説明

構造物表面の剥落防止工法

【課題】 補強塗料のスプレー塗布により構造物表面の材料の剥落を防止する剥落防止工法であって、スプレー塗布の際の補強塗料の周辺への飛散を確実に防止することが出来、かつ、一層簡便に施工できる構造物表面の剥落防止工法を提供する。
【解決手段】 造物表面の剥落防止工法は、構造物の表面に補強塗料をスプレー塗布して補強膜を形成して剥落を防止する工法であり、スプレー塗布する際、ブース(1)によって施工部分を覆い、フィルターを備えた排風設備を使用してブース(1)内の空気を排気することにより、ブース(1)内に飛散する補強塗料を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物表面の剥落防止工法に関するものであり、詳しくは、トンネルの天井や壁あるいは橋桁などの構造物の表面に補強塗料をスプレー塗布して補強膜を形成する構造物表面の剥落防止工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの天井や壁あるいは橋桁など、表面がコンクリートやモルタルで構成された構造物においては、表面材料の剥落を防止するため、定期的な補修工事として剥落防止工事を行う必要がある。剥落防止工法としては、例えば、トンネルの覆工コンクリートや吹付けコンクリートの剥離箇所またはその可能性の高い箇所に対し、イソシアネート成分とポリアミン成分とから成る硬化型ポリウレア系樹脂を補強塗料としてスプレー塗布し、前記の剥離箇所などの表面に補強膜を形成する「コンクリート片の剥離剥落箇所の補修法」が提案されている。上記の工法は、構築物表面にパネルを付設したり、樹脂を含浸させた繊維を敷設する方法に比べ、点検しながら、必要に応じて逐次施工できるため、効率的でコスト的にも有利である。
【特許文献1】特開2004−218352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の様な補強塗料による剥落防止工事では、塗料の飛散による二次被害を防止するため、補修箇所を含め、その周辺全体を養生シート等で覆わなければならない。また、その際、足場を仮設しなければならないが、特に高所の工事では、足場を組むために重機も必要である。更に、トンネル内の工事では、安全上の観点から、車輌通行を規制する措置を講じる必要もあり、工事が一層大掛かりになると言う問題もある。
【0004】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、補強塗料のスプレー塗布により構造物表面の材料の剥落を防止する剥落防止工法であって、スプレー塗布の際の補強塗料の周辺への飛散を確実に防止することが出来、かつ、一層簡便に施工できる構造物表面の剥落防止工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明では、構造物表面の補修すべき部分を取扱い容易なブースで覆い、フィルターを備えた排風設備によってブース内の空気を排気することにより、スプレー塗布の際に発生する塗料ミストの飛散を防止する様にした。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、構造物の表面に補強塗料をスプレー塗布して補強膜を形成することにより、構造物表面の材料の剥落を防止する剥落防止工法であって、スプレー塗布する際、ブースによって施工部分を覆い、フィルターを備えた排風設備を使用してブース内の空気を排気することにより、ブース内に飛散する補強塗料を回収することを特徴とする構造物表面の剥落防止工法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る構造物表面の剥落防止工法によれば、スプレー塗布する際、ブースによって施工部分を覆い、フィルターを備えた排風設備によってブース内の空気を排気するため、補強塗料の周辺への飛散を確実に防止することが出来、そして、ブースを簡単に移動できるため、一層簡便に施工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る構造物表面の剥落防止工法の実施形態を図面に基づいて説明するが、以下に説明するものは本願発明の一例であり、本願発明はその要旨を越えない限り以下の説明によって何ら限定されるものではない。図1は、本発明に係る構造物表面の剥落防止工法におけるブース内の作業形態を破断して示す側面図である。図2は、本発明に適用されるブースの一形態であって、高所作業車の作業台に設けられた形態を示す側面図であり、図3は、図2の形態の背面図である。また、図4は、本発明に係る構造物表面の剥落防止工法によりトンネルの天井部を補修する例を示した断面図である。なお、以下の説明においては、構造物表面の剥落防止工法を「剥落防止工法」と略記する。
【0009】
本発明の剥落防止工法は、構造物の表面に補強塗料をスプレー塗布して補強膜を形成することにより、構造物表面の材料の剥落を防止する工法であり、例えば、トンネル(6)(図4参照)の天井、壁、橋桁など、表面がコンクリート仕上やモルタル仕上の各種の構造物であって、表面材料が剥落する可能性のある構造物あるいは一部剥落した構造物に適用できる。
