説明

樹皮原料から糖類を製造する方法

【課題】 木質系バイオマスである樹皮を原料とし、少ないエネルギーで、前処理として必要な機械的破砕処理を行い、さらに環境への負荷の大きい薬品を使用しない方法によって、破砕された樹皮の酵素糖化を促進することを可能とする、糖類を製造する方法を提供する。
【解決手段】 樹皮原料を、温水で湿潤処理する温水処理工程、該温水処理工程からの処理樹皮を機械的に破砕処理する機械的破砕処理工程、破砕処理された樹皮に白色腐朽菌を加えて処理する菌処理工程、及び菌処理された樹皮を酵素で糖化処理する酵素糖化工程からなる各工程を有することを特徴とする、樹皮原料から糖類を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスである樹皮の前処理方法及び該前処理物を原料とする糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹木は、細胞分裂が活発な形成層を境界にその内側の木部と外側の樹皮に分けられる。樹皮は総樹木質量の約10〜15%を占め、若いユーカリでは、樹皮は木部と比べてリグニン含量が比較的に低く、可溶性成分を多く含み柔軟である。
【0003】
さらに、樹皮は死んだ組織の外樹皮と生きている組織の内樹皮に分けられる。
外樹皮は、主に周皮あるいはコルク層からなり、木材組織を機械的損傷から守るとともに、温度と湿度の変動を小さくしている。
内樹皮は、師要素、柔細胞及び厚壁細胞からなり、師要素は液体と栄養素の運搬の機能を持ち、柔細胞はデンプン等の栄養素貯蔵の機能を持ち、内樹皮の師要素間に介在する。厚壁細胞は支持組織として機能し、木部の年輪と同じように層状に観察され、形によって靭皮繊維とスクレレイドとに区別される。
【0004】
樹皮組織は、大きく分けて、繊維、コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質からなる。
樹皮の繊維は、木部の繊維と化学的に似ており、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなる。
コルク細胞及び柔細胞を含む微細物質には多量の抽出成分が存在し、コルク細胞の壁にはスベリン類が、微細物質画分にはポリフェノール類が多い。
【0005】
このように、樹皮は木部と異なり多くの有用な可溶性成分を含有し、その量は乾燥質量の20から40%に達し、しかも、繊維画分には木部と同様な繊維質を有しているという優れた性質を有している。しかし、樹皮は、材木用途では使用されず、製紙工程のパルプ化の際には、わずかに混入してもパルプの品質を低下させるため、枝や根とともに植林地で肥料として土壌に戻されるか、製材工場又はチップ工場で剥皮され焼却されており、木質系バイオマスとして有効利用されていない。
【0006】
近年、食料と競合しない木質系バイオマス等の非食用バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースからのバイオエタノール等の燃料生産について研究開発が進められている。樹皮に含まれるセルロース分やヘミセルロース分はこれまで有効利用されていなかったものであり、未利用資源として活用していくことが期待されている。
【0007】
木質系バイオマスを利用する際には、セルロースやヘミセルロース等の多糖を単糖であるグルコース等に分解する糖化が重要な段階となる。得られた単糖は微生物による発酵あるいは化学的な方法により化成品に変換され利用される。
現在、木質系バイオマスから単糖を生成する方法として基本的には、酸糖化法、酵素糖化法がよく知られている。
酸糖化法では、加水分解反応に使用される酸の経済的に有効な分離・回収法がないため、多量の廃酸が発生するという問題がある。
【0008】
酵素糖化法は、木質系バイオマス中に含まれるセルロースやヘミセルロースをセルラーゼやヘミセルラーゼ等の酵素により加水分解する糖化方法である。酵素反応は穏やかな条件で進むことから、環境負荷の小さい方法として近年注目されてきている。
酵素糖化法の問題点は、リグニンとヘミセルロース及びセルロースが結合しており、酵素のセルロースへの接触を阻害しているため、グルコース収率が低くなってしまうことである。そこで、通常、酵素による分解性を促進するため、酵素糖化に先立って機械的破砕処理、加圧熱水処理、蒸煮及び爆砕による物理的処理、酸やアルカリによる化学的処理等の前処理が施される。
【0009】
