説明

横方向のモードが抑制される音波により動作する変換器

本発明は表面音響波によって動作する変換器に関する。この変換器においては妨害的な横方向のモードが抑制される。このことは、音響的なトラックおよびこのトラックに接する外部領域によって形成される導波体の音波の励起プロフィールと横方向の基本モードとの相互的な適合によって達成される。この適合は音響的なトラックを励起領域と端部領域に分割することによって行われ、それぞれの端部領域の幅は横方向の基本モードの約1/4波長であり、また横方向の基本モードの波数は励起領域において0である。本発明の有利な実施形態においては、励起領域を横方向において相互に直列および/または並列に接続されている部分トラックに分割することによって、横方向の座標に依存する励起強度を達成することができ、この励起強度は基本モードに最適に適合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妨害的な横方向の波モードが抑制される、表面音響波によって動作する変換器ないし構成素子(表面音響波素子、SAW素子)に関する。SAW素子は殊に持ち運び可能な移動無線機器におけるフィルタとして使用される。
【0002】
公知のSAW素子は常に圧電性の基板を有し、この圧電性の基板の表面には、内部に素子構造、例えばインターディジタル変換器およびリフレクタが配置されている音響的なトラックが設けられている。インターディジタル変換器においては、電気信号の音波への変換また反対に音波から電気信号への変換が行われる。
【0003】
音波は変換器の電極フィンガの大抵周期的である配置構成に応じて、主として縦方向に伝播する。励起された音波を有利には縦方向にのみ放射する、再帰型フィルタに使用される変換器も公知である。音波の伝播に際し、変換器の端部領域においては表面波の一部が横方向に放射されることによって回折損失が生じる。
【0004】
音響的なトラック(SAWトラック)において励起された表面音響波の伝播速度は、通常の分散を有し大部分が圧電性である基板、例えば水晶、LiNbO YZにおいては基板表面の金属化により自由な基板表面に比べて低減される。これによってSAWトラックまたは電気的に相互に接続されている複数のSAWトラックは横方向において基板表面と接している外部領域と共に導波体として機能する。導波体においては横方向の波モード(基本モードおよび比較的高いモード)が励起され、この際比較的高いモードは頻繁にSAW素子の阻止領域または上側の通過領域における不所望な共振に寄与し、したがって波のエネルギの一部を消費する。この共振は殊に通過領域の不所望なリップルにつながり、さらには素子の高まった挿入損および郡遅延時間の周波数特性における妨害的なピークとしてはっきりと現れる。これによって素子のフィルタ特性は損なわれる。
【0005】
妨害的な横方向のモードを抑制するための従来公知の方法においては、電気信号の入力結合が可能な限り横方向の音響的な基本モードのみを発生させるように、電気音響的な変換器の横方向の励起プロフィールを適合させることが試みられる。
【0006】
例えば、音響的なトラックにおいて励起されるフィンガ組の並んで配置されている2つの電極フィンガの重畳領域の横方向の長さを、電気信号の横方向の基本モードへの入力結合が改善されるように変化させることが可能である。相応の方法は重畳の重み付けを基礎としており、例えば刊行物W.Tanski, Proc. 1979 IEEE Ultrasonic Symposium第815から823ページから公知である。
【0007】
択一的に、変換器の2つの電極の相互に対向している集合レールの間の間隔を維持した状態で、残片フィンガとも称され且つ横方向においては励起される電極フィンガと向かい合っている不活性の電極フィンガの長さを延長し、それと同時に励起されるフィンガ組の重畳領域を相応に縮小することが可能である。このようなやり方では比較的高い横方向の波モードの励起を限定的にしか回避することはできない。
【0008】
比較的高い横方向のモードを抑制するため、ないし変換器の励起プロフィールを横方向の基本モードの形状に適合させるための別の公知の方法は例えば刊行物DE196 38 398 C2より公知である。音響的なトラックが複数の部分トラックに分割され、この際全ての部分トラックが音波の励起に寄与する。
【0009】
抑制すべき導波体モードがN個ある場合には音響的なトラックをN個の部分トラックに分割することが選択され、この際トラック幅および/またはそれぞれの部分トラックにおける励起の符号を調節することによって、比較的高い横方向のモードが抑制されるように励起プロフィールを横方向の基本モードの形状に適合させることができる。この方法の欠点は、トラックの分割が抑制すべき導波体モードと全くの同数であるということに依存するので素子のデザインが煩雑であるということである。
【0010】
