説明

検知システム、マイケルソン干渉計、および、フーリエ変換分光分析装置

【課題】1つの縦モードおよび2つの縦モードが混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを容易に検知することが可能な検知システムを得る。
【解決手段】検知システムは、固定鏡15、移動鏡16、半導体レーザー22から出射されたレーザー光を分割し固定鏡15および移動鏡16の各々に反射したレーザー光を合成する光束分岐手段14、光束分岐手段14によって合成されたレーザー光を受光する受光手段25、および制御部26を備える。制御部26は、検知システムが上記の検知を行なう際には、固定鏡15に反射されるレーザー光と移動鏡16に反射されるレーザー光との光路差が変化するように、移動鏡16を移動させる。上記の検知は、受光手段25により受光されるレーザー光の干渉信号がレーザー光のコントラストが変化することによって不連続になったか否かに基づいて行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知システム、マイケルソン干渉計、および、フーリエ変換分光分析装置に関し、特に、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する検知システム、その検知システムを備えたマイケルソン干渉計、および、そのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2004/0071173号明細書(特許文献1)に開示されるように、半導体レーザーは、試験、測定、または分析などの用途に幅広く用いられる。このような分野において、半導体レーザーとしては、DBR(Distributed Bragg Reflector)型の半導体レーザー、または、DFB(Distributed Feedback)型の半導体レーザーなどが用いられている。
【0003】
これらの半導体レーザーにおいては、半導体が活性領域として使用される。半導体の屈折率は、半導体に流される電流の大きさ(半導体に流し込まれるキャリアの密度)、および半導体の温度などによって変化する。このため、一般的に、半導体に流される電流の大きさの変化または半導体の温度の変化によって、半導体レーザーから出射されるレーザー光の波長は影響され易い。
【0004】
センシングまたは分光学等の多くのアプリケーションにおいては、半導体レーザーが、1つの縦モード(シングルモード)でレーザー光を発光していることが重要である。しかしながら、半導体に流される電流の大きさまたは半導体の温度の変化によって、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が発光される場合がある。この場合、半導体レーザーを用いたセンシングまたは分光学等においては、望ましい結果を得ることが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0071173号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを容易に検知することが可能な検知システム、その検知システムを備えたマイケルソン干渉計、および、そのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づく検知システムは、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する検知システムであって、第1反射手段および第2反射手段と、上記半導体レーザーから出射されたレーザー光を上記第1反射手段に向かうレーザー光と上記第2反射手段に向かうレーザー光とに分割するとともに、上記第1反射手段および上記第2反射手段の各々に反射したレーザー光を合成する光束分岐手段と、上記光束分岐手段によって合成されたレーザー光を受光する受光手段と、制御部と、を備え、上記検知システムが、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で上記半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する際には、上記制御部は、上記第1反射手段に反射されるレーザー光と上記第2反射手段に反射されるレーザー光との光路差が変化するように、上記第1反射手段および/または上記第2反射手段を移動させ、上記受光手段により受光されるレーザー光の干渉信号がレーザー光のコントラストが変化することによって不連続になった場合には、上記制御部は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で上記半導体レーザーからレーザー光が出射されていると判断する。
【0008】
