説明

検水の連続モニタリング方法および装置

【課題】検水中の極微量の分析対象物質の濃度を連続的に高精度にてモニタリングする。
【解決手段】検水を逆浸透膜分離装置5で処理することにより濃縮水と透過水とに分離する濃縮工程と、該濃縮工程からの濃縮水の一部を逆浸透膜分離装置5の上流側に返送する返送工程と、残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定装置10で測定する分析工程と、該分析工程の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算工程と、該検水を該測定装置10に導入して分析対象物質濃度を直接測定する検水直接測定工程と、直接測定工程での測定したブランク値によって、分析対象物質濃度演算値を補正する補正工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検水の連続モニタリング方法および装置に係り、特に供給された検水を分析対象物質濃度が高められた濃縮水と、分析対象物質濃度が低減された水とに連続的に分離しつつ、分析対象物質が濃縮された濃縮水中の分析対象物質濃度を連続的に測定する連続モニタリング方法および装置に関する。
【0002】
本発明の検水の連続モニタリング方法および装置は、半導体産業、電力・原子力産業、医薬産業、その他あらゆる産業分野において、超純水等の分析対象物質を極微量含む検水の連続モニタリング分析に有用である。
【背景技術】
【0003】
半導体製造工場では、不純物を高度に除去して純度を高めた超純水が使用されている。この超純水の水質管理項目としては、抵抗率、微粒子、生菌、TOC(Total Organic Carbon:全有機炭素)、溶存酸素、シリカ、カチオンイオン、アニオンイオン、重金属等が挙げられる。
【0004】
現在、超純水の連続分析装置(オンラインモニター)には、抵抗率計、微粒子計、TOC計、シリカ計、溶存酸素計、金属分析計などが使用されている。これらの分析計には、測定可能な下限値が存在し、例えば金属元素モニターでは、測定可能な下限値は、Na、Caについては0.1〜400μg/L程度、Feについては10ng/L程度である。
【0005】
一方で、半導体産業、電力・原子力産業、医薬産業等で使用される超純水については、近年益々その要求水質が高められている。従って、極微量の金属イオンなどの分析対象物質を含む超純水を検水として、前記の分析装置で水質管理を行うためには、超純水中の分析対象物質を分析装置の測定下限値以上の濃度にまで濃縮する必要がある。また、測定下限値以上に含まれる分析対象物質であっても、より高精度な分析結果を得るために、分析対象物質を濃縮することが必要とされる場合もある。
【0006】
従来、超純水中の分析対象物質を連続的に濃縮してモニタリングする方法としては、特開2004−77299号公報に記載されるように、逆浸透膜装置や電気脱イオン装置を多段に設けることにより、分析対象物質を高度に濃縮する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−77299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開2004−77299号公報の方法では、逆浸透膜装置等を少なくとも2段に設けることから、装置が大型化してしまうため、モニタリング装置としては実用化に耐えない。また、各金属イオン濃度が1ng/L以下という極微量しか含まれていない超純水を濃縮対象にする場合、目的の濃度にまで濃縮するには2段では不足であり、より多段に装置を設けなければ目的の濃度にまで濃縮できないことから、装置は更に大型化してしまう。
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、検水中の分析対象物質が極微量であっても、小型の装置によって分析対象物質を目的の濃度まで連続的に濃縮し、濃縮された分析対象物質の濃度を連続的に精度良くモニタリングすることが可能な検水の連続モニタリング方法および装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、特に、分析装置で分析された分析対象物質濃度を分析装置のブランク値や感度によって補正するようにした検水の連続モニタリング方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の検水の連続モニタリング方法は、検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする方法において、
検水を逆浸透膜分離装置で処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する濃縮工程と、
該濃縮工程からの濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送工程と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定装置で測定する分析工程と、
