構造物の移動制限装置
【課題】下部構造から構造的に分離し、支承体に支持されている上部構造の下部構造からの落下等、上部構造の下部構造に対する相対移動を制限する上で、例えば下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材の架設を可能にする。
【解決手段】下部構造7上に上部構造8を支持する支承体9が定着される構造物において、上部構造8の下部構造7に対する相対移動方向を向いた下部構造7の側面に係止した状態で固定されるブラケット2と、支承体9の回りに、上部構造8の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体9に直接、または間接的に係止し、他端においてブラケット2に連結される引張材3から移動制限装置1を構成する。
【解決手段】下部構造7上に上部構造8を支持する支承体9が定着される構造物において、上部構造8の下部構造7に対する相対移動方向を向いた下部構造7の側面に係止した状態で固定されるブラケット2と、支承体9の回りに、上部構造8の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体9に直接、または間接的に係止し、他端においてブラケット2に連結される引張材3から移動制限装置1を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下部構造から構造的に分離し、支承体に支持されている上部構造の下部構造からの落下等、下部構造に対する上部構造の一定量を超える相対移動を制限する構造物の移動制限装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば橋脚等の下部構造に支持された橋桁等の上部構造の、下部構造からの落下を防止する落橋防止装置のような、下部構造に対する上部構造の相対移動を制限する移動制限装置は上部構造と下部構造のそれぞれに定着されるブラケットと、両ブラケット間に架設されるPC鋼材等の引張材から構成される。
【0003】
既存の構造物に対して移動制限装置を後付けする場合において、固定すべき構造物が鉄筋コンクリート造である場合には、コンクリート中にブラケットを定着させるアンカーボルトを挿入するためのボルト孔を穿設することが必要になる(特許文献1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−71904号公報(請求項1、図1、図4)
【特許文献2】特開平9−137410号公報(請求項1、図1、図2)
【特許文献3】特開2004−84263号公報(請求項1、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、既存の上部構造、または下部構造には鉄筋の他、支承を定着させるためのアンカーボルトが埋設されているため、後付けされるアンカーボルト用のボルト孔を穿設することができないことがある。ボルト孔の穿設により、既存のアンカーボルトや鉄筋を損傷させる、あるいはアンカーボルトや鉄筋のかぶりが確保されなくなる等の危険性があるからである。
【0006】
例えば下部構造上の上端(天端)に支承体が配置され、支承体の一部を構成するベースプレートが上部構造の上端の全面を覆っているような場合には、アンカーボルトの全長が下部構造の表層寄りに配置されているため、下部構造の上端面と上端部寄りの側面にはボルト孔を穿設する余地がない。支承体のベースプレートが上部構造の上端を覆うことは上部構造に段差がある場合等に起こり得る。
【0007】
このような場合には、下部構造の上端部寄りの区間を外した領域にブラケットを固定せざるを得ないが、下部構造の上端部より下方にブラケットを固定すれば、引張材の水平に対する傾斜角度が大きくなるため、引張材の効きが悪くなり、実質的に引張材を架設する意味がなくなる。
【0008】
本発明は上記背景より、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材の架設を可能にする移動制限装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の構造物の移動制限装置は、下部構造上に上部構造を支持する支承体が定着される構造物において、上部構造の下部構造に対する相対移動を制限する装置であり、前記上部構造の前記相対移動方向を向いた前記下部構造の側面に係止した状態で固定されるブラケットと、前記支承体の回りに、前記上部構造の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において前記支承体に直接、または間接的に係止し、他端において前記ブラケットに連結される引張材とを備えることを構成要件とする。下部構造の側面とは、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときに、上部構造が間接的に係止しようとする下部構造の側面を指す。
【0010】
引張材が支承体の回りに、上部構造の下部構造に対する相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体に直接、または間接的に係止し、他端において下部構造に固定されたブラケットに連結されることで、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときには、上部構造に固定されている支承体から引張材に引張力が作用する。
【0011】
ブラケットが上部構造の下部構造に対する相対移動方向を向いた下部構造の側面に係止した状態で固定されることで、下部構造の上端部を外した位置にブラケットを固定しながらも、ブラケットに引張材が連結されたときに、引張材からの引張力を下部構造に支圧力として直接伝達することが可能になる。ブラケットは上部構造が例えば下部構造から落下しようとする向きに移動するときに、ブラケットが係止しようとする下部構造の側面に固定される。
【0012】