好ましくは、上記半導体レーザーは、回折格子を用いる波長安定化半導体レーザーである。好ましくは、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で上記半導体レーザーがレーザー光を出射していると判断した場合には、上記制御部は、1つの縦モードで上記半導体レーザーがレーザー光を出射するように、上記半導体レーザーの動作電流値を変化させる。
【0009】
好ましくは、上記第1反射手段に反射されるレーザー光と上記第2反射手段に反射されるレーザー光との上記光路差は、上記第1反射手段および/または上記第2反射手段の移動によって所定の範囲内で変化するように構成され、上記制御部は、上記半導体レーザーが2つの縦モードで出射している状態のレーザー光の可干渉距離を予め記憶しており、上記検知システムが、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で上記半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する際には、上記制御部は、上記光路差の最大値が上記可干渉距離よりも長くなるように、上記第1反射手段および/または上記第2反射手段を移動させ、上記光路差が所定の値から上記最大値に変化するまでの間に、上記受光手段により受光されるレーザー光の干渉信号がレーザー光のコントラストが変化することによって不連続になった場合には、上記制御部は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で上記半導体レーザーからレーザー光が出射されていると判断する。
【0010】
本発明に基づくマイケルソン干渉計は、本発明に基づく上記の検知システムと、上記光束分岐手段によって合成されたレーザー光を干渉光として検出する検出器と、を備え、上記第1反射手段は、固定鏡であり、上記第2反射手段は、移動鏡である。
【0011】
好ましくは、上記固定鏡の傾きを補正する光路補正装置をさらに備え、上記受光手段は、2以上の受光素子を含み、上記制御部は、2以上の上記受光素子の各々が受光したレーザー光の信号位相同士を比較し、上記信号位相同士の間に差がなくなるように上記光路補正装置を駆動して上記固定鏡の傾きを補正する。
【0012】
本発明に基づくフーリエ変換分光分析装置は、上記検出器が検出した上記干渉光のスペクトルを算出する演算部と、上記演算部によって得られた上記スペクトルを出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを容易に検知することが可能な検知システム、その検知システムを備えたマイケルソン干渉計、および、そのマイケルソン干渉計を備えたフーリエ変換分光分析装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態における検知システムを備えるマイケルソン干渉計、およびそのマイケルソン干渉計を備えるフーリエ変換分光分析装置を模式的に示す図である。
【図2】実施の形態における検知システムに用いられる参照検出器の構成を示す正面図である。
【図3】(A)は、実施の形態における検知システムに用いられる参照検出器が検出した干渉光の一部の強度の経時的な変化を示す図である。(B)は、実施の形態における検知システムに用いられる参照検出器が検出した干渉光の残部の強度の経時的な変化を示す図である。
【図4】参照光源が2つの縦モードでレーザー光を出射している場合の、レーザー光の波長とレーザー光の強度との関係を示す図である。
【図5】参照光源から出射されるレーザー光によって形成される光路差と、そのレーザー光の干渉光強度との関係を示す図である。
【図6】参照光源が1つの縦モードでレーザー光を出射している場合における、受光素子によって検出された干渉信号と信号強度とを、時間と信号電圧との関係として示した図である。
【図7】参照光源が1つの縦モードおよび2つの縦モードが混在している状態でレーザー光を出射している場合における、受光素子によって検出された干渉信号と信号強度とを、時間と信号電圧との関係として示した図である。
【図8】参照光源に加える駆動電流値と、参照光源から出射されるレーザー光の波長との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に基づいた実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
[実施の形態]
(フーリエ変換分光分析装置100・マイケルソン干渉計10)
図1を参照して、実施の形態におけるフーリエ変換分光分析装置100について説明する。フーリエ変換分光分析装置100は、マイケルソン干渉計10、演算部20、および出力部30を備えている。マイケルソン干渉計10は、分光光学系11、検知システムとしての参照光学系21、および光路補正装置28を含んでいる。
【0017】
(分光光学系11)
分光光学系11は、光源12、コリメート光学系13、ビームスプリッター14(光束分岐手段)、固定鏡15(第1反射手段)、移動鏡16(第2反射手段)、集光光学系17、検出器18、および平行移動機構19を有している。
【0018】