前処理のうち機械的破砕処理は、原料の表面積を大きくするため、前処理として行われる化学的処理において薬品の浸透性を上げて処理効率を高めたり、酵素糖化において酵素の反応性を上げる、等の効果がある。また、破砕することで均一性が向上するため、後段の酵素処理や薬品処理の工程における取り扱いが容易になるという効果もある。しかし、大きな投入エネルギーが必要な点が問題である。
【0010】
酵素糖化により糖類を製造する方法において、前処理として加圧熱水でバイオマスを処理した後、機械的粉砕処理を施す方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、140℃から220℃、約1MPa〜3MPaという高温高圧条件でバイオマスを処理し、熱水処理物の平均粒径が5μm以下になるまで機械的粉砕処理を行うことが好ましいとしているが、大きな投入エネルギーが必要となることへの対策については開示されていない。
【0011】
また、バイオマスを高温高圧化で蒸煮処理したのち、瞬時に大気圧又はその付近の低温低圧条件下に放出して爆砕する処理方法が提案されている(特許文献2参照)。しかし、高温高圧で処理するため投入エネルギーが大きく、高価な反応装置を使用しなければならないという問題がある。
また、化学的前処理として水酸化ナトリウム等のアルカリを使用する方法が知られているが、薬品代、中和処理コスト、あるいは廃棄物処理コストが高くなり、環境への負荷も大きくなってしまうという問題がある。
【0012】
一方、環境への負荷が小さい木質系バイオマスの改質方法として、従来から微生物を使う方法が知られていた(特許文献3〜5参照)。
特許文献3には、白色腐朽菌を利用してリグノセルロースを処理し、得られた多糖を酵素糖化処理することで単糖を得る方法、及び糖化・発酵処理することで発酵産物を得る方法が開示されている。この方法では、白色腐朽菌接種前後に原料の破砕及び粉砕を行っているが、それによって投入エネルギーが大きくなることについては考慮されていない。
【0013】
特許文献4には、白色腐朽菌を用いて木材チップ等の木質系バイオマスを処理することにより、粉砕エネルギーを削減する方法が開示されている。粉砕後のバイオマスは、混焼やガス化によるバイオマスエネルギー製造時や硫酸加水分解等による糖化の前処理における木質系バイオマスの粉砕エネルギーを削減する技術に利用できるとしているが、そのまま酵素糖化に供することができるか否かについては記載されていない。
【0014】
特許文献5では、製紙原料であるパルプの製造において、白色腐朽菌等の微生物によりリグニンやセルロースを分解させることで、従来のアルカリ等の薬剤を用いた蒸解と同じ作用をさせることができることが記載されている。しかしパルプ製造のための前処理であるため処理物の糖化効率等については記載されていない。
【0015】
また、特許文献3〜5のいずれにも原料として樹皮の利用可能性については触れられていない。一般に、樹皮には微生物の生育を阻害する性質があることが知られており、そのような樹皮の抗菌、抗カビ作用を利用した発明も提案されている(特許文献6)。しかし、樹皮を微生物処理することは一定の困難を伴い、現在一般的に行われていない。実際、通常パルプ製造の原料として使用されるチップの菌処理では、10〜30mm×2〜8mm×5〜20mmのサイズのチップに対して十分な効果が得られるのに対して(例えば、特許文献3)、樹皮の場合、縦10mm×横10mm×厚さ5〜10mmのサイズでは菌処理の効果が十分に得られない(後記比較例参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−136263号公報
【特許文献2】特開昭59−204997号公報
【特許文献3】特開2007−37469号公報
【特許文献4】特開2008−6372号公報
【特許文献5】特開2002−115188号公報
【特許文献6】特開2001−348764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記特許文献3及び4にあるように、微生物による処理は大きなエネルギーをかけることを要する他の処理と組み合わせて使用されていることが多く、全体としては処理後に得られるバイオマスの有するエネルギーよりも多量のエネルギーを投入していることになり、環境負荷の低減とならないことが大きな問題であった。
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、木質系バイオマスである樹皮を原料とし、前処理として必要な機械的破砕処理を少ない動力で行い、さらに、その破砕物から酵素糖化によって糖類を生産することを可能とする方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の各技術手段を選択し採用することによって、少ないエネルギーで原料樹皮の糖化を促進できることを見いだした。