該分析工程の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算工程と、
該検水を該測定装置に導入して分析対象物質濃度を直接測定する検水直接測定工程と、
この検水直接測定工程で測定されたブランク値によって前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正するブランク補正工程と
を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2の検水の連続モニタリング方法は、請求項1において、前記返送工程において、前記逆浸透膜分離装置における逆浸透膜の膜面流速が25〜600m/Hrとなるように前記濃縮水を返送することを特徴とする。
【0012】
請求項3の検水の連続モニタリング方法は、請求項1又は2において、前記逆浸透膜分離装置に導入される水のpHが3.0〜6.95の範囲となるように調整するpH調整工程を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4の検水の連続モニタリング方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記検水は、個々の金属の金属イオン濃度が1ng/L以下の超純水であり、前記分析対象物質が金属イオンであることを特徴とする。
【0014】
請求項5の検水の連続モニタリング方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記分析工程の開始時又は検水の給水開始時に前記検水直接測定工程を行うことを特徴とする。
【0015】
請求項6の検水の連続モニタリング方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記検水直接測定工程においては、検水の一部を直接に前記測定装置に供給し、検水の残部を前記逆浸透膜分離装置に供給し、該逆浸透膜分離装置からの濃縮水を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送することを特徴とする。
【0016】
請求項7の検水の連続モニタリング方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給して該分析対象物質濃度を測定し、この工程での測定値によって該測定装置の感度を測定する感度測定工程と、
この感度測定工程で測定した感度に従って、前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正工程と
を有することを特徴とする。
【0017】
本発明(請求項8)の検水の連続モニタリング方法は、検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする方法において、
検水を逆浸透膜分離装置で処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する濃縮工程と、
該濃縮工程からの濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送工程と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定装置で測定する分析工程と、
該分析工程の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算工程と、
該測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給して該分析対象物質濃度を測定し、この工程での測定値によって該測定装置の感度を測定する感度測定工程と、
この感度測定工程で測定した感度に従って、前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正工程と
を有することを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項9)の検水の連続モニタリング装置は、検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする装置において、
検水を逆浸膜分離処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する逆浸透膜分離装置と、
該濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送手段と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定する測定装置と、
該測定装置の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算手段と、
該検水を該測定装置に直接に導入して分析対象物質濃度を測定するためのバイパスラインと、
検水を直接に該測定装置で測定したときのブランク値によって、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正するブランク補正手段と、
を有することを特徴とする。