光源12は、色温度2900Kのランプ等の発光素子から構成され、赤外光等のランプ光を出射する。光源12が出射したランプ光は、参照光学系21(詳細は後述する)における光路合成鏡23に導入され、参照光源22(詳細は後述する)が出射したレーザー光と合成される。ランプ光およびレーザー光の合成によって形成された合成光は、光路合成鏡23から出射され、コリメート光学系13によって平行光に変換された後、ビームスプリッター14に導入される。ビームスプリッター14は、ハーフミラー等から構成され、設計により任意の波長の光を任意の割合で分岐することができる。ビームスプリッター14としては、光学薄膜を利用したもの、偏光板を利用したもの、または、これらを複合したものから構成されるとよい。ビームスプリッター14に導入された合成光(入射光)は2光束に分割される。
【0019】
分割された合成光(レーザー光を含む)の一方は固定鏡15に向かい、固定鏡15に照射される。固定鏡15に反射した合成光(反射光)は、反射前と略同一の光路を通過してビームスプリッター14に再び照射される。分割された合成光(レーザー光を含む)の他方は移動鏡16に向かい、移動鏡16に照射される。移動鏡16に反射した合成光(反射光)は、反射前と略同一の光路を通過してビームスプリッター14に再び照射される。固定鏡15からの反射光および移動鏡16からの反射光は、ビームスプリッター14によって合成される(重ね合わせられる)。
【0020】
ここで、分割された合成光の他方が移動鏡16に反射する際、移動鏡16は平行移動機構19によって平行を維持した状態で矢印AR方向に往復移動している。移動鏡16の速度は、たとえば100m/secである。移動鏡16の往復移動によって、固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との間には、光路長の差(以下、光路差ともいう)が生じている。
【0021】
具体的には、ビームスプリッター14によって分割され、固定鏡15による反射を経て再びビームスプリッター14に照射される合成光(レーザー光を含む)の光路長は、(L1×2)によって表される。ビームスプリッター14によって分割され、移動鏡16による反射を経て再びビームスプリッター14に照射される合成光(レーザー光を含む)の光路長は、(L2×2)によって表される。
【0022】
したがって、固定鏡15に反射される合成光と移動鏡16に反射される合成光との光路差は、|(L2×2)−(L1×2)|によって表される。固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光とは、ビームスプリッター14に合成されることによって干渉光を形成する。
【0023】
移動鏡16の位置に応じて、光路差|(L2×2)−(L1×2)|は周期的に変化する。光路差に応じて干渉光としての光の強度も連続的に変化する。光路差が、たとえば、コリメート光学系13からビームスプリッター14に照射される光の波長の整数倍のとき、干渉光としての光の強度は最大となる。
【0024】
干渉光を形成した光は、集光光学系17および光路分離鏡24を通して試料Sに照射される。具体的には、ビームスプリッター14によって合成された光は、ビームスプリッター14から干渉光として出射された後、集光光学系17によって集光される。集光光学系17によって集光された光は、検知システムとしての参照光学系21(詳細は後述する)における光路分離鏡24に導入される。光路分離鏡24によって分割された干渉光の一方が、試料Sに照射される。光路分離鏡24によって分割された干渉光の他方は、後述する参照検出器25に導入される。検出器18は、試料Sを透過した合成光(レーザー光を含む)を干渉パターン(インターフェログラム)として検出する。この干渉パターンは、CPU(Central Processing Unit)等を含む演算部20に送られる。演算部20は、収集(サンプリング)した干渉パターンをアナログ形式からデジタル形式に変換し、変換後のデータをさらにフーリエ変換する。
【0025】
フーリエ変換によって、試料Sを透過した光(干渉光)の波数(=1/波長)毎の光の強度を示すスペクトル分布が算出される。フーリエ変換後のデータは、出力部30を通して他の機器に出力されたりディスプレイ等に表示されたりする。このスペクトル分布に基づいて、試料Sの特性(たとえば、材料、構造、または成分量)が分析される。
【0026】
(参照光学系21)
検知システムとしての機能を含む参照光学系21は、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、集光光学系17、参照光源22(半導体レーザー)、光路合成鏡23、光路分離鏡24、参照検出器25(受光手段)、および制御部26を有している。コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、および集光光学系17は、分光光学系11および参照光学系21の双方の構成として共通している。
【0027】
