説明

検出方法、検出用試料セルおよび検出用キット

【課題】被検出物質の量を検出する検出方法において、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することができ、かつ高いS/N比を実現する。
【解決手段】センサチップ10上のセンサ部14に試料Sを供給し、励起光Loを照射することにより、センサ部14上に増強した光電場Dを発生せしめ、蛍光標識Fを励起し、この励起に起因して生じる光Lfの量に基づいて、被検出物質Aの量を検出する検出方法において、センサ部14上をブロッキングするための、蛍光物質Fに性質が類似するブロッキング物質Rと、複数の蛍光色素分子fを、複数の蛍光色素分子fから生じる蛍光を透過する透光材料16により包含してなる蛍光物質(蛍光標識)Fとを用いる。そして、ブロッキング物質Rによって、蛍光物質Fのセンサ部14への非特異的な吸着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検出物質を検出する検出方法、検出用試料セルおよび検出用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
上記蛍光法において、試料を流しながら特定の被検出物質のみを効率よく検出できる等の理由から、以下に示す2つの方法により被検出物質をセンサ部表面に固定し、その後蛍光検出を行う手法が一般的である。このような手法の1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原を特異的に結合させ、次いで、蛍光標識が付与されかつ抗原と特異的に結合する2次抗体を、さらに上記抗原に結合させることにより、1次抗体―抗原―2次抗体という結合状態を形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂サンドイッチ法である。また、もう1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原と蛍光標識が付与された2次抗体(前述の2次抗体と異なり、1次抗体と特異的に結合する)とを、競合的に1次抗体と結合させ、競合的に結合した2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂競合法である。
【0004】
また、蛍光検出においてS/N比を向上できる等の理由から、上記のような方法によって間接的にセンサ部に固定された蛍光標識を、エバネッセント光により励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、励起光をセンサ部裏面から入射し、センサ部表面に染み出すエバネッセント光により蛍光標識を励起して、その蛍光標識から生じる蛍光を検出するものである。
【0005】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるためプラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が、特許文献1、非特許文献1などに提案されている。この表面プラズモン増強蛍光法は、センサ部に金属層を設け、この金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/N比を向上させるものである。
【0006】
また、エバネッセント蛍光法において、表面プラズモン増強蛍光法と同様に、センサ部の電場を増強する効果を有する方法として、光導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、センサ部に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、この光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0007】
また、特許文献2および非特許文献3には、上記に示した蛍光法のように蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)を検出する方法が提案されている。
【0008】
以上のように、バイオ測定等においては、被検出物質を検出するための方法として、励起光の照射により、プラズモン共鳴や光導波モードを生じさせ、これらによって増強された電場で蛍光標識を励起させ、この蛍光標識の励起に起因して生じる光を検出する種々の方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、表面プラズモン共鳴や光導波モードによる電場増強の効果は、金属層や光導波層表面から離れるに従って急激に減衰するため、この表面から蛍光標識までの距離が僅かに変化するだけで、信号に差が生じ、信号のばらつきが生じてしまうという問題がある。
【0010】
例えば、表面プラズモン共鳴による電場増強効果による蛍光を検出する装置のセンサ部近傍の模式図を図19に示す。プリズム(基板)101の表面に金膜102が設けられており、この金膜102上に1次抗体B1が固定されている。サンドイッチアッセイを行う場合、前述のように、1次抗体B1−抗原A−標識2次抗体BFの結合状態を形成する。ここで、標識2次抗体BFは、蛍光標識(ここでは、蛍光色素分子f)が付与された2次抗体である。そして、プリズム101と金膜102との界面に全反射角度以上の角度で励起光を入射することにより、金膜表面に表面プラズモンを励起して金膜表面の電場を増強する。この結果、蛍光標識fは、増強された電場において励起され、蛍光を発する。
【0011】
図19中のグラフは、電場強度のセンサ部表面(金膜表面)からの距離依存性を示している。グラフに示すように、電場強度は表面から離れるにつれ急激に減衰する。このとき、センサ部表面から標識2次抗体BFの蛍光標識fまでの距離は、最大で50nm程度も離れることがあり、このような場合には、蛍光強度は30%以上減衰してしまう。また、1次抗体B1は、常にセンサ部表面に直立に固定されるものではなく、液の流れや立体障害等により表面に沿って倒れる場合もある。したがって、これに応じて蛍光標識fの表面からの距離にばらつきが生じ、このばらつきが信号強度のばらつきに繋がる。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することができ、かつ高いS/N比を実現することが可能な、蛍光標識の励起に起因して生じる光を検出する検出方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は上記検出方法に用いられる検出用試料セルおよび検出用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明による検出方法は、
誘電体プレートの一面に、この誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるセンサ部を備えるセンサチップを用い、
センサ部に試料を接触させることにより、この試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、蛍光標識とこの蛍光標識に標識された結合物質とからなる蛍光標識結合物質を、センサ部上に結合させ、
センサ部に励起光を照射することにより、センサ部上に増強した光電場を発生せしめ、
増強した光電場により、蛍光標識を励起し、この励起に起因して生じる光の量に基づいて、被検出物質の量を検出する検出方法において、
蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用い、
センサ部に対する蛍光標識結合物質の非特異的吸着性により蛍光標識結合物質がセンサ部に吸着することを防ぐためのブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、「金属層を含む積層構造」とは、金属層を含み少なくとも1以上の層からなる構造を意味するものとする。つまり、上記積層構造は、金属層のみでもよい。なお、ここで言う「層」とは、必ずしも一面を覆うものである必要はなく、例えば、微小開孔を有するものや粗密のあるものであってもよい。
【0016】
「結合物質」とは、ある特定の対象物質と特異的に結合する物質を意味するものとする。例えば、特定の対象物質として抗原を考える場合には、結合物質としてこの抗原と特異的に結合する抗体が挙げられる。そして、上記の場合において、抗原と競合して上記抗体と特異的に結合する別の抗体も結合物質である。
【0017】
「蛍光標識結合物質」とは、センサ部上に固定され被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質を介して、被検出物質の量に応じた量だけセンサ部上に結合する、蛍光標識によって標識された結合物質を意味するものとする。すなわち、例えばサンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、蛍光標識結合物質は、被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質と、この第2の結合物質を標識する蛍光標識とから構成される。これにより、第1の結合物質−被検出物質−第2の結合物質のサンドイッチ構造が作られ、蛍光標識結合物質がセンサ部上に結合する。ここで、被検出物質の第1の結合物質に対する結合部位と第2の結合物質に対する結合部位とは異なる。一方、競合法によるアッセイを行う場合には、蛍光標識結合物質は、被検出物質と競合して上記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質と、この第3の結合物質を標識する蛍光標識とから構成される。これにより、第1の結合物質−第3の結合物質の結合が作られ、蛍光標識結合物質がセンサ部上に結合する。
【0018】
「光電場」とは、励起光の照射により生じるエバネッセント光もしくは近接場光に起因する電場を意味するものとする。
【0019】
「増強した光電場」を発生せしめるとは、光電場を増強させることによって、増強した光電場を形成することを意味するものとする。なお、光電場を増強させる方法は、プラズモン共鳴の励起による増強であってもよいし、光導波モードの励起による増強であってもよい。
【0020】
蛍光標識の「励起に起因して生じる光」とは、蛍光標識が励起することにより直接的または間接的に生じる光であって、その光の発生量と励起した蛍光標識の数量との間に相関性を有するものを意味するものとする。
【0021】
「被検出物質の量を検出する」とは、被検出物質の存在の有無の検出を含み、定性的な量のみならず、定量的な量を検出することも意味するものとする。
【0022】
センサ部に対して有する「蛍光標識結合物質の非特異的吸着性」とは、蛍光標識結合物質とセンサ部との間に生じる相互作用によって、センサ部上の任意の場所に蛍光標識結合物質が吸着しうる性質を意味するものとする。ここで、「相互作用」とは、例えば水素結合、静電気力や親疎水性等による作用である。
【0023】
蛍光標識結合物質を構成する「結合物質の特異的結合性」とは、センサ部上に固定され被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質を介して、結合物質(蛍光標識結合物質)がセンサ部上に特異的に結合しうる性質を意味するものとする。すなわち、結合物質の特異的結合性は、例えばサンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質の特異的結合性を意味し、一方競合法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と競合して上記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質の特異的結合性を意味するものである。
【0024】
ブロッキング物質の「蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性」とは、ブロッキング物質とセンサ部との間に生じる相互作用によって、蛍光標識結合物質が吸着しうるセンサ部上の場所と同一または近傍の場所にブロッキング物質が吸着しうる性質を意味するものとする。すなわち、ブロッキング物質の非特異的吸着性が蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等であるとは、それぞれの物質が吸着するセンサ部上の「場所」が同一となる、または近傍に位置することを意味するものである。
【0025】
蛍光物質の透光材料により包含される蛍光色素分子の数は、1個でもよいが、複数であることがより好ましい。なお、蛍光物質が複数の蛍光色素分子を備えるものである場合には、少なくとも1つの蛍光色素分子が透光材料により包まれていればよく、他の蛍光色素分子の一部が透光材料の外部に露出していてもよい。
【0026】
