説明

樹脂用架橋剤組成物

【課題】安全性が高く、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の官能基を分子中に有する樹脂を含む、塗料、インキ、クリアーコーティング材等に混合した後の保存安定性に優れ、溶剤が揮発する等の簡易な工程によって架橋させることが可能で、樹脂を架橋して得られる皮膜の耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等の皮膜物性を向上させる樹脂用架橋剤組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合し
た構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
を含有することを特徴とする樹脂用架橋剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アルコキシドを原料とする樹脂用架橋剤組成物に関するものであり、更には、樹脂への混合後の保存安定性が高く、溶剤が揮発すること等によって容易に架橋させることを目的とした、樹脂用架橋剤組成物に関するものである。更に詳しくは、塗料、インキ、クリアーコーティング材等に好適に使用できる樹脂用架橋剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等を分子中に有する樹脂は、成膜後の耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等といった膜物性を向上する目的で塗料、インキ、クリアーコーティング材等の各種バインダーとして使用されている。
【0003】
これらの官能基を有する樹脂の架橋剤としては、チタンアルコキシドやチタンキレートを代表とする有機金属化合物を使用する例が知られている。特に、架橋剤組成物としては、アセチルアセトンを配位子とした金属キレート化合物、特にチタンアセチルアセトネートやジルコニウムアセチルアセトネート等を使用する例が知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、配位子として使用されているアセチルアセトンが遺伝毒性の疑いのある物質として欧州食品安全機関(EFSA、European FoodSafety Authority)の食品混合物リストから除外されたことを受け、欧州印刷インキ協会(EuPIA、European Printing Ink Association)は、チタンアセチルアセトネートを使用しないインキ組成物の検討を勧告している。
【0005】
この問題を解決するために、β−ジケトンであるアセチルアセトンの代わりとして、β−ケトエステルであるアセト酢酸エチルを使用したチタンキレートを使用することが考えられた。しかしながら、アセト酢酸エチルを使用したチタンキレートを架橋剤として使用した場合、樹脂を含有するインキ組成物に混合後、短時間で増粘現象やゲル化が認められるため、アセト酢酸エチルを使用したチタンキレートは、そのままでは、塗料、インキ、クリアーコーティング材等の架橋剤として使用するには、保存安定性の面で使用が困難であった。
【0006】
そこで、β−ケトエステルを配位子とした金属キレート化合物とマレイン酸樹脂を併用する方法が特許文献1で提案されているが、従来使用されている金属アセチルアセトネート化合物に比較し、インキ等の樹脂溶液に混合し、経時した後にインキ皮膜を形成すると、混合直後に形成した皮膜と比較して耐熱性が低下する。
【0007】
一方、β−ジケトンであるアセチルアセトンの代わりとして、有機酸を配位子とするチタンアシレートを使用することが考えられるが、かかるチタンアシレートを、樹脂を含有するインキ組成物に混合したインキは、経時した後にインキ皮膜を形成した場合、耐熱性等の皮膜物性が混合直後に比較して低下する現象が確認されている。
【0008】
その他の方法として、チタンオルソエステルと、リン酸モノアルキル若しくはリン酸ジアルキルとの反応物を使用する方法が特許文献2で提案されているが、経時した後にインキ塗膜を形成すると、混合直後に比較して耐熱性が低下する。
【0009】
塗料、インキ、クリアーコーティング材等の架橋剤への要求は、ますます高くなってきており、特に、コーティング皮膜または印刷皮膜の耐熱性(印刷物表面の耐熱性)、官能基を有する樹脂と混合した後の保存安定性等への要求が高くなってきており、かかる公知技術では、耐熱性、架橋性、保存安定性等に優れた架橋剤を得るには不十分であり、更なる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−246649号公報
【特許文献2】特開昭61−037851号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】杉山岩吉、「含有金属有機化合物とその利用」、M.R.機能性物質シリーズNo.5(日本シーエムアイ株式会社)p.103〜p.109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、安全性が高く、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の官能基を分子中に有する樹脂への混合後の保存安定性が高く、溶剤が揮発する等の簡易な工程によって架橋させることが可能な樹脂用架橋剤組成物を提供することにある。また、樹脂を架橋して得られる皮膜の耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等の物性をより向上させる樹脂用架橋剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物(成分A)、β−ケトエステル(成分B)、有機カルボン酸および/または多価アルコール(成分C)を含有させることによって、上記課題が解決できること見出して、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、少なくとも、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