本発明の課題は、妨害的な横方向のモードが抑制される、表面音響波により動作する変換器を提供することである。
【0011】
本発明は、音響的なトラックおよびこの音響的なトラック内に配置されている素子構造、殊に第1の電極と第2の電極が相互に噛み合っている電極フィンガを有する、表面音響波によって動作する変換器を提供する。音響的なトラックないし相応の素子構造は圧電性の基板上に配置されている。音響的なトラックにおいては、横方向の基本モードによって特徴付けられている音波が励起される。横方向の基本モードは、音響的なトラックおよびこの音響的なトラックと接している横方向の外部領域とによって形成されている導波体の速度プロフィールから生じ、この際音響的なトラック内の音波の大部分のエネルギは音響的なトラック内に集中している。
【0012】
外部領域は音響的なトラックと接している励起しない基板の領域であり、この領域では横方向における音波の振幅は対応する端部領域との境界において、その振幅の最大値の僅かな程度(例えば10分の1)に低減されている。外部領域においては波の振幅がトラック側とは反対の横方向に向かって指数的に低減する。
【0013】
さらに入力結合された音波の変位は励起強度と称される。音響的なトラックは(縦方向または横方向における)励起強度によって特徴付けられている。励起強度は、一緒になって1つの励起されるフィンガ組を形成する異なる電極の縦方向に相並んで配置されている電極フィンガ間の電位差ΔUに比例する。励起強度と横方向の座標Yとの関係をここでは励起プロフィールΨと称する。
【0014】
そのようにして形成されている導波体においては音波の複数の横方向のモード(基本モードおよびその高調波)が励起ないし伝播する。所定の周波数における音波の基本モードへの電気信号の最大入力結合は、音響的なトラックが横方向において、波の相応の横方向の励起プロフィールΨが基本モードの形状Φに適合されているように構成されている場合に達成され、ここで適合に関する判定基準として次式を使用することができる。
【0015】
【数1】

ここで例えばα=0.9であり、有利にはα=0.95である。Φは横方向の座標Yに依存する横方向の基本モードの変位である。
【0016】
電気信号が音響的な基本モードに最適に入力結合される場合には、比較的高いモードへの入力結合は消える。何故ならば横方向のモードの系は近似的に直交しているからである。
【0017】
このために本発明によれば音響的なトラックが横方向において励起領域と2つの端部領域に分割されており、それぞれの端部領域における音波の縦方向の位相速度は励起領域における位相速度よりも遅い。横方向の基本モードの波数kはそれぞれの端部領域においては(k>0であり、それぞれの外部領域においては(k<0である。励起領域においてはkの値が端部領域および外部領域におけるkの値よりも実質的に小さく(例えば少なくとも1オーダ)、有利にはk=0である横方向におけるそれぞれの端部領域の波長で測定される幅は有利には実質的にλ/4であり、ここでλは相応の端部領域における横方向の基本モードの波長である。
【0018】
端部領域におけるkの値は実質的に他の領域におけるkの値よりも大きいので、横方向における横方向モードの変位は端部領域では相応に高速に変化する。したがって、導波体において近似的に長方形の基本モードを生じさせることができ、この基本モードの側縁の傾斜は端部トラックの絶対幅、また最終的に端部領域における波の位相速度に依存する。
【0019】
本発明によれば、妨害的な横方向の波モードの抑制が、横方向の音響的な基本モードへの電気信号の入力結合が音響的なトラックの端部領域の挿入および特別な構成によって改善されることにより達成される。妨害的な横方向の波モードを抑制する本発明による素子は、その素子の設計に際して、素子のシミュレーションされた伝達関数と実際の伝達関数とを良好に一致させるために、ただ1つの方向(縦方向)における波の伝播のシミュレーションを行えば十分であるという利点を有する。二次元的な(縦方向ならびに横方向における)波伝播作用の煩雑なシミュレーションを省略することができる。
【0020】
音響的なトラックの励起領域および2つの端部領域への分割は、本発明による素子の端部領域では縦方向における音波の励起が行われるのではなく、励起領域において励起される波の所期の緩慢化が行われるという点で、公知のような複数の部分トラックへのトラックの分割とは区別される。
【0021】
本発明によれば端部領域は、導波体の適切な速度プロフィールの設定によって(正弦とは異なる)横方向の導波体基本モードを調節するためにのみ使用される。横方向の基本モードの形状を調節するために、例えば端部領域の幅および/または波の位相速度を変更することができる。
【0022】
