説明

樹脂成形体と金属成形体とのレーザー溶着法及び複合成形体

【課題】樹脂成形体を劣化させることなく、樹脂成形体と金属成形体とを強固に接合できるレーザー溶着法を提供する。
【解決手段】樹脂成形体と金属成形体との間に、融点を有する熱可塑性エラストマー及びレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成された接着フィルムを介在させて樹脂成形体側からレーザー光を照射することにより樹脂成形体と金属成形体とを接合する。前記熱可塑性エラストマーは、融点より10℃高い温度での溶融粘度V10と、融点より50℃高い温度での溶融粘度V50との比V10/V50が10倍以下である。前記レーザー光吸収剤はニグロシン染料である。前記樹脂成形体は融点を有する熱可塑性樹脂で形成され、かつ接着フィルムの熱可塑性エラストマーは前記熱可塑性樹脂の融点より低い融点を有していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂で形成された樹脂成形体と金属材料で形成された金属成形体とをレーザー溶着する方法及びこの方法により接合された複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂部材同士、又は樹脂部材と樹脂以外の材料で形成された部材とを接合する方法としてレーザー光の照射による接合方法(レーザー溶着法)が用いられている。レーザー溶着法では、レーザー光を透過する透過性部材と、レーザー光を透過しない非透過性部材とを接触させた後、透過性部材側からレーザー光を照射し、透過性部材と非透過性部材の接触部分を加熱溶融させて両者を接合する方法である。しかし、この方法では、親和性の低い部材同士の接合は困難であり、例えば、樹脂部材と金属部材とを高い接合強度で溶着するのは困難であった。そこで、樹脂部材と金属部材との間に、接着力の高い部材を介在させてレーザー溶着する方法が開発されている。
【0003】
特開2009−39987号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂材料と金属材料との接合において、接合する界面に熱可塑性樹脂材料と相溶性がある熱可塑性フィルムを介在させ、レーザー光を照射することにより金属材料を発熱させてフィルムを溶融し溶着接合することを特徴とする熱可塑性樹脂材料と金属材料との接合方法が開示されている。この文献では、前記熱可塑性樹脂材料として、柔らかくて変形し易い熱可塑性エラストマー材料を含む材料のレーザー溶着には種々の問題があるとして、このような熱可塑性エラストマー材料と金属材料とのレーザー溶着性を向上させることを目的としている。前記熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーなどの熱可塑性エラストマーが記載され、この熱可塑性エラストマーと金属材料との間に介在させる熱可塑性フィルムとしては、前記エラストマーのハード成分と同種の熱可塑性樹脂が記載されている。また、レーザーの照射は、金属側から照射するのが好ましいと記載され、ポリエステルエラストマーに関する実施例では、カーボンブラックを含むポリエステルエラストマーとSUS(ステンレス)との間にPET(ポリエチレンテレフタレート)を介在させて、金属側からレーザーを照射している。
【0004】
しかし、この方法では、熱可塑性フィルムと金属材料との間の接合強度が充分でない。また、金属部材に対して充分な接着強度を得るためには、条件を過酷にせざるを得ず、特に、カーボンブラックを含有する樹脂部材では、熱劣化が激しい。また、アルミニウムやリン青銅など熱伝導性が高い金属材料では金属側も熱可塑性フィルムの融点以上に加熱されないと金属側の界面で十分な接着強度が得られない。さらに、金属側からレーザー照射すると、金属に対して樹脂は熱膨張率が大きいので、溶着させる部材が限定され、熱的な変化が生じるヒートパイプなどの部品、例えば、自動車エンジンのインテークマニホールドなどでは、金属パイプを内側にして、その外側に樹脂パイプを溶着させるのは困難であった。
【0005】
また、国際公開WO2008/044349号公報(特許文献2)には、レーザー光に対して透過性を有する材料からなる第1部材と、第1部材と同一又は異なる材料からなる第2部材とをレーザー溶着法により接合するために、レーザー光の照射に先立って第1部材と第2部材の間に挟まれ、かつ粘着性を有するレーザー接合用中間部材が開示されている。この文献には、中間部材を構成するベースポリマーとして、変性ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂などの各種樹脂が例示され、熱可塑性エラストマーが好ましいと記載されている。実施例では、前記ベースポリマーとして、カルボキシル基変性SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体)とテルペン樹脂との組み合わせ、カルボキシル基変性SEBSと水添テルペンスチレン樹脂との組み合わせ、アクリル系ブロック共重合体が使用されている。
