説明

極端紫外光源装置及びそのターゲット供給システム

【課題】LPP式極端紫外光(EUV)光源装置において長期の連続運転を可能にするため、高温に晒されるバルブを使わずに、ターゲット物質を連続して供給することができるターゲット供給システムを提供する。
【解決手段】高圧溶融槽21と液滴発生器22,23とターゲット物質貯槽30と移送機構33を備えたターゲット供給システムにおいて、移送機構33は、高圧溶融槽の溶融ターゲット物質26が不足するとターゲット物質貯槽から粒状のターゲット物質35を高圧溶融槽に移送し、高圧溶融槽が、粒状固体のターゲット物質を溶融して液滴状のターゲット13として供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置の光源として用いられる極端紫外光源装置、及び、極端紫外光源装置においてターゲットをとぎれることなく供給できるターゲット供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴って光リソグラフィにおける微細化が急速に進展しており、次世代においては、100〜70nmの微細加工、さらには50nm以下の微細加工が要求されるようになる。そのため、例えば50nm以下の微細加工の要求に応えるべく、波長13nm程度の極端紫外(EUV:extreme ultra violet)光源装置と縮小投影反射光学系(reduced projection reflective optics)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
EUV光源として、ターゲットにレーザビームを照射することによって生成されるプラズマを用いたLPP(laser produced plasma:レーザ生成プラズマ)光源(以下において、「LPP式EUV光源」ともいう)と、放電によって生成されるプラズマを用いたDPP(discharge produced plasma)光源と、シンクロトロン放射光を用いたSR(synchrotron radiation)光源の3つが知られている。
【0004】
これらの内でも、LPP式EUV光源は、プラズマ密度をかなり大きくできるので黒体輻射に近い高い輝度が得られ、ターゲット物質を選択することにより必要な波長帯のみの発光が可能であり、ほぼ等方的な角度分布を持つ点光源であるので光源の周囲に電極等の構造物がなく、2πステラジアンという極めて大きな捕集立体角の確保が可能であること等の利点から、数十ワット以上のパワーが要求される光リソグラフィ用の光源として有力である。
【0005】
LPP式EUV光源は、真空チャンバ内に存在するターゲットと呼ばれる物質にドライバレーザからレーザ光を集光することによりターゲットが励起してプラズマ化すると、生成したプラズマから極端紫外光(EUV)を含む様々な波長成分が放射されるので、これを利用するものである。EUV光源は、所望の波長成分を選択的に反射する集光ミラーを用いて、たとえば13.5nmの波長を有する極端紫外光を選別して集光し、露光機に供給する。
【0006】
ターゲットにはスズ(Sn)やリチウム(Li)などの溶融金属が用いられる。ターゲットは高圧タンク内に充填され、高圧タンク外壁に配置したヒータで溶融される。溶融されたターゲットは、アルゴン(Ar)や窒素(N)などの不活性ガスで加圧して、タンク先端の毛細管を通してジェット流として射出される。ターゲットの形態としては、ドロップレットの形が好まれるので、ピエゾ等の振動素子を使って溶融金属ジェット表面に規則的な擾乱を与えるコンティニュアスジェット法により、体積が均一なドロップレットとして、レーザ集光点に供給される。
【0007】
従来のターゲット供給装置の高圧タンクは、運転中にターゲット物質を補給することができないので、一定時間しかターゲットを集光点に供給することができず、ターゲット物質が費消されるとEUV光源も休止しなければならなかった。また、高圧タンク中のターゲット物質が無くなって再充填しようとすると、高温の高圧タンクを冷却し分解してターゲットを充填し、再組立して加熱昇温させるため、かなりの時間が必要であった。このため、EUV光源は、数時間運転した後に長時間停止しなければならないという問題があった。