特に請求項2に記載のようにブラケットが下部構造の上端から突出した状態で、少なくとも下端部において下部構造に定着されることにすれば、下部構造中に埋設されているアンカーボルトと鉄筋を損傷させることなく、ブラケットを下部構造に固定することが可能である。
【0013】
この場合、引張材が下部構造の上端から突出したブラケットに連結されることで、立面上、引張材を水平に、もしくは水平に近い状態で架設することができるため、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材を架設することが可能になる。
【0014】
請求項2ではブラケットは下部構造の上端から突出した部分に引張材から引張力を受け、その引張力を下部構造に係止した区間において、下部構造に支圧力として伝達する。ブラケットが定着される下部構造の側面が鉛直面をなし、下部構造の上端が水平面をなす場合、ブラケットの上端部が引張材から受ける引張力はブラケットの材軸に直交する方向を向く。
【0015】
図11に示すようにブラケットが下部構造の上端から突出した状態で、ブラケットの上端部と下端部の2支点で下部構造に定着された場合に、引張材から引張力を受けるとき、上端部の支点には圧縮力が、下端部の支点には引張力が作用する。この結果、ブラケットの下端部を下部構造に定着させるアンカーボルト等の定着材には引き抜き力が作用するが、この引き抜き力はブラケットの上端部に直接作用する引張材からの引張力より小さくなるため、引張材からの引張力に直接抵抗する場合より軽微でよい。ブラケットは材軸が鉛直方向を向いて固定されることが合理的である。
【0016】
材軸が鉛直方向を向いてブラケットが下部構造に固定される場合、ブラケットの、下部構造の上端から突出した区間には引張材からの引張力により曲げモーメントが作用しようとするが、下部構造に重なる区間は変形が下部構造に拘束され、曲げモーメントの一部が支圧力によって相殺されるため、曲げモーメントは主に突出区間にのみ生ずる。
【0017】
ブラケットの上端部が引張材から引張力を受けるとき、下部構造との間に生ずる支圧力はブラケットの上端部寄りの区間で大きくなることから、下部構造のコンクリートが圧壊等、損傷する可能性がある。コンクリートに損傷の可能性がある場合には、請求項3に記載のように移動制限装置がブラケットの上端部と下部構造の表面との間に介在するカバープレートを備えることにより対応できる。カバープレートの存在により、ブラケットからの支圧力を分散させてコンクリートに伝達することができるため、コンクリートの損傷を回避することが可能である。請求項3で言う下部構造の表面とは、下部構造の側面と上面の少なくともいずれか一方を指す。
【0018】
ここで、下部構造に相当する鉄筋コンクリート造の構造体にブラケットを少なくとも下端部において定着させ、構造体から突出したブラケットの上端部に引張力をさせたときのブラケットの下端部と上端部の荷重−変位の関係を調べた結果を以下に示す。ここではブラケットにH形鋼を使用し、強軸方向が引張力の作用方向と一致するようにブラケットを配置した。
【0019】
構造体は図10に示すように引張材の引張力により破壊しない程度の規模(4000mm×4000mm×1400mm)を有する。ブラケットの下端部と上端部の定着部間の間隔は図11に示すように995mmであり、ブラケットの構造体からの突出長さは実際の状況を想定して270mmとした。引張材にはPC鋼材を用い、構造体上に固定された反力受けに反力を負担させながら、引張材をセンターホールジャッキで緊張することによりブラケットに引張力を与えた。引張力は65t(650kN)とした。
【0020】
試験に際してはブラケットを下端部と上端部の2箇所で定着した場合と、下端部のみの1箇所で定着した場合の2通りのケースを想定した。また構造体上端部におけるコンクリートの欠け(損傷)の程度を確認するために図12に示すようにブラケットの上端部と構造体との間にL形断面のカバープレートを挟んだ場合と挟まない場合の2通りのケースで試験を行った。
【0021】
試験のケース1〜3は次の通りであり、各ケースの荷重−変位曲線を図13〜図15に示す。図13〜図15中、実線が下端部における曲線を、破線が上端部における曲線を示す。
ケース1=カバープレートを挟み、ブラケットの下端部と上端部を定着材(ボルト)で定着した場合。
ケース2=カバープレートを挟まず、ブラケットの下端部と上端部を定着材(ボルト)で定着した場合。
ケース3=カバープレートを挟まず、ブラケットの下端部のみを定着材(ボルト)で定着した場合。
【0022】
図13に示すようにケース1では650kNまで載荷したところ、ブラケット自体に大きな変形は見られなかった。上端部における変位が下端部における変位に比べ、100kN付近まで大きくなる傾向があるのは、ブラケットを定着したときの微小な緩みの存在による影響と思われる。図14に示すようにケース2でも650kNまで載荷したところ、ブラケット自体に大きな変形は見られなかった。ケース1、2のいずれも、ブラケットの変形が弾性域内に留まっているため、使用上、ブラケットに問題はないと判断される。
【0023】
ケース3では図15に示すように650kNを超えて1050kNまで載荷したところ、900kNを超えた辺りからブラケットの変形量が増大し始め、1000kN付近でブラケット上端部のボルトの回りのコンクリートにクラックが発生したため、載荷を停止した。ケース3においても650kNまでの載荷によってはブラケット自体に大きな変形は見られないため、問題ないと判断される。
【0024】
以上の結果から、次のことが分かる。ケース2とケース3では650kNまでの載荷による挙動に大差はない。すなわちカバープレートを使用しない場合、ブラケットを下端部においてのみ構造体に定着させれば、下端部と上端部を定着した場合と同等の性能が発揮される。
【0025】
ケース3では900kN付近から変形が大きくなっているが、ブラケット自体の耐力は1800kN(降伏点)程度あるため、断面が降伏していることは考えにくい。変形が大きくなる理由はブラケットのフランジに局部変形が生じているためと考えられる。よってブラケットのフランジ間にリブ(スチフナ)を入れれば、局部変形は防止され、ブラケットの耐力が向上するものと考えられる。
