説明

極細繊維不織布

【課題】高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布を提供する。
【解決手段】紡糸溶液を吐出できる液吐出部13aと、ガスを吐出できるガス吐出部14aとを有する溶液紡糸手段を用いて、前記液吐出部13aから紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法により形成された溶液吐出繊維18とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維17とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として溶液吐出繊維18からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維17からなる極細繊維不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細の繊維から構成される不織布に関し、特に繊維径が小さく、固体粒子や液体粒子を含む塵埃を除去するエアフィルタ用途などに適した極細繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、不織布は構成繊維、繊維ウエブの形成方法、或いは繊維ウエブの結合方法等を適宜組み合わせることにより、各種機能を付与できるため、各種用途に適用されている。また、不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、できる限り小さい繊維径を有する繊維からなる不織布が要望されている。
【0003】
このような不織布の製造方法として、紡糸溶液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて紡糸溶液を延伸し、繊維径が極めて小さい繊維とした後に捕集して繊維集合体とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0004】
しかし、この静電紡糸法により製造された不織布は機械的強度が比較的弱いため、繊維径の大きい繊維ウエブと積層することによって、機械的強度を向上させた上で、濾過性能などの機能を安定して発揮させることが検討されており、具体的には、繊維径の大きい繊維ウエブ上に静電紡糸法により紡糸した超極細の繊維を直接集積して不織布を形成することが検討されている。
【0005】
このようにして形成される不織布としては、特許文献1に開示される本出願人による繊維集合体の製造方法「紡糸原液を紡糸空間へ供給し、この供給した紡糸原液に電界を作用させて延伸した繊維を、不織布、織物、フィルム、メッシュなどの基材シート上に集積して繊維集合体を製造する方法であって、前記基材シート上に繊維を集積させる際に、前記基材シートの紡糸原液の供給側と反対面にイオンを照射することを特徴とする、繊維集合体の製造方法。」によって製造される繊維集合体を一例として挙げることができる。
【0006】
しかし、この静電紡糸法のような紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された不織布にあっては、当該超極細の繊維層を構成する繊維同士の繊維間距離が非常に小さいものであり、また構成繊維によって囲まれてできる孔径も非常に小さなものであるため、例えばこの不織布をエアフィルタとして用いた場合、この超極細の繊維層が空気中の塵埃によって急速に目詰まりを起こしてしまい、濾過寿命が短くなってしまうという問題があった。また、空気中の塵埃が液体粒子を含む場合には、超極細の繊維間を液体粒子が埋めてしまい、いわゆる膜を張ったような状態になることから、この問題はさらに深刻であった。このように、超極細の繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された不織布では、超極細の繊維が有している機能性が十分に生かされないという問題があった。
【0007】
また、紡糸溶液の吐出により超極細の繊維を形成するにあたり、静電紡糸法を用いた場合、高電圧を利用する必要があり、このため装置の構成が複雑になり、また安全性の確保にも難しい技術が要求されるという問題があった。そこで、高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−92257号公報
【特許文献2】特表2005−515316号公報(要約、表1など)
【特許文献3】米国特許第6520425号公報(要約、図2など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題を解決して、高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段は、請求項1に係る発明では、紡糸溶液を吐出できる液吐出部と、ガスを吐出できるガス吐出部とを有する溶液紡糸手段(以下、溶液紡糸装置と称することがある。)を用いて、前記液吐出部から紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法(以下、溶液吐出紡糸又は溶液吐出紡糸法と称することがある。)により形成された溶液吐出繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として溶液吐出繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなることを特徴とする極細繊維不織布である。この極細繊維不織布によって、高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布を提供することが可能となる。
【0011】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の極細繊維不織布からなることを特徴とする濾材であり、溶液吐出紡糸法により形成された超極細の繊維層と、メルトブロー法による極細の繊維層とが積層された従来の不織布と比較して、濾過効率は維持したまま、濾過寿命の長い濾材を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の極細繊維不織布の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の極細繊維不織布の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の極細繊維不織布の製造装置の一例を説明する模式図である。
【図4】本発明の極細繊維不織布の製造装置の別例を説明する模式図である。
【図5】本発明の極細繊維不織布の製造装置の別例を説明する模式図である。
【図6】本発明の極細繊維不織布の製造装置の一例の要部拡大図である。
【図7】本発明の極細繊維不織布の製造装置の別例の要部拡大図である。
【図8】本発明の極細繊維不織布の製造装置の別例の要部拡大図である。
【図9】本発明の極細繊維不織布の製造装置の一例の要部拡大図である。
【図10】本発明の実施例1の極細繊維不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図11】本発明の実施例1の極細繊維不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図12】従来(比較例1)のメルトブロー不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図13】従来(比較例1)のメルトブロー不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る極細繊維不織布の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の極細繊維不織布は、紡糸溶液を吐出できる液吐出部と、ガスを吐出できるガス吐出部とを有する溶液紡糸手段を用いて、前記液吐出部から紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法により形成された溶液吐出繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在している。ここで、溶液吐出繊維とは、図6に例示するような、紡糸溶液を吐出できる液吐出部(El)と、ガスを吐出できるガス吐出部(Eg)とを有する溶液紡糸手段50を用いて、前記液吐出部(El)から紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法により形成される繊維である。このような溶液紡糸手段としては、図6に例示する溶液紡糸手段50以外にも、図7に例示する溶液紡糸手段51や図8に例示する溶液紡糸手段52を適用することができる。
