説明

樹脂成形体及びその製造方法

【課題】樹脂基材に対する密着強度が高く、高度な屈曲性と引っ張り疲労強度と優れたガスバリア性を発揮することが可能な樹脂成形体を提供する。
【解決手段】樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に形成されたガスバリア膜とを備える樹脂成形体であって、前記ガスバリア膜が:(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲;(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲;(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲;(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲;(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲;(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲;で表される条件を全て満たすクロム含有合金からなるものであり、且つ、前記ガスバリア膜の厚みが5nm〜1000nmの範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体並びにその製造方法に関し、より詳しくは、ガスバリア性に優れ、包装材料分野や電子材料分野に好適に利用することが可能な樹脂成形体並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子フィルム等の樹脂基材の表面に、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタニウム(Ti)等の金属からなるガスバリア膜を形成した樹脂成形体が、飲食品、医薬品等の包装材料等に用いられてきた。このような樹脂成形体としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等によってガスバリア膜が形成された樹脂成形体が知られている。
【0003】
例えば、真空蒸着法によりガスバリア膜が形成された樹脂成形体に関しては、Al、Ni又はTiからなるガスバリア膜を形成した樹脂成形体はガスバリア性能を発現するが、タングステン(W)、クロム(Cr)又はモリブデン(Mo)からなるガスバリア膜を形成した樹脂成形体はガスバリア性能を発現しないことが知られている(コンバーテック、1997年発行、vol6.p52−p55(非特許文献1)参照)。
【0004】
また、このような樹脂成形体に関して、特開平5−295528号公報(特許文献1)においては、金属ケイ素および/またはケイ素酸化物を蒸発材料としてガスバリア性、耐薬品性及び透明性に優れたガスバリア膜を形成できることが開示されている。一方、特開2002−168377号公報(特許文献2)においては、内側樹脂層と、金属薄膜層と、外側樹脂層とを備えた水素燃料用ホースが開示されており、更に、特開2002−81581号公報(特許文献3)においては、ゴム最内層と、金属バリア層とを備える水素燃料用ホースが開示されている。
【0005】
しかしながら、Al、Ni、Ti、Mo、Cr等の金属のガスバリア膜を形成した従来の樹脂成形体においては、特に樹脂基材がナイロン等の吸水率の高いものや厚板であった場合に、十分なガスバリア性を発揮することができないという問題があった。そして、このような問題は、特にNi、Ti、Mo、Cr等の金属からなるガスバリア膜において顕著であった。更に、特許文献1〜3に記載のような樹脂成形体においては、形成されているガスバリア膜が、密着強度、樹脂成形体の屈曲性及び引張り疲労強度が十分に満足なものではなかった。
【0006】
一方、特開2005−126786号公報(特許文献4)においては、樹脂基材と、金属系材料からなるターゲットにパルス幅が100ピコ秒〜100ナノ秒でかつ照射強度が10W/cm〜1012W/cmであるパルスレーザー光を照射して発生せしめた金属原子を含む飛散粒子が前記樹脂成形体の表面に堆積して形成された金属系材料からなるガスバリア膜とからなる樹脂成形体が開示され、実施例においては、Alからなるガスバリア膜を形成させた樹脂成形体が開示されており、密着強度、樹脂成形体の屈曲性及び引張り疲労強度等の向上が図られている。しかしながら、特許文献4に記載のような樹脂成形体においても、ガスバリア性の点では必ずしも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平5−295528号公報
【特許文献2】特開2002−168377号公報
【特許文献3】特開2002−81581号公報
【非特許文献1】コンバーテック、1997年発行、vol6.p52−p55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、樹脂基材に対する密着強度が十分に高く、しかも高度な屈曲性と十分な引っ張り疲労強度とを発揮することができるガスバリア膜を備え、優れたガスバリア性を発揮することが可能な樹脂成形体並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、先ず、従来の樹脂成形体においては、真空下での成膜時に樹脂基材から水分が蒸散し、その水分とAl等の金属とが反応してガスバリア膜に欠陥が生じ、かかる欠陥がガスバリア膜を成長させる際に引き継がれるため、必ずしも十分なガスバリア性を発揮することができないということを見出した。そこで、上記目的を達成すべく、更に鋭意研究を重ねた結果、特定の合金からなるガスバリア膜を樹脂基材の表面に形成し、且つ、そのガスバリア膜の厚みを5nm〜1000nmの範囲にすることにより、樹脂基材に対する密着強度が十分に高く、しかも高度な屈曲性と十分な引っ張り疲労強度とを発揮することができるガスバリア膜を備え、優れたガスバリア性を発揮することが可能な樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の樹脂成形体は、樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に形成されたガスバリア膜とを備える樹脂成形体であって、