【発明の効果】
【0026】
引張材を上部構造の下部構造に対する相対移動の方向に沿って架設し、一端において支承体に係止させ、他端においてブラケットに連結するため、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときに、支承体から引張材に引張力を作用させることができる。
【0027】
またブラケットを上部構造の下部構造に対する相対移動方向を向いた下部構造の側面に係止した状態で固定するため、下部構造の上端を外した位置にブラケットを固定しながらも、ブラケットに引張材が連結されたときに、引張材からの引張力を下部構造に支圧力として直接伝達することができる。
【0028】
ブラケットを下部構造の上端から突出させた場合には、引張材を水平に、もしくは水平に近い状態で架設することができるため、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材を架設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図9を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0030】
図1は下部構造7上に上部構造8を支持する支承体9が定着される構造物において、上部構造8の下部構造7に対する相対移動方向を向いた下部構造7の側面に係止した状態で固定されるブラケット2と、支承体9の回りに、上部構造7の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体9に直接、または間接的に係止し、他端においてブラケット2に連結される引張材3とを備える構造物の移動制限装置1の具体的な設置例を示す。図2は図1の直交方向断面図、図3は図1の平面図である。移動制限装置1は主として図示するような既存の構造物に対して適用されるが、新設の構造物に適用されることもある。
【0031】
図面では上部構造8が、車両が走行するモノレールの軌道桁で、下部構造7が橋桁や橋脚、または橋台等である場合を示しているが、上部構造8と下部構造7の例はこれには限られない。図面では特に図2に示すように車両が軌道桁を跨ぐ跨座型のモノレールを示している。
【0032】
図面ではまた、下部構造7である橋脚の桁受け部71に上部構造(軌道桁)8の軸方向に段差があり、レベルの低い部分に成の高い鋼製の軌道桁が載置され、高い部分に鉄筋コンクリート製の軌道桁が載置されている橋脚において、レベルの高い部分に移動制限装置1を設置した様子を示しているが、段差のない桁受け部71にも移動制限装置1は設置される。桁受け部71で支持される2本の軌道桁が共に鋼製である場合のように同一構造であれば、桁受け部71には必ずしも段差は必要ない。
【0033】
図面では桁受け部71に段差があり、レベルの高い部分の上に支持されている軌道桁の移動を制限するために移動制限装置1を設置することに伴い、ブラケット2をレベルの高い部分の側面に固定しているが、レベルの低い部分に支持されている軌道桁の移動を制限する場合にはそのレベルに合わせたレベルに移動制限装置1が設置される。段差のない桁受け部71においては単に桁受け部71の側面にブラケット2が固定される。
【0034】
上部構造(軌道桁)8を支持している支承体9はそれに一体化しているベースプレートを91貫通し、下部構造(橋脚の桁受け部71)7のコンクリート中に埋設されるアンカーボルト92によって下部構造7に定着されている。
【0035】
ブラケット2はそれを下部構造7に定着させるアンカーボルト等の定着材4が前記既設のアンカーボルト92に干渉しないよう、アンカーボルト92より大きい長さを持ち、材軸が鉛直方向、またはそれに近い方向を向いた状態で下部構造7の側面に係止し、少なくとも下端部において定着材4によって下部構造7に定着される。ブラケット2の上端部は引張材3との連結のために下部構造7の上端(天端)から上方へ突出する。
【0036】
引張材3は上部構造8の下部構造7に対する相対移動の方向に沿って架設され、支承体9に係止することから、支承体9に不均衡な力を加えないよう、ブラケット2は図2、図3に示すように支承体9の幅方向両側の位置に配置される。支承体9の幅方向とは、上部構造8の相対移動方向に直交する方向を指す。移動制限装置1は支承体9の幅方向両側に配置される2本の引張材3と、それぞれが連結される2本のブラケット2が一組となる。
【0037】
図6にブラケット2の製作例を示すが、ブラケット2は下部構造7の側面に係止する係止板2aと、係止板2aを曲げ変形に対して補強する補強板2bを有し、係止板2aの上端部に引張材3が連結されるための連結孔2cが形成される。また係止板2aの少なくとも下端部に、これを下部構造7に定着する定着材4が挿通するための挿通孔2dが形成される。定着材4にはアンカーボルトの他、あと施工アンカー等が使用される。
【0038】
図6ではブラケット2をその上端部においても下部構造7に固定するために、係止板2aの上端部の下部構造7側に、下部構造7の上端面に載る載置板2fを一体化させ、載置板2fに形成された挿通孔2gを貫通するあと施工アンカー21を下部構造7中に挿入している。このあと施工アンカー21の長さは下部構造7中に配筋されている鉄筋等と干渉しない大きさに抑えられる。あと施工アンカー21は下部構造7中の鉄筋等と干渉しない領域に配置されればよいため、ブラケット2の係止板2aを貫通することもある。
【0039】
図4−(a)〜(c)は図1に示す段差のある下部構造7におけるブラケット2と、レベルの低い部分に支持されている上部構造8との取合い例を示す。ここではレベルの低い部分に上部構造8として鋼製の軌道桁が支持されているが、ブラケット2はこの上部構造8との干渉が生じないように配置される。
【0040】