【0016】
図7の溶液紡糸手段51は、特許文献2に示されており、この特許文献2によれば、「圧縮ガス流を用いることによってナノファイバの不織マットを形成する装置(溶液紡糸手段51)は、平行な間隔を設けた第1(112)、第2(122)及び第3(132)部材を含み、各々は、供給端部(114,124,134)及び対向出口端部(116,126,136)を有する。第2部材(122)は第1部材(112)に隣接する。第2部材(122)の出口端部(126)は、第1部材(112)の出口端部(116)を越えて延びる。第1(112)及び第2(122)部材は、第1供給スリット(118)を画成する。第3部材(132)は、第1部材(112)の第2部材(122)から反対側で第1部材(112)に隣接して位置する。第1(112)及び第3(132)部材は第1ガススリット(138)を画成し、第1(112)、第2(122)及び第3(132)部材の出口端部(116,126,136)はガスジェット空間(120)を画成する。」ことが提案されている。この装置は高電圧を印加する必要がないという利点がある。しかしながら、この装置においては平板状の第1、第2及び第3部材を平行に設けていることから、シート状の紡糸溶液に対して圧縮ガスを作用させることになり、繊維形状になりにくく、液滴を多く含むものとなり、繊維形状にできたとしても太い繊維しか形成できないという課題を含んでいる点で、図6の溶液紡糸手段の方が優れていると考えられる。
【0017】
また、図8の溶液紡糸手段52は、特許文献3に示されており、この特許文献3によれば、「センターチューブ、センターチューブに同心状かつ離間して位置する第1供給チューブ、第1供給チューブに同心状かつ離間して位置する中間ガスチューブ、中間ガスチューブに同心状かつ離間して位置する第2供給チューブを備え、センターチューブと第1供給チューブは第1環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第1供給チューブは第2環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第2供給チューブは第3環状コラムを形成し、第1ガスジェット空間がセンターチューブと第1供給チューブの下流側端部に形成され、第2ガスジェット空間が中間ガスチューブと第2供給チューブの下流側端部に形成されるように位置している、圧縮ガスを用いるナノファイバー製造装置。」が提案されている。この製造装置も高電圧を印加する必要がないという利点がある。しかしながら、この装置においても、環状に吐出された紡糸溶液に対してガスジェットを作用させるため、繊維形状になりにくく、液滴を多く含むという課題を有する点で、図6の溶液紡糸手段の方が優れていると考えられる。
【0018】
前記溶液吐出繊維を構成する樹脂は、前記溶液紡糸手段を用いて繊維化する紡糸方法により形成できる樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系、アラミド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−(2−メトキシ−エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis−(2−(2−methoxy−ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))、ポリアニリン、ポリエチレンサルファイド、ポリオキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン(poly(oxymethylene−oligo−oxyethylene))、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などから構成することができる。なお、これら樹脂の共重合体又は混合物であることも可能である。また、これらの樹脂に種々の機能を発揮させるための添加剤を混合することも可能である。
【0019】
前記溶液吐出繊維の繊維長は特に限定するものではないが、溶液吐出紡糸手段を用いて繊維化する紡糸方法により超極細の繊維を形成した場合、一般的に連続繊維である。このように超極細の繊維が連続繊維であると、極細繊維不織布製造時及び/又は使用時に超極細の繊維が脱落しにくいため好適である。なお、前記溶液紡糸手段による紡糸時に、間欠的に紡糸溶液を吐出するなどの方法により、非連続繊維であることも可能である。
【0020】
前記メルトブロー繊維は、メルトブロー法により形成された極細の繊維であり、この繊維を構成する樹脂はメルトブロー法によって紡糸できる樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン系やポリエチレン系などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂など1種類以上からなることができる。これらの中でも、極細の繊維を製造しやすいポリオレフィン系樹脂を含んでいることが好ましく、ポリプロピレンを含んでいることがより好ましい。
【0021】
また、前記メルトブロー繊維を構成する樹脂成分は、JIS K7210に規定されるMFRが100(g/10分)以上であることが好ましく、MFR500(g/10分)以上であることがより好ましく、MFR1000(g/10分)以上であることが更に好ましい。MFR100(g/10分)以上であることにより、紡糸時の極細の繊維の劣化を防ぎ、糸切れによるショットの発生を少なくすることができる。つまり、より安定した極細の繊維を紡糸することが可能であり、ショットのより少ない不織布が得られるという利点がある。
【0022】
また、前記メルトブロー繊維を構成する樹脂成分が、熱安定剤を含むことが好ましく、このような熱安定剤としては、特に限定されるものではないが、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系、フェノール系、硫黄系、燐系のなどの化合物があり、これらの内から選択される1種または2種以上の熱安定剤を用いることが好ましい。これらの熱安定剤の中でもヒンダードアミン系化合物が特に好ましい。前記熱安定剤の割合はメルトブロー繊維を構成する樹脂成分全体に対して、0.01〜0.5質量%が好ましく、0.03〜0.3質量%がより好ましく、0.05〜0.2質量%が更に好ましい。熱安定剤の割合が0.01質量%未満であるとその効果が十分に発揮されず、熱安定剤の割合が0.5質量%を超えると、極細の繊維の強度が低下する恐れがある。
【0023】
前記ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[{(6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などがある。
【0024】
本発明の極細繊維不織布は、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在している。また、前記超極細繊維は主として溶液吐出繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなる。ここで、主としてとは、繊維の比率が50%以上であることを意味する。
【0025】
前記超極細繊維の繊維径は、0.001〜1μmであるが、0.01〜0.7μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることがより好ましい。この超極細繊維は溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維から主として形成される繊維であり、メルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維を一部含むことも可能である。前記超極細繊維は溶液吐出繊維70%以上から形成されていることが好ましく、90%以上から形成されていることがより好ましく、100%から形成されていることが更に好ましい。また、超極細繊維の繊維径が0.001μm未満であると溶液吐出紡糸法によって超極細繊維の形成が困難になるという問題があり、超極細繊維の繊維径が1μmを超えると超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題がある。