前記ガスバリア膜が、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たすクロム含有合金からなるものであり、且つ、前記ガスバリア膜の厚みが5nm〜1000nmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0010】
上記本発明の樹脂成形体としては、前記クロム含有合金が、下記(G):
(G)モリブデンの含有量eが、0≦e≦10mass%の範囲にあること;
で表される条件を更に満たすことが好ましい。
【0011】
また、上記本発明の樹脂成形体としては、前記クロム含有合金が、下記(H):
(H)イットリウム、ランタン及びセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有量fが、0≦f≦5mass%の範囲にあること;
で表される条件を更に満たすことが好ましい。
【0012】
さらに、上記本発明の樹脂成形体としては、前記ガスバリア膜が、前記クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成されたガスバリア膜であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の樹脂成形体の製造方法は、樹脂基材の表面に、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たすクロム含有合金の微粒子を付着せしめて、厚みが5nm〜1000nmの範囲にあるガスバリア膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
上記本発明の樹脂成形体の製造方法としては、前記ガスバリア膜を形成させる工程が、前記クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させてガスバリア膜を形成させる工程であることが好ましい。
【0015】
上記本発明の樹脂成形体の製造方法としては、前記ガスバリア膜を形成させる前に、前記樹脂基材の表面に樹脂層を形成して樹脂基材の表面を平滑にする工程を更に含むことが好ましい。
【0016】
なお、本発明の樹脂成形体及びその製造方法によって、上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、上述の従来技術に記載されているようなAl等の金属からなるガスバリア膜を形成した場合においては、特にナイロン等の吸水率の高い樹脂基材や厚板の樹脂基材を用いた場合に、真空下での成膜時に樹脂基材から蒸散する水分により、樹脂基材の界面においてガスバリア膜が不均一に酸化されて欠陥が生じ、かかる欠陥はガスバリア膜を成長させる際に引き継がれるため、必ずしも十分なガスバリア性を発揮することができなかった。しかしながら、本発明においては、上述のような特定のクロム含有合金からなるガスバリア膜を形成するため、成膜時に、樹脂基材から蒸散した水分と合金中のクロム(Cr)とが反応して、クロムの酸化物が形成され、樹脂基材の表面の界面において緻密な不動体膜が形成される。そのため、本発明においては、ガスバリア膜に樹脂基材中の水分等に起因した欠陥が発生することが高度に抑制されて、優れたガスバリア性が発揮できるものと推察される。また、本発明においては、前記ガスバリア膜の厚みが5nm〜1000nmであり、優れた屈曲性等が達成される。更に、本発明においては、前記樹脂基材の表面に前記合金の微粒子を付着せしめて前記ガスバリア膜を形成させるため、その理由は定かではないが、前記樹脂基材の表面を活性な状態に維持しつつガスバリア膜を形成させることが可能となり、樹脂基材とガスバリア膜との間の優れた密着強度と、十分な引っ張り疲労強度とを発揮させることが可能となるものと推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂基材に対する密着強度が十分に高く、しかも高度な屈曲性と十分な引っ張り疲労強度とを発揮することができるガスバリア膜を備え、優れたガスバリア性を発揮することが可能な樹脂成形体並びにその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明の樹脂成形体について説明する。すなわち、本発明の樹脂成形体は、樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に形成されたガスバリア膜とを備える樹脂成形体であって、
前記ガスバリア膜が、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たす合金からなるものであり、且つ、前記ガスバリア膜の厚みが5nm〜1000nmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0020】
