説明

構造物および構造物の製造方法

【課題】筐体、導電部材および導電パターンからなる構造物であって、設計の自由度が高い構造物を提供すること。
【解決手段】構造物10は、誘電体からなる筐体1と、筐体1を貫通するように埋め込まれている導電部材2と、導電部材2が筐体1から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、導電部材2に電気的に接続するように設けられている導電パターン3と、を備えており、導電パターン3は、自身は保形性を有さない導電膜からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体を貫通する導電部材を備えた構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インサート板金と、インサート板金に固着されたピンと、インサート板金の外周縁を覆うとともにピンの端面が露出するようにインサート成形により形成した樹脂部と、を備える携帯電話機が記載されている。
【0003】
特許文献1の携帯電話機では、回路基板や電子部品などを収納する部品収納部は、底面はデジタルテレビ用アンテナ機能を有するインサート板金で、側面はインサート板金に一体的に形成した樹脂部で、上面はパッキン部材を全周にわたって押圧する押圧部材で構成したため気密化が図れる。
【0004】
また、デジタルテレビ用アンテナ機能を有するインサート板金に固着した金属製ピンの端面に回路基板に接続された金属製のヒンジ取付け片と共締めされた可撓性のアンテナバネ板の接点が付勢された状態で接触しているため、デジタルテレビ用アンテナ機能を有するインサート板金と回路基板を確実に電気的に接続できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−263283号公報(平成22年11月18日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、電子装置に組み込まれ得る新規かつ有用な構造物として、筐体、筐体を貫通する導電部材、および、導電部材と電気的に接続するように筐体の表面に設けられた導電パターンからなる構造物について鋭意検討している。
【0007】
ここで、特許文献1に記載されている構成では、インサート板金は、ピンを固着した状態で、樹脂部とともに一体的に形成されるため、構造、材質等が制限される。例えば、インサート板金には、ピンを保持するだけの強度が必要となる。また、インサート板金は、部品収納部の底面を構成するため、この観点からも、構造、材質等が制限される。以上のように、特許文献1に記載されている構成においてインサート板金の設計の自由度は小さい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、筐体、筐体を貫通する導電部材、および、導電部材と接触するように筐体の表面に設けられた導電パターンからなる構造物であって、設計の自由度が高い構造物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る構造物は、上記課題を解決するために、誘電体からなる筐体と、該筐体を貫通するように埋め込まれている導電部材と、該導電部材が該筐体から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、該導電部材に電気的に接続するように設けられている導電パターンと、を備えており、該導電パターンは、自身は保形性を有さない導電膜からなることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、筐体を挟んだ領域間を好適に電気的に接続することができる。導電パターンは、アンテナとして用いてもよいし、導電パターンが形成された領域に配置された部材に電気的に接続するために用いてもよい。ここで、上記の構成によれば、導電パターンが、自身は保形性を有さない導電膜からなるため、自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0011】
本発明に係る構造物では、上記導電パターンは、導電ペーストが上記少なくとも一方の面上に塗布されてなるものであることが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、導電パターンを、導電ペーストを塗布することにより形成することができる。これにより、導電パターンを薄くすることが可能であり、また、容易に曲面的な形状とすることができるので、設計の自由度をより向上させることができる。
【0013】
本発明に係る構造物では、上記導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも金属粉および溶剤を含有しており、上記導電ペーストが塗布されてなる上記導電膜は、乾燥により該溶剤の少なくとも一部が除去されることで固定化するものであることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、導電ペーストを塗布した後に固定化させるので、安定的に筐体及び導電部材に固着させることが可能となる。
【0015】
本発明に係る構造物では、上記導電パターンは、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、導電ペーストが上記少なくとも一方の面上に塗布されてなるものであることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により、導電ペーストを塗布するため、筐体等の形状に合わせて首尾よく導電パターンの印刷を行うことができる。これにより、構造物の大量生産等にも寄与することができる。
【0017】
本発明に係る構造物では、上記導電パターンは、可撓性を有する導電膜からなるものであってもよい。
【0018】
上記の構成によっても、導電パターンを、自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0019】
本発明に係る構造物の製造方法は、誘電体からなる筐体、導電部材、および、自身は保形性を有さない導電膜からなる導電パターンを備えた構造物の製造方法であって、該筐体および該導電部材からなり、該導電部材が該筐体を貫通するように埋め込まれている該構造物の一部を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、該導電部材が該筐体から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、該導電部材に電気的に接続するように該導電パターンを設ける第2の工程と、を包含することを特徴としている。
【0020】
上記の構成によれば、筐体と導電部材とを固定した後に、導電パターンを配置するため、導電パターンが自身は保形性を有さない導電膜からなるものであったとしても、問題なく筐体および導電部材上に配置することができる。なぜなら、第1の工程において、導電部材を筐体に埋め込むため、導電パターンと導電部材とを特許文献1に記載の技術のように固着しておく必要がないからである。そして、導電パターンを自身は保形性を有さない導電膜から構成することによって、導電パターンを自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0021】
本発明に係る構造物の製造方法において、第2の工程では、上記少なくとも一方の面上に導電ペーストを塗布することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、導電パターンを、導電ペーストを塗布することにより形成することができる。これにより、繊細なパターンや、曲面的なパターン等、板金では構成が困難な導電パターンを形成することができるので、設計の自由度をより向上させることができる。
【0023】
本発明に係る構造物の製造方法では、上記導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも金属粉および溶剤を含有しており、第2の工程において塗布された上記導電ペーストを、乾燥により該溶剤の少なくとも一部を除去することで固定化することが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、導電ペーストを塗布した後に固定化させる時間が短くて済むので、構造物を安定的に大量生産することにも寄与する。
【0025】
本発明に係る構造物の製造方法において、第2の工程では、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、上記少なくとも一方の面上に導電ペーストを塗布することが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により、導電ペーストを塗布するため、筐体等の形状に合わせて首尾よく導電パターンの印刷を行うことができる。これにより、構造物の大量生産等にも寄与することができる。
【0027】
本発明に係る構造物の製造方法において、第2の工程では、可撓性を有する導電膜によって上記導電パターンを構成してもよい。
【0028】
上記の構成によっても、導電パターンを、自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0029】
また、本発明に係る構造物は、上記導電部材が上記筐体に対して上記導電パターン側に突出しているものであってもよい。
【0030】
導電部材における導電パターン側の面の外縁部には、製造上、微小な曲面(R)が存在することが多い。そのため、筐体と導電部材とを面一で並べた場合、当該微小な曲面が筐体表面下に潜り込み、微小な窪みが形成される。このような微小な窪みが存在すると、当該窪みの上に設けられた導電パターンが断線する可能性がある。