さらに、本発明に係る検出方法において、ブロッキング物質は、少なくとも表面が透光材料と同等な材料により構成されている第2の粒子を有するものであることが好ましい。ここで、「同等な材料」とは、透光材料と同一の材料、またはブロッキング物質が蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有する範囲で、分子構造、側鎖、官能基および帯電状態等の観点から類似する材料を意味するものとする。この場合、ブロッキング物質は第2の粒子の表面に表面修飾されかつ上記特異的結合性を有さない修飾物質を有するものであることが好ましい。また、第2の粒子は第1の粒子の粒経よりも小さい粒径を有するものであることが好ましく、この場合ブロッキング物質と蛍光標識結合物質とを同時にセンサ部上に流下することが好ましい。
【0027】
そして、第2の粒子は、第2の粒子内に、第1の蛍光色素分子が発する蛍光とは異なる波長の蛍光を発する複数の第2の蛍光色素分子を有するものであることが好ましく、或いは、第2の粒子は、第2の粒子内に、蛍光を発する物質を含まないものであることが好ましい。
【0028】
さらに、「蛍光標識を励起し、この励起に起因して生じる光の量に基づいて、被検出物質の量を検出する」方法としては、蛍光標識からの蛍光を検出するものであってもよいし、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光を検出するものであってもよい。具体的には、以下の方法(1)〜(4)が挙げられる。
(1)励起光の照射により金属層にプラズモンを励起し、プラズモンによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、この励起によって蛍光標識から生じる蛍光を検出する方法。
(2)励起光の照射により金属層にプラズモンを励起し、プラズモンによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、この励起によって蛍光標識から生じる蛍光が金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、誘電体プレートに対し上記一面と対向する他面側へ放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出する方法。
(3)センサチップとして、積層構造が光導波層を備えるものを用い、励起光の照射により光導波層に光導波モードを励起し、光導波モードによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、この励起によって蛍光標識から生じる蛍光を検出する方法。
(4)センサチップとして、積層構造が光導波層を備えるものを用い、励起光の照射により光導波層に光導波モードを励起し、光導波モードによって増強した光電場を発生せしめ、蛍光標識の励起に起因して生じる光として、この励起によって蛍光標識から生じる蛍光が金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、誘電体プレートに対し上記一面と対向する他面側へ放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出する方法。
【0029】
なお、(1)および(2)において、プラズモンの励起は、金属層を金属膜とし、金属膜と基板との界面に基板裏面から全反射角度以上の角度で励起光を入射し、金属膜表面に表面プラズモンを励起するものであってもよい。一方、金属層を、励起光の波長よりも小さい周期の凹凸を表面に有する金属微細構造体、あるいは励起光の波長よりも小さいサイズの複数の金属ナノロッドにより構成し、プラズモンの励起は、励起光の照射により金属微細構造体あるいは金属ナノロッドに局在プラズモンを励起するものであってもよい。また、プラズモンの励起は、金属膜の微小開口を利用したものであってもよい。
【0030】
さらに、本発明に係る検出用試料セルは、上記に記載の検出方法においてセンサチップとして使用される検出用試料セルであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
流路の上流側に設けられた流路に液体試料を注入するための注入口と、
流路の下流側に設けられた、注入口から注入された液体試料を下流側に流すための空気孔と、
注入口と空気孔との間の流路に設けられたセンサチップ部であって、流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部とを備え、
センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなり、かつセンサ部の表面にブロッキング物質によるブロッキング処理を施されたものであることを特徴とするものである。
【0031】
そして、本発明に係る検出用試料セルにおいて、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、センサ部上に固定されているものを備えることが好ましい。
【0032】
また、センサ部より上流側の流路内に配置された蛍光標識結合物質を備えることが好ましい。
【0033】
そして、積層構造は、光導波層を備えることが好ましい。
【0034】
なお、本発明に係る検出用試料セルは、上記の蛍光標識結合物質が第2の結合物質とこれを標識する蛍光標識とからなる場合には、サンドイッチ法によるアッセイを行うのに好適なものとなり、一方第3の結合物質とこれを標識する蛍光標識とからなる場合には、競合法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0035】
さらに、本発明に係る検出用キットは、上記に記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、流路の上流側に設けられたこの流路に液体試料を注入するための注入口と、流路の下流側に設けられた、注入口から注入された液体試料を下流側に流すための空気孔と、注入口と空気孔との間の流路に設けられたセンサチップ部であって、流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、センサ部上に固定された第1の結合物質とを備え、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなり、かつセンサ部の表面にブロッキング物質によるブロッキング処理を施されたものであり、センサチップとして使用される検出用試料セル、および
液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質を含む標識用溶液を備えてなることを特徴とするものである。
【0036】
なお、本発明に係る検出用キットは、標識用溶液に含まれる蛍光標識結合物質が、第2の結合物質と蛍光標識とからなるものを備えている場合にはサンドイッチ法によるアッセイを行うのに好適なものとなり、第3の結合物質と蛍光標識とからなるものを備えている場合には競合法によるアッセイを行うのに好適なものとなる。
【0037】
或いは、本発明に係る検出用キットは、上記に記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、流路の上流側に設けられたこの流路に液体試料を注入するための注入口と、流路の下流側に設けられた、注入口から注入された液体試料を下流側に流すための空気孔と、注入口と空気孔との間の流路に設けられたセンサチップ部であって、流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、センサ部上に固定された第1の結合物質とを備え、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものであり、センサチップとして使用される検出用試料セル、
液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質を含む標識用溶液、および
標識用溶液と同時もしくは標識用溶液の流下前に流路内に流下される、ブロッキング物質を含むブロッキング用溶液を備えてなることを特徴とするものである。
【0038】
或いは、本発明に係る検出用キットは、上記に記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、流路の上流側に設けられたこの流路に液体試料を注入するための注入口と、流路の下流側に設けられた、注入口から注入された液体試料を下流側に流すための空気孔と、注入口と空気孔との間の流路に設けられたセンサチップ部であって、流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、センサ部上に固定された第1の結合物質とを備え、センサ部が、誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものであり、センサチップとして使用される検出用試料セル、および
液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質とブロッキング物質とを含む標識用およびブロッキング用の兼用溶液を備えてなることを特徴とするものである。
【0039】
そして、本発明に係る検出用キットにおいて、積層構造は、金属層上に光導波層を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る検出方法では、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。したがって、信号強度をより稼ぐことができるため、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することが可能となる。さらに、本発明に係る検出方法では、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、蛍光標識結合物質が非特異的に吸着しうる場所をこのブロッキング物質によってブロッキングすることによって、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着を防止することができる。この結果、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着に起因するノイズを抑制することが可能となる。すなわち、S/N比のよい信号を検出することが可能となる。以上より、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することが可能となる。
【0041】
また、本発明の検出用試料セルあるいは検出用キットを用いれば、本発明の検出方法を容易に実施することができ、増強された電場を有効に利用し、信号強度のばらつきを抑制し、かつ高いS/N比をもって被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0043】
「検出方法および検出装置」
<第1の実施形態>
本発明に係る検出方法は、例えば図1に示すように、誘電体プレート11の一面に金属層12を含むセンサ部14であって、ブロッキング物質(図示略)によってブロッキング処理を施されたセンサ部14を有してなるセンサチップ10を用い、センサ部14に試料を接触させることにより、該試料に含有される被検出物質Aの量に応じた量の蛍光標識結合物質BFを該センサ部14上に結合させ、センサ部14に励起光Loを照射し、励起光Loの照射によりセンサ部14上の光電場を増強させ、該増強された光電場D内における、蛍光標識結合物質BFの蛍光標識である蛍光物質Fの励起に起因して生じる光の量に基づいて、被検出物質Aの量を検出する検出方法である。
【0044】
本検出方法では、誘電体プレート11およびその一面の所定領域に金属層12が設けられてなるセンサ部14を備えたセンサチップ10を用いる。
【0045】
センサチップ10は、ガラス板などの誘電体プレート11の一表面の所定領域に金属層12として金属膜が成膜されたものである。誘電体プレート11は、例えば透明樹脂やガラス等の透明材料から形成されたものである。誘電体プレート11は樹脂から形成されたものが好ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を用いることがより好ましい。金属膜12は、所定領域に開口を有するマスクをプレート11の一表面に形成し、既知の蒸着法で成膜形成することができる。金属膜12の厚みは、金属膜12の材料と、励起光の波長により表面プラズモンが強く励起されるように適宜定めることができる。例えば、励起光として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。なお、「主成分」とは、含量90質量%以上の成分と定義する。
【0046】