【0019】
(1)樹皮原料を、温水で湿潤処理する温水処理工程、該温水処理工程からの湿潤処理樹皮を機械的に破砕処理する機械的破砕処理工程、破砕処理された樹皮を白色腐朽菌で処理する菌処理工程、及び菌処理された樹皮を酵素で糖化処理する酵素糖化工程からなる各工程にしたがって処理して樹皮原料から糖類を製造する。
【0020】
(2)前記(1)項における温水処理工程を、乾燥樹皮原料1質量部に対して20質量部以下の割合の温水に原料樹皮を浸漬し、湿潤処理する工程とする。
(3)前記(1)項又は(2)項における温水処理工程の温水の温度を50℃〜130℃とする。
(4)前記(1)項〜(3)項のいずれかにおける温水処理工程の温水への樹皮原料の浸漬時間を1分〜72時間とする。
(5)前記(1)項〜(4)項のいずれかにおける温水処理工程から得られる処理樹皮と温水の混合物から処理樹皮と温水を分離する固液分離工程を設け、分離された温水を温水処理工程に循環する。
(6)前記(1)項〜(5)項のいずれかにおいて使用される白色腐朽菌を、アラゲカワラタケとする。
【0021】
(7)前記(1)項〜(6)項のいずれかにおいて使用される樹皮原料を、グランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(Urophylla)種、ダニアイ(dunnii)種及びこれらの交雑種から選ばれるユーカリ(Eucalyptus)属に属する樹木の樹皮から選ばれる少なくとも1種とする。
【0022】
(8)前記(1)項〜(7)項のいずれかにおける機械的破砕処理工程を、レファイナー、破砕機及び離解機のいずれかを用いて樹皮原料を破砕する処理工程とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、少ない投入エネルギーで樹皮を破砕したのち、環境への負荷が大きいアルカリ等の薬品を使用することなく、白色腐朽菌を使用して処理する前処理方法を含む「樹皮原料から糖類を製造する方法」が提供されるので、従来、木質系資源として未利用であった樹皮からバイオエタノールを製造する途を拓くものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を詳述する。
本発明で対象となる木質系バイオマスは、木本植物の樹皮である。用いる樹皮は、特に限定されないが、好ましくは、ユーカリ(Eucalyptus)属、さらに好ましくはグランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(Urophylla)種、ダニアイ(dunnii)及びこれらの交雑種である。
【0025】
本発明では、樹皮原料を酵素糖化原料とするために、樹皮原料を、温水で湿潤処理する温水処理工程、及び該温水処理工程からの温水処理樹皮を機械的に破砕処理する機械的破砕処理工程、及び該機械的破砕処理工程からの破砕処理樹皮に白色腐朽菌を加えて処理する菌処理工程に従って前処理する。
【0026】
樹皮原料は、入手できる状態のままで原料とすることができる。通常、搬送時の取り扱い性等を考慮して数cmに裁断乃至粉砕されている状態のものであればそのまま処理することが好ましい。樹皮原料のサイズは小さいほど処理しやすいが、本発明の方法では、温水処理工程において処理された樹皮は機械的破砕処理により少ないエネルギーコストで容易に微細化できるので、乾燥樹皮原料を過度に微細化処理することは避けることが好ましい。
【0027】
温水処理工程とは、上記で得た樹皮原料を、温水で湿潤処理する工程である。湿潤処理とは、樹皮原料を温水中に浸漬した状態で一定時間保持するか、または水蒸気に暴露した状態で一定時間保持することにより行う。なお、本発明においては、手段を問わず、樹皮原料を加温された湿潤状態に保持することを、温水処理工程という。
【0028】
乾燥樹皮原料1質量部に対して添加する温水の量は、湿潤により原料樹皮を充分に柔軟化できる量の範囲で適宜選択可能であるが、温水の量が多すぎると、温水処理工程後の液分を廃液として処理する際のコストが増大する。従って、20質量部以下とすることが好ましい。
浸漬処理温度は、樹皮を湿潤によって充分に柔軟化せしめることができる温度であれば特に限定されないが、好ましくは50℃〜130℃、さらに好ましくは80〜125℃である。温水処理は、オートクレーブ等を用いた加圧条件下で行ってもよく、常圧下で行うことも可能である。樹皮を柔軟化する効果と水の蒸発を考えると、80〜125℃が好適である。
