説明

樹脂フィルム接合体の製造方法

【課題】 接合部分の段差を小さくし、光吸収剤を塗布する工程を必要とせず、さらに光吸収剤が異物として付着することを抑制しつつ、効率的に、樹脂フィルム部材同士を接合して樹脂フィルム接合体を簡便に製造し得る樹脂フィルム接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂フィルム部材の端面同士を突き合わせて接合して樹脂フィルム接合体とする樹脂フィルム接合体の製造方法であって、用いるレーザー光の波長に対して光吸収率が高く、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えた光吸収部材を用い、前記端面同士が突き合わせられた部分を前記表面に当接させ、前記光吸収部材にレーザー光を照射して発熱させることにより、前記樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、前記光吸収部材から、突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体とすることを特徴とする樹脂フィルム接合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム接合体の製造方法に関し、例えば、帯状の樹脂フィルム部材同士を接合して樹脂フィルム接合体を作製する樹脂フィルム接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯状の樹脂フィルム部材を連続的に加工機に供給して加工を施すような場合において、先行する樹脂フィルム部材に続けて新たな樹脂フィルム部材を加工機に供給するべく、先行する樹脂フィルム部材の末端部分に新たな樹脂フィルム部材の先端部分を接合すること(いわゆる、スプライス)が行われている。また、このような場合に限らず、樹脂フィルム部材同士を端部で接合して樹脂フィルム接合体を作製する樹脂フィルム接合体の製造方法が広く実施されている(特許文献1参照)。
【0003】
この種の樹脂フィルム接合体の製造方法としては、図4(a)に示すように、レーザー光100Rに対して透過性を示す樹脂フィルム部材101、102同士を光吸収剤104を介して重ね合わせ、該重ね合わせられた部分にレーザー光100Rを照射し該樹脂フィルム部材101、102同士を熱溶着させて接合する方法が提案されている。
また、他の方法としては、図4(b)に示すように、レーザー光100Rに対して透過性を示す樹脂フィルム部材101、102の端部同士を突き合わせ、この突き合わせられた部分を、光吸収剤104が塗布された接合部材105で、樹脂フィルム部材101、102と接合部材との界面に光吸収剤104が位置するように被覆し、該接合部材105で被覆されている箇所にレーザー光100Rを照射して、樹脂フィルム部材101、102と接合部材105とを熱溶着させて接合する方法なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3682620号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの方法では、樹脂フィルム部材同士を重ね合わせたり、樹脂フィルム部材同士と接着部材とを熱溶融させたりするため、作製される樹脂フィルム接合体の接合部分に段差が生じ、例えば、樹脂フィルム接合体をロール状に巻き取ったものを外側から繰り出して別のロールに巻き取らせる所謂ロールトゥロールによって該樹脂フィルム接合体を搬送する際には、接合部分(継ぎ目、接合部材等)の段差(エッジ)が搬送用のローラを通過する際に、該ローラを傷つけてしまうおそれがある。また、該樹脂フィルム接合体をロール状に巻き取った際に、この段差に起因した打痕がこの段差の周辺部分に生じ得ることから、製品の取り出し効率が悪くなるというおそれもある。
【0006】
そこで、図5に示すように、発熱媒体106に光吸収剤104を塗布し、樹脂フィルム部材101、102を突き合わせ、樹脂フィルム部材101、102と発熱媒体106との界面に光吸収剤104が位置するように上記突き合わせられた部分を発熱媒体106で被覆し、該発熱媒体106で被覆されている箇所にレーザー光100Rを照射し樹脂フィルム部材101、102同士のみを熱溶着させて接合し、上記突き合わせられた部分を発熱媒体106から剥離することにより、樹脂フィルム接合体107を作製する方法が考えられる。
【0007】
しかし、かかる方法では、熱溶着後、発熱媒体106に塗布された光吸収剤104が樹脂フィルム接合体107に付着して発熱媒体106から消失することから、熱溶着毎に発熱媒体106に光吸収剤104を塗布する工程が必要となりリードタイムが長くなってしまうという問題がある。また、光吸収剤104を塗布する塗布装置が必要になり、初期コストがかかり、また、これらの設置分だけ樹脂フィルム接合体を製造する装置自体が大掛かりなものになってしまうという問題もある。また、光吸収剤を塗布すべき部分以外にも非意図的に異物として光吸収剤104が付着した場合、製品歩留まりが低下してしまうというおそれもある。
【0008】
そこで、これらの問題点を解決するために、例えば、上記のように光吸収剤が塗布された発熱媒体の代わりに、光吸収性を有する材料が例えば膜状等に成形されてなる光吸収部材を用いる方法も考えられる。この方法は、例えば、上記したような2つの樹脂フィルム部材が突き合わせられた部分に上記光吸収部材を当接させ、該光吸収部材にレーザー光を照射して樹脂フィルム部材同士のみを熱溶着させて接合し、上記突き合わせられた部分を上記光吸収部材から剥離することにより、樹脂フィルム接合体を作製する方法である。
【0009】
しかし、かかる方法では、照射されたレーザー光によって光吸収部材の光吸収率が変化する場合があり、かかる場合には、繰り返しレーザー溶着を行う際、接合部分の品質がばらつくのを防止すべく、レーザー溶着を行う度にレーザー光の照射条件等を変化させなければならなくなるため、効率が悪くなる。一方、同じレーザー光の照射条件等を用いて繰り返しレーザー溶着を行うこととすれば、レーザー溶着を行う度に光吸収部材を交換する必要があるため、上記同様、効率が悪くなる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、接合部分の段差を小さくし、光吸収剤を塗布する工程を必要とせず、さらに光吸収剤が異物として付着することを抑制しつつ、効率的に、樹脂フィルム部材同士を接合して樹脂フィルム接合体を作製し得る樹脂フィルム接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題について本発明者が鋭意研究したところ、上記光吸収率の変化には、レーザー光の照射によって発生した熱の影響による光吸収部材の表面における酸化、すなわち該表面の安定性が関与していることが判明した。そして、光吸収部材が300℃の温度環境下で安定性を有することにより、レーザー光の照射による光吸収部材の光吸収率の変化を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る樹脂フィルム接合体の製造方法は、
