構造物の非破壊検査方法及びその装置
【課題】短時間、かつ外部環境に影響を受けずに測定することが可能な、赤外線サーモグラフィを用いた構造物の非破壊検査方法及びその装置を提供する。
【解決手段】法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する。
【解決手段】法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の非破壊検査方法に関し、詳しくは建築物、橋梁等の構造物や法面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物の浮きやクラックなどを、赤外線サーモグラフィを用いて把握する非破壊検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面等を被覆するコンクリート又はモルタル吹付けの表面保護構造物は、昼夜の温度変化による膨張・収縮の繰り返しや雨水等の浸透作用によって、表面保護構造物の表面にひび割れが生じたり、地山の風化等が生じ、法面等を被覆するコンクリート又はモルタル吹付けの表面保護構造物の老朽化によって構造自体が損傷を受けている場合もある。これが進行すると、風化土砂が斜面下部方向に流れ出し、あるいはコンクリートやモルタルが押し流されて、コンクリートやモルタル材と斜面の間に空洞が生じたり、モルタルが剥落するという現象が起きる。
【0003】
この法面等と表面保護構造物に生じた空洞を探査する、従来からの一般的な探査方法は、人間がコンクリートやモルタル表面をハンマー等で打撃し、その打撃音の高低で空洞の有無を判断するものであった。近年では、法面等と表面保護構造物に生じた空洞を、赤外線サーモグラフィで測定した空間的温度分布(温度差)から検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−264489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、赤外線サーモグラフィでの測定にあたっては、日中と夜間等の気温差を利用して、同じ箇所で時間を変えて2回測定し、二時刻間の温度差画像を取ることで、空洞部である可能性が高いか否かを判定するものであり、調査時間が長時間にわたるという問題があった。また、温度差の測定は表面保護構造物をとりまく外部環境に大きな影響をうけてしまい、例えば、外気温や天候(雨天は中止など)の影響、樹木等による日陰の影響が対象構造物の表面温度に影響を及ぼし、空洞部の判定が満足に行なえないといった問題もあった。
【0005】
そこで、本発明の主たる課題は、短時間、かつ外部環境に影響を受けずに測定することが可能な、赤外線サーモグラフィを用いた構造物の非破壊検査方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
請求項1記載の発明は、赤外線サーモグラフィによって構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の健全性を推測する構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法である。
【0007】
(作用効果)
計測対象の構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給して、構造物の背後又は内部に生じた空隙やクラック部分等を強制的に冷却又は加熱することにより、健全な部分との温度差を短時間に広げることができ、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の表面温度分布を計測することができる。また、構造物の背後又は内部に生じた空隙やクラック部分等を強制的に冷却又は加熱することにより、外部環境の影響は受けずに、より正確な空隙調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本願発明でいう構造物とは、建築物、橋梁、橋脚、地価埋設配管、地下埋設物等のコンクリート構造物及びスチール構造物、並びに法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面の表面を被覆し保護する保護工法に係る構造物のことをいうものとする。
【0008】
<請求項2記載の発明>
請求項2記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法である。
【0009】
(作用効果)
計測対象の表面保護構造物の背後、すなわち法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面と前記構造物との間に冷媒又は熱媒を供給して、構造物の背後に生じた空洞等の内部を強制的に冷却又は加熱することにより、健全な部分との温度差を短時間に広げることができ、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の表面温度分布を計測することができる。また、構造物の背後に生じた空洞等の内部を強制的に冷却又は加熱することにより、外部環境の影響は受けずに、より正確な空洞調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本願発明でいう表面保護構造物とは、法面だけでなく、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面の表面を被覆し保護する保護工法に係る構造物である。例えば、法面の表面を保護する構造物を法面構造物という。一般的に、表面保護工法に包含される法面保護工法は、法面が安定していて落石や部分的崩壊がなく、法面の表面だけの風化防止を主目的としているが、本発明における法面保護工法は、この目的に加え、(イ)風化岩、長大法面等で落石や部分的な崩壊が考えられる場合、(ロ)表面すべり(直線すべり)、又は円弧すべりが発生するものと予想される場合、(ハ)急勾配、ダム湛水面、浸透水の激しい法面の場合、に行われる法面抑止工法も含むものとする。また、法面には、当然のことながら護岸工事における法面(例えば、河川の護岸法面)も含まれるものであるから、この法面保護工法には、河川等の護岸保護を目的とした被覆も含まれるものである。なお、法面の表面保護工法とは、便宜上、上記法面保護工法の言い換えにすぎない。
【0010】
<請求項3記載の発明>
請求項3記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給される、請求項1又は2記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0011】
(作用効果)
冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給する構成であることにより、例えば、複数箇所から冷媒又は熱媒を供給することによって、より短時間で健全な部分との温度差を生じさせることができる。また、穿設する孔の箇所数を調整することにより、小規模から大規模までの構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。
【0012】
<請求項4記載の発明>
請求項4記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、冷却又は加熱されたエアである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0013】
(作用効果)
構造物の背後に供給される冷媒又は熱媒を、冷却又は加熱されたエアとすることにより、構造物の背後の地盤に対し浸食等の悪影響を与えることなく構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。また、構造物自体にクラックがある場合に、冷却又は加熱されたエアは、このクラックを介して外部に出るため、冷気又は熱気として目視によるクラックの確認も行うことができる。
【0014】
<請求項5記載の発明>
請求項5記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、ドライアイスである、請求項1乃至4のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0015】
(作用効果)
供給されたドライアイスは、空洞等の内部の周囲から熱を吸収して固体から気体へ昇華するので(昇華熱)、周囲が急激に冷やされ、空隙や空洞等が存在する位置の構造物の部分も急激に冷やされる。そのため、これら空隙や空洞等が存在する位置の構造物の部分及びクラックが生じた部分は、健全な部分に比べて、急激に温度が低くなり、瞬時に温度差が広がっていく。その結果、冷媒としてドライアイスを使用することにより、急激に温度を下げることができ、構造物の表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく構造物の背後の状況又は構造物の健全性を推測することができる。
