説明

横型圧縮機

【課題】
横型圧縮機において、ガスカバーが吐出する冷媒ガス中の油含有量を低減するとともに、機外吐出空間での騒音発生を防止し、圧縮冷媒における圧損発生を抑制する。
【解決手段】
横型圧縮機50は、密閉容器1と、圧縮機構部と、電動機部と、吸込みパイプ7と、吐出パイプ13とを備える。電動機部と吐出パイプとの間に密閉容器を仕切る仕切板12を設け、この仕切板の反電動機部側に、上部および下部が開放されたガスカバー16を取り付ける。仕切板の上部に圧縮冷媒ガスが流通する冷媒ガス通路穴12aが、下部に潤滑油が流通する潤滑油通路穴12bが形成されている。ガスカバーは、その上辺が密閉容器の内径15sよりも小さくかつ冷媒ガス通路穴を覆う高さに形成されている。ガスカバーは折り曲げ成形されて断面矩形状に形成されており、仕切板とガスカバーにより気液分離機構を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は横型圧縮機に係り、特に冷凍空調機器に好適な横型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の横型圧縮機の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の横型圧縮機では、横型スクロール圧縮機で圧縮された冷媒は、冷媒吐出空間からモータ収納空間に流入し、ベアリングプレートに形成された冷媒連通孔および潤滑油連通孔を介して機外吐出空間に導かれている。そして、冷媒吐出空間に吐出された冷媒は、吸込パイプや密閉ケースの内壁等に吹き当り、冷媒に含まれている潤滑油の大部分が分離される。さらに、冷媒連通孔を介して機外吐出空間に流動するときに、潤滑油導入パイプ取付板に吹き当たり、その際冷媒から潤滑油が分離される。
【0003】
従来の横型圧縮機の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載の横型圧縮機では、圧縮機外へ潤滑油が流出するのを低減するために、密閉容器内に電動機と圧縮機構部と冷凍機油貯留部とを形成し、冷凍機油貯留部は仕切板で他の部分と仕切られている。仕切板には少なくとも冷凍機油を連通させる下部開口部が形成されており、この仕切板の冷凍機油貯留部側に気液分離流路が設けられている。そして、この横型圧縮機を水平から6°〜12°だけ、圧縮機構部側が高くなるように配置している。
【0004】
従来の横型圧縮機のさらに他の例が、特許文献3に記載されている。この公報に記載の横型圧縮機では、冷凍機油貯留部を区画する軸受支持板の上部に上部流路口を設けるとともに、この軸受支持板の冷凍機油貯留部側面に油滴除去部を装着したガスカバーを設けている。ここでガスカバーは、円環カバーの内部に網目状等に形成された油滴除去部を取付、この円環カバーとほぼ円板状のベースプレートをロー付け等で接合して形成されている。これにより、冷媒流量が増大したときに潤滑油貯留部で潤滑油の泡立ちが生じて、油滴除去部で捕獲できない量の油が冷媒中に含まれる事態の発生を、上部流路口から冷媒の一部が抜け出ることにより防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−110756号公報
【特許文献2】特開平7−208357号公報
【特許文献3】特開2008−121693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の横型圧縮機では、電動機室に流入した圧縮冷媒は、ベアリングプレートに形成された冷媒連通孔からベアリングプレートと潤滑油導入パイプ取付板とで形成される空間に流入し、その後潤滑油導入パイプ取付板の外周部と密閉ケースとの間の隙間から機外吐出空間に流出するように構成されている。しかしながら、この公報に記載の横型圧縮機では、たとえ冷媒連通孔から流入された圧縮冷媒であっても、密閉ケース内部に貯留される潤滑油を多量に含んでいるので、除潤滑油導入パイプ取付板に衝突せずに側面部の隙間から機外吐出空間に流出すると、この潤滑油分が除去されずにそのまま通り抜けることになる。