蛍光標識結合物質BFは、被検出物質Aの量に応じた量だけセンサ部14上に結合する蛍光標識された結合物質である。蛍光標識結合物質BFは、図1に示すように、サンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と特異的に結合する結合物質と蛍光標識とから構成されるものである。また、蛍光標識結合物質BFは、後記する競合法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と競合する結合物質と蛍光標識とから構成されるものである。より具体的には、センサチップ10としてセンサ部14に被検出物質Aと特異的に結合する第1の結合物質B1が固定されてなるものを用いた場合、サンドイッチ法における蛍光標識結合物質BFは、被検出物質Aと特異的に結合する第2の結合物質B2と、この第2の結合物質B2を標識する蛍光標識Fとからなるものである。一方同様の場合、競合法における蛍光標識結合物質BFは、被検出物質Aと競合して第1の結合物質B1と特異的に結合する第3の結合物質と、この第3の結合物質を標識する蛍光標識とからなるものである。被検出物質Aが抗原である場合、第1の結合物質B1として所謂1次抗体を用い、蛍光標識結合物質として2次抗体を標識した所謂標識2次抗体を用いればよい。
【0047】
また、蛍光標識は、図1の一部に拡大して示すように、複数の第1の蛍光色素分子fを、該複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光を透過する透光材料16により包含してなる蛍光物質Fである。蛍光物質Fは、以下のようにして作製することができる。
【0048】
まず、ポリスチレン粒子(Estapor社、φ500nm、10%Solid、カルボキシル基、製品番号K1―050)を調液して0.1%Solid in phosphate(ポリスチレン溶液:pH7.0)を作製する。
次に、第1の蛍光色素分子(林原生物化学研究所、NK−2014、励起波長:780nm)0.3mgの酢酸エチル溶液(1mL)を作製する。
上記ポリスチレン溶液と蛍光色素溶液を混合し、エバポレートしながら含浸を行った後、遠心分離(15000rpm、4℃、20分を2回)を行い、上清を除去する。
【0049】
以上の工程により、第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する機能を有するポリスチレンにより第1の蛍光色素分子fを内包してなる蛍光物質Fを得ることができる。このような手順でポリスチレン粒子に第1の蛍光色素分子を含浸させて作製された蛍光物質Fの粒径は、ポリスチレン粒子の粒径と同一(上記例ではφ500nm)となる。
【0050】
蛍光物質Fは、複数の第1の蛍光色素分子fを内包するものであるため、従来の蛍光色素分子f単体を蛍光標識として用いる場合と比較すると、発光する蛍光量を大幅に増加することができる。また、蛍光物質Fは、拡散時間の点から粒径が5300nm以下のものが好ましい。また、蛍光量およびセンサ部上への最密充填密度の観点および、表面プラズモンの擾乱の観点から100nm〜700nmのものがさらに好ましく、130nm〜500nmのものが特に好ましい。透光材料16としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、第1の蛍光色素分子fを内包でき、かつ蛍光色素分子fからの蛍光Lfを透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。
【0051】
ブロッキング物質Rは、蛍光標識結合物質BFとセンサ部との間に生じる相互作用によって、センサ部上の任意の場所に蛍光標識結合物質が吸着することを防止するためのブロッキング剤である。ブロッキング物質は、上記第1の蛍光色素分子を含まず、蛍光標識結合物質を構成する結合物質の特異的結合性を有さず、かつ蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するものである。ここで、蛍光標識結合物質を構成する結合物質の特異的結合性とは、センサ部上に固定され被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質を介して、結合物質(蛍光標識結合物質)がセンサ部上に特異的に結合しうる性質を意味するものとする。すなわち、結合物質の特異的結合性は、例えばサンドイッチ法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と特異的に結合する第2の結合物質の特異的結合性を意味し、一方競合法によるアッセイを行う場合には、被検出物質と競合して上記第1の結合物質と特異的に結合する第3の結合物質の特異的結合性を意味するものである。また、ブロッキング物質の「蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性」とは、ブロッキング物質とセンサ部との間に生じる相互作用によって、蛍光標識結合物質が吸着しうるセンサ部上の場所と同一または近傍の場所にブロッキング物質が吸着しうる性質を意味するものとする。すなわち、ブロッキング物質の非特異的吸着性が蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等であるとは、それぞれの物質が吸着するセンサ部上の「場所」が同一となる、または近傍に位置することを意味するものである。
【0052】
標識物の付いた生体物質のセンサ部への非特異的な吸着に起因するノイズは、バイオ測定法において検出限界を左右する大きな問題である。この問題に対して従来は、生体物質(核酸、ビオチン、BSA、カゼイン等)や生体物質に類似した物質(親水性ポリマー等)をブロッキング剤としてブロッキング処理することにより、上記のような非特異的な吸着を防止している。この方法は、標識物が生体物質(被検出物質や結合物質等)に比して略同じ大きさである場合には、一定の効果を奏する。しかしながら、本発明に係る検出方法では、蛍光標識として生体物質に比して10倍以上の大きさを有する蛍光物質Fを用いている。図2Aは、蛍光物質Fと生体物質との大小関係を示した概略図である。図2Aに示すように、生体物質はせいぜい10nm程度であるのに対し、第1の粒子16は例えば100〜500nmである。このように、蛍光物質Fが生体物質よりも格段に大きい場合、蛍光物質Fの非特異的吸着性においては、結合物質B2とセンサ部14との相互作用よりも第1の粒子16とセンサ部14との相互作用が支配的となる。この場合、図3Aに示すように、生体物質等のブロッキング剤rを用いてブロッキング処理するだけでは、蛍光標識結合物質BFの非特異的な吸着を防止することは困難である(図中のBF’は、非特異的に吸着した蛍光標識結合物質を示す。)。
【0053】
そこで本実施形態に係るブロッキング物質Rは、本実施形態では図2Bに示すように、第2の粒子16’とこの第2の粒子16’を修飾する修飾物質B2’とから構成される。
【0054】
第2の粒子16’は、蛍光標識結合物質BFの非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を実現するため、蛍光物質Fの第1の粒子16を構成する透光材料と同等の材料によって構成されることが好ましい。ここで、「同等な材料」とは、透光材料と同一の材料、またはブロッキング物質が蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有する範囲で、分子構造、側鎖、官能基および帯電状態等の観点から類似する材料を意味するものとする。上記を踏まえ、第2の粒子16’の材料としては、ポリスチレンやポリ乳酸、アクリル、ポリエチレンイミン、SiO2などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0055】
また、第2の粒子16’の粒径は、蛍光標識結合物質BFよりも移動・吸着速度を高めるため、第1の粒子16よりも小さいことが好ましい。こうすることにより、蛍光標識結合物質BFとブロッキング物質Rとをセンサ部14上に同時に供給しても、蛍光標識結合物質BFのセンサ部への非特異的な吸着を防止することができる。
【0056】
そして、図2Bには第2の粒子16’が内部に他の物質として何も含まない構成の場合について示しているが、第2の粒子16’は、第1の蛍光色素分子fが発する蛍光とは異なる波長の蛍光を発する複数の第2の蛍光色素分子を有するものとしてもよい。このようにすれば、ブロッキング物質Rからの蛍光信号と蛍光物質Fからの蛍光信号とを分離して検出することができる。したがって、ブロッキング物質Rからの蛍光信号をデータ補正用のリファレンス信号として、同時に検出する等の測定も行うことができる。
【0057】
修飾物質B2’は、蛍光標識結合物質BFの非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を実現するため、例えば蛍光標識結合物質BFを構成する結合物質とは認識抗原が異なる抗体や電荷を付与する官能基等である。ただし、修飾物質B2’は必ずしも必須のものではない。
【0058】
ブロッキング処理は、図3Bに示すように、蛍光標識結合物質BFのセンサ部への非特異的な吸着を防止するために、蛍光標識結合物質BFが非特異的に吸着しうる場所に、ブロッキング剤(生体物質等のブロッキング剤r、或いはブロッキング物質R)を供給し吸着させる処理である。通常ブロッキング物質Rの供給は、蛍光標識結合物質BFの供給の前に行うことが好ましい。ただし、第2の粒子16’の粒径が第1の粒子の粒径よりも小さい場合には、蛍光標識結合物質BFよりもブロッキング物質Rの方が移動・吸着速度が高いため、ブロッキング物質Rと蛍光標識結合物質BFとを同時に供給しても構わない。なお、予めブロッキング物質Rによりブロッキング処理が施されたセンサチップ10を用いてもよい。
【0059】
また、本発明の検出装置は、上記検出方法を実施するためのものであって、センサチップ10を収容する収容部19と、センサ部14に励起光Loを照射する励起光照射光学系20と、励起光Loの照射により生じる、被検出物質Aに応じた量の光を検出する光検出手段30とを備えている。
【0060】
本発明は、励起光Loの照射によりセンサ部14上に増強した光電場Dを生じさせ、その増強した光電場において蛍光標識が励起されることによって生じる光を検出するものである。しかしながら、光電場を増強させる方法は、表面プラズモン共鳴あるいは局在プラズモン共鳴によるものであってもよいし、光導波モードの励起によるものであってもよい。また、蛍光標識から生じる蛍光を検出してもよいし、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光を検出してもよい。具体的な態様については、以下の各実施形態で説明する。なお、本実施形態の検出方法および装置は、表面プラズモン共鳴により光電場を増強させ、増強された光電場において励起された蛍光を検出する蛍光検出方法および装置である。
【0061】
なお、本実施形態においては、センサチップ10上に液体試料Sを保持する試料保持部13が備えられ、センサチップ10と試料保持部13により液体試料Sを保持可能な箱状セルが構成されている。なお、センサチップ10上に表面張力で留まる程度の微量な液体試料を測定する場合には、試料保持部13を備えない態様であってもよい。
【0062】
励起光照射光学系20は、励起光Loを出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、誘電体プレート11に一面が接触するように配置されたプリズム22とを備えている。プリズム22は、誘電体プレート11と金属膜12との界面で励起光Loが全反射するように誘電体プレート11内に励起光Loを導光するものである。なお、プリズム22と誘電体プレート11とは、屈折率マッチングオイルを介して接触されている。光源21は、プリズム22の他の一面からセンサチップ10の試料接触面で励起光Loが全反射角以上で、かつ金属膜で表面プラズモン共鳴する特定の角度で入射するように配置されている。さらに、光源21とプリズム22との間に必要に応じて導光部材を配置してもよい。なお、励起光Loは、表面プラズモンを誘起するようにp偏光で界面に対して入射させる。
【0063】
光検出器30としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。
【0064】
収容部19は、センサチップ10を収容する際に、センサチップのセンサ部14がプリズム22上に配置され、光検出器30で蛍光が検出できるよう構成されている。収容部19に対しセンサチップ10は、図中矢印X方向に出し入れすることができる。
【0065】
以下、本実施形態における検出方法および検出装置の作用を説明する。
ここでは、一例として、試料Sに含まれる被検出物質として抗原Aを検出する場合について説明する。
【0066】
センサチップ10として、センサ部14である金属膜12上に抗原Aと特異的に結合する第1の結合物質として1次抗体B1が修飾され、その後金属膜12に対して上記のブロッキング物質Rによるブロッキング処理が施されたものを用意する。
【0067】
まず、試料保持部13中に検査対象である試料Sを流し、センサチップ10の金属膜12上に試料Sを接触させる。次いで同様に、抗原Aと特異的に結合する第2の結合物質である2次抗体B2と、上記の蛍光物質Fとからなる蛍光標識結合物質BFを含む溶液を流す。この場合、金属膜12に表面修飾される1次抗体B1と、蛍光標識結合物質BFの2次抗体B2とは、抗原Aに対してそれぞれ別の結合部位(エピトープ)に結合するものを用いる。試料S中に抗原Aが存在すれば、1次抗体B1に抗原Aが特異的に結合し、さらに抗原Aに蛍光標識結合物質BFの2次抗体B2が結合して、サンドイッチが形成される。その後、サンドイッチが形成されなかった結合物と未反応の蛍光標識結合物質BFとを分離するため、バッファ溶液を流し、未反応の蛍光標識結合物質を排除する。