樹脂フィルム部材の端面同士を突き合わせて接合して樹脂フィルム接合体とする樹脂フィルム接合体の製造方法であって、
用いるレーザー光の波長に対して前記樹脂フィルム部材よりも光吸収率が高く、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えた光吸収部材を用い、
前記端面同士が突き合わせられた部分を前記表面に当接させ、前記光吸収部材にレーザー光を照射して発熱させることにより、前記樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、前記光吸収部材から前記突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体とすることを特徴とする。
【0013】
ここで、本発明において、「300℃の温度環境下で安定性を有する」とは、「300℃の温度環境下で酸化しない」ことを意味する。
【0014】
かかる樹脂フィルム接合体の製造方法によれば、光吸収部材がレーザー光を吸収して発熱することにより樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着することによって、以下の作用効果を奏する。
すなわち、樹脂フィルム部材同士が互いに端面のみを介して接合された状態となるため、接合部分に段差の少ない樹脂フィルム接合体を製造することができる。そして、このように接合部分の段差を少なくすることができるため、樹脂フィルム接合体を搬送用のローラを用いて搬送した場合には、当該搬送用のローラの損傷等を防止することができる。また、樹脂フィルム接合体を巻き取った場合には、打痕が生じ難くなり、製品の取り出し効率を高くすることができる。
また、光吸収剤を塗布する工程を必要とすることなく樹脂フィルム接合体を作製することができる。従って、光吸収剤を塗布する工程分だけリードタイムを短くできる。また、塗布設備コストや高価な光吸収剤の材料コストを抑制することができる。さらに、光吸収剤起因の異物が生じることがないため製品歩留まりを向上させることができる。
さらに、上記表面が300℃の温度環境下で安定性を有することにより、レーザー光の照射で発生した熱の影響による光吸収部材の表面における光吸収率の変化を防止することができるため、レーザー溶着を行う度にレーザー光の照射条件等を変化させることなくレーザー溶着を行うことが可能となる。また、光吸収部材を交換しなくても同じレーザー光の照射条件等を用いて繰り返しレーザー溶着を行うことが可能となる。これにより、樹脂フィルム接合体の製造が、効率的となる。
従って、かかる樹脂フィルム接合体の製造方法によれば、接合部分の段差を小さくし、光吸収剤を塗布する工程を必要とせず、さらに光吸収剤が異物として付着することを抑制しつつ、効率的に、樹脂フィルム部材同士を接合して、効率的に、樹脂フィルム接合体を製造することができる。
【0015】
上記製造方法においては、前記光吸収部材は、前記レーザー光の波長に対して10%以上の光吸収率を有することが好ましい。
【0016】
このように、光吸収部材が上記10%以上の光吸収率を有することによって、より確実に、より効率良く樹脂フィルム部材同士を熱溶着することができる。
【0017】
上記製造方法においては、前記光吸収部材は、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボンまたはカーボングラファイトを含有することが好ましい。
【0018】
このように、光吸収部材が、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボンまたはカーボングラファイトを含有することによって、レーザー光をより効率的に吸収して発熱することが可能となる。また、上記表面が300℃の温度環境下で安定性を有し易くなる。
【0019】
上記製造方法においては、前記レーザー光が、800nm以上2000nm以下の波長を有することが好ましい。
【0020】
このように、レーザー光の波長が近赤外線域であることにより、熱へのエネルギー変換効率が良く、また、安定したレーザー光が得られ易くなる。
【0021】
上記製造方法においては、前記樹脂フィルム部材が、150μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0022】
このように、樹脂フィルム部材が150μm以下の厚みを有することによって、レーザー光照射により発生した熱が、樹脂フィルム部材の厚み方向全域にわたってより伝わり易くなるため、樹脂フィルム部材をより十分に熱溶融させ易くなる。
【0023】
上記製造方法においては、前記樹脂フィルム部材が300℃以下の融点またはガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
【0024】
このように、樹脂フィルム部材が300℃以下の融点またはガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を含有することによって、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
【0025】
上記製造方法においては、前記樹脂フィルム部材が、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂のいずれか1つ以上を含有することが好ましい。
【0026】
これら樹脂は、いずれも300℃以下の融点またはガラス転移点を有するため、上記のように、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、接合部分の段差を小さくし、光吸収剤を塗布する工程を必要とせず、さらに光吸収剤が異物として付着することを抑制しつつ、効率的に、樹脂フィルム接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態に係る樹脂フィルム接合体の製造方法の端面形成工程及び突き合わせ工程を示した概略工程図。
【図2】一実施形態に係る樹脂フィルム接合体の製造方法の接合工程を示した図。
【図3】本実施形態に係る樹脂フィルム接合体をロール状に巻き取る工程を示した図。
【図4】従来技術のレーザー光を用いた樹脂フィルム接合体の製造方法を示した図。
【図5】考え得る、レーザー光を用いた樹脂フィルム接合体の製造方法を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法は、樹脂フィルム部材の端面同士を突き合わせて接合して樹脂フィルム接合体とする樹脂フィルム接合体の製造方法であって、用いるレーザー光の波長に対して前記樹脂フィルム部材よりも光吸収率が高く、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えた光吸収部材を用い、前記端面同士が突き合わせられた部分を前記表面に当接させ、前記光吸収部材にレーザー光を照射して発熱させることにより、前記樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、前記光吸収部材から、突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体とする方法である。
【0031】