【0006】
しかし、この中間部材では、粘着力は有しているものの、接着力が低く、樹脂部材と金属部材とを強固に接合できない。また、レーザー溶着前に養生が必要であり、生産性も低い。さらに、中間部材に融点がないため、温度が上昇し易い上に、金属部材に対して充分な接着強度を得るためには、レーザーの出力や吸収能を上げる必要があり、レーザー光入射側の表面が焼けて、熱劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−39987号公報(特許請求の範囲、段落[0004][0017][0025]、実施例)
【特許文献2】国際公開WO2008/044349号公報(請求の範囲、段落[0024][0025]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、樹脂成形体を劣化させることなく、樹脂成形体と金属成形体とを強固に接合できるレーザー溶着法及びレーザー溶着された複合成形体を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、熱伝導性の高い金属成形体を樹脂成形体と強固に接合できるレーザー溶着法及びレーザー溶着された複合成形体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、簡便な方法で、樹脂成形体と金属成形体とを強固に接合できるレーザー溶着法及びレーザー溶着された複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、融点及び特定の溶融粘度を有する熱可塑性エラストマー及び特定のレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物を接着フィルムとして介在させることにより、樹脂成形体を劣化させることなく、樹脂成形体と金属成形体とをレーザー溶着により強固に接合できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の方法は、樹脂成形体と金属成形体との間に接着フィルムを介在させて樹脂成形体側からレーザー光を照射することにより樹脂成形体と金属成形体とを接合する方法であって、前記接着フィルムが熱可塑性エラストマー及びレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成され、前記熱可塑性エラストマーが、融点を有するとともに、融点より10℃高い温度での溶融粘度をV10、融点より50℃高い温度での溶融粘度をV50とするとき、V10/V50≦10を充足し、かつ前記レーザー光吸収剤がニグロシン染料である。本発明の方法では、前記樹脂成形体が融点を有する熱可塑性樹脂で形成され、かつ接着フィルムの熱可塑性エラストマーが前記熱可塑性樹脂の融点より低い融点を有するとともに、前記接着フィルムは粘着性を有していなくてもよい。本発明の方法では、前記熱可塑性エラストマーが融点100〜200℃程度のポリエステル系エラストマーであり、かつその溶融粘度V10と溶融粘度V50との比が、V10/V50=1.5/1〜5/1程度であってもよい。前記熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂であってもよい。前記金属成形体は、銅、りん青銅、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム及び鉄からなる群から選択された少なくとも一種であってもよい。前記金属成形体の熱伝導率は50W/mK以上であってもよい。
【0013】
本発明には、前記方法により、接着フィルムを介して樹脂成形体と金属成形体とが接合した複合成形体も含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、融点及び特定の溶融粘度を有する熱可塑性エラストマー及び特定のレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成された接着フィルムが、樹脂成形体と金属成形体との間に介在しているため、樹脂成形体を劣化させることなく、樹脂成形体と金属成形体とをレーザー溶着により強固に接合できる。また、熱伝導性の高い金属成形体を樹脂成形体と強固に接合できる。さらに、粘着性を利用しないため、レーザー照射前の養生などの前処理が不要であり、簡便な方法で、樹脂成形体と金属成形体とを強固に接合できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[接着フィルム]
本発明の方法は、樹脂成形体と金属成形体との間に接着フィルムを介在させて樹脂成形体側からレーザー光を照射して樹脂成形体と金属成形体とを接合する方法であって、前記接着フィルムが融点及び特定の溶融粘度を有する熱可塑性エラストマー及び特定のレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成されていることを特徴とする。
【0016】
