説明

極端紫外光光源装置及び極端紫外光集光鏡のクリーニング方法

【課題】極端紫外光集光鏡において、金属または金属化合物に起因するデブリで汚染された部位にクリーニング手段を効率よく作用させてデブリを除去すること。
【解決手段】パルスパワー電源15から第1電極11と第2電極12の間に電力を供給し、放電部1に高温のプラズマPを発生させる。これによりEUV光が放出される。このEUV光は、集光鏡2を介してEUV光取出部7から放出される。また、それと同時に放電部1からスズなどを含むデブリも放出され、一部が集光鏡2に到達し反射面に付着する。集光鏡2の光射出側にはクリーニングガス供給ユニット5、ラジカル発生部6が設置され、集光鏡2の非反射面2bは、絶縁性の物質で被覆されている。このため、水素ラジカルが非反射面2b等に触れたとしても失活することがなく、集光鏡に付着堆積したスズ等を含むデブリと反応することができ、クリーニングを効率よく行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外光を放射する極端紫外光光源装置及び極端紫外光集光鏡のクリーニング方法に関する。より詳細には、極端紫外光発生部分から集光光学手段(集光鏡)に向けて放出され、集光鏡に付着、堆積して集光性能、すなわち反射率を低下させるデブリに対し、効率よくデブリ除去手段を機能させるための構造を備えた極端紫外光光源装置及び極端紫外光集光鏡のクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、その製造用の投影露光装置においては解像力の向上が要請されている。その要請に応えるため、露光用光源の短波長化が進められており、エキシマレーザ装置に続く次世代の半導体露光用光源として、波長13〜14nm、特に、波長13.5nmの極端紫外光(以下、EUV(Extreme Ultra Violet)ともいう)を放出する極端紫外光光源装置(以下、EUV光源装置ともいう)が開発されている。
EUV光源装置において、EUV光を発生させる方法はいくつか知られているが、そのうちの1つにEUV光を放射するEUV放射種を加熱して励起することにより高温プラズマを発生させ、このプラズマからEUV光を取り出す方法がある。
このEUV光源装置は、高温プラズマの生成方式により、LPP(Laser Produced Plasma、レーザ生成プラズマ)方式と、DPP(Discharge Produced Plasma、放電生成プラズマ)方式とに大きく分けられる。
【0003】
LPP方式のEUV光源装置では、EUV放射種を含む原料からなるターゲットにレーザ光を照射し、レーザアブレーションにより生成した高温プラズマから放射されるEUV光を利用する。
一方、DPP方式のEUV光源装置では、EUV放射種を含む原料から電流駆動によって高温プラズマを生成し、そこから放射されるEUV光を利用する。DPP方式のEUV光源装置は、LPP方式のEUV光源装置と比較して、光源装置の小型化、光源システムの消費電力が小さいといった利点あり、実用化への期待も大きい。
上記したEUV光源装置において、波長13.5nmのEUV光を放射する放射種、すなわち高温プラズマの原料として、10価前後のキセノン(Xe)イオンとスズ(Sn)イオンが知られている。
このうち、スズは、高温プラズマの発生に必要な電気入力と波長13.5nmのEUV光出力の比、すなわちEUV変換効率(=光出力/電気入力)がキセノンより数倍大きく、高出力化が要求されている量産型EUV光源の放射種として有力視されている。
例えば、特許文献1には、EUV放射種であるスズを放電部に供給するための原料として、ガス状のスズ化合物(例えば、スタナンガス:SnH4 ガス)を使うことが記載されている。
【0004】
以下、DPP方式を例にとり、EUV光源装置の構成例を説明する。
図12に、DPP方式EUV光源装置の概略構成例を示す。
EUV光源装置は、放電容器である光源チャンバ10を有する。チャンバ10内には、例えば、リング状の第1電極(アノード)11と第2電極(カソード)12とがリング状の絶縁体13を挟んで配置される。チャンバ10は、導電材で形成された第2電極12側に配置される第1チャンバ10aと、同じく導電材で形成された第1電極11側に配置される第2チャンバ10bとから構成される。これらの第1チャンバ10aと第2チャンバ10bとは、絶縁体13により電気的に分離、絶縁されている。
リング状の第1電極11、第2電極12、絶縁材13は、それぞれの貫通穴が略同軸上に位置するように配置される。以下、第1電極11、第2電極12、絶縁材13を総称して放電部1と呼ぶこともある。
【0005】
第1チャンバ10aに設けられた原料導入口14aに接続された原料供給ユニット14より、EUV放射種を含む原料がチャンバ10a内に供給される。上記原料は、例えばSnH4 ガス、Xeガス等である。
また、第2チャンバ10b側には、図示を省略したチャンバ内圧力をモニタする圧力モニタの測定値に基づき、チャンバ内圧力調整やチャンバ内排気を行うためのガス排気ユニット9が、第2チャンバ10bに設けられたガス排出口9aに接続されている。
また、第2チャンバ10b内には、集光鏡2が設けられる。集光鏡2は、例えば、反射面形状が、回転楕円体、回転放物体形状、ウォルター型形状等の凹面ミラーを複数枚具える。これらの凹面ミラーは互いに径の異なる回転体形状である。集光鏡2は、これらの複数枚の凹面ミラーを、同一軸上に、焦点位置が略一致するように回転中心軸を重ねて入れ子状に配置された斜入射型の反射鏡として構成される。
【0006】
このようなEUV光源装置において、第1電極11、第2電極12間にパルスパワー電源15よりパルス電力が供給されると、絶縁体13表面に沿面放電(creeping discharge)が発生して第1電極11、第2電極12間は実質、短絡状態になり、パルス状の大電流が流れる。
このとき、略同軸上に配置されたリング状の第1電極11、第2電極12、絶縁体13が形成する連通穴もしくは連通穴近傍にプラズマが形成される。その後、ピンチ効果およびジュール加熱等によって、上記プラズマの略中心部に高温プラズマ領域が形成され、この高温プラズマ領域から波長13.5nmのEUV光が放射される。
【0007】
高温プラズマ領域から放射された波長13.5nmのEUV光は、集光鏡2により集光され、第2チャンバ10bに設けられたEUV光取り出し部7より外部に取り出される。このEUV光取り出し部7は、不図示の露光機の露光機筐体に設けられたEUV光入射部と連結される。すなわち、集光鏡2より集光されるEUV光は、EUV光取り出し部7、EUV入射部を介して露光機へ入射する。