【0008】
このような困難を解決するものとして、特許文献1は、ターゲット供給装置にバルクリザーバー容器を結合して、ターゲットの連続供給を行う技術を開示している。開示された技術は、ターゲット供給装置の高圧タンク内のターゲット物質が一定量以下になると、バルクリザーバー容器中で溶融したターゲット材をターゲット供給装置の高圧タンクに補給するものである。特許文献1に開示された方法により、EUV光源は長時間の休止をしなくても運転再開ができるようになった。
【特許文献1】特表2008−532228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された方法では、バルクリザーバー容器から補給されるターゲット物質は、配管やバルブを流下させるため加熱して流動性を高める必要があるので、高温ターゲットの補給があるとターゲット供給装置におけるターゲット温度が乱される。また、ターゲット物質をターゲット供給装置に流し込むために、バルクリザーバー容器とターゲット供給装置の間に差圧がなければならないので、ターゲット供給装置の圧力を降下させている。したがって、従来より短時間とはいえ、圧力を回復し温度を再調整するまで運転を休止する必要がある。なお、バルクサーバー容器とターゲット供給装置の間に設けられるバルブは、ターゲット金属の溶融温度(スズの場合232℃)より高くする必要があり、高温環境下で安定な閉止性能を有する高性能で高価なバルブである必要がある。
【0010】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、LPP式極端紫外光(EUV)光源装置において長期の連続運転を可能にするため、高温に晒されるバルブを使わずに、ターゲット物質を連続して供給することができるターゲット供給システム及び、そのようなターゲット供給システムを用いる極端紫外光源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、LPP式EUV光源に適用する本発明のターゲット供給システムは、粒状のターゲット物質を溶融して液滴状のターゲットとして供給する、高圧溶融槽と液滴発生器を備えたターゲット供給装置と、ターゲット供給装置に粒状のターゲット物質を供給する、ターゲット物質貯槽と移送機構を備えたターゲット物質補給装置と、移送機構を調整して粒状のターゲット物質を供給することによって高圧溶融槽のレベルを制御するレベル制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0012】
ターゲット物質貯槽は、粒状ターゲット物質を収納して、底の穴から外に供給する。移送機構は、ターゲット物質貯槽から高圧溶融槽への粒状ターゲット物質の通路を開閉する。
高圧溶融槽は、加熱機構を備えて粒状ターゲット物質を溶融し、加圧機構を備えて液滴発生器の微細孔に溶融ターゲット物質を供給する。液滴発生器は、微細孔と振動子を備えて、微細孔を通過した溶融ターゲット物質を液滴状のターゲットにして落下させる。
【0013】
レベル制御装置は、高圧溶融槽のターゲット物質の量が下限閾値より少なくなれば移送機構を駆動して固体の粒状ターゲット物質を高圧溶融槽に供給させ、上限閾値より多くなれば移送機構を駆動して粒状ターゲット物質の流れを停止させる。レベル制御装置は、また、ターゲット物質貯槽に収納された粒状ターゲット物質が所定量より少なくなれば警報信号を発生する。
また、本発明の極端紫外光源装置は、本発明に係るターゲット供給システムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のターゲット供給システムによれば、ターゲット供給装置の高圧溶融槽は収納されたターゲット物質が不足すればターゲット物質貯槽から補給を受けることができるので、ターゲットをLPP式EUV光源装置にとぎれることなく供給することができる。しかも、ターゲット物質を補給する間もターゲット供給条件が乱れないので、LPP式EUV光源装置は長期に亘り連続運転が可能である。
【0015】
また、高圧溶融槽は、固体の粒状ターゲット物質を受け入れて槽内で加熱して溶融するので、ターゲット物質貯槽および流路を開閉する移送機構は固体のターゲット物質のみを扱い、ターゲット物質の融点より低温の環境で作動するので、移送機構の温度条件が緩和されて高い性能を発揮することができる。