【0007】
さらに、横型圧縮機を空調機等に使用した場合、圧縮機の作動領域によっては、電動機室側の潤滑油の液面が変化し、ベアリングプレートの下部に形成した潤滑油連通孔よりも電動機室側の液面が低下して圧縮冷媒の通り道となる場合が生じる。この場合、潤滑油分を多量に含んだ圧縮冷媒が、潤滑油導入パイプ取付板には何等邪魔されずに機外吐出空間に流出するので、圧縮冷媒に含まれる多量の潤滑油が除去されずに横型圧縮機から流出することになる。その結果空調機の性能低下と潤滑油量の不足もしくは潤滑油を多量に供給する必要が生じる。
【0008】
このような不具合の発生を解消するために、特許文献2に記載の横置き式スクロール圧縮機では、ベアリングプレートに相当する仕切り板の下部に形成した下部開口部から流出する圧縮冷媒の下流側に気液分離流路を設けて、圧縮冷媒に含まれる潤滑油分を除去している。この公報に記載の圧縮機では確かに潤滑油分を確実に分離できるので、空調機等に使用しても潤滑油による性能低下を引き起こすことがない。しかしながら、気液分離流路を設けることにより、構造が複雑になるとともに流路抵抗が増大するおそれがあり、やはり空調祈祷の性能低下のおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の横軸型の圧縮機では、仕切り板の下部から流入した圧縮冷媒を、仕切板とガスカバーとで形成した流路に導き、上部であって側部に形成した穴から機外吐出空間に流出させているので、潤滑油を含む圧縮冷媒が仕切り板に衝突するようにして、確実に潤滑油分を除去できる。しかしながらこの公報に記載の圧縮機では、圧縮冷媒の流動する流路が長くなり、冷媒の圧損が大きくなるおそれがある。本発明者らの解析によれば、このようにガスカバーの上部であって側部から圧縮冷媒を機外吐出空間に流出させる場合、圧縮ガスは機外吐出空間の下部側の広い空間に一旦流下した後、機外吐出空間の上部に配置された吐出パイプに流入する。したがって、機外吐出空間には下降流と吐出パイプに流入するための上昇流とが存在し、それによる混合攪拌損失が生じるおそれがある。なお、圧縮冷媒は高圧になっているため、仕切板とガスカバーで圧縮冷媒の流路を密閉状に形成する場合には、仕切り板の剛性が低いと振動が生じ騒音悪発生の一因となる。
【0010】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、横型圧縮機において、ガスカバーが吐出する冷媒ガス中の油含有量を低減するとともに、機外吐出空間での騒音発生を防止することおよび圧縮冷媒における圧損発生を抑制することにある。本発明の他の目的は、上記目的を達成する横型圧縮機において、給油パイプへの気泡の侵入を防止することにある。さらに、構造の簡単化により、製作工数およびコストを低減することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、密閉容器と、この密閉容器内に配置された横軸の圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動し前記密閉容器内に配置された電動機部と、前記圧縮機構部で圧縮する冷媒ガスを前記密閉容器に導く吸込みパイプと、前記圧縮機構部で圧縮した冷媒ガスを前記密閉容器外に吐出する吐出パイプとを備え、前記密閉容器の下部に潤滑油を貯留する横型圧縮機において、前記電動機部と前記吐出パイプとの間に前記密閉容器を仕切る仕切板を設け、この仕切板の反電動機部側に上部および下部が開放されたガスカバーを取り付け、前記仕切板は上部に前記圧縮機構部で圧縮された冷媒ガスの流通する冷媒ガス通路穴が、下部に潤滑油が流通する潤滑油通路穴が形成されており、前記ガスカバーはその上辺が前記密閉容器の内径よりも小さくかつ前記冷媒ガス通路穴を覆う高さに形成されており、さらに前記ガスカバーは折り曲げ成形されて断面矩形状に形成されており、前記仕切板と前記ガスカバーにより前記冷媒から潤滑油を分離する気液分離機構を構成し、この気液分離機構で潤滑油分が分離された冷媒ガスを前記ガスカバーの上辺部および両側面の上部から前記吐出パイプ側に導くことにある。
