説明

樹脂成形体のめっき方法

【課題】 クロム酸を用いずに、熱可塑性脂環構造含有重合体製の成形体表面を粗化し、めっき層を形成する。
【解決手段】 二酸化チタン、軟質重合体、及び熱可塑性脂環構造含有重合体を含有する樹脂組成物を用いて、成形体を形成する。この成形体表面に光を照射した後、成形体表面に、過マンガン酸塩などのアルカリ性水溶液を接触させて、成形体表面粗化する。こうして表面が粗化された成形体に、無電解めっきをして、樹脂成形体表面にめっきを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化剤としてクロム酸を用いない、熱可塑性脂環式造含有重合体を含有する成形体のめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂からなる成形体表面にめっきを施す場合、通常、めっき層と成形体の密着性を向上させる目的で、めっき前に成形体表面を粗化する。粗化する方法としては、クロム酸などを用いた化学処理が一般的である。しかし、近年の環境問題対策により、クロム酸の使用は厳しく制限される傾向にある。粗化のための化学処理に用いられる粗化剤としては、クロム酸以外に過マンガン酸ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ性水溶液も採用されている。
ところで、熱可塑性樹脂として脂環構造含有重合体を用いた成形体については、特許文献1において、環状オレフィン系重合体を樹脂成分とする成形体へのめっきが困難であることが指摘されている。そして特許文献1は、この問題を、環状オレフィン系重合体にある種の軟質重合体を配合することで解決できると記載している。特許文献1の実施例においては、クロム酸カリウムと硫酸との混酸を用いて成形体表面を粗化処理されている。また、特許文献2においては、ノルボルネン系重合体に、軟質重合体を配合して得られる成形体に、クロム酸と塩酸の混酸を用いて加熱条件下で粗化した後、めっきすることが開示されている。
また、特許文献3では、ノルボルネン系単量体を軟質重合体存在下でメタセシス重合して得られる熱硬化性脂環構造含有重合体の成形体であれば、クロム酸を用いた粗化後、めっきすることで成形体とめっきとの密着性が向上することが開示されている。
このように、環状オレフィン系重合体やノルボルネン系樹脂などの熱可塑性脂環構造含有重合体へのめっきは、クロム酸化合物を用いた粗化が必要であった。
【0003】
【特許文献1】特許第2881751号公報
【特許文献2】特開2003−115645号公報
【特許文献3】特許第2811474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によると、熱可塑性脂環構造含有重合体を用いて得られる成形体を粗化するに際して、クロム酸化合物を含む粗化剤の代わりにアルカリ性水溶液を粗化剤として用いると、軟質重合体を配合して得られた成形体であっても、その表面が十分に粗化されず、めっき層と成形体との密着性が低くなってしまうことが判った。
かかる知見のもと、本発明者は、クロム酸化合物を用いずに成形体表面を粗化して、めっき層と成形体との密着性を向上させることを目的として鋭意検討した結果、熱可塑性脂環構造含有重合体に、二酸化チタンと軟質重合体とを配合した場合に、粗化剤としてアルカリ性水溶液を用いても、粗化剤による粗化処理の前に、成形体表面に光を照射すればこの目的を達成できることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かくして本発明によれば、二酸化チタン、軟質重合体、及び熱可塑性脂環構造含有重合体からなる樹脂成形体に光を照射した後、成形体表面をアルカリ性水溶液で表面粗化した後、めっきする工程を有する樹脂成形体のめっき方法が提供される。
照射する光は、その波長が100〜380nmであるのが好ましい。
照射する光は、その量が1J/cm以上であるのが好ましい。
熱可塑性脂環構造含有重合体は、非晶性で極性基を持たないものであるのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いる樹脂成形体は、二酸化チタン、軟質重合体、及び熱可塑性脂環構造含有重合体を含有する。
【0007】
本発明に用いる二酸化チタンは、市販された入手容易なものの中から任意に選択することができる。二酸化チタンには、その結晶構造からアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などに分類されるが、本発明においてはこれらのいずれを用いることもできる。二酸化チタンの使用量は、粗化の程度と樹脂成形体の強度とのバランスの観点から、後述する熱可塑性脂環構造含有重合体100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。
【0008】
本発明で用いる軟質重合体は、特に限定されず、耐衝撃性に優れることから40℃以下のTgを有するものが好ましい。ブロック共重合体では、2点以上のTgを有するものもあるが、その内1点が40℃以下であれば、本発明で用いる軟質重合体として好ましいものである。また、分子量は好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、特に好ましくは30,000以上、好ましくは400,000以下、より好ましくは300,000以下、特に好ましくは200,000以下のものである。分子量が小さすぎると樹脂成形体の機械的特性が劣り、高すぎると製造が困難である。また、熱可塑性ノルボルネン系樹脂と相溶性を有する非極性のものが好ましい。
【0009】