本発明のターゲット供給システムを適用したLPP式EUV光源装置は、ターゲット物質を適宜供給できるので長期運転が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、各図面において若い番号の図面に記載されたものと同一の機能を有する構成要素には同一の参照番号を付して、説明の重複を回避した。
【0017】
図1は、本発明のターゲット供給システムを適用した極端紫外光源装置の構成を示す模式図である。図1に示す極端紫外光源装置は、レーザビームをターゲット物質に照射して励起させることにより極端紫外光を生成するレーザ励起プラズマ(LPP)方式を採用したものである。
【0018】
本発明のターゲット供給システムは、図1に示す、真空チャンバ10内の所定の位置に液滴状のターゲット13を供給するターゲット供給装置11と、ターゲット供給装置11に粒状のターゲット物質を供給するターゲット物質補給装置12とを備えるものである。
【0019】
本発明を適用したLPP式極端紫外光源装置は、図1に示すように、極端紫外光が生成される真空チャンバ10と、ターゲット供給装置11とターゲット物質補給装置12で構成されるターゲット供給システムと、ターゲット13を照射する励起用レーザビーム20を生成するドライバレーザ15と、ドライバレーザ15から放出される励起用レーザビーム20を前記所定の位置に集光するレーザ集光光学系16と、所定の位置でターゲット13に励起用レーザビーム20が照射することによって発生するプラズマ18から放出される極端紫外光を集光して出射する集光ミラー14と、真空チャンバ10内を真空に保つための排気装置17を備えている。
【0020】
この極端紫外光源装置においては、ターゲット13として、たとえばスズ(Sn)やリチウム(Li)などの金属の液滴または固体の粒が用いられ、また、ドライバレーザ15として、比較的波長の長い光を生成することができる炭酸ガス(CO)レーザが用いられる。なお、ターゲット13には、レーザ光エネルギーから極端紫外光エネルギーへの変換効率が高いスズが好んで用いられる。スズのターゲットに炭酸ガスレーザが照射された場合には、この変換効率は2〜4%程度となる。
【0021】
レーザ集光光学系16は、少なくとも1つのレンズ、および、または少なくとも1つのミラーで構成される。レーザ集光光学系16は、図1に示すように真空チャンバ10の外に配置してもよいが、真空チャンバ10の内部に配置することもできる。
集光ミラー14は、プラズマ18から放射される様々な波長成分の内から、たとえば13.5nm付近の極端紫外光など、所定の派生成分を選択的に反射し、集光する集光光学素子である。集光ミラー14は、凹面反射面を有しており、この反射面には、たとえば波長が13.5nm付近の極端紫外光を選択的に反射する、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)の多層膜が形成されている。
【0022】
(実施形態1)
図2は本発明の第1実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
図2に表示した第1実施形態のターゲット供給システムは、ターゲット供給装置11が、高圧溶融槽21と、高圧溶融槽21の底に設けられ、微細孔を有するノズル22とピエゾ素子23を備えた液滴発生器とを具備し、ターゲット物質補給装置12が、ターゲット物質貯槽30と、バルブ33で構成される移送機構とを具備する。ターゲット物質貯槽30と高圧溶融槽21とは連結管で連結され、ボールバルブやゲートバルブなどの仕切り弁型のバルブ33で仕切られている。
【0023】
高圧溶融槽21には溶融金属の液面を検出する液面センサ25が設けられている。高圧溶融槽21内の溶融スズ26の液面を液面センサ25でモニターし、検出信号をレベル制御器40に入力する。レベル制御器40は、溶融スズ26の液面が予め設定された下限レベル以下になった場合は、バルブ33を開にしてターゲット物質貯槽30内の固体で粒状になったターゲット物質(スズ)35を高圧溶融槽21に供給する。そして、液面センサ25でモニターしている溶融スズ26の液面が予め設定された上限レベル以上になったら、バルブ33を閉にして粒状のスズ35の供給を停止する。ターゲット物質貯槽30から供給される固体のスズ35は高圧溶融槽21の中で溶融する。