【0068】
以上の工程はセンサチップ10を検出装置1の収容部19にセットする前に行ってもよいし、セット後に行ってもよい。また、被検出物質(抗原A)への標識のタイミングは特に制限されず、被検出物質(抗原A)を第1の結合物質(1次抗体B1)に結合させる前に、予め試料に蛍光物質を添加しておいてもよい。
【0069】
本実施形態に係る検出方法では、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子fと、複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光Lfを透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子fを包含する第1の粒子16とから構成される蛍光物質Fを用いている。すなわち、この蛍光物質Fを用いることにより、複数の第1の蛍光色素分子fのまとまりとして被検出物質Aを標識することができる。したがって、信号強度をより稼ぐことができるため、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することが可能となる。さらに、本発明に係る検出方法では、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、蛍光標識結合物質が非特異的に吸着しうる場所をこのブロッキング物質によってブロッキングすることによって、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着を防止することができる。この結果、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着に起因するノイズを抑制することが可能となる。すなわち、S/N比のよい信号を検出することが可能となる。以上より、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することが可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態のように、センサ部14の表面に金属層12を有している場合には、この金属層12による第1の蛍光色素分子の金属消光の影響が強くなるため、金属層12と第1の蛍光色素分子との距離を精密に制御する必要がある。金属消光の影響の程度は、金属が半無限の厚さを持つ平面なら距離の3乗に反比例して、金属が無限に薄い平板なら距離の4乗に反比例して、また、金属が微粒子なら距離の6乗に反比例して小さくなる。従って、金属層12と第1の蛍光色素分子fとの間の距離は少なくとも数nm以上、より好ましくは10nm以上確保しておくことが好ましい。このような制御は、一般的にはポリマー膜、SiO膜、SAM膜もしくはCMD膜のようなバリア層を金属層上に設けることにより行われているが、面倒かつ煩雑であり実用にはあまり向いていない。しかしながら、本発明において、蛍光物質が、第1の蛍光色素分子を充分多く含有する場合には、金属層12上に金属消光防止のための膜を設けなくても、必然的に金属層12と多くの第1の蛍光色素分子との距離をある程度離間させることができる。これにより従来、金属消光防止のために必要であったCMD膜およびSAM膜を形成する手間をなくすことができ、非常に簡便な方法で効果的に金属消光を防止すると共に、安定して蛍光信号を検出することができる。
【0071】
<第1の実施形態の設計変更例>
上述の各実施形態においては励起光Loとして、例えば界面に所定の角度θで入射する平行光を入射するものとしたが、励起光としては、角度θを中心に角度幅Δθを持つファンビーム(集束光)を用いてもよい。ファンビームの場合、プリズムとプリズム上の金属膜との界面に対して、角度θ−Δθ/2〜θ+Δθ/2の範囲の入射角度で入射することになり、この角度範囲内に共鳴角があれば、金属膜に表面プラズモンを励起することができる。金属膜上への試料供給の前後において、金属膜上の溶媒の屈折率が変化し、そのために表面プラズモンが生じる共鳴角が変化する。上述の実施形態のように平行光を励起光として用いる場合、共鳴角が変化するたびに平行光の入射角度を調整する必要がある。しかし、界面に入射する入射角度に幅を持たせたファンビームを用いることにより、入射角度の調整をすることなく、共鳴角の変化に対応することができる。なお、ファンビームは入射角度による強度変化が少ないフラットな分布を持つものであることがより好ましい。
【0072】
<第2の実施形態>
第2の実施形態である検出方法および装置について図4を参照して説明する。図4は第2の実施形態の検出装置の概略構成を示す全体図である。本実施形態の検出方法および検出装置は、局在プラズモン共鳴により光電場を増強させ、増強された光電場において励起された蛍光を検出する検出方法および装置である。なお、以下においては、第1の実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付してある。
【0073】
図4に示す蛍光検出装置2は、用いられるセンサチップ10’と、励起光照射光学系20’とが上述の第1の実施形態の蛍光検出装置1とは異なる。
【0074】
センサチップ10’は、誘電体プレート11上に設けられかつブロッキング物質(図示略)によってブロッキング処理を施された金属層12’として、励起光の照射を受けて所謂局在プラズモンを生じる、金属微細構造体或いは複数の金属ナノロッドを備えている。ここで、金属微細構造体は、表面に励起光Loの波長よりも小さい凹凸構造を有するものである。一方、金属ナノロッドは、励起光の波長よりも小さいサイズ有するものである。このような局在プラズモンを生じさせる金属層12’を備えた場合には、励起光を金属層12’と誘電体プレート11との界面に全反射するように入射させる必要はなく、ここでは、励起光照射光学系20’は、誘電体プレート上方から励起光Loを照射するよう構成されている。
【0075】
励起光照射光学系20’は、励起光Loを出力する半導体レーザ(LD)等からなる光源21と、励起光Loを反射してセンサチップ10’へ導光するハーフミラー23とを備えている。ハーフミラー23は、励起光Loを反射し、蛍光Lfを透過するものである。
【0076】
センサチップ10’の具体例を図5A〜Cに斜視図で示し説明する。なお、以下で説明されるセンサチップにおいて、ブロッキング物質によるブロッキング処理についての記載を便宜上省略しているが、これらのセンサチップにおいてもブロッキング処理が施される。
【0077】
図5Aに示すセンサチップ10Aは、誘電体プレート11と、該プレート11の所定領域上にアレイ状に固着された複数の金属粒子73aからなる金属微細構造体73で構成されている。金属粒子73aの配列パターンは適宜設計できるが、略規則的であることが好ましい。かかる構成では、金属粒子73aの平均的な径及びピッチが励起光Loの波長よりも小さく設計される。
【0078】
図5Bに示すセンサチップ10Bは、誘電体プレート11と、該プレートの上の所定領域に設けられた、金属細線74aが格子状にパターン形成された金属パターン層からなる金属微細構造体74で構成されている。金属パターン層のパターンは適宜設計でき、略規則的であることが好ましい。かかる構成では、金属細線74aの平均的な線幅及びピッチが励起光Loの波長よりも小さく設計される。
【0079】
図5Cに示すセンサチップ10Cは特開2007−171003号公報に記載のような、Alなどの金属76の陽極酸化の過程で形成される金属酸化物体77の複数の微細孔77a内に成長させた複数のマッシュルーム状の金属75aからなる金属微細構造体75により構成されている。ここでは金属酸化物体77が誘電体プレートに相当する。この金属微細構造体75は、金属体(Al等)の一部を陽極酸化して金属酸化物体(Al2O3等)とし、陽極酸化の過程で形成される金属酸化物体77の複数の微細孔77a内に各々金属75aをメッキ等により成長させて得ることができる。
【0080】
図5Cに示す例では、マッシュルーム状の金属75aの頭部が粒子状であり、サンプルプレート表面から見れば、金属微粒子が配列されたような構造になっている。かかる構成では、マッシュルーム状の金属75aの頭部が凸部であり、その平均的な径およびピッチが測定光Lの波長よりも小さく設計される。
【0081】
なお、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属層12’としては、その他、特開2006−322067号公報、特開2006-250924号公報などに記載の金属体を陽極酸化して得られる微細構造体を利用した種々の形態の金属微細構造体を用いることができる。
【0082】
さらには、局在プラズモンを生じさせる金属層は、表面が粗面化された金属膜により構成されていてもよい。粗面化方法としては、酸化還元等を利用した電気化学的な方法等が挙げられる。また、金属層を、サンプルプレート上に配置された複数の金属ナノロッドにより構成してもよい。金属ナノロッドのサイズは、短軸長さが3nm〜50nm程度、長軸長さが25nm〜1000nm程度であり、長軸長さを励起光の波長よりも小さいサイズとする。金属ナノロッドについては、例えば特開2007-139612号公報に記載されている。
【0083】
なお、金属層12’として用いられる、金属微細構造体あるいは金属ナノロッドとしては、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0084】
本実施形態に係る検出方法でも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子fと、複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光Lfを透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子fを包含する第1の粒子16とから構成される蛍光物質Fを用いている。さらに、本発明に係る検出方法でも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
さらに、本実施形態に係る検出方法では、励起光の照射を受けて所謂局在プラズモンを生じる、金属微細構造体或いは複数の金属ナノロッドを備えている。このような場合、励起光を金属層12’と誘電体プレート11との界面に全反射するように入射させる必要はない。したがって、簡易的な光学系によって低コストの検出方法を行うことが可能となる。
【0086】
<第3の実施形態>
第3の実施形態の検出方法および装置について図6を参照して説明する。図6は第3の実施形態の検出装置の概略構成を示す全体図である。本実施形態の検出方法および装置は、表面プラズモン共鳴により光電場を増強させ、増強された光電場において励起された蛍光が金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、誘電体プレートに対して金属層形成面と反対の面側へ放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出する検出方法および装置である。
【0087】
図6に示す放射光検出装置3は、第1の実施形態の蛍光検出装置と光検出器の配置が異なる。本放射光検出装置3においては、光検出器30が、蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって、誘電体プレートに対して金属層形成面と反対の面側へ放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光Lpを検出するように配置されている。
【0088】
検出装置3を用いた本実施形態の放射光検出方法について説明する。
本実施形態では、センサ部14の表面がブロッキング物質(図示略)によりブロッキング処理されている。これにより、蛍光標識結合物質BFのセンサ部14への非特異的な吸着が防止される。このように、蛍光標識結合物質BFの非特異的な吸着の影響を低減した状態で、第1の実施形態と同様に、励起光照射光学系20により励起光Loを照射する。励起光照射光学系20により励起光Loが誘電体プレート11と金属膜12との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜上12の試料S中にエバネッセント光が滲み出し、このエバネッセント光によって金属膜12中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜12表面に電界分布が生じ、電場増強領域Dが形成される。そして、蛍光物質F中の蛍光色素分子fが励起されて蛍光Lfが発生する。このとき、表面プラズモンによる電場増強の効果により蛍光は増強されたものとなる。金属膜12上で生じたこの蛍光Lfが、金属膜12に表面プラズモンを新たに誘起し、この表面プラズモンによりセンサチップ10の金属膜形成面と反対側へ特定の角度で放射光Lpが射出される。光検出器30によって、この放射光Lpを検出することにより、蛍光標識結合物質と結合した被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0089】
