説明

樹脂管およびその製造方法

【課題】 溶剤浸透防止層の厚さや材質を限定することによって、有機溶剤や油類等の有害物質の埋設管への浸透を確実に減少させることができ、しかも、成形性や溶剤浸透防止層の融着性に優れた樹脂管を得ることができる。
【解決手段】 ポリオレフィンン樹脂本管と、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなる溶剤浸透防止層とからなる樹脂管において、前記溶剤浸透防止層は、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなり、厚さが15〜5000μmの範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリオレフィン樹脂管、特に、ポリエチレン製埋設水道配管に、地中の有機溶剤や油類等の有害物質が浸透することを確実に防止できる樹脂管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、水道管が、有機溶剤や油類等の有害物質により汚染された地中に埋設されている場合、有害物質が水道管内に浸透して、飲料水を汚染する恐れがあった。
【0003】
このような有害物質の水道管内への浸透現象は、水道管がポリエチレン製の場合、特に問題となった。しかしながら、ポリエチレン管は、鋳鉄ダクタイル管等と比較して、耐震性、柔軟性、耐食性等に富むといった特徴を有しているので、水道管として広く使用されている。
【0004】
そこで、上記問題を解決することを目的とした樹脂管が特開平11−10757号公報に開示されている。
【0005】
この樹脂管は、ポリエチレン製樹脂本管の外面、内面および内部の少なくとも1つにエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる溶剤浸透防止層が少なくとも一層形成されたものである。以下、これを従来技術という。
【0006】
【特許文献1】特開平11−10757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術によれば、溶剤浸透防止層の存在により、地中の有機溶剤や油類等の有害物質が浸透することを防止できることは分かるが、有害物質の浸透防止効果がもたらされる溶剤浸透防止層の厚さや材質等についての具体的記載はない。すなわち、必要以上に溶剤浸透防止層を厚くすれば、その分、樹脂本管の肉厚を薄くせざるを得ず、強度面で問題となる。一方、必要以上に溶剤浸透防止層を薄くすれば、有害物質の浸透防止効果を十分に発揮することができない。また、樹脂本管と溶剤浸透防止層との融着性や成形方法についての具体的記載もない。
【0008】
従って、この発明の目的は、溶剤浸透防止層の厚さや材質等を限定することによって、有機溶剤や油類等の有害物質の埋設管への浸透を確実に減少させることができ、しかも、溶剤浸透防止層の融着性や成形性に優れた樹脂管およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0010】
請求項1に記載の発明は、ポリオレフィン樹脂本管と、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなる溶剤浸透防止層とからなる樹脂管において、前記溶剤浸透防止層は、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなり、厚さが15〜5000μmの範囲内であることに特徴を有するものである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、溶剤浸透防止層のエチレン共重合比率は、25〜50%の範囲内であることに特徴を有するものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、溶剤浸透防止層のメルトインデックスは、2〜20g/minの範囲内であることに特徴を有するものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の発明において、樹脂本管と溶剤浸透防止層との間に融着層を有することに特徴を有するものである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の発明において、溶剤浸透防止層は、保護層を有していることに特徴を有するものである。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、樹脂本管と溶剤浸透防止層との間、および、溶剤浸透防止層と保護層との間の少なくとも一方に融着層を有することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1つに記載の樹脂管を押出成形により製造することに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、溶剤浸透防止層の厚さや材質等を限定することによって、有機溶剤や油類等の有害物質の埋設管への浸透を確実に減少させることができ、しかも、溶剤浸透防止層の融着性や成形性に優れた樹脂管およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の樹脂管は、図1に示すように、ポリオレフィン樹脂本管1とエチレン−ビニルアルコール共重合体もしくはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなる溶剤浸透防止層2とからなっている。
【0019】
図4に、エチレン−ビニルアルコールの分子構造を示す。
【0020】
エチレン−ビニルアルコール共重合体中のポリビニルアルコール成分は、有機溶剤や油類等の有害物質のポリオレフィン樹脂本管への優れた浸透防止効果を有する。この理由は、ポリビニルアルコールのOH基が分子間水素結合を生成して、分子間隔が狭くなることにある。溶剤浸透防止性能の信頼性の面から溶剤浸透防止層の厚さは15μm以上必要であり、製造時の厚さの安定性、より高い信頼性の面からは、100μm以上が最適である。また、経済性の面から厚さは5000μmであることが好ましく、2000μm以下であることが好適である。従って、溶剤浸透防止層の厚さは、15〜5000μmの範囲内とした。
【0021】
溶剤浸透防止層のエチレン共重合比率は、25〜50%の範囲内であると良い。エチレン−ビニルアルコール共重合のエチレン共重合比率が25%未満であると、エチレン成分が少ないため、熱溶融成形性が低下し、成形性に難がある。一方、エチレン共重合比率が50%を超えると、ビニルアルコール成分が少ないため、溶剤浸透防止効果が小さくなる。従って、溶剤浸透防止層のエチレン共重合比率は、25〜50%の範囲内が良い。さらに、最適な範囲は、30〜40%である。