(熱可塑性エラストマー)
接着フィルムを構成する熱可塑性エラストマーは融点を有する。すなわち、この熱可塑性エラストマーは、結晶融解ピークを有しているため、溶融時に結晶融解による吸熱が起こり、急激な温度上昇を抑制できる。従って、接着フィルムをレーザー光で照射しても、溶融温度のコントロールが容易であり、必要以上に溶融温度を上昇させることによる樹脂成形体の熱劣化を抑制できる。
【0017】
前記熱可塑性エラストマーは、樹脂成形体が融点を有する熱可塑性樹脂で形成されている場合、熱可塑性樹脂の融点より低い融点を有していてもよい。熱可塑性樹脂より低い融点を有していれば、レーザー溶着による樹脂成形体の熱劣化を効率良く抑制できる。熱可塑性エラストマーの融点は、樹脂成形体の熱可塑性樹脂の種類にもよるが、例えば、100〜200℃、好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは105〜145℃(特に105〜130℃)程度である。融点が高すぎると、樹脂成形体の熱劣化が発生し易く、生産性も低下し、融点が低すぎると、接合強度が低下する。
【0018】
前記熱可塑性エラストマーは、融点(mp)より10℃高い温度T10(mp+10℃)での溶融粘度V10と、融点より50℃高い温度T50(mp+50℃)での溶融粘度V50との比V10/V50が10倍以下であり(V10/V50≦10)、温度の変化に対する溶融粘度の傾きがブロードであるため、樹脂成形体と金属成形体との接合強度を向上できる。溶融粘度V10と溶融粘度V50との比は、例えば、V10/V50=1/1〜10/1、好ましくは1.2/1〜8/1、さらに好ましくは1.5/1〜5/1(特に2/1〜3/1)程度である。前記溶融粘度比V10/V50が10倍を超え、温度の変化に対する溶融粘度の傾きがシャープであるエラストマーは、不均一な粘度分布から界面に均一な密着を形成できず、樹脂成形体と金属成形体との接合強度が低下する。本発明において、前記溶融粘度比を充足する熱可塑性エラストマーが高い接合強度を発現する理由は、融点より10〜50℃程度高い温度で溶着される場合に、レーザー溶着において不可避であるスポット部分の温度でのバラツキに対して適切な溶融粘度を維持できるためであると推定できる。
【0019】
熱可塑性エラストマーの溶融粘度は、前記溶融粘度比を充足すればよく、特に限定されないが、200℃での溶融粘度が、例えば、50〜3000Pa・s、好ましくは80〜2000Pa・s、さらに好ましくは100〜1500Pa・s(特に100〜1000Pa・s)程度である。
【0020】
熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、例えば、30℃以下程度であり、例えば、−100℃〜30℃、好ましくは−80℃〜25℃、さらに好ましくは−60℃〜20℃程度である。
【0021】
熱可塑性エラストマーの数平均分子量は5000以上(例えば、5000〜100000)程度であり、例えば、10000〜50000、好ましくは15000〜40000、さらに好ましくは20000〜35000(特に22000〜32000)程度である。分子量が小さすぎると、溶融粘度が小さくなり、前記溶融粘度比を充足するのが困難となる。一方、分子量が大きすぎると、均一な溶融や低出力のレーザーによる溶融が困難となり、接着力が低下する。
【0022】
このような熱可塑性エラストマーとしては、結晶性を有し、かつ温度に対する溶融粘度の変化がブロードであればよく、特に限定されず、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
これらのうち、適度な結晶性及び溶融粘度を有する点から、ポリエステル系エラストマーが好ましい。
【0024】
ポリエステル系エラストマーとしては、ハードセグメントとして、芳香族ポリエステルブロックと、ソフトセグメントとして、脂肪族ポリエステルブロック、ポリエーテルブロック、又はポリエーテルエステルブロックとで形成されたエラストマーであってもよい。
【0025】
ハードセグメントにおいて、前記芳香族ポリエステルブロックはポリアルキレンアリレートであってもよい。ポリアルキレンアリレートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2−4アルキレンナフタレートなどが挙げられる。これらのポリアルキレンアリレートは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのハードセグメントのうち、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンテレフタレートが好ましい。
【0026】
ソフトセグメントにおいて、脂肪族ポリエステルブロックは、脂肪族ポリカルボン酸(又はその無水物)と脂肪族ポリオールとの反応生成物、開始剤に対してラクトン類を開環付加重合させた反応生成物であってもよい。
【0027】