【0031】
ここで、上記の構成によれば、導電部材が筐体に対して導電パターン側に突出しているため、当該微小な曲面が露出することになり、当該微小な窪みは形成されないか、形成されても小さいものとなる。それゆえ、導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0032】
上記構造物では、上記導電部材は、上記筐体と接触する第1の面と、第1の面に隣接し、上記導電パターンが設けられる第2の面とを備えており、第1の面と第2の面との境界には、角が削られてなる丸み部が存在し、該丸み部の少なくとも一部が、上記筐体に対して上記導電パターン側に突出していることが好ましい。
【0033】
導電部材において筐体と接触する第1の面と、第1の面に隣接し、導電パターンが設けられる第2の面との境界に、角が削られてなる丸み部が存在する場合、当該丸み部が筐体表面下に潜り込み、微小な窪みが形成されることがある。このような丸み部は、例えば、製造上、不可避的に生じることが多い。そして、このような微小な窪みが存在すると、当該窪みの上に設けられた導電パターンが断線する可能性がある。
【0034】
ここで、上記の構成によれば、上記丸み部の少なくとも一部が筐体に対して導電パターン側に突出している。そのため、当該丸み部が露出して、当該微小な窪みは形成されないか、形成されても小さいものとなる。そのため、導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0035】
上記構造物では、上記丸み部の全体が、上記筐体に対して上記導電パターン側に突出していることが好ましい。
【0036】
上記の構成によれば、丸み部の全体が露出するため、上記の窪みは形成されない。それゆえ、より好適に導電パターンの断線を抑制することができる。
【0037】
上記構造物では、上記筐体における上記導電部材と接触している部分が、当該部分の周囲に比べて上記導電パターン側に突出しているものであってもよい。
【0038】
上記の構成によれば、導電部材が筐体に比べて導電パターン側に突出していたとしても、当該筐体における導電部材と接触している部分が、当該部分の周囲に比べて導電パターン側に突出しているため、筐体と導電部材との間の段差を低減することができる。これにより、そのような段差に起因する導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0039】
また、本発明に係る構造物は、上記導電パターンが設けられている側では、上記導電部材が上記筐体に対して凹んでいるものであってもよい。
【0040】
製造時のバラツキによって、導電部材と筐体との位置関係が変化する場合がある。そのため、筐体と導電部材とを面一で並べた場合、バラツキの大きさによっては、導電部材の方が筐体よりも過度に高くなり、導電パターンが断線する可能性がある。
【0041】
ここで、上記の構成によれば、導電部が予め筐体よりも凹んでいるように設置するため、製造時のバラツキが大きくなっても、導電部材の方が筐体よりも過度に高くなることを避け、導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0042】
上記構造物では、上記筐体が、上記導電部材における上記導電パターンに対向する面の外周を覆う覆い部を備えているものであってもよい。
【0043】
上記の構成によれば、導電パターン側の面の高さが、筐体、覆い部および導電部材の3段階に変化するようになっている。そのため、覆い部がなく、導電パターン側の面の高さが、筐体および導電部材の2段階に変化するようになっている場合に比べて、段差部の導電パターンの厚みを増やすことができ、導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0044】
また、本発明に係る構造物は、上記導電部材における上記導電パターンと接する面に、凹凸が設けられているものであってもよい。
【0045】
上記の構成によれば、導電部材と導電パターンとの間の接合面積が増加するため、導電部材と導電パターンとの間の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0046】
更に、凹凸により機械的な密着強度が上がることで、導電パターンに含有されるバインダー樹脂の混合比率を下げることも可能となる。言い換えると、導電パターンに含有される金属粉の混合比率が大きくでき、導電パターン自体の抵抗値を下げることで電気信号を通しやすくすることも可能となる。
【0047】
上記構造物では、上記凹凸の深さが、上記導電パターンの厚さよりも浅いものであってもよい。
【0048】
上記の構成によれば、凹凸の深さが導電パターンの厚さよりも浅いため、凹凸が配置された位置においても導電パターンは接続している。それゆえ、導電パターン内の導通性を首尾よく確保することができる。
【0049】
上記構造物では、上記凹凸には、上記導電パターンの厚さよりも深い凹凸が含まれており、該導電パターンの厚さよりも深い凹凸は、上記導電パターンを分断しないように配置されているものであってもよい。
【0050】
上記の構成によれば、導電パターンの厚さよりも深い凹凸が含まれているため、当該凹凸が配置された位置では、導電パターンは接続されていない。しかしながら、上記の構成によれば、導電パターンの厚さよりも深い凹凸は、上記導電パターンを分断しないように配置されているため、本構成においても、導電パターン内の導通性を確保することができる。
【0051】
上記構造物において、上記導電部材における上記導電パターンと接する面には、上記凹凸が同心円状に配置されている形状、上記凹凸がテクスチャ状に整列して配置されている形状、上記凹凸がストライプ状に配置されている形状、上記凹凸が格子状に配置されている形状、および、上記凹凸が渦巻き状に配置されている形状からなる群より選択される1種類以上の形状が形成されていてもよい。
【0052】
上記の構成によれば、導電部材と導電パターンとの間の接合面積が増加するため、導電部材と導電パターンとの間の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)を首尾よく向上させることができる。
【0053】
特に、上記凹凸が同心円状または渦巻き状に配置されている形状は、導電部材上に容易に形成することができる。また、2種類以上の形状を組み合わせることにより、導電部材と導電パターンとの間の接合面積をより増加させ、導電部材と導電パターンとの間の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)をより向上させることができる。
【0054】
上記構造物は、上記導電部材における上記導電パターンと接する面の外周には、上記凹凸の平均深さ以上の幅を有する、上記凹凸が配置されていない領域が設けられているものであってもよい。
【0055】
上記の構成によれば、筐体上の領域と、導電部材上の領域との間で、急に表面形状が変化することを防ぐことができるので、両領域間の接続を良好なものとすることができる。
【0056】
上記構造物は、上記筐体における上記導電パターンと接する面に、凹凸が設けられているものであってもよい。
【0057】
上記の構成によれば、筐体と導電パターンとの間の接合面積が増加するため、機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0058】
また、本発明に係る構造物の製造方法では、上記導電ペーストは、第1の導電体材料および第2の導電体材料からなり、上記導電パターンが、第1の導電膜および第2の導電膜からなり、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成し、上記筐体および第1の導電膜上に第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成してもよい。
【0059】
上記の構成によれば、導電部材上に形成する導電膜と、筐体上に形成する導電膜とにおいて導電膜の組成、形成条件等を異ならせることができるため、それぞれ適した組成、形成条件等を用いることができる。これにより、導電パターンと筐体との固着および導電パターンと導電部材との固着の両方を首尾よく確保することができる。
【0060】
上記構造物の製造方法では、第1の工程では、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成した後に、当該導電部材を用いて上記構造物の一部を形成し、第2の工程では、上記筐体および第1の導電膜上に第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成してもよい。
【0061】
上記の構成によれば、導電部材が筐体に組み込まれていない状態で、導電部材上に第1の導電膜を形成することができるため、筐体への影響を考慮せずに、導電膜の形成条件を選択することができる。これにより、導電部材に対する導電パターンの密着力を向上させることができる。また、第1の導電膜をあらかじめ導電部材上に形成した後、この導電部材は、誘電体からなる筐体に、該筐体を貫通するように配置するが、その時に導電部材の向きを判別することができる。
【0062】
上記構造物の製造方法では、第1の導電膜と第2の導電膜とが同じ組成からなることが好ましい。
【0063】
上記の構成によれば、第1の導電膜と第2の導電膜との親和性が向上し、導電膜同士の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0064】
上記構造物の製造方法では、第1の工程における第1の導電膜を形成するための条件と第2の工程における第2の導電膜を形成するための条件とが異なることが好ましい。
【0065】