【0012】
そしてこの特徴において、前記ガスカバーの両側面は、斜め下方に直線状に切り欠いた形状となっており、このガスカバーの正面中央部には絞り部が形成されているのがよく、前記ガスカバーの正面であって前記絞り部を挟んで上側および下側に、前記吐出パイプ側に突出した突起部を形成してもよい。また、前記ガスカバーは、薄板を打ち抜いて作成したガスカバー素材の中心部に、絞り加工で前記絞り部を形成し、その後プレス加工により両側面を折り曲げ加工して形成するのが好ましく、前記電動機部の軸端部にこの横型圧縮機を潤滑する潤滑液を供給する給油パイプを取り付け、前記ガスカバーの下辺中央に、この給油パイプが垂直方向から2度傾けて取り付けられてもこの給油パイプを覆う幅を有する給油パイプカバー部を形成するのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1枚の薄板を折り曲げ加工および絞り加工しただけでガスカバーを製作し、このガスカバーと副軸受に取り付ける仕切り板とで、上部および上部側面部に圧縮冷媒が機外吐出空間に流出する開口部を形成したので、冷凍サイクル中へ吐出される冷媒ガス中の油含有量を低減するとともに、機外吐出空間での騒音発生を防でき、かつ圧縮冷媒における圧損発生を抑制できる。また、冷媒ガスの気泡が給油パイプに侵入することもぼうしできる、横型圧縮機の摺動部の信頼性の低下を回避できる。さらに、ガスカバーは、1枚の薄板を折り曲げ加工および絞り加工するだけで製作できるので、構造が簡単化され、製作工数およびコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る横型スクロール圧縮機の一実施例の縦断面図。
【図2】図1に示した横型スクロール圧縮機が備えるガスカバー部の詳細縦断面図。
【図3】図2に示したガスカバー部に設けた仕切板を吐出側から見た正面図。
【図4A】図1に示した横型スクロール圧縮機が備えるガスカバーを吐出側から見た正面図と側面断面図、下面図。
【図4B】図4Aに示したガスカバーの斜視図。
【図5】本発明に係るガスカバーの他の実施例を備えた横型スクロール圧縮機の部分縦断面図。
【図6A】図5に示したガスカバーを吐出側から見た正面図および側面断面図、下面図。
【図6B】図6Aに示したガスカバーの斜視図。
【図7】ガスカバーの製造工程の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る横型圧縮機のいくつかの実施例、図面を用いて説明する。以下の説明では、横型圧縮機が横型のスクロール圧縮機である場合を例にとり説明するが、圧縮機はスクロール圧縮機に限るものではなく、ロータリー圧縮機等他の圧縮機の場合にも本発明を適用できる。
【0016】
図1に、横型圧縮機50を縦断面図で示す。横型圧縮機であるスクロール圧縮機50では、水平方向に軸が延びた円筒状の密閉容器1内に、圧縮機構部及び電動機部が収納されている。圧縮機構部は、図1で左端側に配置されており密閉容器1に保持された固定スクロール2と、固定スクロール2に立設された固定スクロールラップと噛み合うラップが形成された旋回スクロール3と、旋回スクロール3を旋回させ横軸に配置されたクランク軸5と、クランク軸5を回転自在に支承する主軸受部材4と、クランク軸5の偏心回転運動を旋回スクロール3の旋回運動に変換させるためのオルダムリング6とを、主要構成要素としている。
【0017】