脂肪族ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC4−20アルカンジカルボン酸などが挙げられる。これらの脂肪族ポリカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。脂肪族ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルキレンアルカンジオールなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリオールは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
ラクトン類としては、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、エナントラクトン(7−ヒドロキシヘプタン酸ラクトン)などのC3−10ラクトンなどが挙げられる。これらのラクトン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
ラクトン類に対する開始剤としては、例えば、水、オキシラン化合物の単独又は共重合体(例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど)、低分子量ポリオール(エチレングリコールなどのアルカンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールAなど)、アミノ基を有する化合物(例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミンなどのジアミン化合物など)などが挙げられる。これらの開始剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
ポリエーテルブロックとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリC2−4アルキレングリコールなどが挙げられる。
【0031】
ポリエーテルポリエステルブロックとしては、前記脂肪族ポリカルボン酸と前記ポリC2−4アルキレングリコールとの重合体などが挙げられる。
【0032】
これらのソフトセグメントのうち、脂肪族ポリエステルブロック、ポリテトラメチレングリコールエーテルなどの炭素数3以上のアルキレン骨格を有するポリエーテルブロック又はポリエーテルポリエステルブロックが好ましく、特に、バレロラクトンやカプロラクトンなどのC4−8ラクトンの開環付加重合体が好ましい。
【0033】
(レーザー光吸収剤)
接着フィルムを構成する樹脂組成物は、レーザー光吸収剤としてニグロシン染料を含む。本発明では、赤外線吸収剤であるニグロシン染料を含むことにより、レーザー光の照射による接着フィルムの溶融状態を容易に制御でき、樹脂成形体の熱劣化を抑制できる。
【0034】
レーザー光吸収剤の割合は、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して、例えば、0.1〜30重量部、好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部(特に0.5〜2重量部)程度である。レーザー光吸収剤の割合が多すぎると、接着フィルムの機械的特性が低下するとともに、発熱による樹脂成形体の劣化が発生し易く、少なすぎると樹脂成形体と金属成形体との接合強度が低下する。
【0035】
レーザー光吸収剤は、接着フィルム中において、均一に含まれていてもよいが、金属成形体(特に熱伝導率の低い金属成形体)との接合強度を高めるために、金属成形体と接触する側が高濃度となるように含まれていてもよい。
【0036】
(他の添加剤)
接着フィルムを構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のレーザー光吸収剤としてレーザー光を吸収可能な各種染顔料を含んでいてもよいが、樹脂成形体の熱劣化を抑制できる点から、カーボンブラックを実質的に含有していないのが好ましい。
【0037】
前記樹脂組成物は、慣用の添加剤、例えば、可塑剤、難燃剤、着色剤、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、金属フィラーなど)、安定剤(酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤など)、滑剤、分散剤、発泡剤などが含まれていてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
接着フィルムは、粘着性を有していなくても、金属成形体と強固に接合できるため、実質的に有していないのが好ましい。そのため、接着フィルムを構成する樹脂組成物は、粘着付与剤(タッキファイアー)を実質的に含有していないのが好ましい。
【0039】
接着フィルムの厚みは、樹脂成形体の種類やサイズに応じて選択できるが、例えば、1〜1000μm、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは30〜300μm(特に50〜200μm)程度である。