【0016】
<請求項6記載の発明>
請求項6記載の発明は、前記ドライアイスは、粉粒体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0017】
<請求項7記載の発明>
請求項7記載の発明は、前記ドライアイスは、粉体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0018】
(作用効果)
ドライアイスを粉粒体状とすると、より短時間で気化し、より急激に温度を下げることができるため、検査時間をより短縮することができる。さらにドライアイスを粉体状とすると、粒度が粒全体として小さくなるため、さらに気化しやすくなり、検査時間をさらに短縮することができる。
なお、粉粒体とは粉体と粒体とを含み、一般的には、異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり、個々の粒子間に、何らかの相互作用が働いているものと規定されるものである。
【0019】
<請求項8記載の発明>
請求項8記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置と、この冷却/加熱装置によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路と、を有する冷媒/熱媒供給装置と、を備え、前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置である。
【0020】
(作用効果)
上記構成の装置により、構造物の背後に強制的に冷媒又は熱媒を供給しながら、構造物の表面温度分布を計測することにより、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。それと共に、外部環境の影響は受けずに、より正確な空洞調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本発明に係る冷却/加熱装置とは、冷却装置、又は加熱装置のことを意味する。
【0021】
<請求項9記載の発明>
請求項9記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアにより搬送されるドライアイスを供給する供給タンクと、この供給タンクから供給されるドライアイスを搬送する管路と、を有する冷媒供給装置と、を備え、前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、短時間、かつ外部環境に影響を受けずに建築物、橋梁等の構造物や法面等を被覆する表面保護構造物の表面温度分布を計測でき、これら構造物の非破壊検査ができる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
<熱赤外線映像法>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法は、熱赤外線映像法を利用しているものである。この熱赤外線映像法とは、熱赤外線映像装置(赤外線サーモグラフィ)を用いるものであるが、この赤外線サーモグラフィにより法面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物を撮影すると、吹付背後の状態によって吹付表面の温度状態は異なることを利用したものである。すなわち、一般に空気の体積熱容量は土に比べて非常に小さいため、吹付背後に空気が介在する空洞部の吹付表面は、外気や太陽工ネルギーの付加に対して敏感に反応し、温まりやすく冷めやすい性質となっており、逆に水の体積容量は非常に大きいため、湿潤部は温まりにくく冷めにくい性質をもっている。一方、常温付近の物体表面からは赤外線(波長3〜14μm)による熱放射が常に行われており、赤外線サーモグラフィを用いて、この熱放射量を平面的に検知し映像化することにより、吹付表面の温度分布状態を短時間に効率良く得ることで、表面保護構造物の背後の状況、すなわち吹付内部の地山部分に空洞部分や風化部分があるか否か等の地山部分の性状を推測すると共に、表面保護構造物自体の浮きやクラック等を推測する手法である。
【0024】
上記のような熱赤外線映像法で測定する場合には、一般的に、早朝や深夜の低温時と、日中の高温時の二時刻において、吹付表面温度を赤外線サーモグラフィで測定する。そして、二時刻間での温度差が大きく、高温時により高温、低温時により低温という温度変化パターンをもつ部分を抽出することで、吹付背面の地山部分の性状や表面保護構造物の劣化等を推測するものである。
【0025】
しかし、温度変化を待つために、早朝から日中まで、又は日中から深夜まで、測定作業に時間が掛かり、コスト削減等の観点から、短時間で作業が完了する方法が求められていた。そこで、本発明者らは、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物に、孔を複数箇所穿設し、この孔から吹付内部に冷却又は加熱した空気等の冷媒や熱媒を供給し、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面と表面保護構造物との間に生じた空洞部分や風化部分、又は構造物自体の劣化部分に、これら冷媒や熱媒を巡らせて、強制的に周辺との温度差を生じさせて、短時間で測定作業を終了させる方法を知見した。
【0026】
<本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査装置>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査装置について、測定対象を法面構造物Nとした例に基づき説明する。この非破壊検査装置は、図1に示すように、法面構造物Nの表面温度を測定する赤外線サーモグラフィ(赤外線サーモグラフィ装置)1と、法面構造物Nの背面に冷媒又は熱媒を供給する供給装置2と、を備えている。赤外線サーモグラフィ1は、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出し、見かけの温度に変換して、温度分布を画像表示する装置であり、公知の装置を使用することができる。供給装置2は、エアを供給するコンプレッサーやブロア等のエア供給源21と、このエア供給源21から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置22と、この冷却/加熱装置22によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路23と、を備えている。そして、管路23は、法面構造物Nの複数箇所に予め穿設した孔NHに取付けられたホースジョイント23Aを介して、孔NHに連結されるものである。なお、管路23は、少なくとも1本以上であり(図1では1本)、複数箇所に対して同時に冷却又は加熱されたエアを供給することができる。ここで、冷却/加熱装置22は、冷却装置、又は加熱装置のことを意味するが、冷却機能と加熱機能を両方兼ね備えた装置を使用してもよい。なお、冷却装置としてボルテックスチューブを利用した超低温空気発生器(図示せず)を使用してもよく、この超低温空気発生器を、直接孔NH内に差し込み、超低温空気発生器にエア供給源21から圧縮エアを供給し、この超低温空気発生器によって冷却されたエアを法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内等に供給してもよい。
【0027】
次に、図1及び図2に示すフローチャートに基づき、非破壊検査装置を用いての検査方法について説明する。
まず、冷却又は加熱されたエアを供給することに先立って、非破壊検査の対象となる法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィ1で予め測定しておく。この測定に前後して、法面構造物Nの複数箇所にホースジョイント23Aを取付けるための孔NHを穿設するが、この際には、例えば、作業者が法面構造物Nの表面をハンマー等で叩きながら、打撃音の軽いところ(空洞の存在が予測される部分)を狙って穿設を行なう等が考えられる。そして、複数の孔NHに、ホースジョイント23A,23A,…を取付けていく。なお、孔NHとホースジョイント23Aとの隙間は必要に応じてモルタル、シール材やパッキン等により充填すればよい。複数取付けたホースジョイント23A,23A,…に、複数の管路23,23,…を連結する。この状態でエア供給源21を稼動させ、冷却/加熱装置22から冷却又は加熱されたエアを、法面構造物Nの複数箇所に穿設された孔NH内に供給する。この冷却又は加熱されたエアが、法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内、又は法面構造物N自体に生じたクラック等に入り込むことによって、これら欠陥箇所の温度が健全な部分に比べ低い温度又は高い温度となり、これらの部分の法面構造物Nの表面温度は、経時的に、周辺の法面構造物Nの表面温度に対して相対的に低く又は高くなっていく。この経時的な温度変化を熱画像として記録しておき、この記録された熱画像履歴データを時系列に表示させ、差画像を作成することで対象物内部の空洞状況を高精度に測定することができるものである。ここで、差画像とは、一般的に、二時刻の温度差画像のことをいうが、本発明では、冷却又は加熱前と冷却又は加熱後の温度差画像のことをいうものとする。また、図1に示すように、開口されたクラックからは、例えば、冷気等が外部に出るため、目視によるクラックの確認も可能である。
