説明

模擬クラッタ発生装置

【課題】 精巧な模擬クラッタ信号を生成し、レーダ表示器に供給表示できる模擬クラッタ発生装置を小型にすることを目的とする。
【解決手段】 統計データに基づく変調を個別の機能回路で行う場合、機能数だけ回路の増加となり大型化するので、周波数アキュムレータを用いたディジタル信号発生部を設け、ドップラ周波数情報、統計的データに基づく位相及び振幅変調情報、反射強度に応じた振幅情報を入力して、ディジタル信号にて各種変調を施した模擬クラッタ信号を発生させることで、信号発生、及び変調回路部の統合化による小型化を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、実際のクラッタに近似した模擬クラッタを生成する模擬クラッタ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にレーダ機器では、山岳や建造物等からのグランドクラッタをはじめ、海面(シークラッタ)や雨、雲等のいわゆる気象目標からの反射波も、真の目標からのレーダ反射波とともに受信される。
受信波の中に含まれるクラッタには、上記のようにグランドクラッタやシークラッタのように予め固定して存在するものもあれば、雨や雲のように自然発生的に現れるものもある。その他にもチャフのように、人工的に生成されたものからの妨害波(ECM)も存在するので、オペレータがレーダ表示器に表示されたノーマル(NORM)ビデオの映像から、真の目標物を明瞭に識別するのは容易ではなく、豊富な経験が必要とされている。
【0003】
そこで、従来、BスコープあるいはPPIスコープのレーダ表示器にクラッタからのレーダ反射波を模擬的に表示し、上記のように多種多様なクラッタの中から、例えば航空機のような真の目標物を見出すための教育訓練がオペレータを対象として実施されている。
【0004】
オペレータの教育訓練では、そのレーダ表示器に模擬的にクラッタを表示するシミュレータが用いられるが、そのシミュレータには、模擬クラッタ信号を発生させ、表示器に供給する模擬クラッタ発生装置が組み込まれる。
【0005】
従来の模擬クラッタ発生装置は、統計データ発生部を設け、方位方向のアドレスに対応して統計的データに基づく模擬クラッタの振幅及び位相変調データにより、レーダ搬送波fc信号を変調し、その後可変増幅器において、電波反射強度データによる振幅変調を加えて、模擬クラッタを生成するように構成する。この結果、電波反射強度データによる振幅変調を加えて、クラッタの統計的データに基づく振幅及び位相変調をも施したので、より実際に近似した模擬クラッタをレーダ表示器に供給表示することができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−91633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の模擬クラッタ発生装置は、統計的データや電波強度データを用いて模擬クラッタ信号を発生させるに当たって、各種変調に応じたアナログ変調回路を持つことが必要となるため、回路が大型化するという課題があった。
【0008】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、ディジタル信号にて各種変調を施した模擬クラッタ信号を発生させることで、信号発生、及び変調回路部の統合化による小型化を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による模擬クラッタ発生装置は、レーダ送信ビームの操作指令信号が供給され、この操作指令信号に対応して、上記レーダ送信ビームの目標反射領域内の位置を示すアドレス信号を順次導出する制御回路と、上記制御回路からの上記アドレス信号を導入し、上記目標反射領域内に予め設定された模擬クラッタの上記アドレスに対応した電波反射強度データを導出しディジタル信号として供給する反射強度マップメモリと、上記アドレス信号に対応して上記目標反射領域内に予め設定された上記模擬クラッタのドップラ周波数データを導出しディジタル信号として供給するドップラ周波数マップメモリと、上記レーダ送信ビームの方位方向において、上記アドレス信号に対応した統計的データに基づく模擬クラッタの振幅及び位相変調データを導出しディジタル信号として供給する統計データマップメモリと、周波数アキュムレータ、位相変調器、振幅変調器、D/A変換器より構成され、上記反射強度マップメモリ、ドップラ周波数マップメモリ、及び統計データマップメモリからディジタル信号として導出された電波反射強度データ、ドップラ周波数データ、及び統計データに対応して、ドップラ遷移した搬送波周波数に対して、位相変調及び振幅変調を施すディジタル信号発生器と、を具備したものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ディジタル信号発生部を設け、ドップラ周波数情報、統計的データに基づく位相及び振幅変調情報、反射強度に応じた振幅情報を入力して、ディジタル信号にて各種変調を施した模擬クラッタ信号を発生させることで、信号発生及び変調回路部の統合化による小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明による模擬クラッタ発生装置の実施の形態1を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下この発明による模擬クラッタ発生装置の一実施の形態を、図を参照して詳細に説明する。