説明

樹脂成形品

【課題】 容易に得ることができ、かつ、種々の用途に使用できる高品質な樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 樹脂成形品1は、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための角槽からなる薬液処理槽である。樹脂成形品1は、2層構造からなり、内側の層2は、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33)によって形成されている。また、樹脂成形品1は、外側の層3が導電性PTFEによって形成されている。導電性PTFEは、例えば、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33)にカーボンブラックを5%混合することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための薬液処理槽、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できるパイプ状素材等として用いられる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IC(集積回路)やLSI(大規模集積回路)に用いられるシリコンウエハなどの半導体ウエハを製造するプロセスにおいては、半導体ウエハを半導体ウエハ用キャリアに複数枚収容して、各種の薬液洗浄等の処理が行なわれている。
【0003】
そして、このような薬液洗浄等の処理を行なうための薬液処理槽には、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性が要求されるため、当該薬液処理槽としては、フッ素樹脂の中でも特に耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れた純粋なPTFEからなる樹脂成形品が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−320588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、純粋なPTFEは帯電し易く、従って、純粋なPTFEによって薬液処理槽を形成した場合には、当該薬液処理槽に生じた電荷(静電気)が放電されて薬液洗浄中の半導体ウエハに損傷を与える恐れがある。また、薬液洗浄中に静電気が周りの塵埃等を引き付け、半導体ウエハ及び薬液を汚染してしまう恐れもある。
【0006】
また、純粋なPTFEからなる薬液処理槽は、耐薬品性に優れている一方で、肉厚が薄い場合には、槽の歪みの問題が発生する恐れがある。そして、この槽の歪みは、温度がかかるとなおさら大きくなってしまう。このため、従来、純粋なPTFEからなる薬液処理槽は、肉厚がかなり厚いものとなっていた。
【0007】
また、純粋なPTFEからなる薬液処理槽を用いて半導体ウエハを薬液洗浄する場合には、薬液の上方のガスが槽の内表面から途中まで滲み込んで槽を劣化させてしまう恐れがある。
【0008】
さらに、純粋なPTFEからなる薬液処理槽は、強度がそれほど高くない。このため、強度が高く、しかも、耐薬品性に優れた薬液処理槽の出現が要望されていた。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、静水圧の力を利用した、いわゆる液圧(アイソスタティック)成形法を用いて樹脂粉体原料を圧縮成形して多層構造の樹脂成形体(予備成形品)を得、次いで、当該樹脂成形体(予備成形品)を焼成することにより、以上のような課題を解決できる樹脂成形品が容易に得られることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、上記研究の過程で、液圧成形法を用いて樹脂粉体原料を圧縮成形して多層構造の樹脂成形体(予備成形品)を得、次いで、当該樹脂成形体(予備成形品)を焼成することにより、薬液処理槽以外にも種々の用途に使用できる樹脂成形品が容易に得られることを見出し、本発明をするに至った。
【0011】
本発明は、従来技術における前記課題を解決等するためになされたものであり、容易に得ることができ、かつ、種々の用途に使用できる高品質な樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明に係る樹脂成形品の構成は、液圧(アイソスタティック)成形法により成形され、かつ、焼成された樹脂成形品であって、前記樹脂成形品が多層構造からなることを特徴とする。
【0013】
前記本発明の樹脂成形品の構成においては、前記多層構造が、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)によって形成された層、導電性PTFEによって形成された層、耐強度PTFEによって形成された層及び耐透過性PTFEによって形成された層からなる群から選ばれる少なくとも2つの層を含むのが好ましい。
【0014】
例えば、内側の層が純粋なPTFEによって形成され、外側の層が導電性PTFEによって形成された2層構造からなる有底の筒状体により樹脂成形品を構成すれば、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れ、かつ、静電気が帯電し難くい、薬液処理槽等として用いられる樹脂成形品を提供することができる。また、中間層として耐強度PTFEによって形成された層を介在させれば、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れ、かつ、強度の高い、薬液処理槽等として用いられる樹脂成形品を提供することができ、槽の歪みの問題が解消される。また、内側の層が耐透過性PTFEによって形成された多層構造からなる有底の筒状体により樹脂成形品を構成すれば、半導体ウエハを薬液洗浄する場合に、薬液の上方のガスが槽の内表面から途中まで滲み込んで槽を劣化させてしまう恐れのない、薬液処理槽等として用いられる樹脂成形品を提供することができる。
【0015】
また、例えば、内側の層が純粋なPTFEによって形成され、外側の層が耐強度PTFEによって形成された2層構造からなる無底の筒状体により樹脂成形品を構成すれば、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できるパイプ状素材として用いられる樹脂成形品を提供することができる。
【0016】
また、この場合、前記導電性PTFEは、PTFEにカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1つの導電性フィラーを混合したものであるのが好ましい。
【0017】
また、この場合、前記耐強度PTFEは、PTFEにガラスファイバー、カーボンファイバー及びカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1つの強度補強フィラーを混合したものであるのが好ましい。特に、前記強度補強フィラーがカーボンナノチューブである場合には、樹脂成形品に導電性と耐強度を同時に付与することができる。
【0018】
また、この場合、前記耐透過性PTFEは、PTFEに耐透過性用フィラーである雲母を混合したものであるのが好ましい。
【0019】