具体的には、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法では、第1の樹脂フィルム部材の端部と第2の樹脂フィルム部材の端部とを重ね、該重ねられた端部双方を同時に切断することによって、これらの端部に互いに合致する端面たる切り口を形成する端面形成工程と、該端面形成工程で形成された一方の端面と他方の端面とを突き合わせ、突き合わせられた部分を光吸収部材の表面に当接させる突き合わせ工程と、該突き合わせられた部分を光吸収部材と共に固定する工程と、該光吸収部材にレーザー光を照射して発熱させることにより、樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、上記光吸収部材から上記突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体とする接合工程とを実施する。
【0032】
上記した第1の樹脂フィルム部材および第2の樹脂フィルム部材としては、同種の熱可塑性樹脂を含有しているものが一般的であるが、同種のものである場合に限定されず、互いに熱溶着可能な材料であれば異なる種類のものであってもよく、例えば、相溶性のある異種の熱可塑性樹脂を使用することもできる。
また、このような熱可塑性樹脂は、300℃以下の融点を有することが好ましく、250℃以下の融点を有することがより好ましい。上記熱可塑性樹脂が300℃以下の融点を有することによって、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
また、上記したような熱可塑性樹脂が、融点を持たない非晶質性の熱可塑性樹脂である場合には、上記熱可塑性樹脂は、300℃以下のガラス転移点を有することが好ましく、250℃以下のガラス転移点を有することがより好ましい。上記熱可塑性樹脂が300℃以下のガラス転移点を有することによって、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
このように、上記熱可塑性樹脂が、300℃以下の融点またはガラス転移点を有することにより、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
【0033】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂などが挙げられる。また、上記熱可塑性樹脂として、これらのうちいずれか1つを用いることも、2つ以上を混合して用いてもよい。
また上記熱可塑性樹脂は、これら樹脂のうち、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂のうち少なくとも1つ以上であることが好ましい。これら樹脂は、いずれも300℃の融点またはガラス転移点を有するため、上記のように、樹脂フィルム部材を熱溶融させ易くなる。
【0034】
また、上記樹脂フィルム部材は、単層のものであってもよく、複数層が積層されたものであってもよく、少なくとも1層が熱可塑性樹脂で構成されていれば、特に限定されない。
複数層が積層された樹脂フィルム部材としては、例えば、基材層と、粘着剤付きの保護フィルム層とがラミネートされたものを挙げることができる。
尚、このような複数層が積層された樹脂フィルム部材を熱溶着する場合、各層を一時的に剥離して各層毎に熱溶着してしてもよく、複数層が積層されたまま熱溶着してもよい。例えば、基材層と保護フィルム層との相溶性が悪く、両層を熱溶融させも混合層を形成しない場合には、両層が積層された樹脂フィルム部材同士を熱溶着しても、熱溶着後に基材層と保護フィルム層とを剥離することが可能である。
【0035】
さらに、上記樹脂フィルム部材の厚みは、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。該厚みが150μm以下であることによって、レーザー光の照射により光吸収部材から発生した熱エネルギーが樹脂フィルム部材の厚み方向(深さ方向)全域にわたってより伝わり易くなり、樹脂フィルム部材同士をより十分に熱溶着させ易くなる。
一方、樹脂フィルム部材の厚みが5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。該厚みが5μm以上であることによって、厚みの分だけ樹脂フィルム接合体の接合強度をより十分に高くすることができる。
【0036】
また、前記樹脂フィルム部材は、前記レーザー光に対する光透過率が30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
なお、「光透過率」は、「100%−“光吸収率(%)”」にて示される値で下記式(1)によって求められる値である。
透過光強度÷入射光強度×100% ・・・(1)
(ただし、「入射光強度」は、「照射光強度−表面反射光強度」によって求められる。)
【0037】
上記端面形成工程では、図1(a)に示すように、第1の樹脂フィルム部材10の端部と第2の樹脂フィルム部材20の端部とを重ねた状態で樹脂フィルム部材10、20双方を固定配置し、刃物40などを用いた一般的な樹脂フィルム部材10、20の切断方法により、該重ねられた端部双方を一度に切断することによって、これらの端部に互いに合致する端面たる切り口を形成する。樹脂フィルム部材10、20の固定方法としては、例えば、樹脂フィルム部材10、20を吸着により固定する吸着装置30等を用いて固定する方法など、一般的な固定方法を用いることができる。
【0038】
そして、上記端面形成工程では、図1(b)に示すように、第1の樹脂フィルム部材の切れ端10aと第2の樹脂フィルム部材の切れ端20aを切れ端回収部(図示せず)に移送する。
【0039】
本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法は、上記端面形成工程を実施することによって、上記突き合わせ工程において、突き合わせられた端面同士を略平行な状態にして一方の端面と他方の端面とを突き合わせることができる。
【0040】
上記突き合わせ工程では、図1(c)に示すように、樹脂フィルム部材10、20それぞれを吸着装置30で固定しつつ、樹脂フィルム部材10、20が載置されるステージ50(ステージ50は図2に記載。)上へと移動させ、所望のギャップとすべく必要に応じて該吸着装置30を微調整して該端面形成工程で形成された一方の端面と他方の端面とを突き合わせる。
【0041】
また、上記突き合わせ工程では、樹脂フィルム部材10、20間のギャップの長さ(樹脂フィルム部材10、20間にできる隙間における端面に垂直な方向の長さのうち最大のもの)を、樹脂フィルム部材の厚み未満にすることが好ましく、樹脂フィルム部材の厚みの半値未満にすることが更に好ましく、樹脂フィルム部材の厚みの1/3未満にすることが特に好ましい。本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法は、上記ギャップの長さを樹脂フィルム部材の厚み未満にすることにより、レーザー光の照射により光吸収部材から発生した熱エネルギーによって樹脂フィルム部材の樹脂が熱溶融されて流動化されることによって、ギャップを埋め、良好な接合状態及び強度を得ることができる。