固定スクロール2には冷媒ガスを吸込む吸込口が形成されており、吸込口には空気調和機の他の部品に接続するための吸込パイプ7が圧入されている。吸込パイプ7は、密閉容器1を貫通するとともに、密閉容器1に気密に取り付けられている。
【0018】
圧縮機構部に隣り合って電動機部が配置されている。電動機部は、圧縮機構部が備えるクランク軸5が図1で右側に延在した回転軸部5aに圧入により嵌着された回転子9と、この回転子9と僅かの隙間を持って回転子9に同軸に配置された固定子とを有している。固定子8は、密閉容器1に焼嵌めなどにより固定されている。
【0019】
主軸受部材4の外周部は密閉容器1に固定されており、主軸受部材4の内周側にはクランク軸5を支承する軸受が保持されている。クランク軸5の偏芯部には旋回スクロール3が回転自在に取付けられている。オルダムリング6は、旋回スクロール3を固定スクロール2に対して自転させずに旋回運動させるためのものであり、旋回スクロール3と主軸受部材4との間で自転規制部材として作用する。旋回スクロール3と噛み合って圧縮室を形成する固定スクロール2は、主軸受部材4にボルト10で締結されている。
クランク軸5の反圧縮機構部側の端部には、副軸受11が配置されており、回転軸部5aを回転自在に支承する。副軸受11の電動機部側端面には、詳細を後述する仕切板12が取り付けられている。仕切板12は、外周部に折り曲げ部12fが形成されており、この折り曲げ部112fで密閉容器1に固定されている。
【0020】
副軸受11の反電動機部側端部は嵌めあい構造となっており、袋状のカバー19が内周面に嵌合している。したがって、カバー19と副軸受11と回転軸部5aとで密閉空間が形成されている。カバー19の端面側には、密閉容器1の底部に貯留された潤滑油18を吸引可能にするL字型の給油パイプ17が取り付けられている。カバー19よりも図1で右側に、潤滑油を貯留するためおよび圧縮機で発生した圧縮冷媒を貯留するために、機外吐出空間31が形成されている。機外吐出空間31は、密閉容器1の右端側に有低円筒状の底ケーシング15を嵌合して形成される。底ケーシング15の端面上部には、空気調和機の四方弁に接続するための吐出パイプ13が気密に取り付けられている。なお、副軸受11部には、詳細を後述するガスカバー16が、仕切板12に近接して配置されている。
【0021】
このように構成した横型圧縮機50では、電動機部で発生した動力がクランク軸5を介して旋回スクロールに伝達される。旋回スクロール3は、クランク軸5の回転動力により、オルダムリング6に規制されながら旋回運動する。旋回スクロール3が旋回運動すると、旋回スクロール3に立設された旋回スクロールラップと、固定スクロール2に立設された固定スクロールラップとで圧縮室が形成され、吸込パイプ7を通して固定スクロール2の吸込み口から冷媒ガスが吸込まれる。固定スクロール2に吸込まれた冷媒ガスは、圧縮室で圧縮された後、固定スクロール2の中央部付近に形成された吐出孔14から、一旦密閉容器1の左端側に形成された圧縮機構部空間34に流出する。そして、固定スクロール2の外周側と密閉容器1との間に形成される隙間等を通って、横型圧縮機50内を軸方向右側に進み、電動機部空間33を経て、仕切板12へ到る。仕切板12には後述するように、冷媒ガス通路穴12aが上部に形成されているので、圧縮された冷媒ガスは、この冷媒ガス通路穴12aを経て機外吐出空間31に流入し、機外吐出空間31内に延材した吐出パイプ13から四方弁等に接続するための配管に吐出される。
【0022】
ここで、本発明ではこの横型圧縮機50内を冷媒ガスが流通する際に冷媒ガスから潤滑油分を取り去る機構を備えている。その詳細を、図2ないし図4Bを用いて説明する。図2は、横型圧縮機50のガスカバー16部近傍の詳細図であり、縦断面図である。図3はガスカバー16に近接して設けた仕切板12の一実施例の詳細を示す正面図、図4Aはガスカバー16の一実施例の正面図および左側面断面図、底面図である。また、図4Bは、その斜視図である。
【0023】