【0024】
高圧溶融槽21は、ターゲット物質であるスズを溶融するため、ヒータ24によりターゲット物質の融点(スズでは232℃)以上の温度(スズでは、たとえば280℃程度)に保持されている。従って、断熱ジャケット31がないと、高圧溶融槽21の壁から熱が伝わって連結管がターゲット物質の融点以上になり、ターゲット物質貯槽30から供給される固体のターゲット物質は、一部が互いに融着して連結管を閉塞させる要因となる。このため、バルブ33と高圧溶融槽21の間をつなぐ連結管の、高圧溶融槽21と接する部分には断熱ジャケット31を配置して、高圧溶融槽21の壁からの伝熱を遮断するようにしている。必要であれば、連結管に冷却ジャケット32を配置して連結管をさらに冷却してもよい。
【0025】
高圧溶融槽21には、圧力調整弁28からの高圧ガス配管が接続されている。圧力調整弁28は、ボンベなどのガス源27から供給される高圧アルゴン(Ar)ガスを、たとえば10MPaなど適度な圧力に減圧し、高圧溶融槽21に加圧ガスとして供給する。高圧溶融槽21内が高圧ガスで加圧されると、溶融スズが槽底に設けられたノズル22の微細孔から極細いジェットとして射出する。ノズル22の微細孔は、径がたとえば20μm程度の細孔になっている。溶融スズを射出するときに、ピエゾ素子23によりジェット表面に擾乱を与えると、溶融スズ26は微細な液滴状のターゲット13となって、真空チャンバ10内の励起用レーザビーム20が照射する位置に供給される。
なお、ターゲット13の速度は加圧溶融槽21内の圧力に依存するため、圧力調整弁28により槽内の圧力を所定の値に保持している。
【0026】
固体のスズ35が完全に溶融せずにノズル22に達すると、ノズル22の径が小さいので詰まりの要因になる。このため、固体のスズ35は、ノズルに達する前に完全に溶融できるサイズと形状を有することが求められる。また、固体のスズ35は、連結管内で詰まりにくい球形状が好ましく、特に真球であることが好ましい。固体のスズ35の最適なサイズや形状は、高圧溶融槽21の大きさと形状にも依存する。本実施形態では、径2mmの真球状のスズ粒が使用されている。
【0027】
なお、ターゲット物質貯槽30には固体のターゲット量を検知するレベルセンサ34が設置されていて、下限検出信号がレベル制御器40に伝送される。ターゲット物質貯槽30における粒状のスズ35の量が設定値以下になると、警報が発せられるので、作業者がスズ35をターゲット物質貯槽30に補充する。
なお、ターゲット物質貯槽30は、移送機構の部分に着脱可能に取り付けられるように構成した場合は、予め粒状のスズが充填されたターゲット物質貯槽と入れ替えることにより、迅速かつ簡単に固体ターゲットを補充することができる。
【0028】
また、ターゲット物質貯槽30にはアルゴンや窒素などの不活性ガスを導入するパージ配管を接続して、パージにより貯槽内のターゲット物質が酸化することを防止することが好ましい。パージガスには、加圧溶融槽21の加圧に用いるガスと同じガスを用いることがより好ましい。
なお、バルブ33を急激に開くと、加圧溶融槽21の圧力がターゲット物質貯槽30の圧力に影響されてターゲット13の速度が変化するので、バルブ33は遅く開くようにすることが好ましい。
【0029】
第1実施形態に係るターゲット供給システムによれば、極端紫外光源装置を停止することなく、ターゲット供給装置11にターゲット物質を充填し、長期間安定に極端紫外光を発生させることが可能になり、極端紫外光源装置に対して実用レベルで要求される稼働時間を達成することができるようになった。
【0030】
(実施形態2)
図3は本発明の第2実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
第2実施形態に係るターゲット供給システムは、図2に表示した第1実施形態のターゲット供給システムに対して、移送機構の構成と機能が異なるだけで、他の構成は異ならないので、同じ機能を有する部分については参照番号を同じくして説明を簡略にする。
