説明

樹脂架橋体、樹脂組成物、及び樹脂架橋体の製造方法

【課題】上述のエネルギー線の照射により樹脂架橋体を製造する際の特有の課題を解決し、衛生性が高く、しかも高温域における耐クリープ特性に優れる、架橋ポリオレフィン管としての利用に特に適した樹脂架橋体及び樹脂組成物を提供する。
【手段】ポリオレフィンと下記一般式(1)で表される高分子化合物とを含有する樹脂組成物にエネルギー線を照射して架橋した樹脂架橋体であって、該一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合した樹脂架橋体。
【化1】


(式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架橋ポリオレフィン管に使用しうる樹脂架橋体、樹脂組成物、及びその樹脂架橋体の製造方法に関し、より詳しくは、水道用配管、給水用・給湯用配管などとして好適に使用しうる樹脂架橋体、樹脂組成物、及びその樹脂架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂の架橋方法には、電子線等のエネルギー線を照射することで架橋を行う照射架橋法がある。この照射架橋法では、有機過酸化物やシラン化合物といった添加剤を使用することなく架橋が可能であるため、化学架橋法よりも衛生性に優れており、飲料水を供給する給水・給湯用途向けの架橋ポリオレフィン管の製造方法としては好適である。他方、照射架橋法においては架橋処理における電子線を照射するための設備を確保確しなければならず、ポリオレフィン管の製造に広く利用さるまでには至っていない。発明技術としては、特許文献1及び2に開示されたようなものが挙げられるが、製品性能等に関して十分な知見の蓄積があるとはいいがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4205448号公報
【特許文献2】特開2002−361645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したポリオレフィン管においては、長期にわたる耐圧性や耐熱性などを十分に確保することが必要である。特に架橋ポリエチレン管においては、一般的に、密度(結晶化度)が0.935〜0.950(g・cm3)と比較的高めのポリエチレンを原料として選び、かつ少なくとも60〜65%以上のゲル分率を満たすことで上記特性を担保している。
【0005】
ところが、本発明者らの研究を通じ、エネルギー線照射によるポリオレフィン樹脂の架橋工程においては架橋効率が十分でなく、限られた分子量分布や分子量を持つポリオレフィンでなければ十分なゲル分率を実現しがたいことが分かってきた。逆に、照射量を大きくして所望のゲル分率を得ようとすると、その際の樹脂劣化や含有成分の分解等によってその特性が損なわれることがある。このとき特に熱間内圧クリープ性に代表される長期耐久特性に影響があることが明らかになってきた。さらに、エネルギー線の照射量の増大は直接的に製造コストの増大につながるため、できるだけ避けたい。
【0006】
以上の点に鑑み本発明は、上述のエネルギー線の照射により樹脂架橋体を製造する際の特有の課題を解決し、衛生性が高く、しかも高温域における耐クリープ特性に優れる、架橋ポリオレフィン管としての利用に特に適した樹脂架橋体及び樹脂組成物の提供を目的とする。また、本発明は、過大なエネルギー線の照射を伴わずに効率的な架橋を実現することができ、製造コストを抑えて品質を向上させることが可能であり、大量生産にも好適に対応しうる前記樹脂架橋体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エネルギー線を照射して架橋を行うときに、ポリオレフィン樹脂に対して特定量の下記一般式(1)で表される高分子化合物を配合することで、架橋効率を向上させられることを見い出し、この知見に基づいて本発明を為すに至った。
【0008】
すなわち、本発明の上記の課題は下記の手段により解決された。
(1)ポリオレフィンと下記一般式(1)で表される高分子化合物とを含有する樹脂組成物にエネルギー線を照射して架橋した樹脂架橋体であって、該一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合したことを特徴とする樹脂架橋体。
【化1】

(式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
(2)前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合したことを特徴とする(1)に記載の樹脂架橋体。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位Bの含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)
(3)前記一般式(1)で表される樹脂化合物がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の樹脂架橋体。
(4)前記ポリオレフィンがポリエチレンおよび/またはエチレン−α-オレフィン共重合体であることを特徴とする(1)〜(3)のいずいれか1項に記載の樹脂架橋体。
(5)前記エネルギー線の照射による架橋工程を経て管状に加工されたことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
(6)前記エネルギー線が電子線であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
(7)給水用途または給湯用途として好適な架橋ポリエチレン管としたことを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
(8)ゲル分率を60%以上としたことを特徴とする樹脂架橋体。
(9)下記一般式(1)で表される高分子化合物をポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合した樹脂組成物であって、該樹脂組成物にエネルギー線を照射して樹脂架橋体とすることを特徴とするエネルギー線照射架橋用の樹脂組成物。
【化2】