また、前記本発明の樹脂成形品の構成においては、少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルが介在されているのが好ましい。この好ましい例によれば、樹脂成形品の強度を高めることができる。特に、耐強度PTFEによって形成された層を含む場合には、樹脂成形品の強度のさらなる向上を図ることができる。
【0020】
また、前記本発明の樹脂成形品の構成においては、前記樹脂成形品の形状が、有底の四角筒状もしくは円筒状又は無底の四角筒状もしくは円筒状であるのが好ましい。尚、有底の四角筒状のものは、通常、「角槽」と呼ばれ、有底の円筒状のものは、通常、「丸槽」と呼ばれている。
【0021】
尚、前記本発明の樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体(有底の筒状)の成形は、外側金型と、前記外側金型の内壁面に沿って膨張収縮させることが可能な弾性膜部材を含む内側金型とを備えた圧縮成形用金型の、前記外側金型の前記内壁面と前記弾性膜部材との間に樹脂粉体原料を充填し、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を膨張させることにより、前記樹脂粉体原料を圧縮成形する樹脂成形体の成形方法であって、前記外側金型と前記弾性膜部材との間に仕切り部材を取り付ける工程と、前記弾性膜部材と前記仕切り部材との間に、前記弾性膜部材を覆った状態で第1の樹脂粉体原料を充填する工程と、前記仕切り部材と前記外側金型の前記内壁面との間に、前記第1の樹脂粉体原料を覆った状態で、第2の樹脂粉体原料を充填する工程と、前記仕切り部材を取り外す工程とを備え、前記仕切り部材を取り外した後に、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を膨張させることにより、前記第1及び第2の樹脂粉体原料を圧縮成形する樹脂成形体の成形方法を用いて行うことができる。
【0022】
この成形方法においては、前記第2の樹脂粉体原料が、外側の樹脂粉体が内側の樹脂粉体を覆った状態で充填される少なくとも2種類の樹脂粉体原料からなり、前記少なくとも2種類の樹脂粉体原料のうち、隣り合う樹脂粉体原料同士は前記仕切り部材とは別個の仕切り部材によって仕切られ、全ての前記仕切り部材を取り外した後に、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を膨張させることにより、前記第1の樹脂粉体原料及び前記少なくとも2種類の樹脂粉体原料からなる前記第2の樹脂粉体原料を圧縮成形するのが好ましい。
【0023】
また、前記本発明の樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体(無底の筒状)の成形は、内壁面に沿って収縮膨張させることが可能な弾性膜部材を含む外側金型と、内側金型とを備えた圧縮成形用金型の、前記内側金型の外壁面と前記弾性膜部材との間に樹脂粉体原料を充填し、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を収縮させることにより、前記樹脂粉体原料を圧縮成形する樹脂成形体の成形方法であって、前記内側金型と前記弾性膜部材との間に仕切り部材を取り付ける工程と、前記内側金型の前記外壁面と前記仕切り部材との間に第1の樹脂粉体原料を充填する工程と、前記仕切り部材と前記弾性膜部材の内表面との間に第2の樹脂粉体原料を充填する工程と、前記仕切り部材を取り外す工程とを備え、前記仕切り部材を取り外した後に、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を収縮させることにより、前記第1及び第2の樹脂粉体を圧縮成形する樹脂成形体の成形方法を用いて行うことができる。
【0024】
この成形方法においては、前記第2の樹脂粉体原料が少なくとも2種類の樹脂粉体原料からなり、前記少なくとも2種類の樹脂粉体原料のうち、隣り合う樹脂粉体原料同士は前記仕切り部材とは別個の仕切り部材によって仕切られ、全ての前記仕切り部材を取り外した後に、前記圧縮成形用金型に成形圧力として静水圧を加えた状態で、前記弾性膜部材を収縮させることにより、前記第1の樹脂粉体原料及び前記少なくとも2種類の樹脂粉体原料からなる前記第2の樹脂粉体原料を圧縮成形するのが好ましい。
【0025】
上記成形方法においては、少なくともいずれかの樹脂粉体原料間に金網又はパンチングメタルを介在させる工程をさらに備えているのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、容易に得ることができ、かつ、種々の用途に使用できる高品質な樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II線概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型を示す概略断面図である。
【図4A】図4Aは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(金型組立工程、仕切り部材取付工程)。
【図4B】図4Bは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(第1の樹脂粉体原料充填工程)。
【図4C】図4Cは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(第2の樹脂粉体原料充填、仕切り部材取外し工程)。
【図4D】図4Dは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(上パンチ金型取付工程)。
【図4E】図4Eは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(加圧圧縮工程)。
【図4F】図4Fは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(減圧工程)。
【図4G】図4Gは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(金型解体工程)。
【図4H】図4Hは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(予備成形品の取出し工程)。
【図5】図5は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示すフロー図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の他の例を示す概略斜視図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図8】図8は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品を示す概略斜視図である。
【図10】図10は、図9のX−X線概略断面図である。
【図11】図11は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型を示す概略断面図である。
【図12A】図12Aは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(金型組立工程、仕切り部材取付工程)。
【図12B】図12Bは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(第1の樹脂粉体原料充填工程)。