図4−(a)はブラケット2の設置状態の立面を、(b)はブラケット2の上端部における水平断面を、(c)はブラケット2の下端部における水平断面をそれぞれ示す。ここに示すように段差のある下部構造7においては、上部構造8(鋼製の軌道桁)の衝突を回避するためにブラケット2と上部構造8との間に、上部構造8の許容されている下部構造7に対する相対移動量より大きいクリアランスが確保される。
【0041】
図5はブラケット2の補強板2bの上端部に、その補剛のために補強板2bに直交する面をなすリブ2eを固定した場合の、下部構造7のコンクリート中の鉄筋との関係を示す。ここではリブ2eを補強板2bの軸方向に並列させて固定しているが、この内、下側のリブ2eの位置からコンクリートへは応力が集中して作用することから、図5に示すようにリブ2eは応力の集中によりコンクリートが破壊した場合にもコンクリート中の鉄筋が露出しないような位置に配置される。
【0042】
引張材3は図2、図3に示すように支承体9を幅方向に挟み込むように、支承体9の両側に配置され、上部構造8側の端部において支承体9に係止し、ブラケット2側の端部においてブラケット2に連結される。引張材3はブラケット2の前記係止板2aの連結孔2cを貫通し、ナット31等により係止板2aに連結される。引張材3にはPC鋼材の他、鉄筋等の鋼材、繊維強化プラスチック等の繊維強化材料が使用される。
【0043】
引張材3は上部構造8の相対移動の方向に沿って架設されるが、上部構造8が相対移動を生じたときに、引張材3が負担する張力の内、上部構造8の相対移動方向の成分がそれに直交する方向の成分より大きくなるように架設されればよい。すなわち引張材3は立面上、水平に対して傾斜する場合、または平面上、上部構造8の相対移動方向に傾斜する場合もある。
【0044】
図7は支承体9を挟んでブラケット2の反対側に、支承体9にブラケット2側へ係止する板状の受け梁5を配置し、この受け梁5に図9−(a)に示すように引張材3をボルトやピン51等により連結した場合を示す。
【0045】
図8は支承体9にブラケット2側へ係止する、並列する板からなる箱状の受け梁5を配置し、この受け梁5に図9−(b)に示すように引張材3に接続された支圧板6をボルト等により接合した場合を示す。
【0046】
図7、図8の場合、上部構造8の相対移動に伴い、支承体9がブラケット2から離れる向きに移動しようとするときに、支承体9が受け梁5に係止することで、引張材3に引張力が作用し、ブラケット2に伝達される。ブラケット2に伝達された引張力は下部構造7に支圧力として伝達され、負担される。引張材3の引張力を下部構造7が負担することにより支承体9の移動、すなわち上部構造8の下部構造7に対する相対移動が一定量以内に制限される。上部構造8の下部構造7に対する相対移動量は上部構造8の使用状態で支障のない範囲では許容される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】下部構造への移動制限装置の設置状況を示した立面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】(a)は段差のある下部構造に設置されるブラケットと、レベルの低い側に位置する上部構造との位置関係を示した図1の一部拡大図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図である。
【図5】ブラケットの上端部にリブを固定した場合の、リブとコンクリート中の鉄筋との位置関係を示した図1の一部拡大図である。
【図6】(a)はブラケットの製作例を示した立面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の引張材側の側面図である。
【図7】(a)は引張材の一端を支承体に係止させるための具体例を示した平面図、(b)は立面図である。
【図8】(a)は引張材の一端を支承体に係止させるための他の具体例を示した平面図、(b)は立面図である。
【図9】(a)は図7における引張材の一端側の詳細例を示した斜視図、(b)は図8における引張材の一端側の詳細例を示した斜視図である。
【図10】ブラケットの載荷試験を実施したときの下部構造に相当する構造体と、構造体へのブラケットと反力受けの固定状態を示した斜視図である。
【図11】図10に示すブラケットと反力受け間に引張材を架設した様子を示した立面図である。
【図12】(a)は図11に示すブラケットの上端部にカバープレートを配置した様子を示した立面図、(b)は(a)の構造体側の側面図である。
【図13】載荷ケース1の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【図14】載荷ケース2の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【図15】載荷ケース3の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1………移動制限装置
2………ブラケット
2a……係止板
2b……補強板
2c……連結孔
2d……挿通孔
2e……リブ
2f……載置板
2g……挿通孔
21……あと施工アンカー
3………引張材
4………定着材
5………受け梁
51……ピン
6………支圧板
7………下部構造
8………上部構造
9………支承体
91……ベースプレート
92……アンカーボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は下部構造から構造的に分離し、支承体に支持されている上部構造の下部構造からの落下等、下部構造に対する上部構造の一定量を超える相対移動を制限する構造物の移動制限装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば橋脚等の下部構造に支持された橋桁等の上部構造の、下部構造からの落下を防止する落橋防止装置のような、下部構造に対する上部構造の相対移動を制限する移動制限装置は上部構造と下部構造のそれぞれに定着されるブラケットと、両ブラケット間に架設されるPC鋼材等の引張材から構成される。
【0003】
