説明

樹脂管の拡径用治具

【課題】配管継手に接続される樹脂管の端部を適切な長さで拡径することができる樹脂管の拡径用治具を提供する。
【解決手段】各恵与治具30は、樹脂管11の端部11aに挿入されることで、当該端部11aを拡径する拡径部86を有し、樹脂管11の端部11aに対する拡径部86の適正挿入量の最小限位置を示す第1指示部94aを備えている。また、第1指示部94aは、拡径部86の径方向外側に配置され、当該拡径部86との間に樹脂管11の端部11aを挿入させる隙間90を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管継手に接続される樹脂管の端部を予め拡径させるために使用される拡径用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体等の製造工程では、種々の化学薬品や純水等の液体が用いられており、この液体は、フッ素樹脂等の樹脂材料から形成された複数の樹脂管やこれらを接続する配管継手を用いて移送されている。配管継手は、インナ筒とアウタ筒とを備えており、このインナ筒に樹脂管の端部が外嵌されることによって配管継手に樹脂管が接続されている。また、配管継手と樹脂管との間から流体が漏れたり、配管継手から樹脂管が脱落したりするのを防止するため、配管継手のアウタ筒には樹脂管の端部の外面を覆うナット(ユニオンナット)が螺合される。すなわち、樹脂管の端部が配管継手のインナ筒に拡径された状態で外嵌されると共に、その拡径部分の付け根部(拡径変化部)がナットの内面とインナ筒の先端との間で挟持されることによって、樹脂管と配管継手との間の流体の漏れや配管継手からの樹脂管の脱落が防止される。
【0003】
以上のように配管継手のインナ筒に樹脂管の端部を嵌合させるため、予め樹脂管の端部を拡径させる技術が従来から種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、加熱された状態の樹脂管の端部に拡径用治具を差し込むことによって、当該端部を予め拡径させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クランプされた樹脂管に向けて拡径用治具を軸方向に推進させ、この拡径用治具を樹脂管の端部に挿入させることによって、当該端部を拡径する加工装置が開示されている。この加工装置は、使用者が片手で把持することができる取っ手と、取っ手を把持した手で操作することができるレバーとを備えたガンタイプであり、レバーを操作することによって拡径用治具を推進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−71749号公報
【特許文献2】特開平11−179453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂管の端部は、配管継手のインナ筒の長さに応じた適切な長さで拡径されることが要求される。樹脂管の拡径部分の長さが短すぎるとインナ筒に対する接触面積が少なくなり、十分な接続強度(引き抜き強度)が得られず、配管継手から樹脂管が外れ易くなってしまう可能性が生じる。また、樹脂管の拡径部分の長さが長すぎると、拡径部分の付け根部(拡径変化部)がユニオンナットの内面とインナ筒の先端との間に適切に位置づけられず、シール性が低下する虞があるとともに、ユニオンナットの締め付けトルクが増大して接続作業性の悪化を招く可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されているような加工装置を用いて樹脂管の端部を拡径する場合には、作業者毎のレバーの操作加減によって、拡径部分の長さにばらつきが生じる可能性もある。
【0008】