を含有することを特徴とする樹脂用架橋剤組成物を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基およびウレタン基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に含む樹脂を架橋することが可能な、および/または、架橋する用途に用いる上記の樹脂用架橋剤組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、少なくとも、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
を配合することを特徴とする樹脂用架橋剤組成物の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の樹脂用架橋剤組成物および樹脂を用いて得られたものであることを特徴とする、塗料、インキまたはクリアーコーティング材を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、アセチルアセトン等のβ−ジケトンを配位子として使用していないため、遺伝毒性の疑いがなく極めて安全性に優れている。また、樹脂用架橋剤組成物自身の保存安定性が高いことだけでなく、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の官能基を分子中に有する樹脂への配合後の保存安定性が高く、また、溶剤を揮発させる等の簡易な工程によって、該樹脂を架橋させることが可能である。
【0019】
また、本発明の樹脂用架橋剤組成物は、該樹脂を架橋して得られる皮膜の耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等の物性をより向上させる効果を有し、特に、塗料、インキ、クリアーコーティング材等の皮膜形成材料に配合されて、特にかかる効果を発揮することができる。上記「皮膜」には、コーティング皮膜の他にも、例えばインキ等により印刷された皮膜も含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の具体的実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0021】
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、少なくとも、下記の成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有することを特徴とする。
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
【0022】
<(A)有機金属化合物>
成分(A)としては、1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物であれば特に限定はない。金属アルコキシドに対するβ−ケトエステルの結合は、配位結合、共有結合、イオン結合等、通常の金属への配位子の結合である。
【0023】
<<金属アルコキシド>>
上記金属アルコキシドは、下記式(1)で表される金属アルコキシドであることが、高い架橋反応性が得られる点で好ましい。
【0024】
【化1】

[式(1)中、Mは、周期表4族の中から選ばれる何れかの金属原子、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【0025】
式(1)で表される「金属アルコキシド」は、式(1)中のMで表される金属原子として、チタンまたはジルコニウムが好ましく、チタンが特に好ましい。
【0026】
式(1)で表される「金属アルコキシド」は、式(1)中のR〜Rが、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基であるが、それぞれ独立に炭素数1〜8個のアルキル基であるものが、高い架橋反応性が得られる点でより好ましく、それぞれ独立に炭素数1〜5個のアルキル基であるものが同様の点で特に好ましい。
【0027】
式(1)で表される「金属アルコキシド」としては、以下の具体例に限定はされないが、Mがチタンのチタン化合物としては、例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンジイソプロポキシジノルマルブトキシド、チタンジターシャリーブトキシジイソプロポキシド、チタンテトラターシャリーブトキシド、チタンテトライソオクチロキシド、チタンテトラステアリルアルコキド等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0028】
また、Mがジルコニウムのジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムジイソプロポキシジノルマルブトキシド、ジルコニウムジターシャリーブトキシジイソプロポキシド、ジルコニウムテトラターシャリーブトキシド、ジルコニウムテトライソオクチロキシド、ジルコニウムテトラステアリルアルコキシド等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0029】
<<β−ケトエステル>>