既存の構造物に対して移動制限装置を後付けする場合において、固定すべき構造物が鉄筋コンクリート造である場合には、コンクリート中にブラケットを定着させるアンカーボルトを挿入するためのボルト孔を穿設することが必要になる(特許文献1〜3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−71904号公報(請求項1、図1、図4)
【特許文献2】特開平9−137410号公報(請求項1、図1、図2)
【特許文献3】特開2004−84263号公報(請求項1、図3、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、既存の上部構造、または下部構造には鉄筋の他、支承を定着させるためのアンカーボルトが埋設されているため、後付けされるアンカーボルト用のボルト孔を穿設することができないことがある。ボルト孔の穿設により、既存のアンカーボルトや鉄筋を損傷させる、あるいはアンカーボルトや鉄筋のかぶりが確保されなくなる等の危険性があるからである。
【0006】
例えば下部構造上の上端(天端)に支承体が配置され、支承体の一部を構成するベースプレートが上部構造の上端の全面を覆っているような場合には、アンカーボルトの全長が下部構造の表層寄りに配置されているため、下部構造の上端面と上端部寄りの側面にはボルト孔を穿設する余地がない。支承体のベースプレートが上部構造の上端を覆うことは上部構造に段差がある場合等に起こり得る。
【0007】
このような場合には、下部構造の上端部寄りの区間を外した領域にブラケットを固定せざるを得ないが、下部構造の上端部より下方にブラケットを固定すれば、引張材の水平に対する傾斜角度が大きくなるため、引張材の効きが悪くなり、実質的に引張材を架設する意味がなくなる。
【0008】
本発明は上記背景より、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材の架設を可能にする移動制限装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の構造物の移動制限装置は、下部構造上に上部構造を支持する支承体が定着される構造物において、上部構造の下部構造に対する相対移動を制限する装置であり、前記上部構造の前記相対移動方向を向いた前記下部構造の側面に係止した状態で固定されるブラケットと、前記支承体の回りに、前記上部構造の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において前記支承体に直接、または間接的に係止し、他端において前記ブラケットに連結される引張材とを備えることを構成要件とする。下部構造の側面とは、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときに、上部構造が間接的に係止しようとする下部構造の側面を指す。
【0010】
引張材が支承体の回りに、上部構造の下部構造に対する相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体に直接、または間接的に係止し、他端において下部構造に固定されたブラケットに連結されることで、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときには、上部構造に固定されている支承体から引張材に引張力が作用する。
【0011】
ブラケットが上部構造の下部構造に対する相対移動方向を向いた下部構造の側面に係止した状態で固定されることで、下部構造の上端部を外した位置にブラケットを固定しながらも、ブラケットに引張材が連結されたときに、引張材からの引張力を下部構造に支圧力として直接伝達することが可能になる。ブラケットは上部構造が例えば下部構造から落下しようとする向きに移動するときに、ブラケットが係止しようとする下部構造の側面に固定される。
【0012】
特に請求項2に記載のようにブラケットが下部構造の上端から突出した状態で、少なくとも下端部において下部構造に定着されることにすれば、下部構造中に埋設されているアンカーボルトと鉄筋を損傷させることなく、ブラケットを下部構造に固定することが可能である。
【0013】
この場合、引張材が下部構造の上端から突出したブラケットに連結されることで、立面上、引張材を水平に、もしくは水平に近い状態で架設することができるため、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材を架設することが可能になる。
【0014】
請求項2ではブラケットは下部構造の上端から突出した部分に引張材から引張力を受け、その引張力を下部構造に係止した区間において、下部構造に支圧力として伝達する。ブラケットが定着される下部構造の側面が鉛直面をなし、下部構造の上端が水平面をなす場合、ブラケットの上端部が引張材から受ける引張力はブラケットの材軸に直交する方向を向く。
【0015】
図11に示すようにブラケットが下部構造の上端から突出した状態で、ブラケットの上端部と下端部の2支点で下部構造に定着された場合に、引張材から引張力を受けるとき、上端部の支点には圧縮力が、下端部の支点には引張力が作用する。この結果、ブラケットの下端部を下部構造に定着させるアンカーボルト等の定着材には引き抜き力が作用するが、この引き抜き力はブラケットの上端部に直接作用する引張材からの引張力より小さくなるため、引張材からの引張力に直接抵抗する場合より軽微でよい。ブラケットは材軸が鉛直方向を向いて固定されることが合理的である。
【0016】
材軸が鉛直方向を向いてブラケットが下部構造に固定される場合、ブラケットの、下部構造の上端から突出した区間には引張材からの引張力により曲げモーメントが作用しようとするが、下部構造に重なる区間は変形が下部構造に拘束され、曲げモーメントの一部が支圧力によって相殺されるため、曲げモーメントは主に突出区間にのみ生ずる。
【0017】