【0042】
さらに、上記突き合わせ工程では、カメラ(図示せず)等が備えられたギャップモニター(図示せず)を用いて上記ギャップの長さを測定し、イレギュラーな要因(例えば、地震等)によって該ギャップの長さが規定値以上になってしまった場合には、樹脂フィルム部材10、20を固定する吸着装置30の少なくともいずれか一方を移動させて微調整することにより、該ギャップの長さを規定値よりも小さくさせてもよい。
【0043】
上記接合工程では、図2に示すように、突き合わせられた部分に光吸収部材50aが当接するように配されたステージ50上で、該突き合わせられた部分を、透明ガラスである加圧部材60で押圧して加圧固定しつつ、上記突き合わせられた部分を光吸収部材50aに当接させる。そして、このように加圧固定された状態で、光吸収部材50aにレーザー光Rを照射して発熱させることにより、樹脂フィルム部材10、20の端面同士を熱溶着させて接合し、光吸収部材50aから上記突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体80を作製する。
尚、上記突き合わせられた部分を光吸収部材50aに当接させる方法としては、上記突き合わせられた部分を光吸収部材50aの上面に載置して当接させる方法」(図2)の他、上記突き合わせられた部分を、光吸収部材50aの下面に押し付けて当接させる方法(不図示)等が挙げられる。
【0044】
上記加圧固定時における加圧強度は、レーザー光Rが照射される部分である、突き合わせられた部分において、0.5〜100kgf/cm2であることが好ましく、10〜70kgf/cm2であることがさらに好ましい。
【0045】
加圧部材60の形状は、突き合わせられた部分に荷重がかかっていれば特に限定されるものではないが、該形状としては、例えば、平板、円筒、球状のものなどを使用することができる。
【0046】
加圧部材60の厚みは、3mm以上30mm未満が好ましく、5mm以上20mm未満が更に好ましい。上記接合工程では、厚みが3mm以上の加圧部材60を用いることによって、加圧部材60自体が加圧固定時に歪み難くなり良好な加圧固定をすることができる。また、上記接合工程では、厚みが30mm未満の加圧部材60を用いることによって、レーザー光Rが加圧部材60を透過する際にレーザー光Rが損失され難くなるため、樹脂フィルム部材10、20同士を効率よく熱溶着させ易くすることができる。
【0047】
加圧部材60を構成する透明ガラスを例示すると、「テンパックス」の商品名で市販されている硬質ホウ珪酸ガラス、「パイレックス」の商品名で市販されているホウ珪酸ガラス、「バイコール」の商品名で市販されている96%シリカガラス、「D263」として市販のバリウムホウ珪酸ガラス、「OA10」として市販の無アルカリガラス、「AF45」の商品名で市販されているアルミノホウ珪酸ガラスをはじめとして、溶融石英、無アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0048】
加圧部材60は、レーザー光Rが加圧部材60を透過する際にレーザー光Rが損失され難くなり前記樹脂フィルム部材10、20同士を効率よく熱溶着し易くなるという観点から、レーザー光Rの波長に対して50%よりも高い光透過率を有していることが好ましく、70%よりも高い光透過率を有していることが更に好ましい。
【0049】
上記接合工程では、突き合わせられた部分の大面積を加圧部材60で均一に加圧して全域に渡って良好な接合を行うという観点から、突き合わせられた部分と加圧部材60との間に、レーザー光Rに対する透過性があり且つ加圧部材60よりもクッション性に優れた相間部材70を介装させてもよい。
【0050】
相間部材70の材料としては、ゴム材料(例えば、シリコンラバー、ウレタンラバー等)や樹脂材料(例えば、ポリエチレン等)等が挙げられる。
【0051】
また、相間部材70は、単層のものであってもよく、複数層が積層されたものであってもよい。
【0052】
また、相間部材70は、用いるレーザー光Rの波長に対して、50%よりも高い光透過率を有していることが好ましく、70%よりも高い光透過率を有していることが更に好ましい。
【0053】
さらに、相間部材70の厚みは、50μm以上5mm未満が好ましく、1mm以上3mm未満が更に好ましい。上記接合工程では、厚みが50μm以上の相間部材70を用いることによって、加圧によって生じた力をより十分に分散することが可能となる。これにより、突き合わせられた部分の大面積を加圧部材60でより均一に加圧して全域に渡ってより一層良好な接合を行うことができる。また、厚みが5mm未満の相間部材70を用いることによって、レーザー光Rが相間部材70を透過する際にレーザー光Rが損失され難くなり、樹脂フィルム部材10、20同士を効率よく熱溶着させ易くなる。
【0054】
上記接合工程で用いるレーザー光Rは、光吸収部材50aを発熱させる役目を担うものであり、本発明の効果を損ねない範囲であれば、レーザーの種類は特に限定されない。該レーザーは、熱へのエネルギーの変換効率が良い波長である可視光域または赤外線域の光を有するという観点から、好ましくは、半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーである。これらの中でも、安価で且つ空間的に面内均一な強度のレーザービームが容易に得られるという観点から、半導体レーザーやファイバーレーザーがより好ましい。フェムト秒レーザーやピコ秒レーザーによるプロセスのような多光子吸収過程を経由するプロセスにおいては、レーザー波長に対する樹脂フィルム部材10、20の透明性に関係なく、レーザーの焦点位置や投入エネルギーを最適化することにより、接合を達成させることが可能となる。また、樹脂フィルム部材10、20の分解を避けつつ熱溶融を促すという観点から、瞬間的に高いエネルギーを投入するパルスレーザーよりも連続波のCWレーザーのほうが好ましい。
【0055】
上記レーザーに関し、出力(パワー)、パワー密度、ビーム形状、照射回数、走査速度、照射時間、及び積算照射量などは、樹脂フィルム部材10、20や光吸収部材50aの光吸収率といった光学特性や融点、ガラス転移点(Tg)といった熱特性などの違いによって適宜設定すればよい。
尚、照射するレーザーのパワー密度としては、光吸収部材を介してレーザー光Rにより樹脂フィルム部材10、20の突き合わせられた部分を熱溶融し流動化させて強固な接合を得るという観点から、50W/cm2〜3,000W/cm2好ましく、200W/cm2〜1,500W/cm2がさらに好ましく、250W/cm2〜1,000W/cm2が特に好ましい。
また、積算照射量としては、同様の観点から、10J/cm2〜300J/cm2が好ましく、20J/cm2〜150J/cm2がさらに好ましく、30J/cm2〜100J/cm2が特に好ましい。
【0056】
上記接合工程では、樹脂フィルム部材10、20同士が突き合わせられた部分に沿ってレーザー光Rを照射することにより、樹脂フィルム部材10、20を透過したレーザー光Rが光吸収部材50aに照射される。