(式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
(10)前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合したことを特徴とする(9)に記載の樹脂組成物。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位の含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)
(11)ポリオレフィンと下記一般式(1)で表される高分子化合物とを含有する樹脂組成物にエネルギー線を照射して架橋した樹脂架橋体とするに当たり、該一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合することを特徴とする樹脂架橋体の製造方法。
【化3】

(式中、Xは−OCO−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
(12)前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合することを特徴とする(11)に記載の樹脂架橋体の製造方法。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位の含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂架橋体は、衛生性が高く、しかも高温域における耐クリープ特性に優れ、架橋ポリオレフィン管としての利用に特に適した特性を有する。また、本発明の製造方法によれば、過大なエネルギー線の照射を伴わずに効率的な架橋を実現することができ、製造コストを抑えて品質を向上させることが可能であり、大量生産にも好適に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】耐熱クリープ特性試験における試験状態を模式的に示す断面図(JIS-K-6787付属書2図1)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂架橋体は、エネルギー線の照射により架橋を行うに当たり、その原材料となる樹脂組成物に、ポリオレフィンと特定量の前記一般式(1)で表される高分子化合物(以下、特定高分子化合物ということがある。)とを配合したものを用いることを特徴とする。このように、樹脂組成物において上記一般式(1)で得られる高分子化合物をポリオレフィンに混合することで、照射架橋法による架橋効率が上がる機構としては、いまだ未解明の点を含むが下記のように推定される。すなわち、エネルギー線によって、特定高分子化合物中のカルボニル基に隣接するメチル基(もしくはメチレン基)から水素が引き抜かれて生成するラジカルが、カルボニル基との共鳴構造を取ることで安定化される。この部位によって、系内での架橋反応が促進され、結果的に架橋効率が向上するという機構が仮説的に考えられる。
以下、本発明の好ましい実施形態を中心に本発明について説明する。
【0012】
[ポリオレフィン]
本発明で使用されるポリオレフィン(ベース樹脂)としては、ポリエチレン、エチレン−α−アルキレン共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、これらの塩素化物、ポリ塩化ビニルなどに代表される汎用性ポリオレフィン、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム、ポリオレフィン含有熱可塑性エラストマーなどの弾性樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリオレフィンならびにその共重合体などが含まれる。上記に限ったものではなく、中から2種類以上を選定してブレンドして用いてもよい。本発明においては、中でもポリエチレン、エチレン−α−アルキレン共重合体を用いることが好ましい。本発明においてベース樹脂としてポリエチレンを用いるとき、その種類は特に限定されず、シングルサイト触媒で重合させたポリエチレンであっても、マルチサイト触媒で重合させたポリエチレンであってもよい。
【0013】
ポリエチレンの密度について特に制限はなく、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm以上)、中密度ポリエチレン(密度0.930〜0.941g/10cm)、低密度ポリエチレン(0.929g/10cm以下)のいずれであってもよい。本発明はこれに限定されるものではないが、中でも密度0.935〜0.960g/cmのポリエチレンを用いることが好ましく、密度0.940〜0.950g/cmのポリエチレンを用いることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、本発明の好ましい実施形態において目的とする用途(給水給湯用パイプ)に要求される耐圧性や力学的強度を満たすことができ、上記上限値以下とすることで耐クリープ性や柔軟性を損なうことなく同特性を満たすことができる。本発明においてポリエチレンの密度は特に断らない限り、JIS−K7112(プラスチックの密度と比重の測定方法)のD法(密度勾配法)で試験温度23℃での測定値を用いる。
【0014】
ポリエチレンのMFR(メルトフローレート)についても特に制限はなく、いずれの値のものであってもよい。本発明はこれに限定されるものではないが、中でもMFR0.001〜20g/10minのポリエチレンを用いることが好ましく、0.01〜10g/10minのポリエチレンを用いることがより好ましい。上記下限値以上とすることで、生産性と良好な架橋特性を両立することができ、上記上限値以下とすることで成形性を損なうことなく上記特性を満たすことができる。本発明においてポリエチレンのMFRは特に断らない限り、JIS−K7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験法、試験温度190℃、試験荷重21.18N)に準じる方法での測定値を用いる。
【0015】
[一般式(1)で表される高分子化合物]
本実施形態においては、ポリオレフィンと特定の量の下記一般式(1)で表される高分子化合物(熱可塑性樹脂)を含有させた樹脂組成物を、エネルギー線を照射により架橋の原材料として用いる。
【化4】