【図12C】図12Cは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(第2の樹脂粉体原料充填工程)。
【図12D】図12Dは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(仕切り部材取外し工程)。
【図12E】図12Eは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(上パンチ金型取付工程)。
【図12F】図12Fは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(加圧圧縮工程)。
【図12G】図12Gは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(減圧工程)。
【図12H】図12Hは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である(金型解体工程、予備成形品の取出し工程)。
【図13】図13は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の他の例を示す概略斜視図である。
【図14】図14は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図15】図15は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品のさらに他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、好適な実施の形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施の形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
[第1の実施の形態]
(樹脂成形品の構成)
本実施の形態の樹脂成形品は、有底の筒状に形成された樹脂成形品であり、例えば、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための薬液処理槽等として用いられる。
【0030】
本実施の形態の樹脂成形品は、液圧成形法により成形され、かつ、焼成された樹脂成形品であって、多層構造からなっている。ここで、「多層構造」とは、2層以上の層からなる構造を意味している。
【0031】
本実施の形態の樹脂成形品においては、多層構造が、純粋なPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)によって形成された層、導電性PTFEによって形成された層、耐強度PTFEによって形成された層及び耐透過性PTFEによって形成された層からなる群から選ばれる少なくとも2つの層を含んでいるのが好ましい。
【0032】
すなわち、本実施の形態の樹脂成形品の多層構造としては、例えば、(a)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(b)純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(c)純粋なPTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(d)導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(e)導電性PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(f)耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(f)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(g)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(h)純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(i)導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(j)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる4層構造等が考えられる。但し、積層の順番は任意である。例えば、(a)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層とからなる2層構造の場合、内側の層は、純粋なPTFEによって形成された層であっても導電性PTFEによって形成された層であってもよい。
【0033】
尚、本実施の形態の樹脂成形品を、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための薬液処理槽として用いる場合には、最も内側の層が、純粋なPTFEによって形成されているのが好ましい。これは、純粋なPTFEがフッ素樹脂の中でも特に耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れているからである。
【0034】
また、本実施の形態の樹脂成形品を、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための薬液処理槽として用いる場合であって、導電性PTFEによって形成された層を含む3層構造、4層構造の場合には、当該導電性PTFEによって形成された層を最も外側に配置するのが好ましい。理由は以下の通りである。すなわち、純粋なPTFEは帯電し易く、従って、純粋なPTFEによって薬液処理槽を形成した場合には、当該薬液処理槽に生じた電荷(静電気)が放電されて薬液洗浄中のシリコンウエハなどの半導体ウエハに損傷を与える恐れがあり、また、薬液洗浄中に静電気が周りの塵埃等を引き付け、半導体ウエハ及び薬液を汚染してしまう恐れもあり、導電性PTFEによって形成された層を最も外側に配置して、薬液処理槽に静電気が帯電し難くする必要があるからである。
【0035】
耐強度PTFEによって形成された層は、薬液処理槽等の樹脂成形品の強度を高めるためのものであるが、薬液処理槽等の樹脂成形品の強度を高めることを目的とするのであれば、少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルを介在させるようにしてもよい。例えば、純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層との間に金網又はパンチングメタルを介在させるようにしてもよい。特に、耐強度PTFEによって形成された層を含む樹脂成形品の層間に金網又はパンチングメタルを介在させれば、樹脂成形品の強度のさらなる向上を図ることができる。また、純粋なPTFEだけで薬液処理槽を形成する場合には、当該薬液処理槽の中に金網又はパンチングメタルを埋め込むようにしてもよい。
【0036】
純粋なPTFEからなる樹脂成形品は、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れているが、純粋なPTFEからなる薬液処理槽を用いて半導体ウエハを薬液洗浄する場合には、薬液の上方のガスが槽の内表面から途中まで滲み込んで槽を劣化させてしまう恐れがある。耐透過性PTFEによって形成された層は、薬液処理槽等の樹脂成形品の内表面からガス等が滲み込み難くするためのものである。