【0026】
前記極細繊維の繊維径は2〜25μmであるが、4〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。この極細繊維はメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維から主として形成される繊維であり、溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維を一部含むことも可能である。前記極細繊維はメルトブロー繊維70%以上から形成されていることが好ましく、90%以上から形成されていることがより好ましく、100%から形成されていることが更に好ましい。また、極細繊維の繊維径が2μm未満であるとメルトブロー繊維の形成効率が悪くなるという問題があり、繊維径が25μmを超えると極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題がある。
【0027】
なお、本発明の極細繊維不織布に含まれる繊維の「繊維径」は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認することのできる繊維の直径を意味し、具体的には200本の繊維の巾を計測して得ることができる。
【0028】
また、前記超極細繊維の極細繊維不織布に占める割合は、10〜80%であることが好ましく、15〜70%であることがより好ましく、20〜50%であることが更に好ましい。10%未満であると超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題があり、80%を超えると超極細繊維の繊維同士の繊維間距離が小さくなり過ぎるため、極細繊維を混合していることによって得られる性能が十分に発揮されないという問題がある。
【0029】
また、前記極細繊維の極細繊維不織布に占める割合は、90〜20%であることが好ましく、85〜30%であることがより好ましく、80〜50%であることが更に好ましい。90%以上であるとその分超極細繊維の混合割合が低下して、超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題があり、20%未満であるとその分超極細繊維の混合割合が増加することとなり、超極細繊維の繊維同士の繊維間距離が小さくなり過ぎるため、極細繊維を混合していることによって得られる性能が十分に発揮されないという問題がある。
【0030】
なお、本発明において、極細繊維不織布に占める超極細繊維の割合は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認しえる200本以上の繊維の総数に対する超極細繊維の数から計算される割合(%)で表すものとする。同様に、極細繊維不織布に占める極細繊維の割合は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認しえる200本以上の繊維の総数に対する極細繊維の数から計算される割合(%)で表すものとする。
【0031】
また、溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維が全て繊維径0.001〜1μmの超極細繊維になるとは限らず、一部繊維径が0.001μm未満になる場合や、1μmを超える場合もある。同様にメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維が全て2〜25μmの極細繊維になるとは限らず、一部繊維径が2μm未満になる場合や、25μmを超える場合もある。したがって、前記超極細繊維の極細繊維不織布に占める割合と前記極細繊維の極細繊維不織布に占める割合とを合計しても100%にならない場合もある。
【0032】
また、本発明では、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維と繊維径4〜20μmの極細繊維とが混在しており、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が50%以上であることが好ましい。このような構成を有する場合、構成繊維全体の分布において、前記超極細繊維のピークと前記極細繊維のピークが存在することを意味し、溶液吐出繊維の繊維形成性とメルトブロー繊維の繊維形成性が共に優れているのみならず、超極細繊維および極細繊維の機能を確実に発揮して、極細繊維不織布による効果をより顕著に得ることができる。また、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0033】
本発明の極細繊維不織布は上述のように溶液吐出繊維とメルトブロー繊維とが混在しているが、溶液吐出繊維とメルトブロー繊維とを見分ける方法としては、前述の電子顕微鏡写真の映像で見分けることができる外に、例えば溶液吐出繊維を溶媒に溶解させることによって見分ける方法が可能である場合もある。
【0034】
本発明の極細繊維不織布は、溶液吐出繊維とメルトブロー繊維とが混在しているが、その混在の状態は、例えば図1の電子顕微鏡写真で示すように、溶液吐出繊維が極細の繊維の前になったり、後ろになったりしている形態で説明することができる。すなわち、溶液吐出繊維とメルトブロー繊維とが混ざり合って存在しているのである。
【0035】
なお、前記溶液吐出繊維の極細繊維不織布に占める割合が、極細繊維不織布の一方の面付近と他方の面付近とで相違し密度勾配を形成している場合もあるが、少なくとも片面において、前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることが好ましい。また、両面において、前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることがより好ましい。
【0036】
本発明の極細繊維不織布は、前述のように溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として溶液吐出繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなるので、実用性のある機械的強度を備えると共に超極細繊維および極細繊維の有する機能性が十分に発揮されるという優れた特性を有している。このような特性を生かした用途の一例として、前記極細繊維不織布からなる濾材を挙げることができる。この濾材をエアフィルタとして用いた場合の効果を具体的に説明すると、溶液吐出繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された従来の不織布で生じていた、溶液吐出繊維層が空気中の塵埃によって急速に目詰まりを起こし濾過寿命が低下するという問題は起こらず、しかも超極細繊維の有する分離機能は保持したままで、実用性のある機械的強度も備えているという効果がある。また、空気中の塵埃が液体粒子を含む場合、前述の従来の不織布では溶液吐出繊維層に液体粒子が補足された際に、溶液吐出繊維の繊維間で液体粒子が膜を張ったような状態になり、圧力損失が急激に上昇するという問題があったが、本発明では超極細繊維と極細繊維とが混在しているため、繊維間隔が広く保たれ、液体粒子が補足されても膜を張ったような状態にはなり難いため、圧力損失の急激な上昇を防ぐことができるという効果がある。
【0037】
本発明の極細繊維不織布は、一般ビルの空調、工場空調設備、電算室や病院の空調設備などに使用される中・高性能フィルタやクリーンルームなどの供給空気からサブミクロン粒子を除去するHEPAフィルタ又はULPAフィルタ、家庭用又は業務用空気清浄機用フィルタ、或いは電気掃除機やコピー機などに用いることのできる排気用フィルタ、面体への取り外し可能な防塵マスク用フィルタとして、そのフィルタを構成するエアフィルタ用濾材の用途に好適に使用される。また、マスク、ワイピイング材、保温材、バッテリーセパレータ、および液体用濾過材などの用途に好適に使用される。これらの用途の中でも、エアフィルタ用濾材として特に好適に使用される。