【0016】
式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。上述のように、置換基Xにおける架橋時の作用はカルボニル基との共鳴安定化が考えられ、その観点から言えば、共鳴構造をとることができ、架橋反応を立体的に阻害するものでなければ特に制約はない。上記直鎖アルキル基のなかでも、炭素数1〜16の直鎖アルキルが好ましく、炭素数1〜12の直鎖アルキルがより好ましい。n,mは整数を表す。一般式(1)で表される高分子化合物は繰り返し構成単位A及びBを有するが、これ以外の繰り返し構成単位(他の共重合成分)を本発明の効果を損なわない範囲で有していてもよい。なお、一般式(1)で表される高分子化合物はブロック共重合体となっていても、グラフト共重合体となっていても、ランダム共重合体となっていてもよい。また、一般式(1)における末端基はこの種の高分子化合物において一般的なものとして理解すればよく敢えて式中に記載していないが、例えば水素原子があるものとして理解してもよく、あるいは所定の重合停止剤残基ないし不飽和結合になっていてもよい。
【0017】
前記一般式(1)における繰り返し構成単位Bの高分子化合物中の含有率(酢酸ビニルモノマー率:VA率[a])は、1〜90質量%であることが好ましく、5〜70質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることが特に好ましい。上記ビニルモノマーの含有率(VA率[a])を上記下限値以上とすることで、効果的に架橋効率を向上させることができ、上記上限値以下とすることでポリオレフィンと前記一般式(1)における高分子化合物とが相容性を向上し、架橋体の強度を損なわずに架橋体を製造することができる。繰り返し構成単位Aであるビニルモノマーの含有率(VM率)は、繰り返し構成単位A及びBしかないとすると、上記100とVA率の差となるが、他の共重合成分がありうることを考慮していえば、VM率は、50〜90質量%であることが好ましい。前記一般式(1)で表される高分子化合物は1種単独で用いても2種以上を用いてもよい。該化合物は典型例としては一般的なエチレン酢酸ビニル共重合体を利用することができ、例えば、三井デュポンポリケミカル社製 エバフレックスP1205(商品名)<VA率:10%>、三井デュポンポリケミカル社製 エバフレックスEV460(商品名)<VA率:19%>、三井デュポンポリケミカル社製 エバフレックスEV40LX(商品名)<VA率:41%>、東ソー社製 ウルトラセン515(商品名)<VA率:6%>、住友化学社製 エバテートH2031(商品名)<VA率:25%>などが挙げられる。
本発明において上記VA率及びVM率は、上記市販のものを用いるのであれば上記のようなその公表値を採用することができる。未知の場合には、例えば、赤外分光法によるカルボニル基の赤外光吸収測定から算出するなどのようして求めることができる。
【0018】
本実施形態においては、前記一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合している。上記特定高分子化合物の配合量を上記下限値以上とすることで、架橋効率向上効果を発現させることができ、上記上限値以下とすることでポリオレフィンの強度を損なうことなく架橋体を製造することができる。
【0019】
本実施形態においては、前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合することが好ましい。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位の含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。数式1における、{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}で算出される値を、「全樹脂に対するVA単位含量」ということがあり、「VA単位含量」と略称することがある。上記数式1の意味についてさらに補足すると、一般式1で表される化合物が1種の場合iを想定して算定する必要はなく、単純に下記式のとおりとなる。
0.01≦{a×b/(100+b)}≦10.0 数式2
一般式(1)で表される高分子化合物を複数の種類にわたり用いる場合には、そのVA率(a)は種類ごとに異なることがあり、また配合比率(b)も種類ごとに異なることがある。このような場合に数式1のようにして特定高分子化合物ごとの比率を求めその総和を算出することで、一般式(1)で表される化合物のポリオレフィン(ベース樹脂)に対する配合率を規定することができる。本実施形態において前記VA単位含量の下限は0.01であるが、VA単位含量の上限は10.0である。VA単位含量は要求条件や製造適正等に応じてその範囲で適宜設定すればよく、例えばその値を高めてより有意な架橋効率向上効果を発現させることができ、逆に、これを抑えて架橋体の力学的強度や耐クリープ性を所望の範囲で発現させることができる。VA単位含量は0.01〜10.0重量%であることが好ましいが、0.1〜7.0重量%であることがより好ましく、0.5〜5.0重量%であることが特に好ましい。ただし、VA単位含量は要求条件や製造適正等に応じてその範囲で適宜設定すればよく、例えばその値を高めてより有意な架橋効率向上効果を発現させることができ、逆に、これを抑えて架橋体の力学的強度や耐クリープ性を所望の範囲で発現させることができる。