高温プラズマ領域(図1に示す構成例では、略同軸上に配置されたリング状の第1電極11、第2電極12、絶縁体13が形成する連通穴もしくは連通穴近傍)と集光鏡2との間には、フォイルトラップ3が設置される。
フォイルトラップ3は、高温プラズマと接する金属(例えば、第1電極11、第2電極12)が上記プラズマによってスパッタされて生成する金属粉等のデブリや、スタナンガスを用いる場合は、スズ等の放射種に起因するデブリを捕捉して、EUV光のみを通過させる。
上記デブリが集光鏡2に到達し、集光鏡2の反射面に衝突したり付着したりすると、集光鏡2の反射性能が損なわれる。フォイルトラップ3は、上記デブリが集光鏡2に到達することを抑制するために設けられる。上記フォイルトラップ3は、例えば特許文献2に記載されているように、高温プラズマ発生領域の径方向に設置される複数のプレートからなる。
【0008】
なお、集光鏡2に到達するデブリの量を更に少なくするために、放電部1と集光鏡2との間の領域に、ガスカーテンを形成してもよい。具体的には、EUV光を減衰させないガスを供給するガス供給ユニット16に接続されたガスカーテンノズル4を配置する。
ガス供給ユニット16から供給されるガスは、ガスカーテンノズル4によりガス流がデブリと交錯するように供給される。
このように形成されたガスカーテンは、放電部1から放出され集光鏡2に向かって飛散するデブリに対して、局所的にガスの圧力が高い部分を作り出してデブリを減速させ、デブリが集光鏡2に到達することを妨げる。
また図12に示すEUV光源装置は、図示を省略した制御部を有する。この制御部は、露光機制御部からのEUV発光指令等に基づき、パルスパワー電源15、原料供給ユニット14、ガス排気ユニット9、ガス供給ユニット16を制御する。
【特許文献1】特開2004−279246号公報
【特許文献2】特表2002−504746号公報
【特許文献3】特開2006−202671号公報
【特許文献4】特開平11−21677号公報
【特許文献5】特開2000−45076号公報
【特許文献6】特開2000−212766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、EUV放射種であるスズを放電部に供給するための原料として、ガス状のスズ化合物(例えば、スタナンガス:SnH4 ガス)を使ったEUV光源の開発が進められている。
しかしながら、スズは、蒸気圧が低く室温程度では固体である。したがって、光源チャンバ内に導入されるスズおよび/またはスズ化合物を加熱して励起し高温プラズマを発生させたときに、スズに起因する大量のデブリも発生するという問題がある。
EUV光源装置では、光源チャンバ内で発生させた高温プラズマから放出されるEUV光を、光源チャンバ内に配置された集光鏡を介して外部に放出する。しかしながら、この集光鏡の反射面にスズに起因するデブリが付着した場合、集光鏡の波長13.5nmのEUV光に対する反射率が低下し、結果として、外部に放出されるEUV光出力が低下する。
【0010】
この問題に対して、集光鏡の反射面に付着、堆積したスズを物理的および/または化学的に除去するクリーニング手段がある。例えば、特許文献3には、チャンバ内に水素ラジカルを導入して、集光鏡に付着したスズと反応させ、当該スズを化学的に除去する方法が提案されている。
図12に示す構成例で説明すると、クリーニングガス供給ユニット5から水素ラジカルが供給され、クリーニングガス供給部51から集光鏡2に対して水素ラジカルが供給される。なお、クリーニングガス供給部51は、集光鏡2により集光されるEUV光をできるだけ遮光しないように構成される。
しかしながら、集光鏡2は上記したように、複数枚の凹面ミラーを、回転中心軸を重ねて入れ子状に配置した複雑な構造を持つため、クリーニング手段である水素ラジカルを、スズで汚染されたミラーの反射面に向けて吹き付けるといった方法で効率よく作用させることが困難であり、実際には、集光鏡2の光出射側や光入射側から、入れ子状に配置したミラーとミラーの間に、水素ラジカルを流し込むようにして供給する。
【0011】
上記したような構成の集光鏡2に対して、例えば、水素ラジカルをクリーニングガス供給部51から供給した場合を考える。
斜入射型の反射鏡である集光鏡2の複数のミラーは、上記のように入れ子構造になっている。よって、外側のミラーの反射面は、内側のミラーの非反射面近傍に位置する。
そのため、供給した水素ラジカルは、図13に示すように、一部は直接スズで汚染した反射面に到達するが、一部は内側のミラーの非反射面に衝突して反射し対向する反射面に向かう。
しかし、水素ラジカルは不対電子を持ち、何らかの物質と電子を共有することで化学的に安定しようとする性質がある。したがって、水素ラジカルは、スズと反応するだけでなく、容器内の導体(金属)部分とも反応し、高い反応性を失う。このような現象を失活と呼ぶことがある。
上記したようにミラーの基体材料は金属製であるのでミラーの非反射面に衝突した水素ラジカルは失活する。
すなわち、上記したような構成に集光鏡2に対して水素ラジカルを供給する場合、供給した水素ラジカルが失活する割合が大きく、結果として、クリーニングの効率が低下する。
【0012】
本発明は、この問題点を解決するためになされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、極端紫外光集光鏡において、金属または金属化合物に起因するデブリで汚染された部位にクリーニング手段を効率よく作用させてデブリを除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなる斜入射型の極端紫外光集光鏡において、各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側(裏面側)を絶縁物で被覆する。
各凹面ミラーの非反射面側を絶縁物で被覆すると、ガスラジカルを含むクリーニングガスが各凹面ミラーの非反射面側に触れたとしても失活が少ない。このため、上記集光鏡の反射面に付着堆積した、極端紫外光を放射させるための放射種である金属または金属化合物に起因するデブリと反応することができ、クリーニングを効率よく行なうことができる。なお、後述するように各凹面ミラーの非反射面側を絶縁物で被覆するとクリーニングの効率が上がることは実験で確認している。
すなわち、本発明においては、前記課題を次のように解決する。
(1)ガスラジカルを含むクリーニングガスを前記集光鏡の反射面に供給するクリーニングガス供給手段を有する、径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなる斜入射型の極端紫外光集光鏡において、前記集光鏡の各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側を絶縁物で被覆する。