【0028】
従来技術のように、法面構造物Nの外部から赤外線サーモグラフィのみで非破壊検査すると、温度差の測定は法面構造物をとりまく外部環境に大きな影響をうけてしまい、例えば、外気温や天候(雨天は中止など)の影響、樹木等による日陰の影響が法面構造物Nの表面温度に影響を及ぼし、空洞部の判定が満足に行なえないといった問題もあったが、本発明に係る検査方法は、測定対象となる法面構造物Nの内部に直接冷媒又は熱媒を送り込み、欠陥箇所の温度を健全な部分に比べ相対的に低い温度又は高い温度にして、法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するため、気温など外部環境の影響は受けにくく、より正確な空洞やクラック調査を可能とすると共に、時間帯を選ぶことなく短時間で測定作業を行うことができる。例えば、外気温や法面構造物Nの表面温度が低い場合には、熱媒を背面に供給することによって、短時間で差画像を作成することができるし、同様に、外気温や法面構造物Nの表面温度が高い場合には、冷媒を背面に供給すれば短時間で効率よく測定を行うことができる。
【0029】
また、冷却/加熱装置22から冷却又は加熱されたエアを供給する代わりに、細かく砕いたドライアイスを冷媒として法面構造物Nの複数箇所に穿設された孔NH内に供給してもよい。このドライアイスとしては、市販のペレット状のドライアイスなどの粉粒体状のドライアイスを使用することができる。
【0030】
このドライアイスは、エア供給源21とホースジョイント23Aとを連結する管路23の任意の箇所に取付けられた供給タンク(図示せず)に供給されるものであり、供給されたドライアイスはこの供給タンクから管路23をエア搬送され、法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内等に供給される。
【0031】
供給されたドライアイスは、空隙や空洞内の周囲から熱を吸収して固体から気体へ昇華するので(昇華熱)、周囲が急激に冷やされ、空隙や空洞等が存在する位置の法面構造物Nの部分も急激に冷やされる。そのため、これら空隙や空洞等が存在する位置の法面構造物Nの部分及びクラックが生じた法面構造物Nの部分は、それ以外の(周辺の)法面構造物Nの部分に比べて、急激に温度が低くなり、瞬時に温度差が広がっていくものである。
【0032】
冷媒としてドライアイスを使用することにより、前述した超低温空気発生器による冷却されたエアよりも、急激に温度を下げることができるため、法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく欠陥箇所を推定することができる。そのため、冷媒としてドライアイスを使用する場合は、超低温空気発生器による冷却されたエアを使用する場合よりも、より短時間で空洞調査やクラック調査を行うことができる。
【0033】
供給するドライアイスの大きさとしては、管路23からエア搬送が可能な程度の大きさであればよいが、粉粒体状のドライアイスをさらに砕氷して粉体状にしたものを用いると、より短時間で気化するため、粉体状のドライアイスを使用することが好ましい。
【0034】
なお、本実施の形態では、表面保護構造物の非破壊検査装置及び検査方法について説明したが、本発明はこれに限らず、建築物、橋梁、橋脚、地価埋設配管、地下埋設物等のコンクリート構造物及びスチール構造物などにも用いることができる。これら構造物に用いる場合には、構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測すればよい。その他の構成、方法については、上記の説明が適用できるので、説明を省略する。
【0035】
<モデル試験1>
この本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法について、モデル化して、以下に示すような試験を行なった。
試験では、図3(1)及び(2)に示すように、長さ32.0cm・幅39.0cm・深さ28.0cmの大きさを持つ発泡スチロール箱10と、法面構造物に見立てた、長さ24.0cm・幅24.0cm・厚み3.5cmの大きさを持つコンクリート片11と、法面構造物の背面に供給される冷媒に見立てたドライアイス12と、を用意し、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて試験が行なわれるものであり、発泡スチロール箱10の上部に形成された蓋部分には、図3(2)及び図4(1)に示すように、予め法面構造物に見立てたコンクリート片11に接する一箇所に、3.0cm角の孔10aを穿設し、この孔10aを地山に生じた空洞に見立て、時間変化に伴うコンクリート片11の温度変化を測定するものである。
【0036】
ここで、一般的な吹付等により形成される法面構造物の厚みは、3.0cm〜5.0cm〜10cm程度であるので、3.5cmのコンクリート片11は厚みの薄い法面構造物に相当する。そして、このコンクリート片11を2枚重ねにすれば、厚み7.0cmの法面構造物に相当することになる。測定は、図示しない公知の赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社 TVS−700)を用いて行なわれ、試験体であるコンクリート片11の上方から測定する。
【0037】
まず、図4(1)のI−I断面図である図4(2)に示すように、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて、1枚のコンクリート片11の場合について測定を始めた。図5(1)は測定開始直後の熱画像であり、図5(2)は冷却開始から10分経過後の熱画像であり、図5(3)は冷却開始から20分経過後の熱画像である。また、T1の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図6に示した。このうち、熱画像からは、孔10aから冷気が伝わり、そこを中心として表面温度が低下していることが認識でき、冷却開始から10分経過後で冷却状況がだいたい把握できるレベルであり、冷却開始から20分経過後で、空洞に見立てた孔10aの存在がはっきりと認識できた。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から10分後には表面温度が約2℃下がり、冷却開始から20分後には約4℃下がっていることが分かった。
【0038】
次に、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて、2枚のコンクリート片11,11を上下に重ね、厚みを7.0cmにした場合について測定を始めた。図7(1)は測定開始直後の熱画像であり、図7(2)は冷却開始から10分経過後の熱画像であり、図7(3)は冷却開始から20分経過後の熱画像である。また、T2の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図8に示した。このうち、熱画像からは、試験体が1枚の時よりも冷気の伝わりが遅いものの、冷却開始から20分経過後で、孔10aを中心として表面温度が低下していることが、概ね認識できるレベルであった。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から20分後には約2℃下がっていることが分かった。
【0039】
次に、図9に示すように、2枚のコンクリート片11,11の側面をそれぞれ当接し、法面構造物にクラックが入った状態に見立てて、測定を行なった。なお、発泡スチロール箱10の蓋部分には、孔10bと孔10cの二箇所の孔を形成し、クラックに見立てた部分の背面に孔10bが位置するように配置し、また孔10cはコンクリート片11,11のうちの一方の略中心部分に位置するように配置した。図10(1)は測定開始直後の熱画像であり、図10(2)は冷却開始から1分後の熱画像である。また、T3の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図11に示した。このうち、熱画像からは、クラックに見立てた部分は他の箇所に比べ瞬時に低温となることが認識できる。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から約1分ほどで約4℃下がっていることが分かった。さらに、ドライアイス12の冷気がクラックに見立てた部分から出るため、目視によるクラックの確認も可能であることが判明した。