参照光源22は、半導体レーザー等の発光素子から構成され、赤色光等のレーザー光(波長はたとえば300nm〜1100nm)を出射する。参照光源22としては、VHG(Volume Holographic Grating)型の半導体レーザー、または、FBG(Fiber Bragg Grating)型の半導体レーザーなど、回折格子を用いる波長安定化型半導体レーザーが用いられるとよい。また、参照光源22としては、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)が用いられてもよい。
【0028】
上述のとおり、参照光源22が出射したレーザー光は光路合成鏡23に導入される。光路合成鏡23はハーフミラー等から構成される。光源12からのランプ光は光路合成鏡23を透過する。参照光源22からのレーザー光は光路合成鏡23に反射される。
【0029】
光源12からのランプ光および参照光源22からのレーザー光は、光路合成鏡23によって合成された状態で、光路合成鏡23から同一光路上に出射される。光路合成鏡23から出射された合成光は、コリメート光学系13によって平行光に変換された後、ビームスプリッター14に導入されて2光束に分割される。
【0030】
上述のとおり、分割された合成光の一方は固定鏡15に照射され、反射光としてビームスプリッター14に再び照射される。分割された合成光の他方は移動鏡16に照射され、反射光としてビームスプリッター14に再び照射される。固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光とは、ビームスプリッター14に合成されることによって干渉光を形成する。なお、上述の光路長の差|(L2×2)−(L1×2)|を形成可能であれば、固定鏡15(第1反射手段)および移動鏡16(第2反射手段)が相対的に移動可能に構成されていればよく、固定鏡15および移動鏡16の双方が移動可能に構成されてもよい。
【0031】
上述のとおり、干渉光を形成した光は、集光光学系17および光路分離鏡24を通して試料Sに照射される。具体的には、ビームスプリッター14によって合成された光は、ビームスプリッター14から干渉光として出射された後、集光光学系17によって集光される。集光光学系17によって集光された光は、参照光学系21における光路分離鏡24に導入される。光路分離鏡24はハーフミラー等から構成され、光路分離鏡24によって分割された光の一方は、試料Sに照射される。光路分離鏡24によって分割された光の他方は、参照検出器25に導入される。
【0032】
光源12から出射され、光路合成鏡23、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、および集光光学系17を通して光路分離鏡24に導入された光は、光路分離鏡24を透過する。上述のとおり、光路分離鏡24を透過したこの光(干渉光)は、試料Sをさらに透過した後、検出器18によって検出される。
【0033】
一方、参照光源22から出射され、光路合成鏡23、コリメート光学系13、ビームスプリッター14、固定鏡15、移動鏡16、および集光光学系17を通して光路分離鏡24に導入された光は、光路分離鏡24に反射される。光路分離鏡24からの反射光(干渉光)は、4分割センサ等から構成される参照検出器25によって干渉パターンとして検出される。
【0034】
干渉光の干渉パターンは、CPU等を含む制御部26に送られる。制御部26は、収集した干渉パターンに基づく信号を処理し、光路分離鏡24から照射される反射光の強度を算出する。制御部26は、光路分離鏡24からの反射光の強度に基づいて、演算部20におけるサンプリングのタイミングを示す信号を生成することができる。演算部20におけるサンプリングのタイミングを示す信号は、公知の手段によって生成されることができる。
【0035】
制御部26は、光路分離鏡24からの反射光の強度に基づいて、2光路間における光の傾き(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)を算出することもできる。2光路間における光の傾きは、たとえば以下のように算出される。
【0036】
図2を参照して、4分割センサから構成される参照検出器25は、4つの受光素子E1〜E4を有している。受光素子E1〜E4は反時計回りに並んで相互に隣接している。受光素子E1〜E4によって構成される領域に、光路分離鏡24からの反射光が照射される。受光素子E1〜E4によって構成される領域の中心と、光路分離鏡24からの反射光のスポットDの中心とは略一致している。
【0037】
受光素子E1〜E4は、光路分離鏡24からそれぞれの領域に照射された反射光の強度を検出する。光路分離鏡24からの反射光の強度は、経時的に変化する位相信号として、たとえば図3(A)および図3(B)に示されるように検出される。
【0038】