本発明の樹脂用架橋剤組成物においては、成分(A)における配位子として、また、成分(B)として、β−ケトエステルが必須である。β−ケトエステルとしては特に限定はないが、下記式(2)で表される構造を有するものが、高い架橋反応性と、樹脂用架橋剤組成物を配合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等の保存安定性を高める点で好ましい。
【0030】
【化2】

[式(2)中、Rは、炭素数1〜18個のアルキル基、または、炭素数が6〜21のアリール基を示し、Rは、炭素数1〜18個のアルキル基、または、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル残基若しくはメタクリル酸アルキルエステル残基を示す。]
【0031】
式(2)中、Rは、炭素数1〜18個のアルキル基、または、炭素数が6〜21のアリール基であるが、炭素数1〜15個のアルキル基、または、炭素数が7〜15のアリール基であることが、高い架橋反応性と、樹脂用架橋剤組成物を配合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等の保存安定性を高める点でより好ましく、炭素数1〜10個のアルキル基、または、炭素数が7〜10のアリール基であることが特に好ましい。
【0032】
上記アルキル基は直鎖であっても分岐を有していてもよい。アルキル基が分岐を有する場合の炭素数には分岐した部分の炭素数も含まれる。また、上記アリール基はアルキル基等の置換基を有していてもよく、この場合の炭素数には、芳香環を形成する炭素数とそこへの置換基の炭素数が含まれる。アリール基としては特に限定はないが、フェニル基等が好ましい。
【0033】
「アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル残基若しくはメタクリル酸アルキルエステル残基」のもととなる化合物としては、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル等が挙げられる。ここでのアルキル基の炭素数は1〜15がより好ましく、2〜10が特に好ましい。具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アクリレートとメタクリレートを総称して「(メタ)アクリレート」と略記する。
【0034】
β−ケトエステルは、具体的には特に限定はないが、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、メチルピバロイルアセテート、メチルプロピロイルアセテート、メチルブチロイルアセテート、メチルベンゾイルアセテート、エチルベンゾイルアセテート、エチルトルイルアセテート、カプロイル酢酸メチル、ラウロイル酢酸メチル、パルミトイル酢酸メチル、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して用いることができる。
【0035】
成分(A)は、1分子の金属アルコキシドに対して0.1分子以上のβ−ケトエステルが結合した構造を有するが、1分子の金属アルコキシドに対して、β−ケトエステルが、好ましくは0.1分子〜2分子、より好ましくは0.5分子〜2分子、特に好ましくは1分子〜2分子が結合した構造を有するものが望ましい。
【0036】
β−ケトエステルの結合する割合が0.1分子未満であると、成分(B)、成分(C)と共に含有された樹脂用架橋剤組成物であっても、樹脂と混合した後の保存安定性が充分に高くならない場合がある。一方、1分子の金属アルコキシドに対するβ−ケトエステルの量が多過ぎると、インキ皮膜等の、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等を低下させる原因となる場合がある。
【0037】
<(B)β−ケトエステル>
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、成分(A)の有機金属化合物の構造中に結合されたβ−ケトエステルとは別に、成分(B)としてβ−ケトエステルを含有する。成分(B)としてのβ−ケトエステルは、具体的には、成分(A)の配位子として上記したものが挙げられる。実際に成分(A)の有機金属化合物の構造中に結合されたβ−ケトエステルと、成分(B)として配合されたβ−ケトエステルは、同一でも異なっていてもよい。
【0038】
<(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール>
本発明の樹脂用架橋剤組成物における成分(C)は、有機カルボン酸および/または多価アルコールである。
【0039】
<<有機カルボン酸>>
有機カルボン酸は特に限定はなく、分子中のカルボキシル基の数も限定はないが、下記式(3)で表される構造を有するものが、架橋反応をコントロールし、樹脂用架橋剤組成物を配合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等の保存安定性を高める点で好ましい。
【0040】
【化3】

[式(3)中、Rは、炭素数が1〜36のアルキル基、炭素数が6〜42のアリール基、または、炭素数が1〜36のヒドロキシアルキル基示す。]
【0041】
式(3)で表される「有機カルボン酸」中のRは、炭素数1〜30個のアルキル基であることが、架橋反応をコントロールし、樹脂用架橋剤組成物を配合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等の保存安定性を高める点でより好ましく、炭素数1〜25個のアルキル基であることが特に好ましい。
【0042】