一方、図6に示されるように、拡径用治具101の根本部に径方向に突出する段差部103を形成し、この段差部103によって樹脂管111の端部111aに対する拡径用治具101の適切な挿入量を規定している場合もある。しかし、配管施工現場において、樹脂管111の端部111aが段差部103に当接するまで正確に拡径用治具101を挿入する作業は非常に煩雑な作業となり、樹脂管111の端部111aが段差部103に至らなかったり(図6(a)参照)、段差部103を超えてしまったり(図6(b)参照)する場合が多々生じる。前者の場合は、前述のように配管継手に対する十分な接続強度を得ることが困難となり、後者の場合、樹脂管111の端部111aが段差部103を超えてさらに径方向外方へ拡がってしまうため、配管継手への接続に支障を来す虞が生じる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、配管継手に接続される樹脂管の端部を適切な長さで拡径することができる樹脂管の拡径用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂管の拡径用治具は、樹脂管の端部に挿入されることで、当該端部を拡径する拡径部と、前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最小限位置を示す第1指示部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明の拡径用治具は、樹脂管の端部に対する拡径部の適正挿入量の最小限位置(最小の適正挿入量)を示す第1指示部を備えているので、少なくとも第1指示部によって示される位置まで拡径部を挿入すれば、樹脂管の端部を適切な軸方向の長さで拡径することが可能となる。すなわち、図6に示される従来技術のように、特定の位置(段差部103)まで正確に拡径部を挿入しようとすると、拡径部の挿入量が足らなくなったり挿入量が大きくなったりする場合が生じるが、本発明の場合、第1指示部を超えて拡径部が挿入されたとしても、樹脂管の端部が適切な軸方向長さで拡径されるため、拡径作業を容易に行うことができる。
【0012】
前記第1指示部は、前記拡径部の径方向外側に配置され、当該拡径部との間に前記樹脂管の端部を挿入する隙間を形成していることが好ましい。
このような構成によって、少なくとも拡径部と第1指示部との隙間に樹脂管の端部が挿入されるまで拡径部を樹脂管の端部に挿入すれば、当該端部が適切な長さで拡径される。したがって、樹脂管の端部に対して拡径部をどの程度挿入すればよいかの判断を容易に行うことができる。
【0013】
拡径用治具は、前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最大限位置を示す第2指示部をさらに備えていることが好ましい。
このような構成によって、第2指示部によって示される位置に到る前に拡径部の挿入を止めれば、樹脂管の端部を適正な軸方向長さで拡径することができ、その拡径部分が長くなりすぎるのを防止することができる。
【0014】
前記第2指示部は、前記樹脂管の端部が当接するストッパ部を有していることが好ましい。
このような構成によって、適正挿入量の最大限位置を超えて拡径部が樹脂管の端部に挿入されるのを防止することができる。
【0015】
本発明の拡径用治具は、前記ストッパ部に当接した前記端部の径方向外側に配置され、当該端部の径方向外方への拡がりを抑制する押さえ部をさらに備えていることが好ましい。
このような押さえ部を備えることによって、樹脂管の端部がストッパ部に到ってもなお、拡径部が樹脂管に挿入されようとした場合であっても、樹脂管の端部が径方向外側へ拡がることがない。そのため、配管継手に対する樹脂管の接続に支障を来すこともない。
【0016】
本発明の拡径用治具は、前記拡径部の径方向外側に配置されて当該拡径部との間に前記樹脂管の端部を挿入可能な隙間を形成し、かつその先端面が前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最小限位置を示す前記第1指示部を構成し、かつその内周面が前記樹脂管の端部の径方向への拡がりを抑制する筒状部と、
この筒状部の基端部側に設けられ、前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最大限位置を示すとともに、前記最大限位置を超えて前記拡径部が挿入されるのを制限するストッパ部と、を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の拡径用治具によれば、配管継手に接続される樹脂管の端部を適切な軸方向の長さで拡径することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る樹脂管の拡径用治具を適用した加工装置を示す側面図である。
【図2】図1に示される加工装置の側面断面図である。
【図3】拡径用治具の側面断面図である。
