説明

樹脂ベルトの切断装置、及び樹脂ベルトの切断方法

【課題】得られた樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを得る際、樹脂管状体回転振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能な樹脂ベルトの切断装置、及び樹脂ベルトの切断方法を提供すること。
【解決手段】例えば、追随手段としてエアーシリンダー26により、突き出し量調整部材22Aを樹脂管状体18外周面に所定の押圧力で押し当てつつカッター20により切断を行う。このように樹脂管状体18の回転振れに応じてカッター20を追随させることで、カッター20の切断部位と樹脂管状体18が一定の状態で切断でき、得られる樹脂ベルトの切断面の歪みや切断傷などを防止することができる。よって、樹脂管状体の回転時の振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、芯体上に皮膜形成樹脂溶液を塗布して皮膜形成した後、得られた樹脂管状体(皮膜)を芯体から抜き取った後、樹脂管状体を切断することで所定幅の樹脂ベルトを得るための樹脂ベルトの切断装置、及び樹脂ベルトの製造方法に関する。なお、得られる樹脂ベルトは、例えば、複写機、プリンター等の電子写真方式を利用した画像形成装置に好ましく用いられる。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置において、感光体、帯電体、転写体、及び定着体等の小型/高性能化のために、肉厚が薄いプラスチック製フィルムからなるベルトが用いられる場合がある。その場合、ベルトに継ぎ目(シーム)があると、出力画像に継ぎ目の跡が生じるので、継ぎ目がない無端ベルトが好ましい。材料としては、強度や寸法安定性、耐熱性等の面でポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂が好ましい。(適宜、ポリイミドはPI、ポリアミドイミドはPAIと略す)
【0003】
PI樹脂で無端ベルトを作製するには、円筒体の内面にPI前駆体溶液を塗布し、回転しながら乾燥させる遠心成形法、円筒体内面にPI前駆体溶液を展開する内面塗布法が知られているが、これら内面に成膜する方法では、PI前駆体の加熱の際に、皮膜を円筒体から抜いて別の芯体に載せ換える必要があり、工数がかかる短所がある。
【0004】
他のPI樹脂無端ベルトの製造方法として、芯体の表面に、浸漬塗布法によってPI前駆体溶液を塗布して乾燥し、加熱反応させた後、PI樹脂皮膜を芯体から剥離する方法もある。この方法では、塗布による塗膜形成工程から、加熱反応させる皮膜形成工程まで、芯体は一貫して同じものが使用され、載せ換える工数が不要という利点を有している。
【0005】
ところが、PI樹脂の前駆体溶液は常温では非常に粘度が高く、上記浸漬塗布法で芯体上に塗布しようとすると、膜厚が所望値より厚くなりすぎる。そこで、特許文献1に開示の如き環状体により、膜厚を制御する方法が適用できる。
【0006】
環状体を用いて塗布をする場合、芯体は長手方向を垂直にして塗布が行われ、塗膜の厚さは、芯体と環状体の円孔との間隙によって規制されて均一化される。
【0007】
この方法で溶液を塗布すると、芯体の表面全面に樹脂皮膜が形成される。ところが、この方法では、樹脂皮膜の両端には膜厚が不均一な部分が形成されるため、あらかじめ所望の幅より大きく皮膜を作製し、後で不要部分を切断する方法がとられる。
【0008】
ところが、芯体上において刃物で切れ目を入れて皮膜を切断しようとすると、刃物の接触によって芯体表面に傷が入る虞がある。そのため、芯体から樹脂皮膜を抜き取ってから、特許文献2に記載の如く、切断用の保持部材に嵌めて切断するのが良い。ところが、その保持部材を回転させる際に振れがあると、刃物の当たり方が均一でなくなり、樹脂ベルトの切断面が滑らかにならない問題があった。保持部材の回転時の振れは、保持部材の円筒度の悪さ、及びその回転軸の振れなどから引き起こされる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−91027号公報