【0040】
<モデル試験2>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法について、コンクリート製のパネルの背面に、冷媒としてドライアイスをエア搬送して供給するケースの試験を行なった。
試験では、図12乃至図14に示すように、法面構造物に見立てた、長さ200.0cm・幅100.0cm・厚さ5.0cmの大きさを持つコンクリート製パネル30と、法面構造物の背面の地盤に見立てた、長さ200.0cm・幅100.0cm・厚み25.0cmの大きさを持つ硬質発泡スチロール31と、法面構造物の背面に供給される冷媒に見立てた粉体状のドライアイス(図示せず)と、を用意し、粉体状のドライアイスをホース等の管路33を介してエア供給源からエア搬送して行なった。なお、ドライアイスは、市販のペレット状のドライアイスをさらに砕氷して粉体状にしたものを用いている。
【0041】
図14に示すように、硬質発泡スチロール31の中央部分には、上面と底面を貫通するようにSIの文字の形でくり貫き部分が形成されている。このくり貫き部分は、法面構造物の背面に生じた空隙や空洞に見立てられたものである。図13に示すように、この硬質発泡スチロール31は、地面G上に置かれ、そして、この硬質発泡スチロール31の上には、コンクリート製パネル30が載置されている。図12に示すように、コンクリート製パネル30には、孔(図示せず)が穿設され、この孔にホースジョイント33Aが挿入されており、このホースジョイント33Aを介して、くり貫き部分(図12ではIの文字の部分)へ粉体状のドライアイスをエア搬送することができるようになっている。Iの文字のくり貫き部分に供給された粉体状のドライアイスは、貫通孔31Aを介してSの文字のくり貫き部分へ移動可能になっている。
【0042】
前述したモデル試験1と同様に、測定は、図示しない公知の赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社 TVS−700)を用いて行なわれ、試験体であるコンクリート製パネル30の上方から測定した。
【0043】
図15乃至図21に基づき、以下に示す測定結果について説明する。なお、図15はドライアイス搬送前の試験開始前の状態を示す熱画像であり、図16は試験開始1分後の状態を示す熱画像であり、図17は試験開始3分後の状態を示す熱画像であり、図18は試験開始10分後の状態を示す熱画像であり、図19は試験開始12分後の状態を示す熱画像であり、図20は試験開始15分後の状態を示す熱画像であり、図21は試験開始19分後の状態を示す熱画像である。
試験開始前の外気温は9℃であり、くり貫き部分の内部温度は14℃であった。そして、図16の開始1分後の状態では、内部温度は−20℃まで一気に下がり、図17の開始3分後の状態では、Iの文字の部分の輪郭が現れるようになった。そして、開始から7分30秒後に、粉体状のドライアイスのエア搬送を停止したが、その2分30秒後の図18の開始10分後の状態ではSの文字の部分もはっきり認識できるようになった。エア搬送停止4分30秒後である、図19の開始12分後の状態でSの文字の部分の輪郭が最大になることが確認され、図20の開始15分後の状態で、全体的に温度の上昇が見られ、文字輪郭がぼやけてきていることが確認された。そして、図21の開始19分後の状態で試験を終了した。
【0044】
この試験により、冷媒として粉体状のドライアイスをエア搬送することによって、短時間急激に温度を下げることができることが確認された。そのため、欠陥箇所とそれ以外の周辺との温度差を広げることができ、表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく欠陥箇所を推定することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る法面構造物の非破壊検査装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る法面構造物の非破壊検査方法のフローチャートである。
【図3】モデル試験1の構成を示す説明図である。
【図4】モデル試験1の構成の平面図及び断面図である。
【図5】コンクリート片1枚を試験体として試験を行ったときの熱画像である。
【図6】その試験におけるコンクリート片表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図7】コンクリート片2枚を重ねたものを試験体として試験を行ったときの熱画像である。
【図8】その試験におけるコンクリート片表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図9】2枚のコンクリート片の側面をそれぞれ当接した状態でのモデル試験の構成の平面図である。
【図10】その試験を行ったときの熱画像である。
【図11】その試験における、2枚のコンクリート片を当接した部分の表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図12】モデル試験2の構成を示す平面図である。
【図13】そのA―A断面図である。
【図14】硬質発泡スチロールの構成を示す平面図である。
【図15】ドライアイス搬送前の試験開始前の状態を示す熱画像である。
【図16】試験開始1分後の状態を示す熱画像である。
【図17】試験開始3分後の状態を示す熱画像である。
【図18】試験開始10分後の状態を示す熱画像である。
【図19】試験開始12分後の状態を示す熱画像である。
【図20】試験開始15分後の状態を示す熱画像である。
【図21】試験開始19分後の状態を示す熱画像である。
【符号の説明】
【0046】
1…赤外線サーモグラフィ(赤外線サーモグラフィ装置)、2…供給装置、10…発泡スチロール箱、10a、10b、10c…孔11…コンクリート片、12…ドライアイス、21…エア供給源、22…冷却/加熱装置、23…管路、23A…ホースジョイント、30…コンクリート製パネル、31…硬質発泡スチロール、31A…貫通孔、33…管路、33A…ホースジョイント、N…法面構造物、NH…孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の非破壊検査方法に関し、詳しくは建築物、橋梁等の構造物や法面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物の浮きやクラックなどを、赤外線サーモグラフィを用いて把握する非破壊検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面等を被覆するコンクリート又はモルタル吹付けの表面保護構造物は、昼夜の温度変化による膨張・収縮の繰り返しや雨水等の浸透作用によって、表面保護構造物の表面にひび割れが生じたり、地山の風化等が生じ、法面等を被覆するコンクリート又はモルタル吹付けの表面保護構造物の老朽化によって構造自体が損傷を受けている場合もある。これが進行すると、風化土砂が斜面下部方向に流れ出し、あるいはコンクリートやモルタルが押し流されて、コンクリートやモルタル材と斜面の間に空洞が生じたり、モルタルが剥落するという現象が起きる。
【0003】
この法面等と表面保護構造物に生じた空洞を探査する、従来からの一般的な探査方法は、人間がコンクリートやモルタル表面をハンマー等で打撃し、その打撃音の高低で空洞の有無を判断するものであった。近年では、法面等と表面保護構造物に生じた空洞を、赤外線サーモグラフィで測定した空間的温度分布(温度差)から検出するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−264489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、赤外線サーモグラフィでの測定にあたっては、日中と夜間等の気温差を利用して、同じ箇所で時間を変えて2回測定し、二時刻間の温度差画像を取ることで、空洞部である可能性が高いか否かを判定するものであり、調査時間が長時間にわたるという問題があった。また、温度差の測定は表面保護構造物をとりまく外部環境に大きな影響をうけてしまい、例えば、外気温や天候(雨天は中止など)の影響、樹木等による日陰の影響が対象構造物の表面温度に影響を及ぼし、空洞部の判定が満足に行なえないといった問題もあった。
【0005】
そこで、本発明の主たる課題は、短時間、かつ外部環境に影響を受けずに測定することが可能な、赤外線サーモグラフィを用いた構造物の非破壊検査方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
請求項1記載の発明は、赤外線サーモグラフィによって構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の健全性を推測する構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法である。