【図4】拡径用治具の作用を説明する側面断面図である。
【図5】樹脂管を配管継手に装着した状態を示す側面断面図である。
【図6】従来技術に係る樹脂管の拡径用治具を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図5は、樹脂管を配管継手に装着した状態を示す側面断面図である。樹脂管11は、例えば、PFA,PTFE等のフッ素樹脂やその他の合成樹脂から形成されている。樹脂管11の端部には、直径が大きく拡大するように変化する拡径変化部12と、拡大した直径が維持された状態で軸方向に延びる拡径ストレート部13とが形成されている。本実施の形態の拡径用治具38(図1参照)は、樹脂管11の端部に拡径変化部12と拡径ストレート部13とを形成するために使用される。
【0020】
配管継手15は、インナ筒部16と、アウタ筒部17とを有している。インナ筒部16は、樹脂管11の内径よりも大きな外径を有し、樹脂管11の端部が外嵌される。インナ筒部16の外周面は、樹脂管11の拡径ストレート部13を内周面側から押さえる内周押さえ部18を構成している。また、インナ筒部16の先端外周面19は先細り状に傾斜しており、この先端外周面19が樹脂管11の拡径変化部12の内周面に当接している。
【0021】
アウタ筒部17は、インナ筒部16の径方向外側に隙間をあけて配置されている。このアウタ筒部17とインナ筒部16との間の隙間には、インナ筒部16に外嵌した樹脂管11の端部(拡径ストレート部13)が挿入される。アウタ筒部17の外周面には、ユニオンナット23を螺合するための雄ネジ21が形成されている。
【0022】
ユニオンナット23は、雄ネジ21に螺合可能な雌ネジ24と、樹脂管11の拡径変化部12の小径側外周面に作用可能な第1押圧部25と、拡径変化部12の大径側外周面に作用可能な第2押圧部26と、樹脂管11の拡径ストレート部13を外周面側から押さえる外周押さえ部27とを備えている。第1押圧部25は、軸方向に直交する第1押圧面28を有し、第2押圧部26も、軸方向に直交する第2押圧面29を有している。
【0023】
一方、樹脂管11の拡径変化部12には、第1押圧部25に係合し、第1押圧面28によって軸方向に押圧される第1凹み31と、第2押圧部26に係合し、第2押圧面29によって軸方向に押圧される第2凹み32とが形成されている。これら第1凹み31及び第2凹み32は、拡径変化部12の外面を断面略L字形状の凹ませたものであり、樹脂管11が配管継手15に接続される前に、予め本実施の形態の加工装置10(図1参照)によって成形される。なお、第1押圧部25及び第2押圧部26は、それぞれ第1凹み31及び第2凹み32に係合することによって、樹脂管11と配管継手15との間のシール性を高める機能と、配管継手15からの樹脂管11の抜けを防止する機能とを有している。
【0024】
次に、加工装置10について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る拡径用治具を適用した加工装置を示す側面図、図2は、図1に示される加工装置の側面断面図である。
本実施の形態の加工装置10は、前述のような配管継手15に接続される樹脂管11の端部を加工するものであり、装置本体34と、この装置本体34に取り付けられた管保持機構35、治具保持機構36、及び推進機構37とから主に構成されている。管保持機構35には、加工の対象となる樹脂管11が保持され、推進機構37には、管保持機構35によって保持された樹脂管11の端部を拡径するための拡径用治具38が着脱可能に取り付けられる。また、治具保持機構36には、樹脂管11の端部の外周面に第1,第2凹み31,32(図5参照)を形成するための凹み成形治具39(図2参照)が保持される。
【0025】
装置本体34は、ベース部41と、このベース部41上に設けられたガイド部42と、ベース部41及びガイド部42に取り付けられた取っ手部43とを備えている。
ベース部41は、前後方向(図1及び図2における左右方向)に長い金属製のブロックにより構成されている。このベース部41の前部側(図1における左側)には、管保持機構35及び治具保持機構36を取り付けるための保持機構取付部44が設けられている。保持機構取付部44は、樹脂管11を拡径させる位置及び第1,第2凹み31,32を形成する位置に応じて、ベース部41の前後方向の適当な位置に設けられる。また、このベース部41の後部側にガイド部42が取り付けられている。