本発明で用いる軟質重合体としては、スチレン−ブタジエン・ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン・ブロック共重合体、スチレン−イソプレン・ブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン・ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン・ランダム共重合体などの芳香族ビニル・モノマーと共役ジエン系モノマーのランダム又はブロック共重合体;ポリイソプレンゴム;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィンゴム;エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、α−オレフィン−ジエン共重合体、ジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、イソブチレン−ジエン共重合体などのジエン系共重合体;ノルボルネン系単量体とエチレン又はα−オレフィンの共重合体、ノルボルネン系単量体とエチレンとα−オレフィンの三元共重合体、ノルボルネン系単量体の開環重合体などのノルボルネン系ゴム質重合体;などが挙げられる。また、これらを水素添加したものでもよい。金属元素量を低減させやすい点で芳香族ビニル・モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体が好ましく、ブロック共重合体が特に好ましく、さらに耐候性に優れる点からその水素化物が好ましい。
【0010】
軟質重合体の使用量は、粗化の程度と樹脂成形体の強度とのバランスを考慮すると、後述する熱可塑性脂環構造含有重合体100重量部に対して、通常1〜40重量部、好ましくは5〜20重量部である。
上述した二酸化チタンと軟質重合体との配合割合に格別な制限はないが、粗化効果を十分に得るためには、重量比で、通常1:40〜1:5、好ましくは1:20〜1:10である。
【0011】
本発明に用いる熱可塑性脂環構造含有重合体は、加熱によって柔らかくなり、冷却することにより固くなる性質を有する成形体を構成する脂環構造含有重合体である。架橋剤などが配合された樹脂組成物から得られる、加熱すると重合を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して、加熱によっても元に戻らなくなる熱硬化性の樹脂とは異なるものである。
【0012】
本発明に用いられる脂環構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有するものであり、脂環式構造を主鎖及び側鎖のいずれに有していてもよい。脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲にある。炭素原子数がこの範囲にあると、耐熱性及び透明性に優れた容器が得られるので好ましい。脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、耐熱性の点で好ましい。なお、脂環構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、使用目的に応じて適宜選択される。
【0013】
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物などの、非晶性樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系重合体水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体及びその水素化物が好ましい。これらの中でも極性基を有しない脂環構造含有重合体において、本発明の方法が著効を示す。
【0014】
(1)ノルボルネン系重合体
本発明に用いられるノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、これらの水素化物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が最も好ましい。
【0015】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.12,5.01,6]デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、テトラシクロ[7.4.110,13.01,9.02,7]トリデカ−2,4,6,11−テトラエン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基などが例示でき、上記ノルボルネン系モノマーは、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8−メトキシカルボニル基−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0016】
これらノルボルネン系モノマーの開環重合体、又はノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体は、モノマー成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。
【0017】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0018】
ノルボルネン系モノマーの付加重合体、又はノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体は、これらのモノマーを、公知の付加重合触媒、例えば、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いて重合させて得ることができる。
【0019】
ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1、4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが用いられる。これらの中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。
【0020】
これらの、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとを付加共重合する場合は、付加共重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と共重合可能なその他のモノマー由来の構造単位との割合が、重量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0021】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
【0022】
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−又は1,4−付加重合した重合体及びその水素化物などを用いることができる。
【0023】
本発明に用いられるノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体又は環状共役ジエン系重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000〜500,000、好ましくは8,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量がこの範囲にあると、容器の機械的強度及び成形加工性とが高度にバランスされるので好ましい。
【0024】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられ、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素化物など、いずれでもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、又はそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0025】
本発明に用いられるビニル脂環式炭化水素重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン又はテトラヒドロフラン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法で測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常10,000〜300,000、好ましくは15,000〜250,000、より好ましくは20,000〜200,000の範囲にある。重量平均分子量がこの範囲にあると、容器の機械的強度及び成形加工性とが高度にバランスされるので好ましい。
【0026】
本発明に用いられる脂環構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、80℃以上であると好ましく、100〜250℃の範囲であるとより好ましく、120〜200℃の範囲であると特に好ましく、130〜140℃の範囲であると最も好ましい。Tgがこの範囲であると、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスされ好ましい。
【0027】
なお、本発明に用いられる脂環構造含有重合体には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
脂環構造含有重合体に各種の添加剤を配合する方法に格別な制限はなく、例えば、ロール、ニーダー、押出混練機、バンバリーミキサー、フィーダールーダー等の混練器で練りながら、脂環構造含有重合体と添加剤とを混合する方法;脂環構造含有重合体を適当な溶剤に溶解し、これに添加剤を配合して混合し、次いで溶媒を除去する方法;などが挙げられる。
【0028】
樹脂成形体を得る方法に格別な制限はなく、樹脂成形体の形状に応じて公知の成形方法を採用すれば良い。例えば、溶液流延法、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、二色成形法、インサート成形法、ブロー成形法、延伸成形法等が挙げられる。
【0029】
本発明においては、樹脂成形体の表面に光を照射する。照射する光は、粗化のされ易さの観点から、紫外線が好ましく、波長が100〜380nmのものが好ましい。
また、照射する光の量は、通常1J/cm以上であり、好ましくは1〜15J/cm、より好ましくは2〜13J/cmである。照射量が少なすぎると粗化が不十分となるおそれがある。照射量が多いと成形体を劣化させるおそれがある。
照射時間は、照射する光の量に応じて任意機設計できるが、通常5〜30分である。
照射時の環境温度に格別な制限はなく、20±10℃である。
【0030】
光を照射した後、アルカリ性水溶液からなる粗化剤で、樹脂成形体表面を粗化する。光の照射後、粗化剤で粗化するまでの時間に格別な制限はなく、光の照射直後に粗化してもよいし、10日後など時間をあけて粗化してもよい。
本発明で用いる粗化剤は、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液である。アルカリ性水溶液の濃度は、4〜10重量%である。
【0031】
樹脂成形体を粗化するには、樹脂成形体と粗化剤とを接触させることが必要である。接触方法に格別な制限はなく、粗化剤に樹脂成形体を浸漬する方法、粗化剤を樹脂成形体にスプレーなどで吹きかける方法などが挙げられる。粗化剤との接触時の粗化剤の温度は、室温以上であるのが好ましく、50〜90℃であるのが好ましい。接触時間に格別な制限はないが、粗化の程度と生産性との観点から、通常5〜30分である。