波の位相速度を例えば、通常の分散を有する電気音響的に高く結合される圧電性の基板、例えばタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムにおいては、基板の表面の金属化特性に相関的に低減させることができる。したがって端部領域における波の緩慢化を励起領域に関して比較的高い金属化特性によって達成することができる。端部領域はそれぞれ有利には100%まで金属化されており、相応の端部領域はλ/4の横方向の幅の一貫した金属ストライプの形態を有する。
【0023】
通常の拡散を有し且つ電気音響的な結合係数の低い圧電性の基板、例えば水晶では、波の位相速度の低減が端部領域における長さ単位毎の比較的多くの数の電極フィンガによって達成される。所定の方向における音波の遅延時間は、波の伝播方向に沿って配置されている電極フィンガの縁の数にも依存する。何故ならば、波は各縁において「減速される」からである。したがって波の緩慢化を端部領域の一貫した金属化の代わりに、例えば端部領域における長さ単位毎の電極フィンガの数を励起領域に比べて多くすることによって達成することができる(エネルギ蓄積効果)。端部領域における電極フィンガは有利には周期的なパターンで配置されている。音響的なトラックの励起領域における金属化特性と端部領域における金属化特性を同一に選択することができる、もしくは異なるように選択することができる。
【0024】
従来から公知である全ての方法では変換器の励起プロフィールが横方向の基本モードに適合される。横方向の基本モードの形状が変換器の所定の励起プロフィールに適合されるという本発明の着想は、最も簡単に実施できる励起プロフィールを有する変換器においても妨害的な横方向の波モードを抑制することができるという利点を有する。
【0025】
さらに本発明の有利な変形においては、前述のようにして定められた横方向の基本モードの形状への変換器の励起プロフィールの付加的な微適合を行うことができる。
【0026】
前述の微適合を例えば、励起領域が横方向において複数の部分トラックに分割されることによって実現することができ、この際各部分トラックは部分変換器を形成する。部分トラックないし部分変換器は相互に直列および/または並列に接続されている。直列接続によって、励起される電極フィンガの電位差、したがって部分トラックにおける励起強度は低減される。部分トラックは縦方向において幅を除いて同一に構成されており、この際部分トラックの幅は励起領域における励起強度の横方向のプロフィールΨが横方向の基本モードの形状Φに適合されているよう選択されている。
【0027】
以下では、本発明を実施例および付属の図面に基づき詳細に説明する。図面は本発明の種々の実施例を概略的に示しており、縮尺通りには示していない。同一の部分または同様に作用する部分には同一の参照符号を付してある。
【0028】
ここで、
図1は本発明による素子(下)、横方向における波数の変化(中央)および相応の基本モードの形状(上)を示し、
図1aは本発明による素子の構造を部分的に示し、
図2は励起領域が相互に直列に接続されている部分トラックに分割されている本発明による別の素子(下)および相応の横方向の励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状(上)を示し、
図3は励起領域が相互に直列および並列に接続されている部分トラックに分割されている本発明による別の素子(下)および相応の横方向の励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状(上)を示し、
図4は並んで接続されている複数の音響的なトラックを備えた本発明による別の素子(下)および相応の横方向の基本モードおよび横方向における波数の変化(上)を示し、
図5は従来通りに構成されている音響的なトラックを備えたフィルタの伝達関数(横方向の励起プロフィールが考慮されているおよび考慮されていないシミュレーション)(a)および相応の群遅延時間(b)を示す。
【0029】
図6は横方向の励起プロフィールが基本モードに適合されている場合での本発明により構成されている音響的なトラックを備えたフィルタの伝達関数(横方向の励起プロフィールが考慮されているおよび考慮されていないシミュレーション)(a)および相応の群遅延時間(b)を示す。
【0030】
図7は横方向の励起プロフィールが適合されていない場合での音響的なトラックにおいて伝播する横方向の波モードの変位(a)および相応の励起強度のモード(b)を示し、
図8は横方向の励起プロフィールが基本モードに適合されている場合での音響的なトラックにおいて伝播する横方向の波モードの変位(a)および相応の励起強度のモード(b)を示す。
【0031】
図1は、例えば水晶のような圧電性の基板上に配置されており且つ表面音響波を縦方向Xに伝播する音響的なトラックASを備えた本発明による素子(下)と、横方向モードの波数kの矩形と横方向の座標Yとの関係(中央)と、kプロフィールから生じる横方向基本モードΦ(上)を示す。
【0032】