図1は、実施の形態1による模擬クラッタ発生装置の構成を示す図である。図において、レーダ送信機1からは、レーダビーム指向角度信号1a、送信トリガ信号1b、その送信トリガ信号に基づいて生成されるレンジマークのクロック信号1c、及びレーダ送信周波数信号1dが制御回路6に供給される。実施の形態1による模擬クラッタ発生装置は、制御回路6と、反射強度マップメモリ8と、ドップラ周波数マップメモリ11と、統計データマップメモリ12と、ディジタル信号発生部13と、レーダ表示器5から構成される。
【0013】
制御回路6は、レーダ送信機1からのビーム指向角度信号1a、レーダ送信トリガ信号1b、及びクロック信号1cを受け、レーダビーム方向に対する方位−仰角−距離の3次元座標軸上でのアドレス指定信号や、3次元座標軸上でのレーダビーム指向角度信号を形成導出する。すなわち、制御回路6は、模擬的なレーダ送信ビームの3次元座標軸上での操作指令信号が供給され、この操作指令信号に対応して、レーダ送信ビームの目標反射領域内の位置を示すアドレス信号を順次導出する。また、制御回路部6は、搬送波情報を出力する。制御回路6からの出力信号のうち、アドレス指定信号はデータロード7に接続された反射強度マップメモリ8に供給される。
【0014】
反射強度マップメモリ8には、データロード7に予め準備格納されたデータのうち、目標反射領域内に予め設定された模擬クラッタアドレスの電波反射強度データが供給され、記憶されている。反射強度マップメモリ8は、電波反射強度データに基づく振幅変調データを、ディジタル信号発生部13の加算器18に供給する。
【0015】
データロード7への模擬クラッタアドレスの設定等は、ワークステーション等により行われる。ワークステーションでは、3次元座標軸上に分布する模擬クラッタのアドレス及びそれに対応した電波反射強度データのほか、レイリー分布あるいはワイブル分布等の統計的な相関関係を有する一連の模擬クラッタの振幅及び位相変調データ、模擬クラッタのドップラ周波数fd信号が、予め設定格納されている。データロード7での設定では、模擬クラッタの振幅及び位相変調データ、模擬クラッタのドップラ周波数fd信号のうち、任意に設定選択された模擬クラッタ領域内のアドレスとそれに対応した反射強度データが反射強度マップメモリ8に供給されるとともに、同じく設定選択された模擬クラッタ領域内アドレスの振幅及び位相変調データが統計データマップメモリ12に供給される。
【0016】
統計データマップメモリ12では、制御回路6からのアドレス指定信号に同期したタイミングで、データロード7より供給された振幅及び位相変調データを、ディジタル信号発生部13の位相変調器15、及び加算器18に供給する。なお、レイリー分布やワイブル分布といった統計的な相関関係は、方位方向に現れ、距離(レンジ)方向には現れず、距離方向に異なったパターンを示している。すなわち、統計データマップメモリ12では、模擬的なレーダ送信ビームの方位方向において、アドレス信号に対応した統計的データに基づく、模擬クラッタの振幅及び位相変調データを導出しディジタル信号として供給する。
【0017】
また、ドップラ周波数マップメモリ11では、制御回路6から供給される3次元座標軸上でのアドレス指定信号により順次読み出され、データロード7からの3次元座標軸上に分布する模擬クラッタのドップラ周波数fd信号データを、ディジタル信号発生部13の周波数アキュムレータ14に供給する。
【0018】
制御回路部6より搬送波情報を受けて、ディジタル信号発生部13では、周波数アキュムレータ14で当該周波数データ(fc)を発生し、かつドップラ周波数(fd)分シフト(遷移)した周波数データ(fc+fd)を出力する。位相変調器15で周波数アキュムレータ14の出力に位相変調をかけた信号を出力する。加算器18は、反射強度マップメモリ8からの振幅変調データと、統計データマップメモリ12からの振幅及び位相変調データとを加算して、振幅変調器16に出力する。振幅変調器16は、位相変調器15の出力に対して、統計データマップメモリ12からの振幅変調、及び反射強度マップメモリ8からの振幅情報を加えて、統計データからの振幅変調、及び反射強度毎の振幅にした信号を出力する。D/A変換器17は、振幅変調器16の出力信号をD/A変換した模擬クラッタ信号を発生する。D/A変換器17から発生した模擬クラッタ信号は、ディジタル信号発生部13より表示器5に出力され、表示器5にて模擬クラッタ信号に関する各種表示がなされる。表示器5では、例えば、模擬クラッタの反射強度や模擬クラッタの動きに対応したドップラ周波数成分、及びレイリー分布等の統計的な相関関係が加味されて、模擬クラッタが表示されるとともに、ビーム指向仰角に対応した模擬クラッタの減衰度の変化を反映したレーダ画像の表示がなされる。