また、式(3)中のRは、炭素数が6〜30のアリール基であることも好ましく、炭素数が10〜20のアリール基であることが、同様の理由で特に好ましい。また、式(3)中のRは、炭素数が1〜30のヒドロキシアルキル基であることも好ましく、炭素数が1〜20のヒドロキシアルキル基であることが、同様の理由で特に好ましい。
【0043】
上記アルキル基またはヒドロキシアルキル基は直鎖であっても分岐を有していてもよい。分岐を有する場合の炭素数には分岐した部分の炭素数も含まれる。また、上記アリール基はアルキル基等の置換基を有していてもよく、この場合の炭素数には、芳香環を形成する炭素数とそこへの置換基の炭素数が含まれる。
【0044】
有機カルボン酸は、具体的には特に限定はないが、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ペンタデシル酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、メリシン酸、エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、安息香酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上併用できる。
【0045】
<<多価アルコール>>
多価アルコールは、アルコール性水酸基を2個以上有する有機化合物であれば特に限定はないが、アルコール性水酸基を2個有する有機化合物、すなわちグリコール化合物であることが、架橋反応をコントロールし、樹脂用架橋剤組成物を配合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等の保存安定性を高める点で好ましい。特に好ましくは、同様の理由から、炭素数が1〜18のグリコール化合物である。
【0046】
多価アルコールは、具体的には特に限定はないが、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−2−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、3,6−ジメチル−3,6−オクタンジオール、3,7−ジメチルオクタン−1,7−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上併用できる。
【0047】
<使用割合>
【0048】
「(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物」と「(B)β−ケトエステル」との使用割合は、成分(A)と成分(B)の混合モル比が、
(A)/(B)=1/0.1〜1/10が好ましく、
(A)/(B)=1/0.3〜1/8がより好ましく、
(A)/(B)=1/0.5〜1/5が特に好ましい。
(A)/(B)の比率において、成分(A)が少なすぎると、インキ皮膜等の、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等を低下させる原因となる場合があり、一方、成分(A)が多すぎると、インキ組成物等の保存安定性を低下させる場合がある。
【0049】
「(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物」と「(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール」との使用割合は、成分(A)と成分(C)のモル比が、
(A)/(C)=1/0.1〜1/10が好ましく、
(A)/(C)=1/0.2〜1/8がより好ましく、
(A)/(C)=1/0.3〜1/5が特に好ましい。
(A)/(C)の比率において、成分(A)が少なすぎると、インキ皮膜等の、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等を低下させる原因となる場合があり、一方、成分(A)が多すぎると、インキ組成物等の保存安定性を低下させる場合がある。
【0050】
成分(C)として、有機カルボン酸と多価アルコールの両方が用いられている場合は、上記成分(C)のモル数は、有機カルボン酸と多価アルコールの合計のモル数である。
また、例えば、後記する形態(4)では、成分(A)が2工程で用いられているが、このように1つの成分が何回かに分けて用いられる場合、上記した各成分の使用割合は、何回かに分けて用いられた1つの成分の合計量で計算したものである。
【0051】
<製造方法>
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、少なくとも、上記成分(A)、成分(B)および成分(C)を配合して製造することが好ましい。配合の順番は問わず、2回以上に分けて配合して製造してもよい。
「(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物」と、
「(B)β−ケトエステル」と、
「(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール」
とを、すべて他の何れかと共存させることが、本発明の前記効果を得るために好ましい。
【0052】
本発明の樹脂用架橋剤組成物の製造方法としては、以下の5形態が好ましい。
(1)(A)と(B)を混合後、更に、(C)を混合する
(2)(A)と(C)を混合後、更に、(B)を混合する
(3)(B)と(C)を混合後、更に、(A)を混合する
(4)(A)と(B)を混合後、更に、(A)と(C)を混合した組成物を混合する
(5)(A)と(B)と(C)を実質的に同時に混合する
【0053】
この中でも、態様(1)に記載した、成分(A)と成分(B)を混合した後に、成分(C)を混合することが、高い架橋反応性と架橋剤の安定性を高め、架橋反応をコントロールし、樹脂用架橋剤組成物を添加した塗料、インキ、クリアーコーティング材の保存安定性を高める点で好ましい。