また、浸漬処理時間は、樹皮を湿潤によって柔軟化せしめるに十分な時間であれば特に限定されないが、好ましくは1分〜72時間、さらに好ましくは、5分〜3時間である。
【0029】
温水に浸漬処理された樹皮は、そのまま機械的破砕処理に供しても良いが、固液分離により、固形分と液分に分けて固形分のみを機械的破砕処理に供しても良い。固液分離手段としては、フィルター等を用いた常圧下での濾過のほか、加圧濾過、吸引濾過や、遠心分離手段を用いることができる。
液分は、そのまま温水処理に再利用することができる。また液分に含まれる熱エネルギーを回収して利用することができる。
【0030】
機械的破砕処理工程で用いる機械は、樹皮を破砕できれば特に限定されず、レファイナー、破砕機、離解機などが使用できる。破砕粒度は特に限定されないが、樹皮を小さく破砕して表面積を大きくすると、樹皮中の揮発性の抗菌物質は揮発しやすくなり、また、菌と樹皮との接触面積が広くなるため、菌が樹皮に蔓延しやすくなり、菌処理後の糖化率が高くなる。
【0031】
破砕された樹皮は白色腐朽菌による処理に供される。白色腐朽菌としては、アラゲカワラタケ(Trametes hirsuta)、セリポリオプシス・サバーミスポラ(Ceriporiopsis subvermispora)、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)等を用いることができる。また、これらの白色腐朽菌は遺伝子組換え技術によって作製されたものであってもよい。例えば、セルロース分解酵素活性を抑制したアラゲカワラタケ(特開2007−104937号公報参照。)を用いることができる。
【0032】
上記白色腐朽菌は、あらかじめ各菌に適した培養条件で増殖させたのち、それを種菌として上記バイオマスに接種することができる。その際の培養には、例えば液体培養が用いられる。培地は上記白色腐朽菌が増殖できるのであれば特に限定されない。液体培養で得られた菌体はそのまま上記バイオマスに接種してもよいが、菌糸を細片化してバイオマス中に分散しやすくしてから接種するとより効果的である。
また、上記白色腐朽菌をはじめに上記バイオマスに接種した後、増殖した菌体の一部を種菌として再び上記バイオマスに接種してもよい。こうすることで白色腐朽菌を毎回培養する必要がなく、培養に要するコストを抑えることができる。
【0033】
上記バイオマスに接種された白色腐朽菌の培養条件は、白色腐朽菌が増殖可能な範囲において適宜設定可能である。培養温度は15〜45℃が好ましく、更に好ましくは25〜35℃である。培養時間は、白色腐朽菌の種類や培養条件によって異なるが、工業的利用を考え、通常3日以上、好ましくは7〜35日である。
なお、白色腐朽菌を接種するに際に、栄養源を別途添加してもよい。特に窒素源の添加は、白色腐朽菌の生育を促進する上で有効である。窒素源としては工業的利用を考えると尿素や硫酸アンモニウムを利用することが好ましく、例えば、尿素を用いる場合は、0.05〜2.50g/kg樹皮の濃度で添加することが好ましい。
【0034】
樹皮を菌処理すると原料の固形分量は減少するが、糖含量には顕著な減少はみられないことから、菌処理には糖化後の廃棄物量削減の効果もある。
菌処理後の樹皮は、更に他の処理を施すことなく、酵素糖化処理に供する。使用する酵素はセルラーゼであれば特に制限はない。また、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼなど他の酵素を含むものでもよい。例えば、トリコデルマ・リーセイの産生するセルラーゼ、あるいは市販のセルロイシンT2(エイチビーアイ株式会社製)、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)、ノボザイム188(ノボザイムジャパン株式会社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア協和株式会社製)等を使用できる。原料に対するセルラーゼの使用量は、0.5〜100質量%が好ましく、1〜50質量%が特に好ましい。反応条件はpHが4〜7が好ましい。温度は25〜75℃が好ましい。
【0035】
糖化により得られた糖は、発酵反応、酵素反応等の原料として利用することができる。発酵反応としては乳酸等の有機酸やエタノール等のアルコール類を生成するものを利用することができる。また発酵反応は酵素糖化反応と同時に行うこともできる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。各例中、%は質量%である。
【0037】
実施例1
ユーカリ・グロブラスの樹皮を約4cm角に切断し、以下の試験に用いた。