尚、上記接合工程では、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを、突き合わせられた部分に走査しながら照射することが可能である。また、シリンドリカルレンズや回折光学素子等の光学部材によってライン状のレーザービームを生じさせ、突き合わせられた部分に照射することも可能である。さらに、さらに、突き合わせられた部分に沿ってレーザー光源を複数配置して、無走査によって一括して照射することも可能である。
【0057】
また、レーザー光の波長は、800nm〜2000nmであることがより好ましい。このように、レーザー光の波長が近赤外線域であることにより、熱へのエネルギー変換効率が良く、また、安定したレーザー光が得られ易くなる。
【0058】
光吸収部材50aは、用いるレーザー光の波長に対して樹脂フィルム部材よりも光吸収率が高く、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えている。
【0059】
かかる光吸収部材50aが、用いるレーザー光の波長に対して樹脂フィルム部材よりも高い光吸収率を有することにより、照射されたレーザー光Rを吸収して発熱し、対象とする樹脂フィルム部材10、20へ熱を伝えて樹脂フィルム部材10、20同士を熱溶着させる役割を担う。
また、光吸収部材50aは、用いるレーザー光に対して10%以上の光吸収率を有することが好ましく、20%以上の光吸収率を有することがさらに好ましく、30%以上の光吸収率を有することが特に好ましい。
光吸収材50aが、上記10%以上の光吸収率を有することにより、より確実に樹脂フィルム部材を熱溶融させることができる。また、レーザー光のレーザーパワーが比較的低くても、十分に樹脂フィルム部材を熱溶融させることが可能となり、エネルギー効率がより高くなる。
【0060】
かかる光吸収率は、分光光度計(JASCO社製、V−670、積分球使用)によって測定することができる。
また、上記光吸収率は、光吸収部材50aの厚みや成分比率等によって、調整することができる。
【0061】
また、上記光吸収部材50aが、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えていることによって、レーザー光の照射で発生した熱の影響により光吸収部材50aの表面の光吸収率が変化することを抑制することができる。これにより、レーザー溶着を行う度にレーザー光の照射条件等を変化させることなくレーザー溶着を行うことが可能となる。また、光吸収部材を交換しなくても同じレーザー光の照射条件等を用いて繰り返しレーザー溶着を行うことが可能となる。従って、樹脂フィルム接合体の製造が、効率的となる。
上記のように光吸収部材50a表面の光吸収性の低下を抑制するという観点から、光吸収部材50aが350℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えていることがより好ましい。
ここで、本発明において、「300℃の温度環境下で安定性を有する」とは、「300℃の温度環境下で酸化しない」ことを意味する。
また、上記表面が上記温度環境下で酸化するか否かは、ナノインデンテーション法によって測定することができる。具体的には、常温(20℃)及び300℃の温度環境下にそれぞれ光吸収部材50aを配し、ナノインデンテーション法によって表面硬度を測定し、得られた常温及び300℃における表面硬度を比較することによって、光吸収部材50aの表面が300℃で酸化するか否かを判定することができる。
かかる測定方法においては、300℃における表面硬度が常温における表面温度に対して80%以下となったことによって、光吸収部材50aの表面が酸化したことを確認することができる。
一方、上記測定方法を用い、環境温度を常温から上昇させ、常温における表面温度に対する表面硬度が80%となる温度を測定することによって、光吸収部材50aの酸化温度を得ることができる。このようにして得られた光吸収部材50aの酸化温度が300℃を超えている場合、当該光吸収部材50aは、300℃の温度環境下で酸化しない、すなわち300℃の温度環境下で安定性を有することになる。
【0062】
また、光吸収部材50aは、レーザー照射によって樹脂フィルム部材10、20が溶けた際に一緒に溶けてしまわないように、樹脂フィルム部材10、20よりも耐熱性が優れていることが好ましい。具体的には、光吸収部材50aの融点が、樹脂フィルム部材10、20の融点よりも高いことが好ましく、該光吸収部材50aの融点が300℃以上であることが好ましい。
【0063】
また、光吸収部材50aは、レーザー照射によって発生した熱を効率良く樹脂フィルム部材10、20に伝達するという観点から、熱伝導率が低いことが好ましく、具体的には、熱伝導率が100W/m/Kよりも低いことが好ましく、熱伝導率が50W/m/Kよりも低いことが更に好ましく、熱伝導率が20W/m/Kよりも低いことが一層好ましい。
【0064】
このような光吸収部材50aは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラッシーカーボンまたはカーボングラファイトを含有していることが好ましい。これにより、レーザー光Rを効率的に吸収して発熱することができる。また、300℃以上の温度環境下でレーザー光をより効率的に吸収して発熱することが可能となる。また、光吸収部材の表面が300℃の環境下で安定性を有し易くなる。
尚、ダイヤモンドライクカーボンは、グラファイト構造とダイヤモンド構造が混在するアモルファスカーボンを意味する。
【0065】
光吸収部材50aの形状は、上記突き合わせられた部分の下面または上面に当接する表面を有していれば、特に限定されない。本実施形態では、光吸収部材50aは、膜状に形成されて、土台部50bの表面に配置されており、該土台部50bと共にステージ50に備えられている。
【0066】
具体的には、PVD法(例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、レーザーアブレーション法、イオンビームデポジション法、及びイオン注入法等)及びCVD法(例えば、熱CVD法、プラズマCVD法)等の方法により、膜状の光吸収部材50aが前記土台部50bに設けられている。このように、光吸収部材50aが膜状であることにより、レーザー光Rに照射によって発生した熱を光吸収部材50aの表層にとどめておき易くなる、すなわち土台部50b側に逃し難くなるため、効率的に樹脂フィルム部材に熱を伝えて樹脂フィルム部材同士を接合することが可能となる。
【0067】
また、上記光吸収部材50aの表面の、水1μLに対する接触角が60°以上であることが好ましく、70°以上であることがより好ましい。上記接触角が60°以上であることにより、上記表面が撥水性に優れるため、熱溶融した樹脂フィルム部材10、20が光吸収部材50aに付着し難くなる。これにより、熱溶着した樹脂フィルム部材を光吸収部材50aから剥離し易くすることができる。また、熱溶着した樹脂フィルム部材が光吸収部材50aに付着して固着することを防止することができ、より確実に光吸収部材50aを繰り返し使用することができる。従って、樹脂フィルム部材の接合が、より効率的となる。
【0068】