図3に示すように、仕切板12は円板状をしており、その外周面部には軸方向に延びる折り曲げ部12fが形成されている。そして折り曲げ部12fは、密閉容器の内周面1sに嵌合している。仕切板12の中心部には貫通穴12gが形成されており、副軸受11の側面部に嵌合する。この貫通穴12gを中心に内径側に、平坦部12cから突き出た突起部12dが形成されており、この突起部12dの外周側には3箇所ほぼ等間隔に突起部が矩形状に延びている。矩形状の突起のさらに外側には、脚部12cが形成されている。なお、突起部12dは電動機側に突き出ている。
【0024】
仕切板12の外周部付近であって上部側には、電動機部空間33に流入した冷媒ガスが機外吐出空間31に流出するための冷媒ガス通路穴12aが複数個形成されている。この冷媒ガス通路穴12aは本実施例では2個であり、周方向に延びた長穴である。冷媒ガス通路穴12aの大きさや個数は、横型圧縮機50が使用される条件によって決定されるものであり、必ずしも長穴や2個である必要はない。仕切板12の下部には、この仕切板12の右側に形成される機外吐出空間31の下部に貯留された潤滑油と電動機部空間33や圧縮機後部空間34の下部に貯留された潤滑油が流通して各空間の圧力を調整するための潤滑油通路穴12bが形成されている。潤滑油通路穴12bは、上端部がほぼ水平になっている。
【0025】
次に、ガスカバー16の一実施例について説明する。ガスカバー16は1枚の薄い鋼板から形成されている。図4Aに示すように、中央部には副軸受11の外周面11sに嵌合するための取付穴16jが形成されている。なお、取付穴16jに絞り部16dが連なっており、取付穴16j部の剛性を確保している。
【0026】
ガスカバー16の上端部である上辺16kは、取付穴16jと同心の円弧形状である。上辺16kの左右両側は、円弧形状から下方に直線状に切り落とされた形状であり、後述する冷媒ガス吐出孔縁16gを形成している。ガスカバー16の下端部は、中央部に突出した部分を有する直線形状であり、ガスカバー下辺16mを形成する。下辺16mの中央部の突出部は、ガスカバー16の右側に位置する給油パイプ17に冷媒ガスが吸込まれるのを防止するための給油パイプカバー部16fである。したがって、給油パイプカバー部16fの下端は、組み立てたときに給油パイプ17の下端が、回転軸部5aの軸端側から見て隠れる程度まで延びている。また、給油パイプカバー部16fの幅は、給油バイプ17が鉛直方向から2度程度傾いても、回転軸部5aの軸端側から見て隠れる程度の幅となっている。ガスカバー上辺16bとガスカバー下辺16mを端部とし、中央に取付穴16jを有する部分は、平坦面16bを形成している。
【0027】
ガスカバー下辺16mの左右両側は、斜め上方に直線状に切りあがった形状であり、潤滑油流通孔縁16hを形成している。上端が冷媒ガス吐出孔縁16gであり下端が潤滑油流通孔縁16hである部分は、平坦面16bから90度弱折り曲げられた平面であり、傾斜面16eを形成している。傾斜面16eは平坦面16bの剛性を確保するための支えである。傾斜面16eの両端側には、矩形状であって平坦面16bと平行になるよう折り曲げられた固定部16cが形成されている。固定部16cは、このガスカバー16を仕切板12に溶接して、固定するのに用いられる。
【0028】
このようにガスカバー16を形成したので、ガスカバー16と仕切板12とで断面四角形状の筒が形成され、気液分離空間32を形成する。筒の上部および下部は開放されており、側部も上端部近傍および下端部近傍に開口が形成される。ここで、ガスカバー16の上辺16kの外径は、底ケーシング15の内周面15sの内径より僅かに小さい値となっている。そのため、底ケーシングの内周面15sとガスカバー上辺16kとの間に隙間が形成される。なお、ガスカバー上辺16kの外径は、仕切板12に形成した冷媒ガス通路穴12aの最大半径位置よりも大きくしている。つまり、仕切板12の冷媒ガス通路穴12aを通過した潤滑油を含む冷媒ガスが、このガスカバー16に当たることなく機外吐出空間に流入することを防止する半径位置となっている。