図3(A)および図3(B)の各々の横軸は、時間(単位:秒)の経過を示している。図3(A)の縦軸は、受光素子E1が検出した光強度および受光素子E2が検出した光強度の和を強度A1(相対値)として示している。図3(B)の縦軸は、受光素子E3が検出した光強度および受光素子E4が検出した光強度の和を強度A2(相対値)として示している。
【0039】
図3(A)および図3(B)に示すように、強度A1と強度A2との間に、位相差Δが生じているとする。位相差Δに基づいて、2光路間での光の傾き(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)が算出される。受光素子E1〜E4からなる他の組み合わせ(たとえば受光素子E1,E4と受光素子E2,E3との組合せ)によって、他の位相差Δを得ることができる。上記の位相差Δとこの他の位相差Δとに基づいて、2光路間での光の傾きの方向(ベクトル)を算出することもできる。
【0040】
(光路補正装置28)
光路補正装置28は、制御部26における検出結果(固定鏡15からの反射光と移動鏡16からの反射光との相対的な傾き)に基づいて、固定鏡15の姿勢(ビームスプリッター14に対する角度)を調整する。当該調整によって、固定鏡15における反射光の光路が補正され、2光路間での光の傾きを無くす(若しくは減少させる)ことが可能となる。光路補正装置28がマイケルソン干渉計10内に設けられていることによって、干渉光をより精度の高く生成することが可能となる。
【0041】
(検知システム)
図1を再び参照して、検知システムについて説明する。検知システムは、参照光学系21における参照光源22から出射されるレーザー光を検知の対象としている。
【0042】
実施の形態における検知システムは、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されているか否かを検知する。1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されている場合、光路補正装置28における動作の精度(固定鏡15に対する傾き補正の精度)が低下してしまう。
【0043】
具体的に、検知システムは、参照光源22、固定鏡15、移動鏡16、ビームスプリッター14、参照検出器25、および制御部26から構成される。
【0044】
上述のとおり、参照光源22から出射され、ビームスプリッター14による分割および固定鏡15による反射を経るレーザー光と、参照光源22から出射され、ビームスプリッター14による分割および移動鏡16による反射を経るレーザー光との間には、光路差|(L2×2)−(L1×2)|が生じている。この光路差|(L2×2)−(L1×2)|は、移動鏡16の移動によって、周期的に変化するように構成されている。
【0045】
図4を参照して、冒頭に説明したように、参照光源22を構成する半導体に流される電流の大きさまたは参照光源22を構成する半導体の温度の変化によって、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射される場合がある。
【0046】
図4は、参照光源22が2つの縦モードでレーザー光を出射している場合の、レーザー光の波長とレーザー光の強度との関係を示している。図4に示すように、参照光源22が2つの縦モードでレーザー光を出射している場合には、図4中のピーク曲線M1によって表される波長−強度特性と、図4中のピーク曲線M2によって表される波長−強度特性とが共存(競合)する。
【0047】
検知システムにおける制御部26(図1参照)は、参照光源22が2つの縦モードで出射している状態(図4に示す状態)のレーザー光の可干渉距離(たとえば1mm)を予め記憶している。上述のとおり、参照光源22から出射されるレーザー光は、ビームスプリッター14によって分割される。分割された2つのレーザー光(合成光)が再び合成された際、分割された2つのレーザー光が互いに干渉するための条件として、2つのレーザー光の光路差|(L2×2)−(L1×2)|がある値を超えると、2つのレーザー光は互いに干渉光を形成しなくなる。このある値が、参照光源22から出射されるレーザー光の可干渉距離であり、参照光源22が持つ固有の特性値として制御部26に予め記憶されている。
【0048】
なお、参照光源22が1つの縦モードでレーザー光を出射している場合には、波長幅D1(図4参照)内が可干渉な波長範囲である。参照光源22が2つの縦モードでレーザー光を出射している場合には、ピーク曲線M1およびピーク曲線M2の間のピーク間隔D2(図4参照)が生じることによって、参照光源22から出射されるレーザー光の可干渉距離は短くなる。
【0049】
図5は、参照光源22から出射されるレーザー光に形成される上記の光路差|(L2×2)−(L1×2)|と、そのレーザー光の強度との関係を示す図である。参照光源22が1つの縦モードでレーザー光を出射している場合には(図5中の実線参照)、参照検出器25によって検出されるレーザー光の強度(コントラスト)は高い。移動鏡16の移動によって光路差が大きくなったとしても、高コントラストが得られる(実用的な範囲、たとえば50cm以下ではコントラストにはほとんど変化が生じない)ため、参照光源22から出射された光は干渉光を形成することができる。