【0007】
(作用効果)
計測対象の構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給して、構造物の背後又は内部に生じた空隙やクラック部分等を強制的に冷却又は加熱することにより、健全な部分との温度差を短時間に広げることができ、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の表面温度分布を計測することができる。また、構造物の背後又は内部に生じた空隙やクラック部分等を強制的に冷却又は加熱することにより、外部環境の影響は受けずに、より正確な空隙調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本願発明でいう構造物とは、建築物、橋梁、橋脚、地価埋設配管、地下埋設物等のコンクリート構造物及びスチール構造物、並びに法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面の表面を被覆し保護する保護工法に係る構造物のことをいうものとする。
【0008】
<請求項2記載の発明>
請求項2記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法である。
【0009】
(作用効果)
計測対象の表面保護構造物の背後、すなわち法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面と前記構造物との間に冷媒又は熱媒を供給して、構造物の背後に生じた空洞等の内部を強制的に冷却又は加熱することにより、健全な部分との温度差を短時間に広げることができ、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の表面温度分布を計測することができる。また、構造物の背後に生じた空洞等の内部を強制的に冷却又は加熱することにより、外部環境の影響は受けずに、より正確な空洞調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本願発明でいう表面保護構造物とは、法面だけでなく、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面の表面を被覆し保護する保護工法に係る構造物である。例えば、法面の表面を保護する構造物を法面構造物という。一般的に、表面保護工法に包含される法面保護工法は、法面が安定していて落石や部分的崩壊がなく、法面の表面だけの風化防止を主目的としているが、本発明における法面保護工法は、この目的に加え、(イ)風化岩、長大法面等で落石や部分的な崩壊が考えられる場合、(ロ)表面すべり(直線すべり)、又は円弧すべりが発生するものと予想される場合、(ハ)急勾配、ダム湛水面、浸透水の激しい法面の場合、に行われる法面抑止工法も含むものとする。また、法面には、当然のことながら護岸工事における法面(例えば、河川の護岸法面)も含まれるものであるから、この法面保護工法には、河川等の護岸保護を目的とした被覆も含まれるものである。なお、法面の表面保護工法とは、便宜上、上記法面保護工法の言い換えにすぎない。
【0010】
<請求項3記載の発明>
請求項3記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給される、請求項1又は2記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0011】
(作用効果)
冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給する構成であることにより、例えば、複数箇所から冷媒又は熱媒を供給することによって、より短時間で健全な部分との温度差を生じさせることができる。また、穿設する孔の箇所数を調整することにより、小規模から大規模までの構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。
【0012】
<請求項4記載の発明>
請求項4記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、冷却又は加熱されたエアである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0013】
(作用効果)
構造物の背後に供給される冷媒又は熱媒を、冷却又は加熱されたエアとすることにより、構造物の背後の地盤に対し浸食等の悪影響を与えることなく構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。また、構造物自体にクラックがある場合に、冷却又は加熱されたエアは、このクラックを介して外部に出るため、冷気又は熱気として目視によるクラックの確認も行うことができる。
【0014】
<請求項5記載の発明>
請求項5記載の発明は、前記冷媒又は熱媒は、ドライアイスである、請求項1乃至4のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0015】
(作用効果)
供給されたドライアイスは、空洞等の内部の周囲から熱を吸収して固体から気体へ昇華するので(昇華熱)、周囲が急激に冷やされ、空隙や空洞等が存在する位置の構造物の部分も急激に冷やされる。そのため、これら空隙や空洞等が存在する位置の構造物の部分及びクラックが生じた部分は、健全な部分に比べて、急激に温度が低くなり、瞬時に温度差が広がっていく。その結果、冷媒としてドライアイスを使用することにより、急激に温度を下げることができ、構造物の表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく構造物の背後の状況又は構造物の健全性を推測することができる。
【0016】
<請求項6記載の発明>
請求項6記載の発明は、前記ドライアイスは、粉粒体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0017】
<請求項7記載の発明>
請求項7記載の発明は、前記ドライアイスは、粉体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法である。
【0018】
(作用効果)
ドライアイスを粉粒体状とすると、より短時間で気化し、より急激に温度を下げることができるため、検査時間をより短縮することができる。さらにドライアイスを粉体状とすると、粒度が粒全体として小さくなるため、さらに気化しやすくなり、検査時間をさらに短縮することができる。
なお、粉粒体とは粉体と粒体とを含み、一般的には、異なる大きさの分布をもつ多くの固体粒子からなり、個々の粒子間に、何らかの相互作用が働いているものと規定されるものである。
【0019】
<請求項8記載の発明>
請求項8記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置と、この冷却/加熱装置によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路と、を有する冷媒/熱媒供給装置と、を備え、前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置である。
【0020】
(作用効果)
上記構成の装置により、構造物の背後に強制的に冷媒又は熱媒を供給しながら、構造物の表面温度分布を計測することにより、時間帯を選ぶことなく短時間で構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測することができる。それと共に、外部環境の影響は受けずに、より正確な空洞調査やクラック調査が可能となる。
ここで、本発明に係る冷却/加熱装置とは、冷却装置、又は加熱装置のことを意味する。
【0021】
<請求項9記載の発明>
請求項9記載の発明は、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアにより搬送されるドライアイスを供給する供給タンクと、この供給タンクから供給されるドライアイスを搬送する管路と、を有する冷媒供給装置と、を備え、前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、短時間、かつ外部環境に影響を受けずに建築物、橋梁等の構造物や法面等を被覆する表面保護構造物の表面温度分布を計測でき、これら構造物の非破壊検査ができる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