(2)極端紫外光を放射させるための放射種である金属または金属化合物を含む原料が供給され、高温プラズマが発生する容器と、当該容器内に配置され、径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなり、前記高温プラズマから放射される極端紫外光を集光する斜入射型の極端紫外光集光鏡を有する極端紫外光光源装置において、ガスラジカルを含むクリーニングガスを前記集光鏡の反射面に供給するクリーニングガス供給手段を設け、前記各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側を絶縁物で被覆する。(3)上記(2)において、前記クリーニングガス供給手段を、容器内を移動可能に構成する。
(4)上記(2)(3)において、前記ガスラジカルとして、高温プラズマ発生の結果生じるデブリと反応することにより高蒸気圧の化合物を形成するものを用いる。
(5)上記(2)(3)(4)において、前記ガスラジカルとして、水素ラジカル、もしくは塩素ラジカルを用いる。
(6)径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなる斜入射型の極端紫外光集光鏡に付着した、極端紫外光を放射させるための放射種である金属または金属化合物に起因するデブリを除去する極端紫外光集光鏡のクリーニング方法において、予め、各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側を絶縁物で被覆しておき、上記金属または金属化合物に起因するデブリと反応したとき高蒸気圧の化合物となるガスラジカルを含むクリーニングガスを前記極端紫外光集光鏡に対し導入する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では以下の効果を得ることができる。
極端紫外光集光鏡の非反射面側を絶縁物で被覆することにより、クリーニングガスが金属または金属化合物に起因するデブリで汚染された反射面以外に作用してクリーニング能力が消失することを少なくすることができる。
これにより、極端紫外光集光鏡の反射面にクリーニングガスを効果的に作用させることができ、クリーニング手段による極端紫外光集光鏡のEUV反射率回復に要する時間短縮が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1)第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施例に係るDPP方式のEUV光源装置の概略構成例を示す図であり、図1(a)はEUV光源装置の断面図(EUV光の光軸を通る平面で切った断面図)、図1(b)は、ラジカル発生部の断面図(EUV光の光軸に垂直な平面で切った断面図)を示し、図12と同じ構成の部分については詳細な説明を省略する。
図1(a)において、真空容器である光源チャンバ10内には、第1電極11と第2電極12が、絶縁体13を挟んで配置され、EUV光源装置の放電部1を構成する。
第1電極11および第2電極12はリング状であり、絶縁体13もリング状であって、貫通穴が略同軸上に位置するよう配置される。
ここで、第1電極11と第2電極12はパルスパワー電源15に接続され、絶縁体13によって電極11、12間は電気的に絶縁されている。第1電極11および第2電極12は、例えば、タングステン、モリブデン、タンタルなどの高融点金属から構成される。絶縁体13は、例えば、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などのプラズマ耐性の高いセラミックスなどから構成される。
【0016】
光源チャンバ10は、第1チャンバ10aと第2チャンバ10bとから構成される。第1チャンバ10aに接続された原料供給ユニット14から、EUV放射種であるスズを供給するための原料として、例えばスタナン(SnH4 )を放電部1に供給しながら、第1電極11と第2電極12の間で放電させると、EUV放射種を含む原料が加熱され励起され、放電部1の略中心部(貫通穴の中心部)でプラズマPが発生する。
このプラズマPは、極めて高温でなければリソグラフィに利用する波長13.5nmのEUV光を放出することができない。そこで、DPP方式のEUV光源装置では、電源15からプラズマPに入力する電力をパルス電力としている。すなわち、短時間に大きなピーク値を持つ電力を投入して、高温プラズマを発生させる。具体的には、瞬間的な放電を繰り返し行うパルス駆動方式を採用している。
すなわち、パルスパワー電源15から第1電極11と第2電極12との間に電力が供給されると、絶縁体13表面に沿面放電(creeping discharge)が発生して、第1電極11と第2電極12間は実質、短絡状態になり、第1電極11、第2電極12間にパルス状の大電流が流れる。そこで生じる自己磁場により、プラズマを強力に圧縮して衝撃波加熱を行うと同時にジュール加熱も行われる。このようにして放電部1の略中心部(貫通穴の中心部)に高温のプラズマPが発生し、この高温のプラズマPからEUV光が放出される。
【0017】
放電部1で発生したEUV光は、第2チャンバ10b内に配置された集光鏡2を介してEUV光取出部7より図示略の露光機側光学系に向けて放出される。
集光鏡2は、上記したように、複数枚の薄い凹面ミラーを入れ子状に高精度に配置した構造の斜入射型反射鏡である。各凹面ミラーの反射面の形状は、例えば、回転楕円面形状、回転放物面形状、ウォルター型形状であり、各凹面ミラーは回転体形状である。ここで、ウォルター型形状とは、光入射面が、光入射側から順に回転双曲面と回転楕円面、もしくは、回転双曲面と回転放物面からなる凹面形状である。
上記した各凹面ミラーの基体材料は、例えば、ニッケル(Ni)等の金属であり、金、銀、銅など電鋳法で基体を形成できる他の材質でも良い。波長が非常に短いEUV光を反射させるので、凹面ミラーの反射面は、非常に良好な平滑面が要求される。この平滑面に施される反射材は、例えば、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、およびロジウム(Rh)などの金属膜である。各凹面ミラーの反射面には、このような金属膜が緻密にコーティングされる。
なお、LPP方式のEUV光源装置においては、光学系が直入射型集光光学系で構成されることもあり、ミラーの反射面に施される反射材としては無機多層膜が使用される。