【0050】
一方、参照光源22が2つの縦モードでレーザー光を出射している場合には(図5中の点線参照)、参照検出器25によって検出されるレーザー光の強度(コントラスト)は低くなる。移動鏡16の移動によって光路差が大きくなると(図中の領域RR1,RR2参照)、レーザー光のコントラストが一層低くなり、参照光源22から出射された光は干渉光を形成することができなくなる。
【0051】
検知システムは、この原理を利用する。検知システムは、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されているか否かを検知する際には、2つのレーザー光の光路差|(L2×2)−(L1×2)|の最大値が、参照光源22の上記の可干渉距離が短くなることによるコントラスト変動を検出できる程度に移動鏡16を往復移動させる。
【0052】
(1つの縦モードの場合)
図6は、参照光源22が1つの縦モードでレーザー光を出射している場合における、受光素子E1,E2(図2参照)によって検出された干渉信号P1(相対値)と、受光素子E3,E4(図2参照)によって検出された干渉信号R1(相対値)と、受光素子E1〜E4のいずれかによって検出された信号の強度S1(相対値)とを、時間と信号電圧との関係として示した図である。
【0053】
図6に示すように、参照光源22が1つの縦モードでレーザー光を出射している場合には、干渉信号P1,R1は、ほぼ連続した(安定した)値として検出されている。信号の強度S1としても、所定の値をもってほぼ連続した(安定した)値として検出されている。換言すると、信号の強度S1は、安定したなだらかな包絡線を描いている。この場合、制御部26は、1つの縦モードで参照光源22からレーザー光が出射されていると判断する。
【0054】
なお、信号の強度S1にのみ基づいて、制御部26は、1つの縦モードで参照光源22からレーザー光が出射されていると判断することができる。本実施の形態においては、参照検出器25は4つの受光素子E1〜E4から構成されるが、当該判断の目的のためには、参照検出器25は1つの受光素子から構成されていてもよい。
【0055】
(2つの縦モードの場合)
図7は、参照光源22が1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態でレーザー光を出射している場合における、受光素子E1,E2(図2参照)によって検出された干渉信号P2(相対値)と、受光素子E3,E4(図2参照)によって検出された干渉信号R2(相対値)と、受光素子E1〜E4のいずれかによって検出された信号の強度S2(相対値)とを、時間と信号電圧との関係として示した図である。
【0056】
図7に示すように、2つのレーザー光の光路差|(L2×2)−(L1×2)|が所定の値から上記の最大値に変化するまでの間に、干渉信号P2,R2は、不安定な値として検出されていることがわかる。レーザー光のコントラストが変化することによって、信号の強度S2は不連続(スパイク状)になっていることがわかる(図中点線で囲まれる部分参照)。
【0057】
これは、高コントラストな状態(参照光源22が1つの縦モードでレーザー光を出射している状態)と、低コントラストな状態(参照光源22が1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態でレーザー光を出射している状態)とが、混在している(交互に高速に入れ替わっている)ことを意味している。この場合、制御部26は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されていると判断する。
【0058】
なお、1つの縦モードの場合と同様に、信号の強度S2にのみ基づいて、制御部26は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されていると判断することができる。本実施の形態においては、参照検出器25は4つの受光素子E1〜E4から構成されるが、当該判断の目的のためには、参照検出器25は1つの受光素子から構成されていてもよい。
【0059】
制御部26は、制御部26に接続された警告部27(図1参照)を駆動して、ユーザー側にその混在状態を認識させてもよい。警告部27による警告によって、光路補正装置28(図1参照)における動作の精度(固定鏡15に対する傾き補正の精度)が低下している可能性があるということが、ユーザーによって認識される。
【0060】
この場合、ユーザーは、1つの縦モードで参照光源22がレーザー光を出射するように、参照光源22の動作電流値を変化させるとよい。参照光源22の温度を調整することによって、1つの縦モードで参照光源22がレーザー光を出射するようにしてもよい。
【0061】
