相補的な標的DNAでハイブリダイズされたバイオセンサーで観察された。相補的な標的DNAでハイブリダイズされたバイオセンサーにおけるインターカレートされたND-Ru-NDの存在によって、系のECLシグナルが50倍以上に非常に増加したことが認められた。ND-Ru-NDインターカレーション後の非常に改善されたECL応答は、Ru(bpy)22+部分の本物(genuine)のECLプロセスによるものである。ECLシグナルは、0.80〜500 pMの範囲の標的DNA濃度と比例してDNAの直接的なボルタメトリ検出によるよりも2000倍高いことが400 fMの検出限界で見出された。ECLのデータは前に溶液中に得られたボルタメトリの結果とよく一致し、ND-Ru-NDがエレクトロケミルミネッセントであること及び高い特異性および感受性でDNAを検出するために使用できることが再び確認された。
本願明細書中で引用される全ての文献、特許、および特許出願は、あたかも個々の文献、特許、または特許出願が具体的に及び個々に参照によって援用されると示されるかのように、本願明細書中に参照によって援用される。任意の文献の引用は、出願日(filing date)前のその開示のためであり、本発明が先の発明による公開に先立って(antedate)権利を得られないとの承認と解釈されない。
前述の発明は理解を明確にする目的のために例示(illustration)および例(example)の様式で、ある程度詳細に記載されているが、本発明の教示に照らして当業者には次の事項が明らかである。その事項とは、本願の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、特定の変化(changes)および修飾(modifications)を本発明に施しえることである。
本願の明細書および特許請求の範囲に使用される単数形「a」、「an」、および「the」には、前後関係で他で明確に指示しない限り複数形を参照することが含まれることに注意すべきである。他に規定しないかぎり、本願に使用される他の全ての技術的および科学的な用語は、本発明が属する技術における当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、式VIIのスレッディングインターカレーターを調製するための反応スキームを示す。
【図2】図2は、精製ND-Ru-NDの逆相HPLC(A)およびMS(B)の結果を示す(C18カラム, 溶出剤:H2O, MS検出モード:ESI)。
【図3】図3は、NDをエチレングリコール中で(1)5および(2)20min還流させた後および(3)精製Nd-Ru-ND〔(3)PBSの支持電解質, 電位走査周波数100 mV/s〕のRu(bpy)2Cl2の標準化されたサイクリックボルタモグラムを示す。
【図4】図4は、エタノール中の(1) 25 μMのND-Ru-ND, (2) 25 μMのRu(bpy)2(Im)2, (3) 25 μMのRu(bpy)Cl2および(4) 50 μMのNDのUV-vis吸光スペクトルを示す。
【図5】図5は、(A)(1) 0, (2) 40 および (3) 100 μMのサケ精子DNA(塩基対)の濃度の増加と比較した20 μMのND-Ru-NDのUV-visスペクトル;および(B)ND-Ru-NDとのヘアピンオリゴヌクレオチド/EB(5.0 μM/8.0 μM)混合物の滴定のためのスキャッチャードプロットを示す。
【図6】図6は、(A)5.0 μMのND-Ru-NDおよび0.20 MのTPA(電位走査周波数20 mV/s0)を含有しているpH9.0のリン酸緩衝剤中で得られたサイクリックボルタモグラムに沿ったECL強度 対 電位プロフィール;および(B)(1)pH9.0のリン酸緩衝剤中でのND-Ru-NDの光ルミネッセンススペクトル(430 nmのイルミネーション)および(2)10 μMのND-Ru-ND +0.20 MのTPAを含有しているpH9.0のリン酸緩衝剤中で得られたND-Ru-NDのECLスペクトル(明瞭にするために、ND-Ru-NDのボルタモグラムは、50倍スケールアップした)を示す。
【図7】図7は、(A)(1) 1.0 μMの非相補的な標的DNAに対する、および(2) 200 nMの相補的な標的DNAでハイブリダイズされたバイオセンサーに対するND-Ru-ND結合の直線走査ボルタンモグラム(支持電解質PBS、電位走査周波数100 mV/s);および(B)ND-Ru-NDインキュベーション後の100 pMの相補的な標的DNA(ポアズ電位1.0 V, pH9.0のリン酸緩衝剤+0.20 MのTPA)を示す。
【図8】図8は、二座配位(bidentate)のスレッディングインターカレーターを用いたDNAのハイブリダイゼーションのスキーム及びその電気化学的な検出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iのスレッディングインターカレーターであって:
IG1-DG-IG2-(DG-IG3)n (I)
式中で
IG1, IG2およびIG3は、同じ又は異なるものであり、平面の多環芳香族基を含んでいるインターカレーティング基を表し;
DGは、触媒作用で、電気化学的に、化学発光で、触媒作用又はエレクトロケミルミネッセントで検出可能な基を表し;
nは、0または1を表すスレッディングインターカレーター。
【請求項2】