【0019】
このように、実施の形態1の模擬クラッタ発生装置によれば、3次元座標軸上での模擬クラッタ信号を、模擬クラッタの反射強度や模擬クラッタの動きに対応したドップラ周波数成分、およびレイリー分布による統計的な相関関係が加味されるとともに、ビーム指向仰角に対応した模擬クラッタの減衰度の変化を受けて、表示器5に供給されることで、より実際の模擬クラッタに近似した精巧な表示がなされることにより、オペレータの教育及び訓練における学習効率を向上させることができる。また、ディジタル信号発生部を設け、ドップラ周波数情報、統計的データに基づく位相及び振幅変調情報、反射強度に応じた振幅情報を入力して、ディジタル信号にて各種変調を施した模擬クラッタ信号を発生させることで、信号発生及び変調回路部の統合化による小型化が可能となる。
【0020】
以上説明した通り、この実施の形態1による模擬クラッタ発生装置は、レーダ送信ビームの操作指令信号が供給され、この操作指令信号に対応して、上記レーダ送信ビームの目標反射領域内の位置を示すアドレス信号を順次導出する制御回路と、上記制御回路からの上記アドレス信号を導入し、上記目標反射領域内に予め設定された模擬クラッタの上記アドレスに対応した電波反射強度データを導出しディジタル信号として供給する反射強度マップメモリと、上記アドレス信号に対応して上記目標反射領域内に予め設定された上記模擬クラッタのドップラ周波数データを導出しディジタル信号として供給するドップラ周波数マップメモリと、上記レーダ送信ビームの方位方向において、上記アドレス信号に対応した統計的データに基づく模擬クラッタの振幅及び位相変調データを導出しディジタル信号として供給する統計データマップメモリと、周波数アキュムレータ、位相変調器、振幅変調器、D/A変換器より構成され、上記反射強度マップメモリ、ドップラ周波数マップメモリ、及び統計データマップメモリからディジタル信号として導出された電波反射強度データ、ドップラ周波数データ、及び統計データに対応して、ドップラ遷移した搬送波周波数に対して、位相変調及び振幅変調を施すディジタル信号発生器と、を具備することを特徴とする。この構成により、アナログ式の信号発生器、変調器やミクサを設ける必要がなく、集積化したディジタル回路を形成することができるので、模擬クラッタ発生装置を、従来に比べてより小型化にすることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 レーダ送信機、2 可変増幅器、3 合成回路、4 信号発信器、5 レーダ表示器、6 制御回路、7 データロード、8 反射強度マップメモリ、9 統計データ発生器、10 I/Q変調器、11 ドップラ周波数マップメモリ、12 統計データマップメモリ、13 ディジタル信号発生部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送信ビームの操作指令信号が供給され、この操作指令信号に対応して、上記レーダ送信ビームの目標反射領域内の位置を示すアドレス信号を順次導出する制御回路と、
上記制御回路からの上記アドレス信号を導入し、上記目標反射領域内に予め設定された模擬クラッタの上記アドレスに対応した電波反射強度データを導出しディジタル信号として供給する反射強度マップメモリと、
上記アドレス信号に対応して上記目標反射領域内に予め設定された上記模擬クラッタのドップラ周波数データを導出しディジタル信号として供給するドップラ周波数マップメモリと、
上記レーダ送信ビームの方位方向において、上記アドレス信号に対応した統計的データに基づく模擬クラッタの振幅及び位相変調データを導出しディジタル信号として供給する統計データマップメモリと、
周波数アキュムレータ、位相変調器、振幅変調器、D/A変換器より構成され、上記反射強度マップメモリ、ドップラ周波数マップメモリ、及び統計データマップメモリからディジタル信号として導出された電波反射強度データ、ドップラ周波数データ、及び統計データに対応して、ドップラ遷移した搬送波周波数に対して、位相変調及び振幅変調を施すディジタル信号発生器と、
を具備することを特徴とする模擬クラッタ発生装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−230549(P2010−230549A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79582(P2009−79582)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】