【0018】
集光鏡2は、反射面形状が回転楕円面形状、回転放物面形状、ウォルター型形状等いずれかの形状であって、径が互いに異なる回転体形状の凹面ミラーを複数枚具える。EUV集光鏡を構成するこれらの凹面ミラーは、同一軸上に、焦点位置が略一致するように回転中心軸を重ねて入れ子状に配置される。このように凹面ミラーを入れ子状に高精度に配置することにより、EUV集光鏡は、0°〜25°の斜入射角度のEUV光を良好に反射し、かつ、集光できるように構成される。なお、外側のミラーと内側のミラーの形状は異なるものであっても良い。
【0019】
図2、図3は集光鏡2の構造例を示す図であり、図2は集光鏡を光軸を通る平面で切った断面図(図3のA−A断面図)、図3は集光鏡を光出射側から見た図を示す。なお、同図は、各凹面ミラーの反射面形状がウォルター型形状の場合を示しているが、回転楕円面形状、回転放物面形状、等いすれかの形状であってもよい。以下、反射面形状がウォルター型形状の凹面ミラーをウォルターミラーと呼ぶことにする。
図2、図3では、例として径が互いに異なる5枚のウォルターミラーa,b,c,d,eを入れ子状に配置したものを示している。各ウォルターミラーa,b,c,d,eの反射面は、光入射側から双曲面形状、楕円面形状となっている。
図3に示すように、各ウォルターミラーa,b,c,d,eの光出射側には、例えば銅製の外周リング(スパイダーフランジ)200bとミラー保持板(スポーク)200cから構成されるミラー固定用部材(スパイダー)200aが設けられる。各ウォルターミラーa,b,c,d,eの光出射側の端部は、図2に示すように、ミラー保持板(スポーク)200cの溝に嵌め込まれ、例えば接着剤あるいは固定金具などで固定される。
なお、図1や以下に示す図4、図5、図6においては、理解を容易にするために、集光鏡2の凹面ミラーは、2枚のみ示されている。
【0020】
放電部1において発生した高温プラズマPからEUV光が放出されるのは上記の通りであるが、それと同時に放電部1からはデブリも同時に放出され、光源チャンバ10内に飛散する。ここでいうデブリとは、高温プラズマにより浸食された電極や絶縁体、放電に寄与して分解された原料、放電に寄与せずに排出された原料、反応生成物などのことである。
そこで、放電部1と集光鏡2との間の領域に、図1に示すように水素、水素とヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトン、または窒素のうち、少なくとも1つを含む混合ガスを供給するガス供給ユニット16に接続されたガスカーテンノズル4を配置する。また、チャンバ内圧力調整やチャンバ内排気を行うためのガス排気ユニット9が、第2チャンバ10bに設けられたガス排出口9aに接続されている。
また図1に示すEUV光源装置は、図示を省略した制御部を有する。この制御部は、露光機制御部からのEUV発光指令等に基づき、パルスパワー電源15、原料供給ユニット14、ガス排気ユニット9、ガス供給ユニット16を制御する。
第1ガス供給ユニット16から供給されるガスは、ガスカーテンノズル4によりガス流がデブリと交錯するように供給される。このように形成されたガスカーテンは、放電部1から放出され集光鏡2に向かって飛散するデブリに対して、局所的にガスの圧力が高い部分を作り出してデブリを減速させ、デブリが集光鏡2に到達することを妨げる。
【0021】
さらに、ガスカーテンノズル4と集光鏡2との間の領域には、フォイルトラップ3が配置される。フォイルトラップ3は、例えば、タングステンやモリブデンといった高融点金属から構成される。
しかしながら、実際にはガスカーテンおよびフォイルトラップ3によってデブリを全て阻止することは困難であり、集光鏡2に到達してしまうデブリもある。ここで、集光鏡2に到達にするデブリの主成分はスズである。特に、集光鏡2に到達し、集光鏡2の反射面にスズに起因するデブリが付着した場合、集光鏡の波長13.5nmのEUV光に対する反射率が低下し、結果として、EUV光取出部7から外部に放出されるEUV光出力が低下する。
このようにして付着したスズを除去するために、EUV光源装置においては、光源チャンバ10内の常温、減圧下で固体であるスズに対して、クリーニングガスを供給している。このクリーニングガスは、主にスズとの化学反応により高蒸気圧のスズ化合物を生成するものである。すなわち、クリーニングガスとスズとを化学反応させて、高蒸気圧のスズ化合物を生成し、それらが気化することにより、集光光学手段からスズを除去する。
【0022】
本実施例のEUV光源装置は、EUV光源装置を発光動作させながら集光鏡2のクリーニングを行なうことが可能なように構成されている。具体的には、集光鏡2の光射出側にクリーニングガス供給ユニット5を配置する。
また、光源チャンバ10内にラジカル発生部6を設置する。ラジカル発生部6は、クリーニングガス供給ノズル6aとフィラメント6bで構成される。フィラメント6bは、図1(b)に示すように集光鏡2の各凹面ミラーの端部に沿うように形成されている。
また、クリーニングガス供給ノズル6aは、フィラメント6bに対してクリーニングガスを供給するようなノズル開口形状に構成されている。更にクリーニングガス供給ノズル6aは、ガス供給管形状が図3に示すスパイダー200aの形状に相似するように形成され、スパイダー200aに沿うように配置されている。
上記のように、クリーニングガス供給ノズル6a並びにフィラメント6bを構成、配置することにより、集光鏡2で反射され、そして、集光されるEUV光が、クリーニングガス供給ノズル6a並びにフィラメント6bによってできるだけ遮光されないようにしている。
なお、クリーニングが必要な集光鏡2の内部に水素ラジカルを集中させるために、クリーニングガス供給ノズル6aのガス出口部分をシャワー状としてもよい。
【0023】
ラジカル発生部6は、クリーニングガス供給ユニット5に接続される。加熱電源17により1600℃〜2000℃に通電加熱されたタングステン製のフィラメント6bに向けて、クリーニングガス供給ノズル6aから水素ガスを供給すると、フィラメント表面で水素ガスの分子が接触、解離して、化学的活性の高い水素ラジカル(原子状水素)となる。このとき、フィラメント6bの温度は高ければ高いほど多くの水素ラジカルを生成できるが、フィラメント自身が蒸発して消耗するとともに集光鏡2を汚染するため、1600°C〜2000°Cが適当である。