nが0である、請求項1に記載のスレッディングインターカレーター。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記検出可能な基がエレクトロケミルミネッセントであるスレッディングインターカレーター。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記検出可能な基が式IIの基であるスレッディングインターカレーター:
-M[(L)n]- (II)
式中で
Mは、Ru, Fe, Co, Cu およびOsからなる群から選択される金属を表し;
Lは、配位結合リガンドを表し;
nは、1〜6の整数である。
【請求項5】
請求項4に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記金属が+2, +3または+4の酸化状態を有するスレッディングインターカレーター。
【請求項6】
請求項4または5に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記リガンドが、N, O, S およびPからなる群から選択される1〜6のヘテロ原子を含んでいるC5-C30複素環式基であり、この複素環式基は任意でC1-C6アルキル, C2-C6アルケン, およびハロゲンからなる群から選択される1〜6の基で置換されるスレッディングインターカレーター。
【請求項7】
請求項4または5に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記リガンドがビピリジン, ビイミダゾール, 1,10-フェナントロリンまたはジピリドフェナジンであるスレッディングインターカレーター。
【請求項8】
請求項4または5に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記リガンドがビピリジンであるスレッディングインターカレーター。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記検出可能な基がRu(ビピリジン)22+であるスレッディングインターカレーター。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記インターカレーティング基がナフタレンイミド誘導体またはナフタレンジイミド誘導体であるスレッディングインターカレーター。
【請求項11】
請求項10に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記ナフタレンイミド誘導体が式IIIの基であるスレッディングインターカレーター:
【化1】

式中のR1は、検出可能な基に配位結合する能力のある基である。
【請求項12】
請求項11に記載のスレッディングインターカレーターであって、R1が式IVの基であるスレッディングインターカレーター:
-R6-AG (IV)
式中で
R6は、分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 アルキレンであるか;或いはN, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 ヘテロアルキレンであり;
AGは、N, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している飽和または不飽和の5〜10員の複素環式基である。
【請求項13】
請求項12に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記AGがピリジニル, ビピリジニル, イミダゾリルまたはビイミダゾリルであるスレッディングインターカレーター。
【請求項14】
請求項10に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記ナフタレンイミドジイミド誘導体が式Vの基であるスレッディングインターカレーター:
【化2】

式中で
R1は、検出可能な基に配位結合を形成する能力のある基であり;
R2は、H, NR3R4, CONR3R4, COOR5,任意で分枝状のC1-C10アルキルまたは任意で分枝状のC1-C10アルケンであり、ここでC1-C10アルキルおよびC2-C10アルケンは、任意で1以上の(i)N, O, S, およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している5〜10員の複素環式基;(ii)C5-C14の飽和または不飽和の環状の基;(iii)C6-C14アリール基;(iv)NR3R4;(v)CONR3R4;並びに(vi)COOR5からなる群から選択される置換基で置換され;
R3, R4 およびR5は独立にH, C1-C6アルキルおよびC1-C6アルケンからなる群から選択され、前記R2基がN原子を含有する場合にR2は任意で塩を形成する。
【請求項15】
請求項14に記載のスレッディングインターカレーターであって、R1が式IVの基であるスレッディングインターカレーター:
-R6-AG (IV)
式中で
R6は、分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 アルキレンであるか;或いはN, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している分枝状または非分枝状, 飽和または不飽和のC1-C10 ヘテロアルキレンであり;
AGは、N, O, S およびPからなる群から選択される1〜3のヘテロ原子を有している飽和または不飽和の5〜10員の複素環式基である。
