説明

槽及び槽の成形方法

【課題】注型成形時に水返し片を構成する板状部材と金型の間への樹脂の浸入を防止することができる槽と、当該糟の成形方法を提供する。
【解決手段】下金型に、水返し片15を構成するインサート部材5,6を挿入する溝を設け、溝内に挿入したインサート部材5,6の上からエラストマ7,8を圧入する。溝の角部に相当する部位にはゴム部材9を圧入配置する。そして金型のキャビティに成形樹脂材11を充填すると、成形樹脂材11は、槽本体1a,上縁フランジ部1bを成形すると共に、インサート部材5,6、エラストマ7,8を槽本体1aと一体化する。その際、成形樹脂材11は、インサート部材5,6と金型の間の隙間に浸入することができない。そのため、脱型時に円滑に脱型できる浴槽1を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型成形によって製造される浴槽、シンク、洗面器等の湯水を貯めることができる槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
槽の縁に水返し片を成形樹脂材のみで注型成形すると、水返し片は脱型時に破損し易い。すなわち、注型成形樹脂材のみで水返し片を成形すると、強度的に水返し片の品質を満足することができない。その対策として、強度を有する板状部材(インサート部材)を、予め水返し片を形成する位置に配置し、当該板状部材の周囲を成形樹脂材で被覆するインサート成形によって、水返し片を破損させることなく槽を形成することができる。このような構成が本件出願人の出願である特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−153608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような成形方法によって槽に板状部材(インサート部材)を設けると、各製品毎に板状部材の位置や成形樹脂材の被覆の厚みにばらつきが生じ易い。すなわち、製品毎に品質がばらつき易い。
【0005】
そこで板状部材における槽本体から起立する部位を成形樹脂材で被覆せず、露出させて水返し片とし、この板状部材と槽本体とを成形樹脂材で一体成形すると、水返し片の位置は固定される。ところが、この場合には成形樹脂材(熱硬化性樹脂材)の粘度が非常に低いために、成形時に成形樹脂が板状部材と金型の間に入り込み易い。そして、これが脱型不良や製品の寸法のばらつきを生じさせる要因となる恐れがある。
【0006】
そこで本発明は、注型成形時に水返し片を構成する板状部材と金型の間への樹脂の浸入を防止することができる槽及び当該槽の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、槽本体の上縁フランジ部に、板状部材をインサート成形により立設一体化して水返し片を形成する槽において、板状部材と金型の間の隙間への成形樹脂材の浸入を阻止する弾性部材を設け、板状部材相互と弾性部材を、前記槽本体を形成する成形樹脂材によって槽本体と共に接合一体化してなることを特徴とする槽である。
【0008】
請求項1の発明では、弾性部材によって、板状部材と金型の間に成形樹脂材が浸入することがない。そのため、成形後の脱型が円滑に行われる。また、水返し片を形成する板状部材相互と弾性部材を、前記槽本体を形成する成形樹脂材によって槽本体と共に接合一体化するので、水返し片を槽本体と共に同一の成形樹脂材で一体成形することができる。そのため、槽本体と水返し片の継ぎ目を塞ぐ等の後加工が不要である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、槽本体の上縁フランジ部に板状部材をインサート成形により立設一体化して水返し片を形成する槽の成形方法であって、金型における槽本体の上縁フランジ部を成形する部位に板状部材を挿入は位置する溝を設け、当該溝に板状部材を挿入し、弾性部材で溝の内壁と板状部材の間への成形樹脂材の侵入を阻止すると共に、槽本体と板状部材と弾性部材とを前期成形樹脂材で一体成形することを特徴とする槽の成形方法である。
【0010】
請求項2の発明では、金型における槽本体の上縁フランジ部を成形する部位に板状部材を挿入配置する溝を設け、当該溝に板状部材を挿入し、弾性部材で溝の内壁と板状部材の間への成形樹脂材の侵入を阻止するので、板状部材における溝に挿入した部位に成形樹脂材が付着しない。そのため、成形後の槽の脱型が容易である。また、槽本体と板状部材と弾性部材とを前期成形樹脂材で一体成形するので、槽本体と水返し片の継ぎ目を塞ぐ後加工が不要である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の槽では、槽本体の上縁フランジ部に形成する水返し片を、板状部材とエラストマとで構成し、これら板状部材とエラストマを、槽本体を形成する成形樹脂材で槽本体と共に一体化するので、槽本体と水返し片や水返し片同士の継ぎ目を塞ぐ後加工が不要である。また、本発明の槽の成形方法で槽を成形すると、水返し片部分を破損させることなく円滑に脱型できる。また、槽本体と水返し片の継ぎ目を塞ぐ後加工が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の槽の水返し片を形成する下金型と、インサート部材の斜視図である。
【図2】図1に示す下金型にインサート部材を配置した際の、インサート部材だけを描写した斜視図である。
【図3】図1に示す下金型によって注型成形された槽の水返し部分の斜視図である。
【図4】図3の水返し部分を反対側から見た斜視図である。
【図5】本発明を実施して成形された浴槽でゴム部材が付着した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の槽の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本発明が制限して理解されるべきではない。
【0014】
図1に示す下金型2には、凹部2cが設けられている。凹部2cは、下金型2の上面部4における窪んだ部位であり、起立壁12と平面部3(くぼみの底面)とを有する。平面部3には、起立壁12と連続する溝2aが設けられている。図1に示すように溝2aは、L字状に曲がっている。また、溝2a内には、段部2bが設けられている。