【0038】
本発明の極細繊維不織布をエアフィルタ用濾材に用いた場合、中高性能以上の性能を有するフィルタとして好適であり、極細繊維不織布を構成する繊維の繊維径および面密度などを変えることによって、目的とする濾過性能を得ることができる。この濾過性能の一例としては、JIS B9908形式1に規定される試験方法において、0.3〜0.5μmの範囲における大気塵粒子の捕集効率を10%以上とすることが可能である。なお、この捕集効率は、より好ましくは20%以上であり、更に好ましくは30%以上である。また、このエアフィルタ用濾材の圧力損失は、試験条件が風速10cm/sec.の時に、600Pa以下が好ましく、200Pa以下がより好ましく、100Pa以下が更に好ましい。
【0039】
本発明の極細繊維不織布は、例えば、次に説明する極細繊維不織布の製造方法及び製造装置によって形成することができる。極細繊維不織布の製造方法及び製造装置については、製造装置の極細繊維ウエブの流れ方向と平行方向における横断面概念図である図3をもとに説明する。
【0040】
極細繊維不織布の製造方法は、図3に例示するような、紡糸溶液を吐出できる液吐出部(El)と、ガスを吐出できるガス吐出部(Eg)とを有する溶液紡糸手段50(又は溶液紡糸装置50)を用いて、前記液吐出部(El)から紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法(又は溶液吐出紡糸)により形成した溶液吐出繊維18を、メルトブロー法によりノズル12から吐出したメルトブロー繊維の繊維流17の中に混入して極細繊維ウエブ20’を形成する工程を含むことを特徴とする製造方法であり、図3に例示する極細繊維不織布の製造装置はこの製造方法に好適に用いられる製造装置である。
【0041】
図3に示す極細繊維不織布の製造装置10は、熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11と、前記溶融手段11に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する噴出手段12と、図6〜8に例示するような、紡糸溶液を吐出できる液吐出部(El)と、ガスを吐出できるガス吐出部(Eg)とを有し、前記液吐出部(El)から紡糸溶液を吐出することにより溶液吐出繊維18を形成し、且つ前記溶液吐出繊維18を前記ガスの吐出により前記繊維流17に混入する溶液紡糸手段50と、前記メルトブロー繊維17と前記溶液吐出繊維18とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と溶液吐出繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させる搬送手段15とを備えている。
【0042】
より具体的には、例えば前記熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11はメルトブロー装置用ダイ11であり、前記溶融手段11に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する噴出手段12はメルトブロー用ノズル12である。メルトブロー装置用ダイ11は図9に例示するように、ダイ11には溶融樹脂を吐出するノズル12とこのノズル近傍から加熱気流を吹き出す吹出し口111とが設けられており、ノズルから押出された溶融樹脂は加熱気流により細化されて極細の繊維からなる繊維流17を形成することができる。なお、前記メルトブロー装置用ダイ11は通常のメルトブロー装置に用いられるダイを適用することが可能であり、ダイに設けられているノズル12は通常複数個、所定間隔で直線上に並んでおり、この両側に連続したスリットの形状で吹出し口111が設けられる。
【0043】
また、前記メルトブロー繊維17と前記溶液吐出繊維18とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と溶液吐出繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させる搬送手段15は好ましくは図3のAの矢印方向とBの矢印方向に回転するコンベアベルト15、またはサクション手段を備える通気性のドラム(図示しない)であることができる。
【0044】
このような製造装置を用いて極細繊維不織布を製造する場合、まず、原料となる熱可塑性樹脂を用意する。この熱可塑性樹脂については、メルトブロー法によって極細の繊維を紡糸できる樹脂である限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系やポリエチレン系などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂など1種類以上からなることができる。これらの中でも、極細の繊維を製造しやすいポリオレフィン系樹脂を含んでいることが好ましく、ポリプロピレンを含んでいることがより好ましい。
【0045】
この熱可塑性樹脂を構成する樹脂成分については、前述の本発明の極細繊維不織布の説明で説明した樹脂成分をそのまま適用することが可能である。前記極細繊維不織布の製造方法では、このような熱可塑性樹脂を、前述の熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11(例えばメルトブロー装置用ダイ11)に投入して前記熱可塑性樹脂を溶融して、前記溶融手段11に設けられた噴出手段12(例えばメルトブロー用ノズル12)を通して、溶融樹脂を吐出して、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する。
【0046】
本発明では、前記極細繊維不織布の製造装置10において、図6(a)(b)に例示するように、前記溶液紡糸手段50が、次の条件を満足する溶液紡糸手段であることが好ましい。
(1)ガス吐出部(Eg)が液吐出部(El)よりも上流側に位置する
(2)液吐出部(El)を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する
(3)ガス吐出部(Eg)を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する
(4)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している
(5)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸(Al)とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸(Ag)とが平行である
(6)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸(Ag)に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる。
このような極細繊維不織布の製造装置であれば、図7及び図8に示す溶液紡糸手段と比較して、液吐出部から吐出された紡糸溶液とガス吐出部から吐出されたガスとは近接しており、平行であり、しかも紡糸溶液にはガスおよび随伴気流による剪断力が1本の直線状に作用するため、細径化した繊維を安定して紡糸できるという利点を有している。また、従来の静電紡糸法と比較して、紡糸溶液に高電圧を印加する必要がなく、また、紡糸溶液及びガスを加熱する必要もないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置である。
【0047】
以下、図6(a)(b)に示す溶液紡糸手段を一例として、溶液紡糸手段(又は溶液紡糸装置)について詳細に説明する。なお、図6(a)は溶液紡糸装置の先端部を拡大した斜視図であり、図6(b)は、図6(a)におけるC平面切断図である。
【0048】