放射光Lpは蛍光が金属膜の特定の波数の表面プラズモンと結合する際に生じるものであり、蛍光の波長に応じてその結合する波数は定まり、その波数に応じて放射光の出射角度が定まる。通常励起光Loの波長と蛍光の波長とは異なることから、蛍光により励起される表面プラズモンは、励起光Loにより生じた表面プラズモンとは異なる波数のものとなり、励起光Loの入射角度とは異なる角度で放射光Lpは放射される。
【0090】
本実施形態に係る検出方法でも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子fと、複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光Lfを透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子fを包含する第1の粒子16とから構成される蛍光物質Fを用いている。さらに、本発明に係る検出方法でも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
さらに、本実施形態では、センサ表面で生じる蛍光に起因する光をセンサ裏面側から検出するので、蛍光Lfが光吸収の大きい溶媒を通過する距離を数十nm程度と削減することができる。したがって、例えば血液における光吸収をほぼ無視することができ、血液を遠心分離し赤血球などの着色成分を除去したり、血球フィルタを通して血清あるいは血漿状態にしたりするという前処理を行うことなく測定が可能となる。
【0092】
<第4の実施形態>
第4の実施形態の検出方法および装置について図7を参照して説明する。図7は第4の実施形態の検出装置の概略構成を示す全体図である。本実施形態の検出方法および装置は、金属層上に光導波層を備えたセンサチップを用い、励起光の照射により光導波層に光導波モードを励起し、光導波モードにより電場を増強させ、増強された電場において励起された蛍光を検出する検出方法および装置である。
【0093】
図7に示す検出装置4の構成は、第1の実施形態の検出装置の構成と同じであるが、用いられるセンサチップが異なり、このセンサチップの違いにより、電場増強のメカニズムが異なる。
【0094】
センサチップ10”は金属層12a上に光導波層12bを備えている。そして、この光導波層12b上に、ブロッキング物質(図示略)によるブロッキング処理が施されている。光導波層12bの層厚は、特に制限されることはなく、光導波モードが誘起されるように、励起光Loの波長、入射角度および光導波層12bの屈折率等を考慮して定めることができる。例えば、上記と同様に励起光Loとして780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、光導波層12bとして1層のシリコン酸化膜からなるものを用いる場合には、500〜600nm程度が好ましい。なお、光導波層12bは、1層以上の誘電体等の光導波材料からなる内部光導波層を含む積層構造であってもよく、この積層構造は、金属層側から順に内部光導波層および内部金属層の交互積層構造であることが好ましい。
【0095】
蛍光検出装置4を用いた本実施形態の蛍光検出方法について説明する。
本実施形態では、センサ部14の表面がブロッキング物質(図示略)によりブロッキング処理されている。これにより、蛍光標識結合物質BFのセンサ部14への非特異的な吸着が防止される。このように、蛍光標識結合物質BFの非特異的な吸着の影響を低減した状態で、第1の実施形態と同様に、励起光照射光学系20により励起光Loを照射する。励起光照射光学系20により励起光Loが誘電体プレート11と金属層12aとの界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属層12a上にエバネッセント光が滲み出し、このエバネッセント光が光導波層12bの光導波モードと結合し、光導波モードが励起されることにより、光導波層12b上の電界分布が生じ、電場増強領域Dが形成される。そして、蛍光物質F中の蛍光色素分子fが励起されて蛍光Lfが発生する。このとき、表面プラズモンによる電場増強の効果により蛍光は増強されたものとなる。光検出器30によって、この蛍光Lfを検出することにより、蛍光標識結合物質と結合した被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0096】
本実施形態に係る検出方法でも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子fと、複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光Lfを透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子fを包含する第1の粒子16とから構成される蛍光物質Fを用いている。さらに、本発明に係る検出方法でも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0097】
さらに、光導波モードの励起により生じる電界分布は、通常の表面プラズモン蛍光法により生じる電界分布と比較して表面からの距離に伴う電界減衰の程度が緩やかであることから、蛍光標識として複数の第1の蛍光色素分子を内包する径の大きな蛍光物質を用いた場合、通常の表面プラズモン蛍光法による電場増強を用いるよりも大きな蛍光量増加効果を得ることができる。
【0098】
<第5の実施形態>
第5の実施形態の検出方法および装置について図8を参照して説明する。図8は第5の実施形態の検出装置の概略構成示す全体図である。本実施形態の検出方法および装置は、金属層上に光導波層を備えたセンサチップを用い、励起光の照射により光導波層に光導波モードを励起し、光導波モードにより電場を増強させ、増強された電場において励起された蛍光が金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、誘電体プレートの金属層形成面と反対の面側から放射される、新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出する検出方法および装置である。
【0099】
図8に示す本実施形態の検出装置5は、第3の実施形態の検出装置3と同様の構成であり、本実施形態の検出方法において用いられるセンサチップは第4の実施形態の検出方法で用いられるセンサチップと同様である。
【0100】
検出装置5を用いた本実施形態の蛍光検出方法について説明する。
本実施形態では、センサ部14の表面がブロッキング物質(図示略)によりブロッキング処理されている。これにより、蛍光標識結合物質BFのセンサ部14への非特異的な吸着が防止される。このように、蛍光標識結合物質BFの非特異的な吸着の影響を低減した状態で、第1の実施形態と同様に、励起光照射光学系20により励起光Loを照射する。励起光照射光学系20により励起光Loが誘電体プレート11と金属層12aとの界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属層12a上にエバネッセント光が滲み出し、このエバネッセント光が光導波層12bの光導波モードと結合し、光導波モードが励起されることにより、光導波層12b上の電界分布が生じ、電場増強領域Dが形成される。そして、蛍光物質F中の蛍光色素分子fが励起されて蛍光Lfが発生する。このとき、表面プラズモンによる電場増強の効果により蛍光Lfは増強されたものとなる。光導波層12b上で生じたこの蛍光Lfが、金属膜12に表面プラズモンを新たに誘起し、この表面プラズモンによりセンサチップ10”の金属膜形成面と反対側へ特定の角度で放射光Lpが射出される。光検出器30によって、この放射光Lpを検出することにより、蛍光標識Fが標識された被検出物質の有無および/または量を検出することができる。
【0101】
本実施形態に係る検出方法でも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子fと、複数の第1の蛍光色素分子fから生じる蛍光Lfを透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子fを包含する第1の粒子16とから構成される蛍光物質Fを用いている。さらに、本発明に係る検出方法でも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0102】
また、本実施形態では、センサ表面で生じる蛍光に起因する光をセンサ裏面側から検出するので、蛍光Lfが光吸収の大きい溶媒を通過する距離を数十nm程度と削減することができ、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0103】
さらに、光導波モードの励起による電場増強を用いていることから、第4の実施形態と同様に蛍光量増加効果を得ることができる。
【0104】
(第1から5の実施形態における設計変更例)
なお、第1から第5の実施形態においては、蛍光標識として、図9に示すように、さらに、透光材料16の表面に蛍光を透過する厚みの金属被膜Mcが設けられたものを用いてもよい。金属被膜Mcは、透光材料16の全表面を覆うものであってもよいし、全表面を覆うものでなく、一部表面が露出するように設けられたものであってもよい。金属被膜Mcの材料としては、上述の金属層と同様の金属材料を用いることができる。この場合、ブロッキング物質についても同様の金属被膜を設けることが好ましい。
【0105】
蛍光物質の表面に金属被膜Mcを備えた場合、センサチップ10、10’の金属層12、12’に発生した表面プラズモンあるいは局在プラズモンが蛍光物質Fの金属被膜Mcのウィスパリング・ギャラリー・モードにカップリングし、蛍光物質F内の蛍光色素分子fをさらに高効率に励起できる。なお、ウィスパリング・ギャラリー・モードとは、ここで用いられるφ5300nm以下程度の蛍光物質のような微小球の球表面に局在し、周回する電磁波モードである。
【0106】
蛍光物質への金属被膜方法の一例を挙げる。
まず、前述手順により消光防止性蛍光物質を作製し、その表面にポリエチレンイミン(PEI)(エポミン、日本触媒社)を修飾する。
次に、粒子表面のPEIに粒径15nmのPdナノ粒子(平均粒径19nm、徳力本社)を吸着させる。
Pdナノ粒子が吸着したポリスチレン粒子を無電解金メッキ液(HAuCl4、小島化学薬品社)に浸漬させることで、Pdナノ粒子を触媒とする無電界メッキを利用して、ポリスチレン粒子表面に金膜を作製する。
【0107】
「検出用試料セル」
本発明の検出方法のセンサチップとして使用される検出用試料セルについて説明する。
<第1の実施形態の検出用試料セル>
図10Aは、第1の実施形態の検出用試料セル50の構成を示す平面図、図10Bは検出用試料セル50の側断面図である。
【0108】
検出用試料セル50は、誘電体プレートからなる基台51と、基台51上に液体試料Sを保持し、液体試料Sの流路52を形成するスペーサ53と、試料Sを注入する注入口54aおよび流路52を流下した試料を排出する排出口となる空気孔54bを備えたガラス板からなる上板54とから構成され、流路52の注入口54aと空気孔54bとの間の試料接触面となる基台51の所定領域上に設けられた金属層58a、59aからなるセンサ部58、59が備えられている。また、注入口54aから流路52に至る箇所にはメンブレンフィルター55が備えられ、流路52下流の空気孔54bに接続する部分には廃液だめ56が形成されている。
【0109】
本実施形態においては、基台51が誘電体プレートから構成され、センサ部の誘電体プレートを兼ねているが、基台としては、センサ部が構成される部分のみ誘電体プレートで構成されたものを用いてもよい。
【0110】
検出用試料セル50は、上述した第1〜第5のいずれの実施形態の検出装置および方法におけるセンサチップとして、同様に使用することができる。
【0111】
検出用試料セル50は、センサ部上をブロッキング物質によってブロッキング処理することができる。
【0112】
検出用試料セル50は、被検出物質に応じて、この被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質をセンサ部に適宜固定して使用することができる。
【0113】
さらに、検出用試料セル50は、センサ部より上流側の流路内に配置されている蛍光標識結合物質BFを備えることができる。
【0114】
<第2実施形態の検出用試料セル>
図11は、サンドイッチ法によるアッセイに適した第2の実施形態の検出用試料セルの側断面を示すものである。本実施形態の検出用試料セル50Aにおいては、基台51上に流路52上流側から、被検出物質である抗原と特異的に結合する2次抗体(第2の結合物質)B2と該2次抗体B2が表面修飾された蛍光物質Fとからなる標識2次抗体BF(蛍光標識結合物質)を物理吸着させてある標識2次抗体吸着エリア57、被検出物質である抗原と特異的に結合する1次抗体(第1の結合物質)B1が固定された第1の測定エリア58、被検出物質である抗原Aとは結合せず標識2次抗体BFと特異的に結合する1次抗体B0が固定された第2の測定エリア59が順に設けられている。また、この第1および第2の測定エリア58,59は、ブロッキング物質Rによってブロッキング処理されている。本例では、センサ部に2つの測定エリアを設けた例を挙げているが、測定エリアは1つのみであってもよい。