このような樹脂基材は特に制限されず、その表面に形成されるガスバリア膜を保持することが可能な樹脂基材であればよく、具体的には得られる製品の用途等によって適宜決定される。このような樹脂基材を構成する樹脂としては、オレフィン系樹脂{ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等}、ポリエステル、ポリカーボーネート、ポリアセタール、ポリアミド、芳香族ポリアミド、アクリル樹脂{ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等}、フッ素樹脂{ポリ4フッ素化エチレン等}、スチレン樹脂{ポリスチレン等}、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等の重合体(単独重合体又は共重合体)、並びにそれらの積層体からなる樹脂成形体が挙げられる。また、このような樹脂成形体は、必要に応じて染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、可塑剤、難燃剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候性付与剤、帯電防止剤、透明性改良剤等の添加剤を適量含有していてもよい。さらに、樹脂基材としては、上記樹脂材料にゴムが含有されている材料、或いはゴムに各種の添加剤が含有されている材料であってもよい。
【0021】
また、このような樹脂基材の形状や厚さは特に制限されず、得られる製品の用途等によってフィルム状、板状、チューブ状、ボトル状、タンク状、その他各種形状の成形体等が適宜選択される。なお、樹脂基材が樹脂フィルムの場合、その厚さは得られる製品の用途等によって適宜選択されるが、一般的には3μm〜10mm程度が好ましく、5μm〜10mm程度がより好ましい。また、樹脂基材は、必要に応じて予めその表面に平滑化処理を施してあることが好ましく、そのような表面平滑化処理としては他の樹脂層をコーティングして平滑化する方法が挙げられる。
【0022】
また、前記クロム含有合金は、「クロム(Cr)の含有量aが10≦a≦60mass%(より好ましくは10≦a≦40mass%)の範囲にあること」という条件(A)を満たす。このようなクロムの含有量aが10mass%未満では、クロムの量が少なくなって樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜を十分に形成させることが困難となり、ガスバリア膜に欠陥が生じ易くなる。他方、クロムの含有量aが60mass%を超えると、樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜を形成させることが困難となる。なお、本発明においては、ガスバリア膜を形成する合金にクロムが必須成分として含有されているため、製膜時に上記樹脂基材との界面においてクロムの酸化物の緻密な不動体膜が形成され、これによって樹脂基材中の水分に起因した欠陥の発生が十分に防止される。
【0023】
さらに、このようなクロム含有合金は、「ニッケル(Ni)の含有量bが0≦b≦80mass%(より好ましくは0≦b≦75mass%)の範囲にあること」という条件(B)を満たす。このようなニッケルの含有量bが、80mass%を超えると、Niの含有量が多くなるために、樹脂基材の表面の界面においてNiと樹脂基材中の水分との反応により欠陥が生じ易くなる。
【0024】
また、前記クロム含有合金は、「鉄(Fe)の含有量cが0≦c≦80mass%(より好ましくは0≦c≦70mass%)の範囲にあること」という条件(C)を満たす。このような鉄の含有量cが80mass%を超えると、樹脂基材の表面の界面において、Feと樹脂基材中の水分との反応により欠陥が生じ易くなる。
【0025】
さらに、前記クロム含有合金は、「ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%(より好ましくは40≦b+c≦85mass%)の範囲にあること」という条件(E)を満たす。このような鉄の含有量bとニッケルの含有量cとの和(b+c)が30mass%未満では、樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜の形成が困難となり、他方、85mass%を超えると、樹脂基材の表面の界面において、FeあるいはNiと樹脂基材中の水分との反応により欠陥が生じ易くなる。
【0026】
また、このような条件(E)に示すように、前記クロム含有合金は、ニッケル又は鉄の少なくとも一方を必須の成分として含有する。そして、このようなクロム含有合金としては、ニッケルを主成分として含有するニッケル−クロム系合金(Ni−Cr系合金)であっても、鉄を主成分として含有する鉄−クロム系合金(Fe−Cr系合金)であってもよい。このようなクロム含有合金が、前記Ni−Cr系合金である場合においては、二ッケルの含有量bは40≦b≦80mass%(より好ましくは50≦b≦80mass%)の範囲にあることが好ましい。このようなニッケルの含有量bが前記下限未満では、合金中のニッケルの含有量が少なくなって、樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜の形成が困難となる傾向にある。他方、前記クロム含有合金が、前記Fe−Cr系合金である場合においては、鉄の含有量cが40≦c≦80mass%(より好ましくは50≦c≦80mass%)の範囲にあることが好ましい。このような鉄の含有量cが前記下限未満では、合金中の鉄の含有量が少なくなって、樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜の形成が困難となる傾向にある。
【0027】
また、前記クロム含有合金は、「アルミニウム(Al)の含有量dが0≦d≦10mass%(より好ましくは0≦d≦8mass%)の範囲にあること」という条件(D)を満たす。このようなアルミニウムの含有量dが10mass%を超えると、アルミニウムの含有量が多くなるため、成膜時にアルミニウムと樹脂基材中の水分とが反応して欠陥が生じ易くなる。
【0028】