【0040】
[樹脂成形体]
樹脂成形体を構成する樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、熱硬化性ポリウレタン、ポリイミドなど)などが挙げられる。
【0041】
これらの樹脂のうち、接着フィルムとの接合強度の点から、融点を有する熱可塑性樹脂が好ましく、接着フィルムを構成する熱可塑性エラストマーと同種の熱可塑性樹脂が特に好ましい。特に、接着フィルムがポリエステル系エラストマーで形成されている場合、熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC2−4アルキレンアリレートなど)であってもよい。
【0042】
樹脂成形体のレーザー光に対する透過率は、使用するレーザー光の発振波長(例えば、740〜1600nmの範囲から選択される波長)に応じ、例えば、厚み1mmの樹脂成形体の厚み方向において、通常、10%以上(例えば、10〜100%程度)であればよく、例えば、15〜100%、好ましくは20〜100%、さらに好ましくは30〜100%(特に40〜100%)程度である。
【0043】
樹脂成形体は、樹脂の種類に応じて、慣用の方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形などにより成形できる。樹脂成形体の形状は、特に制限されず、二次元的形状(例えば、板状)又は三次元的形状であってもよい。
【0044】
樹脂成形体の厚み(レーザー溶着位置の厚み)は、用途や、レーザー光に対する透過性又は吸収性などに応じて、例えば、50μm〜10mm、好ましくは70μm〜8mm、さらに好ましくは100μm〜5mm(特に500μm〜3mm)程度であってもよい。
【0045】
[金属成形体]
金属成形体を構成する金属材料としては、特に限定されず、例えば、周期表第4A族金属(チタン、ジルコニウムなど)、周期表第5A族金属(バナジウムなど)、周期表第6A族金属(クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表第7A族金属(マンガンなど)、周期表第8族金属(鉄、コバルト、ニッケル、白金など)、周期表第1B族金属(銅、銀、金など)、周期表第2B族金属(亜鉛など)、周期表第3B族金属(アルミニウムなど)、周期表第4B族金属(スズ、鉛など)などが例示できる。これらの金属材料は、これらの単一の金属材料で形成された材料に限定されず、二種以上を組み合わせた合金であってもよい。
【0046】
前記金属材料のうち、例えば、銅、りん青銅、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム、鉄などが汎用される。
【0047】
本発明では、金属成形体が熱伝導性の高い金属材料に対しても樹脂成形体を熱劣化させることなく、樹脂成形体と強固に接合できる。そのため、熱伝導率が50W/mK以上(特に100W/mK以上)の金属材料、例えば、銅、アルミニウム、リン青銅などに対しても、樹脂成形体の劣化を抑制して、樹脂成形体と強固に接合できる。
【0048】
樹脂成形体の形状は特に限定されないが、樹脂成形体との接触面においては、樹脂成形体の形状に対応又は追随した形状を有するのが好ましい。
【0049】
[レーザー溶着法]
本発明では、前記樹脂成形体と前記金属成形体との間に前記接着フィルムを介在させて、樹脂成形体側からレーザー光を照射することにより、樹脂成形体と金属成形体との界面に位置する接着フィルムを溶融させて接合面を密着させ、冷却して接合(又は一体化)することにより複合成形体が得られる。特に、樹脂成形体側からレーザー光を照射するため、樹脂成形体と金属成形体とを強固に接合できるとともに、穏和で、かつ充分に制御された条件でレーザーを照射できるため、樹脂成形体側からレーザー光を照射するにも拘わらず、レーザー光入射側の表面の焼けが発生を抑制できる。
【0050】
レーザー光源としては、例えば、通常、発振波長193〜1600nm程度のレーザー光源が使用でき、例えば、固体レーザー(Nd:YAG励起、半導体レーザー励起など)、半導体レーザー(650〜980nm)、チューナブルダイオードレーザー(630〜1550nm)、チタンサファイアレーザー(Nd:YAG励起、690〜1000nm)、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム−ネオンレーザーなど)、色素レーザーなどが挙げられる。これらのうち、固体レーザーや半導体レーザーなどが汎用される。
【0051】
レーザー出力は、例えば、10〜500W、好ましくは80〜400W、さらに好ましくは100〜300W(特に120〜250W)程度である。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた材料及び複合成形体を以下の項目で評価した。
【0053】
[融点]