【0037】
導電性PTFEは、例えば、純粋なPTFEにカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1つの導電性フィラーを0.05%〜30%混合することによって得られる。
【0038】
耐強度PTFEは、例えば、純粋なPTFEにガラスファイバー、カーボンファイバー及びカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1つの強度補強フィラーを5%〜30%混合することによって得られる。
【0039】
耐透過性PTFEは、例えば、純粋なPTFEに耐透過性用フィラーである雲母を5%〜30%混合することによって得られる。
【0040】
以下、図面を参照しながら本実施の形態における樹脂成形品の一例について説明する。
【0041】
図1は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品を示す概略斜視図、図2は、図1のII−II線概略断面図である。
【0042】
図1、図2に示すように、本実施の形態の樹脂成形品1は、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための角槽からなる薬液処理槽である。
【0043】
樹脂成形品1は、2層構造からなり、内側の層2は、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33)によって形成されている。
【0044】
また、樹脂成形品1は、外側の層3が導電性PTFEによって形成されている。導電性PTFEは、例えば、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33)にカーボンブラックを5%混合することによって得られる。
【0045】
樹脂成形品1の寸法は、例えば、外寸300mm×400mm×高さ400mm、容積21リットルであり、内側の層2の厚みは30mm、外側の層3の厚みは20mmである。
【0046】
(樹脂成形品の製造方法)
PTFEを用いて本実施の形態の薬液処理槽等の樹脂成形品1を製造する場合には、まず、液圧成形法を用いて樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得、次いで、当該樹脂成形体(予備成形品)を焼成する。
【0047】
1.圧縮成形用金型の構成
まず、樹脂粉体原料を圧縮成形する際に用いられる圧縮成形用金型の構成について説明する。
【0048】
図3は、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型を示す概略断面図である。この圧縮成形用金型は、外寸300mm×400mm×高さ400mm、容積21リットルの角槽からなる薬液処理槽を製造する場合に、樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得るために用いられるものである。
【0049】
図3に示すように、本実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型(以下、単に「金型」という)4は、角槽を形成するように、筐体状の外側金型5と、外側金型5内の中央部に配置される内側金型6とにより構成されている。
【0050】
外側金型5は、平板状の下金型5aと、四角筒状の側面金型5bと、矩形状の上パンチ金型5cとにより構成されている。ここで、上パンチ金型5cの外周形状は、側面金型5bの内周形状と同じ形状になっており、この上パンチ金型5cは、ボルト12a、12bを用いて上パンチ固定板12を側面金型5bの上端にボルト締めすることにより、側面金型5bの上部で固定される。
【0051】
内側金型6は、外側金型5内の中央部に配置される四角柱状の内側固定金型6aと、内側固定金型6aを覆うように設けられ、外側金型5の内壁面に沿って膨張収縮させることが可能なゴム等からなる筐体状の弾性膜部材6bとにより構成されている。ここで、内側固定金型6aは、下金型5aの上面に一体的に設けられている。また、弾性膜部材6bの基端部は、下金型5aと側面金型5bとの間に介在される押さえ部材7と下金型5aの上面とによって挟持固定される。そして、外側金型5の内壁面と膨張した状態の弾性膜部材6bの外表面とにより、後述する樹脂粉体原料を圧縮成形することができるようにされている。尚、弾性膜部材6bの膨張を考慮して、内側固定金型6aの高さは、外側金型5の内部の高さよりも低く設定されている。
【0052】
下金型5a及び内側固定金型6aには、内側固定金型6aの上面から弾性膜部材6b内に水を注入して弾性膜部材6bを膨張させ、弾性膜部材6b内の水を排出して弾性膜部材6bを収縮させるための1本の水路8が形成されている。尚、図3中、参照符号8aは、下金型5aの側部に設けられた給排水口を示している。
【0053】
本実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる金型4においては、樹脂粉体原料を圧縮成形して2層構造(図1、図2参照)の樹脂成形体(予備成形品)を得るために、外側金型5の側面金型5bと内側金型6の弾性膜部材6bとの間に四角筒状の仕切り部材9を取り付けることができるようにされている。ここで、仕切り部材9は、4枚の矩形状の板体9a〜9d(板体9dについては図示せず)により構成されている。尚、仕切り部材9の材質はSUS、Al等であり、仕切り部材9の厚みは0.1mm〜1mmである。
【0054】
2.樹脂成形体(予備成形品)の成形方法
次に、上記のように構成された金型4を用いて、樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得る方法について説明する。
【0055】
図4A〜図4Hは、本発明の第1の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図、図5は、当該樹脂成形体の成形方法を示すフロー図である。
【0056】
まず、図4Aに示すように、上パンチ金型5c、上パンチ固定板12を除いた状態で金型4を組み立てる(図5のS1)。次いで、外側金型5の側面金型5bと内側金型6の弾性膜部材6bとの間に仕切り部材9を取り付ける(図5のS2)。
【0057】
次に、図4Bに示すように、内側金型6の弾性膜部材6bと仕切り部材9との間に、弾性膜部材6bを覆った状態で第1の樹脂粉体原料10を充填する(図5のS3)。第1の樹脂粉体原料10としては、純粋なPTFE粉体が用いられる。純粋なPTFE粉体としては、微粉タイプのものと造粒タイプのもののいずれを用いることもできる。より具体的には、第1の樹脂粉体原料10として、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33を用いた。
【0058】
次に、図4Cに示すように、仕切り部材9と外側金型5の側面金型5bの内壁面との間に、第1の樹脂粉体原料10を覆った状態で、第2の樹脂粉体原料11を充填し(図5のS4)、次いで、仕切り部材9を取り外す(図5のS5)。第2の樹脂粉体原料11としては、純粋なPTFE粉体に導電性フィラーを混合した導電性PTFE粉体が用いられる。より具体的には、第2の樹脂粉体原料11として、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33にカーボンブラックを5%混合したものを用いた。