音響的なトラックASは励起領域MBおよび端部領域RB1およびRB2に分割されている。横方向における端部領域の幅は近似的にλ/4であり、ここでλは端部領域における横方向の基本モードの波長である。
【0033】
素子は2つの電極E1およびE2を有し、これらの電極はそれぞれ集合レールおよびこの集合レールに接続されている電極フィンガを包含する。異なる電極の電極フィンガは励起領域において交互に配置されており、励起されるフィンガ組を形成する。端部領域における電極フィンガは全て同一の電極に属し、したがって不活性である。すなわち音波はこの端部領域においては励起されない。端部領域はこの実施例において格子構造を有し、格子の周期は励起領域MBの平均的なパターンに比べて短く、励起領域とは異なり端部領域における電極フィンガ格子の余った縁は、端部領域において誘導される音波の位相速度の遅延に寄与する。
【0034】
音響的なトラックASの励起プロフィールは励起領域によって規定されており、また本発明のこの変形においては長方形である。
【0035】
音響的なトラックASおよびこの音響的なトラックと横方向において接している外部領域AU1,AU2は一緒に導波体を形成する。横方向の導波体モードは位相係数ejkyyによって特徴付けられる。潜在的な波モードに関して横方向の波数kは導波体のコア領域(すなわち励起領域MB)においては実数であり、導波体のカバー領域(外部領域AU1,AU2)においては虚数である。
【0036】
励起領域MBにおけるkの値は他の領域におけるkの値よりも実質的に小さい。(励起領域において)k=0の場合には基本モードがこの領域においてプラトーを有する。すなわち励起領域内の波の変位は横方向Yにおいて一定である。
【0037】
音響的なトラックASの外側にあり且つ横方向においてこの音響的なトラックASと接している外部領域AU1,AU2においては、kは虚数ないし(k<0である。したがって、外部領域AU1,AU2での波の振幅は横方向において指数的に低減する。
【0038】
横方向の波数kはそれぞれの端部領域RB1,RB2において実数ないし(k>0である。この端部領域においては、励起領域における最大振幅が外部領域との境界ではその振幅の僅かな程度に遷移する。
【0039】
上述のように選択された端部領域の幅によって横方向の基本モードの形状が定まり、この形状においては外部領域内の波の振幅は外に向かって低減し、また端部領域内では横方向において定常波が生じ、ここで定常波の波腹は励起領域および端部領域の端部にあるか、または定常波の波節は外部領域との境界にある。これによって基本モードの形状は、音響的なトラックASの長方形の励起プロフィールの形状に最大限適合されている。
【0040】
端部領域における波長λの値は縦方向における波の伝播速度に依存し、この伝播速度はやはり端部領域における電極フィンガ格子のパターンに依存する。端部領域の絶対的な幅を(λの所定の値に応じて)種々に選択することができる。波長で測定される端部領域の幅は常にλ/4である。端部領域の絶対的な幅を変更することによって、基本モードの相応の側縁の傾斜を調節することができる。
【0041】
端部領域における波数kが多くなればなるほど相応の波長、したがって端部領域の絶対的な幅はますます小さくなる。k値が大きい場合には、横方向の基本モードの側縁の傾斜は相応に大きくなる。
【0042】
図1aには本発明による素子が部分的に示されており、この素子は再帰型変換器として構成されている。
【0043】
しかしながら、素子の励起領域を縦方向において少なくとも部分的に、周期的なパターンでもって配置されているインターディジタルフィンガを備えたそれ自体公知の通常のフィンガ型変換器のように、またはそれ自体公知のスプリットフィンガ型変換器のように構成することも可能である。
【0044】
本発明の別の変形形態においては、殊に、完全に金属化されている表面での短絡が位相速度の著しい低減を生じさせる、電気音響的な結合が高い圧電性の基板、例えばニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムでは、端部領域を択一的にλ/4の横方向の幅の一貫して金属化されている領域として構成することができる。
【0045】
実際には、端部領域の絶対的な幅を任意に小さく選択することができないので、端部領域の挿入によっては完全に長方形の横方向の基本モードを達成することはできない。したがって本発明の別の変形形態においては、変換器の横方向の励起プロフィールの横方向の基本モードへの微適合が、例えば励起領域を複数の部分領域に分割することによって行われている。この種の微適合は、基本モードの形状が周波数に依存するので非常に狭い周波数領域においてのみ可能である。
【0046】
図2は、音響的なトラックASの励起領域MBが横方向において4つの部分トラックTB1,TB2,TB3およびTB4に分割されている本発明の実施形態を示す。部分トラックは電気的に直列に接続されている。