ブラケットの上端部が引張材から引張力を受けるとき、下部構造との間に生ずる支圧力はブラケットの上端部寄りの区間で大きくなることから、下部構造のコンクリートが圧壊等、損傷する可能性がある。コンクリートに損傷の可能性がある場合には、請求項3に記載のように移動制限装置がブラケットの上端部と下部構造の表面との間に介在するカバープレートを備えることにより対応できる。カバープレートの存在により、ブラケットからの支圧力を分散させてコンクリートに伝達することができるため、コンクリートの損傷を回避することが可能である。請求項3で言う下部構造の表面とは、下部構造の側面と上面の少なくともいずれか一方を指す。
【0018】
ここで、下部構造に相当する鉄筋コンクリート造の構造体にブラケットを少なくとも下端部において定着させ、構造体から突出したブラケットの上端部に引張力をさせたときのブラケットの下端部と上端部の荷重−変位の関係を調べた結果を以下に示す。ここではブラケットにH形鋼を使用し、強軸方向が引張力の作用方向と一致するようにブラケットを配置した。
【0019】
構造体は図10に示すように引張材の引張力により破壊しない程度の規模(4000mm×4000mm×1400mm)を有する。ブラケットの下端部と上端部の定着部間の間隔は図11に示すように995mmであり、ブラケットの構造体からの突出長さは実際の状況を想定して270mmとした。引張材にはPC鋼材を用い、構造体上に固定された反力受けに反力を負担させながら、引張材をセンターホールジャッキで緊張することによりブラケットに引張力を与えた。引張力は65t(650kN)とした。
【0020】
試験に際してはブラケットを下端部と上端部の2箇所で定着した場合と、下端部のみの1箇所で定着した場合の2通りのケースを想定した。また構造体上端部におけるコンクリートの欠け(損傷)の程度を確認するために図12に示すようにブラケットの上端部と構造体との間にL形断面のカバープレートを挟んだ場合と挟まない場合の2通りのケースで試験を行った。
【0021】
試験のケース1〜3は次の通りであり、各ケースの荷重−変位曲線を図13〜図15に示す。図13〜図15中、実線が下端部における曲線を、破線が上端部における曲線を示す。
ケース1=カバープレートを挟み、ブラケットの下端部と上端部を定着材(ボルト)で定着した場合。
ケース2=カバープレートを挟まず、ブラケットの下端部と上端部を定着材(ボルト)で定着した場合。
ケース3=カバープレートを挟まず、ブラケットの下端部のみを定着材(ボルト)で定着した場合。
【0022】
図13に示すようにケース1では650kNまで載荷したところ、ブラケット自体に大きな変形は見られなかった。上端部における変位が下端部における変位に比べ、100kN付近まで大きくなる傾向があるのは、ブラケットを定着したときの微小な緩みの存在による影響と思われる。図14に示すようにケース2でも650kNまで載荷したところ、ブラケット自体に大きな変形は見られなかった。ケース1、2のいずれも、ブラケットの変形が弾性域内に留まっているため、使用上、ブラケットに問題はないと判断される。
【0023】
ケース3では図15に示すように650kNを超えて1050kNまで載荷したところ、900kNを超えた辺りからブラケットの変形量が増大し始め、1000kN付近でブラケット上端部のボルトの回りのコンクリートにクラックが発生したため、載荷を停止した。ケース3においても650kNまでの載荷によってはブラケット自体に大きな変形は見られないため、問題ないと判断される。
【0024】
以上の結果から、次のことが分かる。ケース2とケース3では650kNまでの載荷による挙動に大差はない。すなわちカバープレートを使用しない場合、ブラケットを下端部においてのみ構造体に定着させれば、下端部と上端部を定着した場合と同等の性能が発揮される。
【0025】
ケース3では900kN付近から変形が大きくなっているが、ブラケット自体の耐力は1800kN(降伏点)程度あるため、断面が降伏していることは考えにくい。変形が大きくなる理由はブラケットのフランジに局部変形が生じているためと考えられる。よってブラケットのフランジ間にリブ(スチフナ)を入れれば、局部変形は防止され、ブラケットの耐力が向上するものと考えられる。
【発明の効果】
【0026】
引張材を上部構造の下部構造に対する相対移動の方向に沿って架設し、一端において支承体に係止させ、他端においてブラケットに連結するため、上部構造が下部構造に対して相対移動しようとするときに、支承体から引張材に引張力を作用させることができる。
【0027】
またブラケットを上部構造の下部構造に対する相対移動方向を向いた下部構造の側面に係止した状態で固定するため、下部構造の上端を外した位置にブラケットを固定しながらも、ブラケットに引張材が連結されたときに、引張材からの引張力を下部構造に支圧力として直接伝達することができる。
【0028】
ブラケットを下部構造の上端から突出させた場合には、引張材を水平に、もしくは水平に近い状態で架設することができるため、下部構造の上端部寄りにブラケットを定着させることができない状況下においても、張力を発揮できる状態で引張材を架設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図1〜図9を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0030】
図1は下部構造7上に上部構造8を支持する支承体9が定着される構造物において、上部構造8の下部構造7に対する相対移動方向を向いた下部構造7の側面に係止した状態で固定されるブラケット2と、支承体9の回りに、上部構造7の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において支承体9に直接、または間接的に係止し、他端においてブラケット2に連結される引張材3とを備える構造物の移動制限装置1の具体的な設置例を示す。図2は図1の直交方向断面図、図3は図1の平面図である。移動制限装置1は主として図示するような既存の構造物に対して適用されるが、新設の構造物に適用されることもある。
【0031】
図面では上部構造8が、車両が走行するモノレールの軌道桁で、下部構造7が橋桁や橋脚、または橋台等である場合を示しているが、上部構造8と下部構造7の例はこれには限られない。図面では特に図2に示すように車両が軌道桁を跨ぐ跨座型のモノレールを示している。