【0020】
[エネルギー線]
本実施態様に用いることができる架橋のためのエネルギー線は特に限定されないが、電子線、γ線が挙げられ、特に電子線を用いることが好ましい。本実施態様に用いられる電子線照射装置としては特に制限されるものではなく、任意の装置を用いることができる。なかでも、本発明においては架橋工程における加速電圧が3MeVを超える電子線を照射することが好ましく、5〜10MeVであることがより好ましい。そのため、それを可能にする電子線照射装置を用いることが好ましい。具体的な電子線照射装置としては、例えば、IBA社製 ロードトロン(Rohdotron[商品名])などが挙げられる。
【0021】
[その他の剤]
本発明における組成物には、添加剤として、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、加工助剤、架橋助剤、着色剤、鉱物油系軟化剤、可塑剤、充填剤、難燃助剤、銅害防止剤、耐熱安定剤、抗菌剤、防黴剤、帯電防止剤、スリップ剤(滑剤)等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0022】
なかでも、酸化防止剤については、ポリエチレン管としての長期利用を考慮したときベース樹脂ないし樹脂組成物に添加することが好ましい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系二次酸化防止剤、イオウ系二次酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、紫外線吸収剤、カーボン、チタン・金属水和物・金属酸化物などの遮光材、フェニレンジアミン系・ジフェニルアミン系などアミン系の老化防止剤などの中から、有効なものを適宜用いることが好ましい。特に、本発明によれば、過剰なエネルギー線の照射を避けながら、十分な架橋を行うことができるため、上述したような酸化防止剤等の機能性の剤を分解させ、その効用を過度に損なうことがなく好ましい。
【0023】
[管の製造等]
本実施形態の樹脂組成物を用いて架橋ポリオレフィン管を製造する際には、押出機にて組成物を管体状に押出し、所定寸法に成形し冷却後、ポリオレフィン管素材とすることができる。このとき、押出温度は、当該組成物が適度な流動性を有し、かつ管体に押し出すことに問題が起きないような温度であればどのような温度でもよい。具体的には100〜300℃の間の好適な温度を選ぶことが好ましい。次にこのポリオレフィン管素材(未架橋)に放射線を照射し、最終的に架橋ポリオレフィン管(架橋体)とする。このような照射架橋法でオレフィンを含有する樹脂組成物を架橋する。エネルギー線(放射線)としては、上述のとおり電子線を用いることが好ましい。このような架橋ポリオレフィン管への照射は、ポリオレフィン管製造時の工程中か、製造後の別工程において、電子線を照射する装置内に管を連続的に通して行うことができる。あるいは、束状にドラムに巻きつけられた所定長の管体を装置内に送入することによって行ってもよい。
【0024】
本実施形態の樹脂架橋体は、その優れた特性から給水用途または給湯用途として特に適している。本実施形態において実現される利点について下記に整理して述べる。
・前記一般式(1)に表される高分子化合物を配合しない場合に比べて、ポリオレフィンベース樹脂の架橋にかかるエネルギー線照射時の架橋効率を上げることができる。
・所望の架橋度に達せさせるために必要な線量を小さくすることができるため、照射工程のコストダウンが可能になる。
・副反応として懸念される樹脂の劣化も最小限に抑えることができ、長期特性に優れた管の製造が可能になる。
・照射時に分解する酸化防止剤等の量を減らすことができ、分解物残渣を最小限に食い止められるとともに、コストダウンにも繋がる。
・分解物量が少なくなることから、これに起因する樹脂の着色が抑えられ、より外観に優れた管の製造にも有利である。
・前記一般式(1)に表される高分子化合物を配合することで、押出特性が向上し、メルトフラクチャーや鮫肌などの成形不良の問題が軽減するとともに、押出速度も向上し、生産性の向上にも繋がる。
・成形品の柔軟性も増すため、架橋ポリオレフィン管を施工する際の負担の軽減にもなる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