生成した水素ラジカルは、集光鏡2の反射面2aに付着、堆積したスズと反応し、スズ水素化物となる。スズ水素化物、例えば四水素化スズ(SnH4 )は常温で気体なので、スズと水素が化合した後ただちに気化する。したがって、集光鏡2の反射面2aからスズを取り去ることができる。ここで、水素分子(H2 )を集光鏡2に供給してスズと反応させてもよいが、分子状の水素だけでは化学的に安定なため、集光鏡のスズ除去に十分な量の反応が得られないことが実験的にわかっている。
【0024】
しかしながら、上記のように、クリーニングガスである水素ラジカルは金属に接触しても、高い反応性は失われる(失活する)。しかし、水素ラジカルの失活は、自由電子を多数持つ金属等の導電物質では顕著だが、プラスチックやセラミックスなどの絶縁性の物質では起こりにくくなる。
そこで、本発明では集光鏡2の非反射面2bに絶縁性の物質、例えばPTFE(四フッ化エチレン)といったフッ素樹脂で被覆する。この被覆は、集光鏡2の非反射面2bだけでなく、光源チャンバ10の壁面にも行ってよい。
このように集光鏡2の反射面2a以外の金属面を絶縁性の物質により被覆することにより、クリーニングガスである水素ラジカルは、たとえ非反射面2bや光源チャンバ10の壁面に触れたとしても失活することないので、非反射面2bに対向する反射面2aに付着堆積したスズと反応することができ、クリーニングを効率よく行なうことができる。
すなわち、真空チャンバ内に供給された水素ラジカルの利用効率が向上するのでクリーニング時間を短縮できる。
【0025】
各凹面ミラーの非反射面側を絶縁物で被覆すると、クリーニングの効率が上がることは、次のような簡易的な実験により確認した。
図7に示すように、圧力0.5Torr(66.7Pa)の真空容器(チャンバ)100内に2枚の板101を立て、その間に、ラジカル源102から水素ラジカルを500sccmの流量で流し、分光器103により2枚の板101の間を通過した後の水素ラジカルの密度を測定した。
2枚の板101が、両方ともアルミ板(金属板)である場合、水素ラジカルの密度は1×1015〜1.5×1015cm-3であったが、2枚のうち一方をマイカ板(絶縁板)とすると、水素ラジカルの密度は2×1015〜4×1015cm-3となり、1.2倍から4倍に増えた。なお、密度は室温(300K)を想定しているが、ラジカル源のガス温度はもっと高温なので、密度の数値は、これより少ない可能性がある。
水素ラジカルの密度が多いということは、活性なラジカルが多く残存しているということを示すものであり、その分ミラーをクリーニングする効果が大きい。
【0026】
集光鏡2の非反射面2bに被覆する材料としては、上記のPTFE(四フッ化エチレン)や、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)やFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂)といったフッ素樹脂があげられる。これらのフッ素樹脂被覆は塗装と焼成により形成される。
集光鏡2を形成する複数のミラーの間隔は約5mmであり、非反射面2bに形成する被覆の厚さは、厚すぎると集光鏡の反射面2aに入射する光や、反射面2aにより反射された光をさえぎる可能性があるため、0.1mm〜0.3mmが適切と考えられる。
また、非反射面2bに被覆する材料として、セラミックスを用いても良く、具体的には、アルミナ(Al2 3 )、チタニア(TiO2 )、ジルコニア(ZrO2 )等があげられる。これらのセラミックス被覆は溶射により形成される。
溶射とは、被覆する物質を、加熱して柔らかくし、これを吹き付けて貼り付ける方法であり、例えば、前記特許文献4,5,6に記載されている。
被覆するセラミックスの厚さは、厚いと基体である金属の膨張率の違いから割れやすくなり、反対に薄いとはがれやすいので、やはり0.1mm〜0.3mmが適切と考えられる。
【0027】
次に、図8に基づき、非反射面2bに、絶縁物であるフッ素樹脂やセラミックスを被覆した集光鏡2の製造手順を簡単に示す。なお、同図はミラーの断面図を示している。
図8(a)に示すように、集光鏡2の各凹面ミラーの基体材料(例えばニッケル)の反射面に、例えばルテニウムの反射膜を、真空中でスパッタにより形成する。基体材料の厚さは、例えば2mmであり、図8(b)に示すように、集光鏡2の凹面ミラーの、光が入射する側と出射する側の開口を蓋2cでふさぎ、被膜が反射面側に回りこまないようにして、凹面ミラーの外側にセラミックスを溶射する。溶射時、ミラーの温度が100°C〜200°C程度に上昇すると考えられるが、反射膜は800°C程度にまで耐えられるので問題はない。
なお、溶射を行う雰囲気は、水分を含まない雰囲気であることが望ましい。なぜなら、凹面ミラーを、水分を含む雰囲気中に長時間さらしておくと、凹面ミラーの表面に水分が吸着する。そのような凹面ミラーを極端紫外光光源装置のチャンバ内に配置すると、凹面ミラーからの水分がチャンバ内を汚染する可能性があるためである。
また、被覆としてフッ素樹脂を用いる場合であれば、被覆を凹面ミラーに形成する方法として、溶射ではなく塗布でも良い。
上記のようにして、内側に反射面が、外側に化学的に不活性な被覆が形成された径の異なる凹面ミラーを複数作成する。複数の凹面ミラーを径の小さいものから順番に、図8(c)に示すように入れ子状に中心軸を重ねて、ミラー固定用部材200aに固定し、図2に示す集光鏡を製作する。
【0028】
(2)第2の実施形態
次に、水素ラジカル発生手段として高周波放電を適用した実施例を図4に示す。図4は前記図1に示した加熱電源17とフィラメント6bに代えて、高周波電源18とコイル6cを用いたものであり、その他の構成は、図1と同様である。
図4に示すように集光鏡2の光射出側にクリーニングガス供給ユニット5を配置する。また、光源チャンバ10内にラジカル発生部6を設置する。ラジカル発生部6は、クリーニングガス供給ノズル6aとコイル6cで構成される。ラジカル発生部6は、クリーニングガス供給ユニット5に接続される。コイル6cは高周波電源18に接続されている。クリーニングガス供給ノズル6aから水素ガスを供給すると、コイル6cに印加された高周波電力によりプラズマが発生する。プラズマ中ではガスが電離してイオンとなるが、イオンの寿命は数ナノ秒から数十ナノ秒なので、実際に集光鏡2のクリーニングに寄与するのは、水素ラジカルである。
【0029】
このようにして発生した水素ラジカルは、第1の実施例と同様に集光鏡2の反射面2aに作用して、付着したスズと反応することでクリーニングを行う。なお、高周波放電を用いた方法では、クリーニングガスとして塩素を含むガスを用いてもよい。塩素はイオン化エネルギーが高く塩素のみでは放電しにくいため、アルゴンなどに塩素を混合して塩素プラズマを発生させることが多い。プラズマ中で発生した塩素ラジカルは、スズと結合して塩化スズとなる。塩化スズは、水素化スズと同様に蒸気圧が比較的高いため、スズを気化させることで集光鏡2がクリーニングされる。