【請求項16】
請求項15に記載のスレッディングインターカレーターであって、前記AGがピリジニル, ビピリジニル, イミダゾリルまたはビイミダゾリルであるスレッディングインターカレーター。
【請求項17】
請求項14〜16の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターであって、R2が-(CH2)3-イミダゾール, -NH2, -CO2H, -CH3, -(CH2)2N(CH3)2, -(CH2)4CH(NH2)(CONH2), -CH(CONH-アダマンチル)(CH2)4NH2, -CH(CH3)(CH2)3N(C2H5)2, -(CH2)N(CH3)2, -(CH2)N+(CH3)3I-, -(CH2)3N(CH3)2, -(CH2)4(CH)(CONH2)(NH2), -CH(CONH2)(CH2)4NH2, -CH(CONH-アダマンチル)(CH2)4NH2, -CH(CH3)(CH2)3N(C2H5)2, -CH(CH3)(CH2)3N+(C2H5)2(CH3)I-であるスレッディングインターカレーター。
【請求項18】
R1およびR2は両方が-(CH2)3-イミダゾールである、請求項14に記載のスレッディングインターカレーター。
【請求項19】
式VIIを有する、請求項1に記載のスレッディングインターカレーター:
【化3】

【請求項20】
式VIIIを有する、請求項1に記載のスレッディングインターカレーター:
【化4】

【請求項21】
二本鎖の核酸分子および請求項1〜20の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターを含んでいる複合体であって、前記スレッディングインターカレーターが該二本鎖の核酸分子においてインターカレートされた複合体。
【請求項22】
電極基板に固定化された核酸プローブに相補的な一本鎖の核酸分子を検出するための方法であって、以下の工程を備える方法:
(a)前記プローブ分子を、請求項1〜20の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターの存在下でオリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルと接触させて、ハイブリダイゼーションによって、オリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルにおいて前記プローブ分子と相補的な一本鎖の核酸分子との二本鎖のハイブリッドであって、前記スレッディングインターカレーターでインターカレートされたハイブリッドを含んでいる複合体を形成させることと;
(b)工程(a)で形成させた複合体を、該複合体を光源で照射すること及び前記電極に電流を適用することによって励起させることと;
(c)前記スレッディングインターカレーターに含まれた検出可能な基によって生じる光ルミネッセンスまたはボルタメーターピーク電流の変化を検出すること。
【請求項23】
電極基板に固定化された核酸プローブに相補的な一本鎖の核酸分子を検出するための方法であって、以下の工程を備える方法:
(a)前記プローブ分子を、オリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルと接触させて、ハイブリダイゼーションによって、前記オリゴ-またはポリ-ヌクレオチドのサンプルにおいて前記プローブ分子と相補的な一本鎖の核酸分子との二本鎖のハイブリッドを含んでいる複合体を形成させることと;
(b)請求項1〜20の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターを、工程(a)で形成された複合体と、前記スレッディングインターカレーターが工程(a)で形成された複合体においてインターカレートするように接触させることと;
(c)工程(b)で形成させた複合体を、該複合体を光源で照射すること及び前記電極に電流を適用することによって励起させることと;
(d)前記スレッディングインターカレーターに含まれた検出可能な基によって生じる光ルミネッセンスまたはボルタメーターピーク電流の変化を検出すること。
【請求項24】
核酸プローブに相補的な一本鎖の核酸分子を検出するためのキットであって、前記核酸プローブおよび請求項1〜20の何れか1項に記載のスレッディングインターカレーターが固定化された電極基板を具備するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−546685(P2008−546685A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516799(P2008−516799)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【国際出願番号】PCT/SG2006/000152
【国際公開番号】WO2006/135343
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(504056510)エイジェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (12)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】