【0026】
管保持機構35は、図2に示されるように、開閉可能に構成された上下一対のクランプ部材46a,46bを有しており、この上下一対のクランプ部材46a,46bの内周面にはラバーゴム等のすべり止め部材48a,48bが貼付されている。この上下一対のクランプ部材46a,46bの間に樹脂管11を挟み込むことによって当該樹脂管11を保持可能である。また、治具保持機構36は、開閉可能に構成された上下一対のクランプ部材47a,47bを有しており、この上下一対のクランプ部材47a,47bの間に凹み成形治具39を挟み込むことによって当該凹み成形治具39を保持可能である。クランプ部材46a,46bとクランプ部材47a,47bとは、一体的に開閉できるように互いに連結されていてもよい。
【0027】
ガイド部42は、金属製のブロックにより形成されている。ガイド部42は、後述する取付ロッド50が前後方向に移動可能に挿通されており、この取付ロッド50の前後方向の移動を案内する機能を有している。
取っ手部43は、金属製の板材をコの字状に屈曲させて形成されており、その両端部が、ガイド部42及びベース部41の側面にネジやピン等によって固定されている。また、取っ手部43は、ベース部41から後下方へ向けて斜めに延び、人が片手で把持することができる形状及び大きさに形成されている。
【0028】
推進機構37は、ガイド部42に前後方向に移動可能に支持されるとともに、先端部に拡径用治具38が取り付けられる取付ロッド(取付部材)50を備えている。この取付ロッド50は、圧縮コイルバネからなる付勢部材51によって後方へ付勢されている。また、推進機構37は、この取付ロッド50を前方へ移動(推進)させる第1推進部52と、同じく取付ロッド50を前方へ移動(推進)させる第2推進部53とを備えている。この第1,第2推進部52,53は、テコの原理を用いた倍力機構とされている。
【0029】
第1推進部52は、第1レバー部材55を備えており、この第1レバー部材55は、棒状に形成されると共に、取っ手部43の前側近傍においてベース部41に形成された貫通孔56及びガイド部42に形成された貫通孔58を上下方向に挿通している。また、第1レバー部材55は、貫通孔56への挿通部分で左右方向(図2の紙面貫通方向)の第1枢軸57によって揺動可能に支持されている。
【0030】
第1レバー部材55の上端部は、取付ロッド50に形成されたスリット59に挿通され、同スリット59内に設けられた係合ローラ60に後側から当接している。また、第1レバー部材55の下部側は、取っ手部43の前側であって、取っ手部43と共に片手で把持することができる位置に配置されている。
そして、取っ手部43とともに第1レバー部材55を把持し、第1レバー部材55の第1枢軸57よりも下部側を後方へ揺動させると、第1枢軸57よりも上部側が前方へ揺動し、係合ローラ60が前方に押されることによって取付ロッド50が付勢部材51の付勢力に抗して前方へ移動(推進)する。
【0031】
第2推進部53は、第2レバー部材63と、押圧ローラ(押圧部材)64とを備えている。第2レバー部材63は、金属製の板材をコの字状に折り曲げ、両端部をガイド部42の両側面に沿わせた状態で配置されている。また、第2レバー部材63は、ガイド部42の後部側に設けられた左右方向の第2枢軸65によって揺動可能に支持され、ガイド部42の後端上部から前上方へ向けて斜めに延びている。第2レバー部材63の後端部には、左右方向の軸心を有する押圧ローラ64が回転自在に設けられている。
【0032】
第2レバー部材63は、図2に実線で示す位置から2点鎖線で示す位置までの間で第2枢軸65を始点として上下方向に揺動可能となっている。また、第2レバー部材63は、引張コイルバネからなる戻しバネ67によって上方へ揺動するように付勢されている。押圧ローラ64は、第2レバー部材63の揺動によって、図2に実線で示す位置から2点鎖線で示す位置に移動可能となっている。
【0033】
押圧ローラ64は、取付ロッド50が図2に示される後退位置にあるとき、当該取付ロッド50の下方に配置されている。そして、第1推進部52の第1レバー部材55によって取付ロッド50が推進され、この取付ロッド50の後端が押圧ローラ64よりも前方に配置されたときに第2レバー部材63を下方に揺動させて押圧ローラ64により取付ロッド50をさらに推進させることが可能となっている。