【0047】
図2,3において下には音響的なトラックASの一部が示されており、上には励起領域の相応の励起プロフィールΨならびに横方向の基本モードの形状Φが概略的に示されている。
【0048】
このように分割されている励起領域の全ての部分トラックは縦方向において同一に構成されており、部分トラックの幅は有利には異なるように選択される。数字iを持つ部分トラックは幅bを有する。
【0049】
電極E1とE2との間の電圧差はUである。1つの部分トラックにおける電極フィンガ組の励起強度は電極フィンガ間の電圧差Uに比例する。Uはこれとは反対に比例的に部分トラックの容量に依存し、この容量はやはり直接的に部分トラックの幅bに比例する。
【0050】
ここでは次式が適用される。
【0051】
【数2】

【0052】
したがって部分トラックiにおける励起強度はその幅を変更することによって所期のように調節ないし重み付けすることができる。部分トラックが並列に接続されている場合には、分割されている励起領域を有する音響的なトラックASのインピーダンスは、励起領域が分割されていない音響的なトラックのインピーダンスに比べて相応に大きくなる。
【0053】
部分トラックに分割されている音響的なトラックのインピーダンスを維持するために、部分トラックの内の幾つかを相互に直列に接続し、且つこの直列回路を別の1つの部分トラックまたは複数の部分トラックと並列に接続することが可能である。これに関しては図3に示した実施例を参照されたい。
【0054】
励起領域MBは次の部分領域に分割されている:中央の部分トラックMTおよび2つの端部部分トラックRT1,RT2。端部部分トラックRT1,RT2は相互に直列に接続されており、部分トラックRT1およびRT2の直列回路は中央の部分トラックMTに並列に接続されている。中央の部分トラックMTの幅は実質的に、有利には少なくとも係数5だけ、それぞれの端部部分トラックRT1,RT2の幅よりも大きい。音響的なトラックASのインピーダンスは実質的に、比較的幅広に構成されている部分トラックMTのインピーダンスによって決定されている。電圧Uが印加される中央の部分トラックMTに比べて低減されているそれぞれの端部部分トラックRT1ないしRT2における励起強度は、直列に接続されている端部部分トラックRT1とRT2との間に印加される電圧Uを分割することによって達成される。
【0055】
図4には本発明の別の変形形態が概略的に示されている。図4は本発明による素子の一部(下)、相応の横方向の基本モードおよび横方向の波数の矩形と横方向の座標との関係(上)を示す。
【0056】
この変形形態においては、別の音響的なトラックAS´が設けられており、この別の音響的なトラックAS´は音響的なトラックASと同様に、励起領域MB´および端部領域RB1´,RB2´に分割されており、実質的に音響的なトラックASと同一に構成されている。この実施例においては音響的なトラックASおよびAS´が電気的に相互に直列に接続されており、これらの音響的なトラックは横方向において相互に平行に配置されている。音響的なトラックASと別の音響的なトラックAS´との間には中間領域ZBが配置されている。音響的なトラックASないしAS´の端部領域RB1,RB2およびRB1´,RB2´の幅は、中間領域ZBにおいてはkの値が実質的に(例えば少なくとも1オーダだけ)端部領域RB1,RB2および外部領域AU1,AU2におけるkの値よりも小さいように選択されている。異なる音響的なトラックAS,AS´の励起領域MB,MB´における位相速度と中間領域ZBにおける位相速度は実質的に等しい速さである。何故ならば、等しくない場合には2つの励起領域における横方向の基本モードのプラトーを達成することができないからである。
【0057】
平行に配置されている音響的なトラックを相互に並列に接続することも可能である。また、音響的なトラックが2つ以上平行に配置されている場合にはトラックの直列接続と並列接続を組み合わせることも可能である。
【0058】
マルチトラック型に構成されている素子の各々の別の音響的なトラックでは、(k>0である端部領域が設けられており、この端部領域においては音波が確かに励起されないが、相応の励起領域において励起される波は縦方向に伝播することができる。2つの音響的なトラックの間には、kの値が小さい中間層がそれぞれ設けられている。中間領域においては音波の励起は行われない。有利には各中間層が格子として構成されており、全ての励起領域および全ての中間領域における長さ単位毎の電極フィンガの数およびこれらの領域内の表面の金属化特性は等しい。中間領域ZBにおける電極フィンガは有利には周期的なパターンで配置されている。励起領域における電極フィンガも周期的に配置することができる、もしくは一方向性の放射セルを形成することができる。
【0059】