前記溶液紡糸装置50は紡糸溶液を吐出できる液吐出部(El)を一方の端部に有する液吐出ノズル(Nl)1本と、ガスを吐出できるガス吐出部(Eg)を一方の端部に有するガス吐出ノズル(Ng)1本の外壁面が当接し、ガス吐出ノズル(Ng)のガス吐出部(Eg)が液吐出部(El)よりも上流側となる位置にある。なお、液吐出ノズル(Nl)は液吐出部(El)を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有しており、ガス吐出ノズル(Ng)はガス吐出部(Eg)を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有している。また、前記液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)と前記ガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは、液吐出ノズル(Nl)の壁厚とガス吐出ノズル(Ng)の壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸(Al)とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸(Ag)とが平行である関係にある。更には、図6(b)にガス用柱状中空部(Hg)の中心軸(Ag)に対して垂直な平面Cで切断した切断図を示すように、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外形、液用柱状中空部(Hl)の切断面の外形ともに円形であり、これら外周間の距離が最も短い直線L1を、1本だけ引くことができる状態にある。
【0049】
そのため、図6のような溶液紡糸装置の液吐出ノズル(Nl)に紡糸溶液を供給し、ガス吐出ノズル(Ng)にガスを供給すると、紡糸溶液は液用柱状中空部(Hl)を通り液吐出部(El)から液用柱状中空部(Hl)の軸方向に吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部(Hg)を通りガス吐出部(Eg)からガス用柱状中空部(Hg)の軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された紡糸溶液とは近接した状態にあり、ガスの吐出方向と紡糸溶液の吐出方向とは平行関係にあり、しかも平面C上、吐出されたガスと吐出された紡糸溶液とは最も近い点が1点、つまり、紡糸溶液は1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受けるため、細径化しながら液用柱状中空部(Hl)の軸方向に飛翔し、同時に紡糸溶液の溶媒が揮発して繊維化する。このように、図6の溶液紡糸装置は紡糸溶液に高電圧を印加する必要がなく、紡糸溶液及びガスを加熱する必要もないため、簡素かつエネルギー的に有利な装置である。
【0050】
液吐出ノズル(Nl)は紡糸溶液を吐出できるものであれば良く、液吐出部(El)の形状は特に限定するものではないが、液吐出部(El)の形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。なお、液吐出部(El)の形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズル(Ng)側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が1本の直線状となり、液滴を生じにくくなる。つまり、ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸溶液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0051】
また、液吐出部(El)の大きさも特に限定するものではないが、0.03〜20mmであるのが好ましく、0.03〜0.8mmであるのがより好ましい。0.03mmよりも小さいと、粘度の高い紡糸溶液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mmを超えると、吐出された紡糸溶液全体に剪断作用を働かせることが困難となり、液滴を生じやすくなる傾向があるためである。
【0052】
なお、液吐出ノズル(Nl)は金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。更に、図6においては、円柱状の液吐出ノズル(Nl)を図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸溶液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
【0053】
ガス吐出ノズル(Ng)はガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部(Eg)の形状は特に限定するものではないが、ガス吐出部(Eg)の形状は、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を働きやすくするために、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部(Eg)の形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を液吐出ノズル(Nl)側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる状態となり、吐出された紡糸溶液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0054】
また、ガス吐出部(Eg)の大きさも特に限定するものではないが、0.03〜79mmであるのが好ましく、0.03〜20mmであるのがより好ましい。0.03mmよりも小さいと、吐出された紡糸溶液全体に剪断作用を働かせることが困難になる傾向があり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mmを超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。なお、ガス吐出部(Eg)の大きさは液吐出部(El)の大きさと同じか、より大きいのが好ましい。ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすいためである。
【0055】
なお、ガス吐出ノズル(Ng)は金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。
【0056】
ガス吐出ノズル(Ng)はガス吐出部(Eg)が液吐出部(El)よりも上流側(紡糸溶液の供給側)となる位置に配置されているため、液吐出部周辺へ紡糸溶液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部(Eg)と液吐出部(El)との距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると紡糸溶液に対するガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部(Eg)と液吐出部(El)との距離の差の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと液吐出部(El)とが一致していなければ良い。
【0057】
液用柱状中空部(Hl)は紡糸溶液の通過経路であり、紡糸溶液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部(Hg)はガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。
【0058】
なお、液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)は液吐出部(El)から吐出された紡糸溶液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)はガス吐出部(Eg)から吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この液仮想柱状部(Hvl)とガス仮想柱状部(Hvg)との距離は液吐出ノズル(Nl)の壁厚とガス吐出ノズル(Ng)の壁厚の和に相当しているが、この距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
【0059】