上記の構成によれば、導電部材上に第1の導電膜を形成する条件と、筐体上に第2の導電膜を形成する条件とをそれぞれ独立に設定することができるため、筐体および導電部材の少なくともいずれかに対する導電パターンの密着力を首尾よく向上させることができる。
【0066】
上記構造物の製造方法は、上記条件が、温度および時間の少なくとも何れか一つの条件であるものであってもよい。
【0067】
上記の構成によれば、導電部材上に第1の導電膜を形成する局面と、筐体上に第2の導電膜を形成する局面とにおいて、それぞれの局面に応じて温度および時間の少なくとも何れか一つの条件を設定することができる。温度および時間は、導電膜を形成するために重要な因子であるため、上記の構成によれば、筐体および導電部材の少なくともいずれかに対する導電パターンの密着力を首尾よく向上させることができる。
【0068】
上記構造物の製造方法では、第1の導電体材料の方が、第2の導電体材料よりも上記導電部材に対する親和性が高く、第2の工程では、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成した後に、上記筐体および第1の導電膜上に、第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成してもよい。
【0069】
上記の構成によれば、導電部材上に塗布する導電ペーストと、筐体上に塗布する導電ペーストとを、それぞれに対して親和性が高いものとすることができるため、好適に導電部材と導電パターンとの固着、および筐体と導電パターンとの固着の両方を首尾よく実現することができる。
【0070】
上記構造物の製造方法では、第1の工程における第1の導電膜を形成するための条件と第2の工程における第2の導電膜を形成するための条件とが異なるものであってもよい。
【0071】
上記の構成によれば、導電部材上に第1の導電膜を形成する条件と、筐体上に第2の導電膜を形成する条件とをそれぞれ独立に設定することができるため、筐体および導電部材の少なくともいずれかに対する導電パターンの密着力を首尾よく向上させることができる。
【0072】
上記構造物の製造方法は、上記条件が、温度および時間の少なくとも何れか一つの条件であるものであってもよい。
【0073】
上記の構成によれば、導電部材上に第1の導電膜を形成する局面と、筐体上に第2の導電膜を形成する局面とにおいて、それぞれの局面に応じて温度および時間の少なくとも何れか一つの条件を設定することができる。温度および時間は、導電膜を形成するために重要な因子であるため、上記の構成によれば、筐体および導電部材の少なくともいずれかに対する導電パターンの密着力を首尾よく向上させることができる。
【0074】
本発明に係る構造物は、上記導電ペーストは、第1の導電体材料および第2の導電体材料からなり、第1の導電体材料の方が、第2の導電体材料よりも上記導電部材に対する親和性が高く、上記導電部材上に、第1の導電体材料が塗布されてなる第1の導電膜が形成されており、上記筐体および第1の導電膜上に、第2の導電体材料が塗布されてなる第2の導電膜が形成されており、上記導電パターンが、第1の導電膜および第2の導電膜からなるものであってもよい。
【0075】
上記の構成によれば、導電部材上に塗布する導電ペーストと、筐体上に塗布する導電ペーストとを、それぞれに対して親和性が高いものとすることができるため、好適に導電部材と導電パターンとの固着、および筐体と導電パターンとの固着の両方を首尾よく実現することができる。
【0076】
本発明に係る構造物では、上記導電部材が、柱状であるものであってもよい。
【0077】
上記の構成によれば、筐体を貫通する導電部材を好適に構成することができる。
【0078】
本発明に係る構造物では、上記筐体および上記導電部材が一体成形されていることが好ましい。
【0079】
上記の構成によれば、筐体に導電部材を好適に埋め込むことができる。
【0080】
本発明に係る構造物では、上記筐体は通信機器の筐体であり、上記導電パターンはアンテナであることが好ましい。
【0081】
上記の構成によれば、導電パターンをアンテナとして利用することにより、アンテナの設計の自由度が向上した通信機器を提供することができる。
【0082】
本発明に係る構造物では、上記導電部材における上記導電パターンが設けられている面とは反対の面が、他の回路に電気的に接続するようになっていることが好ましい。
【0083】
上記の構成によれば、導電パターンと、筐体を挟んだ領域に配置されている回路とを、導電部材を介して電気的に接続することができる。
【0084】
本発明に係る構造物では、上記導電パターン上に保護層が形成されていることが好ましい。
【0085】
上記の構成によれば、導電パターンの耐久性を向上させることができる。また導電パターンを隠すことができる。
【0086】
本発明に係る構造物の製造方法において、第1の工程では、上記筐体および上記導電部材を一体成形することが好ましい。
【0087】
上記の構成によれば、筐体に導電部材を好適に埋め込むことができる。
【0088】
本発明に係る構造物の製造方法では、上記筐体は通信機器の筐体であり、上記導電パターンはアンテナであることが好ましい。
【0089】
上記の構成によれば、導電パターンに対して、筐体を挟んだ領域に配置されている給電線から給電することができるため、アンテナの設計の自由度が向上した通信機器を提供することができる。
【発明の効果】
【0090】
本発明に係る構造物は、誘電体からなる筐体と、該筐体を貫通するように埋め込まれている導電部材と、該導電部材が該筐体から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、該導電部材に電気的に接続するように設けられている導電パターンと、を備えており、該導電パターンは、自身は保形性を有さない導電膜からなるため、設計の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物を備えた通信機器の概略構成を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の導電部材の形状のバリエーションを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の製造方法の第2の工程の一例を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の変形例を示す断面図である。
【図7】導電部材における導電パターン側の面の外縁部における微小な曲面によって、導電パターンが断線する様子を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態(第2実施形態)に係る構造物を示す図である。
【図9】導電部材における導電パターン側の面に、斜面(C面)を設けた構造物を示す図である。
【図10】導電部材が筐体に対して過度に突出した構造物を示す図である。
【図11】筐体1に凸部1bを設けた構造体を示す図である。
【図12】導電部材の側面にも導電パターンを設けた構成を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態(第3実施形態)に係る構造物を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物の概略構造を示す断面図である。
【図15】本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物における凹凸の配置の例を示す図である。
【図16】本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物における凹凸の配置の例を示す図である。
【図17】本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物における凹凸の配置の例を示す図である。
【図18】本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物における凹凸の配置の例を示す図である。
【図19】本発明の一実施形態(第5実施形態)に係る構造物の構成を示す図である。
【図20】本発明の一実施形態(第5実施形態)に係る構造物の製造方法の各工程の一例を示す図である。
【図21】本発明の一実施形態(第5実施形態)に係る構造物の製造方法の各工程の一例を示す図である。
【図22】その他の種々の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
〔第1実施形態〕
(構造物)
図1は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る構造物の概略構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る構造物10は、筐体1、導電部材2および導電パターン3を備えている。
【0093】
筐体1は、誘電体からなり、電子装置の筐体を構成している。電子装置の筐体とは、電子装置が備える電子部品を格納する部材を指す。導電部材2は、筐体1を貫通するように筐体1に埋め込まれている導電体であり、筐体1を挟んだ領域間(例えば、図1における筐体1の上方(以降、筐体1の外部とも称する。)と筐体1の下方(以降、筐体1の内部とも称する。))を電気的に接続するものである。筐体1は、これに限定されないが、例えば、樹脂によって構成することができる。また、導電部材2は、これに限定されないが、例えば、金属によって構成することができる。
【0094】
導電部材2は、筐体1に固定されていればよく、固定方法は限定されないが、例えば、導電部材2は筐体1と一体成形されていることが好ましい。
【0095】