【0031】
図3に示すように、ターゲット物質補充装置12のターゲット物質貯槽30とターゲット供給装置11の高圧溶融槽21を連結する連結管にはバルブを設けず、配管に傾斜を有する傾斜管部を設けて、管内の粒状物質が流下しないで途中に留まるようにする。さらに、連結管にピエゾ素子やハンマなどを使った加振器50を配置して、加振器50を作動させて配管を振るわせることにより、管内に留まっていた粒状物質が流動化して高圧溶融槽21に落ちるように構成する。
【0032】
高圧溶融槽21に設けた液面センサ25で槽内の溶融スズ26の液面をモニターし、所定の下限レベル以下になったら、レベル制御器40により加振器50を駆動して連結管に振動を与えて、ターゲット物質貯槽30に収納された粒状スズ35を高圧溶融槽21に供給する。そして、高圧溶融槽21内の溶融スズ26の液面が所定の上限レベル以上になったら、加振器50の振動を止めて粒状スズ35の供給を停止する。
【0033】
第2実施形態に係るターゲット供給システムによれば、第1実施形態と同様、極端紫外光源装置を停止することなく、ターゲット供給装置11にターゲット物質を充填し、長期間安定に極端紫外光を発生させることが可能になり、極端紫外光源装置に対して実用レベルで要求される稼働時間を達成することができるようになった。
また、第2実施形態に係るターゲット供給システムは、連結管の外側から当てる加振器を使ってスズの流通を断続するので、連結管にバルブなどの複雑な機器を介装することなく、故障が少なく保守の手間も減少する。
【0034】
(実施形態3)
図4は本発明の第3実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
第3実施形態に係るターゲット供給システムは、第1実施形態及び第2実施形態のターゲット供給システムに対して、移送機構の構成と機能が異なるだけで、他の構成は異ならないので、同じ機能を有する部分については参照番号を同じくして説明を簡略にする。
【0035】
本実施形態のターゲット供給システムは、ターゲット物質補給装置12のターゲット物質貯槽30とターゲット供給装置11の高圧溶融槽21との間に設けられる移送機構に粒状のターゲット物質を収容する中間容器60を設けたところに特徴がある。中間容器60には、粒状のターゲット物質のレベルを検知するレベルセンサ61が設けられていて、検知信号をレベル制御器40に伝送する。
【0036】
中間容器60と高圧溶融槽21との間には、スズ粒の自然落下を止める傾斜管と配管の外部から振動を与える加振器50が設けられるが、中間容器60内のスズ粒を高圧溶融槽21に供給する機構と作用は、第2実施形態においてターゲット物質貯槽30と高圧溶融槽21の間に設けられたものと同じである。
【0037】
一方、ターゲット物質貯槽30と中間容器60の間には、2連のバルブ63,64が設けられ、レベル制御器40により自動的に開閉操作される。
中間容器60内の固体の粒状スズ62をレベルセンサ61でモニターし、粒状スズ62のレベルが所定の下限値以下になると、レベル制御器40により2連のバルブ63,64が開になって、粒状スズ35がターゲット物質貯槽30から落下して中間容器60に補充される。そして、中間容器60内の粒状スズ62のレベルが所定の上限値以上になると、2連のバルブ63,64を閉じて粒状スズ35の供給を停止する。
【0038】
2連のバルブ63,64は同時に作動させてもよく、また1個のバルブで代替させてもよいが、2連のバルブ63,64を2段に開閉することがより好ましい。すなわち、粒状スズ35をターゲット物質貯槽30から中間容器60に補充するときは、下側のバルブ63を閉、上側のバルブ64を開にして、2つのバルブの間にターゲット物質貯槽30からの粒状スズ35を充填した後に、上側のバルブ64を閉、下側のバルブ63を開にして、中間容器60に排出する。
【0039】
このように2段の開閉操作をすると、バルブ63,64は必ず一方は閉止するようにできるので、高圧溶融槽32における圧力が中間容器60を介してターゲット物質貯槽30に及ぶことを防止することができる。したがって、ターゲット物質貯槽30を高圧容器にする必要がない。また、2連のバルブの間で切り離せるようにして、上側のバルブ64をターゲット物質貯槽30に付帯させるようにすることにより、事前に粒状スズを充填した交換用の貯槽を用意して、貯槽を丸ごと入れ替えるモジュール交換を可能にすることもできる。