【0029】
このように構成した本実施例のガスカバー16および仕切板12を横型圧縮機が備えることにより、電動機部空間33における潤滑油の液面18sが潤滑油通路穴12bの上端位置よりも高い場合には、圧縮機構部で圧縮されて発生した圧縮冷媒は、仕切板12に形成した冷媒ガス通路穴12aからガスカバー16側に流入し、一部は底ケーシング15の内周面15sとガスカバー上辺16kの隙間を通ってほぼ軸方向(図5の右方向)に水平に機外吐出空間31へ流入する。残りの圧縮冷媒は、底ケーシング15の内周面とガスカバー16の冷媒ガス吐出孔縁16gとの間の隙間から軸直角方向(図5の紙面垂直方向)に一旦流出した後、機外吐出空間31の下方側へ流入する。
【0030】
ここで、気液分離空間32に流入し、ガスカバー上辺16kより外径側の隙間から軸方向に流出する冷媒ガスは、潤滑油分が比較的少ない軽いガスであり、たとえガスカバー16に衝突しなくても潤滑油分が取り去られたガスである。一方、気液分離空間32に流入し、冷媒ガス吐出孔縁16gの上方の隙間から流出する冷媒ガスは、少なくとも流れ方向を変えるときにほぼ全てがガスカバー16に衝突するから、その衝突の際に潤滑油分を除去される。もちろん流れ方向を変える前にガスカバー16の平坦部16bに衝突する場合も多い。
【0031】
電動機部空間に貯留された潤滑の液面18sが潤滑油通路穴12bの上端部よりも低い場合には、潤滑油通路穴12bからも気液分離空間32に圧縮冷媒ガスが流入する。潤滑油通路穴12bが冷媒ガスに対して開いているような状態では、潤滑油液面18sが泡立っていることが多く、冷媒ガスに多量の潤滑油が含まれやすい。しかしながら、このような場合には、冷媒ガスが気液分離空間32を上昇する際にガスカバー16に衝突する。もしくは、冷媒ガス吐出孔縁16gの上方の隙間から機外吐出空間31に流出する際に流れ方向を変えられるので、その際にガスカバー16に衝突して冷媒ガスから潤滑油分が除去される。
【0032】
なお、電動機部空間33から潤滑油通路穴12bを経て気液分離空間32へ潤滑油が移動する場合、この潤滑油には冷媒ガスが含まれている場合がある。しかし、気液分離空間32に流入した際にガスカバー16の平坦面16bに冷媒ガスを含む潤滑油が衝突し、冷媒ガスは気泡となって分離され、気液分離空間32を上昇するので、給油パイプ17に冷媒ガスが吸込まれて潤滑性能が低下するという事態が発生するのを防止できる。
【0033】
本実施例では、ガスカバーを1枚の薄板から構成しているので、冷媒ガスが平坦面16bに衝突して振動し騒音を発生することが危惧されるが、ガスカバー16を折り曲げ構造とし、傾斜面16eおよび中央部の絞り部dによりガスカバー16の剛性を高めているので、騒音の発生を極力低減できる。
【0034】
図5ないし図6Bにより、さらにガスカバーの剛性を高めて騒音発生を低減した実施例を説明する。図5は図2に対応する図であり、ガスカバー26を含む横型圧縮機50の縦部分断面図である。図6Aは、ガスカバー26の正面図および左側面断面図、底面図である。また、図6Bはガスカバー26と仕切板12とで構成する気液分離機構の斜視図である。本実施例が上記実施例と異なるのは、ガスカバー26の平坦部26bに凹凸を形成したことにある。ガスカバー26のその他の部分および仕切板12は、上記実施例と同様である。
【0035】
図6Aに示すように、ガスカバー26では中央部に副軸受11への取付穴26jが形成されており、取付穴26jの周囲には剛性を高めるために絞り部26dが形成されている。そして、取付穴26jを挟んで平坦面26bの上部及び下部には、それぞれ機外吐出空間31側へ突出した上部突起部26pおよび下部突起部26qが形成されている。本実施例では、上部突起部26pは平坦面26bの上辺に応じた円弧形状の突起であり、下部突起部26qは平坦面26bの下辺に応じた直線状の突起になっている。