導電パターン3は、構造物10における導電部材2が筐体1から貫通する一方の面(面1aおよび面2aから構成される面)上に、導電部材2に電気的に接続するように設けられている導電膜である。導電パターン3は、それ自体では保形性を有さない(自己保形性を有さない)導電膜であり、例えば、フレキシブルプリント基板等の可撓性を有する導電膜、または、導電ペーストが塗布されてなる導電膜であり得る。
【0096】
本実施形態に係る構造物10によれば、筐体1を挟んだ領域間を好適に電気的に接続することができる。導電パターン3は、アンテナとして用いてもよいし、導電パターン3が形成された領域に配置された部材に電気的に接続するために用いてもよい。ここで、構造物10によれば、導電パターン3が、自身は保形性を有さない導電膜からなるため、自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0097】
導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも、金属粉および溶剤からなるものであり、好ましくは、金属粉、バインダー樹脂および溶剤からなるものである。導電ペーストが塗布されてなる導電膜は、例えば、乾燥により溶剤が除去されていてもよく、溶剤が一部残留していてもよい。導電ペーストの塗布方法としては種々の方法を採ることができるが、好適には、筐体1および導電部材2の形状に適合するように、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(例えば、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により塗布することが好ましい。
【0098】
導電パターン3を、導電ペーストを塗布することにより形成することにより、導電パターンを薄くすることが可能であり、また、容易に曲面的な形状とすることができるので、設計の自由度をより向上させることができる。
【0099】
また、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により、導電ペーストを塗布することにより、筐体等の形状に合わせて首尾よく導電パターンの印刷を行うことができ、構造物の大量生産等にも寄与することができる。
【0100】
なお、導電パターン3を、フレキシブルプリント基板のような可撓性を有する導電膜から構成した場合であっても、導電パターン3を、自由な形状に固定することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0101】
また、導電部材2における導電パターン3が設けられている面1aとは反対側の面2bは、筐体1の内部に配置された端子(例えば、バネ端子20)と電気的に接触するようになっており、導電パターン3は、導電部材2およびバネ端子20を介して、他の部材と電気的に接続するようになっている。
【0102】
このような構造物10は、例えば、通信機器に組み込まれ得る。図2は、構造物10を備えた通信機器100の概略構成を示す断面図であり、枠囲みした部分が構造物10に該当する。通信機器100は、例えば、タブレット型の通信機器(例えばスマートフォン、電子書籍端末、タブレットPC等)であり得るが、これに限定されず、筐体を有し、他の機器から情報を受信する機能、および他の機器に情報を送信する機能の少なくとも一方を備えているものであればよい。
【0103】
図2に示すように、筐体1は、通信機器100の筐体である。また、筐体1の一面上に、導電パターン3が形成されている。なお、筐体1は、導電部材2および導電パターン3と接する部分が誘電体で構成されていればよく、全ての部分を誘電体で構成する必要はない(言い換えれば、筐体1の誘電体以外からなる部分は、構造物10から除外される)。
【0104】
バネ端子20は、給電線21を介して通信機器100が備える通信回路30に接続している。通信機器100において、導電パターン3は、給電線21、バネ端子20および導電部材2を介して通信回路30から給電され、アンテナとして動作するようになっている。この場合、導電部材2の面2bは、通信回路30に接続するようになっている。言い換えれば、面2bは、導電パターン3に給電する給電線21に接続するための電極となる。
【0105】
なお、筐体1および導電パターン3は、必ずしも通信機器100の表面に顕われている必要はなく、通信機器100の内部に格納されていてもよい。また、導電パターン3は、必ずしもアンテナとして機能するものである必要はなく、バネ端子20に接続されている部材が、導電パターン3を介して、筐体1の外部の部材と電気的に接続するための導電部材として機能するものであってもよい。
【0106】
また、導電部材2の形状は、例えば、柱状であり得、好ましくは、ピン形状であり得る。これにより、筐体1を貫通する導電部材2を好適に構成することができる。なお、円柱状に限られず、角柱状であってもよい。また、その太さも均一でなくてもよい。
【0107】
図3に、導電部材2がとるピン形状のバリエーションを示す。図3(a)に示すように、導電部材2は筐体1から突出していてもよいし、図3(b)に示すように、導電部材2は筐体1の凹みに位置していてもよい。また、図3(c)に示すように、導電部材2における導電パターン3が設けられている側とは反対側には、フランジ2cが設けられていてもよく、図3(d)に示すように、フランジ2cに加えて、導電部材2における導電パターン3が設けられている側にもフランジ2dが設けられていてもよく、図3(e)に示すように、フランジ2cおよび2dに加えて、導電部材2の中央部にもフランジ2eが設けられていてもよい。また、後述する実施形態でも、導電部材2の形状のさらなるバリエーションを示す。
【0108】
また、導電パターン3の形状は特に限定されず、構造物10および通信機器100の設計等に応じて適宜設定することができる。例えば、図5に示すように、導電パターン3の形状が、導電部材2の面2aの一部のみを覆うような形状であってもよい。
【0109】
また、一実施形態において、図6に示すように、導電パターン3上にさらに保護層4を設けてもよい。導電パターン3上にさらに保護層4を設けることによって、導電パターン3が損傷することを防ぐことができるとともに、導電パターンを目隠しすることもできる。なお、保護層4は、アンテナの性能に影響を与えない材質のものであり、導電パターン3を保護するだけの強度を有するものであればよい。ここでアンテナの性能に影響を与えないとは、保護層4の有無でアンテナの性能が著しく劣化しないものである。保護層4としては、貼り付け・塗布・噴き付けなどで導電パターン3上に設けられるものであれば良く、例えば、コーティング剤(例えば、樹脂溶液)によって形成されるものを好適に用いることができる。また、このコーティング剤の塗布は、筐体1の塗装を兼ねていてもよい。また、保護層4はシート状のものであって、シールのように貼り付けたり熱や圧力で圧着ができるものでも良い。
【0110】
(構造物の製造方法)
構造物10の製造は、例えば、構造物10の一部(筐体1および筐体1を貫通するように埋め込まれている導電部材2)を形成する第1の工程と、第1の工程の後に、導電部材2が筐体1から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、導電部材2に電気的に接続するように導電パターン3を設ける第2の工程と、を包含するものであり得る。
【0111】
本実施形態に係る構造物10の製造方法によれば、筐体1と導電部材2とを固定した後に、導電パターン3を配置するため、導電パターン3が、自身は保形性を有さない導電膜(例えば、導電ペーストまたはフレキシブルプリント基板)からなるものであったとしても、問題なく筐体1および導電部材2上(面1aおよび面2a上)に配置することができる。なぜなら、第1の工程において、導電部材2を筐体1に埋め込むため、導電パターン3と導電部材2とを特許文献1に記載の技術のように固着しておく必要がないからである。
【0112】
第1の工程では、例えば、導電部材2と筐体1とを一体成形してもよい。すなわち、予め導電部材2を形成した後に、筐体1を成形するための金型に導電部材2を固定し、金型を閉じた後に、筐体1を形成するための誘電体材料を金型内に充填し、固化することによって一体成形(インサート成形)することができる。特に、導電部材2がフランジ2c〜2eを有している場合には、導電部材2と筐体1とを一体成形することが好ましい。
【0113】
また、導電部材2と筐体1とを別々に形成した後に、筐体1に導電部材2を挿入することによって筐体1に導電部材2を埋め込んでもよい。なお、筐体1に導電部材2を埋め込んだ後に熱カシメ等により導電部材2にフランジ2cまたは2dを形成してもよい。
【0114】
第2の工程では、例えば、導電ペーストを面1aおよび面2a上に所望のパターンを構成するように塗布し、乾燥等させることにより、導電パターン3を形成してもよい。導電ペーストの塗布方法としては種々の方法を採ることができるが、好適には、筐体1および導電部材2の形状に適合するように、可撓性を有する印刷版を用いた印刷(例えば、フレキソ印刷、オフセット印刷、シルク印刷、パッド印刷等)により塗布することが好ましい。
【0115】
図4は、第2の工程の手順の一例を示す図である。まず、図4(a)に示すように、予め表面に導電ペースト3’によって所望のパターンを形成しておいた印刷版50を、第1の工程において形成した筐体1および導電部材2の同じ側の面(面1aおよび面2a)に対して接近させる。そして、図4(b)に示すように、面1aおよび面2aに対して印刷版50を押しつけることにより、面1aおよび面2a上に導電ペースト3’のパターンを転写する(図4(c))。そして、導電ペースト3’のパターンを乾燥させることにより、図4(d)に示すように、導電パターン3を形成することができる。なお、印刷版50に設けられた孔から導電ペースト3’を押し出すシルク印刷の手法を用いてもよい。