【0054】
成分(B)のβ−ケトエステルは、成分(A)を調製するために、金属アルコキシドにβ−ケトエステルを加えたときの未反応のβ−ケトエステルであってもよい。
【0055】
<樹脂用架橋剤組成物>
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、アセチルアセトン等のβ−ジケトンを使用していないため安全性に優れ、官能基を有する樹脂への混合後の保存安定性が高く、簡易な工程によって該樹脂を架橋させることが可能である。また、該樹脂を架橋して得られる皮膜は、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等に優れている。
【0056】
本発明における樹脂用架橋剤組成物は、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基およびウレタン基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に含む樹脂を架橋することが可能であり、得られた皮膜は、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等に優れている。すなわち、かかる官能基を有する樹脂を好適に架橋することができる。従って、官能基を分子中に含む樹脂を架橋する用途に特に好適に使用できる。
【0057】
水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基およびウレタン基よりなる群から選ばれた少なくとも1つの官能基を分子中に含む樹脂としては、特に制限はなく、公知の塗料やインキに使用されている樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、ニトロセルロース;アルキド樹脂;ポリエステル樹脂;ロジン変性ポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;メラミン樹脂;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等のビニル系樹脂;ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシアクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド等を共重合成分として含有する熱硬化性(メタ)アクリル系共重合体;フェノール樹脂;ロジン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0058】
<希釈有機溶剤>
本発明における樹脂用架橋剤組成物を用いる場合は、必要に応じて、「希釈有機溶剤」を用いて希釈してから樹脂と混合してもよい。「希釈有機溶剤」については特に限定はないが、好ましい「希釈有機溶剤」としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、トルエン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を樹脂に混合する場合、その混合量は特に限定はないが、樹脂100質量部に対して、本発明の樹脂用架橋組成物0.1〜100質量部が好ましく、0.5〜80質量部がより好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
【0060】
<樹脂用架橋剤組成物の用途>
本発明の樹脂用架橋剤組成物は樹脂の架橋剤として有用であり、その用途は特に限定はないが、塗料、インキ、クリアーコーティング材等用の架橋剤としてより有用である。
【0061】
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、架橋可能で適当な有機溶剤に溶解する樹脂を含有するフレキソ印刷用インキまたはグラビア印刷用インキに特に有用である。
【0062】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を、塗料、インキ、クリアーコーティング材等に混合する場合、その混合量は特に限定はないが、塗料、インキ、クリアーコーティング材等100質量部(溶媒も含む)に対して、本発明の樹脂用架橋組成物0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜7質量部がより好ましく、0.5〜5質量部が特に好ましい。
【0063】
本発明の樹脂用架橋剤組成物と、塗料、インキ、クリアーコーティング材等中の樹脂との架橋反応は、塗料、インキ、クリアーコーティング材等を製造する時の混合時、あるいは、塗料、インキ、クリアーコーティング材等を基材に塗布した後の乾燥工程において生ずる。
【0064】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を混合した、塗料、インキ、クリアーコーティング材等が塗布される基材としては、特に限定はないが、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)フィルム、変性ポリプロピレンフィルム等のビニル樹脂系フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリエステルフィルム;ポリアミド、ポリスチレン等の各種プラスチックフィルム;それらにアルミニウム等の金属の蒸着されたフィルム、例えば、金属蒸着延伸ポリプロピレン(VM−OPP)フィルム、金属蒸着無延伸ポリプロピレン(VM−CPP)フィルム、金属蒸着ポリエチレンテレフタレート(VM−PET)等が挙げられる。