【0019】
請求項10の検水の連続モニタリング装置は、請求項9において、
前記測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給する濃度既知液供給手段と、
該測定装置で測定した濃度既知液の分析対象物質濃度の測定値によって該測定装置の感度を演算し、この感度に従って、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正手段と
を有することを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項11)の検水の連続モニタリング装置は、検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする装置において、
検水を逆浸透膜分離処理することにより分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する逆浸透膜分離装置と、
該濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送手段と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定する測定装置と、
該測定装置の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算手段と、
該測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給する濃度既知液供給手段と、
該測定装置で測定した濃度既知液の分析対象物質濃度の測定値によって該測定装置の感度を演算し、この感度に従って、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
請求項12の検水の連続モニタリング装置は、請求項9ないし11のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置に導入される水のpHが3.0〜6.95の範囲となるように調整するpH調整手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、濃縮手段としての逆浸透膜分離装置が1段であっても、濃縮水の一部を循環して逆浸透膜の膜面流速を大きくすることにより、検水中の極微量の分析対象物質を高濃縮率で濃縮することができる。また、その濃縮に際して、検水中の分析対象物質の形態変化を起こすこともなく、また汚染の問題も殆どない。このため、従来法では分析困難であった極微量成分について、小型装置で的確に連続モニタリングすることが可能となる。
【0023】
本発明によれば、超純水のように測定装置(分析装置)の測定下限値未満の極微量の分析対象物質を含む検水を、分析対象物質の形態変化や検水の汚染を引き起こすことなく、小型の装置で容易かつ効率的に連続濃縮し、さらに連続分析することが可能となり、分析効率が格段に向上すると共に、分析に要する時間を大幅に短縮して、分析結果を運転管理等に早期に反映させることが可能となる。
【0024】
本発明では検水を直接に分析装置に導入して測定し、このときの測定値(ブランク値)によって分析対象物質濃度演算値を補正することにより、分析対象物質濃度の分析値の精度が向上する。
【0025】
即ち、本発明で測定対象とする検水中の分析対象物質濃度は極めて低いため、この検水を直接に分析装置に導入して測定した場合の測定値(分析対象物質濃度)の真値は、ほぼ0となる。実際には、分析装置の誤差によってこの検水直接測定値が0から乖離してブランク値を示すことがある。従って、このブランク値を分析対象物質濃度演算値から減算する補正(ブランク補正)を行うことにより、分析対象物質濃度測定値と分析対象物質濃度の真値との差(誤差)を小さくすることができる。
【0026】
本発明では、分析対象物質濃度が既知の液を分析装置に導入して分析し、このときの測定値を既知濃度値と対比し、分析装置の感度を求め、この感度によって、分析対象物質濃度演算値を補正してもよい。かかる感度に従った補正(従感度補正)を行うことにより、分析対象物質濃度測定値と分析対象物質濃度の真値との差(誤差)を小さくすることができる。
【0027】
なお、請求項1は、上記のブランク補正を行うモニタリング方法である。
【0028】
請求項7は、ブランク補正と従感度補正とを行うモニタリング方法である。
【0029】
請求項8は、従感度補正を行うモニタリング方法である。
【0030】
請求項9は、ブランク補正を行うモニタリング装置である。
【0031】
請求項10は、ブランク補正及び従感度補正を行うモニタリング装置である。
【0032】
請求項11は、従感度補正を行うモニタリング装置である。
【0033】
なお、一般に、測定装置(分析装置)への通水流量の変動によって測定装置のブランク値が変動するので、分析工程の開始時又は検水の給水開始時にブランク値を求めるのが好ましい。
【0034】