【0015】
この下金型2に、インサート部材5,6(板状部材)、エラストマ7,8(弾性部材)、ゴム部材9,10(弾性部材)が配置される。すなわち、ゴム部材10は下金型2の段部2bに配置され、ゴム部材9は溝2aにおける屈曲部分である角部13に圧入されて溝2aの底部に配置され、各インサート部材5,6は段部2bと角部13以外の溝2a内に挿入される。
【0016】
各インサート部材5,6の高さ寸法は、溝2aの深さ寸法よりも小さい。そのため、溝2a内のインサート部材5,6の上には空間が生じている。この空間にはエラストマ7,8が配置される。すなわち、インサート部材5,6の上から溝2a内に各々エラストマ7,8が圧入される。尚、インサート部材5,6とエラストマ7、8が事前に固着されていてもよいことは当然である。
【0017】
その結果、溝2a内の各部材は、図2に示すようなレイアウトで配置される。溝2a内に圧入される前のエラストマ7とゴム部材10の幅W1方向の寸法は、溝2aの幅よりも大きい。そのため、エラストマ7とゴム部材10は、溝2a内に圧入されることにより、幅W1方向の寸法が溝2aの幅寸法と一致し、溝2aの内壁に密着する。エラストマ8は、幅W2方向の寸法が圧縮されて溝2a内に圧入され、溝2aの内壁に密着する。角部13のゴム部材9は、幅W1及び幅W2のいずれの方向にも圧縮され、溝2aの内壁に密着する。
【0018】
そして、インサート部材5,6等の部材が装着された下金型2に対して、図示しない対応する上金型が装着され、上金型と下金型2の間に形成されるキャビティ(図示せず)に成形樹脂材11が注入されると、図3及び図4に示すように槽の上縁フランジ部1bに水返し片15が形成される。
【0019】
キャビティに充填された成形樹脂材11は、上縁フランジ部1bと、槽本体1aとを形成する。成形樹脂材11は、キャビティへの注入時における粘度が比較的に低いが、下金型2の溝2a内におけるエラストマ7,8が圧入されている部位からはインサート部材5,6と下金型2の間に浸入することができない。
【0020】
また、溝2aの角部13には、ゴム部材9、インサート部材5とインサート部材6、及びエラストマ7とエラストマ8とで断面が扇形の柱状空間が形成されている。そのため、成形樹脂材11は角部13の当該空間には入り込むことができる。よって、角部13に入り込んだ成形樹脂材11はゴム部材9に到達する。そして、ゴム部材9によって成形樹脂材11のそれ以上の浸入が阻止される。また、この扇形の柱状空間に成形樹脂材11が入り込むことにより、インサート部材5とインサート部材6とが直交状態で固定される。そしてこの部位は、成形後の後処理が不要である。
【0021】
また、インサート部材5における角部13とは反対側の端部にはゴム部材10が配置されているので、当該部位におけるインサート部材5と下金型2の間からの成形樹脂材の浸入も阻止される。ここでインサート部材5の長さは、溝2aにおける角部13から段部2bまでの長さよりも若干短く設定されている。そのため、インサート部材5は溝2a内で熱膨張して長手方向に伸びることができる。その際には、ゴム部材10は熱膨張したインサート部材5に押圧されて圧縮される。よって、溝2aにおける当該部位への成形樹脂材の浸入は良好に阻止される。成形樹脂材11が硬化すると、図3及び図4に示すように上縁フランジ部1b及び槽本体1aと水返し片15が一体に成形される。成形後、ゴム部材10は除去される。
【0022】
図1に示す下金型2は、水返し片15が浴槽1(図5)の全周囲には設けられない場合に使用される。すなわち水返し片15に端部を設ける場合には、下金型2の溝2a内に段部2bを設け、この段部2bにゴム部材10を圧入する。その結果、成形後の水返し片15は図3,図4に示すような形態に構成される。ゴム部材10は成形後除去される。
【0023】
各インサート部材5,6とエラストマ7,8を、槽本体1aを形成する成形樹脂材11によって槽本体1aと共に接合一体化するので、水返し片15は槽本体1aと共に同一の成形樹脂材で一体成形される
図5は脱型した浴槽1を示すもので、ゴム部材9が除去される前の状態を示しており、上縁フランジ部1bの全周囲に渡って水返し片15が設けられている。この場合には図1に示す下金型2の溝2a内に段部2bは不要であり、溝2aは環状に設けられる。
【0024】
上述した成形方法により、浴槽,シンク,洗面器等の湯水を貯める機能を有する槽の上縁フランジ部に、水返し片を一体に設けた構造を成形することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 浴槽
1a 槽本体
1b 上縁フランジ部
2 下金型
5、6 インサート部材
7、8 エラストマ(弾性部材)
9 ゴム部材
11 成形樹脂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽本体の上縁フランジ部に、板状部材をインサート成形により立設一体化して水返し片を形成する槽において、
板状部材と金型の間の隙間への成形樹脂材の浸入を阻止する弾性部材を設け、板状部材相互と弾性部材を、前記槽本体を形成する成形樹脂材によって槽本体と共に接合一体化してなることを特徴とする槽。
【請求項2】
槽本体の上縁フランジ部に板状部材をインサート成形により立設一体化して水返し片を形成する槽の成形方法であって、金型における槽本体の上縁フランジ部を成形する部位に板状部材を挿入は位置する溝を設け、当該溝に板状部材を挿入し、弾性部材で溝の内壁と板状部材の間への成形樹脂材の侵入を阻止すると共に、槽本体と板状部材と弾性部材とを前期成形樹脂材で一体成形することを特徴とする槽の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66631(P2013−66631A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208422(P2011−208422)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】