説明

樹脂原料の可塑化装置及び可塑化方法

【課題】Ni基合金は比較的硬度が低く、鍛圧加工して高強度化したものであってもその硬度はHV380〜440程度であり、多用されている硬質クロームメッキの硬度HV800〜900に対してかなり低いものである。そのため、Ni基合金処理されたスクリュや加熱筒は、耐食性はあっても耐磨耗性は乏しいので、可塑化中のスクリュ回転に伴って齧りが発生する虞がある。
【解決手段】可塑化中に腐食性ガスを発生する樹脂原料Mを原料調節装置13により供給量を制限して加熱筒3へ供給し、スクリュ4と加熱筒3との両対向面におけるスクリュ4の対向面及び/又は加熱筒3の対向面にNi基合金処理を施した前記スクリュ4及び前記加熱筒3により前記樹脂原料Mを可塑化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
可塑化中に腐食性ガスを発生する樹脂原料を安全に可塑化する可塑化装置及び可塑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂やPPS樹脂等を可塑化すると腐食性ガスが発生する。特にフッ素樹脂を可塑化した場合には、フッ化水素ガスが発生し、スクリュや加熱筒を腐食させるのである。このような腐食性ガスからスクリュや加熱筒を保護するため、従来は特許文献1に開示されるように、スクリュと加熱筒の対向面をNi基合金で形成することが行われてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平3−38328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Ni基合金は比較的硬度が低く、鍛圧加工して高強度化したものであってもその硬度はHV380〜440程度であり、多用されている硬質クロームメッキの硬度HV800〜900に対してかなり低いものである。そのため、Ni基合金処理されたスクリュや加熱筒は、耐食性はあっても耐磨耗性は乏しいので、可塑化中のスクリュ回転に伴って齧りが発生する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、可塑化中に腐食性ガスを発生する樹脂原料を原料調節装置により供給量を制限して加熱筒へ供給し、スクリュと加熱筒との両対向面におけるスクリュの対向面及び/又は加熱筒の対向面にNi基合金処理を施した前記スクリュ及び前記加熱筒により前記樹脂原料を可塑化することにより、加熱筒内の前記樹脂原料の可塑化挙動を安定化し、スクリュを加熱筒内で偏芯せずに保芯されるようにしたのである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂原料の可塑化装置、可塑化方法によれば、スクリュや加熱筒を腐食させることなく損傷から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明の可塑化装置の概要を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
可塑化装置1は、原料調節装置13で制限搬送され加熱筒3内へ供給される樹脂原料Mを、加熱筒3とその内孔内で回転するスクリュ4とによって可塑化して溶融原料MMになすものである。生成された溶融原料MMは、加熱筒3の内孔内を前進移動するスクリュ4により加熱筒3の前端面に設けられたノズル8を介して図示しない金型へ射出される。この場合には、可塑化装置1は射出成形機の一部を構成することになる。また、スクリュ4を加熱筒3内孔内で前後進移動不能で回転自在とし、加熱筒3前端面のノズル8をダイスに換えて溶融原料MMを賦型しつつ押し出すように構成してもよい。この場合には、可塑化装置1は押出機として機能することになる。
【0009】
スクリュ4は、基部が小径で先端部が大径であって中間部は小径と大径を滑らかに接続する円錐台状である軸部15としての丸棒の外周に、フライト2としての壁状突出体が基部から先端部まで連続して螺旋状に形成されたものである。このフライト2の外径は、加熱筒3の内孔の内径より僅か小さく形成され、スクリュ4が加熱筒3の内孔内で滑らかに回転可能でかつ、フライト2の頂部において溶融原料MMの漏洩がないようにしている。そして、スクリュ4は、軸部15基部の小径区間をフィードゾーンZFとし、軸部15中間部をコンプレッションゾーンZCとし、軸部15先端部の大径区間をメタリングゾーンZMとしてその軸方向に区画されている。加熱筒3後部上面に設けた貫通孔は、加熱筒3を保持するハウジング9の貫通孔を介して原料調節装置13へ連通しており、その連通孔は原料落下口10となっている。スクリュ4は、そのフィードゾーンZFが原料落下口10の下方に位置するように加熱筒3の内孔に配設されている。
【0010】
スクリュ4の前端面には、リングバルブ5を遊嵌するスクリュヘッド6が螺着され、逆流防止弁を構成している。なお、逆流防止弁は、リングバルブではなくボール等を用いた他の構成としてもよいし、押出機のように逆流防止弁を備えない場合もある。加熱筒3の外周面には、フィードゾーンZF、コンプレッションゾーンZC、メタリングゾーンZMに対応して複数のヒータ7が捲着されている。ヒータ7は、それぞれのゾーンを適宜な温度に温調する。
【0011】
加熱筒3とスクリュ4との対向面である加熱筒3の内孔面及びスクリュ4の軸部15とフライト2を含めた外表面には、Ni基合金処理が施されている。なお、この処理は、加熱筒3の内孔面又はスクリュ4の外表面のいずれか一方のみに施したものであってもよい。Ni基合金処理は、商標登録されているハステロイやプラストハードが好適に採用されるが、Ni基が含有されれば他の合金の種類やその比率は問わずに採用可能である。また、Ni基合金処理のプロセスや形成状態も問わない。このようなNi基合金処理は、フッ素樹脂やPPS樹脂等の可塑化中に発生する腐食性ガスに対して耐食性を有するが、特に、フッ素樹脂の可塑化中に発生するフッ化水素ガスに対して効果的である。なお、Ni基合金処理は、加熱筒3とスクリュ4との対向面以外の原料落下口10や逆流防止弁等の樹脂原料Mや溶融原料MMの通路表面にも施して耐食性を図ることがあるのは言うまでもないことである。