【0065】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を混合した、塗料、インキ、クリアーコーティング材等を、基材表面に塗布する場合の塗布量は特に限定はないが、乾燥後の乾燥膜厚として、0.3μm〜5μmが好ましく、より好ましくは0.8μm〜2μmである。
【0066】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を混合した塗料、インキ、クリアーコーティング材等を基材表面に塗布する場合の塗布・印刷方法は特に限定はないが、一般的なグラビアコート、シルクスクリーンコート、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等が好ましく、特にグラビアコートが好ましい。
【0067】
本発明の樹脂用架橋剤組成物を混合して得られた塗料、インキ、クリアーコーティング材等を基材に塗布した後に乾燥することが、樹脂の架橋を高める点で好ましい。乾燥温度は特に限定はないが、25℃〜150℃が好ましく、40℃〜130℃が特に好ましい。乾燥時間は特に限定はないが、1秒〜2時間が好ましく、30秒〜1時間が特に好ましい。
【0068】
<作用・原理>
本発明の樹脂用架橋剤組成物が、保存中に増粘現象やゲル化を生じ難いといった高い保存安定性を有しながら、優れた架橋性能を与える作用・原理は明らかではなく、本発明は以下の作用・原理の範囲に限定されるものではないが、以下のことが考えられる。
【0069】
本来、チタンアルコキシドを代表とする金属アルコキシドは、水酸基やカルボキシル基等を有する化合物との反応性が高く、特に、水酸基を有する化合物との反応は、容易にエステル交換反応が進行することが知られている。本発明の樹脂用架橋剤組成物もまた、同様な機構でエステル交換反応が進行する。水酸基を有する化合物が、高分子で、かつ一分子中の水酸基量が2分子以上であれば、本発明の樹脂用架橋剤組成物によって、それぞれの水酸基がエステル交換反応することによって架橋し、更に分子量が高い樹脂等の高分子化合物が得られる。この架橋反応により、耐熱性、耐溶剤性、耐油性といった性能を向上させたと考えられる。
【0070】
また、含有されている有機カルボン酸中のプロトンによって、樹脂と金属アルコキシドの架橋が阻害されるため、官能基を有する樹脂を含む塗料、インキ、クリアーコーティング材等に混合した状態では、架橋反応が生じ難くなり、高い保存安定性が発現したと考えられる。
【0071】
一方、多価アルコール中の水酸基によって、樹脂と金属アルコキシドの架橋が阻害されるため、官能基を有する樹脂を含む塗料、インキ、クリアーコーティング材等に混合した状態では、架橋反応が生じ難くなり、高い保存安定性が発現したと考えられる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例および比較例に限定されるものではない。
【0073】
製造例1
チタンテトライソプロポキシド28.4g(0.10モル)を反応容器内に仕込み、攪拌しながらアセト酢酸エチルを26.0g(0.20モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流を行い、成分(A)の有機金属化合物であるチタン化合物Aを得た。
【0074】
製造例2
チタンテトライソプロポキシド28.4g(0.10モル)を反応容器内に仕込み、攪拌しながらアセト酢酸メチル11.6g(0.10モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流を行い、成分(A)の有機金属化合物であるチタン化合物Bを得た。
【0075】
製造例3
チタンテトラブトキシド34.0g(0.10モル)を反応容器内に仕込み、攪拌しながらアセト酢酸エチル13.0g(0.10モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流を行い、成分(A)の有機金属化合物であるチタン化合物Cを得た
【0076】
製造例4
ジルコニウムテトラブトキシド45.2g(0.1モル)を反応容器内に仕込み、攪拌しながらアセト酢酸エチル26.0g(0.2モル)を滴下した。滴下終了後、30分間還流を行い、成分(A)の有機金属化合物であるジルコニウム化合物Aを得た。
【0077】
実施例1
製造例1で製造した成分(A)であるチタン化合物Aを100質量部、成分(B)であるアセト酢酸エチル23.9質量部を25℃で10分間、攪拌混合した。混合終了後、成分(C)であるイソノナン酸20.3質量部を25℃で10分間、攪拌混合して、樹脂用架橋剤組成物1を得た。
【0078】
実施例2〜11
実施例1において、チタン化合物(成分A)、アセト酢酸エチル(成分B)、有機カルボン酸および/または多価アルコール(成分C)を、表1に記載の種類と量に代えた以外は、実施例1と同様の方法にて攪拌混合を行い、樹脂用架橋剤2〜11を得た。
【0079】
比較例1
製造例1で製造したチタン化合物Aを樹脂用架橋剤組成物12として使用した。
【0080】
比較例2
製造例2で製造したジルコニウム化合物Aを樹脂用架橋剤組成物13として使用した。
【0081】
比較例3
製造例1で製造したチタン化合物A100質量部、アセト酢酸エチル44.2質量部を25℃で10分間混合して、樹脂用架橋剤組成物14を得た。
【0082】
比較例4
製造例1で製造したチタン化合物A100質量部、イソノナン酸44.2質量部を25℃で10分間混合して、樹脂用架橋剤組成物15を得た。
【0083】
比較例5
製造例1で製造したチタン化合物A100質量部、アセト酢酸エチル23.9質量部を25℃で10分間混合した。マレイン酸樹脂(荒川化学社製マルキードNo.31)7質量部を25℃で10分間混合して、樹脂用架橋剤組成物16を得た。