【0115】
基台51上の第1の測定エリア58および第2の測定エリア59にはそれぞれ金属層として、Au(金)膜58aおよび59aが形成されている。第1の測定エリア58のAu膜58a上にはさらに1次抗体B1が固定され、第2の測定エリア59のAu膜59a上にはさらに1次抗体B1とは異なる1次抗体B0が固定されている。そして、Au膜58aおよびAu膜59aの表面には、ブロッキング物質Rによってブロッキング処理が施されている。互いに異なる1次抗体が設けられている点以外は第1の測定エリア58と第2の測定エリア59は同一の構成である。第2の測定エリア59に固定されている1次抗体B0は抗原Aとは結合せず、標識2次抗体BFと直接結合するものである。これにより、流路を流れた標識2次抗体の量、活性など反応に関する変動要因と励起光照射光学系20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど電場増強度に関する変動要因を検出し、較正に利用することができる。なお、第2の測定エリアには1次抗体B0ではなく、既知量の標識物質が予め固定されていてもよい。標識物質は2次抗体により表面修飾された蛍光物質と同種のものであってもよいし、波長、サイズの異なる蛍光物質であってもよい。さらには金属微粒子などであってもよい。この場合、励起光照射光学系20、金膜58a、59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因のみを検出し、較正に利用することができる。第2の測定エリア59に標識2次抗体BF、既知量の標識物質のどちらを固定するかは、較正目的および方法によって適宜定めればよい。
【0116】
検出用試料セル50Aは、上述した第1〜第5のいずれの実施形態の検出装置および方法においてもセンサチップに代えて同様に使用することができる。検出用試料セル50は、収容部19において、励起光照射光学系20および検出器30に相対的にX方向に移動可能とされており、第1の測定エリア58からの蛍光もしくは放射光の検出測定の後、第2の測定エリア59を検出位置に移動させて第2の測定エリア59からの蛍光もしくは放射光の検出を行うように構成されている。
【0117】
本発明の検出方法において、本実施形態の検出用試料セル50Aを用い、血液(全血)中に被検出物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図12を参照して説明する。
【0118】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図12中において血液Soは網掛け領域で示している。
step2:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。
step3:血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図12中において血漿Sは斜線領域で示している。
step4:流路52に染み出した血漿Sと2次抗体Bが付与された蛍光物質とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識2次抗体BFと結合する。
step5:血漿Sは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、標識2次抗体BFと結合した抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合し、抗原Aが1次抗体Bと標識2次抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。このとき、標識2次抗体BFのセンサ部への非特異的な吸着の影響は、ブロッキング物質Rによって低減される。
step6:抗原Aと結合しなかった標識2次抗体BFの一部は第2の測定エリア59上に固定されている1次抗体Bと結合する。さらに抗原Aまたは1次抗体Bと結合しなかった標識2次抗体BFが測定エリア上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、プレート上に浮遊および非特異吸着していた標識2次抗体BFを洗い流す。
【0119】
このように、血液Soを注入口54aから注入し、第1の測定エリア58上に抗原Aが1次抗体Bと標識2次抗体BFで挟まれたサンドイッチが形成されるまでのstep1からStep6の後、第1の測定エリア58からの蛍光信号或いは放射光信号(以下、検出信号)を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの検出信号を検出できるように試料セル50をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの検出信号を検出する。標識2次抗体BFと結合する1次抗体Bを固定している第2の測定エリア59からの検出信号は、標識2次抗体BFの流下した量、活性などの反応条件を反映した蛍光信号であると考えられ、この検出信号をリファレンスとして、第1の測定エリア58からの検出信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、既述の通り、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定した場合であっても、同様に、第2の測定エリア59からの光信号をリファレンスとして第1の測定エリア58からの検出信号を補正することができる。
【0120】
本実施形態に係る検出用試料セルでは、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。すなわち、この蛍光物質を用いることにより、複数の第1の蛍光色素分子のまとまりとして被検出物質を標識することができる。したがって、信号強度をより稼ぐことができるため、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することが可能となる。さらに、本発明に係る検出用試料セルでは、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、蛍光標識結合物質が非特異的に吸着しうる場所をこのブロッキング物質によってブロッキングすることによって、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着を防止することができる。この結果、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着に起因するノイズを抑制することが可能となる。すなわち、S/N比のよい信号を検出することが可能となる。以上より、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することが可能となる。
【0121】
<第3実施形態の検出用試料セル>
図13は、競合法によるアッセイに適した第3の実施形態の検出用試料セルを示すものである。本実施形態の検出用試料セル50Bにおいては、基台51上には流路52上流側から、抗原Aとは結合せず後述の1次抗体と特異的に結合する2次抗体C3(第3の結合物質)と該2次抗体C3が表面修飾された蛍光物質Fとからなる標識2次抗体CF(蛍光標識結合物質)を物理吸着させてある標識2次抗体吸着エリア57’、被検出物質である抗原Aおよび2次抗体C3と競合して特異的に結合する1次抗体C1(第1の結合物質)が固定された第1の測定エリア58’、被検出物質である抗原Aとは結合せず標識2次抗体CFと特異的に結合する1次抗体C0が固定された第2の測定エリア59’が順に設けられている。また、この第1および第2の測定エリア58’,59’は、ブロッキング物質によってブロッキング処理されている。本例では、センサ部に2つの測定エリアを設けた例を挙げているが、測定エリアは1つのみであってもよい。
【0122】
基台51上の第1の測定エリア58および第2の測定エリア59にはそれぞれ金属層として、金(Au)膜58aおよび59aが形成されている。第1の測定エリア58’のAu膜58a上にさらに1次抗体C1が固定され、第2の測定エリア59’のAu膜59a上にさらに1次抗体C1とは異なる1次抗体C0が固定されている。そして、Au膜58aおよびAu膜59aの表面には、ブロッキング物質Rによってブロッキング処理が施されている。互いに異なる1次抗体が設けられている点以外は第1の測定エリア58’と第2の測定エリア59’は同一の構成である。抗原Aと標識2次抗体CFとは、第1の測定エリア58’に固定されている1次抗体C1に競合的に結合するものである。第2の測定エリア59’に固定されている1次抗体C0は抗原Aとは結合せず、標識2次抗体CFと直接結合するものである。これにより、流路を流れた標識2次抗体の量、活性など反応に関する変動要因と励起光照射光学20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど電場増強度に関する変動要因を検出し、較正に利用することができる。なお、第2の測定エリアには1次抗体C0ではなく、既知量の標識物質が予め固定されていてもよい。標識物質は2次抗体により表面修飾された蛍光物質と同種のものであってもよいし、波長、サイズの異なる蛍光物質であってもよい。この場合、励起光照射光学20、金(Au)膜58aおよび59a、液体試料Sなど表面プラズモン増強度に関する変動要因のみを検出し、較正に利用することができる。第2の測定エリア59に標識2次抗体CF、既知量の標識物質のどちらを固定するかは較正目的および方法によって適宜、選択することができる。
【0123】
検出用試料セル50Bは、既述の検出用試料セル50Aと同様に、上述した第1〜第5のいずれの実施形態の検出装置および方法においてセンサチップに代えて同様に使用することができる。
【0124】
本発明の検出方法において、本実施形態の検出用試料セル50Bを用い、血液(全血)中に被検出物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図14を参照して説明する。
【0125】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図14において血液Soは網掛け領域で示している。
step2:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。
step3:血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔54bにポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図14において血漿Sは斜線領域で示している。
step4:流路52に染み出した血漿Sと標識2次抗体CFが付与された蛍光物質Fとが混ぜ合わされる。
step5:血漿Sは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、抗原Aと標識2次抗体CFとが競合して、第1の測定エリア58’上に固定されている1次抗体Cと結合する。このとき、標識2次抗体CFのセンサ部への非特異的な吸着の影響は、ブロッキング物質Rによって低減される。
step6:第1の測定エリア58’上の1次抗体C1と結合しなかった標識2次抗体CFの一部は、第2の測定エリア59’上に固定されている1次抗体Cと結合する。さらに1次抗体CまたはCと結合していない標識2次抗体CFが測定エリア上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、プレート上に浮遊および非特異吸着していた標識2次抗体CFを洗い流す。
【0126】
このように、血液を注入口から注入し、測定エリア58’上の1次抗体C1に抗原Aおよび2次抗体C3が競合結合するまでのstep1からStep6の後、第1の測定エリア58’および第2の測定エリア59’からの検出信号を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの検出信号を検出できるように検出用試料セル50をX方向に移動させ、第2の測定エリア59からの検出信号を検出し、この検出信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの検出信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。
【0127】
競合法においては、被検出物質Aの濃度が高ければ、第1の結合物質C1と結合する第3の結合物質C3の量が少なく、すなわち金属層上の消光防止性蛍光物質Fの数が少なくなるため蛍光強度が小さくなり、一方、被検出物質Aの濃度が低ければ、第1の結合物質C1と結合する第3の結合物質C3の量が多く、すなわち金属膜上の消光防止性蛍光物質の数が多くなるため蛍光強度が大きくなる。競合法は被検出物質にエピトープが一つあれば測定が可能であることから、低分子量の物質の検出に適している。
