説明

標的核酸の検出法

【課題】標的核酸の検出法として、DNAマイクロアレイ技術が存在する。しかし、プローブやターゲットに標識を行う必要があること、装置構成の関係からプローブ数に限度があること、固液相反応なのでハイブリ反応に時間がかかる。
【解決手段】サンプル溶液中の標的核酸を同定するための方法であって、サンプル溶液中の標的核酸と前記標的核酸と特異的に結合可能なプローブとをハイブリダイゼーション反応させる工程と、前記ハイブリダイゼーション反応を行った溶液を分子篩に供給し、前記標的核酸とハイブリダイズしたプローブとハイブリダイズしなかったプローブとを分離する工程と、前記ハイブリダイズしたプローブを質量分析する工程と、前記質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定する工程とを有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆる質量分析計を用いた標的核酸(ウイルス、微生物、動植物、ヒトなど)の検出法に関するものであり、特に菌などの微生物の種類を検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、感染症を発症した患者の原因菌を判定する技術として“培養法”と呼ばれる技術がある。この方法は、患者から採取した血液に含まれる菌を特定の培地中で培養し、増殖した菌を観察することによって、感染症の原因菌を特定する。
【0003】
この技術の欠点は、原因菌の判定に数日の時間を必要とし、患者への治療方針を決める前に原因菌を判定することが、ほぼ不可能であるという点にある。つまり、本来は抗生物質などの治療薬を患者に投与する前に原因菌を特定しておくことが望ましい。しかし、数日後の判定結果を待っていては、患者の病状が悪化し、手遅れになってしまう可能性が高い。このため、原因菌の判定を行う前に、複数の可能性に対応した薬剤の投与をしなければならない。そして結果的に患者に対して薬剤の効果と引き換えに副作用のリスクを負わせることとなっていた。
【0004】
このような問題を解決するための1つの方法として、原因菌のDNA解析によって感染症の原因菌を判定する方法がある。この方法は、原因菌内ゲノムのある特定の部分を、例えばPCR(Polymerase Chain Reaction)法やLAMP法などの生化学的方法を用いて増幅し、その増幅した核酸配列を読み取ることによって原因菌の判定を行うものである。これらの方法を用いると、短時間での判定が可能であり、しかも原因菌の種類によることなく複数の原因菌について判定ができる。
【0005】
また、問題を解決する他の方法として、増幅された対象生物由来の核酸断片を、プローブと呼ばれる核酸断片とハイブリダイゼーション反応させることにより、対象生物由来の核酸断片の量を定量する方法が開示されている(例えば特許文献1を参照)。さらに、高密度に集積されたDNAマイクロアレイを用いることにより、1つの対象核酸断片に対して、多数のプローブを設定することが可能となる。その結果、対象核酸断片の配列を読み取るのと同じぐらいの情報を短時間で得ることができる。
【特許文献1】米国特許第6040138号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術に示した方法のうち、原因菌のDNA解析によって感染症の原因菌を判定する方法は、核酸配列の読み取りに非常に高い技術スキルとコストがかかる。PCR法やLAMP法などのDNA増幅手法自体は簡単な手順で実施できるが、次工程となる核酸配列の読み取りを可能にするためには、増幅された核酸断片について高い純度が要求される。さらに、シークエンサーと呼ばれる“核酸配列の読み取り装置”は高価であり、読み取りのための操作はPCR法やLAMP法によるDNA増幅に比べて遥かに複雑で、通常の検査技師のスキルでは実施が困難な場合が多い。
【0007】