この液仮想柱状部(Hvl)とガス仮想柱状部(Hvg)のいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、様々な点にガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなるためである。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
【0060】
更に、液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸(Al)とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸(Ag)とが平行で、吐出された紡糸溶液に対して1本の直線状にガス及び随伴気流を作用させることができるため、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸(Al)とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸(Ag)とが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
【0061】
前記溶液紡糸装置はガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる(図6(b))。このようなガス用柱状中空部から吐出されたガス及び随伴気流は、液用柱状中空部から吐出された紡糸溶液に対して、1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
【0062】
なお、図6(a)には図示していないが、液吐出ノズル(Nl)は紡糸溶液貯蔵装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)に接続されており、ガス吐出ノズル(Ng)はガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。
【0063】
図6においては、1組の溶液紡糸装置しか描いていないが、2組以上の溶液紡糸装置を配置することができる。2組以上の溶液紡糸装置を配置することによって、生産性を高めることができる。
【0064】
また、図6においては、液吐出ノズル(Nl)とガス吐出ノズル(Ng)とを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図6の態様に限定されない。例えば、段差を有する基材に対して液用柱状中空部(Hl)とガス用柱状中空部(Hg)を穿孔したものであっても良い。また、液吐出ノズル(Nl)の液吐出部(El)及び/又はガス吐出ノズル(Ng)のガス吐出部(Eg)の位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。
【0065】
本発明では、前記極細繊維不織布の製造装置を用い、前記溶液紡糸装置50のガス吐出部(Eg)から流速100m/sec.以上のガスを吐出することができる。ガス吐出部(Eg)から流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、細径化した繊維を含む極細不織布を効率的に製造することができる。好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、より好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限は搬送手段15上の極細繊維ウエブ20’を乱すことのない流速であれば良く、特に限定するものではない。このような流速のガスを吐出するには、例えば、圧縮機からガス用柱状中空部(Hg)にガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気であると経済的である。また、これらのガスに紡糸溶液に対して親和性のある溶媒の蒸気や親和性のない溶媒の蒸気を含ませることもできる。このような溶媒の蒸気量を調整することによって、紡糸溶液からの溶媒蒸発速度や紡糸溶液の固化速度を制御でき、紡糸の安定性を高めたり、繊維径を調整することができる。
【0066】
本発明では、前記極細繊維不織布の製造装置を用いるにあたり、溶液吐出紡糸用の紡糸溶液を用意する。この紡糸溶液は溶液吐出紡糸可能な樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶液吐出紡糸用の樹脂は溶液吐出紡糸できる限り特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系、アラミド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−(2−メトキシ−エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis−(2−(2−methoxy−ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))、ポリアニリン、ポリエチレンサルファイド、ポリオキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン(poly(oxymethylene−oligo−oxyethylene))、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などから構成することができる。なお、これら樹脂の共重合体又は混合物であることも可能である。また、これらの樹脂に種々の機能を発揮させるための添加剤を混合することも可能である。
【0067】
この溶媒としては、樹脂によっても変化するため、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。溶媒は1種類でも適用可能であり、2種類以上の溶剤を混ぜた混合溶媒も適用可能である。
【0068】
前記紡糸溶液は上述のような樹脂を溶媒に溶解させたものであるが、その濃度は、樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒等によって変化するため、特に限定するものではないが、溶液吐出紡糸への適用性の点から、粘度が10〜10000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸溶液が延伸されにくくなり、繊維となりにくい傾向があるためである。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部(Hl)を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部(Hl)を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。なお、液吐出部(El)からの紡糸溶液の吐出量は紡糸溶液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、0.1〜100cm/時間であるのが好ましい。
【0069】
このような紡糸溶液は、図3に例示するように、例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は樹脂製バッグ(例えば、塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製)などの紡糸溶液貯蔵装置(図示せず)に蓄えられており、この紡糸溶液は紡糸溶液貯蔵装置に接続された、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、マグネット式マイクロギアポンプ、ディスペンサ等の供給吐出手段(図示せず)により、溶液供給手段13(例えば溶液吐出紡糸用ノズル装置13)により吐出されると共に前記ガス吐出部(Eg)から吐出されるガスによって、紡糸溶液は前述のメルトブロー繊維からなる繊維流17に向かって供給される。
【0070】
