説明

樹脂シートの製造方法

【課題】良好な外観を有するポリ塩化ビニルからなる樹脂シートを製造することが可能な樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】マニホールド22に連通された押出流路23が幅方向に延びて形成されたコートハンガー型のTダイ12を用い、Tダイ12のマニホールド22へ溶融状態のポリ塩化ビニル樹脂を送り込み、マニホールド22において樹脂を幅方向へ広げ、押出流路23から平面状に押し出して樹脂シートSを製造する際に、Tダイ12として、押出流路23を形成するシート形成面23aに、塩浴軟窒化処理することにより窒化鉄層が形成されたもの、または窒化珪素が溶射されたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tダイによって樹脂シートを押出成形する樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Tダイから溶融状態で押し出したシート状の熱可塑性樹脂を、冷却用のローラにより案内して冷却し、所望の樹脂シートを製造することが知られている。
【0003】
また、複数の光ファイバテープ心線を収容するスロットの外周に熱可塑性樹脂からなる外被を被覆する際に、熱可塑性樹脂との接触面が塩浴軟窒化処理された押出治具を用いて熱可塑性樹脂を押し出し成形する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−82506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
並列に配列された複数の導体を有するフラットケーブルにおいては、導体の表裏に被覆材としてポリ塩化ビニル(PVC)から形成された樹脂シートが貼り合わされる。この樹脂シートは、スロットの外周に外被を成形する押出治具と異なり、樹脂を平面状に押出成形するコートハンガー型のTダイを用いて製造される。
しかしながら、コートハンガー型のTダイによって樹脂をシート状に成形する場合、樹脂がポリ塩化ビニルであると、樹脂シートの表面に梨地状の皺が入り、外観不良が生じてしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、良好な外観を有するポリ塩化ビニルからなる樹脂シートを製造することが可能な樹脂シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明の樹脂シートの製造方法は、押出流路が幅方向に延びて形成されたコートハンガー型のTダイを用い、前記Tダイへ溶融状態のポリ塩化ビニル樹脂を送り込み、前記押出流路からポリ塩化ビニル樹脂を平面状に押し出す樹脂シートの製造方法であって、
前記Tダイとして、前記押出流路を形成するシート形成面に、塩浴軟窒化処理または臭素系ガスによるガス軟窒化処理をすることにより窒化鉄層が形成されたもの、または窒化珪素が溶射されたものを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂シートの製造方法によれば、押出流路を通過するポリ塩化ビニル樹脂のシート形成面への引っ掛かりを防止することができる。これにより、皺の発生や幅方向における厚さの不均等などの不具合なく、良好な外観の樹脂シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Tダイの構成を示す図であって、(a)はTダイの水平方向の断面図、(b)は鉛直方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る樹脂シートの製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
本発明の樹脂シートは、例えば、並列に配列された複数の導体を有するフラットケーブルにおいて、その導体の表裏に被覆材として貼り合わされるポリ塩化ビニル(PVC)からなる樹脂シートとして使用される。
【0011】
溶融状態の樹脂をTダイから押出して樹脂シートを成形する。この樹脂シートは、空冷または水冷されて引き取りローラによって引き取られる。
【0012】
図1(a),(b)に示すように、樹脂シートSを押出成形するTダイ12には、幅方向の中心部に、樹脂充填路21が形成されており、この樹脂充填路21には、射出成形機(図示省略)から溶融状態の樹脂が送り込まれる。