光吸収部材50aの表面は、ビッカース硬さが500Hv以上であることが好ましく、1000Hv以上であることがさらに好ましく、3000Hv以上であることが特に好ましい。該表面のビッカース硬さが1000Hv未満であると、該表面がレーザー光の吸収で発生した熱による応力に耐えられず、変形し、作製された樹脂フィルム接合体の品質を低下させるおそれがある。これに対し、ビッカース硬さが1000Hv以上であることによって、上記表面が上記熱による応力に十分耐えることができ、作製された樹脂フィルム接合体の品質の低下を抑制することができる。
【0069】
また、光吸収部材50aの表面は、算術平均粗さ(Ra)が100nm未満であることが好ましく、70nm未満であることがより好ましく、50nm未満であることがさらに好ましい。該表面の算術平均粗さが100nm以上であると、熱溶融した樹脂フィルム部材がアンカー効果によって光吸収部材50aの表面に付着し易くなるため、付着した樹脂フィルム部材が固着して光吸収部材50aの再利用が困難となったり、熱溶着した樹脂フィルム部材を光吸収部材50aから剥離し難くなったりするおそれがある。これに対し、上記表面の算術平均粗さが100nm未満であることによって、上記アンカー効果の発生を抑制して、熱溶融した樹脂フィルム部材が光吸収部材50aにより付着し難くなるため、樹脂フィルム部材同士を熱溶着した後、光吸収部材50aから剥離する際の離型性を高めることができる。
【0070】
また、光吸収部材50aの表面は、汚れ転写を防止し得るという観点や、撥水性が優れるという観点から、表面処理がなされていても良い。このような表面処理としては、例えば、フッ素処理等が挙げられる。
【0071】
光吸収部材50aの厚みは、0.1μm〜5.0μmが好ましく、0.3μm〜2.0μmが更に好ましく、0.5μm〜1.5μmが特に好ましい。該厚みが0.1μm以上であることにより、光吸収部材50aがレーザー光Rを吸収しやすくなり、樹脂フィルム部材10、20を効率良く熱溶着しやすくなる。また、該厚みが5.0μm以下であることにより、本実施形態のように光吸収部材50aが土台部50bの表面に配されている場合には、光吸収部材50aの変温時に、土台部50bと光吸収部材50aとの線膨張係数の違いによって土台部50bから光吸収部材50aが剥がれてしまうのを抑制することができる。
【0072】
さらに、上記光吸収部材50aは、撥水性を向上させる目的でフッ素元素を含有していてもよく、また、要求仕様に応じて適宜最適な元素を含有してもよい。
【0073】
また、上記したように、本実施形態のステージ50は、土台部50bと、該土台部50bの表面に配置された光吸収部材50aとを備えている。
【0074】
土台部50bの材質は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されるものではないが、該土台部50bの材質としては、金属、ガラス、樹脂、ゴム、セラミックス等が挙げられるが、ガラスが特に好ましい。土台部50bの材質がガラスであることにより、ガラスの熱伝導率が比較的低いため、レーザー光Rの照射によって光吸収部材50aから発生した熱が土台部50b側に移動し難くなり、該熱を樹脂フィルム部材10、20に効率良く伝えることができる。また、ガラスの耐熱性が高いため、土台部50bの耐久性が高くなる。
【0075】
また、ステージ50は、光吸収部材50aと土台部50bとの間にプライマー層(図示せず)を備えていてもよい。プライマー層の材質としては、例えばシリコーン系材料等が挙げられる。このように、プライマー層を備えていることにより、土台部50bに対する光吸収部材50aの密着性が向上され、光吸収部材50aが土台部50bから剥離し難くなる。
【0076】
上記の通り、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法によれば、接合部分の段差を小さくし、光吸収剤を塗布する工程を必要とせず、さらに光吸収剤が異物として付着することを抑制しつつ、効率的に、樹脂フィルム部材同士を接合して樹脂フィルム接合体を作製することができる。
なお、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法では、光吸収剤を塗布しなくてもよいが、一方で、従来よりも少ない量の光吸収剤を用いてもよい。
【0077】
また、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法は、特に、ロール状に巻き取られた原反フィルムを繰り出し、繰り出された原反フィルムを巻き取る、所謂ロールトゥロール搬送工程が含まれる原反フィルムの製造方法において、先行する原反フィルムの終端側に次の原反フィルムの先端側を接合することで順次連続して帯状の長尺フィルムとする、所謂スプライスに適した方法である。
【0078】
また、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法によって作製された樹脂フィルム接合体における、接合部分(すなわち、レーザー照射で発生した熱による影響を受けた部分)の厚みと、接合されていない部分(すなわち、レーザー照射で発生した熱による影響を受けていない部分)の厚みとの差は、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。かかる厚みの差が20μm以下であることにより、樹脂フィルム接合体をロール状に巻き取る際、かかる厚みの差に起因する打痕の発生等をより抑制することができる。また、打痕をより抑制するという観点から、上記接合されていない部分に対する上記接合部分の比率(比率=上記接合部分/上記接合されていない部分)が1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。
なお、かかる厚みの差は、例えばレーザー照射条件、加圧条件、加圧部材の硬度等を適宜設定することによって調整することができる。
【0079】
また、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法によって作製された樹脂フィルム接合体は、図3に示すように、樹脂フィルム接合体80がロール状に巻かれることによって得られたロール体90とすることもできる。
【0080】
また、上記した樹脂フィルム接合体やロール体は、例えばこれらを備えた光学フィルムに適用することができる。かかる光学用フィルムとしては、例えば、液晶表示装置などに用いられる偏光板用保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー等)の2以上の端尺を、本実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法の樹脂フィルム部材として用いて接合することにより得られる長尺原反が挙げられる。さらに、かかる光学用フィルムは、例えばこれを備えた偏光フィルムに適用することもできる。かかる偏光フィルムとしては、例えば、前記長尺原反と、ポリビニルアルコールフィルムが染色されさらに延伸されて得られた偏光子とを、接着剤を介して貼り合わせることにより得られる偏光板が挙げられる。
【0081】
<他実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法>