なお、溶液吐出紡糸用ノズル装置13からの吐出方向は前記繊維流17に向かって供給する限り特に限定するものではないが、前記メルトブロー繊維の繊維流17の中に、この繊維流17の方向に交差するようにして供給することが好ましく、図4に示すように、交差の角度は繊維流17の中心線の垂線に対して、溶液吐出繊維の繊維流18の中心線のなす角度(−α又は+α)が0〜±75°であることが好ましく、0〜±60°であることがより好ましく、0〜±45°であることが更に好ましい。ここで、前記角度は溶液供給手段13の先端付近における、繊維流17の中心線と水平線とがなす角度であり、角度が0°であるということは、繊維流17の中心線と繊維流18の中心線とが直角に交わることを意味する。また、繊維流の先端が搬送手段15側に向かう場合の角度を+で表すものとする。例えば、図4に例示する極細繊維不織布の製造装置10では、前記角度は+45°となっている。
【0071】
また、溶液紡糸装置の液吐出部(El)からメルトブロー繊維の繊維流17までの距離は、紡糸溶液の吐出量やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、50〜1000mmであるのが好ましい。50mm未満であると、紡糸溶液の溶媒が十分に蒸発しない状態でメルトブロー繊維の繊維流17に混入するため、搬送手段15上に集積された後に繊維形状を保つことができない場合があるためである。また、1000mmを超えると、ガスの流れが乱れ、繊維が切れて飛散しやすくなる傾向があるためである。
【0072】
また、本発明では、前記溶液吐出紡糸用ノズル装置13は1本である必要はなく、極細繊維不織布の生産性を高める上では、溶液吐出紡糸用ノズル装置13は2本以上であることが好ましく、溶液吐出紡糸用ノズル装置13は固定されていることも、移動可能(例えば、長円状に移動可能)であることも可能である。また、図5に例示するように、前記溶液供給手段13(例えば溶液吐出紡糸用ノズル装置13)に加えて、もう一組第2の溶液供給手段13’(例えば第2の溶液吐出紡糸用ノズル装置13’)を設けることも可能である。この場合、メルトブロー繊維の繊維流17を挟むようにしてその両側にそれぞれ配置するようにすることが好ましい。
【0073】
以上説明したように、前記極細繊維不織布の製造方法では、メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の前記繊維流17の中に、溶液吐出紡糸法により形成した溶液吐出繊維18を混入することができる。そして、この溶液吐出繊維18が混入されることによって、メルトブロー繊維17と溶液吐出繊維18とが混在した繊維流19が形成される。次いで、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と溶液吐出繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を、搬送手段15(好ましくはコンベアベルト15)によって堆積し、且つ移動させることによって極細繊維不織布20を形成することができる。なお、メルトブロー用ノズル12と搬送手段15との距離は、熱可塑性樹脂の吐出量やメルトブロー用ノズルからのガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、50〜1000mmであるのが好ましい。50mm未満であると、溶液吐出繊維とメルトブロー繊維の混合状態が不均一になる場合があるためである。また、1000mmを超えると、メルトブロー繊維と溶液吐出線糸からなる極細繊維ウエブ20’の堆積が困難になる場合があるためである。
【0074】
前記搬送手段15は、前記メルトブロー繊維と前記溶液吐出繊維とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と溶液吐出繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させることが可能である限り、その形態は特に限定されず、図3〜5に例示するコンベアベルト15であることが好ましく、ドラム形状であることも可能である。また、本発明においてはガスを吐出しているため、ガスを吸引して搬送手段15に繊維を集積しやすく、また集積した極細繊維ウエブが乱れないように、通気性の搬送手段15を使用し、極細繊維ウエブと反対側に吸引装置を備えることも好ましい。
【0075】
前述のとおり、本発明の極細繊維不織布は、高電圧を用いない手段により、実用性のある機械的強度を備えると共に、紡糸溶液の吐出により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される利点があるが、製造面からも従来不織布と比べて有利な利点がある。すなわち、前記極細繊維不織布の製造方法によれば、メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の繊維流の中に、溶液吐出紡糸法により形成した溶液吐出繊維を混入して極細繊維ウエブを形成するため、従来技術と比較して少ないエネルギーによって極細繊維不織布を形成することができる。すなわち、メルトブロー法も溶液吐出紡糸法も樹脂原料から直接紡糸によって繊維を形成すると同時に異なる繊維を混合して極細繊維ウエブに形成することができるので、繊維を分散させたり異なる繊維ウエブを積層するなどの工程を省略することが可能であり、その分エネルギーコストを削減できる。その結果、得られる本発明の極細繊維不織布は、従来よりも低価格の不織布とすることが可能である。また、直接紡糸によって繊維が形成されているので、繊維を分散させるための油剤などが実質的に付着しておらず、クリーンな素材であり、濾材や衛生材料としても好適である。また、極細繊維を抄紙して得られる湿式不織布と比較して、嵩高な不織布を形成できるという利点があり、得られる本発明の極細繊維不織布は空気抵抗が極めて少なくなり圧力損失が少なく、エアフィルタ用濾材として好適である。また、メルトブロー法及び溶液吐出紡糸法に用いる樹脂原料を自由に選択することができ、繊維の種類や繊維径も自由に設計できるので、様々な要求に応じた機能を付加した製品とすることができる。なお、本発明の極細繊維不織布は、静電紡糸法を用いずに極細繊維が形成されているので、静電紡糸法を利用する場合と比べて、不織布の構成繊維が電界の作用によって帯電するという効果は生じないが、必要に応じて、本発明の極細繊維不織布に対して帯電加工することも可能である。
【0076】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
(極細繊維不織布の濾過性能評価方法)
JIS B9908形式1に規定される試験方法において、風速10cm/sec.とした時の圧力損失および0.3〜0.5μmの範囲における大気塵粒子の捕集効率を測定する。
【0078】
(実施例1)
メルトブロー法に用いる熱可塑性樹脂としてエクソン製のポリプロピレン樹脂6936Gを準備して、図3、図6及び図9に示す製造装置を用いて、この熱可塑性樹脂をギアポンプ回転数30rpmでメルトブロー装置用ダイ11に送り込み、この熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで温度280℃でエア量0.5Nm/minの加熱気流を吹出し口111から吹き出しながら、この熱可塑性樹脂をメルトブロー用ノズル12から吐出させて、メルトブロー繊維の目付が20g/mとなるように、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成させた。なお、メルトブロー用ノズル12の先端と、搬送手段としてのコンベアベルト15の表面との間の距離は340mmに設定した。
その一方、溶液吐出紡糸用の紡糸溶液として、アルドリッチ製のポリアクリロニトリルのN,N-ジメチルホルムアミド溶液10質量%を準備した。次いで、この紡糸溶液を、溶液供給手段13の一部を構成するシリンジ13cに注入して、このシリンジ13cにPFAチューブ13bを接続し、このチューブ13bの先端部には内径0.4mmで、長さ30mmの金属製の液吐出部(El)13aを接続した。また、この液吐出部13aに接し、液吐出部13aから5mm上流側が吐出口になるように設置された内径0.4mmで長さ50mmの金属製のガス吐出部14aを接続して、液吐出部13aとガス吐出部14aとを有する4組の溶液紡糸手段50aを一列に並べて溶液紡糸装置50を構成した。そして、この液吐出部13aの先端が、メルトブロー用ノズル12の中心線からの距離180mm、及びメルトブロー装置用ダイ11下面からの距離70mmの位置になるように設置した。