本発明では、検水を分析装置に直接に導入してブランク値を求める場合、検水の一部を分析装置に導入し、検水の残部については逆浸透膜分離装置に供給して逆浸透膜分離装置の運転を継続することが好ましい。このように逆浸透膜分離装置を連続して運転することにより、逆浸透膜分離装置における濃縮水の滞留が防止され、逆浸透膜の汚染(膜ファウリング)が防止される。
【0035】
本発明では、逆浸透膜分離装置における膜面流速を25〜600m/Hrと高速にすることによっても、逆浸透膜の汚染が防止される。
【0036】
本発明においては、検水に酸を添加すること等によりpHを3.0〜6.95程度に下げて濃縮水を循環させるよう構成した場合には、検水中の極微量成分を高度に濃縮しても、逆浸透膜分離装置での分析対象物質の析出が防止される。これにより、検水を高度に濃縮して精度の良い分析結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
[第1の実施の形態(ブランク補正のみ)]
第1図は、本発明の検水の連続モニタリング方法及び装置の第1の実施の形態を示す系統図である。この実施の形態は、ブランク補正を行うものである。
【0039】
検水は、配管1、ラインミキサ2及び配管3を経て逆浸透膜分離装置(以下「RO装置」と称す場合がある。)5の濃縮室5aに導入される。逆浸透膜(以下「RO膜」と称す場合がある。)5bを透過した透過水は、透過水室5cからバルブ6aを有した配管6を介して系外に排出される。なお、配管1には薬注ポンプ4aを有した配管4を介して酸が注入可能とされている。
【0040】
RO装置5の濃縮室5aから流出した濃縮水は、循環ポンプ7aを有した配管7を有して配管3に循環される。この配管7の途中から配管8が分岐しており、バルブ8a及び配管9を介して分析対象物質濃度測定用の測定装置10に濃縮水が導入可能とされている。測定装置10の測定排水は系外に排出される。
【0041】
前記検水供給用の配管1と該配管9とがバルブ11aを有した配管11で接続されており、検水が直接に測定装置10に導入可能とされている。
【0042】
このように構成されたモニタリング装置の作動について以下に説明する。
【0043】
<モニタリング時>
モニタリング時には、第1図(a)の通り、バルブ11aが閉、バルブ6a,8aが開とされ、ポンプ4a,7aがONとされる。
【0044】
これにより、検水に酸を添加してpH調整した後、RO装置5に供給して、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離し、得られた濃縮水の一部を、循環ポンプ7aでRO装置5の給水配管3に返送する。また、濃縮水の残部を測定装置10に送給して、濃縮水中の分析対象物質濃度を測定し、この結果をマイクロコンピュータよりなる演算装置(図示略)に入力し、検水中の分析対象物質濃度を演算する。
【0045】
検水に添加する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。検水は、このような酸を添加してRO装置5に流入する水(以下「RO給水」と称す場合がある。)のpHが3.0〜6.95、特に6〜6.95となるように調整される。このように、RO給水のpHを3.0〜6.95の弱酸性とすることにより、RO装置5において、検水中の極微量の分析対象物質を高濃縮率で濃縮することが可能となる。これは、検水を弱酸性とすることにより、水酸化物を形成して沈着しやすい金属をイオン化させて沈着を防止する効果による。この調整pH値が上記上限値を超えると上記効果を十分に得ることができず、上記下限値未満ではRO膜5b等の構成部材の性能劣化を引き起こす可能性がある。
【0046】
RO装置5における濃縮倍率(図1では、系内に導入される検水量と測定装置10へ送給される濃縮水量との比)は大きい程、検水中の分析対象物質が濃縮水中に高濃縮されるため、測定装置10での分析精度が上がるが、過度に高濃縮すると、濃縮水中の分析対象物質濃度が大きくなり、分析対象物質がRO膜面へ沈着して回収できない可能性がある。また、濃縮倍率を高くするには、逆浸透膜分離装置の容量を大きくする必要がある。そのため、RO装置5の濃縮倍率は2〜2000倍、特に10〜100倍程度とし、濃縮水中の分析対象物質濃度が、測定装置10の測定下限値の2〜3倍となるようにすることが好ましい。
【0047】
濃縮水は、RO膜での膜面流速が25〜600m/Hr、特に400〜450m/Hrとなるように循環することが好ましい。このようにRO膜での膜面流速を大きくすることにより、膜面の濃度分極が減少し、膜面への金属付着が抑制される。
【0048】
なお、この濃縮水の循環用の循環ポンプ7aとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製(フッ素樹脂加工製品を含む)の部材を採用したものが好適である。また、ポンプ型式としては、またモーターによる部材間接触のない磁気浮上型ポンプ等が好ましい。
【0049】
測定装置10としては特に制限はなく、分析対象物質の種類に応じて適宜決定されるが、金属イオンの分析には、イオンクロマトグラフ又は分光光度計が好適である。その他、抵抗率計、微粒子計、TOC計、シリカ計、溶存酸素計なども使用することができる。複数の測定装置を用いてもよく、この場合、これらは、直列に配置しても良く、並列に配置しても良い。