さらに、前記クロム含有合金は、「ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%(より好ましくは2≦b+d≦80mass%)の範囲にあること」という条件(F)を満たす。このような条件(F)に示すように、前記クロム含有合金は、ニッケル又はアルミニウムの少なくとも一方を必須の成分として含有する。このようなニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和(b+d)が、1mass%未満では、樹脂基材の表面の界面において緻密で均一な不動体膜の形成が困難となり、他方、80mass%を超えると、界面において、NiあるいはAlと樹脂基材中の水分との反応による欠陥が生じ易くなる。
【0029】
また、このような合金としては、「モリブデン(Mo)の含有量eが0≦e≦10mass%の範囲(より好ましくは0≦e≦8mass%の範囲)にあること」という条件(G)を更に満たすことが好ましい。また、このようなモリブデンの含有量eが10mass%以上では、樹脂基材の表面の界面において、Moと樹脂基材中の水分との反応により欠陥を生じ易くなる傾向にある。なお、モリブデンを含有させることで、得られるガスバリア膜の耐腐食性が向上する傾向にある。
【0030】
さらに、このようなクロム含有合金としては、「イットリウム、ランタン及びセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有量fが、0≦f≦5mass%の範囲にあること」という条件(H)を満たすことが好ましい。このようなイットリウム、ランタン及びセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含有させることで、得られるガスバリア膜の耐腐食性が向上する傾向にある。また、前記金属の含有量fが5mass%以上では、樹脂基材の表面の界面において、樹脂基材中の水分との反応により欠陥を生じ易くなる傾向にある。
【0031】
また、このようなクロム含有合金としては、上記条件(A)〜(F)を満たすものであればよく、特に制限されないが、例えば、上述のNi−Cr系合金に相当するインコネル600、インコネル713C、インコネル617や、上述のFe−Cr系合金に相当するSUS316、SUS10S、SUS304、SUS329J4L等が挙げられる。
【0032】
また、このようなクロム含有合金からなるガスバリア膜においては、成膜時に酸素や炭素が混入してしまう傾向にある。しかしながら、かかる酸素や炭素はガスバリア膜の欠陥等を生じさせる原因となり易い成分であるため、その含有量はできるだけ少ないことが好ましい。そして、本発明においては、ガスバリア膜中に含有される酸素及び/又は炭素の量は0mass%以上10mass%未満の範囲にあることが好ましい。ガスバリア膜中に含有される酸素及び/又は炭素の量が10mass%以上では、得られるガスバリア膜に欠陥が生じ易くなり、十分なガスバリア性を発揮できなくなる傾向にある。
【0033】
さらに、このようなガスバリア膜は、その厚みが5nm〜1000nmの範囲(より好ましくは5nm〜500nmの範囲)にあるものである。このようなガスバリア膜の厚みが前記下限未満では、達成されるガスバリア性が不十分となり、他方、前記上限を超えると、厚みが厚くなりすぎて高度な屈曲性を発揮することが困難となるとともに引っ張り疲労強度が不十分となる。
【0034】
また、このようなガスバリア膜としては、前記クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成されたガスバリア膜であることが好ましい。このようにして形成されたガスバリア膜は、樹脂基材への密着強度がより高いものとなる傾向にある。なお、このようなガスバリア膜を形成する工程については後述する。
【0035】
また、本発明の樹脂成形体は、前記樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に形成された前記ガスバリア膜とを備えるものである。そして、このような樹脂成形体は、前記ガスバリア膜により種々のガスに対して優れたガスバリア性を発揮することができ、そのガスの種類は特に制限されない。また、本発明においては、その対象とするガスの種類に応じてより高いガスバリア性が発揮できるように、上記条件(A)〜(F)を満たす範囲で合金の組成を適宜変更してもよい。
【0036】
さらに、本発明の樹脂成形体は、前記ガスバリア膜の表面上に他の樹脂成形体が更に積層されていてもよい。前記ガスバリア膜は他の樹脂成形体に対する接着性にも優れているため、本発明のガスバリア性樹脂成形体は、このような他の樹脂成形体との積層体を形成する基材としても優れており、本発明のガスバリア性樹脂成形体をこのような積層体とすることによりガスバリア膜の保護が可能となり、更に印刷、製袋等の後加工が容易となる。
【0037】
次に、上記本発明の樹脂成形体を好適に製造することが可能な本発明の樹脂成形体の製造方法について説明する。すなわち、本発明の樹脂成形体の製造方法は、樹脂基材の表面に、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たすクロム含有合金の微粒子を付着せしめて、厚みが5nm〜1000nmの範囲にあるガスバリア膜を形成させる工程を含むことを特徴とする方法である。
【0038】
このようなガスバリア膜を形成する工程は特に制限されず、例えば、レーザーアブレーション法を採用してガスバリア膜を形成する工程、真空蒸着法を採用してガスバリア膜を形成する工程、スパッタ法を採用してガスバリア膜を形成する工程、イオンプレーティング法を採用してガスバリア膜を形成する工程を適宜採用することができる。また、レーザーアブレーション法、真空蒸着法、スパッタ法及びイオンプレーティング法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。また、このようなガスバリア膜を形成する工程の中でも密着強度をより向上させることができるという観点からは、レーザーアブレーション法を採用してガスバリア膜を形成する工程を採用することが好ましい。