熱走査熱量計により樹脂成形体及び接着フィルムの融点を測定した。融点の測定は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計DSC(パーキンエルマ社製)を用いて測定した。昇温速度は10℃/分で昇温し、1st Run(第1回目の昇温時)の融解ピークが得られた温度より20℃高い温度まで昇温した後、10℃/分の速度で20℃まで冷却し、その後昇温速度10℃/分で昇温した時に得られる2nd Run(第2回目の昇温時)の融解ピークのピークトップの温度を融点とした。
【0054】
[溶融粘度]
溶融粘度は、レオメータ(Anton Paar社製「MCR301」、周波数1.12Hz)にて測定した。接着フィルムを構成する熱可塑性エラストマーについて、融点より10℃高い温度T10(mp+10℃)での溶融粘度V10と、融点より50℃高い温度T50(mp+50℃)での溶融粘度V50とを測定し、両者の比V10/V50を算出した。
【0055】
[透過率]
樹脂成形体の透過率は、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製「U3900」)を用いて、波長850nmでの透過度を測定した。
【0056】
[剪断強度]
引張試験機(インストロン社製「インストロン3382」)を用いて、得られた複合成形体を樹脂板及び金属板の両側から長さ方向に沿って、剪断速度10mm/秒で引張剪断し、得られた最大強度を測定し、剪断強度とした。
【0057】
[レーザー溶着性]
前記剪断強度の試験後に、破断面の外観状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0058】
○:樹脂板が破壊されているか、樹脂板の塑性変形あり
△:金属板と樹脂板との界面で剥離
×:接合せず、測定不能。
【0059】
[使用材料の略号及び詳細]
(樹脂成形体)
PBT板:ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製「ジュラネックス2000」、融点220℃)を、単軸の押出機を用いて溶融成形して厚み1mmのシートを作製した。このシートから幅25mm、長さ50mmの板を切り出しPBT板とした。なお、PBT板の透過率は20%であった。
【0060】
PET板:ポリエチレンテレフタレート(三井化学(株)製「三井PET J125、融点260℃)を、単軸の押出機を用いて溶融成形して厚み1mmのシートを作製した。このシートから幅25mm、長さ50mmの板を切り出しPET板とした。なお、PET板の透過率は90%であった。
【0061】
(接着フィルム用材料)
GM990:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGM990」、数平均分子量30000、ガラス転移温度4℃、融点111℃、200℃溶融粘度800Pa・s
GM920:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGM920」、数平均分子量30000、ガラス転移温度−60℃、融点107℃、200℃溶融粘度100Pa・s
GM400:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGM400」、数平均分子量25000、ガラス転移温度19℃、融点143℃、200℃溶融粘度460Pa・s
GM925:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGM925」、数平均分子量25000、ガラス転移温度15℃、融点166℃、200℃溶融粘度400Pa・s
GA5200:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGA5200」、数平均分子量10000、ガラス転移温度−4℃、融点113℃、200℃溶融粘度17Pa・s
GA1200:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGA1200」、数平均分子量10000、ガラス転移温度0℃、融点141℃、200℃溶融粘度13Pa・s
GA1300:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績(株)製「バイロンGA1300」、数平均分子量20000、ガラス転移温度−6℃、融点167℃、200℃溶融粘度51Pa・s
M1913:水添スチレン系エラストマー、旭化成(株)製「タフテックM1913」
赤外線吸収剤:ニグロシン染料を主原料とする吸収剤、オリエント化学(株)製「NUBIAN GREY IR−B」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「トーカブラック#4300」。
【0062】
(金属成形体)
りん青銅板:幅25mm、長さ50mm、厚み1mmのC5191P板
SUS板:幅25mm、長さ50mm、厚み1mmのSUS304板(ステンレス板)
アルミ板:幅25mm、長さ50mm、厚み1mmのAl#1000板(アルミニウム板)。
【0063】