【0013】
Tダイ12は、樹脂充填路21と連通するマニホールド22が幅方向に延びて形成されており、このマニホールド22には、樹脂充填路21から溶融状態の樹脂が流入される。このマニホールド22は、左右対称形状に形成されており、平面視において両側部に向かってTダイ12の出口側へ傾斜している。
Tダイ12は、いわゆるコートハンガー型のTダイであり、マニホールド22に流入した樹脂は、マニホールド22内においてTダイ12の幅方向へ広がるようになっている。
【0014】
また、Tダイ12には、マニホールド22と幅方向にわたって連通する押出流路23が形成されており、マニホールド22において幅方向へ広がった樹脂が押出流路23へ押し出される。押出流路23は、マニホールド22と比較してその断面厚さが薄く形成されている。この押出流路23内に樹脂が押し出されることにより、樹脂がシート状に成形される。
【0015】
Tダイ12の先端部は、押出流路23の開口部である吐出口24が形成されたリップ部25であり、このリップ部25の吐出口24から、押出流路23においてシート状に成形された樹脂からなる樹脂シートSが送り出される。
【0016】
Tダイ12の寸法の一例を示すと、押出流路23の厚さは0.4mm、押出流路23の幅は150mmである。押出流路23とマニホールド22を含む流路の長さ(奥行き)は、吐出口24からの距離が最も長くなる樹脂充填路21までの奥行きが250mmであり、吐出口24側へ傾斜したマニホールド22の幅方向端部での奥行きが200mmである。
【0017】
上記のTダイ12は、例えば、炭素鋼(S45Cなど)や鋳鋼によって形成されている。なお、これに限定するものではなく、その他の材料で形成することも可能である。
また、Tダイ12の押出流路23を形成するシート形成面23aには、例えば、タフトライド(登録商標)処理などの塩浴軟窒化処理を施すことにより、窒化鉄層が形成されている。
【0018】
シート形成面23aに塩浴軟窒化処理を施すには、まず、シート形成面23aを脱脂、洗浄して予熱する。そして、青酸塩(KCN,NaCN,KCNO,NaCNOなど)を主成分とする塩浴中に浸漬して、処理浴中で鉄の変態温度以下となる500〜610℃程度の低温で加熱し、Tダイ12の鉄中にN,C,O元素を浸透させ、その後、冷却洗浄する。
【0019】
このようにすると、シート形成面23aには、その表面近傍に8〜15μm程度の化合物層が形成されるとともに、化合物層の内側に0.1〜0.5mm程度の拡散層が形成される。シート形成面23aに塩浴軟窒化処理を施すことで、シート形成面23aの平均表面粗さRaを0.01〜0.15μmと極めて小さくすることもできる。
【0020】
また、材質の硬化度が上がるために、寸法変化が少なくなり、処理後の矯正や研磨加工が不要となる。具体的には、Tダイ12が炭素鋼製の場合、表面硬度(HmV100g)を350〜650、Tダイ12が鋳鋼製の場合、表面硬度(HmV100g)を400〜600まで高めることができる。
【0021】
さらに、Tダイ12のシート形成面23aの耐熱性が向上するため、400℃までの環境下においても摩擦係数や寸法が変化しない。また、耐蝕性が向上するため、湿度80%の環境下でも錆びの発生を防ぐことができる。
【0022】
本実施形態では、上記のTダイを用いてポリ塩化ビニル(PVC)からなる樹脂シートSを製造する。
この樹脂シートSを製造するには、射出成型機からTダイ12の樹脂充填路21へ溶融状態のポリ塩化ビニルの樹脂を送り込む。樹脂充填路21に送り込まれた樹脂は、マニホールド22において幅方向へ広がり、さらに、このマニホールド22から押出流路23へ押し出され、この押出流路23を通過することにより、シート状に成形される。そして、このTダイ12のリップ部25の吐出口24から、ポリ塩化ビニルからなる樹脂シートSが送り出される。
【0023】
その際、押出流路23を形成するシート形成面23aに塩浴軟窒化処理が施されていることから、押出流路23を通過するポリ塩化ビニル樹脂は、シート形成面23aに引っ掛かって皺が形成されるようなことなく、幅方向全体で略同一速度で押し出される。これにより、押出成形される樹脂シートSは、その表面が滑らかで良好な外観に形成され、また、幅方向における厚さが均等になる。
【0024】
Tダイ12の下流側では、吐出口24から送り出される樹脂シートSを、空冷または水冷により冷却し、巻き取りローラへ巻き取る。