【0039】
さらに、このようなレーザーアブレーション法を採用してガスバリア膜を形成する工程の中でも、クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させてガスバリア膜を形成させる工程を採用することが好ましい。
【0040】
なお、ここでいう波長50nm〜100nmの真空紫外光とは、50nm〜100nmの波長領域における少なくとも一部の波長を有する真空紫外光のことをいうが、以下の条件のうちの少なくとも一つの条件を満たしていることが好ましい。
(i)50nm〜100nmの波長領域に少なくとも一つの光強度のピークを有すること、
(ii)50nm〜100nmの波長領域の光の全エネルギーが100nm〜150nmの波長領域の光の全エネルギーより高いこと、
(iii)50nm〜100nmの波長領域の光の全エネルギーが50nm以下の波長領域の光の全エネルギーより高いこと
(iv)50nm〜100nmの波長領域の光のエネルギー密度が樹脂基材上で0.1μJ/cm〜10mJ/cm(より好ましくは1μJ/cm〜100μJ/cm)であること。なお、樹脂基材上における前記エネルギー密度が0.1μJ/cmより低くなると処理に要する時間が過度に長くなってしまう傾向にあり、他方、10mJ/cmより高くなると樹脂基材が分解されてしまう傾向にある。
【0041】
さらに、このようなレーザー光を照射させて飛散粒子を付着せしめる方法を採用する場合においては、シールドガス雰囲気下において前記樹脂基材の表面に前記飛散粒子を付着せしめる場合に、例えば、内部が減圧状態となっている容器を用いると、真空紫外光が空気中の酸素等の真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂基材の表面に照射され、樹脂基材の表面がより効率良く活性化される傾向にある。また、シールドガス雰囲気下で処理をすると、減圧状態とせずとも真空紫外光が真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂基材の表面に照射され、樹脂基材表面がより効率良く活性化される傾向にある。さらに、後者の場合、前者の場合に比べて真空ポンプや耐圧容器を用いる必要がなくなるため、装置の簡便性および低コストという点でより好ましい傾向にある。
【0042】
また、このようなガスバリア膜を形成させる前に、予め、前記樹脂基材の表面に樹脂層を形成して樹脂基材の表面を平滑にしておくことが好ましい。このようにして樹脂基材の表面を平滑にしておくことで、均質なガスバリア膜を形成でき、ガスバリア性を向上できる傾向にある。なお、このような樹脂層を形成させる樹脂材料としては特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等が挙げられる。また、このような樹脂材料により前記樹脂基材に樹脂層を形成させる方法は特に制限されず、例えば、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法等の各種の塗装方法を採用して樹脂材料を塗布し、乾燥させて樹脂層を形成する方法を挙げることができる。
【0043】
以下、図面を参照しながらガスバリア膜形成工程として好適なレーザーアブレーション法を採用してガスバリア膜を形成する工程の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0044】
先ず、このようなレーザーアブレーション法を採用してガスバリア膜を形成する工程を実施するのに好適な装置について説明する。
【0045】
図1は、ガスバリア膜を形成する工程を実施するのに好適な装置の一実施形態の基本構成を示す模式図であり、図1に示す装置はいわゆるレーザーアブレーション装置1として構成されている。すなわち、図1に示すレーザーアブレーション装置1は、レーザー光源2と、レーザー光源2から発せられたレーザー光Lが導入される処理容器3とを備えており、処理容器3の内部にはレーザー光Lが照射されるターゲット4と、表面に活性化されたガスバリア膜5が形成されるべき樹脂基材6とが配置されている。
【0046】
レーザー光源2は、パルス幅が100ピコ秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射することができるレーザー光発生装置であればよく、特に制限されないが、例えばYAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成され、中でもYAGレーザー装置によって構成されることが好ましい。そして、レーザー光源2は、処理容器3の内部に配置されているターゲット4に向かってレーザー光Lを照射する位置に配置されている。また、図示はしていないが、レーザー光Lをターゲット4に照射した際にターゲット4の表面からクロム含有合金を含む飛散粒子a及び真空紫外光Lが効率的に発生するように、レーザー光Lの光路の途中にレンズ、鏡等を適宜配置してレーザー光のエネルギー密度や照射角度を調整してもよい。特に、集光レンズ(図示せず)を処理容器3の内部または外部に配置して、ターゲット4に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm〜1012W/cmとなるようにすることが好ましく、10W/cm〜1011W/cmとなるようにすることが更に好ましい。
【0047】