【0059】
次に、図4Dに示すように、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を充填した金型4に上パンチ金型5cを取り付ける(図5のS6)。
【0060】
次に、図4Eに示すように、ボルト12a、12bを用いて上パンチ固定板12を側面金型5bの上端にボルト締めすることにより、上パンチ金型5cを、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を押圧した状態で側面金型5bの上部に固定する。これにより、金型4に成形圧力として静水圧が加えられる。次いで、この状態で、下金型5aの側部に設けられた給排水口8aから給水し、弾性膜部材6b内に水を注入して当該弾性膜部材6bを膨張させ、外側金型5の内壁面と弾性膜部材6bの外表面とによって第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を圧縮する(以上、図5のS7)。このように、金型4に成形圧力として静水圧を加えた状態で、弾性膜部材6b内に水を注入して当該弾性膜部材6bを膨張させるようにしているので、弾性膜部材6b内に注入された水によって弾性膜部材6bを均等に押圧することができる。そして、その結果、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を均質な圧力で圧縮することができる。ここで、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11の圧縮は、10〜50MPaの圧力を数分間〜数十分間にわたって印加することによって行われる。より具体的には、20MPaの圧力を30分間にわたって印加することによって第1及び第2の樹脂粉体原料10、11の圧縮を行った。
【0061】
次に、図4Fに示すように、下金型5aの側部に設けられた給排水口8aから排水し(減圧)、弾性膜部材6bを収縮させて、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11の圧縮状態を解除する(図5のS8)。
【0062】
次に、図4F、図4Gに示すように、ボルト12a、12bを緩めて上パンチ固定板12を取り外し、外側金型5を構成する側面金型5b及び上パンチ金型5cを解体する(図5のS9)。
【0063】
最後に、図4Hに示すように、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を圧縮成形して得られた2層構造の角型の樹脂成形体(予備成形品13)を取り出す(図5のS10)。
【0064】
3.樹脂成形体(予備成形品)の焼成
第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を圧縮成形して得られた2層構造の角型の樹脂成形体(予備成形品13)は、別途用意された焼成炉中で焼成されて(図5のS11)、成形品となり、これにより、図1、図2に示す樹脂成形品1が得られる。
【0065】
焼成は、昇温速度及び冷却速度の調整が可能な焼成炉を用いて、以下のような条件で行われる。
【0066】
まず、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を圧縮成形して得られた2層構造の樹脂成形体(予備成形品13)を焼成炉中に設置し、+25〜60℃/hrの昇温速度で焼成炉中の温度を360〜380℃まで昇温し、この温度を数時間保持して、樹脂成形体(予備成形品13)を焼成する。より具体的には、+50℃/hrの昇温速度で焼成炉中の温度を一旦320℃まで昇温して1時間保持し、次いで、+50℃/hrの昇温速度で焼成炉中の温度を370℃まで昇温し、この温度を4.5時間保持して、樹脂成形体(予備成形品13)を焼成した。このように段階的な昇温を行なっているのは、熱伝導性の低いPTFEを主体とする予備成形品13の内部まで熱を効率良く伝達させるためである。
【0067】
次に、−20〜50℃/hrの冷却速度で焼成炉中の温度を一旦315〜320℃まで冷却して一定時間保持し、次いで、−20〜50℃/hrの冷却速度で焼成炉中の温度を冷却する。より具体的には、−40℃/hrの冷却速度で焼成炉中の温度を一旦320℃まで冷却して1時間保持し、次いで、−40℃/hrの冷却速度で焼成炉中の温度を冷却した。
【0068】
以上の焼成により、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を圧縮成形して得られた2層構造の樹脂成形体(予備成形品13)の粉体・分子同士が熱溶着して、使用に耐え得る成形品(図1、図2に示す樹脂成形品1)が得られる。
【0069】
尚、本実施の形態においては、純粋なPTFEにフィラーを混合することによって導電性、耐強度、耐透過性を付与するようにされているが、他の方法によって導電性、耐強度、耐透過性を付与するようにしてもよい。
【0070】
また、本実施の形態においては、樹脂成形体(予備成形品13)の成形に用いる仕切り部材9が4枚の矩形状の板体9a〜9dにより構成されている場合を例に挙げて説明したが、仕切り部材としては、四角筒状の一体ものを用いることもできる。
【0071】
また、本実施の形態においては、金型4に成形圧力として静水圧を加えるために、ボルト12a、12bを用いて上パンチ固定板12を側面金型5bの上端にボルト締めすることにより、上パンチ金型5cを、第1及び第2の樹脂粉体原料10、11を押圧した状態で側面金型5bの上部に固定するようにしているが、必ずしもこのような方法を採る必要はない。例えば、静水圧プレス機を用いるか、金型4を加圧タンク内の水中に沈めることにより、金型4に静水圧を加えるようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態においては、樹脂成形品1が角槽である場合を例に挙げて説明したが、本発明の樹脂成形品は、例えば図6に示すような丸槽14であってもよい。このような丸槽14を得るために第1及び第2の樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図3に示す金型4において、側面金型5bを円筒状にし、上パンチ金型5cを円板状にし、内側固定金型6aを円柱状にし、仕切り部材9を円筒状にすればよい。また、本発明の樹脂成形品は、例えばボトル形状等の各種の容器形状を有するものであってもよい。
【0073】
また、本実施の形態においては、2層構造の樹脂成形品1を例に挙げて説明したが、本発明の樹脂成形品は、3層以上の多層構造のものとすることもできる。
【0074】
図7に、一例として、内側の層15a、中間層15b、外側の層15cの3層構造の樹脂成形品15を示す。このような3層構造の樹脂成形品15を得るために樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図3に示す金型4において、2つの仕切り部材を同心状に配置すればよい。この場合、中間層15bとなる樹脂粉体原料と外側の層15cとなる樹脂粉体原料は外側の仕切り部材によって仕切られ、かつ、外側の層15cとなる樹脂粉体原料は中間層15bとなる樹脂粉体原料を覆った状態で充填される。そして、全ての仕切り部材を取り外した後に、金型4に成形圧力として静水圧を加えた状態で、弾性膜部材6bを膨張させることにより、内側の層15aとなる樹脂粉体原料と中間層15bとなる樹脂粉体原料と外側の層15cとなる樹脂粉体原料とが圧縮成形される。