次いで、前記紡糸溶液の吐出量を溶液紡糸手段50aの1組当たり5cc/hrで押し出しながら、ガス吐出部14aから2kfg/cmの圧力で流速200m/sec.のエアーを送り、溶液吐出繊維18を形成すると同時に、コンベアベルト15から50mm上部において、メルトブロー繊維流17の中に、溶液吐出繊維18を混入することができた。このメルトブロー繊維と溶液吐出繊維とが混合して形成された混合繊維流19は、吸引装置(図示しない)を設けたコンベアベルト15の上に受け止められ、極細繊維ウエブ20’として堆積すると共にコンベアベルト15によって移動させ、極細繊維不織布20を形成することができた。なお、前記メルトブロー繊維の繊維流17の中心線の垂線に対して、溶液吐出繊維の繊維流18の中心線のなす角度は図4に示すように+45°であった。
得られた極細繊維不織布20の目付は約20g/mであり、溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維の目付は、計算値で0.04g/mであった。
この極細繊維不織布の溶液吐出繊維混入側の表面の電子顕微鏡写真の中の一枚を図1に示す。これらの電子顕微鏡写真から、溶液吐出繊維とメルトブロー繊維とが混在しており、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は17%、2〜25μmの極細繊維の割合が83%であった。また、この超極細繊維の数平均繊維径は0.4μmであり、この極細繊維の数平均繊維径は8.9μmであった。なお、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は15%、4〜20μmの極細繊維の割合が82%であった。繊維径分布のヒストグラムを図10に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、主としてメルトブロー繊維からなる極細繊維のピークと、主として溶液吐出繊維からなる超極細繊維のピークが形成されていた。
なお、図2に示す、この極細繊維不織布の溶液吐出繊維混入側と反対側の表面の電子顕微鏡写真によれば、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は17%、2〜25μmの極細繊維の割合が83%であった。また、この超極細繊維の数平均繊維径は0.4μmであり、この極細繊維の数平均繊維径は9.3μmであった。また、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は16%、4〜20μmの極細繊維の割合が81%であった。繊維径分布のヒストグラムを図11に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、主としてメルトブロー繊維からなる極細繊維のピークと、主として溶液吐出繊維からなる超極細繊維のピークが形成されていた。
また、得られた極細繊維不織布について、JIS B9908形式1に規定される試験方法において、風速10cm/sec.時の圧力損失および0.3〜0.5μmの範囲における大気塵粒子の捕集効率(初期性能測定)を測定した結果、初期圧力損失が20Paであり、初期粒子捕集効率が31.2%であった。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、溶液吐出紡糸用の紡糸溶液を準備せずに、さらに溶液紡糸装置50を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例1の極細繊維不織布を形成した。
すなわち、メルトブロー法に用いる熱可塑性樹脂としてエクソン製のポリプロピレン樹脂6936Gを準備して、図3、図6及び図9に示す製造装置を用いて、この熱可塑性樹脂をギアポンプ回転数30rpmでメルトブロー装置用ダイ11に送り込み、この熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで温度280℃でエア量0.5Nm/minの加熱気流を吹出し口111から吹き出しながら、この熱可塑性樹脂をメルトブロー用ノズル12から吐出させて、メルトブロー繊維の目付が20g/mとなるように、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成させた。なお、メルトブロー用ノズル12の先端と、搬送手段としてのコンベアベルト15の表面との間の距離は340mmに設定した。
次いで、このメルトブロー繊維からなる繊維流17は、吸引装置(図示しない)を設けたコンベアベルト15の上に受け止められ、極細繊維ウエブ20’として堆積すると共にコンベアベルト15によって移動させ、極細繊維不織布20を形成した。
得られた極細繊維不織布20の目付は約20g/mであり、この極細繊維不織布の電子顕微鏡写真を複数枚撮影した結果、極細の繊維の平均繊維径が9.2μmであり、2〜25μmの極細の繊維の割合が100%であった。繊維径分布のヒストグラムを図12に示す。また、反対側の面の繊維径分布のヒストグラムを図13に示す。
また、得られた極細繊維不織布について、JIS B9908形式1に規定される試験方法において、風速10cm/sec.時の圧力損失および0.3〜0.5μmの範囲における大気塵粒子の捕集効率(初期性能測定)を測定した結果、初期圧力損失が20Paであり、初期粒子捕集効率が17.1%であった。
【0080】
実施例1及び比較例1の濾過性能評価(初期性能測定)結果を表1に示す。
表1

【0081】
実施例1及び比較例1の結果から明らかなように、実施例1の極細繊維不織布では、溶液吐出紡糸法により形成された溶液吐出繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しているため、メルトブロー繊維のみからなる比較例1の不織布と比較して、初期圧力損失は同等でありながら、粒子捕集効率が高く、優れたフィルタであることがわかる。
【符号の説明】
【0082】
Nl 液吐出ノズル
Ng ガス吐出ノズル
El 液吐出部
Eg ガス吐出部
Hl 液用柱状中空部
Hg ガス用柱状中空部
Hvl 液仮想柱状部
Hvg ガス仮想柱状部
Al 吐出方向中心軸(液)
Ag 吐出方向中心軸(ガス)
C ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面
L1 外周間の距離が最も短い直線
10 極細繊維不織布の製造装置
11 溶融手段、メルトブロー装置用ダイ
12 噴出手段、メルトブロー用ノズル
13、13’ 溶液供給手段、溶液吐出紡糸用ノズル装置
13a 溶液吐出紡糸用ノズル
13b チューブ
13c シリンジ
14a ガス吐出部
15 搬送手段
17 メルトブロー繊維、メルトブロー繊維の繊維流
18 溶液吐出繊維、溶液吐出繊維の繊維流
19 メルトブロー繊維と溶液吐出繊維とが混在した繊維流
20 極細繊維不織布
20’ 極細繊維ウエブ
50 溶液紡糸手段、溶液紡糸装置
50a 1組の溶液紡糸手段
111 吹出し口
112 第1部材
122 第2部材
132 第3部材
114、124、134 供給端部
116、126、136 対向出口端部
118 第1供給スリット
138 第1ガススリット
120 ガスジェット空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸溶液を吐出できる液吐出部と、ガスを吐出できるガス吐出部とを有する溶液紡糸手段を用いて、前記液吐出部から紡糸溶液を吐出して繊維化する紡糸方法により形成された溶液吐出繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として溶液吐出繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなることを特徴とする極細繊維不織布。
【請求項2】
請求項1に記載の極細繊維不織布からなることを特徴とする濾材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−185154(P2010−185154A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30616(P2009−30616)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】