【0116】
また、フレキシブルプリント基板によって導電パターン3を構成する場合には、第2の工程では、面1aおよび面2aに、導電部材2に電気的に接続するようにフレキシブルプリント基板を貼付することにより、導電パターン3を構成することができる。
【0117】
なお、図6のように保護層4を備えた構造物10を形成する場合には、第2の工程の後に、導電パターン3上にコーティング剤(例えば、樹脂溶液)を塗布し、乾燥させることにより、容易に保護層4を形成することができる。
【0118】
〔第2実施形態〕
第1実施形態において、導電部材2における導電パターン3側の面2aの外縁部には、製造上、微小な曲面(R)が存在することが多い。すなわち、図7に示すように、導電部材2において筐体1と接触する面X(第1の面)と、面Xに隣接し、導電パターン3が設けられる面Y(第2の面)との境界に、角が削られてなる丸み部2fが存在し得る。
【0119】
そのため、図7に示すように、筐体1と導電部材2とを面一で並べた場合、当該微小な曲面または丸み部2fが筐体1表面下に潜り込み、微小な窪みが形成される(図7中A)。このような微小な窪みが存在すると、当該窪みの上に設けられた導電パターン3が断線する可能性がある。例えば、導電パターン3を導電ペーストによって形成する場合、導電ペーストが当該窪みに入り込まず、導電パターンが途切れてしまう場合がある。また、導電パターン3をフレキシブルプリント基板によって構成する場合、当該窪み上のフレキシブルプリント基板の強度が低下するために、何らかの力によって断線する可能性が高くなる。ここで、以下に説明する第2実施形態では、上記微小な曲面または丸み部2fに起因する導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0120】
図8は、本発明の一実施形態(第2実施形態)に係る構造物10を示す図である。図8(a)に示すように、本実施形態に係る構造物10では、導電部材2が筐体1よりも導電パターン3側に突出している。さらに詳細には、図8(b)に示すように、導電部材2の丸み部2fの少なくとも一部が筐体1よりも導電パターン3側に突出しているものであり、好ましくは、図8(c)に示すように、導電部材2の丸み部2fの全体が筐体1よりも導電パターン3側に突出しているものである。なお、丸み部2fとは、導電部材2が備える、筐体1と接触する第1の面と、第1の面に隣接し、導電パターン3が設けられる第2の面との境界における角が削られてなる丸みを指す。このような丸み(微小曲面)は、製造上必然的に形成されることが多い。
【0121】
本実施形態に係る構造物10によれば、導電部材2が筐体1に対して導電パターン3側に突出している。これにより、導電部材2における導電パターン3側の面の外縁部に存在する微小な曲面を露出させて、当該微小な曲面が筐体1表面下に潜り込むことによって微小な窪みが形成されることを抑制することができる。それゆえ、導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0122】
また、一実施形態において、図8(b)に示すように、丸み部2fの少なくとも一部が、筐体1に対して導電パターン3側に突出している。これにより、丸み部2fの少なくとも一部を露出させて、丸み部2fが筐体1表面下に潜り込んで微小な窪みが形成されることを抑制する。それゆえ、導電パターンの断線を好適に抑制することができる。
【0123】
また、一実施形態において、丸み部2fの全体が、筐体1に対して導電パターン3側に突出している。これにより、上記の窪みの形成を抑制し、より好適に導電パターン3の断線を抑制することができる。
【0124】
図9は、導電部材2における導電パターン3側の面2aに、斜面(C面)2gを設けた構造物10を示す図である。図9(a)に示すように、面2aに斜面2gを設けてもよいが、このような構成においても、図9(b)に示すように、面2aの外縁部の丸み部2fによって、導電パターン3の断線が起きる可能性がある。そのため、面2aに斜面2gを設けた構成においても、図9(c)に示すように、丸み部2fが、筐体1から導電パターン3側に突出しているように構成することが好ましい。
【0125】
ただし、導電部材2を筐体1に対して突出させ過ぎると別の問題が発生するおそれがある。図10は、導電部材2が筐体1に対して過度に突出した構造物を示す図である。図10に示すように、導電部材2が筐体1に対して過度に突出した構造物では、導電部材2と筐体1との段差において導電パターン3が断線してしまう。そこで、このような場合には、図11に示すように、筐体1に導電部材2の縁に回り込むような凸部1bを設けることが好ましい。
【0126】
図11は、筐体1に凸部1bを設けた構造体を示す図である。図11に示すように、筐体1は、導電部材2と接触している部分において、筐体1における当該部分の周囲に比べて導電パターン3側に突出している凸部1bを備えている。これにより、導電部材2が筐体1に比べて導電パターン3側に突出していたとしても、筐体1と導電部材2との間の段差を低減することができる。これにより、そのような段差に起因する導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0127】
また、図12に示すように、導電部材2が筐体1に対して過度に突出した場合において、導電部材2の側面にも導電パターン3aを設けることにより、導電パターン3の断線を抑制してもよい。
【0128】
また、一実施形態において、上記窪みに起因する導電パターン3の断線を抑制するために、導電パターン3を形成する前に、当該窪みを導電性材料によって充填してもよい。
【0129】
〔第3実施形態〕
第1実施形態において、製造時のバラツキによって、導電部材2と筐体1との位置関係が変化する場合がある。そのため、筐体1と導電部材2とを面一で並べた場合、バラツキの大きさによっては、導電部材2の方が筐体1よりも過度に高くなり、導電パターン3が断線する可能性がある。ここで、以下に説明する第3実施形態では、製造時のバラツキに起因する導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0130】
図13は、本発明の一実施形態(第3実施形態)に係る構造物10を示す図である。図13(a)に示すように、本実施形態に係る構造物10では、導電パターン3が設けられている側では、導電部材2が筐体1に対して凹んでいる。このように、導電部材2が筐体1に対して凹んでいる状態であっても、導電パターン3は断線しない。これは以下の理由による。
【0131】
図13(b)は、図13(a)のD部分を拡大した図である。導電パターン3を導電ペーストを塗布することにより形成する場合、導電パターンは表面張力によりエッヂ部分に溜まりやすいという性質を持つため、導電部材2が筐体1に対して凹んでいる場合は、図13(b)に示すように、筺体1上に配置されている導電パターン3の厚み3hと比べて、段差部である筺体1と導電部材2の境界面付近の導電パターン3の厚み3h’は表面張力により厚くなる。それゆえ、予め導電部材2を筐体1に対して凹んでいるようにしても、導電パターン3は断線しない。
【0132】
そして、本実施形態に係る構造物10は、導電パターン3が設けられている側では、導電部材2が筐体1に対して凹んでいる。これにより、製造時の導電部材2と筐体1との位置関係のバラツキが大きくなっても、予め導電部材2を筐体1に対して凹んでいるようにすることで、導電部材2の方が筐体1よりも過度に高くなることを避け、導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0133】
なお、より好ましくは、図13(c)に示すように、筐体1が、導電部材2上に回り込み、導電部材2における導電パターン3に対向する面2aの外周を覆う覆い部1cを備えるように構成してもよい。これにより、導電パターン側の面の高さが、筐体1、覆い部1cおよび導電部材2の3段階に変化するようになっている。そのため、覆い部1cがなく、導電パターン3側の面の高さが、筐体1および導電部材2の2段階に変化するようになっている場合に比べて、段差部の導電パターン3の厚みを増やすことができ、導電パターン3の断線を好適に抑制することができる。
【0134】
また、図13(d)に示すように、筐体1をすり鉢型に構成してもよい。
【0135】
〔第4実施形態〕
第1実施形態において、導電パターン3を導電ペーストを塗布することによって形成する場合、導電部材2と導電パターン3との接合境界における密着強度を向上させるためには、導電ペーストの乾燥温度を高くする必要がある。しかし、乾燥温度を高くした場合、筐体1を構成する材料(例えば、誘電体樹脂)が融解し、曲げ、歪み等が生じる場合がある。また、筐体1を構成する材料(例えば、誘電体樹脂)の高温耐性を向上させると、筐体1と導電パターン3との固着強度が低下する場合がある。また、導電ペーストにおけるバインダー樹脂の混合比率を大きくすることによっても導電部材と導電パターンとの密着強度を向上することができるが、バインダー樹脂の混合比率が大きいと、導電ペーストの抵抗値が上がり電気信号が通りにくくなる場合がある。これらのバランスをとるため、導電部材2と導電パターン3との密着強度は、ある程度犠牲にされる場合がある。ここで、以下に説明する第4実施形態では、導電ペーストの乾燥温度および組成によらずに、導電部材2と導電パターン3との密着強度を好適に向上させることができる。
【0136】