<熱赤外線映像法>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法は、熱赤外線映像法を利用しているものである。この熱赤外線映像法とは、熱赤外線映像装置(赤外線サーモグラフィ)を用いるものであるが、この赤外線サーモグラフィにより法面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物を撮影すると、吹付背後の状態によって吹付表面の温度状態は異なることを利用したものである。すなわち、一般に空気の体積熱容量は土に比べて非常に小さいため、吹付背後に空気が介在する空洞部の吹付表面は、外気や太陽工ネルギーの付加に対して敏感に反応し、温まりやすく冷めやすい性質となっており、逆に水の体積容量は非常に大きいため、湿潤部は温まりにくく冷めにくい性質をもっている。一方、常温付近の物体表面からは赤外線(波長3〜14μm)による熱放射が常に行われており、赤外線サーモグラフィを用いて、この熱放射量を平面的に検知し映像化することにより、吹付表面の温度分布状態を短時間に効率良く得ることで、表面保護構造物の背後の状況、すなわち吹付内部の地山部分に空洞部分や風化部分があるか否か等の地山部分の性状を推測すると共に、表面保護構造物自体の浮きやクラック等を推測する手法である。
【0024】
上記のような熱赤外線映像法で測定する場合には、一般的に、早朝や深夜の低温時と、日中の高温時の二時刻において、吹付表面温度を赤外線サーモグラフィで測定する。そして、二時刻間での温度差が大きく、高温時により高温、低温時により低温という温度変化パターンをもつ部分を抽出することで、吹付背面の地山部分の性状や表面保護構造物の劣化等を推測するものである。
【0025】
しかし、温度変化を待つために、早朝から日中まで、又は日中から深夜まで、測定作業に時間が掛かり、コスト削減等の観点から、短時間で作業が完了する方法が求められていた。そこで、本発明者らは、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面等を被覆するコンクリート及びモルタル吹付けの表面保護構造物に、孔を複数箇所穿設し、この孔から吹付内部に冷却又は加熱した空気等の冷媒や熱媒を供給し、法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面と表面保護構造物との間に生じた空洞部分や風化部分、又は構造物自体の劣化部分に、これら冷媒や熱媒を巡らせて、強制的に周辺との温度差を生じさせて、短時間で測定作業を終了させる方法を知見した。
【0026】
<本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査装置>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査装置について、測定対象を法面構造物Nとした例に基づき説明する。この非破壊検査装置は、図1に示すように、法面構造物Nの表面温度を測定する赤外線サーモグラフィ(赤外線サーモグラフィ装置)1と、法面構造物Nの背面に冷媒又は熱媒を供給する供給装置2と、を備えている。赤外線サーモグラフィ1は、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出し、見かけの温度に変換して、温度分布を画像表示する装置であり、公知の装置を使用することができる。供給装置2は、エアを供給するコンプレッサーやブロア等のエア供給源21と、このエア供給源21から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置22と、この冷却/加熱装置22によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路23と、を備えている。そして、管路23は、法面構造物Nの複数箇所に予め穿設した孔NHに取付けられたホースジョイント23Aを介して、孔NHに連結されるものである。なお、管路23は、少なくとも1本以上であり(図1では1本)、複数箇所に対して同時に冷却又は加熱されたエアを供給することができる。ここで、冷却/加熱装置22は、冷却装置、又は加熱装置のことを意味するが、冷却機能と加熱機能を両方兼ね備えた装置を使用してもよい。なお、冷却装置としてボルテックスチューブを利用した超低温空気発生器(図示せず)を使用してもよく、この超低温空気発生器を、直接孔NH内に差し込み、超低温空気発生器にエア供給源21から圧縮エアを供給し、この超低温空気発生器によって冷却されたエアを法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内等に供給してもよい。
【0027】
次に、図1及び図2に示すフローチャートに基づき、非破壊検査装置を用いての検査方法について説明する。
まず、冷却又は加熱されたエアを供給することに先立って、非破壊検査の対象となる法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィ1で予め測定しておく。この測定に前後して、法面構造物Nの複数箇所にホースジョイント23Aを取付けるための孔NHを穿設するが、この際には、例えば、作業者が法面構造物Nの表面をハンマー等で叩きながら、打撃音の軽いところ(空洞の存在が予測される部分)を狙って穿設を行なう等が考えられる。そして、複数の孔NHに、ホースジョイント23A,23A,…を取付けていく。なお、孔NHとホースジョイント23Aとの隙間は必要に応じてモルタル、シール材やパッキン等により充填すればよい。複数取付けたホースジョイント23A,23A,…に、複数の管路23,23,…を連結する。この状態でエア供給源21を稼動させ、冷却/加熱装置22から冷却又は加熱されたエアを、法面構造物Nの複数箇所に穿設された孔NH内に供給する。この冷却又は加熱されたエアが、法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内、又は法面構造物N自体に生じたクラック等に入り込むことによって、これら欠陥箇所の温度が健全な部分に比べ低い温度又は高い温度となり、これらの部分の法面構造物Nの表面温度は、経時的に、周辺の法面構造物Nの表面温度に対して相対的に低く又は高くなっていく。この経時的な温度変化を熱画像として記録しておき、この記録された熱画像履歴データを時系列に表示させ、差画像を作成することで対象物内部の空洞状況を高精度に測定することができるものである。ここで、差画像とは、一般的に、二時刻の温度差画像のことをいうが、本発明では、冷却又は加熱前と冷却又は加熱後の温度差画像のことをいうものとする。また、図1に示すように、開口されたクラックからは、例えば、冷気等が外部に出るため、目視によるクラックの確認も可能である。
【0028】
従来技術のように、法面構造物Nの外部から赤外線サーモグラフィのみで非破壊検査すると、温度差の測定は法面構造物をとりまく外部環境に大きな影響をうけてしまい、例えば、外気温や天候(雨天は中止など)の影響、樹木等による日陰の影響が法面構造物Nの表面温度に影響を及ぼし、空洞部の判定が満足に行なえないといった問題もあったが、本発明に係る検査方法は、測定対象となる法面構造物Nの内部に直接冷媒又は熱媒を送り込み、欠陥箇所の温度を健全な部分に比べ相対的に低い温度又は高い温度にして、法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するため、気温など外部環境の影響は受けにくく、より正確な空洞やクラック調査を可能とすると共に、時間帯を選ぶことなく短時間で測定作業を行うことができる。例えば、外気温や法面構造物Nの表面温度が低い場合には、熱媒を背面に供給することによって、短時間で差画像を作成することができるし、同様に、外気温や法面構造物Nの表面温度が高い場合には、冷媒を背面に供給すれば短時間で効率よく測定を行うことができる。
【0029】
また、冷却/加熱装置22から冷却又は加熱されたエアを供給する代わりに、細かく砕いたドライアイスを冷媒として法面構造物Nの複数箇所に穿設された孔NH内に供給してもよい。このドライアイスとしては、市販のペレット状のドライアイスなどの粉粒体状のドライアイスを使用することができる。
【0030】
このドライアイスは、エア供給源21とホースジョイント23Aとを連結する管路23の任意の箇所に取付けられた供給タンク(図示せず)に供給されるものであり、供給されたドライアイスはこの供給タンクから管路23をエア搬送され、法面構造物Nの背面に生じた空隙や空洞内等に供給される。
【0031】
供給されたドライアイスは、空隙や空洞内の周囲から熱を吸収して固体から気体へ昇華するので(昇華熱)、周囲が急激に冷やされ、空隙や空洞等が存在する位置の法面構造物Nの部分も急激に冷やされる。そのため、これら空隙や空洞等が存在する位置の法面構造物Nの部分及びクラックが生じた法面構造物Nの部分は、それ以外の(周辺の)法面構造物Nの部分に比べて、急激に温度が低くなり、瞬時に温度差が広がっていくものである。
【0032】
冷媒としてドライアイスを使用することにより、前述した超低温空気発生器による冷却されたエアよりも、急激に温度を下げることができるため、法面構造物Nの表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく欠陥箇所を推定することができる。そのため、冷媒としてドライアイスを使用する場合は、超低温空気発生器による冷却されたエアを使用する場合よりも、より短時間で空洞調査やクラック調査を行うことができる。