本発明の樹脂フィルム接合体の製造方法は、上記実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法に限定されず、適宜設計変更可能である。
例えば、上記実施形態の樹脂フィルム接合体の製造方法は、第1の樹脂フィルム部材10の端面に第2の樹脂フィルム部材20の端面を突き合わせるが、本発明の樹脂フィルム接合体の製造方法は、その他、一の樹脂フィルム部材10の一の端面に該樹脂フィルム部材10の他の端面を突き合わせてもよい。具体的には、本発明の樹脂フィルム接合体の製造方法は、一の樹脂フィルム部材10の一の端部と該樹脂フィルム部材10の他の端部とを重ね、該重ねられた端部双方を一度に切断することによってこれらの端部に互いに合致する端面たる切り口を形成させる端面形成工程と、該端面形成工程で形成された一方の端面と他方の端面とを突き合わせる突き合わせ工程と、前記接合工程とを実施してもよい。
【0082】
また、本発明の樹脂フィルム接合体の製造方法では、原反の終端部、いわゆる端尺を、2以上回収し樹脂フィルム部材として用いてもよい。
端尺は、従来、再利用が十分になされずに廃棄されていたという問題を有するが、斯かる樹脂フィルム接合体の製造方法のように、端尺を樹脂フィルム部材として再利用しつつ、巻き取っても打痕が生じ難い樹脂フィルム接合体を製造することは、材料ロスの抑制や産廃削減の観点からも好ましい。
【実施例】
【0083】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0084】
(実施例1)
下記の樹脂フィルム部材、レーザー、加圧部材、ステージを用いた。
樹脂フィルム部材1 トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製)
厚み 80μm
巾 30mm
融点 280℃
Tg 170℃
光吸収率 1%以下
樹脂フィルム部材2 該樹脂フィルム部材1と同じもの
突合せギャップ 20μm
レーザー 種類 半導体レーザー
ビーム トップハットビーム
波長 940nm
スポット径 2mmφ
レーザーパワー 20W
パワー密度 610W/cm2
走査速度 15mm/s
積算照射量 25J/cm2
加圧部材 石英ガラス板(厚み:10mm)
加圧部材と樹脂フィルム部材との間に、相間部材としてシリコンラバ ー(1mm厚)を挿入
加重 15kgf/cm2で押し付け
ステージ 光吸収部材 DLC部材(厚み:1μm、波長940nmでの光 吸収率:25%、表面の水1μLに対する接触角:70°、酸化温度4 00℃)
土台部 溶融石英ガラス(厚み:5mm)
溶融石英ガラスの一面にDLCを蒸着させることにより、蒸着膜たる DLC部材を作製
【0085】
樹脂フィルム部材1の端面と樹脂フィルム部材2の端面とをDLC部材上で突き合わせ、突き合わせられた部分を加圧部材でステージのDLC部材の表面に押圧しつつ、前記レーザー光を該DLC部材の1ラインに走査照射して発熱させることにより、樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、突き合わせられた部分からDLC部材を剥離して、樹脂フィルム接合体を作製した。
【0086】
その結果、光吸収剤を用いることなく、段差の無い樹脂フィルム接合体を作製することができた。また、得られた樹脂フィルム接合体は、引張強度が110N/30mm巾と良好な接合性を示した。
さらに、樹脂フィルム接合体の剥離後に、DLC部材表面の光吸収率を、分光光度計(JASCO社製、V−670、積分球使用)を用い、測定波長940nmとして測定したところ、上記表面における光吸収率の変化は認められなかった。この結果、レーザー溶着を行う度にレーザー光の照射条件等を変化させることなくレーザー溶着を行うことが可能となり、また、光吸収部材を交換しなくても同じレーザー光の照射条件等を用いて繰り返しレーザー溶着を行うことが可能となることがわかった。従って、樹脂フィルム接合体の製造が効率的となることがわかった。
【0087】
(実施例2)
樹脂フィルム部材としてポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製、厚み75μm、巾30mm、融点230℃、光吸収率1%以下)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。
その結果、光吸収剤を用いることなく、段差の無い樹脂フィルム接合体を作製することができた。また、得られた接合体は、引張強度が90N/30mmと良好な接合性を示した。
さらに、樹脂フィルム接合体の剥離後に、実施例1と同様にしてDLC部材の表面について光吸収率を測定したところ、DLC部材表面における光吸収率の変化は認められなかった。この結果、実施例1と同様、樹脂フィルム接合体の製造が効率的となることがわかった。
【0088】
(実施例3)
ステージの光吸収部材として、グラッシーカーボン部材(イビデン社製、厚み:1mm、光吸収率:82%、水1μLに対する接触角:66.8°、酸化温度:500℃)を用い、土台部を設けることなくシート状のグラッシーカーボン部材をステージとして用いたこと以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。
その結果、光吸収剤を用いることなく、段差の無い樹脂フィルム接合体を作製することができた。また、得られた接合体は、引張強度が100N/30mmと良好な接合性を示した。
さらに、樹脂フィルム接合体の剥離後に、実施例1と同様にしてグラッシーカーボン部材の表面について光吸収率を測定したところ、DLC部材表面における光吸収率の変化は認められなかった。この結果、実施例1と同様、樹脂フィルム接合体の製造が効率的となることがわかった。
【0089】
(実施例4)
下記の樹脂フィルム部材、レーザー、加圧部材、ステージを用いた。
樹脂フィルム部材1 シクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン社製)
厚み 80μm
巾 30mm
Tg 150℃
光吸収率 1%以下
樹脂フィルム部材2 該樹脂フィルム部材1と同じもの
突合せギャップ 20μm
レーザー 種類 半導体レーザー
ビーム トップハットビーム
波長 940nm
スポット径 2mmφ
レーザーパワー 80W
パワー密度 2546W/cm2
走査速度 25mm/s
積算照射量 203J/cm2
加圧部材 石英ガラス板(厚み:10mm)
加圧部材と樹脂フィルム部材との間に、相間部材としてシリコンラバ ー(1mm厚)を挿入
加重 15kgf/cm2で押し付け
ステージ 光吸収部材 カーボングラファイト部材(厚み:1mm、波長9 40nmでの光吸収率:88.5%、水1μLに対す る接触角:115.6°、酸化温度:500℃)
土台部を設けることなく、シート状のカーボングラファイト部材をス テージとして使用
【0090】
かかる条件を用いること以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルム部材1と樹脂フィルム部材2とを接合した。
その結果、光吸収剤を用いることなく、段差の無い樹脂フィルム接合体を作製することができた。また、得られた接合体は、引張強度が120N/30mmと良好な接合性を示した。