【0025】
上記実施形態に係る樹脂シートの製造方法によれば、Tダイ12として、押出流路23を形成するシート形成面23aが塩浴軟窒化処理することにより窒化鉄層を形成したものを用いることにより、押出流路23を通過するポリ塩化ビニル樹脂がシート形成面23aに引っ掛かることがない。これにより、皺の発生や幅方向における厚さの不均等などの不具合なく、良好な外観の樹脂シートSを製造することができる。
【0026】
なお、上記実施形態では、押出流路23を形成するシート形成面23aに、塩浴軟窒化処理することにより窒化鉄層が形成されたTダイ12を用いて樹脂シートSを成形したが、臭素系のガス軟窒化処理を施すことにより、窒化鉄層を形成することもできる。Tダイ本体を軟窒化するときに流路を研磨できないが、表面粗度が細かい臭素系のガス軟窒化処理を施すと上記の塩浴軟窒化処理と同等の結果であった。また、シート形成面23aに窒化珪素などのファインセラミックスを溶射したTダイ12を用いて樹脂シートSを成形しても同等の結果が得られた。なお、窒化珪素を溶射するセラミック溶射方法としては、フレーム溶射法やプラズマ溶射法などの各種の溶射方法が適用可能である。
【0027】
シート形成面23aに窒化珪素を溶射したTダイ12を用いた場合も、押出流路23を通過するポリ塩化ビニル樹脂のシート形成面23aへの引っ掛かりを防止することができ、皺の発生や幅方向における厚さの不均等などの不具合なく、良好な外観の樹脂シートSを製造することができる。
【0028】
なお、本発明の実施形態と比較を行うため、Tダイとして、押出流路を形成するシート形成面に硬質クロムメッキの表面処理を施してポリ塩化ビニル樹脂を押出成形した。その結果、成形された樹脂シートには、梨地状の皺が形成され、また、幅方向において厚さが不均等となった。これは、ポリ塩化ビニルからなる樹脂がシート形成面に引っ掛かり、押出流路の中央側よりも両端側で樹脂の押出速度が遅くなるためと考えられる。
【0029】
そこで、シート形成面を鏡面処理し、ポリ塩化ビニルからなる樹脂を押し出して樹脂シートを成形した。この場合も、硬質クロムメッキの表面処理を施した場合と同様に、皺が形成されて外観不良となった。つまり、樹脂シートの皺の発生原因は、ポリ塩化ビニル樹脂の固有の問題であり、シート形成面の面粗度の影響は低いと考えられる。
また、アンモニアによるガス軟窒化処理は窒化鉄層がすぐに剥離して表面処理の効果を奏することができなかった。
【0030】
これに対して、Tダイ12として、押出流路23を形成するシート形成面23aに、塩浴軟窒化処理することにより窒化鉄層を形成したもの、または窒化珪素を溶射したものを用いると、押出流路23を通過するポリ塩化ビニルからなる樹脂は、シート形成面23aに引っ掛かって皺が形成されるようなことなく幅方向全体で略同一速度で押し出された。これにより、滑らかな表面を有し、良好な外観で、かつ幅方向における厚さが均等な樹脂シートSを製造することができた。
【0031】
このことから、Tダイ12を用いてポリ塩化ビニルからなる樹脂をシート状に押し出し、外観不良のない樹脂シートSを製造するには、押出流路23を形成するシート形成面23aを、塩浴軟窒化処理することにより窒化鉄層を形成するか、窒化珪素を溶射することが有効であることが分かった。
【符号の説明】
【0032】
12:Tダイ、22:マニホールド、23:押出流路、23a:シート形成面、S:樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出流路が幅方向に延びて形成されたコートハンガー型のTダイを用い、前記Tダイへ溶融状態のポリ塩化ビニル樹脂を送り込み、前記押出流路からポリ塩化ビニル樹脂を平面状に押し出す樹脂シートの製造方法であって、
前記Tダイとして、前記押出流路を形成するシート形成面に、塩浴軟窒化処理または臭素系ガスによるガス軟窒化処理をすることにより窒化鉄層が形成されたもの、または窒化珪素が溶射されたものを用いることを特徴とする樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224905(P2011−224905A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97959(P2010−97959)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】