【0075】
4層構造の樹脂成形品の場合も同様である。
【0076】
また、上記したように、樹脂成形品の強度を高めるために、当該樹脂成形品の少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルを介在させてもよい。図8に、図1、図2に示した樹脂成形品1の、純粋なPTFEによって形成された内側の層2と導電性PTFEによって形成された外側の層3との間に、金網又はパンチングメタル16を介在させて構成した樹脂成形品1´を示す。このような構成の樹脂成形品1´を得るために樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図4Bの第1の樹脂粉体原料充填工程と図4Cの第2の樹脂粉体原料充填工程との間に、両樹脂粉体原料間(仕切り部材9と第2の樹脂粉体原料11との間)に金網又はパンチングメタル16を介在させる工程を追加すればよい。
【0077】
[第2の実施の形態]
(樹脂成形品の構成)
本実施の形態の樹脂成形品は、無底の筒状に形成された樹脂成形品であり、例えば、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できるパイプ状素材等として用いられる。
【0078】
本実施の形態の樹脂成形品も、上記第1の実施の形態の場合と同様に、液圧成形法により成形され、かつ、焼成された樹脂成形品であって、多層構造からなっている。
【0079】
また、本実施の形態の樹脂成形品においても、上記第1の実施の形態の場合と同様に、多層構造が、純粋なPTFEによって形成された層、導電性PTFEによって形成された層、耐強度PTFEによって形成された層及び耐透過性PTFEによって形成された層からなる群から選ばれる少なくとも2つの層を含んでいるのが好ましい。
【0080】
すなわち、本実施の形態の樹脂成形品の多層構造としては、例えば、(a)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(b)純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(c)純粋なPTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(d)導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(e)導電性PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(f)耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる2層構造、(f)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(g)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(h)純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(i)導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる3層構造、(j)純粋なPTFEによって形成された層と導電性PTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層と耐透過性PTFEによって形成された層とからなる4層構造等が考えられる。但し、積層の順番は任意である。例えば、(b)純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層とからなる2層構造の場合、内側の層は、純粋なPTFEによって形成された層であっても耐強度PTFEによって形成された層であってもよい。
【0081】
尚、本実施の形態の樹脂成形品を、耐薬品性が要求される密閉容器などに使用できるパイプ状素材として用いる場合には、最も内側の層が、純粋なPTFEによって形成されているのが好ましい。これは、純粋なPTFEがフッ素樹脂の中でも特に耐熱性、耐薬品性及びクリーン性に優れているからである。
【0082】
耐強度PTFEによって形成された層は、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できるパイプ状素材等の樹脂成形品の強度を高めるためのものであるが、パイプ状素材等の樹脂成形品の強度を高めることを目的とするのであれば、少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルを介在させるようにしてもよい。例えば、純粋なPTFEによって形成された層と耐強度PTFEによって形成された層との間に金網又はパンチングメタルを介在させるようにしてもよい。特に、耐強度PTFEによって形成された層を含む樹脂成形品の層間に金網又はパンチングメタルを介在させれば、樹脂成形品の強度のさらなる向上を図ることができる。また、純粋なPTFEだけでパイプ状素材を形成する場合には、当該パイプ状素材の中に金網又はパンチングメタルを埋め込むようにしてもよい。
【0083】
以下、図面を参照しながら本実施の形態における樹脂成形品の一例について説明する。
【0084】
図9は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品を示す概略斜視図、図10は、図9のX−X線概略断面図である。
【0085】
図9、図10に示すように、本実施の形態の樹脂成形品17は、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できる円筒形のパイプ状素材である。
【0086】
樹脂成形品17は、2層構造からなり、内側の層18は、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33)によって形成されている。
【0087】
また、樹脂成形品17は、外側の層19が耐強度PTFEによって形成されている。耐強度PTFEは、例えば、純粋なPTFE(例えば、ダイキン工業株式会社製のPTFE
M392又はM33)にガラスファイバーを15%混合することによって得られる。
【0088】
樹脂成形品17の寸法は、例えば、外径300mm、内径220mm、高さ500mm、内側の層18の厚みは20mm、外側の層19の厚みは20mmである。
【0089】
(樹脂成形品の製造方法)
PTFEを用いて本実施の形態のパイプ状素材等の樹脂成形品17を製造する場合には、まず、液圧成形法を用いて樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得、次いで、当該樹脂成形体(予備成形品)を焼成する。
【0090】
1.圧縮成形用金型の構成
まず、樹脂粉体原料を圧縮成形する際に用いられる圧縮成形用金型の構成について説明する。
【0091】
図11は、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型を示す概略断面図である。この圧縮成形用金型は、外径300mm、内径220mm、高さ500mmの円筒形のパイプ状素材を製造する場合に、樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得るために用いられるものである。