【0128】
本実施形態に係る検出用試料セルでも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。さらに、本発明に係る検出用試料セルでも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0129】
(検出用試料セルの設計変更例)
光導波モードによる電場増強を利用する検出方法および装置に用いる検出用試料セルの断面図を図15に示す。図10に示した第1の実施形態の検出用試料セルの構成と略同一であるが、センサ部の金属層58a、59a上にさらに光導波層58b、59bを備えている。この場合、ブロッキング物質によるブロッキング処理は、光導波層58b、59bの上に施される。
【0130】
この検出用試料セルも適宜、センサ部に第1の結合物質を、センサ部上流側に蛍光標識結合物質を固定し使用することができる。
【0131】
「検出用キット」
<第1の実施形態>
本発明の検出方法に使用される第1の実施形態の検出用キットについて説明する。
【0132】
図16Aは検出用キット60aの構成を示す模式図である。
検出用キット60aは、センサ部がブロッキング物質によるブロッキング処理を施された検出用試料セル61と、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質BFを含む標識用溶液63とを備えている。ここで、例えば図16Aでは、標識用溶液63はアンプル62に入れられ密閉されている。
【0133】
検出用試料セル61は、検出用試料セル内に、蛍光標識結合物質BFを物理吸着した物理吸着エリアを備えていない点でのみ上述の第2の実施形態の検出用試料セル50Aと異なり、その他は検出用試料セル50Aと略同一の構成である。
【0134】
本発明の検出方法において、本実施形態の検出用キット60aを用い、血液(全血)中に被検出物質である抗原を含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図17を参照して説明する。
【0135】
step1:注入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検出物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図17において血液Soは網掛け領域で示している。
step2:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。引き続き、血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔にポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図17において血漿Sは斜線領域で示している。
step3:血漿Sは流路52に沿って空気孔54b側へと徐々に流れ、血漿S中の抗原Aが、第1の測定エリア58上に固定されている1次抗体Bと結合する。
step4:2次抗体Bが修飾された蛍光物質Fを含む標識用溶液63を供給口54aから注入する。
step5:2次抗体Bが修飾された蛍光物質Fが毛細管現象により流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気孔にポンプを接続し、標識用溶液63をポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。
step6:蛍光物質Fは徐々に下流側に流れ、標識2次抗体BFが抗原Aと結合し、抗原Aが1次抗体Bと標識2次抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。抗原Aと結合しなかった2次抗体B2の一部は第2の測定エリア59上に固定されている1次抗体B0と結合する。このとき、標識2次抗体BFのセンサ部への非特異的な吸着の影響は、ブロッキング物質Rによって低減される。さらに抗原Aまたは1次抗体B0と結合しなかった標識2次抗体(蛍光物質)が測定エリア上に残っている場合があっても、後続の血漿が洗浄の役割を担い、プレート上に浮遊および非特異吸着していた標識2次抗体を洗い流す。
【0136】
このように、血液を注入口から注入し、抗原が1次抗体および2次抗体と結合するまでのstep1からStep6の後、検出装置において、静電気的な相互作用により、センサ部上に蛍光標識結合物質を引き寄せ、第1の測定エリア58からの検出信号を検出することにより、抗原の有無および/またはその濃度を検出することができる。その後、第2の測定エリア59からの検出信号を検出できるように検出用試料セル61をX方向に移動させ、同様に、センサ部上に蛍光標識結合物質を引き寄せ、第2の測定エリア59からの検出信号を検出する。標識2次抗体BFと結合する1次抗体B0を固定している第2の測定エリア59からの検出信号は標識2次抗体の流下した量、活性などの反応条件を反映した検出信号であると考えられ、この検出信号をリファレンスとして、第1の測定エリアからの検出信号を補正することにより、より精度の高い検出結果を得ることができる。また、第2の測定エリア59に既知量の標識物質(蛍光物質、金属微粒子)をあらかじめ固定しておき、第2の測定エリア59からの蛍光信号をリファレンスとして第1の測定エリアからの検出信号を補正してもよい。
【0137】
蛍光物質Fへの2次抗体修飾方法および標識用溶液の作製方法の一例を説明する。
【0138】
前述の手順で作製した蛍光物質溶液(蛍光物質の直径φ500nm、励起波長780nm)に50mM MESバッファおよび、5.0mg/mLの抗hCGモノクローナル抗体(Anti−hCG 5008 SP−5、Medix Biochemica社)溶液を加えて撹拌する。これにより蛍光物質への抗体の修飾がなされる。
次に、400mg/mLのWSC(品番01−62−0011、和光純薬)水溶液を加え室温で攪拌する。
さらに、2mol/L Glycine水溶液を添加し撹拌した後、遠心分離にて、粒子を沈降させる。
最後に、上清を取り除き、PBS(pH7.4)を加え、超音波洗浄機により、表面修飾された蛍光物質を再分散させる。さらに遠心分離を行い、上清を除いた後、1%BSAのPBS(pH7.4)溶液500μL加え、表面修飾された蛍光物質を再分散させて標識用溶液とする。
【0139】
本実施形態に係る検出用キットでは、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からかつなり複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。すなわち、この蛍光物質を用いることにより、複数の第1の蛍光色素分子のまとまりとして被検出物質を標識することができる。したがって、信号強度をより稼ぐことができるため、信号強度のばらつきを抑え、増強された電場を効率よく利用することが可能となる。さらに、本発明に係る検出用キットでは、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、蛍光標識結合物質が非特異的に吸着しうる場所をこのブロッキング物質によってブロッキングすることによって、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着を防止することができる。この結果、蛍光標識結合物質の非特異的な吸着に起因するノイズを抑制することが可能となる。すなわち、S/N比のよい信号を検出することが可能となる。以上より、被検出物質の有無および/または量を精度よく検出することが可能となる。
【0140】
<第2の実施形態>
本発明の検出方法に使用される第2の実施形態の検出用キットについて説明する。
【0141】
図16Bは検出用キット60bの構成を示す模式図である。
検出用キット60bは、ブロッキング処理されていない検出用試料セル61と、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質BFを含む標識用溶液63と、標識用溶液63と同時もしくは標識用溶液の流下前に流路内に流下される、ブロッキング物質Rを含むブロッキング用溶液65を備えている。ここで、例えば図16Bでは、標識用溶液63はアンプル62に入れられ、ブロッキング用溶液65はアンプル64に入れられ密閉されている。
【0142】
検出用試料セル61は、検出用試料セル内に、蛍光標識結合物質BFを物理吸着した物理吸着エリアを備えていない点、ブロッキング物質によるブロッキング処理が施されていない点で上述の第2の実施形態の検出用試料セル50Aと異なり、その他は検出用試料セル50Aと略同一の構成である。
【0143】
本実施形態の係る検出用キットで60bでは、センサ部上に予めブロッキング処理が施されていないため、ブロッキング用溶液65を標識用溶液63よりも先に流下する、或いはブロッキング用溶液65と標識用溶液63とを同時に流下することにより測定が行われる。ここで、同時に流下する場合には、ブロッキング物質を構成する第2の粒子の粒径が、蛍光物質を構成する第1の粒子の粒径よりも小さいことが好ましい。
【0144】
本実施形態に係る検出用キットでも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。さらに、本発明に係る検出用キットでも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0145】
<第3の実施形態>
本発明の検出方法に使用される第3の実施形態の検出用キットについて説明する。
【0146】
図16Cは検出用キット60cの構成を示す模式図である。
検出用キット60cは、ブロッキング処理されていない検出用試料セル61と、液体試料と同時もしくは液体試料の流下後に流路内に流下される、蛍光標識結合物質BFとブロッキング物質Rとを含む標識用およびブロッキング用の兼用溶液67とを備えている。ここで、例えば図16Cでは、兼用溶液67はアンプル66に入れられ密閉されている。
【0147】
検出用試料セル61は、検出用試料セル内に、蛍光標識結合物質BFを物理吸着した物理吸着エリアを備えていない点、ブロッキング物質によるブロッキング処理が施されていない点で上述の第2の実施形態の検出用試料セル50Aと異なり、その他は検出用試料セル50Aと略同一の構成である。
【0148】
本実施形態の係る検出用キット60cでは、センサ部上に予めブロッキング処理が施されていないため、兼用溶液67を流下することにより測定が行われる。ここで、ブロッキング物質を構成する第2の粒子の粒径が、蛍光物質を構成する第1の粒子の粒径よりも小さいことが好ましい。
【0149】
本実施形態に係る検出用キットでも、蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用いている。さらに、本発明に係る検出用キットでも、ブロッキング剤として、第1の蛍光色素分子を含まずかつ上記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いている。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0150】
(検出用キットの設計変更例)
本発明に係る検出用キットは、付属の検出用試料セルとして、光導波層を有する図13に示す検出用試料セルを用いることにより、競合法によるアッセイを行う検出装置および方法に好適なものとなる。
【0151】
また、本発明に係る検出用キットは、付属の検出用試料セルとして、光導波層を有する図15に示す検出用試料セルを用いることにより、光導波モードによる電場増強を利用する検出装置および方法に好適なものとなる。
【0152】
<実施例>
図18Aは、ブロッキング物質によるブロッキング処理がない場合の、蛍光標識結合物質の金膜上への非特異的吸着の様子を表す図である。一方、図18Bは、ブロッキング物質によるブロッキング処理がある場合の、蛍光標識結合物質の金膜上への非特異的吸着の様子を表す図である。図からわかるようにノイズが1桁改善された。これらの図より、ブロッキング物質によるブロッキング処理を施すことにより、蛍光標識結合物質のセンサ部上への非特異的な吸着による影響を低減可能であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の第1の実施形態による検出装置を示す概略構成図(SPF)
【図2A】蛍光標識結合物質と生体物質との大小関係を示す概略図
【図2B】本発明に用いられるブロッキング物質を示す概略図
【図3A】蛍光標識結合物質のセンサ部への非特異的吸着の様子を示す図
【図3B】蛍光標識結合物質の非特異的吸着をブロッキングする様子を示す図
【図4】本発明の第2実施形態による蛍光検出装置を示す概略構成図(LPF)
【図5】本発明の第2実施形態による蛍光検出装置に用いられるセンサチップのセンサ部を示す概略構成図
【図6】本発明の第3実施形態による検出装置を示す概略構成図(SPCE)