実施例1
ポリエステル系エラストマー(GM990)ペレット99重量部に対して、赤外線吸収剤1重量部をドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機を用いて、押出温度200℃、スクリュー回転100rpmで溶融混練し、幅50mmのシート状に成形し、厚み100μmの接着フィルムを得た。
【0064】
PBT板とりん青銅板とを長さ方向において30mm重複するように重ね合わせ、両板の重ね合わせ部に前記接着フィルムを介在させた。800nmの単波長の半導体レーザーを用いて、PBT板側からレーザー光を照射してレーザー溶着した。レーザー光線のコリメート径は10mm、焦点距離は20mmであり、最小スポット径は5mmであった。レーザー光の照射は照射距離20mmの条件で、200Wの出力で行った。さらに、PBT板の長手方向に対して5mm/秒の速度で25mm走査した。照射終了後は、空冷により接着フィルムを再度固化することにより、この接着フィルムを介してPBT板とりん青銅板とが接合した複合成形体を得た。
【0065】
実施例2〜7及び比較例1〜7
表1に示す条件で接着フィルムを製造し、表2に示す条件で樹脂成形体と金属成形体とをレーザー溶着する以外は実施例1と同様にして複合成形体を得た。
【0066】
なお、比較例1は、接着フィルムを構成する熱可塑性エラストマーが融点を有していないため、200℃における溶融粘度V10と、240℃における溶融粘度V50とを測定した。また、比較例6では、赤外線吸収剤の代わりにカーボンブラックを用い、比較例7では、金属板側からレーザーを照射した。
【0067】
これらの実施例及び比較例について、表1に接着フィルムの特性を示し、表2にレーザー照射条件及び評価結果を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表2の結果から明らかなように、実施例の複合成形体は、樹脂成形体と金属成形体とが強固に接合していた。これに対して、比較例1〜5では、いずれも接着フィルムと金属板との界面で剥離した。また、比較例6では、接着フィルムが熱劣化し、接合できなかった。さらに、比較例7では、接着フィルムとPBT板との界面、接着フィルムとりん青銅板との界面のいずれの界面でも剥離し、接合できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のレーザー溶着法は、樹脂成形体と金属成形体とを接合させる各種分野、例えば、家庭用又はオフィスオートメーション用機器(コンピュータ、プリンター、コピー機、ファックス、電話など)、モバイル機器(携帯電話、ゲーム機など)、家電製品(テレビ、レコーダー、DVDプレーヤー、ゲーム機、エアコン、冷蔵庫、洗濯機など)、自動車部品(インテークマニホールドなど)、家庭用品、建築材料などの用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体と金属成形体との間に接着フィルムを介在させて樹脂成形体側からレーザー光を照射することにより樹脂成形体と金属成形体とを接合する方法であって、
前記接着フィルムが熱可塑性エラストマー及びレーザー光吸収剤を含む樹脂組成物で形成され、
前記熱可塑性エラストマーが、融点を有するとともに、融点より10℃高い温度での溶融粘度をV10、融点より50℃高い温度での溶融粘度をV50とするとき、V10/V50≦10を充足し、かつ
前記レーザー光吸収剤がニグロシン染料である方法。
【請求項2】
樹脂成形体が融点を有する熱可塑性樹脂で形成され、かつ接着フィルムの熱可塑性エラストマーが前記熱可塑性樹脂の融点より低い融点を有するとともに、前記接着フィルムが粘着性を有していない請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーが融点100〜200℃のポリエステル系エラストマーであり、かつその溶融粘度V10と溶融粘度V50との比が、V10/V50=1.5/1〜5/1である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂であり、金属成形体が、銅、りん青銅、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム及び鉄からなる群から選択された少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
金属成形体の熱伝導率が50W/mK以上である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により、接着フィルムを介して樹脂成形体と金属成形体とが接合した複合成形体。

【公開番号】特開2012−232531(P2012−232531A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103727(P2011−103727)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】