【0092】
図11に示すように、本実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる圧縮成形用金型(以下、単に「金型」という)20は、円筒形のパイプ状素材を形成するように、筐体状の外側金型21と、外側金型21内の中央部に配置される内側金型22とにより構成されている。
【0093】
外側金型21は、平板状の下金型21aと、上下端にフランジを有する円筒状の側面金型21bと、外側金型21の内壁面に沿って収縮膨張させることが可能なゴム等からなる円筒状の弾性膜部材21cと、円板状の上パンチ金型21dとにより構成されている。ここで、上パンチ金型21dの外周形状は、側面金型21bのフランジの外周形状と同じ形状になっており、この上パンチ金型21dは、ボルト23a、23bを用いて側面金型21bの上部にボルト締めすることによって固定される。
【0094】
内側金型22は、外側金型21内の中央部に配置される円柱状の棒材により構成されている。ここで、内側金型22は、下金型21aに一体的に設けられている。また、上パンチ金型21dの中心には、内側金型22と同径の貫通孔24が設けられており、上パンチ金型21dを側面金型21bの上部にボルト締めする際に、内側金型22の上端を貫通孔24に挿通させることができるようにされている。また、弾性膜部材21cの下端部は、下金型21aと側面金型21bとの間に介在される押さえ部材25と下金型21aの上面とによって挟持固定される。また、弾性膜部材21cの上端部は、上パンチ金型21dと側面金型21bとの間に介在される中間部材26と上パンチ金型21dの下面とによって挟持固定される。ここで、押さえ部材25及び中間部材26は、側面金型21bの内表面と弾性膜部材21cの外表面との間に空間27を形成する役目も果たしている。そして、内側金型22の外壁面と収縮した状態の弾性膜部材21cの内表面とにより、後述する樹脂粉体原料を圧縮成形することができるようにされている。
【0095】
側面金型21bには、空間27内に水を注入して弾性膜部材21cを収縮させ、空間27内の水を排出して弾性膜部材21cを元の形に戻すための1本の水路28が形成されている。尚、図11中、参照符号28aは、側面金型21bの外側面に設けられた給排水口を示している。
【0096】
本実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形に用いられる金型20においては、樹脂粉体原料を圧縮成形して2層構造(図9、図10参照)の樹脂成形体(予備成形品)を得るために、内側金型22と外側金型21の弾性膜部材21cとの間に円筒状の仕切り部材29を取り付けることができるようにされている。尚、仕切り部材29の材質はSUS、Al等であり、仕切り部材29の厚みは0.1mm〜1mmである。
【0097】
2.樹脂成形体(予備成形品)の成形方法
次に、上記のように構成された金型20を用いて、樹脂粉体原料を圧縮成形して樹脂成形体(予備成形品)を得る方法について説明する。
【0098】
図12A〜図12Hは、本発明の第2の実施の形態における樹脂成形品の予備成形品である樹脂成形体の成形方法を示す工程断面図である。尚、この場合のフロー図は、図5と同じである。
【0099】
まず、図12Aに示すように、上パンチ金型21dを除いた状態で金型20を組み立てる(図5のS1)。次いで、内側金型22と外側金型21の弾性膜部材21cとの間に仕切り部材29を取り付ける(図5のS2)。
【0100】
次に、図12Bに示すように、内側金型22の外壁面と仕切り部材29との間に、第1の樹脂粉体原料30を充填する(図5のS3)。第1の樹脂粉体原料30としては、純粋なPTFE粉体が用いられる。純粋なPTFE粉体としては、微粉タイプのものと造粒タイプのもののいずれを用いることもできる。より具体的には、第1の樹脂粉体原料30として、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33を用いた。
【0101】
次に、図12Cに示すように、仕切り部材29と外側金型21の弾性膜部材21cの内表面との間に、第2の樹脂粉体原料31を充填する(図5のS4)。第2の樹脂粉体原料31としては、純粋なPTFE粉体に強度補強フィラーを混合した耐強度PTFE粉体が用いられる。より具体的には、第2の樹脂粉体原料31として、ダイキン工業株式会社製のPTFE M392又はM33にガラスファイバーを15%混合したものを用いた。
【0102】
次に、図12Dに示すように、仕切り部材29を取り外す(図5のS5)。
【0103】
次に、図12Eに示すように、ボルト23a、23bを用いて上パンチ金型21dを、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を充填した金型20の側面金型21bの上部にボルト締めすることにより、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を押圧した状態で取り付ける(図5のS6)。これにより、金型20に成形圧力として静水圧が加えられる。
【0104】
次に、図12Fに示すように、金型20に成形圧力として静水圧を加えた状態で、側面金型21bの外側面に設けられた給排水口28aから給水し、側面金型21bの内表面と弾性膜部材21cの外表面との間の空間27内に水を注入して弾性膜部材21cを収縮させ、内側金型22の外壁面と弾性膜部材21cの内表面とによって第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を圧縮する(図5のS7)。このように、金型20に成形圧力として静水圧を加えた状態で、側面金型21bの内表面と弾性膜部材21cの外表面との間の空間27内に水を注入して弾性膜部材21cを収縮させるようにしているので、空間27内に注入された水によって弾性膜部材21cを均等に押圧することができる。そして、その結果、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を均質な圧力で圧縮することができる。ここで、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31の圧縮は、15〜50MPaの圧力を数分間〜数十分間にわたって印加することによって行われる。より具体的には、30MPaの圧力を20分間にわたって印加することによって第1及び第2の樹脂粉体原料30、31の圧縮を行った。
【0105】
次に、図12Gに示すように、側面金型21bの外側面に設けられた給排水口28aから排水し(減圧)、弾性膜部材21cを元の形に戻して、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31の圧縮状態を解除する(図5のS8)。
【0106】
最後に、図12G、図12Hに示すように、金型20を解体して(図5のS9)、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を圧縮成形して得られた2層構造の円筒状の樹脂成形体(予備成形品32)を取り出す(図5のS10)。
【0107】
3.樹脂成形体(予備成形品)の焼成
第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を圧縮成形して得られた2層構造の円筒状の樹脂成形体(予備成形品32)は、別途用意された焼成炉中で焼成されて(図5のS11)、成形品となり、これにより、図9、図10に示す樹脂成形品17が得られる。