【0030】
本実施例においても、集光鏡2の非反射面2bは、フッ素樹脂やセラミックスといった化学的に不活性な物質により被覆されている。そのため、被覆のない金属を非反射面2bとした場合と比較して、クリーニングガスである水素ラジカルや塩素ラジカルが失活することなく集光鏡の反射面2aに作用するので、クリーニングを効率よく行なうことができる。
すなわち、真空チャンバ内に供給された水素ラジカルや塩素ラジカルの利用効率が向上するのでクリーニング時間を短縮できる。
なお、実施例1に示すEUV光源装置と同様、集光鏡2の非反射面2bだけでなく、光源チャンバ10の壁面も同時に化学的に不活性な物質を被覆してもよい。
【0031】
(3)第3の実施形態
第1の実施例および第2の実施例で示したラジカル発生部6は、必ずしも光源チャンバ10内に設置する必要はなく、例えば図5に示すように光源チャンバ10に接続して使用してもよい。なお、図5は前記図4に示したコイル6cを有するラジカル発生部6をチャンバ10に接続された容器内に設けたものであり、その他の構成は図4と同様である。
この場合、集光鏡2により集光されるEUV光の光路から外れた位置にラジカル発生部6を設置することが可能であり、これにより、ラジカル発生部6の少なくとも一部がEUV光を遮光し、結果としてEUV光の利用効率が低下するという不具合は発生しなくなる。
【0032】
本実施例においても、第1の実施例、第2の実施例と同様、集光鏡2の非反射面2bは、フッ素樹脂やセラミックスといった化学的に不活性な物質により被覆されている。そのため、被覆のない金属を非反射面2bとした場合と比較して、クリーニングガスである水素ラジカルや塩素ラジカルが失活することなく集光鏡の反射面2aに作用するので、クリーニングを効率よく行なうことができる。すなわち、真空チャンバ内に供給された水素ラジカルや塩素ラジカルの利用効率が向上するのでクリーニング時間を短縮できる。
なお、本実施例においては、集光鏡2により集光されるEUV光の光路から外れた位置にラジカル発生部6を設置するので、ラジカル発生部6と集光鏡2との距離が、幾分、遠くなる可能性がある。よって、生成後のラジカルの流路においてラジカルの失活をできるだけ最小限としたい。
そこで、集光鏡2の非反射面2bのみならず、ラジカルの流路にある導電性物質表面(例えば、光源チャンバ10の壁面)に、化学的に不活性な物質、例えばPTFE(フッ素樹脂)で被覆すると効果的である。
【0033】
図1〜図5に示した実施例では、ラジカルの失活を抑制するための構造を備えた集光鏡2に対するラジカル発生、輸送の形態について記した。EUV光源における集光鏡2の寿命は、例えば、反射率が使用開始時の90%以下になったときと定義される場合がある。したがって、ガスカーテン、フォイルトラップなどのデブリ低減手段の性能や、放電部のデブリ発生量次第で、クリーニングの実施タイミングを決定してもよい。
【0034】
(4)第4の実施形態
クリーニングに使用する水素や塩素などのガスは、EUV光の吸収が全くないとは言えず、また、例えば、第1の実施例にて用いるクリーニングガス供給ノズル6aなどの構造物により遮蔽されるEUV光もある。そのため、放電動作中の集光鏡クリーニングは、EUV光取り出し部7に到達するEUV光を減衰させるというデメリットもある。そこで、放電動作中にクリーニングを行うのではなく、例えば、反射率が95%以下に低下したとき、例えば、集光鏡上のスズ堆積量が0.5nm以上になったとき、などにEUV光源装置を停止させてクリーニングを行ってもよい。
【0035】
図6は、ラジカル発生部を退避させる機構、膜厚センサ等を備えたEUV光源装置の構成を示す図であり、その他の構成は、実施例1に示すEUV光源装置と同様である。なお図6では、露光機制御部31からのEUV発光指令等に基づき、パルスパワー電源15、原料供給ユニット14、ガス排気ユニット9、ガス供給ユニット16を制御する制御部30が示されている。
図6に示すように、集光鏡2の付近に膜厚センサ19を設置して、集光鏡上に堆積するスズの膜厚を監視する。あるいは、EUV光センサ20を設置して、EUV光源装置の放電動作開始時の光出力と比較、監視する。ここで、EUV光センサ20は、一定期間ごとに集光鏡2で反射されたEUV光の監視を行い、それ以外のときは集光鏡2の光路外に移動して、極力EUV光を遮らないようにする。
まず、クリーニングにより発生するスズ化合物がEUV光取出部7を通過して露光機まで到達しないように、ゲートバルブ21を閉じる。
【0036】
そして、発生したラジカルを効率よく集光鏡2まで輸送できるように、ラジカル発生部6を集光鏡2付近まで移動させる。なお、図6では図1と同様のフィラメント型ラジカル源を用いているが、図4のようなプラズマ源を使用してもよい。
ラジカルを発生させ、膜厚センサ19の測定値から堆積したスズが除去されたことを確認したら、クリーニングを終了する。終了後は、ラジカル発生部6を移動させ、ゲートバルブ21を開いてから、放電動作を再開する。あるいは、ゲートバルブ21を閉じたままで放電を再開してEUV光センサ20で光出力を測定し、堆積したスズが除去されたことを確認したら、クリーニングを終了する。終了後は、ラジカル発生部6を移動させ、ゲートバルブ21を開いてから、放電動作を再開する。
【0037】
以下、本実施例のEUV光源装置におけるクリーニング処理例について、図9、図10のフローチャート、図11のタイムチャートを用いて説明する。なお、下記の手順では、クリーニングガスとして水素ラジカルを用いた例を示す。しかしながら、クリーニングガスは水素ラジカルに限るものではなく、上記したような塩素ラジカルを用いてもよい。
また、以下に示すクリーニング処理例は、主として膜厚センサ19の測定データに基づく例を示す。
まず、図9に示すように、露光機の制御部31より、EUV光源装置の制御部30にEUV発光指令信号が送出される(図9のS101、図11のa)。EUV発光指令待機状態であった制御部30は、EUV発光指令信号を受信後、パルスパワー電源15を駆動して第1電極11、第2電極12間に高電圧パルスを印加させる。上記電極間への高電圧パルスの印加の結果、高温プラズマが発生して、EUV光が放出される(S102、図11のe)。
このとき、集光鏡2の反射面には、スズ等のデブリが堆積していないものとする。また、ラジカル発生部6はラジカル発生部駆動機構6gにより、集光鏡2からのEUV光を遮光しない位置に位置決めされている。また、ゲートバルブ21は開状態となっている。