処理容器3は、少なくともターゲット4と樹脂基材6とを内部に収容するための容器(例えばステンレス鋼製の容器)であり、レーザー光Lを容器3内に配置されたターゲット4の表面に導入するための窓7(例えば石英製の窓)を備えている。また、処理容器3には真空ポンプ(図示せず)が接続されており、容器3の内部を所定圧力の減圧状態に維持することが可能となっている。このように内部が減圧状態となる容器3を用いると、真空紫外光Lが空気中の酸素等の真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂基材6の表面に照射され、樹脂基材6の表面がより効率良く活性化される。なお、容器3の内部を減圧状態に維持する際の圧力としては、1Torr以下の圧力が好ましく、1×10−3Torr以下の圧力がより好ましい。また、酸素分圧及び/又は窒素分圧が1Torr以下の圧力となるようにすることが好ましい。
【0048】
ターゲット4は、前述のレーザー光Lの照射によりクロム含有合金を含む材料からなるものであればよい。なお、ターゲット4の形状等は特に制限されず、板状、ロッド状等に成形された前記クロム含有合金を含有する材料からなるバルク材や、前記クロム含有合金を含有する材料をテープ上に塗布、蒸着等によって形成したテープ状ターゲット等を用いることができる。また、このようなクロム含有合金としては、上記本発明の樹脂成形体において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0049】
樹脂基材6は、その表面に微粒子が付着されるべき樹脂基材であり、具体的には得られる樹脂成形体の用途等によって適宜決定される。このような樹脂基材としては、上記本発明の樹脂成形体において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0050】
上述の樹脂基材6とターゲット4との位置的関係は特に限定されず、樹脂基材6の表面にターゲット4の表面から発生した真空紫外光Lが確実に照射されかつ飛散粒子aが効率良く付着するようにターゲット4に対して樹脂基材6が適宜配置され、図1においてはターゲット4の法線に対する角度θが45°となる位置に樹脂基材6が配置されている。また、ターゲット4にはターゲット駆動装置(例えばターゲット回転台、図示せず)が接続され、レーザー光Lの照射位置にターゲットの面が順次繰り出されるようになっている。さらに、樹脂基材6にも基材駆動装置(例えば回転台、図示せず)が接続され、樹脂基材6の表面により均一にガスバリア膜が形成されるようになっていてもよい。
【0051】
以上、本発明にかかるガスバリア膜を形成する工程を実施するのに好適な装置の一実施形態について説明したが、このような工程を実施するのに好適な装置は上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、例えば、上記実施形態では処理容器3が真空ポンプ(図示せず)に接続されているが、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス及びアルゴンガスからなる群から選択される少なくとも一種のシールドガスを導入するためのガスボンベ(図示せず)に接続されていてもよく、その場合は容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気に維持することが可能となる。このように内部がシールドガス雰囲気となっている容器3を用いると、容器3内を減圧状態とせずとも真空紫外光Lが真空紫外光吸収物質に吸収されることなく樹脂基材6の表面に照射され、樹脂基材6の表面がより効率良く活性化される。また、処理容器3に真空ポンプ(図示せず)及びガスボンベ(図示せず)の双方を接続し、容器3の内部を所定のシールドガス雰囲気にすると共に所定の圧力条件に維持することが好適である。このような条件としては、例えばヘリウムガス雰囲気で大気圧以下の圧力が好ましく、500Torr以下の圧力がより好ましい。また、酸素分圧及び/又は窒素分圧が1Torr以下の圧力となるようにすることが好ましい。
【0052】
また、上記実施形態ではレーザー光源2が処理容器3の外部に配置されているが、処理容器3の内部に配置されていてもよく、その場合はレーザー光Lを容器3内に導入するための窓7は不要となる。
【0053】
更に、上記実施形態ではターゲット4の法線に対する角度θが45°となる位置に樹脂基材6が配置されているが、このような位置関係に特に限定されるものではなく、例えば、ターゲット4の法線に対する角度θが0°〜60°程度の範囲となる位置に樹脂基材6が配置されていてもよい。
【0054】
また、ターゲット4としてレーザー光Lを透過可能なものを用い、ターゲット4をレーザー光源2と樹脂基材6との間に配置せしめ、ターゲット4の裏面(透明フィルム側)から表面(ターゲット材料側)に透過したレーザー光Lによってターゲット4の表面(ターゲット材料側)から真空紫外光Lおよび飛散粒子aが発生し、それらが樹脂基材6の表面に供給されるようにしてもよい。このような構成にすると、比較的大型の樹脂基材に対してガスバリア膜の形成がより容易になる傾向にある。また、このような構成に用いるターゲットとしては、レーザー光に対して透明なフィルム(例えばPETフィルム)上に前述のクロム含有合金を含有する材料を蒸着、貼着等により積層したテープ状ターゲットが好ましい。
【0055】
次に、図1を参照しながら本発明にかかるガスバリア膜を形成する工程の好適な一実施形態について説明する。
【0056】