図14は、本発明の一実施形態(第4実施形態)に係る構造物の概略構造を示す断面図である。図14(a)〜(d)に示すように、本実施形態では、導電部材2における導電パターン3と接する面2a上に、凹凸が設けられている(凸部2iまたは凹部2i’が設けられている。)。なお、本明細書において、「凹凸が設けられている」とは、1つ以上の凸部または凹部が設けられていることを指す。以降では凸部を設ける場合について説明するが、凹部を設ける場合も同様である。本実施形態に係る構成によれば、導電部材2と導電パターン3との間の接合面積が増加するため、導電部材2と導電パターン3との間の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0137】
これにより、導電ペーストの乾燥温度によらずに、密着強度を向上させることができるので、筐体1の材料および導電ペーストの選択の幅を広げることができる。また、一般的に、導電ペーストではバインダー樹脂の混合比率が大きければ誘電体や導電体への機械的固着が強固になる。しかし、バインダー樹脂の混合比率が大きければ導電ペースト自体の抵抗値が上がり、電気信号を通しにくくなる。一方、金属粉の混合比率が大きくなれば機械的固着が弱くなる代わりに導電性ペースト自体の抵抗値は下がり、電気信号を通しやすくなる。従って、本実施の形態に従えば、導電ペーストと導電部材の密着強度を向上させることができるため、導電ペーストのバインダー樹脂の混合比率を下げ、導電ペーストの抵抗値を低下させることにも寄与する。
【0138】
一実施形態において、図14に示すように、凹凸の深さ(例えば、凸部2iの高さ)は、導電パターン3の厚さよりも浅く(低く)なっている。そのため、凹凸(例えば、凸部2i)が配置された位置においても導電パターン3は接続している。それゆえ、導電パターン3内の導通性を首尾よく確保することができる。
【0139】
図15は、凹凸の配置の例を示す図である。図15(a)に示すように、一実施形態において、構造物10では、筐体1の表面の一部の領域に導電ペースト3が形成されており、導電ペースト3が形成されている領域のさらに一部の領域に、導電部材2が埋め込まれている。この導電部材の面2a上に、凹凸が配置されている。
【0140】
図15(b)〜(i)は、面2a上に配置された凹凸(凸部2i)のパターンのバリエーションを示す。凹凸のパターンは、特に限定されず、様々な態様とすることができる。
【0141】
例えば、図15(b)に示すように、同心円状に、凸部2iと凹部とが交互に形成された配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸が同心円状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、本明細書において、同心円状とは、直径が互いに異なる複数の円が入れ子状になっている形態を指し、隣り合う円同士の間隔は、必ずしも一定でなくともよい。
【0142】
また、図15(c)に示すように、テクスチャ状に凸部2iが整列している配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸がテクスチャ状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、本明細書において、テクスチャ状とは、要素が規則的に配列されて繰り返しパターンを形成している形態を指し、要素同士の間隔は、必ずしも一定でなくともよい。
【0143】
また、図15(d)に示すように、放射状に、凸部2iと凹部とが交互に形成された配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸が放射状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、本明細書において、放射状とは、中央部から周囲に向けて互いに異なる方向に複数の線が延びている形態を指し、隣り合う線同士がなす角度は必ずしも一定でなくともよい。
【0144】
また、図15(e)に示すように、複数の平行なヘアライン(溝)が刻まれた配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸がストライプ状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、本明細書において、ストライプ状とは、複数の線が並んでいる形態を指し、直線同士の間隔は必ずしも一定でなくともよい。また、線同士は必ずしも平行に並んでいなくともよい。
【0145】
また、図15(f)に示すように、図15(e)の配置に加えて、さらに複数の直交するヘアラインが刻まれた配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸が格子状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、本明細書において、格子状とは、2組以上の交差する位置の線が形成する形態を指し、隣り合う線同士の間隔は一定でなくともよく、交差する線同士がなす交差角も直角でなくともよく、一定でなくともよい。
【0146】
また、図15(g)に示すように、渦巻き状に凸部2iが形成された配置であってもよい。言い換えれば、面2a上には、凹凸が渦巻き状に配置されている形状が形成されていてもよい。なお、渦巻きにおける隣り合う一巻き同士の間隔は一定でなくともよい。
【0147】
また、複数の凹凸パターンの組み合わせであっても良い。すなわち、上記凹凸が同心円状に配置されている形状、上記凹凸がテクスチャ状に整列して配置されている形状、上記凹凸がストライプ状に配置されている形状、上記凹凸が格子状に配置されている形状、上記凹凸が渦巻き状に配置されている形状等から選択される複数の形状の組み合わせであってもよい。
【0148】
例えば、図15(h)および(i)に示すように、面2a上に、同心円状または渦巻き状に凸部2iを形成した上に、さらに、ランダムな間隔で、複数の平行な溝2lを形成してもよい。このように、ランダムな間隔を有するパターンを用いたり、2種類以上の形状を組み合わせたりすることにより、導電部材と導電パターンとの間の接合面積をより増加させ、導電部材と導電パターンとの間の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)をより向上させることができる。
【0149】
また、同心円状および渦巻き状のパターンは、製造が容易であるため好ましい。例えば、導電部材2を軸を中心に回転させながら、面2a上に溝を形成することにより、容易に形成することができる。
【0150】
また、一実施形態において、図16(a)に示すように、導電パターン3の厚さよりも深い凹凸(凸部2j)が含まれていてもよい。この場合、図16(b)に示すように、当該凹凸(凸部2j)を不連続に配置し、導電パターン3を分断しないようにする。これによって、導電パターン3の厚さよりも深い凹凸(凸部2j)が含まれていても、導電パターン3内の導通性を確保することができる。更に、導電部材2の凸部より導電パターン3
は低いため、この部分の引掻きによる導電パターンの剥離を防ぐことが可能となる。このとき、導電パターン3の厚さよりも浅い凹凸(凸部2i)をさらに備えていてもよい。
【0151】
また、図16(c)に示すように、凹凸(凸部2j)を渦巻き状に形成することによっても、導電パターン3は分断されず、中心部と外周とが連続しているために、導電パターン3内の導通性を確保することができる。また、図16(b)に示す構成と同様に、導電パターン3の剥離を防ぐこともできる。なお、凸部2jは、渦巻き状以外でも、自己交差しない単純開曲線に沿って配置されていればよく、このようなパターンで凹凸が配置されていれば、導電パターン3は分断されないので、導電パターン3内の導通性を確保することができる。なお、単純開曲線は、折れ線を含む。
【0152】
なお、一実施形態において、図17に示すように、面2aの外周部に、凹凸の平均深さ以上の幅を有する、凹凸が配置されていない平坦領域2kを設けてもよい。このような平坦領域2kを設けることにより、筐体1上の領域(面1a)と、導電部材2上の領域(面2a)との間で、急に表面形状が変化することを防ぐことができるので、導電パターン3における両領域間の接続を良好なものとすることができる。
【0153】
また、一実施形態において、図18に示すように、筐体1においても、導電パターン3と接する面に、凹凸(例えば、凸部1e)が設けられていてもよい。これにより、筐体1と導電パターン3との間の接合面積が増加するため、筐体1と導電パターン3との間の機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0154】
〔第5実施形態〕
導電部材2と筐体1とでは、それぞれを構成する物質が異なるため、耐熱温度、導電ペーストに対する親和性等の性質が異なる。そのため、導電パターン3と筐体1との固着を優先させた場合と、導電パターン3と導電部材2との固着を優先させた場合とで、筐体1の材料、導電ペーストの組成および乾燥条件等の好ましい組み合わせが変わるため両者の妥協点を見出す必要がある。ここで、以下に説明する第5実施形態によれば、導電パターン3と筐体1との固着および導電パターン3と導電部材2との固着の両方を首尾よく確保することができる。
【0155】
図19は、本発明の一実施形態(第5実施形態)に係る構造物の構成を示す図である。図19に示すように、導電パターン3が、導電パターン3c(第1の導電膜)と、導電パターン3d(第2の導電膜)とから構成されている。導電パターン3cは、導電部材2上に第1の導電ペースト(第1の導電体材料)を塗布して形成したものであり、導電パターン3dは、筐体1および導電パターン3c上に第2の導電ペースト(第2の導電体材料)を塗布して形成したものである。
【0156】