【特許文献2】特開平8−25283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、得られた樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを得る際、樹脂管状体回転振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能な樹脂ベルトの切断装置、及び樹脂ベルトの切断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の手段により解決される。
即ち、本発明の樹脂ベルトの切断装置は、樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを製造する樹脂ベルトの切断装置であって、
前記樹脂管状体を保持しつつ回転させる回転保持体と、
カッターを保持すると切断手段であって、当該カッターの突き出し量を規定する規定部材を有し、前記回転する樹脂管状体表面に前記規定部材を当接させつつ、前記カッターを樹脂管状体に貫通するように突き当てて切断する切断手段と、
前記回転する樹脂管状体の回転振れに応じて、前記カッターを追随させる追随手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明の樹脂ベルトの切断装置は、追随手段により樹脂管状体の回転振れに応じてカッターを追随させることで、樹脂管状体の回転振れが生じても、規定部材により規定されたカッターの突き出し量分が常に一定した状態で、樹脂管状体に貫通させつつ(突き当てつつ)、切断することができる。このため、樹脂管状体の回転時の振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能となる。
【0013】
本発明の樹脂ベルトの切断装置において、前記追随手段は、前記規定部材を前記樹脂管状体の表面へ所定の押圧力で押し当てて、前記カッターを追随させる手段であることがよい。これにより、樹脂管状体が回転時に振れて、カッターに余分な押圧力が掛かったり、離間しようとしても、常に一定の押圧力で規定部材が当接されるため、規定部材により規定されたカッターの突き出し量分が常に一定した状態で、樹脂管状体に貫通させつつ(突き当てつつ)、切断することができる。なお、樹脂管状体の表面への規定部材の所定押圧力は、樹脂管状体の回転時に振れによる規定部材への押圧力よりも小さくする。
【0014】
一方、本発明の樹脂ベルトの切断方法は、樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを製造する樹脂ベルトの切断方法であって、
カッターの突き出し量を規定する規定部材を前記回転する樹脂管状体表面に前記規定部材を当接させつつ、カッターを前記樹脂管状体に貫通するように突き当てて切断する際、前記回転する樹脂管状体の回転振れに応じて、前記カッターを追随することを特徴としている。
【0015】
本発明の樹脂ベルトの切断方法では、上記本発明の樹脂ベルトの切断装置で述べたように、樹脂管状体の回転時の振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能となる。
【0016】
本発明の樹脂ベルトの切断方法においては、前記規定部材を前記樹脂管状体の表面へ所定の押圧力で押し当てて、前記カッターを追随することがよい。これにより、樹脂管状体が回転時に振れて、カッターに余分な押圧力が掛かったり、離間しようとしても、常に一定の押圧力で規定部材が当接されるため、規定部材により規定されたカッターの突き出し量分が常に一定した状態で、樹脂管状体に貫通させつつ(突き当てつつ)、切断することができる。
【発明の効果】
【0017】
得られた樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを得る際。樹脂管状体の回転時の振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能な樹脂ベルトの切断装置、及び樹脂ベルトの切断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実質的に同一の機能を有する部材に全図面通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略する場合ばある。
【0019】