励起領域に対応する領域においては変位がほぼ一定である横方向の基本モードの形状および中間領域において無くなっている変位を、端部領域の絶対的な幅を適切に選択することによって調節することができ、波長で測定される端部領域の幅は常に1/4波長である。このようにして横方向の基本モードの形状は、マルチトラック型の配置構成の励起プロフィールに適合される。
【0060】
図5において、a)は端部領域を備えていない(すなわち横方向の励起プロフィールが横方向の基本モードに適合されていない)矩形の横方向の励起プロフィールを有する音響的なトラックを備えたフィルタのシミュレーションされた伝達関数を示し、b)は群遅延時間の相応の周波数経過を示す。
【0061】
曲線1および1´は伝達関数(1)ないし群遅延時間(1´)の1Dシミュレーション、すなわち横方向における波伝播が考慮されていないシミュレーションに相当する。曲線2および2´は伝達関数(2)ないし群遅延時間(2´)の2Dシミュレーション、すなわち横方向における波伝播が考慮されているシミュレーションに相当する。2Dシミュレーションはフィルタの実際の特性に相当する。
【0062】
実際の伝達関数2も実際の群遅延時間2´も通過領域においてそれぞれ1D特性(曲線1および1´)からの偏差を示し、この偏差は通過領域の不所望なリップルとして表される。伝達関数2の右側の縁には振幅における付加的な二次最大値が存在する。
【0063】
二次最大値に関する原因は比較的高い横方向の波モードであり、この波モードの位相係数と横方向の座標との関係が図7の上、曲線11,12,13に示されており、その相対的な強度が図7の下に概略的に示されている。
【0064】
次数1を有する横方向モードは、従来通りに(励起領域を有するが、端部領域は有していない)構成されているトラックでは正弦状である横方向の基本モードである。これについては図7の曲線11を参照されたい。第1の横方向のモードの相対的な強度は約90%である。
【0065】
さらには、このように構成されている音響的なトラックにおいては奇数の次数を有する別の横方向の波モードが励起される。第2の横方向の波モード(曲線12)に相当する定常的な音波は対称条件により励起することができない。
【0066】
第3の横方向の波モードの相対的な強度(基本モードの第2高調波、図7における曲線13を参照されたい)はここで約9%であり、図7には示していない第5の波モードの相対的な強度は約1%である。
【0067】
音響的なトラックの横方向の励起プロフィールが矩形であり、他方横方向のモードの形状が正弦状なので、第3および第5の横方向のモードへの入力結合が実現される。これらのモードはフィルタの通過領域を上回る不所望な共振に繋がり、このような不所望な共振はフィルタ品質(殊に通過領域における挿入損も)を劣化させる。
【0068】
本発明により相互に調整されている励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状では、比較的高い横方向の波モードは励起されない。
【0069】
図6は、本発明により図1aのように構成されている音響的なトラックを備えたフィルタの横方向の励起プロフィールが考慮されているおよび考慮されていない伝達関数のシミュレーション(a)ならびに相応の群遅延時間と周波数との関係(b)を示す。曲線3および3´は本発明によるフィルタの2Dシミュレーションに関する。
【0070】
そのような音響的なトラックにおける基本モードの形状は近似的に矩形であり、したがって励起プロフィールに適合されている。
【0071】
図1aにより構成されている音響的なトラックにおいて励起ないし伝播する横方向の導波体モードの位相係数が図8の上に示されており、モードの相対的な強度が図8の下に示されている。第1、第2および第3の横方向のモードの位相係数は曲線11´,12´および13´に対応する。比較的高い横方向のモードの相対的な強度は横方向の基本モードの強度に比べて非常に小さい。
【0072】
図7および図8における曲線14および14´はそれぞれの音響的なトラックに対応する導波体の速度プロフィールを表し、ここで波の伝播速度は縦方向を意味している。図8には、本発明による音響的なトラックの端部領域内の波の伝播速度は導波体の別の領域における伝播速度よりも遅いことが示されている。
【0073】
本発明を基本的には公知の全てのSAW素子、例えばダブルモードSAWフィルタ、通常のフィンガ型の変換器、再帰型フィルタに使用することができ、また本発明は図面に示した構成要素の数または所定の周波数領域に制限されているものではない。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による素子(下)、横方向における波数の変化(中央)および相応の基本モードの形状(上)。
【図1a】本発明による素子の構造の部分図。