絶乾600g相当の上記樹皮を、樹皮に含まれる水分も含め計3000gとなるイオン交換水に浸漬し、この混合物を、オートクレーブを用いて120℃にて1時間加熱することにより温水処理を施した。温水処理後、篩を用いて樹皮と温水を分離した。
【0038】
温水処理によって柔軟化された樹皮を、レファイナー(熊谷理機工業製)を用いて、クリアランス1mmにて破砕処理を行った。
破砕処理に要した動力は93kWh/tであり、温水処理を施さずに破砕処理をした場合の動力1977kWh/tと比較して大幅に低減していた。なおレファイナー動力は電力積算計を用いて計測した。所要動力は実際に樹皮を破砕するのに要した消費電力から空転に要した電力を差し引いた電力として求めた。空転は樹皮を破砕せずにレファイナーを動作させることと定義する。
【0039】
なお、温水処理において、樹皮を室温20℃から120℃まで昇温するのに要するエネルギーは、木材の比熱1.3J・g−1・K−1(理科年表)をもとに計算すると、36kWh/tである。また、使用する水を加圧下で20℃から120℃まで昇温するのに要するエネルギーについてみると、樹皮1質量部に対して水5質量部を使用したが通常その半分を回収し再利用することができるので、樹皮1t当り291kWhである。再利用しない場合でも581kWhである。これらを含めても、温水処理したのち破砕処理した方が、温水処理せずに破砕処理をするよりも、投入エネルギーの大幅な低減となる。
【0040】
得られた樹皮破砕処理物の絶乾5.0g相当をガラスシャーレに入れ、121℃にて20分間滅菌処理した。
【0041】
アラゲカワラタケ NBRC4917株をGP寒天培地(3%グルコース、1%ポリペプトン、0.15%KHPO、0.05%MgSO・7HO、2ppm塩酸チアミン、1.5%寒天pH5.0)上でコロニーを形成させ、直径5mmの寒天片をコルクボーラーで打ち抜き、ワーリングブレンダーで破砕したのち、GP液体培地に植菌し、30℃にて3日間振盪培養した。培養後、遠心分離で上清を一部除去し、ワーリングブレンダーで破砕した。
【0042】
破砕した菌体を絶乾質量で250mg/kg樹皮となるように上記滅菌樹皮に加え、窒素源として尿素を1.25g/kg樹皮となるように加えてよく混ぜ、30℃にて保温した。
17日後、25日後、32日後に質量を測定したのち、以下の反応組成で、50℃にて120rpmで振盪し、酵素糖化を行った。24時間後、グルコース濃度をバイオセンサーBF4(王子計測機器製)で、全糖濃度をフェノール硫酸法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0043】
<反応液組成>
5%樹皮(菌処理開始時の絶乾質量として)
2.5%マルティフェクトCX10L(ジェネンコア協和株式会社製)
100mM酢酸緩衝液(pH5.0)
【0044】
【表1】



【0045】
表1の結果より、グルコース、全糖ともに菌処理時間が長くなるほど酵素糖化されやすくなり収率が上がることが示された。32日後ではグルコース濃度は1.14%、全糖濃度は1.56%であった。
【0046】
実施例2
セリポリオプシス・サバーミスポラ(Ceriporiopsis subvermispora)をPD寒天培地(ポテトデキストロースアガー、Difco)上でコロニーを形成させ、直径5mmの寒天片をコルクボーラーで打ち抜き、ワーリングブレンダーで破砕したのち、PD液体培地に植菌し、30℃にて3日間振盪培養した。培養後、遠心分離で上清を一部除去し、ワーリングブレンダーで破砕した。得られた菌体破砕物を用いて、実施例1と同様に樹皮を処理し、酵素糖化を行い、グルコース濃度、全糖濃度を測定した。測定結果を表1に示す。グルコース、全糖ともに菌処理時間が長くなるほど酵素糖化されやすくなり収率が上がり、32日後ではグルコース濃度は0.36%、全糖濃度は0.61%であった。
【0047】
比較例1
実施例1で得られたレファイナー処理した樹皮に、菌体破砕物を加えず、尿素のみを加えて、30℃にて保温した。実施例1と同様にして酵素糖化を行い、グルコース濃度、全糖濃度を測定した。測定結果を表1に示す。グルコース、全糖ともに処理時間を長くしても収率は変わらず、32日後ではグルコース濃度は0.12%、全糖濃度は0.28%であった。
【0048】
以上より、レファイナーで破砕した樹皮をアラゲカワラタケ NBRC4917株で処理することにより、全糖収率で5倍以上の酵素糖化促進効果が認められた。また セリポリオプシス・サバーミスポラ(Ceriporiopsi
subvermispora)で処理することにより、全糖収率で2倍以上の糖化促進効果が認められた。
【0049】