図1は、実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置を示す上面図である。図2は、実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置を示す側面図である。
【0020】
本実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置10は、土台12上に、樹脂管状体18を保持する円筒状の回転保持体14と、切断部16と、が配置されて構成されている。
【0021】
回転保持体14は土台12に回転可能に配置されている。回転保持体14の外周面には樹脂管状体18の切断位置に周方向に沿って溝14Aが設けられており、カッター20が樹脂管状体18に突き当てられて貫通したとき、カッター20の刃先が溝14Aに入ることで、回転保持体14の削れや、カッター20の磨耗を防止している。
【0022】
回転保持体14は、樹脂管状体18を嵌める時には樹脂管状体18の内径より小さく、切断時は樹脂管状体18の内径より大きくなり張架できるように、外径が変えられる構成であることがよい。このような構成としては、例えば、複数の構成部材に分割して、当該部材間の間隔を調整して、外径変化する構成が挙げられる。特に、回転保持体14を複数の構成部材で構成される場合、その中心軸がずれやすく、回転振れが大きくなる傾向にある。なお、図中、Hは樹脂管状体18(回転保持体14)の回転振れ量を示す。
【0023】
切断部16は、カッター20と、これを取り付ける取り付け台22と、カッター取り付け台22を低摩擦力で可動するように配置する直動部24と、取り付け台22に連結されたエアーシリンダー26(追随手段)と、直動部24を支持・固定する固定台28と、で構成されている。
【0024】
取り付け台22には、カッター20の突き出し量を調整して規定する突き出し量調整部材22A(規定部材)が備えられ、当該突き出し量調整部材22Aが樹脂管状体18表面に当接することで、カッター20の突き出し量分が樹脂管状体18へ突き当てられ、即ち貫通することとなる。ここで、突き出し量とは、樹脂管状体18表面へ当接する突き出し量調整部材の当接面からカッター20の刃先までの長さ、言い換えれば、樹脂管状体18へカッター20が突き当てられた際における、樹脂管状体18表面(外周面)からカッター20の刃先までの長さを示している。
【0025】
取り付け台22は、カッター突き当て方向(樹脂管状体18軸方向に対して直交方向)に可動するように、直動部24に設けたレール24A上に配設されている。ここで、この取り付け台22の可動距離は、少なくとも樹脂管状体18の回転振れ量(樹脂管状体軸方向に対する直交方向の長さ)に追随でき、且つ、カッター20を取り付け台22から取り付け・取り外し可能な距離とする。
【0026】
エアーシリンダー26は、筒状部26Aと、可動壁26Bと、筒状部26A内壁及び可動壁26Bで囲まれた圧力室26Cと、圧力室26Cへエアーを注入・排気するためのエアー管26Dと、で構成している。また、可動壁26Bには可動軸26Eがその一端で連結されている。そして、可動軸26Eはその他端が取り付け台22と連結されている。なお、26Fは、ポンプを示している。
【0027】
エアーシリンダー26は、ポンプ26Fにより圧力室26Cへエアー管26Dからエアーを注入することで、圧力が上昇し、可動壁26Bを介し可動軸26Eが軸方向へ所定の押圧力で可動するようになっている。これにより、取り付け台22が樹脂管状体18軸方向に対して直交方向)に移動、即ち、カッター20が樹脂管状体18へ突き当てられると共に、所定の押圧力で突き出し量調整部材22Aが押圧されることとなる。なお、カッター20を樹脂管状体18から離間したり、カッター20を取り付け台22から取り付け・取り外しする場合には、圧力室26Cのエアーを抜いて、取り付け台22を移動させればよい。
【0028】
なお、本実施形態において、エアーシリンダー26に限られず、追随手段としてはその他、バネ、ゴムなどの弾性体を適用してもよい。
【0029】
本実施形態に係る切断装置10では、まず、回転保持体14に樹脂管状体18を嵌め込む。そして、取り付け台22にカッター20を取り付けた状態で、エアーシリンダー26により、待機位置の取り付け台22をカッター突き当て方向に移動させ、カッター20を樹脂管状体18に突き当てて貫通させると共に、突き出し量調整部材22Aを樹脂管状体18外周面に所定の押圧力で押し当てる。この樹脂管状体18外周面への突き出し量調整部材22Aの押圧力は、例えば1.5〜2.0Nである。