ポリオレフィン(ベース樹脂)として、密度0.942g・cm−3、メルトフローレート2.5g/10min、融点126℃の直鎖・中−高密度ポリエチレン(コモノマー成分として1−ヘキセン成分を含むエチレン−α−ヘキセン共重合体)(旭化成ケミカルズ製、クレオレックスK4125(商品名))を用いた。一方、前記一般式(1)で表される高分子化合物として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル単位含量(VA率)41質量%、密度0.970g・cm−3、メルトフローレート2.0g/10min)を、上述のポリオレフィン100質量部に対して2.5質量部配合し、さらに全樹脂重量に対して1質量%の酸化防止剤(イルガノックス1010(商品名):チバスペシャリティケミカルズ)を添加し、パイプ素材(未架橋)を成形した。なお、このパイプ素材の寸法は、外径が17.0mm、内径が12.8mmである。
次に、上記パイプ素材について、下記のとおり架橋処理を施した。電子線照射機(IBA社製、Rohdotron:商品名)にて、加速電圧10MeV、電流値10mA、1回の照射量15kGy、温度常温(各照射パス後に常温に戻るまで空冷)、雰囲気空気の条件にて電子線の照射を行った。照射量の調整は各パスでゲル分率を確認しながら照射を行い、所定のゲル分率を得る照射量となる架橋ポリエチレン管を製造した。
【0027】
(実施例2〜6、比較例1、2)
上記実施例1に対し、下記表1に示したように、配合量及び前記一般式(1)で表される高分子化合物もしくはベース樹脂を変更した以外、同様にして各実施例及び比較例の架橋ポリエチレン管を製造した。なお、実施例7および8においては、前記一般式(1)で表される高分子化合物として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル単位含量(VA率)19質量%、密度0.940g・cm−3、メルトフローレート2.5g/10min)を、上述のポリオレフィン100質量部に対して0.53質量部および2.70質量部配合した。また、実施例9においては、ポリオレフィンとして、実施例1のものに変え、密度0.946g・cm−3、メルトフローレート0.3g/10min、融点130℃の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製、ノバテックHB233R:商品名)を用いた。なお、表1中、電子線の照射量は、架橋したときのゲル分率が60%を超えたときの電子線照射量を測定したものである。ゲル分率はJIS K 6796(架橋ポリエチレン製(PE−X)管及び継手−ゲル含量の測定による架橋度の推定:以降も「ゲル分率」と表記)に準じて以下のとおりにして測定した。
【0028】
[ゲル分率の測定]
ゲル分率の測定に用いる試料は、0.1〜0.2mmの厚みにスライス又は削り取ったものとした。試料の質量を0.750±0.050gとした。ふた付きのクリーンで乾燥したかごの質量を1mgの感量で測定した(質量m)。次いでかごの中に試料を入れ、試料入りのかごの質量を1mgの感量で測定した(質量m)。試料が入ったかごをフラスコ内に入れ、確実に浸漬し続けることのできる十分な量のキシレンを入れた。勢いよく溶剤を8時間±5分沸騰させた。沸騰した溶剤から試料の残留物とかごを取り出し、140℃±2℃で少なくとも85kPaの負圧下の真空炉によって3時間乾燥させた。冷却後にかご及び残留物を1mgの感量で測定した(質量m)。ゲル分率Gは以下の下記数式Aにより算定した。
=(m−m)/(m−m)×100 数式A
【0029】
上述のように作製した各実施例及び比較例の架橋ポリエチレン管について、JIS K 6787 付属書2に則り熱間内圧クリープ試験を行い、170時間および8760時間をクリアするかどうかについて評価を行なった。上記試験の概略を下記に示す。
【0030】
[熱間内圧クリープ試験]
試験片の両端部を密栓し(図1参照)、内部に一定の内圧を加えるための加圧装置、試験片の温度を一定に保つための水槽又はオーブンを使用した。試験片はすべて製造後15時間以上経過した管から採取した。試験片の両端は管軸に直角になるように切断し、試験片の有効長さは、最小250mmとした。試験片の数は少なくとも3個とした。試験片は試験温度(95℃(170時間法)もしくは110℃(8760時間法))に対し0〜5℃高い温度に設定した水で管内を満たし、前記試験温度の水槽ないしオーブンに入れ、15分間静置した。その後、加圧装置に連結して附属書2表1により求められる規定圧力になるよう加圧した。この状態でそれぞれの試験片を規定時間放置した。表1中、破壊があった場合を「×」、破壊が無かった場合を「○」とした。この試験によって確認される架橋ポリエチレン管の性能としては、JIS−K6769に記載の表1におけるPN15種の管の使用温度および最高使用圧力による分類によって明確にされており、この条件下における50年の使用を保証している。
【0031】
【表1】