EUV発光後、膜厚センサ19より膜厚検出信号が膜厚測定手段190に送出される(S103)。膜厚測定手段190は、受信した検出信号に基づき、集光鏡2に堆積するスズ等のデブリ量を算出し、算出結果をEUV光源装置の制御部30に送出する(S104)。
【0038】
EUV光源装置の制御部30は、スズ等のデブリの許容堆積量のしきい値データ(tm)を予め記憶しているものとする。ステップS104において膜厚測定手段190から算出堆積量データを受信したEUV光源装置の制御部30は、この算出堆積量データ(tc)と上記しきい値データ(tm)との大小を検定する(S105)。
検定の結果、tc<tmのとき、EUV発光指令待機状態に戻る。すなわち、ステップS102に戻る。
一方、検定の結果、tc≧tmのとき、EUV光源装置の制御部30は露光機の制御部31に発光指令拒否信号を送出するとともに、パルスパワー電源15の駆動を停止する(S106、図11のb)。
EUV光源装置の制御部30より発光指令拒否信号を受信した露光機の制御部31は、EUV光源装置の制御部30へのEUV発光指令信号の送出を停止する(S107、図11のa)。EUV光源装置の制御部30は、ラジカル発生部駆動機構6gにラジカル発生部移動指令を送出する。同時にゲートバルブ21を閉める(S108、図11のf,h)。
【0039】
ラジカル発生部駆動機構6gは、ラジカル発生部6を集光鏡2の光出射側、かつ、集光鏡2近傍の所定の位置(クリーニング位置)まで移動させ、ラジカル発生部6を当該所定の位置(クリーニング位置)に位置決めする(S109、図11のg)。
ラジカル発生部6は、クリーニングガス供給ノズル6aとフィラメント6bとから構成される。クリーニングガス供給ノズル6aは、クリーニングガス供給ユニット5から供給される水素ガスをフィラメント6bに対して噴きつける。その際、加熱電源17によりフィラメント6bに電力が供給されて当該フィラメント6bが高温状態である場合、上記水素ガスは水素ラジカルとなる。すなわち、水素ラジカルが所定の領域に供給される。
【0040】
ここで上記クリーニングガス供給ノズル6aとフィラメント6bは固定部材6dにより固定される。なお、クリーニングガス供給ノズル6aは、固定部材6dを介してフレキシブルチューブ6hに接続され、フレキシブルチューブ6hは、ガス導入部6eを介してクリーニングガス供給部5と接続される。同様に、フィラメント6bは、固定部材6d、フィラメント導入部6fを介して加熱電源17と接続される。
ガス導入部6eは、クリーニングガス供給部5とフレキシブルチューブ6hとを、チャンバ内の気密性が破壊されないように接続する構造を有する。同様に、フィラメント導入部6fは加熱電源17とフィラメント6bとを、チャンバ内の気密性が破壊されないように接続する構造を有する。
ここで、フィラメント導入部6fと固定部材6dとの間のフィラメント長は、ラジカル発生部6が移動しても断線しないように設定されている。また、ガス導入部6eと固定部材6dとの間のフレキシブルチューブ6hの可動範囲も、ラジカル発生部6の移動に追従可能なように設定されている。
【0041】
図9に戻り、ラジカル発生部駆動機構6gは、ラジカル発生部6の位置決め終了後、位置決め終了信号をEUV光源装置の制御部30に送出する(S110、図11のi)
上記ステップS110において位置決め終了信号を受信したEUV光源装置の制御部30は、加熱電源17に電力供給開始信号を送出する。同時に、クリーニングガス供給ユニット5に水素ガス供給開始信号を送出する(図11のj,l)。
なお、EUV光源装置の制御部30は、また、図示を省略した例えば、カウンタから構成されるクリーニング時間計測手段を有しており、電力供給開始信号、および、水素ガス供給開始信号を送出すると同時に、クリーニング時間計測手段のカウントの動作を開始させる(S111、図11のn)。
電力供給開始信号を受信した加熱電源17は、フィラメント6bに電力を供給する。また、水素ガス供給開始信号を受信したクリーニングガス供給ユニット5は、クリーニングガス供給ノズル6aへの水素ガス供給を開始する。この結果、高温状態のフィラメント6bに対しクリーニングガス供給ノズル6aより水素ガスが吹き付けられる。水素ガスは水素ラジカルとなり、集光鏡2の反射面に対して供給される(S112、図11のp)。
【0042】
所定時間経過後にクリーニング時間計測手段から発せられるカウント終了信号に基づき(図11のn)、EUV光源装置の制御部30は、加熱電源17に電力供給停止信号を送出する(図11のk)。同時に、クリーニングガス供給ユニット5に水素ガス供給停止信号を送出する(S113、図11のm)。
ここで、上記所定時間とは、集光鏡2の反射面に堆積したスズ等のデブリが除去されるまでの時間である。
上記したように、集光鏡2に堆積するスズ等のデブリの量は、膜厚測定手段190により算出される。一方、ラジカル発生部6より放出される水素ラジカルの量は一定であるとし、この一定量の水素ラジカルが単位時間あたりにスズ等のデブリと反応する量もEUV光源装置の制御部30において記憶されているものとする。この単位時間あたりの反応量と集光鏡2におけるスズ等のデブリの堆積量とから、ステップS113における上記所定時間は決定される。
なお、クリーニング時間計測手段のカウントの動作は、EUV光源装置の制御部30が電力供給開始信号、および、水素ガス供給開始信号を送出すると同時に開始される。よって、カウンタの開始から、ラジカル発生部6から供給される水素ラジカルの供給状態が安定になるまでには、所定の遅延時間が生じる。ステップS113における所定時間は、この遅延時間の分も考慮されている。
【0043】
ステップS113において、電力供給停止信号を受信した加熱電源17は、フィラメント6bへの電力供給を停止する。また、水素ガス供給停止信号を受信したクリーニングガス供給ユニット5は、クリーニングガス供給ノズル6aへの水素ガス供給を停止する(S114)。
EUV光源装置の制御部30は、ラジカル発生部駆動機構6gにラジカル発生部移動指令を送出する(図10のS115、図11のf)。
ラジカル発生部駆動機構6gは、ラジカル発生部6をクリーニング位置から退避位置(最初の位置:集光鏡2からのEUV光を遮光しない位置)まで退避させて、位置決めする(S116、図11のg)。
ラジカル発生部駆動機構6gは、ラジカル発生部6の位置決め終了後、位置決め終了信号をEUV光源装置の制御部30に送出する。またこの時点でクリーニング時間計測手段であるカウンタのカウント値がリセットされる(S117)
【0044】