一方、ハイブリダイゼーション反応による方法は、シークエンサーに比べて必要なスキルは押さえられるものの、DNAマイクロアレイを作製する時の基板処理や基板に固定するためのプローブの標識化、また検出するためのPCR産物の標識化が必要である。また、多数のプローブを載せた基板を作製するための位置決め精度を持つ装置や蛍光標識をスキャンする装置も必要であり、コストが高くなり、更に各工程処理に時間がかかる。またプローブの管理やDNAマイクロアレイの製造装置上の関係からプローブ数、つまり調べられる菌数にも制限が出てきてしまう。またDNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションは固相液相反応なので、安定したハイブリダイゼーションが行われるまでには時間を要するので、ハイブリダイゼーションを開始してから検出までに約4時間という長時間を必要とするという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために次の(1)〜(8)のように示した標的核酸の検出方法を提供するものである。
【0009】
(1)サンプル溶液中の標的核酸を同定するための方法であって、
サンプル溶液中の標的核酸と前記標的核酸と特異的に結合可能なプローブとをハイブリダイゼーション反応させる工程と、
前記ハイブリダイゼーション反応を行った溶液を分子篩に供給し、前記標的核酸とハイブリダイズしたプローブとハイブリダイズしなかったプローブとを分離する工程と、
前記ハイブリダイズしたプローブを質量分析する工程と、
前記質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【0010】
(2)前記分子篩による分離が、ゲルろ過または限外ろ過である(1)に記載の方法。
【0011】
(3)前記標的核酸の所定の塩基配列部分に特異的に結合可能なプローブは、各々のプローブ分子量Mprobeが異なり、それぞれのプローブは、前記質量分析において、弁別可能な分子量差を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の方法。
【0012】
(4)前記標的核酸は、ウイルス、微生物、動植物またはヒトの標的核酸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(5)サンプル溶液中の標的核酸を同定するための方法であって、
サンプル溶液中の標的核酸と前記標的核酸と特異的に結合可能なプローブ群とをハイブリダイゼーション反応させる工程と、
前記ハイブリダイゼーション反応を行った溶液を分子篩に供給し、前記標的核酸とハイブリダイズしたプローブ群とハイブリダイズしなかったプローブ群とを分離する工程と、
前記ハイブリダイズしたプローブ群を質量分析する工程と、
前記質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【0014】
(6)前記分子篩による分離が、ゲルろ過または限外ろ過である(5)に記載の方法。
【0015】
(7)前記標的核酸の所定の塩基配列部分に特異的に結合可能なプローブ群は、各々で分子量Mprobeが異なり、それぞれのプローブ群は、前記質量分析において、弁別可能な分子量差を有することを特徴とする(5)または(6)に記載の方法。
【0016】
(8)前記標的核酸は、ウイルス、微生物、動植物またはヒトの標的核酸であることを特徴とする(5)から(7)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、標的核酸やプローブに一切標識する必要がないため、それにかかる処理工程を削減できる。また、一連の工程が単純となり、更に液相反応を利用することでハイブリダイゼーション反応の時間も高速となるため、検出までの時間を短くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、標的核酸と特異的に結合可能なプローブとをハイブリダイゼーション反応させた後に分子篩に供給することで、ハイブリダイゼーションしているプローブとしていないプローブとの分離を行う。分子篩による分離が、ゲルろ過または限外ろ過であると簡便で好ましいが、ゲルろ過であると更なる時間短縮が可能となり好ましい。そして、ハイブリダイゼーションしているプローブと標的核酸とのハイブリッド体を、質量分析計(例えば、MALDI−TOF MS)を用いて質量分析し、得られた分子量から標的核酸の検出を行うことを特徴とする。