【0012】
原料調節装置13は、ハウジング9の上面に開口部を原料落下口10に連通させて配設したシリンダ12と、シリンダ12の内孔に回転自在に嵌挿され図示しない駆動装置で任意の回転速度に駆動制御されるフィードスクリュ11と、フィードスクリュ11の原料落下口10に対応する側の反対側上方のシリンダ12上面開口に設けたホッパ14とからなる。なお、原料調節装置として、このような構成のものが樹脂原料Mの供給量を安定かつ精密に制御する点で好ましいが、計量桝やシャッタ等を用いた他の構成のものであってもよい。
【0013】
原料調節装置13は、フィードスクリュ11の回転速度設定値が100%であるとき、すなわち樹脂原料Mを制限せずに加熱筒3内に供給するときには、樹脂原料Mが原料落下口10内を充満する程度に樹脂原料Mを供給制御する。そのときには、可塑化装置1はその構成で定まる最大の可塑化能力を発揮する。そして、原料調節装置13のフィードスクリュ11は、100%以下の任意値に設定した回転速度設定値に応じて所定量の樹脂原料Mを、スクリュ4が回転して可塑化している間、原料落下口10を介して加熱筒3内へ供給する。
【0014】
そして、この実施の形態においては、フィードスクリュ11の回転速度設定値(樹脂原料Mの供給量)が最大可塑化能力の40%に相当する量であるときに、スクリュ4のフライト2と軸部15で画設された空間が樹脂原料Mで略充満されて、原料落下口10上方からフライト2の頂部のみが望める状態となる。このように樹脂原料Mの供給量が最大可塑化能力の40%に相当する量より少なく、原料落下口10上方から少なくともフライト2の頂部が望める状態のときには、可塑化が安定して行われるとともに、スクリュ4は半溶融原料MHや溶融原料MMによって良好に保芯され、偏芯して一方に押圧されることがないので、スクリュ4と加熱筒3の対向面に齧り等の損傷を生じさせないのである。
【0015】
すなわち、原料調節装置13から加熱筒3内へ制限供給された樹脂原料Mは、フィードゾーンZFにおいては、軸部15とフライト2で画設された空間を充満しないので、加熱筒3の内孔面から溶融するに十分な熱量を受けつつ前方へ搬送される。この樹脂原料Mは、コンプレッションゾーンZCに搬送されると加熱筒3の内孔面からさらに多くの熱量を受けるのでその部分は次第に溶融され、フライト2で掻き取られて未溶融の樹脂原料Mとともにフライト2の前方側壁面で攪拌され、軸部15からのフライト2の高さが次第に低くなるので、圧縮されつつ前方へ搬送される。したがって、コンプレッションゾーンZCにおいては、樹脂原料Mは溶融原料が混在する半溶融原料MHになるのである。そして、この半溶融原料MHは、樹脂原料Mの供給が制限されているので、軸部15とフライト2で画設された空間を完全には充満しないとともに、樹脂原料MはフィードゾーンZFで十分予熱され極めて溶融し易い状態となっているため樹脂原料Mの含有率は低いのである。そのため、未溶融の樹脂原料Mをフライト2が噛み込むときの力に基づくスクリュ4の偏芯が軽減され、スクリュ4の加熱筒3内孔面への押圧力に起因するスクリュ4外表面及び/又は加熱筒3内孔面の損傷を防止することができるとともに、スクリュ4の回転速度が安定して制御され良好な可塑化が実施できるのである。半溶融原料MHは、メタリングゾーンZMに到達すると、軸部15と低いフライト2で画設された空間を完全に充満し溶融原料MMとなる。メタリングゾーンZMでは、樹脂原料Mを全く含まず潤滑性のある溶融原料MMのみで充満されるので、スクリュ4は極めて良好に保芯される。
【0016】
なお、本発明は、当業者の知識に基づいて様々な変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものを含む。また、前記変更等を加えた実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りいずれも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0017】
1 可塑化装置
2 フライト
3 加熱筒
4 スクリュ
5 リングバルブ
6 スクリュヘッド
7 ヒータ
8 ノズル
9 ハウジング
10 原料落下口
11 フィードスクリュ
12 シリンダ
13 原料調節装置
14 ホッパ
15 軸部
M 樹脂原料
MH 半溶融原料
MM 溶融原料
ZF フィードゾーン
ZC コンプレッションゾーン
ZM メタリングゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュと加熱筒との両対向面におけるスクリュの対向面及び/又は加熱筒の対向面にNi基合金処理を施すとともに、
前記加熱筒内へ樹脂原料を制限して供給する原料調節装置を備えることを特徴とする樹脂原料の可塑化装置。
【請求項2】
可塑化中に腐食性ガスを発生する樹脂原料を原料調節装置により供給量を制限して加熱筒へ供給し、
スクリュと加熱筒との両対向面におけるスクリュの対向面及び/又は加熱筒の対向面にNi基合金処理を施した前記スクリュ及び前記加熱筒により前記樹脂原料を可塑化することを特徴とする樹脂原料の可塑化方法。
【請求項3】
前記樹脂原料は、フッ素樹脂である請求項2に記載の樹脂原料の可塑化方法。
【請求項4】
前記樹脂原料は、原料落下口から前記スクリュのフライト頂部が望める状態に相当する量に制限して供給される請求項2又は3に記載の樹脂原料の可塑化方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−162817(P2010−162817A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8546(P2009−8546)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】