【0030】
ここで、最初に樹脂管状体18を切断するときの、カッター20の突き出し量の調整は、樹脂管状体切断前に、カッター20が樹脂管状体18表面へ突き出し可能なように調整する。この状態で、カッター20の刃先を樹脂管状体18の表面に接触させ、カッター20の刃物を強く押し当てて樹脂管状体18に貫通させた後、カッター20が所定の突き出し量になるよう突き出し量調整部材22Aにより調整する。このカッター20の突き出し量の好ましい値は、樹脂管状体18(樹脂ベルト)の厚さより、0.1〜0.3mm(好ましくは0.1〜0.2mm)大きい値である。なお、カッター20の突き出し量は、最初に調整すれば、次回からは不要である。
【0031】
次いで、カッター20の刃先が樹脂管状体18に突き当て・貫通した状態で、回転保持体14を回転させる。この回転に伴い樹脂管状体18は、カッター20により切断される。この切断時の回転保持体14の回転速度は、例えば1〜3rpm(好ましくは2〜3rpm)である。
【0032】
そして、回転保持体14が1周以上回転した時点で、エアーシリンダー26からエアーを抜き、取り付け台22を待機位置へ戻し、回転保持体14の回転を停止し、切断作業を終了する。このようにして、所定幅の樹脂ベルトを得ることができ。
【0033】
なお、本実施形態では、カッター20を1本取り付けた形態を説明したが、例えば、樹脂管状体18の切断幅に対応して2本取り付けておけば、樹脂管状体18両端を同時に切断することができる。
【0034】
以上説明した本実施形態に係る切断装置では、エアーシリンダー26により、突き出し量調整部材22Aを樹脂管状体18外周面に所定の押圧力で押し当てているので、樹脂管状体18が回転時に振れて、カッター20に余分な押圧力が掛かったり、離間しようとしても、常に一定の押圧力で規定部材が当接されるため、突き出し量調整部材22Aにより規定されたカッター20の突き出し量分が常に一定した状態で、樹脂管状体に貫通させつつ(突き当てつつ)、切断することができる。
【0035】
通常、樹脂管状体18はその円筒度の悪さや、回転軸の振れなどから、回転振れが起こり、カッター20の突き出し量が変化して、正常な切断ができなくなる。
【0036】
そこで、本実施形態に係る切断装置では、上述のように樹脂管状体18の回転振れに応じてカッター20が追随するので、カッター20の切断部位と樹脂管状体18が一定の状態で切断でき、得られる樹脂ベルトの切断面の歪みや切断傷などを防止することができる。よって、樹脂管状体の回転時の振れに対して、刃物が影響されること無く切断することが可能となる。
【0037】
以下、本実施形態に係る切断装置を用いた樹脂ベルトの製造方法について説明する。
樹脂ベルトの製造方法は、芯体上に皮膜形成樹脂溶液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱して樹脂皮膜を形成した後、樹脂皮膜を芯体から抜き取り、樹脂皮膜からなる樹脂管状体を上記本実施形態に係る切断装置により片端或いは両端を切断して、樹脂ベルト(以下、無端ベルトと称する場合がある)を得るものである。
【0038】
塗布に供する芯体は、アルミニウムやステンレス、ニッケル、銅等の金属円筒が好ましい。芯体の長さは、目的とする無端ベルト以上の長さが必要であり、複数の無端ベルトを同時に作製する場合には、その本数分以上の長さが必要である。また、端部に生じる無効領域に対する余裕幅を確保するため、目的の長さより、10〜40%程度長いことが望ましい。芯体の外径は、目的とする無端ベルトの直径に合わせ、肉厚は芯体としての強度が保てる厚さにする。
【0039】
芯体の両端には、芯体を保持する保持板を取り付けるのが好ましい。保持板は、ねじで固定しても良いし、芯体と溶接してもよい。保持板には、必要に応じて、円形や扇形などの形状の通風孔や、中央に心棒を通す穴、又は軸があってもよい。また、吊り下げや載置のための接続部品を取り付けてもよい。
【0040】
形成される皮膜が芯体表面に接着するのを防ぐため、芯体の表面には離型性を付与する。それには、芯体表面をフッ素樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、表面に離型剤を塗布する方法がある。
【0041】