【0034】
図1及び図2に示されるように、第2レバー部材63の下縁には、略L字形状の切欠70が形成されている。また、切欠70の入口付近には、後述する固定ピン73を切欠70の内部へ誘導する誘導ガイド71が形成されている。一方、ガイド部42には、前後方向に長い長孔72が左右方向に貫通して形成され、この長孔72には、左右方向に延び、付勢部材75によって後方へ付勢された固定ピン73が前後移動可能に挿通されている。
【0035】
第2レバー部材63を下方に揺動させると、誘導ガイド71に当接した固定ピン73が付勢部材75の付勢力に抗して前方へ移動し、その後、第2レバー部材63が下方の揺動限界に達すると、固定ピン73が付勢部材75の付勢により切欠70の底部に達する。これにより第2レバー部材63の上方への揺動が規制される。そのため、押圧ローラ64は、取付ロッド50の後端を押さえた位置に止まり、取付ロッド50が前方への推進終端位置で固定されることになる。
なお、加工装置10は、必ずしも第2推進部53を備えていなくてもよく、第1推進部52のみによって取付ロッド50を推進させて、拡径用治具38により樹脂管11の端部を拡径させるように構成されていてもよい。
【0036】
<拡径用治具の構成>
図3は、拡径用治具38の側面断面図である。取付ロッド50の先端部に着脱可能に取り付けられる拡径用治具38は、治具本体77と、ゲージ部材78と、取付軸79と、取付筒80とを組み立てることによって構成されている。
治具本体77は、先端側に形成された小径部81と、この小径部81の後側に形成された拡径部86とを備えている。拡径部86は、小径部81から後方へ向けて傾斜状に外径が拡大する円錐形状の傾斜部82と、この傾斜部82から後方へ向けて軸線xと平行に延びる円筒形状に形成された大径部83とを備えている。また、治具本体77は、大径部83の後側に形成された第1ストッパ部84と、さらに第1ストッパ部84の後側に形成された嵌合筒部85とを有している。
【0037】
小径部81は、樹脂管11の内径と略同じか若干小さい外径を有する円筒形状に形成されている。傾斜部82は、軸線xに対して所定の傾斜角度で外径が拡大しており、最大の外径が樹脂管11の外径よりも大きく形成されている。この傾斜部82は、取付ロッド50の推進によって樹脂管11の先端部を押し広げる作用をなすとともに、前述の拡径変化部12(図5参照)を形成する。
【0038】
大径部83は、小径部81よりも大きな外径に形成されており、傾斜部82によって押し拡げられた樹脂管11の内径が縮まないように保持し、前述の拡径ストレート部13(図5参照)を形成する作用をなす。
なお、大径部83は、本実施の形態とは異なり、傾斜部82よりも緩やかな傾斜角度で外径が僅かに拡大する円錐形状に形成されていてもよい。そのように構成することで、樹脂管11から拡径用治具38を抜き取ったときに樹脂管11の端部の内径が若干縮んだとしても、所定の内径寸法(拡径ストレート部13の内径寸法)を確保することが可能となる。
【0039】
第1ストッパ部84は、大径部83の最大外径よりもやや大きな外径を有する円柱形状に形成されている。この第1ストッパ部84は、後述する第2ストッパ部95とともにストッパ面84a,95aを形成する。また、嵌合筒部85は、第1ストッパ部84よりも小さい外径を有する円筒形状に形成されている。この嵌合筒部85の後端は開放しており、この開放端に取付軸79が挿入され、取付ピン88によって固定されている。取付軸79は、嵌合筒部85に挿入される前側部分の外径が大きく、後側部分の外径が小さく形成されている。また、取付軸79の後端は、先細り形状に形成されている。
【0040】
ゲージ部材78は、その後部側が、第1ストッパ部84及び嵌合筒部85に嵌合し、その前部側が、大径部83の後部側の径方向外方に隙間90をあけて配置されている。この隙間90には、樹脂管11の端部を挿入することができる。具体的に、ゲージ部材78は、大径部83の径方向外側に配置された筒状部94と、この筒状部94の後側において第1ストッパ部84の外周面に嵌合された第2ストッパ部95と、この第2ストッパ部95の後側において嵌合筒部85の外周面に嵌合された被嵌合部96とを有している。また、筒状部94の先端面94aは、後述する指示面(第1指示部)を構成し、筒状部94の内周面94bは、後述する押さえ面(押さえ部)を構成している。第1ストッパ部84の先端面84aと、第2ストッパ部95の先端面95aとは、後述するストッパ面(第2指示部)を構成している。