【0022】
この発明の樹脂管は、押出成形により製造することが好ましいが、安定した押出成形を確保するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなる溶剤浸透防止層のメルトインデックスは、2〜20g/minの範囲内とするのが良い。
【0023】
図2に示すように、樹脂本管1と溶剤浸透防止層2の間に融着層3を形成すれば、樹脂本管1と溶剤浸透防止層2との融着性が向上するので、押出成形が良好に行える。この融着層は、特に限定されないが、無水マレイン酸変性ポリオレフィンなどポリオレフィン樹脂とエチレン−ビニルアルコール共重合体と接着性がよく、押出成形可能な熱可塑性樹脂が好ましい。
【0024】
図3に示すように、溶剤浸透防止層2に保護層4を形成すれば、機械的外力により、溶剤浸透防止層2が傷ついて、ポリオレフィン樹脂本管1の一部が露出するのを防ぐことができる。また、保護層4を形成することによって、溶剤浸透防止層2が吸水することによる溶剤浸透防止性能の低下を確実に防ぐことができる。保護層4としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好適である。
【0025】
保護層4を設けた場合、樹脂本管1と溶剤浸透防止層2との間、および、溶剤浸透防止層2と保護層4との間の少なくとも一方に融着層3を形成すれば、各層の融着性が向上すると共に、溶剤浸透防止層2が吸水することによる溶剤浸透防止性能の低下を確実に防ぐことができる。図3は、樹脂本管1と溶剤浸透防止層2との間、および、溶剤浸透防止層2と保護層4との間に融着層3を形成した例である。
【実施例】
【0026】
次に、この発明を実施例によりさらに説明する。
【0027】
(実施例1)
表1に示すように、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン共重合比率32%)からなる溶剤浸透防止層のフイルムを作成し、酸素透過速度を溶剤浸透防止層の厚さを種々変えて調べた。この結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、溶剤浸透防止層の厚さが本発明範囲内である実施例1〜4の酸素透過速度は、何れも、溶剤浸透防止層の厚さが本発明範囲外である比較例1、2に比べて遅く、溶剤浸透防止性能に優れていることが分かった。
【0030】
(実施例2)
次に、表2に示すように、エチレン共重合比率とメルトインデックスの値を種々変えた膜厚20μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる溶剤浸透防止層のフイルムを作成し、成形性および溶剤浸透防止性能について調べた。この結果を表2に示す。なお、表2において、◎印は、極めて優れていることを示し、○印は、優れていることを示し、△印は、やや劣ることを示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から明らかなように、エチレン共重合比率およびメルトインデックスの値が本願発明範囲内である実施例2〜5は、何れも、成形性および溶剤浸透防止性能に優れていた。これに対して、エチレン共重合比率およびメルトインデックスが本発明範囲を外れて小さい比較例1は、溶剤浸透防止性能に優れているものの成形性にやや劣っていた。また、エチレン共重合比率およびメルトインデックスが本発明範囲を外れて大きい比較例2は、成形性に優れているものの溶剤浸透防止性能にやや劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本管に溶剤浸透防止層が形成された樹脂管を示す部分断面図である。
【図2】本管に融着層を介して溶剤浸透防止層が形成された樹脂管を示す部分断面図である。
【図3】本管に溶剤浸透防止層と保護層とが形成され、本管と溶剤浸透防止層、溶剤浸透防止層と保護層との間に融着層が形成された樹脂管を示す部分断面図である。
【図4】エチレン−ビニルアルコールの分子構造を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:樹脂本管
2:溶剤浸透防止層
3:融着層
4:保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂本管と、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなる溶剤浸透防止層とからなる樹脂管において、
前記溶剤浸透防止層は、エチレン−ビニルアルコール共重合体またはエチレン−ビニルアルコール共重合体を主成分とする材料からなり、厚さが15〜5000μmの範囲内であることを特徴とする樹脂管。
【請求項2】
前記溶剤浸透防止層のエチレン共重合比率は、25〜50%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂管。
【請求項3】
前記溶剤浸透防止層のメルトインデックスは、2〜20g/minの範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の樹脂管。
【請求項4】
前記樹脂本管と前記溶剤浸透防止層との間に融着層を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1つに記載の樹脂管。
【請求項5】
前記溶剤浸透防止層は、保護層を有していることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1つに記載の樹脂管。
【請求項6】
前記樹脂本管と前記溶剤浸透防止層との間、および、前記溶剤浸透防止層と前記保護層との間の少なくとも一方に融着層を有することを特徴とする、請求項5に記載の樹脂管。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つに記載の樹脂管を押出成形により製造することを特徴とする、樹脂管の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−327075(P2006−327075A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155402(P2005−155402)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】