【0050】
なお、検水の濃縮に用いるRO膜には特に制限はない。
【0051】
本発明において、RO装置を2段以上に多段に設けることも可能であるが、本発明によれば、1段のRO装置で検水を十分に濃縮することができること、また、モニタリング装置の小型化を目的とすることから、RO装置は通常1段のみ設けられる。
【0052】
モニタリング対象となる検水としては特に制限はないが、一般的には、分析対象物質の含有濃度が低く、水質分析のためには濃縮を要するものであり、最も代表的なものとしては、半導体工場等で使用される超純水が挙げられる。
【0053】
モニタリングできる分析対象物質としては、分析手段としてイオンクロマトグラフを用いた場合においては、カチオン、シリカ、金属、有機酸等が挙げられる。また、分析手段として分光光度計を用いた場合においては、カチオン、シリカ、重金属等が挙げられる。
【0054】
本発明は特に、個々の金属の金属イオン濃度が1ng/L以下の超純水について、金属イオン濃度を連続モニタリングする場合に有効である。
【0055】
測定装置10で分析された濃縮水中の分析対象物質濃度から、検水中の分析対象物質濃度を次のようにして演算することができる。
【0056】
即ち、本発明のように、検水を連続的にRO膜で濃縮して濃縮水の一部を循環している場合、系内の検水の流量は略定常状態で安定しているため、検水流量、循環水量、及び濃縮水抜出量を一定に保持していれば、RO膜での濃縮倍率は一定であるとみなすことができ、下記式のように、濃縮水中の分析対象物質濃度を濃縮倍数で除した値を検水の分析対象物質濃度演算値とすることができる。
【0057】
RO装置への検水の供給量:Ff
系外へ抜き出す濃縮水量
(図1では測定装置10を介して系外へ排出される濃縮水量):Fb
濃縮水の分析対象物質濃度(モニタリング検出値):Cm
RO装置の濃縮倍率:Ff/Fb
検水中の分析対象物質濃度演算値X
=濃縮水の分析対象物質濃度/濃縮倍率=Cm/(Ff/Fb)
【0058】
本発明の一態様では、この分析対象物質濃度の演算値Xからブランク値Xを減算してこの分析対象物質濃度をブランク補正する。即ち
分析対象物質濃度(ブランク補正値)X=X−X
である。このブランク値Xは次の検水直接測定工程によって求められる。
【0059】
<検水直接測定工程(ブランク値測定)>
ブランク値を求めるには、第1図(b)のようにバルブ11aを開、バルブ8aを閉とし、配管1から検水の一部を配管11に分岐させ、この検水を測定装置10に直接に導入し、検水中の分析対象物質濃度を測定する。この検水中の分析対象物質濃度は極めて低いため、測定装置10による測定値の真値は、実質的に0(ゼロ)となる。そのため、この検水の直接測定時の測定装置10の測定値Xは、測定装置10の誤差値であり、ブランク値となる。
【0060】
そこで、X=X−Xに従って前記演算値Xからこのブランク値(X)を減算することにより、ブランク補正濃度Xが求まる。Xが正の値であれば、補正された分析対象物質値Xは演算濃度XよりもXだけ小さく、Xが負の値であれば、補正された分析対象物質値Xは演算濃度Xよりも−Xだけ大きいことになる。
【0061】
なお、このブランク値Xを測定する場合、第1図(b)の通り、配管1からの検水の残部については第1図(a)と同様に酸を添加し、RO装置5に供給し、濃縮水を循環させる。これにより、RO装置5での濃縮水の滞留が防止され、RO膜5bの汚染が防止される。そして、第1図(b)のブランク値測定運転から第1図(a)のモニタリング運転に復帰したときには、速やかに測定装置10の測定値に基づいてモニタリングを再開することができる。
【0062】
<測定装置10のメンテナンス時の通水方式>
測定装置10をメンテナンス(保守、点検。以下、「メンテ」と略)するときには、第1図(c)の通り、バルブ8a,11aの双方を閉とし、測定装置10への給水を停止する。
【0063】
なお、このメンテ時にも、検水に酸を添加し、RO装置5へ通水し、濃縮水を循環させ、RO膜5bの汚染を防止する。
【0064】
<超純水製造装置におけるモニタリング例>
このモニタリング装置を超純水製造装置の超純水のモニタリングに適用した場合の運転フローの一例を次に示す。
【0065】
<超純水製造装置からの給水がモニタリング途中で停止し、その後再開する場合>
工程0:第1図(a)の通り、バルブ8aを開、バルブ11aを閉にして連続モニタリング運転している。
工程1:超純水製造装置の初期立上げ、メンテに伴って連続モニタリング装置への検水の送給が停止した場合、検水の送給が停止するので、ポンプ4a,7aを停止する。
工程2:超純水製造装置の運転開始(再開)に伴って連続モニタリング装置への検水の送給が開始(再開)した場合、検水の送給が開始(再開)するので、ポンプ4a,7aの作動を開始(再開)する。検水のRO装置5での濃縮・循環が定常状態に到達したことを確認する。
工程3:第1図(b)の通り、バルブ8aを閉、バルブ11aを開にして、検水を測定装置10に直接に導入してブランク値Xを測定する。