さらに、樹脂フィルム接合体の剥離後に、実施例1と同様にしてカーボングラファイト部材の表面について光吸収率を測定したところ、DLC部材表面における光吸収率の変化は認められなかった。この結果、実施例1と同様、樹脂フィルム接合体の製造が効率的となることがわかった。
【0091】
(比較例1)
ポリイミドフィルム(デュポン社製、カプトンV、厚み:75μm)の上面に光吸収剤(Gentex社製 Clearweld(登録商標)LD120C、10nL/mm2)を塗布して、ポリイミドフィルム層と上記光吸収剤層とからなる積層体を作製することにより、上記光吸収剤の波長940nmでの光吸収率を30%に設定した。また、ステージとして光吸収部材が設けられてない土台部のみのものを用い、上記光吸収剤層が上側に配置されるように上記積層体を土台部の上面に載置した後、光吸収剤層上で樹脂フィルム部材1の端面と樹脂フィルム部材2の端面とを突き合わせた。そして、レーザーパワーを50W、走査速度を40mm/secとした。それ以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を得た。
その結果、得られた接合体は、引張強度が90N/30mmと良好な接合性を示した。しかし、得られた樹脂フィルム接合体の接合部分周辺をウエス(布)で簡易的にふき取ったところ、光吸収剤に起因する汚れが確認された。従って、この光吸収剤が、所謂ロールトゥロールで樹脂フィルム接合体を搬送する場合に、光吸収剤がニップローラー等への汚れ付着の原因になったりする等の不具合を生じさせ得ることがわかった。
【0092】
(参考例)
光吸収部材の厚みを0.2μm、酸化温度を400℃、波長940nmでの光吸収率を8%とすること以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。
その結果、レーザー光を光吸収部材に照射することよって発生した熱エネルギーが不十分であったため、樹脂フィルム接合体の引張強度が10N/30mmと低く、接合が不十分であった。
【0093】
(実施例5)
光吸収部材の厚みを0.2μm、酸化温度を400℃、波長940nmでの光吸収率を8%とし、レーザーパワーを80Wとすること以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。
その結果、得られた接合体は、せん断速度が90N/30mmと良好な接合性を示した。しかし、接合に必要なエネルギーが多く、省エネルギーを図ることはできなかった。
【0094】
(比較例2)
ステージとして光吸収部材が設けられてない土台部のみのものを用いること以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。このとき、土台部たる石英ガラス板における波長940nmでの光吸収率は1%以下であり、酸化温度は1600℃であった。
その結果、石英ガラス板は、光吸収性が不十分であったため、樹脂フィルム部材1及び2を熱溶融させるのに十分な熱エネルギーを発生させることができなかったことから、樹脂フィルム部材1及び2を接合することができなかった。
【0095】
(実施例6)
土台部たる溶融石英ガラスの一面にDLCを蒸着させることにより蒸着膜たるDLC部材(厚み:1μm、波長940nmでの光吸収率:10%、表面の水1μLに対する接触角:72°、酸化温度400℃)を作製し、該DLC部材を光吸収部材として用いること、レーザーパワーを35Wとすること以外は実施例1と同様にして、樹脂フィルム接合体を作製した。
その結果、光吸収剤を用いることなく、段差の無い樹脂フィルム接合体を作製することができた。また、得られた接合体は、引張強度が160N/30mmと良好な接合性を示した。さらに、DLC部材の表面について光吸収率を測定したところ、DLC部材表面における光吸収率の変化は認められなかった。この結果、実施例1と同様、樹脂フィルム接合体の製造が効率的となることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
10:第1の樹脂フィルム部材、10a:切れ端、20:第2の樹脂フィルム部材、20a:切れ端、30:吸着装置、40:刃物、50:ステージ、50a:光吸収部材、50b:土台部、60:加圧部材、70:相間部材、80:樹脂フィルム接合体、80a:接合部分、90:ロール、R:レーザー光、101:樹脂フィルム部材、102:樹脂フィルム部材、104:光吸収剤、105:接合部材、106:発熱媒体、107:樹脂フィルム接合体、100R:レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム部材の端面同士を突き合わせて接合して樹脂フィルム接合体とする樹脂フィルム接合体の製造方法であって、
用いるレーザー光の波長に対して光吸収率が高く、300℃の温度環境下で安定性を有する表面を備えた光吸収部材を用い、
前記端面同士が突き合わせられた部分を前記表面に当接させ、前記光吸収部材にレーザー光を照射して発熱させることにより、前記樹脂フィルム部材の端面同士を熱溶着させ、前記光吸収部材から、突き合わせられた部分を剥離して、樹脂フィルム接合体とすることを特徴とする樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項2】
前記光吸収部材は、前記レーザー光の波長に対して10%以上の光吸収率を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項3】
前記光吸収部材は、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボンまたはカーボングラファイトを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光は、800nm以上2000nm以下の波長を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルム部材は、150μm以下の厚みを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂フィルム部材が300℃以下の融点またはガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルム部材は、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ノルボルネン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂のいずれか1つ以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂フィルム接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18206(P2013−18206A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153887(P2011−153887)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】