【0041】
筒状部94の先端に設けられた指示面94aは、樹脂管11の端部11aに拡径用治具38の拡径部86を挿入する際の、拡径部86の適正挿入量の最小限位置を示している。すなわち、樹脂管11の端部11aが指示面94aに到るまで(樹脂管11の端部11aが隙間90に挿入されるまで)拡径部86を樹脂管11の端部11aに挿入すれば、樹脂管11の端部11aが適正な軸方向長さで拡径されることになる。
【0042】
また、治具本体77の第1ストッパ部84及びゲージ部材78の第2ストッパ部95に形成されたストッパ面84a,95aは、樹脂管11の端部11aに対する拡径部86の適正挿入量の最大限位置を示すとともに、拡径部86がこの最大限位置を超えて樹脂管11の端部11aに挿入されるのを制限している。したがって、樹脂管11の端部11aが指示面94aからストッパ面84a,95aまでの間Wに配置されるように拡径用治具38を挿入すれば、樹脂管11の端部11aは適正な軸方向長さで拡径されることになる。つまり、指示面94aからストッパ面84a,95aまでの間Wが、樹脂管11の端部11aに対する拡径部86の挿入量の適正範囲となる。
【0043】
また、ゲージ部材78の筒状部94の内周面に形成された押さえ面94bは、樹脂管11の端部11aがストッパ面84a,95aに達してもなお拡径部86が樹脂管11の端部11aに押し込まれようとした場合に、当該樹脂管11の端部11aが径方向外方へ拡がってしまうのを抑制する作用をなす。
以上の指示面94a、ストッパ面84a,95a及び押さえ面94bの作用については加工装置10による樹脂管11の加工手順と共に後に詳細に説明する。
【0044】
取付筒80は、その前部側が嵌合筒部85の外周面に嵌合し、取付ピン88によって取付軸79とともに嵌合筒部85に固定されている。また、取付筒80の後端部は、取付ロッド50の先端に形成された大径頭部91の外周面に嵌合する。また、取付軸79の後部側は、取付ロッド50の先端に形成された取付孔92に挿入され、取付ロッド50に進退可能に取り付けられた抜け止めピン93(図2参照)によって取付ロッド50の先端部に固定される。
【0045】
図2に示されるように、治具保持機構36には、凹み成形治具39が保持されている。この凹み成形治具39は、図5に示されるように、樹脂管11の端部の外周面に第1凹み31及び第2凹み32を形成するものである。具体的に、凹み成形治具39は、図4に示されるように、中心部に形成された成形孔97の内面に、第1凹み31を成形するための第1環状段部98と、第2凹み32を成形するための第2環状段部99とを備えている。第1環状段部98の前側における成形孔97の最小内径は、樹脂管11の外径と略同じかやや大きく形成されている。
【0046】
第1環状段部98と第2環状段部99とは、互いに軸方向に隣接して形成され、略L字状に屈曲したエッジを有している。また、第2環状段部99は、第1環状段部98よりも大径に形成されている。第2環状段部99の後側に連なる成形孔97の最大内径は、拡径した樹脂管11の端部の外径よりもやや小さく形成されている。
【0047】
図2に示されるように、凹み成形治具39は、上下2分割構造とされており、その上下の分割体が、それぞれ治具保持機構36の上側のクランプ部材47aと下側のクランプ部材47bとに固定され、治具保持機構36のクランプ部材47a,47bを開放することで、凹み成形治具39の成形孔97に樹脂管11を挿入することが可能となっている。
【0048】
次に、本実施の形態の加工装置10による樹脂管11の加工手順について説明する。
まず、図1及び図2に示されるように、加工装置10の管保持機構35に樹脂管11を保持させる工程(セッティング工程)を行う。樹脂管11は、加工を容易にするために、予めヒータ等によって加熱しておく。本実施の形態では、樹脂管11が管保持機構35に保持されている状態で、拡径用治具38の小径部81が樹脂管11の端部に挿入された状態となる。これにより、樹脂管11と拡径用治具38との芯合わせや、管保持機構35に対する樹脂管11の軸方向の位置合わせが適切に行われる。
【0049】