また、参照光源22の動作電流値を変化させることは、制御部26によって行なわれてもよい。制御部26が、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されていると判断した場合、制御部26は参照光源22の動作電流値を増加または減少させる。
【0062】
図8は、参照光源22に加える駆動電流値と、参照光源22から出射されるレーザー光の波長との関係を示した図である。参照光源22に加える電流値が電流値Aよりも低い場合、参照光源22からは1つの縦モードでレーザー光が出射される。参照光源22に加える電流値が電流値A以上且つ電流値A以下の場合、参照光源22からは2つの縦モードでレーザー光が出射される。
【0063】
同様に、参照光源22に加える電流値が電流値Aよりも大きく且つ電流値Aよりも低い場合、参照光源22からは1つの縦モードでレーザー光が出射される。参照光源22に加える電流値が電流値A以上且つ電流値A以下の場合、参照光源22からは2つの縦モードでレーザー光が出射される。参照光源22においては、参照光源22の固有の特性として、駆動電流値を増加または減少させるにつれてこのような挙動が繰り返される。
【0064】
したがって、制御部26が、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されていると判断した場合、制御部26としては、たとえば、参照光源22に対する駆動電流値を電流値Aおよび電流値Aのちょうど真ん中の電流値Aに設定するとともに、参照光源22の温度を一定にするように制御するとよい。当該制御によって、1つの縦モードで参照光源22がレーザー光を出射することが可能となる。
【0065】
なお、電流値Aの選定としては、制御部26は、たとえば動作電流値を所定の範囲内で増減させ、参照検出器25(図1参照)が受光する光強度に基づき、上記の電流値A,A,A,Aの各値(各値同士の間隔)を取得する。その上で、制御部26は、参照光源22に対する駆動電流値を電流値Aおよび電流値Aのちょうど真ん中の電流値Aに設定するとよい。電流値Aで参照光源22が駆動されることによって、参照光源22は1つの縦モードでレーザー光を出射することが可能となり、光路補正装置28は正確な上方に基づいて固定鏡15の姿勢を補正することが可能となる。
【0066】
[実施の形態の変形例]
上述の実施の形態においては、検出システムが、マイケルソン干渉計10およびフーリエ変換分光分析装置100に適用されるという実施態様の一例に基づき説明した。本発明における検出システムとしては、以下のような態様にも適用されることができる。
【0067】
たとえば、検知システムが1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する(検知動作を開始する)際には、制御部26が、固定鏡15(に相当する部材)に反射されるレーザー光と移動鏡16(に相当する部材)に反射されるレーザー光との光路差を変化させる。この場合、たとえば、制御部26は、上記の光路差が変化するように移動鏡16を移動させ、固定鏡15については移動させない。なお、制御部26が移動鏡16を移動させる前後において、移動鏡16は周期的に光路差が変化するように動作している必要はなく、たとえば静止した状態の後、所定の距離だけ移動され、その後再び静止した状態となってもよい。
【0068】
上記の光路差が変化された後、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されている場合には、参照検出器25によって受光されるレーザーの信号は、レーザー光の強度(コントラスト)が変化することによって不連続になる。信号が不連続になったことをもって、制御部26は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で参照光源22からレーザー光が出射されていると判断することができる。このように、本発明としての検出システムは、上述の実施の形態のように上記の光路差が周期的に変化している場合に限られず、上記の光路差が周期的に変化していない場合にも適用されることが可能である。また、同様の理由により、本発明としての検出システムは、上記の光路差が所定の範囲内で非周期的に変化している場合にも適用されることが可能である。
【0069】
さらに、制御部26は、参照検出器25によって受光されるレーザーの信号が不連続になったか否かを検知する。この検知した情報によって、制御部26は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを判断することができる。このため、制御部26としては、必ずしも、半導体レーザが2つの縦モードで出射している状態のレーザ光の可干渉距離を予め記憶している必要もない。
【0070】
以上、本発明に基づいた実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