【図7】本発明の第4実施形態による検出装置を示す概略構成図(導波―蛍光)
【図8】本発明の第5実施形態による検出装置を示す概略構成図(導波―放射光)
【図9】金属被膜を有する蛍光物質を示す模式図
【図10】本発明の第1の実施形態の検出用試料セルを示す(A)平面図および(B)側断面図
【図11】本発明の第2の実施形態の検出用試料セルを示す側断面図
【図12】第2の実施形態の検出用試料セルを用いたサンドイッチ法によるアッセイ手順を示す図
【図13】本発明の第3の実施形態の検出用試料セルを示す側断面図
【図14】第3の実施形態の検出用試料セルを用いた競合法によるアッセイ手順を示す図
【図15】検出用試料セルの設計変更例を示す側断面図
【図16A】本発明に係る蛍光検出用キットの構成を示す模式図
【図16B】他の実施形態の蛍光検出用キットの構成を示す模式図(その1)
【図16C】他の実施形態の蛍光検出用キットの構成を示す模式図(その2)
【図17】蛍光検出用キットを用いたサンドイッチ法によるアッセイ手順を示す図
【図18A】ブロッキング処理をしない場合の非特異的吸着の量を示す図
【図18B】ブロッキング処理をした場合の非特異的吸着の量を示す図
【図19】従来例における検出方法を示す概念図
【符号の説明】
【0154】
1、2、3、4、5 検出装置
10、10’、10” センサチップ
11 誘電体プレート
12 金属層(金属膜)
12’ 金属層(金属微細構造体)
16 第1の粒子(透光材料)
16’ 第2の粒子
20、20’ 励起光照射光学系
30 光検出器
35 磁界印加手段
50、50A、50B、61 検出用試料セル
51 誘電体プレート
52 流路
53 スペーサ
54 上板
57 蛍光物質吸着エリア
58、59 検出エリア
60 検出用キット
63 検出用標識溶液
、C 標識2次抗体(蛍光標識結合物質)
F 蛍光物質
f 蛍光色素分子
Lo 励起光
Lf 蛍光
Lp 放射光
Mc 金属被膜
R ブロッキング物質
r 生体物質によるブロッキング剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体プレートの一面に、該誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるセンサ部を備えるセンサチップを用い、
前記センサ部に試料を接触させることにより、該試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、蛍光標識と該蛍光標識に標識された結合物質とからなる蛍光標識結合物質を、前記センサ部上に結合させ、
前記センサ部に励起光を照射することにより、該センサ部上に増強した光電場を発生せしめ、
該増強した光電場により、前記蛍光標識を励起し、該励起に起因して生じる光の量に基づいて、前記被検出物質の量を検出する検出方法において、
前記蛍光標識として、複数の第1の蛍光色素分子と、該複数の第1の蛍光色素分子から生じる蛍光を透過する透光材料からなりかつ該複数の第1の蛍光色素分子を包含する第1の粒子とから構成される蛍光物質を用い、
前記センサ部に対する前記蛍光標識結合物質の非特異的吸着性により該蛍光標識結合物質が前記センサ部に吸着することを防ぐためのブロッキング剤として、前記第1の蛍光色素分子を含まずかつ前記結合物質の特異的結合性を有さないブロッキング物質であって、前記蛍光標識結合物質の非特異的吸着性と同等の非特異的吸着性を有するブロッキング物質を用いることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記ブロッキング物質が、少なくとも表面が前記透光材料と同等な材料により構成されている第2の粒子を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記ブロッキング物質が、前記第2の粒子の表面に表面修飾されかつ前記特異的結合性を有さない修飾物質を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記第2の粒子が、前記第1の粒子の粒経よりも小さい粒径を有するものであることを特徴とする請求項2または3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記ブロッキング物質と前記蛍光標識結合物質とを同時に前記センサ部上に流下することを特徴とする請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
前記第2の粒子が、該第2の粒子内に、前記第1の蛍光色素分子が発する蛍光とは異なる波長の蛍光を発する複数の第2の蛍光色素分子を有するものであることを特徴とする請求項2から5いずれかに記載の検出方法。
【請求項7】
前記第2の粒子が、該第2の粒子内に、蛍光を発する物質を含まないものであることを特徴とする請求項2から5いずれかに記載の検出方法。
【請求項8】
前記励起光の照射により前記金属層にプラズモンを励起し、該プラズモンによって前記増強した光電場を発生せしめ、
前記蛍光標識の励起に起因して生じる前記光として、該励起によって該蛍光標識から生じる蛍光を検出することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の検出方法。
【請求項9】
前記励起光の照射により前記金属層にプラズモンを励起し、該プラズモンによって前記増強した光電場を発生せしめ、
前記蛍光標識の励起に起因して生じる前記光として、該励起によって該蛍光標識から生じる蛍光が前記金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、前記誘電体プレートに対し前記一面と対向する他面側へ放射される、前記新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の検出方法。
【請求項10】
前記センサチップとして、前記積層構造が光導波層を備える前記センサチップを用い、
前記励起光の照射により前記光導波層に光導波モードを励起し、該光導波モードによって前記増強した光電場を発生せしめ、
前記蛍光標識の励起に起因して生じる前記光として、該励起によって該蛍光標識から生じる蛍光を検出することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の検出方法。
【請求項11】
前記センサチップとして、前記積層構造が光導波層を備えるも前記センサチップを用い、
前記励起光の照射により前記光導波層に光導波モードを励起し、該光導波モードによって前記増強した光電場を発生せしめ、
前記蛍光標識の励起に起因して生じる前記光として、該励起によって該蛍光標識から生じる蛍光が前記金属層に新たにプラズモンを誘起することにより、前記誘電体プレートに対し前記一面と対向する他面側へ放射される、前記新たに誘起されたプラズモンからの放射光を検出することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の検出方法。
【請求項12】
請求項1から4、6から11いずれかに記載の検出方法において前記センサチップとして使用される検出用試料セルであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、
前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、
前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、
前記注入口と前記空気孔との間の前記流路に設けられたセンサチップ部であって、前記流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および該誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部とを備え、
前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなり、かつ該センサ部の表面に前記ブロッキング物質によるブロッキング処理を施されたものであることを特徴とする検出用試料セル。
【請求項13】
前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、前記センサ部上に固定されているものを備えることを特徴とする請求項12に記載の検出用試料セル。
【請求項14】
前記センサ部より上流側の前記流路内に配置された前記蛍光標識結合物質を備えることを特徴とする請求項13に記載の検出用試料セル。
【請求項15】
前記積層構造が、光導波層を備えることを特徴とする請求項12から14いずれかに記載の検出用試料セル。
【請求項16】
請求項1から4、6から11いずれかに記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、前記注入口と前記空気孔との間の前記流路に設けられたセンサチップ部であって、前記流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および該誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、前記被検出物質と特異的に結合する第1の結合物質であって、前記センサ部上に固定された前記第1の結合物質とを備え、前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなり、かつ該センサ部の表面に前記ブロッキング物質によるブロッキング処理を施されたものであり、前記センサチップとして使用される検出用試料セル、および
前記液体試料と同時もしくは前記液体試料の流下後に前記流路内に流下される、前記蛍光標識結合物質を含む標識用溶液を備えてなることを特徴とする検出用キット。
【請求項17】
請求項1から11いずれかに記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、前記注入口と前記空気孔との間の前記流路に設けられたセンサチップ部であって、前記流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および該誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、前記蛍光標識結合物質を前記センサ部上に固定するための第1の結合物質であって、前記センサ部上に固定された前記第1の結合物質とを備え、前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものであり、前記センサチップとして使用される検出用試料セル、
前記液体試料と同時もしくは前記液体試料の流下後に前記流路内に流下される、前記蛍光標識結合物質を含む標識用溶液、および
前記標識用溶液と同時もしくは前記標識用溶液の流下前に前記流路内に流下される、前記ブロッキング物質を含むブロッキング用溶液を備えてなることを特徴とする検出用キット。
【請求項18】
請求項5に記載の検出方法において使用される検出用キットであって、
液体試料が流下される流路を有する基台と、前記流路の上流側に設けられた該流路に前記液体試料を注入するための注入口と、前記流路の下流側に設けられた、前記注入口から注入された前記液体試料を該下流側に流すための空気孔と、前記注入口と前記空気孔との間の前記流路に設けられたセンサチップ部であって、前記流路の内壁面の一部として設けられた誘電体プレート、および該誘電体プレートの試料接触面の所定領域に設けられたセンサ部を備えるセンサチップ部と、前記蛍光標識結合物質を前記センサ部上に固定するための第1の結合物質であって、前記センサ部上に固定された前記第1の結合物質とを備え、前記センサ部が、前記誘電体プレートに隣接する金属層を含む積層構造からなるものであり、前記センサチップとして使用される検出用試料セル、および
前記液体試料と同時もしくは前記液体試料の流下後に前記流路内に流下される、前記蛍光標識結合物質と前記ブロッキング物質とを含む標識用およびブロッキング用の兼用溶液を備えてなることを特徴とする検出用キット。
【請求項19】
前記積層構造が、光導波層を備えることを特徴とする請求項16から18いずれかに記載の検出用キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17】
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【図19】
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【図18A】
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【図18B】
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【公開番号】特開2010−112748(P2010−112748A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283395(P2008−283395)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】