【0019】
まず、PCRを行いサンプルから標的部位の増幅を行う。続いて、様々な種類の塩基配列を持つオリゴヌクレオチドプローブの入ったハイブリ溶液中(バッファー)で、サンプルから標的部位を増幅した核酸とハイブリダイズさせる。標的核酸に特異的に結合可能なプローブは、各々で分子量が異なり、質量分析を行う際に弁別可能な分子量差を有することが好ましい。ここで弁別可能な分子量差とは、質量分析計の測定精度よりも大きい値である。
【0020】
ハイブリダイゼーションしたプローブと、ハイブリダイゼーションしていないプローブとの分離は、ゲルろ過式のスピンカラムを用いて行う。ゲル粒子は網目構造であり、網目の大きさが一様でない。そのため、大きい分子はゲル粒子中に寄り道ができないため直ちに溶出し、中程度の分子は適当に寄り道しながら溶出し、小さい分子はブラウン運動で網目構造の奥まで自由に寄り道しながら溶出することになる。ハイブリダイゼーションしたオリゴプローブは標的核酸の塩基長が長いため、ゲルろ過を行うと直ちに溶出される。ゲルろ過のスピンカラム内のゲル粒子の網目のサイズは目的の分子量に応じて選択する必要があるので、オリゴプローブ単体とハイブリダイゼーションしたオリゴプローブとを分別することが可能な網目サイズを選択する必要がある。またゲルろ過で溶出する際は、ハイブリダイゼーション反応を行ったハイブリ液をそのまま注入すればよい。
【0021】
さらに、ゲルろ過後の液(すなわちバッファー)にはNa+などのカチオンが存在している。MALDI−TOF MS測定の際に、Na+やK+などのカチオンが存在すると、負に帯電したリン酸骨格構造に強く親和し、多価イオンの生成が阻害され、質のよい多価イオンスペクトルが得られなくなる。よって、カチオンを除去するために、陽イオン交換カラムを使用している。
【0022】
得られたハイブリダイゼーションしたプローブの質量分析を行う。質量分析は、通常用いられる方法で行う事ができるが、例えば、MALDI−TOFなどを挙げることができる。
【0023】
上記質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定することができる。本願発明の方法を用いることができる標的核酸として、特にウイルス、微生物、動植物、ヒトの標的核酸を挙げることができる。
【0024】
上記に示した操作の流れを図1に示す。以下には実施例を挙げて、標的核酸の検出方法に関して、より詳しく説明する。
【実施例】
【0025】
実施例1は、本発明の基本形態である標的核酸の検出方法であり、標的核酸に対してプローブが一種類の場合の実施例である。実施例2も標的核酸の検出方法であるが、実施例1よりも一つの標的核酸を検出するためのプローブ数を多くし、情報量を多くすることで精度を上げた場合の実施例である。
【0026】
以下の実施形態では本発明を用いて、感染症起炎菌(黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌)の核酸検出を行った。
【0027】
(実施例1)
1つの標的核酸に対して1種類のプローブを入れて、標的核酸を検出する場合
[1.プローブDNAの準備]
6種の起炎菌の株を検出するための検出用プローブとして、表1に示す核酸配列を設計した。具体的には、各菌の16sRNAをコーディングしているゲノム部分より、以下に示したプローブ塩基配列を選んだ。これらのプローブ塩基配列は、当該菌に対し非常に特異性が高く、それぞれのプローブ塩基配列でばらつきのない、十分なハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている。なお、表1に示す各プローブ塩基配列はこれに完全に一致したものに限定される必要はない。つまり、各プローブ塩基配列を含む20から30程度の塩基長を有するプローブ塩基配列も各表に示す各プローブ塩基配列に含まれるものとする。
【0028】
なお、以下の各表において、Probe No.は便宜的に割り当てた符号である。
【0029】
【表1】