【図2】励起領域が相互に直列に接続されている部分トラックに分割されている本発明による別の素子(下)および相応の横方向の励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状(上)。
【図3】励起領域が相互に直列および並列に接続されている部分トラックに分割されている本発明による別の素子(下)および相応の横方向の励起プロフィールおよび横方向の基本モードの形状(上)。
【図4】並んで接続されている複数の音響的なトラックを備えた本発明による別の素子(下)および相応の横方向の基本モードおよび横方向における波数の変化(上)
【図5a】従来通りに構成されている音響的なトラックを備えたフィルタの伝達関数(横方向の励起プロフィールが考慮されているおよび考慮されていないシミュレーション)。
【図5b】図5aに対応する群遅延時間。
【図6a】横方向の励起プロフィールが基本モードに適合されている場合での本発明により構成されている音響的なトラックを備えたフィルタの伝達関数(横方向の励起プロフィールが考慮されているおよび考慮されていないシミュレーション)。
【図6b】図6aに対応する群遅延時間。
【図7a】横方向の励起プロフィールが適合されていない場合での音響的なトラックにおいて伝播する横方向の波モードの変位。
【図7b】図7aに対応する励起強度のモード。
【図8a】横方向の励起プロフィールが基本モードに適合されている場合での音響的なトラックにおいて伝播する横方向の波モードの変位。
【図8b】図8aに対応する励起強度のモード。
【符号の説明】
【0075】
AS 音響的なトラック、 MB 励起領域、 RB1,RB2 端部領域、 E1,E2 電極、 Y 横方向、 X 縦方向、 AZ1 励起セル、 RZ1〜RZ3 反射セル、 AU1,AU2 導波体の外部領域、 TB1〜TB2 部分トラック、 MT 中央の部分トラック、 RT1 端部部分トラック、 AS´ 別の音響的なトラック、 MB´ 別の音響的なトラックの励起領域、 RB1´,RB2´ 別の音響的なトラックの端部領域、 ZB 中間領域、 1 振幅(横方向の効果が考慮されていないシミュレーション)、 2 振幅(横方向の励起プロフィールが適合されていない場合での横方向の効果が考慮されているシミュレーション)、 1´ 群遅延時間(横方向の効果が考慮されていないシミュレーション)、 2´ 群遅延時間(横方向の励起プロフィールが適合されていない場合での横方向の効果が考慮されているシミュレーション)、 3 振幅(横方向の励起プロフィールが適合されている場合での横方向の効果が考慮されているシミュレーション)、 3´ 群遅延時間(横方向の励起プロフィールが適合されている場合での横方向の効果が考慮されているシミュレーション)、 11 横方向の基本モードの位相係数と横方向の座標との関係(横方向の励起プロフィールが適合されていない場合)、 12 横方向の基本モードの第1高調波の位相係数(横方向の励起プロフィールが適合されていない場合)、 13 横方向の基本モードの第2高調波の位相係数(横方向の励起プロフィールが適合されていない場合)、 11´ 横方向の基本モードの位相係数と横方向の座標との関係(横方向の励起プロフィールが適合されている場合)、 12´ 横方向の基本モードの第1高調波の位相係数(横方向の励起プロフィールが適合されている場合)、 13´ 横方向の基本モードの第2高調波の位相係数(横方向の励起プロフィールが適合されている場合)、 14 基本モードが励起プロフィールに適合されていない導波体の速度プロフィール、 14´ 基本モードが励起プロフィールに適合されている導波体の速度プロフィール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面音響波によって動作する変換器において
異なる電極(E1,E2)の相互に噛み合っている電極フィンガを有する音響的なトラック(AS)を包含し、
前記音響的なトラック(AS)において、横方向の基本モードによって特徴付けられている音波が励起され、
前記音響的なトラック(AS)は横方向(Y)において励起領域(MB)と2つの端部領域(RB1,RB2)とに分割されており、
それぞれの端部領域(RB1,RB2)での前記音波の縦方向における位相速度は前記励起領域(MB)における位相速度よりも遅く、
前記横方向の基本モードの波数kに関して:
それぞれの端部領域(RB1,RB2)においては(k>0が適用され、
前記音響的なトラック(AS)の外の外部領域(AU1,AU2)においては(k<0が適用され、
前記励起領域(MB)においてはkの値が、前記端部領域(RB1,RB2)および前記外部領域(AU1,AU2)におけるkの値よりも少なくとも1オーダ小さいことを特徴とする、表面音響波によって動作する変換器。
【請求項2】
前記励起領域(MB)においてはk=0である、請求項1記載の変換器。
【請求項3】