皮膜形成樹脂の種類によっては、加熱時に溶剤の揮発物や、反応時に発生する気体があり、加熱後の樹脂皮膜は、その気体のために、部分的に膨れを生じることがある。これは特に、PI樹脂皮膜において膜厚が50μmを越えるような場合に顕著である。
【0042】
上記膨れを防止するために、特開2002−160239号公報開示の如く、芯体表面はRa0.2〜2μm程度に粗面化することが好ましい。粗面化の方法には、ブラスト、切削、サンドペーパーがけ等の方法がある。これにより、PI樹脂から生じる気体は、芯体とPI樹脂皮膜の間に形成されるわずかな隙間を通って外部に出ることができ、膨れを生じない。
【0043】
芯体表面は傷が付きやすいばかりでなく、このように各種処理が施されているので、皮膜切断用の刃物を接触させるのは避けなくてはならない。なお、塗布の前には、芯体両端に粘着テープ等を貼り付けて、端部に塗布されないようにするのが好ましい。
【0044】
皮膜形成樹脂としてのPI前駆体又はPAI樹脂としては、種々の公知のものを用いることができる。それらの溶剤は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、等の非プロトン系極性溶剤であり、常温での揮発性は低い。なお、溶液の濃度、粘度等は、適宜選択されるが、この塗布方法に好ましい溶液の固形分濃度は10〜40質量%、粘度は1〜100Pa・sである。
【0045】
無端ベルトを転写ベルトや接触帯電ベルトとして使用する場合には、樹脂溶液の中に必要に応じて導電性物質を分散させる。導電性物質としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素系物質、銅、銀、アルミニウム等の金属又は合金、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、SnO2−In2O3複合酸化物等の導電性金属酸化物、等が挙げられる。
【0046】
以下、芯体上への溶液を塗布する方法を説明する。
なお、「芯体上に塗布」とは、芯体側面の表面、及び該表面に層を有する場合は、その層の表面に塗布することをいう。また、「芯体を上昇」とは、塗布時の液面との相対関係であり、「芯体を停止し、塗布液面を下降」させる場合を含む。
【0047】
図3は、環状塗布装置の塗布時を示す概略断面図である。但し、図は主要部のみを示し、芯体の保持機構や、他の装置は省略する。
【0048】
図3において、環状塗布槽7の底部に、芯体の外径より若干小さい穴を有する環状シール材8を設ける。芯体1を環状シール材8の中心に挿通させ、環状塗布槽7に溶液2を収容する。これにより、溶液2は漏れることがない。塗布するには、図3に示すように、芯体1の下に他の芯体1’をつなぎ、環状塗布槽7の下部から上部に押し上げて、芯体1の表面に塗膜4を形成する。他の芯体1’は、ベルトを作製しない中間体(長さが短い芯体)であってもよい。
【0049】
溶液2上には芯体の外径よりも大きな円孔6を設けた環状体5を設置する。環状体5の材質は、溶液の溶剤によって侵されない金属やプラスチック等から選ばれ、浮上しやすいように中空構造でもよい。沈没防止のために、環状体の外周面又は塗布槽に、環状体を支える足や腕を設けても良い。
【0050】
塗布時、芯体1の外径と円孔6の内径との間隙により、塗膜4の膜厚が決まるので、円孔6の内径は、所望の膜厚により調整する。
【0051】
塗布をするには、円孔6を通して芯体1を引き上げる。引き上げ速度は、0.1〜1.5m/min程度が好ましい。
【0052】
芯体1を引き上げると、環状体5は浮遊状態で設置されているので、溶液の粘性による摩擦抵抗により持ち上げられ、芯体1と環状体5との摩擦抵抗が周方向で一定になるように、すなわち間隙が均一になるように環状体5は動き、芯体上には均一な膜厚の塗膜4が形成される。このように、環状体により膜厚を規制するので、膜厚を均一にして高粘度の溶液を塗布することができる。
【0053】
塗布後、芯体1を加熱乾燥装置に入れ、溶剤の乾燥を行う。乾燥時に塗膜が垂れる場合には、芯体を水平にして、回転させながら乾燥すると良い。回転速度は1〜60rpm程度が好ましい。加熱条件は、90〜170℃の温度で20〜60分間が好ましい。その際、温度が高いほど加熱時間は短くてよく、温度は、段階的、又は一定速度で上昇させてもよい。溶液がPAI樹脂溶液である場合には、溶剤の乾燥だけで皮膜を得ることができる。
【0054】