【0030】
[2.検体増幅用PCRプライマーの準備]
上記の起炎菌検出用の為の16s rRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCRプライマーとして、表2に示す核酸配列を設計した。具体的には、16s rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプライマー、つまり約1400〜1700塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分で、特異的な融解温度をできるだけ揃えたプライマーを設計した。なお、変異株や、ゲノム上に複数存在する16s rRNAコーディング領域も同時に増幅できるように複数種類のプライマーを設計した。なお、起炎菌の16s rRNAコーディング領域に対して共通にほぼ全長を増幅できるプライマーセットであれば、表2に挙げたプライマーセットに限定する必要がないことは言うまでもない。
【0031】
【表2】

【0032】
表2に示したプライマーは、合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、Forward Primerを3種、Reverse Primerを3種、混合した。それぞれのプライマー濃度が、最終濃度10pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0033】
[3.各起炎菌GenomeDNA(モデル検体)の抽出]
[3−1]微生物の培養&Genome DNA抽出の前処理
上記各起炎菌の標準株(黄色ブドウ球菌標準株(ATCC12600)、大腸菌標準株(ATCC11775)、肺炎桿菌標準株(ATCC13883)、緑膿菌標準株(ATCC10145)、肺炎連鎖球菌標準株、インフルエンザ菌株)を定法に従って培養し、微生物培養液を生成した。これらの微生物培養液のそれぞれを1.5ml容量のマイクロチューブに1.0ml(OD600=0.7)採取し、遠心分離で菌体を回収した(8500rpm、5min、4℃)。次に、上清を捨てた後、EnzymeBuffer(50mM Tris−HCl:pH 8.0、25mM EDTA)300μlを加え、ミキサーを用いて再縣濁した。再縣濁した菌液は、再度遠心分離で菌体を回収した(8500rpm、5min、4℃)。上清を捨てた後、回収された菌体に、以下の酵素溶液を加え、ミキサーを用いて再縣濁した
Lysozyme 50μl(20mg/ml in Enzyme Buffer)
N−Acetylmuramidase SG 50μl(0.2mg/ml in Enzyme Buffer)
次に、酵素溶液を加え再縣濁した菌液を、37℃のインキュベーター内で30分間静置し、細胞壁の溶解処理を行った。
【0034】
[3−2]Genome抽出
以上に示した微生物のGenome DNA抽出は、核酸精製キット(MagExtractor−Genome−:TOYOBO社製)を用いて行った。
【0035】
具体的には、まず、前処理した微生物縣濁液に溶解・吸着液750μlと磁性ビーズ40μlを加え、チューブミキサーを用いて、10分間激しく攪拌した(ステップ1)。
【0036】
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上清を捨てた(ステップ2)。
【0037】
次に、洗浄液900μlを加え、ミキサーで5秒間程度攪拌して再縣濁を行った(ステップ3)。
【0038】
次に、分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま上清を捨てた(ステップ4)。
【0039】
上記ステップ3、4を繰り返して2度目の洗浄を行った(ステップ5)。その後、70%エタノール900μlを加え、ミキサーで5秒間程度攪拌して再縣濁した(ステップ6)。
【0040】
次に、分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上清を捨てた(ステップ7)。
【0041】
ステップ6、7を繰り返して70%エタノールによる2度目の洗浄(ステップ8)を行った後、回収された磁性粒子に純水100μlを加え、チューブミキサーで10分間攪拌を行った(ステップ9)。
【0042】
次に分離用スタンドにマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブ壁面に集め、スタンドにセットした状態のまま、上清を新しいチューブに回収した。
【0043】
[3−3]回収したGenome DNAの検査
回収された微生物(各起炎菌株)のGenome DNAは、定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。本実施例では、それぞれの菌において、約9〜10μgのGenome DNAが回収され、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。回収したGenome DNAは、最終濃度5ng/μlとなるようにTE緩衝液に溶解し、以下の実施例に使用した。
【0044】
[4.検体の増幅(PCR増幅)]
検体となる微生物遺伝子の増幅反応(1st PCR)、および片鎖化反応(2ndPCR)を以下に示す。
【0045】
[4−1]1stPCR
【0046】
【表3】

【0047】
上記組成の反応液を以下のプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行った。即ち、95℃/10分の保持の後、92℃(変性)/45秒、65℃(アニーリング)/45秒、および72℃(伸長)/45秒を1サイクルとして40サイクル、最後に72℃/10分保持した。
【0048】
【表4】

【0049】
反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCRPurification Kit)を用いてプライマーを除去(精製)した後、増幅産物の定量を行った。
【0050】
[4−2]2ndPCR
【0051】
【表5】

【0052】
上記組成の反応液を以下のプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーで増幅反応を行った。即ち、95℃/10分の保持の後、92℃(変性)/45秒、65℃(アニーリング)/45秒、および72℃(伸長)/45秒を1サイクルとして25サイクル、最後に72℃/10分保持した。
【0053】
【表6】