このようなガスバリア膜を形成する工程においては、先ず、前述のターゲット4にパルス幅100ピコ秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光Lがレーザー光源2から照射される。すると、ターゲット4の表面に高温のプラズマPが形成され、そのプラズマPから波長50nm〜100nmの真空紫外光Lが発生する。また、それと同時に、レーザー光Lが照射されたターゲット4の表面からはターゲットを構成する材料に応じて金属原子を含む分子が高いエネルギーをもって飛散するほか、プラズマP内部もしくはプラズマPにより加熱されたターゲット4の表面からは、ターゲットを構成する分子が分解することにより形成された中性原子、イオン、並びに前記の分子、中性原子およびイオンのうちのいくつかが結合して形成されたクラスタが高いエネルギーをもって飛散する。なお、パルスレーザー光Lのパルス幅が100ピコ秒未満では短時間にレーザーのエネルギーが集中してターゲットに照射されるため波長50nm未満の光が発生するようになり、他方、100ナノ秒を超えるとレーザーのエネルギーが時間的に十分集中して照射されないため発生する光の波長が100nmを超えてしまう。また、発生する光Lの波長が50nm未満の場合並びに100nm超の場合はいずれも、樹脂基材に対する光Lの吸収率が低くなり、樹脂基材の表面が十分に活性化されず、ガスバリア膜と樹脂基材との密着強度が不十分となる。さらに、ターゲット4に照射されるパルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm〜1012W/cmであることが好ましい。パルスレーザー光Lの照射強度が10W/cm未満では波長50nm〜100nmの真空紫外光Lが十分に発生しない傾向にあり、他方、1012W/cmを超えるとターゲットに照射されたときに発生する電磁波の主たる波長域が50nm以下の波長域になるため、波長50nm〜100nmの真空紫外光Lの光量が減少してしまう傾向にある。
【0057】
そして、このようにパルスレーザー光Lの照射によりターゲット4の表面から発生した各種飛散粒子(アブレータ)aは、真空紫外光Lと共に樹脂基材6の表面に供給される。このようにして樹脂基材6の表面に照射された真空紫外光Lは樹脂基材を構成する材料に対する吸収率が高いので、真空紫外光Lが照射された樹脂基材6の表面は十分に活性化される。そこに、飛散粒子aが高いエネルギーをもって到達するため、飛散粒子aは樹脂基材6上に強固に付着し、樹脂基材表面が活性な状態に維持される。このようにして樹脂基材6の表面がムラなく活性な状態に長時間にわたって維持されるようになり、このように活性化されている樹脂基材の表面上にガスバリア膜を積層させることで、ガスバリア膜と樹脂基材の表面とが強固に結合して付着性の高いガスバリア膜が積層される。
【0058】
なお、上述のガスバリア膜を形成する工程においては、樹脂基材6の表面を活性化させる際に、樹脂基材を高温に加熱する必要はなく、樹脂基材温度は特に制限されないが、一般的には室温〜50℃程度であればよい。また、樹脂基材6の表面を活性化させるのに要する時間(レーザー光照射時間)も特に制限されず、ガスバリア膜と樹脂基材との付着性が最適となるように適宜決定されるが、一般的には1秒〜10分程度が好ましく、5秒〜5分程度が特に好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1〜2及び比較例1)
図1に示すレーザーアブレーション装置を用い、樹脂基材6の表面にレーザーアブレーションにより約50nmのガスバリア膜を形成し、樹脂成形体を得た。すなわち、樹脂基材6として66ナイロン−ゴム複合体(宇部社製の商品名「2020IU」、厚み1mm、直径65mmの円板形状)を用い、ターゲット4として表1に示す組成のクロム含有合金を用いた。また、レーザー光源2としては、Spectra−Physics社製のパルスレーザー(Nd−YAG)装置を用い、レーザー光の波長を532nm(パルス幅7ns,エネルギー1J)とし、容器3の内部の圧力を10−5Torrとし、更に、成膜中に樹脂基材上に均一にガスバリア膜が形成されるようにモータにより樹脂基材を回転させた。
【0061】
【表1】

【0062】
このようにして得られた実施例1〜2及び比較例1で得られた樹脂成形体の特性を評価するために、樹脂成形体及び樹脂基材(単体)をそれぞれ用い、JIS K7126A法に準拠した差圧式による方法を採用してHeガスの透過率を測定した。得られた結果を表1に示す。表1に示す結果からも明らかなように、本発明の樹脂成形体(実施例1〜2)は、比較のための樹脂成形体(比較例1)と比べて十分に優れたガスバリア性を発揮できることが確認された。
【0063】
また、実施例1〜2及び比較例1で得られた樹脂成形体を用い、そのガスバリア膜の表面から約20nmの深さまでをArによってスパッタして削除し、表面から約20nmの深さの位置でのガスバリア膜の組成をAESにより分析した。このような分析の結果、ガスバリア膜には成膜時に巻き込んだと推定される酸素が5mass%と炭素が1mass%混入していたが、他の構成元素はターゲット組成に比例していた。
【0064】
(実施例3〜5及び比較例2)
樹脂基材6として6ナイロン(デュポン社製の商品名「ザイテル7335F」、厚み1mm、直径65mmの円板)を用い、ターゲット4として表2に示す組成のクロム含有合金を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0065】
【表2】

【0066】
このようにして得られた実施例3〜5及び比較例2で得られた樹脂成形体の特性を評価するために、樹脂成形体及び樹脂基材(単体)をそれぞれ用い、JIS K7126A法に準拠した差圧式による方法を採用してHeガスの透過率を測定した。得られた結果を表2に示す。表2に示す結果からも明らかなように、本発明の樹脂成形体(実施例3〜5)は、比較のための樹脂成形体(比較例2)と比べて十分に優れたガスバリア性を発揮できることが確認された。
【0067】
また、実施例3〜5及び比較例2で得られた樹脂成形体を用い、そのガスバリア膜の表面から約20nmの深さまでをArによってスパッタして削除し、表面から約20nmの深さの位置でのガスバリア膜の組成をAESにより分析した。このような分析の結果、ガスバリア膜には成膜時に巻き込んだと推定される酸素が5mass%と炭素が1mass%混入していたが、他の構成元素はターゲット組成に比例していた。
【0068】
(実施例6〜9及び比較例3〜4)