【0032】
図面ではまた、下部構造7である橋脚の桁受け部71に上部構造(軌道桁)8の軸方向に段差があり、レベルの低い部分に成の高い鋼製の軌道桁が載置され、高い部分に鉄筋コンクリート製の軌道桁が載置されている橋脚において、レベルの高い部分に移動制限装置1を設置した様子を示しているが、段差のない桁受け部71にも移動制限装置1は設置される。桁受け部71で支持される2本の軌道桁が共に鋼製である場合のように同一構造であれば、桁受け部71には必ずしも段差は必要ない。
【0033】
図面では桁受け部71に段差があり、レベルの高い部分の上に支持されている軌道桁の移動を制限するために移動制限装置1を設置することに伴い、ブラケット2をレベルの高い部分の側面に固定しているが、レベルの低い部分に支持されている軌道桁の移動を制限する場合にはそのレベルに合わせたレベルに移動制限装置1が設置される。段差のない桁受け部71においては単に桁受け部71の側面にブラケット2が固定される。
【0034】
上部構造(軌道桁)8を支持している支承体9はそれに一体化しているベースプレートを91貫通し、下部構造(橋脚の桁受け部71)7のコンクリート中に埋設されるアンカーボルト92によって下部構造7に定着されている。
【0035】
ブラケット2はそれを下部構造7に定着させるアンカーボルト等の定着材4が前記既設のアンカーボルト92に干渉しないよう、アンカーボルト92より大きい長さを持ち、材軸が鉛直方向、またはそれに近い方向を向いた状態で下部構造7の側面に係止し、少なくとも下端部において定着材4によって下部構造7に定着される。ブラケット2の上端部は引張材3との連結のために下部構造7の上端(天端)から上方へ突出する。
【0036】
引張材3は上部構造8の下部構造7に対する相対移動の方向に沿って架設され、支承体9に係止することから、支承体9に不均衡な力を加えないよう、ブラケット2は図2、図3に示すように支承体9の幅方向両側の位置に配置される。支承体9の幅方向とは、上部構造8の相対移動方向に直交する方向を指す。移動制限装置1は支承体9の幅方向両側に配置される2本の引張材3と、それぞれが連結される2本のブラケット2が一組となる。
【0037】
図6にブラケット2の製作例を示すが、ブラケット2は下部構造7の側面に係止する係止板2aと、係止板2aを曲げ変形に対して補強する補強板2bを有し、係止板2aの上端部に引張材3が連結されるための連結孔2cが形成される。また係止板2aの少なくとも下端部に、これを下部構造7に定着する定着材4が挿通するための挿通孔2dが形成される。定着材4にはアンカーボルトの他、あと施工アンカー等が使用される。
【0038】
図6ではブラケット2をその上端部においても下部構造7に固定するために、係止板2aの上端部の下部構造7側に、下部構造7の上端面に載る載置板2fを一体化させ、載置板2fに形成された挿通孔2gを貫通するあと施工アンカー21を下部構造7中に挿入している。このあと施工アンカー21の長さは下部構造7中に配筋されている鉄筋等と干渉しない大きさに抑えられる。あと施工アンカー21は下部構造7中の鉄筋等と干渉しない領域に配置されればよいため、ブラケット2の係止板2aを貫通することもある。
【0039】
図4−(a)〜(c)は図1に示す段差のある下部構造7におけるブラケット2と、レベルの低い部分に支持されている上部構造8との取合い例を示す。ここではレベルの低い部分に上部構造8として鋼製の軌道桁が支持されているが、ブラケット2はこの上部構造8との干渉が生じないように配置される。
【0040】
図4−(a)はブラケット2の設置状態の立面を、(b)はブラケット2の上端部における水平断面を、(c)はブラケット2の下端部における水平断面をそれぞれ示す。ここに示すように段差のある下部構造7においては、上部構造8(鋼製の軌道桁)の衝突を回避するためにブラケット2と上部構造8との間に、上部構造8の許容されている下部構造7に対する相対移動量より大きいクリアランスが確保される。
【0041】
図5はブラケット2の補強板2bの上端部に、その補剛のために補強板2bに直交する面をなすリブ2eを固定した場合の、下部構造7のコンクリート中の鉄筋との関係を示す。ここではリブ2eを補強板2bの軸方向に並列させて固定しているが、この内、下側のリブ2eの位置からコンクリートへは応力が集中して作用することから、図5に示すようにリブ2eは応力の集中によりコンクリートが破壊した場合にもコンクリート中の鉄筋が露出しないような位置に配置される。
【0042】
引張材3は図2、図3に示すように支承体9を幅方向に挟み込むように、支承体9の両側に配置され、上部構造8側の端部において支承体9に係止し、ブラケット2側の端部においてブラケット2に連結される。引張材3はブラケット2の前記係止板2aの連結孔2cを貫通し、ナット31等により係止板2aに連結される。引張材3にはPC鋼材の他、鉄筋等の鋼材、繊維強化プラスチック等の繊維強化材料が使用される。
【0043】
引張材3は上部構造8の相対移動の方向に沿って架設されるが、上部構造8が相対移動を生じたときに、引張材3が負担する張力の内、上部構造8の相対移動方向の成分がそれに直交する方向の成分より大きくなるように架設されればよい。すなわち引張材3は立面上、水平に対して傾斜する場合、または平面上、上部構造8の相対移動方向に傾斜する場合もある。
【0044】
図7は支承体9を挟んでブラケット2の反対側に、支承体9にブラケット2側へ係止する板状の受け梁5を配置し、この受け梁5に図9−(a)に示すように引張材3をボルトやピン51等により連結した場合を示す。
【0045】
図8は支承体9にブラケット2側へ係止する、並列する板からなる箱状の受け梁5を配置し、この受け梁5に図9−(b)に示すように引張材3に接続された支圧板6をボルト等により接合した場合を示す。
【0046】