次いで、推進機構37の第1レバー部材55及び第2レバー部材63を用いて拡径用治具(取付ロッド)の推進工程を行う。まず、取っ手部43を把持した状態で第1レバー部材55を操作することによって、拡径用治具38を前方へ大きく推進させる。これにより、拡径用治具38の傾斜部82及び大径部83を樹脂管11の内部に押し込み、樹脂管11の端部11aを拡径させる。次に、第2レバー部材63を操作することによって拡径用治具38をさらに推進させ、当該拡径用治具38をより強い力で樹脂管11の内部に押し込む。
【0050】
図4には、第1,第2レバー部材55,63の操作で拡径用治具38を推進させたときの拡径用治具38、凹み成形治具39、及び樹脂管11の相互関係が示されている。図4(a)に示す状態では、拡径用治具38の傾斜部82が凹み成形治具39の成形孔97内に入り込んでいるものの、樹脂管11には第1環状段部98や第2環状段部99が未だ押し付けられていない。したがって、樹脂管11に対する拡径用治具38の挿入量は所定に達していない。このとき、樹脂管11の端部11aは、大径部83とゲージ部材78の筒状部94との隙間90には至っておらず、指示面94aと樹脂管11の端部11aの端面との間には、隙間a1が生じている。
【0051】
図4(a)に示す状態から、さらに拡径用治具38の拡径部86を樹脂管11の端部11aに挿入すると、拡径用治具38の傾斜部82が第1環状段部98と第2環状段部99とに接近し、これらの間に樹脂管11が挟み込まれることによって、樹脂管11の外面に第1凹み31と第2凹み32とが成形される。このとき、樹脂管11の端部11aの端面は、筒状部94の指示面94aに一致するか、指示面94aを超えて隙間90内に挿入される。図示例では、樹脂管11の端部11aが寸法a2だけ隙間90内に挿入されている。言い換えると、樹脂管11の端部11aが少なくとも指示面94aに到る程度にまで拡径部86を樹脂管11に挿入すれば、当該樹脂管11の端部は適正な軸方向長さで拡径されることになる。
【0052】
そのため、作業者は、樹脂管11の端部11aが、指示面94aに到っているか否かのみを確認しながら加工装置10を操作すればよく、樹脂管11の端部11aが指示面94aに正確に合うように厳密に挿入量を調整する必要もない。したがって、樹脂管11の端部11aを容易に適正な長さで拡径することができ、拡径部分の長さが短すぎることに起因して配管継手に対する樹脂管11の接続強度が不足してしまうのを防止することができる。すなわち、図5において、樹脂管11の端部11aの拡径部分の長さ(拡径変化部12及び拡径ストレート部13の長さ)が所定の長さよりも短いと配管継手15のインナ筒部16との接触面積が少なくなり、配管継手15と樹脂管11との接続強度が低下する可能性があるが、本実施の形態の拡径用治具38を用いれば、樹脂管11の端部11aが必要最小限の長さで拡径されるため、このような不都合が生じることがない。
【0053】
また、樹脂管11に対する拡径部86の挿入量が大きくなった場合であっても、樹脂管11の端部11aがストッパ面84a,95aに当接することによって、適正挿入量を超えて拡径部86が挿入されてしまうことはなく、樹脂管11の端部11aの拡径部分が長すぎることによる不都合を回避することができる。すなわち、樹脂管11の端部11aの拡径部分の長さが所定よりも長すぎると、図5において、樹脂管11の拡径ストレート部13がインナ筒部16とアウタ筒部17との間に入りきらず、樹脂管11の拡径変化部12が、インナ筒部16の先端外周面19とユニオンナット23の第1,第2押圧部25,26との間に適切に位置づけられなくなる場合があり、これではユニオンナット23を締め付けても所望のシール性能が得られなかったり、ユニオンナット23の締め付けトルクが増大したりしてしまう虞があるが、本実施の形態の拡径用治具38を用いればこのような不都合を回避することができる。
【0054】
また、樹脂管11の端部11aがストッパ面84a,95aに当接してもなお、拡径部86が樹脂管11に押し込まれたとしても、筒状部94の押さえ面94bによって樹脂管11の端部11aの外周面が押さえられるので、樹脂管11の端部11aが径方向外方へさらに拡がってしまうことがない。そのため、図5に示されるように、樹脂管11の端部(拡径ストレート部13)をインナ筒部16に嵌合させるときに、当該端部がアウタ筒部17に干渉してしまうようなこともない。
【0055】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、適宜変形できるものである。