前記励起領域(MB)は横方向(Y)において複数の部分トラック(TB1,TB2,TB3,TB4)に分割されており、該部分トラックは相互に直列および/または並列に接続されている部分変換器に相当する、請求項1または2記載の変換器。
【請求項4】
前記部分トラックは縦方向(X)において幅以外は同一に構成されており、前記部分トラックの前記幅は、前記励起領域(MB)における励起強度の横方向のプロフィールΨが前記横方向の基本モードの形状Φに適合されているよう選択されている、請求項3記載の変換器。
【請求項5】
前記励起強度の前記横方向のプロフィールΨの前記横方向の基本モードの形状Φへの前記適合に関して次式を適用する:
【数1】

請求項3または4記載の変換器。
【請求項6】
前記部分トラックは中央の部分トラック(MT)および2つの端部部分トラック(RT1,RT2)を有し、前記端部部分トラック(RT1,RT2)は相互に直列に接続されており且つ直列回路を形成し、該直列回路は前記中央の部分トラック(MT)と並列に接続されており、前記中央の部分トラック(MT)の幅は前記端部部分トラック(RT1,RT2)それぞれの幅よりも少なくとも係数5大きい、請求項3から5までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項7】
前記端部領域(RB1,RB2)はそれぞれ、横方向の幅がλ/4である、縦方向において一貫した金属ストライプとして構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項8】
前記端部領域(RB1,RB2)における長さ単位毎の電極フィンガの数はそれぞれ前記励起領域(MB)における電極フィンガの数よりも大きい、請求項1から6までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項9】
異なる電極(E1,E2)の前記電極フィンガは前記励起領域(MB)において周期的なパターンで配置されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項10】
前記励起領域(MB)は縦方向において一方向に放射または反射するセルに分割されており、縦方向において相並んで配置されている複数の電極フィンガは前記励起領域(MB)において、有利な方向に音波を放射するセルまたは反射作用を有するセルを形成する、請求項1から8までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項11】
前記第1の音響的なトラック(AS)の他に少なくとも1つの別の音響的なトラック(AS´)が設けられており、該別の音響的なトラック(AS´)は励起領域(MB´)と端部領域(RB1,RB2)とに分割されており、且つ前記第1の音響的なトラック(AS)と実質的に同一に構成されており、音響的なトラック(AS,AS´)は相互に並列に配置されており、2つの音響的なトラックの間には中間領域(ZB)が配置されており、前記音響的なトラック(AS,AS´)の前記端部領域(RB1,RB2,RB1´,RB2´)の幅は、前記中間領域(ZB)において波数kの値が前記端部領域(RB1,RB2)および前記外部領域(AU1,AU2)における端数kの値よりも少なくとも1オーダ小さいように選択されており、異なる音響的なトラック(AS,AS´)の前記励起領域(MB,MB´)における位相速度および前記中間領域(ZB)における位相速度は等しい、請求項1から10までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項12】
前記中間領域(ZB)における長さ単位毎の電極フィンガの数は、異なる音響的なトラック(AS,AS´)の前記励起領域(MB,MB´)における長さ単位毎の電極フィンガの数に実質的に等しい、請求項11記載の変換器。
【請求項13】
前記電極フィンガは前記中間領域(ZB)において周期的なパターンで配置されている、請求項12記載の変換器。
【請求項14】
前記端部領域(RB1,RB2)それぞれの幅は横方向において実質的にλ/4であり、ここでλは前記端部領域(RB1,BR2)それぞれにおける横方向の基本モードの波長である、請求項1から13までのいずれか1項記載の変換器。
【請求項15】
請求項1から14による少なくとも1つの変換器を有するフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−507130(P2007−507130A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518004(P2006−518004)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006499
【国際公開番号】WO2005/006547
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】