【0036】
平坦面26bの下辺の中央部には、給油パイプ17に冷媒ガスが流入するのを防止する給油パイプ防止カバー部26fが形成されている。平坦面26bの左右両側には傾斜部26eが折り曲げ形成されており、ガスカバー26の剛性を向上させている。傾斜部26eの両端側には仕切板12へ溶接固定するための脚部26cが折り曲げ形成されている。なお、取付穴26jの内周面26sは、副軸受11への取り付けの位置決めに使用される。
【0037】
本実施例に示したガスカバー26を用いて気液分離機構を構成すると、図6Bに示すように、電動機部空間33からこの気液分離空間32に流入した冷媒ガスは、その一部がガスカバー26の平坦面26bの上辺と底ケーシング15の内周面15sとの間の空間から機外吐出空間31に白抜き矢印で示したように、流入する。その他の冷媒ガスは、平坦面26bの左右に形成した傾斜部26eの上部に形成される隙間から白抜き矢印で示すように下向きに機外吐出空間31に流れ込む。また、仕切板12の下部に形成した潤滑油通路穴12bを通って気液分離された冷媒ガスも、主として傾斜部26eの上方に形成した隙間から機外吐出空間31に、白抜き矢印で示すように下向きに流れ込む。
【0038】
この冷媒ガスの流れにより気液分離が実現されるが、その際、平坦部26bや傾斜部27eに潤滑油を含む冷媒ガスが衝突し、振動および騒音の一因になる。しかしながら本実施例によれば、傾斜部26eおよび絞り部26dの形成によりガスカバー26の剛性が向上するとともに、さらに上部突起部26pおよび下部突起部26qを形成して平坦面の面内振動を抑制しているので、騒音を低減できる。
【0039】
図7に、上記実施例に用いるガスカバーの製作法の一例を示す。厚さ1mm程度の鋼製の素材板161から、底ケーシング15の内径よりわずかに小さな内径160cでガスカバー素材160を、プレスで打ち抜く。この打ち抜きでは、傾斜部や脚部、給油パイプカバー部の形状と、中央の貫通孔部160aも同時に打ち抜く。
【0040】
次に、パンチ171とダイ172を用いて、中央部に絞り部170aを形成する(左図のX−X断面で示す)。パンチ171はパンチ本体部と絞り部170aの形状に応じた突起状の絞り部171bが形成されている。ダイ172では、ダイ本体172aの中央部に絞り部172bが形成されており、パンチ171を荷重FAで平板のガスカバー(中間品)170に押圧することにより、絞り部170aが形成される。
【0041】
最後に絞り部170aだけが形成されたガスカバー(中間品)180aの左右り両側部をパンチ181およびダイ182を用いて2段階に折り曲げることにより、ガスカバー(完成品)180が形成される。この折り曲げ過程では、パンチ本体181aに折り曲げ形状に応じた傾斜面181bと平坦面181cを形成し、ダイ182には折り曲げ形状に応じた傾斜面182cおよび平坦面182bのほかに、中央部にガスカバー180の絞り部を受ける絞り部182aを形成している。
【0042】
この図7に示すように1枚の薄板から絞り及びプレス加工で折り曲げるだけで、剛性を高めたガスカバーが得られる。また薄板を素材にしているので、ハンドリング性が向上するとともに、気液分離機構の大型化を防止できる。さらに仕切板との溶接作業も容易になる。したがって、ガスカバーの製作が容易になるとともに、製作工数も低減し、経済的効果も高くなる。
【符号の説明】
【0043】