【0054】
反応終了後、精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCRPurification Kit)を用いてPrimerを除去(精製)した。
【0055】
[5.ハイブリダイゼーション]
上述の[1.プローブDNAの準備]と[4.検体の増幅(PCR増幅)]で作製した検体とを用いて、ハイブリダイゼーションを行った。
【0056】
[5−1]ハイブリダイゼーション溶液
ハイブリダイゼーション溶液は、[4.検体の増幅(PCR増幅)]で作製した(i)全6種類の菌をミックスさせたもの、(ii)3種類の菌(黄色ブドウ球菌、大腸菌、肺炎連鎖球菌)をミックスさせたもの、の2種類を作製した
組成は以下の通りである
6×SSPE / 10% Form amide / Target(2nd PCR Product 各菌10μl)/プローブ(各菌2μM)
(6×SSPE:NaCl 900mM,NaH2PO4・H2O 60mM,EDTA6mM,pH 7.4)。
【0057】
[5−2]ハイブリダイゼーション条件
92℃ 2分 →50℃ 1時間(92℃で2分ディネーチャーを行った後、50℃で1hrハイブリダイゼーションを行った)。
【0058】
[6.ゲルろ過]
上述[5.ハイブリダイゼーション]のハイブリ反応溶液をゲルに通過させて、検体とハイブリダイズしていないプローブと検体とハイブリダイズしているプローブの分離を行った。
【0059】
ゲルろ過にはMicroSpin S−200 HR columns(アマシャルバイオサイエンス株式会社)を用いた。具体的に示すと、まずゲルろ過スピンカラムを室温に戻した。次にカラム内のレジンをよく懸濁した。カラムのキャップを緩め、カラムの先端を折った後、キャップを閉めた。カラムを2mlのチューブに入れて、800×g(3000rpm)にて1分間遠心分離した。2mlのチューブ内に溜まった液を捨てて、カラムを元の状態に戻した。次に超純水0.4mlをカラム内に加えて、キャップを閉めた。続いて、800×g(3000rpm)にて1分間遠心分離した。カラムを1.5mlのチューブに乗せかえた。そして、ハイブリ反応溶液50μlをカラム中央に染み込ませるように一滴ずつゆっくりと滴下した。そして、800×g(3000rpm)で2分間遠心分離した。この結果、検体とプローブでハイブリダイズしているハイブリッド体の抽出を行うことができた。
【0060】
[7.質量分析]
上述[6.ゲルろ過]で抽出したハイブリッド体の質量分析を行った。
【0061】
[7−1]質量分析の前処理
ゲルろ過で抽出したハイブリッド体の溶液に陽イオン交換カラムを使用して、イオン解離したNaカチオンの脱離処理を施した。前記の処理によって金属カチオン種を完全に除去される。
【0062】
上述[6.ゲルろ過]および[7−1]の質量分析の前処理によって得られたサンプルを、マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)により分析を行う前に、マトリックスを準備した。マトリックスに利用する3−ヒドロキシピコリン酸を、水/アセトニトリル(体積比で70:30)中に濃度20mg/mLになるように溶解した。
【0063】
上記の3−ヒドロキシピコリン酸溶液1μlと、ゲルろ過後、陽イオン交換を行った後の溶液1μlとをMALDI−TOF MSの核酸専用サンプルホルダー(MTP Anchor Chip(登録商標)400/384 TF)上に載せ、乾燥して、3−ヒドロキシピコリン酸の結晶化を行った。
【0064】
[7−2]質量分析
サンプルホルダー上の試料に含まれる、サンプルを、MALDI−TOF MS(ブルカー・ダルトニクス株式会社、装置名:autoflex)にて質量分析した。
【0065】
質量分析スペクトル中から、実測されたイオン種の質量数に基づき、ハイブリッド体を組んでいた核酸プローブの分子量実測値(Mprobe−obs)を決定し、その分子量に対応する菌種の確定を行った。表3に、全6種類の菌種を入れた際の各プローブに対応する分子量の理論値(Mprobe)、ならびに、実測値(Mprobe−obs)の組み合わせを示す。一方、表4に3種類の菌種を入れた際の各プローブに対応する分子量の理論値(Mprobe)、ならびに、実測値(Mprobe−obs)の組み合わせを示す。また質量分析は5分で終了した。
【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
表3により、各プローブの理論値である分子量に近い値が、質量分析でも得られていることが確認された。また表3と表4の比較により、検体に混ぜられていない肺炎桿菌と緑膿菌とインフルエンザ菌に関しては、質量分析のピークが確認されないことを確認した。
【0069】
(実施例2)
1つ標的核酸に対して複数のプローブを入れて、標的核酸を検出する場合
プローブDNAとして表5に示すプローブ(複数)を調製したこと以外は実施例1と同様にして行った。
[1.プローブDNAの準備]
6種の起炎菌の株検出用プローブとして、表5に示す核酸配列を設計した。具体的には、各菌の16sRNAをコーディングしているゲノム部分より、以下に示したプローブ塩基配列を選んだ。これらのプローブ塩基配列は、当該菌に対し非常に特異性が高く、それぞれのプローブ塩基配列でばらつきのない、十分なハイブリダイゼーション感度が期待できるように設計されている。なお、表5に示す各プローブ塩基配列はこれに完全に一致したものに限定される必要はなく、各プローブ塩基配列を含む20から30程度の塩基長を有するプローブ塩基配列も各表に示す各プローブ塩基配列に含まれるものとする。
【0070】
なお、以下の各表において、Probe No.は便宜的に割り当てた符号である。
【0071】
【表9】