工程4:第1図(a)の通り、バルブ8aを開、バルブ11aを閉にして、濃縮水を測定装置10に導入して、濃縮水中の対象物質濃度Cを測定する。
工程5:C及びRO濃縮倍率に基づいて検水の対象物質濃度Xを演算し、この演算値Xをブランク値Xで補正する。
工程6:工程0に戻る。
【0066】
<測定装置10のメンテ、試薬交換のとき>
工程10:第1図(a)の通り、バルブ8aを開、バルブ11aを閉にして連続モニタリング運転している。
工程11:バルブ8aを閉にして測定装置10への水送給を停止し、測定装置10のメンテ、試薬交換を行う。このときは検水のRO装置5での濃縮・循環を継続する。
工程12:第1図(b)の通り、バルブ11aを開にし、バルブ8aは閉のままとし、検水を測定装置10に直接に導入してブランク値Xを測定する。
工程13:第1図(a)の通り、バルブ8aを開、バルブ11aを閉にして、濃縮水を測定装置10に導入して、濃縮水中の対象物質濃度Cを測定する。
工程14:C及びRO濃縮倍率に基づいて検水の対象物質濃度Xを演算し、この演算値Xをブランク値Xで補正する。
工程15:工程10に戻る。
【0067】
[第2の実施の形態(ブランク及び従感度補正)]
第2図は、本発明の検水の連続モニタリング方法及び装置の第2の実施の形態を示す系統図である。この実施の形態は、ブランク補正及び従感度補正の双方を行うようにしたものである。
【0068】
この実施の形態では、配管11のバルブ11aよりも下流側に、濃度が既知の分析対象物質含有液よりなる標準液がポンプ12aを有した配管12によって注入可能とされている。この注入点よりも下流側において、配管11にラインミキサ13が設けられている。
【0069】
濃縮水を測定装置10に供給する配管9には四方バルブ14が設けられており、濃縮水が四方バルブ14を介して測定装置10に供給可能とされている。
【0070】
配管11はこの四方バルブ14に接続されており、配管11からの水が四方バルブ14を介して測定装置10に供給可能とされている。四方バルブ14には排水用配管15が接続されている。
【0071】
その他の構成は第1図と同じであり、同一符号は同一部分を示している。
【0072】
このモニタリング装置の作動を次に説明する。
【0073】
<モニタリング時>
モニタリング時には、第2図(a)の通り、バルブ11a,8aを開とする。四方バルブ14は濃縮水を測定装置10へ導き、配管11からの検水を配管15へ導くように流路選択される。
【0074】
標準液注入用ポンプ12aは停止している。
【0075】
濃縮水が測定装置10へ導入されることにより、第1図(a)の場合と同様にしてモニタリングが行われる。なお、測定装置10の測定結果を後述のように補正する。
【0076】
<検水直接測定工程(ブランク値測定)>
ブランク値を求めるには、第2図(b)のように四方バルブ14を流路切替し、濃縮水を配管8から配管15から排出すると共に、配管1から配管11に分取した検水を直接に測定装置10へ導入する。
【0077】
これにより、第1図(b)の場合と同様にしてブランク値Xが求められる。
【0078】
なお、この第2図(b)の場合でも、ポンプ4a,7aを作動させ、酸の添加及び濃縮水の循環を行い、RO膜5bの汚染を防止する。
【0079】
<感度測定>
測定装置10の感度測定を行うには、第2図(c)の通り、分析対象物質濃度が既知の標準液を配管11に定量添加する。配管11の検水流量は予め流量計(図示略)で計測しておく。
【0080】
なお、超純水製造装置の運転が定常状態にあるときには、検水の流量は一定であり、配管11を流れる検水流量も一定である。この流量はバルブ11aの開度によって調節可能である。
【0081】
四方バルブ14の流路選択は第2図(b)と同じであり、配管11からの標準液添加検水が測定装置10へ導入される。この標準液添加検水の分析対象物質濃度は、配管12からの標準液の添加量と配管11の検水流量とから算出される。この算出された分析対象物質濃度Xに対する測定装置10の測定濃度Xの比X/Xを感度とする。
【0082】
第2図(a)のモニタリング時の測定装置10の検出値から演算された分析対象物質濃度Xを次式に従って補正することにより、ブランク値及び感度で補正された分析対象物質濃度X’が求められる。
【0083】
X’=(X−X)/(X/X
この実施の形態ではXをブランク値Xと感度(X/X)とによって補正しているが、感度のみで補正してもよい。即ちX=0としてもよい。
【0084】
ブランク値X及び感度(X/X)の双方に基づいて第2図に示すモニタリング装置の運転を行う場合の工程は、定常モニタリング(第2図(a))→ブランク値測定(第2図(b))→感度測定(第2図(c))→定常モニタリング(第2図(a))の循環工程となる。
【0085】
上記各実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の態様とされてもよい。
【0086】
例えば、二方バルブ8a,11aの代わりに三方バルブを用いてもよい。また、二方バルブ8a,11aを自動制御してもよい。第1図においても四方バルブ14及び配管15を設け、ブランク値測定時(第1図(b))において濃縮水を配管15から排出するようにしてもよい。