【0033】
供給するドライアイスの大きさとしては、管路23からエア搬送が可能な程度の大きさであればよいが、粉粒体状のドライアイスをさらに砕氷して粉体状にしたものを用いると、より短時間で気化するため、粉体状のドライアイスを使用することが好ましい。
【0034】
なお、本実施の形態では、表面保護構造物の非破壊検査装置及び検査方法について説明したが、本発明はこれに限らず、建築物、橋梁、橋脚、地価埋設配管、地下埋設物等のコンクリート構造物及びスチール構造物などにも用いることができる。これら構造物に用いる場合には、構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測すればよい。その他の構成、方法については、上記の説明が適用できるので、説明を省略する。
【0035】
<モデル試験1>
この本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法について、モデル化して、以下に示すような試験を行なった。
試験では、図3(1)及び(2)に示すように、長さ32.0cm・幅39.0cm・深さ28.0cmの大きさを持つ発泡スチロール箱10と、法面構造物に見立てた、長さ24.0cm・幅24.0cm・厚み3.5cmの大きさを持つコンクリート片11と、法面構造物の背面に供給される冷媒に見立てたドライアイス12と、を用意し、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて試験が行なわれるものであり、発泡スチロール箱10の上部に形成された蓋部分には、図3(2)及び図4(1)に示すように、予め法面構造物に見立てたコンクリート片11に接する一箇所に、3.0cm角の孔10aを穿設し、この孔10aを地山に生じた空洞に見立て、時間変化に伴うコンクリート片11の温度変化を測定するものである。
【0036】
ここで、一般的な吹付等により形成される法面構造物の厚みは、3.0cm〜5.0cm〜10cm程度であるので、3.5cmのコンクリート片11は厚みの薄い法面構造物に相当する。そして、このコンクリート片11を2枚重ねにすれば、厚み7.0cmの法面構造物に相当することになる。測定は、図示しない公知の赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社 TVS−700)を用いて行なわれ、試験体であるコンクリート片11の上方から測定する。
【0037】
まず、図4(1)のI−I断面図である図4(2)に示すように、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて、1枚のコンクリート片11の場合について測定を始めた。図5(1)は測定開始直後の熱画像であり、図5(2)は冷却開始から10分経過後の熱画像であり、図5(3)は冷却開始から20分経過後の熱画像である。また、T1の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図6に示した。このうち、熱画像からは、孔10aから冷気が伝わり、そこを中心として表面温度が低下していることが認識でき、冷却開始から10分経過後で冷却状況がだいたい把握できるレベルであり、冷却開始から20分経過後で、空洞に見立てた孔10aの存在がはっきりと認識できた。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から10分後には表面温度が約2℃下がり、冷却開始から20分後には約4℃下がっていることが分かった。
【0038】
次に、ドライアイス12を発泡スチロール箱10に入れて、2枚のコンクリート片11,11を上下に重ね、厚みを7.0cmにした場合について測定を始めた。図7(1)は測定開始直後の熱画像であり、図7(2)は冷却開始から10分経過後の熱画像であり、図7(3)は冷却開始から20分経過後の熱画像である。また、T2の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図8に示した。このうち、熱画像からは、試験体が1枚の時よりも冷気の伝わりが遅いものの、冷却開始から20分経過後で、孔10aを中心として表面温度が低下していることが、概ね認識できるレベルであった。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から20分後には約2℃下がっていることが分かった。
【0039】
次に、図9に示すように、2枚のコンクリート片11,11の側面をそれぞれ当接し、法面構造物にクラックが入った状態に見立てて、測定を行なった。なお、発泡スチロール箱10の蓋部分には、孔10bと孔10cの二箇所の孔を形成し、クラックに見立てた部分の背面に孔10bが位置するように配置し、また孔10cはコンクリート片11,11のうちの一方の略中心部分に位置するように配置した。図10(1)は測定開始直後の熱画像であり、図10(2)は冷却開始から1分後の熱画像である。また、T3の範囲の試験体表面の温度変化を表示したグラフを図11に示した。このうち、熱画像からは、クラックに見立てた部分は他の箇所に比べ瞬時に低温となることが認識できる。また、温度変化を表示したグラフからは、冷却開始から約1分ほどで約4℃下がっていることが分かった。さらに、ドライアイス12の冷気がクラックに見立てた部分から出るため、目視によるクラックの確認も可能であることが判明した。
【0040】
<モデル試験2>
本発明に係る表面保護構造物の非破壊検査方法について、コンクリート製のパネルの背面に、冷媒としてドライアイスをエア搬送して供給するケースの試験を行なった。
試験では、図12乃至図14に示すように、法面構造物に見立てた、長さ200.0cm・幅100.0cm・厚さ5.0cmの大きさを持つコンクリート製パネル30と、法面構造物の背面の地盤に見立てた、長さ200.0cm・幅100.0cm・厚み25.0cmの大きさを持つ硬質発泡スチロール31と、法面構造物の背面に供給される冷媒に見立てた粉体状のドライアイス(図示せず)と、を用意し、粉体状のドライアイスをホース等の管路33を介してエア供給源からエア搬送して行なった。なお、ドライアイスは、市販のペレット状のドライアイスをさらに砕氷して粉体状にしたものを用いている。
【0041】
図14に示すように、硬質発泡スチロール31の中央部分には、上面と底面を貫通するようにSIの文字の形でくり貫き部分が形成されている。このくり貫き部分は、法面構造物の背面に生じた空隙や空洞に見立てられたものである。図13に示すように、この硬質発泡スチロール31は、地面G上に置かれ、そして、この硬質発泡スチロール31の上には、コンクリート製パネル30が載置されている。図12に示すように、コンクリート製パネル30には、孔(図示せず)が穿設され、この孔にホースジョイント33Aが挿入されており、このホースジョイント33Aを介して、くり貫き部分(図12ではIの文字の部分)へ粉体状のドライアイスをエア搬送することができるようになっている。Iの文字のくり貫き部分に供給された粉体状のドライアイスは、貫通孔31Aを介してSの文字のくり貫き部分へ移動可能になっている。
【0042】
前述したモデル試験1と同様に、測定は、図示しない公知の赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社 TVS−700)を用いて行なわれ、試験体であるコンクリート製パネル30の上方から測定した。
【0043】
図15乃至図21に基づき、以下に示す測定結果について説明する。なお、図15はドライアイス搬送前の試験開始前の状態を示す熱画像であり、図16は試験開始1分後の状態を示す熱画像であり、図17は試験開始3分後の状態を示す熱画像であり、図18は試験開始10分後の状態を示す熱画像であり、図19は試験開始12分後の状態を示す熱画像であり、図20は試験開始15分後の状態を示す熱画像であり、図21は試験開始19分後の状態を示す熱画像である。
試験開始前の外気温は9℃であり、くり貫き部分の内部温度は14℃であった。そして、図16の開始1分後の状態では、内部温度は−20℃まで一気に下がり、図17の開始3分後の状態では、Iの文字の部分の輪郭が現れるようになった。そして、開始から7分30秒後に、粉体状のドライアイスのエア搬送を停止したが、その2分30秒後の図18の開始10分後の状態ではSの文字の部分もはっきり認識できるようになった。エア搬送停止4分30秒後である、図19の開始12分後の状態でSの文字の部分の輪郭が最大になることが確認され、図20の開始15分後の状態で、全体的に温度の上昇が見られ、文字輪郭がぼやけてきていることが確認された。そして、図21の開始19分後の状態で試験を終了した。
【0044】