【0040】
また、中間容器60には、高圧溶融槽21に補填するために十分な量の粒状スズ62が常時貯留されているので、ターゲット物質貯槽30の粒状スズ35の補充に多少時間が掛かっても、高圧溶融槽21における溶融スズ26の液面が乱れることはない。
さらに、高圧溶融槽21から中間容器60を介してターゲット物質貯槽30に逃げる高圧ガスは、2連バルブ63,64の開閉ごとにバルブに挟まれた配管の容積に限られるので、高圧溶融槽21における圧力変動が抑制され、ターゲットの速度変化を十分抑制するものとなっている。
【0041】
(実施形態4)
図5は本発明の第4実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
第4実施形態に係るターゲット供給システムは、第1,2,3実施形態のターゲット供給システムに対して、移送機構の構成と機能が異なるだけで、他の構成は異ならないので、同じ機能を有する部分については参照番号を同じくして説明を簡略にする。
【0042】
第4実施形態のターゲット供給システムは、第3実施形態の移送機構において、中間容器60に粒状スズ35を補給するための2連バルブ63,64の上流側に、第2の加振器61を備えたところに相違がある。
図3に示すように、ターゲット物質補充装置12のターゲット物質貯槽30と2連バルブ63,64を連結する連結管に、傾斜を有する傾斜管部を設けて、ターゲット物質貯槽30から供給される粒状物質が途中に留まって管内の通路が閉塞するようにする。さらに、傾斜管部近傍に第2加振器51を配置して、第2加振器51で配管を振るわせると、連結管内の粒状物質が流下して中間容器60に落ちるように構成する。
【0043】
中間容器60における粒状スズ62のレベルはレベルセンサ61で常時モニターされ、検知信号はレベル制御器40に伝送される。レベル制御器40は、粒状スズ62のレベルが予め設定された下限値以下になったら、2連のバルブ63,64を開にし第2加振器51で連結管に振動を与えて、連結管内に粒状スズの流れを起こして、ターゲット物質貯槽30の粒状スズ35を中間容器60に補給する。そして、レベルセンサ61により中間容器60内の粒状スズ62のレベルが予め設定された上限値以上になったら、第2加振器51を停止すると共に2連バルブ63,64を閉にして、ターゲット物質貯槽30から中間容器60への粒状スズ35の流れを止める。
【0044】
このとき、2連バルブ63,64の2段操作により、下側のバルブ63を閉、上側のバルブ64を開にし、第2加振器51で連結管に振動を与えて、2つのバルブの間にターゲット物質貯槽30からの粒状スズ35を充填し、第2加振器51を止める。その後、上側のバルブ64を閉、下側のバルブ63を開にして、粒状スズ35を中間容器60に排出する。
なお、2連バルブ63,64の代わりに1個のバルブを用いてもよいが、2連バルブを2段で操作すると、第3実施形態に関して説明した利点がある。
【0045】
(実施形態5)
図6は本発明の第5実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
第5実施形態に係るターゲット供給システムは、第4実施形態のターゲット供給システムに対して、2連バルブの間に第2の中間容器を配置したところが異なるだけで、他の構成は異ならないので、同じ機能を有する部分については参照番号を同じくして説明を簡略にする。ただし、実施形態4の説明における中間容器60は、第1中間容器60と読み替えることとする。
【0046】
第5実施形態のターゲット供給システムは、第4実施形態の移送機構において、第1中間容器60の上流に設けた2連バルブ63,64のバルブに挟まれた位置に第2中間容器70を配置したものである。なお、第2中間容器70には収容された粒状スズ72のレベルと検知するレベルセンサ71が設備されている。レベルセンサ71は第1中間容器70内の固体の粒状スズ72のレベルをモニターし、検出信号をレベル制御器40に伝送する。
【0047】