【0010】
本発明において、スプレー塗布される補強塗料としては、熱硬化型の樹脂を主成分とする塗料、具体的には、2液混合型のエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等から成る塗料が使用される。上記のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル系樹脂、グリシジルアミン系樹脂、複素環式エポキシ樹脂が挙げられ、中でも、コスト面からビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0011】
更に、上記の樹脂は、金属粉を含有していてもよい。すなわち、上記の補強塗料によって形成される補強膜には、金属粉が含まれていてもよい。また、2液の混合は、後述するスプレーガン(21)(図1参照)で行われるか、または、スプレーガン(21)への供給前に塗料容器内で行われる。そして、上記の補強塗料によって形成される補強膜は、吹付け量によってその厚さを調節されるが、通常、補強膜の厚さは0.1〜5mm、好ましくは0.5〜3mmとされる。
【0012】
本発明においては、施工性を高め且つ補強塗料の周辺への飛散を防止するため、図1に示す様に、取扱いが容易なブース(1)を使用してスプレー塗布を行う。すなわち、本発明においては、スプレー塗布する際、ブース(1)によって施工部分を覆い、フィルター(31)を備えた排風設備(3)(図2参照)を使用してブース(1)内の空気を排気することにより、ブース(1)内に飛散する補強塗料を回収する。
【0013】
ブース(1)としては、施工部分を覆うことが出来かつ簡便に移動できる構造のものであれば特に制限はないが、トンネル(6)の天井や橋桁上部などの高所を施工するため、斯かるブース(1)は、図2及び図3に示す様に、例えば、自走式の高所作業車(4)の昇降可能な作業台(5)に設けられる。なお、本発明において、高所作業車としては、作業台を昇降させる装置を備えたもの又は備えていないものの何れでもよい。
【0014】
ブース(1)は、図1に示す様に、例えば水平断面が方形に形成され且つ上端が開放された筒状のいわゆる蛇腹(11)と、当該蛇腹の下端を封止する底板(12)で構成される。蛇腹(11)は、通常、樹脂製シートによって構成され、斯かるシートの材料としては、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。取扱い性および耐久性の観点からは、ポリウレア、ポリウレタン、または、ポリウレアとポリウレタンの混合物が好ましい。
【0015】
底板(12)は、通常、樹脂製または金属製の板材で構成される。底板(12)の材料としては、樹脂製の場合、製作が容易であることから、通常は蛇腹(11)と同様の材料が使用される。また、金属製の場合は、鉄、アルミニウム、鉄とアルミニウムの複合体などが使用され、積載荷重の観点からは、鉄、鉄とアルミニウムの複合体が好ましい。勿論、高所作業車(4)の作業台(5)の床板が穴のない板材で構成されている場合はこれを利用してもよい。
【0016】
ブース(1)は、上記の様に蛇腹(11)で構成されていることにより、高さ調整が可能であり、また、車幅方向に沿った蛇腹(11)の側面に折込みが設けられ且つ底板(12)が折畳み可能に構成されていることにより、幅方向に伸縮させることも出来る。すなわち、ブース(1)は、上記の折込みが設けられていることにより、広さの調整も可能である。特に、高所作業車(4)の作業台(5)が車幅方向に拡張可能な構造を備えている場合には、高所作業車(4)の幅を拡げた際にブース(1)の内部も当該作業台に応じて広くすることが出来る。
【0017】
ブース(1)は作業台(5)に固定されていても、固定されていなくてもよいが、蛇腹(11)の上端部を支持する伸縮自在な支柱(13)が底板(12)に取り付けられていることにより、支柱(13)の高さ調節により、蛇腹(11)の高さ(ブース内の高さ)を作業に適した高さに設定することが出来る。なお、ブース(1)の大きさは、通常、長さが1000〜5000mm程度、幅が1000〜5000mm程度、高さが1000〜5000mm程度とされる。
【0018】
図示しないが、補強塗料の塗布を行うための塗布機は、主に、塗料容器、塗料吐出用のコンプレッサー、スプレーガン(21)、および、塗料容器などからスプレーガン(21)へ至るホース(22)から構成され、これらは、通常、高所作業車(4)の作業台(5)基部の近傍に搭載される。また、塗布機は、高所作業車(4)とは別の車両に搭載されてもよい。
【0019】
前述した様に、スプレーガン(21)で2液を混合する場合、上記のホース(22)としては、コンプレッサーからスプレーガン(21)へ至る圧縮空気用のホース、A液(主剤)の容器からスプレーガンへ至るホース、および、B液(硬化剤)の容器からスプレーガンへ至るホースの3本が使用される。また、塗料容器内で2液を混合する場合は、加圧された塗料容器からスプレーガン(21)へ至る1本のホース、あるいは、コンプレッサーからスプレーガン(21)へ至る圧縮空気用のホースと塗料容器からスプレーガン(21)へ至るホースの2本のホースが使用される。