粗化剤との接触後は、粗化剤を樹脂成形体から除去するため、通常、水洗浄を行う。
【0032】
このような粗化処理により、樹脂成形体表面は、算術平均粗さが、通常30〜300、好ましくは50〜150程度に粗化される。ここで、算術平均粗さは、原子間力顕微鏡(Digital Instrument社製、Nanoscope 3a)にてSi単結晶短冊型カンチレバー(バネ定数=20N/m、長さ125μm)を使用し大気中タッピングモードで測定される、JIS B 0601に定める算術平均粗さ(Ra)である。
【0033】
めっき方法に格別な制限はなく、通常、無電解めっきが採用される。
無電解めっきにより行う場合、粗化した樹脂成形体表面に、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの触媒核を吸着させるのが一般的である。触媒核を樹脂成形体表面に付着させる方法は特に制限されず、銀、パラジウム、亜鉛、コバルトなどの金属化合物やこれらの塩や錯体を、水又はアルコール若しくはクロロホルムなどの有機溶媒に0.001〜10重量%の濃度で溶解した液(必要に応じて酸、アルカリ、錯化剤、還元剤などを含有していてもよい)に浸漬した後、金属を還元する方法などが挙げられる。
【0034】
無電解めっきに用いる無電解めっき液としては、公知の自己触媒型の無電解めっき液を用いれば良く、めっき液中に含まれる金属種、還元剤種、錯化剤種、水素イオン濃度、溶存酸素濃度などは特に限定されない。例えば、次亜リン酸アンモニウム又は次亜リン酸、水素化硼素アンモニウムやヒドラジン、ホルマリンなどを還元剤とする無電解銅めっき液、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リンめっき液、ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解ニッケル−ホウ素めっき液、無電解パラジウムめっき液、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解パラジウム−リンめっき液、無電解金めっき液、無電解銀めっき液、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−コバルト−リンめっき液等の無電解めっき液を用いることができる。
無電解めっきの後に、めっきの厚みを増やす場合は電解めっきなどの湿式めっきを行うこともできる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を説明する。
実施例、比較例における各物性の測定、評価は以下の方法で行った。
(1)重量平均分子量、数平均分子量
脂環構造含有重合体の重量平均分子量と軟質重合体の数平均分子量は、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン又はテトラヒドロフラン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定されるポリイソプレン又はポリスチレン換算値として測定した。
(2)水素化率
H−NMRにより測定した
(3)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量法(DSC法)により測定した。
(4)誘電正接、比誘電率
1MHzの誘電率、比誘電率測定は、自動平衡ブリッジ法により測定した(ASTM−D150に準拠)。1〜25GHzの誘電率、比誘電率測定は、トリプレート線路共振器法により測定した。60〜80GHzの誘電率、比誘電率測定は、ファブリペロー法により測定した。75〜115GHzの誘電率、比誘電率測定はウィスパリングギャラリー共振器法により測定した。
(5)吸水率
ASTM D570に準拠して測定した
(6)算術表面粗さ(Ra)
原子間力顕微鏡(Digital Instrument 製、Nanoscope a)にてSi単結晶短冊型カンチレバー(バネ定数=20N/m、長さ125μm)を使用し大気中タッピングモードで算術平均粗さ(Ra)を求めた。
(7)密着性
JIS K 5400に定めるXカットテープ法に従い測定を行いJIS K 5400のXカットテープ法に定める評価点を以下の基準にて評価した。
○:8点以上; △:8点未満4点以上; ×:4点未満
【0036】
[製造例1]
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500重量部に、1−ヘキセン0.82重量部、ジブチルエーテル0.15重量部、トリイソブチルアルミニウム0.30重量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)80重量部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)50重量部、及びテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、TCDと略記)70重量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40重量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06重量部とイソプロピルアルコール0.52重量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/TCD=40/25/35でほぼ仕込み組成に等しかった。
【0037】