このように、導電部材2上に形成する導電パターン3cと、筐体1上に形成する導電パターン3dとにおいて導電膜の組成、形成条件(導電ペーストの乾燥条件)等を異ならせることができるため、それぞれ適した組成、形成条件等を用いることができる。これにより、導電パターン3と筐体1との固着および導電パターン3と導電部材2との固着の両方を首尾よく確保することができる。なお、導電パターン3cと導電パターン3dとの間の固着は、両者とも導電ペーストから形成されるものであり、筐体1と導電部材2との違い、または、これらと導電パターン3との違いに比べれば、非常に類似した組成および性質を有しているため、特に問題とはならない。
【0157】
図20は、本実施形態に係る構造物の製造方法の一例を示す図である。一実施形態において、図20に示すように、第1の工程では、導電部材2上に第1の導電ペーストを塗布して導電パターン3cを形成した後に、導電パターン3cが形成された導電部材2を筐体1と組み合わせ、または一体成形し、第2の工程では、筐体1および導電パターン3c上に第2の導電ペーストを塗布して導電パターン3dを形成してもよい。
【0158】
すなわち、図20(a)のように、導電部材2に第1の導電ペースト3c’を塗布し、図20(b)のように、導電部材2上に導電パターン3cを形成する。その後、図20(c)のように、得られた導電部材2を筐体1と組み合わせ、または一体成形する。続いて、図20(d)のように、筐体1および導電パターン3c上に第2の導電ペースト3d’を塗布し、図20(e)のように、筐体1および導電パターン3c上に導電パターン3dを形成する。
【0159】
以上のように構造物10を製造することにより、導電部材2が筐体1に組み込まれていない状態で、導電部材2上に導電パターン3cを形成することができるため、筐体1への影響を考慮せずに、導電パターン3cの形成条件を選択することができる。これにより、導電部材2に対する導電パターン3cの密着力を向上させることができる。
【0160】
また、第1の工程において、導電部材2と筐体1とを一体成形(インサート成形)する場合には、導電部材2上に導電パターン3cが形成されているために、導電部材2の上下が判りやすく、一体成形を容易に行うことができる。
【0161】
なお、図20に示す例では、導電パターン3cと導電パターン3dとが同じ組成からなることが好ましい。これにより、導電パターン3cと導電パターン3dとの親和性が向上し、導電パターン同士の電気的な密着強度(導通性)および機械的な密着強度(固着強度)を向上させることができる。
【0162】
また、第1の工程における導電パターン3cを形成するための条件と第2の工程における導電パターン3dを形成するための条件とが異なることが好ましい。これにより、導電部材2上に導電パターン3cを形成する条件と、筐体1上に導電パターン3dを形成する条件とをそれぞれ独立に設定することができるため、筐体1および導電部材2の少なくともいずれかに対する導電パターン3の密着力を首尾よく向上させることができる。
【0163】
なお、異ならせる条件としては、例えば、温度および時間の少なくとも何れかを挙げることができる。温度および時間は、導電膜を形成するために重要な因子であるため、筐体および導電部材の両方に対する導電パターンの密着を首尾よく確保することができる。
【0164】
好ましくは、第1の工程における導電パターン3cを形成するための条件として、高温および長時間の条件を設定し、第2の工程における導電パターン3dを形成するための条件として、低温および短時間の条件を設定することが好ましい。筐体1は、温度の影響を受けやすい傾向にあるため、低温および短時間の条件とすることが好ましく、導電部材2は、耐熱性が高い傾向にあるため、密着性を向上させるため、高温および長時間の条件とすることが好ましい。
【0165】
図21は、本実施形態に係る構造物の製造方法の他の例を示す図である。一実施形態において、図21に示すように、第2の工程では、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成した後に、上記筐体および第1の導電膜上に、第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成してもよい。ここで、第1の導電体材料の方が、第2の導電体材料よりも上記導電部材に対する親和性が高いものとする。
【0166】
すなわち、図21(a)のように、筐体1に埋め込まれている導電部材2上に第1の導電ペースト3c’を塗布し、図21(b)のように、導電部材2上に導電パターン3cを形成する。その後、図21(c)のように、筐体1および導電パターン3c上に第2の導電ペースト3d’を塗布し、図21(d)のように、筐体1および導電パターン3c上に導電パターン3dを形成する。
【0167】
以上のように、導電部材2上に塗布する第1の導電ペーストと、筐体1上に塗布する第2の導電ペーストとを、それぞれに対して親和性が高いものとすることができるため、好適に導電部材2と導電パターン3との固着、および筐体1と導電パターン3との固着の両方を首尾よく実現することができる。
【0168】
また、図21に示す例においても、図20に示す例と同様に、導電パターン3cを形成するための条件と導電パターン3dを形成するための条件とが異なるものであってもよい。また、異ならせる条件として、例えば、温度および時間の少なくとも何れかを挙げることができる。これにより、導電部材2上に導電パターン3cを形成する条件と、筐体1上に導電パターン3dを形成する条件とをそれぞれ独立に設定して、筐体1および導電部材2の少なくともいずれかに対する導電パターン3の密着力を首尾よく向上させることができる。
【0169】
(他の構成との比較)
図22は、構造物10と同等の機能を実現するために、本発明者らが検討した他の構成を示す図である。
【0170】
図22(a)は、導電ピン82が樹脂部81を貫通して突出し、その突出部分を導電性の接着剤86によって板金83に接着する構成である。この構成では、接着剤86において、突出部分を覆うための厚さを確保する必要があり、また、樹脂部81と板金83とを固定するための強度を得るための接着材容積が必要となる。そのため、薄型化が困難であるという問題がある。
【0171】
図22(b)は、樹脂部81に埋め込まれた導電ピン82が、上下に配置された板金83および85に対してバネ84によって接続する構成である(板金85に対してはバネに替えて突起によって接続してもよい)。この構成では、板金83において、バネ84によって曲げられないような剛性を確保するために厚くする必要があり、バネ84自体の厚さもあるため、薄型化が困難であるという問題がある。
【0172】
図22(c)は、図22(b)とほぼ同様の構成であるが、導電ピン82の側面に突起82bを設け樹脂部81にめり込ませる点が異なっている。この構成では、図22(b)に示す構成と同様の問題の他、樹脂部81と導電ピン82との間において防水性が損なわれるという問題がある。
【0173】
図22(d)は、導電部83を、筐体81の外から内へ筐体81の側面を通って引き込み、バネ端子87に接続した構成である。この構成では、導電部83をプリントまたはLDS(Laser Direct Structure)で構成した場合、折り返し部分で断線し易くなる。一方、導電部83をMID(Molded Interconnect Device)で構成した場合には、導通部83の筐体内への引き込み部分において防水性が失われる。また、筐体81の嵌合部分は一般的に構造が複雑であり、導電部83の形状が複雑になるか又は配置自体ができない場合がある。また、配置できた場合でも、導電部83を長い距離引き回す必要があるため、アンテナとして用いる場合に性能が劣化することがある。
【0174】
図22(e)は、筐体81に開口Eを設け、開口Eをフレキシブルプリント基板83を通す構成である。この構成では、例えば、フレキシブルプリント基板83をアンテナとして用いるときの給電点の位置の制約等、形状的な制約が多く、防水性能も失われる。
【0175】
図22(f)は、樹脂部81に導電ピン82が埋め込まれており、外観側においてナット板金90がネジ89によって固定されており、導電ピン82の内部側の面82aに対して、基板の実装バネなどを接続する構成である。なお、樹脂部81の壁と導電ピン82との間に防水リング88を設けてもよい。この構成では、形成のために共締め、カシメ、接着(ガスケット、導電性接着材または導電性テープなど)が必要となり、ナット板金90に強度が必要となる。そのため、ナット板金90の形状の自由度が低下する。
【0176】
以上のように、本実施形態に係る構造物10は、図22(a)〜(f)に示すような構成に対しても、有利な効果を有している。
【0177】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、電子機器の製造分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0179】
1 筐体
1a 面
1b 凸部
1c 覆い部
1e 凸部
2 導電部材
2a 面
2b 面
2f 丸み部
2i 凸部
2j 凸部
2k 平坦領域
3 導電パターン
3c 導電パターン(第1の導電膜)
3d 導電パターン(第2の導電膜)
3’ 導電ペースト
3c’ 第1の導電ペースト(第1の導電体材料)
3d’ 第2の導電ペースト(第2の導電体材料)
10 構造物
20 バネ端子
21 給電線
30 通信回路
50 印刷版
100 通信機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体からなる筐体と、
該筐体を貫通するように埋め込まれている導電部材と、
該導電部材が該筐体から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、該導電部材に電気的に接続するように設けられている導電パターンと、を備えており、
該導電パターンは、自身は保形性を有さない導電膜からなることを特徴とする構造物。
【請求項2】