第2中間容器70内の粒状スズ72のレベルが所定の下限値を下回ると、レベル制御器40は2連バルブの上流側バルブ64を開にし、第2加振器51を駆動して傾斜管部分に振動を与えることにより、ターゲット物質貯槽30の粒状スズ35を第2中間容器70に補填する。第2中間容器70内の粒状スズ72のレベルが所定の上限値を上回ると、レベル制御器40は第2加振器51を停止して2連バルブの上流側バルブ64を閉にし、ターゲット物質貯槽30からの供給を止める。さらに、下流側バルブ63を開にして第2中間容器70の中の粒状スズ72を第1中間容器60に供給する。
【0048】
第2中間容器70を備えることにより、第2中間容器70が2連バルブ63,64を結ぶ配管より大きなバッファ容量を持つため、2連バルブの2段操作の頻度は低下し、1回に供給できる粒状スズの量も増大する。
絶つと共に、傾斜管部分に振動を与えることにより、ターゲット物質貯槽30の固体の粒状スズ35を第2中間容器70に補填する。
【0049】
なお、上記各実施形態においては、スズをターゲットに使用しているが、極端紫外光源装置で使われるリチウムその他の金属についても、本発明は同様に利用できることは言うまでもない。
また、各槽や各容器におけるスズなど、金属の溶融液面あるいは粒状物のレベルを検出するレベルセンサ25,34,61,71は、それぞれ所定のレベルを超えるか否かを判定するために必要とされるものであるので、レベルに対応するアナログ的な出力を得る計器でなく、レベルスイッチなどでも利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るターゲット供給システムを適用した極端紫外光源装置は、装置を停止することなくターゲットを充填して、長期間安定に極端紫外光を発生することが可能になる。本実施形態の極端紫外光源装置により、実用レベルで必要とされる装置の稼働時間を達成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のターゲット供給システムを適用した極端紫外光源装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係るターゲット供給システムを示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10・・・真空チャンバ、11・・・ターゲット供給装置、12・・・ターゲット物質補給装置、13・・・ターゲット、14・・・集光ミラー、15・・・ドライバレーザ、16・・・レーザ集光光学系、17・・・排気装置、18・・・プラズマ、20・・・励起用レーザビーム、21・・・高圧溶融槽、22・・・ノズル、23・・・ピエゾ素子、24・・・ヒータ、25・・・液面センサ、26・・・溶融スズ、27・・・ガス源、28・・・圧力調整弁、30・・・ターゲット物質貯槽、31・・・断熱ジャケット、32・・・冷却ジャケット、33・・・バルブ、34・・・レベルセンサ、35・・・粒状スズ、40・・・レベル制御器、50・・・(第1)加振器、51・・・第2加振器、60・・・(第1)中間容器、61・・・レベルセンサ、62・・・粒状スズ、63,64・・・バルブ、70・・・第2中間容器、71・・・レベルセンサ、72・・・粒状スズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット物質にレーザ光を照射することによりターゲット物質をプラズマ化して極端紫外光を発生する極端紫外光源装置に用いるターゲット供給システムであって、
粒状のターゲット物質を溶融して液滴状のターゲットとして供給する、高圧溶融槽と液滴発生器を備えたターゲット供給装置と、
該ターゲット供給装置に前記粒状のターゲット物質を供給する、ターゲット物質貯槽と移送機構を備えたターゲット物質補給装置と、
該移送機構を調整して前記高圧溶融槽のレベルに応じて前記ターゲット物質貯槽から粒状のターゲット物質を前記高圧溶融槽に補充するレベル制御装置と、
を備えるターゲット供給システム。
【請求項2】
前記ターゲット物質貯槽は、前記粒状ターゲット物質を収納して底の穴から外に供給するもので、前記移送機構は、該ターゲット物質貯槽から前記高圧溶融槽への粒状ターゲット物質の通路を開閉するものである、
請求項1記載のターゲット供給システム。
【請求項3】