これらの結果から、樹皮を温水処理した後、レファイナーにより破砕することで樹皮の破砕に要する動力を大幅に下げることができ、そのようにして得られた破砕された樹皮をアラゲカワラタケやセリポリオプシス・サバーミスポラ(C.subvermispora)などの白色腐朽菌で処理することで、そのままでは酵素糖化がほとんど進まない樹皮に対しても高い糖化率を達成できることが示された。
【0050】
比較例2
樹皮を約1cm×1cmの小片に切断し、レファイナー処理せずに、絶乾10.0g相当をガラスシャーレに入れ、121℃にて20分間滅菌処理した。実施例1と同様に調製した破砕した菌体を絶乾質量で250mg/kg樹皮となるように上記樹皮に加え、窒素源として尿素を1.25g/kg樹皮となるように加えてよく混ぜ、30℃にて保温した。
31日後に樹皮を破砕したのち実施例1と同様に酵素糖化を行い、グルコース濃度及び全糖濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0051】
【表2】



【0052】
比較例3
比較例2と同じ樹皮を、菌体破砕物を加えずに、尿素のみを加えて30℃にて保温した。実施例1と同様にして酵素糖化を行い、グルコース濃度、全糖濃度を測定した。測定結果を表2に示す。
【0053】
比較例2及び3から、レファイナー処理していない樹皮を白色腐朽菌によって処理しても酵素糖化はわずかに促進されるのみであり、その効果はレファイナー処理してから菌処理した場合の8分の1以下であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、温水で湿潤処理して柔軟化した樹皮を機械的破砕処理し、さらに白色腐朽菌による処理を施すことにより、低い投入エネルギーで、環境に大きな負荷をかけずに樹皮の酵素糖化を促進することが可能になる。得られた糖はバイオエタノールをはじめ様々な発酵産物の原料として供給することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮原料を、温水で湿潤処理する温水処理工程、該温水処理工程からの湿潤処理樹皮を機械的に破砕処理する機械的破砕処理工程、破砕処理された樹皮に白色腐朽菌を加えて処理する菌処理工程、及び菌処理された樹皮を酵素で糖化処理する酵素糖化工程からなる各工程を有することを特徴とする、樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項2】
前記温水処理工程が、乾燥樹皮原料1質量部に対して20質量部以下となる割合の温水に原料樹皮を浸漬し、湿潤により柔軟化する処理工程であることを特徴とする、請求項1に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項3】
前記温水処理工程における温水の温度が50℃〜130℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項4】
前記温水処理工程における、温水への樹皮原料の浸漬時間が1分〜72時間であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項5】
前記白色腐朽菌がアラゲカワラタケであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹皮の糖化方法。
【請求項6】
前記樹皮原料が、グランディス(grandis)種、グロブラス(globulus)種、ナイテンス(nitens)種、カマルドレンシス(camaldulensis)種、デグラプタ(deglupta)種、ビミナリス(viminalis)種、ユーロフィラ(Urophylla)種、ダニアイ(dunnii)種及びこれらの交雑種から選ばれるユーカリ(Eucalyptus)属に属する樹木の樹皮の少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。
【請求項7】
前記機械的破砕処理工程が、レファイナー、破砕機及び離解機のいずれかを用いて樹皮原料を破砕する処理工程であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹皮原料から糖類を製造する方法。




【公開番号】特開2010−172199(P2010−172199A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15134(P2009−15134)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】