【0020】
上記のブース(1)は、図1及び図2に示す様に、フィルター(31)を備えた排風設備(3)により、内部の空気を排気可能に構成され、塗布時にブース(1)内で飛散する補強塗料のミストをフィルター(31)に回収する様になされている。具体的には、図2に示す様に、排風設備(3)は、例えば、作業台(5)の後方の荷台部に搭載されたフィルター(31)及びブロワー(32)と、ブース(1)からフィルター(31)まで伸長され且つその少なくとも一部が蛇腹で構成された伸縮自在なダクト(33)とから構成される。
【0021】
図4に示す様に、本発明の剥落防止工法により例えばトンネル(6)の天井を補修する場合は、先ず、補修箇所の直下に高所作業車(4)を配置した後、作業台(5)を上昇させ、そして、ブース(1)の上端が天井に略接する程度に蛇腹(11)を引き伸ばし、ブース(1)によって施工部分を覆う。その場合、図1に示す様に、ブース(1)内に外気を取り込み且つ他の施工箇所へ簡単に移動し得る様に、天井のコンクリート面とブース(1)の上端との間に数cm程度の隙間を開けておく。次いで、補強塗料を塗布するに当たり、排風設備(3)を稼働させ、ブース(1)内の空気を排気する。続いて、塗布機を作動させ、スプレーガン(21)に補強塗料を供給してスプレー塗布を行う。
【0022】
本発明の剥落防止工法では、取扱い容易なブース(1)により補修部分を簡単に覆うことが出来る。そして、フィルター(31)を備えた排風設備(3)によってブース(1)内の空気を排気することにより、作業中は常時ブース(1)内を負圧に保持し、ブース(1)内の空気と共に補強塗料のミストをフィルター(31)に捕捉する。従って、スプレー塗布の際に発生する塗料ミストの周囲への飛散を確実に防止することが出来る。
【0023】
すなわち、本発明によれば、足場を組む等の大掛かりな養生が不要であり、補修部分にブース(1)をあてがうだけで直ちに塗布作業を行うことが出来、より効率的に工事を進めることが出来る。また、特に、トンネル(6)内などの路上における工事では、高所作業車(4)を駐車するだけであるから、全車線の通行を規制する必要がなく、簡便に工事を遂行できる。そして、上記の様に、排風設備(3)ににより確実に塗料ミストを回収するため、補強塗料の飛散による二次被害を防止することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る構造物表面の剥落防止工法におけるブース内の作業形態を破断して示す側面図である。
【図2】本発明に適用されるブースの一形態であって、高所作業車の作業台に設けられた形態を示す側面図である。
【図3】本発明に適用されるブースの一形態であって、高所作業車の作業台に設けられた形態を示す背面図である。
【図4】本発明に係る構造物表面の剥落防止工法によりトンネルの天井部を補修する例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 :ブース
11:蛇腹
12:底板
13:支柱
21:スプレーガン
22:ホース
3 :排風設備
31:フィルター
32:ブロワー
33:ダクト
4 :高所作業車
5 :作業台
6 :トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に補強塗料をスプレー塗布して補強膜を形成することにより、構造物表面の材料の剥落を防止する剥落防止工法であって、スプレー塗布する際、ブースによって施工部分を覆い、フィルターを備えた排風設備を使用してブース内の空気を排気することにより、ブース内に飛散する補強塗料を回収することを特徴とする構造物表面の剥落防止工法。
【請求項2】
構造物がコンクリート又はモルタル仕上の構造物である請求項1に記載の構造物表面の剥落防止工法。
【請求項3】
ブースが高所作業車の作業台に設けられている請求項1又は2に記載の構造物表面の剥落防止工法。
【請求項4】
ブースは、上端が開放された筒状の蛇腹と、当該蛇腹の下端を封止する底板で構成されている請求項1〜3の何れかに記載の構造物表面の剥落防止工法。
【請求項5】
ブースは、その高さおよび広さの調節が可能に構成されている請求項4に記載の構造物表面の剥落防止工法。
【請求項6】
補強塗料が熱硬化型の樹脂を主成分とする塗料である請求項1〜5の何れかに記載の構造物表面の剥落防止工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−16402(P2007−16402A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196349(P2005−196349)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【Fターム(参考)】