溶液がPI前駆体溶液の場合、塗膜から溶剤を除去しすぎると、皮膜はまだ強度を保持していないので、割れを生じやすい。そこで、ある程度(PI前駆体皮膜中に15〜45質量%)、溶剤を残留させておくのがよい。
【0055】
乾燥後、芯体端部に粘着テープを貼り付けた場合には、皮膜ごとそれを除去する。端部皮膜の除去により、皮膜端部が芯体端部に固着するのを防止することができるほか、芯体と皮膜との間に隙間を形成しやすくすることができる。隙間が存在することにより、皮膜から発生するガスが外部に抜けやすくなるので、皮膜に膨れが生じるのを低減することもできる。
【0056】
その後、250〜450℃、好ましくは300〜350℃前後で、20〜60分間、PI前駆体皮膜を加熱して縮合反応させることで、PI樹脂が形成される。その際、温度を段階的に上昇させてもよい。この工程では、皮膜は固定されているので、芯体の向きはどちらでもよいし、加熱中の回転もしなくてよい。無端ベルトの膜厚は30〜150μm程度が好ましい
【0057】
冷却後、形成された皮膜を芯体から抜き取ると無端ベルトを得ることができる。その際には、芯体と皮膜との間の隙間に、エアガン等により加圧エアを注入するのがよい。
【0058】
皮膜を芯体から抜き取った後、得られた皮膜からなる樹脂管状体の片端或いは両端を、上記本実施形態に係る切断装置により切断する。
【0059】
そして、切断終了後、穴あけ加工やリブ付け加工、等が施されることがある。このようにして、樹脂ベルト(無端ベルト)を得る。
【0060】
(試験例)
以下、試験例を示す。
PI前駆体溶液(商品名:UワニスA、宇部興産製、濃度18%)に、カーボンブラック(商品名:スペシャルブラック4、デグザヒュルス社製)を固形分質量比で23%混合し、次いで対向衝突型分散機により分散した。更に、シリコーンレベリング剤(商品名:DC3PA、ダウコーニングトーレシリコーン社製)を、濃度が500ppmになるよう添加し、塗液とした。
【0061】
別途、外径366mm、肉厚10mm、長さ450mmのアルミニウム製円筒を用意し、球形アルミナ粒子によるブラスト処理により、表面をRa1.0μmに粗面化した。該円筒の真円度は20μm以下であった。また、厚さが15mm、外径が上記円筒に嵌まる径、100mm径の通風孔が4つ、中央に20mm径の穴を設けた保持板を同じアルミニウム材で作製し、上記円筒に嵌め、TIG溶接により溶接した。
【0062】
円筒の表面には、シリコーン系離型剤(商品名:セパコート、信越化学製)を塗布した。芯体の端部には、幅10mmのポリエステル粘着テープを巻き付けた。これは塗膜が芯体側面に回り込まないようにするためである。
【0063】
次いで上記塗液を用い、図3に示す環状塗布装置により、PI前駆体塗膜を形成する。環状体として、外径420mm、円孔の最小部の内径367.1mm、高さ50mmのアルミニウム製のものを作製した。内壁は直線傾斜状であり、鉛直線との傾斜角は7°とした。上端には芯体と平行になる部分を2mm形成した。
【0064】
一方、内径450mm、高さ100mmの環状塗布槽の底面に、内径386mmの穴をあけた。底面の裏面には、内径364.5mmの穴を有する厚さ0.5mmの硬質ポリエチレン樹脂製の環状シール材を取り付け、中央に芯体1を通した。環状塗布槽にPI前駆体溶液を入れ、環状体を配置した。次いで、芯体の下に他の芯体を配置し、0.8m/分で押し上げて塗布を行った。その際、環状体は約20mm持ち上げられた。これにより、芯体の上には、濡れ膜厚が約500μmのPI前駆体塗膜が形成された。
【0065】
芯体の保持板の中央穴に、20mmφのステンレス製シャフトを通し、回転台に載せて水平にし、6rpmで回転させながら、80℃で20分間、130℃で30分間、加熱してPI前駆体塗膜を乾燥させた。これにより、厚さ約150μmのPI前駆体皮膜を得た。この時、芯体端部の粘着テープは除去した。
【0066】
次いで、芯体を垂直にし、シャフトを外して台に載せ、加熱装置に入れて200℃で30分、340℃で30分加熱反応させ、長さ430mm、平均膜厚80μmのPI樹脂皮膜を形成した。
【0067】
室温に冷えた後、芯体と皮膜の間に、圧力0.5MPaでエアガンからエアを吹き込みながら皮膜を抜き取った。
【0068】