1…密閉容器、1s…密閉容器内周面、2…固定スクロール、3…旋回スクロール、4…主軸受部材、5…クランク軸、5a…回転軸部、6…オルダムリング、7…吸込パイプ、8…固定子、9…回転子、10…ボルト、11…副軸受、11s…副軸受外周面、12…仕切板、12a…冷媒ガス通路穴、12b…潤滑油通路穴、12c…平坦部、12d…突起部、12e…脚部、12f…折り曲げ部、12g…貫通穴、13…吐出パイプ、14…吐出孔、15…底ケーシング、15s…底ケーシング内周面、16…ガスカバー、16b…平坦面、16c…固定部、16d…絞り部、16e…傾斜面、16f…給油パイプカバー部、16g…冷媒ガス吐出孔縁、16h…潤滑油流通孔縁、16j…取付穴、16k…ガスカバー上辺、16m…ガスカバー下辺、16s…取付穴内周面、17…給油パイプ、18…潤滑油、18s…(潤滑油)液面、19…カバー、26…ガスカバー、26b…平坦部、26c…脚部、26d…絞り部、26e…傾斜部、26f…給油パイプカバー部、26j…取付穴、26p…上部突起部、26q…下部突起部、26s…取付穴内周面、31…機外吐出空間、32…気液分離空間、33…電動機部空間、34…圧縮機構部空間、50…横型圧縮機、160…ガスカバー素材、160a…貫通穴部、160b…給油パイプカバー部、160c…ガスカバー外周円、161…素材板、170…ガスカバー(中間品)、170a…絞り部、171…パンチ、171a…パンチ本体、171b…絞り部、172…ダイ、172a…ダイ本体、172b…絞り部、180…ガスカバー、180a…ガスカバー(中間品)、181…パンチ、181a…パンチ本体、181b…傾斜面、181c…平坦面、182…ダイ、182a…絞り部、182b…平坦面、182c…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、この密閉容器内に配置された横軸の圧縮機構部と、この圧縮機構部を駆動し前記密閉容器内に配置された電動機部と、前記圧縮機構部で圧縮する冷媒ガスを前記密閉容器に導く吸込みパイプと、前記圧縮機構部で圧縮した冷媒ガスを前記密閉容器外に吐出する吐出パイプとを備え、前記密閉容器の下部に潤滑油を貯留する横型圧縮機において、
前記電動機部と前記吐出パイプとの間に前記密閉容器を仕切る仕切板を設け、この仕切板の反電動機部側に上部および下部が開放されたガスカバーを取り付け、前記仕切板は上部に前記圧縮機構部で圧縮された冷媒ガスの流通する冷媒ガス通路穴が、下部に潤滑油が流通する潤滑油通路穴が形成されており、前記ガスカバーはその上辺が前記密閉容器の内径よりも小さくかつ前記冷媒ガス通路穴を覆う高さに形成されており、さらに前記ガスカバーは折り曲げ成形されて断面矩形状に形成されており、前記仕切板と前記ガスカバーにより前記冷媒から潤滑油を分離する気液分離機構を構成し、この気液分離機構で潤滑油分が分離された冷媒ガスを前記ガスカバーの上辺部および両側面の上部から前記吐出パイプ側に導くことを特徴とする横型圧縮機。
【請求項2】
前記ガスカバーの両側面は、斜め下方に直線状に切り欠いた形状となっており、このガスカバーの正面中央部には絞り部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の横型圧縮機。
【請求項3】
前記ガスカバーの正面であって前記絞り部を挟んで上側および下側に、前記吐出パイプ側に突出した突起部を形成したことを特徴とする請求項2に記載の横型圧縮機。
【請求項4】
前記ガスカバーは、薄板を打ち抜いて作成したガスカバー素材の中心部に、絞り加工で前記絞り部を形成し、その後プレス加工により両側面を折り曲げ加工して形成したことを特徴とする請求項2または3に記載の横型圧縮機。
【請求項5】
前記電動機部の軸端部にこの横型圧縮機を潤滑する潤滑液を供給する給油パイプを取り付け、前記ガスカバーの下辺中央に、この給油パイプが垂直方向から2度傾けて取り付けられてもこの給油パイプを覆う幅を有する給油パイプカバー部を形成したことを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の横型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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