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100重量部に対して、シクロヘキサン270重量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製)5重量部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温して4時間反応させ、DCP/MTF/TCD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。得られた反応溶液から濾過により水素化触媒を除去した後、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン及びその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所製)を用いて除去し、そして水素化重合体を押出機からストランド状に押出し、冷却後、ストランドカッタで切断してペレット化して回収した。この開環重合体水素化物の、重量平均分子量(Mw)は35,000、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。
【0038】
[実施例1]
製造例1で得られた樹脂100重量部に対し、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体エラストマー(クラレ社製;製品名「セプトン2023」、数平均分子量約60,000、Tgは少なくとも40℃以下に1点あり、金属元素量約15ppm)20重量部及びフェノール系酸化防止剤0.5重量部、及び二酸化チタン2.4重量部を添加し、二軸混練押出機を用いて220℃で混練してペレットを得た。
このペレットを樹脂温度290℃で成形して、150×150×1.6mmの板状の樹脂成形体を得た。この樹脂成形体の誘電正接は1GHz〜75GHzの間で0.001以下であった。25GHzにおける比誘電率は2.3、誘電正接は0.0007であった。また、吸水率は0.008%であった。
【0039】
得られた樹脂成形体を、UV照射器(テクノビジョン社製;製品名「UVO−208」)で波長184.9nm及び253.7nmに主ピークを持つ紫外線を20分間照射した(照射光量 8.4J/cm)。次いで、この樹脂成形体を6重量%濃度の過マンガン酸ナトリウム水溶液に、80℃で10分間浸漬した後、超純水の入った水槽に、20℃で1分間揺動浸漬し、次いで別の超純水の入った水槽に20℃で1分間揺動浸漬して樹脂成形体を洗浄した。次いで、樹脂成形体を水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより、基板を水洗した。 続いて硫酸ヒドロキシルアミンと硫酸の混合溶液に、樹脂成形体を5分間浸漬し、中和還元処理をした後、水洗をし、窒素を吹き付けて水分を除去した。 次に、パラジウムを含む触媒溶液に樹脂成形体を浸漬し、さらに塩酸に浸漬して表面にパラジウムを析出させた。
こうして得られた樹脂成形体を、スルカップPRX−1−A(上村工業社製)が150ml/リットル、スルカップPRX−1−B(上村工社製)が100ml/リットル、スルカップPRX−1−C(上村工業社製)が20ml/リットルになるように調整した25℃の無電解めっき液に空気を吹き込みながら、15分間浸漬して無電解めっき処理し、上述と同様に水洗して、無電解めっきをした樹脂成形体を得た。
その後、さらに常法に従い電気銅めっきを行い、15μm厚さの銅めっきをした樹脂成形体を得た。

このときの樹脂成形体表面の表面粗さ(Ra)を測定したところ76nmであった。
次に、パラジウムを含む触媒溶液に基板を浸漬し、さらに塩酸に浸漬して、表面にパラジウムを析出させた。上記の活性化処理後、無電解めっきを行った。その後、さらに電気銅めっきを行った。得られためっき層と樹脂成形体表面の密着性評価結果は○であった。
【0040】
[実施例2]
樹脂をTDC/MTF=40/60の共重合体比率(重量部)の開環重合体の水素化物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得、これを粗化し、めっきした。粗化された樹脂成形体の表面粗さは72nmであり、めっき後の密着性評価結果は○であった。
【0041】
[実施例3]
照射する光の照射時間を10分に変えたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得、これを粗化し、めっきした。粗化された樹脂成形体の表面粗さは58nmであり、めっき後の、密着性評価結果は○であった。
【0042】
[比較例1]
酸化チタンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得、これを粗化し、めっきした。粗化された樹脂成形体の表面粗さは 28nm であり、めっき後の、密着性評価結果は×であった。
[比較例2]
光を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体を得、これを粗化し、めっきした。粗化された樹脂成形体の表面粗さは 26nm であり、めっき後の、密着性評価結果は×であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン、軟質重合体、及び熱可塑性脂環構造含有重合体からなる樹脂成形体に光を照射した後、成形体表面をアルカリ性水溶液で表面粗化した後、めっきする工程を有する樹脂成形体のめっき方法。
【請求項2】
照射する光の波長が100〜380nmである請求項1記載の樹脂成形体のめっき方法。
【請求項3】
照射する光の量が1J/cm以上である請求項1記載の樹脂成形体のめっき方法。
【請求項4】
熱可塑性脂環構造含有重合体が、非晶性で極性基を持たないものである請求項1記載の樹脂成形体のめっき方法。

【公開番号】特開2007−254606(P2007−254606A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81191(P2006−81191)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】