抜き取った皮膜からなる樹脂管状体を、図1及び図2で示す切断装置により切断した。回転保持体は、断面が半円状の2つの部材に分けて構成されており、樹脂管状体を嵌める際には外径を約360mmと小さくし、皮膜を嵌めた後は外径を約366mmに拡径して皮膜を緊縛して保持した。
【0069】
回転保持体を回転させると、0.1〜1.0mmの振れを生じた。これは、回転保持体が2つに分かれている形状であることに起因する。
【0070】
これに対して、エアーシリンダーにより、樹脂管状体外周面へのカッターの突き出し量調整部材(規定部材)の押圧力を変えて、切断面を観察する実験をした結果を表1に示す。なお、他の実験条件、評価基準は以下の通りである。
【0071】
−実験条件−
実験条件を下記に示す。
・回転保持体の回転速度:3.0rpm
・カッター(突き出し量調整部材)の移動速度:3.0mm/S
・カッターの突き出し量 280μm
【0072】
−評価基準−
「○」は完全に切断が行え、「×」は刃の貫通不良及び切断できない箇所を伴う状態であることを示す、観察結果である。
【0073】
【表1】

【0074】
この結果、カッターの突き出し量調整部材(規定部材)の押圧力が弱い範囲では、カッターが回転保持体の回転振れに追従できずに切断不良が起こり、強い範囲では、切り始めと切り終わりが合わない段差が大きくなったが、一定範囲の中では、良好な切断を行うことができた。
【0075】
このように、上記本実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置を用いて切断すると、回転保持体の回転揺れに対して、カッターが影響されることなる、カッターの突き当て力を保持しながら樹脂管状体表面からの切り込み量を一定に保ち切断でできることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置を示す上面図である。
【図2】実施形態に係る樹脂ベルトの切断装置を示す側面図である。
【図3】環状塗布装置の塗布時を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1、1’ 芯体
2 溶液
4 塗膜
5 環状体
6 円孔
7 環状塗布槽
8 環状シール材
10 切断装置
12 土台
14 回転保持体
14A 溝
16 切断部
18 樹脂管状体
20 カッター
22 取り付け台
22A 突き出し量調整部材
24 直動部
24A レール
26 エアーシリンダー
26A 筒状部
26B 可動壁
26C 圧力室
26D エアー管
26E 可動軸
26F ポンプ
28 固定台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを製造する樹脂ベルトの切断装置であって、
前記樹脂管状体を保持しつつ回転させる回転保持体と、
カッターを保持する切断手段であって、当該カッターの突き出し量を規定する規定部材を有し、前記回転する樹脂管状体表面に前記規定部材を当接させつつ、前記カッターを樹脂管状体に貫通するように突き当てて切断する切断手段と、
前記回転する樹脂管状体の回転振れに応じて、前記カッターを追随させる追随手段と、
を備えることを特徴とする樹脂ベルトの切断装置。
【請求項2】
前記追随手段は、前記規定部材を前記樹脂管状体の表面へ所定の押圧力で押し当てて、前記カッターを追随させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂ベルトの切断装置。
【請求項3】
樹脂管状体を切断して樹脂ベルトを製造する樹脂ベルトの切断方法であって、
カッターの突き出し量を規定する規定部材を前記回転する樹脂管状体表面に前記規定部材を当接させつつ、カッターを前記樹脂管状体に貫通するように突き当てて切断する際、前記回転する樹脂管状体の回転振れに応じて、前記カッターを追随させることを特徴とする樹脂ベルトの切断方法。
【請求項4】
前記規定部材を前記樹脂管状体の表面へ所定の押圧力で押し当てて、前記カッターを追随させることを特徴とする請求項3に記載の樹脂ベルトの切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−144544(P2007−144544A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341039(P2005−341039)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】