【0072】
サンプルホルダー上の試料に含まれる、サンプルを、MALDI−TOF MS(ブルカー・ダルトニクス株式会社 装置名:autoflex)にて質量分析する。
【0073】
質量分析スペクトル中から、実測されたイオン種の質量数に基づき、ハイブリッド体を組んでいた核酸プローブの分子量実測値(Mprobe−obs)を決定し、その分子量に対応する菌種の確定を行った。表6に、全6種類の菌種を入れた際の各プローブに対応する分子量の理論値(Mprobe)、ならびに、実測値(Mprobe−obs)の組み合わせを示す。一方、表7に3種類の菌種を入れた際の各プローブに対応する分子量の理論値(Mprobe)、ならびに、実測値(Mprobe−obs)の組み合わせを示す。また質量分析は5分で終了した。
【0074】
【表10】

【0075】
【表11】

【0076】
表6により、各プローブの理論値である分子量に近い値が、質量分析でも得られていることが確認された。また表6と表7の比較により、検体に混ぜられていない肺炎桿菌と緑膿菌とインフルエンザ菌に関しては、質量分析のピークが確認されないことを確認した。
【0077】
上記のように、本発明に係る方法は、用いるプローブの数(種類)に一切制限がない。即ち、既知の核酸配列を持つプローブをサンプル中に供給すればいいだけであるため、多種類(例えば、100種類や10000種類)の核酸配列を持つプローブを用意することで、同時に多くの情報を一括して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の方法を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル溶液中の標的核酸を同定するための方法であって、
サンプル溶液中の標的核酸と前記標的核酸と特異的に結合可能なプローブとをハイブリダイゼーション反応させる工程と、
前記ハイブリダイゼーション反応を行った溶液を分子篩に供給し、前記標的核酸とハイブリダイズしたプローブとハイブリダイズしなかったプローブとを分離する工程と、
前記ハイブリダイズしたプローブを質量分析する工程と、
前記質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記分子篩による分離が、ゲルろ過または限外ろ過である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的核酸と特異的に結合可能なプローブは、各々で分子量Mprobeが異なり、それぞれのプローブは、前記質量分析において、弁別可能な分子量差を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的核酸は、ウイルス、微生物、動植物またはヒトの標的核酸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
サンプル溶液中の標的核酸を同定するための方法であって、
サンプル溶液中の標的核酸と該標的核酸と特異的に結合可能なプローブ群とをハイブリダイゼーション反応させる工程と、
該ハイブリダイゼーション反応を行った溶液を分子篩に供給し、前記標的核酸とハイブリダイズしたプローブ群とハイブリダイズしなかったプローブ群とを分離する工程と、
該ハイブリダイズしたプローブ群を質量分析する工程と、
該質量分析で得られた分子量から標的核酸を同定する工程と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記分子篩による分離が、ゲルろ過または限外ろ過である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プローブ群は、各々で分子量Mprobeが異なり、それぞれのプローブ群は、前記質量分析において、弁別可能な分子量差を有することを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記標的核酸は、ウイルス、微生物、動植物またはヒトの標的核酸であることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−86271(P2008−86271A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271684(P2006−271684)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】