【0108】
焼成は、上記第1の実施の形態の場合と同様にして行われる。
【0109】
尚、本実施の形態においては、金型20に成形圧力として静水圧を加えるために、ボルト23a、23bを用いて上パンチ金型21dを、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を充填した金型20の側面金型21bの上部にボルト締めすることにより、第1及び第2の樹脂粉体原料30、31を押圧した状態で取り付けるようにしているが、必ずしもこのような方法を採る必要はない。例えば、静水圧プレス機を用いるか、金型20を加圧タンク内の水中に沈めることにより、金型20に静水圧を加えるようにしてもよい。
【0110】
また、本実施の形態においては、2層構造の樹脂成形品17を例に挙げて説明したが、本発明の樹脂成形品は、3層以上の多層構造のものとすることもできる。
【0111】
図13に、一例として、内側の層33a、中間層33b、外側の層33cの3層構造の樹脂成形品33を示す。このような3層構造の樹脂成形品33を得るために樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図11に示す金型20において、2つの仕切り部材を同心状に配置すればよい。この場合、中間層33bとなる樹脂粉体原料と外側の層33cとなる樹脂粉体原料は外側の仕切り部材によって仕切られる。そして、全ての仕切り部材を取り外した後に、金型20に成形圧力として静水圧を加えた状態で、弾性膜部材21cを収縮させることにより、内側の層33aとなる樹脂粉体原料と中間層33bとなる樹脂粉体原料と外側の層33cとなる樹脂粉体原料とが圧縮成形される。
【0112】
4層構造の樹脂成形品の場合も同様である。
【0113】
また、上記したように、樹脂成形品の強度を高めるために、当該樹脂成形品の少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルを介在させてもよい。図14に、図9、図10に示した樹脂成形品17の、純粋なPTFEによって形成された内側の層18と耐強度PTFEによって形成された外側の層19との間に、金網又はパンチングメタル34を介在させて構成した樹脂成形品17´を示す。このような構成の樹脂成形品17´を得るために樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図12Bの第1の樹脂粉体原料充填工程と図12Cの第2の樹脂粉体原料充填工程との間に、両樹脂粉体原料間(仕切り部材29と第2の樹脂粉体原料31との間)に金網又はパンチングメタル34を介在させる工程を追加すればよい。
【0114】
また、本実施の形態においては、樹脂成形品17が無底の円筒状の樹脂成形品である場合を例に挙げて説明したが、本発明の樹脂成形品は、例えば図15に示すような無底の四角筒状の樹脂成形品35であってもよい。このような無底の四角筒状の樹脂成形品35を得るために第1及び第2の樹脂粉体原料を圧縮成形する場合には、図11に示す金型20において、側面金型21bを四角筒状にし、上パンチ金型21dを矩形状にし、内側金型22を四角柱状にし、仕切り部材29を四角筒状にし、弾性膜部材21cを四角筒状にすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、容易に得ることができ、かつ、種々の用途に使用できる高品質な樹脂成形品を提供することができる。従って、本発明は、例えば、シリコンウエハなどの半導体ウエハを薬液洗浄するための薬液処理槽、パイプそのものや両端溶接加工することによる密閉容器などに使用できるパイプ状素材等として用いられる樹脂成形品の分野において産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0116】
1、1´、15、17、17´、33、35 樹脂成形品
2、15a、18、33a 内側の層
3、15c、19、33c 外側の層
4、20 圧縮成形用金型(金型)
5、21 外側金型
5a、21a 下金型
5b、21b 側面金型
5c、21d 上パンチ金型
6、22 内側金型
6a 内側固定金型
6b、21c 弾性膜部材
7、25 押さえ部材
8、28 水路
8a、28a 給排水口
9、29 仕切り部材
9a〜9d 板体
10、30 第1の樹脂粉体原料
11、31 第2の樹脂粉体原料
12、34 上パンチ固定板
12a、12b、23a、23b ボルト
13、32 予備成形品
14 丸槽
15b、33b 中間層
16 金網又はパンチングメタル
24 貫通孔
26 中間部材
27 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧(アイソスタティック)成形法により成形され、かつ、焼成された樹脂成形品であって、
前記樹脂成形品が多層構造からなることを特徴とする樹脂成形品。
【請求項2】
前記多層構造が、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)によって形成された層、導電性PTFEによって形成された層、耐強度PTFEによって形成された層及び耐透過性PTFEによって形成された層からなる群から選ばれる少なくとも2つの層を含む、請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記導電性PTFEは、PTFEにカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1つの導電性フィラーを混合したものである、請求項2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
前記耐強度PTFEは、PTFEにガラスファイバー、カーボンファイバー及びカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1つの強度補強フィラーを混合したものである、請求項2に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
前記耐透過性PTFEは、PTFEに耐透過性用フィラーである雲母を混合したものである、請求項2に記載の樹脂成形品。
【請求項6】
少なくともいずれかの各層間に金網又はパンチングメタルが介在された、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形品。
【請求項7】
前記樹脂成形品の形状が、有底の四角筒状もしくは円筒状又は無底の四角筒状もしくは円筒状である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図12G】
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【図12H】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−107283(P2013−107283A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254116(P2011−254116)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(390005050)東邦化成株式会社 (14)
【Fターム(参考)】