EUV光源装置の制御部30は、位置決め終了信号を受信後、ゲートバルブ21を開く。また、露光機の制御部31に発光指令許容信号を送出する(S118、図11のc)。露光機の制御部31より、EUV光源装置の制御部30にEUV発光指令信号が送出される(S119、図11のa)。
EUV発光指令待機状態であったEUV光源装置の制御部30は、EUV発光指令信号を受信後、パルスパワー電源15を駆動して第1電極11、第2電極12に高電圧パルスを印加する。上記電極間への高電圧パルスの印加の結果、高温プラズマが発生して、EUV光が放出される。すなわち、露光処理が再開する(S120、図11のe)。
なお、膜厚センサ19の代わりに、EUV光センサ20を用いる場合は、EUV光センサ20からの測定値から、EUV光強度を算出するEUV光センサ制御部20aからのEUV光強度を参照して、クリーニング処理を行うとよい。
また、図1〜図6の実施例では、ラジカル発生手段としてフィラメントおよび高周波放電を使用した。しかしながら、ラジカル発生手段は以上に限るものではなく、例えば、電子ビーム照射、レーザ光照射、マイクロ波放電、直流放電、光源プラズマから放射されるEUVやDUVなどの高エネルギー光子照射を用いてもよい。
【0045】
以上に説明したように、本発明に係る極端紫外光光源装置(EUV光源装置)は、集光鏡2の非反射面2bを化学的に不活性な絶縁物等で被覆することでラジカルの失活を抑制するので、反射面2aに作用するラジカルが増える。したがって、クリーニング速度が上がり、短時間でクリーニングを完了させることができる。
なお、本実施例においては、DPP方式の極端紫外光光源装置を例にして説明したが、LPP方式の極端紫外光光源装置も、EUV光を反射する集光鏡を有しており、本技術を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施例のDPP方式のEUV光源装置の概略構成例を示す図である。
【図2】集光鏡の構造例を示す図(光軸を通る平面で切った断面図)である。
【図3】集光鏡の構造例を示す図(光出射側から見た図)である。
【図4】本発明の第2の実施例のDPP方式のEUV光源装置の概略構成例を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施例のDPP方式のEUV光源装置の概略構成例を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施例のDPP方式のEUV光源装置の概略構成例を示す図である。
【図7】集光鏡の非反射面側を絶縁物で被覆することによりクリーニングの効率が上がることを検証する実験装置の構成例を示す図である。
【図8】非反射面に絶縁物を被覆した集光鏡の製造手順を説明する図である。
【図9】クリーニング処理例のフローチャート(1)である。
【図10】クリーニング処理例のフローチャート(2)である。
【図11】クリーニング処理のタイムチャートである。
【図12】DPP方式EUV光源装置の概略構成例を示す図である。
【図13】水素ラジカルが失活する様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
1 放電部
2 集光鏡
3 フォイルトラップ
5 クリーニングガス供給ユニット
6 ラジカル発生部
6a クリーニングガス供給ノズル
6b フィラメント
6c コイル
7 EUV光取出部
9 ガス排気ユニット
10 光源チャンバ
11 第1電極
12 第2電極
13 絶縁体
14 原料供給ユニット
15 パルスパワー電源
16 ガス供給ユニット
17 加熱電源
18 高周波電源
19 膜厚センサ
20 EUV光センサ
21 ゲートバルブ
30 制御部
31 露光機制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなる斜入射型の極端紫外光集光鏡であって、
上記集光鏡は、ガスラジカルを含むクリーニングガスを該集光鏡の反射面に供給するクリーニングガス供給手段を有し、
前記集光鏡の各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側が絶縁物で被覆されている
ことを特徴とする極端紫外光集光鏡。
【請求項2】
極端紫外光を放射させるための放射種である金属または金属化合物を含む原料が供給され、高温プラズマが発生する容器と、当該容器内に配置され、径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなり、前記高温プラズマから放射される極端紫外光を集光する斜入射型の極端紫外光集光鏡を有する極端紫外光光源装置であって、
ガスラジカルを含むクリーニングガスを前記集光鏡の反射面に供給するクリーニングガス供給手段を備え、
前記各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側が絶縁物で被覆されている
ことを特徴とする極端紫外光光源装置。
【請求項3】
前記クリーニングガス供給手段は、容器内を移動可能であるように構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の極端紫外光光源装置。
【請求項4】
前記ガスラジカルは、高温プラズマ発生の結果生じるデブリと反応することにより高蒸気圧の化合物を形成するものである
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の極端紫外光光源装置。
【請求項5】
前記ガスラジカルが水素ラジカル、もしくは塩素ラジカルである
ことを特徴とする請求項2,3または請求項4に記載の極端紫外光光源装置。
【請求項6】
径が互いに異なる複数枚の凹面ミラーを入れ子状に配置してなる斜入射型の極端紫外光集光鏡に付着した、極端紫外光を放射させるための放射種である金属または金属化合物に起因するデブリを除去する極端紫外光集光鏡のクリーニング方法であって、
予め、各凹面ミラーにおける極端紫外光反射面の非反射面側を絶縁物で被覆しておき、 上記金属または金属化合物に起因するデブリと反応したとき高蒸気圧の化合物となるガスラジカルを含むクリーニングガスを前記極端紫外光集光鏡に対し導入する
ことを特徴とする極端紫外光集光鏡のクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−16640(P2009−16640A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178017(P2007−178017)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】