*ポリオレフィン100質量部に対する配合比率
【0032】
以上のとおり、本発明の樹脂架橋体によれば、熱間内圧クリープ試験に代表される、長期耐久特性が向上する。しかも、電子線架橋により、においの原因となったり水質に影響を与えうるシラン化合物や重合開始剤を用いない衛生性等の利点が活かされた、高品質の架橋ポリエチレン管が得られた。また、本発明の製造方法によれば、比較例に対して、過度の電子線照射をせずに十分な架橋度(ゲル分率)が達成された。そのためエネルギー消費が抑えられ、かつ酸化防止剤等の機能性の剤の分解が抑制されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンと下記一般式(1)で表される高分子化合物とを含有する樹脂組成物にエネルギー線を照射して架橋した樹脂架橋体であって、該一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合したことを特徴とする樹脂架橋体。
【化1】

(式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合したことを特徴とする請求項1に記載の樹脂架橋体。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位Bの含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される樹脂化合物がエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂架橋体。
【請求項4】
前記ポリオレフィンがポリエチレンおよび/またはエチレン−α-オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずいれか1項に記載の樹脂架橋体。
【請求項5】
前記エネルギー線の照射による架橋工程を経て管状に加工されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
【請求項6】
前記エネルギー線が電子線であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
【請求項7】
給水用途または給湯用途として好適な架橋ポリエチレン管としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂架橋体。
【請求項8】
ゲル分率を60%以上としたことを特徴とする樹脂架橋体。
【請求項9】
下記一般式(1)で表される高分子化合物をポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合した樹脂組成物であって、該樹脂組成物にエネルギー線を照射して樹脂架橋体とすることを特徴とするエネルギー線照射架橋用の樹脂組成物。
【化2】

(式中、Xは−O(CO)−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
【請求項10】
前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合したことを特徴とする請求項9に記載の樹脂組成物。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位の含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)
【請求項11】
ポリオレフィンと下記一般式(1)で表される高分子化合物とを含有する樹脂組成物にエネルギー線を照射して架橋した樹脂架橋体とするに当たり、該一般式(1)で表される高分子化合物を前記ポリオレフィン100質量部に対して0質量部を超え40質量部以下で配合することを特徴とする樹脂架橋体の製造方法。
【化3】

(式中、Xは−OCO−Rを表す。Rは−C2p+1で表される直鎖のアルキル基であり、pは1〜24の数を表す。n,mは整数を表す。)
【請求項12】
前記一般式(1)で表される高分子化合物を、下記数式1を満たす量で配合することを特徴とする請求項11に記載の樹脂架橋体の製造方法。
0.01≦{Σ(ai×bi)/(100+Σbi)}≦10.0 数式1
(iは1以上の自然数であり、aはi番目における前記高分子化合物の繰り替えし構成単位の含有率[質量%]を表す。bはi番目における前記高分子化合物の前記ポリオレフィン100質量部に対する配合比率(質量部)を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2011−246520(P2011−246520A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118255(P2010−118255)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】