この試験により、冷媒として粉体状のドライアイスをエア搬送することによって、短時間急激に温度を下げることができることが確認された。そのため、欠陥箇所とそれ以外の周辺との温度差を広げることができ、表面温度を赤外線サーモグラフィで測定するだけで、差画像によることなく欠陥箇所を推定することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る法面構造物の非破壊検査装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る法面構造物の非破壊検査方法のフローチャートである。
【図3】モデル試験1の構成を示す説明図である。
【図4】モデル試験1の構成の平面図及び断面図である。
【図5】コンクリート片1枚を試験体として試験を行ったときの熱画像である。
【図6】その試験におけるコンクリート片表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図7】コンクリート片2枚を重ねたものを試験体として試験を行ったときの熱画像である。
【図8】その試験におけるコンクリート片表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図9】2枚のコンクリート片の側面をそれぞれ当接した状態でのモデル試験の構成の平面図である。
【図10】その試験を行ったときの熱画像である。
【図11】その試験における、2枚のコンクリート片を当接した部分の表面温度の経時的変化を示すグラフである。
【図12】モデル試験2の構成を示す平面図である。
【図13】そのA―A断面図である。
【図14】硬質発泡スチロールの構成を示す平面図である。
【図15】ドライアイス搬送前の試験開始前の状態を示す熱画像である。
【図16】試験開始1分後の状態を示す熱画像である。
【図17】試験開始3分後の状態を示す熱画像である。
【図18】試験開始10分後の状態を示す熱画像である。
【図19】試験開始12分後の状態を示す熱画像である。
【図20】試験開始15分後の状態を示す熱画像である。
【図21】試験開始19分後の状態を示す熱画像である。
【符号の説明】
【0046】
1…赤外線サーモグラフィ(赤外線サーモグラフィ装置)、2…供給装置、10…発泡スチロール箱、10a、10b、10c…孔11…コンクリート片、12…ドライアイス、21…エア供給源、22…冷却/加熱装置、23…管路、23A…ホースジョイント、30…コンクリート製パネル、31…硬質発泡スチロール、31A…貫通孔、33…管路、33A…ホースジョイント、N…法面構造物、NH…孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線サーモグラフィによって構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の健全性を推測する構造物の非破壊検査方法であって、
前記構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法。
【請求項2】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、
前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給される、請求項1又は2記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記冷媒又は熱媒は、冷却又は加熱されたエアである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記冷媒又は熱媒は、ドライアイスである、請求項1乃至4のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記ドライアイスは、粉粒体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項7】
前記ドライアイスは、粉体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項8】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、
エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置と、この冷却/加熱装置によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路と、を有する冷媒/熱媒供給装置と、を備え、
前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置。
【請求項9】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、
エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアにより搬送されるドライアイスを供給する供給タンクと、この供給タンクから供給されるドライアイスを搬送する管路と、を有する冷媒供給装置と、を備え、
前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置。
【請求項1】
赤外線サーモグラフィによって構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の健全性を推測する構造物の非破壊検査方法であって、
前記構造物の背後又は内部に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法。
【請求項2】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、赤外線サーモグラフィによって前記構造物の表面温度分布を計測し、得られた熱画像の経時的変化を解析することにより、前記構造物の背後の状況又は前記構造物の健全性を推測する表面保護構造物の非破壊検査方法であって、
前記構造物の背後に冷媒又は熱媒を供給しながら、前記構造物の表面温度分布を計測する、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記冷媒又は熱媒は、前記構造物に少なくとも1以上穿設された孔から供給される、請求項1又は2記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記冷媒又は熱媒は、冷却又は加熱されたエアである、請求項1乃至3のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記冷媒又は熱媒は、ドライアイスである、請求項1乃至4のいずれか1項記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記ドライアイスは、粉粒体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項7】
前記ドライアイスは、粉体状である、請求項5記載の構造物の非破壊検査方法。
【請求項8】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、
エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアを冷却又は加熱する冷却/加熱装置と、この冷却/加熱装置によって冷却又は加熱されたエアを搬送する管路と、を有する冷媒/熱媒供給装置と、を備え、
前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置。
【請求項9】
法面、斜面、ライニング面又はトンネル覆工面に、コンクリート又はモルタルを吹付けて形成された表面保護構造物に対し、前記構造物の表面温度分布を計測して熱画像の経時的変化を記録する赤外線サーモグラフィと、
エアを供給するエア供給源と、このエア供給源から供給されたエアにより搬送されるドライアイスを供給する供給タンクと、この供給タンクから供給されるドライアイスを搬送する管路と、を有する冷媒供給装置と、を備え、
前記構造物に穿設された孔に、前記管路が連結可能に構成された、
ことを特徴とする構造物の非破壊検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図5】
【図7】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図5】
【図7】
【図10】
【公開番号】特開2006−189410(P2006−189410A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42331(P2005−42331)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】
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