【実施例】
【0087】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0088】
なお、以下の実施例及び比較例では、第1図に示す装置を用いて、検水の連続モニタリングを行った。
【0089】
RO装置5のRO膜5bとしては、日東電工社製逆浸透膜「ES−20−D4」(4inch)を使用し、RO膜5bの濃縮水の循環ポンプ7aとしては、イワキ社製レビトロ磁気浮上型ポンプ「LEV300F」(最大吐出量40L/min、最高揚程20m、最高回転数6200rpm、耐圧力0.30MPa)を用いた。また、測定装置10としては分光光度計FIAMO社製「FIAMO」を用いた。
【0090】
検水としては超純水(pH7.0)を用い、超純水中の極微量のFeイオンをモニタリング分析することとし、分光光度計でFeイオンを測定した。
【0091】
[実施例1]
RO装置5に、硝酸を添加してpH6.5とした超純水を500mL/minで供給して、濃縮水50mL/min(10倍濃縮)を循環させた。このとき、RO膜5bの膜面流速は427m/Hrとなる。
【0092】
第1図(a)のモニタリングを30分間行った後、第1図(b)のブランク値測定を30分間行い、これを繰り返し行った。そして、ブランク値でモニタリング時の演算値を補正し、結果を第3図に示した。なお、モニタリングの途中で試薬交換のために60分間だけ第1図(c)の状態とし、その後、モニタリングを再開した。
【0093】
[比較例1]
実施例1においてブランク値の取得を行わず、測定装置10からの測定値から分析対象物質濃度を演算した。なお、実施例1と同じく、モニタリングの途中で試薬交換のために60分間第1図(c)の状態とし、その後、モニタリングを再開した。結果を第3図に示す。
【0094】
第3図の通り、実施例1によると、検水中の分析対象物質濃度は変動せずに一定であることが分る。これに対し、比較例1では、第1図(c)の状態をとらせた場合に分析対象物質濃度の演算値が変動することが認められる。
【0095】
以上の結果から明らかな通り、本発明によれば、検水中の1ng/L以下の極微量の分析対象物質を連続的に高濃縮して高精度な分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施の形態に係る検水の連続モニタリング装置を示す系統図である。
【図2】別の実施の形態に係る検水の連続モニタリング装置を示す系統図である。
【図3】実施例1及び比較例1における金属イオンの測定値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
2,13 ラインミキサ
5 逆浸透膜分離装置(RO装置)
10 測定装置
14 四方バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする方法において、
検水を逆浸透膜分離装置で処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する濃縮工程と、
該濃縮工程からの濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送工程と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定装置で測定する分析工程と、
該分析工程の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算工程と、
該検水を該測定装置に導入して分析対象物質濃度を直接測定する検水直接測定工程と、
この検水直接測定工程で測定されたブランク値によって前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正するブランク補正工程と
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項2】
請求項1において、前記返送工程において、前記逆浸透膜分離装置における逆浸透膜の膜面流速が25〜600m/Hrとなるように前記濃縮水を返送することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記逆浸透膜分離装置に導入される水のpHが3.0〜6.95の範囲となるように調整するpH調整工程を有することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記検水は、個々の金属の金属イオン濃度が1ng/L以下の超純水であり、前記分析対象物質が金属イオンであることを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記分析工程の開始時又は検水の給水開始時に前記検水直接測定工程を行うことを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記検水直接測定工程においては、検水の一部を直接に前記測定装置に供給し、検水の残部を前記逆浸透膜分離装置に供給し、該逆浸透膜分離装置からの濃縮水を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、