10 マイケルソン干渉計、11 分光光学系、12 光源、13 コリメート光学系、14 ビームスプリッター(光束分岐手段)、15 固定鏡(第1反射手段)、16 移動鏡(第2反射手段)、17 集光光学系、18 検出器、19 平行移動機構、20 演算部、21 参照光学系(検知システム)、22 参照光源(半導体レーザー)、23 光路合成鏡、24 光路分離鏡、25 参照検出器(受光手段)、26 制御部、27 警告部、28 光路補正装置、30 出力部、100 フーリエ変換分光分析装置、E1〜E4 受光素子、S 試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する検知システムであって、
第1反射手段および第2反射手段と、
前記半導体レーザーから出射されたレーザー光を前記第1反射手段に向かうレーザー光と前記第2反射手段に向かうレーザー光とに分割するとともに、前記第1反射手段および前記第2反射手段の各々に反射したレーザー光を合成する光束分岐手段と、
前記光束分岐手段によって合成されたレーザー光を受光する受光手段と、
制御部と、を備え、
前記検知システムが、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で前記半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する際には、
前記制御部は、前記第1反射手段に反射されるレーザー光と前記第2反射手段に反射されるレーザー光との光路差が変化するように、前記第1反射手段および/または前記第2反射手段を移動させ、
前記受光手段により受光されるレーザー光の干渉信号がレーザー光のコントラストが変化することによって不連続になった場合には、前記制御部は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で前記半導体レーザーからレーザー光が出射されていると判断する、
検知システム。
【請求項2】
前記半導体レーザーは、回折格子を用いる波長安定化半導体レーザーである、
請求項1に記載の検知システム。
【請求項3】
1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で前記半導体レーザーがレーザー光を出射していると判断した場合には、前記制御部は、1つの縦モードで前記半導体レーザーがレーザー光を出射するように、前記半導体レーザーの動作電流値を変化させる、
請求項1または2に記載の検知システム。
【請求項4】
前記第1反射手段に反射されるレーザー光と前記第2反射手段に反射されるレーザー光との前記光路差は、前記第1反射手段および/または前記第2反射手段の移動によって所定の範囲内で変化するように構成され、
前記制御部は、前記半導体レーザーが2つの縦モードで出射している状態のレーザー光の可干渉距離を予め記憶しており、
前記検知システムが、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で前記半導体レーザーからレーザー光が出射されているか否かを検知する際には、
前記制御部は、前記光路差の最大値が前記可干渉距離よりも長くなるように、前記第1反射手段および/または前記第2反射手段を移動させ、
前記光路差が所定の値から前記最大値に変化するまでの間に、前記受光手段により受光されるレーザー光の干渉信号がレーザー光のコントラストが変化することによって不連続になった場合には、前記制御部は、1つの縦モードおよび2つの縦モードの双方が混在している状態で前記半導体レーザーからレーザー光が出射されていると判断する、
請求項1から3のいずれかに記載の検知システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の検知システムと、
前記光束分岐手段によって合成されたレーザー光を干渉光として検出する検出器と、を備え、
前記第1反射手段は、固定鏡であり、
前記第2反射手段は、移動鏡である、
マイケルソン干渉計。
【請求項6】
前記固定鏡の傾きを補正する光路補正装置をさらに備え、
前記受光手段は、2以上の受光素子を含み、
前記制御部は、2以上の前記受光素子の各々が受光したレーザー光の信号位相同士を比較し、前記信号位相同士の間に差がなくなるように前記光路補正装置を駆動して前記固定鏡の傾きを補正する、
請求項5に記載のマイケルソン干渉計。
【請求項7】
請求項5または6に記載のマイケルソン干渉計と、
前記検出器が検出した前記干渉光のスペクトルを算出する演算部と、
前記演算部によって得られた前記スペクトルを出力する出力部と、を備える、
フーリエ変換分光分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−242280(P2012−242280A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113606(P2011−113606)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】