例えば、ゲージ部材78は透明又は半透明に形成することができる。このようにすれば、隙間90に対する樹脂管11の端部11aの挿入量を容易に確認することができる。また、本実施の形態では、ストッパ面84a,95aを有するストッパ部84,95が、治具本体77側とゲージ部材78側との双方に形成されていたが、いずれか一方のみに形成されていてもよい。
【0056】
樹脂管11の端部11aに対する拡径部86の適正挿入量の最小限位置を示す指示部94aは、例えば、大径部83の表面に線を記載したり、溝を形成したり、小さな突起を形成したりすることによって構成することも可能である。しかしながら、線によって指示部を構成した場合には、使用によって次第に線が消えてしまう可能性があり、溝や突起によって指示部を構成した場合には、樹脂管11の端部11aが指示部に引っ掛かったり、樹脂管11を傷つけたりする虞がある。そのため、本発明のように大径部83の径方向外側に隙間90をあけて指示部(指示面)94aを設けることがより有利である。
【0057】
また、上記実施の形態の加工装置10は、樹脂管11の端部に第1凹み31及び第2凹み32を成形する凹み成形治具39やこれを保持する治具保持機構36を備えていたが、樹脂管11の端部11aの拡径だけの作業を行う場合は、これらを省略することができる。
【0058】
加工装置10の推進機構37を構成する第1推進部52や第2推進部53は、テコの原理を用いた機構だけでなく、リンク機構、クランク機構、トグル機構等による倍力機構を適用することができる。また、第1推進部52のみによって所望の推進力が得られる場合には、必ずしも第2推進部53が備えられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0059】
11 樹脂管
11a 端部
38 拡径用治具
78 ゲージ部材
81 小径部
84a ストッパ面(第2指示部)
86 拡径部
90 隙間
94 筒状部
94a 指示面(第1指示部)
94b 押さえ面(押さえ部)
95a ストッパ面(第2指示部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂管の端部に挿入されることで当該端部を拡径する拡径部と、
前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最小限位置を示す第1指示部と、を備えていることを特徴とする樹脂管の拡径用治具。
【請求項2】
前記第1指示部は、前記拡径部の径方向外側に配置され、当該拡径部との間に前記樹脂管の端部を挿入可能な隙間を形成している請求項1に記載の樹脂管の拡径用治具。
【請求項3】
前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最大限位置を示す第2指示部をさらに備えている請求項1又は2に記載の樹脂管の拡径用治具。
【請求項4】
前記第2指示部は、前記樹脂管の端部が当接するストッパ部を有している請求項3に記載の樹脂管の拡径用治具。
【請求項5】
前記ストッパ部に当接した前記樹脂管の端部の径方向外側に配置され、当該端部の径方向外方への拡がりを抑制する押さえ部をさらに備えている請求項4に記載の樹脂管の拡径用治具。
【請求項6】
前記拡径部の径方向外側に配置されて当該拡径部との間に前記樹脂管の端部を挿入可能な隙間を形成し、かつその先端面が前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最小限位置を示す前記第1指示部を構成し、かつその内周面が前記樹脂管の端部の径方向への拡がりを抑制する筒状部と、
この筒状部の基端部側に設けられ、前記樹脂管の端部に対する前記拡径部の適正挿入量の最大限位置を示すとともに、前記最大限位置を超えて前記拡径部が挿入されるのを制限するストッパ部と、を備えている請求項1に記載の樹脂管の拡径用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−52547(P2013−52547A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190881(P2011−190881)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】