前記測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給して該分析対象物質濃度を測定し、この工程での測定値によって該測定装置の感度を測定する感度測定工程と、
この感度測定工程で測定した感度に従って、前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正工程と
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項8】
検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする方法において、
検水を逆浸透膜分離装置で処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する濃縮工程と、
該濃縮工程からの濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送工程と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定装置で測定する分析工程と、
該分析工程の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算工程と、
該測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給して該分析対象物質濃度を測定し、この工程での測定値によって該測定装置の感度を測定する感度測定工程と、
この感度測定工程で測定した感度に従って、前記演算工程で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正工程と
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング方法。
【請求項9】
検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする装置において、
検水を逆浸膜分離処理することにより、分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する逆浸透膜分離装置と、
該濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送手段と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定する測定装置と、
該測定装置の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算手段と、
該検水を該測定装置に直接に導入して分析対象物質濃度を測定するためのバイパスラインと、
検水を直接に該測定装置で測定したときのブランク値によって、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正するブランク補正手段と、
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給する濃度既知液供給手段と、
該測定装置で測定した濃度既知液の分析対象物質濃度の測定値によって該測定装置の感度を演算し、この感度に従って、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正手段と
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング装置。
【請求項11】
検水中の分析対象物質の濃度を連続的にモニタリングする装置において、
検水を逆浸透膜分離処理することにより分析対象物質が濃縮された濃縮水と分析対象物質濃度が低減された透過水とに分離する逆浸透膜分離装置と、
該濃縮水の一部を該逆浸透膜分離装置の上流側に返送する返送手段と、
残部の濃縮水中の分析対象物質濃度を測定する測定装置と、
該測定装置の分析結果に基づいて検水中の分析対象物質濃度を演算する演算手段と、
該測定装置に分析対象物質濃度が既知の液を供給する濃度既知液供給手段と、
該測定装置で測定した濃度既知液の分析対象物質濃度の測定値によって該測定装置の感度を演算し、この感度に従って、前記演算手段で演算された分析対象物質濃度を補正する従感度補正手段と
を有することを特徴とする検水の連続モニタリング装置。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項において、前記逆浸透膜分離装置に導入される水のpHが3.0〜6.95の範囲となるように調整するpH調整手段を有することを特徴とする検水の連続モニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−44022(P2010−44022A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209898(P2008−209898)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】