前記液滴発生器は、微細孔と振動子を備えて、該微細孔を通過した溶融ターゲット物質を該振動子の振動により液滴状にして落下させるものであり、前記高圧溶融槽は、加熱機構を備えて前記粒状ターゲット物質を溶融し、加圧機構を備えて前記液滴発生器の微細孔に前記溶融したターゲット物質を供給する、請求項1又は2記載のターゲット供給システム。
【請求項4】
前記レベル制御装置は、前記高圧溶融槽内のターゲット物質の量が下限設定値より少なくなれば前記移送機構を駆動して前記粒状のターゲット物質を前記高圧溶融槽に供給させ、上限設定値より多くなれば前記移送機構を駆動して前記粒状のターゲット物質の供給を停止させる、請求項1から3のいずれか一項に記載のターゲット供給システム。
【請求項5】
前記レベル制御装置は、さらに、前記ターゲット物質貯槽に収納された前記粒状ターゲット物質が設定値より少なくなれば警報信号を発生する、請求項4記載のターゲット供給システム。
【請求項6】
前記ターゲット物質貯槽は、該ターゲット供給システムに着脱可能である、請求項1から5のいずれか一項に記載のターゲット供給システム。
【請求項7】
前記移送機構は、前記ターゲット物質貯槽と前記高圧溶融槽を連絡する連結管と、該連結管の中間に設けられて該連結管の通路を開閉する仕切り部とを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のターゲット供給システム。
【請求項8】
前記仕切り部は、仕切り弁を2重に設けて2段の操作により前記高圧溶融槽の圧力が前記ターゲット物質貯槽に漏れ込むことを防ぐ、請求項7記載のターゲット供給システム。
【請求項9】
前記移送機構は、前記ターゲット物質貯槽と前記高圧溶融槽を連絡し途中で管内の粒状ターゲット物質が移動を止める傾斜管部を有する連結管と、該傾斜管部に振動を与えて管内の前記粒状ターゲット物質を流動させる加振装置とを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のターゲット供給システム。
【請求項10】
前記移送機構は、前記ターゲット物質貯槽と前記高圧溶融槽を連絡する連結管の途中に仕切り部と中間容器と加振装置とを備えたもので、該仕切り部は、前記ターゲット物質貯槽と前記中間容器の間に配置されて前記中間容器のターゲット物質の量が設定された量より少なければ前記ターゲット物質貯槽から前記粒状ターゲット物質を該中間容器に供給し、前記連結管は、該中間容器と前記高圧溶融槽を連絡する部分に途中で管内の粒状ターゲット物質が移動を止める傾斜管部を有し、前記加振装置は、該傾斜管部に振動を与えて管内の前記粒状ターゲット物質を前記高圧溶融槽に落下させる、請求項1から6のいずれか一項に記載のターゲット供給システム。
【請求項11】
前記移送機構は、さらに、前記連結管の前記ターゲット物質貯槽と前記仕切り部の間に管内の粒状ターゲット物質が移動を止める第2の傾斜管部を有し、該第2の傾斜管部に第2の加振装置を設けて、該第2の加振装置が該第2の傾斜管部に振動を与えて管内の前記粒状ターゲット物質を流動化し前記仕切り部を介して前記中間容器に落下させる、請求項10記載のターゲット供給システム。
【請求項12】
前記仕切り部は、仕切り弁を2重に設けて2段の操作により前記中間容器の圧力が前記ターゲット物質貯槽に漏れ込むことを防ぐ、請求項10または11記載のターゲット供給システム。
【請求項13】
前記移送機構は、さらに、前記2重に設けた仕切り弁の中間に第2の中間容器を設けて、該2重の仕切り弁の間に収容する前記粒状ターゲット物質の量を増加させた、請求項12記載のターゲット供給システム。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のターゲット供給システムを組み込んだ極端紫外光源装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−123405(P2010−123405A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296313(P2008−296313)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】