図7、図8の場合、上部構造8の相対移動に伴い、支承体9がブラケット2から離れる向きに移動しようとするときに、支承体9が受け梁5に係止することで、引張材3に引張力が作用し、ブラケット2に伝達される。ブラケット2に伝達された引張力は下部構造7に支圧力として伝達され、負担される。引張材3の引張力を下部構造7が負担することにより支承体9の移動、すなわち上部構造8の下部構造7に対する相対移動が一定量以内に制限される。上部構造8の下部構造7に対する相対移動量は上部構造8の使用状態で支障のない範囲では許容される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】下部構造への移動制限装置の設置状況を示した立面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】(a)は段差のある下部構造に設置されるブラケットと、レベルの低い側に位置する上部構造との位置関係を示した図1の一部拡大図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は(a)のB−B線断面図である。
【図5】ブラケットの上端部にリブを固定した場合の、リブとコンクリート中の鉄筋との位置関係を示した図1の一部拡大図である。
【図6】(a)はブラケットの製作例を示した立面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の引張材側の側面図である。
【図7】(a)は引張材の一端を支承体に係止させるための具体例を示した平面図、(b)は立面図である。
【図8】(a)は引張材の一端を支承体に係止させるための他の具体例を示した平面図、(b)は立面図である。
【図9】(a)は図7における引張材の一端側の詳細例を示した斜視図、(b)は図8における引張材の一端側の詳細例を示した斜視図である。
【図10】ブラケットの載荷試験を実施したときの下部構造に相当する構造体と、構造体へのブラケットと反力受けの固定状態を示した斜視図である。
【図11】図10に示すブラケットと反力受け間に引張材を架設した様子を示した立面図である。
【図12】(a)は図11に示すブラケットの上端部にカバープレートを配置した様子を示した立面図、(b)は(a)の構造体側の側面図である。
【図13】載荷ケース1の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【図14】載荷ケース2の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【図15】載荷ケース3の場合の荷重−変位曲線を示したグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1………移動制限装置
2………ブラケット
2a……係止板
2b……補強板
2c……連結孔
2d……挿通孔
2e……リブ
2f……載置板
2g……挿通孔
21……あと施工アンカー
3………引張材
4………定着材
5………受け梁
51……ピン
6………支圧板
7………下部構造
8………上部構造
9………支承体
91……ベースプレート
92……アンカーボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造上に上部構造を支持する支承体が定着される構造物において、上部構造の下部構造に対する相対移動を制限する装置であり、前記上部構造の前記相対移動方向を向いた前記下部構造の側面に係止した状態で固定されるブラケットと、前記支承体の回りに、前記上部構造の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において前記支承体に直接、または間接的に係止し、他端において前記ブラケットに連結される引張材とを備えることを特徴とする構造物の移動制限装置。
【請求項2】
前記ブラケットは前記下部構造の上端から突出した状態で、少なくとも下端部において前記下部構造に定着されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の移動制限装置。
【請求項3】
前記ブラケットの上端部と前記下部構造の表面との間に介在するカバープレートを備えることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の構造物の移動制限装置。
【請求項1】
下部構造上に上部構造を支持する支承体が定着される構造物において、上部構造の下部構造に対する相対移動を制限する装置であり、前記上部構造の前記相対移動方向を向いた前記下部構造の側面に係止した状態で固定されるブラケットと、前記支承体の回りに、前記上部構造の前記相対移動の方向に沿って架設され、一端において前記支承体に直接、または間接的に係止し、他端において前記ブラケットに連結される引張材とを備えることを特徴とする構造物の移動制限装置。
【請求項2】
前記ブラケットは前記下部構造の上端から突出した状態で、少なくとも下端部において前記下部構造に定着されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の移動制限装置。
【請求項3】
前記ブラケットの上端部と前記下部構造の表面との間に介在するカバープレートを備えることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の構造物の移動制限装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−170164(P2007−170164A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2006−183302(P2006−183302)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183302(P2006−183302)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)
【Fターム(参考)】
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