樹脂基材6として66ナイロン(デュポン社製の商品名「ザイテル101L」、厚み0.1mm、直径65mmの円板状フィルム)を用い、ターゲット4として表3に示す組成のクロム含有合金を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0069】
【表3】

【0070】
このようにして得られた実施例6〜9及び比較例3〜4で得られた樹脂成形体の特性を評価するために、樹脂成形体及び樹脂基材(単体)をそれぞれ用い、JIS K7126A法に準拠した差圧式による方法を採用してHeガスの透過率を測定した。得られた結果を表3に示す。表3に示す結果からも明らかなように、本発明の樹脂成形体(実施例6〜9)は、比較のための樹脂成形体(比較例3〜4)と比べて、Heガスに対しても十分に優れたガスバリア性を発揮できることが確認された。
【0071】
また、実施例6〜9及び比較例3〜4で得られた樹脂成形体を用い、そのガスバリア膜の表面から約20nmの深さまでをArによってスパッタして削除し、表面から約20nmの深さの位置でのガスバリア膜の組成をAESにより分析した。このような分析の結果、ガスバリア膜には成膜時に巻き込んだと推定される酸素が5mass%と炭素が1mass%混入していたが、他の構成元素はターゲット組成に比例していた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂基材に対する密着強度が十分に高く、しかも高度な屈曲性と十分な引っ張り疲労強度とを発揮することができるガスバリア膜を備え、優れたガスバリア性を発揮することが可能な樹脂成形体並びにその製造方法を提供することが可能となる。したがって、本発明の樹脂成形体は、特にガスバリア性に優れるため、ガスバリア性が要求される包装体等の様々な分野の材料として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ガスバリア膜を形成するのに好適な装置の好適な一実施形態の基本構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1…レーザーアブレーション装置、2…レーザー光源、3…処理容器、4…ターゲット、5…ガスバリア膜、6…樹脂基材、7…窓、L…パルスレーザー光、L…真空紫外光、a…飛散粒子、P…プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、前記樹脂基材の表面に形成されたガスバリア膜とを備える樹脂成形体であって、
前記ガスバリア膜が、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たすクロム含有合金からなるものであり、且つ、前記ガスバリア膜の厚みが5nm〜1000nmの範囲にあることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
前記クロム含有合金が、下記(G):
(G)モリブデンの含有量eが、0≦e≦10mass%の範囲にあること;
で表される条件を更に満たすことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記クロム含有合金が、下記(H):
(H)イットリウム、ランタン及びセリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有量fが、0≦f≦5mass%の範囲にあること;
で表される条件を更に満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ガスバリア膜が、前記クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材上に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着せしめることで形成されたガスバリア膜であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
樹脂基材の表面に、下記(A)〜(F):
(A)クロムの含有量aが、10≦a≦60mass%の範囲にあること;
(B)ニッケルの含有量bが、0≦b≦80mass%の範囲にあること;
(C)鉄の含有量cが、0≦c≦80mass%の範囲にあること;
(D)アルミニウムの含有量dが、0≦d≦10mass%の範囲にあること;
(E)ニッケルの含有量bと鉄の含有量cとの和が、30≦b+c≦85mass%の範囲にあること;
(F)ニッケルの含有量bとアルミニウムの含有量dとの和が、1≦b+d≦80mass%の範囲にあること;
で表される条件を全て満たすクロム含有合金の微粒子を付着せしめて、厚みが5nm〜1000nmの範囲にあるガスバリア膜を形成させる工程を含むことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ガスバリア膜を形成させる工程が、前記クロム含有合金を含有する材料からなる基材の表面にレーザー光を照射して波長50nm〜100nmの真空紫外光及び飛散粒子を発生させ、前記樹脂基材に前記真空紫外光を照射しつつ前記飛散粒子を付着させてガスバリア膜を形成させる工程であることを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ガスバリア膜を形成させる前に、前記樹脂基材の表面に樹脂層を形成して樹脂基材の表面を平滑にする工程を更に含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−13790(P2008−13790A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183771(P2006−183771)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】