上記導電パターンは、導電ペーストが上記少なくとも一方の面上に塗布されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
上記導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも金属粉および溶剤を含有しており、
上記導電ペーストが塗布されてなる上記導電膜は、乾燥により該溶剤の少なくとも一部が除去されることで固定化するものであることを特徴とする請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
上記導電パターンは、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、導電ペーストが上記少なくとも一方の面上に塗布されてなるものであることを特徴とする請求項2または3に記載の構造物。
【請求項5】
上記導電パターンは、可撓性を有する導電膜からなることを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項6】
誘電体からなる筐体、導電部材、および、自身は保形性を有さない導電膜からなる導電パターンを備えた構造物の製造方法であって、
該筐体および該導電部材からなり、該導電部材が該筐体を貫通するように埋め込まれている該構造物の一部を形成する第1の工程と、
第1の工程の後に、該導電部材が該筐体から貫通する面のうち少なくとも一方の面上に、該導電部材に電気的に接続するように該導電パターンを設ける第2の工程と、を包含することを特徴とする構造物の製造方法。
【請求項7】
第2の工程では、上記少なくとも一方の面上に導電ペーストを塗布することを特徴とする請求項6に記載の構造物の製造方法。
【請求項8】
上記導電ペーストは、粘性を有する導電体材料であり、少なくとも金属粉および溶剤を含有しており、
第2の工程において塗布された上記導電ペーストを、乾燥により該溶剤の少なくとも一部を除去することで固定化することを特徴とする請求項7に記載の構造物の製造方法。
【請求項9】
第2の工程では、可撓性を有する印刷版を用いた印刷により、上記少なくとも一方の面上に導電ペーストを塗布することを特徴とする請求項7または8に記載の構造物の製造方法。
【請求項10】
第2の工程では、可撓性を有する導電膜によって上記導電パターンを構成することを特徴とする請求項6に記載の構造物の製造方法。
【請求項11】
上記導電部材が上記筐体に対して上記導電パターン側に突出していることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の構造物。
【請求項12】
上記導電部材は、上記筐体と接触する第1の面と、第1の面に隣接し、上記導電パターンが設けられる第2の面とを備えており、
第1の面と第2の面との境界には、角が削られてなる丸み部が存在し、
該丸み部の少なくとも一部が、上記筐体に対して上記導電パターン側に突出していることを特徴とする請求項11に記載の構造物。
【請求項13】
上記丸み部の全体が、上記筐体に対して上記導電パターン側に突出していることを特徴とする請求項12に記載の構造物。
【請求項14】
上記筐体における上記導電部材と接触している部分が、当該部分の周囲に比べて上記導電パターン側に突出していることを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載の構造物。
【請求項15】
上記導電パターンが設けられている側では、上記導電部材が上記筐体に対して凹んでいることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の構造物。
【請求項16】
上記筐体が、上記導電部材における上記導電パターンに対向する面の外周を覆う覆い部を備えていることを特徴とする請求項15に記載の構造物。
【請求項17】
上記導電部材における上記導電パターンと接する面に、凹凸が設けられていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の構造物。
【請求項18】
上記凹凸の深さが、上記導電パターンの厚さよりも浅いことを特徴とする請求項17に記載の構造物。
【請求項19】
上記凹凸には、上記導電パターンの厚さよりも深い凹凸が含まれており、
該導電パターンの厚さよりも深い凹凸は、上記導電パターンを分断しないように配置されていることを特徴とする請求項17に記載の構造物。
【請求項20】
上記導電部材における上記導電パターンと接する面には、上記凹凸が同心円状に配置されている形状、上記凹凸がテクスチャ状に整列して配置されている形状、上記凹凸がストライプ状に配置されている形状、上記凹凸が格子状に配置されている形状、および、上記凹凸が渦巻き状に配置されている形状からなる群より選択される1種類以上の形状が形成されていることを特徴とする請求項17〜19の何れか1項に記載の構造物。
【請求項21】
上記導電部材における上記導電パターンと接する面の外周には、上記凹凸の平均深さ以上の幅を有する、上記凹凸が配置されていない領域が設けられていることを特徴とする請求項17〜20の何れか1項に記載の構造物。
【請求項22】
上記筐体における上記導電パターンと接する面に、凹凸が設けられていることを特徴とする請求項17〜21の何れか1項に記載の構造物。
【請求項23】
上記導電ペーストは、第1の導電体材料および第2の導電体材料からなり、
上記導電パターンが、第1の導電膜および第2の導電膜からなり、
上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成し、上記筐体および第1の導電膜上に第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成することを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項24】
第1の工程では、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成した後に、当該導電部材を用いて上記構造物の一部を形成し、
第2の工程では、上記筐体および第1の導電膜上に第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成することを特徴とする請求項23に記載の構造物の製造方法。
【請求項25】
第1の導電膜と第2の導電膜とが同じ組成からなることを特徴とする請求項24に記載の構造物の製造方法。
【請求項26】
第1の工程における第1の導電膜を形成するための条件と第2の工程における第2の導電膜を形成するための条件とが異なることを特徴とする請求項24または25に記載の構造物の製造方法。
【請求項27】
上記条件が、温度および時間の少なくとも何れか一つの条件であることを特徴とする請求項26に記載の構造物の製造方法。
【請求項28】
第1の導電体材料の方が、第2の導電体材料よりも上記導電部材に対する親和性が高く、
第2の工程では、上記導電部材上に第1の導電体材料を塗布して第1の導電膜を形成した後に、上記筐体および第1の導電膜上に、第2の導電体材料を塗布して第2の導電膜を形成することを特徴とする請求項23に記載の構造物の製造方法。
【請求項29】
第1の工程における第1の導電膜を形成するための条件と第2の工程における第2の導電膜を形成するための条件とが異なることを特徴とする請求項28に記載の構造物の製造方法。
【請求項30】
上記条件が、温度および時間の少なくとも何れか一つの条件であることを特徴とする請求項29に記載の構造物の製造方法。
【請求項31】
上記導電ペーストは、第1の導電体材料および第2の導電体材料からなり、
第1の導電体材料の方が、第2の導電体材料よりも上記導電部材に対する親和性が高く、
上記導電部材上に、第1の導電体材料が塗布されてなる第1の導電膜が形成されており、上記筐体および第1の導電膜上に、第2の導電体材料が塗布されてなる第2の導電膜が形成されており、
上記導電パターンが、第1の導電膜および第2の導電膜からなることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の構造物。
【請求項32】
上記導電部材が、柱状であることを特徴とする請求項1〜5、11〜22および31の何れか1項に記載の構造物。
【請求項33】
上記筐体および上記導電部材が一体成形されていることを特徴とする請求項1〜5、11〜22、31および32の何れか1項に記載の構造物。
【請求項34】
上記筐体は通信機器の筐体であり、上記導電パターンはアンテナであることを特徴とする請求項1〜5、11〜22および31〜33の何れか1項に記載の構造物。
【請求項35】
上記導電部材における上記導電パターンが設けられている面とは反対の面が、他の回路に電気的に接続するようになっていることを特徴とする請求項1〜5、11〜22および31〜34の何れか1項に記載の構造物。
【請求項36】
上記導電パターン上に保護層が形成されていることを特徴とする請求項1〜5、11〜22および31〜35の何れか1項に記載の構造物。
【請求項37】
第1の工程では、上記筐体および上記導電部材を一体成形することを特徴とする請求項6〜10および23〜30の何れか1項に記載の構造物の製造方法。
【請求項38】
上記筐体は通信機器の筐体であり、上記導電パターンはアンテナであることを特徴とする請求項6〜10、23〜30および37の何れか1項に記載の構造物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−59015(P2013−59015A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236527(P2011−236527)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】