【0084】
比較例6
チタンテトライソプロポキシド28.4g(0.10モル)を反応容器内に仕込み、攪拌しながらブチルアシッドホスフェート(モノブチル/ジブチル=1:1モル比の混合品)18.2g(0.10モル)を滴下し、滴下終了後、30分間還流を行い、チタン化合物Dを得た。得られたチタン化合物Dを100質量部、製造例2で製造したチタン化合物B20質量部を40℃で混合して樹脂用架橋剤組成物17を得た。
【0085】
比較例7
市販のチタンアセチルアセトネート化合物であるチタンテトラアセチルアセトネート(マツモトファインケミカル社製 オルガチックスTC−401)を樹脂用架橋剤組成物18として使用した。
【0086】
【表1】

【0087】
評価例1
ポリアミド樹脂(富士化成工業社製トーマイド90)15質量部、藍顔料(山陽色素社製 CyanineBlue4044)12.5質量部、硝化綿樹脂HIG1/4(SNPE社製)4質量部、トルエン34質量部、イソプロピルアルコール20質量部、酢酸エチル13.5質量部をボールミルで練肉し、色インキ組成物を得た。
【0088】
上記で得られた「色インキ組成物」100質量部に、上記実施例1〜11、上記比較例1〜7の樹脂用架橋剤組成物1〜18を、それぞれ2質量部加えて混合し、試験用色インキを調製した。
【0089】
<評価試験>
上記で調製された試験用色インキを用いて、以下の評価方法に従って、樹脂用架橋剤組成物の保存安定性、耐熱性および密着性を評価した。
【0090】
[保存安定性の試験方法と評価]
試験用色インキを50℃で7日間静置し、経時前後の粘度変化を測定した。粘度は、25℃において、ザーンカップNo.4により測定した。測定された経時前後の粘度比から保存安定性(すなわち、経時粘度安定性)の評価を行った。
○:経時後/経時前の粘度比が1.5未満である
△:経時後/経時前の粘度比が1.5以上、3.0未満である
×:経時後/経時前の粘度比が3.0以上である
【0091】
[耐熱性の試験方法と評価]
試験用色インキを調製直後に、OPPフィルムに、バーコーターNo.6を用いて塗布した後、室温下にて1時間以上乾燥した。皮膜とアルミ箔とを重ねあわせ、熱傾斜試験機を用いて1kg/cmの圧力で1秒間アルミ箔を押圧し、140〜180℃における試験用色インキ皮膜のアルミ箔への転写と試験用色インキ皮膜の外観変化を目視判定にて評価した。
【0092】
同様に、試験用色インキを50℃で7日間静置した後、OPPフィルムに、バーコーターNo.6を用いて塗布した後、室温下にて1時間以上乾燥した。皮膜とアルミ箔とを重ねあわせ、熱傾斜試験機を用いて1kg/cmの圧力で1秒間アルミ箔を押圧し、140〜180℃における試験用色インキ皮膜のアルミ箔への転写と試験用色インキ皮膜の外観変化を目視判定にて評価した。
○:170℃以上まで、皮膜のアルミ箔への転写と外観変化が見られない
△:160℃以上、170℃未満で、皮膜のアルミ箔への転写と外観変化が見られる
×:160℃未満で、皮膜のアルミ箔への転写と外観変化が見られる
【0093】
[密着性の試験方法と評価]
試験用色インキを調製直後に、OPPフィルムに、バーコーターNo.6を用いて塗布した後、室温下にて1時間以上乾燥した。ニチバンセロテープ(登録商標)の24mm幅の粘着面を試験用色インキ皮膜上に貼り付けた後、強くテープを引き剥がし、皮膜の剥がれを目視判定にて評価した。
【0094】
同様に、試験用色インキを50℃で7日間静置した後、OPPフィルムに、バーコーターNo.6を用いて塗布した後、室温下にて1時間以上乾燥した。ニチバンセロテープ(登録商標)24mm幅の粘着面を試験用白インキ皮膜上に貼り付けた後、強くテープを引き剥がし、皮膜の剥がれを目視判定にて評価した。
○:皮膜がフィルムから全く剥離しない
△:皮膜の面積比率として、50%未満がフィルムから剥離する
×:皮膜の面積比率として、50%以上がフィルムから剥離する
【0095】
上記で調製された試験用色インキを用いて、上記の評価方法に従って、実施例1〜11、比較例1〜7の樹脂用架橋剤組成物1〜18の保存安定性(経時粘度安定性)、耐熱性、および、基材への密着性を評価し、結果を表2に示した。表2中、「−」は、試験用色インキがゲル化したため、評価不能であることを示す。
【0096】
【表2】

【0097】
評価例2
硝化綿樹脂HIG1/4(SNPE社製)5質量部、酢酸エチル95質量部を混合して「クリアーコーティング剤組成物」を得た。
【0098】
上記で得られた「クリアーコーティング剤組成物」100質量部に、上記実施例1〜11、上記比較例1〜7の樹脂用架橋剤組成物1〜18を2質量部加えて混合し、試験用クリアーコーティング材を調製した。
【0099】
<評価試験>
調製された試験用クリアーコーティング材を用いて、実施例1〜11、比較例1〜7の樹脂用架橋剤組成物1〜18の保存安定性(経時粘度安定性)を上記の評価方法に従って評価した。また、耐溶剤性を下記の評価方法に従って評価し、その結果を表3に示した。
【0100】
[耐溶剤性の試験方法と評価]
試験用クリアーコーティング材を、OPPフィルムに、バーコーターNo.6を用いて塗布した後、室温下にて1時間以上乾燥した。皮膜上に溶剤(それぞれ、トルエン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン)を含んだ脱脂綿を置き、500gの分銅にて加重をかけながら、50往復回表面を摩擦した。摩擦後の皮膜のはがれ度合いを評価した。
○:皮膜の剥がれなし
△:皮膜の剥がれが25%未満あり
×:皮膜の剥がれが25%以上あり
【0101】
【表3】

【0102】
実施例1〜11の樹脂用架橋剤組成物を色インキ組成物に混合した試験用色インキでは、評価した保存安定性試験、皮膜の耐熱性試験および基材への密着性試験の何れの結果も良好であった。また、実施例1〜11の樹脂用架橋剤組成物をクリアーコーティング剤組成物に混合したクリアーコーティング材では、評価した保存安定性試験および皮膜の耐溶剤性試験の何れの結果も良好であった。
【0103】
一方、比較例1〜6の樹脂用架橋剤組成物を色インキ組成物およびクリアーコーティング剤組成物に混合した試験用色インキおよびクリアーコーティング材の場合、保存安定性試験と皮膜特性の両方またはどちらか一方が劣っていた。比較例7はβ−ジケトン使用しており安全性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の樹脂用架橋剤組成物は、アセチルアセトンを配位子として使用せずに、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ウレタン基等の官能基を分子中に有する樹脂を含む塗料、インキ、クリアーコーティング剤に混合した後の保存安定性に優れ、耐熱性、耐溶剤性、基材への密着性等の皮膜特性を向上させることができる。上述の効果を奏することから、本発明の樹脂用架橋剤組成物は、グラビアインキ、フレキソインキ等の各種印刷インキや、耐熱塗料、電線ワニス等の産業分野へ広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
を含有することを特徴とする樹脂用架橋剤組成物。
【請求項2】
該有機金属化合物(A)における金属アルコキシドが、下記式(1)で表される構造を有するものである請求項1記載の樹脂用架橋剤組成物。
【化1】

[式(1)中、Mは、周期表4族の中から選ばれる何れかの金属原子、R〜Rは、それぞれ独立に炭素数1〜18個のアルキル基を示す。]
【請求項3】
該β−ケトエステル(B)が、下記式(2)で表される構造を有するものである請求項1または請求項2記載の樹脂用架橋剤組成物。
【化2】

[式(2)中、Rは、炭素数1〜18個のアルキル基、または、炭素数が6〜21のアリール基を示し、Rは、炭素数1〜18個のアルキル基、または、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル残基若しくはメタクリル酸アルキルエステル残基を示す。]
【請求項4】
該成分(C)における有機カルボン酸が、下記式(3)で表される構造を有するものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【化3】

[式(3)中、Rは、炭素数が1〜36のアルキル基、炭素数が6〜42のアリール基、または、炭素数が1〜36のヒドロキシアルキル基を示す。]
【請求項5】
該成分(C)における多価アルコール(C)が、炭素数が1〜18のグリコール化合物である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【請求項6】
該有機金属化合物(A)における、金属アルコキシドとβ−ケトエステルの反応モル比が1/0.1〜1/2である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【請求項7】
該有機金属化合物(A)と該β−ケトエステル(B)の混合モル比が1/0.1〜1/10である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【請求項8】
該有機金属化合物(A)と「有機カルボン酸および/または多価アルコール(C)」の混合モル比が1/0.1〜1/10である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【請求項9】
水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基およびウレタン基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を分子中に含む樹脂を架橋することが可能な、および/または、架橋する用途に用いる請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物。
【請求項10】
少なくとも、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)
(A)1分子の金属アルコキシドに対して少なくとも0.1分子のβ−ケトエステルが結合した構造を有する有機金属化合物
(B)β−ケトエステル
(C)有機カルボン酸および/または多価アルコール
を配合することを特徴とする樹脂用架橋剤組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物および樹脂を用いて得られたものであることを特徴とする塗料。
【請求項12】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物および樹脂を用いて得られたものであることを特徴とするインキ。
【請求項13】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項記載の樹脂用架橋剤組成物および樹脂を用いて得られたものであることを特徴とするクリアーコーティング材。

【公開番号】特開2011−219704(P2011−219704A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93593(P2010−93593)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000188939)マツモトファインケミカル株式会社 (26)
【Fターム(参考)】